2011年12月27日火曜日

ニューヨーク州司法長官がマイクロプロセッサー・メーカーIntel社を反トラスト法違反で起訴






(本ブログは2009年11月13日に掲載したものに最近時の裁判情報等を追加したものである)

ニューヨーク州司法長官アンドリュー・M・クオモ(Andrew M.Cuomo)(2011年1月1日にエリック・D・シュナイダーマン(Eric D.Schneiderman)が後任長官として就任)(筆者注1)が11月4日に世界最大のマイクロプロセッサー・メーカーである米国インテル社を反トラスト法(筆者注2)違反で起訴陪審に向けた手続に入ったニュースは、わが国のメディアでもすでに報じられている。

一方、インテルの最大のライバル会社であるAMD(Advanced Micro Devices)は、11月11日、インテルへの米国デラウェア連邦地方裁判所や日本の裁判所で起こしていた米国反トラスト法や独占禁止法違反を理由とする全訴訟は取り下げるとともに特許技術の相互利用に関するクロスライセンス契約の延長について12億5千万ドル(約1,125億円)で和解合意(Settlement)を行った。今回の両者の和解合意が政府による訴訟や欧州委員会による調査等には影響しないとするメディアが多い。

インテルへの反トラスト法違反訴訟は、欧州委員会(筆者注3)や韓国公正取引委員会(Korea Fair Trade Commission:KFTC)(筆者注4)の課徴金処分、日本の公正取引委員会(筆者注5)による排除勧告を受けた一連の行動であることは言うまでもないが、非競争に関する連邦法執行・監督機関である連邦取引委員会(FTC)の今後の出方も注目されている。

今回のブログは、内外のメディアによるややセンセーショナルかつ限定的な情報だけでなく、反トラスト法を中心とする法律的に見た正確な情報の提供を目的としてまとめた。すなわち連邦反トラスト法だけでなくニューヨーク州の反トラスト法(Donnelly Act)の内容等にも言及するとともに同州の非競争行為に対する法執行体制についても解説する。

また、今回の事例は米国の消費者保護における連邦政府(FTC)や州司法長官の役割(いわゆる父権訴訟(parens patriae ))の具体例である。その歴史的経緯や機能については2008年6月に日弁連消費者行政一元化推進本部研究会において日本女子大学の細川幸一准教授が「米国の消費者保護における政府の役割~父権訴訟を中心に~(メモ)」で詳細な報告を行っている。

わが国では消費者庁が9月1日に稼動を始めたが、その基本機能は日常的な生活苦情窓口だけでよいのか、不正競争に基づく消費者の救済といった個人では手が出せないし、また集団訴訟提起もなおハードルが高い問題等にその公的機能が本格的に発揮されるためには公正取引委員会の自由競争阻害要件を中心とする方式から一歩踏む出すことの検討も必要となろう。(筆者注6)

特にニューヨーク州とはいえ世界最大のマイクロプロセッサー・メーカーにFTCより先んじて挑む姿勢の意義と今後の展開に強い関心をもって今回のブログをまとめた。

なお、わが国では内閣府の「独占禁止法基本問題懇談会の最終報告(独占禁止法における違反抑止制度の在り方等に関する論点整理)」等において非競争行為における課徴金、刑事罰の併科問題等が議論されているが、それ自身が大きな課題であり機会を改めて論じたい。


1.同司法長官の起訴陪審に向けた起訴状(案)の要旨
 インテル社に対する87頁の起訴状(案)は、デラウェア連邦地方裁判所(筆者注7)に提出された陪審審理(正式事実審理)請求(trial by jury demanded)である。事実関係については一般メディアでもかなり詳細に書かれているが、内容の重複を承知で「リリース」に基づき仮訳で解説する(リリースでは2008年1月から捜査が開始され、司法長官府(Attorney General’s Office)による数百万ページにわたる文書や電子メールさらの数十人の証言をもとに起訴が行われたと発表している)。なお、メディアではほとんど報じられていない点は、CEOや幹部間相互の電子メールが極めて立証上で重要な証拠となっていること(デジタル・フォレンジック)(筆者注8)の重要性が極めて問題となる事件となろう。一方、インテル社は起訴状記載の電子メールの内容は言葉尻をとらえているのみでリベートや報復的強圧をかけるなど非競争行為を意図的に行ったことの証拠性は弱いと反論している)である。

さらに、以下の電子メール等の証拠内容から見て、反トラスト法の解釈と絡んでくるであろうが、自由市場ルール違反や消費者保護と言う観点からみるとデルやHPは本当に被害者なのであろうか。共犯ではないかとも考えられよう。

なお、筆者が従来から米国の法制度調査とりわけ法律の条文の原本を確認する上で最も気になっていた簡易かつ迅速な「検索性」は、次項で述べるとおり州法で見る限り期待はずれであった。今後、あり方について米国のロー・スクールや弁護士等と意見交換するつもりである。

(1)企業内電子メールがインテルのコンピュータ・メーカーへの違法な圧力を明らかにする:我々はインテルのこのような報復行為を受忍しるであろうか?
2009年11月4日、ニューヨーク州司法長官アンドリュー・M・クオモは世界最大のマイクロプロセッサー・メーカーであるインテル社に対し、連邦反トラスト法違反に基づく訴訟を起こした。本訴訟は、電子メールの解析で明らかとなったインテル社がマイクロプロセッサー市場における独占力と価格を維持する目的で世界中にわたるかつ組織的かつ違法な活動キャンペーンを行ったことに対する責任を問うものである。

この数年間、インテルは総額で数十億ドルにのぼる支払と引き換えに同社のマイクロプロセッサーの使用に同意した大手コンピュータ・メーカーから独占的契約を取り付けている。また、同社は事実上インテルの競合他社と極めて緊密の行動したことを察知したPCメーカーを脅迫するとともに実際に処罰的行為を行った。これらの報復的な脅迫の内容には、直接コンピュータ・メーカーの競争相手に資金を供給して共同開発事業を終了させ、またコンピュータ・メーカーがインテルから受け取っていた資金のカット措置が含まれていた。

インテルは、公正な競争より市場での締め付けを維持するため賄賂や強制を使った。本日、連邦地方裁判所に起こした訴訟はインテルの更なる反競争的行為を禁じ、失われた競争を復元させニューヨーク州の政府機関や消費者が被った金銭的な損害を取り戻すために刑罰を科すことが目的である。

(2)インテルは米国の最大手のコンピュータ・メーカーに贈賄や強制を行った
「インテルx86マイクロプロセッサー(ほとんどのPCの頭脳部分)」は一般的に直接企業や消費者に販売しないかわりにPCの部品としてコンピュータ・メーカーに販売する。インテルの違法行為は合衆国の3大コンピュータ・メーカー(デル(Dell)、ヒューレット・パッカード(HP)、IBM)を巻き込んでいた。

(デルに関する違法行為)
・2006年、インテルはデルに対し約20億ドルのリベートを支払ったが、そのリベート額はデルの2四半期分(9半年分)の純利益(net income)を超えていた。
・2001年から2006年の間、インテルはデルに対しインテルの主たる競争相手であるAMD社(Advanced Micro Devices)の製品を販売しない見返りとして他のコンピュータ・メーカーに比べ相対的に特権的な地位を与えた。
・インテルとデルは、AMDが戦略的に重要な競争力のある成功を収めることを阻止するため原価を下回る価格でのマイクロプロセッサーやサーバーの販売に協力した。
(HPに関する違法行為)
・インテルは、HPがAMDの製品販売を促進するなら今後のHPのサーバー技術の開発を頓挫させるであろうと脅かした。
・インテルは、HPのAMDのプロセッサーを使った業務用デスクトップ・パソコンに5%の販売割引価格の上限(Customer Authorized Price:CAP)(筆者注9)を設ける合意の見返りとして数億ドルを支払った。
・2006年にAMDの支出に係るHPの販売におけるインテルのシェアの増加を見合いに9億2,500万ドルを支払う旨のより幅広いかつ全社的な合意を取り交した。

(IBMに関する違法行為)
・インテルはAMDベースの商品を購入しないようIBMに1億3,000万ドルを支払った。
・インテルは、IBMがAMDを組み込んだサーバーを販売した場合は、IBMにとって利益が得られた共同事業から資金を引上げると脅した。
・インテルはIBMに対しAMDプロセッサーを組み込んだサーバーを「ノーブランド商品」とするよう圧力をかけた。

(3)各社の社内文書や電子メールがインテルの違法行為を明らかにした
本訴訟ではインテルの違法活動を示す電子メールの通信が含まれている。その具体例は次のとおりである。
①2005年1月、IBM役員の社内電子メール:「私はAMDが完全な商品ラインの面で欠けている理由・原因を理解した。質問ですが、我々はインテルの復讐を受け入れる余地があるか。」
②2004年6月、HP役員のHPがインテルを無視してAMDを組み込んだ製品を販売した後の社内電子メール:「インテルはHPがOpteron(AMDのサーバー・チップ(筆者注10)発表に数十億ドル($B)かけたことこのことに対し、HPを罰する計画があると我々に話した。」
③2004年9月、HPの役員のインテルの競争相手からの販売製品を得たことの必然的な結果に関する社内電子メール:「我々がそうするか(そうするつもりであるが)、インテルからの資金は停止してしまうであろう。そのリスクは極めて高い。その資金がなかったら、我々は財務的に耐えられないであろう。」
④2003年2月、インテルの競争相手からデルが積極的な購入を行った場合の想定される結果についての社内文書:「インテルによるリベート額の減少は厳しくその影響はデルのあらゆるLOB (筆者注11) に長引いて及ぶ。」
⑤2004年2月、デルがインテルとの排他的関係を終了させる可能性についての内部電子メール:「デルがAMDへの大移動に参加するなら、PSO/CRB(インテルのCEOであるPaul Otteliniと会長のCraig Barett)による聖戦(jihad)への用意が行われる。我々はインテルが詳細を調査する間、我々は少なくとも3ヶ月間リベートがゼロになる。これを避けるためにはいかなる法的・倫理的・脅威も問題となりえない。」
⑥2006年9月、インテルのHPとの交渉責任者(negotiator)(筆者注12)の社内電子メールにはインテルの反トラスト法違反に抵触しないよう意図的に試みた記録のとおりある:「あなた方(メールの宛名人)は市場シェアMSS:market share)に関する部分を交渉記録上除くことが出来た。ボリューム目標のみ残すよう工夫した。我々の顧問弁護士団は交渉スタッフに対し口うるさい。従って、私の会話内容はボリューム目標か関連するボリューム目標のみに限定した・・・(メールの相手から )有難う(thx)の返事があり。」
⑦2006年4月、インテル役員の社内電子メール:「反とラスト法の問題の懸念をなくすためは文書や電子メールは問題であり、電話でもう少し話すことにしましょう。」
⑧2005年11月、デルCEOのMichael DellからインテルCEOのPaul Otteliniに宛てて送られた社内電子メール:「我々は指導力を失い、その結果いくつかの分野で当社の事業上重大な影響を与えています。Otelliniの返事:この分野には新たなものは何もないのです。我々の製造計画(product roadmap)そのものです。

