2009年6月5日金曜日
米国の新型インフルエンザA(H1N1)の第二波への準備状況とワクチン開発の最新動向
5月30日の本ブログで予告したが、5月27日の朝日新聞夕刊で紹介された米国連邦保健福祉省(Health and Human Services:HHS)の疾病対策センター(CDC)科学・公衆衛生プログラム担当臨時副センター長(Interim Deputy Director for Science and Public Health Program)のアン・シュカット医学博士(Dr.Anne Schuchat)が5月26日に行った記者会見は電話記者会見(Press Telebriefing)であった。(筆者注1)(筆者注2)
新聞記事に書かれている会見での博士の冒頭のコメントや各メディアとの質疑応答を原資料(transcript)に基づいて敷衍してみる。メキシコから世界46か国への急速な感染拡大が始まって約1か月がたち、米国は新型ウイルスの疫学面や坑ウイルス薬の検証・研究が進み2009年秋以降への準備のために、この8週間から10週間が第一トラックを走ることになる、また、これから南半球が本格的なインフルエンザ流行の季節になり、変異しつつある新型ウイルスへのヒトの抵抗力が試される時期に入る。2009年秋に向け季節性インフルエンザのピーク対策に加え、今までの感染の監視結果や研究室での試験結果等に基づく、新ワクチンの準備が政府・関係機関の当面の最大の焦点ということになる。(筆者注3)
これらの取組むべき課題について、米国の動向を紹介するのが今回のブログの狙いである。
なお、米国では新ワクチンの研究・開発に関してはHHSが5月23日付けで、「新型インフルエンザA(H1N1)のワクチン開発」に関し“The Biomedical Advanced Research and Development Authority;生物医学先端研究開発局;BARDA” が取組んでおり、新ワクチンに関する大量生産準備の重要な段階に入る旨ならびに同計画に関する“Q&A”を公表している。
その内容および欧州疾病対策センター(ECDC)の新ワクチン研究・開発の動向きについても紹介する予定であるが、時間がないので機会を改める。
これに関し、わが国では国立感染症研究所等のサイトでは医療機関向けタミフルなどの抗インフルエンザ薬の予防投与の考え方等は説明されているがワクチンの開発動向に関する情報は見当たらない(6月2日付けで国立感染症研究所感染情報センターがWHOの「新型インフルエンザA(H1N1)に対するワクチン“Q&A”(5月27日改定)を公表している)。しかし、同研究所の最近時のコメントは季節性インフルエンザと重症度が季節性のものと変わらない点を鵜呑みしたり、世界的に見てH5N1の感染リスクがなくなったわけでない点をあらためて強調している(わが国の疫学専門サイトは、基本的に分かりやすさを追求するあまり、科学的な説明が不足がちである。) (筆者注5) (筆者注6)
さらにいえば、「ワクチン接種に関するガイドライン」について平成21年2月17日開催の新型インフルエンザ及び鳥インフルエンザに関する関係省庁対策会議において策定された「新型インフルエンザ対策ガイドライン」の中に「ワクチン接種に関するガイドライン」があるが、中身は空(「おって策定することとする」のみ)である。
1.米国の新型インフルエンザA(H1N1)ワクチン候補株(candidate vaccine)の開発・製造に関するHHSのリリース
5月22日に行ったHHSのリリ-ス内容は次のとおりである。
・HHSのSebelius長官は、5月22日にHHSが新型インフルエンザA(H1N1)の将来的工業生産規模の準備のため重要な段階に入り、このため予備流行段階のインフルエンザ備蓄のため本年夏に行う臨床研究と2つの潜在的ワクチン成分の工業規模生産に使用するため既存の基金約10億ドル(約950億円)の投入を指示した。
