〔前書き〕
本ブログの原稿は、2008年12月20日に一部書き上げていた。しかし、仕事の関係で棚上げになっていたが、2009年4月30日に連邦議会下院でクレジットカード・ユーザー保護法案(H.R. 627)が通過、近々上院も通過する旨のニュースが入ってきた。
約半年遅れでありニュース価値としてはいかがかと思うが、念のため同時期のブログを検索してみた。やはり米国のクレジットカードの金利に関する専門的なものは見当たらなかった。筆者はHR 627をめぐる原稿を書き始めていたが、FRB等のレギュレーションを正確に理解していないと今回の法案そのものの意義が理解できないであろうから、あらためて取りまとめることとした。
〔本文〕
2008年12月18日に米国連邦準備制度理事会(FRB)、財務省貯蓄金融機関監督局(OTS)および信用組合管理庁(NCUA)は、「サブプライム・クレジットカード」等の被害拡大阻止や金利内容の表示等透明性確保について、クレジットカード利用者保護強化の観点から関係行政規則の最終案を承認、公表した(筆者注1)。各最終案は連邦取引委員会法(Federal Trade Commission Act:FTC Act)に基づくもので、ほぼ同様の項目・内容である。したがって、今回はFRBの4つのレギュレーションについて規則改正の経緯および内容について説明する(4つのレギュレーションの施行日はいずれも2010年7月1日である)。(筆者注2)(筆者注3)
特に12月18日のFRBのプレス・リリースや最終案を丁寧に読むと理解いただけると思うが、消費者がいかに複雑な取引スキームを理解できるか、「消費者テスト」や「実証研究」の結果や顧客への各種通知文書様式やサンプルモデル例(連邦官報5426頁以下)を同時に公表している。関係規則(レギュレーション)の改正だけでないこのような実践的対応が、今後わが国の金融監督行政のあり方にも影響が出てくることを期待したい。
また、これと時期を同じくして、12月19日付で連邦預金保険公社(FDIC)および連邦取引委員会(FTC)は今回取り上げた「サブプライム・クレジットカード」の取扱い業者である“CompuCredit Corporation(アトランタ本部)”、と他2行に対し、240万ドル(約2億3,520万円)の連邦財務省に支払う民事制裁金(civil money penalty))を含む1億1,400万ドル(111億7,200万円)(欺まん的マーケティング行為を行った企業に対する被害顧客への資金返還による原状回復(restitution)(筆者注4))で和解(settlement)した旨発表した(筆者注5)。この問題は2008年6月10日にFTCがCompuCredit Corporation(その100%子会社の債権回収会社を含む)、また連邦預金保険公社(FDIC)とが同社と他2銀行(“First Bank of Deraware(デラウエア本部)”および“First Bank & Trust(ブルッキング本部)”)を同時期に監督機関としての法執行行為を起こした結果である。米国流の「一罰百戒」主義の結果という見方もあろうが、与信金利のあり方をめぐり不動産融資(サブプライム・ローン)だけでなく、クレジットカードという消費者にとって極めて重要かつ日々の生活に影響する問題が放置されてきた米国の金融の実態が垣間見える。この問題についても併せて解説する。
いずれにしても、今回制定されたレギュレーションは従来の米国のクレジットの業界ルール・常識を根本から変更する内容が含まれており、わが国の監督機関や関係業界においても十分かつ慎重な検討が必要となろう。
Ⅰ.FRB等によるクレジットカード取引の不公正な実務や無理な口座貸越サービスから消費者を保護するための政策方針策定および行政規則改正案の提案
(1)FRB、OTSおよびNCUAによるレギュレーション(行政規則)改正案の公表およびパブリックコメントの徴求
FRB、OTSおよびNCUAは2008年5月2日付で連邦取引委員会法5条(a)および同法18条(f)(1)に基づき、レギュレーションの改正案を発表した。その社会的背景については(筆者注2)に概要を述べたが、抜き差しならぬところに行き着く前に手を打つ考えが強く打ち出されていた。
改正の対象となるレギュレーションはこの時点では次の「3つ」である。今回の改正の中心は“Regulation AA(12 CFR 227)(FTC Actが根拠法)”および“Regulation Z(12 CFR 226)( Truth in Lending Actが根拠法)”で、“ Regulation DD(12 CFR 230)( Truth in Saving Actが根拠法)”はその補完的な改正であり、また2008年12月の最終案ではRegulation E(12 CFR 205)( Electronic Fund Transfer Actが根拠法)の改正案が追加され、連邦官報(Federal Register)発行後60日間のパブリックコメントに付されている。
