2010年11月4日木曜日

日本とベトナムの「アジアの平和と繁栄に関する戦略的包括的開発に関する共同声明」の全内容



 2010年11月1日の各社の朝刊は10月31日に日本がベトナムの原子力発電施設の建設につき「協力パートナー」(2基の建設受注の内定)とするほか1兆円規模のプロジェクトの受注、レアアース(希土類)の共同開発に関する共同声明を採択したと報じた。
 これはわが国の経済協力活動の話である。一方で、わが国の原子力発電支援の前提として今年の6月以降交渉を進めてきているベトナムとの「原子力平和利用に関する協定交渉」の結末はどうなったのか。わが国のメディアは「実質合意」があり早期署名を目指すことを確認したと解説している(どのような協定案が策定されているのか国民は「蚊帳の外」である)。(筆者注1)
 当然ながらわが国の外務省のサイトで確認したが、そこにある説明は、10月7日の第2回交渉までである。実は10月19日にハノイで第3回交渉が行われている。(筆者注2)

 ベトナム政府の外務省(MOF)サイトで確認したが、その内容は公開されていない。しかし、「アジアの平和と繁栄に関する戦略的包括的開発に関する日越共同声明(Japan-Vet Nam Joint Statement on the Comprehensive Development of Strategic Partnership for Peace and Prosperity in Asia)」については確認できた。

 今回のブログは、同共同声明につきベトナム政府外務省の「プレスリリース全文」(筆者注3)を仮訳で紹介するとともに、ODA支援を含めベトナムが日本をどのように見ているか、日本のベトナムへの経済やその他の支援の実態等についての正確かつ包括的な情報提供を目的でまとめた。(ベトナム政府の公式サイトの記事・写真参照)
 
 筆者独自に注釈つき仮訳作業した後、「外務省の仮訳」結果を同省のサイトで確認した。外務省のサイトの発表日付は10月31日となっている筆者が同日確認したときには存在しなかった。(今まで気にしなかったが、日越共同声明文ということは事務方段階で声明文の内容は発表前に完全に詰めているはずであり、合意後に後から和訳(それも仮訳)を発表すとはいかにも準部不足の謗りを免れないと言えよう。また外務省のサイトでは声明文原文(英文)が添付されていないのはどういうことか。ベトナム政府外務省のサイトをわざわざ探せということなのか、手順が甘い。

このような翻訳作業のみは筆者が本来意図するものではない。わが国の外交、経済協力、文化交流を理解するのは単なる声明文を仮訳して公開するだけで良いとは思えない。本ブログと外務省の仮訳文とをじっくり比較して欲しい。

 読者は気が付かれていると思うが、本ブログは単に海外メディア情報を訳すサイトではない。その背景にある理念は、国際社会を公的機関等の情報に基づく最新情報で理解し、正確かつ肌で感じる国際性を身につけて欲しいと願うボランテア精神である。

 なお、筆者が本当に注目しているのは実は米国のクリントン国務長官の東南アジア外交戦略(筆者注4)の内容である。DOSからの情報を日々読んでいるうちに今回の記事の件を思いついたのである。この件は別途まとめたい。


1.はじめに
 グエン・タン・ズン ベトナム社会主義共和国首相閣下(H.E.Mr. Nguyễn Tấn Dũng )(筆者注5)の招待により、日本の管直人首相閣下(H.E.Naoto Kan)はアジア・サミットに引き続き10月30日~31日にわが国を公式訪問した。
 訪問の間、管直人首相はグエン・タン・ズン首相と首脳会談(summit meetingを行うとともに、ノン・ドゥック・マイン共産党中央執行委員会書記長(H.E.Mr. Nông Đức Mạnh )およびグエン・ミン・チェット大統領元首(H.E.Mr. Nguyễn Minh Triết)を表敬訪問した。

 10月31日のグエン・タン・ズン首相と管直人首相の会談では、2人のリーダーはこの数年における両国の相互関係の重要な発展を歓迎するとともに、より強力で包括的な方法でアジアの平和と繁栄に向けた戦略的協力関係を構築する意思を共有した。

2.意見交換と対話の強化
・両国は、毎年実施する訪問による首脳レベルの会談を実現し、あらゆるレベルでかつあらゆる領域で対話のルートを強化することの重要性を確認した。

・両国は、2011年の出来るだけ早く都合の良い時期に新しいベトナムのリーダーが日本を訪問することへの期待を表明した。

・両国は、2011年に関係大臣ならびに両国の行政機関の高級官吏が参加した第4回「ベトナム・日本協力委員会(Viet Nam –Japan Cooperation Committee)」を開催し、総合的な相互協力関係強化を図ることを決定した。

