2010年5月15日土曜日

米国の低所得者給付金支払デビット・カード化完全移行と銀行非取引世帯救済対策の現状と課題

 
4月19日、連邦財務省ティム・ガイトナー長官(Tim Geithner)は財務省と数百万の個人や民間企業を取り込む結果として連邦経費4億ドル(約364億円)の節減および1,200万ポンド(約540万トン)の紙の節約をもたらすことが期待される大規模な弱者救済給付金プリペイド・カード・システム(Direct Express Debit Card)や企業の電子納税の普及拡大や確実な資金振込の徹底化策計画を発表した。

 また、本計画によりコスト削減、関係者向けサービスの向上、さらに紙(政府発行小切手)から電子取引への移行により公金の受給者や納税者にとって信頼性、安全性やセキュリティを高めるとともに財務省の環境問題に対する影響を考慮することになるとしている。

 今回拡大の対象となる“Direct Express Debit Card” は、連邦財務省が2008年6月10日にその導入を公表したものである。筆者なりに調べたが、なぜかわが国では詳しい解説が見当たらない。そもそも米国の社会保障制度のうち、①社会保障における障害(Social Security disability insurance program :SSDI)、②補足的保障所得(SSI)についての法的にみた正確な解説がないのである。
 筆者は連邦社会保障庁(Social Security Administration:SSA)(筆者注1)のサイト等で改めて調べてみた。(筆者注2)

 保険、労働問題や社会保障等を専門とするウィンスコン州のピッツ法律事務所の解説は、米国の連邦SSDI等の適用条件の厳しさ(筆者注3)や手続きの特異な複雑さを指摘している。適用申請手続には原則弁護士はつかないが、請求が地方の社会保険事務所から却下されたときの再審査請求を行政法審判官(Administrative Law Judge)(筆者注4)に提訴するときに弁護士の支援が必要になるとされている。このように社会的弱者に厳しい米国の実態を垣間見た気がするが、この問題自体が社会保障上の大きな問題であり別途論じたい。

 今回のブログは、“Direct Express Debit Card”システムの概要および連邦政府の最大の課題でもあるFDICを中心とする連邦政府の弱者たる国民金融サービスの改善およびその効率化の取組み状況について解説する。

 なお、本文で説明するとおり米国では海外からの移民や低所得者等銀行口座を開設(筆者注5)できない人々が多くいる(米国の全世帯数のうち7.7%にあたる約900万世帯)。口座が作れない結果として、①パーソナルチェック(当座取引) (筆者注6)が利用できない、②クレジットカードが使えない、③各種融資が受けられないなど、多くの不利益を被っている国民層があり、連邦政府は銀行界へ強力なイニシアティブを取るべく連邦預金保険公社(FDIC)を中心とした具体的な調査や改善策につき具体例をもとに模索し続けている。(筆者注7)


1.“Direct Express Debit Card”制度の概要
(1)2008年6月の財務省の制度導入に関する説明
 米国の社会的弱者である社会保障給付金の受給者(連邦社会保障庁(筆者注8)が担当)や追加所得保障給付金(Supplemental Security income :SSI)の計約400万人に対し、 “Direct Express Debit Card”の運用を10州(アラバマ、アーカンサス、フロリダ、ジョージア、ルイジアナ、ミシシッピー、ノースカロライナ、オクラホマ、サウス・カリフォルニ、テキサス)で開始した。

 同カード利用の具体的な利点は次のとおりである。
①SSDIおよびSSI(筆者注9)の受給者は、銀行口座を持たないため毎月の受給にあたり政府発行小切手の受取に依存していた。
②政府発行小切手については、小切手詐欺・盗難や天候不順による交付遅延等があった。カードには法律で認められる最高額までFDICが保障する金額が入力されており、保持者はATMや小売店でPIN入力により安全な利用が保証される。仮にカードが紛失・盗難にあったとき、カードは再発行される。
③需給者にとって、利用の無料化または低コスト化がかなう。カード発行の申込費用や月次利用料はかからない。オプション利用による手数料が一部適用されるが基本的には無料である。
例えば、カード保持者は小売店のレジでキャッシュ・バックを無料で受けたり、銀行や信用組合の店頭で現金の引出が可能となる。さらに、保持者は合衆国内の給付金受取のため指定された口座から現金を1回は無料で引き出すことができる(同ネットワーク以外のATM引出しについてはATM所有機関等に割増手数料が課されることがある)。
④利便性として、保持者はATM、電話およびオンラインにより無料で同プリペード・カード残高の照会ができる。

(2)客観的に見た“Direct Express Debit Card”の利用メリット
 前述した財務省が推奨するデビット・カード(“Direct Express Debit Card”)については、米国の民間社会保障支援会社である“ALLsup” (筆者注10)が客観的にその他の受給手段と比較している。

SSDI(筆者注11)の給付金の受給手段には、「口座振込(Direct Deposit)」、「政府デビット・カード(Direct Express Debit Card)」および「政府発行小切手」がある。
 各手段につき簡単に比較する。
①口座振込(Direct Deposit)のメリットと利用上の留意点
・毎月支給日に指定口座に入金されるため、便利でかつ信頼できる支払手段である。
・多くの銀行では追加手数料なしに電子請求書支払を選択したりATMの利用に伴う当座預金の最低預金残高が要求されない。
・受給者は家計の入出金を追跡したり、より効率的に金融資産の管理情報が入手できる。
・銀行に預金された支給金は、2013年12月31日までは最高25万ドル(約2,300万円)が連邦預金保険公社により保護される。

 ある需給者は高利貸しなど自分の債権者がその預金を補足されることをおそれ口座振込を回避する人がいるが、社会保障給付金にかかる連邦法により差押(attachment,Garnishment)(筆者注12)から保護されておりその心配は当らない。このことは債権者は給付金の受取人のファンドを回収することを不可とするものである。
 しかしながら、受給者の取引銀行が社会保障庁の給付金であることを証明する間、口座が利用できないことになり、また他の給付機関からの給付金につき共同名義預金にしておくと債権者からの預金保護問題を複雑化する。これに対する1つの解決策は社会保障給付金の入金専用口座を設けることである。

②デビット・カード(Direct Express Debit Card)のメリットと利用上の留意点
・小切手の現金化に伴う手数料負担を回避できる。
・多額の現金を持つことなく各種の利便サービスを受けられる。
・カードの保管されたファンドは債権者の差押から保護される
・毎月同時期にカードに自動的に入金される信頼できる給付システムある。
・マスターカードを受け入れる銀行、小売店やATMで使え、かつ手数料は原則かからない。

 しかし、Direct Express Debit Cardについても他のデビットカードと同様に、ATMネットワーク以外や電子請求書支払機能を利用することが考えられ、取扱銀行であるComerica BankのATMネットの利用などの確認により(call (800)741-1115)無料化の徹底や最小化するための工夫が必要である。