・同基金はインフルエンザ・ワクチンのため米国に免許を持つ医薬品会社との契約に基づく新しい注文に使用され、それに基づきワクチン抗原(vaccine antigen:抗原は、アレルゲンとも呼ばれ抗体を産生する物質。抗体は体内に侵入した抗原に結合することにより、毒性を失わせたり、ウイルスの感染性を失わせたり、あるいは体外へ排泄する作用をする有効成分。)(筆者注7)とアジュバント(adjuvant:免疫補助剤(抗原とともに生体に投与されたとき、その抗原に対する免疫応答を非特異的に増強させる物質))を大量に提供する。
・この両者が確保できると、将来の推薦できる免疫プログラムに対しては柔軟性をもって提供できる。例えば、2005年「全米パンデミック・インフルエンザ戦略(the National Strategy for Pandemic Influenza)」(筆者注8)に基づき推奨を受けたときは、健康医療サービス担当者やそのた重要インフラに関与する人々の健康保護を支援するためにこれらの成分が必要になった場合等である。
・これらの基金に基づきワクチン製造メーカーは、ワクチンの適切な投与量、アジュバントが適切であるか否かおよびワクチンが安全で効果的であることの保証といった医療研究に使うことができる。米国政府はWHOや他国の関係機関とこれらの医療研究結果を共有すべく、また米国が研究を進めてきた投与量、安全性や効果についての情報を提供するつもりである(HHSのBARDAは2004年にインフルエンザの大流行に関しワクチン製造メーカーと開発・提供契約を結んでいる)。
2.CDCのアン・シュカット博士の記者会見の説明内容
(1)5月22日の記者会見時に同博士が述べた内容は、前記HHSのリリース説明より具体的であり、併せて説明しておく。(筆者注9)
「5月22日、CDCはニュ-ヨーク医科大学(New York Medical College)から新型H1N1ウイルスの遺伝子と他のウイルスの遺伝子を結合した候補ワクチン・ウイルスを入手した。このタイプのハイブリッド・ウイルス(筆者注10)はワクチン生産に不可欠な卵の中でより成長をみる。CDCは連邦食料医薬品局(FDA)とともに逆行性遺伝学(reverse generics:目的の遺伝子を選択的に破壊することで、その遺伝子の生体内における機能を解析する研究手法)を用いて第二の候補ウイルスを創り上げた。CDCは最適の免疫反応を得るため両者を試験中である。我々は適切なウイルスにした後、ワクチン工場にそれらを運び込みことになる。
5月末までにその試作品を数か月検査し、安全確認を行い、一方または両者が使用可能であることが判明したときは、製造メーカーは2009年夏に試作品が安全であるか否かを確認するパイロット・ウイルスの生産を開始することになろう。これに関連し、5月22日に公開された内容は新しい新型インフルエンザ・ウイルスを創る遺伝子の多くが10年間以上豚の間で検出されないまま循環していたことを示唆している。」
(2)記者との質疑応答の要旨
CDCとして新ウイルスの感受性分析、国際機関や他国との連携研究、各州の感染の現状分析、学校での集団感染リスクなど国内やグローバルな視点から、今後の米国としての取組みに関する重要な疑問に答えており、極力原文に忠実に全部紹介した。ただし、専門外なので誤訳などがあれば専門家の補足説明やコメントを期待する(質問の内容を読んで、わが国のメデイアもこのレベルに達して欲しいと思うが贅沢か?)。
○ワシントンポスト:先生は入院したインフルエンザの重症事例として患者の半分(彼らは基礎疾患がない若い青年)に対して研究が行われたと説明されたが、ある意味で大変ショックを受けてことは10代や20歳代の青年が、なぜ最後に人工呼吸器をつけなければならないのか。あなた方は、あらゆる調査を行っているがそのような重症に感染しやすいことにつき何か「遺伝的な特性(genetic characteristics)」が認められるのか。
〔博士〕我々は入院患者の臨床パターンを理解するとともにその原因となった真のリスクの要因を特定すべく、仮にあるとすればよりそれを特徴づけるためのプロジェクトを現在進めている。私は季節性インフルエンザでさえ他の健康な人々に重大な合併症を引き起こすことがあると考える。我々は、米国内の小児の死亡について積極的に報告を行い、実際毎年50人から100人がインフルエンザで死亡している。彼らの多くは基礎疾患はない。インフルエンザで死亡する大多数はシニア層であり、実際入院する人は基礎疾患者である。しかし全体としてみれば、健康な若い人や10代の人でもこの季節性インフルエンザで死ぬことがある。遺伝学上のリスク(genetics of risk)は面白い関心テーマである。その研究が現在進められているかは確かではないが、季節性インフルエンザ問題とともに興味深い研究課題である。