 また、両国は2010年12月に包括的な政治、外交、防衛および安全保障問題につき議論するため第1回「ベトナム・日本戦略協力対話(Viet Nam –Japan Strategic Partnership Dialogue)」を開催することを決定した。両国はこのような両国間の対話がアジア地域の平和、安定と繁栄に貢献するという見解を共有した。

3.ベトナムへの日本の経済協力
・ベトナム側は、ベトナム政府およびその国民は日本がODA(政府開発援助)の最大の支援国としてベトナムの経済、社会開発に貢献したことを常に忘れずに真摯に感謝しており、またそのODA援助額は2009年度で見て1,550億円という過去最高水準に達していることを深く歓迎している。

・グエン・タン・ズン首相は、ベトナム南北高速道路、ホラック・ハイテク・パーク・プログラム(Hoa Lac High-Tech Park)(筆者注6)およびホーチミン市・ニャチャン(Ho Chi Minh-Nha Trang)間およびハノイ・ビン(Ha noi-Vinh)間の高速鉄道の2つの部門に関する実現可能性研究 というベトナムの優先インフラ計画に関する日本の支援の進展に感謝している。
 また、ベトナムはダーナン・クアンガイ(Da Nang-Quang)間の高速道路およびハノイ・ノイバイ(Ha Noi-NoiBai)間の鉄道の機能向上の重要性を日本に説明し、日本のこれらプロジェクトへの関心を引き付けた。

・管直人首相は日本の進んだ技術や専門性を利用する一方で、ベトナム側の見解に注目(take note)し、経済成長の推進、生活水の改善、セーフティ・ネット(筆者注7)、人的・制度的な組織の構築といった優先的な分野での支援を通じてベトナムの経済開発を強力に支援することを再確認(reaffirmed)した。

・日本側は、経済改革を進めるベトナムの決定および日本のODAに関するベトナムの反汚職問題(anti-corruption)(筆者注8)への対策措置を歓迎した。

・管直人首相は、係留施設(berth facility)の維持や実施につきベトナムと日本の企業による複合企業体により開発している「ラックウェン港複合施設(Lach Huyen Port Complex)」(筆者注9) を含む5つのプロジェクトに合計790億円の“ODA Loan”(筆者注10) を提供する旨述べた(expressed)。

・グエン・タン・ズン首相は、これらの支援に感謝するとともに日本政府が「ロンタイン国際空港建設計画(Long Thanh international air port project)」(筆者注11)、「ニンビン・バイボ(Ninh Binh-Bai vot)」間の高速道路計画、「ニャチャン・ファンティエット(Nhas Trang-Phan Thiet)」間の高速道路計画および新しい地下鉄線計画につき補助することを重要視し、迅速に決定したことに感謝する。

・管直人首相はベトナムの経済発展と国民の生活改善を支援すべく日本のODAを拡大し続けるという首相の意思を述べた。また管直人首相はベトナムとの人材開発やベトナムにおける支援産業の開発に向けた強固な協力活動を行うことを確認(affirmed)した。

4.貿易と投資
・両国は、ベトナム社会主義共和国と日本の間の貿易の自由化、推進、投資の保護に関する「経済連携協定(Economic Partnership Agreement )」(筆者注12)による経済協力協定がより大きなもの、サービスおよび投資プロセスを推進することで両国間の新たな段階と相互に利益をもたらす経済協力を推し進めることを再確認した。
・また、両国は経済関係の強化は企業部門のビジネスの機会と利益を膨らませ、両国の経済開発に貢献し、かつベトナムと日本の国民の幸福・福祉を増加させることに合意(agreed)した。

・両国は、前記協定(Agreement)が「WTOの多国間貿易システム(WTO multilateral trading system)」(筆者注13)の目標達成に貢献することを確認した。
 また、両国は経済連携協定に従い自然人の移動の自由交渉を促進させる必要性を確認した。

・日本政府が可能な限り時期にベトナムの完全市場経済状態を認めるべきというグエン・タン・ズン首相の要求にこたえるべく、両国はこの問題を検討する加速過程を加速させるべく取る組むこと、ならびに2010年12月にベトナムの完全市場経済化に関する第2回会合を開催することを決定した。