それは日々急速に向上しています。そのことが指導的製造を増加させるし、さらに競争努力に合致させるため、インテルはデルに対し1年当り10億ドル($1B)をデルに譲渡する予定です。このことは貴社のチームにおいても競争問題を補償するに十分以上であると判断されました。」

(4)ニューヨーク州対インテル社裁判の起訴状の具体的内容およびその後の情報
前述したニューヨーク州司法長官がインテル社を起訴した裁判で、その基礎を裏付ける具体的事実については前述したとおりである。ここでは、起訴状の結論部分である裁判所に対する4つの「救済請求(Claims for Relief)」をとりあげる。
①第一請求(シャーマン法(Sherman Anti-Trust Act)2条違反
②第二請求(ニューヨーク州Donnelly Act:ニューヨーク一般ビジネス法律集(N.Y.Gen.Bus.Law)第22編340条以下「独占行為」)
③第三請求(ニューヨーク州執行部法(New York Executive Law)63条(12)違反)(筆者注13)
④第四請求(同条)

なお、裁判の途中段階の情報は省略するが、2011年12月24日にデラウェア連邦地裁判事レオナルド・スターク(Leonard Stark)は2012年2月14日に予定している公判予定の取消を命じた。その理由は、本裁判が破棄されるべきか否かにつきニューヨーク州が論議中であるということにある。いずれにせよインテル社はすでに反トラスト裁判の解決に関し、すでに27億ドル以上を費やしている。スターク判事は起訴事由のうち三倍損害賠償を破棄するなどいくつかの請求を退けている。また、同判事は事件の対象範囲につき原告であるニューヨーク州に対しここ3年間におけるコンピュータの購入に焦点を当てるとするなどの訴訟指揮をとってきた。これに対し、州当局は6年間の期間を求めていた。

2.ニューヨーク州の反トラスト法(Donnelly Act)および同州の非競争行為に対する法執行体制
(1)米国の連邦および州ベースの反トラスト法の関係
わが国で広く一般的に読める海外情報としては公正取引委員会サイトで連邦司法省反トラスト局の公表ニュースを簡単に紹介しているのが唯一の情報であろう。
ニューヨーク州経済司法部反トラスト局のサイトでは、連邦反トラスト法について簡潔にまとめている。連邦司法長官と州司法長官の権限との法的関係(いわゆる父権訴訟)にも言及しており参考までに紹介する。

「連邦反トラスト法(Federal Antitrust Laws)」
1890年に制定された「シャーマン法」は、州際取引や商業における制限的性格をもつすべての契約や共謀行為を禁止する。具体的には、価格吊り上げ(price fixing)、市場配分(market allocation)、ボイコット、談合入札(bid rigging)および抱き合せ販売(tying arrangements)を含む。
連邦裁判所は、これらの禁止行為の停止や回復、また違法に取得した利得の返還、実際被った損害額の3倍の損害賠償(三倍賠償(treble damages))を裁可する権限がある。また違反者には法人の場合は最高1億ドルの刑事罰、個人の場合は最高100万ドルおよび10年以下の拘禁刑が科される。
「クレイトン法」は実質的に競争を抑制したり独占を生じさせる買収(mergers)や一定の排他的合意(certain exclusive dealing arrangements)を禁止する。

「1976年ハート・スコット・ロディノ反トラスト法」は、連邦の反トラスト法訴訟における州の住民を代表して各州の司法長官に新たな広い起訴権限を与えた。このため司法長官は消費者の代理人としてシャーマン法違反に基づき失われた金額の三倍損害賠償を起こすことができる。この方式により司法長官は多くの市民が少額でかつ個々人が提訴する余裕がない場合に1つの訴訟に統合することができる。

一方、「連邦取引委員会法」は「不公平な取引慣行」や「不公平または詐欺的またはその実践行為」を禁止する。本法は、①シャーマン法とクレイトン法の非競争条項の法執行を実現させる、②FTCの反トラスト法では対処し得ない違法活動の消費者保護代理機関として機能を果たす権限を定めている。

(2)各州の反トラスト法の調べ方
そもそも州ベースの反トラスト法の執行体制や関連法を調べるにはどのようにすればよいのか。
筆者なりに模索した結果は、以下のとおりである。
A.同州の経済司法部反トラスト局(Antitrust Bureau, part of the Division of Economic Justice)サイトを閲覧した。
B.同サイトでDollenny法の解説を読む。ただし、同サイトや州の一般サイトから条文そのものは確認できない。
C.同州の法律検索専門サイトでDonnelly 法の条文内容を確認しようとした。なお、同サイトはアルファベットで検索するようになっているが、連邦法のように法律名(Dollenny)では検索できない。 “General Business”(GBS) まで知っていると条文内容にたどり着く。

この検索方法はカリフォルニア州ではどうなるか。同州の反トラスト法の正式名は“CALIFORNIA BUSINESS AND PROFESSIONS CODE:Cal.Bus.&Prof.Code”である。一般的には通称の“Cartwright Act”で解説されているか、または両者が併記されている。
ついでに、検索手順を解説しておく。
A.州の公式法案・制定法検索サイト“Official California legislative Information” を閲覧する。
B.画面下の選択肢から“California Law”を選択する。
C.“California Code”を閲覧する(29の法典の最新更新内容が確認できる)。
D.法律の内容を示す一覧から該当の法典(code)を選択する。法典名が分からないと更なる検索である「キーワード検索」もできない。
筆者が一番困惑したのは一覧から該当法典名である“CALIFORNIA BUSINESS AND PROFESSIONS CODE”を調べる方法であった。同法は450頁の大法典であるが、連邦法の検索時の習慣で通称である“Cartwright Act”に基づく検索に固執しすぎた。

(3)ニューヨーク州 反トラスト法“General Business”(GBS)の内容
反トラスト法である“General Business”(GBS)の内容について逐一解説は行わないが、経済司法部反トラスト局のサイトの同州反トラスト法の解説内容を概観する。

ニューヨーク州の反トラスト法(340-347 of New York’ General Business law )は一般には「ドネリー法」といわれ1899年に制定された。一部重要な点で異なる部分もあるが、その後の法改正や解釈により緊密なかたちで連邦シャーマン法の内容との整合性が図られてきた。すなわち同法は、価格吊り上げ、地域や顧客配分(territorial and customer allocation)、ボイコット、談合入札(bid rigging)および抱き合せ販売(tying arrangements)を禁止する。

同法は、司法長官に法人の場合は最高100万ドル、個人の場合は最高10万ドルの民事罰を求める訴訟提起の権限を定める。またプライベート・パーティ(被害者たる訴訟当事者)はこれらの違法行為を禁止させまた三倍賠償を得るため訴訟の提起が出来る。ドネリー法違反は重罪(felony)であり、法人の場合は最高100万ドル、個人の場合は最高10万ドルと4年の拘禁刑が科される。

3.今後の国際的非競争法強化に対応した研究課題についての私見
わが国では日本企業の海外進出とともにわが国の企業のEUや米国における非競争法違反・制裁問題に危機感をもっており、最近ではあるが経済産業省は経済産業政策局長の私的研究会として、「競争法コンプライアンス体制に関する研究会」を設置し、第1回会合を2009年8月4日に開催し、以降月1回ベースで開催されている。

第1回会合配布の「資料4」に指摘されているとおり、同研究会は制裁金・課徴金という行政制裁の強化によるか罰金・禁固刑という刑事制裁の強化によるかという手法の違いは別として、現在、日米欧いずれの競争当局においても、カルテル等の競争法違反行為の抑止という観点から、執行強化がなされているという問題意識から検討が行われている。
なお、同研究会は、2009年8月から11月にかけてのべ4回開催し、2010年1月29に報告書「『国際的な競争法執行強化を踏まえた企業・事業者団体のカルテルに係る対応策』について」を取りまとめている。

一方、筆者自身、今回ブログの原稿作成を通じて次のような具体的課題を整理した。①世界的独占企業の非競争戦略の「法的きわどさ」、②中小企業も含むわが国企業の国際化が急速に進む一方で、海外の非競争法の正確な理解の不足や執行機関に関する研究の遅れ、③ニューヨーク司法長官府サイト等で見るとおり非競争行為はわが国でいう「内部通報者保護法」(2007年False Claims Act)の機能に期待する点が極めて大である問題であり、各州の運用実態調査の重要性、④連邦司法省サイトで見るとおり、被害者保護面からのオンブズマン制度の機能の実態調査の重要性、⑤わが国の司法関係者や法執行機関のデジタル・フォレンジックに対する意識の低さ。

これらの課題については、順次最新情報を追いながら解説していくつもりである。いずれにしても、わが国の独占禁止法も含め非競争規制法は経済規制法という側面から消費者保護(消費者の権利保護)法の側面に焦点を当てたさらなる研究が求められよう。(筆者注13)

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(筆者注1)「司法長官」と言う名称から連邦と同様に執行機関の最高責任者である州知事が任命すると思われがちであるが、ニューヨーク州においては、連邦政府と異なり、他州と同様に、知事のみならず副知事・州監察長官(State Comptroller) ・州司法長官(Attorney General)という主要な行政官が公選職員として住民の直接選挙で選出される。1846 年のニューヨーク州憲法(Constitution of the State of New York )改正(5条1項)により、州司法長官も州監察長官も共に公選職員(任期4年)となった。(自治体国際化協会のサイトから引用)
前クオモ長官(民主党系勤労家族党(Working Families Party)ニューヨークのマイナーな党であるが自由主義的性格が強い政党である)の選挙は、2006年11月7日に行われ、58.31%の票を獲得している(Wikipedeiaの解説等から引用)。現長官シュナイダーマンは前ニューヨーク州議会上院議員(民主党)で2010年9月に党候補に指名され、総選挙の結果、当選し、2011年1月1日に第65代長官に就任した。

