2008年1月6日日曜日

米国FRBと財務省がインターネット・賭博規制に関する規則案について関係機関からの意見を公募(その1)

米国の中央銀行である連邦準備銀行制度理事会(FRB)と財務省(DOT)は、2007年10月1日付けで「2006年違法なインターネット・賭博の取締りに関する法律(Unlawful Internet Gambling Enforcement Act(以下”UIGEA”))」にもとづく法適用に関する規則(案)について、関係機関から来る12月12日を期限とするパブリック・コメントを公募している。
UIGEAは独立した法案ではなく、「2006年港湾安全および行政責任法(Security and Accountability For Every Port Act of 2006t(以下“SAEPA”))」(下院法案H.R.4954)の第Ⅷ編の5361条から5367条を指す。(筆者注1)
 ところで、わが国内でPC等の端末を使って海外の合法的カジノにアクセスするオンライン・カジノについて現行刑法(185条(単純賭博罪)、186条(常習賭博罪))の適用については困難とする論調が多い。(筆者注2)(筆者注3)
 一方では地方財政の逼迫対策として公営ギャンブル(カジノ)の旗振りをしているのが東京都や大阪府であることも情けない。(筆者注4) 
 ネット・カジノ・カフェ(オンライン・ゲーム・カフェ)の法的違法性について法務省や警察庁の見解が不透明な中で若者の間で広がっている現実(筆者注5)、特にこの問題について一番勉強しているのが「オンライン・カジノ・ファン」という現実を見るにつけ、司法・捜査当局および刑法研究者の迅速な解釈の明確化の検討や立法措置の検討が求められよう。
 そういう意味で、米国の規制立法の背景や決済機関の対応をめぐる動きは、わが国としても極めて重要な研究材料といえる。また、アメリカ人の賭け事への誘惑を満たすものとされる“Second Life”のギャンブル・セクターはUIGEAに違反するのかという問題も絡んでくる。(筆者注6)
なお、“UIGEA”の立法により大きな経済的影響を受けているとされる英国の「賭博委員会(Gambling Commission)」の規制・監督の現状については別途解説する。
本テーマについて、1回では収まらないので4回に分けて解説する。

1.米国UIGEAの要旨
(1)銀行やクレジットカード会社などの金融機関(Financial Transaction Providerがオンライン・ギャンブル・サイトとの出入金・決済の取扱いを原則禁止する。
(2)ISP等のインターネット事業者(Interactive Computer Service)がオンライン・ギャンブル・サイトを運営・リンクおよびユーザーをギャンブル・サイトへ誘導したりすることを禁止する。
(3)禁止する対象には例外がある(州内または部族内で完結するギャンブル、州内競 馬取引法(Interstate Horseracing Act of 1978)が認める競馬、米国内の証券・商品先物取引等) 。
(4)同法違反の場合、5年以下の禁固刑または罰金刑(または両者を併科)を科す。(5366条)

2.同規則案策定の法的背景および関係する各種決済手段の明確な定義付け
 “UIGEA”は、連邦監督機関であるAgenciesに対し次の内容を盛り込んだ規則について司法省と協議のうえ策定することを義務付けている。また“違法な賭け行為”等その定義や運用は連邦、州および部族(tribal)法の解釈の変更、制限や拡大を行うものではない。
 規則案のポイントとなる項目は次の内容である。
(1) 本規則において使用する用語の定義を定める。
(2) “UIGEA”が定める禁止取引きと関連しまたは容易にするため決済システム参加者が使用しうる支払いシステムを指定する。
(3)本規則に基づき、一定の参加者をその適用除外とする例外規定を定める。
(4)決済システム参加者に禁止取引きを特定したり阻止するため指定する合理的ポリシーや手続きの作成およびその適用すること支払いシステムの非例外機能の遂行を要求する。
(5)各決済システムにおいて非例外参加者のためにポリシーや手続きの非例外例の内容を提供する。
(6)違法行為に対する法執行の枠組みを定める。

(筆者注1)第109連邦議会には“UIGEA”と標題が似た法案“H.R.4411 Internet Gambling Prohibition and Enforcement Act”および“H.R.4777 Internet Gambling Prohibition Act”が上程されていたが、いずれも成立せず廃案になっている。なお、両法案はUIGEAとは内容的に重要な点で異なる法案である。