・両国は、ベトナムと日本との「ベトナムの競争力強化に関するビジネス環境改善のための共同の取組み(Vietnam-Japan Joint Initiative to Improve Business Environment with a view to strengthen Vietnam’s Competitiveness)」(筆者注14)を誇るとともに、この取組がベトナムの競争力の強化とベトナムへの日本の投資拡大において効果的な役割を演じていることを共有した。

・また両国は、ベトナムにおける日本企業のためのさらなる投資環境の改善の必要性を理解するとともにこの共同的な取組の第4フェーズに対する関係当事者の意図を歓迎した。

5.エネルギー、転園資源開発および気候変動
・両国は、エネルギーの安全保障と地球環境の保護の観点から原子力エネルギーの平和的利用分野における共同活動の重要性を認識した。

・両国は、原子力エネルギー平和的な利用のために必要なインフラ開発を含む一方で、核拡散防止を保証し、ベトナムと日本が締結している国際的な条約の条項に従い安全性やセキュリティの保証の必要性を理解して、原子力エネルギー分野の相互協力を強化するとともに新たな観点からこの協力関係を高めるつもりである。

・両国は、出来るだけ早期に平和利用協定に署名できるよう期待しつつ、ベトナム・日本の原子力エネルギーの平和的利用協定締結のための実質的な交渉結果が成功裡にあることを歓迎する。

・ベトナム側は原子力の平和的利用に関する日本の継続的な支援を高く評価する。ベトナムは、日本からの提案の検討結果を踏まえ、ベトナム政府は日本をベトナム・ニン・トウアン州(Ninh Thuan)に建設予定の2基の原子力発電所の原子炉(reactor)の建設の協力パートナーとして日本を選択・決定した。

・管直人首相はこの決定を歓迎し、日本はベトナムが設計するこの計画の実現可能性研究の指揮の支援、低利の融資や同プロジェクトへの優先的融資、最も高い安全性基準に合致する最先進技術の使用、日本の技術移転や人材教育、廃棄物処理に関する協力ならびに本プロジェクトの全期間における安定的な物資の提供を保証した。

・両国は、上記で述べたプロジェクトの関係文書の署名を早期に実現するための作業を続けるため、2国の関係する機関や事業者による作業を協力して行った。

・ベトナム側は、鉱山資源、石炭、天然ガス、石油備蓄(oil stockpiling)、石油、電気、エネルギーの効率性や保存、クリーン・エネルギーおよび情報通信技術(ICT)について日本の協力に感謝する。
 両国は、共同地質調査の形式でのベトナムにおける「レアアース(rare earths)」の開発、人材開発、持続的資源開発のための環境にやさしい技術の移転、および政府対政府間の共同R&Dプログラムに関し協力を推進することを確認した。

・グエン・タン・ズン首相は、ベトナム側が日本をベトナムにおけるレアアースの調査、探査、開拓(exploitation)および処理におけるパートナーとして決定したことを発表した。
・管直人首相は、この決定を歓迎するとともに、両国によるレアアースの開発において日本側が支援する財政的および技術的な準備としての各種方法によりスムーズに進むことを期待するとした。

・両国は、森林緑化協力(forester-related cooperation)や海面上昇(sea level rise)等にインフラ構築計画など気候変動分野での現下の協力を再確認した。両国は、この分野の協力をさらに推し進めるという決定を確認した。

・両国は、クリーンエネルギー開発、環境保全という省エネルギーに関する先端技術が環境と経済を互換性のあるものとする上で、持続的な成長をなしとげつつ機構変動問題に取り組むことが極めて重要であることを確認した。

・両国は、双方の「オフセット・クレジット・メカニズム」(筆者注15)の将来的な確立を含むこれらの目的の実現と意見交換の目的で両国の関係政府機関に取組むことで合意した。

・両国は、気候変動問題の解決が差し迫った必要のある問題であることを認識し、また両国がすべての経済大国が参加する公正かつ効果的な国際的な枠組みの構築に向けて国際交渉に協力することを再確認した。

6.科学および技術面での協力
・両国は、2009年6月19日にハノイで開催した「ベトナム・日本の科学および技術に関する共同委員会(Viet Nam-Japan Joint Committee on Science and Technology)」を思い起こすとともにその成果を歓迎した。

・ベトナム側は素両国の宇宙協力を促進するため日本の努力ならびにAPEC2010の議長国である日本に役割に感謝するとともに2010年11月に日本で開催する第18回APEC首脳会議の成功のために緊密の働くことを確認した。

