2010年3月31日水曜日

フランスの銀行・保険の規制監督機関の単一機関化にかかる法改正の最新動向

 
 わが国ではほとんど紹介されていないが、フランスは2010年1月23日施行された国会からの委任による政府立法である「オルドオナンス(Ordonnance no.2010-76)」(筆者注1)に基づき、銀行(与信機関)と保険会社を監督する単一機関である「金融健全性規制監督機構(Autorité de contrôle prudentiel:ACP)が発足した。

 フランスの金融規制監督機関制度は従来から複雑な体系を有しており、近年その簡素化を巡る法改正が積極的に行われ、最近では2003年7月17日に「金融安全に関する法律(Loi de sécurité financière)(以下「金融安全法」という) が国民議会で可決成立し、同年8月1日に公布された。「金融安全法」で実現した金融規制監督機関の再編の中で最も頻繁に言及されるのは、証券・投資サービス分野における規制監督の一元化であり、また保険分野での監督機関の統一である。ただし、その他にも多くの機関が再編の対象となっており、その全貌はかなり複雑である。(筆者注2)

 そこで今回のブログは、2003年「金融安全法」に基づく証券規制監督機関の統合すなわち金融市場機構(Autorité des Marchés Financiers:AMF)(筆者注3)に続き、2010年1月21日の発足したACPの統合内容、規制対象金融機関、組織と運営、監督権限およびAMFとの協調関係について概観する。

 なお、筆者はAMFの動向については毎日のように着信する通達内容を見るが、筆者が注目したのは米国の金融監督制度改革論議やEUの監督制度改革との比較という視点のほか、米国のリーマンブラザースに始まったとされる金融破たんの連鎖(システミック・リスク)は世界の金融システムの連鎖的混乱を招き、さらには各国やEU全体の金融監督制度の全面的な見直しのトリガーとなった点である。

 翻って考えると、世界的システミック・リスク問題に関し、わが国の金融監督制度は果たしてまったくの影響なしに過ごせるであろうかという点である。


1.4つのフランスの銀行、金融サービスおよび保険業界の規制・監督機関の廃止
(1)与信機関・投資サービス会社委員会( Comité des Etablissements de Crédit et des Entreprises d'Investissement:CECEI)
(2)保険会社委員会( Comité des Entreprises d'Assurance :CEA)
(3)銀行委員会( Commission Bancaire:CB)
(4)保険会社・相互保険組織・共済組合監督委員会( Autorité de Contrôle des Assurances et des Mutuelles :ACAM)

 (1)(2)は金融会社や保険会社等につき個々に免許の供与、承認や剥奪につき責任を負い、(3)(4)は金融サービスや保険業において業務の円滑な経営持続についての監督責任を負うものであった。

2.ACPにより規制・監督下におかれる金融機関
 4つの元規制・監督機関の統合により、ACPは次の事業体や個人の免許や事業の持続性監視に関し責任を負うこととなった。
(1)金融サービス業界
 銀行(credit institutions)、金融ポートフォリオ管理会社を除く投資信託会社(investment firms)、規制金融市場運営会社(market undertakings)(筆者注4)、清算会社会員、金融商品の安全性・管理活動に関し認可を受けた個人(person authorized for the activity or safekeeping or administration of financial instruments)、決済サービス機関(payment institutions)、金融会社および複合活動を行う金融持株会社(financial companies and mixed-activity financial holding companies)、両替商(money-changers)

(2)保険サービス業界
 保険会社、再保険会社、相互保険会社および相互組合(mutual companies and unions)社会保障法典で規定される医療互助保障機関(institutions de prévoyance) 、偶発性医療相互保障組合および同等グループ(unions et groupements partaires de prévoyance)、保険会社グループおよび保険会社混合グループ、リスクを負う証券化実現手段(securitization vehicles bearing insurance risks)

 また、ACPはとりわけ保険や再保険の仲介活動、銀行業務の仲介および支払サービスを遂行する個人の監督責任を負う。

 投資サービスを行う銀行や投資会社に関し、ACFはビジネス・ルールの指揮や投資サービスプロバイダーの統治においてAMFの既得権をおかすことなく権限や司法権をもって監督を行う。

 さらにACPは、いわゆる欧州パスポート(投資法人等の設立の自由およびサービス提供の自由)(筆者注5)の下でフランス国内で投資業務を行うEEA (欧州経済領域)の法人等の監督を行う。

(3)ACPの組織と運営
 AMFの例に倣いACPは2つの異なる組織、すなわち「理事会(collège)」と「制裁委員会(commission des sanctions)」で構成される。
 16人の理事からなる理事会は、特段の定めがない限りACPに与えられたすべての責任を執行し、総会ではACPの基本に関わる決定を行い、また金融サービスや保険業界に関する共通的一般問題を審査する。
 反対に、個別問題については金融サービスまたは保険に特化した8人からなる小理事会で審査される。

