2010年6月29日火曜日

米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦規制・監督機関やEU関係機関等の対応(第2回)

 
 6月24日付けの本ブログで、世界的に注目されている歴史的海洋汚染事故である米国「ディープウォーター・ホライズン(Deepwater Horizon)」 の半潜水型海洋掘削装置(rig )爆発事故とその後の大規模な原油流失についてとりあえず第1回目の報告を行った。

 今回は、6月20日記載時に時間の関係で十分言及できなかった、(1)連邦内務省の下部機関で石油やガス施設の掘削認可・監督機関である「海洋エネルギー管理、規制、執行局(Bureau of Ocean Energy Management, Regulation,and Enforcement:BOE)(同局は6月17日即日施行で従来の「鉱物資源管理局(Minerals Management Service:MMS)」から職員等の倫理面強化や権限の細分・明確化による監督強化のため改組・改革・改称し、連邦内務省長官ケン・サラザール(Ken Salazar)(筆者注1)は元連邦司法省監察官(former Justice Department Inspector General)のミシェル・ブロムウィッチ(Michael Bromwich)を局長に任命するといった取組みの背景、(2)連邦商務省・海洋大気保全庁(National Ocean and Atmospheric Administaration: NOAA)の取組状況について解説する。

 特に、今回、ディープウォーター・ホライズンの司法省、内務省(BOE)、エネルギー省を除く環境、保健、食品連邦関係機関や関係州の取組みについて網羅したサイトが、連邦保健福祉省・国立衛生研究所(The National Institutes of Health :NIH)) NIH・国立医学図書館(The National Library of Medicine :NLM)の「大規模災害情報管理センター(the Disaster Information Management Research Center)」サイトであることが分かった。(筆者注2)

 次回以降、USCG、FDA といった連邦環境調査や沿岸安全保持機関、食品安全保障機関や漁業規制機関等の取組状況について解説する。

 また、EU等国際的石油掘削メジャーの監督にあたる国々の対応にも厳しさが増している。さらに、当然のことながら環境保護団体はBP社のコンプライアンスや労務管理態勢につき重大な指摘を行っており、その内容も合わせて解説する予定である。


Ⅰ.「海洋エネルギー管理・規制・執行局(Bureau of Ocean Energy Management, Regulation,and Enforcement:BOE)への組織改組・改革と新人事を巡る課題

1.連邦内務省のMMSの抜本的機構改革の背景と内容
 内務省(DOI)のサラザール長官は5月19日、6月21日にMMSの改組に関する長官令と人事発令を行った。

 その内容を理解する上で、同長官が2009年1月に行ったMMSの独立性強化、改組のための連邦議会行政監査局(GAO)や内務省監査総監(Inspector General:IG)が指摘したMMS職員倫理基準、資源収入の支払方針やプログラムについて監視機能強化と納税者への公平な還付を保証、さらに積極的な沖合いのエネルギー構成施設の更新についての連邦関係機関のバランスを取るといった「MMS改革プログラム10原則」を理解しておく必要がある。

 これまでの経緯やその内容は、わが国ではほとんど解説されていないが、米国のオバマ政権のエネルギー戦略に関する重要な内容であり、以下、概要をまとめておく。

(1) 2009年8月31日にGAOが行った厳しいMMS改善勧告報告
 GAOが行った報告「Royalty –in-Kind(RIK)-Program:MMSはロイヤルティ収入の権利者としての当然の権利を的確に行使しておらず、結果として当然受けるべき数百万ドルにわたる 財務収入利益受領権行使を合理的に保証していない(MMS Does Not Provide Reasonable Assurance It Recieves Its Share of Gas,Resulting in Millions in Forgone Revenue)」の内容は概ね次のとおりである

・MMSは2008年財政年度でMMSは“Royalty –in-Kind(RIK)”方式でガス販売収入として24億ドル(2,160億円)を得た。GAOが重要視するのはMMSが当然の権利を持つ範囲でRIKガスを受け取っていることを納税者に対し保証する義務がある点である。「MMSがRIKに基づき所有するガス量」、「MMSのガス占有割合」、および「ガス生産不均衡調整(gas imbalance)」(筆者注3)として実際にMMSが受け取るガス量の相違が重要な点である。

