2012年5月10日木曜日
米国連邦取引委員会がプライバシー保護面からビジネス業者が取るべき要求事項や立法措置に関する最終報告書を公表
全米にわたるプライバシー・ポリシーと法執行に係る中心的規制・監督機関である連邦取引委員会(FTC)は、2010年12月1日にプライバシー保護面からビジネス業者が取るべき実践要求事項に関する報告書草案を公表していたが、2012年3月26日、広く関係者からの意見等を踏まえた最終報告書「急速に変化する環境下におけるプライバシー保護:ビジネス界および連邦議会への勧告(事務局案)(Protecting Consumer Privacy in an Era of Rapid Change:Recommendations for Businesses and Policymakers)(全112頁)」を取りまとめた旨、リリースした。
筆者は、2010年12月31日の本ブログでこの報告書問題を取り上げた。当時の準備報告書の英文タイトルは“Protecting Consumer Privacy in an Era of Rapid Change: A Proposed Framework for Business and Policymakers ”であった。その後も、2012年に入りGoogleの新プライバシー問題やEUの情報保護規則案の公表等、プライバシー保護をめぐる監督機関とマーケティングやIT業界等ビジネス界との鬩ぎ合いはますます混迷の度合いを深めている。
実は、2010年の報告書の取りまとめ目的は、第一に連邦議会に対し、(1)包括的なプライバシー保護立法、(2)個人情報データの安全性とその漏えい時のデータ主体などへの通知義務立法、(3)個人情報のブローカー規制立法に向けた具体的な行動を勧告することにある。また、同時に消費者の個人情報を扱う企業等がプライバシーを保護するために遵守・実行すべき準則・自主的行動基準を明示するものであった。
一方、2012年2月23日のWSJ記事等に見るとおり最近時、連邦政府(ホワイトハウス)、商務省、FTCや連邦議会の具体的な動きの中で、従来消極的であったウェブ運営会社のトラッキング規制への自主的取組みが具体化したことが今回のFTCの最終報告取りまとめの背景にあげられる。
今回のブログは、(1)先の予備的報告書に対する関係先からの各種意見、指摘事項を踏まえ見直し項目や内容、および(2)連邦議会による包括的なデータ主体のコントロール権等を踏まえたFTCが考える保護強化策の内容についての解説である。業界の規制・監視機関であるFTCの政策判断や法執行の詳細は、わが国の保護政策強化等に向けた参考となりうるとの判断でまとめた。
また、併せてウェブ業界が直面するプライバシー面の課題と米国の約400以上の企業、団体が取組みを開始した“Digital Advertising Alliance”のオンライン行動に基づく業界自主規制マーケティング・プログラム等の概要を紹介する。(筆者注)
なお、筆者自身大変気になるわが国のウェブ広告業者における「行動ターゲティング広告の説明と無効化」手続きについて「楽天」グループを例に最後にまとめて説明する。
1.FTCの意見公募結果等に基づく準備報告書の見直しの概要
最終報告書は、準備報告書(preliminary staff report:2010年12月公表)の勧告内容に関し450以上にわたる関係先からのコメントに基づき取りまとめた点は特記すべきである。すなわち、FTCは2010年12月以降の技術的進歩と産業界の開発に沿い、以下述べる3つの領域で勧告内容を見直した。
(1)ガイダンスの適用範囲の見直し
準備報告書は、特定の消費者、コンピュータやその他の端末に接続する形で消費者情報を収集、使用するあらゆる民間企業に対する規制の枠組み案を適用すべく勧告内容としていた。しかし、中小企業の潜在的な負担を考え、最終報告は年間5,000人未満でしか個人情報を扱わず、かつ非機微情報のみを移送しない会社については枠組みの適用対象外とした。
また、最終報告は、関係機関や個人から指摘された技術進歩に伴い、ますます多くのデータが消費者やコンピュータやその他のデバイスにつき「合理的に考えてリンクされた」の定義を採用して見直した。すなわち、もし会社が非特定化(de-identify)のための合理的な方法を取り、かつ再特定を行わず、また川下の受け手にその内容の再特定化(re-identify)を禁じている場合は「合理的に考えてリンクされた」には該当しないとの結論を下した。
(2)個人情報に関する選択肢の提供時期の明確化
最終報告は、提供会社が消費者に対し、自身の個人情報が使用に関する「選択肢」をどのように、いつ提供するかについてのガイダンスをより明確化した。
その選択肢とは、実務慣行が取引の文脈または企業との既存の関係または法が要求したり、特に承認した内容と合致する範囲を明確化するという意味の選択肢であると明記した。これらの慣行は製品内容の充足と詐欺の阻止を含む。
(3) 個人情報のブローカーに関する重要な勧告内容
最終報告書は、個人情報のブローカーに関する重要な勧告内容を含む。すなわち、データ・ブローカーが消費者の個人情報を買い、集約化し、高額で販売していることに注目した。消費者は自身の情報を利用しているブローカーの存在に気づいていない。このため報告書はこのような取引慣行に透明性を増強するため、次の2つの勧告を行った。
ⅰ)FTCは、データ・ブローカーが保持する情報に対するデータ主体のアクセス権に関する立法措置の優先性をあらためて繰り返した。
ⅱ)データ・ブローカーに消費者が彼らの実践内容とその利用に関する選択権が適切に行使できるよう中央化されたウェブサイトの創設を探求すべく、マーケット目的に関する消費者データを集約化するよう求めた。
2.連邦議会への立法強化の働きかけや業界への指導強化
連邦議会がプライバシー保護立法を検討している一方で、FTCは個々の会社や業界団体が従来実行を伴っていない今回提示したプライバシーの枠組みに含まれる諸原則の採用を迅速化すべく、働きかけてきた。
2013年に向けての過程で、FTCの事務局スタッフは次の項目に焦点を合わせた消費者のプライバシー保護に向けた勧告を実践する予定である。
(1)Do-Not-Track監視制度の構築
FTCは、近年この分野において際立った進展を見たと賞賛している。すなわち、ブラウザ・ベンダーは、すでに消費者による自身に関するトラッキング情報の収集を制限するツールを開発済みである。また、米国の主要なブラウザや検索会社など約400社以上が参加する「デジタル広告連盟(Digital Advertising Alliance:DAA)」は自身のアイコン・ベースのシステムを開発済であり、またブラウザ・ツールを実行すべく取り組んできた。さらにウェブ技術の標準化と推進を目的とした、会員制の国際的な産学官共同コンソーシアム「W3C( World Wide Web Consortium )」は”Do-Not-Track”システムを開発済である。
同レポートは、準備報告書をさらに詳細な内容に昇華させたもので、消費者個人情報を扱う会社等がプライバシー保護のために実装すべき事項として以下の項目の実践を勧奨している。
(2)製品・サービス開発における計画的に実現するプライバシー保護施策(Privacy by Design):会社は製品開発におけるあらゆる段階においてプライバシー保護の手立てを行うべきである。そこでは、消費者の個人情報に関する合理的なセキュリティ対策、限定的な範囲での情報収集と保持、データの正確性の向上のための合理的な手順を含む。
(3)企業や消費者にとっての選択肢の簡易化
企業はどのような個人情報を共有しまた誰と共有するかにつきについて選択の場を消費者に与えるべきである。このことは、”Do-Not-Track” メカニズムは消費者が自身野オンライン活動の追跡をコントロールすることにつき、シンプルかつ容易であることを含む。
(4)より深化した意味での透明性の確保
企業は消費者情報の収集、利用の細部につき開示せねばならないし、また収集した情報につき消費者によるアクセス権を与えねばならない。
3.米国ウェブ企業や業界団体によるトラッキング広告規制に関するマーケティング自主規制プログラムの具体化とその前提となるFacebookやGoogleの和解問題
(1)米国ウェブ企業や業界団体によるトラッキング広告規制の取組み
2月23日、米国の約400以上のウェブ企業や業界団体のからなる自主規制団体“Digital Advertising Alliance”はホワイトハウス、商務省やFTCが取り組んできたオンライン行動情報に基づくマーケティング自主規制プログラムによりウェブのヘッダーでの追跡拒否の選択肢を順次開始すると発表した。
業界の自画自賛的な内容が気にはなるが、いずれにしても規制強化法による監視が予想される中、また1年以上にわたるウェブ業界の強い抵抗にもかかわらず、 2011年11月29日のFTCとFacebookの和解案提示(和解案の原文参照)、GoogleがApple社のウェブ・ブラウジング・ソフト(safari)のプライバシー設定を無効化していた事実を認めたことなど、ユーザーのトラッキング阻止設定の回避機能をめぐる人権擁護団体(ACLU、Consumer Union等)プライバシー侵害論議、さらに“Mozilla”Firefox ブラウザ、マイクロソフトのIE、Appleの最新OS“Mountain Lion”)のようにトラッキング回避のための対抗策が続いて行われていることが背景にある。
(2)DAAの具体的な提案内容
DAAサイトは“White House ,Doc and FTC Command DAA’s Self-Regulatory Program to Protect Consumer Online Privacy: DAA Announces Plans to Expand Program Consumer Choice Mechanisms”という表題で概要次のとおり解説している。
2012年2月23日、デジタル広告業界のリーダーと経済政策担当大統領補佐官のジーン・スパーリング(Gene Sperling)、商務省長官ジョン・ブライソン( John Bryson)および連邦取引委員会委員長のジョン・リーボビッツ(Jon Leibowitz)がホワイトハウスに集い、DAAおよび過去3年間にわたり取り組んできた消費者のための強力なプライバシー保護の重大な進展を褒め称えた。
2009年7月1日、DAAは「オンライン行動に基づく広告活動(Online Behavioral Advertising:OBA)7原則(全48頁)」を導入・実施すべく業界自主規制プログラムを立ち上げた。2010年、DAAは詳細な実務慣行すなわち‘広告Option Icon'を発表・公開した。これは Iconをクリックすることによって、個人は彼らが参加企業から提供される関心テーマ等に基づく広告に関して選択権行使を可能にする明確な「開示説明書」に基づき、消費者による選択権のページにリンクする。
さらに、DAAは消費者がDAA7原則の下で自身の選択の意思を明確に追加的手段としてウェブのブラウザベースのヘッダー操作を追加する旨発表した。
以下で、OBA7原則の内容を概観しておく。
①Education Principle:企業にOBAの意義の周知や選択権等具体的な消費者教育への参加を求める原則である。
②Transparency Principle:OBAに関連するデータ収集と使用に関して明確に消費者に知らせるためには、多重的な展開が必要である。本原則は、ODAにより情報を収集、使用する企業に適用するとともに、ウェブサイト上で集められたデータが第三者において利用されることのウェブ広告上での透明性をもった開示原則である。
③Consumer Control Principle:ユーザーに対し、ODAのためデータを収集するウェブサイト上でODA目的のため非関係会社に当該データを移送することにつき選択権の行使を可能とすべき原則をさす。それらの権利の行使メカニズムについては企業自身のウェブサイトまたは業界が作成したサイト上で提供されるという原則である。
Transparency原則とConsumer Control 原則には、ODAに関与する「サービスプロバイダー」のための別途の条項がある。これらの原則の下でサービス・プロバイダーは、彼らの提供サービスの使用で起こるODAに関して追加的通知を行うとともに、オンライン行動の広告に従事する前にユーザーの同意を得て、その目的に使用されるデータを非特定化(de-identify)するための手続きを用意しなければならない。 さなわち、インターネット・アクセス・サービスプロバイダーやデスクトップ・アプリケーション・プロバイダーがウェブ・ブラウザの「ツールバー」等でその手続きを用意すること等が例にあたる。
④Data Security Principle:ODAにおける情報の収集、使用に対し適切な安全対策を提供するとともに、保有情報の限定的な適用を保証するとする原則である。
⑤Material Changes Principle:ODAを行う企業に対し、彼らのODAに関しその内容の変更前のユーザー同意を得ること、またその変更前に収集した情報についてはより制限的な方針で臨むとする原則である。
⑥Sensitive Data Principle:ODAで収集、使用するデータ処理に関し異なる扱いを求めるものである。すなわち、子供のデータのために児童オンラインプライバシー保護法で詳しく説明された保護処分を適用することによって、高められた保護レベルを高める場合があり、また特定の個人に関する金融取引にかかる銀行口座番号、社会保障番号、調剤の処方箋またはカルテの収集については事前の同意を必要とするという原則である。
⑦Accountability Principle:この原則は、オンライン行動の広告生態系で広範囲の活動する企業が、これらの原則の遵守をより促進するためにポリシーとプログラムを開発、実行するよう要求する。 ダイレクト・マーケティング協会(Direct Marketing Association(3,500以上のメンバーがいる)は、長期間有効な自己規制プログラムと各種原則の統合を示唆してきた。成功した説明責任プログラムの長い歴史の中で、Better Business Bureau Council はこれらの原則に関する周辺的な原則について新プログラム開発ニーズを示唆してきた。
(3)2011年11月29日、FTCとFacebookとの間で行われたプライバシー関係情報に関する合意条項(privacy premises)違反を理由とする和解案の内容
A.FTCのリリース文の概要
ソーシャルネットワーク・サービスを提供するフェイスブックは、11月29日にFTCとの間でフェイスブック利用時において会員の個人情報はプライベートに扱われるが、次には繰り返し第三者により共有されまた広く公開されることを許すという点で消費者をだましたとするFTCの8訴因に基づく告訴にかかる責任につき和解に至った。
(a)FTCの告訴理由
FTCの告訴状による合意条項違反の事例は次のとおりである。
①209年12月、フェイスブックはウェブサイト上で「ユーザーのList for Friend」 というプライベートと指定する一定の情報公表を公開したが、この公開にあたりユーザーへの警告や事前承認を得なかった。
②フェイスブックは、ユーザーがインストールする第三者アプリケーションはアプリの運用上必要なときのみユーザー情報にアクセスすると表示していたが、実際は必要でない場合もアクセスしていた。
③フェイスブックは、限られた読者たとえば「友達のみ(Friends Only)限定」データの共有できると説明していたが、事実上、「Friends Only」を選択しても第三者アプリケーションがその情報を共有するのを阻止できなかった。
④フェイスブックは、「認証されたアプリケーション」または参加する第三者アプリケーションのセキュリティにつき認証されたものに限るとしていたが、事実はそうでなかった。
⑤フェイスブックは、ユーザーの個人情報につき広告主の共有しないと約束していたが、実際はそうではなかった。
⑥フェイスブックは、ユーザーがアカウントを非活性化したり削除したときは彼らの写真やビデオはアクセス不可になると主張していたが、非活性化や削除後でもアクセスは可能であった。
⑦フェイスブックは、米国とEU間情報保護の移送にかかる政府間協定の枠組み(U.S.-EU Safe Harbour Framework)を遵守すると主張していたが、遵守していなかった。
(b)和解案原本
和解内容の概要は次のとおりである。
①消費者のプライバシーまたはセキュリティに関する不当表示(misrepresentation)の禁止
②消費者のプライバシーの優先度の変更に伴い変更の実施前にそのことを肯定する消費者の同意の意思を得ること
③ユーザーが自身のアカウントの削除後、30日以降のユーザーの資料にかかるアクセスを阻止すること
④新規ならびに既存の製品やサービスにかかるプライバシー・リスク・プログラムの構築する包括的プライバシー・プログラムの確立と維持、および顧客情報に関するプライバシーと信頼性の保護を求めること
⑤本決定の180日以内にかつ今後20年以上2年ごとに独立した第三者機関によるFTCの保護命令を満たすまたはそれ以上であることの認証を求めること
これらのFTC命令は命令の遵守記録のモニタリングを認める標準的記録保存規定を含む。
4.楽天グループの例における「行動ターゲティング広告」の説明および無効化手順の説明
(1)楽天スーパーDBターゲティング広告の説明と無効化手順
最長1年間蓄積した消費者のアクセス情報に基づく最適広告配信サービスである。当広告の無効化手続きは「無効化(オプトアウト)」ボタンをクリックする。
(2)楽天オーデエンス社技術に基づくターゲティング広告と無効化手順
最長1年間蓄積した消費者のアクセス情報に基づく最適広告配信サービスである。当広告の無効化手続きは「無効化(オプトアウト)」ボタンをクリックする。
(3)楽天モーションウィジェットの「おすすめ商品」設定と無効化
*******************************************************************************************************
(筆者注) 米国商務省、FTC等の米国におけるトラッキング情報に基づくマーケティング活動につきプライバシー保護面等からみた問題を解説したブログとして3月28日のブログ:吉野内 崇「FTCが新プライバシー・ポリシーを発表。年内に行動データ収集をユーザが拒否できる機能追加を約束」を読んだ。在カリフォルニアのコンサルタントである筆者によるもので、最新情報として内容がよくまとめられていると感じたが、基本的に疑問な点がある。
「米連邦取引委員会(FTC)は、3月26日、インターネット上の行動データ収集に関する新たなプライバシー・ポリシーを発表した。今月から施行されたグーグルの新プライバシー・ポリシーへの賛否が全米で議論されている中、ユーザ側に立ったプライバシー・ポリシーの導入と順守を関連企業に求める内容となっている」
同ブログでは、このFTCの「プライバシー・ポリシー」のリンク先はFTCのプレスリリース「FTC Issues Final Commission Report on Protecting Consumer Privacy:Agency Calls on Companies to Adopt Best Privacy Practices」である。今回FTCが発表したのはあくまで報告書であり、企業のプライバシー・ポリシーの雛形を直接論じてはいない。
********************************************************
Copyright © 2006-2012 福田平冶(Heiji Fukuda).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.
2012年3月27日火曜日
米国連邦金融監督機関が連名でレバレッジ・ファイナンスの改正ガイダンスを11年ぶりに発布
3月26日、連邦準備制度理事会(FRB)、預金保険公社(FDIC)および財務省通貨監督庁(OCC)は各種債務比率、キャッシュ・フロー倍率(注1)やその他の比率により計算される業界の標準を大幅に超える財務レバレッジ(筆者注2)ならびにキャッシュ・フロー・レバレッジ(筆者注3)に基づく融資先の融資判断取引をカバーすべく改正草案を連名でリリースした。
今回の改正の背景には、これら監督機関が金融危機の引き金となったレバレッジに基づく与信取引量および規制監督の対象外の投資家の市場参加の急増に注目したことが上げられる。
今回のブログは本通達内容を仮訳することにある。時間の関係で十二分に吟味した翻訳作業とは言えないが、わが国の関係者に対する問題提起として読んでいただきたい。
1.要旨
米国における金融危機の間、レバレッジ融資を手控えることがあった一方で、良識ある引受け実務は退化してきた。金融市場が発展段階にあるとき、債務契約は比較的限られた貸し手保護に関する特性、すなわち重要な維持特約の欠落や貸し手の融資実行力の弱体化したときの頼みの綱に影響を与えるその他の特性を包含するなどをしばしば含んでいた。
さらに、いくつかの取引において資本構成と返済見通しは契約の新規創設の場合や分配方式かにかかわらずきわめて攻撃的であった。いくつかの金融機関では経営情報システム(management information system:MIS)はタイムリーなベースでみた正確に実際の情報開示を実現していたかという点で不十分であることが証明された。また、多くの金融機関ではリスクのある資産の重大な減少に関する買い手の要求が行われたとき、彼らは自分がハイリスクの取組みパイプラインを握っていることを認識した。
レバレッジ・ファイナンスは経済にとって重要な形態であり、銀行の経営において与信を可能とし、その与信活動における投資家を組織化する統合的な役割を担う。銀行が、五体満足に安全かつ健全な方法で信用にたる借り手に融資手段を提供することは重要である。
市場の発展の観点から、連邦金融監督機関は2001年に策定した「レバレッジ・ファイナンス・ガイダンス」に置き換わる次の項目からなる改正ガイダンスをこのたび提案するものである。
①健全なリスク管理の枠組みの構築
連邦監督機関は、経営者や取締役会が当該金融機関のレバレッジ・ファイナンスに関するリスク選好を特定し、適切な与信限度を確立のうえ信頼にたる監視と承認手続きを確実にすることを期待する。
②引受け条件の標準化
本ガイダンスは、キャッシュ・フローの限度容量、分割償還(amortization)、契約の保護、担保管理および各取引に関するビジネス契約書(business premise)は健全な内容でなければならず、資本構成は融資契約が新規創設の場合か分配方式を問わず持続可能でなければならない点を強調した。
③評価基準
本ガイダンスは、意思決定時の健全な方法論確立の重要性と企業価値の定期的な再評価問題に集中する。
④パイプライン管理
時宜に即した適切な開示の必要性、融資取引が失敗したとき、一般的な金融市場の破綻時の政策や手続きの準備することの重要性およびパイプラインに関する定期的なストレス・テストの実施を強調している。
⑤報告と分析
本ガイダンスは、主要な債務者特性に関するMISの必要性を強調するとともに時宜の応じた形でのビジネスラインおよび法人全体にわたり横断的に統合する点を強調する。また、報告と分析方法に関し、定期的なポートフォリオに関するストレス・テストの実施をもって補強する。
2.コメント期限
本ガイダンスに関する関係者の意見は、2012年6月8日までに連邦金融監督機関に提出しなければならない。
3.添付資料
「Proposed Guidance on Leveraged Lending」(全文25頁)
(筆者注1)「キャッシュ・フロー倍率(cash flow ratio)」とは、「株価キャッシュフロー倍率(PCFR=Price Cash Flow Ratio)ともいわれ、株価収益率(PER=Price Earnings Ratio)とともに株式市場平均や収益力の同業他社との比較をする際に用いられる。
キャッシュ・フローは利益から税を引いた額から配当金や役員賞与などの社外流出分を除いた額に、減価償却費をくわえたもののことをいう。株価を一株あたりキャッシュ・フローで割ることで「キャッシュ・フロー倍率」が算出される。企業によっては、有税償却し内部保留を行ったり、設備投資で減価償却費が増加している場合もあるので、キャッシュ・フロー倍率(cash flow ratio)は、その企業の収益力を判断する際の尺度になる。(「資産運用まるわかり辞典」から引用)
(筆者注2)負債がまったくない企業の財務レバレッジ(financial leverage ratio)比は1であり、その比率数値が高まるにつれ、負債が多いということになる。
(筆者注3)レバレッジは、一部の金融資産の契約上のキャッシュ・フローの特性である。レバレッジは、契約上のキャッシュ・フローの変動性を増大させ、レバレッジ効果を含む契約上のキャッシュ・フローは、利息としての経済的特徴がなくなる。このため、契約上のキャッシュ・フロー特性テストをパスできない可能性がある。
なお、企業分析におけるフリーキャッシュ・フロー特性分析に関し、企業の本源的価値(実態価値)を計算するときには、その企業が将来に亘って生み出すであろうフリーキャッシュ・フローを推定することが必要となる。最も単純なケースでは、当期利益に非資金項目である減価償却費や引当金計上などの費用項目を足し戻し、最後にビジネスを継続していくうえで必要となる設備投資(資本的支出)を差し引いたものが該当する(企業が稼いだ利益のうち最終的に手元に現金として残る部分)。(マネックスラウンジから引用)
********************************************************
Copyright © 2006-2012 福田平冶(Heiji Fukuda).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.