・両国は、アセアンと日本、アセアン+3(日本、中国、韓国)とEAS(東アジア首脳会議)のような既存の地域の枠組みについてより緊密な協力の重要性について再度強調するとともに相互の利益となる各種分野での協力の推進に関する決定を再確認し、「東アジア包括経済連携(Comprehensive Economic Partnership in East Asia)」に関する研究、「東アジア・アセアン経済研究センター(Economic Research Institute for ASEAN and East Asia: ERIA)」(筆者注16)への効果的な寄与を含む東アジア地域の統合に向けた努力を奨励した。

・両国は、国連が21世紀に向けより現実に対処できるため、世界を代表すること、正統かつ効率的な機関であるため恒久的および非恒久的の双方の範疇を拡大を含む国連安全保障理事会の早期改革に向けた協力を進めるべく決定を再確認した。ベトナム側は、日本が常任理事国になるよう支援することについて再度確認した。

・両国は、「2005年9月の六者会議の共同声明(September 2005 Joint Statement of the Six-Party Talks)」および「関連する国連安全保障理事会決議(UN Security Council resolutions)」(筆者注17)に従い、「朝鮮半島エネルギー開発機構(The Korean Peninsula Energy Development Organization:KEDO)」の完全かつ証明された非核化の実現を支援することを再確認した

・両国は、国際社会の人道主義の懸念問題につきその解決の重要性を強調した(underlined)。

・両国は、管直人首相のベトナムへの初めての公式訪問の結果が大変満足のいくことを表明し、また今回の訪問がベトナムと日本の友好的かつ多元的な協力体制の新たな段階の幕開けであるという認識を共有した。

2010年10月31日 ハノイ


(筆者注1)わが国のベトナムとの経済・政治・文化関係を整理するには外務省サイトで確認できる。


(筆者注2) http://www.presscenter.org.vn/jp/content/view/1239/27/を参照した。

(筆者注3)日本・ベトナム政府間の共同声明文の「要約リリース」もベトナム政府は公表している。しかし、内容的に見て具体性がないのであえて全文を仮訳した。

(筆者注4)クリントン長官の直近の外交日程を掻い摘んで紹介する。10月29日グアム米軍基地、10月30日ベトナム、10月30日~11月1日(10月31日にはバーレーン王国訪問)、11月2日マレーシア、11月4日ニュージーランド等である。

(筆者注5)外交用語“H.E.” について補足しておく。“high explosive”略語である。「閣下」と訳すと分かりやすい。くれぐれも「高性能爆弾」と訳さないように。

(筆者注6) “Hoa Lac High-Tech Park”:「 本プロジェクトは、ハノイ西約30km(ハタイ省)に立地し、1998年JICA(国際協力機構)マスタープランに準拠し、同年10月12日ベトナム国首相承認を得て推進中のプロジェクトです。(総開発面積1650Ha,完成予定2020年)
 研究開発ゾーン、ソフトウエアゾーン、ハイテク工業ゾーン、そしてICTプラットフォームを基盤に、人材開発・新規企業育成・ハイテク技術移転・生産等を目途としたベトナム国の初の開発モデルとして、国際共同プロジェクトとして推進されています。
  現在、我国(経済産業省)の協力の下、現地にVietnam-Japan E Learning Center, 及びVietnam IT Examination Center (VITEC)の運営を行っています。」(参加企業ヴァイコム社サイトから引用)。
なお、2006年のものであるが、駐越南台北經濟文化辦事處科技組(ベトナム・ハノイ駐在台湾経済文化事務所・科学技術部)が作成しているパワーポイント資料はイメージが分かりやすい。