 すなわち、次のとおりMMSにおいて十分なチェック機能が働いていない問題点をあげている。
①MMSが天然ガスの不均衡量として2,100万ドル相当を所有していると推定している一方で、同金額が適切であるか確認するすなわちRIKガス収入の100%が収入として計算できているか否かを確認する十分な情報がないーすなわちもっとMMSが得るべき金額が多いのではないかーという問題
②MMSは、RIK支払ガス会社の自主的作成報告書や割当データ(allocation data)について承認手続きが十分であるとして部分的に独自に監査しないので、RIKガスの正しい量に見合う金額を受け取っているか否かの確認が出来ない。
③仮に不均衡量を見出したとしても、PKIプログラムの担当官はその不均衡の調整や解決を行うための適切な方針や手続を持たない。
④MMSは効率的にPIKプログラムを管理する監督するスタッフと教育体制を欠いている。
⑤MMSはRIKガス不均衡によるデータ修正のための時宜に合いかつ適切なデータ提供のITシステムを持たない。2003年にMMSは民間ソフトウェア・ハウスから既製のソフトを購入してカスタマイズしたデータベースを利用している。この目的は全データを1つのデータベースにまとめデータの追跡も含め一元管理するというものであった。しかし、RIKガス不均衡データの提供能力はない。

 GAOが石油会社からの不均衡報告につき2007年1月から2008年6月の間のRIKプログラムを追跡した結果、MMSの集計表(spreadsheets)では少なくとも35%が同報告が遅延し、10%は完全に集計表がなくなっていた。この点に関し、GAOはMMSが必要な情報をすべて入手したとしても頻繁に報告の変更を手作業で行う点に注目した。すなわち、MMSは石油会社が不均衡報告をどのように提出すべきかにつき標準化した方針をもっていないのである。

 MMSが保有する利益権(royalty)の決定時にエラーが発生する機会の増加だけでなく、標準化された方針の欠如は不均衡の有無のチェックする時間がかかることにつながる。

 また、GAOは次のような事例でMMSへの石油会社の支払の遅延は納税者の還付金を受け取る機会を奪っていることを証明している。
・「連邦石油・ガス利益受領権管理法(Section 115 of the Federal Oil and Gas Royalty Management Act of 1982)」の第115条(筆者注4)は月次での不均衡報告を義務付けているためMMSのモニタリングは日次ではなく月次である。しかし、一方、石油会社は比較的原油価格が高いときはMMSの保留量を低く計算し、他方書くが低いときは保有量を多く計算する。この結果、本来価格が高い時期にMMSが得られるべき収入が少ないという問題がある。なお、この指摘に関しGAO報告では日次のモニタリング方式の採用については内務省は同意していないと記している。

(2) 内務省の「MMS改革プログラム10原則」の内容
①新しい倫理基準の設置
 サラザール長官は2009年1月、MMS役職員のための新倫理ガイドラインを発布した。MMSの全従業員は倫理教育を受け、また2009年3月に倫理綱領の遵守が要求される。

 なお、MMSは極めて莫大な石油利権に関わるため、原油掘削企業等からの収賄・賄賂等不正行為が横行し、2009年8月連邦議会行政監査局(GAO)報告やIGの指摘の概要を理解するために米国の主要メディア(New York Times、Bloomberg)を読んでみた。わが国では正確に紹介されていないこの問題につき記事等で補足する。
ブルームバーグは、サラザール長官の連邦議会下院「天然資源委員会(Committee on Natural Resources)」での証言中でGAO報告(筆者注5)等を引用し、米国のPIKプログラムの監査、会計、および従業員のモラルの低下等失敗を認めたと述べている。筆者は特に前述した倫理観の欠如がなぜここで出てきたのか、初めは理解できなかったが、IGの報告すなわち、MMSの従業員の「薬物乱用と乱交の文化」石油会社からの賄賂、セックス、コカインやメタフェタミン(ヒロポン)の乱用に事実が報告されたとある。議会もこの問題は放置せずに従来からこの問題に取組んでいる Nick J.Rahall委員長(ウェスト・バージニア州選出:民主党)等による改正法案の動きを紹介している。なお、ブルームバーグの記事は石油会社の対応等にも言及しており、参考になる。