2012年3月22日木曜日
フランスCNILがGoogleの新プライバシー・ポリシー等に対するEU保護指令等から見た懸念や疑問点69項目を提示
フランスの個人情報保護法の監視機関であるとともにEU全体の保護機関でもあるCNIL(La Commission nationale de l’informatique et des libertés: 情報処理および自由に関する国家委員会)(筆者注1)は、2月28日に標記の問題につき引き続きEU全体の監視機関である「EU 指令第29条専門調査委員会(Article 29 Working Party)」(以下、「29条委員会」という)(筆者注2)とともに調査を行う旨リリースしたことはわが国のメディアでも報じられたとおりである。
同リリースでは、3月中旬までにCNILとしての正式な質問状をGoogle宛に行うと予告していたのであるが、CNILは去る3月19日、3月16日付けでGoogleのCEO宛に来る4月5日を回答期限とする「正式な質問状(questionnaire détaillé:全69項目)」を送付した旨リリースした。
今回のブログはCNILが29条委員会とともに取り組んできた詳細な疑問、問題点等につきCNILの質問状の内容・項目に則してまとめてみる。
特に筆者が感じた点は、単なる人権擁護問題にとどまらず、ITベンダーとしての実務的な不透明性を徹底的に追求している点である。
単純に比較すること自体酷であるが、わが国の経済産業省と総務省が2月29日に連名で行った「注意喚起文書」と比較してほしい。
なお、2月28日および今回のCNILのリリース内容を読む限り、Googleから十分な検討の時間が与えられていない中でポリシーの改定ならびにサービス内容の見直しが進められていないことは事実である。また、筆者の手元には現時点で正確な情報はないが、Google自体の検索サービス自体が一体どこがどのようにかわったのか、内外の主権者たるユーザーはなお把握できていないのが実態であろう。
1.EUの29条委員会による改正ポリシーの実施時期延期の申入れとGoogleの具体的反論
(1) 29条委員会の委員長ジェイコブ・コーンスタム(Jacob Kohnstamm)(オランダ個人情報保護委員会・委員長:プロフィール参照)によるGoogleへの申入れ
次のような1枚ものである。
「拝啓 ラリー・ペイジ 殿
「EU指令第29条専門調査委員会(Art.29 Data Protection Working Party)」を代表して、私は本委員会が貴社の個人情報保護遵守指針(プライバシー・ポリシーや利用規約、以下本ブログでは「プライバシー・ポリシー」という」)等の来たる3月1日の改正実施を問題視していることをあなたに通知したい。
貴社のプライバシー・ポリシーの改正は、提供するサービスの広い範囲およびこれらのサービスの普及に支えられて、EUの加盟国の大部分あるいはすべての市民に影響するかもしれないものである。
本委員会は加盟国による統合的な手続きによりこれらの市民の個人情報の保護が有効に可能なものかその結果をチェックしたい。このため、本委員会はこの問題の検討につきリード役となるようフランスの国家情報保護監督機関であるCNIL(情報処理および自由に関する国家委員会)に依頼した。
CNILは快くこの任務を受理しており、EUのデータ保護機関のために貴社との接点になるであろう。
上記の理由から見て、我々はグーグルのプライバシー・ポリシーの改正にかかる取組みがユーザーやEU市民の情報自由権に対する利益に関して誤解がないことを保証するため、EU内で十分な分析を終えるまで、改正ポリシーの実施の停止を要求する。」
(2) Googleの回答・反論
2月2日、 Googleのグローバル・プライバシー担当顧問弁護士ペーター・フレイシャー(Peter Fleischer)の29条委員会・委員長ジェイコブ・コーンスタムへの回答文書 以下の回答文は29条委員会に先立って提出された米国の連邦議会超党派議員8名のGoogleに対する公開質問書へのGoogleの回答内容につき、米国ピッツバーグ大学ロー・スクールの解説サイト(JURIST)から仮訳して引用した。内容は29条委員会に対する回答文書と同趣旨なため、ここで引用するものである。
「Googleが1月31日、連邦議会の超党派議員8名に対する回答文書を提出した(原文、プレス・リリース)。この世界的規模の探索エンジン・サービス会社は新しい「個人情報保護遵守指針(privacy policy)」等によって影響を受ける消費者のプライバシー権に関する連邦議会議員によって投げかけられた懸念に対応したものである。その回答文書で、Googleはエドワード・マーキー(Edward Markey)(D-MA)下院議員ほか7名の議員からのCEOラリー・ペイジ(Larry Page)に対する11項目にわたる特定の質問に答えた。
Googleの回答文書で、今回の自社プライバシー・ポリシー改正の動機に関する背景的事項に加えて、ユーザーがGoogle Accountを閉じる場合の個人データ削除の手順の記述、グーグル・アカウントへ署名せずに利用することができるサービスの一覧、グーグルの製品間でユーザーのデータを共有する理由および新しいポリシーの実施前に新しいタイプの個人データが集められないだろうという確証を含んでいた。Googleは、新ポリシーを用意した理由は、それを消費者のためにより理解しやすいものとし、かつすべてのグーグル製品・サービスを横断的にわたるユーザー体験を改善するためのポリシーの簡素化・単純化であると主張した。
2.2月28日および3月19日CNILのGoogleに対する問題指摘に係るリリース文
(1) 2月28日のCNILのリリース文
CNILと29条委員会は、Googleにおける各種ポリシーの能率化と簡素化に係るイニシアティブを取ることを歓迎する一方で、この努力は透明性や包括性を犠牲にして行われるべきではないと信じる。各種サービスにかかるポリシーを統合化することにより、かえってGoogleは特定のサービスにおいて使用する目的、個人情報、受け手やアクセス権等の正しい理解を不可能にさせるといえる。すなわち、Googleの新ポリシーはデータ主体に提供しなければならない情報に関し、1995年EU情報保護指令(95/46/CE)に定める必要条件を満たしていない。
Googleは、特定の処理および目的に係る情報を持って既存の情報を補完すべきである。さらにいうと、新ポリシーは透明性を促進させるより、むしろ新ポリシーの用語やサービス横断的に個人情報を統合するということはGoogleの実際の実務においてユーザーに恐怖や疑問を投げかける。
新ポリシーの下で、ユーザーはGoogleがAndroid、Analysticsや広告サービス等のサービスにおいて彼らの行動の大部分の追跡(track)と統合(combine)を可能にするであろうと理解するであろう。例えば、新ポリシーの下で、GoogleはAndroid 電話利用アクセス情報(personal number、calling party numbers、date and time of calls)(筆者注3)や位置情報等ユーザーの行動内容に関する情報を元にYoutube 広告画面上に表示することになろう。
EUにおけるGoogleの各種市場における圧倒的なシェアー(検索エンジンでは80%以上、スマートフォン市場では約30%、グローバルなオンラインビデオ市場では40%、グローバルなオンライン広告市場では40%以上)から見てもプライバシーと個人情報保護への影響はとりわけ重要である。
また、Google AnalyticsはEUでも最も人気がある解析ツールである。さらに、とりわけこれらのサービス上で組み合わされたクッキーは、改正されたEU指令(ePrivacy Duirective:2002/58/CE)に定める「同意原則(principle of consent)」に対するGoogleの遵守問題を引き起こす。
これらの問題につきCNILは懸念を明らかにする目的で2月27日、準備段階の書面をGoogleに送付した。
(2)3月19日のCNILのリリース文
A.2月28日のリリースを受けて、CNILは新プライバシー・ポリシーに関する詳細質問状・意見書(全12頁)を3月16日にGoogle宛送付した。
同アンケートは緊密な質問を含むものでかつ全69項目からなる質問項目は、ユーザーが「グーグル・アカウント」を持っているか、認証適用を受けないユーザーか、あるいは広告や利用者解析等他のウェブサイト上でGoogleサービスを受けとる受身のユーザーであると否かにかかわらず、新ポリシーの真の結果を明確化することにある。Googleの回答は、各種横断的なサービスの組み合わせがEUの個人情報保護の法的な枠組みに準拠するものであるかを調査する上で役立つものとなろう。
CNILは来る4月15日までに書面での回答を行うよう求めた。なお、今回の行動は29条委員会の指定に基づくものである。
B.詳細な質問状・意見書の概要
質問事項Q1~Q12までを仮訳しておく。Q13~Q69については項目のみ挙げる。
1.本質問状で使用する「用語」の定義
2.新プライバシーへの移行上の疑問点
(質問1) 2012年1月24日の新しいプライバシー・ポリシーの発表以来Googleがユーザーから質問に答えるためにいかなる過程を実行したかどうかを示してほしい。
(質問2) 2012年1月の新しいプライバシー・ポリシーの発表に続いて、Googleに向けて発せられた苦情、要求、質問件数の概数を提供してほしい。
(質問3)
a) Googleのプライバシー問題に関するメインサイト( http://www.google.com/intl/en/policies/ and localized versions)(筆者注4)を専念して訪問したユニーク・ビジター数を提供してほしい。
b) Googleのウェブサイトの総ユニーク・ビジターとそれを比較してほしい。
c) ポリシー改正前の2010年10月の同じ条件の数値を提出してほしい。
3.各種サービスによる個人情報の収集の相違点
(質問4) Googleのプライバシー・ ポリシーは、「情報(information)」、「個人情報(personal information)」や「個人特定情報(personal identifiable information)」等様々な用語を使用する。 新しいプライバシーに関する方針の目的のために、それらがすべて「個人的なデータ」に同等なものとしてエンドユーザによって理解されるべきであることを確認してほしい(本質問状の冒頭の定義を参照されたい)。
(質問5)
a) 新しいプライバシー・ポリシーがカバーするGoogleの「処理」と「サービス」に関する全リストを提供してほしい。
b)また、各処理につき、それが特定のGoogleサービス(例えば、セキュリティに関連する処理は数個かすべてのサービスをカバーするかどうかなど)に対応したものであるかどうかを示してほしい。
(質問6) データの以下のカテゴリに関し、各サービスにおいてどのようなデータが処理されるか、またその処理の目的を詳しく述べてほしい:
A)クレジット・カード・データ
B)端末特定情報(device-specific information)
C)電話ログイン情報(telephony log information)
D)現在位置情報(location information)
E)ユニークな端末特定情報(unique device identifiers)
(質問7) 新しいプライバシー・ポリシーは、「私たちがあなたのGoogleから受けるサービスの使用時に得る情報」のリストについて説明する中の記述には、「端末情報」、「ログ情報」、「現在位置情報」、「ユニークな端末特定番号」および「クッキーと匿名の識別子(Cookies and anonymous identifiers)」を含んでいる。このリストが包括的であるかどうか、またGoogleがユーザーのサービスの使用に関連する追加データを集める可能性について説明してほしい。(筆者注5)
(質問8)Googleの新しいポリシーは、以下の通り記述するが、次の点を確認したい。 「私たちはあなたがGoogle Accountの設定を求められる私たちが提供するサービスのすべてに関しGoogle Profileにあなたが提供する名前を使用しうる。」 「さらに、あなたの私たちのすべてのサービスの横断的な利用目的であなたのGoogleに関連している過去の名前のGoogle Accountを新しいものに置き換えることができる。」
a) ユーザーがすでにGoogle Profileを設定していない場合、ユーザーはこれらのポリシー文言によって関係が集約されるのか、また彼がどう影響を受けるかもしれないかを詳しく述べてほしい。
b) すべてのユーザーが彼らのGoogle Profileを完全に削除できるのかにつき確認したい。
c) Google Profileなしで利用可能なサービスのリストを示してほしい。
(質問9) 新しいプライバシー・ポリシーは「私たちはどんな機密性のある個人情報の共有のために「オプトイン同意」を必要とする。」のとおり記述するが、次の質問がある。
a)Googleは、 いつ、どのような方法でまたいかなるサービスにおいて機微情報を収集するのか具体的に記載してほしい。
b) そのような機微情報の収集目的を提供してほしい。
c) この質問状の冒頭で記載したようなGoogleにおける「機微情報」の定義を記載してほしい。
(質問10.)微情報の共有に関し、いかなる方法でまたいかなる場合に「オプト・イン同意(opt-in consent)」が集められるかにつき説明してほしい。
(質問11) Googleは新しいプライバシー・ポリシーにおいて「顔認証(face recognition)」に言及しない。これは、Googleが顔認識処理を使用しないか、またはそのような処理を行うときには、特定のポリシーを適用することになるのか?。その場合、Googleはユーザーによりアップロードされる写真やその他の素材(例えばGoogleアカウントに使用される写真やGoogle+のユーザー代表または第三者の ための写真)について先立って顔認証について明白な同意を求めるのか?
(質問12) 多くのGoogleサービスの使用は、以下の例等のように「PREFクッキー(Googleの表示設定クッキー)」の作成結果をもたらす。
PREF=ID=3a391cb61c62dbb1:TM=1331203931:LM=1331203931:S=ZRtXLvbm7vQc3jbR;expires=Sat, 08 Mar 2014 10:52:12 GMT; path=/; domain=.google.com
a)ほとんどのオンラインGoogleサービス(そして、特にgoogle.comドメインでのサービス)の使用時にサービスの相互作用(典型的にはHTTPの要求)により、ユーザー端末装置に"PREF"と呼ばれるクッキーの格納とアクセスをもたらすことになるのか、または1つまたは複数のGoogle アカウントに関し、ログインまたはログアウトするとき、このクッキーは変更されないか、確認したい。
b)いつどのように、いかなる目的でクッキーで集められたどの情報が使用されているかにつき説明されたい。
c) このクッキーの中における「ID」コンポーネントの役割を詳しく述べてほしい。
4. 各種利用目的から見た疑問点
Q13~Q18
5.個人情報の保持
Q19~Q21
6.データ主体の権利と同意
Q22~Q26
7.Googleの利用規約対プライバシー・ポリシーの関係
Q27~Q28
8.Googleの提供サービス間のデータ接続の合法性問題
(1)周辺的問
Q29~Q41
(2)データ主体の同意と同意しない権利(一般原則)
Q42~Q49
(3)クッキー
Q50~Q51
(4)広告(ユーザーの利用形態による実質的にオプトアウト権が否定されている一覧表)
Q52~Q57
(5)ブラウザの設定
Q58~Q60
モバイル・ユーザーのプラットフォーム設定
Q61~Q64
9.Googleの各サービスにおける広告宣伝情報、手段の内容
Q65~Q68
10.その他追加的に説明しておくべき所見事項
Q69
*******************************************************
(筆者注1)CNILに初めてアクセスした時のサイト画面の上部に注目してほしい。次のメッセージがあり、閲覧者に対する「クッキー」の同意確認ボタンがある。従来はなかった文言であり、これらの対応は英国のICOと同様、EUの保護指令の改正や規則制定等一連の保護強化の流れであることは間違いない。
「匿名の読者の統計情報を実現するために、CNILは、お使いのコンピュータにCookieを配置したいと考えています。あなたは、統計を訪問することにより、いつでも、または詳細については、それを削除することができます。
「いいえ、クッキーを拒否します」または「受け入れます」の選択ボタン
CNILは、クッキーに関する選択記録を保存します。」
ちなみに「拒否」した場合の閲覧内容に具体的にどのような差が出るのかが不明である。筆者としては、改めてCNILに対し質問する予定である。
(筆者注2) 「EU指令第29条専門調査委員会」は、1995年EU個人情報保護指令第29条に基づき設置した委員会であり、個人情報保護およびプライバシーに関する独立諮問機関である。その任務の内容は同指令第30条および2002年「個人情報の処理および電子通信部門におけるプライバシー保護に関する指令(Directive 2002/58/EC)」の第15条に規定されている。
なお、わが国では同委員会につき原文(Article 29 Data Protection Working Party)に忠実すぎるためか「29条情報保護作業部会」と訳す例が一般的である。しかしその任務や根拠に関する公文書で引用されるおよび根拠規定は次の通りであり、訳語としては上記の通り「EU指令第29条専門調査委員会」と訳すべきと考える。
(任務の説明の表題)
Articles 29 and 30 of Directive 95/46/EC of the European Parliament and of the Council of 24 October 1995 on the protection of individuals with regard to the processing of personal data and on the free movement of such data1
(本文)
"Article 29
Working Party on the Protection of Individuals with regard to the Processing of Personal Data
1. A Working Party on the Protection of Individuals with regard to the Processing of
Personal Data, hereinafter referred to as 'the Working Party', is hereby set up. It shall
have advisory status and act independently.
2. The Working Party shall be composed of a representative of the supervisory authority or authorities designated by each Member State and of a representative of the authority or authorities established for the Community institutions and bodies, and of a representative of the Commission.
Each member of the Working Party shall be designated by the institution, authority or
authorities which he represents. Where a Member State has designated more than one supervisory authority, they shall nominate a joint representative. The same shall apply to the authorities established for Community institutions and bodies.
3. The Working Party shall take decisions by a simple majority of the representatives of/the supervisory authorities.
4. The Working Party shall elect its chairman. The chairman's term of office shall be two years. His appointment shall be renewable.
5. The Working Party's secretariat shall be provided by the Commission.
6. The Working Party shall adopt its own rules of procedure.
7. The Working Party shall consider items placed on its agenda by its chairman, either on his own initiative or at the request of a representative of the supervisory authorities or at the Commission's request.
Article 30
1. The Working Party shall:
(a) examine any question covering the application of the national measures adopted under this Directive in order to contribute to the uniform application of such measures;
(b) give the Commission an opinion on the level of protection in the Community and in third countries;
(c) advise the Commission on any proposed amendment of this Directive, on any additional or specific measures to safeguard the rights and freedoms of natural persons with regard to the processing of personal data and on any other proposed Community measures affecting such rights and freedoms;
(d) give an opinion on codes of conduct drawn up at Community level.1. The 2. If the Working Party finds that divergences likely to affect the equivalence of protection for persons with regard to the processing of personal data in the Community are arising between the laws or practices of Member States, it shall inform the Commission accordingly.
3. The Working Party may, on its own initiative, make recommendations on all matters
relating to the protection of persons with regard to the processing of personal data in the Community.
4. The Working Party's opinions and recommendations shall be forwarded to the
Commission and to the committee referred to in Article 31.
5. The Commission shall inform the Working Party of the action it has taken in response to its opinions and recommendations. It shall do so in a report which shall also be forwarded to the European Parliament and the Council. The report shall be made public.
6. The Working Party shall draw up an annual report on the situation regarding the
protection of natural persons with regard to the processing of personal data in the
Community and in third countries, which it shall transmit to the Commission, the
European Parliament and the Council. The report shall be made public.”