(2)Regulation AA (不公正・欺瞞的な行為(unfair deceptive act)またはその実践(Practices))の禁止にかかる最終規則(2010年7月1日施行)
その主な内容は次のとおりである。
(A)カードユーザーの支払にかかる時間的猶予提供の義務化(Time to Make Payments)
金融機関が、ユーザーに支払準備のための合理的な時間を与えずして支払遅延扱いとすることを禁止する。
(B)異なる残高に適用される場合に高い利率の優先適用または比例配分適用の義務化(Allocation of payments)
通常金利(APR)と異なる年利(APRs)が異なる残高に対し適用される場合(すなわち、キャッシング(cash advances)、買物(purchases)、別口座からの資金振替(balance transfers)(筆者注6))、金融機関は次の3つのいずれかの方法によるかまたはユーザーにとって同様に有利な方法により最小支払額を越える金額を支払いに当てなくてはならない(従来のカード実務は最も低い金利を適用するのが通例であった)。
(i)初めに最高金利を全残高に対し適用する。
(ⅱ)各残高に対し同等額を支払に当てる。
(ⅲ)残高間において比例割合で支払に当てる。
仮に、当該口座が営業推進的な金利割引残高または金利の支払が延期されていた場合、金融機関は一定の例外の場合を除き、まず初めに割引でないか延期されていない最小支払額を超える金額を支払に当てなければならない。
金融機関は、割引金利または延期でない支払と言う理由のみでユーザーからの延滞金利がかからない支払猶予期間(grace period)の申出を拒否してはならない。
(C)金融機関は、次の場合を除き口座開設時にすべての適用金利を開示しなければならず、未払残高に対するこれらの金利の引上げ変更は禁止される(Increasing Interest Rates)。
(ⅰ) 推進的優遇金利期間が満了した場合
(ⅱ) 金利変更がLIBOR等インデックスの運用(変動金利)に従った場合
(ⅲ) レギュレーションZが求める45日前の通知後のみの新取引の場合
(ⅳ) 最小支払額を支払期限後30日以内に受領できなかった場合
(D)金融機関は、現行の通常の支払方法である1か月支払から2か月または3か月にまたがる期間に対しても前月の金利を適用する上乗せ支払すなわち2サイクル請求(筆者注7)や3サイクル請求という支払い方法を禁止する(Two-cycle Billing or Three-cycle Billing)。
(E)最終規則は、サブプライム・クレジット・カード(筆者注8)といった高手数料と低貸出枠のカード・ビジネスに対する懸念を示している。金融機関は最初の12か月の費用請求額が最初に設定した信用枠の50%を超えるような口座開設手数料やメンバー会員手数料といった決済担保預金や高額手数料(Financing of Security Deposits and Fee)(筆者注9)を課すことが禁じられる。また、カードの信用枠に最初に設定した信用枠の25%~50%という決済担保預金や手数料を課すとともに追加的に少なくとも次の5回の請求時期の間に拡げるような要求は禁止される。
(3)Regulation Z (貸付真実法の徹底)
本規則はクレジットカード口座およびその他のリボルビング利用計画(自宅を担保としない)に関し効果的な情報開示が受けられるよう見直しを行うものである。
(A)申込と提案書文言(Applications and solicitations) G-10(B)
最終規則は消費者にとってより意義がありかつ使い勝手が良いクレジットカードの申込や提案書の様式(シューマー・ボックス:Schumer Box)(筆者注10)や内容を定めるべく改正を行ったものである。
(ⅰ)様式の改訂(format revisions):新様式は金融機関に対し、文字の大きさ、重要事項の太字体表示、当該情報の表示箇所等に関する簡易表の準備を要求する。
(ⅱ)内容の改訂(content revisions):金融機関は罰則的金利が適用される場合、変動金利に関する簡易な開示内容および買物に関する支払猶予がどのような場合に認められまたは認められないかについて内容の改訂が義務付けられる。
(B)口座開設時に係る費用の開示(Account-opening disclosures)
最終規則は、口座開設時の費用についてより目立ちかつ読みやすい情報提供を行えるようすることは義務付けられる。一定の重要な条件は、口座開設時に申込と提案書文言と実質的に同様の簡易表形式で表示するものとする。