(3)MMS業務執行プログラムの改革
①原油・ガスという現物による掘削権利用料支払方式(Royalty –in-Kind(PIK) Program)の廃止
 1982年以来が行ってきた戦略的石油備蓄(Strategic Petroleum Reserve:SPR)を含む“Royalty –in-Kind Program”とはいかなるものか、上記のとおりわかりやすい訳語も含めこの言葉だけでは理解できないし、米国メディアも丁寧に解説していない。

 MMSに“Royalty –in-Kind Program”専門サイトがある。サラザール長官の改革基本原則の優先課題である。その冒頭にGAOの勧告で指摘され議論を呼んだ “Royalty –in-Kind Program”について従来のGAOの見解を否定し効率的な財政収入手段として前向きの評価が次のとおり述べられている。(2007年2月時点の見解である)
「1982年以来、MMSは連邦保有の土地や先住民にかかる鉱物資源における連邦財務省最大の財政収入源として責任を持ち支払い受取り機関の任に当たってきた。収入額は年度ベースで平均70億ドル(約6,300億円)である。
“Royalty –in-Kind Programは財政収入活動の重要な側面を持ち、同プログラムを通じてエネルギー開発企業はMMSに現金でなく石油やガス(現物)のかたちで権利使用量を支払ってきた。MMSは石油やガスを市場で販売して財政収入に当るか、または戦略石油備蓄のためにエネルギー省に石油を提供してきた。
 2005年財政年度で見てRIKプログラムは、連邦財務省の収入として約320億ドル(約2兆8,800億円)を生み、現金(市場での商品価値:value)での支払い受取による方法よりも多くの財政収入を得た。現物納付方式であるRIKの方式は2004財政年度で比較しても価値で受け取る方法に比べ約3分の1の費用で済むし、さらに財務省の会計システムの効率性も評価できる。」

(4)沖合いの風力や再生可能なエネルギー源に関する連邦機関の権限とのバランス
(5)内務省監査総監や独立性のある評論者の勧告内容への対応
(6)沖合いの諸施設に対するMMS査察プログラムの見直しを国土安全保障省合衆国沿岸警備隊(USCG)/MMS海洋委員会に指示
(7)英国ブリストル湾(Bristol Bay)および北極海(Arctic Ocean)の沖合い開発のリース計画の取消
(8)連邦大陸棚(Outer Continental Shelf) (筆者注6)のどの地域が石油・ガス開発に最適であるか明確、秩序だったかつ科学的基礎に基づく決定手続の確立

 なお、同長官令リリースではMMSの歴史的・経済的役割につき解説しており、参考に記しておく。
・1982年1月19日、内務省長官ジェームス・ワット(James Watt)は長官令に基づき連邦地質調査所(U.S.Geological Survey) 、内務省・土地管理局(Bureau of Land Management)および同省・先住民局(Bureau of Indian Affairs)の鉱物収入管理部門を統合しMMSを創設した。
 以降、MMSは石油、ガス、石炭、金属、カリ(potash)および再生可能エネルギー資源を中心とする収入を管理(1982年以来その総収入は2,100億ドル(約18兆9,000億円)以上となる)し、他方でその収入を州、部族(tribes)、群および連邦財務省に配分している。MMSは年間137億ドル(1兆2,330億円)の収入を上げ、これは内務省の収入の約95%となっている。

・MMSはまた連邦大陸棚の天然ガス、石油や他の鉱物資源の連邦管理機関でもある。MMSは従来型および再生可能なエネルギー資源のリース計画を開発・実行する。他方、沖合いのエネルギー開発の運用や関係法令の遵守について監督権限を持つ。

