2013年4月17日水曜日

フィンランドの国を挙げての世界的な産業ビジネス戦略の中身を解析する








筆者の手元には毎日、欧米やアジア等多くの国から政府、議会(議員)、各種産業団体、シンクタンク、NPO、大学等が発するメールが届く。
 時間の関係でそれらの内容を逐一読むわけには行かないが、注目に値すると思われるテーマについては丁寧に解析するように努めている。

 今回紹介するフィンランド政府からのニュースを詳細に解析し、また関連するとサイトを注意深く読むと、軽く読み飛ばすにはもったいないと思える内容である。すなわち、人口約550万に満たない小国がこれだけの経済力(GDPは49,350万ドル)と教育水準が維持できている本当の理由が垣間見えたと思えたからである。

 わが国はなおGNPが世界第3位といっているが、中長期に見た場合、果たしていつまで過去の貯蓄を食いつないでいけるのであろうか。国際ビジネスだけでなく、教育を含めたわが国の更なる喫緊の検討課題を考えるヒントが見える気がした。

 また、わが国のメディアや行政機関だけでなく研究機関を含めEUの小国の解析は極めて貧弱といえる。筆者なりに補足しながらフィンランドの初歩的研究を試みる。

1.フィンランド政府の大型中国ビジネス訪問団に関するリリースの概要仮訳(中国語版)

欧州外交・外国貿易大臣であるアレクサンデル・ストゥブ相(Alexander Stubb, Minister for European Affairs and Foreign Trade)は、フィンランドの会社の輸出と国際化の一層の促進を図る狙いで、中国への大規模チームによる訪問旅行を4月10~12日に実施する。

この旅行の間、代表団は江蘇省・上海や四川省・成都を訪問する。江蘇省・上海近郊では約200のフィンランドの会社が、また江蘇省では約40の会社が営業活動を行っている。急速に発展している成都は、特にITテクノロジー・セクターのための面白い市場エリアである。フィンランドのビジネス代表団(フィンランドの全国的な貿易および国際的な投資開発推進団体である“Finpro” (筆者注1)によって集合された)は、全部で31社からなる。これらは、クリーン化技術、電気通信、IT技術、造船、金融、都市計画、観光旅行や幸福増進部門等を代表する企業である。

中国は、アジアにおけるフィンランド最大の取引相手国である。わが国と間の貿易総額は、2012年には 72億ユーロ(約8,928億円)(筆者注2)に達した。今回の訪問目的は、フィンランドの会社の商機を進めることとともに、高度かつクリーンな技術を持つ国としてフィンランドのイメージを強化することにある。

上海を訪問するとき、ストゥブ大臣は中国の各地方自治体代表に会い、ビジネス・フォーラムに参加し、また上海の復旦大学(Fudan University)で講演を行う。江蘇では、大臣はコーン・エレベーター・エスカレーター設備会社(KONE Corporation)の工場開設式に参加予定である。成都の旅程では、ハイテク工業団地地域(ChengDu Hi-Tech Industrial Development Zone)、ビジネス・フォーラムや市当局との会議への参加訪問を含む。

ストゥブ大臣は、上海、江蘇および成都を訪問する前の4月8~9日に、北京でのファンランド共和国大統領サウリ・ニニースト(Sauli Niinistö)の公式訪問に参加する。

訪問に参加している会社名は、以下の通りである。(筆者注3)

ABB Oy(筆者注4)、AFT- Aikawa Fiber Technologies OyCaprice Ltd、Capricode OyDigiEcoCity LtdEnoro OyFIAC Invest Ltd、Finnish Onnovative Architecture and Consulting LtdFinnair Plc/Finnair Cargo OyFinnish Tourist BoardFluidHouse Oy、GreenStream Network Oyj、Oy HacklinLtd Honkarakenne OyjJyväskylä Regional Development Co.Jykes Ltd OyOy Lunawood LtdMachine Technology Center Turku LtdMPS China Management ConsultingNeste Oil CorporationNokia Siemens NetworksNormet Trading LtdPohjola Bank PlcRaute(Shanghai) Machinery Co.LtdRuntech Systems OySanta’s HotelsTakoma OyjTWS Shipping Line Ltd OyShipbuildingVaconPlc、Vahterus Oy ja Valkee Oy