 「制裁委員会」は5人からなり、行政処分または刑事罰を科す唯一の権限を持つ。従来指摘されてきた銀行委員会(Commission Bancaire)が苦情を申し出る母体と決定の責任をもつ委員との分離が不十分であるという批判を避けるため、ACPはAMFの組織的特徴を複製した。
 すなわち、制裁手続の開始は理事会の任務であるが、その場合これらに関するすべての判断は制裁委員会により命じられなければならない。主要な改正点はACPの理事長は理事会の優先承認とともに国務院(Conseil d’Etat)に対し制裁委員会決定に対する異議申立権が与えられたことである。

 今回発布されたオルドオナンスは、理事会や制裁委員会メンバーおよびACPの監督下にある企業との間で利害の対立が生じないような措置に関する規定が含まれている。

(4)ACPの権限
 本オルドオナンスは、ACPの監督、管理および懲罰(disciplinary)権限を明確化した。それはバーゼルⅡフレームワークから導かれる第二の柱(金融機関の自己管理と監督上の検証)の審査手続につき特段の法的根拠を提供する。
 すなわち、このことはACPに金融監督下にある企業や個人に対し監督の範囲内、特に自身のファンドにとって規則上要求される最低自己資本ライン以上のレベルを維持し、かつ自身のファンドが要求される特別な条項化したポリシーまたは資産の取扱いに適用できる点を含む、財政状況の強化・保持や自身の組織強化を目的とする手段を取るため差止命令を発することを認めることを意味する。

(5)AMFとの緊密な調整活動
 本オルドオナンスは、共同機構(Pôle Commun)と呼ばれるACPとAMFの革新的な協調手段を導入した。共同機構は金融商品のマーケティング条況の共同監督ならびに被監督機関が顧客、借手、被保険者、メンバーや受益者に対する義務を的確に遵守していることの監督を実行に移す。
 この共同機構は、公告キャンペーンに対するきわだって共同したモニタリングや顧客の疑問への単一的な接触ポイントの創設に寄与する。

(6)ACPに期待される主なメリット
①ACPにより規制される金融機関等にとっての規制・監督の一貫性向上、特にACPは銀行や保険会社を包含する金融グループに対する制御の変更に関する事前認可手続の簡素化することにつながる。
②AMFとACPの2つの監督機関が声をそろえることで生命保険証券を含むすべての金融商品に関する消費者保護を強化する。
③欧州銀行監督者委員会(CEBS)等の国際金融監督機関会議におけるフランスにとってのより良いかつ強固な発言力の向上である。

(筆者注1) フランスの法令体系について簡単に説明しておく。「オルドナンス(ordonnance)」は国会からの委任による政府立法をいう。「政令(décretは共和国大統領または首相がもつ規則制定権または個人権限に基づき下す法律行為をいう)」、「省令(arrêté)は規則制定権または個人的権限に基づき下す首相自身またはその効果についての委任署名に基づく決定を言うu par un fonctionnaire delegue a cet effet.)、「通達(circulaire:La circulaire sert, comme les directives, notes de service et autres instructions, a exposer les principes d’une politique, fixer les regles de fonctionnement des services et commenter ou orienter l’application des lois et reglements ; elle est signee par le ministre ou par un fonctionnaire delegue a cet effet.)」がある。
なお、フランス政府の立法専門サイトである“Legifrance.gouv.fr”の「立法ガイド(Guide de Légistique)」はLoi、Ordonnance、 décret等について共和国憲法の根拠条文も含め規範構造を詳細に解説しており、参照されたい。

(筆者注2)奥山裕之「フランスの金融安全法」(国立国会図書館 レファレンス2004年2月号)および白石智則「フランス金融安定法による金融監督の現代化」(早稲田大学フランス法研究会)は、「金融安全に関する法律」(比較法学38巻1号355頁以下)に基づくフランスの金融監督機関の統合につき詳細に論じている。わが国ではフランスの金融規制監督制度全般につき専門的に論じられることは極めて少なく、関心のある向きは是非読まれたい。

(筆者注3)AMFの活動状況は活発である。3月31日に筆者の手元に届いた最新リリース内容を参考まで紹介する。
金融市場の事業者の認定を受けるための法律専門知識に関するAMFマニュアルの発刊および新Q&A(2010年3月30日)
AMFが資本に算入できない債権証書の買戻しに適用法規に関するパブリックコメントの募集を開始(提出期限4月30日)自然人で投資やコンサルティングを行うにつきAMFの認可を受けるための専門家試験に関する3月23日付け命令(2010-01)

(筆者注4)フランスの“market undertaking”についてはなじみがないであろうから、
“Legifrance.gouv.fr”の定義を引用しておく。フランスの「通貨金融法典(Monetary and Financial Code)」第4分冊「市場」第Ⅳ部「規制金融市場運営会社(market undertaking)・免許清算会社(clearing house)」第Ⅰ章にその定義を定める。
 すなわち“market undertaking”とは「主要な活動として規制された金融商品市場の運用の管理を行う営利会社」をいう。
 なお、あわせて“clearing house”についてLegifranceの解説部分を引用しておく。“The clearing houses oversee the positions, the margin calls and, when applicable, the automatic settlement of positions. They must have credit-institution status. Their operational rules must have been approved by the Financial Markets Council.
The relations between a clearing house and a person referred to in Article L. 442-2 are of a contractual nature.”

