2010年2月12日金曜日

EU議会がEU米国間のSWIFTを介したテロ資金追跡プログラム利用暫定協定を否決

 
 2月9日付けの本ブログで、EU・米国間のSWIFTを介したテロ資金追跡プログラム利用(TFTP)協定についてこれだけEU内で多くの意見が交錯し、さらに協定書の欧州連合理事会承認にもかかわらず欧州議会の承認がないまま2010年2月1日から「暫定施行」するなどの詳細な経緯と最新情報を紹介した。

 日本時間の2月11日午後9時25分に筆者の手元に欧州議会の否決という採決結果が欧州自由民主同盟(ALDE)やEUの人権監視サイト"statewatch"から届いた。

 なお、欧州議会本会議の投票のライブ(筆者注1)でも見ることが出来るが、筆者が気がついたときは採決は終っていた。“statewatch”やALDEからの情報をもとに解説する。


1.EU議会採決までの経緯、締結反対意見の背景
(1) 2月2日、欧州議会法務局(Legal Service)の「法律意見書(Legal Opinion)」
 2月9日のブログで紹介したEU機関(EU指令第29条専門調査委員会(Art.29
Data Protection WorkingParty)および欧州個人情報監察局(EDPS))による本協定内容に関する法的意見書の他に「機密文書」として欧州議会法務局(Legal Service)は2月2日に「法律意見書」(筆者注2)を提出している。

 2009年9月17日の協定締結にあたり、欧州議会の非立法的解決(non-legislative resolution)の具体的な尊重や欧州連合理事会決議における議会の協定採決手続に関するすべての情報公開原則違反や協定の法的効果の不完全性等を指摘した内容である。

(2)本会議での採決の意義
 今回の本会議採決は、2009年11月30日に欧州連合理事会の協定案採択についてリスボン条約発効後のあらためての新たな議会による権限行使である。

 そのまえに議会「市民の自由、司法および域内問題委員会(Committee on Civil Liberties ,Justice and Home Affaires European Parliament)」の有力メンバーでありかつ欧州自由民主同盟のメンバーであるオランダのジャニーン・へニス・プラスハート(Jeanine Hennis-Plasschaert)氏の否決勧告案が提示された。

 本勧告案は2月3日、同委員会で賛成29、反対23、棄権1で委員会採択が行われ、欧州委員会や欧州連合理事会と同様、議会に対しこの問題に関する長期的視点にたった米国との協定締結に要請することとなった。
特に提案議員からは、協定はリスボン条約や欧州基本権憲章(Charter of Fundamental Rights)を遵守すべきとの意見表明が再度行われた。

(3)本会議での採決結果
 協定否決法案は、最終投票で賛成378、反対196、棄権31で採択された。

(4)議会関係者のコメント
 ALDEの代表であるギー・ヴェルホスタット(Guy Verhofstadt)氏は、「我々はTFTPの重要性を認めるが、同時に例えばこの問題に関する相互主義(principle of reciprocity)と同様に個人情報保護も極めて重要な問題として受け止める。本日の暫定協定否決について、我々は欧州委員会が直ちに対等な立場で議会や理事会と協同して正式協定の準備に入ることを期待する。」と述べている。

2.EUの今後のテロ対策面の課題
 今回の議会の協定否決は、リスボン条約に基づく新たなEUのあり方を占う好材料といえる。しかし、多くの議会関係者が指摘するとおり、テロは世界共通の政治課題であり、EUとしても新たな視点に立った米国やSWIFTとの交渉が必要な点は間違いない。

 なお、筆者は2月11日付けドイツ連邦法務大臣sabinne Leutheusser-schnarrenberger  のコメントを読んだ。EU議会の新たな権限に基づく人権保護や民主主義の勝利宣言で、EU執行部の誤った取り組みの修正が行われた旨のコメントである。その他の主要国の政治幹部の発言は現時点では見当たらなかった。

(筆者注1) EU議会の公式の本会議審議・採決のライブ放送は、当然時間帯が限定されるが一度は見ておく必要があろう。公用語が22もあり、また議員定数も736名、 議長の議事進行は大変で投票もブロック単位で行う。さらに、各議員の取組みを見て以外に思ったのは極めて庶民的な印象を持ったことである。米国の連邦議会の金融サービス委員会のライブ等に比べての話である。

(筆者注2) 議会法務局(Legal Service)は2月2日付けで提出した「法律意見書(Legal Opinion)」は2001年制定の欧州議会や理事会が定めた規則にもとづく「機密文書」である。リンクできるが読んで気が付くであろうが日付がスタンプである。

[参照URL]
http://www.statewatch.org/news/2010/feb/ep-eu-usa-swift-libe-prel.pdf
http://www.statewatch.org/news/2010/feb/ep-libe-cttee-draft-resolution-eu-usa-swift.pdf

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