2.フィンランドのグローバル戦略の中身

(1)経営者団体の取り組み

ここでは、上記以外で今回のブログ原稿を執筆時に気がついた点をまとめてあげておく。

フィンランド産業会議(Elinkeinoelämän keskusliitto :EK)のサイトを見よう。ホームページ画面の左側を見ると、フィンランド産業界の主要取組み課題の3本柱が、(1)経済と貿易問題、(2)エネルギーと気候変動問題、(3)教育と改革能力問題が挙げられている。筆者はこのうち(3)の内容を詳しくチェックしてみた。

特に「全国教育委員会」のうち“PISA - Programme for International Students Assessment”、“Study in Finland”等 の内容は十分に研究に値するものといえよう。

②今回は時間の関係で詳しくは論じないが、機会を見て改めて解析したい。

(2)際立つ対中国戦略

前述したとおり、官民国を挙げての取り組みの活動が見られる。

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(筆者注1)“Finpro”の概要を、同サイトの仮訳文を筆者なりに補足のうえまとめる。

・Finproは、フィンランドの全国的な貿易、企業の国際化および開発支援団体である。Finproはクライアントの国際的な背長や競争的な概念や申し出をもって適時に正しい市場内で彼らが成功することを支援する。Finproネットワークは、地域内とグローバルの両面でクライアントやパートナーの利益を支援する。これら企業のための我々の任務と同様に、Finproは“Cleantech Finland”“Future Learning Finland”などいくつかの国際的なプロジェクトを運営している。

・Finproは1919年にフィンランドの複数の会社により設立され、現在、フィンランド産業会議(フィンランド産業会議(Elinkeinoelämän keskusliitto :EK)は、フィンランドの最も主要な事業者団体で、その主要な任務はフィンランドで営業している会社ための国際的に魅力的で競争的ビジネス環境をつくることである会社法務、税金問題、貿易政策、革新的な環境つくり、中小企業の企業家精神や気候変動政策等のテーマに関し対話と協力に携わっている。加盟協会は27、全ビジネス界横断的な加盟会社数は16,000社、フィンランドのGDPの70%以上、また輸出の95%以上を稼ぎ、従業員数は95万人である。160人以上の各分野の専門家を擁しており、ヘルシンキが本部でブルュッセル等4つの地域事務所を設置している。欧州最大の経営者団体である「欧州経営者連盟(Business Europe)」に属すとともに、OECDやILOでも積極的な活動を行っている))、「フィンランド企業連合(Yrittäjät:会員116,000社以上)」、「フィンランド技術産業連合(Teknologiateollisuus:従業員数29万人)」等、約550がメンバー団体、会社である。

Finproは370人の各分野の専門家を擁し、また世界50カ国に69の事務所を設けている。



(筆者注2)日本の2012年の対中国の総貿易額は総額3,336億6,442万ドル(約32兆352億円)(前年比3.3%減)である。(2013年2月19日 ジェトロ発表)

(筆者注3)各企業名はあえて和訳していないが、企業等のサイトにリンクさせて事業内容が一目でわかるようにした。

(筆者注4)フィンランド語で株式会社は osakeyhtiö で、“Oy”と略す。公開有限責任会社は“Oyj”である。

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2013年4月16日火曜日

ドイツBNETZAが電力ネットワーク開発計画枠組案(NEP),2014年オフショアー・ネットワーク計画案(O-NEP)につき意見公募





 わが国の原発問題の行方は極めて不透明な展開が続く中、脱原発を政府の政策目標として掲げ、世界中から注目を集めるドイツの標記問題につき、広く国民の「信を問う」行動が始まった。


 ドイツの脱原発の具体的な取り組みについては、わが国では今一正確な情報が少なく、また情緒的な指摘も多いことから、今回のブログは連邦ネットワーク庁(Bundesnetzagentur:BENETZA)が4月5日にリリースした資料の具体的な内容につき法的側面を中心に斬新的なエネルギー政策のポイントを紹介する。

 また、今回のレポートは10年、20年という長期スパンで取り組んでいるドイツの現状を踏まえ、中長期的なエネルギー政策の中核をなすわが国として検討すべき課題を整理する意味で、専門外ではあるが参考情報としてまとめてみた。法的整備も含め、論ずべき点が多い課題であるが、エネルギー政策は当該国を取り巻く自然環境を100%配意したものでなければならないといえる。
 なお、ドイツの代替エネルギーの取組みに関しては、わが国において紹介している資料・データにつき限られた範囲であるが併せて紹介する。本文で引用する国会図書館のレポートも限定した法律のみ言及しており、特に法的側面から関係法につき広く解説したものが少ないだけに今回の作業の意義はあると感じた。

