2010年1月24日日曜日

米国FBI等がハイチ大地震にかかる災害支援寄付詐欺警告と米国の詐欺問題の根の深さ

米国地質調査所(U.S.Geological Survey:USGS)および同National Earthquake Information Center(NEIC)は、カリブ海にあるハイチで2010年1月12日午後4時53分(現地時間:日本時間では13日午前7時頃)、マグニチュード7.0の強い地震が起きたと報じた。

一方、犠牲者数や倒壊状況等現地の詳しい被災情報もままならにうちに米国連邦司法省(DOJ)や連邦捜査局(FBI)は、寄付金、復興基金からみのサイバー詐欺が発生する可能性が高く、その被害にかからないための簡単な留意事項の警告を1月12日に発した(在ニューヨーク日本国総領事館も1月15日付けで在留邦人あて「ハイチ震災に関連した詐欺に関する注意喚起」通達を発している)。

ただし、同警告リリースの内容は抽性的な説明が多く、わが国だけでなく米国人の読者は理解しがたい個所が多々あり、さらに米国の寄付に関する税制上の取扱いの点も理解しておく必要がある。

また、カリフォルニア州司法長官府、業界自主規制団体であるBBB等、NPO監視機関やメディア等がそろって詐欺防止のキャンペーンを張っていることから、CNNの解説記事“CharityNavigator.org”や「米国商事改善協会(Better Business Bureau:BBB)」(筆者注1)等につき簡単にその内容を説明する。

また、これに続き1月18日にDOJやFBIはハリケーン・カトリーナやグスタフ等大規模自然災害に対応して慈善寄付金や公金詐欺阻止のために設置した全米災害詐欺情報センター(National Center for Disaster Fraud:NCDF)(旧Hurricane Katrina Fraud Task Force Command Center)を365日24時間体制で運用することを発表した。(2010年9月にHurricane Katrina Fraud Task Force(専門委員会:委員長は連邦司法省刑事部副司法長官Lanny A. Breuer)は「満5年目(2005年8月29日上陸)を迎えたハリケーン・カトリーナにかかる詐欺特別研究委員会報告(Hurricane Katrina Fraud Task Force)」(全44頁)を報告している)

このような背景には、連邦機関である連邦緊急事態管理庁(Federal Emergency Management Agency:FEMA)が2005年8月末のハリケーン・カトリーナ被災時に被災者支援として応じて行った1世帯当り2,000ドル(約18万円)の支援金やそれに絡む災害詐欺が後を絶たず、約4年の間に公金詐欺罪等で1,300人以上が起訴され、特に2009年8月にはルイジアナ州東部地区司法長官が18人を 「重罪(felony)」(筆者注2)で起訴しているという実態がある。

米国の慈善寄付行為や数10億ドル(約900億円)にのぼる公的支援金を詐欺的搾取する実態は、わが国と比べ一段と極めてひどい状況にある。例えば、FBIのレポートではミシシッピー州の元警察本部長(chief police)が第一次的住所を偽り国から支援を受けるなど8つの詐欺罪やで禁錮2年6か月の有罪判決が下されている。

なお、これらの一連の動きを見ると米国の「寄付社会」と「詐欺社会」という皮肉な二面性や一体何が本物か分からない、単なる善意のみでは解決できない複雑化した社会を垣間見る気がする。

今回のブログは、連邦法執行機関や連邦議会の行政監視機関であるGAOのこれらへの具体的取組みとともに災害詐欺が限りなく深刻化する米国の実態を紹介し、わが国でも将来「危機管理庁」設置時など同様な問題が生じないようまさに“Watchdog ”として警告するものである。


1.FBIのハイチ大地震救済にかかる詐欺的寄付金(donate money)要求に対するインターネット・ユーザーへの警告ガイダンス
FBIは1月13日、ハイチで1月12日に発生した大地震の被害者等への寄付金の要請電子メール等に対し、その要求に応じる前に批判的眼をもって適切な注意を払うよう働きかける。過去に起きた悲劇や災害は個人が慈善団体名を名乗ったり大義名分のもとで基金を集めることが一般的である(CNN:ハリケーン・カトリーナの時は1ヶ月後FBIの調査では犠牲者の代理人と称する約4,600の疑わしいウェブサイトが寄付金を求めたり、また、オンライン詐欺情報収集サイト“Scam Busters.org”は世界貿易センターのテロ攻撃の1時間後に詐欺サイトがアップされたと証言している)。従って、消費者はいかなる寄付についてもその要請メールを受けたときは、かならず応じる前に次のガイドラインに注意すべきである。

①これらの寄付金の要請メッセージにリンクするようなスパム・メールには返事をしないこと。

②個人宛電子メールやソーシャル・ネットワーク・サイトを使った生き残った生存者の代理人や地元官吏と称する者からの寄付要請にはまず疑ってかかること。

③偽サイトにだまされてリンクするのでなく、慈善団体の実在や経営実態の確認およびNPOとしての登録内容や地位について参考情報を提供する各種インターネットに基づく調査手段(CNN:NPOの格付機関のCharityNavigator.orgがCNNの“Impact Your World”が信頼性が高いものとしてあげている)を活用し、NPO団体の合法性・適格性をきちんと確認すること。

④添付ファイル自体ウィルスを含むことがありうるので、被災地の写真を開くよう要請するメールには要注意が必須である。添付ファイルを開いて良いのは、送信者の身元が確認できる場合のみである。

⑤誰かがあなたに代って寄付するといった方法でなく、あなたが本来意図する目的のため、あなたが良く知った機関・団体に直接寄付すべきである。

⑥寄付行為に関し、あなたの個人情報や金融取引情報を絶対提供してはならない。提供したときは「なりすまし詐欺」に遭うことになる。

これらのメールを受け取ったときや同様の被害に遭いそうであると感じたときは、直ちに「インターネット苦情センター(IC3)」に必ず連絡してほしい。

2.カリフォルニア州司法長官サイトの慈善団体や寄付専門資金
1月14日付けでカリフォルニア州司法長官エドモンドG.ブラウンJrは、ハイチ大地震からみの詐欺警告リリースを発した。前記FBI等と若干重複するが、より具体的な内容であり併せて紹介する。

