2010年11月26日金曜日

米国刑務所独房服役中の元ロシア・スパイ被告が息子を使いスパイ活動見返り金を要求していた裁判で有罪答弁



 11月8日、米国連邦司法省(DOJ)とFBIはスパイ映画でもありえないようなプレス・リリースを行った。
簡単にいうと、標題のとおりであるが、この裁判の被告ハロルド・ジェームズ・ニコルソン(Harold James Nicholson,1950年生れ)は元ベテランCIA上級職員でDOJいわく米国内でスパイ活動で有罪判決を受けた最も高いランクの1人である。

 これが事実であるならば、米国の刑務所内での収監者の情報・行動管理とりわけ国家反逆罪(米国連邦現行法律集U.S.C.第18編パートⅠ章第794条)(筆者注1)の有罪受刑者の管理はいったいどうなっているのであろうか疑いたくなってくる。(794条(c)項が「共謀罪」規定である)

 しかし、事実関係はもっと泥臭いもののようである。
 簡単に言うと、離婚後自分を育ててくれた父を最も尊敬する息子がアルバイト先であるピザ・ハットのパートとしてピザを届けるため父親のいる刑務所に出入りし、面会所で渡された父親のテッシュやキャンディーの包み紙に走り書きしたメモを届けるためにキプロス、ペルー等を廻りロシア連邦の謀報員に会い札束を受け取っていたというものである。

 新たなスパイ活動は行っていた事実はなく、過去においてロシアに提供した美防諜情報の対価を「年金」としたロシアに要求したこと等を検察も起訴にあたりその点は配慮したようである。
 オレゴン地区連邦地方裁判所のアンナ・ブラウン判事は、本件における検察とニコルソンとが取り決めた「司法取引」に応じたとすれば既存の刑罰(拘禁刑)に8年追加するのみということになろう。すなわちニコルソンは外国政府のためのスパイ行為およびマーネー・ローンダリングの既遂に関する訴因各1つを認め、一方その交換条件として連邦検事は2009年の告訴時の5つの重罪(felony charges)にかかる訴因を破棄することに同意した。

 同リリースに関するコメント数等を見る限り、この問題に関する米国民の反応は今一弱いようであるが、事実関係を1996年の起訴や裁判までさかのぼって本スパイ裁判の経緯と今回の有罪答弁から得られた事実関係のみとりあえず紹介する。

 なお、過去・現在において米国のCIAやFBI等の職員が外国謀報機関から金銭等を対価に国防の機密情報を提供し、起訴・有罪となった事件は多い。
 代表的なものは1994年2月21日、妻と同時に逮捕、22日に起訴された元CIA職員オルドリッチ・ヘイゼン・エイムズ(Aldrich Hazen Ames)(筆者注2)(釈放なしの無期懲役刑(いわゆる終身刑)(life imprisonment without parole):現在ペンシルバニア州アレンウッド連邦刑務所(筆者注3)で服役中)、1996年スパイ容疑で逮捕され、拘禁刑27年で服役中の元FBI特別捜査官アール・エドウィン・ピッツ(Earl Edwin Pitts)や、今回のハロルド・ニコルソンといえる。
 筆者はこの種の犯罪捜査の専門家ではないが、この3人の基本的な共通性は金や女を目当て、勤務状況は平均よりやや上、子供がいるが離婚歴あり、給与の水準は米国の官吏として平均的以上、個人的には離婚による慰謝料負担が大、アル中、浮気という点に着目した。では何が彼らを狂わせたのか。

 当然のことながら、わが国の刑務所ではハロルドが行ったような収監当局に協力者がいるといったことはないとは信じたい(現在ハロルドはオレゴン州シェリダン刑務所に収監中)。(筆者注4)


1.2010年11月8日のハロルドの有罪答弁に関するDOJのリリース内容
(1)抗弁審問(plea hearing)においてハロルドは息子ナザニエルと面会しロシア連邦に寄与する情報を息子の提供したこと、サンフランシスコ、メキシコシティーやリマに息子を出向かせロシアの謀報機関に面会させたことを認めた。

(2)被告はロシア連邦の指示に従い、海外に位置するロシアのスパイに情報を提供した見合いに息子を使い秘密裡にロシア機関から現金を受領したうえで家族に渡すよう指示した。

