2008年1月5日土曜日

第3回米中戦略経済対話(SED)が共同文書を採択、閉幕(その1)

 北京郊外中信国安第一城(Grand Epoch City)で12月12日、13日の2日間米国(美国)と中国の政府代表が共同議長を務める第3回米中戦略経済対話(The Third U.S.-China Strategic Economic Dialogue:SED Ⅲ、第三次中美战略经济对话)が開催され、13日に共同文書を採択して閉幕した。
 SED自体は2006年にブッシュ大統領と胡錦濤国家主席が創設したもので、財政、金融、貿易、環境、厚生、農業等の閣僚級が一堂に会する経済協議の枠組みであり、半年に1度のペースで米中交互で開催され、今回が3回目。ポールソン(長鮑爾森)財務長官と呉儀国務院副總理(Vice Premier Wu Yi)が共同議長を務める。短期的成果を目指す交渉とは異なり、長期的視野に立って中国の貿易黒字の元凶である輸出主導の経済構造を内需主導に転換することを目指す。ただし、米議会の関心が高い人民元(RMB)の柔軟化等は遅れており、米国内では戦略経済対話を基軸とするポールソン長官の対話路線は目に見える成果を上げていないとの批判は根強い(筆者注1)。
 一般的にわが国の経済専門家・メディアの見方は、今回の対話は中国ベースで進んだとの評価が多い(筆者注2)。その理由には、米国が従来から強調してきた①人民元改革(米国の対中貿易の赤字解消)、②知的財産権保護強化、③繊維製品をめぐる輸入摩擦問題、④中国の金融市場開放、⑤エネルギー・環境分野の協力、⑤航空の自由化といった重要課題において著しい成果があったとはいえないからである(筆者注3)。国際政治の世界において2国間の間では公表されない具体的な交渉内容があるとは予想されるが、本文で述べるとおり米国民の期待(=議会)に応えるものになっていないといえよう。
 米国内の議会等の論調は保護主義強化を求めており、次回(2008年6月)ワシントンで開かれる第4回SEDまでの間にこれら未解決の課題について進展が見られないとブッシュ政権自体の支持率等にも大きな影響が出ることは間違いなかろう。
 今回のブログは、財務省の米中共同記者発表資料(Joint Fact Sheet)、通商代表部(U.S. Trade Representative)や商務省(U.S. Department of Commerce)および中国政府の発表等を中心として議会やステーク・ホルダーを中心とする国際経済や外交問題の取組み情報に弱いわが国のメディアの情報を、米国や中国の具体的なオリジナル情報に基づき補完するという目的でまとめたものである。
 今回の米国政府のファクト・シートの両国の署名や合意に関する公表内容は国際公法の観点からも、微妙な内容を含んでいる。法解釈上、正確な訳に努めたつもりであるが専門家による補完を期待したい。

1.保護主義化をすすめる米国連邦議会の動き
 米国上院財政委員会(Senate Finance Committee:Max Baucus委員長(民主党モンタナ州))では2007年7月26日、中国を念頭に置いたと思われる「通貨為替監視改革法案(Currency Exchange Rate Oversight Reform Act of 2007)(S.1607)」を、20対1の圧倒的賛成多数で可決した。内容は不当に為替操作を行う国を財務省が指定し、IMF(国際通貨基金)やWTO(世界貿易機関)への提訴、介入による是正、反ダンピング(不当廉売)関税の適用などの是正措置を米政府に求めるというものである。さらに8月1日には上院銀行・住宅および都市問題委員会(Banking,Housing,and Urban Affaires Committee:Chris Dodd委員長(民主党コネチカット州))がさらに相殺関税の導入を盛り込んだ「通貨改革および金融市場法案(Currency Reform and Financial Markets Act of 2007)(S.1677)」を可決した。(筆者注4) (筆者注5)