[参照URL]
http://elink.allenovery.com/getFile.aspx?ItemType=eAlert&id=c0ecc263-38fe-413d-b697-65d954339aff(ACPの解説)
http://www.deweyleboeuf.com/~/media/Files/attorneyarticles/2010/20100303_PLCInsuranceHandbookFranceDeweyLeBoeuf.ashx(ACPの解説)
http://www.gouvernement.fr/gouvernement/banque-assurance-accord-sur-la-creation-d-une-autorite-de-controle-commune(ACPに関するフランス政府の解説)
http://www.amf-france.org/(AMFのHP)

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2010年3月7日日曜日

欧州委員会が非EU/EEA国のデータ処理者への個人情報移送に関する改正標準契約条項を決定

 
 本ブログでもしばしば紹介してきたとおり、わが国も含め先進国のプライバシーや個人情報保護面の監視体制は制度的には整ってきているといえよう。

 しかし一方で、ITCの分野はさらにその先を行っている。すなわち、2003年頃から 欧米主要国でも最も機微情報を扱う金融機関でのアウトソーシングは小切手処理やコールセンター業務から始まり、さらに国外へのアウトソーシングがごく一般的となっている。(筆者注1)

この問題は筆者が現在進めている「クラウド・コンピューテイングの法的検討課題」と極めて緊密な関係がある問題であり、その関連で今回の欧州委員会の決定を知った。(筆者注2)

EUやEEAを除き従来各国の法律や裁判制度等の下でのアウトソーシングの運用を前提としてきた監視体制のあり方の抜本的な見直しが必要になる大きな問題であり、急遽まとめることとした。

内容は本文で述べるとおりであるが、2月5日に採択、2010年5月15日施行する欧州委員会(以下「委員会」という)の標準契約条項はデータ・コントローラー(データ管理責任者)にとって契約上の採用遵守を強制するものではない。しかし、同委員会はEUのデータ管理者がEU/EEA以外の第三国のデータ・プロセッサー(データ処理責任者)に個人情報を移送する契約において本標準契約条項を採用することの優位性は、一方では取扱企業に保護規準の遵守義務を負わせることであり、他方ではEU加盟国の保護監督機関に対し、これらの移送が十分適切な保護にあたることを認めさせるという利点がある点を指摘する。

また、今回の委員会決定は今後、筆者がまさに問題視しているアウトソーシングやデータの二次使用問題を具体的に解決する具体的なメルクマールとなるともいえる。

わが国の中ではメディアも含めこの問題の重要性に気づいていないのか、ウェブ上で紹介レポートは1件(筆者注3)のみである。

 なお、本原稿をまとめる作業中の3月7日時点で気がついたのであるが、委員会の公式サイトでの説明不足と思われる点も見つけた。あわせて記しておく。


1.今回委員会が採択したEU企業のデータ管理責任者のEU/EEA以外の第三国の情報処理者への個人情報の移送に関する改正標準契約条項
 今回の改正作業に当り産業界を代表して委員会で検討を交渉した「ハントン・ウイリアムズ・ローファーム(Hunton & Williams Law Firm )」弁護士のクリストファー・クナー氏(Christopher Kuner)のレポートは、単に委員会のリリースの解説だけでない実務面の重要な指摘が含まれており、ここでも参照した。

(1)第三国への移送に関する委員会の標準契約条項決定の法的根拠と法的効果
 EUの個人情報保護指令(Directive 95/46/EC) 26条 (2)項および (4)項は、適切な保護レベルを提供していない第三国への情報移送における十分な安全対策として一定の「標準的契約条項」を決定できる権限を定めている。

 委員会は次の検討手続きを経て改正条項を決定した。
①委員会の改正(案)
②EU加盟国の全保護委員からなるEU指令第29条専門調査委員会(Article 29 working party)本ブログの筆者注14参照)
③加盟国の主要国の代表からなるEU指令第31条管理委員会(Article 31 Management Committee)
④委員会が行政権限を適格に執行しているかをチェックする30日間の欧州議会による精査、他

 今回の決定は、委員会が適切なレベルでないとは認定するEU加盟国27カ国およびアイスランド、ノルウェイ、リヒテンシュタインのEEA(European Economic Area)欧州経済領域3カ国、スイス(筆者注4)以外の国へのデータ・コントローラーからデータ処理者間の個人情報移送に関する改正標準契約条項に関する決定を採択したものである。

 なお、EUがEU/EEA以外の第三国で情報保護体制が相当であるすなわち特別な手続なしにEU住民の個人情報を受け取りを認めている国は、カナダ、アルゼンチン(Argentina)、ガーンジー(Guernsey)、マン島(Isle of Man)、ジャージー(Jersey)とセーフハーバー協定を締結している米国のみである。

(2)すでに委員会が決定している標準的モデル契約条項 
・委員会決定:2001/497/EC “controller to controller” に関する
もの
・委員会決定: 2002/16/EC “controller to processors”に関する
もの
・委員会決定: 2004/915/EC “controller to controller ”に関す
 るもので2001/497/ECの改正版

