2008年12月21日日曜日
米国の連邦議会行政監査局(GAO)が個人情報再販業者に対する機密情報安全性監督の強化策を勧告
米国連邦議会行政監査局(United States Government Accountability Office:GAO)は、2006年6月26日に開催された連邦議会上院の「銀行、住宅・都市問題委員会(Committee on Banking ,Housing and Urban Affaires ,U.S. Senate)」において、連邦や州の監督機関が行うGLBA等個人情報保護に関する重要な法律の運用に関し、最近急成長しつつある個人情報の再販事業者(Information Resellers)(筆者注1)が行うべき安全対策に関して、有効な監督機能を果たしていないとする勧告報告を行った。
GAOの活動や権限について、本ブログでも数回取り上げたことがあるが、GAOの連邦議会への発言力すなわち上院・下院議員への影響力は極めて強く、また取扱う問題の範囲が広く米国の行政機関への横断的な影響度は大といえる。
特にGAO報告の特徴は、関係企業、監督機関、消費者等からの情報収集が徹底されており、その説得力は他の連邦監督機関が無視し得ないものといえる。以下、紹介するとおり、法律の守備範囲と監督業界間の縦割りの弊害は米国でも現実の問題であり、この分析手法はわが国でも参考とすべき点といえよう。
わが国では個人情報保護法の全面施行後約1年を経過した2006年7月に、金融庁は金融機関における顧客情報の管理体制に係る一斉点検の結果(筆者注2)を、また内閣府は事業者の取組実態調査結果を公表している(筆者注3)。米国における金融機関の再販事業者の利用原因の1つが、「愛国者法(PATRIOT ACT)」におけるマネロン阻止やなりすまし詐欺の防止に関する法的遵守の要請である。
わが国ではマネロン阻止強化の観点から9月22日に本人確認法施行令等が改正され、2007年1月4日以降10万円超の現金によるATM振込が原則不可となる。また、名義人へのなりすましチェックも強化されるなど、状況が類似しており、他山の石とすべきであろう(筆者注4)。
なお、本ブログは2006年9月のアップデート版である。
1.GAO勧告の内容
連邦議会は次の3点について具体的に検討すべきである。
(1)個人情報の再販事業者が保有する機微個人情報(sensitive personal information)の安全性対策について情報提供を求める。
(2)現行の金融機関の個人情報保護法であるGramm-Leach-Bliley Act(GLBA)や公正信用報告法(the Fair Credit Reporting Act:FCRA))の遵守監督機関である連邦取引委員会(FTC)について、法執行機関として有効な制裁手段といえる民事制裁権(civil penalty authority)(筆者注5)を付与するよう見直しを行う。
(3)保険会社の連邦監督機関である全米保険監督官協会(the National Association of Insurance Commissioners:NAIC)においてもGLBAの遵守監督を行う。
2.GAOの調査・研究の背景
米国における個人情報再販事業者は、(1)公的な機関が保有する記録(生年月日、資産記録等)(Public records)、(2)一般に公表されている情報(電話帳等)(Public available information)、(3)個人信用情報報告書のキー情報であるcredit header data(筆者注6)や加入者リスト(subscription lists)を情報源としてこれらデータの統合を行う。その結果、成果物として「本人確認報告」、「保険金請求記録報告」、「潜在的顧客情報」、「信用情報報告」が作成され、最終的に金融機関等に提供されるのである。
米国のこれら企業は米国国民のほとんどすべてといえる膨大な消費者の個人情報を収集し、その結果、この数年明らかになっているとおり、ChoicePoint,LexisNexis等大規模な漏洩事件が生じている。
3.GAOが取組んだ調査内容
(1)GAOは銀行、クレジットカード会社、証券会社や保険会社が次のような理由から再販事業者からの個人情報を入手、利用していると見る。
A. 利用者の法適合性
B.愛国者法等の法令遵守
C.なりすましなど詐欺の予防
D.自社の商品の市場性
(2)GAOは、公正信用報告法(FCRA)およびグラム・リーチ・ブライリー法(GLBA)の適用により再販事業者への情報提供は制限されていると解している。すなわち、FCRAは与信や保険契約時における法適合性判断のための第一次的情報の収集や使用時に適用され、またGLBAは同法に規定する金融機関によって取得される個人情報について適用される。
これら2法には情報保護・セキュリティに関する規定があるにもかかわらず、消費者(再販事業者からの購入利用者のこと)は再販事業者からあらゆる機微情報の入手が可能と言う拡大解釈の恩典をうけている。
(3)すなわち、FTCはこれら2つの法律のプライバシーやセキュリティに関して再販事業者が行うべき遵守に関して第一義的な監督責任を持つ連邦機関である。1972年以降、FTCは全米規模の3大信用情報機関(Equifax、Experian、TransUnion)を含め、FCRA違反を理由として再販事業者に対し、20件以上の正規の法執行行為を行っている。しかしながら、FTCは GLBAに基づくプライバシー保護に関する規定(これらの規定は、法律に基づき大量の漏洩事件 違反行為に対して有効な法執行を担保することになる)に基づく民事制裁権を持たない。
(4)米国のプライバシー保護法などの遵守状況を概観すると、銀行や証券会社の連邦規制監督機関は遵守ガイダンスを発刊するとともに検査を行い、その他公式・非公式の法執行行為を行っている。最近時にNAICの協力により行われた調査では、保険会社においてGLBAの不遵守の事例がみられたが、州の監督機関はNAICとともにこれらの問題に対応する明確な計画を有していなかった(筆者注7)。
(筆者注1) GAO報告によると、再販事業者名として本ブログで紹介したほかに、eFund(預金取扱機関に対し預金取引の履歴情報を提供)、Thompson West and Regulatory DataCorp(企業に対し詐欺やその他のリスクの軽減情報を提供)、ISO(保険会社に対し保険契約履歴情報その多詐欺要望商品を販売:http://www.iso.com/)等が紹介されている。
(筆者注2)http://www.fsa.go.jp/news/newsj/17/f-20050722-4.pdf
(筆者注3)内閣府は、調査結果の詳細を2006年7月28日開催の「国民生活審議会個人情報保護部会」の資料として配布されている(内閣府のHPで同資料を探すに、無駄な時間がかかってしまった。特に従来から気になっている点であるが、わが国の電子政府の中核である内閣府のサイトには「検索」機能がない)。資料が全部で158頁と大部(要旨では企業の検討材料として不十分)のためか、5分冊となっており、企業にとって個人情報漏洩防止に関心の高い漏洩原因の分析は第3分冊の中にある。第3分冊のURLは以下の通り。
http://www5.cao.go.jp/seikatsu/shingikai/kojin/20th/20060728kojin3-2-3.pdf
(筆者注4)本人確認法(正確には「金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律」)の施行令、施行規則の改正に伴う解説URLは以下の通り。
http://www.fsa.go.jp/policy/honninkakunin/index.html
(筆者注5)GAOの資料にあるcivil penaltyとは正確には行政機関により行政手続を通じて行われるAdministrative civil penaltyであると思う。米国における法律・規則違反等の違反行為に課される罰金(Fine)であり、広義の意味ではこのほかに民事裁判手続を通じて裁判所によって算定・不可されるCivil judiciary penaltyとがある。なお、内閣府大臣官房独占禁止法基本問題検討室が担当している「独占禁止法基本問題懇談会」の取組は、最近時、EUをはじめ海外でも研究・審議が進んでいる分野との整合性を意識したものといえよう。
「独占禁止法における違反抑制制度の在り方等に関する論点整理」参照。
http://www8.cao.go.jp/chosei/dokkin/
わが国の経済界もその動きに神経質になっており、経団連経済法規委員会は2006年8月1日付けで『「独占禁止法基本問題」に関するコメント』を公表している。
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2006/057.html
(筆者注6)credit header dataとは、「姓名(姓名の変更を含む)、住所(旧住所を含む)、電話番号(知られている場合、非表示の番号も含む)、生年月日(通常生年月までに限定)、社会保障番号」をいう。この情報は、個人信用情報の生成過程で発生するが、FTCはそれが顧客の取引履歴の一部でないとして、FCRAでは規制されていない。この問題は1997年1月30日の人権保護団体である「Privacy Rights Clearinghouse」でも取り上げられており、米国では従来から問題視されていたといえる。
http://www.privacyrights.org/ar/fedres.htm
(筆者注7)米国の保険監督上、「保険」は1944年以前において商業(commerce)とみなされず、連邦法の規制対象外であった。しかし、連邦最高裁判所が連邦議会に実質的に州際の保険事業についての立法権を認め、成立した法律がMcCarran-Ferguson Act(15 U.S.C. §1011)である。しかし、同法はいくつかの州の保険業規制を定めているが、Sherman Act、Clayton Actおよび連邦取引委員会法(FTCA)では州法によって規制がなされない範囲で、連邦法が適用されるというかたちがとられている。http://www.law.cornell.edu/wex/index.php/
〔参照URL〕
http://www.gao.gov/new.items/d06674.pdf
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2008年11月2日日曜日
米国の金融機関等の「なりすまし詐欺犯罪」対応規制強化の最新動向(その3完)
⑤なりすまし詐欺の阻止
SISレポート内容は、当該ユーザー企業自身が保有する顧客情報の増加をもたらすのみでなく、金銭面以外の顧客のなりすまし詐欺被害を阻止・保護するといった面で企業の信用度全体を向上させる機能を持つ。すなわち、SISは次の4要素を用意している。
(a)信用情報以外の個人のID全体のモニタリング
最新のFTCの報告でも、なりすまし詐欺の70%は非信用情報(non-credit related)に関するものであるとしている。このことは信用情報機関の保有する信用情報のみに頼らない、効果的な「なりすまし詐欺対策プログラム」が必要であることを示している。SISとしてはモニタリング対象とすべき取引項目・データは次であると指摘する。(%の数字はモニタリング対象を100%とした割合)
・ 信用情報関連:20%
・ 社会保障番号(SSN):15%
・ 政府の文書:10%
・ 銀行口座:16%
・ 電子的資金移動:8%
・ ワイヤレス口座(モバイル口座等):8%
・ 電話:4%
・ 詐欺的住所変更:6%
・ 公益事業(utility account):6%
・ 犯罪関係:3%
・ 投資:4%
(b)当初の調査
SISは新規利用企業等に対し、1,000のデータベースの矛盾点等を調査し、IDに関する危険な事態がすでに生じているか否かについて決定する。
(c)レッド・フラッグを立てる
次に矛盾するデータについてフラッグを立てることにより将来の潜在的詐欺行為を阻止することである。矛盾事項の選別は金銭面の損失の阻止のための更なる確認を必要とさせる。換言すると、顧客のクレジットカードの申込において既存の届出住所と異なる住所の記載がある場合は顧客へ警告が必要となる。
(d)継続的モニタリング
(e)SISは専門的教育を受けた紛争解決専門の企業内弁護士(professionally trained Resolution Advocates)を擁している。彼らは、詐欺被害の程度および問題解決のために行うべき事項の決定のため詐欺被害者に直接面談する。彼らは
個別解決案を予め用意し、徹夜で被害者にメールを送信するとともに一般の弁護士では限られる被害者の立場に立った直接的な支援(信用回復の過程を通じた被害者が持つであろう懸念材料に対する答等を用意)を行う。
(f)ユーザーたる金融機関等の顧客や役職員への教育的研修会を実施し、なりすまし詐欺の阻止に向けて相互のコミニュケーションの円滑化を支援する。
(g)AIGグループが開発した個人負担ゼロで25,000ドルを上限とする支出保障プラン“zero-deductible $25,000 expense reimbursement insurance”(筆者注15)を提供する。信用回復にかかる裁判費用等の個人的負担軽減策と言えるもので、1週あたり1,000ドル(最大4週間)が支給される。
(2)Equifaxの例
米国の3大信用情報機関の1つである“Equifx”もAIGグループと類似の保障サービス(Equifax Credit WatchTM Gold )を提供している。個人負担ゼロで最大20,000ドル(制約あり)、その他の点もAIGの保障内容と類似している(利用金額は月額9.95ドル)。
(3)LexisNexisの例
2005年3月の30万人以上の個人情報の流失事件を起こしているリスク・情報分析の専門会社である同社であるが、一方でSISと似たレッド・フラッグ規則に対応するためのモニタリング・システムを提供している。同社のHPを見て気が付くようにとにかく米国の市民は“good man”であることが金融取引だけでなく就職、結婚等日常生活すべてにかかわってくるのである。そのような背景からも、“InstantIDⓇ”、“FraudDefenderⓇ”といったツールを用いながら、なりすまし詐欺から自分自身を守らなければならない米国社会の現状が浮かび上がってくる。
(筆者注15)わが国において、米国における消費者の生保・損保等各種保険料負担対策について詳しく解説しているものは少ない。“deductible”の1語だけでも的確な訳語がない。その背景には仕組みが複雑な点もあるが、連邦・州政府の保険政策とのからみもあり、これだけで論文が書けよう。機会を改める。
AIGの保険サービス約款(AIG Personal Internet Identity Coverage Policy)の保障内容には、収入保障、信用回復にかかる民事訴訟の弁護士費用、ローンの再登録にかかる費用等が含まれる。
〔参照URL〕
http://www.federalreserve.gov/boarddocs/srletters/2008/SR0807.htm#Footref2
http://www.fdic.gov/news/news/financial/2008/fil08105.html
http://www.bankinfosecurity.com/external/fil08105a.pdf
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SISレポート内容は、当該ユーザー企業自身が保有する顧客情報の増加をもたらすのみでなく、金銭面以外の顧客のなりすまし詐欺被害を阻止・保護するといった面で企業の信用度全体を向上させる機能を持つ。すなわち、SISは次の4要素を用意している。
(a)信用情報以外の個人のID全体のモニタリング
最新のFTCの報告でも、なりすまし詐欺の70%は非信用情報(non-credit related)に関するものであるとしている。このことは信用情報機関の保有する信用情報のみに頼らない、効果的な「なりすまし詐欺対策プログラム」が必要であることを示している。SISとしてはモニタリング対象とすべき取引項目・データは次であると指摘する。(%の数字はモニタリング対象を100%とした割合)
・ 信用情報関連:20%
・ 社会保障番号(SSN):15%
・ 政府の文書:10%
・ 銀行口座:16%
・ 電子的資金移動:8%
・ ワイヤレス口座(モバイル口座等):8%
・ 電話:4%
・ 詐欺的住所変更:6%
・ 公益事業(utility account):6%
・ 犯罪関係:3%
・ 投資:4%
(b)当初の調査
SISは新規利用企業等に対し、1,000のデータベースの矛盾点等を調査し、IDに関する危険な事態がすでに生じているか否かについて決定する。
(c)レッド・フラッグを立てる
次に矛盾するデータについてフラッグを立てることにより将来の潜在的詐欺行為を阻止することである。矛盾事項の選別は金銭面の損失の阻止のための更なる確認を必要とさせる。換言すると、顧客のクレジットカードの申込において既存の届出住所と異なる住所の記載がある場合は顧客へ警告が必要となる。
(d)継続的モニタリング
(e)SISは専門的教育を受けた紛争解決専門の企業内弁護士(professionally trained Resolution Advocates)を擁している。彼らは、詐欺被害の程度および問題解決のために行うべき事項の決定のため詐欺被害者に直接面談する。彼らは
個別解決案を予め用意し、徹夜で被害者にメールを送信するとともに一般の弁護士では限られる被害者の立場に立った直接的な支援(信用回復の過程を通じた被害者が持つであろう懸念材料に対する答等を用意)を行う。
(f)ユーザーたる金融機関等の顧客や役職員への教育的研修会を実施し、なりすまし詐欺の阻止に向けて相互のコミニュケーションの円滑化を支援する。
(g)AIGグループが開発した個人負担ゼロで25,000ドルを上限とする支出保障プラン“zero-deductible $25,000 expense reimbursement insurance”(筆者注15)を提供する。信用回復にかかる裁判費用等の個人的負担軽減策と言えるもので、1週あたり1,000ドル(最大4週間)が支給される。
(2)Equifaxの例
米国の3大信用情報機関の1つである“Equifx”もAIGグループと類似の保障サービス(Equifax Credit WatchTM Gold )を提供している。個人負担ゼロで最大20,000ドル(制約あり)、その他の点もAIGの保障内容と類似している(利用金額は月額9.95ドル)。
(3)LexisNexisの例
2005年3月の30万人以上の個人情報の流失事件を起こしているリスク・情報分析の専門会社である同社であるが、一方でSISと似たレッド・フラッグ規則に対応するためのモニタリング・システムを提供している。同社のHPを見て気が付くようにとにかく米国の市民は“good man”であることが金融取引だけでなく就職、結婚等日常生活すべてにかかわってくるのである。そのような背景からも、“InstantIDⓇ”、“FraudDefenderⓇ”といったツールを用いながら、なりすまし詐欺から自分自身を守らなければならない米国社会の現状が浮かび上がってくる。
(筆者注15)わが国において、米国における消費者の生保・損保等各種保険料負担対策について詳しく解説しているものは少ない。“deductible”の1語だけでも的確な訳語がない。その背景には仕組みが複雑な点もあるが、連邦・州政府の保険政策とのからみもあり、これだけで論文が書けよう。機会を改める。
AIGの保険サービス約款(AIG Personal Internet Identity Coverage Policy)の保障内容には、収入保障、信用回復にかかる民事訴訟の弁護士費用、ローンの再登録にかかる費用等が含まれる。
〔参照URL〕
http://www.federalreserve.gov/boarddocs/srletters/2008/SR0807.htm#Footref2
http://www.fdic.gov/news/news/financial/2008/fil08105.html
http://www.bankinfosecurity.com/external/fil08105a.pdf
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米国の金融機関等の「なりすまし詐欺犯罪」対応規制強化の最新動向(その2)
(2)検査時における3項目についてのポイント
A.安全・健全性検査官(safety-and –soundness examiner)はレッド・フラッグ手続の遵守および消費者に対する法令遵守検査(compliance examiner)中で大幅な住所相違やクレジットカード等における住所変更について適切な確認が行なわれているかにつき、定期検査時において重点的に検査を行うこととなった。
B.「大幅な住所相違の取使ルール」は、金融機関を含む消費者信用情報のユーザーに対し、信用報告機関(consumer reporting agency)に対し(筆者注8)から大幅な住所相違の通知を受けたときに報告を求めた消費者に関する消費者報告確認を義務付けるものである。これに加えて、同ユーザーは自らが(a)消費者と継続的な関係を確立している場合、かつ(2)定期的に信用報告機関に対し大幅な住所変更に関する通知を提供している場合、ユーザーが合理的に確認できた消費者の住所を信用報告機関に提供するためのポリシーと手続の策定が義務付けられた。
C.「レッド・フラッグ」ルールは、金融機関に対し、対象となる口座について新規則によりカバーされるかたちで提供および維持されているかどうかについて定期的に決定することを求める。対象口座は一般的に金融機関がなりすまし詐欺のリスクを予測しうる消費者の口座またはその他の口座である。新規または既存の対象口座に関し、金融機関はなりすまし詐欺の調査、阻止および削減という観点から設計された文書によるなりすまし詐欺阻止プログラムの作成と適用を行わなければならない。このプログラムは各金融機関の業務の規模や複雑さに合致したものでなければならない。金融機関は「銀行機密報告法(Bank Secrecy Act:BSA)」(筆者注9)や「反マネー・ローンダリングのための遵守プログラム(Anti-money Laundering compliance programs )等の既存の遵守プログラムに加え、なりすまし詐欺プログラムの考案が求められることとなった。
D.クレジットカードやデビットカード発行業者は、カードの追加発行や交換の要求に際し、住所変更手続の有効性調査に関するポリシーや手続の策定を行わねばならない。そのような状況下で、カード発行者はそれらポリシーや手続に従った住所変更の有効性の調査が完了するまで、カードの追加発行や交換を行ってはならない。
2.米国の金融機関等の対応の遅れ
2008年6月20日にBank Systems &Technologyの報告におけるLexisNexisの詐欺・法遵守担当部長デブ・ガイスター(Deb Geister)氏のレポート等において多くの問題点が指摘されている
筆者も従来から感じている疑問であるが、米国の金融関係者も指摘しているとおりFRB等の規則は金融機関がどのように対応すべきかが非常に曖昧である。すなわち、金融機関が何をなすべきかについては述べているが、どのように実践すべきかについて述べていないのである。遵守期限のみ決めてあとは自分で考えろといういかにも権威主義的である。そこに目をつけてビジネスが入り込む余地を作るのがいかにも米国流であるが、批判が出るのは当然であろう。
2008年の春にLexisNexisが行った約1,100人の銀行員を対象としたアンケート調査では、84%はレッド・フラッグ・プロジェクトの取組みを開始していないかまたは、始めたばかりという状況であった。その原因の1つは、FFIECが策定した多要素認証(Multi- factor Authentication)の対応ガイダンスと比較して周知度が極めて低いという点である。
なお、11月1日の法遵守期限の意味について補足しておく。当該企業や組織に対し次のペナルティが科されるのである。(筆者注10)
①FTCによる連邦裁判所への法執行申立て:規則にもとづき個別違反行為に対し、最高2,500ドル(約243,000円)の罰金が科される。
②州の法執行機関:州監督機関は住民に代って訴えを起こすことができる。その場合、各違反行為ごとに最高1,000ドル(約97,000円)の損失補償請求が行われ、かつ原告勝訴の場合は弁護士費用も負担することとなる。
③消費者は、なりすまし詐欺の被害に対し法遵守違反に基づく損害実額の補償を求める民事裁判を起こせる。この場合、多くはクラス・アクションとなり巨額な損害賠償を求められるとともに、原告勝訴の場合は合理的な範囲の弁護士費用も負担することとなる。
3.米国の金融機関にみるシステム・サポートの取組みや信用情報機関の支援システムの導入状況
Fact Actのレッド・フラッグ・ルールは、マニュアルでもオートマティックでもかまわない。以下で具体例を紹介するが、ガイスター氏等は金融機関の既存のリスク・アセスメントに関する情報システム(例えばマネー・ローンダリング・チェックのための口座取引のモニタリング・システム)の再利用が考えられると述べており、これらの取組みを理解するうえで参考となろう。
(1)Secure Identity Systems社(SIS)の例
フォーブスは10月8日のニュースでケンタッキー州ワシントン郡に本部を置く地方銀行“Springfield State Bank”(FDIC加盟銀行)がSIS社の支援のもとで当初のリスク・アセスメント・プログラムに係るポリシーやレッド・フラッグ手続のマニュアルをカスタマイズし、併せて全取引口座について新規口座の認証システムや住所変更時の確認システムを提供したと報じている(10月30日のフォーブスは、さらにSISの利用銀行等が増加(Troy Bank&Trust(本部はアラバマ州)、First Tier Bank of Kimball(本部はネブラスカ州)した旨報じている。
なお、ロイター通信が4月21日に報じている4金融機関(Affinity Bank,Campo Federal Credit Union,First National Bank of East Park Jeffco Credit Union)に対するSISのシステム・教育支援もあり、今後他金融機関における対応でも話題となろう。(筆者注11)
(Fact Act 114条への対応)
SISは同銀行のBank Secrecy Act対応システムの内容を調査し、標準的な2様式以上の認証方法を採用できるようにした。つまり同行の顧客が新規に口座開設する際、新規口座所有者に関する最も適切かつ最新の情報を連邦社会保障庁(the Social Security Administration)、個人信用情報機関(credit bureau)および郡政府がそれぞれ独自に管理している資産税徴収システムのデータベース(local property database)等一連のデータベースに簡易にアクセスできるよう解決策を開発した。 同様に、顧客が既存口座の住所変更手続を求めたとき、SISの住所変更確認システムにより、7億件以上の記録データベースを数秒で検索し、関連するリスクの程度を特定するのである。同システムの利用により、銀行は詐欺師が違法に住所を変更したり、顧客口座の乗っ取りといった潜在的リスクの約25%を排除できることとした。
SISのHP では、「レッド・フラッグ」規則対応(Red Flag Ruling Solutions)について詳細な説明がなされているが、金融機関だけでなく家族、企業を詐欺被害から守るための解決策が紹介されている。企業の独自のノウハウの関連からあまり詳しい内容ではないが、参考までに項目と要旨のみ記しておく。
① 当初のリスク・アセスメント(BSAの要求内容、情報セキュリティ、なりすまし詐欺対応プログラムを含む当該金融機関の提供商品やサービスの一覧化、適所なリスク・コントロールが行われていない商品についてのギャップ分析(筆者注12)を用いる。
②対応組織が策定すべき「ポリシーと手続マニュアル」に関するガイダンス
OCCやFDICの前検査官の協力により作成したものである。主な内容は(a)レッド・フラッグ対応に関する確認・調査、(b)なりすまし詐欺の阻止・削減、(c)レッド・フラッグの警告・注意通知、(d)不自然・疑わしい行動とは、(e)住所変更後の重要な変更事項、(f)改ざん・偽造・疑わしい文書とは、(g)レッド・フラッグ・プログラムの更新
③新規口座の認証(New Account Authentication:All consumer accounts)
レッド・フラッグの新規則は金融機関等に対し、口座の新規開設時に必要とされる伝統的な2様式(筆者注13)のID確認事務の他に第三者機関のデータベースとの照合という更なる詳細な確認義務を追加した。SISは、リアルタイムで「全米三大信用情報機関(Equifax、Trans Union、 Experian)」「ビジネス向け消費者データベース」(筆者注14)「電話会社」「連邦社会保障庁」「消費者報告機関」「法執行機関」「郡資産管理局」「米国郵便公社」「財務省外国資産管理局(OFAC)」「州陸運局(DMV)」が管理する約7億の記録(毎月400記録が更新される)にアクセスできる。
SISの照合システムは2部に分れており、ユーザー機関は①「基本照会申込入力項目」として、SSN、フルネーム、現住所、生年月日が、また②「追加照会項目」として「電話番号」「運転免許証番号」「前住所」について照会が可能である。
④住所変更時の照合方法
SISの住所変更確認システムは、最高レベルの住所に合致する個人を特定してフラッグを立て、また使い勝手のよい認証の実践を通じてエラー率を20%以上減らした。また、従来に比べ確認手順の迅速化(レスポンスタイムは3秒以下)を図った。
(筆者注8)「消費者報告機関」と「個人信用情報機関」の意味の相違について補足しておく。
FACT Actの改正前法であるFCR Actは、わが国の信用情報機関に相当する「消費者報告機関(consumer reporting agency)」の取り扱う個人情報について規整している。同法は、消費者報告機関のほか、消費者報告機関に情報を提供する者、消費者報告機関から消費者報告の提供を受けてこれを利用する者を広く規整しており、対象は金融機関に限られない。FCR法の保護対象である、「消費者報告(consumer report)」は、個人・家族・家計向けの与信や保険、雇用目的、その他法令上認められる目的で消費者の適格性(eligibility)を判断するため、消費者報告機関が第三者に提供する、個人の信用度・信用残高・信用枠・人格・一般的評判・個人的な特徴・生活様式に関する消費者(consumer)の情報である(同法603条(d)(1))。消費者は個人を意味するため(同法603条(c))、法人の情報は含まれない。
消費者報告機関(消費者報告を定期的に第三者に提供する者)の代表例は、Equifax、ExperianTransUnion等の個人信用情報機関(credit bureau)であるが、これに該当するか否かは、消費者報告に該当し得る情報を定期的に第三者に提供しているか否かにより機能的に判断されるため、このような情報を定期的に第三者に提供する者は、消費者報告機関とみなされる可能性がある。消費者報告機関は、本人の書面による指示がある場合や、与信・雇用目的・保険の引受・支払能力の評価等の特定の目的で利用されると消費者報告機関が信じるに足る理由がある場合、公的機関の要請がある場合等、一定の場合を除き、第三者への情報提供が認められないうえ(FCR法604条(a)、607条(a))、消費者報告の正確性を確保する義務(同法607条(b))や本人からの請求に応じて消費者報告を開示する義務(同法609条(a))等を負うこととなる。また、センシティブ情報の一部である医療情報については特に厳格な規制がなされる。このため、金融機関は消費者報告機関に該当しないようにしていると指摘されている。なお、FACT法により、金融機関(GLB法(Gram-Leach Bliley Act of 1999)上の金融機関と同義)が、顧客の事故情報(negative information)を、全米規模で信用情報を取り扱う消費者報告機関に提供する場合には、本人に書面により通知することとされた(改正FCR法623条(a)(7)(A)
「金融機関のグループ化に関する法律問題研究会」報告書(日本銀行金融研究所/金融研究/2005.11)より抜粋(下線部は筆者の補足箇所)。
(筆者注9)“Bank Secrecy Act”は正確に言うと「銀行等に対する機密性が高くまたは不審な現金払いおよび海外との金融取引等に関する報告義務法」である。
http://fukuhei.blogspot.com/2006_09_01_archive.html
(筆者注10)この解説部分は、もともと7年前に大手会計監査会社がネットワークセキュリティのコンサルティング専門会社として立ち上げた組織を、最大手のセキュリティ対策専門会社McAfeeが2004年9月に買収した“Foundstone”サイトから引用した。Red Flags Ruleについて分かりやすく解説している。
http://www.foundstone.com/us/pdf/ProgDev/red_flag_rule_datasheet.pdfn b
(筆者注11)4金融機関の導入に関する記事内容は、Springfield State Bankの場合とは異なる点があり、併せて紹介しておく。
(筆者注12)リスク分析の手法の1つで、管理基準をチェックリストとし、基準からの差異(GAP)に基づき脆弱性を分析するもの。以下の算出式により、リスクを定量的に示す。リスク=資産価値×脅威×脆弱性