○ウォール・ストリート・ジャーナル:先生は、さきほどインフルエンザに似た感染者(influenza-like illness)数は予想したレベルに戻りつつあるといわれたが、そのことは季節性のインフルエンザのことを意味するのか、またはH1N1のレベルを意味するのか。我々が日々見る感染者数はそれとは反対のことを示しているが。今年の夏中も感染者数が増え続けると見ているのか。
〔博士〕我々がインフルエンザに似た感染についてウイルス検査を重ねてみたときに分かったことは“influenza-like illness”の大多数がウイルスとして分離出来るということである。まさに、今の問題が「新型H1N1ウイルス」なのである。数週間前はまだ一部季節性インフルエンザが流行していたが、現在「陽性」とされた場合はすべて新型H1N1ウイルスである。“influenza-like illness”の傾向についてより広く見るため国内の各地域別に見たとき、大部分の地域では減少し続けている。この時期としてはこの数週間は並外れた感染拡大が見られたが、国内9つの地域に分けて見ると1つのみの上昇傾向にあり、その他1から2の地域は予想したよりわずかに高い。今後の新型インフルエンザ・ウイルスの流行予想であるが、現時点ではおそらく1週間前より低くなっているといえる。
○USAトゥディ:今年の冬における南半球の新型インフルエンザの追跡調査について説明して欲しい。
〔博士〕最も重要な側面はおそらくウイルスを正しく理解することであろう。このことはインフルエンザ疾患の人の実験室内での呼吸状態の検査が必要であり、我々が開発および配分する特別な試験キッズが必要となる。南半球には定期的にインフルエンザ調査を行う実験室が一定箇所あり我々は定期的なウイルス検査の中で新型インフルエンザの検査を最優先させることを希望している。また、我々はこの疾患の疫学的特性(epidemiologic characteristics)に関心をもっている。
すなわち、①このウイルスは肺炎を併発し長期の入院を引き起こすか。②二次的細菌性肺炎を引き起こすのかまたはウイルス性の状況を優先させて見せているのか、③その環境は何か、④学校や集団での大流行を見ているが感染者を運び込む病院や地域での厳格な予防策はあるのか。
これらの問題につき我々は取組んでいる。CDCはWHOや世界中の保健担当大臣等とともに感染症の調査機能、実験室の機能や現地調査の機能強化に取組んでいる。また汎米保健機関(Pan-America Health Organization:PAHO)や南半球での積極的な開発計画に関し一定のパートナーとの連携作業を進めつつある。
○サイエンス・マガジン:第1に、米国のインフルエンザ拡大はピークに達したといわれたが本当か。第2に、2,000万人分のワクチン成分の購入を決定したとあるが、残りの米国民への購入決定はいつ行われるのか。
〔博士〕H1N1の感染がピークかどうかという問題は複雑な問題である。私は天気に例えて説明するのが好きである。米国の一部の地域では寒冷前線が発生するかもしれないが大部分はより暖かくまたは夏の季節に入る。この病気がニューヨーク市やその一部の地域でなお活発なことは知っており、地元民から見ればこの状況はまだピークとはいえないであろう。全米的な統計や大部分の地方の統計は毎年のこの時期のピークを過ぎたことを想像させる。我々はその次の段階を考えており、さらに暖かい季節が来ることが我々に中休みを与えてくれている。
