2009年6月10日水曜日

米国CDCが新型インフルエンザ流行時の23価肺炎菌多糖類ワクチン等の使用に関する暫定ガイダンスを公表

 
 6月8日に厚生労働省は、新型インフルエンザA(H1N1)のワクチン製造に向け、国内のワクチンメーカー4社にウイルス株を送付したと発表した。ワクチン接種開始時期は本年秋以降である。
 一方、北米やオーストラリアさらには欧州等でも感染拡大のペースは収まる傾向を見せていない。
その対処として米国における新ワクチン開発の取組み状況については本ブログでも取り上げたが、6月9日に米国疾病対策センター(CDC)は、死亡者の増加等への対応として、①65歳以上の高齢者全員、②2歳から64歳の慢性疾患患者、③喫煙中毒者、喘息の患者への接種により重病化や死亡を回避すべく緊急措置策として「23価肺炎球菌多糖類ワクチン(23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine:PPSV23) (筆者注1)および「7価結合型ワクチン(7-valent pneumococcal conjugate vaccine :PCV7)」接種にかかる暫定ガイダンス 」を公表した。
 わが国の国立感染症研究所等がいずれ本ガイダンスの訳文を公表するであろう。世界への影響力の高いCDCのガイダンスだけに関心が寄せられている段階で、出来るだけ早い情報提供を目的として専門外の筆者があえて仮訳した意図を理解いただきたい。当然であるが、わが国の疫学関係者などの正確なコメント等を期待したい。
 なお、推奨本文を読まれて気がつくと思うが、米国の「国民免疫強化プログラム」の内容や国民に対する啓蒙情報の充実の内容はわが国の医療関係者だけでなく、広く国民も知るべきではないか。


1.策定の目的
 各グループにわたる潜在的感染予備者に対し、新型インフルエンザA(H1N1)の流行の期間において、肺炎感染による重症化や死亡の予防のため予防接種に係る暫定ガイダンスを提供する。

2.策定の背景
 インフルエンザは細菌性地域感染型肺炎(bacterial community-acquired pneumonia)にかかりやすくさせる。20世紀のインフルエンザの世界的流行時、続発性細菌性肺炎(secondary bacterial pneumonia)は疾病や死亡の重要な原因であるとともに、連鎖球菌性肺炎(Streptococcus pneumoniae:pneumoccus)(筆者注2)はもっとも一般的な病因として報告されてきた。
 流行性インフルエンザとともに激しい球菌性肺炎が報告されており、また連鎖球菌性肺炎は米国において疾患や死亡の予防を妨げる原因として認められている。
 現在、新型インフルエンザA(H1N1)の感染は急速に拡大しており、CDCはインフルエンザのリスクに関する重要情報、病気の重症性およびインフルエンザの患者間における細菌性肺炎の攻撃率の情報の蓄積を継続的に行っている。しかしながら、現在のところ入院を要するものなど新型インフルエンザの重症事例における肺炎感染の役割については、なお明確となっていない。

3.肺炎球菌ワクチン(Pneumococcal vaccines)
 インフルエンザの流行の間、肺炎球菌ワクチンは続発性肺炎感染を予防し、疾患や死亡の減少に役立つ可能性がある。現在、2つのワクチン(「23価肺炎球菌多糖類ワクチン」および「7価結合型ワクチン :PCV7)」)が予防のために使用が可能である。

4.新型インフルエンザA(H1N1)の大流行の間における“PPSV23” の使用の推奨  
 CDCの「予防接種の実施に関する諮問委員会 (CDC’s Advisory Committeeon on Immunization Practices :ACIP 」は65歳以上全員、2歳から64歳の以下に述べる特別な疾患を持つ人々への“PPSV23”の1回接種(single dose)を推奨(recommendation)する。このグループの人々は、インフルエンザによる重篤な合併症と同様肺炎球菌による疾病の増加するリスクにさらされている。65歳以上の人は65歳より前に最初の同ワクチン接種後5年後における1回の再接種(revaccination)が必要であり、また高いリスクのある人々(脾臓のない人、HIVやAIDS感染者等)にも同様に接種を推奨する。
 すでに医師から“PPSV23”の接種の指示を受けている人は、現行のACIP推奨に従い新型インフルエンザの流行期間中、予防接種を引き続きうけるべきである。
 さらに強調すべき点は、65歳未満の人でもすでに高いリスク状態にある人については、彼ら低い水準にある感染状態から見てワクチンの接種済率に従いワクチン接種をうけられるようは配慮すべきである。“PPSV23”の接種済率についてはCDCサイト参照。
 なお、医師からの指示がない人については、現時点で接種の推奨は行わない。
 本ガイダンスは、疫学や臨床学の観点から続発性細菌性肺炎感染の頻度や重症性がより正確に分析できた時点で改訂する。

