2010年7月9日金曜日

米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦規制・監督機関やEU関係機関等の対応(第3回)

 
 6月24日付けの本ブログ6月29日のブログで、世界的に注目されている歴史的海洋汚染事故である米国「ディープウォーター・ホライズン(Deepwater Horizon)」 の半潜水型海洋掘削装置(rig )爆発事故とその後の大規模な原油流失について連邦監督機関の対応を中心に2回にわたりとりあげた。

 今回は、EU等国際的石油掘削メジャーの監督にあたる国々の対応にも厳しさが増している状況を反映するため、さる7月7日、欧州委員会エネルギー担当委員のギュンター・エッテインガー(Günther Oettinger)氏が欧州議会総会で行った「沖合い(offshore)の原油探査や採取についてリスク、責任および規制強化」と題するスピーチの内容を仮訳で紹介する。

1.欧州議会総会での欧州委員会エネルギー担当委員のスピーチ
 2010年7月7日、欧州議会総会で欧州委員会エネルギー担当委員ギュンター・エッテインガー(Guenther Oetttinger)氏は「沖合い(offshore)の原油探査や採取についてリスク、責任および規制強化」と題するスピーチを行った。欧州委員会の域内の関係大手企業へのアンケート調査の実施や加盟国の規制監督機関や法制度のあり方につき対策の考えが明示されているので、ここでその要旨を紹介する。(筆者注1)

2.要旨
・本年5月の本総会において私が初めて本件につきスピーチを行った時は、域内の沖合いの原油掘削大手企業の代表者を召集した時期であった。私は各企業の安全政策の精査に関するアンケートの回答を要請した。

 我々は来週7月14日開催の会合で、潜在的な弱点を特定するため適用すべき基準と手続の双方を見直すつもりである。私は、その翌15日に欧州議会環境委員会(European Parliament environment committee)を開催し、その結果を踏まえたエネルギー委員としての提案を行うつもりである。これと並行して関係する委員会事務局で既存の法律を詳しく調査している。

 エネルギー委員会の調査の中間結果で、沖合い採掘の安全性に関し多くの複雑な法律が関わっていることを示している。しかしながら、法律の数自体はあまり多くはない。重要なポントは以下の点である。

①これらのすべての法律は損害発生後のフォローアップと同様、リスク管理とその予防のために十分完全な形で適用できるであろうか?
 答えは簡単ではない。これは私が最も関係が深い委員会の仲間であるクリスタリナ・ゲオルギエヴァ(Kristalina Georgieva (EU International Cooperation, Humanitarian Aid and Crisis Response Commissioner) (筆者注2)、マリア・ダマナキ(Maritime affairs and fisheries Commissioner)(筆者注3)、ヤネス・ポトチュニック(Janez Potočnik (Environment Commissioner)(筆者注4)と緊密に働いている理由である。

 我々の考えは、手続のすべての過程で被害の予防から対処や責任問題についてカバーできる体制にもっていくことであり、この意味で本日、私の次にスピーチするマリア・ダマナキ氏は、我々が直面している海事問題に関しメキシコ湾大事故を文字通り潜在的再生可能な海洋エネルギー(renewable ocean energy)の確保の機会としてどのように変えうるかにつき言及するであろう。

 いかなる適切な規制制度がありまた監督されていても、第一に取組むのは産業界であり個々の企業である。彼らが完全に責任を持つべきことを理解しているがゆえに安全問題は最大の関心事であらねばならない。彼らは彼らの側から100%安全第一主義政策を維持しなくてはならない。安全には抜け道はない(Safey is not negotiable)。
 運用方法と労働者の安全性に関し、我々はEUの法律が定める基準や諸原則は高いレベルを提供していることを確認した。

 企業の責任に関し、「汚染実行者が支払う」と言うのが環境賠償責任の基本原則である。全体的に見て欧州の適用法は、この種の産業活動に伴うさまざまな危険と挑戦について記述しており役に立つといえる。
しかしながら、改善の余地があることも見出している。現行法制をより明確化し最新の内容にすることが出来よう。今後数ヶ月以内に我々は必要と判断するなら立法上のイニシアティブをとることに躊躇しないので安心していただきたい。

 また、このことは私が7月14日に加盟国の規制や監督当局のとの会合を開く理由である。ポトチュニックやダマナキ委員とともに安全性強化のための具体的措置につき論議する予定である。規制上の問題と同様に運用面の問題が議論されるであろう。規制面の問題について、私はEU基準が世界で最も厳しい体制を維持するため可能な限り最高に高いレベルに設定したいと考えている。
 同様にコントロールが有効であるという確証を得たいと思う。この点につき、私は必要なら「企業の管理者を管理する(controlling to controllers)」ための欧州の枠組み造りを提案することも辞さない。