①寄付する前に災害救助要請の慎重に要請内容を見直すべきである。 災害発生時には、多くの「本物をまねた」団体が偽運用の目的で寄付要請を行う。

② あなたが寄付する前にまず慈善団体の正しい実態を知るべきである。 慈善団体のウェブサイトを再度確認すべきである。そして、文書で書かれた慈善プログラムを確認することが推薦したい1つの方法である。どのように寄付資産を費やしているか、どれくらいの期間運用しているか、そしてどのようなプログラム・サービスを提供しているか等を確認するため、団体の財政報告をかならずチェックすべきである。

③ カリフォルニア州の州民は「公益信託登録(Registry of Charitable Trusts)の検索(Registry Search)サイト(筆者注2)で確認すべきである。同登録制度は、慈善活動が実際に有効であることを必ずしも保証しないが、それは重要な確認指標ではある。 検索可能なデータベースはhttp://ag.ca.gov/charities.php で利用可能である。

④ 業績記録を持っていない団体は要注意である。 一夜のうちに作り上げたと思える組織ではなく、すでに確立された慈善団体に寄付すべきである。 念を押すと、この既存かつ信頼度を確認するために前記長官府の公益信託登録データ・ベースでチェックすべきである。

⑤ 寄付要請に応じるよりむしろあなた自身が寄付を実行すべきである。良く知ら れている組織を捜し出して、直接いずれかの組織の公式のウェブサイトを使用して直接電話をするか、または組織のウェブサイトに記載されている住所あてに小切手を郵送すべきである。

⑥ 注意深く慈善団体の名前をきちんと聞くことである。そして、タイトルの1語違いなど評判のよい慈善団体に類似する「模倣者」団体名に注意すべきである。

⑦ 現金を寄付として提供してはいけない。 また要請してきた寄付依頼者人ではなく、あくまで慈善団体宛に「小切手」を振り出すことである。

⑧ 慈善団体が寄付行為に絡んで圧力をかけることありえない。 非常時のときでさえ、あなたが彼らのサービスになじみがないなら、評判のよいまともな組織は、あなたがすぐに貢献してくれると期待しない。 慈善勧誘が感情的な長々としたしかしながらどのように被災者を助けるかに関する詳細が不足するような要請は要注意である。

⑨ あなたが寄付依頼者よって連絡を受けたとき、あなたの寄付の何パーセントが犠牲者を助ける貢献活動に使用されて、どのくらいが管理にあてられ、そして資金集めのコストの代価を払うのに使用されるかを尋ねるべきである。 寄贈者によって要求される場合、カリフォルニア州法は、寄付依頼者がそのような情報を提供するのを必要と定める。その 回答に躊躇するような資金集者には用心深くあるべきである。

⑩ 犠牲者のニーズに合致した後に、何か余分な寄付が残っている場合、慈善団体はそれをどうするつもりであるかを調べるべきである。

⑪ 贈与方法には多くの方式があり、自分できちんと判断すべきである。 贈与の選択方式としては「慈善贈与年金(charitable gift annuities)(筆者注3)、「現物寄付(in-kind contributions)」および「基金への寄付(endowments)」が含まれる。

3.米国における大規模自然災害や感染症パンデミック時の緊急支援措置や税制優遇措置制度の概要
1月23日の朝日新聞朝刊が報じているわが国の「危機管理庁」設置構想のモデルとされる米国FEMAの機能低下の一面として支援金詐欺のチェックシステムの機能不全もあげられよう。しかし、わが国の現行の国や自治体の危機管理システムはFEMA設置以前の状況であることは間違いない。

(1) 大規模自然災害や感染症パンデミック時の緊急支援措置
筆者なりに調べた範囲でいうと、個人に対する米国連邦レベルの緊急支援措置の手続の概要はFEMAの “Apply for Assistance”サイトを見るのが最も簡単であるし実践的である(Q&Aも充実している)。ただし、1世帯あたり2,000ドルの資金支援手続に関しては必ずしも十分な説明はない。したがって、ここでは2005年9月7日付けの“USA TODAY”、国土安全保障省(DHS)ならびにGAOの説明内容をもとに引用する。
①受給資格の事前手続:FEMAへの社会保障番号(SSNs)等に基づく被災者登録(registered with FEMA)
FEMA支援資金の交付方法:当該個人名義の銀行口座への電子送金(electronic fund transfer)、デビットカード(debit card)(筆者注6)および米国郵政公社(U.S.Postal Service)が送付する連邦財務省小切手(災害支援専用)である。2006年8月30日のDHS監査総監部(Office of Inspector General)の報告書によると、交付金の不正支給の実態は次のようなことであった。
・デビットカードは銀行口座を有しなかったり、有効な住居地を有しない人々に対する生活資金支援手段として、2005年9月9日から10日の間にダラス、ヒューストン、サンアントニオの3箇所の避難所にいた登録住民に計1,0954枚(総額2,190万ドル(約19億7,100万円以上))が発行された。
・同カードには 当初2,000ドルの残高が入力されており、所有者はATMでの現金引出しやマスターカード・ロゴカードを受付けるほとんどの小売店で買物することが出来た。
・最初に交付されたとき、所有者は直ちに緊急支援金2,000ドルを引き出したが本来の手続である署名も行わず、また使用目的の明示や権利濫用に対する警告など多くが無視された。さらに、当初の入金額2,000ドルに加え追加支援のため多くのカード所有者に対し更なる金額追加を行っている、すなわち最も被害のひどかったルイジアナやミシシッピーでは住宅賃貸手当てとして2,358ドルが追加支給されるなどの運用が行われた。
・結果的には、デビットカード45枚中30枚はFEMAが追加支援資格を認めたことにもとづき平均6,300ドル(約57万円)の支給を行った。

(2)全米災害詐欺情報センター(National Center for Disaster Fraud:NCDF)(旧Hurricane Katrina Fraud Task Force)
米国の緊急災害対策法令の概要と同センターへのアクセス方法は次のとおりである。
①ホットライン:(866)720-5721
②e-mail:disaster@leo.gov