 ベトナム政府の「ホラックハイテク・パーク・プロジェクト(HHTP」専用サイトで最新の動向が見ることが出来る。

(筆者注7) わが国では「セーフティ・ネット」について正確な意義を解説したものがない。発展途上国だけでなく世界の先進国でさえこの問題に根本から取る組まざるを得ない状況にあり、ここで説明しておく。
「セーフティ・ネット(安全網)とは元々サーカスの空中ブランコの下に張られたものから由来している。セーフティ・ネットは、空中ブランコの演技者が演技に失敗して下に落ちる事故を未然に防ぎ、軽減すると共に、演技者に安心感を与え、思い切った演技を行わせるという役割を果たしている。セーフティ・ネットの目的は3つあり、第一に、不幸が発生したときの損害を最小にする、第二に、被害が生じた時の補償を行う制度をあらかじめ用意しておく、第三に、セーフティ・ネットの存在によって安心感が与えられたことによる効果(人々が失敗をおそれず勇気ある行動を取ること)を期待する、ことである。一方、セーフティ・ネットの提供はモラルハザード(倫理の欠如あるいは制度の悪用)の問題を招き、ネガティブな効果が生じる場合もある。例えば、年金や健康保険、失業保険などで手厚い支給が得られるようになると、人は怠慢になり、働かなくなったり、ただ乗りしたりすることが生じる。SSNは傷病や失業、貧困など個人の生活を脅かすリスクを軽減し、保障を提供する社会的な制度やプログラムを総称するものということができる。SSNの主要な内容には、年金や健康保険、失業保険などの社会保障制度、障害者や母子家庭、高齢者、児童などの社会的弱者に対する福祉・社会サービス、失業者対策として雇用創出を図る公共事業や職業紹介・職業訓練、貧困層への食料補助、教育補助、住宅整備など幅広い支援が含まれる。これらの制度やプログラムは病気や失業、貧困などのリスクに見舞われたときにリスクを軽減し、保障を提供するものである。」JAIC研究所「ソーシャル・セーフティ・ネットに関する基礎調査 -途上国のソーシャル・セーフティ・ネットの確立に向けて-(2003年10月)」第2章第1節から引用。

(筆者注8)ベトナムだけでなくインドネシア等でも汚職・賄賂問題は現地に進出する日本企業にとって極めて大きな問題である。
 今回の声明で取上げられている両国間の合意とは、2009年2月に報告が行われた「日本・ベトナムの日本のODA関係汚職の防止のための具体的手段にかかる共同委員会報告(Japan-Vietnam Joint Committee for Preventing Japanese ODArelated Corruption (Anti-ODA-related Corruption Measures)」を指すといえよう。

なお、日本貿易振興機構(JETRO)は2010年3月に日系企業向けに「日系企業のためのベトナムビジネス法規調査」を公表している。その中で「汚職防止法(Law No. 55/2005/QH11 on Anti-Corruption dated 29 November 2005」をあえて取上げていることがその証左であろう。
べトナム政府の声明ではベトナムの汚職・賄賂について具体的な説明がないが、以下のようなわが国企業の意見は本音であろう。
「官・民に及んで賄賂の授受が常態化しており、健全なビジネスの運営に支障をきたしている。(行政において、ビザの発行・更新、会社設立の申請、税務申告書類の受理など)
(民間において、購買担当など購入決定者に賄賂を提供することが常態化している点)
・・・上記腐敗闘争に関する通達によると、汚職とは、政府官吏によって、職務遂行の間に政府、組織または個人の利益に損害をもたらすような役人自身の利益のために行われる行為である。汚職は、職務遂行の間に個人の利益のために、資産の流用、賄賂または職権の濫用を含む。政府官吏は、民間企業、パートナーシップ、協同組合、民営の病院、学校、団体の設立及び経営が禁止されている。汚職を犯した政府官吏は罰せられるか、労務の懲戒措置に服さなければならない。50万ベトナムドン(約30米ドル)以上の賄賂を受け取った者、または500万ベトナムドン(約330米ドル)以上の資産を横領した者は、刑事上の罰金の対象となると告示されている。」(「貿易・投資円滑化ビジネス協議会-各国・地域の貿易・投資上の問題点と要望 「2009年版」―」から一部抜粋)。

(筆者注9) 2002 年に策定されたベトナム北部地域における深水港開発計画(ハイフォン国際ゲートウェイ港開発計画)では、ラックウェン(Lach Huyen)海域が開発対象として選定された。同プロジェクトには日本企業3社(伊藤忠、商船三井(MOL)、日本郵船(NYK))が日本政府のODA融資を背景に参加している。

(筆者注10)“ODA Loan”とは「円借款(有償資金協力)」をいう。すなわち、本政府が途上国政府に対し、円建てで貸付を行うことを総称して円借款という。通常は国際協力銀行(JBIC)が実施する政府開発援助(ODA)借款のことを指す。贈与を基本とする無償資金協力に対し、有償資金協力ともいう。円借款の貸付条件(金利、返済期間、据置期間)は商業ベースのものと比べ、きわめて緩和されたものとなっており、平均金利は約年1.4%、償還期間の平均は約35年。形態的には開発途上国政府の開発ニーズに合わせてプロジェクト借款(道路や橋梁、発電所などの経済・社会基盤整備)とノン・プロジェクト借款(構造調整借款、セクター・プログラム借款など)に大きく分けられるが、特に経済発展に必要な経済・社会基盤整備部門で資金需要が高い。(JICS:「調達用語集」より引用)
なお、“ODA Loan”の詳細な説明は(財)日本国際協力システム(JICS)のサイトに詳しい。

