2011年12月25日日曜日

米国金融監督機関における金融機関等に対する迷惑セールス電話やFAXの規制強化の動き



(本ブログは2010年4月9日の内容をもとに最近時公表されたFTCのデータブックの内容により補筆したものである)

 わが国でも休日の朝にけたたましいセールス電話で起こされて不愉快に感じる人が多いと思うが、連邦取引委員会(FTC)および連邦通信委員会(FCC)は2006年4月に「1991年電話利用者の保護に関する法律(Telephone Consumer Protection Act of 1991:TCPA)」および「2005年ジャンク・ファクシミリ禁止法( Junk Fax Prevention Act of 2005:JFPA)」(筆者注1)に適用に関する規制強化に関するFCC規則の改正を行った。(筆者注2)

 その内容は、2003年6月に開始した「Do-Not-Call」の登録制度の範囲を銀行、保険会社、信用組合、貯蓄組合等まで広げるとともに、これらの金融機関からの委託に基づきマーケティング活動を行うテレマーケッター等の第三者にまで適用の範囲を広げるというものである。(筆者注3)

 これを受けて2005年11月に「消費者保護の法令遵守に係る連邦金融機関検査協議会・作業部会(Task Force)」は、TCPAに関する監督機関共通の検査手順書(Examination Procedures )および検査シート(Worksheet) (筆者注4)を承認した。通貨監督庁は、今後「検査ハンドブック」の改訂を行うが、それまでの間、監督官はこれら手順書等に基づき検査を行うこととなる。

 その後、連邦財務省通貨監督庁(OCC)は2007年6月14日に改訂検査手順書改訂検査シート公表した。

 「National Do Not Call Registry:NDNCR」(筆者注5)についてはFTCのサイトで詳しく説明されているが、これら2法の用語の定義・基本的な内容について概要を述べる。なお、2011年11月30日、FTCは「2011会計年度NDNCRデータブック」を発表した。本ブログではその最新情報についても概要を紹介する。


1.共通用語
(1)abandoned call:自動ダイアリングで電話での呼出し後、2秒以内に生のオペレーターにつながない電話呼出しを指す。電話口に出た人は無言電話としか理解できず迷惑セールス電話の典型とされる。消費者による“National Do Not Call Registry”の登録対象である。

(2) Automatic Telephone Dialing System and Autodialer:ランダムまたは順次電話番号を保存または制作する能力および当該電話番号に基づきダイアリングする能力を持った装置をいう。

(3)既存のビジネス取引関係(Established business relationship)::①電話がかかる18か月以前において個人・企業が電話セールス元企業から買物や取引を行っていた場合、②3か月以内に商品やサービス内容について質問や適用に関する行為が行われていた場合、③当事者間であらかじめそれらの関係を遮断していなかった場合をいう。
 これらの場合、受信する個人は製品・サービスに関し、関係を持つと合理的に判断される。

(4)本人の同意なき電話による勧誘(Telephone solicitation):消費者に伝達する買物、レンタル、財産や商品投資、サービスを勧める目的の電話による手引き。Telephone solicitationは本人の同意がある場合、発信者が受信者と一定のビジネス関係がある場合ならびに免税NPOに代って電話する場合はTCPAは適用除外となる。

2.TCPAの一般的要求要件
(1)FCCの定める規則のもとにおいて、売り手やテレマ-ケッターは次の内容を遵守しなくてはならない。
 ①文書の手順書の作成、②オペレーター等担当者の研修、③接触対象から除くべき電話番号のリストの維持、④架電に先立つ3か月前以内に作成された全米do-not-call 登録の バージョンの使用義務、⑤販売レンタル、リース、購入、等にあたり、いかなる方法においても諸規則に準じない手続きは行わない。

(2)企業はテレマーケティングの対象から除くべき要求が出されている既存の取引先顧客名リストの維持を行うこと。

(3)すべてのテレマーテッターは、abandoned callを用いるか自動ダイアリングを利用する場合は、消費者に優しい方法によらねばならない。すなわち15秒以内または4回呼び出しに受け手が電話に出ない場合は遮断しなくてはならない。