(3)ハロルドに対する判決は、2011年1月11日に予定された。

2.1996年11月18日の父ハロルドの起訴裁判の詳細
 筆者が最も気になったのは国際スパイ事件それも相手国はロシア連邦の外国諜報機関(Sluzhba Vneshney Razvedki Rossii:SVRR(元KGB))である。また、刑期23年半(283ヶ月)の拘禁刑の起訴・判決内容や今回の捜査に関する正確な情報がDOJ、CIAやFBIサイトで確認できるであろうかという点であった。

 確かに、ニューヨークタイムズには「Harold James Nicholsonに関する同紙の記事リストアップ一覧」がある。しかし、その記事内容は極めて簡単なもので司法・捜査関係者が読んで参考になる内容ではない。

 さらに調べたところ次のような資料やビデオが見つかった。
(1)1996年11月18日に行われた、中央情報(CIA)長官(Director of Central intelligence)ジョン・ドイチュ(John Deutch)、FBI長官ルイス・J・フリー(Louis J.Freeh)の共同記者会見時の配布リリース公文書である。当然ながら連邦司法長官ジャネット・リノ(Janet Reno)も声明に名を連ねている。また、同日FBIやCIAが行った共同記者会見の様子はc-span動画で見れる。

 その内容は、東西冷戦時ほどではないが米国、ロシア間のスパイ活動はなお引続いており、2010年7月に報じられたロシアと米国のスパイ容疑者の交換トレードになるとまるで東西冷戦時の再現である。

(2)FBI捜査、犯罪容疑に関する情報
 全米科学者連盟(Federation of American Scientists:FAS)サイトが起訴状でしか見られないであろう事件の捜査の詳細情報を報じている。

 その内容は当時のDOJのリリースだけでなくFBI特別捜査官(special agent)の「宣誓供述書(affidavit)」(筆者注5) 、「逮捕状(warrant of arrest)」ならびに「家宅捜査令状(search warrant)」が貼り付けている。
 おそらくDOJ等の起訴状だけでなく逮捕状の原本コピー基づくデータであろうが、具体的な捜査内容・事実に関する記載内容は極めて詳細である。
 FSAは、このような社会的な事実をも冷静に報じるNPO機関である。米国の科学者はある意味で信念を貫くつまり「がんこさ」がある。

(3)米国における外国からの謀報活動対策の基本姿勢
 対ロシアや中国等に対する対謀報活動(Counterintelligence)の重要性は、ポスト・アメス(post-Ames)改革後においても変わらないというのが米国諜報関係者の見方である。
なお、1996年11月18日、ハロルド起訴時のリリースで外国からの謀報活動阻止のため、次の具体的改革の内容を挙げてある。その実質的な効果が上がっているか否かの評価は別として、国家の機微情報管理の難しさはYou Tube等メディアの多様化とともに拡がっていることは間違いない。

①CIAの反謀報活動グループの責任者は、FBIの上級官吏でCIAの最も機密データへの完全なアクセス権を持ち両機関の完全な共同的活動の任にあたる。
②CIAの反謀報活動グループは、CIAのセキュリティおよび運用の規律の両面から代理権を持ち、反謀報活動グループの正規職員である少なくとも1人のFBI特別捜査官を含む。
③「1995年財政年度諜報権限法第811条(Section 811 of the Fiscal Year 1995 Intelligence Authorization Act)」は機密情報が外国勢力に権限なしに公開されるおそれがあるというときは、すみやかにFBIに通知すべき義務を定めている。
④運用兼反謀報副局長の地位は、CIAの反謀報および対スパイ活動への高いレベルの努力を確実にするために創設した。
FBIと完全な協調を含む運用兼反謀報にかかる義務を担う副局長は、現在FBIの国家安全部と毎週会合を持つ。
⑤反防諜の努力を強化・改善する新しい研修教育主導権が引き受けられた。
⑥連邦議会は共同した反スパイ活動を行うべく増加した各種資源を提供した。

(4)ニコルソンのCIAでの任務と刑事告訴の具体的な内容
①ニコルソンは16年間CIAに勤務し、機密取扱資格(セキュリティ・クリアランス)における「最高機密(Top Secret)」および「取扱注意で断片的にのみ開示されうる諜報成果(Sensitive Compartmentalized Information:SCI)」資格を有していた。(筆者注6)
被告は、仮に無権限アクアセスして開示したときは米国の国家安全に対する修復不可能な損失を生じさせたり外国国家に有利な情報を与えるという高いレベルの情報を保持していた。被告はこの点に関し無権限開示は犯罪行為であり、不適切に秘密指定情報の開示を絶対に行わない旨誓約・同意していた。