2002年「個人情報の処理および電子通信部門におけるプライバシー保護に関する指令(Directive 2002/58/EC)」の第15条
Application of certain provisions of Directive 95/46/EC
1. Member States may adopt legislative measures to restrict the scope of the rights and obligations provided for in Article 5, Article 6, Article 8(1), (2), (3) and (4), and Article 9 of this Directive when such restriction constitutes a necessary, appropriate and proportionate measure within a democratic society to safeguard national security (i.e. State security), defence, public security, and the prevention, investigation, detection and prosecution of criminal offences or of unauthorised use of the electronic communication system, as referred to in Article 13(1) of Directive 95/46/EC. To this end, Member States may, inter alia, adopt legislative measures providing for the retention of data for a limited period justified on the grounds laid down in this paragraph. All the measures referred to in this paragraph shall be in accordance with the general principles of Community law, including those referred to in Article 6(1) and (2) of the Treaty on European Union.
2. The provisions of Chapter III on judicial remedies, liability and sanctions of Directive 95/46/EC shall apply with regard to national provisions adopted pursuant to this Directive and with regard to the individual rights derived from this Directive.
3. The Working Party on the Protection of Individuals with regard to the Processing of Personal Data instituted by Article 29 of Directive 95/46/EC shall also carry out the tasks laid down in Article 30 of that Directive with regard to matters covered by this Directive, namely the protection of fundamental rights and freedoms and of legitimate interests in the electronic communications sector.
以上を読んで指令の内容や委員の構成等から見て「作業部会」とする訳語は適切と思えないのは筆者だけであるまい。
(筆者注3) Googleの新ポリシー(日本語版)の文言を一部抜粋しておく。
サービスのご利用時に Google が収集する情報:
○端末情報
Google は、端末固有の情報(たとえば、ハードウェア モデル、オペレーティング システムのバージョン、端末固有の ID、電話番号などのモバイル ネットワーク情報)を収集することがあります。Google では、お客様の端末の ID や電話番号をお客様の Google アカウントと関連付けることがあります。
○ログ情報
お客様が Google サービスをご利用になる際または Google が提供するコンテンツを表示される際に、サーバー ログ内の特定の情報が自動的に収集および保存されます。これには以下の情報が含まれることがあります:
・お客様による Google サービスの使用状況の詳細(検索キーワードなど)
・電話のログ情報(お客様の電話番号、通話の相手方の電話番号、転送先の電話番号、通話の日時、通話時間、SMS ルーティング情報、通話の種類など)
・インターネット プロトコル アドレス
・端末のイベント情報(クラッシュ、システム アクティビティ、ハードウェアの設定、ブラウザの種類、ブラウザの言語、お客様によるリクエストの日時、参照 URL など)
・お客様のブラウザまたはお客様の Google アカウントを特定できる Cookie
○現在地情報
現在地情報を有効にした Google サービスをお客様がご利用になる場合、Google は、お客様の現在地に関する情報(携帯端末から送信される GPS 信号など)を収集して処理することがあります。Google は、たとえば、お客様の端末のセンサー データから提供される近くの Wi-Fi アクセス ポイントや基地局に関する情報など、他にもさまざまな技術を使用して現在地を判定することがあります。
○固有のアプリケーション番号
サービスによっては、固有のアプリケーション番号が割り当てられています。この番号とお客様のインストール情報(オペレーティング システムの種類、アプリケーションのバージョン番号など)は、お客様が当該サービスをインストールまたはアンインストールする際に Google に送信されることがあります。また、当該サービスが Google のサーバーに定期的にアクセスする際(自動更新の際など)にも送信されることがあります。
○ローカル ストレージ
Google は、ブラウザ ウェブ ストレージ(HTML 5 など)やアプリケーション データのキャッシュのようなメカニズムを使用して、収集した情報(個人情報を含む)をお客様の端末にローカルに保存することがあります。
○Cookie と匿名 ID
お客様が Google サービスにアクセスされると、Google はさまざまな技術を使用して、情報を収集して保存します。その際、Google からお客様の端末に一つまたは複数の Cookie や匿名 ID を送信することもあります。広告サービスや他のサイトに表示される Google 機能のように、Google がパートナーに提供しているサービスの利用の際に、Google が Cookie や匿名 ID を使用することもあります。
(筆者注4)CNILの質問状のURL1はエラーとなる。内容から見て次のURLが正しいと思う。
http://www.google.com/intl/en-GB/policies/privacy/
(筆者注5)Googleのポリシー解説サイトでもキーワードに関する説明がある。しかし、厳密な意味でCNILの疑問に答えるものではないようだ。
********************************************************
Copyright © 2006-2012 福田平冶(Heiji Fukuda).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.
2012年3月20日火曜日
英国の個人情報保護監視機関における重大な保護法違反への刑罰強化の制度改革および運用実態の課題(その1)
本ブログでも過去紹介してきた英国のロー・ファーム(Pinsent Masons)が主催するブログ“ Out-Law.com”が興味深い問題を取り上げた。
英国の個人情報保護および公的機関の情報開示の独立監督機関として有名な「Information Commissioner Office:ICO)」が実際に刑罰(罰金刑)強化の決定にどのように取り組んでいるか、Pinsent Masonsが情報公開法に基づき請求した結果をこのほど明らかにした。
英国における情報保護法違反者への法執行および刑罰の実態についてわが国では詳細な調査は少ない。
実は、筆者は2010年1月に「英国政府が個人情報保護法違反取扱管理者に対し最高50万ポンドの罰金刑処分規則を決定・施行」と題するブログを掲載する予定で原稿を一部書き上げていたのであるが、ほかの案件問題でそのまま放置したままとなっていた。
今回、標記の問題を取り上げるにつきその前提として2010年以降の英国の情報保護違反に対する厳格な法執行(罰金刑の適用)が制度的にどのように変遷してきているかの理解がまず前提であることから、今回はその問題をまず取り上げ、その後にICOの罰則処分にかかる運用実態の調査結果を紹介することにする。
なお、わが国の経済産業省は3月16日付リリースで事業委託先である野村総合研究所が配信先アドレス(2,350名)がBCCとせず見える形で配信していたことが明らかとなり、同研究所に対し厳重な注意と再発防止策の策定を指示したと報じた。英国ICOであればどのような処分が行われるであろうか。ICOに直接聞いてみたい気がする。
1.英国ICOの罰金処分手続きに関する規則制定と罰金刑適用ガイダンスの公布
英国政府は、情報公開および情報保護委員(Information Commissioner Office:ICO)(筆者注1)による「1998年個人情報保護法(Data Protection Act 1998:DPA)」違反犯罪に対し最高50万ポンド(約6,350万円)の罰金刑処分手続に関する規則(2010年4月6日施行)(筆者注2)を決定、議会が承認した。
また、本規則を受けてICOはDPAの個人情報取扱管理者である「情報管理者(data controller)」への後述する「罰金刑適用ガイダンス」(筆者注3)
を公布した。
2010年の英国の法規制強化は、2006年の本ブログ(2011年2月28日付けで一部改訂)でも取り上げたとおり、データ主体の権利( 「1998年情報保護法(Data Protection Act 1998:DPA )」10条(筆者注4)に基づくいわゆるプライバシー権や私法上の救済権)に基づく直接的な保護や規制に加え、“data controller”の保護法の保護8原則(筆者注5)に違反する重大な取扱責任を直接問うもので、その責任追及の根拠としてデータ主体の実質的な金銭的損害または精神的苦痛等を拠りどころとするものである。
一方、英国の情報保護法の規定や運用が、わが国の個人情報保護法(個人情報の保護に関する法律(2003年5月30日法律第57号))に一部共通している、すなわち罰金刑通知発布の事前措置としての改善勧告等が定められている点、他方、英国ICOの場合、今回の罰則強化の前提として「改善・停止命令(enforcement)」が頻繁に出され厳しい運用が行われていることも、わが国の保護法運用のあり方と比較する上で重要な点と考えた。
英国ICOの「改善・停止命令」は、1か月に平均3回程度出されている。公表されている例はすべて“data controller”(筆者注6)からの「改善同意確約書(Undertaking)」を得ている。一方、わが国の改善命令等の実態はどうであろうか。わが国の主務官庁にはICOが管理しているような登録データベースがない。さらにいうと主務官庁は一応命令を発したときは、根拠条文にもとづきリリースは行うが、当該情報はたまたまメデイアが取り上げないかぎり、まず一般人の眼にとまることはない。筆者なりに各省庁別に調べてみたがこの約5年間で数件である(厚生労働省のように機微情報を扱う医療機関の監督機関でありながらゼロ件の場合もある)。
また、研究者として興味も持ったのは今回の英国のガイドラインに規定方法も含め分かりやすさへの配慮、さらに拘禁刑の論議はどうなったのか、最高罰金刑の50万ポンドによるデータ管理者の適正運用強化に向けた効果面の評価等、多くの検討すべき点が見えてきたからである。
今回、筆者の整理した論点はあくまでたたき台であるが、関係者の活発な論議を期待したい。
2.情報公開および情報保護委員(ICO)の設置の根拠法と権限
(1)ICOの権能を改めて取り上げた背景
筆者は、2006年5月28日付けの本ブログ「ICO報告書「What price privacy?(副題は『機微個人情報をめぐる違法取引の実態』)(2011年2月28日に改訂)」で、その厳格化のため処罰強化を含めた具体的取組みを議会や関係者に訴えている旨の情報を取り上げた。これらの動きは、その後のICOの権限強化等個人情報をめぐる英国内の議論のきっかけとなるといえよう。
ただし、今読み返してみるとかならずしもICOに関する法的な説明文としては不十分な感もあり、さらに言えば英国の個人情報保護法(DPA)の規定の考え方や運用を含め、わが国と比較研究する意義は十分あると考えた。(筆者注7)
もう1点は、ICOの役割を正確に理解することは筆者が従来から強い関心をもつ欧米の「行政情報公開制度」とも緊密に関係してくることから、改めて説明し直すこととしたこともある。
(2)ICOの役割、権限、責任、主務官庁等に関する根拠法や規則
最近時の調査としては2011年3月内閣府がまとめたレポートがあるが、その内容は決して十分とはいえない。また、2006年6月に(財)自治体国際化協会「英国の情報開示と保護―情報自由法とデータ保護法を中心としてー」は情報公開法に関する説明が中心ではあるが、ICOのHPの説明内容に比べ参考にはなりがたい。
ここで、改めてICOの説明内容にもとづき重要な点を整理する。
A.情報保護委員の権限・活動の根拠法
次の3つの法律および2つの規則である。
① 「1998年個人情報保護法」および「同法注釈集(改正内容等)」が中心となる。
② 「2003年プライバシーおよび電子通信に関する規則(Privacy and Electronic Communications (EC Directive) Regulations 2003)」
同規則は、英国が「Directive on privacy and electronic communications (2002/58/EC) (通信部門における個人データ処理及びプライバシー保護に関する欧州議会及び理事会指令)」を国内法化したものである。
③ 「情報公開法(Freedom of Information Act 2000)」および「環境情報規則(Environmental Information Regulations 2004)」
B.情報保護委員の責任と義務の内容
① 情報取扱い事業者や団体等の行動、実践内容につき具体的な行動規範に基づき政策や法執行を行う(Taking action)。
② DPAが規定するデータ管理者の公的登録事務(氏名、住所、取扱う個人データの種類が対象)を維持、管理する(Register of data controllers)。(ICOサイト参照)
③ 監査(Audits)、助言・勧告のための訪問(Advisory visits)および自己問診(Self assessments)等により事業者、団体等の取扱い内容の適正化を支援する。(ICOサイト参照)
④ 苦情受付処理(Handling complaints)
毎年、数千の苦情を受け付ける。
⑤ 公的部門全体にかかる「モデル公表手順」の採用と運営内容につき遵守状況のモニタリングと報告を行う(Monitoring compliance)。
⑥ EU機関、欧州委員会および他のEU加盟国と国際的な協力関係を含む国際的な役割を担う(International duties)。
(3)前記B.①(Take Action)のICOの任務を大別すると、(ⅰ)個人情報保護と電気通信の安全保護(data protection and privacy and electronic communications)、(ⅱ) 情報開示と環境情報保護(freedom of information and environmental information)となる。
ICOサイトでは活動内容として、この両者それぞれにつき説明している。ここでは(ⅰ)の機能を中心に説明するが、(ⅱ)については下記(4)およびICOサイトで確認されたい。なお、取扱い案件に関する詳細な解説も記載されているがここでは主な法執行の取扱件数のみ上げる。
①情報管理者等がDPA等の遵守内容を改善するためにとるべき一連の行動に関する「改善同意確約書(Undertaking)」を発行する。(11件)
②違法な事実が認められる情報取扱団体・機関等に対し、法令遵守のため特定の手段をとるべきことを求める「法執行通知(enforcement notices)」および「即時停止命令(“stop now” orders)」を発布する。(3件)
③団体・機関等に対する法令遵守に関する「同意に基づく検査(監査)(consensual assessments)の実施
④団体等が行っている個人情報の取扱手続(情報保護問題のみ)が良き実践内容といえるかどうかの調査を行うため強制検査に関する「検査通知(assessment notices)」を発布する。
⑤2010年4月6日以降におけるDPAの重大な違反行為または「プライバシーおよび電気通信規則(Privacy and Electronic Communications Regulations)」の重大な違反を理由として団体・機関等に対し最高50万ポンドの民事罰則金(civil monetary penalties)を課す罰金刑通知(monetary penalty notices)を発布する。(14件)
⑥DPAの下で犯された刑事犯罪人に対する刑事告訴(prosecute)を行う。(5件)
⑦社会的に問題となる個人情報保護違反について議会への報告
これらICOの法執行通知についての異議申立ては、一次裁定機関(First-Tier Tribunal)の一般規制部(General Regulatory Chamber:GRC)で受け付けられ、裁決通知(decision notices)および関係情報通知(information notices)は情報保護委員から発布される。
なお、ICOサイト(Take Action)3/18⑦ではさらに「データ保護規制行動方針(Data Protection Regulatory Action Policy)」、「査定通知に関する実践規範(Assessment Notices Code of Practice)」および「民事罰金刑適用に関するガイダンス(Monetary penalties guidance)」等にリンクして直接参照できる。(筆者注8)
以上の項目につき、わが国で詳しく説明しているものは皆無である。下記に項目立てして詳しく述べる。
(4)公的機関による情報自由法の適正運用の推進と同法の実施基準の提供
この問題について、今回は詳細な解説は略すが、前述した(財)自治体国際化協会「英国の情報開示と保護―情報自由法とデータ保護法を中心としてー」から一部抜粋する。
① 国民に対し情報自由法の情報提供
② 情報請求開示者からの不服申立の審査
③ 情報自由法に基づく、毎年国会に対する自らの機能実施状況についての報告
より具体的に情報委員の権限を整理すると次のとおりである。
① 情報開示請求に関する公的機関の判断について、請求者から不服申立があった場合、当該機関が情報自由法を遵守しているか否かについて裁決を行うこと( 裁決通告:decision notice)。この通告には公的機関がとるべき措置やその期間を明記しなければならない。
② 公的機関に対し特定の情報を提供するよう要求(情報通告:information notice)すること。
③ 情報自由法が遵守されていないと判断される公的機関に対し同法を遵守のための措置
を講ずることを要求(執行通告:enforcement notice)すること。
④ 公開計画の承認に関すること。
⑤ 公的機関に対する助言・報告書の提供、また公的機関の同意があれば当該機関が情報自由法の適正な運用を行っているかどうか評価すること。
(5)2011年5月26日施行された「改正2003年プライバシーおよび電子通信に関する規則(revised Privacy and Electronic Communications Regulations:PECR)」の主な内容
改正の中心は必ずしも大幅なものではないが、重要な要素を含んでおり、ICOサイトでは次のとおり解説している。
A.新クッキー・ガイダンスの制定(筆者注9)
改正規則6条はクッキーの使用に関する新規定を定める。同規定の具体的な運用ルール等を明確化すべくICOは「Guidance on the rules on use of cookies and similar technologies(全27頁)」(ICOサイトからリンク可)を定めるとともにサイト上で次の説明を行っている。(筆者注10)
○データ管理者(data controller)は過度に個人情報の処理を行うことを禁止するDPAの第3原則が求める要件を含む。個人情報の収集時、データ管理者は効率面からも見ても匿名の処理を考えるべきであり、たとえばウェブサイトの訪問者数をカウントするなど、ユーザーが直接目的とした内容以外の目的を持って情報を保有する場合がそれに当たる。
○通信内容の機密性とスパイウエアに関し、本改正規則の意図は内密のオンライン監視メカニズムに関する懸念をも反映したものである。ここで問題となるのは合不適なオンラインビジネスで収集される個人情報ではなく加入者やユーザーが知らないままに情報の入手、保存、行動内容を追跡するものであり、それらはしばしば犯罪目的で行われるものである。
○改正規則はサービス・プロバイダーが提供すべきクッキー情報に関し具体的に記述していない。しかし、クッキー通知文言は当該情報主体においてクッキー情報の保存やアクセスを認めた場合の潜在的結果について理解できる程度の十分かつ明確な情報内容でなければならない。これはDPAにいう第一原則である「透明性原則」に該当する。
○クッキーの拒否権行使の例外規定
改正規則は次にあげる特定のアクセスデバイスについてはクッキーにつき同意は不要と定める。
①電子通信ネットワーク上で通信手段の実行または支援目的の場合
②当該データの保存やアクセスが加入者やユーザーにより要求されたもので情報社会サービスの提供上厳格な意味で必須である場合
○加入者とユーザーが異なる場合のクッキー同意の相手方
改正規則6条はクッキーに関し加入者やユーザーから同意を得ることを定めるが、それらが異なる場合にいずれが優先するかについては明記していない。
おそらく、加入者(たとえば雇い主)が特定の業務遂行目的でデバイスを従業員に行わせる手続きの遂行を優先させるという雇い主の意向を優先させることは不合理とは言えないであろう。
B.公的サービス・プロバイダーに対する個人データ保護の侵害事故におけるICOへの報告の義務化(personal data breaches)
サービス・プロバイダーのこの義務を履行する上での報告義務の内容は次のとおり定められている。補足するとデータのセキュリティ事故の通知とは次の場合に通知義務が生じるということになる。
(i)データのセキュリティ事故が発生し、その結果、不作為または不正により個人情報が破壊されもしく消失した場合または個人情報に不正アクセスがあった場合には、そのセキュリティ事故を、およびそれに伴い提案または実施された是正措置の詳細を情報コミッショナーに通知し、(ii)当該セキュリティ事故が加入者または個人の個人情報またはプライバシーに悪影響を及ぼす可能性が高い場合には、当該加入者または個人に事故を通知し、より詳しい情報の入手先を連絡するとともに、発生し得る悪影響を軽減するための措置を提案すること。
(Herbert Smith法律事務所の解説から一部抜粋)
①個人情報の侵害事故に関する次のログ内容を報告する義務を負う。
・侵害の周辺で起きた事実
・侵害の影響範囲
・実際に取られた改善・救済措置
②ICOへの通知内容は次の内容が含まれねばならない。
・侵害の事実の重大性
・侵害の結果
・侵害に対する措置としてプロバイダーが取った具体的手段
この報告手続きをより簡素化するため、ICOはプロバイダーに毎月単位で報告を行うよう勧奨している。なお、侵害通知義務を怠ったプロバイダーに対しては1,000ポンド(約128,000円)の罰金が課される。
さらにICOは侵害が重大な事故に関わるか否かの判断に関し次の点に十分配慮することを勧める。
・そこに含まれる個人情報のタイプと機微性
・データ主体にとって苦悩や困惑等の影響度合い
・金銭的な損失、詐欺やなりすましにあうリスク
③加入者、ユーザーに対する次の通知が義務化された。
・侵害の事実の性格、重大性
・データ主体が更なる詳細情報を得るためのプロバイダーたる団体、機関等の連絡窓口
・侵害の事実とその影響をどのように軽減化できるか具体的方法
C.情報委員への改正規則に基づく法執行権限の付与(enforce these regulations)
○ICOに付与された新たな法執行権限は次の項目である。
①重大な規則違反に対する最高50万ポンドの民事罰則金
②公的サービス・プロバイダーに対する監査の実施
③同サービスの安全性強化に関する指導
④侵害事故時の通知義務や報告の遵守指導
○侵害時の通知義務を怠った場合の一律1,000ポンドの民事罰則金を課す。
○必要に応じプロバイダーの遵守状況を調査するため関係する第三者機関に情報提供させる。
(筆者注1)わが国では99%の専門家が” Information Commissioner”を「情報委員」 と訳している。本ブログでは、あえて法律内容の正確さを優先させて「情報公開および情報保護委員」という訳語を用いた。
(筆者注2) 英国政府の“Order”とは、いわゆる省令(行政規則)であり、Act(本件の場合は1998年個人情報保護法(Data Protection Act 1998 ))によって授権された担当大臣(本件の場合は国務大臣および法務大臣)の名で具体的な規則を定めた“Statutory Instruments”(国会で簡略的な承認手続きを経て策定されるもの)である。
(筆者注3)罰金刑通知のガイダンスの原文に即していうと” seriously contravened the data protection principles and the contravention was of a kind likely to cause substantial damage or substantial distress”となる。
(筆者注4) 英国DPAの10条は、データ主体の権利として“Right to prevent processing likely to cause damage or distress”を定める。また、DPAの11条(Right to prevent processing for purposes of direct marketing)はデータ管理者に対するデータ主体の権利すなわちいかなる手段を問わずダイレクト・マーケティングの中止や開始を阻止する権利を定める。