1.BENETZAのコンサルテーション・リリースおよび諮問文の概要

 (1)連邦ネットワーク庁は4月5日、「電力ネットワーク開発計画枠組案(Netzentwicklungsplan Strom:NEP)」および2014年に新規導入した「オフショアー・ネットワーク開発計画(Offshore-Netzentwicklungsplan:O-NEP)」のシナリオの枠組みを公表した。ドイツ国民は、2013年5月17日を期限として態度を決めることになる。

 NEPおよびO-NEPの年度ごとの準備内容は法律で求められている。これは、ネットワークの拡大に伴い条件が変更されたときに適切な対応をとりうるよう確実性を保証するものである。

 これら手順は2024年、2034年にかけてのネットワークの拡大に必要を決する上で推定されるものである。4つの送電系統運用者(Übertragungsnetzbetreiber :ÜNB,英語: Transmission System Operato:TSO)(筆者注1)の下での本シナリオは、再生可能エネルギーを組込む能力の可能な開発の範囲、従来型の発電所および今後10年から20年先の電力消費の進展等に関する検討結果に基づき、3つのシナリオをまとめたものである。

 連邦のエネルギー強化に関する法律である、(1) 「送電線網の強化に関する法律(Gesetz zum Ausbau von Energieleitungen:EnLAG)」(2009年8月31日施行)、(2) 「電気およびガスの供給に関する法律(エネルギー産業法)( Gesetz über die Elektrizitäts- und Gasversorgung (Energiewirtschaftsgesetz - EnWG) 」(2005年7月7日 施行)、(3) 「グリッド拡張加速ネットワーク送電に関する法律(Netzausbaubeschleunigungsgesetz Übertragungsnetz:NABEG)」および(4) 「環境影響評価に関する法律(Gesetz über die Umweltverträglichkeitsprüfung :UVPG))」により、4つの送電系統運用者(ÜNB)は、今後本シナリオに基づく「ネットワーク開発計画と環境調査(Netzentwicklungsplan und Umweltprüfung)」策定が義務付けられる。

 この第3番目のシナリオ枠組みの基本デザインは2013年3月に承認されたもので、2014年3月3日に承認予定のNEPの基本となるものである。NEO/O-NEPの全文はサイトでリンク可である。

 国民は同案につき書面による承認またはボンで開催される研究会に参加が可能である。本シナリオ枠組みは送電ネットワークの拡大の必要性を決する手続きの初めとなるものである。この手続きの参加者はすでにエネルギー政策の好転に対する寄与者である。

(2)法的な枠組み

 基本となる法律を個別に説明する。

①「送電線網の強化に関する法律(Gesetz zum Ausbau von Energieleitungen:EnLAG)」

 同法は、エネルギー・経済面からのアセスメントの第一ステップとして2009年に施行され、すでに実施されている。

②「電気およびガスの供給に関する法律(エネルギー産業法)( EnWG) 」

 本シナリオ案に先行する形で送電系統運用者により送電網の拡張の必要性の決定は国民に問われ、最終的に連邦ネットワーク庁により承認された。この承認されたシナリオ枠組みに基づき、既存のオフショア・グリッド計画やコミュニテイ全体にわたる開発計画が考慮された。

 10年間の「汎欧州10年間(2020年)までのグリッド拡張ネットワークおよび地域投資計画(The Ten-Year Network Development Plan and Regional Investment Plans:TYNDP)」(筆者注2)が同法12b条に基づきÜNBにより加盟国共通の国家開発計画として策定された。同計画は広くインターネットを介して諮問に付され、最終的にネットワーク庁の公的関係者の意見具申に付された。
 これらの検討は、ネットワーク庁は連邦ネットワーク開発計画につき少なくとも3年ごとの同法12c条に基づき提案された専門的な観点から、ネットワークの拡大に伴う環境影響評価義義務付けられる。そのレポートはUVPGの要求条件に合致するものでなければならない。

 ネットワーク開発計画は、同法12e条に基づきネットワーク庁の連邦としての要求条件にかかる青写真として連邦政府により確認された。この段階でネットワーク庁は、越境プロジェクトやオフショア風力発電会社との電線ケーブル問題を強調した。