(c)定期的通知文書における開示の改善(Periodic statement disclosures)
最終規則は定期的通知文書においてより理解しやすく手数料や金利負担に関する説明のグループ化行うべく様式の変更に関する規定を設けた。主な変更点は次のとおりである。
(ⅰ)金利費用と諸手数料(Interest Charges and Fees)
金利費用と諸手数料は月ごとに別々にグループ化して表示しなければならない。金利費用は買物、キャッシングと言うタイプに分けて項目化しなくてはならない。
過去1年間の手数料と金利費用は別々に表示する必要がある。
(ⅱ)実質年利(Effective APR)
開示の要件として同条件に関する消費者の理解を欠くため廃止する。新たな要件としては、与信総額として月別および過去1年間の手数料と金利費用が効果的に表示されなければならない。
(ⅲ)最小支払額の開示(Minimum Payment Disclosure)
「2005年破産濫用防止および消費者保護法(the Bankruptcy Abuse)Prevention and Consumer Protection Act of 2005」が定めるとおり、現時点の返済残高にとって必要な最小支払金額が開示されなければならない。
(D)消費者の金利やそのた口座の利用条件の変更
最終規則は金利の引上げ等口座の利用条件に関する書面による通知を受け取る環境を拡大するとともに、変更が実施される前に通知されるべき回数を増やした。
(ⅰ)利用条件の変更にかかる事前通知の増加(Increase inAdvance Notice for Change in Terms)
最終規則は消費者が代替的資金手当てや口座の使用方法を変更するなど対策が撮りやすくするため従来の15日前から45日前に変更した。
(ⅱ)罰則的金利引上げに関する事前通知(Requiring Prior Notice for Penalty Rate Increase)
与信者は支払延滞(delinquency)、支払不能(default)または罰則としての金利引上げの45日前に事前通知を行わなければならない。
(ⅲ)簡易表(Summary Table)
最終規則は定期的通知に添えて条件変更または罰則的金利適用通知を行うときは、重要な条件が変更される旨定期通知の表面に一覧形式で開示内容を表示することを求める。
(E)追加的消費者保護(Additional protections)
最終規則は次の追加的保護規定を定める。
(ⅰ)固定金利(Fixed Rates)
広告において固定金利と表示する場合は、金利が固定される期間を明記しかつその期間中においていかなる理由でも金利変更は行わないことを明記しなくてはならない。
(ⅱ)受付時間や郵便為替の締め切り時間(Cut-off Times and Due Dates for Mailed Payments)
貸付者は締切日のタイミングを考慮し合理的な郵便為替の締め切り時間を設定しなければならない。最終規則では同時刻を午後5時とみなす。週末や休日にあたり、仮に郵便為替が締め切り期日の受け付けられなかったときは貸付者は翌営業日に受け付けたものとしなくてはならない。
(4)Regulation DD (貯蓄真実法の徹底)
最終規則は貸越に関する開示内容を定める。
(A)合算した貸越手数料の開示(Disclosure of Aggregate Overdraft Fees)
最終規則は全金融機関に対し定期的通知文書において通知期間および過去1年間の貸越手数料(overdraft fees)および残高不足手数料(returned item fees)の合計額をドル表示で開示しなくてはならない。現状は、貸越やその推進・広告中の金融機関のみ表示が義務化されている。
(B)残高情報の開示(Disclosure of Balance Information)
最終規則は金融機関に対し自動通知システムによる貸越限度額という追加的資金を除く口座残高情報の提供を義務付ける。
(5)Regulation E (電子資金振替)
本規則は消費者に対して課す貸越手数料について次のとおり一定の保護を定める。
(A)貸越サービスに係る消費者の選択の機会(Consumer Choice Regarding Overdraft Services)
改正案は取引金融機関によるATMやオンラインデビットカード利用時の貸越について2つの選択についてコメントを求める。
(ⅰ)オプト・アウト:第一のアプローチとして、金融機関は消費者が初めの通知で貸越手数料について説明されていないでまた消費者が当該金融機関の貸越サービスを受けることをオプト・アウトする合理的な機会があり、かつ消費者がオプトアウ権を行使しなかった場合は手数料の徴求は禁じられる。