②告訴状では次の違法行為を具体化した。
・1995年10月1日前後、被告は定期的なセキュリティ検査としてCIAが管理する嘘発見器による一連の検査(polygraph examinations)を受けた。これの検査の分析では、外国謀報機関との無権限の接触についての未解決の問題が起きた。

・CIAの記録分析により、被告の個人旅行の解析と預金の入手金を見る限り、説明がつかない金融取引後に外国への旅行するパターンが見られた。

・マレーシアのクアラルンプール勤務時、被告はロシアの謀報機関(Rissian intelligence service:SVRR)との接触が認められていた。1994年6月30日、被告が最後の接触時の1日後、金融残高記録をみると被告は米国の取引銀行の貯蓄口座に12,000ドル(約984,000円)を送金しているが、その根拠となる合法的な資金源は見出しえなかった。

・1994年12月、被告は個人旅行でロンドン、ニューデリー、バンコクおよびクラルンプールにアメリカから出かけている。クアラルンプールにいた時、貯蓄口座に9,000ドル(約74万円)を振り込み、またクレジットカード口座に6,000ドル(約49万円)を入金した。帰国後被告は100ドル札130枚を使って債務を返済したが、これらの資金の合法的な資金源は見出し得なかった。

・1995年6月、7月、被告は年次休暇を使って再度クアラルンプールに旅行したが、その時および直後に合計23815.21ドル(約195万3千円)の金融取引を行った。しかし、これらの資金の合法的な資金源は見出し得なかった。

・1995年12月、被告はタイのバンコクとプーケットに旅行した。金融取引記録ではこの旅行の間および帰国後に26,900ドル(約220万6千円)が表示されている。
 しかし、これらの資金の合法的な資金源は見出し得なかった。

・1996年3月、SVRR特別連絡事務所は公式に米国FBIに対しチェチェンのテロ情報を求めて来た。1994年4月、被告はCIA本部に出向き教育目的と称してチェチェンに関する情報を入手した。しかし、実際チェチェンに関する研修計画は存在しなかった。

・1996年6月、被告は個人旅行でシンガポールに出かけたが同時期にシンガポールには2人の名が知れたSVRR謀報機関職員がいた。被告はロシアの謀報機関に会う前に現居場所を秘匿する監視回避技術(counter-surveillance technique)を使用したがそれは被告には認められていない技術であった。
 被告はロシア側との接触は認められていなかった。この接触後に被告は約2万ドル(約164万円)を含む大きな現金取引を行った。

・1996年7月16日前後に、被告はCIA本部で反謀報センターの新ポストに着いた。CIAのコンピュータの記録では、被告が“Russia〔n〕”や“chechnya”を使ったキーワード検索を多数回行っていることが判明した。被告の新しい任務にはこれら情報収集する必要はまったくなかった。

・2回にわたり、FBIの職員文書監視では被告宛の偽の返却先名と外国の私書箱を宛先とした郵便ハガキを入れた封筒を確認した。郵便はがきのメッセージはCIA本部における被告の任務に関するもので1996年11月23日~24日のスイス旅行を予期させるものであった。
・裁判所が認めた被告が使用するノートパソコンの検索結果、1996年8月11日、CIAの多数の秘密文書とロシアに関する文書の断片が明らかとなった。これらの文書ファイルはプログラム・デレクトリから削除されていた。
 同文書ファイルには、モスクワに派遣予定の職員の任務、経歴およびCIA職員としての任務や経歴、ロシアのチェチェンに関する採用募集や報告が含まれていた。また、モスクワのCIA分署の情報、オルドリッチ・エイムズに関する要約情報、被告の嘘発見器検査を含む膨大な個人の監視情報が含まれていた。
 さらにCIAの7つの人事情報要旨と彼らの機密情報を記録したFDが発見された。この人事情報は、コードネームと地位によって特定可能なものであった。

・1996年11月3日前後、裁判所が認めた被告の勤務する事務所の捜査でロシアの軍備に関するCIAの高機密文書、ロシアの防諜能力、CIAにおける被告の任務上では密接に結びつかない問題に関する文書を所有していたことが判明した。