〔Direct Express Debit Card〕の利用時に考えられる手数料
(1)米国内での利用に伴う手数料
①指定されたATMでの引出:1か月1回は無料。追加的引出につき1回あたり90セント(約82円)
②Comerica BankのATMネットワーク以外のATM利用:ATMの所有者による割増料金、1回の現金引出につき3ドル(約273円)
③オンライン請求書支払:1支払あたり50セント(約46円)
④国内銀行への個人送金:1送金あたり1.5ドル(約137円)
⑤月次残高通知:月額75セント(約68円)

(2)米国外での利用に係る手数料
①指定されたATMでの引出:1引出あたり3ドル(約273円)+引出額の3%
②Comerica BankのATMネットワーク以外のATM利用:1引出あたり3ドル(約273円)+引出額の3%
③非ネットワークのATM所有者による割り増し手数料が請求される可能性がある。
④デビット・カード取引:買物価格の3%
②政府小切手のメリットと利用上の留意点
 SSDIの受取人の一部が小切手にこだわる理由は銀行口座への入金に対し、債権者からの差押にあうことを懸念しているからである。特にSSDIのファンドが他の口座のファンドと混合されたときに前述したとおり連邦法が差押を禁止しているがアクセスが制限されてしまう点である。

小切手のデメリット
・小切手の現金化のために毎月手数料がかかり、また請求書支払のために銀行振り出し小切手を依頼したときにはさらにその手数料が加算される。
・小切手の紛失(再発行には数週間かかる)や盗難、配送遅延や誤配送等のリスクがある。
・毎月SSDI振出小切手を現金化するための手間と時間がかかるし、病気や入院時には換金が出来なくなる可能性もある。

(3) 連邦預金保険公社(FDIC)を中心とした銀行界へ強力なイニシアティブを持った具体的調査や改善策
  銀行口座を開設できないまたは十分な金融サービスを受けられない人々(unbanked and underserved populations)に対し連邦政府は銀行界へ強力なイニシアティブを取るべく連邦預金保険公社(FDIC)を中心とした具体的な調査や改善策が行われている。

A.2009年2月、FDICが「非銀行口座保有者の口座開設に向けた銀行の努力に関する調査結果および改善勧告の要旨(FDIC Survey of Banks’ Efforts to Serve the Unbanked and Underbanked)(12頁)」を発表

 ①銀行による金融教育および奉仕活動
・77%の銀行は自身の取引市場における非銀行取引先の重要性を理解しているが、これらへのサービス拡大をビジネス戦略の優先項目としているものは18%以下である。
・非銀行取引先に対する教育方策として最も効果的なものの順位を選ぶと、金融教育集会が第一で、次いで消費者新団体等他団体による勉強会への参加や奉仕活動への参加をあげている。
・63%の銀行は非銀行取引者向けの教育教材を用意しており、小冊子やパンフレットを作成している。
・37%の銀行は非銀行取引者向けのサービス拡大に向けた他団体主催の勉強会に参加している。
・53%の銀行は非銀行取引者向けの金融教育集会を開催している。
・58%の銀行は2007年中に高校やコミュニティ主催のイベントにおいて金融教育や奉仕訪問を実施している。

②銀行にとって非銀行取引先への挑戦課題と理解される項目
・優先順位をつけさせたところ、第一に収益性、次に規制監督機関対応や詐欺懸念であった。

③銀行の小売サービス中心店舗やその戦略上の非取引先のアクセスしやすさの改善
・59%の銀行は午後5時以降や土曜日の午後1時以降営業時間の延長を実施しており、また52%の銀行は外国語担当者を雇う等外国語能力の強化を図っている。
・64%の銀行が過去5年間に非銀行取引者向けにインターネットバンキングやモバイルバンキングの利便性の向上につきPRしている。57%の銀行がATMを店舗外ATMを設置し、さらに43%は臨時(出張所)店舗ATM を追加している。うち13%の銀行は低所得者層の居住区のコミュニティセンターやスーパーに設置している。
・非取引者向けに具体的努力している項目として、49%は政府小切手の現金化(check cashing )、41%は為替(money order)受付をあげる一方で、請求書支払(18%)、プリペイドカード発行や残高補充(reload)への対応率は低い。

④非顧客に対する銀行サービスの内容
・96%の銀行は非顧客に対し、自行が振り出した小切手の現金化は行うが、現金給与(cash payroll)やその他の銀行振出のビジネス小切手を扱う銀行は3分の1以下である。
・非取引先に対し、37%の銀行は自己宛小切手や為替で対応し、国際送金を受付ける銀行は6%である。
・小切手の現金化時の本人確認手段として、92%の銀行は運転免許証また86%は州政府発行の写真付IDカード(state-issued photo identification card)の提示を求める。メキシコ政府が市民に対して発行するラミネート耐水加工済み写真つきIDカードである“Matricula Consular identification”や納税者識別番号(Taxpayer identification number:ITINs)で受付ける銀行は極めて少ない。

⑤銀行口座の開設の実務慣行や取扱方針
99%の銀行では口座開設時に政府発行のID確認またはパスポート(92%)が必要である。“Matricula Consular identification”を受付ける銀行は27%、ITINsを受付ける銀行は38%である。
・過去口座で問題を起こしたり信用履歴で問題がある場合の当座預金口座開設手続に関し、87%の銀行は“ChexSystems”(筆者注13)のような第三者機関によるスクリーニングを求める。

B. 2009年12月、連邦預金保険公社が2009年1月に実施した「全米銀行口座非保有世帯追加調査結果(FDIC National Survey of Unbanked and Underbanked Households)」を公表
 本調査は、2009年1月中に連邦商務省国勢調査局(U.S.Bureau of the Census)(筆者注14)がFDICに代行して実施した国勢調査の追加詳細調査である。
 1月の調査局によるサンプル追加調査は、全米全体の対象世帯数約54,000の約86%にあたる約4,700世帯が参加して行われた。
 その結果は、驚くべきもので米国の全世帯数の約4分の1(25.6%)を占める非銀行取引世帯は低所得ならびに(または)少数民族に偏っているというものであった。

 これらの調査は米国における非銀行取引世帯の正確な推定値の収集に加え、人口学的特性およびそれらの世帯が非銀行取引になっているその理由を洞察することである。調査は全米、州や大都市統計地区(metropolitan statistical area:MSA)レベルでの推定値につき初めて実施したものである。その詳細な結果は、FDICが開発したウェブサイト“www.economicinclusion.gov”で閲覧できる。

 FDICの調査では全米の総世帯数の7.7%(約900万世帯)が非銀行取引であり、16歳以上の成人約1,700万人が該当する。この「非銀行取引」に関しFDICの質問は「現在あなたの家庭ではいずれかが当座預金または貯蓄口座を持っていますか?」に対し「いいえ」と答えたものである。

 非銀行取引世帯の割合は、全体として人種(racial)や民族(ethnic)グループにより偏っており、黒人(21.7%)、ヒスパニック(19.3%)、米国インデアン/アラスカ先住民(15.6%)の世帯割合はアジア人(3.5%)、白人(3.3%)に比べ著しく高い。