(ⅱ)オプト・イン:第二のアプローチとして、消費者が金融機関に対し明らかに貸越手数料につき同意している場合を除き手数料の徴求が禁止される。
(B)債務額の保持による貸越手数料を課すことの制限(Debit Holds)
改正案は、実施のカード利用金額を越える口座残高がある場合は貸越手数料を課すことを禁ずるものである。この改正案は取引承認後短時間に取引額が確定するデビット・カード取引の場合に限定される。
Ⅱ.連邦預金保険公社と連邦取引委員会によるサブプライム・クレジット・カード推進金融機関に対する法執行行為および連邦地方裁判所への提訴とその和解結果
(1)FDICによる行政法執行行為(enforcement action)の発動
(A)2008年6月10日連邦預金保険公社は“CompuCredit Corporation”に対し連邦取引法違反となる問題とされるサブプライ・クレジット・カードの営業推進活動について監督機関としての法執行行為を取ることを公表した。
法執行行為の内容は、FTC法違反の是正および欺罔的マーケティング活動から生じた消費者の支払った手数料や費用の原状回復を求めるもので、その総額は約2億ドル以上になると推定される。またFDICはCompuCredit に対しては6,200万ドル(約60億8千万円)、“First Bank of Delaware”と“First Bank of Delaware”に対しては総額431,000ドル(約4,200万円)の現状回復を求めたのである。
その欺罔的クレジットカードのマーケティングとはどのようなものであろうか(問題となる点はFTCのリリースとほぼ同様であり、FDICのリリースに基づき説明する)。
①カード利用計画書において重要な前払い手数料(upfront fee)に関する適切な開示を怠るとともに当初の与信限度額について事実を偽った。すなわち、計画書では与信限度額は300ドル(約29,000円)とされているのもかかわらず、消費者は直ちに不適切に開示された185ドルの費用を請求され、実質的な与信限度額は115ドルに据え置かれた。
②わずかにクレジットスコアが高い消費者に対し、3,250ドル(約319,000円)を上限とする与信限度額は実は最初の90日間のみという点の開示を怠り、さらにユーザーの買物の状況をモニタリングするなどして潜在的に与信限度を引き下げた。
③あらかじめの費用差引額は、新カード口座にただちに振り替えられ信用情報機関には完全に支払がなされた旨報告がなされると計画書に表記されており、実際ユーザーは25%~50%を支払ったにもかかわらず費用差引き額を12か月以上支払っていないとしてVisaカードが入手できなかった。
(B)FDICは2008年12月19日、欺罔的カードのマーケティング行為を行った“CompuCredit Corporation”、“First Bank of Delaware”、“First Bank & Trust”に対し240万ドル(約2億3,500万円)の財務省に払う民事制裁金(civil money penalty:CMP))を含む被害顧客への資金返還による原状回復(restitution)を和解(settlement)した。また、被害を受けた顧客のうち適格者には総額370万ドル(約3億6,300万円)の現金がCompuCreditから返還される。(筆者注11)
なお、FDICは今回和解した3社以外に“Columbus Bank and Trust Company:CBT”に対しても法執行行為を行っているが、CBTは行政手続訴訟(litigation)に入る前に当初の与信限度に関するすべての手数料や制限について開示するという業務停止命令(Cease and Desist Order)と240万ドル(約2億3,500万円)の民事制裁金に合意している。また、CBTはCompuCreditが仮に現状回復に応じなった場合でも750万ドル(7億3,500万円)のバックアップの現状回復(back-up restitution)に同意している。
(2)FTCによる連邦地方裁判所への提訴と和解結果
(A) 連邦取引委員会は、2008年6月10日に“CompuCredit Corporation”およびその100%子会社の債権回収会社である“Jefferson Capital Systems,LLC”に対し、比較的所得の低い(クレジットスコアが低い)サブプライム利用者層に向け欺罔的クレジットカードの販売を行った行為は、連邦取引法および子会社の行為は「公正債権回収実施法(the Fair Debt Collection Practices Act:FDCPA)」に違反とするとの苦情申立を4-0で採択後、ジョージア州北部地区連邦地方裁判所に提訴した旨公表した。