2.「鉱物資源管理局(Minerals Management Service:MMS)」からBOE等への改組・監督権限等の見直しと新人事に関する内務省サラザール長官令の発布
(1)「5月19日付:海洋エネルギー局、安全・環境法執行局および天然資源収入管理局の設置に関する内務省長官令(No.3299)」
第1条では、「本令の目的として(1)連邦大陸棚開発の監督および責任の明確化、(2)国民へのロイヤルティに関する財政収入による納税者への公平な配当、および(3)沖合いの開発にかかる独立した安全性・環境保護と法執行を行うため任務の分離と再割当てを行うことである。」と述べており、その内容につき次のとおり説明している。
 
A.「MMSの倫理基準」
前記(2)を参照されたい。

B.「MMSの再構築および独立性を持った任務を担う3部門の設置構想」
今回の組織改革の中心となる点である。
「海洋エネルギー管理局」:土地・鉱物資源担当副長官監督下で天然資源の評価、開発計画およびリースに関する活動を含む従来型や再生可能なエネルギー資源に係る連邦大陸棚の継続的開発問題を担当する。

「安全・環境保護執行局」:土地・鉱物資源担当副長官監督下で米国沖合いのエネルギー開発活動に関する安全、環境保護面の包括的監督機関として担当する。

「天然資源財務収入・資産管理局」:政策・管理および予算担当副長官監督下で
財政収入、監査と法遵守、財務管理および資産管理を担当する。

(2)「6月21日付:BOEの局長等人事に関する長官令(No.3302)」
 6月21日付け長官令(Secretarial Order)」で元連邦司法省監察官(former Justice Department Inspector General)のミシェル・ブロムウィッチ(Michael Bromwich)等の任命が発せられた。なお、BOE自体6月24日の午前中、まだ正式なウェブサイトが出来ていない(まだ旧MMSにリンクする)。その理由は、後述するとおり5月19日発令の長官令のうち人事が決まったのみであり、「有効な法執行」、「エネルギー開発」、「自然エネルギー資源収入管理」というホワイトハウスや連邦議会との間で3部門の組織構想の調整協議がまだまとまっていないことがその理由であろう(令公布後、30日以内が実施期限である)。

 その意味でDOIのリリース内容を読んだが、後半でこの数週間サラザール長官が取組んでいる米国沖合いの原油・ガス開発の管理、監視を巡る改革を含む内務省の業務改革やMMSの独立性強化策を公表している。これらの内容は5月19日の長官令の内容と重なるので略す。


Ⅲ.連邦商務省・海洋大気保全庁(National Ocean and Atmospheric Administaration: NOAA)機能と役割の取組み
 わが国では一般的に知られていない“NOAA”の役割とはいかなるものであろうか。「大型タンカーなどからの油流出事故は深刻な海洋環境汚染を引き起こし、漁業や観光産業、海上交通などに大きな被害を及ぼす。大規模な油流出事故が発生した場合、被害を最小限に食い止めるには、初期の段階での適切な漂流予測に基づいた防除活動が重要である。(中略)
海上保安庁水路部海洋調査課は本分野に長年の経験を有する米国(NOAA)の危険物流出対応室(HAZMAT)を訪問して、災害発生時の漂流予測及びその精度向上について情報収集及び意見交換を実施して、今後の漂流予測体制の強化を図る。(以下略)(平成11年「漂流予測の高度化に関する交流育成」 海上保安庁水路部海洋調査課の報告)より引用。

 実際、その提供するメキシコ湾の図は分かりやすく、ディープウォーター・ホライゾンの連邦政府専門サイト“Deepwater Horizon Response”でもNOAAの解析図等を多用している。

 では、今回の原油流失に関しNOAAの対応はいかなる内容であろうか。専用サイトの解説内容を見ておく。
(1)NOAAとニューハンプシャー大学の海岸線対応調査センター(the Coastal Response Research Center)が共同開発した“Environmental Response management Application”によるウェブベースの“Geographic Information System (GIS) tool”プラットフォームである“GeoPlatform.gov/gulfresponse” は、リアルタイムで原油流失やBPや関係機関の対応状況を把握できる。