(3)テキサス州の政府サイトで見る被災者に対する税制面の優遇措置の内容
テキサス州会計検査官(Comptroller of Public Accounts)サイトで例示する。自然災害時の企業や個人の税制の優遇措置についてFAQで対応している。主な質問・回答項目について記しておく。
A.すべての税共通(税申告・納税時期の緩和措置)
B.消費税関係
・家の修理費用や工具のリース・レンタル費用にかかる消費税に関する優遇措
置の適用されるか。
・被災で破損した非居住の動産の損害を補修するための労賃には課税されるか。
・被災地で使用するチェーンソー、切り株用切断工具(stump cutters)、廃材破砕機(brush chippers)の購入、リースやレンタルに係る課税はどうか。
・テキサス州の消費税や使用税(use tax)の適用外とされるFEMA のビットカード
やFEMA 証明書(FEMA voucher)と一緒に購入すれば非適用となるか。
・赤十字証明書(Red Cross voucher)やFEMAのデビットカードとともに購入した場合、テキサス州消費税は適用されるか。・
(以下、省略する)

4.連邦機関における大規模自然災害支援にからむ課題と詐欺・不正請求等への対策
(1) 連邦議会行政監査局(GAO)の詐欺・不正請求や国の管理の不十分性等に関する議会証言(testimony)
米国議会の行政機関監視役であり、本ブログでもしばしば取り上げている連邦議会行政監査局(GAO)のこれら問題に対する2006年以降の主な議会での証言はどうであろうか。今回は標題のみあげるが、各証言を読むといかに実証的な調査が行われているかが理解できよう。今後、GAO証言等の解析とともに今回のようなFBIや司法省が本格的に詐欺対策に取組む背景は理解することはわが国でも重要な作業となろう。これらの問題はここでまとめるにはあまりにも大きすぎるため機会を改める。

A. 2006年2月13日、GAO(GAO-06-403T)の連邦議会上院「国土安全保障・政府問題委員会(Senate Committee on Homeland Security and Governmental Affairs)」での証言「ハリケーン・カトリーナとリタにおける期待される被害者への政府支援―政府の重大詐欺や権利濫用に対し露呈されたコントロールの弱さー(Expected Assistance for Victims of Hurricanes Katrina and Rita :FEMA’s Control Weaknesses Exposed the Government to Significant Fraud and Abuse)」

B. 2006年6月14日、GAO(GAO-06-844T)の連邦議会下院「国土安全保障委員会調査小委員会(Subcommittee on Investigations,Committee on Homeland Security,House of Representatives)」での証言「ハリケーン・カトリーナとリタにおける災害支援のあり方―不適切かつ潜在的に詐欺を発生にかかる個人への資金支援額は推定6億ドル(約540億円)から14億ドル(約1,260億円)に上る(Huricanes Katrina and Rita Disaster Relief:Improper and Potentially Fraudulent Individual Assistance Payments Estimated to be Between $600 Million and $1.4 Billion )」

C. 2006年7月12日、GAO(GAO-06-954T)の連邦議会下院「国土安全保障委員会・管理・統合および監督小委員会(Subcommittee on Management, Integration,and Oversight,Committee on Homeland Security.U.S. House of Representatives)」での証言「自然災害時の個人向け支援プログラムー差後の防止、捜査および起訴の枠組みー(Individual Disaster Assistance Program:Framework for Fraud Prevention,Detection,and Prosecution)」

(2)連邦中小企業庁監査総監部の「災害支援ローンプログラム詐欺に関する2009年度上半期(4月1日~9月30日)報告」における詐欺有罪事例
連邦中小企業庁(U.S.Small Business Administration:SBA)は、FEMAと並んで災害時の融資支援プログラム(Disaster Loan Program)の中心機関である。監査総監部(Office of Inspector General:OIG)は2009年度上半期報告の9頁以下において、NCDFや法執行機関との共同によるガルフコースト・ハリケーンにおける自然災害支援融資詐欺に対する法執行の結果について、次のとおり報告を行っている。
・融資支援プログラムに関する詐欺および不正行為に基づく逮捕者56人、起訴74人、有罪67人。

・OIGが融資支援プログラムにつき調査した賠償金支払命令(Court-Ordered Restitution)(筆者注7)や原状回復命令金額は240万ドル(約2億1,600万円)以上にのぼり、一方、SBAが潜在的に詐欺的借手と判断し融資を積極的に拒否した金額は約450万ドル(約4億500万円)にのぼる。

・①ミシシッピー・コミュニティカレッジ(地域短大)の保全監督者は、3年間の執行猶予(probation)、100時間の地域ボランティア活動、SBAへの賠償金17万9,400ドル(約1,629万円)、連邦緊急事態管理庁(FEMA)への賠償金1万4,006ドル(約126万円)およびハリケーン・カトリーナの後に災害支援申し込みに関する虚偽の文言を行ったことに関する300ドルの特別調査費用という判決が下された。特に被告は、自分の第一優先住居がハリケーンで影響を受ける領域にあると示したが、実際に被告は影響を受けなかった地域に住んでいた。被告は、不正にSBAから17万9,400ドルとFEMAから1万4,006ドルを受け取った。 また、被告はミシシッピー開発局の自宅保有支援プログラム助成金(Mississippi Development Authority Homeowner Assistance Programグラントを申し込んでいたが、その申込手続は上記捜査の結果にもとづき中断している。 OIGは、DHS OIG、米国住宅・都市開発省(HUD)監査総監部、ミシシッピー州監査局およびFBIとともにこの調査を行っている。

②ルイジアナの男性は、政府支援基金の窃盗および電子通信詐欺(wire fraud)(筆者注8)にもとづき起訴された。起訴状によると11万1,000ドル(約999万円)のSBAの災害融資を申し込む際、被告はハリケーン・カトリーナ発生時の優先住居の住所を改竄したとされている。 また、同じ改竄された住所を使用することによって、被告は15万ドル(約1,350万円)のルイジアナ州住宅再建プログラム(Louisiana Road Home Program:LRHP)(筆者注9)助成金を申し込んだ。結果、被告はSBAの融資とLRHP助成金の双方を受け取った。 OIGは、FBIと米国住宅都市開発省(U.S.department of Housing and Urban Development:HUD)の監査総監部(OIG)とともにこの調査を行っている。