2.米国商工会議所(U.S.Chamber of Commerce)の保護法案反対の主張
 同会議所は2007年9月24日に連邦議会下院議員に対し、上院の前記2法案(S.1607,S.1677)について提案の趣旨自体は評価するもののこれらの法律は輸入問題だけでなく、米国にとって急激に伸びている輸出相手国である中国の経済・金融制度改革を遅らせ、ひいては米国自体の経済的地位を弱めるとの懸念を示している。
 そういう意味で、市場決定型為替レートへの移行の必要性は強く認識するものの政府のポールソン長官を中心とするSEDの継続的活動を支持し、また米国の貿易関係法やWTOルールとの整合性の取れた二国間の相互的かつ多面的な手段を用いるべきであると述べている。(筆者注6)
 しかし、一方で米国の小売事業者経営者団体であるRILA(Retail Industry Leaders Assiociation)は、中国元とドルとの為替レートの不均衡や両国の貿易にかかわる諸問題に対する強い姿勢を議会や政府に求めている。

3.第18回米中商業・貿易に関する共同委員会の合意内容
 SEDに先立って12月11日に北京で第18回「米中商業・貿易に関する共同委員会(The U.S.-China Joint Commission on Commerce and Trade:JCCT)」が開かれた。同委員会のメンバーは米国側がスーザンC.シュワブ(Susan C. Schwab)通商代表部代表、グティエレス(Carlos M. Gutierrez)商務長官、中国側が呉儀国務院副總理である。米国側の発表内容はJETRO が詳しくまとめているので参照されたい。
 また、通商代表部は両政府間の署名内容(MUAやMOU)のファクト・シートを公表している。SEDのファクト・シートよりは具体性があり、またMOAとMOUの区分が明確であるので、併せて参照する必要があろう。
 なお、同ファクト・シートに記されている今回米中間で同意された「米中ハイテク・戦略貿易開発に関するガイドライン(Guideline for U.S. High-Technology and Strategic Trade Development)に基づき両国間の民間レベルの障壁撤廃に向けた作業部会が今後進む。技術立国のわが国としては重要な研究課題であろう。
 
(筆者注1)わが国でSEDについて、第1回からの交渉経緯について詳しく紹介している論文は以外に少ない。その中で参考となるのは、みずほ総合研究所「みずほアジアインサイト」2007年8月3日発行であろう。

(筆者注2)このような論調が明確なのはFujiSankei –Business i(2007.12.13) 等であろう。

(筆者注3)前記「みずほアジアインサイト」の解説も、これらの課題について米国国内の主張が十分交渉に生かされていないといった指摘が目立つ。

(筆者注4)「美中貿易全国委員会(US-China Business Council:USCBC)」は、米国と中国と取引関係の強い米国企業250社以上が集まった民間のNPO(理事会理事長はボーイング社の会長兼CEOであるW.James McNerney氏、USCBC事務局代表はJohn Frisbie氏)ある。1973年に設立され、30年以上にわたりメンバー企業に対し、貿易障壁の特定とその除去などに努め、また規則に基づく貿易、投資や競争に関し優れた情報、助言、擁護およびプログラム・サービスを行っている。
  同委員会が取りまとめた現連邦議会(第110連邦議会)において提出されている中国関係の法案は下院計61本、上院計41本である。
  その中で注目されている法案が、上院財務委員会が7月26日に可決したS.1607「為替相場監視法案(Currency Exchange Rate Oversight Reform Act of 2007)」(経済実勢と乖離した為替レートを放置している外国に対抗措置を取ることが中心)と上院銀行委員会が8月1日に可決したS.1677「通貨改革および金融市場介入法案(Currency Reform and Financial Markets Access Act of 2007)」(相殺関税などより強硬な法案)である。

(筆者注5)今回のSEDのホスト役である中国の呉儀国務院副總理は、開会の辞の中で両国の友好関係を尊重しつつも米国の保護貿易主義の立法の動きには厳しい指摘を行っている。

(筆者注6)http://www.uschamber.com/issues/letters/2007/070924_china_house.htm

〔参照URL〕
http://www.ustreas.gov/press/releases/hp732.htm

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