(筆者注11) 「ロンタン国際空港建設計画(Long Thanh international air port project)」は(ベトナム南部ドンナイ省に開設し、2011年までに運用開始、最大年間1億人の乗客を運ぶ予定である。

(筆者注12)2008年12月25日に署名・締結した日本・ベトナムの「経済連携協定(EPA)」については外務省サイトで経緯も含め確認できる。なお、わが国のEPA戦略の意義とビジネスのための手引きを外務省「対外経済対策総合サイト」は用意している。

(筆者注13) “WTO multilateral trading system”問題は2010年APECの 主要議題であり、6月5日~6日,札幌市において,APEC貿易担当大臣会合(MRT)が開催された。岡田克也外務大臣および直嶋正行経済産業大臣が議長を務め,APEC参加21エコノミーの貿易担当閣僚等が参加した。今次会合の成果として,「議長声明」および多角的貿易体制の支持と保護主義の抑止に関する「閣僚声明」が出されている。(APEC JAPAN 2010サイトから引用)

(筆者注14)ここでいう両国の共同取組みの行動計画(action plan)ついて外務省サイトでは詳しい解説はない。その経緯について簡単に補足しておく。
2003年4月7日、小泉首相とファン・バン・カイ(Phan Văn Khải: Phan Van khai)ベトナム首相は東京でベトナム・日本のベトナムの競争性強化に関するビジネス環境改善のための共同の取組み(Vietnam-Japan Joint Initiative to Improve Business Environment with a view to strengthen Vietnam’s Competitiveness)につき検討することに合意した。
4月8日、第1回目の委員会が開催され、共同委員長として服部則夫(当時ベトナム日本大使)、宮原賢次(日本経団連)、ヴォン・ホン・クォック(Vo Hong Phuc)ベトナム計画投資省大臣
、ヴー・ズン(vu dung)ベトナム日本大使である。その他両国の官民代表が出席した。
2003年12月4日第1段階の最終報告書「ベトナム・日本のベトナムの競争性強化に関するビジネス環境改善のための共同の取組み」が報告され両国の委員がこれに署名した。
2007年11月に第2フェーズ報告書がまとめられ、第3フェーズの検討に入った。
“foreign direct investment (FDI)”がキーワードである。

(筆者注15) 「オフセット・クレジット・メカニズム」につき補足する。“カーボン・オフセットとは、市民、企業、NPO/NGO、自治体、政府等の社会の構成員が、自らの温室効果ガスの排出量を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量について、他の場所で実現した温室効果ガスの排出削減・吸収量等を購入すること又は他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動を実施すること等により、その排出量の全部又は一部を埋め合わせることをいう仕組みをいう。(環境庁の定義)


(筆者注16) 「東アジア・アセアン経済研究センター(Economic Research Institute for ASEAN and East Asia: ERIA)」は、東アジアの経済統合に資する政策研究および統計資料の整備などを通じた政策提言活動を実施することを目的として、主として日本政府の出資により設立された国際研究機関である。(Wikipediaから引用)

(筆者注17)外務省の資料によると、2007年6月に開催された「G8ハイリゲンダム・サミット」において「議論をリードする形で北朝鮮による核兵器開発は容認できず、引き続き国際社会として圧力をかける必要がある、拉致問題は国際的広がりのある人道問題であり、G8として連携して強い対応をとる必要がある、これらについて国際社会は北朝鮮に対して明確なメッセージを送るべき旨述べた。その結果、参加首脳の支持を得、議長総括で力強いメッセージを発出することができた。」とある。さらに「首脳文書関係部分」として、「 我々は、北朝鮮に対し、NPT上の義務を完全に遵守するとともに、2005年9月19日の共同声明及並びに安保理決議第1695号及び第1718号に従って、すべての核兵器及び既存の核計画並びに弾道ミサイル計画を放棄するよう求める。我々は、六者会合及び2005年9月19日の共同声明の誠実かつ完全な実施に向けた第一歩としての2007年2月13日に合意された初期段階の措置の速やかな実施を完全に支持する。我々は、北朝鮮に対し、拉致問題の早急な解決を含め、国際社会の他の安全保障及び人道上の懸念に対応するよう求める。」とある。今回のベトナム政府の声明はこれらを踏まえたものといえよう。

〔参照URL〕

http://www.mofa.gov.vn/en/nr040807104143/nr040807105001/ns101031193902#dVpQCq3moNTB

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