 また追加サンプル調査で新たに判明した17.9%(2100万世帯:16歳以上の成人約4,300万人)が非銀行取引であった。ここでも人種や民族による非銀行取引世帯の割合は高く黒人(31.6%)、米国インデアン/アラスカ系住民(28.9%)、ヒスパニック(24.0%)、であった。アジア人(7.2%)、白人(14.9%)であった。
これらをあわせ考えると、少なくとも25.6%(約3,000万)の世帯が非銀行取引であることになる(成人約6,000万人)。さらに全体で見ると黒人は54%、米国インディアン/アラスカ系住民は44.5%、ヒスパニックは43.3%である。

〔サンプル調査で追加的に判明した結果〕
①非婚姻関係にある家族世帯の非銀行取引の割合が婚姻関係にある世帯に比べ著しく高い。非婚姻関係の女性世帯で約20%、男性世帯では14.9%が非銀行取引であるが婚姻関係にある世帯では約4%である。

②年収3万ドル(約280万円)以下の低所得世帯(約700万)では約20%が銀行口座を持たない。他方、年収が3万ドルから5万ドルの世帯では、7万5,000ドル以上の世帯では1%未満である。

③世帯主が大卒以下、45歳以下で平均より非銀行取引の割合が高い。

④41.1%の非銀行取引世帯が、将来的にも銀行口座開設の可能性はないと考えている。

C. 米国連邦政府主導(FDICが中心)の経済弱者の銀行取引開始に向けた取組みポータル
 米国連邦政府の経済的弱者支援サイト“EconomicInclusion.Gov. ” は、以下の3つの具体的活動を行っている。
(1) 「FDIC経済支援諮問委員会(Advisory Committee on Economic Inclusion:ComE-IN)」
 2006年、FDICは「連邦諮問委員会法(Federal Advisory Committee Act)」(筆者注15)に基づきシーラ・ベア総裁および同理事会はComE-INを設置した。委員会は次のようなリィテール金融サービスにかかる見直しを含む経済弱者の銀行サービス利用機会の拡大に的を絞り、重要な機能をもつ助言や勧告を提供することが基本的役割である。
・小切手の現金化、為替(money order)、remittances(送金)、プリペイド・カード(stored value card)、短期融資(short-term loan)、貯蓄口座など個人の貯蓄促進や金融資産の安定化

(2)経済弱者に対する銀行に寄与度努力調査とその公表
 2008年度、FDICは経済的弱者である個人や家族に対するFDIC加盟銀行の努力評価のための全米調査を行った。2006年2月15日成立の「2005年連邦預金保険改革適合化等に関する法律(Federal Deposit Insurance Reform Conforming Amendments Act of 2005)(以下「改革法」という)」(筆者注16)第7条に基づくもので全米規模の強制調査としては初めてのものである。改革法は、FDICに対し当座預金口座、貯蓄口座や小切手の現金化などを行うことがほとんどない個人や家族を従来の金融システムを取り込むことへのFDIC加盟銀行の努力内容調査を2年に1回行うことを義務付けている。

(3)金融弱者支援同盟の設立と加盟金融機関の拡大
 金融弱者支援同盟(Alliance for Economic Inclusion:AEI)は、既存の広域金融機関やコミュニティ団体およびその他の協力者による全米規模の経済弱者が金融サービスを平等に利用できるようFDICが主導するものである。
 その目標とする点は、貯蓄預金口座、手ごろな送金手段、小口ローン、金融教育プログラム、代替的なサービス手段ならびに資産形成プログラム等である。現在、全米規模で983の銀行とコミュニティ団体が参加し、次のような具体的活動を行っている。
・11万6,000人以上が新規銀行口座の開設済である。
・31の銀行が小口ローンの提供済または開発途上にある。
・23の銀行が送金サービスを提供済である。
・10万2,000人以上に対し金融教育を実施した。

 なお、米国全体の社会保障支援給付金制度については、その適格性について各自が自分で検索できるサイト(Benefit Eligibility Screening Tool:BEST)が用意されている。すなわち、①メディケア、②就労者傷害時給付金(Social Security Disability)、③退職者給付金(Social Security Retirement)、④遺族金年金保険給付金(Social Security Survivors)、⑤特別退役軍人給付金(Special Veterans)、⑥SSI につき、同サイトですべて確認できる。

2.連邦財務省のDirect Express Debit Cardsの全面的拡大計画
 財務省が中心となって4月19日から紙の処理を電子化に切り替えることで取扱件数を劇的に減少させる3つの先行的主導を開始した。第一に財務省は社会保障給付金、特別退役軍人給付金、追加的所得保障給付金、鉄道退職者および人事管理庁給付金の受給者に対し、次のような給付の電子化を実施する。

(1)個人受給者は、指定銀行口座への口座振込またはDirect Express Debit Cardを介して給付金を受け取る。今日、約100万人の米国人がDirect Express Debit Cardを通じて給付金を受領しており彼らはその安全性、利便性を理解している。そのカード発行請求は2011年3月1日から開始される新規登録から適用され、既存の小切手受給者に対して適用される。現在連邦給付金の受給者の85%は口座振込またはDirect Express Debit Cardと言う電子的な手段で受け取っている。小切手から電子決済への完全移行により最初の5年間で3億ドル(約280億円)以上の事務経費が節約できると見込んでいる。

(2)第二に、現在企業は法人税の納付連邦税納付書(Federal Tax Deposit Coupon)により納付しているが、2011年度からは一部例外を除き四半期の納税額が25,000ドル以下の企業は電子的な納税が義務化される。現在、全民間企業の約98%が財務省の無料の「電子的連邦税支払システム(Electronic Federal Tax Payment System:EFTPS)」を介して納付している。連邦税課税庁(IRS)の調査によるとEFTPSを利用する企業のエラー率はその他の企業に比べ31倍低いことを示しており、電子化への変更により最初の5年間で約6,500万ドル(60億4,500万円)の事務経費が節減できると見込んでいる。

(3)最後に、財務省は連邦官吏に対しては2010年9月30日、民間企業については2011年1月1日までに紙による給与天引き貯蓄債券のオプションを廃止する(これはあくまで給与振込についてであり、贈答品としての紙の貯蓄債券の購入は可能である)。これらの従業員の給与支払に係る貯蓄管理費用につき最初の5年間で約5,000万ドル(約46億5,000万円)節減できると見込んでいる。

(4)電子決済化に伴う政府の電子振込導入に伴う個人の預金保護対策の公布
 財務省および給付金の支給を行う連邦機関は、口座に入金後に受給者の債権者からの差押を防止するための保障規則策案を公布した。これは高利貸等が受給者に代行してマスター口座を設けることを阻止することにつながるものである。

3.わが国の給付金制度との比較
 米国では誰もが銀行口座を作れるわけではない。個人信用で成り立つ社会であり、一定の所得を含む信用力がないとクレジットカードだけでなく銀行口座も作れない平等社会である。小切手という旧来型の手間のかかる決済制度からカード決済への円滑な移行も課題が多い。