なお、わが国では州の“Attorney General”の訳語を「検事総長」としているものが多い。しかし、これでは連邦の司法長官(法執行の最高責任者で大統領が指名、議会が承認)と機能が異なることになる。起訴状にあるとおり、連邦地方裁判所になぜ州の司法長官等のみが原告として関与しているのか(なぜ連邦地区首席検事(United States Attorney:米国連邦裁判所の裁判区 (judicial district) ごとに1名ずつ大統領が指名し、連邦の刑事事件で検察官の活動を統括する役職)が起訴しないのか)。詳しく書くとそれだけで博士論文になってしまうので「私見」ではあるが結論だけ記しておく。

インテル社の反トラスト法違反行為は前記のとおり連邦法や州法違反であり、本来連邦司法省長官が起訴すべきものと思われるが(例えば2001年10月11日連邦司法省が原告となり、“HSR Act”遵守違反を理由として米国最大のメデイア企業“Hearst Corporation”を被告とする民事制裁を求める訴訟を提起している。この違いはどこにあるのか等々)、実は米国「1976年ハート・スコット・ロデイーノ・反トラスト改良法(Hart-Scott-Rodino Antitrust Improvements Act)」によりクレイトン法4c条(U.S.C.ではSec. 15c. Actions by State attorneys general)は連邦司法省(反トラスト部)の代理訴訟権限の州司法長官への付与を定めている。本文2.(1)で見るとおり、今回の起訴は同条にもとづくと思われる。

(筆者注2)米国競争法の専門家でない読者のために補足しておく。本文(起訴状の内容)で説明するとおり米国の「反トラスト法」とは、単一の法律ではなく、いくつかの法律の「総称」であり、主に以下の3つの基本法およびこれらの修正法から構成されている。
①シャーマン法(1890 年6月2日制定)( Sherman Antitrust Act:15 U.S.C. §§ 1-7) カルテル・ボイコット等の取引制限、独占の禁止に関する規定。
②クレイトン法(1914 年10月15日制定)(Clayton Antitrust Act:15 U.S.C. §§ 12-27) 価格差別、排他取引、不当な条件付取引、企業結合に関する規定。
連邦取引委員会法(1914 年制定)(Federal trade Commission Act of 1914):不公正な取引および欺瞞的取引の禁止、連邦取引委員会の権限・手続等の規定。

このほか、ほとんどの州がシャーマン法やクレイトン法に準拠しつつ独自の反トラスト州法を制定している。これらの法律や最近の判例に関する概括的な解説は、コーネル大学ロースクールのサイト「反トラスト法:概観」を読むのが最も近道であろう。
また、連邦司法省反トラスト法担当部サイトでは内部ガイダンスである「反トラスト法マニュアル」を公文書として一般公開している(米国現行連邦法律集(U.S.C.)と法律名称検索とで条文番号が異なる場合があり、同マニュアルではその比較が出来る)。
(2008年1月現在公正取引委員会のサイト「世界の競争法:米国」、内閣府がまとめた「アメリカ反トラスト法の概要」等から一部引用のうえ筆者が独自に追加した)

さらに留意すべき点は、米国反トラスト法は連邦司法省と連邦取引委員会という2つの執行機関を有し、各執行機関に執行権を付与したことから、2系統、2本建ての実体法規制となっている。一方、わが国の独占禁止法は単一の執行機関として構成されている反面、米国の反トラスト法を原型とするがゆえに2系統の実体法規定を受け継いでいる。このため、わが国の法解釈上で複雑な問題を多くかかえるという指摘がある(2000年4月1日号NBL 村上政博「独占禁止法違反行為についての私人による差止請求権(1)」から一部引用)

(筆者注3)「2009年5月13日、欧州委員会は、x86セントラル・プロセシング・ユニット(CPU)と呼ばれるコンピューターチップ市場から競合他社を排除するために、欧州共同体(EC)条約(第82条)に抵触する反競争的行為を行っているとして、Intel(インテル)社に10億6,000万ユーロの制裁金を科した。欧州委員会はまた、今も継続している違法な行為のすべてを直ちに中止することを命じた。(以下省略)」駐日欧州委員会代表部サイトから一部抜粋引用。その原文は” Antitrust: Commission imposes fine of €1.06 bn on Intel for abuse of dominant position; orders Intel to cease illegal practices”と題するものであるが、上記代表部の訳文もかなり事実関係も含め詳細に原文の内容を紹介している。

(筆者注4)2008年6月4日、韓国公正取引委員会が韓国インテル社に対して行った「矯正命令(corrective order)」および「課徴金(surcharge)」の詳細については同委員会サイトで確認できる。

(筆者注5) 2005年3月8日、公正取引委員会は,インテル株式会社に対し,独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)の規定に基づいて審査を行い、同法3条(私的独占の禁止)の規定に違反するものとして,同法48条1項の規定に基づき,次の内容の排除勧告を行った。
「日本インテルは,インテル製CPUを国内パソコンメーカーに販売するに際して,国内パソコンメーカーに対し,その製造販売するパソコンに搭載するCPUについて,前記(1)MSS(各国内パソコンメーカーが製造販売するパソコンに搭載するCPUの数量のうちインテル製CPUの数量が占める割合をいう。)を100%とし,インテルコーポレーションが製造販売するCPU(以下「インテル製CPU」という。)以外のCPU(以下「競争事業者製CPU」という。)を採用しないこと。
(2)MSSを90%とし,競争事業者製CPUの割合を10%に抑えること。
のいずれかを条件として,インテル製CPUに係る割戻し又は資金提供を行うことを約束することにより,その製造販売するすべて又は大部分のパソコンに搭載するCPUについて,競争事業者製CPUを採用しないようにさせる行為を取りやめること。」
この勧告に対する諾否の期限は2005年3月18日であったが、4月1日まで延期が認められ、インテルは4月1日付けで「同勧告を応諾しますが、同委員会が主張する事実やこれに基づく法令の適用を認めるものではありません。インテルは引き続き、同社の商行為は公正であり、かつ法律を順守していると確信しています。したがって、インテルは勧告に示された排除措置の枠組みによっても、同社が今後も顧客の要望に十分応えていくことができると考えています。」と言う内容のコメントを行っている。同コメントを法的にどのように解するかについては機会を改めて論じたいが、かりに今回のニューヨーク司法長官の起訴状が指摘するような事実があるとすれば、反トラスト法上かなりの問題があるコメントであろう。

なお、現状の日本の法律では排除勧告を応諾したとしても制裁金が課されない(この問題を論じているのが今回のブログ前文で述べた「独占禁止法における違反抑止制度の在り方等」(2006年7月21日内閣府大臣官房 独占禁止法基本問題検討室の資料)である)。 
このため日本AMDは2005年6月30日、インテルの日本法人が日本AMDの業務活動を妨害したとして、その損害賠償を求める訴訟を東京高裁と東京地裁に起こした。同社が東京高裁に対して提起した訴訟は、同年3月8日に公正取引委員会が排除勧告で認めたインテルの独占禁止法違反行為による損害賠償(請求額は約55億円)に、排除勧告で認定された違反行為以外の妨害行為で被った損害賠償を加えた、総額約60億円の損害賠償を求めたものである。
その東京高裁への訴状の要旨によれば、インテルは、国内PCベンダー5社(NEC、富士通、東芝、ソニー、日立製作所)に対して、資金提供などを条件に、各社が製造するPCにAMD製CPUを採用しないようにしむけたという。また、東京地裁への訴状要旨では、インテルが「日本AMDの新製品発表会に参加を予定していた顧客に対し圧力をかけ、参加を辞退させた」「日本AMDと顧客の共同プロモーション・イベント用に製造されたAMD製CPUの新製品を搭載したPCを、イベント直前に全台買い取り、インテル製CPU搭載PCに入れ替えさせた。その際、インテルはPCを無償で提供したうえ、宣伝費用も支給した」などの営業妨害行為を行ったという。
一方、米国AMDは6月27日にデラウェア連邦地方裁判所に対し、シャーマン法2条、クレイトン法4条・16条、カリフォルニア州企業・職業法(the California Business and Professions Code)に基づきインテルによる取引き妨害による損害賠償請求訴訟を提起した。
これら訴訟については、11月12日のインテルとAMDの全面和解によりAMDはデラウェア連邦地方裁判所および日本の2件の係争中の独占禁止法違反訴訟は取り下げるとともに全世界の規制当局への訴えを撤回する旨発表した。

(筆者注6)日本女子大学の細川幸一准教授が、2008年1月に「消費者庁構想について」において従来の規制行政から支援行政の重要性を指摘されている。筆者も同感であり、消費者庁のHPを見るたびに残念に思うとともに、抜本的な機能の見直しが必要と考える。

(筆者注7)デラウェア連邦地方裁判所のサイトにアクセスすると、まず「モニタリング通知」が出る。引き続き「アクセス(Entrance)」しても良いし「退出(Excit)」も可である。

(筆者注8)フォレンジック(Forensics)とは法科学と訳され、司法における犯罪や不正の証拠として科学的知見をいかに生かすかという学問である。デジタル・フォレンジック(Digital Forensics)とは、この法科学の中でもコンピュータをはじめとするIT機器に残存する証拠(電磁的証跡と呼ぶ)から犯罪や不正の証拠をいかにして取り出し、生かしてゆくかという技術であると言える。情報通信技術が社会のインフラとして重要性を増すにつれ、その障害や不正アクセスなどのインシデントに際して、事件と事故の切り分けからインシデント原因の同定、犯罪や不正が疑われた場合の被疑者の同定(Identification)といった作業が「法廷の場で証拠として耐えうるように」行われることが求められてきており、今後研究を進める必要性の高い分野であると言える(京都大学情報メデイアセンターより抜粋)。なお、わが国のデジタル・フォレンジック研究については、「NPOデジタル・フォレンジック研究会」が唯一アカデミックかつ実践面からの積極的な活動を行っており、関心のある人は是非会員になってみてはいかがか。

(筆者注9)“Customer Authorized Price”(CAP) に関する説明は起訴状原本16頁にも記載はない。筆者なりに調べた範囲で解説すると、OEM契約(OEM(Original Equipment Manufacturing/ Manufacturer)とは、納入先商標による製品の受託製造(者)をいいます。すなわちメーカーが納入先である依頼主の注文により、依頼主のブランドの製品を製造すること、またはある企業がメーカーに対して自社ブランド製品の製造を委託することです。開発・製造元と販売元が異なり、製品自体は販売元のブランドとなります:JETRO貿易・投資相談Q&Aから引用)の場合に使用される用語である。ここからは筆者の推測であるが、インテルはデル等とOEM契約を締結する際の条件としてデルはインテルの標準価格5%を販売割引価格の上限に合意したのではないか。