③ルイジアナの男性は、ハリケーン・カトリーナに関連する自宅住居の修理契約を結んだとSBAを偽ったことから政府資金窃盗の罪で起訴された件で有罪答弁を行った。事実は修理のための見積りを受けるだけであった。 被告が提出したとされている紛らわしい書面に基づきSBAは約6万4000ドル(約576万円)の災害ローンを承認した。 その金額は後に10万6000ドル(約954万円)まで増加された。 また、起訴状では被告は融資ローンの支出を受けるために詐欺的な小切手の写しを提示したとされている。 OIGはNCDFのメンバーとともにこの調査を行っている。

(3)DHS監査総監部(Office of Inspector General)のデビットカード過払い報告
問題のポイントは前記のとおりであるが、全体で6頁ものであり詳細説明は略す。


(筆者注1) 「米国商事改善協会(Better Business Bureau:BBB)」は、1912年設立の米国の非営利の会員制(広告)自主規制団体である。米国とカナダに124の支部(地方BBB)を有し、300万以上の事業者・慈善事業の評価・監視を行っている。オンラインも含むトラストマーク(BBB認証ビジネスマーク)やADRサービス等を提供している。日本の国際提携団体は一般社団法人ECネットワークである。BBBは加盟慈善団体を具体的に確認できるよう検索専門サイトを設けている。

(筆者注2)米国の「重罪(felony)」の説明は、米国日本大使館の「米国の法システム」の解説サイト「第5章・刑事裁判の過程」を参照されたい。

(筆者注3)米国の慈善寄付社会としての迅速な立法対応の例を見ておく。1月22日に筆者の手元に連邦議会図書館から下院法案の最新ニュースが届いた。法案の標題目的は「ハイチ大地震被災者への慈善寄付金に対する所得税優遇措置迅速化法案(H.R.4462)」(To accelerate the income tax benefits for charitable cash contributions for the relief of victims of the earthquake in Haiti)である。同法案の共同上程議員数が163人いることも米国の世論の強さを物語っている。

(筆者注4)カリフォルニア州司法長官府サイトの説明によると「公益信託登録(Registry of Charitable Trusts)の検索(Registry Search)サイト」では、慈善団体(charities), charity fundraising professionals(慈善基金調達専門家), および raffle registrants(慈善くじ発行登録者)の確認が出来る.

(筆者注5) 慈善贈与年金(charitable gift annuities):
この年金は、恒久基金の1つで、年齢50歳以上の人が米貨1万ドル以上を年金として申し込むと、生涯、一定利率の年金を受け取ることができる。
具体的にいうと「公益寄付」と「個人年金」の合体型商品である。その特徴は、①チャリタブル・リメインダー・トラストやチャリタブル・リード・トラストに比べ低い金額設定で寄付が可能、②個人財産を寄付した後の確実な定期収入、③広い税制上の恩恵であり、近年、高齢化の進むアメリカで人気が高まっている商品である。その基本は、寄付者と公益団体の間に交わされる契約関係でまず寄付者が現金他の個人資産を公益団体に寄付し、同契約に基づき公益団体は将来の寄付の確約を得ることが出来ると共に、契約上の約束事項を遂行する義務が発生する。すなわち寄付者あるいはその法的受益者に対し、生涯に渡り、決められた年金額(life income)を支払う事に同意するものである。また、税制上の恩恵としては、所得税上、キャピタル・ゲイン課税上や遺産税上でのメリットが指摘できるほか、所得税上では、寄付された金額のうち公益的利益に使われると想定される金額分に対して控除が可能な点等である。

(筆者注6)FEMAが災害支援プログラムに基づき発行した「デビット・カード」は、わが国でいう「即時口座引落し決済カード(デビットカード)」ではないので要注意である。

(筆者注7)“Court-Ordered Restitution”とは米国の裁判所による「損害賠償命令」をいう。「裁判所は,すべての刑事事件につき,刑罰の一つとして,被告人に対し,被害者への損害回復を命ずることができる。また,暴力犯罪,財産に対する犯罪その他所定の犯罪によって,特定の被害者が身体的又は財産的損害を受けた場合には,原則として,損害回復命令が必要的であるとされている。裁判所は,命令額及びその支払方法の決定に際し,被害者が被った損害額のほか,被告人の資力,稼働能力,扶養家族等を考慮しなければならない。損害回復命令のために必要な情報は, 量刑手続の中で, プロべーション・オフィサーが判決前報告書を作成して提供するが,命令の基礎となる事実に争いがあれば,ヒアリングが開かれ,被害事実及び損害額については検察官が,支払能力については被告人が立証することになり,証拠の優越の程度の証証明で認定される。英国では賠償命令(compensation order)、ドイツやフランスでは「付帯私訴」がこれにあたる」法務省法制審議会刑事法(犯罪被害者関係)部会第1回会議(平成18年10月3日開催)配布資料18「損害賠償請求に関し刑事手続の成果を利用する制度に関する外国法制の概要」より一部引用。
ここで、わが国の「損害賠償命令制度」(「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律及び総合法律支援法の一部を改正する法律」平成20年法律第19号に基づく)の創設経緯や具体的な問題点等につき論じたいが、それ自身大きな問題であり、今回は省略する。ただし、関係者によりほとんど整理されていない「審議経緯」やわが国の「損害賠償命令制度」、また関連する裁判所規則や行政窓口の整備状況についてはそのポイントのみ説明するので、関心のある読者は各サイトで確認して欲しい。

(1)「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(法律第75号)は、平成12年5月19日に公布していたのであるが、関係法の一部改正作業などにより施行日は平成20年12月1日となるなど、その具体的な内容である法整備の検討は大きく遅れた。平成18年(2006年)9月6日、法務大臣から法制審議会へ具体的な法整備に向けた諮問を受け、これら外国の法制等を参考に法制審議会刑事法(犯罪被害者関係)部会や民事訴訟法部会において立法化の検討が始まったのである。その結果は以下の法改正が行われた。
・「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」平成19年法律第95号(平成19年6月27日公布、平成20年12月1日施行)
・「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律及び総合法律支援法の一部を改正する法律」平成20年法律第19号(平成20年4月23日公布、平成20年12月1日施行)