②7月中旬に私はEUの行政機関や立法担当者とともにワシントンに出向きディープ・ウォーター・ホライズン原油流失事故の最も最近時の対応につき論議する予定である。
 私は、このような対話が国際基準強化を確実にする上で重要であると信じる。状況の正確な調査結果を持つためにはメキシコ湾における原油流失の正確な真の原因を知る必要があることは明らかである。しかしながら一方で、正確な原因を知る予防対策(precautionary principle)が優先されるべきである。この点につき米国やEUでない国のいかなる監督機関も予防措置を実行するよう助言を受けるであろう。

③最後に、EUの安全と環境を維持するため取るべき行動につき重要な5つの点につき概観する。これは事故の予防、救済および責任と関係する。

1.迅速な対応行動
 さしあたりあらたな油田掘削につき最大の警告を発しなければならない。一般的にいわれているとおり、現在の状況下ではいかなる責任ある政府も実際あらたな掘削の許可は凍結させるであろう。このことは事実上事故原因が判明し、ディープ・ウォーター・ホライズンによって実行される最先端の運用のための是正手段が取られるまではモラトリアムが発動することを意味する。

 各国政府は産業界がより安全性を改善のため、取りうるすべての手段を立上げ、極端な天候や地球物理学状況下で適用可能な最も高いレベルに合致する災害阻止を実行できることを確認する必要がある。緊急対策計画を見直し、もっとも良い実践結果に基づき強化しなくてはならない。許可手続において現場の重大な事故発生時に担当オペレーターが特定の操作能力についてデモンストレーションを必要とすべきである。これと同様に、企業には引き起こされた損害に対し完全に責任を持てる財務力も必要である。我々はこのことにつき特別な欧州基金やその他の適切な堅固たる付保義務にかかわらず、何が最もよい道具となりうるかを良く考えなければならない。

2.強固な認可体制を通じるだけでなく徹底した調査と管理により既存の事故予防レベルを再強化すべき
 各国の監督機関と欧州レベルの機関の分業はもはや十分でない。相乗効果を育て相互の協調効果を高め、かつ「企業の管理者を管理する(controlling to controllers)」といったあらたなモデルを必要とする。我々は産業界の安全実績と産業界を監督する公権力の警戒にとって透明性を増す必要がある。

 国民には知る権利があり、かつあらゆる許された情報にアクセスできる権利を持つ。透明性は最大の法遵守と予防措置を確実にする上で強い同盟者である。

3.既存の法令に基づく「負荷試験(stress test)」の完全実施
 遅滞なく我々は現行法令の分析と完全実施し、改善のための可能な弱点・ギャップ・改善の余地を特定するための適用基準を完全に実施しなければならない。我々の法律制度の枠組みは、最善の業界実践と明確な責任体制に対し、安全に関する最高の水準を保証することにある。

 最終的な分析結果において示される正確な弱点が何かによって、我々は既存法の改正または沖合いの掘削活動に関する特別な立法であれ、それに対応する立法案を提示することに躊躇はしない。

4.我々は欧州レベルでどのように災害をコントロールし、災害介入メカニズムで強化できるかにつき考えたい。
 これらの仕事は、現在欧州委員会のモニタリング・情報センターを介した支援を含む総合的なEU災害対応能力の一層の強化問題として進行中である。
 リスボンに本部のある「欧州海上保安庁(European Maritime Safety Agency)」は、すでにそのような施設の原油流失事故において有意義な介入を行っている。他方で、査察や検証活動等の予防的責任は現在のEMSAとは完全に異なる能力が必要となる。我々はそのような能力をどこの機関がどのように開発するか、陸地での掘削と海での掘削とで分けるべきかという問題も含め十分に反映すべきと考える。

5.既存の国際または地域の安全基準の強化のため国際的な協力を行いましょう


(筆者注1) 筆者は7月7日のスピーチの件は 7月7日付けのブルームバーグの記事で読んでいた。念のためEUの公式リリース“Pressrelease RAPID”で確認したところ公表されており、また欧州委員会の取組みの基本姿勢が明記されていたので急仮訳した次第である。

(筆者注2) クリスタリナ・ゲオルギエヴァはブルガリア出身(新任)で欧州委員会の国際協力・人道援助・危機対応担当委員である。

(筆者注3)マリア・ダマナキはギリシャ出身(新任)で欧州委員会の漁業・海事担当委員である。

(筆者注4) ヤネス・ポトチュニックはスロヴェニア出身(再任)で欧州委員会の環境担当委員である。

[参照URL]
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=SPEECH/10/368&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
http://www.bloomberg.com/news/2010-07-07/eu-energy-chief-urges-ban-on-new-offshore-drilling-until-bp-probe-finished.html

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