一方、わが国の場合の給付金支給事務の効率化の課題はどのようなものであろうか。
本格的に解説する機会は別途設けることとし、手近に確認できるサイトのみを紹介する。
①日本銀行「国庫金支払事務の電子化・効率化レポート」
②厚生労働省情報政策会議決定「社会保険業務に係る業務・システムの見直し方針」( 2005年6月21日 )

(筆者注1)連邦社会保障庁は、年金加入者の記録、社会保障税の納付記録、給付額の算定、給付等年金制度の運営に当たる。より具体的に言うと、退職年金、障害者および寡婦(夫)年金の申請取扱い、社会保障番号(ソーシャル・セキュリティー・ナンバー)の発行、年金受給開始後の住所変更、受け取り方法の変更、給付金用小切手の再発行、死亡による支給停止などの業務を行う(米国日本大使館サイト等より引用)。オンライン公式ウェブサイトが“Social Security Online ”である。

(筆者注2) 米国の主な公的社会保険制度は、社会保障法に定められたOASDI( Old-Age,
Survivors and Disability Insurance )プログラムとメディケア・プログラムであり、その財源は、主に、連邦保険拠出法の趣旨を具体化した内国歳入法§3101に基づいて賦課される社会保障税と同法§3121が定めるメディケア税によって各々調達され、社会保障給付は、原則として、社会保障税やメディケア税等を一定期間以上納めることによって得る受給要件に基づいて行われる(務税大学校教授松 田直樹氏「国税と社会保険料の徴収一元化の理想と現実」から抜粋)。

(筆者注3)ピッツ法律事務所の指摘では、米国の社会保障法規でいう「障害」の意義はしばしば保険契約(insurance policies)や他の法律と異なるものであると記されている。具体的には連邦行政規則集(C.F.R.)第20編第404部が連邦法における老人、相続人や障害者保障に関する規則部分である。また、その1505条が「障害」の基本的定義規定である。

(筆者注4)米国の「 行政法審判官(administrative law judge)」においても,やはり問題となるのは,行政法審判官が行政機関においてどれだけ独立して職務を行うかということである。・・・・・・この問題が注目されたのは,社会保障局の行政法審判官統制プログラムが実施された時であった。社会保障局は各行政法審判官の申請認容率を均一化するため「質保障プログラム」を行っていたが,しばしば行政法審判官の独立を害するとして、問題となっていた」立命館大学 正木宏長氏「行政法と官僚制(4)」や内閣府サイトから抜粋。

(筆者注5)銀行等民間金融機関やゆうちょ銀行に個人が口座を開設する場合の条件につき簡単に解説しておく。これは消費者向け金融リテラシー上重要な点であるが、わが国でははたしてどのサイトや窓口で正確に説明しているであろうか。以下の内容と比較して欲しい。

1.口座名義人が日本国籍を有し満18歳以上であること(学生、無職でも可)
自身で手続やその意味が出来ないできない行為無能力者(行為能力とは、単独で完全に有効な契約などの法律行為をすることが出来る能力で「意思能力」がない者が該当)、制限行為能力者(未成年者(民法5条)・成年被後見人(同法8条)・被保佐人(同法12条)、被補助人(同法16条)の4つが該当)の場合は代理人への委任状および代理人自身の本人確認書類(原本)を持参した手続が必要である。
 さら具体的なケースでの解説が金融実務面では重要となり、顧客への丁寧な説明にも留意すべきであろう。

(1)口座名義人が満12歳以下(13歳未満)の場合
 法定代理人たる親権者(原則として父・母)双方の代理人取引届出が必要となる。この場合、名義は未成年者であってもその財産管理を法定代理人が行うものである。なお、銀行によっては未成年者がみずから口座取引を行うことを希望しかつ銀行が相当と認めたときは本人が取引を認めることがあると定める例があるが、わが国の民法の不法行為の責任能力(自己の行為が違法であること=法的に非難を受け何らかの法的責任が生ずること)を認識できるだけの知能)が12歳と解されていることから、認めるとしても一般的には15歳以上と考えられよう。

 ただし、この年令確認はインターネット・バンキング(テレフォン・バンキングではさすがに預金者とのやり取りから不自然さを感じることもあろう)」のような場合はかならずしも可変暗証等の仕組み自体を12歳の未成年者が行うリスクは消えない。このためか銀行は「利用約款」で暗証番号などの管理責任を明確化(「当行が本規定にしたがって本人確認を行った上、取引を実施した場合、「契約者ID」、「パスワード」等について不正利用、その他の事故があっても、そのために生じた損害については、当行は責任を負いません。但し、「契約者ID」および各「パスワード」の管理について、契約者の責めに帰すべき事由がなかったことを当行が確認できた場合の当行の責任については、この限りではありません」等)という免責規定の内容を定めているのが一般的である。

(2) 口座名義人が満13歳以上で20歳未満)の場合
取引者につき法定代理人または名義人本人の選択が可能となり、本人が行う場合は未成年者と法定代理人(父・母)の同意書(賠償同意を含む)の「連名同意書」を提出する例が一般的である。

2.本人確認書類
 次の本人確認書類の場合には、窓口で原本を直接提示することにより本人確認を行う。(銀行協会のHP から引用) なお、本人確認制度の目的はあくまで、 マネー・ローンダリングやテロ資金供与を防止するための対策の一環として、金融機関をはじめとする各種の事業者に対する法律(犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法)))の遵守である。このため筆者も経験したがわが国でもこの制度の厳格適用の開始によりいわゆる略字の姓名による新規開設届出は受けつけられない可能性が高いので要注意である。
1.運転免許証
2.旅券(パスポート)
3.住民基本台帳カード(写真付のもの)
4.各種年金手帳
5.各種福祉手帳
6.各種健康保険証
7.外国人登録証明書
8.取引に実印を使用する場合の当該実印の印鑑登録証明書
次の本人確認書類の場合には、窓口で原本を提示するとともに、当該取引に係る書類などを顧客に郵送し、到着したことを確認することによってご本人の本人確認を行う。
1.住民票の写しまたはその記載事項証明書
2.印鑑登録証明書
3.戸籍謄本・抄本(戸籍の附票の写しが添付されているもの)
4.外国人登録原票の写しまたはその記載事項証明書
5.官公庁から発行・発給された書類

3.届出印鑑(市販の三文判でも可であるがシャチハタ等は不可)

(筆者注6) 米国の銀行にパーソナルチェック用の当座預金口座(checking account)を開設することをいう。なお、わが国の説明は一般的にと言うかほとんど「米国の銀行や信用組合の当座預金口座には利息(付利)がない」と書かれている。これは明らかな誤りで、米国の金利比較専門サイトで見れば一定の当座預金の場合には条件によっては金利がつく商品がある。