③「グリッド拡張加速ネットワーク送電に関する法律(NABEG)」

 連邦の要求計画に含まれるこれらのプロジェクトに関し、ネットワーク庁はÜNBに対し連邦技術計画の下での適用を許可した。連邦取引計画(Bundesfachplanung)は地域計画手順に置き換わるもので、多くが高圧送電線(Höchstspannungsleitungen)やそれに関するものである。NABEGの4条~17条の文脈上、500~1000メーターの深さの推論を持っ経路の回廊地帯を決定しなければならない。その手順は同法17条により連邦官報が定めるネットワークを包含される。

 連邦取引計画の一部として、同法5条2項に定めるとおり、環境影響評価に関する法律の定める戦略的環境評価を行う。これはネットワーク拡大に伴う受け入れがたい反対効果がないことを保証するものである。この計画手順は、一般的に原則責任を有する州によりリードされるが、同法は政令またはネットワーク庁が委譲するプロジェクトのみ連邦政府が行う可能性を認める。

④「環境影響評価に関する法律(UVPG))」

 環境評価報告は戦略的環境評価の結果であり、UVPG14a条の求めに合致するものでなければならない。

(3)エネルギー供給のシナリオ策定から最終的なルート確定にいたる手順

 次のとおりの行程が前提とされている。すなわち、①シナリオ策定、②ネットワーク開発計画策定および環境評価、③連邦政府の要求計画策定、④ネットワーク網の回廊の決定、⑤最終的ネットワーク・パス

 ここではネットワーク庁の説明内容に即して概観する。

(A)エネルギー供給のシナリオ

 何人も今後10年後のドイツや欧州の送電線網に求められる正確な要件は知りえない。いうまでもなく、現時点で可能となる新しい電力網につき拡張する手段については早い時期から先導的に取り組んできた。今我々は恒久的な供給体制を構築すべく検討を行わねばならない。

 EnWGはÜNBに対し、毎年、エネルギー供給の将来につき考える責務につき次のような主な疑問を投げかけてきた。

・電力消費量は減少するか、増加するか。

・様々な再生可能エネルギーはより早く安定的に進むのか、ゆっくり進むのか。

・石炭、ガス、水力等、個々のエネルギー源を取り込めるのか。

・どのように電力は近隣欧州諸国と共有できるのか。

 これらへの回答として例えばネットワーク庁のエネルギー工場一覧(Kraftwerksliste der Bundesnetzagentur) は少なくとも1000キロワット以上のものを一覧化し、またルクセンブルグ、フランス、スイスやオーストリアから持ち込まれる支援電力につても一覧化している。その他の専門研究レポートや法的要件がまとめられている。これらのデータはシナリオ枠組みやÜNBの運用に含まれ、今後10年間にかかる少なくとも3つのシナリオが含まれる。

 適切な協議プロセスを通じ、すでに承認された各シナリオにかかる開発計画や環境影響評価は次のURLで確認できる

2013年現行ネットワーク開発計画(Netzentwicklungsplan Strom 2013)

2012年ネットワーク開発計画および現行環境報告(Netzentwicklungsplan Strom 2012 und Umweltbericht 2012)

2014年ネットワーク開発計画のシナリオ(Szenariorahmen für den Netzentwicklungsplan Strom 2014)

内容は略す。

2013年ネットワーク開発計画のシナリオ枠組み(Szenariorahmen für den Netzentwicklungsplan Strom 2013)

2012年ネットワーク開発計画のシナリオ枠組み( Szenariorahmen für den Netzentwicklungsplan Strom 2012)


(B) ネットワーク開発計画策定および環境評価、

 4つのÜNBは、今後来るべきネットワーク拡大のニーズの計算上、承認されたシナリオの枠組みを使用しなくてはならない。シナリオは供給能力、エネルギー需要、エネルギー工場といった空間分布(Versorgungskapazitäten)にかかるその他の推定を考慮している。これらは、例えば、地方で行われる風力(Windenergie)、太陽電池(Photovoltaik)などの電力をさす。

 これらのシナリオは、「新しいエネルギーのための新しいネットワーク(Neue Netze für neue Energien)」ポータルで共通的に要約されている。
 ÜNBは必要な手段のためいわゆるNOVA原則(Netz-Optimierung vor Verstärkung vor Ausbau):拡大・補強前のネットワークの最適化)に従い、決定する。ÜNBはネットワーク開発計画案を公的な議論の場に提供・諮問する。