・CIA本部のニコルソンの勤務事務所の電子監視は、機密文書の分類印を削除した後に文書を写真撮影している被告を記録していた。

3.2009年1月27日、ハロルド・ニコルソンが末っ子ナザニアル・ジェームズ・ニコルソン(Nathaniel James Nicholson,1985年生れ)(筆者注7)とともに起訴DOJリリース:および有罪答弁

(1)オレゴ地区連邦地方裁判所(ブラウン判事)に対し、同日司法省オレゴン地区担当副検事は父子2人の起訴状を提出した。
 大別すると、①司法長官への事前通知なしに外国政府のスパイとして行動したことの共謀罪(第一訴因)(18 U.S.C. §371 , §951 )、②司法長官への事前通知なしに外国政府のスパイとして行動したこと(第二訴因) (18 U.S.C.§951)、③マネー・ローンダリングの共謀罪(第三訴因)(18 U.S.C. §1956(a)および(h))、④マネー・ローンダリング(第四、五、六、七訴因)の計7訴因である。
 ブラウン判事は、判決日は当初は2010年1月25日を予定した。しかし、その後延期され同年12月7日判決予定となっている。
 父ハロルドの息子に対する共謀の働きかけについて、メディア情報は、父がどのような具体的手口で息子を巻き込んだかについて家宅捜査令状や宣誓供述書等に基づき詳細に説明しているが、長くなるのでここでは略す。

 DOJの起訴時のリリース概要は次のとおりである。
・被告ナザニアルは公判前釈放(pretrial release)の際、自分が希望して父と面会し、その際ロシア連邦のスパイとして父から情報と指示を受け取っていた。ナザニアルは米国外の指定された数箇所でロシア連邦の職員と接触し、スパイ行為の見返り金を受け取った。その資金は直接ハロルドの家族に支払った。

(2)2008年12月11日、司法省に起訴に先立ち、FBIの特別捜査官ジャレッド・J・ガース(Jared J.Grath)はオレゴン地区連邦裁判所に「宣誓供述書(全49頁)」を提出している。
 その詳細は省略するが、1996年11月の第一次起訴時の事実関係の分析から始まり、第17項目(8頁)以降は今回の起訴の背景となる捜査の事実関係を説明している。

(3)2009年8月28日、連邦司法省は息子ナザニアルがオレゴン地区連邦地方裁判所(判事:アンナ・J・ブラウン)の前で起訴された2つの訴因(前記①、③)につき有罪答弁を行った旨リリースした。
 外国政府のためのスパイ行為については最高刑は5年の拘禁刑と25万ドルの罰金(併科が可)(18 U.S.C.371 )、またマネーローンダリング行為については最高刑は20年の拘禁刑と50万ドルの罰金刑(併科が可)である。(18 U.S.C 1956)

 同答弁の内容の内容は次のとおりである。
・ロシア連邦から受け取った資金は、父親がかつてスパイ活動を行ったこと対価として受け取った。
・ナザニアルは次のとおり米国外に出向きロシア連邦のスパイ組織から現金を受け取った。毎回の金額を見て分かるとおり1996年の父ハロルドがスパイ行為実行時に受け取った金額と比較しても極めて少ないことが理解できよう。

①2006年12月17日、メキシコのニューメキシコでスパイ組織から約1万ドル(約82万円)を受け取りオレゴン州ポートランドに戻った。
②2007年7月12日、メキシコのニューメキシコでスパイ組織から約9,080ドル(約75万円) を受け取りオレゴン州ポートランドに戻った。
③2007年12月13日、ペルーのリマでスパイ組織から7,013ドル(約58万円)を受け取りオレゴン州ポートランドに戻った。
④2008年12月14日、キプロスでスパイ組織から9,500ドル(約78万円)を受け取りオレゴン州ポートランドに戻った。

 被告ナザニアルは答弁で2008年12月15日にキプロスから帰国した際に差し押さえられた9,500ドルの没収に同意した。また、答弁の一部として2006年から2008年の間における父とロシア連邦にかかわる行為について政府に代り証言することに同意した。

(筆者注1) US Code - Section 794: Gathering or delivering defense information to aid foreign government