 当座預金の付利のための条件とはどのようなものであろうか。ためしに“Bankrate .com”サイトでミシガン州デトロイト地区の銀行の非インターネット・バンキングでの“Checking Account”につき比較してみた。なお、同社サイトで見るとおり、米国の取引銀行の比較は金利を含む利用条件がほぼ横並びのわが国と比べ面倒くさい。反面、比較研究材料は多い。
①非付利タイプの銀行:11行、口座開設時預入額0ドル(1行)~200ドル(1行)、月間口座維持手数料0ドル(7行)~8.95ドル、口座維持手数料無料化残高0ドル(9行)~1,500ドル(1行)
②付利タイプの銀行:12行、平均金利(APY)0.01%(1行)~1.25%、口座開設時預入額1ドル(3行)~3,000ドル(1行)、月間口座維持手数料3ドル(3行)~25ドル(1行)、口座維持手数料無料化残高0ドル(3行)~15,000ドル(1行)

(筆者注7) 米国における銀行口座開設が出来ない個人の問題に関する実態を踏まえた分析としては、モナッシュ大学ビジネス経済学部スティーブ・ワーシントン教授の小論文“Financial services for the unbanked in the U.S. — why, who, and what?”( Steve Worthington, Professor, Department of Marketing, Monash University)が参考になる。

(筆者注8) 連邦社会保障庁(Social Security Administration:SSA)は委員長Michael J. Astrue氏をヘッドとし、従業員数は約62,000名、本部はメリーランド州のバルチモアにある。地方レベルのサービス提供に当たるため10の地方事務所、6つの事務処理センター、約1,300の出張所をもつ。

(筆者注9) 補足的保障所得(SSI))は、65歳以上であるか、視力障害またはその他の障害を持ち、収入や経済リソースが限られている障害者に毎月手当が支払われるプログラムである。SSI受給資格がある場合、自分がどの州に住んでいるかに応じて、メディケイドや食料切符の形で、毎月手当を受け取ることになる。メディケア保険料は全州で支払われます。
補足的保障所得は、本人や家族が以前に職業に従事していたか否かには関係なく支払われます。
(Christpher & Dana REEVE FOUNDATIONの日本語サイトから抜粋、引用(一部筆者の責任で加筆))

(筆者注10) 米国ALLsup社につき簡単に紹介しておく。1984年、元社会保障代理受取人(Social Security field representative)であったJim Allsupが初の全米規模の障害支援サービス会社として同社を設立した。イリノイ州べラビルに本社や全米に約600人の従業員を配し、これまで13万人のSSDI受給者支援を行っている。同社は信頼のおける誠実な宣伝、透明性、約束の実行、対応、プライバシーの尊重、そして誠実性の具体化などの厳しい基準を満たす必要がある米国商事改善協会(Better Business Bureau)のメンバーであるほか、2006年にはBBB World Class Customer Service Award受賞、2009年には「2009年視覚障害者支援賞」受賞、2010年には「国際BBB賞の最終選考」に選ばれている。

(筆者注11) 社会保障障害保険(Social Security Disability Insurance Program :SSDI)とは、従業員が障害者と認定された場合に、収入を補償する制度である。世帯主が障害者に認定される、又は死亡した場合、家族の生活は補償される。その財源は社会保障税から拠出される。補償の対象は本人、寡婦、寡夫、子供及び子供時代から障害を認定されている成人である。 (財)海外職業訓練協会サイトから引用)
 仕事ができないという事実に基づいて規定されている。社会保障規則では、以前と同じように働けなくなり、病状によって他の職業に適応することができない場合に、障害を持っていると規定されます。また、障害が1年以上継続するか、障害によって死亡する可能性がなければ、障害者とは見なされません。
 社会保障の規定では、障害手当が受給されるには、障害の規定を満足する以外に、最近まで長期間仕事に従事していたという事実がなければなりません。障害が始まる直前まで、少なくとも5年ないし10年間働いていて連邦保険拠出金法に基づく税金を支払っていた必要があります。さらに、障害が12か月以上継続すると予想される必要もあります。(Christpher & Dana REEVE FOUNDATIONの日本語サイトから抜粋、引用(一部筆者の責任で加筆))
 別の説明としては、「社会保障障害保険(Social Security Disability Insurance:SSDI)は従業員が障害者と認定された場合に、収入を補償する制度である。世帯主が障害者に認定される、又は死亡した場合、家族の生活は補償される。その財源は社会保障税から拠出される。補償の対象は本人、寡婦、寡夫、子供及び子供時代から障害を認定されている成人である。」と言うものもある。

(筆者注12) サブプライム・ローン等に端を発する米国の金融危機はいわゆる社会的弱者を巻き込んでおり、特に連邦政府の各種給付金受給者の口座預金の凍結に対する保護対策が最近時も公表されている。以下、連邦官報2010年4月19日(第75巻74号)の概要を紹介する。
「連邦財務省、連邦社会保障庁(SSA)、復員軍人省(Department of Veterans Affairs:VA)、鉄道退職者委員会(RRB)、および連邦人事管理局(OPM)は、連邦政府の給付金支払いに対する差押に関する法律上の制限を実行するため、共同適用規則案を発表し意見の公募を行った(コメント期限は2010年6月18日)。
財務省等各連邦機関は連邦政府の給付金支払いを含む銀行口座の凍結(払戻しの停止)の増加につながった技術面における最近の進展と債務回収実務に対応してこの行動を取った。 今回提案された規則案は、直接連邦政府の給付金が預入された口座に対し差押命令が発せられたとき、金融機関が従わなければならない手続を確立するものである。すなわち、提案された規則案は金融機関は連邦政府の給付金の口座預入が差押命令を受取る60暦日より前に行われていたかどうかを決定する義務を明確化した。そして、60日暦日前の場合、規則案では金融機関は口座名義人がPage 20300に定める口座の支払可能額と同額または現在残高に対し口座保有者がアクセスできるよう保証することが求められる。」というものである。

(筆者注13)“ChexSystems” は預金取扱金融機関を会員とする預金口座認証専門の共同ネットワークで口座につき取扱ミス(過振りや銀行による口座閉鎖等)に関する情報履歴を保有している。

(筆者注14)わが国の国勢調査は5年に1回実施され2010年10月1日が調査時点である。
米国では10年に1回在留邦人を含む全人口に対する調査を行っており、2010年がその全世帯数調査の年に当たる。なお、米国では、連邦憲法の規定により、10年に1回、日本人を含む米国内に居住する全ての人を対象として国勢調査を行っている。調査に対する回答内容は、72年間は秘密情報として管理され、他者(財務省連邦税課税庁(IRS)、 連邦捜査局( FBI)、中央情報局(CIA)等連邦機関や法執行機関を含む)に使用させることは法律で禁止されている(違反して開示した場合は最高25万ドル(約2,330万円)の罰金刑または5年以下の拘禁刑が科され、その併科もなされる)。
 一方、わが国の国勢調査の根拠法である統計法第19条の2では「統計官、統計主事その他指定統計調査に関する事務に従事する者、統計調査員又はこれらの職に在つた者が、その職務執行に関して知り得た人、法人又はその他の団体の秘密に属する事項を、他に漏らし、又は窃用したときは、これを1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。」と定める。
また、保存期間はマイクロフィルムまたは電磁的記録により「永久保存」とされている(国勢調査施行規則第8条)
 なお、米国の2010年国勢調査では調査員は全地球測位システム(GPS)機能付ハンドヘルド・コンピュータを使用する。同端末は被調査者の住所の最新確認(address canvassing operation )を行うもので各訪問中に使用する。調査員は居住中または居住可能な道路や通りの最新構造の確認を行い、その内容に基づき住所の確認、追加、削除を行う(当然のことながら集められたGPS情報の機密性は国勢調査に関する連邦法(Title 13 U.S.C.)規定により保護される)。