(2)「わが国の『損害賠償命令制度』は、刑事裁判所が、犯罪被害者等から被告人に対する損害賠償請求の申立てがあったときは、刑事事件について有罪の言い渡しをした後、当該賠償請求についての審理・決定をすることのできる制度である。
具体的には、殺人、傷害などの故意の犯罪行為により人を死傷させた罪に係る事件などの犯罪被害者等は、刑事裁判所に対し、刑事事件の訴因を原因とする不法行為に基づく損害賠償を被告人に命ずる旨の申立てをすることが可能であり、当該申立てについての審理は、有罪の言い渡しがあった後、最初の期日に刑事訴訟記録を取り調べた上、原則として4回以内の期日において終結しなければならない。当該申立てについての裁判は、決定によるものとし、これに対して異議が申し立てられた場合には、通常の民事裁判所で審理を行うこととなる。」「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律について」内閣府の立法審議経緯の説明資料より引用。

(3) 最高裁判所規則「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する規則」(平成12年9月27日最高裁判所規則第13号)制定

(4) 内閣府共生社会政策統括官「犯罪被害者等施策」サイトでの具体的運用

なお、簡単な説明内容であるが、米国の解説サイトの説明を補足しておく。
「“Court-Ordered Restitution”とは、裁判所による成人または未成年者の犯罪者に対し被害者への賠償支払命令を言う。 それは、犯罪者に対する判決文の一部であり、犯罪行為による犠牲者の損失と犯罪者の支払能力に基づく。 なお、この裁判所賠償支払命令は犯罪者の支払いそのものを保証するものではない。」

(筆者注8)米国刑事司法でよくでてくる条文がU.S.C.§1343(wire fraud)である。より法体系に即して正確に言うと次のとおりとなる。
連邦現行法律集(U.S.C.)第18編犯罪および刑事訴訟手続(Crimes and Criminal Procedure)>パートⅠ犯罪(Crime)>第63章(郵便詐欺および他の詐欺犯罪(Mail Fraud and Other Fraud Offenses)>第1343条電子通信、ラジオおよびテレビジョンを使用した詐欺(Fraud by wire, radio, or television)

一般人向けに補足すると、米国の場合、連邦法執行機関である連邦司法省やFBI等は連邦法違反の犯罪にしか介入できないのが原則である。しかし、それでは州際の広域犯罪に対応できないため、連邦法執行機関が犯罪を取締るための手段として活用しているのが連邦現行法律集第18編(犯罪および刑事訴訟手続)>パートⅠ(犯罪)>第63章(郵便詐欺およびその他詐欺犯罪:Mail Fraud and Other Fraud Offense)である。つまり、米国の憲法では,郵便局を設置することが連邦の権限とされているので,郵便制度を使って,詐欺などの悪事をはたらくことはすべて“mail fraud”であり連邦法上の犯罪としたのである。この“mail fraud”をIT化に対応して再構成したのが”wire fraud”であり,州や国境をまたいで電話、インターネット等の不正行為を行う場合、連邦法違反と定めている。ちなみにU.S.C.§1343は極めて広範囲に適用されており、サイバー犯罪だけでなくホワイトカラー犯罪等に広く適用されている、例えば、わが国はあまりなじみのないが海外進出する米国企業にとって極めて重要な法律である「1977年海外贈収賄行為防止法 (The Foreign Corrupt Practices Act:FCPA(1998年に大幅改正されている) 」にも企業は州法による規制だけでなく連邦法(mail fraud やwire fraud)による規制(違法な贈賄行為を実行するのに米国内の郵便,電話,インターネット等を使用すると連邦法であるFCPAの贈賄条項が適用)が行われる(連邦司法省のFCPAの解説サイ参照。なお、DOJの解説サイトは同法につき日本語を含む各国語に翻訳している)。
なお、「『1977年海外贈賄賄行為防止法(FCPA)』 は、米国その他に国の企業による外国の官吏等(公務員だけでなく議員、王室や国有企業等を含む)に対する贈賄行為を罰する連邦法である。現在まで、ほとんどのFCPA に基づく訴追は、米国で上場されている企業または外国で事業を行っている米国の企業に対するものであった。しかし、多くの日本企業を含む外国企業もFCPA の対象となる可能性があり、また、米国当局(連邦司法省や証券取引委員会)は今後FCPA をより広範に運用するという方針を打ち出している。FCPAは「贈賄禁止条項 (Anti-bribery Provisions)」および「社内文書・内部統制条項 (Company Record and Internal Control Provisions)」からなる。贈賄禁止条項の違反は、企業の場合は200万ドル(約1億8千万円)の罰金、個人の場合最高5年の拘禁刑および最高10万ドル(約900万円)の罰金に処せられる。(2009年5月12日付けLegal Wireレポート(Pillsbury Winthrop Shaw Pittman LLP))「日本企業等がForeign Corrupt Practices Act(米国海外不正行為防止法)の対象となる可能性」から一部引用(罰則内容等は法律の規定に基づき一部補足した)。
(なお、わが国の代表的な税理士法人財務コンサルティング会社および外国法律事務所が総じて“FCPA”を「連邦海外腐敗行為防止法」や「海外腐敗防止法」と訳している。これらは法律の内容を無視した明らかな誤訳である。)

(筆者注9) ルイジアナ州住宅再建プログラム(Louisiana Road Home Program:LRHP) :連邦政府の資金を源に、被災者に対して住宅再建のための支援を2006年7月より開始 。住宅の再建資金として最高15万ドルを交付)。対象は所有者本人が住む家のみで、被害額が5,200ドル以上。FEMAの定義する洪水危険区域内で洪水保険に加入していない場合は30%減額され。賃貸住宅への支援プログラムも実施された。


[参照URL]
http://www.ic3.gov/media/2010/100113.aspx
http://ag.ca.gov/newsalerts/print_release.php?id=1846
http://www.bbb.org/us/Find-Business-Reviews/
http://www.ic3.gov/media/2010/100118.aspx
http://www.dhs.gov/xoig/assets/katovrsght/OIG_GC_HQ_06-51.pdf


Copyright (c)2006-2010 福田平冶 All Rights Reserved.