(筆者注13)米国銀行等において新規口座開設時に必要とされるID書類について触れておく。ここでは米国市民権をもっている場合についてのみ説明する。
(1)IDのための最優先的ID確認カード・文書
①写真つき有効期限内の運転免許証
②写真つき有効期限内の当該銀行が所在する州発行のIDカード
③有効期限内のパスポート
④有効な義務兵役IDカード
(2)IDのための第二次的ID確認カード・文書
①地方の短大の学生および教員IDカード
②公的被介護者IDカード
③有効期限内のクレジットやデビットカード
④銃等小火器所有者カード(FOID card)
⑤氏名および写真つき有効期限内IDカード
⑥出生証明書の証明つき写し(certified copy of birth certificate)
http://72.14.235.104/search?q=cache:vJ-qNkbhzFIJ:www.busey.com/pdfs/new_account.pdf+traditional+forns+identification+saving+account+active+ssn&hl=ja&ct=clnk&cd=19
(筆者注14)SISがいう“commercial consumer databases”について、具体的な企業名は不明である。筆者の推測であるが、例えば「データマン・グループ」等が該当するのではないか。マーケテイング手法が多種対応な米国ならではのビジネスであろう。
〔参照URL〕
http://www.federalreserve.gov/boarddocs/srletters/2008/SR0807.htm#Footref2
http://www.fdic.gov/news/news/financial/2008/fil08105.html
http://www.bankinfosecurity.com/external/fil08105a.pdf
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A.安全・健全性検査官(safety-and –soundness examiner)はレッド・フラッグ手続の遵守および消費者に対する法令遵守検査(compliance examiner)中で大幅な住所相違やクレジットカード等における住所変更について適切な確認が行なわれているかにつき、定期検査時において重点的に検査を行うこととなった。
B.「大幅な住所相違の取使ルール」は、金融機関を含む消費者信用情報のユーザーに対し、信用報告機関(consumer reporting agency)に対し(筆者注8)から大幅な住所相違の通知を受けたときに報告を求めた消費者に関する消費者報告確認を義務付けるものである。これに加えて、同ユーザーは自らが(a)消費者と継続的な関係を確立している場合、かつ(2)定期的に信用報告機関に対し大幅な住所変更に関する通知を提供している場合、ユーザーが合理的に確認できた消費者の住所を信用報告機関に提供するためのポリシーと手続の策定が義務付けられた。
C.「レッド・フラッグ」ルールは、金融機関に対し、対象となる口座について新規則によりカバーされるかたちで提供および維持されているかどうかについて定期的に決定することを求める。対象口座は一般的に金融機関がなりすまし詐欺のリスクを予測しうる消費者の口座またはその他の口座である。新規または既存の対象口座に関し、金融機関はなりすまし詐欺の調査、阻止および削減という観点から設計された文書によるなりすまし詐欺阻止プログラムの作成と適用を行わなければならない。このプログラムは各金融機関の業務の規模や複雑さに合致したものでなければならない。金融機関は「銀行機密報告法(Bank Secrecy Act:BSA)」(筆者注9)や「反マネー・ローンダリングのための遵守プログラム(Anti-money Laundering compliance programs )等の既存の遵守プログラムに加え、なりすまし詐欺プログラムの考案が求められることとなった。
D.クレジットカードやデビットカード発行業者は、カードの追加発行や交換の要求に際し、住所変更手続の有効性調査に関するポリシーや手続の策定を行わねばならない。そのような状況下で、カード発行者はそれらポリシーや手続に従った住所変更の有効性の調査が完了するまで、カードの追加発行や交換を行ってはならない。
2.米国の金融機関等の対応の遅れ
2008年6月20日にBank Systems &Technologyの報告におけるLexisNexisの詐欺・法遵守担当部長デブ・ガイスター(Deb Geister)氏のレポート等において多くの問題点が指摘されている
筆者も従来から感じている疑問であるが、米国の金融関係者も指摘しているとおりFRB等の規則は金融機関がどのように対応すべきかが非常に曖昧である。すなわち、金融機関が何をなすべきかについては述べているが、どのように実践すべきかについて述べていないのである。遵守期限のみ決めてあとは自分で考えろといういかにも権威主義的である。そこに目をつけてビジネスが入り込む余地を作るのがいかにも米国流であるが、批判が出るのは当然であろう。
2008年の春にLexisNexisが行った約1,100人の銀行員を対象としたアンケート調査では、84%はレッド・フラッグ・プロジェクトの取組みを開始していないかまたは、始めたばかりという状況であった。その原因の1つは、FFIECが策定した多要素認証(Multi- factor Authentication)の対応ガイダンスと比較して周知度が極めて低いという点である。
なお、11月1日の法遵守期限の意味について補足しておく。当該企業や組織に対し次のペナルティが科されるのである。(筆者注10)
①FTCによる連邦裁判所への法執行申立て:規則にもとづき個別違反行為に対し、最高2,500ドル(約243,000円)の罰金が科される。
②州の法執行機関:州監督機関は住民に代って訴えを起こすことができる。その場合、各違反行為ごとに最高1,000ドル(約97,000円)の損失補償請求が行われ、かつ原告勝訴の場合は弁護士費用も負担することとなる。
③消費者は、なりすまし詐欺の被害に対し法遵守違反に基づく損害実額の補償を求める民事裁判を起こせる。この場合、多くはクラス・アクションとなり巨額な損害賠償を求められるとともに、原告勝訴の場合は合理的な範囲の弁護士費用も負担することとなる。
3.米国の金融機関にみるシステム・サポートの取組みや信用情報機関の支援システムの導入状況
Fact Actのレッド・フラッグ・ルールは、マニュアルでもオートマティックでもかまわない。以下で具体例を紹介するが、ガイスター氏等は金融機関の既存のリスク・アセスメントに関する情報システム(例えばマネー・ローンダリング・チェックのための口座取引のモニタリング・システム)の再利用が考えられると述べており、これらの取組みを理解するうえで参考となろう。
(1)Secure Identity Systems社(SIS)の例
フォーブスは10月8日のニュースでケンタッキー州ワシントン郡に本部を置く地方銀行“Springfield State Bank”(FDIC加盟銀行)がSIS社の支援のもとで当初のリスク・アセスメント・プログラムに係るポリシーやレッド・フラッグ手続のマニュアルをカスタマイズし、併せて全取引口座について新規口座の認証システムや住所変更時の確認システムを提供したと報じている(10月30日のフォーブスは、さらにSISの利用銀行等が増加(Troy Bank&Trust(本部はアラバマ州)、First Tier Bank of Kimball(本部はネブラスカ州)した旨報じている。
なお、ロイター通信が4月21日に報じている4金融機関(Affinity Bank,Campo Federal Credit Union,First National Bank of East Park Jeffco Credit Union)に対するSISのシステム・教育支援もあり、今後他金融機関における対応でも話題となろう。(筆者注11)
(Fact Act 114条への対応)
SISは同銀行のBank Secrecy Act対応システムの内容を調査し、標準的な2様式以上の認証方法を採用できるようにした。つまり同行の顧客が新規に口座開設する際、新規口座所有者に関する最も適切かつ最新の情報を連邦社会保障庁(the Social Security Administration)、個人信用情報機関(credit bureau)および郡政府がそれぞれ独自に管理している資産税徴収システムのデータベース(local property database)等一連のデータベースに簡易にアクセスできるよう解決策を開発した。 同様に、顧客が既存口座の住所変更手続を求めたとき、SISの住所変更確認システムにより、7億件以上の記録データベースを数秒で検索し、関連するリスクの程度を特定するのである。同システムの利用により、銀行は詐欺師が違法に住所を変更したり、顧客口座の乗っ取りといった潜在的リスクの約25%を排除できることとした。
SISのHP では、「レッド・フラッグ」規則対応(Red Flag Ruling Solutions)について詳細な説明がなされているが、金融機関だけでなく家族、企業を詐欺被害から守るための解決策が紹介されている。企業の独自のノウハウの関連からあまり詳しい内容ではないが、参考までに項目と要旨のみ記しておく。
① 当初のリスク・アセスメント(BSAの要求内容、情報セキュリティ、なりすまし詐欺対応プログラムを含む当該金融機関の提供商品やサービスの一覧化、適所なリスク・コントロールが行われていない商品についてのギャップ分析(筆者注12)を用いる。
②対応組織が策定すべき「ポリシーと手続マニュアル」に関するガイダンス
OCCやFDICの前検査官の協力により作成したものである。主な内容は(a)レッド・フラッグ対応に関する確認・調査、(b)なりすまし詐欺の阻止・削減、(c)レッド・フラッグの警告・注意通知、(d)不自然・疑わしい行動とは、(e)住所変更後の重要な変更事項、(f)改ざん・偽造・疑わしい文書とは、(g)レッド・フラッグ・プログラムの更新
③新規口座の認証(New Account Authentication:All consumer accounts)
レッド・フラッグの新規則は金融機関等に対し、口座の新規開設時に必要とされる伝統的な2様式(筆者注13)のID確認事務の他に第三者機関のデータベースとの照合という更なる詳細な確認義務を追加した。SISは、リアルタイムで「全米三大信用情報機関(Equifax、Trans Union、 Experian)」「ビジネス向け消費者データベース」(筆者注14)「電話会社」「連邦社会保障庁」「消費者報告機関」「法執行機関」「郡資産管理局」「米国郵便公社」「財務省外国資産管理局(OFAC)」「州陸運局(DMV)」が管理する約7億の記録(毎月400記録が更新される)にアクセスできる。
SISの照合システムは2部に分れており、ユーザー機関は①「基本照会申込入力項目」として、SSN、フルネーム、現住所、生年月日が、また②「追加照会項目」として「電話番号」「運転免許証番号」「前住所」について照会が可能である。
④住所変更時の照合方法
SISの住所変更確認システムは、最高レベルの住所に合致する個人を特定してフラッグを立て、また使い勝手のよい認証の実践を通じてエラー率を20%以上減らした。また、従来に比べ確認手順の迅速化(レスポンスタイムは3秒以下)を図った。
(筆者注8)「消費者報告機関」と「個人信用情報機関」の意味の相違について補足しておく。
FACT Actの改正前法であるFCR Actは、わが国の信用情報機関に相当する「消費者報告機関(consumer reporting agency)」の取り扱う個人情報について規整している。同法は、消費者報告機関のほか、消費者報告機関に情報を提供する者、消費者報告機関から消費者報告の提供を受けてこれを利用する者を広く規整しており、対象は金融機関に限られない。FCR法の保護対象である、「消費者報告(consumer report)」は、個人・家族・家計向けの与信や保険、雇用目的、その他法令上認められる目的で消費者の適格性(eligibility)を判断するため、消費者報告機関が第三者に提供する、個人の信用度・信用残高・信用枠・人格・一般的評判・個人的な特徴・生活様式に関する消費者(consumer)の情報である(同法603条(d)(1))。消費者は個人を意味するため(同法603条(c))、法人の情報は含まれない。
消費者報告機関(消費者報告を定期的に第三者に提供する者)の代表例は、Equifax、ExperianTransUnion等の個人信用情報機関(credit bureau)であるが、これに該当するか否かは、消費者報告に該当し得る情報を定期的に第三者に提供しているか否かにより機能的に判断されるため、このような情報を定期的に第三者に提供する者は、消費者報告機関とみなされる可能性がある。消費者報告機関は、本人の書面による指示がある場合や、与信・雇用目的・保険の引受・支払能力の評価等の特定の目的で利用されると消費者報告機関が信じるに足る理由がある場合、公的機関の要請がある場合等、一定の場合を除き、第三者への情報提供が認められないうえ(FCR法604条(a)、607条(a))、消費者報告の正確性を確保する義務(同法607条(b))や本人からの請求に応じて消費者報告を開示する義務(同法609条(a))等を負うこととなる。また、センシティブ情報の一部である医療情報については特に厳格な規制がなされる。このため、金融機関は消費者報告機関に該当しないようにしていると指摘されている。なお、FACT法により、金融機関(GLB法(Gram-Leach Bliley Act of 1999)上の金融機関と同義)が、顧客の事故情報(negative information)を、全米規模で信用情報を取り扱う消費者報告機関に提供する場合には、本人に書面により通知することとされた(改正FCR法623条(a)(7)(A)
「金融機関のグループ化に関する法律問題研究会」報告書(日本銀行金融研究所/金融研究/2005.11)より抜粋(下線部は筆者の補足箇所)。
(筆者注9)“Bank Secrecy Act”は正確に言うと「銀行等に対する機密性が高くまたは不審な現金払いおよび海外との金融取引等に関する報告義務法」である。
http://fukuhei.blogspot.com/2006_09_01_archive.html
(筆者注10)この解説部分は、もともと7年前に大手会計監査会社がネットワークセキュリティのコンサルティング専門会社として立ち上げた組織を、最大手のセキュリティ対策専門会社McAfeeが2004年9月に買収した“Foundstone”サイトから引用した。Red Flags Ruleについて分かりやすく解説している。
http://www.foundstone.com/us/pdf/ProgDev/red_flag_rule_datasheet.pdfn b
(筆者注11)4金融機関の導入に関する記事内容は、Springfield State Bankの場合とは異なる点があり、併せて紹介しておく。
(筆者注12)リスク分析の手法の1つで、管理基準をチェックリストとし、基準からの差異(GAP)に基づき脆弱性を分析するもの。以下の算出式により、リスクを定量的に示す。リスク=資産価値×脅威×脆弱性
(筆者注13)米国銀行等において新規口座開設時に必要とされるID書類について触れておく。ここでは米国市民権をもっている場合についてのみ説明する。
(1)IDのための最優先的ID確認カード・文書
①写真つき有効期限内の運転免許証
②写真つき有効期限内の当該銀行が所在する州発行のIDカード
③有効期限内のパスポート
④有効な義務兵役IDカード
(2)IDのための第二次的ID確認カード・文書
①地方の短大の学生および教員IDカード
②公的被介護者IDカード
③有効期限内のクレジットやデビットカード
④銃等小火器所有者カード(FOID card)
⑤氏名および写真つき有効期限内IDカード
⑥出生証明書の証明つき写し(certified copy of birth certificate)
http://72.14.235.104/search?q=cache:vJ-qNkbhzFIJ:www.busey.com/pdfs/new_account.pdf+traditional+forns+identification+saving+account+active+ssn&hl=ja&ct=clnk&cd=19
(筆者注14)SISがいう“commercial consumer databases”について、具体的な企業名は不明である。筆者の推測であるが、例えば「データマン・グループ」等が該当するのではないか。マーケテイング手法が多種対応な米国ならではのビジネスであろう。
〔参照URL〕
http://www.federalreserve.gov/boarddocs/srletters/2008/SR0807.htm#Footref2
http://www.fdic.gov/news/news/financial/2008/fil08105.html
http://www.bankinfosecurity.com/external/fil08105a.pdf
Copyright (c)2006-2008 福田平冶 All Rights Reserved.
米国の金融機関等の「なりすまし詐欺犯罪」対応規制強化の最新動向(その1)
〔Summary in English〕
“The Fair and Accurate Credit Transactions Act of 2003(Fact Act)” of the United States taken up by this blog in July, 2006 .
The Federal Deposit Insurance Corporation (FDIC) and The Board of Governors of the Federal Reserve System (FRB) have issued“The Interagency Examination Procedures for the Identity Theft Red Flags and other Regulations under the Fair Credit Reporting Act(Fcr Act)“on October 10 ,2008, as a closing phase of the approach on "Red Flags" procedure and “address discrepancy rule”required of Section 114 and 316 of the Fact Act . The "Identity Theft" crime that is extending with evolution of the information technology society and international population movement in the United States and EU member states.
Not only the finance institutions but also the consumer reporting agencies has been extremely perplexed though it is that a financial regulator and FTC (Federal Trade Commission) has settled on extremely the important rule and guideline .
It should be noted that the package service that builds in concrete correspondence for information technology skill and financial former examiner's knowhow for the writing of the policy and the program that the business has been most perplexed, is established as a business as reported by the Reuters news April 21 and the Forbes on October 8, and financial institution users are increasing in the United States.
In this blog, I will illustrate the outline of the examination rule of a financial regulator on the current "Red flag" procedure and the content of the inspection made public in this time, and briefly introduce the content of the example of the match of the security development business and the law information service business that correspond of the above embarrassed issues.
In that sense, not only the credit card issuers but also the financial institutions and the consumer own improving consciousness of crisis to risk management becomes a lesson in "Swindle ..the shake.. ..putting.." of our country where damage doesn't decrease at all.
2006年7月の本ブログで詳しく取り上げた米国の「2003年信用取引の公正・適正化に関する法律(the Fair and Accurate Credit Transactions Act of 2003:Fact Act)」114条、315条に基づく「レッド・フラッグ」手順や大幅な住所相違通知等への取組みプログラムの最終段階として、2008年10月10日に連邦準備制度理事会(FRB)等は金融監督機関共通の検査手続(Interagency Examination Procedures)を公表した(連邦預金保険公社(FDIC)は2008年10月16日に公表している)。
「なりすまし詐欺」は米国やEU等ではIT社会の進化や国際的人口移動とともに広がる最大の取組課題となっていることは間違いない。米国連邦の金融監督機関やFTC(連邦取引委員会)が極めて重要な政策課題と位置づけて策定した行政規則やガイドラインであるが、強制遵守期限である2008年11月1日を間近にひかえ、金融界だけでなく信用報告機関の受け止め方は極めて困惑しているといえる。
しかし、米国らしさが発揮されるのは4月21日のロイター・ニュースや10月30日のフォーブス紙が報じているように、IT技術や前金融検査官のノウハウや企業が一番困惑しているポリシーやプログラムの策定という法令遵守義務のための具体的対応を組み込んだパッケージ・システム・サポート・サービスがITビジネスとして確立され、その利用金融機関が増加してきている点である。(筆者注1)
今回のブログでは、これまでの「レッド・フラッグ」手続きに関する金融監督機関の検討の経緯および今回公表された検査内容の概要について紹介し、併せてその対応に関し、前述したセキュリティ開発企業や法令情報サービス企業の取組例の内容について、簡単に解説する。
なお、わが国においても、マネー・ロンダリング対策として金融機関等における口座開設時の本人確認義務の厳格化や、2008年3月1日から「犯罪による収益の移転防止に関する法律」により、本人確認の義務の範囲や対象となる事業者の範囲が金融機関から拡大される部分などについて施行された。(筆者注2)
詐欺の手口は日々巧妙化する。わが国において「フィッシングに基づくなりすまし」「マネロンのチェックの回避のための口座売買」等が手口を変えながらますます増殖することは間違いなく、金融機関等のおける「疑わしい取引」報告義務の拡大や「振り込め詐欺」対策としての、不自然な口座の取引のモニタリング・システムといったシステム面の対応の要請が強まるのは時間の問題であろう。
なお、2009年中に施行される割賦販売法の一部改正に基づくクレジット業者規制の強化(消費者信用情報機関利用の義務付け)は、わが国でも欧米型のなりすまし詐欺のリスクが広がることを予測させる。
その意味で、金融機関やクレジット業者のみでなく消費者自らがリスク管理に対する危機意識を高めることが、被害が一向に減らないわが国の「振り込め詐欺」での教訓となろう。
今回も原稿量が多くなり3回に分けて掲載する。
1.米国金融監督機関等における「なりすまし詐欺」の早期予知・警戒情報整備に対する規則制定の経緯
(1)今までの経緯に即して最近時の主な対応内容を中心に述べると、次の通りとなる。(筆者注3)
A. 2006年7月18日に、FDIC等連邦金融監督機関と連邦取引委員会(FTC)は連名でFact Actに基づく①金融機関向け適用・解釈ガイドライン、②金融機関のガイドライン適用時の監督機関の規則、③金融機関の取締役会等を含む組織的対応プログラムのあり方等に関する草案を公表した(パブリック・コメント期間は2006年9月18日まで)。(筆者注4)
B.2007年4月11日に、FDICは「なりすまし詐欺」に対する監督ポリシーを公表した。
C.2007年11月9日に、FDIC等5監督機関とFTCは連名で「レッド・フラッグ」と大幅な住所相違(address discrepancies)等の取扱いに関する最終共通行政規則およびガイドラインを公表した。同規則は、金融機関やクレジット業者(creditors)ならびにクレジットやデビットカード発行業者に対し、①消費者信用情報の利用ユーザーに対する住所の大幅な相違についての通知の中で、合理的な範囲での本人確認義務(address discrepancy rule)(12 CFR 222.82)、②金融機関に対するなりすまし詐欺の調査、阻止および削減に関する協力義務(identity theft red flags rule)(12 CFR 222.90)、③クレジット・デビットカード発行業者の住所変更の有効性を調査する義務(card issuer rule)(12 CFR 222.91)の3つをコアとする要求を行っている。
ガイドライン(Appendix J)の追補A (Federal Register / Vol. 72, No. 217の63755頁以下)において、金融機関やクレジット業者が阻止プログラムに協同して取組むため、26項目の「レッド・フラッグ」のリスト(筆者注5)を参考掲示した。
D.2008年1月1日に諸行政規則とガイドラインが施行され、2008年11月1日に金融機関の遵守が義務化(mandatory compliance)された。なお、FTCは2007年11月の規則やガイドラインに基づく書面プログラムの作成義務について、監督下にあるノンバンクのクレジット業者や州免許の信用組合のなりすまし詐欺阻止のプログラム策定の遅れを認め、10月22日付けで「レッド・フラグ規則」の遵守期限を2009年5月1日に6か月延期するとの決定を行っている。(筆者注6)(筆者注7)
これにより、FDIC等やFTCは「なりすまし詐欺」に対するリスク管理という観点から金融機関に対する検査内容を強化することとなった。
(筆者注1)米国の代表的銀行協会“American Bankers Association(ABA)”も、レッド・フラッグ・ルールの対応・導入に関するガイダンス CD-ROMをオンライン販売している。CD-ROM中の説明者はABAの幹部のほかLexisNexisの詐欺問題担当部長Deb Geister氏、FDICの上級アナリスト、銀行の副頭取であり、価格は会員金融機関が255ドル、非会員は385ドルである。
(筆者注2) 2008年3月1日施行の「犯罪収益移転防止法(Act on Prevention Transfer of Criminal Process of 2007)の制定により、届出対象事業者が、従来の金融機関等からファイナンス・リース業者、クレジット・カード業者、宅地建物取引業者、貴金属等取引業者、郵便物受取・電話受付サービス業者等に拡大されたほか、金融庁(特定金融情報室)に設置されていたFIU機能が国家公安委員会・警察庁の「刑事局組織犯罪対策部犯罪収益移転防止管理官(JAFIC)」に移管した。JAFICは、全国各地の金融機関等から届け出られたマネー・ローンダリングの疑いがある取引情報を様々な角度から分析し、捜査機関に捜査の端緒となるべき情報を提供している。JAFICは、所管行政庁や捜査機関等との定期的な情報交換を行うなど連携を取り合いながら、効果的なマネー・ローンダリング対策を検討するとともに、特定事業者が疑わしい取引の届出を行う際の判断基準となる「疑わしい取引の参考事例」などについて、所管行政庁と連携をしながら順次公開し、疑わしい取引の届出制度の適切な運用ができるよう活動を行っている。
(筆者注3)FDICのID詐欺への取組みは、厳密に言うと2001年3月から始まっている。参考までにトッピックスを紹介しておく。
FIL-22-2006, Prohibition Against Discrimination in Credit Transactions, issued March 9, 2006
FIL-27-2005, Guidance on Response Programs for Unauthorized Access to Customer Information and Customer Notice, issued April 1, 2005
FIL-7-2005, Guidelines Requiring the Proper Disposal of Consumer Information, issued February 2, 2005
FIL-22-2001, Guidelines Establishing Standards for Safeguarding Customer Information, issued March 14, 2001
(筆者注4)2006年7月18日に公表されたFDIC等連邦金融監督機関と連邦取引委員会(FTC)が連名でFact Actに基づきIdentity theft阻止に関し金融機関等に義務化する具体的対応に関する規則やガイドラインについては、同年7月の本ブログで詳しく紹介した。今回の内容と併せて読んで欲しい。
(筆者注5)既存または変更の行われる対象口座に対する「なりすまし詐欺」の調査、阻止および軽減させるプログラムの作成を支援させるため、レッド・フラッグを掲げるための26の例示の内容を紹介している。「詐欺」行為の兆候を事前に予見することは極めて困難な問題であるが、わずかな不自然さを見逃さない日常的な訓練が必要であることは、わが国の金融機関や捜査機関の場合も同様といえよう。
(筆者注6)FTCの遵守期限の6か月延期の理由について、FTCの10月22日のリリース等の情報に基づき補足しておく。FTCの最近の調査では自動車デーラー、公益企業、不動産担保ブローカー、電話会社、非営利政府機関等事業遂行上で個人信用情報に依存している事業者は全米で約1,100万におよぶ。議会はFact Actに言う「クレジット業者」を極めて広く定義したため、FTCがなりすまし阻止プログラムへの取組みについて実態調査した結果、プログラムの策定開発義務について十分認識していない企業が多いことが判明した。また、また全米信用組合協会(CUNA)によると、FTCの監督下にある州免許信用組合のみFTCの規則により延期の影響を受ける一方で、信用組合の監督機関である全米信用組合管理庁(NCUA)(筆者注7)の監督下にある信用組合は原則とおり2008年11月1日が遵守期限である。
(筆者補足:今回のFTCの延期措置の意味するところは、FTCは6か月間は遵守違反にもとづく公訴を行わないということであって、本文2.詐欺被害者の原告弁護士(plaintiff attorney)によるクラス・アクションといった訴訟リスクがなくなるわけではない)。
また、「レッド・フラグ手順」と同時に対応が義務付けられる「大幅な住所相違報告ルール(address discrepancy rule)」についても延期は行わない。
(筆者注7)全米信用組合管理庁(NCUA)のわが国の訳語を見ると区々である。「信用組合連盟(NCUA)」や「全米信用連盟」(野村資本市場研究所の訳)、「連邦監督局のNCUA」(農林中金総合研究所の訳)、「信用組合管理局」(reuters.jpの訳)、「国法クレジットユニオン監督庁」(国立国会図書館の訳)等である。NCUAのHPで確認すると“The National Credit Union Administration (NCUA) is the independent federal agency that charters and supervises federal credit unions.”である。読者はどの訳語が正確と思われるか。
〔参照URL〕
http://www.federalreserve.gov/boarddocs/srletters/2008/SR0807.htm#Footref2
http://www.fdic.gov/news/news/financial/2008/fil08105.html
http://www.bankinfosecurity.com/external/fil08105a.pdf
Copyright (c)2006-2008 福田平冶 All Rights Reserved.