(筆者注15)連邦諮問委員会の法的根拠につき、例えば東京工業大学教授の遠藤悟氏が「米国の科学政策」と題する個人サイトで「米国の諮問委員会の役割」で詳しく解説されている(連邦政府の諮問委員会は、1972年成立の連邦政府諮問委員会法(Federal Advisory Committee Act - PL92-463)に基づき個別法、大統領、議会、機関が設置するものである)。(なお、遠藤氏のサイトは米国の連邦関係機関へのリンクにも配意したもので体系的に理解するには参考となる。ただし、科学分野の専門家の限界といえようかFDIC等経済金融分野の活動についてはまったく言及していない点は惜しまれる。また、GAO(連邦議会行政監査局)を「会計検査院」、GSA(共通役務庁)を「総合サービス庁」、HHS(連邦保健福祉省)を「連邦健康福祉省」、FDA(連邦保健福祉省・食品医薬品局)を「食品薬物庁」と訳すなど初歩的な誤訳が気になる)。
また、大阪大学准教授の平川秀幸氏もややデータは古くなるが「米国規制政策の法的枠組み」と題して解説している。

(筆者注16)米国の連邦レベルの預金保険制度としてFDICと信用組合(credit union)を対象とする全米信用組合管理機構(National Credit Union Administration:NCUA)があり、両者の保険内容はほぼ同一である。預金保険制度改革は2002年以降連邦議会に改正案が上程されていたがいずれも可決せず、2006年2月8日に主要部分をなす「2005年連邦預金保険改革法(Federal Deposit Insurance Reform Act of 2005)」が成立、および同法と関連法との整合性等を図る「2005年連邦預金保険改革適合化等に関する法律」が成立した。( 「連邦預金保険改革法下のアメリカの保険料システム」農林金融2008年3月号47頁以下から一部抜粋)


[参照URL]
・http://www.fms.treas.gov/news/press/directexpress_launch.html(2008年6月10日、財務省財務管理局(U.S.Department of the Treasury’s Financial Management Service(FMS))が社会保障費の支払につき小切手からDirect Express Debit Cardへの移行計画を公表)。
・http://www.fdic.gov/unbankedsurveys/unbankedstudy/FDICBankSurvey_ExecSummary.pdf
2009年2月、FDIC「非銀行口座保有者の口座開設に向けた銀行の努力に関する調査結果および改善勧告の要旨(FDIC Survey of Banks’ Efforts to Serve the Unbanked and Underbanked)(12頁)」
・http://www.fdic.gov/news/news/press/2009/pr09216.html
FDICが2009年12月2日公表(FDIC National Survey of Unbanked and Underbanked Households)した非銀行取引世帯に関する低所得や種数民族に偏った全世帯の4分の1が該当する旨の研究結果リリース
・http://www.treas.gov/press/releases/tg644.htm
2010年4月19日、連邦財務省が社会保障等個人向け公金支払システムの完全電子化(カード化)開始を公表
・http://www.economicinclusion.gov/initiatives.html#survey
米国連邦政府の経済的弱者支援サイト“EconomicInclusion.Gov. ”

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2010年5月3日月曜日

米国の連邦預金保険公社(FDIC)による暫定保護限度額引上げや全額保護措置の概要と今後の行方

 
 金融関係者で本ブログを読んでいる方の中には、“FDIC's Electronic Deposit Insurance Estimator(EDIE)” のことを知っておられる方もあろう。わが国の預金保険制度の原型となる米国の預金保険制度は期間限定ながら、今、金融危機の中で極めて異例な保護措置を実行している。
 今回のブログは、このような前例のない保護措置を取らざるを得ない米国の金融リスク、信用不安の実態等をあらためて整理するものである。

 なお、2009年5月21日付けでわが国の預金保険機構(DIC)のHP調査(海外事情・預金保険研究)において「米国:預金保険制度の変更を含む法律が成立」という標題で「預金保険制度の変更としては、(1)臨時的な保護限度額引上げ期間の延長、(2)預金保険基金回復計画の回復期限の延長、(3)預金保険機関の借入限度額の引上げ、(4)連邦預金保険法に基づくシステミック・リスク・エクセプション(筆者注1) (筆者注2)実施により損失が生じた場合の特別保険料の賦課対象の追加、賦課基準の弾力化」にかかる立法措置(住宅ローンの差押回避と利用促進を意図した法律(Helping Families Save Their Homes Act of 2009:S.896))の概要を説明している。

 しかし、今回取り上げる(1)の変更内容についての詳しい説明は、その後の預金保険機構サイトでも行われていない。


1.FDICの預金保護限度額の引上げ措置および臨時措置の延長にかかる経緯
 米国では2008年10月3日 「緊急経済安定化法(Emergency Economic Stabilization Act of 2008(EESA):H.R.1424)」が成立し、同年10月8日にFDICは、EESAに基づき、預金保護限度額を 10万ドル(約930万円)から25万ドル(約2,325万円)に引き上げたと発表した。また非金利の当座預金等についてはFDICによる「暫定流動性保護プログラム(temporary Transaction Account Guarantee Program:TTAGP)」として金額無制限に保護すると発表した。施行は同年10月3日からであり、何れも2009年12月末までの暫定的措置であった。

 しかし、銀行の経営破たんの状況は引続いており、預金者の信用不安を回避するため2009年5月20日に成立した前記“Helping Families Save Their Homes Act of 2009”により、オバマ政権は、借入枠の拡大(2010年までは5,000億ドル)と、預金保護拡大措置の延長とを決めた。すなわち2008年10月に成立した金融安定化法で導入された保護上限の拡大措置(10万ドルを25万ドル)を2013年12月31日まで延長するとした。なお、TTAGPにもとづく金額無制限の暫定保護措置は2010年6月30日まで存続することとなった。

 この延長措置については、FDICは2009年5月22日付け金融機関向け通達“FDIC Insurance Coverage Extension of Temporary Increase in Standard Maximum Deposit Insurance Amount”で詳しく解説している。

2.FDICの預金保護限度拡大措置の内容(筆者注4)
(1)FDICに関する法律および規則の内容
 FDICサイトのFact Sheet 預金者向け小冊子(Your Insured Deposits-Temporary Changes to FDIC Deposit Insurance Coverage-)が簡潔に説明しているので、ここで引用する。

 特に危機的な臨時措置と感じたのはFDICサイトでの「あなたの保護預金額についてのQ&A」である。
設例では1家族の全口座が「1金融機関」に預入されており、各預金口座、夫婦の共同名義預金(Joint Account)(筆者注3)、退職者個人貯金年金口座(Retirement Account)(個人退職基金口座(IRA)、撤回可能信託(revocable trust account)取引を行っている4人家族(両親と子供2人)となっており、当該家族の全口座残高300万ドル(約2億7,900万円)が全額保護されると説明されている。