(筆者注5)英国DPAの“Schedule”に定める「個人情報保護8原則」は極めて重要な保護規則である。なお、「附則1に規定されているデータ保護原則(Data Protection Principles)の要約は、ICO によると、次のようになっている。日本の法律と異なり、附則に重要な事項が規定されていることに注意する必要がある(本稿では、Schedule を「附則」と訳しているが、日本の法律の附則とは異なることに注意されたい。イギリスの制定法の特徴である。」解説
(筆者注6)わが国の行政機関の個人情報保護は「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成15年5月30日法律第58号)」により規制されているが、英国の場合は法律上「官民」の区別がない。従って、例えばロンドン市(City of London)の1998年個人情報保護法の解説サイトでは、同市自身が“data controller”であると説明している。
(筆者注7) 内閣府国民生活局「個人情報保護」サイトで紹介されている「諸外国等における個人情報保護制度の運用実態に関する検討委員会・報告書」ではイギリスのICOにつき次のような説明が行われている。
「ICO は、マンチェスター郊外に本部事務所を構えるほか、北アイルランド、ウェールズ、
スコットランドにも地域事務所を置いている。ICO は、1998 年データ保護法のみならず、2000 年情報自由法、2003 年プライバシー及び電子通信(EC 指令)規則(Privacy and Electronic Communications (EC Directive)Regulations 2003)、2004 年環境情報規則(Environmental Information Regulations 2004)に基づく任務を担っている。権限拡大に伴い、毎年スタッフを増員し、組織を拡大させているとのことである。」
確かにICOのHPを直訳するとこうなる。しかし、作業した担当者は各法律や規則の原文を読んでいるのであろうか。あえて正確さを期すためコメントしておく。
【例】①マンチェスターの前に「イングランド」が必要であろう。グレート・ブリテンはいうまでもなくイングランド、ウェールズ、北アイルランド、スコットランドからなる連合王国である。
②「2000年情報自由法」はどのような法律であろうか。ICOサイトでは“The Freedom of Information Act gives you the right to obtain information held by public authorities unless there are good reasons to keep it confidential.”すなわち日本でいう「行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年5月14日法律第42号)」に部分的に該当する法律である。同法の内容に即して補足すると、国立国会図書館「外国の立法」216号では「2000年情報自由法(Freedom of Information Act 2000)は、これまでの制定法によらない政府情報のアクセスに関する実施要領に代わるものであり、政府の省、議会、地方公共団体等の公的部門が保有する記録情報に対するアクセス権を創設するものである。この法律の主な特徴は、①法律の定める条件及び除外規定に基づく、情報に対する広く一般的なアクセス権を創設したこと、②除外規定が適用される場合であっても、公益のために裁量的開示が考慮される必要があるとしたこと、③情報の公開が義務付けられたこと、④独立の情報コミッショナー及び情報審判所による執行権限を定めたことである。」と説明されている(国会図書館やその他の外国法専門家が一般的に使う「情報自由法」と言う訳語は内容からみておかしいと思うが?)。本ブログではあえて「公共部門保有情報公開法」と意訳する。当然ながら同法は「言論の自由に関する法律」ではない。
③“EC directive”の訳語は「EC指令」ではない。わが国の個人情報保護法の検討の最も参考とされた「個人データ処理に係る個人の保護及び当該データの自由な移動に関する欧州議会及び理事会の指令」 (95/46/EC)」を「EC指令」と言う専門家はいない。ちなみに欧州連合(EU)は2009年12月1日に改革条約である「リスボン条約」が発効した。その中で「ECの名称はすべてEUに置き換えられる」とあり、今後“EC( European Community ) directive”は“EU(European Union) directive”となる。
④2004年環境情報規則(Environmental In- formation Regulations 2004 (S.I. 2004/ 3391))
の基本的な説明が欠如している。すなわち、同規則は「ヨーロッパでは、国連欧州経済委員会(UNECE)の枠組の中で「環境問題についての情報の入手、意思決定における国民参加及び司法制度の利用に関する条約」(Convention on Access to Information, Public Participation in Decision-Making and Access to Justice in Environmental Matters)を制定した。この条約は、1998 年6 月25 日、オーフス(デンマーク)で開催された第4回汎欧州環境閣僚会議において採択されたものであり、それに因んで「オーフス条約」(Århus (Aarhus) Convention)」と呼ばれる。環境情報規則(2004年12月21日制定、2005年1月1日施行)は同条約および2003/4/EC指令ならびに“Freedom of Information Act 2000”に基づいている。」(日本大学岩田元一氏(2006年現在の所属)「環境情報に関するヨーロッパの制度とわが国の現状」より一部抜粋引用)。なお、近畿大学 林 晃大氏「イギリスにおける環境情報開示と2004年環境情報規則」も参考になる。
(筆者注8) わが国で法令の解釈を補完するICOガイダンスに該当するものは各省庁が定める「保護法ガイドライン」であろう。2009年10月9日付けで経済産業省は「個人情報の保護に関する法律についての経済産業分野を対象とする改正ガイドライン」を告示した。4年半の間で築いたノウハウはこれだけか。内容は極めて微調整である。
また、金融庁も2009年7月10日付けで「金融分野における個人情報保護に関するガイドライン」改正案を公表している。主務官庁の中で一番多く改善命令を出していることもあり、ガイドラインの見直しの範囲や説明の充実も他省庁より多い。ただし、英国のような抜本的な罰則強化策とはいえない。
(筆者注9)ICOは、自身のサイトの上部で下記のような注意書きと明示的なクッキー許諾を求めている。
「ICOは、私たちのウェブサイトを改良する目的であなたのコンピュータの情報保存にクッキー技術を使用したいと思います。私たちが使用するクッキーの1つは、サイトが作動するのに不可欠なものであり、既にセットされています。あなたはこのサイトからすべてのクッキーを削除して、クッキーをブロックすることができますが、サイトは機能しないでしょう。
私たちが使用するクッキーとどのようにそれらを削除するかについて詳しくはICOの「プライバシー通知(privacy notice)」をご覧ください。
I accept cookies from this site.
□私はこのサイトからクッキーを受け入れます。」
(筆者注10) クッキーへのユーザー同意:ウェブサイト上で「クッキー」を利用している企業は今後、クッキー利用についてユーザーの同意を得なければならず、今までのように、同意を望まない場合はユーザー自身に「オプトアウト(能動的に拒否すること)」してもらうことができなくなりました。新規制では同意の要件が曖昧なため、情報コミッショナーは、ガイダンスを発表し(こちらのリンクをご参照下さい)、企業に「対策を講じるために」1 年間の猶予期間を認めています。(Herbert Smith法律事務所の解説から一部抜粋)
************************************************************
Copyright © 2006-2012 福田平冶(Heiji Fukuda).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.
2012年2月27日月曜日
最近時の米国連邦政府・機関や州のプライバシー保護強化に向けた新たな展開(その1)
2月23日、ホワイトハウスが発表した「ネットワーク世界の消費者のプライバシー保護強化の包括的枠組み」については、わが国のメディアでも大きく取上げられた。
米国が突然のようにこのようなプライバシー憲章を持ち出した背景は去る1月25日に EU委員会司法担当委員ヴィヴィアン・レディングがEU市民のオンライン・プライバシー強化とEU内の企業のデジタル経済の向上を目指して2010年以来取組んできた「1995年データ保護指令の包括的改正案」等を正式にリリースしたことが第一に挙げられよう(筆者注1)。
筆者は、この問題につき去る2月17日、某学会の研究会で報告し(筆者注2)、近々その内容をブログにまとめるべく作業を進めていた。その作業中に米国の具体的な動きが急速に展開したので、急遽順番を変えて米国の最新動向を優先的にまとめることにした。特に、Googleが3月1日実施予定する新プライバシー・ポリシーや利用規約に関する問題は、オバマ政権の政策強化問題だけでなく、米国の全州司法長官会議、人権擁護団体、ITビジネス事業者(MozillaやMicrosoft)、アカデミー研究者等の追及は米国外も含め大きな社会問題となりつつある点が留意すべき事項であり、本ブログでも出来るだけ具体的な内容を織り込んで解説したい。
なお、とりまとめ作業時間の関係で数回に分けて解説する。
1.ホワイトハウスが発表した「ネットワーク世界の消費者のプライバシー保護強化の行政上の包括的枠組み(Consumer Data Privacy in a Networked World:A Framework for Protecting Privacy and Promoting Innovation in the Global Digital Economy: Administration’s framework 」の内容
○“Administration’s framework”として、次の4つの主要素等があげられている。
(1) 消費者のプライバシーにかかる権利章典(A Consumer Privacy Bill of Rights)
・Individual Control(Consumers have a right to exercise control over what personal data companies collect from them and how they use it.)
・Transparency(Consumers have a right to easily understandable and accessible information about privacy and security practices)
・Respect for Context(Consumers have a right to expect that companies will col¬lect, use, and disclose personal data in ways that are consistent with the context in which consumers provide the data.)
・Security(Consumers have a right to secure and responsible handling of personal data.)
・Access and Accuracy(Consumers have a right to access and correct personal data in usable formats, in a manner that is appropriate to the sensitivity of the data and the risk of adverse consequences to consumers if the data is inaccurate)
・Focused Collection(Consumers have a right to reasonable limits on the personal data that companies collect and retain)
・Accountability(Consumers have a right to have personal data handled by com¬panies with appropriate measures in place to assure they adhere to the Consumer Privacy Bill of Rights)
(2)強制力を持った行動規範策定にための複数関係者(IETF,W3C, ICANN等)関与手続の一層の育成(筆者注3)
(3)連邦取引委員会(F.T.C.)の法執行権限の一層の強化
(4)インターネット環境の下でのグローバルなプライバシー保護監視の相互運用性の確保
○その他のAdministration’s frameworkとして次の事項があげられている。
2.連邦議会に権利章典に則った内容の包括的なプライバシー保護法の制定の働きかけ
3.連邦と州の保護法や保護体制の整合性強化
4.既存の各連邦保護法の機能の維持
5.以下略
○ホワイトハウスが今回出した連邦議会に対する規制強化立法の働きかけの有効性について、米国の人権擁護NPOであるConsumer Watchdog の見方は厳しい。
すなわち同団体は連邦議会事務局が公表する毎四半期ごとのデータをもとに、インターネットビジネス界の巨人であるGoogleの連邦議会ロビイストのハンティング状況をまとめて公開している。ここで、貴重なデータであり、また米国の議会の企業との人的なつながりや、日常のロビー活動につき正確に理解する上で最も基本な点であるので、2011年第2四半期のデータに基づき、その要約を行っておく。
前年同期比65%増の206万ドル(約1億6,480万円)となり、従来からロビー活動に熱心なIT企業として知られる米マイクロソフト(MS)(前年同時期並みの185万2,000ドル)を上回った。グーグルは反トラスト法等を巡って、当局の矢面に立つ場面が増えており、ワシントンへの気配りがより重要になっている。なお、ライバル企業である米フェイスブックの活動費は32万ドル(約2,560万円)でMSに比べ1桁小さいものの前年同期の5倍以上に増えている。
また、米国では議会に対する働きかけに関し特に「ロビイスト」と呼ばれる陳情専門家を通じて行うとともに、企業の広報や対外活動の窓口に立つことが一般的である。(筆者注4)
実は米国企業の場合、このロビイストには社内専担部門(lobby shop)(筆者注5)と外部会社と契約する場合がある。Googleの場合、第2四半期の外部委託費用は“Podesta Group Inc.”には15万ドル(約1,200万円)、“Dutko Worldwide”(12万ドル)、“Franklin Square Group”(9万ドル)、“Liberty Partners grpou”(6万ドル)等である。
さらに、Googleが連邦議会に登録した主要ロビイスト名とその経歴をまとめておく。(InsideGoogleのブログから一部引用)
・アラン・デヴィッドソン(Alan Davidson)は、現在Googleの公共政策・政府問題担当部長である。2005年に人権擁護団体(Center for Democracy and Technology:CDT)から参加した。以前には、連邦議会技術評価局(U.S.Conress Office of Technology Assessment)やホワイトハウス・政策開発局(White House of Policy Development)に勤務していた。
・ パブロ・チャベス(Pablo Chavez)は、ジョン・S・マケイン(John S.McCain)上院議員の主席顧問弁護士および上院商務・科学および運輸委員会(Senate Committee on Commerce,Sciece and Transportation)の上級法律顧問であった。
・ヨハンナ・シェルトン(Johann Shelton)は、上級公共政策法律顧問で2007年に参加した。2005年から2007年の間、下院エネルギー・商務委員会の法律顧問であった。以前は、2001年から2003年の間は民主党リッチ・ブーシェ議員(Rick Boucher: ライフル協会から約6万ドルの政治献金を受けており、ライフル協会からA+のランク付けをされた議員でもある)の顧問弁護士、1998年から2001年の間は連邦通信委員会(FCC)のスタッフ弁護士であった。以下のロビイストについての解説は略す。
なお、米国ではロビー活動は民間企業だけでなくあらゆる利害関係者が行っている。しかし、その活動内容の透明性を担保すべく「議会ロビー活動公開法(Lobbying Disclosure Act of 1995)」、 「1971年改正連邦選挙運動法(Federal Election Campaign Act of 1971)」に基づき議会事務局にロビイスト名やロビー活動費等の登録が義務付けられている。
これと関連する連邦議会の一部超党派議員とGoogleとのやり取り、EU指令第29条専門委員会とGoogleのやり取りの詳細については別途言及する。
2.カリフォルニア州司法長官カマラ・D・ハリス(Kamala D.Harris)がスマートフォン、タブレット等のモバイルアプリケーション・プラットフォーム大手6社との間でカルフォルニア州のプライバシー保護法(筆者注6)に則したプライバシー・ポリシー策定にかかる合意を行った旨公表
同司法長官府サイトが2月22日にリリースしたものである。
○現状は、ほとんどのプラット・フォームはプライバシー・ポリシーを含んでいないことから策定を義務付ける州保護法に明らかに違反するとして、このたびの措置に踏み切ったものである。6社の内訳は、Amazon,Apple,Google,Hewlett-Packard,Microsoft,Research in Motion
○同司法長官は、本合意後6か月目にモバイル環境の下でのプライバシー保護にかかるアセスメント評価を行う。
3.全米司法長官会議のGoogleのCEO宛新プライバシー・ポリシーにかかるオプト・アウト権等の保証に関する懸念表明意見書
2月23日、全米司法長官会議(National Association of Attorneys General:NAAG)のメンバー36名が連名で、Googleが圧倒的なシェアを有する多様なサービス提供の中で、アンドロイド利用顧客のプライバシー権を保護すべく「opt-in」の機会を提供しないだけでなく、十分に意義を持つ「opt-out」権を保証していないと指摘し、この問題に関する正式回答を遅くとも2月29日までに行うよう求めた。
4.米国人権擁護NPOであるEPICやEFF等によるGoogleの新プライバシー・ポリシー実施規制強化の法的な動き等
(1)EPIC(Electronic Privacy Information Center)の対応と連邦地裁の決定
EPICサイトは次の通り報じている。
「2月24日、ワシントン特別区連邦地方裁判所は、EPIC(Electronic Privacy Information Center)のFTC(連邦取引委員会)に対する民事訴訟(緊急差止命令:Temporary Restraining Order)や仮差止命令:Preliminary Injunctive Order)請求に対し、「2011年10月13日のFTCとGoogleの“Google Buzz”に違法性にかかる「改善合意命令」を強化する決定は行政機関であるFTCの自由裁量に委ねるべき問題で、司法審査にはなじまない」という理由で破棄した(命令理由書(Memorandum Opinion )参照)。しかしながら、同裁判官はさらに「裁判所はGoogleの新プライバシー・ポリシー等が当該合意命令を破るか、それらが他の法的必要条件に反するだろうかどうかという問題については言及していない」と述べた。また、同裁判官は「FTC(この問題が目下調査中であると本法廷に助言した)は、最終的に法執行行為を行うこともありうる」と述べた。
したがって、EPICは同法廷が連邦機関であるFTCに最終命令を出すよう求める控訴をワシントン特別区連邦控訴裁判所に求めるべく、本決定に対して控訴手続きを取る予定である。」
(2)ACLU(米国自由人権協会)の1月25日のリリース文(抜粋して仮訳)
「Googleの新しいプライバシー・ポリシーはあなたのために何を作るでしょうか?」
○あなたがコンピュータ、タブレットまたはアンドロイド利用端末等デバイスに関わらず利用するため自分のGoogleアカウントに署名すると、常にGoogleはあなたに関する個人情報を収集します。これは今回新たな点ではありません。 しかし、2012年3月1日以降、あなたが1つのGoogleが所有するサイトで行うことは、あなたが別のGoogleが所有するサイトでどんな内容を見るかもしれないかについて大きく影響してくるでしょう。
○Googleの製品とエンジニア部門の責任者は、公式ブログにおいて次のような新たなサービス機能を持つと説明しています。「Googleのサイトで横断的に個人のプロフィールを統合する結果、Googleはあなたが、「アップル」端末で「ジャガー」または「ピンク」を検索入力すると、あなたがその日に見たカレンダーや検索履歴をもとに見てあなたがあなた自身の位置に基づきミーティングに遅れるということを思い出させるといった関連する情報を提供すると説明しました(お母さん、覚えていてありがとう)。さらにGoogleはあなたの友人の名前の正確なスペルについての提案を行うようになります。」
○新しいポリシーによるメリットを見るのは簡単ですが、今回の改正についてのその他の含意(implications)を覚えておくのはより重要な点です。
例えば、あなたは今までに両親、配偶者、友人や医師にも話したくなかった何かをGoogleで検索したことがありますか?また、 今までにあなたが世界に放送して欲しくなかったメール上の個人的な会話をしたことがありますか?
この新しい検索サービスの統合に伴い、あなたのメール内容はあなたがGmailで見ている広告のみに限られなくなるでしょうし、あなたの検索している用語はそれ以外の広告に影響を及ぼすことになるでしょう。3月1日付けで、あなたのメール内容と検索用語は、あなたがどんなGoogleサイトで何を見ているかに影響を及ぼすかもしれません。
ここで、あなたが友人や家族と行った私用の電子メールの会話や個人的なGoogle検索結果に基づくであると予想される広告が突然ユーチューブ・ビデオに現れるのを想像してみてください。 ひゃー(Yikes)!でしょう。
この場合、あなたはGoogleアカウントからサインをもって抹消する時間はありません。オプト・アウトは保証されていないのです。」
(3)EFF(Electronic Frontier Foundation):Googleの新プライバシー・ポリシーが施行される前にいかに自身の検索履歴を抹消するか(How to Remove Your Google Search History Before Google's New Privacy Policy Takes Effect )
EFFサイトで具体的手順について図解入り解説している。
(筆者注1) 報告テーマは「EU1995年個人情報保護指令の全面改正・規則制定とクラウド等IT技術等に応じた保護強化策および米国Google等プライバシーに対する脅威問題」である。
(筆者注2) 合意書には明記されていないが、ここでいう保護法とは「California Online Privacy Protection Act of 2003 (OPPA)」である。
(筆者注3)ホワイトハウスの枠組みの中で提案されているマルチ・ステイクホルダーや強制力を持つ行動規範によるプライバシー強化については、Consumer Watchdog 等人権擁護団体からは以下のような懸念意見も出されている。
①そこでいわれている“Do Not Track”の実践に向けた産業界の取組み目的は、厳格な形での“Do Not Track”の標準化の実現を目指す“World Wide Web Consortium:W3C”の役割を無効化することになりかねない。
②公正な情報公開の実践原則に基づく消費者のプライバシー権利章典は重要であり、執行可能な行動規範が問題となりうる。プライバシー保護立法の基本線は異なる内容になるかも知れない。すなわち、ホワイトハウス報告はマルチ・ステイクホルダーによる行動規範策定討議:FTCが執行時の根拠となる行動規範の策定作業は、商務省はインターネット企業や消費者擁護団体等を集めて行われるであろう。問題は、グーグル、マイクロソフト、YahooやFacebook等はいつもの通りいかに規則の内容を骨抜きに取組むことである。マルチ・ステイクホルダーの手順による効果には懐疑的であるが、その試み自体は信頼に足ると考える。
その検討手順について、我々、人権擁護団体は2月23日、11団体連名で「マルチ・ステイクホルダー手順策定原則(Principles for Multi-Stakeholder Process)」を公表した。
(筆者注4)この部分は2011年7月30日付け日本経済新聞の記事「米グーグル、ロビー活動費、IT業界で最高水準に」を元に筆者が加筆した。なお、企業等の連邦議会事務局へのロビー活動報告の詳細は、上院事務局(Secretary of the Senate Office of Public Records)、下院(Clerk of the House of Representatives legislative Resource Center)のデータベースで閲覧が可である。例えば、Googleの2010年第4四半期の報告内容(報告責任者はパブロ・チャベス)の明細を参照されたい。
(筆者注5)米国のロビイスト制度上、企業における雇用契約締結権限はCEOや担当VPであるのであるが、実際は住宅バブルのおおもとであったフレディ・マックの例では直接担当外のVPとの間で行っている例が関係機関から報告されている。
(筆者注6) Administration’s frameworkの中ではEU指令の抜本改正等との関連を直接引用している箇所はない。しかし、その両者を比較すれば基本線は同一であり、米国企業のEU対策戦略にかかる点は否めないであろう。
********************************************************
Copyright © 2006-2012 福田平冶(Heiji Fukuda).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.