 なお、国際商工会議所(International Chamber of Commerce:ICC)は“The E.U. Alternative Standard Contractual Clauses for International Data Transfers”において“2004/915/EC”に関する詳細な解説を行っている。また、5月4日に前記クナー氏を講師とするオンライン・セミナーを開催する予定である。

(3)EU/EEAの企業におけるアウトソーシングの前提とする契約手続条項の導入ニーズと新条項の留意点
A.「ハントン・ウイリアムズ・ローファーム」のブログは、新モデル条項の契約実務面から見たメリット・留意点を次のとおりまとめている。
①新条項は、EUのデータ保護法において非EUのデータ処理者からデータ処理者へのデータ移送について法的な根拠を提供する。新条項のもとで主たるデータ管理者が書面で合意した処理者の保護義務は、下請け処理契約にも適用される。また下請け契約者の法違反に関する当初の契約者である処理者の責任もそのまま引続く。

②従来の条項で多くのEU企業が反対した強制仲裁条項(mandatory arbitration clause)は、削除された。

③データ管理者からデータ処理者への個人情報の移送に関する条項は、施行後は新条項を新規採用または変更しなければならないが、既存のモデル条項についてはその効力は存続する。

④新条項は、EU内からEU域外データ処理者への移送をカバーした内容であるが、EU域内の処理者の域外の処理者への下請け契約はカバーしていない。しかし、加盟国の保護監督機関はこのような場合についても新条項の使用を認めることになろう。

B.英国のPinsent Masons LLPの解説サイト“OUT-LAW News”は、現状の英国のデータ管理者の取組みを踏まえた問題と、今回のモデル条項の改正により契約実務がどのように変わるかにつき以下のとおり解説している。やや長くなるが、契約実務面の解説としては参考になると考え、正確に紹介する。

「従来のモデル契約条項の問題点は、データ管理者は非EU/EEAのデータ処理者へのデータの移送は想定していたものの、データ処理の下請け(再委託)までを想定していない。データ管理者はEU指令(Directive 95/46/EC)や加盟国の保護法の遵守義務・責任を負うが、処理者は負わない。新しいモデル条項の下では、データ管理者は処理者との間でEU指令に基づく管理者の安全対策責務等につき処理者に伝えるかたち移転契約を結ぶことになる。

 従来、もしアウトソーシング会社である処理会社が特定の仕事を再委託に出すとしたら、データ管理者はデータの移送に関し自身が負う義務をどのようなかたちで履行するかにつき決定しなければならなかった。このような場合の対策として、管理者は下請け契約の禁止を行うことはできるが、これは現実的な選択肢ではない。

 データ管理者はデータ処理者に対し同程度の安全義務を下請け契約者に課すことで下請けを認めることが出来たが、この場合の問題点は、データ処理者が下請け契約者からモデル条項の内容につき署名を得たとしても、これはデータ管理者と処理者の間を拘束するもので処理者と再処理者(下請け契約者)を自動的に拘束するものではない。

 このため一般的に英国の管理者が取った方策の1つは、モデル条項を使用するとき、管理者は情報保護にために適切な手段を取ることおよび適切に行われているかの調査権を主張することである。また別の方策としては、いかなる下請け業者も管理者と処理者のモデル契約に直接加わるというものであった。しかし、この方法はリスクは比較的少なく、管理者は直接的責任を下請け業者に課すものといえるが、このような契約につき下請け業者の同意は難しく抵抗にあったり、複数の下請け業者がいた場合、同意の確保が煩雑等の問題があった。

 今回の改正条項は、非EUの処理者の下請け契約を1以上の非EU下請け業者にも適合させ、これはデータ管理者からの要求にもとづく合意事項とする。そして処理者はモデル条項のもとでデータ処理者に課されるのと同様の義務を下請け処理者の義務として課す旨の合意文言を契約書に明記するというものである。

 このような契約形式は「主契約(head contract)」ではしばしば使用される方式であるが、新条項に基づき下請け処理者が書面の契約書に定める保護義務を履行しないとき、処理者は同契約合意に基づき下請け処理者の責務に関しデータ管理者に100%の責任を負うことになる。

 下請け契約もデータ管理者の遵守すべき法(データ管理者の遵守の根拠法)に準拠することになり、下請け契約者にとってはビジネス的には面白くない、例えば米国の処理者とインドの下請け業者の下請け契約が英国の保護法に支配されることになるが、少なくともデータ保護は実行されるといえる。

 また、新条項はその要件としてデータ処理者は下請け契約の写しをデータ管理者に提供すること、およびデータ管理者は下請け契約のリストを作成かつ少なくとも毎年更新しなければならないと定める。

 新条項の脚注で下請け業者はデータ管理者と処理者間のモデル条項につき共同調印できる点を記している。ただし、この共同署名は後下請け業者が追加された場合には有効に機能しない点が懸念される。」

2.欧州委員会サイトの更新作業の遅れや説明不足
(1) 欧州委員会(市民の自由、司法および域内問題委員会(Committee on Civil Liberties ,Justice and Home Affaires European Parliament)のEU/EEA以外の第三国への個人情報の移送に関するモデル契約(Model Contracts for the transfer of personal data to third countries )解説サイトの更新の遅れ
 3月初めには改訂されたが、2月末の時点では今回の決定の原文検索のキーとなる情報が欧州委員会のサイトどこにもなかった。当然のことながらリリースもEUの官報にあたるOffice Journalの番号にはまだ言及していない。筆者も一番困ったと思ったのであるが、EUの各法律事務所やローファームも同様の問題指摘を行っている。