“The Fair and Accurate Credit Transactions Act of 2003(Fact Act)” of the United States taken up by this blog in July, 2006 .
The Federal Deposit Insurance Corporation (FDIC) and The Board of Governors of the Federal Reserve System (FRB) have issued“The Interagency Examination Procedures for the Identity Theft Red Flags and other Regulations under the Fair Credit Reporting Act(Fcr Act)“on October 10 ,2008, as a closing phase of the approach on "Red Flags" procedure and “address discrepancy rule”required of Section 114 and 316 of the Fact Act . The "Identity Theft" crime that is extending with evolution of the information technology society and international population movement in the United States and EU member states.
Not only the finance institutions but also the consumer reporting agencies has been extremely perplexed though it is that a financial regulator and FTC (Federal Trade Commission) has settled on extremely the important rule and guideline .
It should be noted that the package service that builds in concrete correspondence for information technology skill and financial former examiner's knowhow for the writing of the policy and the program that the business has been most perplexed, is established as a business as reported by the Reuters news April 21 and the Forbes on October 8, and financial institution users are increasing in the United States.
In this blog, I will illustrate the outline of the examination rule of a financial regulator on the current "Red flag" procedure and the content of the inspection made public in this time, and briefly introduce the content of the example of the match of the security development business and the law information service business that correspond of the above embarrassed issues.
In that sense, not only the credit card issuers but also the financial institutions and the consumer own improving consciousness of crisis to risk management becomes a lesson in "Swindle ..the shake.. ..putting.." of our country where damage doesn't decrease at all.
2006年7月の本ブログで詳しく取り上げた米国の「2003年信用取引の公正・適正化に関する法律(the Fair and Accurate Credit Transactions Act of 2003:Fact Act)」114条、315条に基づく「レッド・フラッグ」手順や大幅な住所相違通知等への取組みプログラムの最終段階として、2008年10月10日に連邦準備制度理事会(FRB)等は金融監督機関共通の検査手続(Interagency Examination Procedures)を公表した(連邦預金保険公社(FDIC)は2008年10月16日に公表している)。
「なりすまし詐欺」は米国やEU等ではIT社会の進化や国際的人口移動とともに広がる最大の取組課題となっていることは間違いない。米国連邦の金融監督機関やFTC(連邦取引委員会)が極めて重要な政策課題と位置づけて策定した行政規則やガイドラインであるが、強制遵守期限である2008年11月1日を間近にひかえ、金融界だけでなく信用報告機関の受け止め方は極めて困惑しているといえる。
しかし、米国らしさが発揮されるのは4月21日のロイター・ニュースや10月30日のフォーブス紙が報じているように、IT技術や前金融検査官のノウハウや企業が一番困惑しているポリシーやプログラムの策定という法令遵守義務のための具体的対応を組み込んだパッケージ・システム・サポート・サービスがITビジネスとして確立され、その利用金融機関が増加してきている点である。(筆者注1)
今回のブログでは、これまでの「レッド・フラッグ」手続きに関する金融監督機関の検討の経緯および今回公表された検査内容の概要について紹介し、併せてその対応に関し、前述したセキュリティ開発企業や法令情報サービス企業の取組例の内容について、簡単に解説する。
なお、わが国においても、マネー・ロンダリング対策として金融機関等における口座開設時の本人確認義務の厳格化や、2008年3月1日から「犯罪による収益の移転防止に関する法律」により、本人確認の義務の範囲や対象となる事業者の範囲が金融機関から拡大される部分などについて施行された。(筆者注2)
詐欺の手口は日々巧妙化する。わが国において「フィッシングに基づくなりすまし」「マネロンのチェックの回避のための口座売買」等が手口を変えながらますます増殖することは間違いなく、金融機関等のおける「疑わしい取引」報告義務の拡大や「振り込め詐欺」対策としての、不自然な口座の取引のモニタリング・システムといったシステム面の対応の要請が強まるのは時間の問題であろう。
なお、2009年中に施行される割賦販売法の一部改正に基づくクレジット業者規制の強化(消費者信用情報機関利用の義務付け)は、わが国でも欧米型のなりすまし詐欺のリスクが広がることを予測させる。
その意味で、金融機関やクレジット業者のみでなく消費者自らがリスク管理に対する危機意識を高めることが、被害が一向に減らないわが国の「振り込め詐欺」での教訓となろう。
今回も原稿量が多くなり3回に分けて掲載する。
1.米国金融監督機関等における「なりすまし詐欺」の早期予知・警戒情報整備に対する規則制定の経緯
(1)今までの経緯に即して最近時の主な対応内容を中心に述べると、次の通りとなる。(筆者注3)
A. 2006年7月18日に、FDIC等連邦金融監督機関と連邦取引委員会(FTC)は連名でFact Actに基づく①金融機関向け適用・解釈ガイドライン、②金融機関のガイドライン適用時の監督機関の規則、③金融機関の取締役会等を含む組織的対応プログラムのあり方等に関する草案を公表した(パブリック・コメント期間は2006年9月18日まで)。(筆者注4)
B.2007年4月11日に、FDICは「なりすまし詐欺」に対する監督ポリシーを公表した。
C.2007年11月9日に、FDIC等5監督機関とFTCは連名で「レッド・フラッグ」と大幅な住所相違(address discrepancies)等の取扱いに関する最終共通行政規則およびガイドラインを公表した。同規則は、金融機関やクレジット業者(creditors)ならびにクレジットやデビットカード発行業者に対し、①消費者信用情報の利用ユーザーに対する住所の大幅な相違についての通知の中で、合理的な範囲での本人確認義務(address discrepancy rule)(12 CFR 222.82)、②金融機関に対するなりすまし詐欺の調査、阻止および削減に関する協力義務(identity theft red flags rule)(12 CFR 222.90)、③クレジット・デビットカード発行業者の住所変更の有効性を調査する義務(card issuer rule)(12 CFR 222.91)の3つをコアとする要求を行っている。
ガイドライン(Appendix J)の追補A (Federal Register / Vol. 72, No. 217の63755頁以下)において、金融機関やクレジット業者が阻止プログラムに協同して取組むため、26項目の「レッド・フラッグ」のリスト(筆者注5)を参考掲示した。
D.2008年1月1日に諸行政規則とガイドラインが施行され、2008年11月1日に金融機関の遵守が義務化(mandatory compliance)された。なお、FTCは2007年11月の規則やガイドラインに基づく書面プログラムの作成義務について、監督下にあるノンバンクのクレジット業者や州免許の信用組合のなりすまし詐欺阻止のプログラム策定の遅れを認め、10月22日付けで「レッド・フラグ規則」の遵守期限を2009年5月1日に6か月延期するとの決定を行っている。(筆者注6)(筆者注7)
これにより、FDIC等やFTCは「なりすまし詐欺」に対するリスク管理という観点から金融機関に対する検査内容を強化することとなった。
(筆者注1)米国の代表的銀行協会“American Bankers Association(ABA)”も、レッド・フラッグ・ルールの対応・導入に関するガイダンス CD-ROMをオンライン販売している。CD-ROM中の説明者はABAの幹部のほかLexisNexisの詐欺問題担当部長Deb Geister氏、FDICの上級アナリスト、銀行の副頭取であり、価格は会員金融機関が255ドル、非会員は385ドルである。
(筆者注2) 2008年3月1日施行の「犯罪収益移転防止法(Act on Prevention Transfer of Criminal Process of 2007)の制定により、届出対象事業者が、従来の金融機関等からファイナンス・リース業者、クレジット・カード業者、宅地建物取引業者、貴金属等取引業者、郵便物受取・電話受付サービス業者等に拡大されたほか、金融庁(特定金融情報室)に設置されていたFIU機能が国家公安委員会・警察庁の「刑事局組織犯罪対策部犯罪収益移転防止管理官(JAFIC)」に移管した。JAFICは、全国各地の金融機関等から届け出られたマネー・ローンダリングの疑いがある取引情報を様々な角度から分析し、捜査機関に捜査の端緒となるべき情報を提供している。JAFICは、所管行政庁や捜査機関等との定期的な情報交換を行うなど連携を取り合いながら、効果的なマネー・ローンダリング対策を検討するとともに、特定事業者が疑わしい取引の届出を行う際の判断基準となる「疑わしい取引の参考事例」などについて、所管行政庁と連携をしながら順次公開し、疑わしい取引の届出制度の適切な運用ができるよう活動を行っている。
(筆者注3)FDICのID詐欺への取組みは、厳密に言うと2001年3月から始まっている。参考までにトッピックスを紹介しておく。
FIL-22-2006, Prohibition Against Discrimination in Credit Transactions, issued March 9, 2006
FIL-27-2005, Guidance on Response Programs for Unauthorized Access to Customer Information and Customer Notice, issued April 1, 2005
FIL-7-2005, Guidelines Requiring the Proper Disposal of Consumer Information, issued February 2, 2005
FIL-22-2001, Guidelines Establishing Standards for Safeguarding Customer Information, issued March 14, 2001
(筆者注4)2006年7月18日に公表されたFDIC等連邦金融監督機関と連邦取引委員会(FTC)が連名でFact Actに基づきIdentity theft阻止に関し金融機関等に義務化する具体的対応に関する規則やガイドラインについては、同年7月の本ブログで詳しく紹介した。今回の内容と併せて読んで欲しい。
(筆者注5)既存または変更の行われる対象口座に対する「なりすまし詐欺」の調査、阻止および軽減させるプログラムの作成を支援させるため、レッド・フラッグを掲げるための26の例示の内容を紹介している。「詐欺」行為の兆候を事前に予見することは極めて困難な問題であるが、わずかな不自然さを見逃さない日常的な訓練が必要であることは、わが国の金融機関や捜査機関の場合も同様といえよう。
(筆者注6)FTCの遵守期限の6か月延期の理由について、FTCの10月22日のリリース等の情報に基づき補足しておく。FTCの最近の調査では自動車デーラー、公益企業、不動産担保ブローカー、電話会社、非営利政府機関等事業遂行上で個人信用情報に依存している事業者は全米で約1,100万におよぶ。議会はFact Actに言う「クレジット業者」を極めて広く定義したため、FTCがなりすまし阻止プログラムへの取組みについて実態調査した結果、プログラムの策定開発義務について十分認識していない企業が多いことが判明した。また、また全米信用組合協会(CUNA)によると、FTCの監督下にある州免許信用組合のみFTCの規則により延期の影響を受ける一方で、信用組合の監督機関である全米信用組合管理庁(NCUA)(筆者注7)の監督下にある信用組合は原則とおり2008年11月1日が遵守期限である。
(筆者補足:今回のFTCの延期措置の意味するところは、FTCは6か月間は遵守違反にもとづく公訴を行わないということであって、本文2.詐欺被害者の原告弁護士(plaintiff attorney)によるクラス・アクションといった訴訟リスクがなくなるわけではない)。
また、「レッド・フラグ手順」と同時に対応が義務付けられる「大幅な住所相違報告ルール(address discrepancy rule)」についても延期は行わない。
(筆者注7)全米信用組合管理庁(NCUA)のわが国の訳語を見ると区々である。「信用組合連盟(NCUA)」や「全米信用連盟」(野村資本市場研究所の訳)、「連邦監督局のNCUA」(農林中金総合研究所の訳)、「信用組合管理局」(reuters.jpの訳)、「国法クレジットユニオン監督庁」(国立国会図書館の訳)等である。NCUAのHPで確認すると“The National Credit Union Administration (NCUA) is the independent federal agency that charters and supervises federal credit unions.”である。読者はどの訳語が正確と思われるか。
〔参照URL〕
http://www.federalreserve.gov/boarddocs/srletters/2008/SR0807.htm#Footref2
http://www.fdic.gov/news/news/financial/2008/fil08105.html
http://www.bankinfosecurity.com/external/fil08105a.pdf
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2008年10月13日月曜日
“EU加盟国におけるソーシャル・ネットワークキング(SNS)の成功と挑戦”等EUの取組み(その4完)
12.EUの取組み
欧州連合は、加盟27か国の協力のもとで「欧州安全なインターネット環境ネットワーク(the Europe-wide awareness network:INSAFE 」(筆者注18)による意識改革活動を通じて、この問題に取組んでいる。このネットワークの活動は両親、教師や子供に変化を与えることを目指している。
INSAFEによって組織化された活動の代表的なイベント(毎年開催)が“Safer Internet Day”である。2008年は50か国以上100の機関が参加し本当に国際的なイベントとなった。2007年のイベントでは、デンマークのティーンエイジャーが良く利用するデンマークを拠点とするSNSサイトと協力して非常にうまく行っているキャンペーンを立ち上げた。そのキャンペーンは「アンチ・ヒーロー」というタイトルで個人情報や友達のビデオを流し、ありとあらゆる悪さを行うといったユーモアたっぷりのものであった。2009年2月10日に次回の“Safer Internet Day”が始まる。
欧州委員会は、子供のオンライン利用時の安全性の強化するための努力を続ける。委員会が提案した2009年から2013年を新たな期間とするより安全なインターネット・プログラム(サイバーいじめやその教育対策等で特にSNSを通じて広がったリスクを排除することが目的)が、2008年末までに欧州議会と閣僚理事会において採択されることを希望する。
13.まとめ
SNSは我々に1枚のコインの両面を与える。一方で、SNSはITの新技術を使い理解するといった変化をもたらした。我々をインターネットの活発なユーザーに変え、オンラインで新しい様式の芸術を作るための特殊技能が必要でないことを示した。またSNSは、我々の、①社会的関係、②どのように仕事を得るか、③情報をどのように探すか等についても変化をもたらした。そうすることで、SNSは現実社会やオフラインの世界の市民と同じくらいにオンライン世界の市民であるデジタル時代に生まれた子供や若人の日々の生活に影響を与えてきた。
他方で我々はデジタル社会が子供や若人のプライバシー権を尊重し可能な限り安全であるよう保証しなければならない。若年層に人々が自分自身を表現することを許し、またSNSが提供する多くの機会に接する利益がいかに重要かを忘れてはならない。
このことが、我々が若い世代に①リスク、②権利に関する情報や③彼ら自身を守るためのツールを提供しなければならない理由である。そして、我々は我々自身が彼らの考え方、要求、不満ならびに大変大事なのは彼らの助言に耳を貸すといったかたちで相互のコミュニケーションのチャンネルを常に開いておくということである。
私は今回参加された皆さんが、我々の責任をすべて理解されていると信じる。2009年2月に開かれる“Safer Internet Day”までにSNSが未成年者の保護やデータのプライバシー保護に関する自主規制に取組み、適宜な「行動規範(code of conduct)」を持つことを期待する。そのことが、EU全体でSNSを前進させる重要なステップとなろう。
(筆者注18)“insafe”は、要するにEU加盟国が協力して安全なIT社会特に若年層の保護を狙いとするネットワーク拠点である。実際アクセスしてみると分かるが、各国の情報拠点との接続やEU加盟各国(25か国)へのヴァーチャルツアー接続ができる。試しに英国の国旗フラッグをクリックしてみた。主人公の名前の紹介からはじまり、“detail” というタイトルのアニメが始まった。要するに「個人情報は簡単に他人に渡してはいけないよ!」という内容である。マイクロソフトが作成したもので大変楽しくかつ教育的配慮が気に入った。このほかに、違法なSNSのコンテンツの報告サイト(国際インターネットホットライン協会の報告サイト(inhope)にリンクする。当然ながら、EU以外のわが国や米国、台湾、韓国など35か国がリンク対象国になっている)やFAQによる解説など、わが国でも多くの参考となる内容が盛り込まれている。
〔参照URL〕
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=SPEECH/08/465&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/08/587&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
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欧州連合は、加盟27か国の協力のもとで「欧州安全なインターネット環境ネットワーク(the Europe-wide awareness network:INSAFE 」(筆者注18)による意識改革活動を通じて、この問題に取組んでいる。このネットワークの活動は両親、教師や子供に変化を与えることを目指している。
INSAFEによって組織化された活動の代表的なイベント(毎年開催)が“Safer Internet Day”である。2008年は50か国以上100の機関が参加し本当に国際的なイベントとなった。2007年のイベントでは、デンマークのティーンエイジャーが良く利用するデンマークを拠点とするSNSサイトと協力して非常にうまく行っているキャンペーンを立ち上げた。そのキャンペーンは「アンチ・ヒーロー」というタイトルで個人情報や友達のビデオを流し、ありとあらゆる悪さを行うといったユーモアたっぷりのものであった。2009年2月10日に次回の“Safer Internet Day”が始まる。
欧州委員会は、子供のオンライン利用時の安全性の強化するための努力を続ける。委員会が提案した2009年から2013年を新たな期間とするより安全なインターネット・プログラム(サイバーいじめやその教育対策等で特にSNSを通じて広がったリスクを排除することが目的)が、2008年末までに欧州議会と閣僚理事会において採択されることを希望する。
13.まとめ
SNSは我々に1枚のコインの両面を与える。一方で、SNSはITの新技術を使い理解するといった変化をもたらした。我々をインターネットの活発なユーザーに変え、オンラインで新しい様式の芸術を作るための特殊技能が必要でないことを示した。またSNSは、我々の、①社会的関係、②どのように仕事を得るか、③情報をどのように探すか等についても変化をもたらした。そうすることで、SNSは現実社会やオフラインの世界の市民と同じくらいにオンライン世界の市民であるデジタル時代に生まれた子供や若人の日々の生活に影響を与えてきた。
他方で我々はデジタル社会が子供や若人のプライバシー権を尊重し可能な限り安全であるよう保証しなければならない。若年層に人々が自分自身を表現することを許し、またSNSが提供する多くの機会に接する利益がいかに重要かを忘れてはならない。
このことが、我々が若い世代に①リスク、②権利に関する情報や③彼ら自身を守るためのツールを提供しなければならない理由である。そして、我々は我々自身が彼らの考え方、要求、不満ならびに大変大事なのは彼らの助言に耳を貸すといったかたちで相互のコミュニケーションのチャンネルを常に開いておくということである。
私は今回参加された皆さんが、我々の責任をすべて理解されていると信じる。2009年2月に開かれる“Safer Internet Day”までにSNSが未成年者の保護やデータのプライバシー保護に関する自主規制に取組み、適宜な「行動規範(code of conduct)」を持つことを期待する。そのことが、EU全体でSNSを前進させる重要なステップとなろう。
(筆者注18)“insafe”は、要するにEU加盟国が協力して安全なIT社会特に若年層の保護を狙いとするネットワーク拠点である。実際アクセスしてみると分かるが、各国の情報拠点との接続やEU加盟各国(25か国)へのヴァーチャルツアー接続ができる。試しに英国の国旗フラッグをクリックしてみた。主人公の名前の紹介からはじまり、“detail” というタイトルのアニメが始まった。要するに「個人情報は簡単に他人に渡してはいけないよ!」という内容である。マイクロソフトが作成したもので大変楽しくかつ教育的配慮が気に入った。このほかに、違法なSNSのコンテンツの報告サイト(国際インターネットホットライン協会の報告サイト(inhope)にリンクする。当然ながら、EU以外のわが国や米国、台湾、韓国など35か国がリンク対象国になっている)やFAQによる解説など、わが国でも多くの参考となる内容が盛り込まれている。
〔参照URL〕
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=SPEECH/08/465&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/08/587&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
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“EU加盟国におけるソーシャル・ネットワークキング(SNS)の成功と挑戦”等EUの取組み(その3)
9.若年層のSNSの利用状況
若年層はSNSをとり取り込むことが早い。EUにおけるインターネット・ユーザーの平均年齢は過去数年間で低下した。9歳から10歳の子供は現在1週間に数回オンライン接続する。12歳から14歳は毎日1~3時間インターネットを利用している。彼らの主たる活動目的はチャット、インスタント・メッセージングやSNSを介したコミュニケーションであろうか。
デンマーク、英国やイタリアの研究では、ほとんどの子供や若年層が既存の友達関係を維持するとともに社会的関係の強化を意図してSNSを利用しているといわれている。若年層はSNSが既存の友人関係と旧友との接触を管理する上での効果的手段であると見ている。最近のサイバー・メディア法の研究者(筆者注13)「デジタル時代に生まれた第一世代の子供たちを理解するために(Born Digital:Understanding the First Generation of Digital Natives)」が指摘しているように、若年層はいつでもネットワーク技術にアクセスでき、自分たちの両親とは異なる情報、友情やプライバシーといった問題を経験している。我々はこのような新しい状況を考慮しておく必要がある。デジタル第一世代(digital natives)は創造的かつ参加型である。このことは、彼らにリスクとともに新たな自由をもたらす。従って、このことは我々が若年層が安全なかたちで自由を得られることを保障するため協同的な取組みを行う理由といえる。
“Safer Internet Programme”の中で欧州委員会が立ち上げたパブリック・コメント募集に対し、アイルランドの10代の若者の関心事について共有したい。すなわち「アイルランド国際青年助言議会(International Youth Advisory Congress)」のコメント(筆者注14)の中で子供たちがオンラインで遭遇する主たるリスクの1つである「サイバーいじめ(cyber-bullying)」について言及している点である。
10.段階的自主性の確保、過保護はだめ
子供たちを保護するために我々は何をすべきか。まず過保護になってはいけない。子供は18歳になると大人になる、我々は信頼性と独立性に向い合えるよう彼らに準備をさせなければならない。我々は非常に幼い子供を保護することから始まり年長の子供にはある程度の権限をあたえるという段階的対応を取るべきである。子供によるSNS利用上の問題について利用可能な研究は少ないが、いくつかの統計的数字について述べておく。デンマークの研究では12歳から18歳のSNSユーザーの31.5%がインターネット利用時に見知らぬ人からいやな経験を受けているとされている。またイタリアの研究では、SNSのユーザーの32.8%が少なくとも1つの不快(ポルノ的な内容、攻撃的なメッセージおよびセクシャル・ハラスメント)な経験をオンライン中に経験している。ユーザーの何人かは本人の同意なしに個人情報をばら撒かれたり、ヌード写真をSNS上で掲載されたというものである。