2011年12月27日火曜日
ニューヨーク州司法長官がマイクロプロセッサー・メーカーIntel社を反トラスト法違反で起訴
(本ブログは2009年11月13日に掲載したものに最近時の裁判情報等を追加したものである)
ニューヨーク州司法長官アンドリュー・M・クオモ(Andrew M.Cuomo)(2011年1月1日にエリック・D・シュナイダーマン(Eric D.Schneiderman)が後任長官として就任)(筆者注1)が11月4日に世界最大のマイクロプロセッサー・メーカーである米国インテル社を反トラスト法(筆者注2)違反で起訴陪審に向けた手続に入ったニュースは、わが国のメディアでもすでに報じられている。
一方、インテルの最大のライバル会社であるAMD(Advanced Micro Devices)は、11月11日、インテルへの米国デラウェア連邦地方裁判所や日本の裁判所で起こしていた米国反トラスト法や独占禁止法違反を理由とする全訴訟は取り下げるとともに特許技術の相互利用に関するクロスライセンス契約の延長について12億5千万ドル(約1,125億円)で和解合意(Settlement)を行った。今回の両者の和解合意が政府による訴訟や欧州委員会による調査等には影響しないとするメディアが多い。
インテルへの反トラスト法違反訴訟は、欧州委員会(筆者注3)や韓国公正取引委員会(Korea Fair Trade Commission:KFTC)(筆者注4)の課徴金処分、日本の公正取引委員会(筆者注5)による排除勧告を受けた一連の行動であることは言うまでもないが、非競争に関する連邦法執行・監督機関である連邦取引委員会(FTC)の今後の出方も注目されている。
今回のブログは、内外のメディアによるややセンセーショナルかつ限定的な情報だけでなく、反トラスト法を中心とする法律的に見た正確な情報の提供を目的としてまとめた。すなわち連邦反トラスト法だけでなくニューヨーク州の反トラスト法(Donnelly Act)の内容等にも言及するとともに同州の非競争行為に対する法執行体制についても解説する。
また、今回の事例は米国の消費者保護における連邦政府(FTC)や州司法長官の役割(いわゆる父権訴訟(parens patriae ))の具体例である。その歴史的経緯や機能については2008年6月に日弁連消費者行政一元化推進本部研究会において日本女子大学の細川幸一准教授が「米国の消費者保護における政府の役割~父権訴訟を中心に~(メモ)」で詳細な報告を行っている。
わが国では消費者庁が9月1日に稼動を始めたが、その基本機能は日常的な生活苦情窓口だけでよいのか、不正競争に基づく消費者の救済といった個人では手が出せないし、また集団訴訟提起もなおハードルが高い問題等にその公的機能が本格的に発揮されるためには公正取引委員会の自由競争阻害要件を中心とする方式から一歩踏む出すことの検討も必要となろう。(筆者注6)
特にニューヨーク州とはいえ世界最大のマイクロプロセッサー・メーカーにFTCより先んじて挑む姿勢の意義と今後の展開に強い関心をもって今回のブログをまとめた。
なお、わが国では内閣府の「独占禁止法基本問題懇談会の最終報告(独占禁止法における違反抑止制度の在り方等に関する論点整理)」等において非競争行為における課徴金、刑事罰の併科問題等が議論されているが、それ自身が大きな課題であり機会を改めて論じたい。
1.同司法長官の起訴陪審に向けた起訴状(案)の要旨
インテル社に対する87頁の起訴状(案)は、デラウェア連邦地方裁判所(筆者注7)に提出された陪審審理(正式事実審理)請求(trial by jury demanded)である。事実関係については一般メディアでもかなり詳細に書かれているが、内容の重複を承知で「リリース」に基づき仮訳で解説する(リリースでは2008年1月から捜査が開始され、司法長官府(Attorney General’s Office)による数百万ページにわたる文書や電子メールさらの数十人の証言をもとに起訴が行われたと発表している)。なお、メディアではほとんど報じられていない点は、CEOや幹部間相互の電子メールが極めて立証上で重要な証拠となっていること(デジタル・フォレンジック)(筆者注8)の重要性が極めて問題となる事件となろう。一方、インテル社は起訴状記載の電子メールの内容は言葉尻をとらえているのみでリベートや報復的強圧をかけるなど非競争行為を意図的に行ったことの証拠性は弱いと反論している)である。
さらに、以下の電子メール等の証拠内容から見て、反トラスト法の解釈と絡んでくるであろうが、自由市場ルール違反や消費者保護と言う観点からみるとデルやHPは本当に被害者なのであろうか。共犯ではないかとも考えられよう。
なお、筆者が従来から米国の法制度調査とりわけ法律の条文の原本を確認する上で最も気になっていた簡易かつ迅速な「検索性」は、次項で述べるとおり州法で見る限り期待はずれであった。今後、あり方について米国のロー・スクールや弁護士等と意見交換するつもりである。
(1)企業内電子メールがインテルのコンピュータ・メーカーへの違法な圧力を明らかにする:我々はインテルのこのような報復行為を受忍しるであろうか?
2009年11月4日、ニューヨーク州司法長官アンドリュー・M・クオモは世界最大のマイクロプロセッサー・メーカーであるインテル社に対し、連邦反トラスト法違反に基づく訴訟を起こした。本訴訟は、電子メールの解析で明らかとなったインテル社がマイクロプロセッサー市場における独占力と価格を維持する目的で世界中にわたるかつ組織的かつ違法な活動キャンペーンを行ったことに対する責任を問うものである。
この数年間、インテルは総額で数十億ドルにのぼる支払と引き換えに同社のマイクロプロセッサーの使用に同意した大手コンピュータ・メーカーから独占的契約を取り付けている。また、同社は事実上インテルの競合他社と極めて緊密の行動したことを察知したPCメーカーを脅迫するとともに実際に処罰的行為を行った。これらの報復的な脅迫の内容には、直接コンピュータ・メーカーの競争相手に資金を供給して共同開発事業を終了させ、またコンピュータ・メーカーがインテルから受け取っていた資金のカット措置が含まれていた。
インテルは、公正な競争より市場での締め付けを維持するため賄賂や強制を使った。本日、連邦地方裁判所に起こした訴訟はインテルの更なる反競争的行為を禁じ、失われた競争を復元させニューヨーク州の政府機関や消費者が被った金銭的な損害を取り戻すために刑罰を科すことが目的である。
(2)インテルは米国の最大手のコンピュータ・メーカーに贈賄や強制を行った
「インテルx86マイクロプロセッサー(ほとんどのPCの頭脳部分)」は一般的に直接企業や消費者に販売しないかわりにPCの部品としてコンピュータ・メーカーに販売する。インテルの違法行為は合衆国の3大コンピュータ・メーカー(デル(Dell)、ヒューレット・パッカード(HP)、IBM)を巻き込んでいた。
(デルに関する違法行為)
・2006年、インテルはデルに対し約20億ドルのリベートを支払ったが、そのリベート額はデルの2四半期分(9半年分)の純利益(net income)を超えていた。
・2001年から2006年の間、インテルはデルに対しインテルの主たる競争相手であるAMD社(Advanced Micro Devices)の製品を販売しない見返りとして他のコンピュータ・メーカーに比べ相対的に特権的な地位を与えた。
・インテルとデルは、AMDが戦略的に重要な競争力のある成功を収めることを阻止するため原価を下回る価格でのマイクロプロセッサーやサーバーの販売に協力した。
(HPに関する違法行為)
・インテルは、HPがAMDの製品販売を促進するなら今後のHPのサーバー技術の開発を頓挫させるであろうと脅かした。
・インテルは、HPのAMDのプロセッサーを使った業務用デスクトップ・パソコンに5%の販売割引価格の上限(Customer Authorized Price:CAP)(筆者注9)を設ける合意の見返りとして数億ドルを支払った。
・2006年にAMDの支出に係るHPの販売におけるインテルのシェアの増加を見合いに9億2,500万ドルを支払う旨のより幅広いかつ全社的な合意を取り交した。
(IBMに関する違法行為)
・インテルはAMDベースの商品を購入しないようIBMに1億3,000万ドルを支払った。
・インテルは、IBMがAMDを組み込んだサーバーを販売した場合は、IBMにとって利益が得られた共同事業から資金を引上げると脅した。
・インテルはIBMに対しAMDプロセッサーを組み込んだサーバーを「ノーブランド商品」とするよう圧力をかけた。
(3)各社の社内文書や電子メールがインテルの違法行為を明らかにした
本訴訟ではインテルの違法活動を示す電子メールの通信が含まれている。その具体例は次のとおりである。
①2005年1月、IBM役員の社内電子メール:「私はAMDが完全な商品ラインの面で欠けている理由・原因を理解した。質問ですが、我々はインテルの復讐を受け入れる余地があるか。」
②2004年6月、HP役員のHPがインテルを無視してAMDを組み込んだ製品を販売した後の社内電子メール:「インテルはHPがOpteron(AMDのサーバー・チップ(筆者注10)発表に数十億ドル($B)かけたことこのことに対し、HPを罰する計画があると我々に話した。」
③2004年9月、HPの役員のインテルの競争相手からの販売製品を得たことの必然的な結果に関する社内電子メール:「我々がそうするか(そうするつもりであるが)、インテルからの資金は停止してしまうであろう。そのリスクは極めて高い。その資金がなかったら、我々は財務的に耐えられないであろう。」
④2003年2月、インテルの競争相手からデルが積極的な購入を行った場合の想定される結果についての社内文書:「インテルによるリベート額の減少は厳しくその影響はデルのあらゆるLOB (筆者注11) に長引いて及ぶ。」
⑤2004年2月、デルがインテルとの排他的関係を終了させる可能性についての内部電子メール:「デルがAMDへの大移動に参加するなら、PSO/CRB(インテルのCEOであるPaul Otteliniと会長のCraig Barett)による聖戦(jihad)への用意が行われる。我々はインテルが詳細を調査する間、我々は少なくとも3ヶ月間リベートがゼロになる。これを避けるためにはいかなる法的・倫理的・脅威も問題となりえない。」
⑥2006年9月、インテルのHPとの交渉責任者(negotiator)(筆者注12)の社内電子メールにはインテルの反トラスト法違反に抵触しないよう意図的に試みた記録のとおりある:「あなた方(メールの宛名人)は市場シェアMSS:market share)に関する部分を交渉記録上除くことが出来た。ボリューム目標のみ残すよう工夫した。我々の顧問弁護士団は交渉スタッフに対し口うるさい。従って、私の会話内容はボリューム目標か関連するボリューム目標のみに限定した・・・(メールの相手から )有難う(thx)の返事があり。」
⑦2006年4月、インテル役員の社内電子メール:「反とラスト法の問題の懸念をなくすためは文書や電子メールは問題であり、電話でもう少し話すことにしましょう。」
⑧2005年11月、デルCEOのMichael DellからインテルCEOのPaul Otteliniに宛てて送られた社内電子メール:「我々は指導力を失い、その結果いくつかの分野で当社の事業上重大な影響を与えています。Otelliniの返事:この分野には新たなものは何もないのです。我々の製造計画(product roadmap)そのものです。
それは日々急速に向上しています。そのことが指導的製造を増加させるし、さらに競争努力に合致させるため、インテルはデルに対し1年当り10億ドル($1B)をデルに譲渡する予定です。このことは貴社のチームにおいても競争問題を補償するに十分以上であると判断されました。」
(4)ニューヨーク州対インテル社裁判の起訴状の具体的内容およびその後の情報
前述したニューヨーク州司法長官がインテル社を起訴した裁判で、その基礎を裏付ける具体的事実については前述したとおりである。ここでは、起訴状の結論部分である裁判所に対する4つの「救済請求(Claims for Relief)」をとりあげる。
①第一請求(シャーマン法(Sherman Anti-Trust Act)2条違反
②第二請求(ニューヨーク州Donnelly Act:ニューヨーク一般ビジネス法律集(N.Y.Gen.Bus.Law)第22編340条以下「独占行為」)
③第三請求(ニューヨーク州執行部法(New York Executive Law)63条(12)違反)(筆者注13)
④第四請求(同条)
なお、裁判の途中段階の情報は省略するが、2011年12月24日にデラウェア連邦地裁判事レオナルド・スターク(Leonard Stark)は2012年2月14日に予定している公判予定の取消を命じた。その理由は、本裁判が破棄されるべきか否かにつきニューヨーク州が論議中であるということにある。いずれにせよインテル社はすでに反トラスト裁判の解決に関し、すでに27億ドル以上を費やしている。スターク判事は起訴事由のうち三倍損害賠償を破棄するなどいくつかの請求を退けている。また、同判事は事件の対象範囲につき原告であるニューヨーク州に対しここ3年間におけるコンピュータの購入に焦点を当てるとするなどの訴訟指揮をとってきた。これに対し、州当局は6年間の期間を求めていた。
2.ニューヨーク州の反トラスト法(Donnelly Act)および同州の非競争行為に対する法執行体制
(1)米国の連邦および州ベースの反トラスト法の関係
わが国で広く一般的に読める海外情報としては公正取引委員会サイトで連邦司法省反トラスト局の公表ニュースを簡単に紹介しているのが唯一の情報であろう。
ニューヨーク州経済司法部反トラスト局のサイトでは、連邦反トラスト法について簡潔にまとめている。連邦司法長官と州司法長官の権限との法的関係(いわゆる父権訴訟)にも言及しており参考までに紹介する。
「連邦反トラスト法(Federal Antitrust Laws)」
1890年に制定された「シャーマン法」は、州際取引や商業における制限的性格をもつすべての契約や共謀行為を禁止する。具体的には、価格吊り上げ(price fixing)、市場配分(market allocation)、ボイコット、談合入札(bid rigging)および抱き合せ販売(tying arrangements)を含む。
連邦裁判所は、これらの禁止行為の停止や回復、また違法に取得した利得の返還、実際被った損害額の3倍の損害賠償(三倍賠償(treble damages))を裁可する権限がある。また違反者には法人の場合は最高1億ドルの刑事罰、個人の場合は最高100万ドルおよび10年以下の拘禁刑が科される。
「クレイトン法」は実質的に競争を抑制したり独占を生じさせる買収(mergers)や一定の排他的合意(certain exclusive dealing arrangements)を禁止する。
「1976年ハート・スコット・ロディノ反トラスト法」は、連邦の反トラスト法訴訟における州の住民を代表して各州の司法長官に新たな広い起訴権限を与えた。このため司法長官は消費者の代理人としてシャーマン法違反に基づき失われた金額の三倍損害賠償を起こすことができる。この方式により司法長官は多くの市民が少額でかつ個々人が提訴する余裕がない場合に1つの訴訟に統合することができる。
一方、「連邦取引委員会法」は「不公平な取引慣行」や「不公平または詐欺的またはその実践行為」を禁止する。本法は、①シャーマン法とクレイトン法の非競争条項の法執行を実現させる、②FTCの反トラスト法では対処し得ない違法活動の消費者保護代理機関として機能を果たす権限を定めている。
(2)各州の反トラスト法の調べ方
そもそも州ベースの反トラスト法の執行体制や関連法を調べるにはどのようにすればよいのか。
筆者なりに模索した結果は、以下のとおりである。
A.同州の経済司法部反トラスト局(Antitrust Bureau, part of the Division of Economic Justice)サイトを閲覧した。
B.同サイトでDollenny法の解説を読む。ただし、同サイトや州の一般サイトから条文そのものは確認できない。
C.同州の法律検索専門サイトでDonnelly 法の条文内容を確認しようとした。なお、同サイトはアルファベットで検索するようになっているが、連邦法のように法律名(Dollenny)では検索できない。 “General Business”(GBS) まで知っていると条文内容にたどり着く。
この検索方法はカリフォルニア州ではどうなるか。同州の反トラスト法の正式名は“CALIFORNIA BUSINESS AND PROFESSIONS CODE:Cal.Bus.&Prof.Code”である。一般的には通称の“Cartwright Act”で解説されているか、または両者が併記されている。
ついでに、検索手順を解説しておく。
A.州の公式法案・制定法検索サイト“Official California legislative Information” を閲覧する。
B.画面下の選択肢から“California Law”を選択する。
C.“California Code”を閲覧する(29の法典の最新更新内容が確認できる)。
D.法律の内容を示す一覧から該当の法典(code)を選択する。法典名が分からないと更なる検索である「キーワード検索」もできない。
筆者が一番困惑したのは一覧から該当法典名である“CALIFORNIA BUSINESS AND PROFESSIONS CODE”を調べる方法であった。同法は450頁の大法典であるが、連邦法の検索時の習慣で通称である“Cartwright Act”に基づく検索に固執しすぎた。
(3)ニューヨーク州 反トラスト法“General Business”(GBS)の内容
反トラスト法である“General Business”(GBS)の内容について逐一解説は行わないが、経済司法部反トラスト局のサイトの同州反トラスト法の解説内容を概観する。
ニューヨーク州の反トラスト法(340-347 of New York’ General Business law )は一般には「ドネリー法」といわれ1899年に制定された。一部重要な点で異なる部分もあるが、その後の法改正や解釈により緊密なかたちで連邦シャーマン法の内容との整合性が図られてきた。すなわち同法は、価格吊り上げ、地域や顧客配分(territorial and customer allocation)、ボイコット、談合入札(bid rigging)および抱き合せ販売(tying arrangements)を禁止する。
同法は、司法長官に法人の場合は最高100万ドル、個人の場合は最高10万ドルの民事罰を求める訴訟提起の権限を定める。またプライベート・パーティ(被害者たる訴訟当事者)はこれらの違法行為を禁止させまた三倍賠償を得るため訴訟の提起が出来る。ドネリー法違反は重罪(felony)であり、法人の場合は最高100万ドル、個人の場合は最高10万ドルと4年の拘禁刑が科される。
3.今後の国際的非競争法強化に対応した研究課題についての私見
わが国では日本企業の海外進出とともにわが国の企業のEUや米国における非競争法違反・制裁問題に危機感をもっており、最近ではあるが経済産業省は経済産業政策局長の私的研究会として、「競争法コンプライアンス体制に関する研究会」を設置し、第1回会合を2009年8月4日に開催し、以降月1回ベースで開催されている。
第1回会合配布の「資料4」に指摘されているとおり、同研究会は制裁金・課徴金という行政制裁の強化によるか罰金・禁固刑という刑事制裁の強化によるかという手法の違いは別として、現在、日米欧いずれの競争当局においても、カルテル等の競争法違反行為の抑止という観点から、執行強化がなされているという問題意識から検討が行われている。
なお、同研究会は、2009年8月から11月にかけてのべ4回開催し、2010年1月29に報告書「『国際的な競争法執行強化を踏まえた企業・事業者団体のカルテルに係る対応策』について」を取りまとめている。
一方、筆者自身、今回ブログの原稿作成を通じて次のような具体的課題を整理した。①世界的独占企業の非競争戦略の「法的きわどさ」、②中小企業も含むわが国企業の国際化が急速に進む一方で、海外の非競争法の正確な理解の不足や執行機関に関する研究の遅れ、③ニューヨーク司法長官府サイト等で見るとおり非競争行為はわが国でいう「内部通報者保護法」(2007年False Claims Act)の機能に期待する点が極めて大である問題であり、各州の運用実態調査の重要性、④連邦司法省サイトで見るとおり、被害者保護面からのオンブズマン制度の機能の実態調査の重要性、⑤わが国の司法関係者や法執行機関のデジタル・フォレンジックに対する意識の低さ。
これらの課題については、順次最新情報を追いながら解説していくつもりである。いずれにしても、わが国の独占禁止法も含め非競争規制法は経済規制法という側面から消費者保護(消費者の権利保護)法の側面に焦点を当てたさらなる研究が求められよう。(筆者注13)
**************************************************************
(筆者注1)「司法長官」と言う名称から連邦と同様に執行機関の最高責任者である州知事が任命すると思われがちであるが、ニューヨーク州においては、連邦政府と異なり、他州と同様に、知事のみならず副知事・州監察長官(State Comptroller) ・州司法長官(Attorney General)という主要な行政官が公選職員として住民の直接選挙で選出される。1846 年のニューヨーク州憲法(Constitution of the State of New York )改正(5条1項)により、州司法長官も州監察長官も共に公選職員(任期4年)となった。(自治体国際化協会のサイトから引用)
前クオモ長官(民主党系勤労家族党(Working Families Party)ニューヨークのマイナーな党であるが自由主義的性格が強い政党である)の選挙は、2006年11月7日に行われ、58.31%の票を獲得している(Wikipedeiaの解説等から引用)。現長官シュナイダーマンは前ニューヨーク州議会上院議員(民主党)で2010年9月に党候補に指名され、総選挙の結果、当選し、2011年1月1日に第65代長官に就任した。
なお、わが国では州の“Attorney General”の訳語を「検事総長」としているものが多い。しかし、これでは連邦の司法長官(法執行の最高責任者で大統領が指名、議会が承認)と機能が異なることになる。起訴状にあるとおり、連邦地方裁判所になぜ州の司法長官等のみが原告として関与しているのか(なぜ連邦地区首席検事(United States Attorney:米国連邦裁判所の裁判区 (judicial district) ごとに1名ずつ大統領が指名し、連邦の刑事事件で検察官の活動を統括する役職)が起訴しないのか)。詳しく書くとそれだけで博士論文になってしまうので「私見」ではあるが結論だけ記しておく。