ワクチン投与の問題に関する質問は重要な問題である。我々は、①ワクチン開発にかかる最初のステップ、②ワクチン製造にかかる次のステップ、さらに③一部または全国民に投与の決定というステップを分けて考えようとしている。これらのステップの決定に当り具体的な証拠に基づく十二分な熟考が必要であるが、免疫に関する決定は可能な限り遅れてはならないと考えている。この考えは、現在の深刻な状況とウイルスとともに生じている問題については南半球での経験のすべてを学ぼうということである。この対ウイルスのために開発している臨床パイロットの単位からすべてを学び、また試験したワクチンがさらに安全なものか、また潜在的リスクや潜在的有益性を理解し、おそらく今年の夏の遅い時期または初秋に決定するであろう国民への免疫提供プログラムに生かすつもりである。
(筆者注11)
○ヘルス・ディ(HealthDay):まさに今年の秋にウイルスが押し寄せてくると予想するのか。また、もしそうであるなら現状よりさらに悪くなると予想するか。
〔博士〕この点ははっきりさせたい。季節性のインフルエンザは今年の秋または冬に再び戻ってくる。毎年我々は多種のインフルエンザ種が流行し、その発病のタイミングは米国内の地域により晩秋と冬では大変異なる。毎年インフルエンザは季節性の問題として流行し続け、次の秋、次の冬と流行し続ける確かである。最近時に発生したインフルエンザよりさらに重度の病気を引き起こすか、流感ウイルスを支配するのか、または実際消えてしまうのかは予測できない。インフルエンザの大流行は時として波を打って押し寄せ、大変被害の大きかった「1918年インフルエンザ」では中程度の予告的な波が春に押し寄せ、大変ひどかった波は秋に来たことを記憶している。1918年の極めて悲惨な経験は心に残っている。しかし、我々は南半球においてこの冬に今回のウイルスが多くの疾病、一定規模の疾病を引き起こすか、または何も引き起こさないかにつき今言うことは出来ない。まさにその「可能性」のために準備しているのである。
○カナディアン・プレス:(筆者注12)今ほど説明された感受性試験(susceptibility testing)について伺いたい。すべてのウイルスがすべてOsteltamavir(製品名:タミフル)とZanamavir(製品名:リレンザ)に感受性がある、またはこれらの薬によりウイルスの感受性が減じると考えてきたがいかがか。
〔博士〕我々が試験したすべての新型H1N1ウイルスは、感受性がある。これと異なる結果を出した他の研究室は気にとめていない。この点につき私は本日問題解決のヒントがあるかどうか聞いたが答えは“No”であった。私の最新情報では我々は新型インフルエンザ・ウイルスに関しタミフルやリレンザの耐性(resistance)問題は調査していない。我々は季節性インフルエンザ・ウイルスの耐性はタミフルに対し実質的に感受性を持っているという観点から耐性の問題をとらえている。従って、ウイルスの動向を追跡しており、新型H1N1ウイルスが常に感受性(sensitive)があると信じてはいない。しかし、当分の間、我々の研究室から好ましい情報を提供し続けるつもりである。
○AP通信:先ほどの「ヘルス・ディ」の質問の通りであると思う。自分は南半球での監視体制についてその効果を疑問視している。先生は汎米保健機関(PAHO)と共同した研究を行うといわれたが、問題の季節はまさに南半球にある。我々に具体的な監視参加国に関する情報を示して欲しい。また、米国の新型インフルエンザ感染予防のためのワクチンについて説明されたが、南半球へのワクチン問題はどうなっているのか。南半球では流行の季節が間近に近づいており、あなた方はこの状態にうまく対応できるのか。
〔博士〕逆に質問させて欲しい。ワクチンの開発にかかるステップは極めて多い。南半球での流行シーズンに備えたウイルスの開発・製造に十分な時間がない。従って、不幸にも我々が考えもしなかった新種ウイルスの出現と検出のタイミングにおいて南半球の流行シーズンのピークに合わせた適切なワクチンを確保することが出来なかった。一方、WHOは製造会社、ワクチン開発の最終的な必要性に向け開発途上国と共同作業を行っている。