2010年1月3日日曜日

米国ボイス・オブ・アメリカの「2009年米国の健康問題を振返って」



2009年12月25日、筆者の手元に届いたボイス・オブ・アメリカ(VOA)の年末ニュースの中から2009年の「米国の健康問題」」に関するトピックスを紹介する。
 2009年春以降、筆者はまったく畑違いのブログを書き始めた。いわゆる“2009 H1N1”問題である。筆者の専門はプライバシー法や情報セキュリティ問題、eGovernmentや金融監督法等の“Watchdog”である。従来から多少これらの専門ジャンルを飛び越えたブログを書きとめたこともあったが、おおよそカテゴリーを大きく踏むはずしたことはなかった。

 しかし、2009年はパンデミック問題で180度変わった。まさにその原稿執筆は試行錯誤の世界であった。日本語の医学論文さえまともに読みこなせないにも拘らずあえて海外の最新情報の解説にチャレンジした。インターネットがあってこそ実現できたといえるが、おかげで主要国の保健監督機関や疫学研究機関等の“2009 H1N1”の取組み方の差異を改めて理解できたことは筆者にとって極めてプラスになったことは言うまでもない。(秋以降は息切れしてしまったが、今回のブログ作成は2009年に筆者が取り上げてきた話題とボイス・オブ・アメリカの注目点との共通性を検証することでもある)

 本題に戻る。VOAの12月25日の記事は、この1年を総括する話題をまとめているが、その中で「健康問題」をピックアップして、米国の4つの重要テーマについて極めて簡潔に要約している。
 今回のブログはその紹介が主たるものであるが、実はもう1点従来から筆者が強い関心をもっている「パブリック・デプロマシー(Public Diplomacy)」の役割を解説することも狙いである。

 わが国は2009年秋に政権交代が行われ、極めて厳しい2010年度政府予算案がまとまって2010年1月を迎えることとなった。2010年の政治課題はおそらく国内問題を中心に動くであろう。しかし、国内問題だけに固執していると世界の動きに遅れを取ることは間違いない。

 例えば、筆者自身まだ書きかけであるが、米国の「大きすぎて破綻させられない金融機関問題(Too Big to Fail)」を発端とする金融安定化に向けた金融規制監督機関制度の抜本改革法案の審議が連邦議会下院で可決されたが、2010年早々に上院「銀行・住宅・都市委員会(委員長:クリス・J・ドッド議員)」で関連法案の審議が始まる。この金融制度改革は、オバマ政権の最重要課題であることは間違いなく、おそらく与野党が連邦監督機関と連携を取りながら審議を進める中で国民の支持と理解を確保するためメディアを効果的に活用しながら進めるであろうことは筆者の経験からみても間違いない。

 「パブリック・デプロマシー」はわが国では定訳がない。あえて言えば「政府の対外的な方針を、内外の世論が支持する状態を作り出すために行う戦略」といえよう。そうであるなら余計にわが国の政府や行政機関は「パブリック・デプロマシー」のあり方についてより専門的に広く研究し、実現向けた努力を行うことを期待するものである。


1.ボイス・オブ・アメリカの「米国の2009年健康問題の総括」
 4つのテーマにつき説明する。なお、筆者の責任で注記や関連するURLを加えた。
(1)新型インフルエンザ・パンデミック
 2009年の早期、メキシコは神秘的ともいえる感染症の震源地となった。季節性インフルエンザがしばしば高齢に重症感染するのに対し、このインフルエンザは重症呼吸器疾患(severe respiratory illness)により若者を狙い暴れた。
 メキシコや米国の保健機関は豚、鳥および人間のインフルエンザ感染といった複合ウィルスに困惑した。最初は「豚インフルエンザ(Swine Flu)」と呼んでいたが、数ヶ月後には公衆衛生機関の専門家は正しいインフルエンザ名“H1N1”と呼び始めた。メキシコは世界的な観光地であり、豚インフルエンザは北アメリカを越えヨーロッパやアジアの一部に急速に感染拡大した。

 世界保健機関(WHO)事務局長のマーガレット・チャン博士(Dr.Mergaret Chan)はH1N1の世界中の感染拡大にあわせ毎日その一連の関連情報ブリーフィングを開始した。
 6月11日、WHOは新型インフルエンザが世界的な大流行に入った(パンデミック:フェーズ6)旨の宣言を行った。チャン事務局長は、本ウィルスは緊密かつ注意深い監視下で拡がっている、すなわち、過去のパンデミックでは経験したことのない感染拡大のはじめから早期に緊密なかたちでリアルタイムの検出が行われたと述べた。

 WHOはワクチンメーカーによる接種可能なワクチンの製造を承認し、その1か月後には最初の人による治験を承認した。

 10月までにワクチンの接種が保健機関、妊婦や持病も持つ若者に対し実施された。

 米国疾病対策センター(CDC)の部長であるアン・シュカット博士は「ワクチンの供給増加とともに我々はワクチン接種に対するアクセスの容易さ、信頼性および希望が増加している」と述べた。

 12月下旬にWHOはH1N1により世界で1万人以上が死亡した旨報告した。これらの死亡のほとんどは北米で起きたものである。WHOは緩やかな感染の国々で感染者数のカウントを停止した国があると述べている。

 新型インフルエンザ・ウィルスは年末までに北米や欧州では小康状態になると思われるが、しかし一部専門家は2010年の早い時期に第三の波が戻ってくると述べている。

(2) マンモグラム検査(mammograms)の開始年令に関するUSPSTF勧告
 2009年、米国は「乳癌(breast cancer)およびその阻止に関する政府指名専門家グループによるマンモグラム(乳房X線)検査に関する勧告書(ガイドライン)」が論議を増加させた。この数10年間米国の女性は乳癌検査の一環として40歳から始まる早期のマンモグラム検査の受診が唱えられてきた。