(2)毎日の更新情報(6月22日現在)
①連邦政府の指示で、BP社は封じ込めドームの技術(containment dome technique)を利用した原油の捕獲と水面上のガスの燃焼を継続している。
②トランス・オーシャン社が保有する大型海洋深海油田掘削船「ディスカバラー・エンタープライズ(Discoverer Enterprise )」による原油回収に加え、政府の指示により導入された原油排出部のライザー管につないだ「Q4000」による閉鎖線(choke line)から吐き出された追加的な原油とガスを燃焼し続けている(この状況は写真参照。上がQ4000で、中央が「ディスカバラー・エンタープライズ」であり、燃焼の炎が見れる)。

 この24時間で25、836バレル(筆者注7)の原油が回収できた。この数日は天候が比較的よくガス等の燃焼運用は成功裡に行われている。合計275箇所のガス燃焼作業の結果、932万ガロン以上の原油の撤去が行われた。

(3)NOAAの取組み
 NOAAは、連邦、州および地方政府に対し連携した科学的気象や生物学的取組みに関する情報を提供する。各関係機関の専門家は原油の流失を阻止し、またメキシコ湾の多くの海洋哺乳類(marine mammals),海がめ(sea turtles)、魚、貝等海中の生物の命を助けるため動き回った。NOAAは天候がよければ毎日上空飛行による観測を行い、原油のモデル拡散軌道(model trajectories)の検証を行っている。

(4)原油拡散軌道(Trajectories)予想
 メキシコ湾では水曜日(6月23日)は圧倒的に陸に向かって5~12ノットのスピードで南東の風が、また木曜日(6月24日)は東北東の風が吹くと予想される。拡散軌道はミシシッピー湾内の西向きの流れが東に向けた油膜の更なる動きが始まることを示している。ミシシッピー州のホーンアイランドとフロリダ州のパナマシティはこの予測期間中に海岸線は危険にさらされると見込まれる。また、しつこい南東の風によりルイジアナ州沖のシャンドルール諸島やブレトン・サウンド(Breton Sound)やミシシッピーデルタ地域が危険にさらされると予想される。

 FOAAは、上空飛行、船舶による観測および衛星解析で当該地域をモニタリングし続ける。

(5)漁業活動閉鎖地域指定
 本日(6月22日)、NOAAは現行の漁業閉鎖海域の変更を行っていない。現行の閉鎖海域は6月21日に施行された内容である。魚等の捕獲、放流やレジャーでの魚釣りは禁止されるが、同海域の運航は認められる。閉鎖海域の広さは8万6,985平方マイル(22万5,290平方キロ)であり、メキシコ湾案の排他的経済水域の約36%である。

(6)海ガメと海洋哺乳類のアセスメント結果(2010年6月21日有効)
 4月30日から6月21日の間、テキサス・ルイジアナ州からフロリダ州のアパラチコーラ(Apalachicola)の範囲で計527匹の海ガメが確認された。6月20日(日)と21日(月)の間で13匹のカメが浜に打ち上げられて死んでいるのが見つかった(ミシシッピーでは10匹、アラバマ州で2匹、ルイジアナ州で1匹である)。
10匹の生きているカメは沖合いの鳥類やカメの調査を行っている間、ルイジアナ州漁業省に集められたが、そのうち2匹は明らかに原油に汚染されていた。
 4月30日以降、合計92匹の海岸に打ち上げられたり捕獲されたカメには明らかに外的な原油に汚染された形跡が見られた。

Ⅲ.NIHの取組み
 連邦国立衛生研究所(The National Institutes of Health :NIH))は、連邦保健福祉省(HHS)の下部機関であり、国民の健康や生命の安全性等に関する多くの調査研究を行い、具体的リスクに対しては警告を鳴らす機関である。当然、今回のディープウォーター・ホライゾン事故の住民の健康への影響調査結果を網羅できる専門サイトを立ち上げている。