(C)環境評価結果の考慮

 ネットワークの拡大にかかるすべての決定において環境評価はすべての初期段階に含まれる。EnWGは、いわゆる「戦略的環境評価(Strategische Umweltprüfung (SUP)」を定める。SUPにおいてネットワーク庁は、架空送電線(Freileitung)や地下ケーブル(Erdkabel, Erdverkabelung)の建設において、人間、動物や環境に対する影響につき必要なプロジェクトを検証する。多くの場合、この早い段階においてどのラインが運輸されるかが知られていない。それゆえ、SUPに関する影響評価に付き特別なコメントは少ない。しかし、あなた方は克服できない障害がゆえにラインの拡張場所をすでに見出だすであろう。SUPの結果は環境報告で要約される。

(D)2014年シナリオ枠組みに関する研究会

 4月3日、国民は「電力ネットワーク開発計画枠組案(NEP)」および「オフショアー・ネットワーク開発計画(O-NEP)」に関する討議を通じ、研究会に参加できる。申込先はネットワーク庁宛である。

2.わが国で公表されているドイツの代替エネルギーの取組み、法制整備に関するレポート

 注記したもののほかに、以下にあげるものが参考になると思われる。

(1) ドレスデン情報ファイル(更新:2013.03.12) 「ドイツのエネルギー政策,新時代へ: 新・エネルギー政策の概要」

(2) 2012年5月 日本貿易振興機構(ジェトロ) 「ドイツの電力・エネルギー事情とビジネスチャンス」

(3) アレバ・ドイツ社・研究&イノヴェーション事業本部長 シュテファン・ニーセン(Stefan Nießen) 「ドイツにおける新エネルギー政策:その成果と課題」2012年4月 JAIF(日本原子力産業協会)講演資料

○アレバ:フランスに本社を置く世界最大の原子力産業複合企業で、傘下に複数の原子力産業企業を有する。フランス共和国政府の原子力政策の転換によって誕生した持株会社である。


○フランスの原子力開発は、1945年のフランス原子力庁(CEA)の設立から始まる。当初から軍事利用と民生利用が視野にあり、1973年の第一次石油危機以降は民生利用が急展開された。CEAは2000年に4部門(国防、原子力、技術利用、基礎研究)に分割再編成された。2001年に民間企業フラマトムはドイツのシーメンス社の原子力部門を買収し、同年フラマトムとコジェマが合併し政府の持株会社アレバ(AREVA SA)が誕生した。当アレバ社は原子力部門(Areva NP)、原子燃料部門(Areva NC)及び送電設備部門(Areva T&D)を包含する。(高度情報科学技術研究機構(RIST)の解説)

(4) 平成21年4月 「新エネルギー大量導入時の系統安定化に向けた取り組みに関する欧州現地調査概要」資料3参照


(筆者注1) 国立国会図書館 渡辺富久子(外国の立法 252号(2012年6月) 「ドイツの2012 年再生可能エネルギー法」から一部抜粋、なお本文中に関係図解がある。

「ドイツの再生可能エネルギー法の中核は、再生可能エネルギーによる電力の固定価格買取制度にある。この制度は、系統運用者(Netzbetreiber)に対し、再生可能エネルギーによる発電施設(以下「施設」)を優先的に送配電網(以下「系統」)に連系し(第5 条)、その電力を買い取って、送電及び配電すること(第8 条)、並びに施設管理運営者(Anlagenbetreiber)に法律で定められた補償金額を支払うこと(第16 条)を義務付けるものである。系統運用者は、さらに上位の送電系統運用者(Übertragungsnetzbetreiber)にこの電力を転売し(第34 条)、送電系統運用者は、系統運用者が施設管理運営者に補償した金額を系統運用者に補償する義務を負う(第35 条)。送電系統運用者は、再生可能エネルギーによる電力を電力市場で差別なく販売しなければならず、補償のために必要な支出と再生可能エネルギーによる電力を販売して得た収入との差額(以下「賦課金」)を、最終消費者に電力を供給する電力供給事業者(Elektrizitätsversorgungsunternehmen)対して要求することができる(第37 条)」

(筆者注2) 「 汎欧州10年間(2020年)までのグリッド拡張ネットワークおよび地域投資計画」の概要は次のとおりである。ジェトロのユーロトレンド 2011年2月号「EUのエネルギー新戦略の概要」から一部抜粋。