5.「7価結合型ワクチン(7-valent pneumococcal conjugate vaccine :PCV7)」
 “PCV7”について、5歳未満のすべての子供への接種を推奨する。すなわち2008年7月現在の全米ベースでの調査によると19か月から35か月の幼児への投与対象範囲は90%である。“PCV7”の投与予定の推定値はCDCサイト参照。
 なお、米国の肺炎球菌ワクチンの使用忌避、注意や悪影響を含むその使用に関する推奨内容については次の各資料を参照されたい。
 ①成人免疫強化プログラム
 ②肺炎球菌多糖類ワクチンに関する一般向け解説パンフレット(2頁もの)
 ③肺炎球菌による疾病予防パンフレット
 ④ACIPの肺炎球菌ワクチンの使用に関する暫定推奨

[現行ACIPの肺炎球菌多糖類ワクチンの使用に関するグループ別推奨対象者]
(1)対象者全員への接種:65歳以上の成人全員

(2)2歳から64歳で次の疾患を持つ人で医師からの指示のある人
 ①慢性心臓血管疾患(chronic cardiovascular disease)( 鬱血(性)心不全(congestive heart failure)および心筋症(cardiomyopathies))
 ②慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease)および肺気腫(emphysema)を含む慢性呼吸器系疾患(chronic pulmonary disease)
 ③糖尿病(diabetes mellitus )
 ④アルコール中毒(alcoholism)
 ⑤肝硬変(cirrhosis)を含む慢性肝疾患(chronic liver disease)
 ⑥脳脊髄液減少(cerebrospinal fluid leaks)
 ⑦鎌状赤血球貧血症(sickle cell disease)および脾臓摘出(splenectomy)を含む機能・解剖学的無脾症(functional or anatomic asplenia)
 ⑧HIV感染(HIV infection)、白血病(leukemia)、リンパ腫疾患(ymphoma)、ホジキン病(Hodgkin’s disease)、多発性骨髄腫(multiple myeloma)、一般化腫瘍(generalized malignancy)、慢性腎不全(chronic renal failure)、ネフローゼ症候群(nephrotic syndrome)を含む免疫障害者(immunocompromising conditions)。
 これらの人には免疫抑制性の科学療法(immunosuppressive chemotherapy)副腎皮質ホルモン(corticosteroids)を含む)を受けている人や臓器や骨髄の移植を受けた人を含む。

(3)19歳から64歳の成人で次の該当者
①喫煙中毒(smoke cigarettes)
②喘息疾患(asthma)

(筆者注1)「日本で認可されている肺炎球菌ワクチンは23価の多糖体ワクチンで、23種類の血清型の多糖体が含まれています。1血清型あたり25マイクログラムの多糖体が含まれており、非常に多くの抗原量が含まれたワクチンです。このワクチンは局所反応が強く、日本ではハイリスクグループ(脾摘患者、脾機能不全者、鎌状赤血球症、心・呼吸器系の慢性疾患患者、免疫抑制を受けている者)を対象にしています・・・米国では、成人に対して現在も23価多糖体ワクチンが使用されております。つまり、米国では7価の結合型ワクチンに移行したのではなく、7価の結合型ワクチンを小児に対して新たに導入したというのが正しい理解です。」国立感染症研究所感染症情報センターサイトの解説から抜粋、引用

(筆者注2) 参考解説1:“Streptococcus pneumoniae”は世界中の小児と成人における疾病と死亡の主要な原因の一つである。2002 年のWHO の試算によると、一年間に約160 万の致命的な肺炎球菌疾患が発生しており、そのほとんどが幼児と高齢者に発生している。さらに、あらゆる年齢層の免疫不全患者はリスクが高い。
参考解説2:インフルエンザがいったんは治癒したかに見えているが、2~3日の間隔をおいて突然に発熱、咳、痰などを訴える.
• 発熱とともに、呼吸器症状、胸部の不連続音を認め、高度の白血球増多、好中球増多がある
• 治療の第一は、二次感染菌に対する抗菌療法。そのため菌を決定するために、塗抹検査などが行われる。
• 二次感染として重要なものとしては、ブドウ球菌、インフルエンザ菌、肺炎球菌、レンサ球菌など (明治薬科大学 池之谷英希氏の解説から引用)

〔参照URL〕
http://www.cdc.gov/h1n1flu/guidance/ppsv_h1n1.htm
http://idsc.nih.go.jp/vaccine/cQA014.html

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