ソニア・リヴィングストン教授(筆者注15)が指摘しているとおり、我々は「脆弱性があり、認識面や技術がもたらす社会的発達の過程ですばらしいが一面もろさを持つ子供達を守り」かつ「子供たちはメデイアに精通する技術を持ちながら、彼らの周辺にいる大人たちから過小評価されるため、自らの権利で行動する有能かつ創造的なエージェントであること」を理解しなくてはならない。
では、我々は潜在的なオンライン・リスクから若年層を守るため子供や青年の生活にどの範囲で干渉すべきであろうか。これに関し年齢確認、クロス・メデイア格付け(区分)について欧州委員会が行ったパブリック・コメント募集に対し、70件の意見が寄せられた。これらの提案中から2008年の“Safer Internet Forum”において、委員会は①SNSへの関与のあり方、②年齢確認の2点について議論に取組んだ。
11.フォーラムでの具体的論議
①効果的年齢確認について
加盟各国におけるインターネット・ユーザー、特に未成年がアダルト向けの内容サイトにアクセスしたりアダルト商品を購入するときの年齢確認について昨日のフォーラムでは具体的ツール、技術的ならびに法的な挑戦の試みについて議論した。
最近の英国の研究(英国「通信庁(Ofcom:Office of Communications)」)
(筆者注16)によると通常、主要なSNSの登録最低年齢が13歳(MySpaceの場合は14歳)にもかかわらず、8歳から11歳の27%がSNSサイトにプロフィールを持っていた。1回目の年齢確認で登録拒否された場合、2回目の登録を拒否するといった登録の規制に関する方法も役に立つかもしれない。しかし、現実に戻ってみよう。未成年の登録を完全に阻止するのは現状では不可能である。インターネット業界は彼らのサービスを利用する未成年を保護することで先見的役割を果たすべきである。私は利害関係者により広く受け入れられて有効な実効性が保証される限り業界自主規制(self-regulation)の支持者である。
業界による自主規制の具体例を挙げてみよう。
英国では2008年4月に「2008年SNSプロバイダーおよび娯楽サービス提供者のための良き実践ガイダンス(Good practice guidance for the providers of social networking and other user interactive services 2008)」 (筆者注17)が採択された。その策定にあたり、デジタル・コンテンツの関係産業界、英国政府が割り振ったアカデミー、通信事業者、放送機関、NOP等がメンバーとしてかかわった。また、デンマークのインターネット・メデイア協会の自主規制協定、米国連邦司法長官とFacebookおよびMySpaceとの協定が行われている。
EUにおいて2007年に欧州委員会が主導し成功裡に進んだ携帯電話が若いティーンエイジャーや子供の安全な携帯電話の利用問題に続いて、委員会は現在、子供や若年層が安全にSNSを利用できるためのガイドラインを策定するためSNSと議論を行っている。私はこの点を祝うとともに、2009年2月10日に開催される“Safer Internet Day”において具体的な成果が出ることを願っている。
②サイバーいじめ対策
我々はすでにSNSユーザーを安全に導くツールや情報に関し、うまく行っている例を持っている。それらの例では「サイバーいじめとその教育問題」と同様に嫌がる内容、不適当、違法な行為を報告する場所がある。攻撃的なユーザーに対する文書による警告、登録アカウントの利用停止や取消といったことにつながるという報告が行われている。警察がその合法性を求めるとき、SNSサイトは国内法に即したかたちで「通信内容データ」と「内容の開示」を行うべくポリシーを有している。さらに、ほとんどのSNSは従業員に対し異なるタイプの状況に応じられるよう教育を行っている。デンマークのNGOであるセイブ・デンマークはSNS業者のArto.dkの仲介役となっており、その点を保存しておいて欲しい。
SNSの安全な設定に関し、私は特に12歳以下の年少者を目標とする例えば“Penguin、“Cbeebies”“Barbiegirls.com”“Imbee”“kpwebben.se”等チャット、メッセージ交換の内容について事前にスクリーニングする等、仲介機能や最小限の個人情報を収集し、可能な範囲で両親のコントロール権に寄与することが必要であると考える。この点について、もちろんティーンエイジャーにとって状況はそれぞれ異なる。先ほど述べた両親自体が子供を安全に過ごすことやオンラインを倫理的に利用することについて教育すべきであると指摘したアイルランドの若人の貢献の件に戻りたいと思う。また、私は子供や若年層の間における技術の利用や大人の利用に関する理解のギャップが広がっていることを踏まえると正しいことであると考える。
本委員会に対するパブリック・コメントの中で、発言者は両親と子供の間の議論と協同的利用がオンライン時の子供や若年者を守る最も有効な方法であると指摘された。子供や若年層も他の大人の市民と同様に、彼らの権利を意識すべきである。EU各国は違法な個人情報に使用を保護するための良い国内法を持っている。(続く)
(筆者注13)レディング氏が引用した最近の研究とは、2008年9月1日に発刊された“Born Digital:Understanding the First Generation of Digital Natives”である。この本の執筆者(John Palfrey 教授とUrs Gasser助教授の共著)はハーバード・ロー・スクールのサイバー法やメディア法の研究グループ“Berkmann Center for Internet & Society”のメンバーである。実は過去のブログでも紹介したことがあるが、筆者も同センターのディスカッショングループのメンバーである。
(筆者注14)レディング氏はコメントのもととなる欧州委員会の公的資料には言及していないが、筆者が独自に知らべた限り次の資料にもとづくものと思われる。
“PUBLIC CONSULTATION ;Age Verification,Cross Media Rating and Classification,Online Social Networking”のQuestionnaire 3の箇所である。 http://ec.europa.eu/information_society/activities/sip/docs/pub_consult_age_rating_sns/results/iyac_a532002.pdf
(筆者注15)Sonia Livingstone 教授はロンドン大学メデイア・コミュニティ学部教授で社会心理学が専門である。
(筆者注16)英国では、2003年7月にEU での先陣を切って通信と放送両分野の規制の統合を目的とする新たな法律として「2003年通信法(Communications Act 2003)」が成立した。これに基づき、同年12月通信と放送分野に個別分散していた5つの規制機関が廃止され、それらの機能・権限を統合した新しい独立規制機関「通信・メディア庁」(Ofcom:Office of Communications)が誕生した。(レファレンス2004.11号 69頁より引用)。なお、Ofcomの活動内容については筆者が2006年5月13日付ブログで紹介している。http://fukuhei.blogspot.com/2006/05/blog-post_13.html
(筆者注17)レディング氏の原稿に基づき筆者が独自に調べたが“Good practice guidance for the providers of social networking ”と言うガイダンスは英国内にはなかった。本文の標題が正しいと思う。
同ガイドラインの策定プロジェクト・チームのメンバーは次の機関である。英国・米国の業界代表はもちろん研究機関、NPOだけでなく放送機関も含まれる等幅広い研究姿勢が伺える。AOL UK、Yahoo!UK、MySpace、セントラル・ランチェスター大学(サイバースペース研究機構)、ロンドン大学のソニア教授、安全なインターネットのための慈善組合連合、Orange、Facebook、Childnet Intenational、BBC、全米子供の搾取から権利を守る保護センター、Internet Watch Foundation、UK モバイルブロードバンド・グループ、Google /Youtube、Mychild Online(オランダ)等である。
〔参照URL〕
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=SPEECH/08/465&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/08/587&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
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若年層はSNSをとり取り込むことが早い。EUにおけるインターネット・ユーザーの平均年齢は過去数年間で低下した。9歳から10歳の子供は現在1週間に数回オンライン接続する。12歳から14歳は毎日1~3時間インターネットを利用している。彼らの主たる活動目的はチャット、インスタント・メッセージングやSNSを介したコミュニケーションであろうか。
デンマーク、英国やイタリアの研究では、ほとんどの子供や若年層が既存の友達関係を維持するとともに社会的関係の強化を意図してSNSを利用しているといわれている。若年層はSNSが既存の友人関係と旧友との接触を管理する上での効果的手段であると見ている。最近のサイバー・メディア法の研究者(筆者注13)「デジタル時代に生まれた第一世代の子供たちを理解するために(Born Digital:Understanding the First Generation of Digital Natives)」が指摘しているように、若年層はいつでもネットワーク技術にアクセスでき、自分たちの両親とは異なる情報、友情やプライバシーといった問題を経験している。我々はこのような新しい状況を考慮しておく必要がある。デジタル第一世代(digital natives)は創造的かつ参加型である。このことは、彼らにリスクとともに新たな自由をもたらす。従って、このことは我々が若年層が安全なかたちで自由を得られることを保障するため協同的な取組みを行う理由といえる。
“Safer Internet Programme”の中で欧州委員会が立ち上げたパブリック・コメント募集に対し、アイルランドの10代の若者の関心事について共有したい。すなわち「アイルランド国際青年助言議会(International Youth Advisory Congress)」のコメント(筆者注14)の中で子供たちがオンラインで遭遇する主たるリスクの1つである「サイバーいじめ(cyber-bullying)」について言及している点である。
10.段階的自主性の確保、過保護はだめ
子供たちを保護するために我々は何をすべきか。まず過保護になってはいけない。子供は18歳になると大人になる、我々は信頼性と独立性に向い合えるよう彼らに準備をさせなければならない。我々は非常に幼い子供を保護することから始まり年長の子供にはある程度の権限をあたえるという段階的対応を取るべきである。子供によるSNS利用上の問題について利用可能な研究は少ないが、いくつかの統計的数字について述べておく。デンマークの研究では12歳から18歳のSNSユーザーの31.5%がインターネット利用時に見知らぬ人からいやな経験を受けているとされている。またイタリアの研究では、SNSのユーザーの32.8%が少なくとも1つの不快(ポルノ的な内容、攻撃的なメッセージおよびセクシャル・ハラスメント)な経験をオンライン中に経験している。ユーザーの何人かは本人の同意なしに個人情報をばら撒かれたり、ヌード写真をSNS上で掲載されたというものである。
ソニア・リヴィングストン教授(筆者注15)が指摘しているとおり、我々は「脆弱性があり、認識面や技術がもたらす社会的発達の過程ですばらしいが一面もろさを持つ子供達を守り」かつ「子供たちはメデイアに精通する技術を持ちながら、彼らの周辺にいる大人たちから過小評価されるため、自らの権利で行動する有能かつ創造的なエージェントであること」を理解しなくてはならない。
では、我々は潜在的なオンライン・リスクから若年層を守るため子供や青年の生活にどの範囲で干渉すべきであろうか。これに関し年齢確認、クロス・メデイア格付け(区分)について欧州委員会が行ったパブリック・コメント募集に対し、70件の意見が寄せられた。これらの提案中から2008年の“Safer Internet Forum”において、委員会は①SNSへの関与のあり方、②年齢確認の2点について議論に取組んだ。
11.フォーラムでの具体的論議
①効果的年齢確認について
加盟各国におけるインターネット・ユーザー、特に未成年がアダルト向けの内容サイトにアクセスしたりアダルト商品を購入するときの年齢確認について昨日のフォーラムでは具体的ツール、技術的ならびに法的な挑戦の試みについて議論した。
最近の英国の研究(英国「通信庁(Ofcom:Office of Communications)」)
(筆者注16)によると通常、主要なSNSの登録最低年齢が13歳(MySpaceの場合は14歳)にもかかわらず、8歳から11歳の27%がSNSサイトにプロフィールを持っていた。1回目の年齢確認で登録拒否された場合、2回目の登録を拒否するといった登録の規制に関する方法も役に立つかもしれない。しかし、現実に戻ってみよう。未成年の登録を完全に阻止するのは現状では不可能である。インターネット業界は彼らのサービスを利用する未成年を保護することで先見的役割を果たすべきである。私は利害関係者により広く受け入れられて有効な実効性が保証される限り業界自主規制(self-regulation)の支持者である。
業界による自主規制の具体例を挙げてみよう。
英国では2008年4月に「2008年SNSプロバイダーおよび娯楽サービス提供者のための良き実践ガイダンス(Good practice guidance for the providers of social networking and other user interactive services 2008)」 (筆者注17)が採択された。その策定にあたり、デジタル・コンテンツの関係産業界、英国政府が割り振ったアカデミー、通信事業者、放送機関、NOP等がメンバーとしてかかわった。また、デンマークのインターネット・メデイア協会の自主規制協定、米国連邦司法長官とFacebookおよびMySpaceとの協定が行われている。
EUにおいて2007年に欧州委員会が主導し成功裡に進んだ携帯電話が若いティーンエイジャーや子供の安全な携帯電話の利用問題に続いて、委員会は現在、子供や若年層が安全にSNSを利用できるためのガイドラインを策定するためSNSと議論を行っている。私はこの点を祝うとともに、2009年2月10日に開催される“Safer Internet Day”において具体的な成果が出ることを願っている。
②サイバーいじめ対策
我々はすでにSNSユーザーを安全に導くツールや情報に関し、うまく行っている例を持っている。それらの例では「サイバーいじめとその教育問題」と同様に嫌がる内容、不適当、違法な行為を報告する場所がある。攻撃的なユーザーに対する文書による警告、登録アカウントの利用停止や取消といったことにつながるという報告が行われている。警察がその合法性を求めるとき、SNSサイトは国内法に即したかたちで「通信内容データ」と「内容の開示」を行うべくポリシーを有している。さらに、ほとんどのSNSは従業員に対し異なるタイプの状況に応じられるよう教育を行っている。デンマークのNGOであるセイブ・デンマークはSNS業者のArto.dkの仲介役となっており、その点を保存しておいて欲しい。
SNSの安全な設定に関し、私は特に12歳以下の年少者を目標とする例えば“Penguin、“Cbeebies”“Barbiegirls.com”“Imbee”“kpwebben.se”等チャット、メッセージ交換の内容について事前にスクリーニングする等、仲介機能や最小限の個人情報を収集し、可能な範囲で両親のコントロール権に寄与することが必要であると考える。この点について、もちろんティーンエイジャーにとって状況はそれぞれ異なる。先ほど述べた両親自体が子供を安全に過ごすことやオンラインを倫理的に利用することについて教育すべきであると指摘したアイルランドの若人の貢献の件に戻りたいと思う。また、私は子供や若年層の間における技術の利用や大人の利用に関する理解のギャップが広がっていることを踏まえると正しいことであると考える。
本委員会に対するパブリック・コメントの中で、発言者は両親と子供の間の議論と協同的利用がオンライン時の子供や若年者を守る最も有効な方法であると指摘された。子供や若年層も他の大人の市民と同様に、彼らの権利を意識すべきである。EU各国は違法な個人情報に使用を保護するための良い国内法を持っている。(続く)
(筆者注13)レディング氏が引用した最近の研究とは、2008年9月1日に発刊された“Born Digital:Understanding the First Generation of Digital Natives”である。この本の執筆者(John Palfrey 教授とUrs Gasser助教授の共著)はハーバード・ロー・スクールのサイバー法やメディア法の研究グループ“Berkmann Center for Internet & Society”のメンバーである。実は過去のブログでも紹介したことがあるが、筆者も同センターのディスカッショングループのメンバーである。
(筆者注14)レディング氏はコメントのもととなる欧州委員会の公的資料には言及していないが、筆者が独自に知らべた限り次の資料にもとづくものと思われる。
“PUBLIC CONSULTATION ;Age Verification,Cross Media Rating and Classification,Online Social Networking”のQuestionnaire 3の箇所である。 http://ec.europa.eu/information_society/activities/sip/docs/pub_consult_age_rating_sns/results/iyac_a532002.pdf
(筆者注15)Sonia Livingstone 教授はロンドン大学メデイア・コミュニティ学部教授で社会心理学が専門である。
(筆者注16)英国では、2003年7月にEU での先陣を切って通信と放送両分野の規制の統合を目的とする新たな法律として「2003年通信法(Communications Act 2003)」が成立した。これに基づき、同年12月通信と放送分野に個別分散していた5つの規制機関が廃止され、それらの機能・権限を統合した新しい独立規制機関「通信・メディア庁」(Ofcom:Office of Communications)が誕生した。(レファレンス2004.11号 69頁より引用)。なお、Ofcomの活動内容については筆者が2006年5月13日付ブログで紹介している。http://fukuhei.blogspot.com/2006/05/blog-post_13.html
(筆者注17)レディング氏の原稿に基づき筆者が独自に調べたが“Good practice guidance for the providers of social networking ”と言うガイダンスは英国内にはなかった。本文の標題が正しいと思う。
同ガイドラインの策定プロジェクト・チームのメンバーは次の機関である。英国・米国の業界代表はもちろん研究機関、NPOだけでなく放送機関も含まれる等幅広い研究姿勢が伺える。AOL UK、Yahoo!UK、MySpace、セントラル・ランチェスター大学(サイバースペース研究機構)、ロンドン大学のソニア教授、安全なインターネットのための慈善組合連合、Orange、Facebook、Childnet Intenational、BBC、全米子供の搾取から権利を守る保護センター、Internet Watch Foundation、UK モバイルブロードバンド・グループ、Google /Youtube、Mychild Online(オランダ)等である。
〔参照URL〕
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=SPEECH/08/465&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/08/587&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
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“EU加盟国におけるソーシャル・ネットワークキング(SNS)の成功と挑戦”等EUの取組み(その2)
3.SNSの企業内利用の現状
ある企業は、自社の従業員のために従業員が物理的にどこにいようとコミュニケーションが図れるよう特別なSNSを開設した。その結果、関与意識や生産性向上にかかわる企業の決定に関与していると感じさせる機会を与えることになった。
広告の分野では、特に潤沢な予算を持たない中小企業にとってSNSはまったく新しい文脈をもたらした。中小企業の40%はウェブサイトの運営は金がかかり過ぎるためウェブサイトを持っていない。しかしながら、ウェブ2.0はわずかな資金でオンライン・コミュニティの参加者することで顧客を楽しませ、かつ自らのビジネスの推進を図る効果的手段となった。
4.人材開発分野
人材募集と人材開発の専門家は、面談の相手探しを「オンライン接続型」から「ビジネスネットワークやそこでの自己推薦型」へと変えつつある。これは必要とするポストを埋めるのにメディア介在型人材募集より効率的であるといえよう。ドイツのXING(筆者注6)やBritish Ecademy はこの分野で急速に伸びている。
5.研究機関の啓蒙活動
SNSを通じて研究機関はどこにいても情報と経験を共有化できる。彼らは簡単でかつ直接的な方法で自らの活動内容の説明するために、SNSにより提供される機会を利用する。最近の例では、欧州原子核研究機構(CERN)(筆者注7)の研究関係者が「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」(筆者注8)の機能と目的について説明するのにラップソングを作曲し、Youtube に載せたところ200万以上の閲覧数を上げたのである(筆者注9)。
6.芸術創造活動分野での利用
SNSはオンラインの内容が創造的な分野で繁盛している。内容を作成し共有することは今や簡単なこととなり、ユーザーに新しい形の情報を形作る機会を与えることとなった。ビデオ共有会社が好例である。多くのミュージシャンは自らのビデオをMyspaceに置くことで有名になった。また、Daily motionは、創造的なビデオプロデューサーを奨励して短編映画のような文化的行事にリンクする特別なサービス“motionmakers”を新たに設けた。
7.モバイル型SNS
SNSはモバイル・ウェブを成功させることにも貢献できる。新しい研究では、モバイル・ウェブのユーザーが現在の5億7,700万人から2013年には17億人に増加するという予想を述べている。英国のジュニパー・リサーチ(筆者注10)は、SNS、wikis、オンライン・チャット、インスタント・メッセージといった協調的適用の要求の急増がこのような成長の原因であると分析している。
8.SNS運用会社の規模拡大
SNSはユーザー数の増加に伴い、より多くの従業員を雇用し始めている。ベルギーの本部を置くNetlogはSNSの運用の開発費用として500万ユーロ(約7億500万円)投資を誘致した。フィンランドのSulake 社は、同社の主要サービス“Habbo Hotel”(筆者注11)の強固な成長を維持するため1,800万ユーロ(約25億3,800万円)の増資を行った。同社は2000年に設立されフィンランドのヘルシンキに本部と世界中の14の事務所を持つ。世界中の従業員数は約300人以上で世界のデジタル・コンテンツ企業のトップ25に評価されている。(筆者注12)(続く)
(筆者注6)XINGのサイトでは16カ国語で利用できる。ただし日本語の「利用規約」を読んでみたが、いかにも直訳的な内容である。
(筆者注7)ジュネーブ郊外にある欧州合同原子核研究機構(CERN)が建設中の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)がいよいよ2008年夏に完成し、史上最高エネルギーの素粒子実験が開始される。これまで建設に14年の歳月を費やしたこの加速器は、現在の最高エネルギーを一挙に7倍(14 TeV)にまで高める性能を有する。LHCでの高エネルギー陽子・陽子衝突の反応を記録する巨大なアトラス測定器も完成に近づいており、実験開始に向けて調整を行っているところである。今後数年のうちに、素粒子の質量の起源ともいわれる未知の素粒子であるヒッグス粒子や、宇宙の暗黒物質の解明にもつながる超対称性粒子などの新発見が期待されている。(東京大学 大学院理学系研究科サイトから引用・一部表現を追加)
(筆者注8)CERNはヨーロッパ諸国により設立された素粒子物理学のための国際研究機関。設立は1954年。所在地はスイスジュネーブ郊外。加盟国はヨーロッパの20カ国。 日本は、米国、ロシア等と共に、オブザーバー国として参加している。世界の素粒子物理学研究者の半数以上(約7,000人)が施設を利用している。(東京大学 大学院理学系研究科サイトから引用)
(筆者注9)ラップソングを作曲したのはミシガン州のサイエンスライターのKate McAlpine さんである。この話は関係者の間では大きな話題となっている。本ブログの読者も一度閲覧してみてはいかがか。
(筆者注10)Juniper Researchは、英国に本社を置く、コンテンツ専門の調査会社で、特に、成長著しいモバイル分野としては、ゲーム、着信メロディ、ギャンブルなど多岐にわたるレポートを出版している。
(筆者注11)Habbo Communitesは世界32カ国の子供等が利用している。もちろん日本語のサイトがあり、自由に利用しているようである。筆者が閲覧している時点でもオンライン利用者が371人、過去30日間の訪問者数は延べ239,102人と表示されていた(フィンランドのサイトを見たがオンライン接続中が1,612人、過去30日間の延べ訪問者数は1,238,744人であった(フィンランドの人口は約530万人)。このSNSサイトは「Habbo ジャパン株式会社」が事業主体であり、当然ながら商品の購入などに関しては「特定商取引法に基づく表示」が行われているとあり、同法11条に基づく要件は一応満たしていると思われるが、相手が未成年であることを前提するとこのままでよいのか大いに疑問である。
ある通信販売業者の表示例では、「未成年者の場合は、親権者の同意を得た後ご購入下さい。そうでない場合、 弊社の商品は未成年には販売できかねますので、ご了承下さい。尚、未成年者が成人と偽って購入された場合は、民法により成人者と同様の扱いになりますので、ご注意下さい。」とある。これも言葉足らずであるが、少なくとも言及している。
より正確には、「民法4条の規定では、例外を除き未成年者から注文があった場合、その未成年者は注文を取り消すことができるとされている。これを回避する方法としては、注文画面に年齢を確認するためのフォームを用意することが考えられる。これにより、Webサイト運営者が未成年者を誤って成人と判断した場合には、民法20条にもとづき未成年者側は取消権を失う可能性がある。(経済産業省「電子商取引等に関する準則(平成18年2月)」29~30頁参照)」であろう。
(筆者注12)Silicon Alley Insider社は世界的デジタル・コンテンツ格付け企業である。
そのHPを見ると“SAI 25”と言う項目があり、最新のデジタルコンテンツ企業上位25社がリストアップされている(Facebook(評価額90億ドル(約8,820億円))、Wikipedia(同70億ドル) 、Craigslist(同50億ドル)、Mozila Corp(同40億ドル)等があり、Habboは12億5千万ドル(約1,225億円)と上位グループに入っている。なお、Habbo の企画運営会社であるSulake 社のHPを見るとヴァーチャル世界およびSNSに特化したオンライン型娯楽企業であるとしている。
〔参照URL〕
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=SPEECH/08/465&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/08/587&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
Copyright (c)2006-2008 福田平冶 All Rights Reserved.