 NIHには「国立医学図書館(The National Library of Medicine :NLM)」が設置されており、そこには「大規模災害情報管理センター(the Disaster Information Management Research Center)」を設置、今回の事故対応として「原油流失と健康への影響概観(Crude Oil Spill and Health) 」という専門サイトが用意されている。
 同サイトは“crude”とは言いながら、主要連邦機関には見られない網羅的内容であり参考となるのでやや詳しく説明しておく。
①特徴的サイト:連邦政府の一元的ディープウォーター・ホライゾン対策専門サイト(Deepwater Horizon Response)(筆者注8)やNOAAの取組み
②概観:連邦環境保護庁(EPA)やNOAA、保健福祉省・疾病対策センター(CDC)の取組み
③保健情報:HHSやCDCの取組み
④流失した原油の拡散状況、全石油炭化水素(Total Petroleum Hydrocarbons :TPH )の状況(Crude Oil)
⑤石油分散剤(Disperants)の使用と影響
⑥海産物等への影響(seafood and fisheries contamination)
⑦対応と復旧対策
⑧関係州の専用サイトとのリンク
⑨Facebook 、Twitter、Youtube等SNSとのリンク


(筆者注1) 2009年12月17日、オバマ政権は内務省長官に新しくコロラド州出身の連邦議会民主党上院議員ケン・サラザール(Ken Salazar)を内務長官に任命、2010年1月20日、上院本会議で正式に承認された。米国内務省は他の欧米諸国の内務省とはかなり機能が異なる。すなわち、環境政策、エネルギー政策、連邦政府所有地の管理・利用、野生生物の保護等の関する政策管理機関である。
 また、サラザール長官の環境問題の考え方であるが、上院議員在職中(2005年1月-2009年1月)は、車やトラックの排気ガス基準引上げのためのCAFÉ 改善法案に反対投票したり、エクソン・モービルや他の大手石油会社の税優遇措置の撤廃法案の廃止修正に投票した。また、2006年には、フロリダ州沖の沖合いの原油・天然ガス掘削を禁じる保護措置に終止符を打つ内容の法案に共和党議員とともに少数の民主党員とともに賛成しており、環境保護団体から批判を受ける投票行動をとっている。今回のMMSからBOEの改称やトップ人事がオバマ政権のエネルギー政策の変化にどのようにつながるのかまさに注目の的とすべき点である。ただし、この点について分析しているメディアは米国でも少なく、わが国では皆無である。

(筆者注2)H1N1の新型インフルエンザに関する情報収集をきっかけとしたものであるがピッツバーグ大学の公衆衛生危機管理センター(Center for Public Health Preparedness)のサイトは最新情報を整理するうえで貴重なサイトである。今回、メキシコ湾の原油流失事故についても基本的な観点から現状と回復のための施策について平易に解説を加えており、関係者は是非参照されたい。

(筆者注3) 「ガス生産不均衡(gas imbalance)」:この用語を理解できる日本人は石油関係者以外では少なかろう。筆者も専門家でないので米国の関係サイトで調べてみた。GAOの問題指摘のキーとなる言葉であり、その正確な理解には欠かせないためである。筆者なりに解説してみるが、関係者による正確な解説を期待したい。

 石油生産の過剰生産と過少生産のための生産調整といったところであろう。油源の開発事業者が競合した場合、当然生産性が高い油田と低い油田がありうる。これを放置すれば油田が枯渇するといった資源開発の根本問題だけでなく、事業者の権利・義務の調整のための業者間開発協定(operating agreement)は、この問題を根本的かつ完全に解決できるであろうか。
 なお、開発業者間の生産調整協定に関し、欧州エネルギー監督機関協議会(the Council of European Energy Regulators:CEER)は「生産量均衡原則(Balancing Priciples)」を定めている。

参考:2005年12月23日「Gas Balancing Rules in Europe (EU加盟国におけるガス開発均衡協定に関するレポートでCEERの生産調整原則について解説」(英国シンクタンクNERA Economic ConsultingとTPA Solutions Ltdの共同レポート)は参考になる。
http://www.tpasolutions.co.uk/documents/050128_Final_Report_on_gas_balancing_for_the_CEER.pdf

(筆者注4) 「連邦石油・ガス利益受領権管理法(Section 115 of the Federal Oil and Gas Royalty Management Act of 1982)」の第115条は、「1996年連邦石油およびガスのロイヤルティの簡素化と公平性に関する法律(FEDERAL OIL AND GAS ROYALTY SIMPLIFICATION AND FAIRNESS ACT OF 1996)」に基づき追加された条項である。