(2)標準契約条項に関する委員会決定についての説明不足
 今回の契約条項のもととなるモデル契約条項は2002/16/ECである。前述(および筆者注3)のとおり、委員会決定は2種類ある。
 このことは英国の大手ローファームの専門家でさえ理解されていない。例えば、Pinsent Masons LLPの解説サイト“OUT-LAW News”の2月18日付けの記事を見て気がついた。この2種類が区別されておらず、今回のモデル契約条項が委員会決定「2001/497/EC (controller to controller) に関するもの」の改正版であるように指摘している。重ねて言うが、今回のモデル条項は委員会決定 「2002/16/EC (controller to processors) に関するもの」の改正版である。

 このような誤解が生じる最大の原因は、欧州委員会の解説サイトの説明不足であろう。
ただし、3月初めに改訂された新しい解説サイトをよく読むと「第三国におけるデータ処理者への個人情報の移送に係る標準契約条項(Standard Contractual Clauses for Data Processors established in Third Countries)」として今回の改訂条項と2002/16/ECが併記されており、今後は“OUT-LAW News”の解説のような誤解はなくなるであろう。(筆者注5)

3.わが国の国際化する企業活動とアウトソーシング規制のあり方
 わが国の企業の新たな国際戦略とはいかなることであろうか。トヨタの例で代表されるとおりわが国の製造や繊維メーカー業界等の海外進出は著しい。しかし、これらの企業は競争法、知的財産権、訴訟リスク、政治的安定性等に配慮すればよかった。しかし、わが国の経済における第三次産業のウェイトはますます高まるであろうことは間違いない。

 とりわけ、金融、ソフトウェア開発等については国内の再委託(アウトソーシング)は極めて限定されており、前者については自由化されたものの依然当局の監督下における護送船団の運用が続いており、一方後者については製品サービスの保証基準・瑕疵担保責任等はなく、現状はユーザーとベンダー間の相対契約にもとづく範囲での保証しかなく品質保証はほとんどない。

 これは海外でも同様であるが、これだけITが行政、企業や教育活動に欠かせないものとなっている時代にこのままで良いのかと考えるのは筆者だけではあるまい。

 この問題につき、ユーザーとベンダー間の信頼性強化の観点から経済産省が中心となって検討を行いまとめたのが「情報システム信頼性向上のための取引慣行・契約に関する研究会」最終報告書 ~情報システム・モデル取引・契約書~」である。筆者も研究会の主要委員から実務面の課題や裁判例について具体的な説明を聞く機会を最近もった。その「第一版」の説明の中で再委託におけるユーザーの承認の要否・責任の明確化があげられている。

 また、筆者が現在取組んでいる「クラウド・コンピューティングの法的検討課題」の海外の研究動向でも、やはり共通的に問題となるのは国際的または国内における再委託先の品質保証シスエム(サービスレベル)の早期導入である。

 これらについは機会を改めてのべることとしたい。

(筆者注1)金融機関を含むわが国のユーザー企業や公的機関の海外に向けたアウトソーシングが普及しない最大の理由は「言葉の壁」であろう。このことはわが国の将来に大きな負担となる可能性がある。すなわち国際通用語となっている中国や言語の壁に前向きに取組んでいる韓国との国際競争力において勝ちうるのか。特に手厚い保護下で経営を行ってきた金融業界の国際金融競争はこれからが正念場である。

(筆者注2)筆者が本ニュースを直接見つけたのは、わが国でも事務所を開設しているベルギーのブリュッセルに本拠をもつ「ハントン・ウイリアムズ・ローファーム(Hunton & Williams Law Firm )」サイトで「アウトソーシングとプライバシーの法的問題」を調べていたときである。欧州委員会からのリリースは毎日読んでいるが見逃していた。同事務所の説明によると、今回の改正条項の内容は国際商工会議所(international Chamber of Commerce:ICC)のプライバシー・情報保護専門委員会の委員長であるクリストファー・クナー氏(Christopher Kuner) と欧州委員会が数年間にわたり交渉検討してきたとある。
 
(筆者注3) 「EU、個人データ輸出規制の契約条項標準を修正」と題するものである。記事の内容は海外の記事をもとに翻訳したものといえようが、その内容は専門家向けとはいえない。例えば、本文で述べたとおり欧州委員会のEU/EEA以外の第三国への個人情報の移送に関する標準契約条項の決定は大別すると2種類あり、①“data controller to data controller”、②data controller to processor”である。今回は②が改訂されたもので(旧標準条項は欧州議会決定2002/16/ECである)この点を踏まえて説明すべきである。なお、一般向記事として見ると内容は細かな訳語のミスを除けばおおむね良好であるが、最大の問題は原文のURLの引用漏れである。メディアとしての基本原則が守られていない。