もう1つの質問である南半球の国々とは具体的にどの国かという点であるが、CDCはWHOの世界的なインフルエンザ監視ネットワークの一部である。我々も、また新ウイルスに対抗できる試薬(reagents)を開発し、正確な数字は今手元にないが100か国以上の国に移したと信ずる。我々はインフルエンザ研究施設を持つ他のほとんどの国が米国の新キットを活用し、新ウイルスの特定のために追加的に技術支援してくれることを期待する。そのことが南半球における重要な試薬の備蓄と試験をさらに進める技術的な支援を行う第一の方法となろう。さらに付け加えると我々は臨床疾患を調査するための積極的な努力をしたいと考えており、そのことがCDCが多くの国で呼吸疾患に的を絞り進めて来た本来の努力を真に形成することになる。どの国が我々の主たる対象となるかについての詳細はまだいえないが、今後の記者会見においてあなた方メディアと共有したいと考えている。
○New York One :まず米国内で高い陽性感染者の増加が見られる地域があるといわれたが明らかにニューヨークがその1つであるというのは正しいか。また、他の地域について具体的にコメントして欲しい。また、CDCの監視結果についてニューヨークに特化して言えばCDCの研究スタッフは今回の感染拡大の震源地(epicenter)と思われるクイーンズ行政区の現場で原因を突き止めるため何を行っているのか、また仮に震源地であるとすればなぜより大きな地域(そこでは人々はバス、地下鉄や徒歩で多くの接触がある)に感染が拡大し漏れ出さないのかについて調査しているのか。あなたがたが予想しているどのくらい長期にこれらの活動が続くのか、すでに暖かい季節に入ったがウイルスの活動にどのような影響を与えると見ているのか。
〔博士〕ニューヨークは“influenza-like illness”に関し依然の数週間より高いレベルにある2地域(ニュージャージーとニューヨーク)のうちの1つである。
比較的高いレベルにある第2のグループとはニューイングランド6州(コネチカット、メイン、マサチューセッツ、ニューハンプシャー、ロードアイランド、バーモント)である。ニューヨーク、ニュージャージーとニューイングランド地区は他地区が減少傾向にある中でなお基本線のレベルを上回っている。第2の質問に関し、CDCはニューヨーク州保健局に対し州内の都市全体の状況のより正確な把握を行うため幾人かの専門家を派遣しているが、州当局が独自に大変活動的な報告が行える状況になったら引上げる予定である。
第3の質問についてこのウイルスが米国内やニューヨーク州でどのくらい長く循環、感染拡大を続け、病気を引き起こすか、これはまさに取組むべき課題の1つである。時としてインフルエンザは夏でも病気を引き起こしており、季節性インフルエンザ・ウイルスはサマーキャンプで大流行することがある。この問題は一定の環境、すなわち人口特性や実際我々が知らない基準に基づくウイルスの生存性(survivability of the virus)の機能問題である。従って私はニューヨークがこの数週間および数か月後に感染事例がなくなるということは希望するが明言することは出来ない。しかし、南半球に関心を向けかつ今年の秋に向けて準備している理由の1つがそこである。ご存知の通り、ニューヨークでは積極的に調査が行われ、入院問題と取組んでいることから、我々はニューヨークの拡大する季節は終わったとは思ってはいない。
○グリニッジ・タイム:学校閉鎖について質問する。最も新しいCDC勧告によると、学校の活動を妨げるような大規模な欠席がある場合以外は学校閉鎖は不要としている。しかし、CDCの最近の調査でも特に「地域1」や「地域2」(筆者注13)では新たな感染例がある。感染事例の検出に基づく感染拡大を阻止すべく学校を閉鎖させるといったガイドラインや助言の更新は行わないのか。
〔博士〕私の記憶では5月5日以降、暫定ガイダンスの改訂は行っていない。同ガイダンスは1918年の過去最大の緊張から学んだより緊張感のある世界的流行の今回のウイルスの重大性や伝播性に関する情報を織り込もうとした。今回のウイルスに関し感染拡大を低下させるため下校を勧告しなかった。学校で感染が起きた当初の対応に関する勧告を行った。その代り、我々は地方自治体これらの決定を行い、下校の決定要素は学生や教員等の欠席率により本当に学校が機能しなくなった程度の判断によるべきとの助言を行った。地方自治体が考慮すべき事項としては、われわれが手助けできるウイルスの重大性判断に加え、複合的な要素(学校の規模、彼らが学校にいないときどのようなサービスを受けられるのか、学校の行事の最中であったらどうするのか、競合するニーズがないか、彼らが学校にいないことによる彼らへの潜在的保護の価値とのバランスはどうか)などである。CDCやほとんどの自治体のガイダンスの対象は病気で在宅治療し、また回復した学生の保護が重要であると考える。学校で感染が生じた時は自宅で治療が行えるよう自宅に送り、学校の環境を混乱させないことが重要である。下校を勧告し続ける我々の現在のガイダンスは、感染の低下が目的ではなく学校のもつ機能がゆえに自治体が個別に決定するために必要なものと位置づけている。