ある企業は、自社の従業員のために従業員が物理的にどこにいようとコミュニケーションが図れるよう特別なSNSを開設した。その結果、関与意識や生産性向上にかかわる企業の決定に関与していると感じさせる機会を与えることになった。
広告の分野では、特に潤沢な予算を持たない中小企業にとってSNSはまったく新しい文脈をもたらした。中小企業の40%はウェブサイトの運営は金がかかり過ぎるためウェブサイトを持っていない。しかしながら、ウェブ2.0はわずかな資金でオンライン・コミュニティの参加者することで顧客を楽しませ、かつ自らのビジネスの推進を図る効果的手段となった。
4.人材開発分野
人材募集と人材開発の専門家は、面談の相手探しを「オンライン接続型」から「ビジネスネットワークやそこでの自己推薦型」へと変えつつある。これは必要とするポストを埋めるのにメディア介在型人材募集より効率的であるといえよう。ドイツのXING(筆者注6)やBritish Ecademy はこの分野で急速に伸びている。
5.研究機関の啓蒙活動
SNSを通じて研究機関はどこにいても情報と経験を共有化できる。彼らは簡単でかつ直接的な方法で自らの活動内容の説明するために、SNSにより提供される機会を利用する。最近の例では、欧州原子核研究機構(CERN)(筆者注7)の研究関係者が「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」(筆者注8)の機能と目的について説明するのにラップソングを作曲し、Youtube に載せたところ200万以上の閲覧数を上げたのである(筆者注9)。
6.芸術創造活動分野での利用
SNSはオンラインの内容が創造的な分野で繁盛している。内容を作成し共有することは今や簡単なこととなり、ユーザーに新しい形の情報を形作る機会を与えることとなった。ビデオ共有会社が好例である。多くのミュージシャンは自らのビデオをMyspaceに置くことで有名になった。また、Daily motionは、創造的なビデオプロデューサーを奨励して短編映画のような文化的行事にリンクする特別なサービス“motionmakers”を新たに設けた。
7.モバイル型SNS
SNSはモバイル・ウェブを成功させることにも貢献できる。新しい研究では、モバイル・ウェブのユーザーが現在の5億7,700万人から2013年には17億人に増加するという予想を述べている。英国のジュニパー・リサーチ(筆者注10)は、SNS、wikis、オンライン・チャット、インスタント・メッセージといった協調的適用の要求の急増がこのような成長の原因であると分析している。
8.SNS運用会社の規模拡大
SNSはユーザー数の増加に伴い、より多くの従業員を雇用し始めている。ベルギーの本部を置くNetlogはSNSの運用の開発費用として500万ユーロ(約7億500万円)投資を誘致した。フィンランドのSulake 社は、同社の主要サービス“Habbo Hotel”(筆者注11)の強固な成長を維持するため1,800万ユーロ(約25億3,800万円)の増資を行った。同社は2000年に設立されフィンランドのヘルシンキに本部と世界中の14の事務所を持つ。世界中の従業員数は約300人以上で世界のデジタル・コンテンツ企業のトップ25に評価されている。(筆者注12)(続く)
(筆者注6)XINGのサイトでは16カ国語で利用できる。ただし日本語の「利用規約」を読んでみたが、いかにも直訳的な内容である。
(筆者注7)ジュネーブ郊外にある欧州合同原子核研究機構(CERN)が建設中の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)がいよいよ2008年夏に完成し、史上最高エネルギーの素粒子実験が開始される。これまで建設に14年の歳月を費やしたこの加速器は、現在の最高エネルギーを一挙に7倍(14 TeV)にまで高める性能を有する。LHCでの高エネルギー陽子・陽子衝突の反応を記録する巨大なアトラス測定器も完成に近づいており、実験開始に向けて調整を行っているところである。今後数年のうちに、素粒子の質量の起源ともいわれる未知の素粒子であるヒッグス粒子や、宇宙の暗黒物質の解明にもつながる超対称性粒子などの新発見が期待されている。(東京大学 大学院理学系研究科サイトから引用・一部表現を追加)
(筆者注8)CERNはヨーロッパ諸国により設立された素粒子物理学のための国際研究機関。設立は1954年。所在地はスイスジュネーブ郊外。加盟国はヨーロッパの20カ国。 日本は、米国、ロシア等と共に、オブザーバー国として参加している。世界の素粒子物理学研究者の半数以上(約7,000人)が施設を利用している。(東京大学 大学院理学系研究科サイトから引用)
(筆者注9)ラップソングを作曲したのはミシガン州のサイエンスライターのKate McAlpine さんである。この話は関係者の間では大きな話題となっている。本ブログの読者も一度閲覧してみてはいかがか。
(筆者注10)Juniper Researchは、英国に本社を置く、コンテンツ専門の調査会社で、特に、成長著しいモバイル分野としては、ゲーム、着信メロディ、ギャンブルなど多岐にわたるレポートを出版している。
(筆者注11)Habbo Communitesは世界32カ国の子供等が利用している。もちろん日本語のサイトがあり、自由に利用しているようである。筆者が閲覧している時点でもオンライン利用者が371人、過去30日間の訪問者数は延べ239,102人と表示されていた(フィンランドのサイトを見たがオンライン接続中が1,612人、過去30日間の延べ訪問者数は1,238,744人であった(フィンランドの人口は約530万人)。このSNSサイトは「Habbo ジャパン株式会社」が事業主体であり、当然ながら商品の購入などに関しては「特定商取引法に基づく表示」が行われているとあり、同法11条に基づく要件は一応満たしていると思われるが、相手が未成年であることを前提するとこのままでよいのか大いに疑問である。
ある通信販売業者の表示例では、「未成年者の場合は、親権者の同意を得た後ご購入下さい。そうでない場合、 弊社の商品は未成年には販売できかねますので、ご了承下さい。尚、未成年者が成人と偽って購入された場合は、民法により成人者と同様の扱いになりますので、ご注意下さい。」とある。これも言葉足らずであるが、少なくとも言及している。
より正確には、「民法4条の規定では、例外を除き未成年者から注文があった場合、その未成年者は注文を取り消すことができるとされている。これを回避する方法としては、注文画面に年齢を確認するためのフォームを用意することが考えられる。これにより、Webサイト運営者が未成年者を誤って成人と判断した場合には、民法20条にもとづき未成年者側は取消権を失う可能性がある。(経済産業省「電子商取引等に関する準則(平成18年2月)」29~30頁参照)」であろう。
(筆者注12)Silicon Alley Insider社は世界的デジタル・コンテンツ格付け企業である。
そのHPを見ると“SAI 25”と言う項目があり、最新のデジタルコンテンツ企業上位25社がリストアップされている(Facebook(評価額90億ドル(約8,820億円))、Wikipedia(同70億ドル) 、Craigslist(同50億ドル)、Mozila Corp(同40億ドル)等があり、Habboは12億5千万ドル(約1,225億円)と上位グループに入っている。なお、Habbo の企画運営会社であるSulake 社のHPを見るとヴァーチャル世界およびSNSに特化したオンライン型娯楽企業であるとしている。
〔参照URL〕
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=SPEECH/08/465&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/08/587&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
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“EU加盟国におけるソーシャル・ネットワークキング(SNS)の成功と挑戦”等EUの取組み(その1)
(Summary in English)
“Social Networking Sites(SNS): Commissioner Reding stresses their economic and societal importance for Europe”
Viviane Reding , Commissioner for Information Society and Media, has gave a speech on Social Networking Sites by "Forum for a safe Internet Society" on September 26(It was held in Luxembourg).
Reding is elected by the committee of European Commission in 1999, and reappointed in 2004. She has gave her views extremely aggressively about the themes of " The problem and view of Ubiquitous society" that starts up the discussion in Japan , also on this forum gives her views from the summary and empirical a viewpoint about this problem to be able to do nothing but work without reference to age or sex on concrete data of each member states .
She is taking up the problem on the part of the shadow of SNS ,the influence on the youth and invasion of privacy by the online tracking etc.,and the European Network Information Security Agency(ENISA) that is official body concerning the information security of EU,has made public titled“Security Issues and Recommendations for Online Social Networks” to the politicians and financial businessmen in charge appropriating in the signatory in October of 2007.
Especially, child's protection problem through the Internet and the mobile phone that is a topic recently also in our country,I will take up the former from the viewpoint of serving as a reference in examining current analysis and measures of our country.
As for the light and the shadow of SNS of Europe and U.S. , it is reported September 28 by Tagui Ichikawa ,the representative New York's JETRO , it is analyzed accuracy and widely of this problem.
For strike the measure because of losing user's uneasiness, the person in charge of government and the business of SNS promotion in Japan should read these speech and report.
欧州委員会委員で情報・メデイア担当のヴィヴィアン・レディング氏(Viviane Reding)は、2008年9月26日に「より安全なインターネット社会のためのフォーラム(ルクセンブルグで開催)」でSNS(筆者1)に関する標題("Social Networking in Europe: success and challenges")のスピーチを行った。
1999年に欧州委員会の委員に選任され、2004年に再任されている女史であるが、わが国でも議論を呼んでいる「ユビキタス社会」の展望と課題について従来から極めて精力的に意見を述べている
レディング氏のスピーチ内容は、駐日欧州委員会代表部サイト等でも今後紹介されるであろうが、老若男女を問わず取組まざるを得ないこの問題につき加盟各国の具体的データに基づき総括的かつ実証的観点から意見を述べており(筆者注2)、その仮訳を試みた(項目立ては筆者の責任で行った)。
また、同女史が取り上げているSNSの影の部分(青少年への影響やオンライン追跡によるプライバシー侵害等)およびセキュリティ面の課題についてはEUの情報セキュリティに関する公的機関である欧州ネットワーク情報セキュリティ庁: (European Network and Information Security Agency;ENISA ) が加盟国の政財界責任者あてに2007年10月に「オンライン社会ネットワークに関する脆弱性・セキュリティ問題およびその解決への勧告書」(筆者注3)を公表している。特に最近ではインターネット・携帯電話を介した子供の保護問題がわが国でも話題になっていることから、わが国の現状の分析や対策を検討する上で参考になるとの観点から前者を取り上げた。
欧米におけるSNSの光と影についてはJETROニューヨーク駐在員の市川類氏のレポートが正確かつ幅広く分析されており、利用者の不安をなくすための施策を打つためにも、わが国の官民のSNS推進責任者はまず読むべきであろう。
なお、今回は原稿量が多いため4回に分けて掲載する。
1.はじめに
年齢確認(age verification)、メディア間の利用分類(cross-media classification)および子供によるオンライン技術とSNS(social networking sites)の利用の問題はこの数月以上我々の議論の種となろう。(筆者注4)
本日の話は、①SNSの持つ社会・経済現象をどのように考えるべきか、②娯楽や知識に関し社会および専門的な理由からSNSがEU市民にどのように使われているか、そして③どのように我々の生活を変えたか、さらに④若年層の日々の生活や将来を形成するうえでどのような貢献を果たしているかについて述べる。
2.EUのweb2.0市場についての概観
SNSはこの2、3年で非常に一般的なものとなった(筆者注5)。2007年にEUにおけるSNSユーザー人口は35%増加した。2007年EUのオンライン利用者の56%がSNSを訪れ、定期的ユーザー数は現在の4,120万人から4年後には1億740万になると予想されている。2007年英国では960万人が国のSNSのコミュニティに属し、フランスでは890万人、ドイツでは860万人という数字が出ている。フランスの視聴者は2008年5月だけで合計1億3,700万時間オンラインのビデオを見ており、また携帯電話の加入者のうち329万人が携帯電話でビデオを見ている。
Facebook、YoutubeやMySpaceといった米国に本拠地を置く知名度の高い企業と平行してEUの企業もこの分野で活躍している。フィンランドの“Habbo Hotel ”は8,000万の登録者数がいると主張している。英国の“Badoo” や“ Faceparty”は1,500万人のユーザーの会員資格の結合が行われている。ベルギーに本拠を置く“Netlog”は1,700万人、フランスの“Dailymotion”は1,100万人を数える状態である。オランダの“Hyves”、ドイツの“StudiVZ”、ブルガリアの“Aha.bg”、デンマークの“Arto.dk”、スペインの“Tuenti”、ポーランドの“Grono”等いずれも繁盛している。またこれらのリストには新しい役者が登場している。
まさに、それらは人脈と娯楽の範囲を広げるということであるが、我々はSNSがさらに更なる機能を果たすことを知っている。SNSは公的機関や専門機関にとって全体的に有益性がある。すなわち、SNSは働く専門家、子供、退職者および旅行者にとって各種サービスを提供する。参加者はネットワークを通じ、個人的な写真、会話、メデイアの娯楽を共有し、また社会や政治的生活の組織化するとともにまだ我々が計画したり想像しえないすべてのことを行っている。
今、私が述べた数字だけを考えるならSNSがEUの産業界にとって新たな経済的な可能性をもたらすことは否定しがたいといえよう。SNSの持つオープンな性格、インターネットの柔軟性、文化的多様性や高度な対話性、さらに異なる聴衆を企業や改革者が無視しえない環境に導くという事実である。実際、SNSの重要性を理解している企業の中には顧客サービスの改善のためにSNSを利用しているところもある。その結果、顧客は初めて製品改革やサービスの開発に本気で取組み、最終的に当該企業は顧客の忠誠心と更なる購買を獲得するのである。
(筆者注1)SNSは、欧米ではSNS(Social Networking Service/ Site)の略語。
(筆者注2)レディング氏のスピーチは、項目立てがないので筆者の責任で項目立てを行った。なお、レディングのスピーチ原稿の最後に事務局がまとめた資料“Social Networking Sites: Commissioner Reding stresses their economic and societal importance for Europe”のURLが紹介されている。本ブログ(その4完)の最後にあげておいた。併読されたい。
(筆者注3)残念ながらジェトロの市川氏のレポートは米国が中心であり、ENISAのポジションペーパーについては15項目の問題点と19項目の改善勧告を行っていると説明しているのみである。
(筆者注4)SNSにおける年齢確認については利用者が急速に伸びた2007年5月頃から問題となっているようである。
英国政府のブロードバンドのあり方に関し主導的役割を担っているBSG(Broadband Stakeholder Group)が2008年7月に「年齢確認、クロスメディア間の格付け分類およびオンラインSNS(Age Verification, Cross Media Rating and Classification,Online Social Networking)」 という5頁ものの報告書をまとめている。また、“Second Life”や“MySpace”において未成年者保護という観点から取り上げている。Second Lifeは18歳以上が自由な利用可能者であり13歳から17歳まで用には別途“Teen Second Life”を用意し、年齢確認のベータ版を2007年5月に開始している。平易な解説Q&A が用意されているので参考となろう。
(筆者注5)SNSが米国の一般人に極めて日常的に利用されている例としては、reuters等の大手メディア・サイトでも“Facebook”による情報・意見の共有というかたちで具体化している。
〔参照URL〕
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=SPEECH/08/465&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/08/587&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
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2008年1月6日日曜日
米国FRBと財務省がインターネット・賭博規制に関する規則案について関係機関からの意見を公募(その4終)
【4条】例外
規則案に基づきポリシーの策定および運用手続きを定める義務から適用除外される決済参加機関やシステムそのものを列挙している。
(a)ACH
(b)小切手取立てシステム
(C)電信送金システム
【5条】禁止される取引きの処理
すべての非例外的な指定された決済システムの参加者は、規制行為の特定および阻止について文書により策定すべきポリシーや手続きの設定および適用を行わねばならない。
ポリシーや手続きは合理的な観点から次のような要件を満たさねばならない。
(ⅰ)禁止取引きの特定かつ阻止に役立つこと。
(ⅱ)その他禁止取引きに関し指定されたシステムまたは禁止取引きの参加者の
商品やサービスの受け入れの阻止または禁止にかかるものであること。
【6条】定めるべきポリシーおよび手続きの策定内容および例示
(a)各決済システムごとに見た策定内容の例示は次のとおりである(詳細は省略)。
(b)ACHの場合の例示
以下の(b)(2)および(b)(3)に規定する場合を除き、仕向預金取扱金融機関(originating financial institution)およびACH決済の借方取引きの第三者仲介機関 (third-party sender in an ACH debit transaction)、ならびにACH貸方取引きの被仕向預金取扱機関において次の行為を取っていた場合は合理的の禁止行為を阻止または禁止していたとみなす。
(ⅰ)受け付けた顧客について顧客との関係に基づき、ACH借方取引きまたはACH貸方取引きとして禁止取引きを起こしていないと保証する顧客との関係を確立・維持すべく次にいうような適正な行動を意図的にとっていた場合
(A)顧客の事業内容の性質を解明するため潜在的な顧客についてスクリーニングを行っていた場合
(B)顧客との間で禁止行為に関与していないとする商業契約合意を取り交わてしる場合
(ⅱ)仕向け預金取扱機関または第三者仲介機関が、顧客がACH借方取引きに関し禁止取引きを起こしていたことに気付いていたとき、または受け手の預金取扱い機関が禁止取引きであることに気付いていたときは当該手続きについて次の定めを行っていたときを含む。
(A)罰金を課す時期
(B)顧客がACHシステムを通じACH貸し方取引きを起こすことを認めない時期
(C)当該状況下においては該当口座を閉鎖する
(2)外国の送信者(外国銀行、外国の第三者送金処理者、または外国の仕向けゲートウェイ運用者を含む)からの直接のACH借方を起こされた場合は一定の場合(中略)は合理的に阻止または禁止取引きを行ったものとみなす。
(3)略
(c)カードシステムの例(略)
(d)小切手取立て(略)
(e)資金送金ビジネスの例(略)
(f)電信送金の例(略)
【7条】連邦規制監督機関による排他的法執行要求要件
本規則の下における要求は、次の排他的法執行に従う。
(a)指定される決済システムおよびそこへの参加機関に関する連邦の機能面上の規制監督機関は次の法律に定める裁判権に従う。
(b)指定する決済システムおよび金融取引提供者に関し、連邦取引委員会(Federal Trade Commission)は、本条(a)項に記述するとおり他の連邦の機能規制監督機関には従わない。
〔参照URL〕
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/20071001a.htm
および
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/bcreg20071001a1.pdf
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規則案に基づきポリシーの策定および運用手続きを定める義務から適用除外される決済参加機関やシステムそのものを列挙している。
(a)ACH
(b)小切手取立てシステム
(C)電信送金システム
【5条】禁止される取引きの処理
すべての非例外的な指定された決済システムの参加者は、規制行為の特定および阻止について文書により策定すべきポリシーや手続きの設定および適用を行わねばならない。
ポリシーや手続きは合理的な観点から次のような要件を満たさねばならない。
(ⅰ)禁止取引きの特定かつ阻止に役立つこと。
(ⅱ)その他禁止取引きに関し指定されたシステムまたは禁止取引きの参加者の
商品やサービスの受け入れの阻止または禁止にかかるものであること。
【6条】定めるべきポリシーおよび手続きの策定内容および例示
(a)各決済システムごとに見た策定内容の例示は次のとおりである(詳細は省略)。
(b)ACHの場合の例示
以下の(b)(2)および(b)(3)に規定する場合を除き、仕向預金取扱金融機関(originating financial institution)およびACH決済の借方取引きの第三者仲介機関 (third-party sender in an ACH debit transaction)、ならびにACH貸方取引きの被仕向預金取扱機関において次の行為を取っていた場合は合理的の禁止行為を阻止または禁止していたとみなす。
(ⅰ)受け付けた顧客について顧客との関係に基づき、ACH借方取引きまたはACH貸方取引きとして禁止取引きを起こしていないと保証する顧客との関係を確立・維持すべく次にいうような適正な行動を意図的にとっていた場合
(A)顧客の事業内容の性質を解明するため潜在的な顧客についてスクリーニングを行っていた場合
(B)顧客との間で禁止行為に関与していないとする商業契約合意を取り交わてしる場合
(ⅱ)仕向け預金取扱機関または第三者仲介機関が、顧客がACH借方取引きに関し禁止取引きを起こしていたことに気付いていたとき、または受け手の預金取扱い機関が禁止取引きであることに気付いていたときは当該手続きについて次の定めを行っていたときを含む。
(A)罰金を課す時期
(B)顧客がACHシステムを通じACH貸し方取引きを起こすことを認めない時期
(C)当該状況下においては該当口座を閉鎖する
(2)外国の送信者(外国銀行、外国の第三者送金処理者、または外国の仕向けゲートウェイ運用者を含む)からの直接のACH借方を起こされた場合は一定の場合(中略)は合理的に阻止または禁止取引きを行ったものとみなす。
(3)略
(c)カードシステムの例(略)
(d)小切手取立て(略)
(e)資金送金ビジネスの例(略)
(f)電信送金の例(略)
【7条】連邦規制監督機関による排他的法執行要求要件
本規則の下における要求は、次の排他的法執行に従う。
(a)指定される決済システムおよびそこへの参加機関に関する連邦の機能面上の規制監督機関は次の法律に定める裁判権に従う。
(b)指定する決済システムおよび金融取引提供者に関し、連邦取引委員会(Federal Trade Commission)は、本条(a)項に記述するとおり他の連邦の機能規制監督機関には従わない。
〔参照URL〕
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/20071001a.htm
および
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/bcreg20071001a1.pdf
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米国FRBと財務省がインターネット・賭博規制に関する規則案について関係機関からの意見を公募(その3)
【2条】定義
(a)ACH(Automated clearing house system)はACH規則に基づき定められたバッチ処理による電子登録を介する資金移動システムである。ACH規則には“originating depository financial institution ”“operator ”“originating gateway operator”“receiving depository financial institutions”等の用語が定義されており、本規則でも準用する。
(b)賭け(bet)および賭博(wager)
(1)ある人間が偶発的な出来事により一定の価値物を受け取るという合意または理解に基づき、成果価値を賭けたり、競技、スポーツ・イベント、機会に基づくゲームを行うことを意味する。
(2)宝籤やその他の懸賞を勝ち取るチャンスや機会を含む。
(3)合衆国法典(U.S.C.)28巻3702条に定めるプロおよびアマチュアスポーツの保護に関する法律(“PASPA”)に定める違法な賭け行為を含む。
(4)賭けや賭博のビジネス勘定(金融取引機関、双方行コンピュータサービスまたは電気通信サービスを除く)をもってその入出金用に賭け人または顧客によりファンドの設立や移動を行うための指示や情報を含む。
(5)次のものは除く。
(ⅰ) 証券取引法により規制される取引行為(具体的定義は1934年証券取引法3条(a)号(47)に定められている)
(ⅱ)商品取引法(7 U.S.C.1以下)12条(e)号に基づく取引行為、登録事業者の規則に従った行為または免除取引所の取引行為。
(ⅲ)あらゆる店頭登録金融派生商品(Any over-the-counter derivative instrument)
(ⅳ)その他の取引き
(A)商品取引法に基づき規則の例外とされる取引。
(B)商品取引法12条(e)号または証券取引法28条(a)号に基づく州ゲーム法または闇取引業者法(bucket shop law)の例外取引き。