(B) FTCは、2008年12月19日“CompuCredit社”および“Jefferson Capital Systems,LLC”との間でFDICの説明で述べたとおりの連邦法違反に基づく現状回復と民事制裁金について合意した。
(筆者注1)FRB等3機関の規則改正の背景、検討経緯、パブコメの分析、GAO(連邦議会行政監察局)等政府関係機関の分析結果等内容はすべて12月18日付の連邦官報(Federal Register)に掲載されているので、関係者はぜひ正確に読んで分析してみて欲しい。
(筆者注2)今回のFRBやOTSの措置については、2008年12月19日の日経新聞朝刊が報じている。しかし、同社が2008年2月18日「NBonline」で報じた記事は米国のクレジットカード業界へのサブプライムの波及という問題を正面からは取り上げていない。さらに言えば、朝刊記事では「米連邦準備制度理事会(FRB)と貯蓄金融機関監督局(OTS)は18日、クレジットカードに関する規制を強化することで合意した。」とある。しかし法的な説明としては曖昧な内容である。
すなわち、第一に本ブログでも紹介したとおり、FRB、OTSおよびNCUAが金融機関監督権限にもとづき、連邦取引委員会法18条(f)(1)[15 U.S.C.§57(a)]および5条(a)[15 U.S.C.§45(a)](筆者注3)を根拠として所管の行政規則改正を行った点について言及していない。また当然であるが、本文に述べたとおり2008年5月2日にパブコメに付しており行政手続に則ったものである。単なる監督機関の合同緊急対策ではない。第二に、米国の住宅ローンに始まるクレジット・クランチ(信用収縮・金融収縮による金融システム機能の危機的状況)が、最大の融資市場である米国のカード業界まで巻き込んできた危機的な状況を正確に伝えていない。米国の個人の借り手は先般の日経新聞も報じられているとおり、年金や保険を取り崩したり、ペイデー・ローン(米国で行われている給料を担保に金を借りることができる短期のローン。ペイデーは、給料日のこと。米国の給料の支払いが原則2週間周期のため、返済期限は2週間がメインとなっており、低所得者層が生活のために利用するケースが多い。それぞれの州で規定している上限金利に違反して高金利で貸し付けたり、違法な取立てなどで訴訟が発生しているため、州によっては利用が規制されている。)や質屋といった高金利への避難が極めて目立ち始めているのである。
この点は、米国弁護士山本寿賀氏のサイトでも「給料日ローン」として具体的に紹介されている。
わが国で景気低迷がこのまま進んだら、個人レベルで同様に大きな社会問題化することは間違いないといえる。
(筆者注3)アメリカの連邦制定法を検索する場合、「法律名」と「合衆国法典」の2つの検索方法があり、専門外の人は混乱している例が多い。簡単に両者の相違を説明しておく(本文中ではあえて両者を併記した)。なお、より米国以外の国も含め法律や判例その他裁判制度等について本格的に勉強されるのであれば、東京大学法学部研究室図書室外国法令判例資料室(旧外国法文献センター)、京都大学大学院法学研究科附属国際法政文献資料センター、東北大学大学院法学研究科・法学部(国際法サイト)などを散策すると理解度が高まろう。
「米国では、連邦議会で法律が制定されるとまず"Public Law(例えばPub.L.108-159と表示)"として発行されます。これは、議会に提出された法案の名称(例えば、the Fair and Accurate Credit Transactions Act of 2003)を踏襲しています。その後、分野別に体系化された「合衆国法典“United States Code(U.S.C)”」として編纂されます。U.S.C.は、合衆国憲法及び連邦議会が制定した法律で現在有効であるものを系統的に編集した法律集。50の編(Title)で構成され、さらに章、節に分かれています(同法の場合は、15 U.S.C. 1601)。
従って、名称で検索する場合、Public Law ファイルを利用します。一方、修正や変更を経た現在有効である法律を参照する場合は、“United States Code”を利用します。」(LexisNexisサイトから引用。筆者が一部補足的に変更した。)
なお、米国の法律名は上記のとおり法案の名称をそのまま引き継いでいることから内容を正確に反映していない場合がある。例えば“Bank Secrecy Act”は、内容に即して言うと 「銀行等に対する機密性が高くまたは不審な現金払いおよび海外との金融取引等に関する報告義務に関する法律」である。直訳的な「銀行秘密法」で引用される例が多いが、これでは読者には法律の内容はかいもく理解できない。ただし、これに類似する例がわが国でもある。「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律(平成13年法律第95号)」を経済産業省や地方自治体等多くの説明が同法の略称を「電子契約法」とする例が目立つ。