「2010 年11 月10 日に欧州委員会が発表したエネルギー新戦略「Energy 2020」は、今後10 年間のEU のエネルギー計画の端緒となるもので、2020 年のエネルギー・気候変動の目標達成を軸に策定されている。EU の近年のエネルギー政策は、「競争力」「持続可能性」「供給安全保障」という相互補完的な3 つの要素を柱としており、特に2007 年末に採択された「エネルギー・気候変動政策パッケージ」では、下記のいわゆる「3 つの20(20 20 20)」の目標が掲げられた。

・温室効果ガス排出削減を2020 年に1990 年比で20%削減する(条件が揃えば30% に引き上げる)。

・最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合を20%に引き上げる。

・エネルギー効率を20%引き上げる。

 また、2012年のジェトロ・レポート「ENTSO-Eが今後 10 年の送電設備増強計画ドラフト版を発表」を一部抜粋する。

「欧州送電系統運用者ネットワーク(ENTSO-E)は2012年3月1日、今後10年間の欧州域内の送電設備増強計画(TYNDP:Ten-Year Network Development Plan)のドラフト版を公表した。ENTSO-Eによれば、今後10年間に欧州域内において合計5万1,500kmの送電線の新設あるいは改修が必要で、約1,040億ユーロ(約11兆円)の投資が必要であるという。1,040億ユーロのうち、約301億ユーロが2022年までの原子力完全廃止を決めたドイツ、約190億ユーロが北海に大規模洋上ウィンドファームの建設を計画する英国における設備増強に関する投資で、両国で全体の半分程度を占めている。TYNDPは、今回発表されたドラフト版に対する意見募集(4月26日締切)を経て、今夏にも正式版として公表される予定である。」

 さらに風力発電に関するEUの取組みにつき詳しく解説したものとしては、欧州風力エネルギー協会「風力発電の系統連系~欧州の最前線~(Powering Europe:wind energy and the electricity grid)」(全128頁)があげられる。


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オランダで急速に広がるウィルスや寄生虫を媒介するヒトスジシマカ問題





中国の「鳥インフルエンザH7N9型」問題が騒がれる一方で、筆者の手元にオランダの主要都市で急速に拡大する東南アジアで収穫した竹(bamboo plant)や車のタイヤを介してオランダに移ってきたといわれる「タイガー・モスキート(ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)」がオランダのアムステルダム、ロッテルダムやユトレヒト等で見つかった。ただし、コロニー(筆者注1)は見つかっていないとのニュースが届いた。

 この問題は米国やヨーロッパだけでなく、起源をたどるとわが国とのかかわりが深い問題でもある。筆者はこの分野ではまったくの門外漢であるにもかかわらず、あえてレポートするのは生態学と感染症問題に対する理解を改めて訴えることが目的である。

 さらに、この問題はわが国でも従来から国立感染症研究所感染症情報センター等が取り上げ、警告を鳴らしている問題であることも再認識した。今回のブログはオランダのメディア記事(Dutch News .nl) をもとに、欧州感染症研究センター(ECDC)の解説やわが国の国立感染症研究所感染症情報センター(IDSC)のレポート等を適宜引用、補足説明を加えながら、ここでまとめて紹介するものである。

 なお、門外漢ついでに引用すると筆者は本ブログで2009年4月30日から同年11月24日まで計16回にわたり「海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向と新たな研究・開発への取組み」を書いた。自分なりに独学で勉強したり、海外の主要疫学専門サイト等をつぶさに読んだことは現在でも意義のあることと考える。誤解や正確性を欠く点については専門家の指摘を期待する。

1.オランダのメディアの記事概要

 ECDCによれば、この攻撃的かつ日中に刺す蚊は約20のウィルスや寄生虫(parasites)を運ぶ「ヒトスジシマカ」がオランダでも居を構えた(筆者注2)。タイガー・モスキートは東南アジア固有のもので中国の観賞竹材や中古タイヤ(筆者注2)等を介してオランダに到達し、その範囲が拡大している。すなわち、アムステルダム南北部、ロッテルダム近くのウェストランドやさらにユトレヒト州、北ブラバント州の一部やリンブルグ州で検出されているが、コロニーはまだ特定されていない。

 RTL Nethrtland(筆者注3)ニュースの取材に対し、ECDCのスポークスマンであるウィルフリード・ラインホルド(Wilfried Reinhold)(筆者注4)は、「オランダの保健・福祉・スポーツ相であるエディス・スヒッペルス(Edith Schippers)は中国からの輸入品でのヒトスジシマカの自由な浸入はなく、スポット検査で十分であるとしたが、その取組みは失敗に終わった」と述べた。

