2009年5月8日金曜日

米国の全米気象サービス局(NWS)の非気象に関する「緊急情報通知システム」の運用開始

 
 5月6日に米国FEMA(連邦緊急事態管理庁)(筆者注1)から届いたニュースの中で2009年4月30日から運用開始し、5月、6月は段階的運用を拡大するとのニュースがあった。気象学や災害問題の専門家でない筆者は「何のこと」と思いつつ、「非気象」の緊急メッセージ(non-weather emergency messages)という言葉が気になり自分なりに調べてみた。
 そこで見られたのは国家としての自然災害以外に対する社会的な危機情報の安全、効率的な情報収集による危機管理情報ネットワーク拡大とインフラ整備である。商務省全米海洋大気庁(National Oceanic and Atmospheric Admini stration;NOAA)(筆者注2)気象サービス局(National Weather Service:NWS)が中心となって取組んでいる新たな国家プロジェクトである。(筆者注3)
 また、5月6日にFEMAは大規模災害緊急事態通報システム・サイト “Disaster Management”ポータルに“HazCollect” を追加しており、当該“HazCollect”の運用州の拡大予定やQ&A等が詳しく説明されている。(筆者注4)
 今回のブログでは単に“HazCollect”の役割や目的だけでなく、情報化社会における大規模災害以外についても正確かつ迅速な緊急情報伝達のあり方について米国の取組みや問題点について解説を試みる。
 なお、当然であるがわが国でも電子政府や大規模災害、疾病等に対応するため関係機関で人為ミスを含むこれらの課題はすでに検討されている(内閣府が整備を進めている防災情報共有プラットフォームである「中央防災無線網」等)と信じたいが、2009年2月9日に開催された内閣官房「防災分野における地理空間情報の利活用推進のための基盤整備に係るワーキンググループ」第2回会合で(財)全国地域情報化推進委員会の説明資料のスライド29頁(自治体は現状、防災現場で紙や口頭で収集した情報を防災情報システムに手入力している場合が多く、現場(避難先や現地調査先)での直接入力が可能になれば効率化、迅速化が図れる)を見る限り、米国でなぜ“HazCollect”が必要なのかという課題が、わが国では今論じられているように思える。


1.HazCollectシステム導入の背景
 NOAA気象サービスの「現場システム運用センター(Field Systems Operations Center):試験・評価課(Test and Evaluation Branch:OPS24)」のサイトで詳しく説明している。
(1)現状の問題点
 従来のNWSシステムは、非気象に関する緊急情報(化学物質流失(chemical spill)、誘拐速報システム(AMBER alerts)(筆者注5)、放射性物質漏れ(radiological events)等)を取扱うが、そのスタッフは現場で手作業で転記しなくてはならない。その転記には時間がかかり、また人為ミスが生じる傾向にある。ある地域では非常時担当管理責任者(emergency manager)は手作業で原稿を作成のうえ、地域の気象予報局(WFO)に電話をする。受け取った予報局側でもタイプミス、文法的な誤り等が発生する。さらに手作業で、WFOの放送スケジュールや警告の原稿を作るのである。
(2)HazCollectシステムによる改善
 HazCollectシステムは、NWS基盤に対する「非気象に係る緊急情報メッセージ(Non-Weather Emergency Messages:NWEMs)の集中と効果的配分に関する包括的な問題解決である。緊急情報(EM)は、災害管理相互運用サービス(DMIS)専用PCを利用して、NWEMsを共通的警告プロトコル(Common Alerting Protocol:CAP)フォーマット(筆者注6)で作成のうえ、次の処理のためにDMISに送られる。
 DMISの利用者モードは「アクチュアル(終端間で実際伝播する)モード」と「テスト(HazCollectセンタのみに送信される)モード」が設定されている。アクチュアルモードでは、NOAAの気象無線の利用者から遠路はるばる放送や情報無線で伝播されてきた情報が集中的にDMISに取り込まれる。また、テストモードの場合は一般大衆には送られず同メッセージの運用試験のみ使用が許される。
 DMISは、新しいHazCollectサーバーにおいて承認・認証されたCAPフォーマット化されたNWEMメッセージをNWS世界気象機関(World Meteorogical Organization:WMO)(筆者注7)フォーマットに変換のうえ送信する。
 またHazCollectサーバーは、既存のネットワークコントロール施設(NCF)や全米気象サービス通信ゲートウェイ(NWSTG)、the Advanced Weather Interactive Processing System (AWIPS)(筆者注8)およびNOAAの全米気象サービス局(NWWS)にNWEMメッセージを送信する。AWIPSからのこれらメッセージはNWEMフォーマットにより処理のうえ、制御変換システム(the Console Replacement System(CRS))に送られ、最終的に広く一般大衆は気象ラジオ等で聴くことができる。