(ⅴ)保証契約(Any contract of indemnity)または保証(guarantee)
(ⅵ)保険契約(Any contract for insurance)
(ⅶ)預金保険付預金取扱い機関の預金またはその他の取引き
(ⅷ)以下省略
(c)カード発行者
クレジットカード、デビットカード、プリペイドカード、価値保管型商品(stored value product)を発行する者またはその代理人
(d)カードシステム
(e)小切手交換所(check clearing house)
(f)小切手取立てシステム
(g)消費者:自然人のみをいう。
(h)指定する決済システム:規則案3条に掲げる。
(i)電子資金移動(Electronic fund transfer)
(j)金融機関:州法銀行または国法銀行、州また連邦貯蓄貸付組合、相互貯蓄銀行、州または連邦信用組合、その他顧客のために口座を保持する機関をいう。
(k)金融取引サービス提供業者:与信業者、クレジットカード発行業者、金融機関、その他電子資金移動、資金搬送業務、または信用取引、電子資金移動や価値保管商品取引、資金搬送サービスを利用するための端末取扱い業者、またはそれらのネットワークの参加者をいう。
(l)娯楽目的のコンピュータサービス
(m)インターネット
(n)州内取引き(intrastate transaction)
(o)部族内取引き
(p)資金搬送業務および資金搬送サービス:31 U.S.C.5330条(d)号に定める定義による。
(q)指定された決済システムの参加者
(r)禁止取引き
(s)州
(t)違法なインターネットギャンブル
(u)電信資金移動システム
共通規則部(案)
【1条】規則制定権、規則制定の目的および関係規則との結合
連邦準備制度理事会および財務長官(両者を併せ“Agencies”という)は、UIGEA802条にもとづき本条案を共同作成した。制定の目的は、①本規則部が求めるところに従い「指定する支払システム(designates payment systems)」、②特定の支払システム参加者中の適用例外、③合理的にみて違法な賭博行為の特定・阻止または禁止取引(restricted transactions)の阻止および禁止のための「ポリシー」や「手続き」の策定義務の免除を受けうる決済参加者(non-exempt participants)やその内容例についての必要な定義を定めること、および④Agenciesが排他的規則制定権にもとづき指定する決済システムおよびシステム参加者中免除を受けるものに関し、本規則に基づく取締権を定めることである。
関係規則とは、「2007年ACH規則(2007 ACH Rules :A complete Guide to Rule & Regulations Governing the ACH Network(“ACH Rules”))」に定める関連用語の定義をいう。
(i)電子資金移動(Electronic fund transfer)
(j)金融機関:州法銀行または国法銀行、州また連邦貯蓄貸付組合、相互貯蓄銀行、州または連邦信用組合、その他顧客のために口座を保持する機関をいう。
(k)金融取引サービス提供業者:与信業者、クレジットカード発行業者、金融機関、その他電子資金移動、資金搬送業務、または信用取引、電子資金移動や価値保管商品取引、資金搬送サービスを利用するための端末取扱い業者、またはそれらのネットワークの参加者をいう。
(l)娯楽目的のコンピュータサービス
(m)インターネット
(n)州内取引き(intrastate transaction)
(o)部族内取引き
(p)資金搬送業務および資金搬送サービス:31 U.S.C.5330条(d)号に定める定義による。
(q)指定された決済システムの参加者
(r)禁止取引き
(s)州
(t)違法なインターネットギャンブル
(u)電信資金移動システム
【3条】指定された決済システム
次の決済システムは、禁止取引きに関しまたは容易にする参加者により使用されるものとする。
(a)ACH
(b)カードシステム
(c)小切手取立てシステム
(d)資金搬送業務
(e)電信送金システム
〔参照URL〕
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/20071001a.htm
および
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/bcreg20071001a1.pdf
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(a)ACH(Automated clearing house system)はACH規則に基づき定められたバッチ処理による電子登録を介する資金移動システムである。ACH規則には“originating depository financial institution ”“operator ”“originating gateway operator”“receiving depository financial institutions”等の用語が定義されており、本規則でも準用する。
(b)賭け(bet)および賭博(wager)
(1)ある人間が偶発的な出来事により一定の価値物を受け取るという合意または理解に基づき、成果価値を賭けたり、競技、スポーツ・イベント、機会に基づくゲームを行うことを意味する。
(2)宝籤やその他の懸賞を勝ち取るチャンスや機会を含む。
(3)合衆国法典(U.S.C.)28巻3702条に定めるプロおよびアマチュアスポーツの保護に関する法律(“PASPA”)に定める違法な賭け行為を含む。
(4)賭けや賭博のビジネス勘定(金融取引機関、双方行コンピュータサービスまたは電気通信サービスを除く)をもってその入出金用に賭け人または顧客によりファンドの設立や移動を行うための指示や情報を含む。
(5)次のものは除く。
(ⅰ) 証券取引法により規制される取引行為(具体的定義は1934年証券取引法3条(a)号(47)に定められている)
(ⅱ)商品取引法(7 U.S.C.1以下)12条(e)号に基づく取引行為、登録事業者の規則に従った行為または免除取引所の取引行為。
(ⅲ)あらゆる店頭登録金融派生商品(Any over-the-counter derivative instrument)
(ⅳ)その他の取引き
(A)商品取引法に基づき規則の例外とされる取引。
(B)商品取引法12条(e)号または証券取引法28条(a)号に基づく州ゲーム法または闇取引業者法(bucket shop law)の例外取引き。
(ⅴ)保証契約(Any contract of indemnity)または保証(guarantee)
(ⅵ)保険契約(Any contract for insurance)
(ⅶ)預金保険付預金取扱い機関の預金またはその他の取引き
(ⅷ)以下省略
(c)カード発行者
クレジットカード、デビットカード、プリペイドカード、価値保管型商品(stored value product)を発行する者またはその代理人
(d)カードシステム
(e)小切手交換所(check clearing house)
(f)小切手取立てシステム
(g)消費者:自然人のみをいう。
(h)指定する決済システム:規則案3条に掲げる。
(i)電子資金移動(Electronic fund transfer)
(j)金融機関:州法銀行または国法銀行、州また連邦貯蓄貸付組合、相互貯蓄銀行、州または連邦信用組合、その他顧客のために口座を保持する機関をいう。
(k)金融取引サービス提供業者:与信業者、クレジットカード発行業者、金融機関、その他電子資金移動、資金搬送業務、または信用取引、電子資金移動や価値保管商品取引、資金搬送サービスを利用するための端末取扱い業者、またはそれらのネットワークの参加者をいう。
(l)娯楽目的のコンピュータサービス
(m)インターネット
(n)州内取引き(intrastate transaction)
(o)部族内取引き
(p)資金搬送業務および資金搬送サービス:31 U.S.C.5330条(d)号に定める定義による。
(q)指定された決済システムの参加者
(r)禁止取引き
(s)州
(t)違法なインターネットギャンブル
(u)電信資金移動システム
共通規則部(案)
【1条】規則制定権、規則制定の目的および関係規則との結合
連邦準備制度理事会および財務長官(両者を併せ“Agencies”という)は、UIGEA802条にもとづき本条案を共同作成した。制定の目的は、①本規則部が求めるところに従い「指定する支払システム(designates payment systems)」、②特定の支払システム参加者中の適用例外、③合理的にみて違法な賭博行為の特定・阻止または禁止取引(restricted transactions)の阻止および禁止のための「ポリシー」や「手続き」の策定義務の免除を受けうる決済参加者(non-exempt participants)やその内容例についての必要な定義を定めること、および④Agenciesが排他的規則制定権にもとづき指定する決済システムおよびシステム参加者中免除を受けるものに関し、本規則に基づく取締権を定めることである。
関係規則とは、「2007年ACH規則(2007 ACH Rules :A complete Guide to Rule & Regulations Governing the ACH Network(“ACH Rules”))」に定める関連用語の定義をいう。
(i)電子資金移動(Electronic fund transfer)
(j)金融機関:州法銀行または国法銀行、州また連邦貯蓄貸付組合、相互貯蓄銀行、州または連邦信用組合、その他顧客のために口座を保持する機関をいう。
(k)金融取引サービス提供業者:与信業者、クレジットカード発行業者、金融機関、その他電子資金移動、資金搬送業務、または信用取引、電子資金移動や価値保管商品取引、資金搬送サービスを利用するための端末取扱い業者、またはそれらのネットワークの参加者をいう。
(l)娯楽目的のコンピュータサービス
(m)インターネット
(n)州内取引き(intrastate transaction)
(o)部族内取引き
(p)資金搬送業務および資金搬送サービス:31 U.S.C.5330条(d)号に定める定義による。
(q)指定された決済システムの参加者
(r)禁止取引き
(s)州
(t)違法なインターネットギャンブル
(u)電信資金移動システム
【3条】指定された決済システム
次の決済システムは、禁止取引きに関しまたは容易にする参加者により使用されるものとする。
(a)ACH
(b)カードシステム
(c)小切手取立てシステム
(d)資金搬送業務
(e)電信送金システム
〔参照URL〕
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/20071001a.htm
および
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/bcreg20071001a1.pdf
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米国FRBと財務省がインターネット・賭博規制に関する規則案について関係機関からの意見を公募(その2)
3.FRBおよび財務省のUIGEAの適用に関する規則(案)の内容および各種決済形態の解説
本公募通達は全体で52ページもので、米国人でもその説明の重複、くどさにへきへきしているらしい。しかし、良く読んでみると結構その内容はかなり“practical”である。つまり、インターネットというグローバルかつヴァーチャルな世界で違法な賭け事を決済面で規制していくという視点である。特に各決済手段の特性を分析しながら、①1取引毎のキー・コードとして使えるものはないか(identifying information)、②送金依頼人や受取人の特定につながる情報はないかといった観点から分析・模索している点である。(筆者注7)
本ブログでは筆者なりに要点のみ説明するが、個人的に関心があったのは規則案の解釈の前提として必須といえる「第Ⅱ章 逐条分析」(6頁以下)で説明されている“UIGEA”で定める「ACH、カード、小切手取立等5つの決済システム」についてである。(筆者注8) (筆者注9)
特に“Western Union””MoneyGram”(筆者注10)“PayPal”は既存の銀行等による決済手段とは異なる「資金送金ビジネス(Money transmitting business)」である。これらの部分について興味のある読者は丁寧に読んで欲しいし、できたら図解化したら米国の最新の決済の仕組みが勉強できる(ただし、金融機関向けに作成されたものとしては、注書きの内容も含め説明内容の不足の感は否めない)。
(筆者注7)米国の議会の“practical ”な点はもう1つある。「米国では毎年の予算がすべて法律として審議され、制定される。米国憲法は第I条第1節で、「いっさいの立法権限は議会に与える」と定めている。したがって、予算編成の権限も立法の一部として大統領ではなく議会(立法府)にあり、財政関連法案は議員が細部にわたる決定権限も持つ(もちろん通常の法案と同様、大統領には拒否権がある)。大統領は毎年2月第1月曜日に予算教書(President's Budget)を議会に提出するが、これは議会に対するリクエストにすぎず、そのまま採用されるわけではない。議会は歳入・歳出に関する法案を独自に審議し、制定することができる。日本では予算編成は内閣(行政府)の仕事であり、ここが日米の予算編成プロセスの大きな違いだと言える。
では、実際に予算の立法化作業をどこが行うのかというと、上・下院の委員会である。連邦議会の上・下院には、それぞれ軍事・外交・通商科学・歳入・保健年金・司法・公共事業などといった専門分野別に委員会が設置されていて、歳出権限法を定める(予算以外についても、議員を通して持ち込まれるさまざまな法案をスクリーニングして公聴会にかけ、どの法案を本会議に送るのかを決めている)」
http://www.glocom.ac.jp/j/publications/2005/07/2006.htmlから引用。
ところで、“UIGEA” 法案(H.R.4411)における連邦予算局が下院司法委員会で行った報告では2007年から2011年の間に法施行による連邦、州等行政機関が新たに負う財政支出は200万ドル(約3億3,200万円)として連邦予算全体への大きな影響はないとしている。なお、民間の決済機関がFRB等の規則に遵守するためのコストについては明らかにしていない。
(筆者注8)ACHは、 米国の連邦準備銀行(FRB)等によって運用され、銀行間の資金決済を電子的に行う決済システムである。給与振込、公共料金の支払いの他、利息や配当金の自動振込や自動引落、財務省が依頼人となる社会保障給付金等の受給資格付与プログラムに基づく給付等に利用されている。さらに最近では、大量処理に向いていることから保険の掛け金、株式の購入や法人の現金残高の連結処理等に利用されている。ACHは、米国の銀行がネットワークで結ばれて一大決済システムを構築しており、銀行、証券会社等25,000以上の金融機関で構成されている。
ACHの民間部門の実務的な運用は、全米自動決済協会(National Automated Clearing Association(NACHA)) が策定した規則により、また財務省の支払いについてはNACHAの規則に適合する範囲で連邦政府規則によって管理される。
NACHAは、直接会員11,000以上の金融機関(商業銀行、貯蓄銀行、貯蓄貸付組合、外国銀行、エッジ法会社(1919 年のエッジ法(銀行法改正)により認められた金融会社。連邦政府の免許を受けて国際金融業務を行い、FRB の監督に服する。通常は銀行の子会社で、国際銀行業務を行うものと国際投資業務を行うものとの2つのタイプに大別される)および信用組合)、地方の40のACH協会および業界協議会を通じた585機関の代表からなる非営利協会である。
なお、これと対象的な米国の非現金小口決済システムは「小切手」である。2004年の連銀の調査では、紙ベースの小切手のシェアーは2000年の57%(取扱額は12兆ドル(約1,392兆円)、48億枚)から2003年には45%に低下している。もっとも連銀は手を拱いているわけではなく、小切手のイメージ処理を目的とした「21世紀の小切手決済法(Check Clearing for the 21th Century Act)」を2003年10月に成立し、2004年8月28日に施行している。
(筆者注9)米国におけるホールセールやリィテールの決済システムの図解はないのか、筆者がかねてから抱いてきた疑問は未だに解決できない。唯一の救いは連邦金融機関検査協議会(FFIEC)がまとめた「2004年3月Retail Payment System Booklet」である。実務面から見ると簡潔な図解ではあるが、小切手、クレジットカード、PIN型デビットカード、オンライン型P 2P、ACHの各決済ごとに取引stepの番号順に説明をしている。初心者にも理解しやすい内容であり、本規則案と併用して読むと用語が共通しており一層理解が深まろう。
また、ACHだけに限ればNACHAサイトの図解がより正確で詳しい。
これと比較するものとして既存米国銀行のシティバンクの「手数料一覧」を見おく必要があろう。
(筆者注10)外国送金の手段として邦銀を利用するより割安な方法として紹介されている例が多い、ただし、“Western Union”の場合、利用者は唯一の日本の代理店であるスルガ銀行と送金委託契約の締結が必要となる。また、Moneygram internationalを利用する場合は、東京にあるポルトガルの「イタウ銀行(Banco Itau S.A.)」に出向くことが必要になる。
〔参照URL〕
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/20071001a.htm
および
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/bcreg20071001a1.pdf
Copyright (c)2007 -2008 福田平冶 All Rights Reserved.
本公募通達は全体で52ページもので、米国人でもその説明の重複、くどさにへきへきしているらしい。しかし、良く読んでみると結構その内容はかなり“practical”である。つまり、インターネットというグローバルかつヴァーチャルな世界で違法な賭け事を決済面で規制していくという視点である。特に各決済手段の特性を分析しながら、①1取引毎のキー・コードとして使えるものはないか(identifying information)、②送金依頼人や受取人の特定につながる情報はないかといった観点から分析・模索している点である。(筆者注7)
本ブログでは筆者なりに要点のみ説明するが、個人的に関心があったのは規則案の解釈の前提として必須といえる「第Ⅱ章 逐条分析」(6頁以下)で説明されている“UIGEA”で定める「ACH、カード、小切手取立等5つの決済システム」についてである。(筆者注8) (筆者注9)
特に“Western Union””MoneyGram”(筆者注10)“PayPal”は既存の銀行等による決済手段とは異なる「資金送金ビジネス(Money transmitting business)」である。これらの部分について興味のある読者は丁寧に読んで欲しいし、できたら図解化したら米国の最新の決済の仕組みが勉強できる(ただし、金融機関向けに作成されたものとしては、注書きの内容も含め説明内容の不足の感は否めない)。
(筆者注7)米国の議会の“practical ”な点はもう1つある。「米国では毎年の予算がすべて法律として審議され、制定される。米国憲法は第I条第1節で、「いっさいの立法権限は議会に与える」と定めている。したがって、予算編成の権限も立法の一部として大統領ではなく議会(立法府)にあり、財政関連法案は議員が細部にわたる決定権限も持つ(もちろん通常の法案と同様、大統領には拒否権がある)。大統領は毎年2月第1月曜日に予算教書(President's Budget)を議会に提出するが、これは議会に対するリクエストにすぎず、そのまま採用されるわけではない。議会は歳入・歳出に関する法案を独自に審議し、制定することができる。日本では予算編成は内閣(行政府)の仕事であり、ここが日米の予算編成プロセスの大きな違いだと言える。
では、実際に予算の立法化作業をどこが行うのかというと、上・下院の委員会である。連邦議会の上・下院には、それぞれ軍事・外交・通商科学・歳入・保健年金・司法・公共事業などといった専門分野別に委員会が設置されていて、歳出権限法を定める(予算以外についても、議員を通して持ち込まれるさまざまな法案をスクリーニングして公聴会にかけ、どの法案を本会議に送るのかを決めている)」
http://www.glocom.ac.jp/j/publications/2005/07/2006.htmlから引用。
ところで、“UIGEA” 法案(H.R.4411)における連邦予算局が下院司法委員会で行った報告では2007年から2011年の間に法施行による連邦、州等行政機関が新たに負う財政支出は200万ドル(約3億3,200万円)として連邦予算全体への大きな影響はないとしている。なお、民間の決済機関がFRB等の規則に遵守するためのコストについては明らかにしていない。
(筆者注8)ACHは、 米国の連邦準備銀行(FRB)等によって運用され、銀行間の資金決済を電子的に行う決済システムである。給与振込、公共料金の支払いの他、利息や配当金の自動振込や自動引落、財務省が依頼人となる社会保障給付金等の受給資格付与プログラムに基づく給付等に利用されている。さらに最近では、大量処理に向いていることから保険の掛け金、株式の購入や法人の現金残高の連結処理等に利用されている。ACHは、米国の銀行がネットワークで結ばれて一大決済システムを構築しており、銀行、証券会社等25,000以上の金融機関で構成されている。
ACHの民間部門の実務的な運用は、全米自動決済協会(National Automated Clearing Association(NACHA)) が策定した規則により、また財務省の支払いについてはNACHAの規則に適合する範囲で連邦政府規則によって管理される。
NACHAは、直接会員11,000以上の金融機関(商業銀行、貯蓄銀行、貯蓄貸付組合、外国銀行、エッジ法会社(1919 年のエッジ法(銀行法改正)により認められた金融会社。連邦政府の免許を受けて国際金融業務を行い、FRB の監督に服する。通常は銀行の子会社で、国際銀行業務を行うものと国際投資業務を行うものとの2つのタイプに大別される)および信用組合)、地方の40のACH協会および業界協議会を通じた585機関の代表からなる非営利協会である。
なお、これと対象的な米国の非現金小口決済システムは「小切手」である。2004年の連銀の調査では、紙ベースの小切手のシェアーは2000年の57%(取扱額は12兆ドル(約1,392兆円)、48億枚)から2003年には45%に低下している。もっとも連銀は手を拱いているわけではなく、小切手のイメージ処理を目的とした「21世紀の小切手決済法(Check Clearing for the 21th Century Act)」を2003年10月に成立し、2004年8月28日に施行している。
(筆者注9)米国におけるホールセールやリィテールの決済システムの図解はないのか、筆者がかねてから抱いてきた疑問は未だに解決できない。唯一の救いは連邦金融機関検査協議会(FFIEC)がまとめた「2004年3月Retail Payment System Booklet」である。実務面から見ると簡潔な図解ではあるが、小切手、クレジットカード、PIN型デビットカード、オンライン型P 2P、ACHの各決済ごとに取引stepの番号順に説明をしている。初心者にも理解しやすい内容であり、本規則案と併用して読むと用語が共通しており一層理解が深まろう。
また、ACHだけに限ればNACHAサイトの図解がより正確で詳しい。
これと比較するものとして既存米国銀行のシティバンクの「手数料一覧」を見おく必要があろう。
(筆者注10)外国送金の手段として邦銀を利用するより割安な方法として紹介されている例が多い、ただし、“Western Union”の場合、利用者は唯一の日本の代理店であるスルガ銀行と送金委託契約の締結が必要となる。また、Moneygram internationalを利用する場合は、東京にあるポルトガルの「イタウ銀行(Banco Itau S.A.)」に出向くことが必要になる。
〔参照URL〕
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/20071001a.htm
および
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/bcreg20071001a1.pdf
Copyright (c)2007 -2008 福田平冶 All Rights Reserved.
米国FRBと財務省がインターネット・賭博規制に関する規則案について関係機関からの意見を公募(その1)
米国の中央銀行である連邦準備銀行制度理事会(FRB)と財務省(DOT)は、2007年10月1日付けで「2006年違法なインターネット・賭博の取締りに関する法律(Unlawful Internet Gambling Enforcement Act(以下”UIGEA”))」にもとづく法適用に関する規則(案)について、関係機関から来る12月12日を期限とするパブリック・コメントを公募している。
UIGEAは独立した法案ではなく、「2006年港湾安全および行政責任法(Security and Accountability For Every Port Act of 2006t(以下“SAEPA”))」(下院法案H.R.4954)の第Ⅷ編の5361条から5367条を指す。(筆者注1)
ところで、わが国内でPC等の端末を使って海外の合法的カジノにアクセスするオンライン・カジノについて現行刑法(185条(単純賭博罪)、186条(常習賭博罪))の適用については困難とする論調が多い。(筆者注2)(筆者注3)
一方では地方財政の逼迫対策として公営ギャンブル(カジノ)の旗振りをしているのが東京都や大阪府であることも情けない。(筆者注4)
ネット・カジノ・カフェ(オンライン・ゲーム・カフェ)の法的違法性について法務省や警察庁の見解が不透明な中で若者の間で広がっている現実(筆者注5)、特にこの問題について一番勉強しているのが「オンライン・カジノ・ファン」という現実を見るにつけ、司法・捜査当局および刑法研究者の迅速な解釈の明確化の検討や立法措置の検討が求められよう。
そういう意味で、米国の規制立法の背景や決済機関の対応をめぐる動きは、わが国としても極めて重要な研究材料といえる。また、アメリカ人の賭け事への誘惑を満たすものとされる“Second Life”のギャンブル・セクターはUIGEAに違反するのかという問題も絡んでくる。(筆者注6)
なお、“UIGEA”の立法により大きな経済的影響を受けているとされる英国の「賭博委員会(Gambling Commission)」の規制・監督の現状については別途解説する。
本テーマについて、1回では収まらないので4回に分けて解説する。
1.米国UIGEAの要旨
(1)銀行やクレジットカード会社などの金融機関(Financial Transaction Providerがオンライン・ギャンブル・サイトとの出入金・決済の取扱いを原則禁止する。
(2)ISP等のインターネット事業者(Interactive Computer Service)がオンライン・ギャンブル・サイトを運営・リンクおよびユーザーをギャンブル・サイトへ誘導したりすることを禁止する。
(3)禁止する対象には例外がある(州内または部族内で完結するギャンブル、州内競 馬取引法(Interstate Horseracing Act of 1978)が認める競馬、米国内の証券・商品先物取引等) 。
(4)同法違反の場合、5年以下の禁固刑または罰金刑(または両者を併科)を科す。(5366条)
2.同規則案策定の法的背景および関係する各種決済手段の明確な定義付け
“UIGEA”は、連邦監督機関であるAgenciesに対し次の内容を盛り込んだ規則について司法省と協議のうえ策定することを義務付けている。また“違法な賭け行為”等その定義や運用は連邦、州および部族(tribal)法の解釈の変更、制限や拡大を行うものではない。
規則案のポイントとなる項目は次の内容である。
(1) 本規則において使用する用語の定義を定める。
(2) “UIGEA”が定める禁止取引きと関連しまたは容易にするため決済システム参加者が使用しうる支払いシステムを指定する。
(3)本規則に基づき、一定の参加者をその適用除外とする例外規定を定める。
(4)決済システム参加者に禁止取引きを特定したり阻止するため指定する合理的ポリシーや手続きの作成およびその適用すること支払いシステムの非例外機能の遂行を要求する。
(5)各決済システムにおいて非例外参加者のためにポリシーや手続きの非例外例の内容を提供する。
(6)違法行為に対する法執行の枠組みを定める。
(筆者注1)第109連邦議会には“UIGEA”と標題が似た法案“H.R.4411 Internet Gambling Prohibition and Enforcement Act”および“H.R.4777 Internet Gambling Prohibition Act”が上程されていたが、いずれも成立せず廃案になっている。なお、両法案はUIGEAとは内容的に重要な点で異なる法案である。