しかしながら、同法は正式名のとおり、(1)電子消費者契約における顧客の操作ミスによる要素の錯誤無効制度に関する民法95条の特例 (2)電子契約の成立時期の明確化(発信主義から到達主義に転換)に関する民法97条1項および同527条1項の特例を定めた法律である。
(筆者注4)欺罔的マーケティング行為を行った企業に対する被害顧客への現状回復(restitution)という民事的制裁方法については、わが国でも研究が行われているが専門的なものは少ない(あえて言えば「独占禁止法における違反抑止制度の在り方等に関する論点整理」平成18年7月21日内閣府大臣官房独占禁止法基本問題検討室取りまとめ等であろう)。なお、“restitution”を「不当利得返還」と訳しているレポートがあるが、そうであるなら“restitution of unjust enrichment”が正しい原語であろう。
(筆者注5)連邦預金保険公社の3行に対する提訴や和解の記事はわが国でほとんど報じられていない。その理由の1つ米国のクレジットカードの利用の実態について解説できる関係業界も含め専門家が極めて少ない点があげられ、また消費保護面から取組んでいるメディアも少ないことがあげられよう。
“First Bank of Deraware”および“First Bank & Trust”はすでにFDICと和解済である。
(筆者注6)“Balance Transfer”について解説しておく。クレジットカードを作る際に、他のクレジットカードの口座残高をそのまま新しいカードに振り替えることができる。この際、キャンペーン等で0%金利などが適用されるので、有利だと思ってしまう場合がある。しかし、実際にSchumer’s Boxで詳細を読むとそうでないことが分かる。まず、残高を振替る際に手数料(transaction fee for balance transfer)が取られる。Citi Simplicityの場合でみると振替金額の3%と決まっているが、金額が決まっている場合もある。いずれにせよ、手数料が取られては0%金利でも有利にならない。また、振り替えた残高に対する金利は0%であるが、そのカードを使って新しくできた残高に対しては通常の金利(10.49%)が適用される。そして一番大きな問題点であるが、毎月の支払いは金利の低い分から先に返済されるため次のような問題が生じる。例えば$1,000の残高を別のカード残高から振替し、0%金利が適用されたとする。しかし、新たに$500の買い物をして、通常金利が10.49%だったとすると、その月に$1,000を返済しても、それは0%金利の分として返済され、残った$500は金利10.49%が適用される債務残高ということになる。つまり、0%だと思って移しても、そのメリットはほとんどないということになる。なお、この説明は今回のレギュレーションAAの改正により、解決されたといえる。
(筆者注7) 通常1か月ごとに決済するカード決済が2か月や3か月にわたる返済になるもので、最終的な定期月額金利(Periodic Interest Charge)が高くなるためこれを禁止する。興味のある方は“Single –cycle billing”と“Two-Cycle billing”との比較ウェブサイトで実際比較計算してみよう。なお、”Periodic Interest Charge”とは何を言うのか。通常金利の表示は「年利(APR)」であるがクレジットカードの金利は頻繁に変動することもあり、1か月あたりに換算した金利表示のことを言う。すなわち、APRが8%であるならば“Periodic Interest rate” は0.08/12=0.666%となる。
(筆者注8)サブプライム・クレジット・カードとは不動産担保ローンより社会的影響が大きい問題である。ボストン連銀が“Communities & Banking” 2008年秋号で“Subprime Credit Card Business Model”として紹介している。住宅担保による借入や差押さえが懸念される「サブプライム」利用者層だがそれでも消費資金が必要という人を対象とするPredatoryなクレジット・カードが売られているというものである。どこがPredatory(暴利を貪る)かというと、250ドルの信用枠(credit availability)を設定すると、初期費用(1回のみ)として124ドル、年間の使用料等として132ドルをとられる。また250ドルの枠を設定すると、カード会社は利用者から初年度に256ドルを徴収する。この違法性の高いビジネスの特徴は、他の借入の返済は劣後されても、クレジット・カードの返済は生活資金枠確保のために優先される、したがってとりっぱぐれも少ないという点であり、まさに大きな社会問題といえる。