(筆者注2) オルドリッチ・ヘイゼン・エイムズ(Aldrich Hazen Ames )(1941年5月26日生れ)は、元CIAの反謀報担当職員兼分析担当者で1994年にソビエト・ロシアのスパイ容疑で起訴され、現在は仮釈放無しの終身刑で服役中である。DOJは“Ames”と呼ぶ。

(筆者注3)連邦アレンウッド連邦刑務所は複合刑務所であり、セキュリティ・レベルが「低(FCI Allenwood Low)」「中(FCI Allenwood Medium)」「上(USP Allenwood)」の3施設に分かれている。オルドリッチ・ヘイゼン・エイムズが現在収監されているのは“USP Allenwood”である。

(筆者注4)父ハロルドが収監されているシェリダン刑務所は、セキュリティレベルで見た場合、DOJの下部機関である「連邦刑務所局(federal bureau of prisons)」の説明によると「中」である。この点が刑務所内で引続きスパイ行為が出来たことと関連するかは分からないが、関係があるかも知れない。

(筆者注5) 米国における刑事裁判において何らかの犯罪に関する告発を行う場合、告発者(犯罪の被害者またはFBI等その捜査代理人)が「宣誓供述書(affidavit)」を裁判所に提出して「逮捕状(warrant of arrest)」、ならびに「家宅捜査令状(search warrant)」を発布してもらうことが必要である。

(筆者注6) 米国の軍事・諜報機関で用いられている「 機密取扱資格(クリアランス)」と「機密指定の段階種別(クラスィフィケイション)」についてニッキー・ハーガー著『シークレット・パワー』の日本語版に、訳者・佐藤雅彦氏が訳注としている書籍では省略した原稿がウェブ上で掲載されており、一般的に公開されていない専門的なものなので一部抜粋した。関心のある読者は是非ウェブ全体を読まれたい。
「機密取扱資格(セキュリティ・クリアランス)」は、機密指定になった情報を閲覧する資格を、個々の人員に与える手続きを指す。機密情報の所有者は、国家安全保障の観点からみてその情報を知るに足る人物が、合法的で正当な根拠を持った国家統治目的を成し遂げる目的で機密情報を見たいとか、知りたいとか、保有したいと求めてきた場合には、「必要限定開示(Need-to-Know)」の原則――つまり「必要時にのみ必要な情報だけを必要な人にだけ供給する」という機密管理の原則――に基づいて、その人物に機密情報を提供することになる。
 米国政府・軍部の諜報共同体においては、機密情報や秘密情報の取扱資格を受けるにふさわしい、と見なされた人物は国防保安局(Defense Security Service)の身元調査(BI)を受けることになっている。さらに「最高秘密」やそれよりも機密度の高い「取扱注意で断片的にのみ開示されうる諜報成果(SCI)」の取扱資格を与えるべき候補者には、「望遠鏡的身元調査」(SBI)を行なうことになっている。
また、「機密指定の段階種別」は諜報活動によって得られたデータや成果に対する閲覧行為を管理統制するための最も基本的な方法は、個々の諜報データや諜報成果に、必要な「機密度」に応じた段階別の機密指定を行なうことである。それぞれの「機密の段階」に応じて、「必要時にのみ必要な情報だけを必要な人にだけ閲覧させる」という"必要限定開示"の原則にもとづき、機密取扱資格を与えられた人々に情報を見せるわけである。
「最高秘密(TOP SECRET)」は、正当な権限を持たない勢力に知られた場合には国家安全保障に極めて重大な損害をもたらす恐れがあると予測されるような情報を指す。
(略)
「取扱注意で断片的にのみ開示されうる諜報成果(SENSITIVE COMPARTMENTALIZED INTELLIGENCE)」(略称SCI)は、この機密指定で保護対象となるのは偵察衛星・偵察機・潜水艦などが収集した諜報データなどである。
 「取扱注意で断片的にのみ開示されうる諜報成果」の閲覧資格を得るためには「最高秘密」閲覧資格に必要な身元調査を凌ぐ厳格な身元調査を受けることになっており、完全に信頼できる人物だと判定されぬ限り閲覧資格は与えられない。「最高秘密」への閲覧資格を有している者でもこの機密指定文書への閲覧が許可されない場合がありうる。

(筆者注7)ナザニエルは現在オレゴン州立大学工学部の学生である。

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