(筆者注2)Japan Casino Newsサイトの解説が複数の弁護士の意見を取りまとめており、そのまま引用する。「オンラインカジノに関して、明確に規定した法律はなく、判例もまだでていません。現行の法律で適否が問題となるのは、刑法185条(単純賭博罪)または同法186条1項(常習賭博罪)ですがこれが適用されるかを検討してみました。
まず、賭博罪には国外犯処罰規定がないので(刑法2条・3条)、国外のカジノや国外のサーバーがその国の営業許可を得ているか否かに関わらず、日本の刑法によって処罰されることはありません。つまり、日本人が国外のカジノで賭博行為をしたり、パソコンを操作してオンラインカジノに参加しても、刑法によって処罰されることはないということです。問題は日本国内からパソコンを操作し、国外のオンラインカジノに参加する場合です。
【考えられる問題点】賭博罪は必要的共犯ないし対向犯とされており、相手方のない賭博行為というものは観念されず、いわば相手方と(賭け参加者とカジノ開帳側の)セットで違法とされる犯罪です。(カジノ経営者と参加者の双方を立件できなければ原則賭博罪の適用は困難です。)しかしながら、オンラインカジノの場合、上記のように国外のカジノや国外のサーバーは、その国で営業許可を得ているか否かに関わらず日本の刑法(賭博罪)の適用を受けることはありません。したがって、日本国内からの国外へのオンラインカジノへの参加は違法とはならないというのが大方の見解です。また、必要的共犯ないし対向犯の一方が、国外犯処罰規定がないことにより処罰されない場合、もう一方の扱いについて論述した文献は見当たりません。つまり、海外のカジノ運営会社やサーバーなどは、現行の日本の法律では処罰できないということになります。
日本国内でオンラインカジノが取り締まられた事例はまだありません。取り締まるべき法律自体がないからなのです。」
(筆者注3)平成18年2月23日に海外(フィリピン)のオンラインカジノへアクセスさせたゲームカフェの店員およびその客が京都府警に常習賭博容疑で現行犯逮捕された。客の負け分をフィリピンのカジノ開設者と折半していたとされている。 あるカジノ専門サイトの解説では今回の摘発の要因は、①現金の支払い受取りが同一場所で行われている点、②カフェの経営者と客であるプレイヤーが同一個所にいる点、③国内のサーバーを経由している点をあげて、刑法186条に基づく摘発を行ったのではないかと指摘している。
参考までに常習賭博罪に関するキーワードを簡単に述べておく。
「賭博」当事者の任意に左右しえない偶然の事情にかかる勝敗によって財物の得喪を争うこと。博戯(当事者の行為によって勝敗が決まるとき)と賭事(当事者の行為に関係ないことで勝敗が決まるとき)がある。
「刑法186条」常習として賭博をした者は、3年以下の懲役に処する。賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の懲役に処する。
「利益を図る」賭博開帳の対価としての不法な財産的利益をあげようとする意思で行為すること。
今回の容疑者はネットカフェ形式のオンライン・カジノであるが、英国のゲームソフトメーカーであるPlaytech社製のソフトを利用していた。
法律論としては、仮に個人が自宅のPCから海外の合法カジノにアクセスして「無料ボーナス」を受け取った後に引き出すためにチップを購入し、「賭け」行為を行った場合はどうなるのであろうか。また、自分の自宅に友人等を集めて手数料を取って行ったら186条違反は間違いなかろう。
(筆者注4) 具体的には平成12年5月に設置した「地方自治体カジノ研究会」と16年8月に設置した「同協議会」のことである。この研究会の構成都府県は、東京都、神奈川県、静岡県、大阪府、和歌山県、宮崎県の実務担当者である。ここでいう「実務担当者」とはどのような部署を指すのかが明らかでなく、当初拡大を考えていた他道府県の正式参加もままならないようである。
協議会に参加する各府県の公式サイトで見る限り、具体的な「カジノ特別法」について言及しているのは大阪府と静岡県であり、非公開の協議会(自民党カジノ議連・カジノ・エンターテイメント検討小委員会が法案や基本方針を公表・作成済み)について開催状況をサイトで報じているのは大阪府、和歌山県情報館のみである。
(筆者注5)わが国の司法・検察関係者は当然承知の情報であろうが、カジノ・オンラインの国際的なネットワークの広がりは国際的ビジネスとなっている。例えば「casinoking.com」サイトを見て欲しい。自宅のPC等から言語の障害なしに多国語で高額の賞金獲得をいとも容易に誘う手口は決して無視しえない内容である。「無料ゲーム」としても楽しめるといいながら、無料のボーナスを餌にチップ購入(最低11万6千円等)を交換条件として「賭け」行為をすすめ、多いところでは12倍の賭けを行うかたちを取っている。同サイトの印刷は不可である。
(筆者注6)ワシントン・ロー・スクールのラマサウトリー助教授がSecond Lifeのギャンブル・セクターは“UIGEA”に違反するかという問題指摘を行っている。わが国ではここまでの検討はなされていないのではないか。
〔参照URL〕
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/20071001a.htm
および
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/bcreg20071001a1.pdf
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UIGEAは独立した法案ではなく、「2006年港湾安全および行政責任法(Security and Accountability For Every Port Act of 2006t(以下“SAEPA”))」(下院法案H.R.4954)の第Ⅷ編の5361条から5367条を指す。(筆者注1)
ところで、わが国内でPC等の端末を使って海外の合法的カジノにアクセスするオンライン・カジノについて現行刑法(185条(単純賭博罪)、186条(常習賭博罪))の適用については困難とする論調が多い。(筆者注2)(筆者注3)
一方では地方財政の逼迫対策として公営ギャンブル(カジノ)の旗振りをしているのが東京都や大阪府であることも情けない。(筆者注4)
ネット・カジノ・カフェ(オンライン・ゲーム・カフェ)の法的違法性について法務省や警察庁の見解が不透明な中で若者の間で広がっている現実(筆者注5)、特にこの問題について一番勉強しているのが「オンライン・カジノ・ファン」という現実を見るにつけ、司法・捜査当局および刑法研究者の迅速な解釈の明確化の検討や立法措置の検討が求められよう。
そういう意味で、米国の規制立法の背景や決済機関の対応をめぐる動きは、わが国としても極めて重要な研究材料といえる。また、アメリカ人の賭け事への誘惑を満たすものとされる“Second Life”のギャンブル・セクターはUIGEAに違反するのかという問題も絡んでくる。(筆者注6)
なお、“UIGEA”の立法により大きな経済的影響を受けているとされる英国の「賭博委員会(Gambling Commission)」の規制・監督の現状については別途解説する。
本テーマについて、1回では収まらないので4回に分けて解説する。
1.米国UIGEAの要旨
(1)銀行やクレジットカード会社などの金融機関(Financial Transaction Providerがオンライン・ギャンブル・サイトとの出入金・決済の取扱いを原則禁止する。
(2)ISP等のインターネット事業者(Interactive Computer Service)がオンライン・ギャンブル・サイトを運営・リンクおよびユーザーをギャンブル・サイトへ誘導したりすることを禁止する。
(3)禁止する対象には例外がある(州内または部族内で完結するギャンブル、州内競 馬取引法(Interstate Horseracing Act of 1978)が認める競馬、米国内の証券・商品先物取引等) 。
(4)同法違反の場合、5年以下の禁固刑または罰金刑(または両者を併科)を科す。(5366条)
2.同規則案策定の法的背景および関係する各種決済手段の明確な定義付け
“UIGEA”は、連邦監督機関であるAgenciesに対し次の内容を盛り込んだ規則について司法省と協議のうえ策定することを義務付けている。また“違法な賭け行為”等その定義や運用は連邦、州および部族(tribal)法の解釈の変更、制限や拡大を行うものではない。
規則案のポイントとなる項目は次の内容である。
(1) 本規則において使用する用語の定義を定める。
(2) “UIGEA”が定める禁止取引きと関連しまたは容易にするため決済システム参加者が使用しうる支払いシステムを指定する。
(3)本規則に基づき、一定の参加者をその適用除外とする例外規定を定める。
(4)決済システム参加者に禁止取引きを特定したり阻止するため指定する合理的ポリシーや手続きの作成およびその適用すること支払いシステムの非例外機能の遂行を要求する。
(5)各決済システムにおいて非例外参加者のためにポリシーや手続きの非例外例の内容を提供する。
(6)違法行為に対する法執行の枠組みを定める。
(筆者注1)第109連邦議会には“UIGEA”と標題が似た法案“H.R.4411 Internet Gambling Prohibition and Enforcement Act”および“H.R.4777 Internet Gambling Prohibition Act”が上程されていたが、いずれも成立せず廃案になっている。なお、両法案はUIGEAとは内容的に重要な点で異なる法案である。
(筆者注2)Japan Casino Newsサイトの解説が複数の弁護士の意見を取りまとめており、そのまま引用する。「オンラインカジノに関して、明確に規定した法律はなく、判例もまだでていません。現行の法律で適否が問題となるのは、刑法185条(単純賭博罪)または同法186条1項(常習賭博罪)ですがこれが適用されるかを検討してみました。
まず、賭博罪には国外犯処罰規定がないので(刑法2条・3条)、国外のカジノや国外のサーバーがその国の営業許可を得ているか否かに関わらず、日本の刑法によって処罰されることはありません。つまり、日本人が国外のカジノで賭博行為をしたり、パソコンを操作してオンラインカジノに参加しても、刑法によって処罰されることはないということです。問題は日本国内からパソコンを操作し、国外のオンラインカジノに参加する場合です。
【考えられる問題点】賭博罪は必要的共犯ないし対向犯とされており、相手方のない賭博行為というものは観念されず、いわば相手方と(賭け参加者とカジノ開帳側の)セットで違法とされる犯罪です。(カジノ経営者と参加者の双方を立件できなければ原則賭博罪の適用は困難です。)しかしながら、オンラインカジノの場合、上記のように国外のカジノや国外のサーバーは、その国で営業許可を得ているか否かに関わらず日本の刑法(賭博罪)の適用を受けることはありません。したがって、日本国内からの国外へのオンラインカジノへの参加は違法とはならないというのが大方の見解です。また、必要的共犯ないし対向犯の一方が、国外犯処罰規定がないことにより処罰されない場合、もう一方の扱いについて論述した文献は見当たりません。つまり、海外のカジノ運営会社やサーバーなどは、現行の日本の法律では処罰できないということになります。
日本国内でオンラインカジノが取り締まられた事例はまだありません。取り締まるべき法律自体がないからなのです。」
(筆者注3)平成18年2月23日に海外(フィリピン)のオンラインカジノへアクセスさせたゲームカフェの店員およびその客が京都府警に常習賭博容疑で現行犯逮捕された。客の負け分をフィリピンのカジノ開設者と折半していたとされている。 あるカジノ専門サイトの解説では今回の摘発の要因は、①現金の支払い受取りが同一場所で行われている点、②カフェの経営者と客であるプレイヤーが同一個所にいる点、③国内のサーバーを経由している点をあげて、刑法186条に基づく摘発を行ったのではないかと指摘している。
参考までに常習賭博罪に関するキーワードを簡単に述べておく。
「賭博」当事者の任意に左右しえない偶然の事情にかかる勝敗によって財物の得喪を争うこと。博戯(当事者の行為によって勝敗が決まるとき)と賭事(当事者の行為に関係ないことで勝敗が決まるとき)がある。
「刑法186条」常習として賭博をした者は、3年以下の懲役に処する。賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の懲役に処する。
「利益を図る」賭博開帳の対価としての不法な財産的利益をあげようとする意思で行為すること。
今回の容疑者はネットカフェ形式のオンライン・カジノであるが、英国のゲームソフトメーカーであるPlaytech社製のソフトを利用していた。
法律論としては、仮に個人が自宅のPCから海外の合法カジノにアクセスして「無料ボーナス」を受け取った後に引き出すためにチップを購入し、「賭け」行為を行った場合はどうなるのであろうか。また、自分の自宅に友人等を集めて手数料を取って行ったら186条違反は間違いなかろう。
(筆者注4) 具体的には平成12年5月に設置した「地方自治体カジノ研究会」と16年8月に設置した「同協議会」のことである。この研究会の構成都府県は、東京都、神奈川県、静岡県、大阪府、和歌山県、宮崎県の実務担当者である。ここでいう「実務担当者」とはどのような部署を指すのかが明らかでなく、当初拡大を考えていた他道府県の正式参加もままならないようである。
協議会に参加する各府県の公式サイトで見る限り、具体的な「カジノ特別法」について言及しているのは大阪府と静岡県であり、非公開の協議会(自民党カジノ議連・カジノ・エンターテイメント検討小委員会が法案や基本方針を公表・作成済み)について開催状況をサイトで報じているのは大阪府、和歌山県情報館のみである。
(筆者注5)わが国の司法・検察関係者は当然承知の情報であろうが、カジノ・オンラインの国際的なネットワークの広がりは国際的ビジネスとなっている。例えば「casinoking.com」サイトを見て欲しい。自宅のPC等から言語の障害なしに多国語で高額の賞金獲得をいとも容易に誘う手口は決して無視しえない内容である。「無料ゲーム」としても楽しめるといいながら、無料のボーナスを餌にチップ購入(最低11万6千円等)を交換条件として「賭け」行為をすすめ、多いところでは12倍の賭けを行うかたちを取っている。同サイトの印刷は不可である。
(筆者注6)ワシントン・ロー・スクールのラマサウトリー助教授がSecond Lifeのギャンブル・セクターは“UIGEA”に違反するかという問題指摘を行っている。わが国ではここまでの検討はなされていないのではないか。
〔参照URL〕
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/20071001a.htm
および
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/bcreg20071001a1.pdf
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2008年1月5日土曜日
第3回米中戦略経済対話(SED)が共同文書を採択、閉幕(その3)
(4)行政許可に関する透明性について(筆者注9)
米国と中国は行政ルールの策定時(in administrative rule-making )の透明性の拡大ならびに一般大衆の参加機会の強化について合意した。
両国はAPECおよびWTOにおける責任を含む透明性に関する国際的責務として次のことに取組むことにつき合意した。
① 極力(when possible)、(ⅰ)行政手続きの適用・採用に関しWTO協定に基づく責任において扱われる方法案について予め公表し、(ⅱ)提案方法についてコメントする合理的な機会を関係者に提供する。各国は、このWTO責務の遵守について指定した官報への掲載または公的ウェブサイト上での恒久的掲示を行う。
② 行政手続きの適用または執行の前に指定された官報においてWTO協定に基づく責任において扱われる最終的方法について公表する。
(5)米中のバランスの取れた経済成長のあり方について
米国と中国は、米中合同経済委員会(U.S.-China Joint Economic Committee)の下での議論を含む対話と協議を通じた米中の経済の不均衡に関する方法について話し合う責任がある。両国は貿易および投資に関する保護主義に対し強く反対することに合意した。
米国と中国は最近時の米国のサブプライム市場および世界的金融市場の混乱によって導かれた米国や国際的な取組みを歓迎する。両国は、引き続き構造的に重要な経済および金融の発展に関し、時宜に応じて話し合いと情報の共有を行うことに合意した。
両国の金融監督機関は、監督方法について意見交換を行うことについて合意した。2007年12月13日、14日に中国税関局と米国税関国境警備局(CBP)
は2008年1月の早い時期に開始する予定の米国関税テロ対策プログラム(C-TPAT)(筆者注10)の中国における共同認定手続きのパイロットプログラムの技術的討議について合意した。
(6)官民一体の改革の促進について
米国と中国は2007年12月10日に北京で改革会議を共催した。その中で①エコシステムのための改革を成功裡に収めるための要素、改革の育成のための適切な官民の役割および知的財産の創造、保護、普及についていかなる方法で促進させるか等について議論した。その結果、両国は引続き官民改革の議論を合同で開催するとともに第3回改革会議で概要取りまとめ文書に即した共同活動を行うことについて合意した。
5.両国の今後6か月間の優先的取組作業内容
両国は、次回SEDまでに次の優先課題に取組む。
(1)既存の両国間の共同検討メカニズムを通じて、食品、薬品、医療製品を含む製品および消費財分野における対話と意見交換を一層発展させる。
(2)エネルギーと環境改善に向けた10年以上の広範囲な共同活動に取組む。この10年以上にわたる共同活動において、①技術的改革、②高度に効率的、クリーンなエネルギー技術、③気象の変化、④天然資源の持続の促進をすすめる。このため可及的速やかに計画を進めるため作業部会を設置する。
(3)①2008年の早い時期に会合を開き環境問題が緊急の課題であるという認識の下で、WTOにおいて環境改善に向けた製品やサービスなど環境改善に向けた関税および非関税障壁の軽減また適切な場合は撤廃について共同交渉を推進する。
②中国の第12次5ヵ年計画に合わせ、硫黄含有量の50PPM以下への漸次削減とより進んだ自動車汚染の管理技術の共同化の開発のための詳細計画の開発についての共同活動を拡大する。
③国際エネルギー機関(IEA)との協調を含め、情報および技術交換を通じて戦略的石油備蓄施設の建設およびその管理に関し共同活動を強化する。
(4)①投資政策、実践および投資環境についてハイレベルの意見交換を開始する。二国間の投資条約(Bilateral Investment Treaty)の交渉見通しに関する現下の議論を活発化する。
②中国の市場経済化を成功裡に導くために共同的方法により協議を継続する。
③両国間のハイテク技術と戦略的貿易の拡大と促進に向け「米中ハイテク・戦略貿易開発に関するガイドライン(Guideline for U.S. High-Technology and Strategic Trade Development)」の積極的な適用、適切な建設的方法の採用ならびに行動計画を作りあげる。両国の関係政府機関は原産地規則(rule s of origin)の分野において会合またはデジタルビデオ会議を行うことに合意する。
(5)①行政の透明性に関する各国の国際的な責務の範囲の調査を行う。
②行政ルールの策定の間における受け取ったコメントに対する調査および対応につい情報交換を継続する。
③米国に対する中国市場の分野および中国に対する米国市場分野において、行政免許を与えることに関し、条件、手続き、時間枠について定期的に両国間で情報交換を行う仕組みを確立する。
(筆者注9)中国の行政手続きの透明性問題について、富山県貿易・投資アドバイザー梶田 幸雄氏の論文に基づき補足しておく。「透明度の問題とは、中国市場におけるコストやビジネス機会を評価す情報開示の問題である。60%から数年来進展がないと回答し、毎年の主要課題として指摘され続けている問題である。解答の12%は、規制などの情報開示が拒まれることがあり、悪化ないし新たな問題となっていると述べている。中国の行政許可法が2004年7月1日から施行された。この行政許可法は、行政許可の範囲、種類、手続を定め、および行政許可の検査監督、費用徴収などにつき明確な規定をし、政府の行政許可および行政管理人の業務を法制化、規範化するものである。中国国内における企業活動にとっても重要な意味を持つものであるといえる。」
http://www.near21.jp/center/publication/journal/73/kajita.pdf
(筆者注10)米国C-TPAT(Customs-Trade Partnership Against Terrorism)とは、米国関税テロ対策プログラムのことで、国土安全保障省傘下の米国税関国境警備局(CBP)が実施している一連のテロ対策の中核プログラムである。
①米国に輸入される全貨物に危険物が混入するのを防ぐため、そのサプライチェーンの安全性を確保する官民共同プログラムで米国の輸入品に関係する全企業が対象になる。
②参加企業は自社サプライチェーンの保安計画を提出し、税関の検査・認証を受ける。
③米国税関が国・業種を段階的に指定。任意参加であるが、不参加者には通関時のチェックの増加など不利益が出るので、実質強制参加に近い。
④CBPが示すサプライチェーン・セキュリティ管理ガイドラインに沿って社内セキュ
リティ管理を実施していると認定した企業に対して、輸入通関時での低い検査率の適用などのベネフィットを提供する。
⑤輸入者、船社、通関業者、倉庫管理者、海外の製造者(メキシコ・カナダ)が対象。 既に6,600社が参加認定されている。日系米国法人も多数参加。⑥認定(validation)後、海外サプライヤーの事業所にも米国税関検査官の実地調査が入る。⑦実地調査により、評価はTier3からTier1まで3段階に区分される。Tier3が最上位。
http://nexus-partners.org/ctpat.aspxより引用。
〔参照URL〕
http://www.ustreas.gov/press/releases/hp732.htm
Copyright (c)2006-2008 福田平冶 All Rights Reserved.
米国と中国は行政ルールの策定時(in administrative rule-making )の透明性の拡大ならびに一般大衆の参加機会の強化について合意した。
両国はAPECおよびWTOにおける責任を含む透明性に関する国際的責務として次のことに取組むことにつき合意した。
① 極力(when possible)、(ⅰ)行政手続きの適用・採用に関しWTO協定に基づく責任において扱われる方法案について予め公表し、(ⅱ)提案方法についてコメントする合理的な機会を関係者に提供する。各国は、このWTO責務の遵守について指定した官報への掲載または公的ウェブサイト上での恒久的掲示を行う。
② 行政手続きの適用または執行の前に指定された官報においてWTO協定に基づく責任において扱われる最終的方法について公表する。
(5)米中のバランスの取れた経済成長のあり方について
米国と中国は、米中合同経済委員会(U.S.-China Joint Economic Committee)の下での議論を含む対話と協議を通じた米中の経済の不均衡に関する方法について話し合う責任がある。両国は貿易および投資に関する保護主義に対し強く反対することに合意した。
米国と中国は最近時の米国のサブプライム市場および世界的金融市場の混乱によって導かれた米国や国際的な取組みを歓迎する。両国は、引き続き構造的に重要な経済および金融の発展に関し、時宜に応じて話し合いと情報の共有を行うことに合意した。
両国の金融監督機関は、監督方法について意見交換を行うことについて合意した。2007年12月13日、14日に中国税関局と米国税関国境警備局(CBP)
は2008年1月の早い時期に開始する予定の米国関税テロ対策プログラム(C-TPAT)(筆者注10)の中国における共同認定手続きのパイロットプログラムの技術的討議について合意した。
(6)官民一体の改革の促進について
米国と中国は2007年12月10日に北京で改革会議を共催した。その中で①エコシステムのための改革を成功裡に収めるための要素、改革の育成のための適切な官民の役割および知的財産の創造、保護、普及についていかなる方法で促進させるか等について議論した。その結果、両国は引続き官民改革の議論を合同で開催するとともに第3回改革会議で概要取りまとめ文書に即した共同活動を行うことについて合意した。
5.両国の今後6か月間の優先的取組作業内容
両国は、次回SEDまでに次の優先課題に取組む。
(1)既存の両国間の共同検討メカニズムを通じて、食品、薬品、医療製品を含む製品および消費財分野における対話と意見交換を一層発展させる。
(2)エネルギーと環境改善に向けた10年以上の広範囲な共同活動に取組む。この10年以上にわたる共同活動において、①技術的改革、②高度に効率的、クリーンなエネルギー技術、③気象の変化、④天然資源の持続の促進をすすめる。このため可及的速やかに計画を進めるため作業部会を設置する。
(3)①2008年の早い時期に会合を開き環境問題が緊急の課題であるという認識の下で、WTOにおいて環境改善に向けた製品やサービスなど環境改善に向けた関税および非関税障壁の軽減また適切な場合は撤廃について共同交渉を推進する。
②中国の第12次5ヵ年計画に合わせ、硫黄含有量の50PPM以下への漸次削減とより進んだ自動車汚染の管理技術の共同化の開発のための詳細計画の開発についての共同活動を拡大する。
③国際エネルギー機関(IEA)との協調を含め、情報および技術交換を通じて戦略的石油備蓄施設の建設およびその管理に関し共同活動を強化する。
(4)①投資政策、実践および投資環境についてハイレベルの意見交換を開始する。二国間の投資条約(Bilateral Investment Treaty)の交渉見通しに関する現下の議論を活発化する。
②中国の市場経済化を成功裡に導くために共同的方法により協議を継続する。
③両国間のハイテク技術と戦略的貿易の拡大と促進に向け「米中ハイテク・戦略貿易開発に関するガイドライン(Guideline for U.S. High-Technology and Strategic Trade Development)」の積極的な適用、適切な建設的方法の採用ならびに行動計画を作りあげる。両国の関係政府機関は原産地規則(rule s of origin)の分野において会合またはデジタルビデオ会議を行うことに合意する。
(5)①行政の透明性に関する各国の国際的な責務の範囲の調査を行う。
②行政ルールの策定の間における受け取ったコメントに対する調査および対応につい情報交換を継続する。
③米国に対する中国市場の分野および中国に対する米国市場分野において、行政免許を与えることに関し、条件、手続き、時間枠について定期的に両国間で情報交換を行う仕組みを確立する。
(筆者注9)中国の行政手続きの透明性問題について、富山県貿易・投資アドバイザー梶田 幸雄氏の論文に基づき補足しておく。「透明度の問題とは、中国市場におけるコストやビジネス機会を評価す情報開示の問題である。60%から数年来進展がないと回答し、毎年の主要課題として指摘され続けている問題である。解答の12%は、規制などの情報開示が拒まれることがあり、悪化ないし新たな問題となっていると述べている。中国の行政許可法が2004年7月1日から施行された。この行政許可法は、行政許可の範囲、種類、手続を定め、および行政許可の検査監督、費用徴収などにつき明確な規定をし、政府の行政許可および行政管理人の業務を法制化、規範化するものである。中国国内における企業活動にとっても重要な意味を持つものであるといえる。」
http://www.near21.jp/center/publication/journal/73/kajita.pdf
(筆者注10)米国C-TPAT(Customs-Trade Partnership Against Terrorism)とは、米国関税テロ対策プログラムのことで、国土安全保障省傘下の米国税関国境警備局(CBP)が実施している一連のテロ対策の中核プログラムである。
①米国に輸入される全貨物に危険物が混入するのを防ぐため、そのサプライチェーンの安全性を確保する官民共同プログラムで米国の輸入品に関係する全企業が対象になる。
②参加企業は自社サプライチェーンの保安計画を提出し、税関の検査・認証を受ける。
③米国税関が国・業種を段階的に指定。任意参加であるが、不参加者には通関時のチェックの増加など不利益が出るので、実質強制参加に近い。
④CBPが示すサプライチェーン・セキュリティ管理ガイドラインに沿って社内セキュ
リティ管理を実施していると認定した企業に対して、輸入通関時での低い検査率の適用などのベネフィットを提供する。
⑤輸入者、船社、通関業者、倉庫管理者、海外の製造者(メキシコ・カナダ)が対象。 既に6,600社が参加認定されている。日系米国法人も多数参加。⑥認定(validation)後、海外サプライヤーの事業所にも米国税関検査官の実地調査が入る。⑦実地調査により、評価はTier3からTier1まで3段階に区分される。Tier3が最上位。
http://nexus-partners.org/ctpat.aspxより引用。
〔参照URL〕
http://www.ustreas.gov/press/releases/hp732.htm
Copyright (c)2006-2008 福田平冶 All Rights Reserved.