 以下、FDICの具体的な解説内容を紹介するが、設例が米国では一般的であるとすると、全額保護額の大きさはいかに受け止めるべきであろうか。

(A)単一名義所有預金
 FDICは同一預金者名で所有される同一銀行の単一名義預金口座を名寄せし合計額につき25万ドルを限度として保護される。設例では夫、妻につき各25万ドルの残高があり、その全額計50万ドルが保護される。

(B) 退職者個人貯金年金口座
 FDICは同一預金者名で所有される同一銀行の退職者個人年金貯金口座を名寄せし合計額につき25万ドルを限度として保護される。設例では夫、妻につき各25万ドルの残高があり、その全額計50万ドルが保護される。

(C)共同名義預金口座
 設例では夫婦は同一銀行に1つの共同名義預金口座をもっている。FDICは共同所有者の持分(寄与分)を合計して保護する。設例では残高は50万ドルで夫と妻の所有権割合は50%である、すなわち25万ドル以下であることから各25万ドル、計50万ドルが全額保護される。

(D) 撤回可能信託
 まず保護額の算出にあたり、FDICは各所有者が持つ預金残高を計算する。
・夫の持分相続人割合:75万ドル
夫が死亡時の妻を相続人指名(POD Account beneficiary)しているため100%の割合を持ち、また子供Aと子供Bを受託者とする生前信託に関しては夫と妻が50%持つ。
・妻の持分相続人割合:75万ドル
妻が死亡時の夫を相続人指名(POD Account beneficiary)しているため100%の割合を持ち、また子供Aと子供Bを受託者とする生前信託に関しては夫と妻が50%持つ。

 次に、FDICは各所有者につき受益者(相続人)数を計算する。設例では各所有者は異なる3人の受益者(配偶者、子供A、子供B)を持つ。撤回可能信託については所有者が5以下の受益者を有するときは所有者は各異なる受益者につき25万ドルまで保護される。
 夫の撤回可能信託預金の持分割合につき75万ドル(25万ドル×受益者3人)が保護され、妻についても同様で計算される

 以上まとめると設例では、(A)+(B)+(C)+(D)=300万ドルが保護されることになる。

(2)口座の所有者の死亡や撤回可能信託受益者の死亡時の保護範囲の扱い
 FDICは口座名義人の死亡後、当該口座につき権限者により再設定などが行われない限り、6か月間の据置期間(grace period)は生存しているとみなして預金を保護する。(筆者注5)

また、非公式の撤回可能信託方式である例えば“POD Account”において相続人が死亡した場合は前記据え置き期間の適用はない。ほとんどの場合、保護額は直ちに減額される。
 (例)母親は2人の子供を“POD Account”の相続人として50万ドルを銀行に口座に預託していた。口座所有者と相続人が生きているときは口座は50万ドルまで保護される(25万ドル×2人の相続人)。1人の相続人が死亡したとき、母親の“POD Account”に対する保護額は25万ドルに減額される。

 さらに正式な撤回可能信託の場合、6か月の据置期間や非公式の撤回可能信託のような制約は適用されない。ただし、契約上の諸条件は承継受益者(successor beneficiary)やその他の信託預金の再配分に影響を与えるため保護額が変更される可能性がある。

(3)FDICの臨時措置にかかる預金者向け啓蒙活動(Q&A)の内容
 FDICは、今回の暫定措置の有効期限である2013年12月31日までの間、預金者の混乱を避けるため次のような店頭での掲示等の推奨措置を行っている。

 本措置の徹底を図るため預金者への通知や預金窓口で掲示する「FDIC加盟金融機関である旨のロゴ」の横などに暫定措置に関する「声明文」を貼る。特に新規口座の開設時の説明や2013年12月31日以降に満期を迎える定期預金証書への表示が重要であるとしている。

(4)保護金額の計算に関するオンライン・シュミレーション・サービスの例
 FDICは、預金者や銀行の担当者が正確に暫定的な保護内容を理解できるよう専用サイト(FDIC's Electronic Deposit Insurance Estimator(EDIE)”)を用意している(FDICサイトで良く出てくる文言であるが、「FDIC加盟機関に預けられたあなたの預金は何が起ころうと100%保護され、1ペニーたりとも失うことはない」)。

 EDIEサイトを見ると、対象となる主な預金として、当座預金(Checking Accounts)、貯蓄預金(saving accounts)、マネーマーケット口座(MMDAs)、譲渡性預金(CDs)と記載されている。なお、EDIEは投資信託(mutual Funds)、株式、債券、年金保険(Annuities)等の金融取引には適用されない旨説明されている。
また、EDIEサイトでは具体的なFDIC加盟金融機関ごとに保護範囲を調べる手間を省くため金融機関名や預金種類別を入力することで検索が出来、その結果の印刷までが一連して行える画面が用意されている。

 なお、2010年4月22日、FDICは計算サイトの内容更新通達を発している。

3.FDICの預金保護限度拡大措置の法的・財政的な問題点
 金融監督制度改革と極めてかかわりを持つ問題であり関係する問題につき簡単に触れる。

(1)GAO勧告
 2010年4月15日、連邦議会の行政機関への監視機関である「連邦議会行政監査局(GAO)」は、今回の金融危機に伴い2008年および2009年中に実施されたFDICの5回の勧告中、財務省が援助決定に至った3回の緊急援助につき、(1)起動決定に至るFDIC、FRBおよび財務省により取られた手段、(2)決定の根拠、結果的に取られた行動の目的、および(3)預金保険加盟金融機関と非加盟金融機関に与える経営改善刺激策や行動に関する起こりうる効果の検証結果報告(Regulators’ Use of Systemic Risk Exception Raises Moral Hazard Concerns and Opportunities Exist to Clarify the Provision)を公表した。同要旨も閲覧可である。

 詳細は省略するが、結論部分において「システミック・リスク・エクセプションに関し、透明性と責任をより確実にするために、連邦議会は財務省に対し発表された行動、要件をはっきりさせる支援を決断しない場合の文書による理由説明および財務省の要求条件やその例外についての条件を明確化すべく、連邦議会は「連邦預金保険公社法:Federal Deposit Insurance Corporation Act:FDI Act)」を改正すべきである。

 特に現在進められている連邦議会での金融規制監督制度改革を審議する際、それらはシステミック・リスク・エクセプションの使用による市場原則の弱体化効果を緩和するために金融システム上重要な金融機関に対し、より重大なかたちで規制・監督上の監視を確実にすべきである。今回のGAOの調査結果につき連邦準備制度理事会と財務省は全体的に同意した。」とGAO報告は述べている。