(筆者注10)「サーバー・チップ」とはどのようなものをさすのか。技術系でない筆者としてはこだわって内外サイトを調べた。要するに「サーバー・コンピュータ用の高機能マイクロプロセッサー・チップ」のことのようである。次世代サーバー・チップの解説(インテルの“Nehalem”、AMDの“Magny Cours” IBMの“POWER’”等)は海外の記事の基づく素人には極めて分かりづらい記事は多いがほとんど理解できない。この世界ははやたら「次世代」が好きであるが、足が地に着いていない世界かも?。筆者の専門である「法律」の世界では正確な定義がない言葉は使えない。

(筆者注11)“LOB”とは、“line of business ”の略語で企業が業務処理に必要とする主要な機能を行うアプリケーションの総称である。LOBに該当する主なアプリケーションとしては、会計や在庫管理、受発注システム、サプライ・チェーン・マネジメント(SCM)などがある。(IT用語辞典から引用)

(筆者注12)起訴状で言う“negotiator”とは具体的にどのような人物を指すのか。起訴状本文62ページ以下を読んだが、個人名は記されていない。HPとの交渉責任者(the principal Intel negotiator of the deal to his HP counterpart)としか書かれていない。

(筆者注13)「ニューヨーク州執行部門法(New York Executive Law)」について概要のみ補足する。同法は全50編(Articles)からなる法律であり、知事、各州機関の機能や任務を定める。その第5編(60条~74条)が同州の法務局(Department of Law)の責務に関する規定を定め、63条は司法長官の一般的責務に関する事項を定める。

(筆者注14) このような問題意識はすでに「第14次国民生活審議会(1992年12月12日~1994年12月11日)消費者行政問題検討委員会報告」において指摘されていた点である。しかし、その後の運用はいかがか。


〔参照URL〕
http://www.oag.state.ny.us/media_center/2009/nov/nov4a_09.html
http://www.oag.state.ny.us/media_center/2009/nov/NYAG_v_Intel_COMPLAINT_FINAL.pdf

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2011年12月25日日曜日

米国金融監督機関における金融機関等に対する迷惑セールス電話やFAXの規制強化の動き



(本ブログは2010年4月9日の内容をもとに最近時公表されたFTCのデータブックの内容により補筆したものである)

 わが国でも休日の朝にけたたましいセールス電話で起こされて不愉快に感じる人が多いと思うが、連邦取引委員会(FTC)および連邦通信委員会(FCC)は2006年4月に「1991年電話利用者の保護に関する法律(Telephone Consumer Protection Act of 1991:TCPA)」および「2005年ジャンク・ファクシミリ禁止法( Junk Fax Prevention Act of 2005:JFPA)」(筆者注1)に適用に関する規制強化に関するFCC規則の改正を行った。(筆者注2)

 その内容は、2003年6月に開始した「Do-Not-Call」の登録制度の範囲を銀行、保険会社、信用組合、貯蓄組合等まで広げるとともに、これらの金融機関からの委託に基づきマーケティング活動を行うテレマーケッター等の第三者にまで適用の範囲を広げるというものである。(筆者注3)

 これを受けて2005年11月に「消費者保護の法令遵守に係る連邦金融機関検査協議会・作業部会(Task Force)」は、TCPAに関する監督機関共通の検査手順書(Examination Procedures )および検査シート(Worksheet) (筆者注4)を承認した。通貨監督庁は、今後「検査ハンドブック」の改訂を行うが、それまでの間、監督官はこれら手順書等に基づき検査を行うこととなる。

 その後、連邦財務省通貨監督庁(OCC)は2007年6月14日に改訂検査手順書改訂検査シート公表した。

 「National Do Not Call Registry:NDNCR」(筆者注5)についてはFTCのサイトで詳しく説明されているが、これら2法の用語の定義・基本的な内容について概要を述べる。なお、2011年11月30日、FTCは「2011会計年度NDNCRデータブック」を発表した。本ブログではその最新情報についても概要を紹介する。


1.共通用語
(1)abandoned call:自動ダイアリングで電話での呼出し後、2秒以内に生のオペレーターにつながない電話呼出しを指す。電話口に出た人は無言電話としか理解できず迷惑セールス電話の典型とされる。消費者による“National Do Not Call Registry”の登録対象である。

(2) Automatic Telephone Dialing System and Autodialer:ランダムまたは順次電話番号を保存または制作する能力および当該電話番号に基づきダイアリングする能力を持った装置をいう。

(3)既存のビジネス取引関係(Established business relationship)::①電話がかかる18か月以前において個人・企業が電話セールス元企業から買物や取引を行っていた場合、②3か月以内に商品やサービス内容について質問や適用に関する行為が行われていた場合、③当事者間であらかじめそれらの関係を遮断していなかった場合をいう。
 これらの場合、受信する個人は製品・サービスに関し、関係を持つと合理的に判断される。

(4)本人の同意なき電話による勧誘(Telephone solicitation):消費者に伝達する買物、レンタル、財産や商品投資、サービスを勧める目的の電話による手引き。Telephone solicitationは本人の同意がある場合、発信者が受信者と一定のビジネス関係がある場合ならびに免税NPOに代って電話する場合はTCPAは適用除外となる。

2.TCPAの一般的要求要件
(1)FCCの定める規則のもとにおいて、売り手やテレマ-ケッターは次の内容を遵守しなくてはならない。
 ①文書の手順書の作成、②オペレーター等担当者の研修、③接触対象から除くべき電話番号のリストの維持、④架電に先立つ3か月前以内に作成された全米do-not-call 登録の バージョンの使用義務、⑤販売レンタル、リース、購入、等にあたり、いかなる方法においても諸規則に準じない手続きは行わない。

(2)企業はテレマーケティングの対象から除くべき要求が出されている既存の取引先顧客名リストの維持を行うこと。

(3)すべてのテレマーテッターは、abandoned callを用いるか自動ダイアリングを利用する場合は、消費者に優しい方法によらねばならない。すなわち15秒以内または4回呼び出しに受け手が電話に出ない場合は遮断しなくてはならない。

(4) すべてのテレマーテッターは、「caller ID information」の送信が義務付けられる。

(5)希望されないFAXの送信は、電話のように既存の取引関係による適用除外はないので留意する。すなわち受け手の同意の記録が必要である。

3.金融検査に検査おけるTCPAに関する検査目的
 金融機関が適正なポリシー、手続き、その他の内部統制が確立されていることのチェックを行う。

4.検査手順(筆者注4)
(1)初期手続き
(ⅰ)検査対象金融機関が直接または外部の第三者を利用したテレマーケティングを行っていない場合はTCPAに関する検査は終了する。
(ⅱ)対象金融機関において、TCPAに準拠した内部統制が適切に行われているか否かについて検査する。具体的には次の項目等が対象となる。
①TCPAについて金融機関においての責任者を含む組織図の作成。
②TCPAの遵守にかかる計画、評価、実践についての手続きのフローチャートの作成。
③受信拒否登録者の電話番号の5年間のメンテナンスの有無等。
④NDNCRに関する行内規則等についての研修内容。
⑤受信拒否者名の登録手順。
⑥NDNCRのデータべースへのアクセス手順。
⑦行内のチェックリスト、作業表、その他関連文書の内容。

(2)検証手続きおよび(3)総括については省略する。

5.FTCの「2011会計年度NDNCRデータブック」の概要
 本データブックが毎年度公表された始めて3年目を迎える。
(1)主なデータ項目
①同制度が開始された2003年度以降有効なDNC(Do Not Call)登録件数およびスパム・テレフォンに関する消費者からの苦情件数
②月次苦情件数と苦情タイプ別に集計した数値
③全50州およびコロンビア特別区の登録、苦情の数値
④会計年度別のマーケテイング業者等の登録データへのアクセス件数
⑤州別およびエリアコード別の登録件数と苦情件数をまとめた別表

(2)2011会計年度ブックの特徴とFTCの基本姿勢
 2011年9月30日現在の有効登録件数は2億971万2,924件で1年前比で約4%増加した。また、同日までの苦情件数は1年前の163万3,819件から227万2,662件と39.1%増加した。このように毎月の苦情件数の増加に加え、とりわけ予め録音した音声による自動架電(いわゆる“robocalls”)に関するものやテレマーケッターに電話自体を止めさせるべきとする強い要望件数等が含まれる。
 この“robocalls”は2009年9月1日以降、違法とされており、これらの見掛け倒し(deceptive)、誤解を招く(misleading)、その他の違法な“robocalls”行為を繰り返す事業者に対して、FTCは自身の「テレマーケティング販売規則(Telemarketing Sales Rule 16 CFR Part 310)」に基づき断固たる行動をとる。


(筆者注1)“TCPA”も限定的ではあるが、すでに取引関係(EBR)があるなど例外を除いて 企業や住民に対し迷惑FAXの送信を禁止していた。その後、2003年にFCCは既取引先であっても事前に受手が書面による同意がないかぎり禁止する旨に規則を強化した。さらに2005年12月にFCCは「2005 年ジャンク・ファクシミリ禁止法(Junk Fax Prevention Act of 2005)」に則した規則改正を行い、その実施時期は2006年1月とした。(米国ダイレクトマーケテイング協会の解説から一部引用)

(筆者注2)FTCやFCCの資料でみるとおり米国のテレマーケテイングのほとんどは自動式コールでわが国のような人海戦術でない。それがゆえに、スパム的な大量の呼び出しが昼夜を問わず行われ、社会問題化したことから、その規制策として「National Do Not Call Registry 」制度が出来た点を念頭に入れておく必要がある。

(筆者注3)FTCは、テレマーケティング販売規則(Telemarketing Sales Rule)関連規制法(Telemarketing and Consumer Fraud and Abuse Prevention Act)および取扱事業者に対する遵守ガイダンス(FTC消費者保護局作成)を用意している。なお、連邦規制機関であるFTCによる告訴に基づく罰金額は1違反行為につき最高16,000ドル(約121万6,000円)である。

(筆者注4)検査手順および検査シートのURLは次の通り。
http://www.occ.treas.gov/ftp/bulletin/2006-15a.pdf
http://www.occ.treas.gov/ftp/bulletin/2006-15b.pdf