2.HazCollet の当面の運用開始州と今後の運用拡大予定
(1)2009年5月、6月の実施内容と運用開始州
 次の指定された州等で支援プログラム(outreach)、必要とされる教育訓練および登録手続が行われる。ウィスコン州、ケンタッキー州、アラスカ州、ハワイ州、フロリダ州、アイダホ州の一部、ワシントン州東部が5月中に開始する。
(2)5月26日に開始後、7月1日までの他州への運用拡大
 他の州においても順次運用開始する予定である。本ウェブサイトの「州や郡等地方政府が行うべき登録事務(For Governmernt)」を参照のうえ、第一に共同運用グループとしての災害管理相互運用サービスID登録を行う。第二に各担当地域においてHazCollectを使用することについての承認を受ける。

(筆者注1) 連邦国土安全保障省・緊急事態管理庁(FEMA)について筆者なりにFEMAサイト情報に基づき簡単に説明しておく。なお、わが国でFEMAについて消防庁の解説例を読んだ。筆者の解説と比較するとすぐ分かるであろうが、このような内容の不十分さが許されること自体が問題と思う。
(ⅰ)法律上の権限:1988年11月23日に署名された災害救助法(Robert T. Stafford Disaster Relief and Emergency Assistance Act:PL.100-707)(同法は1974年災害救済法:PL 93-288の改正法ある)は、FEMA およびFEMA プログラムに関し連邦政府の対応活動に関する根拠法である。正規職員数は約2,600人である。また災害時に緊急支援に当る約4,000人の予備従業員がいる。
(ⅱ)FEMAの歴史
 1803年議会法(Congressional Act 1803)からFEMAの源をたどることができる。大規模災害対策法としてニューハンプシャーの大火の支援法として成立した。続く100年間にハリケーン、洪水、その他の天災に対応して約100以上の臨時法が成立した。1960年代から1970年代にかけて連邦住宅・都市開発省(Department of Housing and Urban Developmemt:HUD)の中に設置された連邦災害援助局(Federal Disaster Assistance Administration)が連邦の主たる大規模災害対応・復旧に当った(1962年ハリケーン・カーラ(Hurricane Carla))、1965年ハリケーン・ベッツィ(Hurricane Betsy)、1969年ハリケーン・カミール(Hurricane Camille)、1972年ハリケーン・アグネス(Hurricane Agnes)であり、また1962年アラスカ大地震、1971年サンフェルナンド大地震が起きている。これらの一連の災害は新たな保護立法をもたらした。1968年の「全米洪水保険法(National Flood Insurance Act)」は家の所有者に対する新たな保護を設け、1974年「大規模災害救済法」は大統領宣言の手続を確立した。連邦政府の災害援助の努力の複雑さもあり州や地方には多くの並列的救済プログラムや立案をかかえ全米州知事会は州政府の負担の削減をジミー・カーター大統領に求めた。
 同大統領は1979年大統領行政命令(Executive order)により、異なる連邦機関による災害関連責任をFEMAに統合した。すなわち、連邦保険局、連邦消防局、全米災害気象局、一般調達局の災害準備部や住宅・都市開発省の連邦災害救援局の機能を統合した。また、民間の災害防衛責任を国防省の民間防衛準備局から新FEMAに移管した。
 新FEMAはただちに多くの難局に直面した。1979年スリーマイル島の原子力発電所事故、1978年に米国ナイアガラ滝近くのラブキャナル運河(ニューヨーク州)で起きた有害化学物質による汚染事件、キューバ難民危機等である。2001年に新FEMA長官(director of FEMA)を任命後数か月で9.11テロが発生した。これを受けて新たに設置された国土安全保障省との権限調整が行われ、FEMAの全米準備局(Office of National Preparedness)は大量破壊兵器に関する最優先責任機関が与えられた。2006年10月4日にブッシュ大統領は「ポストカトリーナ緊急事態改善法(Post-Katrina Emergency Management Reform Act)」に調印した(FEMAのウェブサイトの同法の正式名称では“Management”がぬけている)が、2005年8月のカトリーナの反省等からFEMAの機能強化を図っている。

(筆者注2) “NOAA”および下部の部局の使命・役割等について説明しておく。
 NOAAは科学的機能を基本とする連邦商務省の下部機関で、規制監督、運用および情報提供サービスに責任を負う機関である。2008年度予算は38億ドル(約3,822億円)、本部・州の全従業員数は約12,800人である。
(使命)全地球環境の理解と米国経済、社会や環境が必要とすることに合致すべく予測、海岸線、海洋、五大湖の資源の保護、維持や管理を行うことである。NOAAの監視が求められる包括的システムは衛星から船舶やレーダーといった監視が求められる方法による日々の安全な生活や基本的な現代経済機能に関する高品質かつ重要な情報を提供することにある。
 米国人はNOAAの極めて多様なサービスー地方の気象予報、沿岸の水の安全性や活力の維持、高品質の海産物の提供持続性、安全な海上運送の保証―をNOAAに依存している。
(組織)6つの局から構成される。①全米海洋漁業局(National Marine Fisheries Service)、②全米海洋資源局(national Ocean Service)、③全米気象局(National Weather Service)、④船舶および航空安全局(Office of Marine and Aviation Operations)、⑤海洋大気調査局(Office of Ocean and Atmospheric Research)および⑥NOAAの各機関の統合的計画策定および統合局(Office of Program Planning and Integration)である。