第3回米中戦略経済対話(SED)が共同文書を採択、閉幕(その2)
4.連邦政府の対応と今回の成果に関する財務省の公表内容
2007年12月13日の声明発表でポールソン長官は「米国は経済ナショナリズムや保護貿易主義に反対する」と明言し、中国との対話路線の継続を表明している。しかし、議会との軋轢は残されており、今後の舵取りはさらに困難を増すであろう。
今回、第3回SEDの結果について財務省の公表内容を詳しく紹介するのは、わが国のメディアではほとんど紹介されていない両国の実務レベルの協議や今後のロードマップが意外と計画的に進んでいる点(中国の経済・社会・文化等のアメリカ化はわが国の比でない点)を見逃すと、わが国自体の対米戦略をも誤ると思えるからである。
(1)製品の品質および食品の安全性について
米国と中国は、(ⅰ)両国の対話の拡大、(ⅱ)食品、薬品および消費財の輸出の政府による効果的監視を認めるため、法律・方針・プログラムおよび動機付けといったインフラ強化のための情報の共有について責任を持つ。これらの目的を達成するため、両国は輸出の安全性に関し、次の8分野についての覚書文書(Memorandum of Agreement:MOA またはMemorandum of understanding:MOU)に署名した。(筆者注7)
①食品(food and feed):米国保健社会福祉省(U.S.Department of Health and Human Services (DHHS))と中国国家品質監督検査検疫総局(General Administration of Quality Supervision,Inspection, and Quarantine:AQSIQ) は、2007年12月11日付けの同意覚書(MOA)
②薬品および医療製品(Drugs and Medical products):米国HSSと中国国家食品薬品監督管理局(SFDA)は、2007年12月11日付けの共通理解に関する覚書(MOU)
③環境面に適合した輸出入(Environmentally compliant exports/imports):
米国環境保護局(U.S.Environmental Protection Agency:EPA)と中国AQSIQ
間の共通理解に関する覚書(MOU)
④食品の安全性(Food safety):米国農務省(U.S.Department of Agriculture)と中国AQSIQ間の食品の安全上の共同活動に関する閣僚級の合意による改善内容についての合意
⑤アルコールとタバコ製品:米国財務省と中国AQSIQは、2007年12月11日付けの共通理解に関する覚書(MOU)
その他署名した分野:⑥おもちゃ・花火・ライターおよび電化製品、⑦自動車の安全性、⑧殺虫剤使用の寛容度と貿易問題
(2)金融分野について
中国は、第4回SEDまでに次の行動を行うことについて合意した。
①中國證券監督管理委員會(China Securities Regulatory Commission:CSRC)は、(ⅰ)中国の證券会社に外国の投資家が参入することによる中国の証券市場への影響について慎重な調査を行い、また(ⅱ)その調査結果に基づき中国の証券会社に対する外国株を適用する問題について政策勧告(policy recommendation)を行う。
②中國銀行業督管理委員會(China Banking Regulatory Commission:CBRC)は、現在取組んでいる外国の金融部門の中国銀行部門への参入に関する科学的研究を2008年12月31日までに完成させる。また、CBRCはその時までに政策評価結果に基づき外国資本の銀行業務への参入問題について政策勧告を行う。
③中国は関係する監督諸規則に即して、(ⅰ)人民元建の株式(A株)のについて銀行を含む指定を受けた海外の投資家(qualified foreign-invested companies)(筆者注8)の参入、(ⅱ)指定を受けた上場会社による人民元建社債の発行、(ⅲ)指定を受けた合弁設立外国銀行(incorporated foreign bank)による人民元建金融債の発行を認めることに同意する。
④米国政府は、中国の銀行について内国民待遇の適用を引続き維持し、その適用が優れて内国民待遇の原則に合致することを確認する。また米国政府は同様に外国の銀行が(ⅰ)支店や子会社の設立、(ⅱ)既存の米国銀行へ出資することについて監督基準を適用する。
⑤米国は、金融監督に関する規則や手続きを迅速に中国の銀行に対して適用すべきとする中国側の要請を記した(note)。
⑥米国政府は、米国内における中国のブローカー・ディラーや投資アドバイザーの登録や運用について内国民待遇を適用することについても引続き責任を持つ。
⑦中国CBRCと米国証券取引員会(SEC)は、これら監督機関から免許を受けた金融機関が越境的活動に関し情報の共有を行うことについて近い将来文書を取り交わし署名することについて合意する。
(3)エネルギー・環境問題について
米国と中国は、(ⅰ)燃料に替わるバイオマス資源分野への切替、(ⅱ)違法な森林伐採に共同して戦うことおよび適切な森林管理を適切に推進させことについてMOUに署名した。中国は、今後エネルギー部門の全国的SO2排出権取引プログラム(nationwide program on SO2 emission trading )の開発を行い、また米国は同プログラムに関し、基本的水質環境管理や環境にやさしい燃料および車の排出ガス規制と同様に中国に技術的支援を行う。米国と中国はWTOにおける「環境改善に向けた関税および非関税障壁の軽減また適切な場合は撤廃」における両国の責任を再確認した。
(筆者注7)今回のブログの最大の課題は国家間における“MOA”や“MOU”の法的効果である。すでに述べたとおり、筆者は国際公法の専門家ではないが自分なりに海外のサイト情報を集めてみた。
一般契約法上の用語として用語集では契約(contract)と同様の「書面による合意」として法的拘束力(binding)を持つ場合と必ずしも持たない場合があり、またMOUとMOAは用語の違いにかかわらず互換性があり同一の法的効果があるというのが一般的である。
しかし、より正確な定義について解説したサイトにあたったところ、結構理解しにくい点があった。すなわち、契約と同様の法的効果が得られる場合の要件としては、標準的な契約条件(contract’s terms and conditions)が盛り込まれていなければならない点である(本文5.の内容が国際法上契約上の具体的条件にあたるかどうかは筆者には自信がない)。
一方、しばしばMOAは二者間の単なる共同活動や相互理解や相互の役割や責任の明確化を目的としたものがあるのである。今回の米中の合意文書が後者であるとするなら、米国内の世論に十分応えたものとならないであろう。
(筆者注8) Qualified Foreign Institutional Investors(適格国外機関投資家制度:QFII)とは、2003年5月ごろから試験的に導入され、認定を受けた機関投資家がA株(中国本土には上海、深圳(しんせん)に株式市場があり、A株は中国国内投資家限定で、通貨は人民元での取引をいう。徐々に開放されつつあるが、今のところ中国国内投資家向である)を買える制度。QFIIには機関投資家が認定されるのに厳しい条件があり、QFIIが執行されても認定を受けた機関が少なく影響はほとんどなかったが、機関投資家の認定は徐々に枠が広がり、日本では野村證券、第一生命、日興アセットマネージメント、大和証券が認定されている。2006年3月時点では世界で35社が認められている。
〔参照URL〕
http://www.ustreas.gov/press/releases/hp732.htm
Copyright (c)2006-2008 福田平冶 All Rights Reserved.
2007年12月13日の声明発表でポールソン長官は「米国は経済ナショナリズムや保護貿易主義に反対する」と明言し、中国との対話路線の継続を表明している。しかし、議会との軋轢は残されており、今後の舵取りはさらに困難を増すであろう。
今回、第3回SEDの結果について財務省の公表内容を詳しく紹介するのは、わが国のメディアではほとんど紹介されていない両国の実務レベルの協議や今後のロードマップが意外と計画的に進んでいる点(中国の経済・社会・文化等のアメリカ化はわが国の比でない点)を見逃すと、わが国自体の対米戦略をも誤ると思えるからである。
(1)製品の品質および食品の安全性について
米国と中国は、(ⅰ)両国の対話の拡大、(ⅱ)食品、薬品および消費財の輸出の政府による効果的監視を認めるため、法律・方針・プログラムおよび動機付けといったインフラ強化のための情報の共有について責任を持つ。これらの目的を達成するため、両国は輸出の安全性に関し、次の8分野についての覚書文書(Memorandum of Agreement:MOA またはMemorandum of understanding:MOU)に署名した。(筆者注7)
①食品(food and feed):米国保健社会福祉省(U.S.Department of Health and Human Services (DHHS))と中国国家品質監督検査検疫総局(General Administration of Quality Supervision,Inspection, and Quarantine:AQSIQ) は、2007年12月11日付けの同意覚書(MOA)
②薬品および医療製品(Drugs and Medical products):米国HSSと中国国家食品薬品監督管理局(SFDA)は、2007年12月11日付けの共通理解に関する覚書(MOU)
③環境面に適合した輸出入(Environmentally compliant exports/imports):
米国環境保護局(U.S.Environmental Protection Agency:EPA)と中国AQSIQ
間の共通理解に関する覚書(MOU)
④食品の安全性(Food safety):米国農務省(U.S.Department of Agriculture)と中国AQSIQ間の食品の安全上の共同活動に関する閣僚級の合意による改善内容についての合意
⑤アルコールとタバコ製品:米国財務省と中国AQSIQは、2007年12月11日付けの共通理解に関する覚書(MOU)
その他署名した分野:⑥おもちゃ・花火・ライターおよび電化製品、⑦自動車の安全性、⑧殺虫剤使用の寛容度と貿易問題
(2)金融分野について
中国は、第4回SEDまでに次の行動を行うことについて合意した。
①中國證券監督管理委員會(China Securities Regulatory Commission:CSRC)は、(ⅰ)中国の證券会社に外国の投資家が参入することによる中国の証券市場への影響について慎重な調査を行い、また(ⅱ)その調査結果に基づき中国の証券会社に対する外国株を適用する問題について政策勧告(policy recommendation)を行う。
②中國銀行業督管理委員會(China Banking Regulatory Commission:CBRC)は、現在取組んでいる外国の金融部門の中国銀行部門への参入に関する科学的研究を2008年12月31日までに完成させる。また、CBRCはその時までに政策評価結果に基づき外国資本の銀行業務への参入問題について政策勧告を行う。
③中国は関係する監督諸規則に即して、(ⅰ)人民元建の株式(A株)のについて銀行を含む指定を受けた海外の投資家(qualified foreign-invested companies)(筆者注8)の参入、(ⅱ)指定を受けた上場会社による人民元建社債の発行、(ⅲ)指定を受けた合弁設立外国銀行(incorporated foreign bank)による人民元建金融債の発行を認めることに同意する。
④米国政府は、中国の銀行について内国民待遇の適用を引続き維持し、その適用が優れて内国民待遇の原則に合致することを確認する。また米国政府は同様に外国の銀行が(ⅰ)支店や子会社の設立、(ⅱ)既存の米国銀行へ出資することについて監督基準を適用する。
⑤米国は、金融監督に関する規則や手続きを迅速に中国の銀行に対して適用すべきとする中国側の要請を記した(note)。
⑥米国政府は、米国内における中国のブローカー・ディラーや投資アドバイザーの登録や運用について内国民待遇を適用することについても引続き責任を持つ。
⑦中国CBRCと米国証券取引員会(SEC)は、これら監督機関から免許を受けた金融機関が越境的活動に関し情報の共有を行うことについて近い将来文書を取り交わし署名することについて合意する。
(3)エネルギー・環境問題について
米国と中国は、(ⅰ)燃料に替わるバイオマス資源分野への切替、(ⅱ)違法な森林伐採に共同して戦うことおよび適切な森林管理を適切に推進させことについてMOUに署名した。中国は、今後エネルギー部門の全国的SO2排出権取引プログラム(nationwide program on SO2 emission trading )の開発を行い、また米国は同プログラムに関し、基本的水質環境管理や環境にやさしい燃料および車の排出ガス規制と同様に中国に技術的支援を行う。米国と中国はWTOにおける「環境改善に向けた関税および非関税障壁の軽減また適切な場合は撤廃」における両国の責任を再確認した。
(筆者注7)今回のブログの最大の課題は国家間における“MOA”や“MOU”の法的効果である。すでに述べたとおり、筆者は国際公法の専門家ではないが自分なりに海外のサイト情報を集めてみた。
一般契約法上の用語として用語集では契約(contract)と同様の「書面による合意」として法的拘束力(binding)を持つ場合と必ずしも持たない場合があり、またMOUとMOAは用語の違いにかかわらず互換性があり同一の法的効果があるというのが一般的である。
しかし、より正確な定義について解説したサイトにあたったところ、結構理解しにくい点があった。すなわち、契約と同様の法的効果が得られる場合の要件としては、標準的な契約条件(contract’s terms and conditions)が盛り込まれていなければならない点である(本文5.の内容が国際法上契約上の具体的条件にあたるかどうかは筆者には自信がない)。
一方、しばしばMOAは二者間の単なる共同活動や相互理解や相互の役割や責任の明確化を目的としたものがあるのである。今回の米中の合意文書が後者であるとするなら、米国内の世論に十分応えたものとならないであろう。
(筆者注8) Qualified Foreign Institutional Investors(適格国外機関投資家制度:QFII)とは、2003年5月ごろから試験的に導入され、認定を受けた機関投資家がA株(中国本土には上海、深圳(しんせん)に株式市場があり、A株は中国国内投資家限定で、通貨は人民元での取引をいう。徐々に開放されつつあるが、今のところ中国国内投資家向である)を買える制度。QFIIには機関投資家が認定されるのに厳しい条件があり、QFIIが執行されても認定を受けた機関が少なく影響はほとんどなかったが、機関投資家の認定は徐々に枠が広がり、日本では野村證券、第一生命、日興アセットマネージメント、大和証券が認定されている。2006年3月時点では世界で35社が認められている。
〔参照URL〕
http://www.ustreas.gov/press/releases/hp732.htm
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第3回米中戦略経済対話(SED)が共同文書を採択、閉幕(その1)
北京郊外中信国安第一城(Grand Epoch City)で12月12日、13日の2日間米国(美国)と中国の政府代表が共同議長を務める第3回米中戦略経済対話(The Third U.S.-China Strategic Economic Dialogue:SED Ⅲ、第三次中美战略经济对话)が開催され、13日に共同文書を採択して閉幕した。
SED自体は2006年にブッシュ大統領と胡錦濤国家主席が創設したもので、財政、金融、貿易、環境、厚生、農業等の閣僚級が一堂に会する経済協議の枠組みであり、半年に1度のペースで米中交互で開催され、今回が3回目。ポールソン(長鮑爾森)財務長官と呉儀国務院副總理(Vice Premier Wu Yi)が共同議長を務める。短期的成果を目指す交渉とは異なり、長期的視野に立って中国の貿易黒字の元凶である輸出主導の経済構造を内需主導に転換することを目指す。ただし、米議会の関心が高い人民元(RMB)の柔軟化等は遅れており、米国内では戦略経済対話を基軸とするポールソン長官の対話路線は目に見える成果を上げていないとの批判は根強い(筆者注1)。
一般的にわが国の経済専門家・メディアの見方は、今回の対話は中国ベースで進んだとの評価が多い(筆者注2)。その理由には、米国が従来から強調してきた①人民元改革(米国の対中貿易の赤字解消)、②知的財産権保護強化、③繊維製品をめぐる輸入摩擦問題、④中国の金融市場開放、⑤エネルギー・環境分野の協力、⑤航空の自由化といった重要課題において著しい成果があったとはいえないからである(筆者注3)。国際政治の世界において2国間の間では公表されない具体的な交渉内容があるとは予想されるが、本文で述べるとおり米国民の期待(=議会)に応えるものになっていないといえよう。
米国内の議会等の論調は保護主義強化を求めており、次回(2008年6月)ワシントンで開かれる第4回SEDまでの間にこれら未解決の課題について進展が見られないとブッシュ政権自体の支持率等にも大きな影響が出ることは間違いなかろう。
今回のブログは、財務省の米中共同記者発表資料(Joint Fact Sheet)、通商代表部(U.S. Trade Representative)や商務省(U.S. Department of Commerce)および中国政府の発表等を中心として議会やステーク・ホルダーを中心とする国際経済や外交問題の取組み情報に弱いわが国のメディアの情報を、米国や中国の具体的なオリジナル情報に基づき補完するという目的でまとめたものである。
今回の米国政府のファクト・シートの両国の署名や合意に関する公表内容は国際公法の観点からも、微妙な内容を含んでいる。法解釈上、正確な訳に努めたつもりであるが専門家による補完を期待したい。
1.保護主義化をすすめる米国連邦議会の動き
米国上院財政委員会(Senate Finance Committee:Max Baucus委員長(民主党モンタナ州))では2007年7月26日、中国を念頭に置いたと思われる「通貨為替監視改革法案(Currency Exchange Rate Oversight Reform Act of 2007)(S.1607)」を、20対1の圧倒的賛成多数で可決した。内容は不当に為替操作を行う国を財務省が指定し、IMF(国際通貨基金)やWTO(世界貿易機関)への提訴、介入による是正、反ダンピング(不当廉売)関税の適用などの是正措置を米政府に求めるというものである。さらに8月1日には上院銀行・住宅および都市問題委員会(Banking,Housing,and Urban Affaires Committee:Chris Dodd委員長(民主党コネチカット州))がさらに相殺関税の導入を盛り込んだ「通貨改革および金融市場法案(Currency Reform and Financial Markets Act of 2007)(S.1677)」を可決した。(筆者注4) (筆者注5)
2.米国商工会議所(U.S.Chamber of Commerce)の保護法案反対の主張
同会議所は2007年9月24日に連邦議会下院議員に対し、上院の前記2法案(S.1607,S.1677)について提案の趣旨自体は評価するもののこれらの法律は輸入問題だけでなく、米国にとって急激に伸びている輸出相手国である中国の経済・金融制度改革を遅らせ、ひいては米国自体の経済的地位を弱めるとの懸念を示している。
そういう意味で、市場決定型為替レートへの移行の必要性は強く認識するものの政府のポールソン長官を中心とするSEDの継続的活動を支持し、また米国の貿易関係法やWTOルールとの整合性の取れた二国間の相互的かつ多面的な手段を用いるべきであると述べている。(筆者注6)
しかし、一方で米国の小売事業者経営者団体であるRILA(Retail Industry Leaders Assiociation)は、中国元とドルとの為替レートの不均衡や両国の貿易にかかわる諸問題に対する強い姿勢を議会や政府に求めている。
3.第18回米中商業・貿易に関する共同委員会の合意内容
SEDに先立って12月11日に北京で第18回「米中商業・貿易に関する共同委員会(The U.S.-China Joint Commission on Commerce and Trade:JCCT)」が開かれた。同委員会のメンバーは米国側がスーザンC.シュワブ(Susan C. Schwab)通商代表部代表、グティエレス(Carlos M. Gutierrez)商務長官、中国側が呉儀国務院副總理である。米国側の発表内容はJETRO が詳しくまとめているので参照されたい。
また、通商代表部は両政府間の署名内容(MUAやMOU)のファクト・シートを公表している。SEDのファクト・シートよりは具体性があり、またMOAとMOUの区分が明確であるので、併せて参照する必要があろう。
なお、同ファクト・シートに記されている今回米中間で同意された「米中ハイテク・戦略貿易開発に関するガイドライン(Guideline for U.S. High-Technology and Strategic Trade Development)に基づき両国間の民間レベルの障壁撤廃に向けた作業部会が今後進む。技術立国のわが国としては重要な研究課題であろう。
(筆者注1)わが国でSEDについて、第1回からの交渉経緯について詳しく紹介している論文は以外に少ない。その中で参考となるのは、みずほ総合研究所「みずほアジアインサイト」2007年8月3日発行であろう。
(筆者注2)このような論調が明確なのはFujiSankei –Business i(2007.12.13) 等であろう。
(筆者注3)前記「みずほアジアインサイト」の解説も、これらの課題について米国国内の主張が十分交渉に生かされていないといった指摘が目立つ。
(筆者注4)「美中貿易全国委員会(US-China Business Council:USCBC)」は、米国と中国と取引関係の強い米国企業250社以上が集まった民間のNPO(理事会理事長はボーイング社の会長兼CEOであるW.James McNerney氏、USCBC事務局代表はJohn Frisbie氏)ある。1973年に設立され、30年以上にわたりメンバー企業に対し、貿易障壁の特定とその除去などに努め、また規則に基づく貿易、投資や競争に関し優れた情報、助言、擁護およびプログラム・サービスを行っている。
同委員会が取りまとめた現連邦議会(第110連邦議会)において提出されている中国関係の法案は下院計61本、上院計41本である。
その中で注目されている法案が、上院財務委員会が7月26日に可決したS.1607「為替相場監視法案(Currency Exchange Rate Oversight Reform Act of 2007)」(経済実勢と乖離した為替レートを放置している外国に対抗措置を取ることが中心)と上院銀行委員会が8月1日に可決したS.1677「通貨改革および金融市場介入法案(Currency Reform and Financial Markets Access Act of 2007)」(相殺関税などより強硬な法案)である。
(筆者注5)今回のSEDのホスト役である中国の呉儀国務院副總理は、開会の辞の中で両国の友好関係を尊重しつつも米国の保護貿易主義の立法の動きには厳しい指摘を行っている。
(筆者注6)http://www.uschamber.com/issues/letters/2007/070924_china_house.htm
〔参照URL〕
http://www.ustreas.gov/press/releases/hp732.htm
Copyright (c)2006-2008 福田平冶 All Rights Reserved.
SED自体は2006年にブッシュ大統領と胡錦濤国家主席が創設したもので、財政、金融、貿易、環境、厚生、農業等の閣僚級が一堂に会する経済協議の枠組みであり、半年に1度のペースで米中交互で開催され、今回が3回目。ポールソン(長鮑爾森)財務長官と呉儀国務院副總理(Vice Premier Wu Yi)が共同議長を務める。短期的成果を目指す交渉とは異なり、長期的視野に立って中国の貿易黒字の元凶である輸出主導の経済構造を内需主導に転換することを目指す。ただし、米議会の関心が高い人民元(RMB)の柔軟化等は遅れており、米国内では戦略経済対話を基軸とするポールソン長官の対話路線は目に見える成果を上げていないとの批判は根強い(筆者注1)。
一般的にわが国の経済専門家・メディアの見方は、今回の対話は中国ベースで進んだとの評価が多い(筆者注2)。その理由には、米国が従来から強調してきた①人民元改革(米国の対中貿易の赤字解消)、②知的財産権保護強化、③繊維製品をめぐる輸入摩擦問題、④中国の金融市場開放、⑤エネルギー・環境分野の協力、⑤航空の自由化といった重要課題において著しい成果があったとはいえないからである(筆者注3)。国際政治の世界において2国間の間では公表されない具体的な交渉内容があるとは予想されるが、本文で述べるとおり米国民の期待(=議会)に応えるものになっていないといえよう。
米国内の議会等の論調は保護主義強化を求めており、次回(2008年6月)ワシントンで開かれる第4回SEDまでの間にこれら未解決の課題について進展が見られないとブッシュ政権自体の支持率等にも大きな影響が出ることは間違いなかろう。
今回のブログは、財務省の米中共同記者発表資料(Joint Fact Sheet)、通商代表部(U.S. Trade Representative)や商務省(U.S. Department of Commerce)および中国政府の発表等を中心として議会やステーク・ホルダーを中心とする国際経済や外交問題の取組み情報に弱いわが国のメディアの情報を、米国や中国の具体的なオリジナル情報に基づき補完するという目的でまとめたものである。
今回の米国政府のファクト・シートの両国の署名や合意に関する公表内容は国際公法の観点からも、微妙な内容を含んでいる。法解釈上、正確な訳に努めたつもりであるが専門家による補完を期待したい。
1.保護主義化をすすめる米国連邦議会の動き
米国上院財政委員会(Senate Finance Committee:Max Baucus委員長(民主党モンタナ州))では2007年7月26日、中国を念頭に置いたと思われる「通貨為替監視改革法案(Currency Exchange Rate Oversight Reform Act of 2007)(S.1607)」を、20対1の圧倒的賛成多数で可決した。内容は不当に為替操作を行う国を財務省が指定し、IMF(国際通貨基金)やWTO(世界貿易機関)への提訴、介入による是正、反ダンピング(不当廉売)関税の適用などの是正措置を米政府に求めるというものである。さらに8月1日には上院銀行・住宅および都市問題委員会(Banking,Housing,and Urban Affaires Committee:Chris Dodd委員長(民主党コネチカット州))がさらに相殺関税の導入を盛り込んだ「通貨改革および金融市場法案(Currency Reform and Financial Markets Act of 2007)(S.1677)」を可決した。(筆者注4) (筆者注5)
2.米国商工会議所(U.S.Chamber of Commerce)の保護法案反対の主張
同会議所は2007年9月24日に連邦議会下院議員に対し、上院の前記2法案(S.1607,S.1677)について提案の趣旨自体は評価するもののこれらの法律は輸入問題だけでなく、米国にとって急激に伸びている輸出相手国である中国の経済・金融制度改革を遅らせ、ひいては米国自体の経済的地位を弱めるとの懸念を示している。
そういう意味で、市場決定型為替レートへの移行の必要性は強く認識するものの政府のポールソン長官を中心とするSEDの継続的活動を支持し、また米国の貿易関係法やWTOルールとの整合性の取れた二国間の相互的かつ多面的な手段を用いるべきであると述べている。(筆者注6)
しかし、一方で米国の小売事業者経営者団体であるRILA(Retail Industry Leaders Assiociation)は、中国元とドルとの為替レートの不均衡や両国の貿易にかかわる諸問題に対する強い姿勢を議会や政府に求めている。
3.第18回米中商業・貿易に関する共同委員会の合意内容
SEDに先立って12月11日に北京で第18回「米中商業・貿易に関する共同委員会(The U.S.-China Joint Commission on Commerce and Trade:JCCT)」が開かれた。同委員会のメンバーは米国側がスーザンC.シュワブ(Susan C. Schwab)通商代表部代表、グティエレス(Carlos M. Gutierrez)商務長官、中国側が呉儀国務院副總理である。米国側の発表内容はJETRO が詳しくまとめているので参照されたい。
また、通商代表部は両政府間の署名内容(MUAやMOU)のファクト・シートを公表している。SEDのファクト・シートよりは具体性があり、またMOAとMOUの区分が明確であるので、併せて参照する必要があろう。
なお、同ファクト・シートに記されている今回米中間で同意された「米中ハイテク・戦略貿易開発に関するガイドライン(Guideline for U.S. High-Technology and Strategic Trade Development)に基づき両国間の民間レベルの障壁撤廃に向けた作業部会が今後進む。技術立国のわが国としては重要な研究課題であろう。
(筆者注1)わが国でSEDについて、第1回からの交渉経緯について詳しく紹介している論文は以外に少ない。その中で参考となるのは、みずほ総合研究所「みずほアジアインサイト」2007年8月3日発行であろう。
(筆者注2)このような論調が明確なのはFujiSankei –Business i(2007.12.13) 等であろう。
(筆者注3)前記「みずほアジアインサイト」の解説も、これらの課題について米国国内の主張が十分交渉に生かされていないといった指摘が目立つ。
(筆者注4)「美中貿易全国委員会(US-China Business Council:USCBC)」は、米国と中国と取引関係の強い米国企業250社以上が集まった民間のNPO(理事会理事長はボーイング社の会長兼CEOであるW.James McNerney氏、USCBC事務局代表はJohn Frisbie氏)ある。1973年に設立され、30年以上にわたりメンバー企業に対し、貿易障壁の特定とその除去などに努め、また規則に基づく貿易、投資や競争に関し優れた情報、助言、擁護およびプログラム・サービスを行っている。
同委員会が取りまとめた現連邦議会(第110連邦議会)において提出されている中国関係の法案は下院計61本、上院計41本である。
その中で注目されている法案が、上院財務委員会が7月26日に可決したS.1607「為替相場監視法案(Currency Exchange Rate Oversight Reform Act of 2007)」(経済実勢と乖離した為替レートを放置している外国に対抗措置を取ることが中心)と上院銀行委員会が8月1日に可決したS.1677「通貨改革および金融市場介入法案(Currency Reform and Financial Markets Access Act of 2007)」(相殺関税などより強硬な法案)である。
(筆者注5)今回のSEDのホスト役である中国の呉儀国務院副總理は、開会の辞の中で両国の友好関係を尊重しつつも米国の保護貿易主義の立法の動きには厳しい指摘を行っている。
(筆者注6)http://www.uschamber.com/issues/letters/2007/070924_china_house.htm
〔参照URL〕
http://www.ustreas.gov/press/releases/hp732.htm
Copyright (c)2006-2008 福田平冶 All Rights Reserved.
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