インテル社の反トラスト法違反行為は前記のとおり連邦法や州法違反であり、本来連邦司法省長官が起訴すべきものと思われるが(例えば2001年10月11日連邦司法省が原告となり、“HSR Act”遵守違反を理由として米国最大のメデイア企業“Hearst Corporation”を被告とする民事制裁を求める訴訟を提起している。この違いはどこにあるのか等々)、実は米国「1976年ハート・スコット・ロデイーノ・反トラスト改良法(Hart-Scott-Rodino Antitrust Improvements Act)」によりクレイトン法4c条(U.S.C.ではSec. 15c. Actions by State attorneys general)は連邦司法省(反トラスト部)の代理訴訟権限の州司法長官への付与を定めている。本文2.(1)で見るとおり、今回の起訴は同条にもとづくと思われる。
(筆者注2)米国競争法の専門家でない読者のために補足しておく。本文(起訴状の内容)で説明するとおり米国の「反トラスト法」とは、単一の法律ではなく、いくつかの法律の「総称」であり、主に以下の3つの基本法およびこれらの修正法から構成されている。
①シャーマン法(1890 年6月2日制定)( Sherman Antitrust Act:15 U.S.C. §§ 1-7) カルテル・ボイコット等の取引制限、独占の禁止に関する規定。
②クレイトン法(1914 年10月15日制定)(Clayton Antitrust Act:15 U.S.C. §§ 12-27) 価格差別、排他取引、不当な条件付取引、企業結合に関する規定。
③連邦取引委員会法(1914 年制定)(Federal trade Commission Act of 1914):不公正な取引および欺瞞的取引の禁止、連邦取引委員会の権限・手続等の規定。
このほか、ほとんどの州がシャーマン法やクレイトン法に準拠しつつ独自の反トラスト州法を制定している。これらの法律や最近の判例に関する概括的な解説は、コーネル大学ロースクールのサイト「反トラスト法:概観」を読むのが最も近道であろう。
また、連邦司法省反トラスト法担当部サイトでは内部ガイダンスである「反トラスト法マニュアル」を公文書として一般公開している(米国現行連邦法律集(U.S.C.)と法律名称検索とで条文番号が異なる場合があり、同マニュアルではその比較が出来る)。
(2008年1月現在公正取引委員会のサイト「世界の競争法:米国」、内閣府がまとめた「アメリカ反トラスト法の概要」等から一部引用のうえ筆者が独自に追加した)
さらに留意すべき点は、米国反トラスト法は連邦司法省と連邦取引委員会という2つの執行機関を有し、各執行機関に執行権を付与したことから、2系統、2本建ての実体法規制となっている。一方、わが国の独占禁止法は単一の執行機関として構成されている反面、米国の反トラスト法を原型とするがゆえに2系統の実体法規定を受け継いでいる。このため、わが国の法解釈上で複雑な問題を多くかかえるという指摘がある(2000年4月1日号NBL 村上政博「独占禁止法違反行為についての私人による差止請求権(1)」から一部引用)
(筆者注3)「2009年5月13日、欧州委員会は、x86セントラル・プロセシング・ユニット(CPU)と呼ばれるコンピューターチップ市場から競合他社を排除するために、欧州共同体(EC)条約(第82条)に抵触する反競争的行為を行っているとして、Intel(インテル)社に10億6,000万ユーロの制裁金を科した。欧州委員会はまた、今も継続している違法な行為のすべてを直ちに中止することを命じた。(以下省略)」駐日欧州委員会代表部サイトから一部抜粋引用。その原文は” Antitrust: Commission imposes fine of €1.06 bn on Intel for abuse of dominant position; orders Intel to cease illegal practices”と題するものであるが、上記代表部の訳文もかなり事実関係も含め詳細に原文の内容を紹介している。
(筆者注4)2008年6月4日、韓国公正取引委員会が韓国インテル社に対して行った「矯正命令(corrective order)」および「課徴金(surcharge)」の詳細については同委員会サイトで確認できる。
(筆者注5) 2005年3月8日、公正取引委員会は,インテル株式会社に対し,独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)の規定に基づいて審査を行い、同法3条(私的独占の禁止)の規定に違反するものとして,同法48条1項の規定に基づき,次の内容の排除勧告を行った。
「日本インテルは,インテル製CPUを国内パソコンメーカーに販売するに際して,国内パソコンメーカーに対し,その製造販売するパソコンに搭載するCPUについて,前記(1)MSS(各国内パソコンメーカーが製造販売するパソコンに搭載するCPUの数量のうちインテル製CPUの数量が占める割合をいう。)を100%とし,インテルコーポレーションが製造販売するCPU(以下「インテル製CPU」という。)以外のCPU(以下「競争事業者製CPU」という。)を採用しないこと。
(2)MSSを90%とし,競争事業者製CPUの割合を10%に抑えること。
のいずれかを条件として,インテル製CPUに係る割戻し又は資金提供を行うことを約束することにより,その製造販売するすべて又は大部分のパソコンに搭載するCPUについて,競争事業者製CPUを採用しないようにさせる行為を取りやめること。」
この勧告に対する諾否の期限は2005年3月18日であったが、4月1日まで延期が認められ、インテルは4月1日付けで「同勧告を応諾しますが、同委員会が主張する事実やこれに基づく法令の適用を認めるものではありません。インテルは引き続き、同社の商行為は公正であり、かつ法律を順守していると確信しています。したがって、インテルは勧告に示された排除措置の枠組みによっても、同社が今後も顧客の要望に十分応えていくことができると考えています。」と言う内容のコメントを行っている。同コメントを法的にどのように解するかについては機会を改めて論じたいが、かりに今回のニューヨーク司法長官の起訴状が指摘するような事実があるとすれば、反トラスト法上かなりの問題があるコメントであろう。
なお、現状の日本の法律では排除勧告を応諾したとしても制裁金が課されない(この問題を論じているのが今回のブログ前文で述べた「独占禁止法における違反抑止制度の在り方等」(2006年7月21日内閣府大臣官房 独占禁止法基本問題検討室の資料)である)。
このため日本AMDは2005年6月30日、インテルの日本法人が日本AMDの業務活動を妨害したとして、その損害賠償を求める訴訟を東京高裁と東京地裁に起こした。同社が東京高裁に対して提起した訴訟は、同年3月8日に公正取引委員会が排除勧告で認めたインテルの独占禁止法違反行為による損害賠償(請求額は約55億円)に、排除勧告で認定された違反行為以外の妨害行為で被った損害賠償を加えた、総額約60億円の損害賠償を求めたものである。
その東京高裁への訴状の要旨によれば、インテルは、国内PCベンダー5社(NEC、富士通、東芝、ソニー、日立製作所)に対して、資金提供などを条件に、各社が製造するPCにAMD製CPUを採用しないようにしむけたという。また、東京地裁への訴状要旨では、インテルが「日本AMDの新製品発表会に参加を予定していた顧客に対し圧力をかけ、参加を辞退させた」「日本AMDと顧客の共同プロモーション・イベント用に製造されたAMD製CPUの新製品を搭載したPCを、イベント直前に全台買い取り、インテル製CPU搭載PCに入れ替えさせた。その際、インテルはPCを無償で提供したうえ、宣伝費用も支給した」などの営業妨害行為を行ったという。
一方、米国AMDは6月27日にデラウェア連邦地方裁判所に対し、シャーマン法2条、クレイトン法4条・16条、カリフォルニア州企業・職業法(the California Business and Professions Code)に基づきインテルによる取引き妨害による損害賠償請求訴訟を提起した。
これら訴訟については、11月12日のインテルとAMDの全面和解によりAMDはデラウェア連邦地方裁判所および日本の2件の係争中の独占禁止法違反訴訟は取り下げるとともに全世界の規制当局への訴えを撤回する旨発表した。
(筆者注6)日本女子大学の細川幸一准教授が、2008年1月に「消費者庁構想について」において従来の規制行政から支援行政の重要性を指摘されている。筆者も同感であり、消費者庁のHPを見るたびに残念に思うとともに、抜本的な機能の見直しが必要と考える。
(筆者注7)デラウェア連邦地方裁判所のサイトにアクセスすると、まず「モニタリング通知」が出る。引き続き「アクセス(Entrance)」しても良いし「退出(Excit)」も可である。
(筆者注8)フォレンジック(Forensics)とは法科学と訳され、司法における犯罪や不正の証拠として科学的知見をいかに生かすかという学問である。デジタル・フォレンジック(Digital Forensics)とは、この法科学の中でもコンピュータをはじめとするIT機器に残存する証拠(電磁的証跡と呼ぶ)から犯罪や不正の証拠をいかにして取り出し、生かしてゆくかという技術であると言える。情報通信技術が社会のインフラとして重要性を増すにつれ、その障害や不正アクセスなどのインシデントに際して、事件と事故の切り分けからインシデント原因の同定、犯罪や不正が疑われた場合の被疑者の同定(Identification)といった作業が「法廷の場で証拠として耐えうるように」行われることが求められてきており、今後研究を進める必要性の高い分野であると言える(京都大学情報メデイアセンターより抜粋)。なお、わが国のデジタル・フォレンジック研究については、「NPOデジタル・フォレンジック研究会」が唯一アカデミックかつ実践面からの積極的な活動を行っており、関心のある人は是非会員になってみてはいかがか。
(筆者注9)“Customer Authorized Price”(CAP) に関する説明は起訴状原本16頁にも記載はない。筆者なりに調べた範囲で解説すると、OEM契約(OEM(Original Equipment Manufacturing/ Manufacturer)とは、納入先商標による製品の受託製造(者)をいいます。すなわちメーカーが納入先である依頼主の注文により、依頼主のブランドの製品を製造すること、またはある企業がメーカーに対して自社ブランド製品の製造を委託することです。開発・製造元と販売元が異なり、製品自体は販売元のブランドとなります:JETRO貿易・投資相談Q&Aから引用)の場合に使用される用語である。ここからは筆者の推測であるが、インテルはデル等とOEM契約を締結する際の条件としてデルはインテルの標準価格5%を販売割引価格の上限に合意したのではないか。
(筆者注10)「サーバー・チップ」とはどのようなものをさすのか。技術系でない筆者としてはこだわって内外サイトを調べた。要するに「サーバー・コンピュータ用の高機能マイクロプロセッサー・チップ」のことのようである。次世代サーバー・チップの解説(インテルの“Nehalem”、AMDの“Magny Cours” IBMの“POWER’”等)は海外の記事の基づく素人には極めて分かりづらい記事は多いがほとんど理解できない。この世界ははやたら「次世代」が好きであるが、足が地に着いていない世界かも?。筆者の専門である「法律」の世界では正確な定義がない言葉は使えない。
(筆者注11)“LOB”とは、“line of business ”の略語で企業が業務処理に必要とする主要な機能を行うアプリケーションの総称である。LOBに該当する主なアプリケーションとしては、会計や在庫管理、受発注システム、サプライ・チェーン・マネジメント(SCM)などがある。(IT用語辞典から引用)
(筆者注12)起訴状で言う“negotiator”とは具体的にどのような人物を指すのか。起訴状本文62ページ以下を読んだが、個人名は記されていない。HPとの交渉責任者(the principal Intel negotiator of the deal to his HP counterpart)としか書かれていない。
(筆者注13)「ニューヨーク州執行部門法(New York Executive Law)」について概要のみ補足する。同法は全50編(Articles)からなる法律であり、知事、各州機関の機能や任務を定める。その第5編(60条~74条)が同州の法務局(Department of Law)の責務に関する規定を定め、63条は司法長官の一般的責務に関する事項を定める。
(筆者注14) このような問題意識はすでに「第14次国民生活審議会(1992年12月12日~1994年12月11日)消費者行政問題検討委員会報告」において指摘されていた点である。しかし、その後の運用はいかがか。
〔参照URL〕
http://www.oag.state.ny.us/media_center/2009/nov/nov4a_09.html
http://www.oag.state.ny.us/media_center/2009/nov/NYAG_v_Intel_COMPLAINT_FINAL.pdf
Copyright (c)2006-2009 福田平冶 All Rights Reserved.
2011年12月25日日曜日
米国金融監督機関における金融機関等に対する迷惑セールス電話やFAXの規制強化の動き
(本ブログは2010年4月9日の内容をもとに最近時公表されたFTCのデータブックの内容により補筆したものである)
わが国でも休日の朝にけたたましいセールス電話で起こされて不愉快に感じる人が多いと思うが、連邦取引委員会(FTC)および連邦通信委員会(FCC)は2006年4月に「1991年電話利用者の保護に関する法律(Telephone Consumer Protection Act of 1991:TCPA)」および「2005年ジャンク・ファクシミリ禁止法( Junk Fax Prevention Act of 2005:JFPA)」(筆者注1)に適用に関する規制強化に関するFCC規則の改正を行った。(筆者注2)
その内容は、2003年6月に開始した「Do-Not-Call」の登録制度の範囲を銀行、保険会社、信用組合、貯蓄組合等まで広げるとともに、これらの金融機関からの委託に基づきマーケティング活動を行うテレマーケッター等の第三者にまで適用の範囲を広げるというものである。(筆者注3)
これを受けて2005年11月に「消費者保護の法令遵守に係る連邦金融機関検査協議会・作業部会(Task Force)」は、TCPAに関する監督機関共通の検査手順書(Examination Procedures )および検査シート(Worksheet) (筆者注4)を承認した。通貨監督庁は、今後「検査ハンドブック」の改訂を行うが、それまでの間、監督官はこれら手順書等に基づき検査を行うこととなる。
その後、連邦財務省通貨監督庁(OCC)は2007年6月14日に改訂検査手順書、改訂検査シートを公表した。
「National Do Not Call Registry:NDNCR」(筆者注5)についてはFTCのサイトで詳しく説明されているが、これら2法の用語の定義・基本的な内容について概要を述べる。なお、2011年11月30日、FTCは「2011会計年度NDNCRデータブック」を発表した。本ブログではその最新情報についても概要を紹介する。
1.共通用語
(1)abandoned call:自動ダイアリングで電話での呼出し後、2秒以内に生のオペレーターにつながない電話呼出しを指す。電話口に出た人は無言電話としか理解できず迷惑セールス電話の典型とされる。消費者による“National Do Not Call Registry”の登録対象である。
(2) Automatic Telephone Dialing System and Autodialer:ランダムまたは順次電話番号を保存または制作する能力および当該電話番号に基づきダイアリングする能力を持った装置をいう。
(3)既存のビジネス取引関係(Established business relationship)::①電話がかかる18か月以前において個人・企業が電話セールス元企業から買物や取引を行っていた場合、②3か月以内に商品やサービス内容について質問や適用に関する行為が行われていた場合、③当事者間であらかじめそれらの関係を遮断していなかった場合をいう。
これらの場合、受信する個人は製品・サービスに関し、関係を持つと合理的に判断される。
(4)本人の同意なき電話による勧誘(Telephone solicitation):消費者に伝達する買物、レンタル、財産や商品投資、サービスを勧める目的の電話による手引き。Telephone solicitationは本人の同意がある場合、発信者が受信者と一定のビジネス関係がある場合ならびに免税NPOに代って電話する場合はTCPAは適用除外となる。
2.TCPAの一般的要求要件
(1)FCCの定める規則のもとにおいて、売り手やテレマ-ケッターは次の内容を遵守しなくてはならない。
①文書の手順書の作成、②オペレーター等担当者の研修、③接触対象から除くべき電話番号のリストの維持、④架電に先立つ3か月前以内に作成された全米do-not-call 登録の バージョンの使用義務、⑤販売レンタル、リース、購入、等にあたり、いかなる方法においても諸規則に準じない手続きは行わない。
(2)企業はテレマーケティングの対象から除くべき要求が出されている既存の取引先顧客名リストの維持を行うこと。
(3)すべてのテレマーテッターは、abandoned callを用いるか自動ダイアリングを利用する場合は、消費者に優しい方法によらねばならない。すなわち15秒以内または4回呼び出しに受け手が電話に出ない場合は遮断しなくてはならない。
(4) すべてのテレマーテッターは、「caller ID information」の送信が義務付けられる。
(5)希望されないFAXの送信は、電話のように既存の取引関係による適用除外はないので留意する。すなわち受け手の同意の記録が必要である。
3.金融検査に検査おけるTCPAに関する検査目的
金融機関が適正なポリシー、手続き、その他の内部統制が確立されていることのチェックを行う。
4.検査手順(筆者注4)
(1)初期手続き
(ⅰ)検査対象金融機関が直接または外部の第三者を利用したテレマーケティングを行っていない場合はTCPAに関する検査は終了する。
(ⅱ)対象金融機関において、TCPAに準拠した内部統制が適切に行われているか否かについて検査する。具体的には次の項目等が対象となる。
①TCPAについて金融機関においての責任者を含む組織図の作成。
②TCPAの遵守にかかる計画、評価、実践についての手続きのフローチャートの作成。
③受信拒否登録者の電話番号の5年間のメンテナンスの有無等。
④NDNCRに関する行内規則等についての研修内容。
⑤受信拒否者名の登録手順。
⑥NDNCRのデータべースへのアクセス手順。
⑦行内のチェックリスト、作業表、その他関連文書の内容。
(2)検証手続きおよび(3)総括については省略する。
5.FTCの「2011会計年度NDNCRデータブック」の概要
本データブックが毎年度公表された始めて3年目を迎える。
(1)主なデータ項目
①同制度が開始された2003年度以降有効なDNC(Do Not Call)登録件数およびスパム・テレフォンに関する消費者からの苦情件数
②月次苦情件数と苦情タイプ別に集計した数値
③全50州およびコロンビア特別区の登録、苦情の数値
④会計年度別のマーケテイング業者等の登録データへのアクセス件数
⑤州別およびエリアコード別の登録件数と苦情件数をまとめた別表
(2)2011会計年度ブックの特徴とFTCの基本姿勢
2011年9月30日現在の有効登録件数は2億971万2,924件で1年前比で約4%増加した。また、同日までの苦情件数は1年前の163万3,819件から227万2,662件と39.1%増加した。このように毎月の苦情件数の増加に加え、とりわけ予め録音した音声による自動架電(いわゆる“robocalls”)に関するものやテレマーケッターに電話自体を止めさせるべきとする強い要望件数等が含まれる。
この“robocalls”は2009年9月1日以降、違法とされており、これらの見掛け倒し(deceptive)、誤解を招く(misleading)、その他の違法な“robocalls”行為を繰り返す事業者に対して、FTCは自身の「テレマーケティング販売規則(Telemarketing Sales Rule 16 CFR Part 310)」に基づき断固たる行動をとる。
(筆者注1)“TCPA”も限定的ではあるが、すでに取引関係(EBR)があるなど例外を除いて 企業や住民に対し迷惑FAXの送信を禁止していた。その後、2003年にFCCは既取引先であっても事前に受手が書面による同意がないかぎり禁止する旨に規則を強化した。さらに2005年12月にFCCは「2005 年ジャンク・ファクシミリ禁止法(Junk Fax Prevention Act of 2005)」に則した規則改正を行い、その実施時期は2006年1月とした。(米国ダイレクトマーケテイング協会の解説から一部引用)
(筆者注2)FTCやFCCの資料でみるとおり米国のテレマーケテイングのほとんどは自動式コールでわが国のような人海戦術でない。それがゆえに、スパム的な大量の呼び出しが昼夜を問わず行われ、社会問題化したことから、その規制策として「National Do Not Call Registry 」制度が出来た点を念頭に入れておく必要がある。
(筆者注3)FTCは、テレマーケティング販売規則(Telemarketing Sales Rule)、関連規制法(Telemarketing and Consumer Fraud and Abuse Prevention Act)および取扱事業者に対する遵守ガイダンス(FTC消費者保護局作成)を用意している。なお、連邦規制機関であるFTCによる告訴に基づく罰金額は1違反行為につき最高16,000ドル(約121万6,000円)である。
(筆者注4)検査手順および検査シートのURLは次の通り。
http://www.occ.treas.gov/ftp/bulletin/2006-15a.pdf
http://www.occ.treas.gov/ftp/bulletin/2006-15b.pdf
(筆者注5) NDNCRの登録手続き等については次のURL(Q&A)に詳しい。
http://www.ftc.gov/bcp/conline/pubs/alerts/dncalrt.htm
〔OCCのBulletin2006-15のURL〕
http://www.occ.treas.gov/ftp/bulletin/2006-15.doc
Copyright © 2006-2011 福田平冶(Heiji Fukuda).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.