(筆者注4)スイスはEEAに直接参加していないが、EUとは1972年に締結した“Free Trade Agreement”との間で基本となる協定を締結し、またその後、保険協定、二国間協定そのた100以上の技術的な協定を締結している。その詳細な内容は欧州委員会の外部関係に関するサイトで説明されている。

(筆者注5)余談であるが、3月7日現在でもPinsent Masons LLPの解説サイト“OUT-LAW News”の誤解はそのままで修正は行われていない。筆者としても、機会があれば同法律事務所に確認しておきたい。

[参照URL]
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/10/30&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en(欧州委員会のプレスリリース)
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2010:039:0005:0018:EN:PDF(欧州委員会の決定本文)
http://ec.europa.eu/justice_home/fsj/privacy/docs/international_transfers_faq/international_transfers_faq.pdf(欧州委員会の標準契約条項に関するQ&A)

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2010年3月6日土曜日

米国FRBがクレジットカード利用者保護強化に係る改正レギュレーションZの最終段階案を公募



米国の金融監督金機関かつ中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は、3月3日に法外な遅延利息や罰則的手数料からのユーザー保護ならびに適用金利の再考を求める「レギュレーションZ(「貸付真実法(Truth Lending Act)」の適用規則)」の改正案を公開し、ひろく意見を公募した。

 今回の「レギュレーションZ」の改正は2009年5月22日に成立し、2010年2月22日に大部分が施行された(残りは8月22日施行) 「2009年クレジットカード発行者の説明責任、責務および開示法(Credit Card Accountability Responsibility and Disclosure Act of 2009)H.R.627(以下、“Credit Card Act”という)」 (筆者注1)を受けた2009年7月、2010年1月に続く同規則改正の第三段階に当たるものである。

 筆者は、米国のクレジットカード利用方法の詳細や貸手の規制強化に関する2008年12月の4つのレギュレーション改正の動向について、2009年5月5日付けの本ブログ「米国FRB,OTS等によるクレジットカード規制の厳格化等に係るレギュレーション等の改正」で言及した。

 しかし、同時点のレギュレーションZは“Credit Card Act”法が成立する以前の状況下で策定されたものであり(施行時期は4規則とも2010年7月1日)、同法に基づき新たなカード発行者の義務が多数追加された。

 筆者は、同ブログ執筆時点では同法(H.R.627)が2009年末以降具体化している米国の金融監督制度改革(消費者金融保護庁(CFPA)の新設等)の一環であることまでは理解していなかった。そのため法律の具体的内容についてはほとんど言及しておらず、またわが国の同法に関する金融機関系のシンクタンクのレポートを読んでも今一ポイント・問題点が理解できなかった(筆者注2)(連邦議会調査局の「法案summary」は詳細すぎて使えない)。

 これは米国のシンクタンクのレポートでも同様であり、筆者なりに調べた結果、ホワイトハウスの解説が最も具体的で法案に忠実であったことから、その概要および今回FRBが公開した規則改正案を含む3つの「レギュレーションZ」の改正内容をまとめて解説する。

 なお、同法の最も重要な施行内容が集中する第二段階である2月22日付けの連邦議会下院「金融サービス委員会」フランク委員長の声明が筆者宛に届いた。その中でJPモルガン・チェース・アンド・カンパニーのCredit Card Actによりどのような点が変わるのか顧客宛に送付した「お客様ニュース」の紹介や本文2.で述べるFRBの解説サイトのリンクが行われている。
 

1.米国の「2009年クレジットカード発行者の説明責任、責務および開示法(Credit Card Act)」の背景とその内容
(1) 制定の背景
 わが国のシンクタンクの解析では「従来、米国の金融機関はリスクの変化に応じてクレジットカードの返済金利を柔軟に変更してきた。例えば、返済金利をいつでも変更できるとしているカードは93%に上る(Pew Charitable Trust調査)。景気後退下の現在も、クレジットカードに対する融資姿勢が大幅に厳格化するなかで、延滞など顧客に非がある場合に加えて、不動産不況が深刻な地域に住んでいる、借入残高が高水準である、などの理由から金利が引き上げられるケースが多発。」とする。(筆者注3)

(2)“Credit Card Act”の主な立法事項
A.不公正な金利引上げの禁止
①遡及効を持った金利引上げの禁止(Bans Retroactive Rate increases)
 「いつでもいかなる理由でも(any time,any reason)」や「一般的債務不履行条項(universal default)」(筆者注4)を理由とする既存口座の金利の引上げや支払い遅延に基づく遡及効を有する引上げは極めて限定する。

②カード口座開設初年度の優遇金利の6か月以上の適用(First Year Protection)
 カードの契約条件は明確に記載・説明されかつ初年度中において安定的に遵守されねばならない。発行会社は新規口座や既存口座につき優遇金利を継続して申出ることができるが、この適用金利は明確に開示されかつ最低6か月間は継続して適用しなければならない。
 
B.不公正な手数料体系の罠の禁止(Bans Unfair Fee Traps)
①支払期限の罠にもとづく遅延手数料徴求の禁止(Ends Late Fee Traps)
 発行者は毎月のカード代金の支払につき郵送時期から暦日で最低21日の支払の準備期間を消費者に与えなければならない。また、“Credit Card Act”は週末、毎月変更するものやさらに昼の時刻を支払期限とする遅延手数料規定を禁止する。