(筆者注5)2009年8月、GAOが行ったMMSに関する報告書「Royalty –in-Kind(RIK)-Program:MMSは本来権利行使すべき(forgone revenue)大陸棚RIKガス収入に関する適切かつ時宜を得た方法の改善勧告」(全45頁)の概要を引用したが、いうまでもないが本ブログではGAO報告を比較的多く引用する。その意義はまさに「連邦議会の連邦行政機関のWatchdog」が的確に機能し、その透明性重視の姿勢を始め、また行政機関自身もその勧告内容への対応を積極的に行っているという、本来の「三権分立」の原型を見るように思えるからである。

(筆者注6) 米国の大陸棚のうち、連邦政府の管轄する部分。石油を始めとする地下資源は土地所有者に帰属するという法理が適用されている米国では、所有関係が特定されない大陸棚における海底の土地の所有権と海底下の石油資源の帰属を明確にする必要が生じ、米国では 1953 年の Submerged Lands Act および Outer Continental Shelf Lands Act によって、海岸線から 3 マイル(テキサス州およびフロリダ州のメキシコ湾岸では 3 海洋リーグ=約 10.5 マイル)まで各州、その外側は連邦の所管と規定された。(独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構サイト「石油天然ガス用語辞典」から引用)

(筆者注7) 1日あたりの原油回収量 25,836バレルの量はどれくらいか、イメージが浮ばないであろう。1バレル = 159リットルであり、4,108キロリットルとなる。この数字は関係機関の当初の予想を上回っているようだ。

 (筆者注8) 連邦政府のdeepwater Horizon対応の統合サイト“Deepwater Horizon Response”の内容は国民の理解度向上面から見て日々充実してきていると思われる。6月23日時点のサイトの特徴点をあげておく。(本文で述べた大規模災害情報管理センター(he Disaster Information Management Research Center)」の「原油流失と健康への影響概観(Crude Oil Spill and Health) 」サイトの内容と比較して欲しい)。

①News/Info:NOAAの航空写真と比べ分かりやすい図解地図、関係州の対応最新情報、Deepwater Horizonに関する非公開合同事故原因聴聞会(joint Investigation )の模様の一部記録写真(この委員会の目的は4月20日に起きたDeepwater Horizon 可動原油掘削装置(mobile offshore drilling unit :MODU))の爆発と作業員の死亡等に関する結論と勧告の策定である。5月下旬に行われたその結果は、承認を得るため沿岸警備隊本部および連邦内務省の石油掘削認可機関「海洋エネルギー管理、規制・執行局(Bureau of Ocean Energy Management, Regulation,and Enforcement:BOE)に送付されその承認後、広く国民やメディアに公開される。それまでの間は分析結果や結論の内容は非公開である。
②Area Plan:4州の専門サイトとのリンクによる最新情報
③Health and Safety:大気、海岸線、水質検査結果および現地労働者やボランティアの健康・安全性問題


[参照URL]
・http://www.gao.gov/new.items/d09744.pdf
(2009年8月、GAO報告「ROYALTY-IN-KIND PROGRAM:MMS Does Not Provide Reasonable Assurance It Receives Its Share of Gas,Resulting in Millions in Forgone Revenue」(全45頁)
・http://www.doi.gov/deepwaterhorizon/loader.cfm?csModule=security/getfile&PageID=32475
(5月19日付「海洋エネルギー局、安全・環境法執行局および天然資源収入管理局の設置に関する内務省長官令(No.3299)」)
・http://www.doi.gov/deepwaterhorizon/loader.cfm?csModule=security/getfile&PageID=35872
(6月21日付:BOEの局長等人事に関する長官令(No.3302)」)
・http://www.mms.gov/ooc/PDFs/TheMMSRoyalty-in-KindProgram.pdf
(MMSの“Royalty-in-Kind Program”の解説サイト)
・http://response.restoration.noaa.gov/dwh.php?entry_id=809
NOAAの「ディープウォーター・ホライズン」専用サイト

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