(筆者注5) NDNCRの登録手続き等については次のURL(Q&A)に詳しい。
http://www.ftc.gov/bcp/conline/pubs/alerts/dncalrt.htm

〔OCCのBulletin2006-15のURL〕
http://www.occ.treas.gov/ftp/bulletin/2006-15.doc

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2011年12月5日月曜日

英国議会上院「科学・技術特別委員会」が英国の長期的な核開発R&D能力につき警告的報告書を発表










本ブログでは英国の原子力エネルギー関連問題につき4月19日「英国の日本の原子炉メルトダウン直前の緊張等によりウラン・プルトニウム混合酸化物燃料売却計画凍結問題」、8月5日「英国は日本の電力各社や政府の原子力問題慎重化によりMOX燃料製造工場の閉鎖を決定」で取上げてきた。

さて11月22日、英国議会上院特別委員会(UK Parliament :House of Lords:Select Committee)の「科学・技術委員会(Science and Technology Committee )」が英国の長期的な核研究および核開発能力につき警告的内容の報告書「科学・技術特別委員会第3次報告書(Science and Technology Committee-Third Report)」を発表した。(筆者注1)最も特徴的な部分は、政府の核問題R&Dの取組みは長期的にみて楽観的すぎるという批判的な内容である。

本特別委員会が、2050年までを見据えた英国の核エネルギー問題を取り上げた背景は言うまでもなく2011年3月11日のわが国の福島第一原発の悲惨な事故である。
すなわち、英国議会自身が2050年を目標とする長期的核研究・開発能力(R&D)につき、2011年4月28日を期限とする「意見具申(Call for Evidence)」の結果を受けて検討を開始したのである。議会は「政府」に対し、英国の核問題の将来を考え、この問題を正面からとりあげるべき立場から検討を開始したといえる。

なお、筆者自身最も興味を抱いた点は、この問題に関する特別委員会の審議・証言内容を議会自身が公開していることである。議会の委員会ビデオ・サイトで確認することが出来る。特に、2011年7月6日、上院科学・技術委員会においてわが国の原子力安全委員会副委員長である鈴木辰二郎氏が証人として発言している。その内容は逐一確認したわけではないが、前述した意見具申と重なる部分が多いと思われるのでここで引用した。
一方、わが国の原子力委員会、専門審査会や部会の速記録は従来から「原子力安全委員会・会議資料」サイトで公開されている。他方、衆議院や参議院の審議内容はインターネットで完全中継や録画が閲覧できると謳っているが、重くてほとんど利用できない。この点も今回の情報収集を通じて筆者が学んだ点である。

さらに、注目すべき点は議会の具申に対し、「証拠書面意見(Written Evidence)」として提出された証言者の範囲と多様性である。本文で詳しく述べるが、その内容の科学的に見た正当性評価等は別としても短時間にこれだけの関係者・関係機関等の意見を集約する関係者や議会の熱意と姿勢に筆者は強く心を打たれた。

今回のブログは、このようなEU加盟国において核問題と2050年に合わせた脱炭素問題に積極的に取り組んでいる国の例として英国議会や政府に関する最新情報を体系的かつ時系列にまとめて整理したいと考えてまとめた(わが国の今後のR&D能力問題も気になる)。また、国際原子力協会(WNA)がまとめている英国の原子力政策概観(“Nuclear Power in the United Kingdom”)は都度内容が更新されており併用されたい。

重要な点は、これら一連の政府や公的機関およびエネルギー供給企業(多国籍原子力企業)の述べていることが真実かどうかである。海外メディア特に英国メディアの記事例を最後に挙げた。英国における安全性問題についての議論が明らかに少ないと感じた。

最後に、わが国政府は2012年4月に発足させる「原子力安全庁」について、放射線被害を防ぐための基準を検討する「放射線審議会」を文部科学省から移すなど組織の骨格を固め、2012年の通常国会に必要な法案を提出する予定である。わが国のエネルギー政策と核の安全問題につき長期的戦略を考える上で英国の例を取上げた。


1. 英国の電力脱炭素化政策と原子力発電への取組みの基本方針と具体的な取組み内容の概観
わが国の原子力問題の研究機関が解説しているとおり、英国政府は2008年1月、新規原子力発電所の建設はしないとする従来の政策を転換し、「民間事業者が競争市場で原子力発電所を建設できるよう環境整備を行う」という新たな原子力政策を発表し、以降、新規原子力発電所建設促進のための様々な制度改革が進められている。
このような説明自体は間違いではないが、このような極めて重要な政策転換の説明としては不十分であろう。
ここでは2008年1月のエネルギー政策方針返還の具体的内容およびその後の政府や議会等関係機関の対応について概観する。

(1)2008年1月、ビジネス・企業・規制改革省(BERR)(筆者注2)は「核エネルギー白書(A White Paper on Nuclear Power :Meeting the Energy Challenge)」を公表し、その中で次の3点の新政策が明確に表明された。
①新たな原子力発電所は、英国の将来のエネルギー混合施策として低炭素資源とともに役割を負うべきである。
②エネルギー開発会社に対し、新たな原子力発電所に対する投資を認めることは公益にかなうことになる。
③政府は、これらの施策を容易にするため積極的な手段をとるべきである。

(2)2009年4月、社会資本計画委員会(Infrastructure Planning Commission:IPC)がまとめた「コンサルテーション結果報告書」を公表

(3)連立政権(Coalition Government)は、2010年6月にエネルギー供給会社は主要な計画につき通常の計画手続をとり、かつ公的助成金を受けることがない場合は新たな原子力発電所の建設が認められるというビジョンをまとめた計画を公表した。
2010年6月27日、政府は議会に対して行った報告「第1次エネルギー政策声明(Annual Energy Statement 2010:AES)」(筆者注3)において、核エネルギーは将来エネルギー混合施策として「再生可能エネルギー(Renewable Energy)」および「二酸化炭素回収・貯留 (CCS: Carbon Capture and Storage)」(筆者注4)とともに重要な役割を担うことを確認した。(エネルギー・気候変動省(Department of Energy & Climate Change:DECC)のサイト解説参照)

(4)DECCサイトで見る新原子力エネルギー政策への新たな前進に向けた諸活動(最新情報に更新されている)
DECCサイトの説明によると、政府は規制と投資家の計画リスクの削減に向け、具体的に次のような前向きな行動をとる旨明言している。
国家政策声明文書(National policy Statements):国家戦略レベルに合致する新施設の構築に向けた潜在的な可能性を調査する。同声明は、後述するとおり2011年7月19日に指定され、新たな原子力発電所の建設に適するとして8用地がリストアップされた。

EU法(筆者注5)に適合する健康リスク等から見た英国の核規制の正当化(Regulatory Justification)
EU法(EU指令)が求める健康侵害リスク査定を上回る新たな原子力開発のメリットの有無に関する明確化問題。2010年10月18日、DECC大臣はAP100(改良型加圧水型原子炉)やEPR(欧州型加圧水型炉)の構造・設計が正当化できるもので、かつ健康侵害リスク査定を上回るメリットがあるという決定を行った。

核廃棄物および廃棄費用にかかる保証合意(Wastes and Decommissioning Financing Arrangement)
新たな原子力発電所の運営会社が将来の発電所の廃棄および生産した廃棄物につき十分な基金を確保(put aside)することを保証させる。

④一般的発電所の構造・設計にかかる評価審査(Generic Design Assessment:GDA)と型式認可(筆者注6)
英国の新規原子力発電所建設に伴う事前設計認可は、包括的設計審査(Generic Design Assessment:GDA)と呼ばれ、現在2つの炉型が申請されている。(中略)・・今後、国家の重要な基盤施設建設計画について総合的な判断を下す独立機関IPC(Infrastructure Planning Commission)が「2008 年土地開発・社会資本整備計画法(Planning Act 2008)(筆者注7)に基づいて2009年10月に設置された)が設置者の申請に対して建設の許可を判断することになる。
なお、DECCサイトの解説では、福島第一原発事故を反映してまとめられた「Weightman report」の検討経緯を踏まえ、新たな原子炉設計は安全性および環境問題をクリアすべく問題に対処する形で纏められたと記されている。

DECCは、前向きな規制に向けた効率化に挑戦に取組むべく原子力監督・規制改革プログラム作成の任務を引き受けた。その一環として2011年4月に「原子力規制局(Office for Nuclear Regulation:ONR)」が稼動を開始した。また、DECCはグローバルな競争力を持った原子力のサプライチェーン管理グループ、原子炉提供事業者、運営会社の創設およびその支援を行うべく機能を始めた。また、英国内での新たな原子炉建設に向けた適切な技術を持った労働力を保証すべく役割を担った。
これらの目的は、2018年頃から最初の新たな原子力発電所を稼動させることである。

(5)DECCが新原子力発電所の建設、稼動に向けた指標スケジュール(Indicative timeline for new nuclear)公表
DECCは2011年11月14日、2010年8月に策定した指標スケジュール線表を見直し新線表を公表した。線表改定の要旨は別途まとめられている。

(6)英国の核開発問題に関する意見公募と査定評価報告書
ここでDECCサイトから英国の核開発の未来にかかる査定評価報告書の取りまとめ経緯を概観する。
・2007年5月、政府は「原子力エネルギーの開発の未来:英国の低炭素経済下における原子力エネルギーの役割(The future of nuclear power:the role of nuclear power in a low carbon UK economy )」を取りまとめ、意見公募を行った。この意見公募原案および付属資料(annexes)にかかる評価最終報告書「英国における将来の民間原子力エネルギーにかかるBERRの公的取組みおよび他の関係機関の査定評価(Evaluation of BERR’s engagement of the public and other interested parties in the future of civil nuclear power in the UK:Final report)」は政府が委託したダイアン・ウォーバートン(Diane Warburton)が責任者として取りまとめ、2009年10月に公表された。
なお、ダイアン・ウォーバートンは“Sciencewise-ERC:Sciencewise Expert Resource Centre for Public Dialog in Science and Innovation”のプログラムチームのメンバーでEvaluation Managerである。(筆者注8)

2.2011年年初以降の具体的な取組み内容
前述した内容と一部重複するが、ここで英国の標記問題への取組みを全体的にまとめたレポートがあるので抜粋する。そのレポートは独立行政法人 日本原子力研究開発機構「 原子力海外ニューストピックス 」2011年 第4号 須藤 收「英国の電力脱炭素化政策と原子力発電 」である。筆者が英国のエネルギー政策機関から得た情報にも合致する内容であり、専門的な解説部分も含め正確であると判断した。このレポートを予め読んでおかないと今回のブログの意義は半減する。(筆者注9)なお、下記の引用文のうち正式名やリンクについては筆者の責任で行った。