(筆者注1)CDCではインフルエンザに限らず“Press Telebriefing”はよく行う。緊急性が高いテーマを扱う機関らしい。「電話記者会見」であり、当日のやり取りは“webcast”で聞くことが出来、その内容は後日、記録(transcript)として公開されるとともにMP3ファイルで音声(やや聞き取りにくいが)でも確認できる。
(筆者注2)わが国のメデイアだけでなく研究機関においても米国CDCの動向は目がはなせないようである。国立感染症研究所の感染症情報センター(Infectious Disease Surveillance Center:IDSC)「最新情報」サイトでは、CDCが発表する「ガイダンス(手引)」の仮訳がこのところ頻繁に行われている。
最近時かつ一般人向けとおもわれるテーマに絞って掲載しておく。
①小児における新型インフルエンザ A (H1N1)ウイルス感染に対する予防と治療の暫定的手引き(Interim Guidance for Clinicians on the Prevention and Treatment of Novel Influenza A (H1N1) Influenza Virus Infection in Infants and Children)を5月13日発表: (IDSC訳文発表日5月27日)
②新型インフルエンザA(H1N1)によるヒト感染に対応した、集会に対するCDCの暫定的手引き(Interim CDC Guidance for Public Gatherings in Response to Human Infections with Novel Influenza A (H1N1)) を5月10日発表 : (IDSC訳文発表日5月26日)
③新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染患者及び濃厚接触者に対する抗ウイルス薬使用の暫定的手引き-改訂版(Interim Guidance on Antiviral Recommendations for Patients with Novel Influenza A (H1N1) Virus Infection and Their Close Contacts)を5月6日: (IDSC訳文発表日5月20日)
(筆者注3) 厚生労働省厚生労働省結核感染症課は、5月28日付けで都道府県等の衛生主管部局宛事務連絡「 新型インフルエンザにおける病原体サーベイランスについて」を発布している。その目的と要請内容は、「 都道府県及び国において新型インフルエンザ及び季節性インフルエンザの流行状況について迅速な把握を行い、流行状況に応じた適切な対策を講じるため、新型インフルエンザの検査診断に加え、季節性インフルエンザの病原体サーベイランスとあわせた新型インフルエンザの検査について、地域の状況に応じ、可能な限り実施してする」とある。
http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/hourei/2009/05/dl/info0528-04.pdf
(筆者注4) 厚生労働省医政局経済課は5月28日付けで (社)日本衛生材料工業連合会宛協力要請に事務連絡「新型インフルエンザの国内発生に伴うマスク等の安定供給について」を発している。そこに言うマスクとは特に「N95、サージカルタイプ、不織布タイプ」である。