②公正な利息計算の強制(Enforces Fair Interest Calculation)
 発行者は消費者が当然期待するように初めに最も高い金利の口座残高を支払いに適用することになる。“Credit Card Act”は発行者が当月の利息計算につき前月の残高を使用する不公正な慣行(double-cycle billing)を止めさせるものである。

③利用限度手数料の設定につき消費者の事前同意を義務化(Requires Opt-in to Over-Limit Fees)
 この結果、消費者は発行者が予め口座の限度額設定時に本人の許可を得ることから限度額超過によりペナルティ手数料が課さることを避けることがより容易に理解出来ることになる。

④不公平なサブプライム連動・限度額が低いクレジットカード手数料の限定(Restrains Unfair Sub-Prime Fees)

⑤ギフトカードやプリペイドカード(stored value cards)の手数料の制限
 “Credit Card Act”はギフトカードやプリペイドカードの手数料についての開示と12か月の間休眠でない限り当該休眠手数料の徴求を制限する。

⑥契約条件の見易さ、理解しやすさ、平易な言語の使用義務化(Plain Sight/Plain Language Disclosures)

⑦発行者への消費者が融資決定を行うにあたり必要な正しい情報開示が義務化
・発行者は消費者が最低支払額で支払い続けたとした場合、現在の既存の口座残高で支払完了までに要する「期間」および「金利コスト総額」の表示を毎月の請求通知で行わねばならない。また発行者は、30か月間で既存の残高での総支払額および利息額を表示しなければならない。

C.発行者および監督機関による説明責任(Accountability)と責務
 “Credit Card Act”は、発行者および不公正な取引慣行を阻止しかつ消費者保護責任監督機関に対し説明責任を保証させるべく支援する。
①クレジットカード契約に関する一般的な公開
 従来のクレジットカード契約は紙媒体でのみ交付されまた平易な用語では書かれていない。今後、発行人はインターネットでの利用可能な形式で契約が作成が義務化される。

②監督機関は、毎年議会に対しクレジットカードの実施状況等につき報告が義務化される。

D.カード発行者に対する罰則の強化(increases penalties)
 カード発行者は従来の法立が違反の予防であったのに対し、これらの法に定める義務違反を行った場合は極めて重い罰則が科されることになる。

2.「レギュレーションZ」の改正段階別改正状況
 各段階別に改正内容と施行時期についてまとめておく。(筆者注5)
 なお、FRBは2010年2月22日から施行する新レギュレーションにつきクレジットカードの消費者向けに基づき具体例で解説するサイト「What you need to know :New Credit Card Rules」を開設した。中央銀行が消費者向けにここまで具体的かつ平易な解説を行うことは欧米でも珍しいような気がする一方で消費者保護の難しさを感じた。少なくとも参考になるサイトといえよう。

(1)第一段階
 2009年7月15日に暫定最終規則(interim final rule)を公布、2009年8月20日施行した。FRBのリリースによると三段階でレギュレーションZの改正を行うことも明記している。今回の改正主目的は、カード発行者に対しカード保有者に対しクレジットカード口座の金利引き上げや口座の利用条件について重要な変更通知の早期化を求め、あわせて実際条件更実施前の消費者の拒否権を明記したものである。具体的な規定内容は次のとおりである。

①発行者は、クレジットカード口座の金利(APR)の引上げおよび利用条件の重要な変更を行うときは、書面によりその実施の45日前に消費者に通知しなければならない。

②発行者は、①の通知においてクレジットカード口座の金利(APR)の引上げおよび利用条件の重要な変更に基づく消費者のカード口座の取消権について通知しなければならない。
 消費者が取消を行うときは、一般的に発行者は金利引上げや条件変更を行うことが禁止される。

③発行者は、一般的に支払期限の21日前までにクレジットカードや一定額限度内での返済型クレジット(open-end consumer credit accounts)(筆者注6)について周期的な通知を郵送または交付しなければならない。

(2)第二段階
 2010年1月最終規則が公布、2010年2月22日施行した。具体的な規定内容は次のとおりである。

①一般的にカード利用口座開設の初年度の予期せぬカード金利の引上げや既存カード残高に応じた予期せぬ金利の引上げから消費者を保護する。

②21歳以下の若者に対するカード口座開設は、本人に必要な支払能力があるとき、または支払につき親や連帯保証人(cosigner)の署名があるとき以外は禁止する。

③発行者に対しクレジット限度額を超えた取引に対する手数料を課す場合は、消費者の同意を得ることを義務化する。

④サブプライム・クレジットカード(subprime credit cards)3/5⑧に関連する高額手数料の適用を制限する。

⑤発行者が金利を課すにあたり、”two-cycle billing method” (筆者注7)の使用を禁止する。

⑥発行者に対し最高金利の配分適用による支払いを禁止する。

(3)第三段階
 2010年3月3日、修正規則案が公開され、2010年8月22日施行予定。具体的な規定内容は次のとおりである。
①カード発行者は消費者に対し返済遅延手数料や限度額超過手数料を含むペナルティ手数料を課す場合、消費者の口座利用条件違反の場合に課すべき金額を越えた金額を課すことを禁じる。例えばカード発行者は今後、支払遅延の場合の最低ペナルティ金額が20ドルの時に39ドルのペナルティを請求することは出来なくなる。