「 英国の保守党と自由党の連立政権は、電力の脱炭素化のためのエネルギー源として原子力を重要な柱の1つとする政策を変更せずに着々と新規原子力発電所建設に向けた環境づくりを進めている。 (筆者注10)
2011年7月18日、下院議会で6件のエネルギーに関する国家政策文書(NPS: National Policy Statements for Energy Infrastructure,EN-1からEN-6までの6つの文書1))が承認された。これ等の文書は、2050年までに温室効果ガスの排出量を1990年レベルの80%減まで削減するとともに将来のエネルギー供給保障を確立するための政策に関するもので、将来のエネルギー構成としては再生可能エネルギー、原子力、化石燃料(ただし将来は排出する炭酸ガスを回収、貯蔵するCCS(Carbon Capture and Storage)システムの導入が条件)の3つとし、各々のエネルギー関連施設の導入政策及び施設の建設に当たっての国の審査の技術規定を定めたものである。福島第一原子力発電所の事故後に、将来のエネルギー源として原子力の必要性を再確認し、新たな原子力発電所の建設促進を国家政策として議会で決定したのはイギリスが初めてである。

英国のエネルギー政策の基本は、エネルギー供給保障を確保しつつ、2050年までに温室効果ガス(GHG: Greenhouse Gases)の排出量を1990年レベルの80%減まで低減することで、この目標達成に当たっては国民の負担を最小になるような政策を選択するとしていて、原子力発電を選択する理由としては、低炭素排出で既に技術的に証明された発電技術であること、そして、燃料供給の安定性、燃料価格の安定性、資源の安定性などを挙げている。
(以下中略)

3)原子力発電所建設計画
(1)英国政府の取り組み
英国の電力市場の発電分野は、国営電力会社の分割民営化と市場の自由化によって海外企業による企業買収が進み、現在は、フランスの国営電力会社EDF、ドイツの大手電力会社のE.ON(ドイツ第1位)とRWE(ドイツ第2位)、スペインの大手電力会社イベルドローラ(Iberdrola)、国内企業のSSE(Scottish and Southern Energy)の大手5社に集約されている。これらの5社全てが原子力発電所の建設を計画している。
英国政府の原子力発電所建設への推進政策としては、建設サイトの事前審査、原子炉の型式承認に当たる包括的設計審査(GDA)により許認可期間の短縮を推し進めている。
原子炉の設計に関する審査は、AREVAのEPRとWestinghouseのAP1000についてのGDAが2011年6月に終了する予定であったが、2011年9月末に予定されていた原子力規制局(ONR )の局長Mike Weightmanの福島第一原子力発電所についての最終事故報告書の内容を審査に反映するため、審査が延びていたが、2011年10月11日に最終報告書「日本の大地震および津波:英国の原子力産業へ適用(Japanese earthquake and tsunami: Implications for the UK nuclear industry)」が提出された。
報告書の最終的結論は、英国の原子力発電所は基本的に安全であり、また新規原子力発電所建設に関するエネルギー国家政策文書NPSのEN-1及びEN-6を変更するような大きな問題はないとの結論であった。ただし、 2011年5月に報告された暫定報告書で指摘されたように非常用電源や洪水対策等に関する改善が必要であり、GDAにおいても反映する必要があるが2011年末までには審査は終了するとONRは発表している。(以下略す)」(筆者注11)
なお、12月1日、政府はマイク・ウェイトマン最終報告書で示された福島第一原発の調査結果を踏まえた問題指摘に対する政府の回答(Government response to Dr Mike Weightman's final report on 'Lessons Learnt' from Fukushima for UK Nuclear Industry)を公表した。

(2)政府のプルトニューム再利用やMOX燃料加工に関する新たな戦略内容
12月1日、英国政府(DECC)は「民間部門が保管するプルトニュームの長期的観点からの利用に関する意見公募結果を踏まえた政府の方針(Management of the UK’s Plutonium Stocks :A consultation response on the long-term management of UK-owned separated civil plutonium)」を公表した。この件についてはわが国のメディアも取り上げているが、内容は英国メディアの受け売りで正確性を欠く。別途、経緯も含め本ブログでまとめる。

3.2011年7月18日、下院議会(筆者注12)で討議、承認された「エネルギーに関する国家政策文書(NPS: National Policy Statements for Energy Infrastructure,EN-1からEN-6)」を受けた政府等の具体的動き
7月18日、下院議会は次の6つの「エネルギーに関する国家政策文書」を討議、承認した。また、7月19日クリス・ヒューン(Chris Huhne)エネルギー・気候変動相は「2008年土地開発・社会資本整備計画法(Planning Act 2008)(c.29)」(筆者注12)の下で“NPS”を指定した。

「エネルギーNPS」は、主要なエネルギー計画に関する提案につき独立機関「IPC」が査定の上決定した国家政策である。今回発表した「エネルギーNPS」は次の6つからなる。
①EN-1 包括的エネルギーNPS(Overarching Energy NPS)
②EN-2 化石燃料発電インフラストラクチャーャーNPS(Fossil Fuel Electricity Generating Infrastructure NPS)
③EN-3 再生可能エネルギー・インフラストラクチャーNPS(Renewable Energy Infrastrucure NPS)
④EN-4 ガス供給インフラストラクチャーおよびガス・石油パイプラインNPS(Gas Supply Infrastructure & Gas and Oil Pipelines NPS)
⑤EN-5 配電網インフラストラクチャーNPS(Electricity Network Infrastructure NPS)
⑥EN-6 原子力発電NPS(第Ⅰ巻)(Nuclear Power Generation NPS-Volume Ⅰ)
⑥EN-6原子力発電NPS(第Ⅱ巻)(Nuclear Power Generation NPS-Volume Ⅱ)

今回のNPSの指定に先立ち、エネルギーNPSは2回りの議会による精査(Parliamentary Scrutiny)および公開意見公募を受けた。過去の政府によるエネルギーNPS草案に関する第一次公開意見公募は2009年11月から2010年2月の間に行い、第二次公募は2010年10月18日から2011年1月24日の間に実施した。具体的な、公開意見への政府回答( The Government Response to Consultation on the Revised Draft National Policy Statements for Energy Infrastructure)議会への政府回答(The Government Response to Parliamentary Scrutiny of the Revised Draft National Policy Statements for Energy Infrastructure)インパクトアセスメント(Impact Assessment)についてそれぞれアクセスが可である。

4. 2011年11月21日委員会が公表した関係者からの提出された「証拠書面意見(Written Evidence)および議会宛メモ(Memorandum )」の概観(筆者注14)
(1) 「証拠書面意見(Written Evidence)および議会宛メモ(Memorandum )」
短期間に関係機関や個人等から多くの意見が寄せられた。出された意見は全部で70件である。提出者をカテゴリー分類すると概略次のグループに区分できる。
(1)大学教授等の原子力開発研究者
(2)大学等の調査研究機関
(3)エネルギー監督行政機関
(4)原子力エネルギー関連開発企業
(5)原子力エネルギー業界団体

(2)わが国の意見メモ
この中に(NRD58)として、わが国の原子力委員会鈴木辰二郎委員長代理が提出したものが含まれている。専門外のこともあり国内での意見陳述の内容もフォローしていないので正確なコメントは差し控えたいが、少なくともドイツの日本大使館で行ったスピーチ内容に関しては批判等が多い。
また、同委員会での証言記録の中で鈴木代理の証言は前記証拠書面意見ビデオのみで、書面記録(Committee publications)には同氏の7月6日の発言記録は含まれていない。

5.11月22日上院特別委員会「科学・技術委員会」のリリース文
概略次のような内容である。原文に忠実に仮訳しておく。
・政府は英国のR&D能力につき過度に楽観的過ぎ(too complacent)、かつ政府のアプローチの基本的変更が行われないと失われてしまう程度の専門的技術といえる。ただし、今回公表した報告書「第3次報告書(Science and Technology Committee - Third Report)」の見解は本委員会の結論の1つである。

・本委員会の主要な勧奨内容は次のとおりである。
①2025年以降を展望した原子力エネルギーに関する長期的戦略の策定、すなわちR&Dのロードマップを介したR&Dの支援、原子力に関する英国の現時点での強さについて商業ベースでの営利的な開発の支援の重要性。
この点は、英国が原子力エネルギーの選択肢の公開性を維持する上で重要なことである。
②R&Dロードマップの開発、適用および調査における脆弱的な分野の保護や能力面でのギャップを埋めるため、R&D活動の共同化の改善を補助すべく、産業界、アカデミック分野、政府のパートナーにより構成する「原子力R&D委員会(Nuclear R&D Board)」を設置する。

クレブス委員長(Committee Chairman Lord Krebs)のコメントは以下のとおり。
・原子力エネルギーのR&Dに関する専門家の多くが定年年齢に近づいている。英国の専門技術は過去の投資による研究により構築してきた。 最近の20年間の新規投資の欠如は、英国がこの専門技術を失うという危険性を意味する。その結果、我々自身が2050年までに安全かつ安全性を持ったエネルギー供給が保証できないといった危険性におかれることになる。
・政府は、将来原子力が電力供給において重要な役割を果たすと述べてきた。政府が、この取組が重要であるとするなら、R&Dとともに原子力産業分野、政府およぶ規制機関が依存できる若い専門家の存在が欠かせない。今、行動を起こさなければ、政府の原子力政策は真実性を欠くものというのが我々の意見である。

6.報告書の要旨
(1)序論
本委員会の取上げた問題点の背景は、将来において安全、手頃かつ低炭素の電力供給が可能となる混合エネルギー源の提供にかかる政府の取組み方である。政府は、原子力がこれらの目標を達成する上で重要な役割を果たすと述べた。英国の現在の原子力エネルギーは、英国全体の電力(10-12ギガワット:GW)の16%を供給している。未来の電力発電量需給のシナリオでは、現在と2050年の間で原子力発電依存度は15%から49%に上昇する(英国全体の電力使用量は12GWから38GWを想定)。2050年までに1990年のレベルまで地球温暖化(温室効果)ガス放出量を削減するという法的な拘束目標を達成するには、原子力発電量は20GW~38GWが必要となろう。