 しかし、米国連邦保健福祉省(HHS)は、11月に「予防医療サービス専門作業部会(U.S.Preventive Services Task Force:USPSTF)」(筆者注1)は最初の女性の乳房X線撮影検査年齢を40歳から50歳に延長し、その実施は1年おきとするとの勧告を行った。11月末には、多くの米国の医師や女性はこのガイドラインの内容は不満であると述べた。

 ニューヨークのセイント・ルカ・ルーズベルト病院(St.Luke’s Roosevelt Hospital)のシャロン・ローゼンバウム・スミス(Sharon Rosenbaum Smith)博士等の医師は、患者に対しこの勧告を無視するよう助言するであろうと述べている。同博士は米国の女性は40 歳でマンモグラム検査を開始すべきである、すなわちそのことにより癌腫瘍が比較的小さいうちに発見できると指摘した。

 これらの反発に応じ、連邦保健福祉省のキャサリン・シベリアス長官は患者に平静を保ち主治医と良く話すよう助言している。すなわち、患者は医者とともに自分の症状や家族の関連病歴等の解明を行うべきであり、これらは極めて重要な判断要素であると述べた。

(3)自殺軍人の増加
 2009年の米国陸軍(U.S.Army)における自殺者数は記録的水準に達した。米国陸軍人事管理局(U.S.Army personell)は自殺率が2008年の総合計より上回ると予想しており、陸軍はその潜在的原因追及の研究を開始した。陸軍副参謀総長ペーター・チアレリ(Vice Chief of Staff,General Peter Chiarelli)は、軍の人事管理部門は精神疾患の軍人の扱いについてより積極的になるべきであると述べた。
すなわち、ナーバスな彼らは仲間や上司が自分を笑いものにし、さらに悪いことに自分のキャリアにマイナスになると考え、軍人個人が沈黙の中に閉じこもることは絶対に受け入れられないことであると述べている。(筆者注2)

(4)子供の死亡者数の減少
 2009年には希望が持てるニュースがあった。9月10日に国連ユニセフは5歳以下の子供の死亡数が2008年を下回るであろうとする予想を発表した。子供の死亡数が900万人を下回るとする国連の報告は初めてであると述べた。

 予防接種の拡大、マラリア阻止のための殺虫剤の活用、母乳推進、下痢や肺炎への的確な措置がその理由としてあげられている。(筆者注3)

2.米国の「パブリック・デプロマシー」
(1)変遷の整理
 連邦議会調査局(CRS)がまとめた米国情報庁(U.S. Information Agency)の歴史要約資料に基づき以下説明する。

 「米国政府は、ウッドロー・ウィルソン大統領(President Woodrow Wilson)が広報委員会を創設した20世紀の初期の時代のパブリック・ディプロマシー活動の使用が第一次世界大戦の間、海外での情報を広めると初めて公式に認めた。
 第二次世界大戦が突発した1941年、ルーズヴェルト大統領は、防諜活動とプロパガンダを行うために対外情報局(Foreign Information Service:FIS)を設立した。ルーズヴェルト大統領は、1942年2月24日にヨーロッパでプログラムする最初のボイス・オブ・アメリカ(VOA)プログラムを放送するため戦時情報局(Office of War Information:OWI)を創設した。これらの活動は議会により提供された何らの権限や承認なしで行われた。

 それらは、1940年代にすでに運用を始めていたが、米国の放送および文化活動の認可に関する最初の包括法「1948年米国情報・教育交流法(U.S.Information and Educational Exchange) (P.L.80-402) (22 U.S.C. 1461)は、一般的にはスミス・ムント法(Smith- Mundt Act)と呼ばれる。
 同法案の率先提出者である連邦議会のアレキサンダー・スミス上院議員(共和党・ニュージャージー州選出(Alexander Smith:Republican from New jersey )は、法案の主旨につき次のとおり説明している。(もう1人は下院議員 カール・E・ムント・サウス・ダコタ州選出(Karl E. Mundt:South Dakota)である)。
「この法案は、国務省第二次世界大戦戦争終結以来運用されてきた活動への法的権限を与えるという試みである。 それは実際に国務省の「文化交流部(State Department’s Division of Cultural Relations)、米州局(Office of Inter-American Affairs)、および「戦時情報局(Office of War Information)」の活動の強化が目的である。

 米国政府はヨーロッパでの自国の理解がいかに不十分であったかを主張して、第二次世界戦争の後に合衆国に対してロシアの敵対的な情報キャンペーンに対抗する際に、スミス議員は同法案提出に関し提案者の意図を次のとおり説明した: 「本法案は、自慢げなプロパガンダを意味しない。真実を語る(telling the truth)ことを単に意味するのみである」。

 その後の数年間、数次にわたり行われたパブリック・ディプロマシーの再組織化と政策変更は、主にコスト削減または効率性を増加させるという2つの理由に基づくものである。
 1953年に、アイゼンハワー大統領は、1948年のスミス・ムント法によって承認された機関として「米国再組織化計画第8号(Reorganization Plan No.8)」に基づき「米国情報機関Information Agency(USIA)」を創設した。 創設時点のUSIAの役割は、主として放送と情報プログラム(当時いくつかで、「プロパガンダ活動」と言われる)を管理することであった。フルブライト上院議員の勧告にしたがい(彼自身、文化交流の確立法案を提出していた) 教育的な交流事業は、プロパガンダの意図とするいかなる責務も避けるために国務省に残された。

 ほぼ同時期に「自由欧州放送/自由放送(Radio Free Europe/Radio Liberty:(RFE/RL) )は、1947年12月に創設された中央情報局(CIA)の秘密裡の援助の下で1950年に放送を開始した。国際放送委員会(Board for International Broadcasting:BIB)は、1973年にRFE/RLの運営に資金を供給するとともに、監督機関として創設された。 その結果、RFE/RLはBIBを通して政府の認可を受ける民間かつ非営利放送となった。 BIBの設立目的は、東欧と旧ソ連への米国政府(CIA)とRFE/RLの代理放送の間にファイアウォールを提供することであり、この考えは、米国政府から分離した形でRFE/RLを保つことによって、信頼性を増加させることであった。