(4) すべてのテレマーテッターは、「caller ID information」の送信が義務付けられる。

(5)希望されないFAXの送信は、電話のように既存の取引関係による適用除外はないので留意する。すなわち受け手の同意の記録が必要である。

3.金融検査に検査おけるTCPAに関する検査目的
 金融機関が適正なポリシー、手続き、その他の内部統制が確立されていることのチェックを行う。

4.検査手順(筆者注4)
(1)初期手続き
(ⅰ)検査対象金融機関が直接または外部の第三者を利用したテレマーケティングを行っていない場合はTCPAに関する検査は終了する。
(ⅱ)対象金融機関において、TCPAに準拠した内部統制が適切に行われているか否かについて検査する。具体的には次の項目等が対象となる。
①TCPAについて金融機関においての責任者を含む組織図の作成。
②TCPAの遵守にかかる計画、評価、実践についての手続きのフローチャートの作成。
③受信拒否登録者の電話番号の5年間のメンテナンスの有無等。
④NDNCRに関する行内規則等についての研修内容。
⑤受信拒否者名の登録手順。
⑥NDNCRのデータべースへのアクセス手順。
⑦行内のチェックリスト、作業表、その他関連文書の内容。

(2)検証手続きおよび(3)総括については省略する。

5.FTCの「2011会計年度NDNCRデータブック」の概要
 本データブックが毎年度公表された始めて3年目を迎える。
(1)主なデータ項目
①同制度が開始された2003年度以降有効なDNC(Do Not Call)登録件数およびスパム・テレフォンに関する消費者からの苦情件数
②月次苦情件数と苦情タイプ別に集計した数値
③全50州およびコロンビア特別区の登録、苦情の数値
④会計年度別のマーケテイング業者等の登録データへのアクセス件数
⑤州別およびエリアコード別の登録件数と苦情件数をまとめた別表

(2)2011会計年度ブックの特徴とFTCの基本姿勢
 2011年9月30日現在の有効登録件数は2億971万2,924件で1年前比で約4%増加した。また、同日までの苦情件数は1年前の163万3,819件から227万2,662件と39.1%増加した。このように毎月の苦情件数の増加に加え、とりわけ予め録音した音声による自動架電(いわゆる“robocalls”)に関するものやテレマーケッターに電話自体を止めさせるべきとする強い要望件数等が含まれる。
 この“robocalls”は2009年9月1日以降、違法とされており、これらの見掛け倒し(deceptive)、誤解を招く(misleading)、その他の違法な“robocalls”行為を繰り返す事業者に対して、FTCは自身の「テレマーケティング販売規則(Telemarketing Sales Rule 16 CFR Part 310)」に基づき断固たる行動をとる。


(筆者注1)“TCPA”も限定的ではあるが、すでに取引関係(EBR)があるなど例外を除いて 企業や住民に対し迷惑FAXの送信を禁止していた。その後、2003年にFCCは既取引先であっても事前に受手が書面による同意がないかぎり禁止する旨に規則を強化した。さらに2005年12月にFCCは「2005 年ジャンク・ファクシミリ禁止法(Junk Fax Prevention Act of 2005)」に則した規則改正を行い、その実施時期は2006年1月とした。(米国ダイレクトマーケテイング協会の解説から一部引用)

(筆者注2)FTCやFCCの資料でみるとおり米国のテレマーケテイングのほとんどは自動式コールでわが国のような人海戦術でない。それがゆえに、スパム的な大量の呼び出しが昼夜を問わず行われ、社会問題化したことから、その規制策として「National Do Not Call Registry 」制度が出来た点を念頭に入れておく必要がある。

(筆者注3)FTCは、テレマーケティング販売規則(Telemarketing Sales Rule)関連規制法(Telemarketing and Consumer Fraud and Abuse Prevention Act)および取扱事業者に対する遵守ガイダンス(FTC消費者保護局作成)を用意している。なお、連邦規制機関であるFTCによる告訴に基づく罰金額は1違反行為につき最高16,000ドル(約121万6,000円)である。

(筆者注4)検査手順および検査シートのURLは次の通り。
http://www.occ.treas.gov/ftp/bulletin/2006-15a.pdf
http://www.occ.treas.gov/ftp/bulletin/2006-15b.pdf

(筆者注5) NDNCRの登録手続き等については次のURL(Q&A)に詳しい。
http://www.ftc.gov/bcp/conline/pubs/alerts/dncalrt.htm

〔OCCのBulletin2006-15のURL〕
http://www.occ.treas.gov/ftp/bulletin/2006-15.doc

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