(2)委員会が勧奨を行った中心事項
我々の議論の目標は、原子力発電の議論や反対ではない。しかしながら、政府が言っている将来において英国のR&D能力が維持できるとする点に関しては反対の結論を下した。我々はR&Dのためには根本的な変革を行うべく行動開始を強く勧奨する。

(3)「原子力政策の立案、R&DのロードマップおよびR&D委員会」の設置提案として次の具体的項目をあげる。
①原子力エネルギーに関する長期的戦略の策定
政府によると英国の原子力の今後の供給は市場により決定されるであろう。他の決定要因となる証拠としては、電力市場改革が2025年までに必要なインセンティブを与えるにもかかわらず、より長期的な視点にたてば必要な原子力のR&Dにかかる能力と関係する専門技術の維持が困難であることを示す。
原子力業界、政府やエネルギー規制機関は核専門家の次世代要員の育成支援につき研究機関をあてにしているが、いったん失ったこれらのR&D能力の回復はきわめて困難である。さらに、長期戦略がなければ各企業は英国内での長期的な核投資に対するインセンティブを持たなくなろう。

②核の研究開発ロードマップの策定
核の長期戦略のためには、特に次のような英国のR&Dにおけるギャップを埋めるための施策を織り込んだ「R&Dロードマップ」を策定すべきである。
・照射後物質(post-irradiated materials)、深層核廃棄物処理の研究(deep geological disposal)、余剰プルトニウム(Plutonium stockpile)の廃棄処分、先進的核燃料リサイクルや再処理および第4世代原子炉技術(Generation Ⅳ technologies)(筆者注15)を実行できる施設である。
また、ロードマップは英国の国際協力にために信頼できるパートナーの設立、すなわち政府による第4世代国際フォーラム(Generation IV International Forum:GIF)への積極的参加体制や国立原子力研究所(National Nuclear Laboratory:NNL)(筆者注16)が取組んでいる国際的な重要なフェーズ3施設化を確保することにある。

③独立機関「原子力R&D委員会」創設の勧奨
④長期的に見た英国の原子力R&Dの資金源問題
⑤核R&D能力向上に向けたNDA、NNL等特定機関の責務

7.報告書の構成とその特徴的内容
第3次報告書自体は116頁にわたる大部なものである。その言わんとする内容はこれまで述べてきたとおりである。最後にその検討の範囲や問題意識を理解するため、目次のみであるが列記する。

(1)構成
要旨
第1章 序論
○検討範囲
・2050年およびその後の問題
・本レポートの構成
・確認事項

第2章 英国の原子力R&D-過去と現在
○歴史的背景
囲み記事1:原子炉技術
図1:英国の公的部門の核分裂(fission)のR&D
図2:英国のR&Dの要員
○英国の核部門
○調査部門の支出
表1:政府出資によるエネルギー研究と核分裂研究の比較
○英国における原子力R&Dおよび協力専門機関の強さ
図3:民間核分裂研究の鳥瞰
図4:核分裂研究の鳥瞰:技術準備面レベルからの概観た
○原子力R&Dの資金面および実行を担う組織
・民間事業者
・研究会議(Research Councils)
表2:核分裂に関する研究の機関の年次支出
・大学
・その他公的研究機関
・国際的な研究共同活動

第3章 2050年および以降のエネルギー配分における原子力の役割
○適正配分アプローチ
・エネルギー適正配分において核はどのような貢献が可能か?
囲み記事2:未来のエネルギーシナリオにおけるエネルギー混合において原子力はいかなる貢献が可能か
・異なる原子力技術の役割と核燃料のサイクル
囲み記事3:核燃料サイクル

第4章 エネルギー政策
○背景
・低炭素技術開発に力を入れた長期的計画
・原子力R&Dや関係専門機関による商業化の機会(ビジネスチャンス)
・新建設計画におけるサプライチェーンの開発
・商業的開発の強化に向けた枠組みの構築
・エネルギーの安全性問題

第5章 現在の英国のR&D能力や関連専門能力は原子力エネルギーの選択肢を明らかにしているか?
現在の取組み内容の適合性:2050年およびそれ以降の12-16GW発電能力に向けた既存の原子力施設や新たな発電施設計画はR&D能力や関係専門能力のニーズに合致しているか
○労働力の高齢化
○研究労力における追加的なギャップ
・照射物質研究の研究施設
・核廃棄に関する遺産および現存するシステム
○核燃料のリサイクルと再処理
・国際的な人材採用機関(Skills Provision )12/1⑧の役割

第6章 原子力エネルギーの選択肢を維持するために
○異なる原子力の未来のかかるR&D能力や関係専門能力をいかに維持するか
・R&D計画とそのロードマップ
・全英べースのR&Dロードマップの必要性
・全英べースのR&Dロードマップの呼びかけに対する政府の反応
・全英ロードマップの策定
・研究のための資金源
○国際的な研究プログラムへの参画
(以下、略す)

8.英国のエネルギーや環境専門家や団体の議会報告に対する評価や見方
明確な解説レポートは見出しえなかった。第3次報告の紹介記事を引用するにとどめる。
(1)EAEM「Government "lacks credibility" on nuclear policy, waste and safety」

(2)原子力推進派の「Nuclear Engineering International」の記事「UK's nuclear plans 'lack credibility' without greater R&D spend」
11月22日記事で、第3次報告の要旨を詳しく取上げているが、特にコメントはない。

9.英国メディアに見る原発問題の裏交渉の実態
わが国の業界新聞の記事で次のような記事を読んだ。
「英国の原子力新設計画が前進 年末までに暫定設計承認:
英国の原子力規制機関(ONR)は2011年10月26日、政府の原子力新設計画の一環として実施している包括的設計審査(GDA)の進捗状況について9月末までの四半期報告書を公表し、ウェスチングハウス(EH)社のAP100、および仏電力(EDF)とアレバ社の欧州加圧水型炉(EPR)の両方について、年末までに少なくとも暫定的な承認を与えられる見通しだと発表した。」
これだけをよめば、わが国の読者は政府とともに安全宣言が出されたと読むであろう。なお、ONRは正確にいうと「安全衛生庁(HSE)・原子力規制局」である。(筆者注17)

一方、わが国のWatchdogであるブログ「もうひとつの暮し」で次のような英国メディア記事(抄訳)を読んだ。
「イギリス政府と原子力企業の共謀:
ガーディアン紙の電子版は2011年6月30日、イギリス政府関係者と原子力企業とのメールのやりとりを暴露した。
ガーディアン紙が入手した内部メールはネットで公開されている。
日本をおそった地震と津波の2日後に、イギリス政府は原子力企業に「原発の安全性」をアピールするPR作戦の協力を迫るメールを送っていた。
イギリスの経済省とエネルギー省が、フランス電力公社(EDF)、アレバ、ウエスチングハウスといった多国籍原子力企業と秘密裏に連絡をとっていたのがわかる。政府のこうした働きかけは、福島第一原発によってイギリスでの新世代原子炉建設計画が延期されるのを危惧したため。(以下略す)」

10.わが国の原子力問題は今行動すべきとき(私的メモ)
本ブログの執筆にあたり、英国を中心とする関係機関の情報にあたった。しかし、いずれもその内容はまず核開発ありきという大前提に立ったもので、わが国が日々危機的状況とその対応に追われている現状からは当然承諾しがたい内容であった。
専門外の筆者はこれ以上の客観的かつ専門的な解析は困難と考え、機会を改めてドイツやスイスの問題を取り上げたいと考える。なお、わが国の核問題を国際的な視野から取上げているNGO「アクション・グリーン(Action Green):代表はアイリーン・美緒子・スミス」のHPサイトを紹介しておく。このNGOは国際化がすすんでおり、多くの支援者がいることもうかがえる。

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(筆者注1) 上院「科学・技術特別委員会」は、2011年5月25日に「技術革新の支援ツールとしての公的調達のあり方(Public procurement as a tool to stimulate innovation)」(要旨 )、また、7月19日に「国民の行動変化と国家の成功への道(Behavior Change)」(要旨 )を取りまとめ、公表している。

(筆者注2) 英国の産業界育成の中心的である貿易産業省(DTI)は1983年に設置され、2007年6月まで機能してきたが、翌7月17日に「ビジネス・企業・規制改革省(BERR:Department for Business, Enterprise & Regulatory Reform)」に改組され、さらに2009年6月5日に内閣改造に伴い「イノベーション・大学・技能省(DIUS:Department for Innovation, Universities and Skills)」とBERRが統合した「ビジネス・イノベーション・職能技能省(BIS:Department for Business,Innovation and Skills)」が創設されている(2011年5月18日本ブログ「英国政府は『2006年消費者信用法』の今後2年にわたる具体的施行の総合計画を公表」(筆者注1)参照)。

(筆者注3)エネルギー・気候変動省のサイトでは、政府としての「年次エネルギー声明」を過去2回公表しており、その内容やエネルギー価格や法案等への影響については同省サイトで確認できる。

(筆者注4) 駐日英国大使館サイト「二酸化炭素回収・貯留 (CCS: Carbon Capture and Storage) 」の解説サイト(英国は、2010年3月17日 二酸化炭素回収・貯留のための専門部署、エネルギー・気候変動省・二酸化炭素回収・貯留局(Office of Carbon Capture and Storage :OCCS)を設立した)参照。なお、同大使館サイトの「ダウンロード」サイトは、英国のエネルギー・気候変動政策に関係する文書の一部について、概要(executive summary)等の翻訳を行っている。

(筆者注5)ここでいう「European Law」とは、具体的には「EU指令2009/71」等を指す。6 年の歳月を要して成立したのが2009 年に公布された「原子力施設の原子力の安全性確保のための欧州共同体枠組みを制定する2009 年6 月25 日の「閣僚理事会指令(2009/71/Euratom)」である。この指令は、先に紹介した「96/29/Euratom 指令」が一般的な放射線防護の指令であるのに対し、原子力施設に特化して安全性を確保するための枠組みを決めたものである。特に記すべき点としては、各構成国に対し、安全性に関する国内管轄統制機関を確保し、これを、原子力推進や電力関係者などの外圧から独立したところに確保することを各構成国に義務付けていることである。(「EU における原子力の利用と安全性」から一部抜粋、リンクは筆者の責任で行った)
なお、EUのローファーム等におけるEU指令等をめぐる原子力規制に関する解説レポートのURLを一部引用しておく。
(1) 2009年6月25日 世界原子力協会(WNA)の報告レポート「EU原子力安全指令(European nuclear safety law)」
(2) 2009年3月 英国のローファームBurges Salmon解説レポート「Nuclear Law」
(3) Journal of Energy & Natural 146 Resources Law Vol 28 No 1 2010 
Ana Stanič著「EU Law on Nuclear Safety:EU指令2009/71」