(筆者注2)Japan Casino Newsサイトの解説が複数の弁護士の意見を取りまとめており、そのまま引用する。「オンラインカジノに関して、明確に規定した法律はなく、判例もまだでていません。現行の法律で適否が問題となるのは、刑法185条(単純賭博罪)または同法186条1項(常習賭博罪)ですがこれが適用されるかを検討してみました。
まず、賭博罪には国外犯処罰規定がないので(刑法2条・3条)、国外のカジノや国外のサーバーがその国の営業許可を得ているか否かに関わらず、日本の刑法によって処罰されることはありません。つまり、日本人が国外のカジノで賭博行為をしたり、パソコンを操作してオンラインカジノに参加しても、刑法によって処罰されることはないということです。問題は日本国内からパソコンを操作し、国外のオンラインカジノに参加する場合です。
【考えられる問題点】賭博罪は必要的共犯ないし対向犯とされており、相手方のない賭博行為というものは観念されず、いわば相手方と(賭け参加者とカジノ開帳側の)セットで違法とされる犯罪です。(カジノ経営者と参加者の双方を立件できなければ原則賭博罪の適用は困難です。)しかしながら、オンラインカジノの場合、上記のように国外のカジノや国外のサーバーは、その国で営業許可を得ているか否かに関わらず日本の刑法(賭博罪)の適用を受けることはありません。したがって、日本国内からの国外へのオンラインカジノへの参加は違法とはならないというのが大方の見解です。また、必要的共犯ないし対向犯の一方が、国外犯処罰規定がないことにより処罰されない場合、もう一方の扱いについて論述した文献は見当たりません。つまり、海外のカジノ運営会社やサーバーなどは、現行の日本の法律では処罰できないということになります。
日本国内でオンラインカジノが取り締まられた事例はまだありません。取り締まるべき法律自体がないからなのです。」

(筆者注3)平成18年2月23日に海外(フィリピン)のオンラインカジノへアクセスさせたゲームカフェの店員およびその客が京都府警に常習賭博容疑で現行犯逮捕された。客の負け分をフィリピンのカジノ開設者と折半していたとされている。 あるカジノ専門サイトの解説では今回の摘発の要因は、①現金の支払い受取りが同一場所で行われている点、②カフェの経営者と客であるプレイヤーが同一個所にいる点、③国内のサーバーを経由している点をあげて、刑法186条に基づく摘発を行ったのではないかと指摘している。
参考までに常習賭博罪に関するキーワードを簡単に述べておく。
「賭博」当事者の任意に左右しえない偶然の事情にかかる勝敗によって財物の得喪を争うこと。博戯(当事者の行為によって勝敗が決まるとき)と賭事(当事者の行為に関係ないことで勝敗が決まるとき)がある。
「刑法186条」常習として賭博をした者は、3年以下の懲役に処する。賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の懲役に処する。
「利益を図る」賭博開帳の対価としての不法な財産的利益をあげようとする意思で行為すること。
 今回の容疑者はネットカフェ形式のオンライン・カジノであるが、英国のゲームソフトメーカーであるPlaytech社製のソフトを利用していた。
法律論としては、仮に個人が自宅のPCから海外の合法カジノにアクセスして「無料ボーナス」を受け取った後に引き出すためにチップを購入し、「賭け」行為を行った場合はどうなるのであろうか。また、自分の自宅に友人等を集めて手数料を取って行ったら186条違反は間違いなかろう。

(筆者注4) 具体的には平成12年5月に設置した「地方自治体カジノ研究会」と16年8月に設置した「同協議会」のことである。この研究会の構成都府県は、東京都、神奈川県、静岡県、大阪府、和歌山県、宮崎県の実務担当者である。ここでいう「実務担当者」とはどのような部署を指すのかが明らかでなく、当初拡大を考えていた他道府県の正式参加もままならないようである。
協議会に参加する各府県の公式サイトで見る限り、具体的な「カジノ特別法」について言及しているのは大阪府静岡県であり、非公開の協議会(自民党カジノ議連・カジノ・エンターテイメント検討小委員会が法案や基本方針を公表・作成済み)について開催状況をサイトで報じているのは大阪府、和歌山県情報館のみである。

(筆者注5)わが国の司法・検察関係者は当然承知の情報であろうが、カジノ・オンラインの国際的なネットワークの広がりは国際的ビジネスとなっている。例えば「casinoking.com」サイトを見て欲しい。自宅のPC等から言語の障害なしに多国語で高額の賞金獲得をいとも容易に誘う手口は決して無視しえない内容である。「無料ゲーム」としても楽しめるといいながら、無料のボーナスを餌にチップ購入(最低11万6千円等)を交換条件として「賭け」行為をすすめ、多いところでは12倍の賭けを行うかたちを取っている。同サイトの印刷は不可である。

(筆者注6)ワシントン・ロー・スクールのラマサウトリー助教授がSecond Lifeのギャンブル・セクターは“UIGEA”に違反するかという問題指摘を行っている。わが国ではここまでの検討はなされていないのではないか。

〔参照URL〕
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/20071001a.htm
および
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/bcreg20071001a1.pdf

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