(2)今回、FDICが行った措置の根拠に関する連邦破産法との関係でみた法的な課題
 具体的には連邦規則集12巻360.1条(12 C.F.R. § 360.1 Least-cost resolution)に基づく法的な問題点に関し、米国大手ローファームGibson, Dunn & Crutcher LLP (GD&C)が2008年9月26日に発表した小論文「資産保全管理人(consevator)または破産管財人(receiver)としてのFDICの機能の概観(OVERVIEW OF THE FDIC AS CONSERVATOR OR RECEIVER)」があり、その冒頭で次のとおり述べている。

 「同メモは、連邦預金保険公社(FDIC)の資産保全管理人または破産管財機関としての管理の全体を概観するものである。 このような関係においては起こりうる多くの複雑な特定の問題から見ると、本メモは概観の必要性だけでなく、重要な地方銀行などの比較的大きい複雑な銀行の場合に起こるかもしれない契約相手(counterparty)の問題に特別な 関連性を与え、一般的な企業倒産と異なるFDICの枠組みの要素の概要を述べるものである。

 本メモは3つの部分からなる。すなわち (1) FDIC独自の解決を統治する法的枠組みの背景と1990年代以降の変更や開発についてのハイライトの整理、 (2) 連邦破産法の条文との比較に関するFDIC独自の取組みの6つの特有の局面に関する概要、 および(3)最終章ではFDIC独自の解決手続における問題と不明確な点を例証する2つの例:債券の証券化(loan securitizations)と参加の処理、およびスタンドバイ信用状(standby letters of credit)に基づきさらに詳細な考察を行う。」

 これだけで大問題であり、その分析は機会を改めたい。

(筆者注1) 金融危機対応(システミック・リスク・エクセプション)の内容は国や監督機関法制により異なる。わが国の預金保険機構が比較しているのでここで引用する。
 米国の場合、システミック・リスクの例外規定(systemic risk exception)を適用するためには、以下の承認が必要。
•FDIC 理事会の3 分の2 の承認。
•連邦準備制度理事会の3分の2の承認
•財務長官が、大統領と協議した上での承認
なお、筆者なりに調べたところ、2007年3月3日、国際預金保険協会(筆者注2)の会合においてFDIC副総裁Martin J. Gruenberg氏はスピーチの中でシステミック・リスク・エクセプションの適用条件につき次のとおり述べている。
“The systemic risk exception requires the approval of two thirds of the members of the FDIC's Board of Directors, two thirds of the members of the Board of Governors of the Federal Reserve System, and the Secretary of the U.S. Treasury, who must first consult with the President.”

(筆者注2)「国際預金保険協会(International Association of Deposit Insurers(IADI); Basel, Switzerland)」は、2002年5月に世界各国の預金保険機関・関係当局等により、各国預金保険機関等の相互協力の拡大を通じ、金融システムの安定化に資することを目的として設立された(預金保険機構の解説)。

(筆者注3) Joint Account(共同名義口座)にすることで、1つの口座を配偶者等と二人以上で使うようにできる口座であり、小切手発行が連名になり、配偶者自身で小切手を切ることが可能となる。配偶者にもATMカードが送られる。この預金契約は法的に見ると「合有(joint tenant))」にあたるとされ、“Joint Account”に関する米銀“U.S. Bank”の解説を引用しておく。なお、“WITHDRAWAL RIGHTS, OWNERSHIP OF ACCOUNT, AND BENEFICIARY DESIGNATION”の項目で検索すること。

“Joint Account(生存者権付共同(合有)預金口座)”: これは以下の特徴をもつ2人以上の自然人の氏名名義による口座をいう。口座名義人の引出権: 各共同名義人は口座残高および引出権につき完全かつ分離した別々のアクセス権を持つ。そして、それぞれはもう片方(複数の場合もある)は合有に係る預金の支払について承認を行う。 一部合有権者の死亡により生き残った合有権者は残った預金残高に対する完全な引出権を持つことになる。 1人以上の生き残っている合有名義人がいるときは、その生存権者には同じ引出権が残る。

(筆者補足)「合有(joint tenant)とは、生存者権(Right of Survivorship)という財産保有(預金や不動産等)形態で、その構成員が死亡時に残った者が必然的に合有資産を相続する方式である。
合有している財産は正式に裁判所の手続きにより遺言検認(probate) 手続を受ける必要がないため、裁判手続き費用を節約出来るということから利用されている。他方、合有にて財産を所有すると税金における利点(Tax Benefit)を大幅に失う点や、合有財産は遺言や信託の対象にならないため財産としての確実性を失うなどの信託財産を設計する上でデメリットがある。
 なお、遺言検認手続の簡素化策として“Payable 0n Death (POD)Beneficiary”を指定しておけば、所有者の死亡時には、指定のBeneficiary(相続人)にprobateなしで移行できる。」

 各合有権者は口座の所有権をその所有者の引出権利の範囲内でその変更権を持つ。

(1)共同名義口座の所有権: 各合有口座名義人は口座の基金に対するその者の純貢献差益に比例して各合有名義人が「所有する」と推定される。 各合有名義人は、ある人が死亡したときときに同人によって所有されていたファンドが、生存者によって所有されることを意図する。 1人以上の生存者がいれば、故人のファンドの「所有権」は等しくそのような生存者と共有される。

 (2)他の合有口座残高に対する権原(Title): 米国のいくつかの州法では、「Joint tenancy in common(通常合有権:生存者財産権のない合有権つまり各合有権者の権利は、遺言に従って分配されるもの)」または「夫婦全部所有権(tenancy by the entirety)ではない」のどちらかを加えるかまたはともに上で述べた意思を明示するのが、賢明とされている。

(筆者注4) FDICの付保限度額は、単独名義預金口座(single account)、共同名義預金口座(joint account)、信託勘定口座(trust account)、退職者個人貯金(retirement account)等、別々に設定される。保険金額は、金融機関ごとに、同一の資格(capacity)と同一の権利(right)を有する預金者ごとに10万ドル(利息を含む)に設定される。退職者個人貯金は例外的に25万ドルに限度額が設定される。

(筆者注5) 預金者死亡時の保護方式はわが国とFDICでは異なる。わが国の預金保険制度では次のとおりとなる。
(1)破綻日前に死亡していた場合:相続分が確定しているときは、各相続人の相続分と相続人の他の預金等とが合算され、保険の対象となる預金等のうち、決済用預金は全額、それ以外の預金等については各相続人ごとに元本1,000万円までとその利息等の合計額が付保預金額となる。
(2)破綻日後に死亡した場合:死亡した親の預金等として名寄せされ、保険の対象となる預金等のうち、決済用預金は全額、それ以外の預金等については元本1,000万円までとその利息等の合計額が付保預金額となる。
「預金保険制度の解説-制度概要及びQ&A-」のQ36より抜粋。

[参照URL]
http://www.dic.go.jp/kenkyu/chosakenkyu/20090521.html
http://www.govtrack.us/congress/billtext.xpd?bill=h110-1424
http://www.fdic.gov/news/news/financial/2009/fil09022.html
http://www.fdic.gov/deposit/deposits/insured/index.html
https://www.fdic.gov/edie/index.html
http://www.fdic.gov/news/news/financial/2010/fil10016.html

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