2011年12月5日月曜日
英国議会上院「科学・技術特別委員会」が英国の長期的な核開発R&D能力につき警告的報告書を発表
本ブログでは英国の原子力エネルギー関連問題につき4月19日「英国の日本の原子炉メルトダウン直前の緊張等によりウラン・プルトニウム混合酸化物燃料売却計画凍結問題」、8月5日「英国は日本の電力各社や政府の原子力問題慎重化によりMOX燃料製造工場の閉鎖を決定」で取上げてきた。
さて11月22日、英国議会上院特別委員会(UK Parliament :House of Lords:Select Committee)の「科学・技術委員会(Science and Technology Committee )」が英国の長期的な核研究および核開発能力につき警告的内容の報告書「科学・技術特別委員会第3次報告書(Science and Technology Committee-Third Report)」を発表した。(筆者注1)最も特徴的な部分は、政府の核問題R&Dの取組みは長期的にみて楽観的すぎるという批判的な内容である。
本特別委員会が、2050年までを見据えた英国の核エネルギー問題を取り上げた背景は言うまでもなく2011年3月11日のわが国の福島第一原発の悲惨な事故である。
すなわち、英国議会自身が2050年を目標とする長期的核研究・開発能力(R&D)につき、2011年4月28日を期限とする「意見具申(Call for Evidence)」の結果を受けて検討を開始したのである。議会は「政府」に対し、英国の核問題の将来を考え、この問題を正面からとりあげるべき立場から検討を開始したといえる。
なお、筆者自身最も興味を抱いた点は、この問題に関する特別委員会の審議・証言内容を議会自身が公開していることである。議会の委員会ビデオ・サイトで確認することが出来る。特に、2011年7月6日、上院科学・技術委員会においてわが国の原子力安全委員会副委員長である鈴木辰二郎氏が証人として発言している。その内容は逐一確認したわけではないが、前述した意見具申と重なる部分が多いと思われるのでここで引用した。
一方、わが国の原子力委員会、専門審査会や部会の速記録は従来から「原子力安全委員会・会議資料」サイトで公開されている。他方、衆議院や参議院の審議内容はインターネットで完全中継や録画が閲覧できると謳っているが、重くてほとんど利用できない。この点も今回の情報収集を通じて筆者が学んだ点である。
さらに、注目すべき点は議会の具申に対し、「証拠書面意見(Written Evidence)」として提出された証言者の範囲と多様性である。本文で詳しく述べるが、その内容の科学的に見た正当性評価等は別としても短時間にこれだけの関係者・関係機関等の意見を集約する関係者や議会の熱意と姿勢に筆者は強く心を打たれた。
今回のブログは、このようなEU加盟国において核問題と2050年に合わせた脱炭素問題に積極的に取り組んでいる国の例として英国議会や政府に関する最新情報を体系的かつ時系列にまとめて整理したいと考えてまとめた(わが国の今後のR&D能力問題も気になる)。また、国際原子力協会(WNA)がまとめている英国の原子力政策概観(“Nuclear Power in the United Kingdom”)は都度内容が更新されており併用されたい。
重要な点は、これら一連の政府や公的機関およびエネルギー供給企業(多国籍原子力企業)の述べていることが真実かどうかである。海外メディア特に英国メディアの記事例を最後に挙げた。英国における安全性問題についての議論が明らかに少ないと感じた。
最後に、わが国政府は2012年4月に発足させる「原子力安全庁」について、放射線被害を防ぐための基準を検討する「放射線審議会」を文部科学省から移すなど組織の骨格を固め、2012年の通常国会に必要な法案を提出する予定である。わが国のエネルギー政策と核の安全問題につき長期的戦略を考える上で英国の例を取上げた。
1. 英国の電力脱炭素化政策と原子力発電への取組みの基本方針と具体的な取組み内容の概観
わが国の原子力問題の研究機関が解説しているとおり、英国政府は2008年1月、新規原子力発電所の建設はしないとする従来の政策を転換し、「民間事業者が競争市場で原子力発電所を建設できるよう環境整備を行う」という新たな原子力政策を発表し、以降、新規原子力発電所建設促進のための様々な制度改革が進められている。
このような説明自体は間違いではないが、このような極めて重要な政策転換の説明としては不十分であろう。
ここでは2008年1月のエネルギー政策方針返還の具体的内容およびその後の政府や議会等関係機関の対応について概観する。
(1)2008年1月、ビジネス・企業・規制改革省(BERR)(筆者注2)は「核エネルギー白書(A White Paper on Nuclear Power :Meeting the Energy Challenge)」を公表し、その中で次の3点の新政策が明確に表明された。
①新たな原子力発電所は、英国の将来のエネルギー混合施策として低炭素資源とともに役割を負うべきである。
②エネルギー開発会社に対し、新たな原子力発電所に対する投資を認めることは公益にかなうことになる。
③政府は、これらの施策を容易にするため積極的な手段をとるべきである。
(2)2009年4月、社会資本計画委員会(Infrastructure Planning Commission:IPC)がまとめた「コンサルテーション結果報告書」を公表
(3)連立政権(Coalition Government)は、2010年6月にエネルギー供給会社は主要な計画につき通常の計画手続をとり、かつ公的助成金を受けることがない場合は新たな原子力発電所の建設が認められるというビジョンをまとめた計画を公表した。
2010年6月27日、政府は議会に対して行った報告「第1次エネルギー政策声明(Annual Energy Statement 2010:AES)」(筆者注3)において、核エネルギーは将来エネルギー混合施策として「再生可能エネルギー(Renewable Energy)」および「二酸化炭素回収・貯留 (CCS: Carbon Capture and Storage)」(筆者注4)とともに重要な役割を担うことを確認した。(エネルギー・気候変動省(Department of Energy & Climate Change:DECC)のサイト解説参照)
(4)DECCサイトで見る新原子力エネルギー政策への新たな前進に向けた諸活動(最新情報に更新されている)
DECCサイトの説明によると、政府は規制と投資家の計画リスクの削減に向け、具体的に次のような前向きな行動をとる旨明言している。
①国家政策声明文書(National policy Statements):国家戦略レベルに合致する新施設の構築に向けた潜在的な可能性を調査する。同声明は、後述するとおり2011年7月19日に指定され、新たな原子力発電所の建設に適するとして8用地がリストアップされた。
②EU法(筆者注5)に適合する健康リスク等から見た英国の核規制の正当化(Regulatory Justification):
EU法(EU指令)が求める健康侵害リスク査定を上回る新たな原子力開発のメリットの有無に関する明確化問題。2010年10月18日、DECC大臣はAP100(改良型加圧水型原子炉)やEPR(欧州型加圧水型炉)の構造・設計が正当化できるもので、かつ健康侵害リスク査定を上回るメリットがあるという決定を行った。
③核廃棄物および廃棄費用にかかる保証合意(Wastes and Decommissioning Financing Arrangement)
新たな原子力発電所の運営会社が将来の発電所の廃棄および生産した廃棄物につき十分な基金を確保(put aside)することを保証させる。
④一般的発電所の構造・設計にかかる評価審査(Generic Design Assessment:GDA)と型式認可(筆者注6)
英国の新規原子力発電所建設に伴う事前設計認可は、包括的設計審査(Generic Design Assessment:GDA)と呼ばれ、現在2つの炉型が申請されている。(中略)・・今後、国家の重要な基盤施設建設計画について総合的な判断を下す独立機関IPC(Infrastructure Planning Commission)が「2008 年土地開発・社会資本整備計画法(Planning Act 2008)(筆者注7)に基づいて2009年10月に設置された)が設置者の申請に対して建設の許可を判断することになる。
なお、DECCサイトの解説では、福島第一原発事故を反映してまとめられた「Weightman report」の検討経緯を踏まえ、新たな原子炉設計は安全性および環境問題をクリアすべく問題に対処する形で纏められたと記されている。
DECCは、前向きな規制に向けた効率化に挑戦に取組むべく原子力監督・規制改革プログラム作成の任務を引き受けた。その一環として2011年4月に「原子力規制局(Office for Nuclear Regulation:ONR)」が稼動を開始した。また、DECCはグローバルな競争力を持った原子力のサプライチェーン管理グループ、原子炉提供事業者、運営会社の創設およびその支援を行うべく機能を始めた。また、英国内での新たな原子炉建設に向けた適切な技術を持った労働力を保証すべく役割を担った。
これらの目的は、2018年頃から最初の新たな原子力発電所を稼動させることである。
(5)DECCが新原子力発電所の建設、稼動に向けた指標スケジュール(Indicative timeline for new nuclear)公表
DECCは2011年11月14日、2010年8月に策定した指標スケジュール線表を見直し新線表を公表した。線表改定の要旨は別途まとめられている。
(6)英国の核開発問題に関する意見公募と査定評価報告書
ここでDECCサイトから英国の核開発の未来にかかる査定評価報告書の取りまとめ経緯を概観する。
・2007年5月、政府は「原子力エネルギーの開発の未来:英国の低炭素経済下における原子力エネルギーの役割(The future of nuclear power:the role of nuclear power in a low carbon UK economy )」を取りまとめ、意見公募を行った。この意見公募原案および付属資料(annexes)にかかる評価最終報告書「英国における将来の民間原子力エネルギーにかかるBERRの公的取組みおよび他の関係機関の査定評価(Evaluation of BERR’s engagement of the public and other interested parties in the future of civil nuclear power in the UK:Final report)」は政府が委託したダイアン・ウォーバートン(Diane Warburton)が責任者として取りまとめ、2009年10月に公表された。
なお、ダイアン・ウォーバートンは“Sciencewise-ERC:Sciencewise Expert Resource Centre for Public Dialog in Science and Innovation”のプログラムチームのメンバーでEvaluation Managerである。(筆者注8)
2.2011年年初以降の具体的な取組み内容
前述した内容と一部重複するが、ここで英国の標記問題への取組みを全体的にまとめたレポートがあるので抜粋する。そのレポートは独立行政法人 日本原子力研究開発機構「 原子力海外ニューストピックス 」2011年 第4号 須藤 收「英国の電力脱炭素化政策と原子力発電 」である。筆者が英国のエネルギー政策機関から得た情報にも合致する内容であり、専門的な解説部分も含め正確であると判断した。このレポートを予め読んでおかないと今回のブログの意義は半減する。(筆者注9)なお、下記の引用文のうち正式名やリンクについては筆者の責任で行った。
「 英国の保守党と自由党の連立政権は、電力の脱炭素化のためのエネルギー源として原子力を重要な柱の1つとする政策を変更せずに着々と新規原子力発電所建設に向けた環境づくりを進めている。 (筆者注10)
2011年7月18日、下院議会で6件のエネルギーに関する国家政策文書(NPS: National Policy Statements for Energy Infrastructure,EN-1からEN-6までの6つの文書1))が承認された。これ等の文書は、2050年までに温室効果ガスの排出量を1990年レベルの80%減まで削減するとともに将来のエネルギー供給保障を確立するための政策に関するもので、将来のエネルギー構成としては再生可能エネルギー、原子力、化石燃料(ただし将来は排出する炭酸ガスを回収、貯蔵するCCS(Carbon Capture and Storage)システムの導入が条件)の3つとし、各々のエネルギー関連施設の導入政策及び施設の建設に当たっての国の審査の技術規定を定めたものである。福島第一原子力発電所の事故後に、将来のエネルギー源として原子力の必要性を再確認し、新たな原子力発電所の建設促進を国家政策として議会で決定したのはイギリスが初めてである。
英国のエネルギー政策の基本は、エネルギー供給保障を確保しつつ、2050年までに温室効果ガス(GHG: Greenhouse Gases)の排出量を1990年レベルの80%減まで低減することで、この目標達成に当たっては国民の負担を最小になるような政策を選択するとしていて、原子力発電を選択する理由としては、低炭素排出で既に技術的に証明された発電技術であること、そして、燃料供給の安定性、燃料価格の安定性、資源の安定性などを挙げている。
(以下中略)
3)原子力発電所建設計画
(1)英国政府の取り組み
英国の電力市場の発電分野は、国営電力会社の分割民営化と市場の自由化によって海外企業による企業買収が進み、現在は、フランスの国営電力会社EDF、ドイツの大手電力会社のE.ON(ドイツ第1位)とRWE(ドイツ第2位)、スペインの大手電力会社イベルドローラ(Iberdrola)、国内企業のSSE(Scottish and Southern Energy)の大手5社に集約されている。これらの5社全てが原子力発電所の建設を計画している。
英国政府の原子力発電所建設への推進政策としては、建設サイトの事前審査、原子炉の型式承認に当たる包括的設計審査(GDA)により許認可期間の短縮を推し進めている。
原子炉の設計に関する審査は、AREVAのEPRとWestinghouseのAP1000についてのGDAが2011年6月に終了する予定であったが、2011年9月末に予定されていた原子力規制局(ONR )の局長Mike Weightmanの福島第一原子力発電所についての最終事故報告書の内容を審査に反映するため、審査が延びていたが、2011年10月11日に最終報告書「日本の大地震および津波:英国の原子力産業へ適用(Japanese earthquake and tsunami: Implications for the UK nuclear industry)」が提出された。
報告書の最終的結論は、英国の原子力発電所は基本的に安全であり、また新規原子力発電所建設に関するエネルギー国家政策文書NPSのEN-1及びEN-6を変更するような大きな問題はないとの結論であった。ただし、 2011年5月に報告された暫定報告書で指摘されたように非常用電源や洪水対策等に関する改善が必要であり、GDAにおいても反映する必要があるが2011年末までには審査は終了するとONRは発表している。(以下略す)」(筆者注11)
なお、12月1日、政府はマイク・ウェイトマン最終報告書で示された福島第一原発の調査結果を踏まえた問題指摘に対する政府の回答(Government response to Dr Mike Weightman's final report on 'Lessons Learnt' from Fukushima for UK Nuclear Industry)を公表した。
(2)政府のプルトニューム再利用やMOX燃料加工に関する新たな戦略内容
12月1日、英国政府(DECC)は「民間部門が保管するプルトニュームの長期的観点からの利用に関する意見公募結果を踏まえた政府の方針(Management of the UK’s Plutonium Stocks :A consultation response on the long-term management of UK-owned separated civil plutonium)」を公表した。この件についてはわが国のメディアも取り上げているが、内容は英国メディアの受け売りで正確性を欠く。別途、経緯も含め本ブログでまとめる。
3.2011年7月18日、下院議会(筆者注12)で討議、承認された「エネルギーに関する国家政策文書(NPS: National Policy Statements for Energy Infrastructure,EN-1からEN-6)」を受けた政府等の具体的動き
7月18日、下院議会は次の6つの「エネルギーに関する国家政策文書」を討議、承認した。また、7月19日クリス・ヒューン(Chris Huhne)エネルギー・気候変動相は「2008年土地開発・社会資本整備計画法(Planning Act 2008)(c.29)」(筆者注12)の下で“NPS”を指定した。
「エネルギーNPS」は、主要なエネルギー計画に関する提案につき独立機関「IPC」が査定の上決定した国家政策である。今回発表した「エネルギーNPS」は次の6つからなる。
①EN-1 包括的エネルギーNPS(Overarching Energy NPS)
②EN-2 化石燃料発電インフラストラクチャーャーNPS(Fossil Fuel Electricity Generating Infrastructure NPS)
③EN-3 再生可能エネルギー・インフラストラクチャーNPS(Renewable Energy Infrastrucure NPS)
④EN-4 ガス供給インフラストラクチャーおよびガス・石油パイプラインNPS(Gas Supply Infrastructure & Gas and Oil Pipelines NPS)
⑤EN-5 配電網インフラストラクチャーNPS(Electricity Network Infrastructure NPS)
⑥EN-6 原子力発電NPS(第Ⅰ巻)(Nuclear Power Generation NPS-Volume Ⅰ)
⑥EN-6原子力発電NPS(第Ⅱ巻)(Nuclear Power Generation NPS-Volume Ⅱ)
今回のNPSの指定に先立ち、エネルギーNPSは2回りの議会による精査(Parliamentary Scrutiny)および公開意見公募を受けた。過去の政府によるエネルギーNPS草案に関する第一次公開意見公募は2009年11月から2010年2月の間に行い、第二次公募は2010年10月18日から2011年1月24日の間に実施した。具体的な、公開意見への政府回答( The Government Response to Consultation on the Revised Draft National Policy Statements for Energy Infrastructure)、議会への政府回答(The Government Response to Parliamentary Scrutiny of the Revised Draft National Policy Statements for Energy Infrastructure)、インパクトアセスメント(Impact Assessment)についてそれぞれアクセスが可である。
4. 2011年11月21日委員会が公表した関係者からの提出された「証拠書面意見(Written Evidence)および議会宛メモ(Memorandum )」の概観(筆者注14)
(1) 「証拠書面意見(Written Evidence)および議会宛メモ(Memorandum )」
短期間に関係機関や個人等から多くの意見が寄せられた。出された意見は全部で70件である。提出者をカテゴリー分類すると概略次のグループに区分できる。
(1)大学教授等の原子力開発研究者
(2)大学等の調査研究機関
(3)エネルギー監督行政機関
(4)原子力エネルギー関連開発企業
(5)原子力エネルギー業界団体
(2)わが国の意見メモ
この中に(NRD58)として、わが国の原子力委員会鈴木辰二郎委員長代理が提出したものが含まれている。専門外のこともあり国内での意見陳述の内容もフォローしていないので正確なコメントは差し控えたいが、少なくともドイツの日本大使館で行ったスピーチ内容に関しては批判等が多い。
また、同委員会での証言記録の中で鈴木代理の証言は前記証拠書面意見とビデオのみで、書面記録(Committee publications)には同氏の7月6日の発言記録は含まれていない。
5.11月22日上院特別委員会「科学・技術委員会」のリリース文
概略次のような内容である。原文に忠実に仮訳しておく。
・政府は英国のR&D能力につき過度に楽観的過ぎ(too complacent)、かつ政府のアプローチの基本的変更が行われないと失われてしまう程度の専門的技術といえる。ただし、今回公表した報告書「第3次報告書(Science and Technology Committee - Third Report)」の見解は本委員会の結論の1つである。
・本委員会の主要な勧奨内容は次のとおりである。
①2025年以降を展望した原子力エネルギーに関する長期的戦略の策定、すなわちR&Dのロードマップを介したR&Dの支援、原子力に関する英国の現時点での強さについて商業ベースでの営利的な開発の支援の重要性。
この点は、英国が原子力エネルギーの選択肢の公開性を維持する上で重要なことである。
②R&Dロードマップの開発、適用および調査における脆弱的な分野の保護や能力面でのギャップを埋めるため、R&D活動の共同化の改善を補助すべく、産業界、アカデミック分野、政府のパートナーにより構成する「原子力R&D委員会(Nuclear R&D Board)」を設置する。
クレブス委員長(Committee Chairman Lord Krebs)のコメントは以下のとおり。
・原子力エネルギーのR&Dに関する専門家の多くが定年年齢に近づいている。英国の専門技術は過去の投資による研究により構築してきた。 最近の20年間の新規投資の欠如は、英国がこの専門技術を失うという危険性を意味する。その結果、我々自身が2050年までに安全かつ安全性を持ったエネルギー供給が保証できないといった危険性におかれることになる。
・政府は、将来原子力が電力供給において重要な役割を果たすと述べてきた。政府が、この取組が重要であるとするなら、R&Dとともに原子力産業分野、政府およぶ規制機関が依存できる若い専門家の存在が欠かせない。今、行動を起こさなければ、政府の原子力政策は真実性を欠くものというのが我々の意見である。
6.報告書の要旨
(1)序論
本委員会の取上げた問題点の背景は、将来において安全、手頃かつ低炭素の電力供給が可能となる混合エネルギー源の提供にかかる政府の取組み方である。政府は、原子力がこれらの目標を達成する上で重要な役割を果たすと述べた。英国の現在の原子力エネルギーは、英国全体の電力(10-12ギガワット:GW)の16%を供給している。未来の電力発電量需給のシナリオでは、現在と2050年の間で原子力発電依存度は15%から49%に上昇する(英国全体の電力使用量は12GWから38GWを想定)。2050年までに1990年のレベルまで地球温暖化(温室効果)ガス放出量を削減するという法的な拘束目標を達成するには、原子力発電量は20GW~38GWが必要となろう。
(2)委員会が勧奨を行った中心事項
我々の議論の目標は、原子力発電の議論や反対ではない。しかしながら、政府が言っている将来において英国のR&D能力が維持できるとする点に関しては反対の結論を下した。我々はR&Dのためには根本的な変革を行うべく行動開始を強く勧奨する。
(3)「原子力政策の立案、R&DのロードマップおよびR&D委員会」の設置提案として次の具体的項目をあげる。
①原子力エネルギーに関する長期的戦略の策定
政府によると英国の原子力の今後の供給は市場により決定されるであろう。他の決定要因となる証拠としては、電力市場改革が2025年までに必要なインセンティブを与えるにもかかわらず、より長期的な視点にたてば必要な原子力のR&Dにかかる能力と関係する専門技術の維持が困難であることを示す。
原子力業界、政府やエネルギー規制機関は核専門家の次世代要員の育成支援につき研究機関をあてにしているが、いったん失ったこれらのR&D能力の回復はきわめて困難である。さらに、長期戦略がなければ各企業は英国内での長期的な核投資に対するインセンティブを持たなくなろう。
②核の研究開発ロードマップの策定
核の長期戦略のためには、特に次のような英国のR&Dにおけるギャップを埋めるための施策を織り込んだ「R&Dロードマップ」を策定すべきである。
・照射後物質(post-irradiated materials)、深層核廃棄物処理の研究(deep geological disposal)、余剰プルトニウム(Plutonium stockpile)の廃棄処分、先進的核燃料リサイクルや再処理および第4世代原子炉技術(Generation Ⅳ technologies)(筆者注15)を実行できる施設である。
また、ロードマップは英国の国際協力にために信頼できるパートナーの設立、すなわち政府による第4世代国際フォーラム(Generation IV International Forum:GIF)への積極的参加体制や国立原子力研究所(National Nuclear Laboratory:NNL)(筆者注16)が取組んでいる国際的な重要なフェーズ3施設化を確保することにある。
③独立機関「原子力R&D委員会」創設の勧奨
④長期的に見た英国の原子力R&Dの資金源問題
⑤核R&D能力向上に向けたNDA、NNL等特定機関の責務
7.報告書の構成とその特徴的内容
第3次報告書自体は116頁にわたる大部なものである。その言わんとする内容はこれまで述べてきたとおりである。最後にその検討の範囲や問題意識を理解するため、目次のみであるが列記する。
(1)構成
要旨
第1章 序論
○検討範囲
・2050年およびその後の問題
・本レポートの構成
・確認事項
第2章 英国の原子力R&D-過去と現在
○歴史的背景
囲み記事1:原子炉技術
図1:英国の公的部門の核分裂(fission)のR&D
図2:英国のR&Dの要員
○英国の核部門
○調査部門の支出
表1:政府出資によるエネルギー研究と核分裂研究の比較
○英国における原子力R&Dおよび協力専門機関の強さ
図3:民間核分裂研究の鳥瞰
図4:核分裂研究の鳥瞰:技術準備面レベルからの概観た
○原子力R&Dの資金面および実行を担う組織
・民間事業者
・研究会議(Research Councils)
表2:核分裂に関する研究の機関の年次支出
・大学
・その他公的研究機関
・国際的な研究共同活動
第3章 2050年および以降のエネルギー配分における原子力の役割
○適正配分アプローチ
・エネルギー適正配分において核はどのような貢献が可能か?