(筆者注9)“security deposit” とは、カード請求時に決済用に使用できないクレジットカード決済用担保預金である。与信限度額を悪用する顧客対策として一般的に設定されており、スイスの銀行の例でみると毎月の与信限度額の最大1.5~2倍を同預金として口座開設銀行に預けることが義務付けられ、同資金は別口座で管理され投資会社にファンドとして運用される。
(筆者注10)いわゆるクレジットカード利用に関する「シューマー・ボックス」とはいかなるものか。実は貸付真実法に基づきクレジットカード利用者に向けた表形式の表示の義務に関する規則化(レギュレーションZ:2000年施行)を働きかけたニューヨーク選出の上院議員の名前(Chuck Schumer)を取ったものである。
わが国では、米国生活をする日本人が多い割にはクレジットカードの利用方法を正確に説明しているウェブサイトが皆無である。本ブログの目的の1つに「消費者保護」を掲げている以上、多少詳しく解説しておく。
参考にした逐条的な情報は約3年前のものであり、そこで引用しているシティバンクのクレジットカード“Citi Simplicity”は現在利用できないが、「シューマー・ボックス」の説明自体には影響がないのでそのまま引用する。今回のレギュレーション改正に伴い「シューマー・ボックス」の表示方法も変更されるはずである。
なお、クレジットカードの利用に関する一般人向けの用語解説がFRBサイトで閲覧できる。
(1)年利(Annual percentage rate:APR):口座開設から12か月の導入期間は0%で、以降は10.49%(変動)である。
(2)その他の年利(Other APRs):他のカード口座からの残高の振替やキャッシングに係る金利である。前者については最初の残高が口座開設後12か月以内に行われた場合は12か月間は0%で以降は10.49%(変動)である。後者については、22.49%(変動)である。その他遅延損害および与信限度額超過金利(default rate)は、31.49%である。
(3)変動金利に関する情報(Variable rate information):
あなたのAPRは各請求期間ごとに変更される。買物や資金振替(balance transfer(筆者注6参照)については、プライム・レートプラス2.99%、キャッシングの場合はプライムレートプラス14.99%等となる。
(4) 延滞金利がかからない支払猶予期間(grace period):
支払期日までに各請求期間に完全に新残高を支払ったときは少なくとも20日間とする。
(5)新しく買物できる平均残高の自動計算結果(method for computing balances):
この方法はカード発行人がユーザーのファイナンス・チャージを計算する最も一般的な方法であり、あなたが毎月クレジット残高を全額支払わない場合に適用される。
(6)年会費(annual fee):
適用がなければ”None”と表示される。
(7)最小ファイナンス費用(minimum finance charge)
(8)外国通貨による買物を行う場合の取引手数料(Transaction Fee for Purchase ,ade in a Foreign Currency):
米国ドルに変換後外国通貨で買物をしたときは3%の交換手数料がかかる。
(9)キャッシングの場合の手数料は各キャッシングにつき3%(最小5ドル)、資金振替額の3%(最小5ドル、最大75ドル)である。
(筆者注11)FDICのリリースによると適用されるべき現在残高が与信金額を下回る適格ユーザーは具体的な請求行為は不要であり、CompuCredit社からの通知に基づき、現金の返却を受けることになる。その他の適格ユーザーは正当な与信額が通知される。なお、これらの通知や現金の返還内容はFDICが認めた独立会計事務所により検証される。
〔参照URL〕
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/bcreg20081218a1.pdf
http://www.fdic.gov/news/news/press/2008/pr08142.html
http://www.ftc.gov/opa/2008/12/compucredit.shtm
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