(筆者注5)本ブログの執筆中に慶応大学医学部熱帯医学寄生虫学教室生物災害危機管理研究室のブログ“Biosecurity Watch by Keio G-SEC Takeuchi Project”を見た。「バイオ・セキュリテイ」という筆者にとっては目新しい用語であるが、これらの研究があらためて注目されるべき時期になりつつあるのか。
(筆者注6)科学的でないということは説明の曖昧さにつながる。例示しよう。「マスク」である。CDCが2007年5月に発表した市民向けガイダンスは「フェイスマスク」と「医療用レスピレーター(N95以上:サージカルでは不適)」の効果を機密性、感染持続時間、装着性から比較し、その使用場所において適切な選択使用が効果的である、すなわち「フェイスマスク」通勤電車等や人ごみのなかで鼻や口との接触(液滴:droplets)を極力避けうるという意味で有効であり、他方、医療用レスピレーターは医療機関、検疫機関等や感染者との接触が不可避な場合に有効であるのである。両者とも感染の機会の減少効果はあるものの万全ではない。
(筆者注7)「抗原」、「抗体」、「免疫」やワクチンのイロハを説明しておく。体を守っているのが「免疫」で、主役ともいうべきタンパクに「抗体」がある。ポリオやインフルエンザのワクチン接種も、抗体の免疫性を利用したもの。一例をあげると、インフルエンザのワクチンは、感染性をなくした不活性ウィルスである。これを皮下に注射することで、このウィルスの抗原に結合する(特定の)抗体が、血液中にできるのである。
(筆者注8) “the National Strategy for Pandemic Influenza”は2005年11月1日にホワイトハウスから発表された基本国家戦略で、毎年報告が行われている。
(筆者注9)米国におけるインフルエンザa(HJ1N1)用新ワクチンの開発は医療研究機関からCDCやワクチンメーカーに渡りつつある具体的状況が5月3日付けの「ニューヨーク・タイムズ」等が報じている。
http://www.nytimes.com/2009/05/06/health/research/06vaccine.html?_r=1
(筆者注10) 「ハイブリッド・ウイルス」とは ヒトや豚が、鳥インフルエンザとヒトのインフルエンザに同時に感染して、体内で混ざり合い、ヒトからヒトへ感染するが生まれる。(ハイブリットとは「複合」という意味)。ところで新型インフルエンザはどこから来たのか。大阪府立公衆衛生研究所サイトの説明要旨は次のとおりである(専門用語は一部加筆した)。「ウイルスの遺伝子配列が決定され、その由来がある程度判明した。インフルエンザ・ウイルスの遺伝子RNA(リボ核酸)は8本の分節に分かれており、新型ウイルスの亜型を決定するヘマグルチニン(血球凝集素Hemagglutinin:HA)遺伝子と他の2本の遺伝子は北アメリカの豚インフルエンザ・ウイルスに由来するH1N1型のウイルスである。他の2本は北アメリカの鳥ウイルスに由来し、別の2本はユーラシア大陸の豚ウイルスで、残りの1本はヒト・ウイルスに由来することが判明している。従って新型インフルエンザは少なくとも4種類のウイルスの「ハイブリッド・ウイルス」であると考えられる。」
(筆者注11)5月26日の記者会見時の取材記者(John Cohen氏)自身が5月28日付けの“Science Insider”コーナーで「CDCの新型インフルエンザ・ピークの考えは楽観的過ぎる」と題して独自に専門家を取材した記事を載せている。
(筆者注12) “Canadian Press”はAP通信のようにカナダや世界の主要国を張りめぐる通信社である。
(筆者注13「地域2」に当る地域は、ニュージャージー、プエルトリコ、USバージンアイランド、セブントリバルネーションズである。
〔参照URL〕
http://www.cdc.gov/media/transcripts/2009/t090526.htm
https://www.medicalcountermeasures.gov/BARDA/MCM/panflu/nextsteps.aspx
Copyright (c)2006-2009 福田平冶 All Rights Reserved.
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