(筆者注3)わが国の大学やビジネススクールでは絶対教えられない(と言うよりも教える方が知らないのである)日頃筆者が実践する米国の公的機関(立法、行政機関、独立法執行等)を正確に理解する方法を筆者流に説明しておく(この実務的方法は、欧米の大学、ビジネススクールやロースクールで学んだ先生方から伺う限りある程度実践されているように聞く)。
 本ブログの読者も出来るだけこの点を学んで欲しいが、その前提として一定の語学力と公式ウェブサイトからニュースの入手登録(RSSでも可である)が必須である。組織改変や根拠法が変わったりするため、新規登録先数がやたら多くなるので筆者のような暇人?でないと情報管理が難しいと思う(その一方で「世界の変化」が先取りでき、「変化の風」が見えるということでもある)。なお、これに関して特にわが国のメディアや民間「総研」の海外情報の解説記事のレベルが低すぎる。その具体例は“Foreign Media Analyst in Japan”を見ていただきたい(先達の「誤訳」を疑いもなく次々と引き継いでいる)。
①ウェブサイトで、まず“What is XXX”、“About XXX”等のアイテムを探す。
②同機関の根拠法・規則、連邦機関・州の機関・委員会名がつく独立法執行機関(SEC等)・連邦機関でありながら独立の権能をもつEPA等を分類する。特に連邦制度をとる米国では立法、司法、行政機関について連邦機関と州や郡の機関の峻別は重要である(例:司法長官は連邦と各州におり、いずれも“Attorney General”である。“U.S.Attorney”は連邦地方検事である)。
③使命(mission)、目標(vision)や戦略(strategy)等の内容を確認するとももに、機関の歴史をチェックする。
④組織図(organization chart)で組織の規模や下部機関を確認(下部機関の名称を決定する上で重要な点である)
⑤連邦、州等の関係機関を確認する(リンク先)。
⑥機関・各部門の主な業務を確認する。

(筆者注4)FEMAの“Disaster Management”サイトで「オープンプラットフォーム・フー・緊急情報ネットワーク(Open Platform for Emergency Networks:OPEN)」に関し”OASIS Standard”と言う用語が出てくる。参考までに“OASIS”について日経BPnetの解説を引用しておく。
「XML関連の標準化団体Organization for the Advancement of Structured Information Standards(OASIS)のメンバーは、危機管理や緊急事態への準備/対応に関するXMLベースの標準仕様を開発する技術委員会「OASIS Emergency Management Technical Committee(TC)を発足させた。米国時間2003年2月10日に明らかにしたもの。
 Emergency Management TCの目的について、OASISでは「米国の地方/州/連邦政府の司法当局や医療専門家、企業が自然災害や人的災害、緊急事態に対応する際に使う、情報交換用の標準仕様を策定する」と説明している。同TCの活動は、事件認識方法の統合、非常用地理情報システム(GIS)データのアクセス/利用、通知手段とメッセージ送信、状況報告、資産/リソース管理、監視/データ取得システム、組織の調整――などを対象にする。
http://www.oasis-open.org/news/oasis_news_02_10_03.php参照。」

(筆者注5)“AMBER ALERTS”とは、米国内で子供の誘拐事件が発生した場合に、その子供をいち早く救出できるように、テレビ、ラジオ、インターネットのポータルサイト(America Onlineなど)、ハイウェイの電光掲示板などを使って緊急速報を流すシステムである。“AmberAmerica’s Missing: Broadcast Emergency Response”の略語である。

(筆者注6)国土安全保障省等を中心に緊急時のコミュニケーションやより幅広い情報共有のための情報ネットワークが構築される一方、連邦・州・地方など縦の連携が重要となるテロ対策においては、コミュニケーション技術に相互運用性を持たせることが大きな課題となっている。
 緊急医療関係者をはじめとする危機管理関係者に警報を送信するためのXML標準「Common Alerting Protocol」を開発、現在は人材・車両・食料やサプライなどの災害リソースに関するデータ交換フォーマットEDXL(Emergency Data Exchange Language)の設定などに取り組んでいる。(NTTデータの「米国マンスリーニュース2005年7月号:米国のテロ対策とIT」より引用。)

(筆者注7)“WMO”は国際気象機関(International Meteorological Organization、1873年設立)を前身として、1950年より国連の機関としての運営を開始した。WMOの目的は、気象、水文およびその他の観測所の国際的なネットワーク構築に協力すること、気象情報の迅速な交換を促進すること、気象観測の標準化を促進すること、一定のフォーマットで観測結果および統計結果を公表すること、航空、海運、水問題、農業およびそのほかの人間活動に対する気象学の応用を推進すること、水文学の発展を促進すること、気象学における調査および教育を奨励することである。(国際研究計画・機関情報データベースから引用)

(筆者注8) 全米の天気予報士に使用される“AWIPS”は、2003年にOSをそれまでのUnixベースのプロプリエタリー・プラットフォームからLinuxへ変更した。

〔参照URL〕
http://www.weather.gov/os/hazcollect/
http://www.weather.gov/ops2/ops24/hazcollect.htm
http://www.fema.gov/
http://www.disasterhelp.gov/disastermanagement/index.shtm

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