 1977年「米国再組織化計画第2号(Reorganization Plan No.2)」は「各州の教育と文化問題事務局(State’s Bureau of Educational Cultural Affairs)」とUSIAの国際情報・放送に関するすべての機能を「国際通信庁(International Communication Agency:ICA)に統合した。
 ついで1982年にはP.L.97-241の303条(b)項に基づき、ICAは「米国情報庁(U.S.Information Agency:USIA)」に再度改名された。

 1994年、議会はUSIAから国際放送部門を除き、USIA内に「独立政府放送管理局(independent Broadcasting Board of Governors:BBG)」を設置するとともに、国際放送委員会(Board of International Broadcasting)の廃止を認可した。
 BBGの監督下で53か国語によるVoice of America のラジオ放送、WORLDNET television and Film Serviceのテレビ放送(1983年開始)、キューバ向けRadio MartiとTV Marti(1985年開始)、中欧と旧ソ連向けのRadio Free Europe/Radio lberty、中国・チベット・ビルマ・ベトナム・北朝鮮・カンボジア向け7か国語で流されたRadio Free Asia といった非軍事の政府国際放送が統合され、国際放送局(International Broadcasting Bureau:IBB)が組成された。

 しかし、財政健全化や外交機能の見直しを求める議会の駆け引きの中でUSIAは1995年頃から大幅な人員削減が行われ、1998年10月1日の上院外交政委員会委員長のヘルムズ議員による外交政策の再組織化(無駄をなくし予算節減目的のため)により支持した「外交問題改革・再構築法(Foreign Affairs Reform and Restructuring Act of 1998 )」にもとづき1999年10月1日にUSIAは廃止された。これによりUSIAのスタッフ4,025人は国務省に移管され、残された機能(情報プログラムと教育・文化交流は1977年の時と同様国務省に統合され、USIAの国際放送部門(International Broadcasting Bureau)は切り離され、国務省傘下の独立連邦機関となった「政府放送管理局」(Broadcasting Board of Governors)」の監督下におかれた。

(2) 米国「パブリック・デプロマシー」の持つ意義と国務省へのUSIAの統合の評価
 米国で「パブリック・デプロマシー」と言う用語が使用され始めた時期は1965年で、その定義は①非政府(non-governmental)の個人や組織に主として関わる、②政府の公式見解に加えて個人や組織の私的見解も提供するという2点において、国家対国家の関係で展開されてきた「伝統的外交(traditional diplomacy)」と異なるし、また虚実に基づいても成立しうる「プロパガンダ」とも異なり、信頼の鉄則が求められる。
 USIAを統合した国務省は教育文化事業局を新設しUSIAが担当していた教育文化交流事業プログラム(Exchanges)を継続させるとともに、国際情報プログラム部(Office of International Information Program:IIP)を新設しUSIAのInformation Bureauが担った情報プログラム(Information)を継続させた。

 これら2部門に加え、従来から国務省にあった国内広報局(Bureau of Public Affirs:PA)の3部門全体を統合管理するPublic Diplomacy/Public Affires担当国務次官(Under Secretary for Public Diplomacy and Public Affires:PDPA)
を新設した。

 ここでは“Public Diplomacy” は「国際的に鍵となる人々を関与させ、情報を提供し、影響を与えること(engaging,information ,and influencing key international audiences)」また“public affairs”とは「米国民への働きかけ(outreach to Americans)」と極めて簡単な定義がなされている。要するに国際にかかわるpublic diplomacy と国内に関わるpublic affairsを密接不可分に推進するという米国の政治戦略が明示されている。(筆者注4)

(2)ボイス・オブ・アメリカの強化論
 米国のPublic Diplomacyについては1999年の国務省への統合により弱体化したという見方があるが2001年の同時多発テロ以降、「パブリック・ディプロマシー諮問委員会(U.S.Advisory Commission on Public Diplomacy)」や政府筋から
Public Diplomacyの強化を指示する意見があり、VOA等米国の国際放送は強化されている。(筆者注5)

(筆者注1) USPSTFは、連邦保健福祉省の下部機関である「保健医療研究・品質向上局(Agency for Healthcare Research and Quality:AHRQ)」の諮問機関である。米国では、元々は1989年に保健医療政策・研究局(Agency for Healthcare Policy and Research :AHCPA)が設立されていたが、「1999年保健医療研究・品質向上法(Healthcare Research and Quality Act of 1999) 」が12月6日にクリントン大統領の署名を得て成立したことを受けて、「ヘルスケアに関する研究と質の向上」を活動目的とする「保健医療研究・品質向上局(Agency for Healthcare Research and Quality:AHRQ)が米国連邦保健福祉省(HHS)の下部機関として新たに機能を拡大し設立された.その活動目的とは,患者や現場の医師,医療界のリーダーや政策立案者に対して,証拠に基づいた科学的な情報を提供するとともに,患者の安全と質の向上にとって、何が有効で何が無効なのかについて科学的な情報を集積すること等である。

(筆者注2) 軍事機密と言う性格のためかVOAの記事の取材源は確認できなかったが、おそらく2009年7月29日の連邦議会下院陸軍軍事委員会人事管理小委員会(House Armed Services Committee Subcommittee on Military Personnel )証言ではないかと思う。

(筆者注3) このような米国の楽観論の一方で、英国BBC が報じるとおり、死亡者数の減少が予想以上に遅いという指摘もある。

(筆者注4) 本節の解説については国際交流基金「主要先進国における国際交流機関調査報告書」21頁以下 和田純(神田外語大学教授) 「Ⅱ 米国」:米国「Public Diplomacy」から一部引用した。 

(筆者注5) 本節については国立国会図書館調査及び立法考査局「レファレンス」2007年3月号 清水直樹 「平和構築のためのメディア支援」から一部引用した。

[参照URL]
http://www1.voanews.com/english/news/health/Swine-Flu-Tops-List-of-2009-Health-Issues-80112447.html
http://www.archives.gov/research/guide-fed-records/groups/306.html
http://www.jpf.go.jp/j/about/survey/advanced/pdf/02.pdf
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/refer/200703_674/067409.pdf

Copyright (c)2006-2010 福田平冶 All Rights Reserved.