②消費者が口座により新しい買物を不履行の場合いわゆる睡眠口座に対する手数料の課金を禁ずる。

③発行者が支払い遅延または口座の利用条件違反に基づき複数のペナルティ手数料を課すことを禁ずる。

④発行者に金利改定の理由につき消費者に通知することを義務付ける。

⑤発行者に2009年1月1日以降金利引上げ変更の理由の再検証を行うよう求め、仮に適正である場合でも金利の引下げについても検討するよう求める。


(筆者注1) Credit Card Actの立法目的は法案(H.R.627)の前文にあるとおり” To amend the Truth in Lending Act to establish fair and transparent practices relating to the extension of credit under an open end consumer credit plan, and for other purposes.”
である。

(筆者注2) わが国の代表的な金融機関系シンクタンクのCredit Card Actの解説でも、「①正当な理由なくクレジット金利を引き上げることの禁止、②金利や手数料引き上げは45 日前までに通知、③新規発行時の勧誘金利の6 か月間維持、④請求書送付は支払期限の21 日前(従来は14 日前)などの措置が盛り込まれている。」程度である。

(筆者注3) 大中道 康浩氏は次のとおり指摘し、米国のクレジットカード業界の貸し渋りと個人消費の低迷が続くとの見通しを述べている。
「カード会社や商業銀行はリテール戦略の重要な柱としてカード事業を位置づけており、きめ細かな与信管理、金利設定、手数料徴求などを通じて大きな収益を上げている。滞りなく返済する消費者に対しては、与信枠を増やしたり、金利を引き下げるなどして一段の利用を促す一方で、延滞した消費者には与信額を即座に減額し、金利を引き上げたりしてきた。
規制強化により、こうしたきめの細かい与信管理ができなくなる。2009年5 月の法案成立後、カード会社は先を見越してリボルビング金利の引き上げ、請求書送付への課金、クレジット未利用者に対する休眠手数料の設定などを行い、延滞などの事故を起した先については口座の強制解約やクレジット限度額の引き下げといった対応を行ってきた。」
 なお、大中道氏は法律の正式名を「クレジット・カード責任・責務及び開示法」と訳されている。この点について“accountability”は「説明責任」と訳すべきであり、内閣府のサイトも「説明責任」と訳している。さらに言えば意訳になるが本文のとおり「クレジットカード発行者の説明責任、責務および開示法」とすべきであろう。

また、日本総研リサーチ・アイ岩崎氏「米国でクレジットカード業界への規制強化法が成立~個人消費回復の抑制要因に~」も同様な指摘を行っている。

(筆者注4)“universal default”とは、クレジットカード約款に書かれていて、多くのクレジットカードで採用されている「一般的債務不履行条項」である。カード会社は顧客の信用を定期的にチェックし、顧客の信用度やリスクをめぐる環境が変化したら、カード会社は適用する金利を引き上げられるという条項。支払い遅延とか、限度額超過、債務超過、信用供与の過享受、複数会社を同時に過剰に利用といった顧客の行為が該当する。

(筆者注5)FRBの規則策定や改正の経緯は専用サイトで確認できる。

(筆者注6) 米国金融機関が扱う“open-end credit consumer credit”とは、「銀行、貯蓄貸付組合やその他の他の貸し手によって消費者に提供された融資限度額内で回転させる消費者信用を言う。 融資限度額は一定の限度額内で設定されると、消費者は限度額内でクレジットカード、小切手またはキャシングを使用することができる。 購買やキャシングするときはいつも、与信額は消費者に代り拡大される。 消費者は毎月全体の債務残高を全部支払って利息に負担を避けることができるし、または、未払い残高に生じた利息のみの支払を行うこともできる」ものである。

(筆者注7) “two-cycle billing method”とは、「通常1か月ごとに決済するカード決済が2か月や3か月にわたる返済になるもので、最終的な定期月額金利(Periodic Interest Charge)が高くなるためこれを禁止する。興味のある方は“Single –cycle billing”と“Two-Cycle billing”との比較ウェブサイトで実際比較計算してみよう。なお、“Periodic Interest Charge”とは何を言うのか。通常金利の表示は「年利(APR)」であるがクレジットカードの金利は頻繁に変動することもあり、1か月あたりに換算した金利表示のことを言う。すなわち、APRが8%であるならば“Periodic Interest rate” は0.08/12=0.666%となる。」(本ブログ参照)


[参照URL]
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/bcreg20100303a1.pdf(レギュレーションZ:改正第三段階の原本)
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/20100303a.htm(レギュレーションZ:改正第二段階の原本)
http://edocket.access.gpo.gov/2009/pdf/E9-17195.pdf(レギュレーションZ:改正第一段階の改正案の原本)
http://www.govtrack.us/congress/billtext.xpd?bill=h111-627(Credit Card Actの原本)

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