(筆者注6) 英国の新規原子力発電所建設に伴う事前設計認可は、包括的設計審査(GDA:Generic Design Assessment)と呼ばれ、現在2つの炉型が申請されている。炉型はフランス・アレヴァ社製EPR(160万kW)と米ウェスチングハウス社製AP1000(110万kW)である。GDA対象炉型選定の初期評価は、2007年8月から開始され、米国原子力規制委員会(NRC)やフランス原子力安全機関(ASN)など諸外国の規制当局の知見も活用するとしている。今後、国家の重要な基盤施設建設計画について総合的な判断を下す独立機関IPC(IPC:Infrastructure Planning Commission、2008 Planning Actに基づいて2009年10月に設置された)が設置者の申請に対して建設の許可を判断することになる。(高度情報科学技術研究機構(RIST)の“ATOMICA” イギリスの原子力開発体制 (14-05-01-03)から抜粋)

また、「型式認可」では、同一形式の新型炉の建設計画が多数ある場合には、許認可に係る業務量の削減が見込める。英国では新規原子炉を対象に、「一般設計評価(GDA:Generic Design Assessment)」プロセスを策定し、EPR やAP1000 について評価を開始している。(2009年5月7日 経済産業省 総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会基本政策小委員会(第2回)配付資料5「原子力安全規制制度の国際動向(米国の例)」から引用。

(筆者注7)わが国では「Planning Act 2008」を100%といってよいほど「2008年計画法」と訳している。 しかしこれでは、何のための計画法なのかが理解できないし、またその適用に当たって解釈を行う際にミスリードが発生する。本ブログではこの誤りをさけるため「2008年土地開発・社会資本整備計画法」と意訳した。

(筆者注8) イノベーション・大学・技能省(DIUS)は、2009年5月29日、「サイエンスワイズ事業・科学・イノベーション国民対話専門家センター(Sciencewise-ERC)」の創設を公表した。“Sciencewise-ERC”は新興する科学技術による社会への影響に関する議論について、国民との対話をより促進するため、政策立案者に対して面談による情報共有等のサービスを提供する情報ハブである。複雑で論争になり得る科学的な問題について、大臣や官僚が国民の視点や関心を理解するため非常に重要な手段となり得る。
具体的活動は、①専門家空なるチームを整備して、省庁および政府関係機関等のサービスを提供するほか、②省庁および政府関係機関等による国民対話のためのプロジェクトに対して助成を行う。その他イベント・展示会やニュースレターの発行等も行う。(日本学術振興会(Japan Society for the Promotion of Science(JSPS)ロンドン支部の解説から抜粋)
なお、北海道大学も“Sciencewise-ERC”を「科学技術コミュニケーション 第9号( 2011)「科学と社会をつなぐ組織の社会的定着に向けて : 英国からの教訓」において取上げている。

(筆者注9)最近時の英国政府の原子力政策の解説としては、2011年11月9日の社団法人・日本原子力産業協会の記事「英国の原子力新設計画が前進 年末までに暫定設計承認」がある。ただし、ごく概要のみの解説である。

(筆者注10) 英国の原子力政策の基本方針の転換に関する解説として以下の点を補足しておく。わが国の高度情報科学技術研究機構「イギリスの原子力開発体制 (14-05-01-03)」から一部抜粋する。
「英国政府は2008年1月、新規原子力発電所の建設はしないとする従来の政策を転換し、「民間事業者が競争市場で原子力発電所を建設できるよう環境整備を行う」という新たな原子力政策を発表し、以降、新規原子力発電所建設促進のための様々な制度改革が進められている。」

(筆者注11)結論部分では本文で引用した以上の内容が含まれている。ここでは、その紹介は略す。

(筆者注12)英国の従来の原子力政策、DECC大臣の首席原子力施設検査官に対する報告要請、議会下院の審議等につき纏めたレポートとして国立国会図書館:外国の立法 (2011.5) 河島 太朗「特集 福島原発事故をめぐる動向 :【イギリス】 政府の対応と議会の審議」が詳しく参考になる。

(筆者注13) 「2008年土地開発・社会資本整備計画法(Planning Act 2008)」につき、駐日英国大使館サイトの解説から引用(関係データへのリンクは筆者が行った。なお、同サイトでは「環境とエネルギー」と題する一連の解説があり、体系的理解には参考になる)
「2008年11月26日に、英国「エネルギー法(Energy Act 2008)(c.32)」 が発効しました。この法律は、2007年のエネルギー白書に基づいて、二酸化炭素回収・貯留(CCS)などの新たな技術や再生可能エネルギー技術の発展・導入、洋上ガス貯留などエネルギー供給におけるニーズの変化、エネルギー市場の変化に対する国民および環境の保護、といった視点から、既存のエネルギー関連法案を更新するものです。 「2008年気候変動法(Climate Change Act 2008)(c.27)」「2008年土地開発・社会資本整備計画法(Planning Act 2008)(c.29)」とともに、英国の長期的なエネルギー・気候変動戦略の根幹をなします。」

特に、「2008年土地開発・社会資本整備計画法」に関しては英国のエネルギー政策を含め国家政策の立案、事業計画化等の全体の計画化に関わる法であり、具体的な立法目的や制度の概要をここで引用しておく(東京工業大学 屋井鉄雄「計画の法制度化に基づく行政裁量の適正化に向けて」から一部抜粋、ただし、原文がスライド原稿のため具体的に説明していない部分があり、引用データの正式名称やリンクは筆者が独自に行った)。

(1)新制度のねらい
1) 国家的重要インフラストラクチャ(Nationally Significant Infrastructure:NSI)を対象:
2)計画段階を3つに分離:
①政府による国家政策書(NPS)の策定段階(積極的な市民参加,議会の関与が今後の課題)
②事業主体(官または民)によるプロジェクト開発段階(Environmental Impact Assessment:EIA)実施,社会資本計画委員会(Infrastructure Planning Commission:IPC:Planning Act第1編で定義されている)との協議,計画案の申請),
③社会資本計画委員会による計画決定段階(市民参加の評価,公開審問,意義申立)
3)新制度の効果:
①単一の承認体制
②手続きの同時進行による効率化
③決定機関の独立性
④国家政策の明確化

(2) 新制度の概要
1)国家政策書(National Policy Statement: NPS)の作成
○国が策定・決定
○20年程度の長期を対象(概ね5年ごとの改定)
○NPSの内容や策定機会は分野ごとに異なる
(滑走路1本の場所決定から地域に拠らない方針決定まで)
○幅広く積極的な市民参加を採用
(特にNPSが事業位置を特定する場合は会合方式等採用)
2)事業計画の策定段階
○計画・事業主体は市民協議(PC:Planning consultation) を実施し,計画案を作り上げ,IPCに計画案を申請する(計画策定の途上でIPCと協議実施)
○小規模な事業計画は従来方式
3)事業計画の決定段階
独立第三者機関である社会資本計画委員会の設立(2009年10月1日)
○IPCが計画・事業主体の申請した計画案を審査・決定
(Public InquiryはIPCが決定手続きと並行して実施)
○IPCは常勤委員を抱え,省庁から独立した機関
○年間10件程度(交通,廃棄物施設,エネルギー施設など)
○IPC委員(任期8年,罷免なし)
(最高レベルの中立性,信頼性,客観性が要求される)

(筆者注14)英国議会の委員会の公式記録としては、審議記録や証拠書面意見(Written Evidence)、口頭証拠証言(Oral Evidence)、無修正口頭証拠証言(Uncorrected Oral Evidence)、修正証言(Corrected Evidence)や議会メモ(Memorandum)がある。

(筆者注15) 第4世代原子炉(Generation IV:GEN-IV)とは、「第1世代」(初期の原型炉的な炉)、「第2世代」(現行の軽水炉等)、「第3世代」(改良型軽水炉、東電柏崎刈羽のABWR等)に続き、米国エネルギー省(DOE)が2030年頃の実用化を目指して2000年に提唱した次世代の原子炉概念で、燃料の効率的利用、核廃棄物の最小化、核拡散抵抗性の確保等エネルギー源としての持続可能性、炉心損傷頻度の飛躍的低減や敷地外の緊急時対応の必要性排除など安全性/信頼性の向上、及び他のエネルギー源とも競合できる高い経済性の目標を満足するものである。

2)第4世代原子炉及び国際短期導入炉概念の選択経緯
このプログラムを国際的な枠組みで推進するため、米国、日本、英国、韓国、南アフリカ、フランス、カナダ、ブラジル、アルゼンチンの9か国が2001年7月に第4世代国際フォーラム(Generation IV International Forum:GIF)を結成し、その後スイスも参加して2002年9月には参加国は10か国となった。さらに2003年にはユーラトムが、2006年には中国とロシアがGIF憲章に署名している。憲章への署名は協力への関心を表明したものであり、実際の協力活動は枠組協定(Framework Agreement)への署名をもって行われる。2005年2月に、日本、米国、フランス、カナダ及び英国は、枠組協定(第4世代の原子力システムの研究及び開発に関する国際協力のための枠組協定)に署名し、締約国となった。その後、スイス、韓国及びユーラトムが加入、2007年12月に中国、2008年4月に南アフリカが加入書を寄託した。なお、英国は後に枠組協定から抜けている。枠組協定参加国は6つのGIF対象システムのうち、少なくとも1つの研究活動に参加する。
(高度情報科学技術研究機構(RIST)のATOMICA用語解説から抜粋)

(筆者注16) 原子力の利用・開発に不可欠な技術力を保存・利用・発展させるため、エネルギー・気候変動省(DECC:Department for Energy and Climate Change)の下に、国内外への技術提供事業に重点を置いた国立原子力研究所(NNL)が2009年に発足した。当所は、原子力廃止機関(NDA)、ウェスチングハウス社、英国健康安全省、防衛省、英国原子力公社(UKAEA)、燃料・材料研究や廃棄物処理研究を進める大学等が当面の主な顧客である(高度情報科学技術研究機構(RIST)のATOMICA用語解説から抜粋)。

(筆者注17)“ONR”については、本ブログでは詳しく説明しなかったが、英国における原子力政策と安全性問題を見る上で欠くことが出来ない規制機関である。原子力問題に関する「電子告示(Nuclear e-Bulletin)」については適時に出るので要注意である。


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