囲み記事2:未来のエネルギーシナリオにおけるエネルギー混合において原子力はいかなる貢献が可能か
・異なる原子力技術の役割と核燃料のサイクル
囲み記事3:核燃料サイクル
第4章 エネルギー政策
○背景
・低炭素技術開発に力を入れた長期的計画
・原子力R&Dや関係専門機関による商業化の機会(ビジネスチャンス)
・新建設計画におけるサプライチェーンの開発
・商業的開発の強化に向けた枠組みの構築
・エネルギーの安全性問題
第5章 現在の英国のR&D能力や関連専門能力は原子力エネルギーの選択肢を明らかにしているか?
現在の取組み内容の適合性:2050年およびそれ以降の12-16GW発電能力に向けた既存の原子力施設や新たな発電施設計画はR&D能力や関係専門能力のニーズに合致しているか
○労働力の高齢化
○研究労力における追加的なギャップ
・照射物質研究の研究施設
・核廃棄に関する遺産および現存するシステム
○核燃料のリサイクルと再処理
・国際的な人材採用機関(Skills Provision )12/1⑧の役割
第6章 原子力エネルギーの選択肢を維持するために
○異なる原子力の未来のかかるR&D能力や関係専門能力をいかに維持するか
・R&D計画とそのロードマップ
・全英べースのR&Dロードマップの必要性
・全英べースのR&Dロードマップの呼びかけに対する政府の反応
・全英ロードマップの策定
・研究のための資金源
○国際的な研究プログラムへの参画
(以下、略す)
8.英国のエネルギーや環境専門家や団体の議会報告に対する評価や見方
明確な解説レポートは見出しえなかった。第3次報告の紹介記事を引用するにとどめる。
(1)EAEM「Government "lacks credibility" on nuclear policy, waste and safety」
(2)原子力推進派の「Nuclear Engineering International」の記事「UK's nuclear plans 'lack credibility' without greater R&D spend」
11月22日記事で、第3次報告の要旨を詳しく取上げているが、特にコメントはない。
9.英国メディアに見る原発問題の裏交渉の実態
わが国の業界新聞の記事で次のような記事を読んだ。
「英国の原子力新設計画が前進 年末までに暫定設計承認:
英国の原子力規制機関(ONR)は2011年10月26日、政府の原子力新設計画の一環として実施している包括的設計審査(GDA)の進捗状況について9月末までの四半期報告書を公表し、ウェスチングハウス(EH)社のAP100、および仏電力(EDF)とアレバ社の欧州加圧水型炉(EPR)の両方について、年末までに少なくとも暫定的な承認を与えられる見通しだと発表した。」
これだけをよめば、わが国の読者は政府とともに安全宣言が出されたと読むであろう。なお、ONRは正確にいうと「安全衛生庁(HSE)・原子力規制局」である。(筆者注17)
一方、わが国のWatchdogであるブログ「もうひとつの暮し」で次のような英国メディア記事(抄訳)を読んだ。
「イギリス政府と原子力企業の共謀:
ガーディアン紙の電子版は2011年6月30日、イギリス政府関係者と原子力企業とのメールのやりとりを暴露した。
ガーディアン紙が入手した内部メールはネットで公開されている。
日本をおそった地震と津波の2日後に、イギリス政府は原子力企業に「原発の安全性」をアピールするPR作戦の協力を迫るメールを送っていた。
イギリスの経済省とエネルギー省が、フランス電力公社(EDF)、アレバ、ウエスチングハウスといった多国籍原子力企業と秘密裏に連絡をとっていたのがわかる。政府のこうした働きかけは、福島第一原発によってイギリスでの新世代原子炉建設計画が延期されるのを危惧したため。(以下略す)」
10.わが国の原子力問題は今行動すべきとき(私的メモ)
本ブログの執筆にあたり、英国を中心とする関係機関の情報にあたった。しかし、いずれもその内容はまず核開発ありきという大前提に立ったもので、わが国が日々危機的状況とその対応に追われている現状からは当然承諾しがたい内容であった。
専門外の筆者はこれ以上の客観的かつ専門的な解析は困難と考え、機会を改めてドイツやスイスの問題を取り上げたいと考える。なお、わが国の核問題を国際的な視野から取上げているNGO「アクション・グリーン(Action Green):代表はアイリーン・美緒子・スミス」のHPサイトを紹介しておく。このNGOは国際化がすすんでおり、多くの支援者がいることもうかがえる。
*****************************************************************
(筆者注1) 上院「科学・技術特別委員会」は、2011年5月25日に「技術革新の支援ツールとしての公的調達のあり方(Public procurement as a tool to stimulate innovation)」(要旨 )、また、7月19日に「国民の行動変化と国家の成功への道(Behavior Change)」(要旨 )を取りまとめ、公表している。
(筆者注2) 英国の産業界育成の中心的である貿易産業省(DTI)は1983年に設置され、2007年6月まで機能してきたが、翌7月17日に「ビジネス・企業・規制改革省(BERR:Department for Business, Enterprise & Regulatory Reform)」に改組され、さらに2009年6月5日に内閣改造に伴い「イノベーション・大学・技能省(DIUS:Department for Innovation, Universities and Skills)」とBERRが統合した「ビジネス・イノベーション・職能技能省(BIS:Department for Business,Innovation and Skills)」が創設されている(2011年5月18日本ブログ「英国政府は『2006年消費者信用法』の今後2年にわたる具体的施行の総合計画を公表」(筆者注1)参照)。
(筆者注3)エネルギー・気候変動省のサイトでは、政府としての「年次エネルギー声明」を過去2回公表しており、その内容やエネルギー価格や法案等への影響については同省サイトで確認できる。
(筆者注4) 駐日英国大使館サイト「二酸化炭素回収・貯留 (CCS: Carbon Capture and Storage) 」の解説サイト(英国は、2010年3月17日 二酸化炭素回収・貯留のための専門部署、エネルギー・気候変動省・二酸化炭素回収・貯留局(Office of Carbon Capture and Storage :OCCS)を設立した)参照。なお、同大使館サイトの「ダウンロード」サイトは、英国のエネルギー・気候変動政策に関係する文書の一部について、概要(executive summary)等の翻訳を行っている。
(筆者注5)ここでいう「European Law」とは、具体的には「EU指令2009/71」等を指す。6 年の歳月を要して成立したのが2009 年に公布された「原子力施設の原子力の安全性確保のための欧州共同体枠組みを制定する2009 年6 月25 日の「閣僚理事会指令(2009/71/Euratom)」である。この指令は、先に紹介した「96/29/Euratom 指令」が一般的な放射線防護の指令であるのに対し、原子力施設に特化して安全性を確保するための枠組みを決めたものである。特に記すべき点としては、各構成国に対し、安全性に関する国内管轄統制機関を確保し、これを、原子力推進や電力関係者などの外圧から独立したところに確保することを各構成国に義務付けていることである。(「EU における原子力の利用と安全性」から一部抜粋、リンクは筆者の責任で行った)
なお、EUのローファーム等におけるEU指令等をめぐる原子力規制に関する解説レポートのURLを一部引用しておく。
(1) 2009年6月25日 世界原子力協会(WNA)の報告レポート「EU原子力安全指令(European nuclear safety law)」
(2) 2009年3月 英国のローファームBurges Salmon解説レポート「Nuclear Law」
(3) Journal of Energy & Natural 146 Resources Law Vol 28 No 1 2010
Ana Stanič著「EU Law on Nuclear Safety:EU指令2009/71」
(筆者注6) 英国の新規原子力発電所建設に伴う事前設計認可は、包括的設計審査(GDA:Generic Design Assessment)と呼ばれ、現在2つの炉型が申請されている。炉型はフランス・アレヴァ社製EPR(160万kW)と米ウェスチングハウス社製AP1000(110万kW)である。GDA対象炉型選定の初期評価は、2007年8月から開始され、米国原子力規制委員会(NRC)やフランス原子力安全機関(ASN)など諸外国の規制当局の知見も活用するとしている。今後、国家の重要な基盤施設建設計画について総合的な判断を下す独立機関IPC(IPC:Infrastructure Planning Commission、2008 Planning Actに基づいて2009年10月に設置された)が設置者の申請に対して建設の許可を判断することになる。(高度情報科学技術研究機構(RIST)の“ATOMICA” イギリスの原子力開発体制 (14-05-01-03)から抜粋)
また、「型式認可」では、同一形式の新型炉の建設計画が多数ある場合には、許認可に係る業務量の削減が見込める。英国では新規原子炉を対象に、「一般設計評価(GDA:Generic Design Assessment)」プロセスを策定し、EPR やAP1000 について評価を開始している。(2009年5月7日 経済産業省 総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会基本政策小委員会(第2回)配付資料5「原子力安全規制制度の国際動向(米国の例)」から引用。
(筆者注7)わが国では「Planning Act 2008」を100%といってよいほど「2008年計画法」と訳している。 しかしこれでは、何のための計画法なのかが理解できないし、またその適用に当たって解釈を行う際にミスリードが発生する。本ブログではこの誤りをさけるため「2008年土地開発・社会資本整備計画法」と意訳した。
(筆者注8) イノベーション・大学・技能省(DIUS)は、2009年5月29日、「サイエンスワイズ事業・科学・イノベーション国民対話専門家センター(Sciencewise-ERC)」の創設を公表した。“Sciencewise-ERC”は新興する科学技術による社会への影響に関する議論について、国民との対話をより促進するため、政策立案者に対して面談による情報共有等のサービスを提供する情報ハブである。複雑で論争になり得る科学的な問題について、大臣や官僚が国民の視点や関心を理解するため非常に重要な手段となり得る。
具体的活動は、①専門家空なるチームを整備して、省庁および政府関係機関等のサービスを提供するほか、②省庁および政府関係機関等による国民対話のためのプロジェクトに対して助成を行う。その他イベント・展示会やニュースレターの発行等も行う。(日本学術振興会(Japan Society for the Promotion of Science(JSPS)ロンドン支部の解説から抜粋)
なお、北海道大学も“Sciencewise-ERC”を「科学技術コミュニケーション 第9号( 2011)「科学と社会をつなぐ組織の社会的定着に向けて : 英国からの教訓」において取上げている。
(筆者注9)最近時の英国政府の原子力政策の解説としては、2011年11月9日の社団法人・日本原子力産業協会の記事「英国の原子力新設計画が前進 年末までに暫定設計承認」がある。ただし、ごく概要のみの解説である。
(筆者注10) 英国の原子力政策の基本方針の転換に関する解説として以下の点を補足しておく。わが国の高度情報科学技術研究機構「イギリスの原子力開発体制 (14-05-01-03)」から一部抜粋する。
「英国政府は2008年1月、新規原子力発電所の建設はしないとする従来の政策を転換し、「民間事業者が競争市場で原子力発電所を建設できるよう環境整備を行う」という新たな原子力政策を発表し、以降、新規原子力発電所建設促進のための様々な制度改革が進められている。」
(筆者注11)結論部分では本文で引用した以上の内容が含まれている。ここでは、その紹介は略す。
(筆者注12)英国の従来の原子力政策、DECC大臣の首席原子力施設検査官に対する報告要請、議会下院の審議等につき纏めたレポートとして国立国会図書館:外国の立法 (2011.5) 河島 太朗「特集 福島原発事故をめぐる動向 :【イギリス】 政府の対応と議会の審議」が詳しく参考になる。
(筆者注13) 「2008年土地開発・社会資本整備計画法(Planning Act 2008)」につき、駐日英国大使館サイトの解説から引用(関係データへのリンクは筆者が行った。なお、同サイトでは「環境とエネルギー」と題する一連の解説があり、体系的理解には参考になる)
「2008年11月26日に、英国「エネルギー法(Energy Act 2008)(c.32)」 が発効しました。この法律は、2007年のエネルギー白書に基づいて、二酸化炭素回収・貯留(CCS)などの新たな技術や再生可能エネルギー技術の発展・導入、洋上ガス貯留などエネルギー供給におけるニーズの変化、エネルギー市場の変化に対する国民および環境の保護、といった視点から、既存のエネルギー関連法案を更新するものです。 「2008年気候変動法(Climate Change Act 2008)(c.27)」 、 「2008年土地開発・社会資本整備計画法(Planning Act 2008)(c.29)」とともに、英国の長期的なエネルギー・気候変動戦略の根幹をなします。」
特に、「2008年土地開発・社会資本整備計画法」に関しては英国のエネルギー政策を含め国家政策の立案、事業計画化等の全体の計画化に関わる法であり、具体的な立法目的や制度の概要をここで引用しておく(東京工業大学 屋井鉄雄「計画の法制度化に基づく行政裁量の適正化に向けて」から一部抜粋、ただし、原文がスライド原稿のため具体的に説明していない部分があり、引用データの正式名称やリンクは筆者が独自に行った)。
(1)新制度のねらい
1) 国家的重要インフラストラクチャ(Nationally Significant Infrastructure:NSI)を対象:
2)計画段階を3つに分離:
①政府による国家政策書(NPS)の策定段階(積極的な市民参加,議会の関与が今後の課題)
②事業主体(官または民)によるプロジェクト開発段階(Environmental Impact Assessment:EIA)実施,社会資本計画委員会(Infrastructure Planning Commission:IPC:Planning Act第1編で定義されている)との協議,計画案の申請),
③社会資本計画委員会による計画決定段階(市民参加の評価,公開審問,意義申立)
3)新制度の効果:
①単一の承認体制
②手続きの同時進行による効率化
③決定機関の独立性
④国家政策の明確化
(2) 新制度の概要
1)国家政策書(National Policy Statement: NPS)の作成
○国が策定・決定
○20年程度の長期を対象(概ね5年ごとの改定)
○NPSの内容や策定機会は分野ごとに異なる
(滑走路1本の場所決定から地域に拠らない方針決定まで)
○幅広く積極的な市民参加を採用
(特にNPSが事業位置を特定する場合は会合方式等採用)
2)事業計画の策定段階
○計画・事業主体は市民協議(PC:Planning consultation) を実施し,計画案を作り上げ,IPCに計画案を申請する(計画策定の途上でIPCと協議実施)
○小規模な事業計画は従来方式
3)事業計画の決定段階
独立第三者機関である社会資本計画委員会の設立(2009年10月1日)
○IPCが計画・事業主体の申請した計画案を審査・決定
(Public InquiryはIPCが決定手続きと並行して実施)
○IPCは常勤委員を抱え,省庁から独立した機関
○年間10件程度(交通,廃棄物施設,エネルギー施設など)
○IPC委員(任期8年,罷免なし)
(最高レベルの中立性,信頼性,客観性が要求される)
(筆者注14)英国議会の委員会の公式記録としては、審議記録や証拠書面意見(Written Evidence)、口頭証拠証言(Oral Evidence)、無修正口頭証拠証言(Uncorrected Oral Evidence)、修正証言(Corrected Evidence)や議会メモ(Memorandum)がある。
(筆者注15) 第4世代原子炉(Generation IV:GEN-IV)とは、「第1世代」(初期の原型炉的な炉)、「第2世代」(現行の軽水炉等)、「第3世代」(改良型軽水炉、東電柏崎刈羽のABWR等)に続き、米国エネルギー省(DOE)が2030年頃の実用化を目指して2000年に提唱した次世代の原子炉概念で、燃料の効率的利用、核廃棄物の最小化、核拡散抵抗性の確保等エネルギー源としての持続可能性、炉心損傷頻度の飛躍的低減や敷地外の緊急時対応の必要性排除など安全性/信頼性の向上、及び他のエネルギー源とも競合できる高い経済性の目標を満足するものである。
2)第4世代原子炉及び国際短期導入炉概念の選択経緯
このプログラムを国際的な枠組みで推進するため、米国、日本、英国、韓国、南アフリカ、フランス、カナダ、ブラジル、アルゼンチンの9か国が2001年7月に第4世代国際フォーラム(Generation IV International Forum:GIF)を結成し、その後スイスも参加して2002年9月には参加国は10か国となった。さらに2003年にはユーラトムが、2006年には中国とロシアがGIF憲章に署名している。憲章への署名は協力への関心を表明したものであり、実際の協力活動は枠組協定(Framework Agreement)への署名をもって行われる。2005年2月に、日本、米国、フランス、カナダ及び英国は、枠組協定(第4世代の原子力システムの研究及び開発に関する国際協力のための枠組協定)に署名し、締約国となった。その後、スイス、韓国及びユーラトムが加入、2007年12月に中国、2008年4月に南アフリカが加入書を寄託した。なお、英国は後に枠組協定から抜けている。枠組協定参加国は6つのGIF対象システムのうち、少なくとも1つの研究活動に参加する。
(高度情報科学技術研究機構(RIST)のATOMICA用語解説から抜粋)
(筆者注16) 原子力の利用・開発に不可欠な技術力を保存・利用・発展させるため、エネルギー・気候変動省(DECC:Department for Energy and Climate Change)の下に、国内外への技術提供事業に重点を置いた国立原子力研究所(NNL)が2009年に発足した。当所は、原子力廃止機関(NDA)、ウェスチングハウス社、英国健康安全省、防衛省、英国原子力公社(UKAEA)、燃料・材料研究や廃棄物処理研究を進める大学等が当面の主な顧客である(高度情報科学技術研究機構(RIST)のATOMICA用語解説から抜粋)。
(筆者注17)“ONR”については、本ブログでは詳しく説明しなかったが、英国における原子力政策と安全性問題を見る上で欠くことが出来ない規制機関である。原子力問題に関する「電子告示(Nuclear e-Bulletin)」については適時に出るので要注意である。
**********************************************************
Copyright © 2006-2011 福田平冶(Heiji Fukuda).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.
登録:
投稿 (Atom)