2.ECDCのヒトスジシマカ(Aedes albopictus)解説部分の仮訳(筆者注5)

Aedes albopictus:

蚊の一種である「ヒトスジシマカ」 は東南アジアを起源とし、 北アメリカ・中央アメリカ・南アメリカ、アフリカの一部、北オーストラリア、その他ヨーロッパの数ヵ国で 継続して30~40 年の間に広がった。1979 年の アルバニア、また 1990 年の イタリア での 初めての出現以来、ヒトスジシマカ は15ヵ国以上のヨーロッパ諸国で報告されている 。それは侵略的外来種専門家グループ(Invasive Species Specialist Group:ISSG、2009)によると、トップ100の侵入性の高い種の1つと指定され、世界で最も侵入性の高い蚊の一種であると考えられている。 

ヨーロッパ 諸国への 浸入 は、域内の道路車両網の 更なる分散により「万年竹・開運竹(Lucky Bamboo)」の流行や 使い古した タイヤ 取引 と 輸入 を通して 主に 起こった。異なる気候 にも適応出来る能力 のため、ヒトスジシマカは新しい地理的な位置 であるより 北の 緯度 でも 寒い冬 を通して 生き残ることが できることから 、この蚊の変種は、冷さに抵抗力を持つ 卵 を生みだした。ヨーロッパに侵入する 蚊 種 の 多くと同様に 、タイヤ のような 容器の生息場所と家屋周辺での 花瓶等の 選択拡大は人間 との 接触が 高まる可能性をもたらした 。

ヒトスジシマカ は、チクングンヤ熱 ウイルス の重要な 既知の 媒介生物である。それ は、2005~2007年 のフランスのレユニオン島(La Reunion)、 2007年の イタリア と 2010 年の フランス の 「チクングンヤ熱(Chikungunya)」の 媒介生物であった 。

ヒトスジシマカ は、レユニオン島R1977~1978年 (2009 年6月 の モーリシャスも同様 )の大発生をもたらしたものとして 、「デング熱」 の媒介生物 で も ありえる。それ は、2010年のフランスやクロアチアの デング熱 ウイルスの媒介生物でもある。


(筆者注1)「コロニー」とは、生態学にて同一種の生物が形成する集団。繁殖のための群れである。

(筆者注2) 「国立感染症研究所感染症情報センター(IDSC)レポート(Vol. 32 p. 167-168: 2011年6月号) 「ヒトスジシマカの生態と東北地方における分布域の拡大」から一部抜粋「ヒトスジシマカの生態と東北地方における分布域の拡大」からの一部抜粋。「この蚊は古タイヤの国際的な流通で、オーストラリア、北米、中南米、ヨーロッパの国々へ輸出され、イタリアのヒトスジシマカは、米国から輸入された古タイ ヤによって運び込まれたことが確認されている。米国の系統は日本から古タイヤによって輸出されたことから、ヨーロッパと日本のヒトスジシマカは同じ系統で あることが強く示唆される。」

(筆者注3) RTL NederlandはRTLグループの子会社の商業放送で、ルクセンブルグに本拠を有し、4系統のチャンネル(RTL4,RTL5,RTL7,RTL8)を保有、オランダ市場を視聴目標としている。

(筆者注4) ウィルフリード・ラインホルド氏は 、オランダNPOで異国からの動植物の生物種の侵略阻止活動団体である「platform Stop invasive exoten」 (Dutch organisation to stop the introduction and spread of invasive alien species)の議長である。

(筆者注5) “Aedes albopictus”に関する解説としては、(1)米国疾病対策センター(CDC):Information on Aedes albopictus、(2) 欧州感染症研究センター(ECDC)2012年作成 Technical Report「Guidelines for the surveillance of invasive mosquitoes in Europe」(PDF 全100頁)、 (3)ECDC:2009年5月公表「Technical Report:Development of Aedes albopictus risk maps」(ECDChttp://ecdc.europa.eu/en/publications/Publications/TER-Mosquito-surveillance-guidelines.pdfサイトからリンク可) 、(4)厚生労働省検疫所最新ニュース2012.11.20 「チェコでヒトスジシマカが発見されました:2012年10月25日日付けEurosurveillanceの訳文」等を参照されたい。

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