2008年10月13日月曜日

“EU加盟国におけるソーシャル・ネットワークキング(SNS)の成功と挑戦”等EUの取組み(その3)

9.若年層のSNSの利用状況
 若年層はSNSをとり取り込むことが早い。EUにおけるインターネット・ユーザーの平均年齢は過去数年間で低下した。9歳から10歳の子供は現在1週間に数回オンライン接続する。12歳から14歳は毎日1~3時間インターネットを利用している。彼らの主たる活動目的はチャット、インスタント・メッセージングやSNSを介したコミュニケーションであろうか。
デンマーク、英国やイタリアの研究では、ほとんどの子供や若年層が既存の友達関係を維持するとともに社会的関係の強化を意図してSNSを利用しているといわれている。若年層はSNSが既存の友人関係と旧友との接触を管理する上での効果的手段であると見ている。最近のサイバー・メディア法の研究者(筆者注13)「デジタル時代に生まれた第一世代の子供たちを理解するために(Born Digital:Understanding the First Generation of Digital Natives)」が指摘しているように、若年層はいつでもネットワーク技術にアクセスでき、自分たちの両親とは異なる情報、友情やプライバシーといった問題を経験している。我々はこのような新しい状況を考慮しておく必要がある。デジタル第一世代(digital natives)は創造的かつ参加型である。このことは、彼らにリスクとともに新たな自由をもたらす。従って、このことは我々が若年層が安全なかたちで自由を得られることを保障するため協同的な取組みを行う理由といえる。
“Safer Internet Programme”の中で欧州委員会が立ち上げたパブリック・コメント募集に対し、アイルランドの10代の若者の関心事について共有したい。すなわち「アイルランド国際青年助言議会(International Youth Advisory Congress)」のコメント(筆者注14)の中で子供たちがオンラインで遭遇する主たるリスクの1つである「サイバーいじめ(cyber-bullying)」について言及している点である。

10.段階的自主性の確保、過保護はだめ
 子供たちを保護するために我々は何をすべきか。まず過保護になってはいけない。子供は18歳になると大人になる、我々は信頼性と独立性に向い合えるよう彼らに準備をさせなければならない。我々は非常に幼い子供を保護することから始まり年長の子供にはある程度の権限をあたえるという段階的対応を取るべきである。子供によるSNS利用上の問題について利用可能な研究は少ないが、いくつかの統計的数字について述べておく。デンマークの研究では12歳から18歳のSNSユーザーの31.5%がインターネット利用時に見知らぬ人からいやな経験を受けているとされている。またイタリアの研究では、SNSのユーザーの32.8%が少なくとも1つの不快(ポルノ的な内容、攻撃的なメッセージおよびセクシャル・ハラスメント)な経験をオンライン中に経験している。ユーザーの何人かは本人の同意なしに個人情報をばら撒かれたり、ヌード写真をSNS上で掲載されたというものである。
ソニア・リヴィングストン教授(筆者注15)が指摘しているとおり、我々は「脆弱性があり、認識面や技術がもたらす社会的発達の過程ですばらしいが一面もろさを持つ子供達を守り」かつ「子供たちはメデイアに精通する技術を持ちながら、彼らの周辺にいる大人たちから過小評価されるため、自らの権利で行動する有能かつ創造的なエージェントであること」を理解しなくてはならない。
では、我々は潜在的なオンライン・リスクから若年層を守るため子供や青年の生活にどの範囲で干渉すべきであろうか。これに関し年齢確認、クロス・メデイア格付け(区分)について欧州委員会が行ったパブリック・コメント募集に対し、70件の意見が寄せられた。これらの提案中から2008年の“Safer Internet Forum”において、委員会は①SNSへの関与のあり方、②年齢確認の2点について議論に取組んだ。

11.フォーラムでの具体的論議
①効果的年齢確認について
加盟各国におけるインターネット・ユーザー、特に未成年がアダルト向けの内容サイトにアクセスしたりアダルト商品を購入するときの年齢確認について昨日のフォーラムでは具体的ツール、技術的ならびに法的な挑戦の試みについて議論した。
最近の英国の研究(英国「通信庁(Ofcom:Office of Communications)」)
(筆者注16)によると通常、主要なSNSの登録最低年齢が13歳(MySpaceの場合は14歳)にもかかわらず、8歳から11歳の27%がSNSサイトにプロフィールを持っていた。1回目の年齢確認で登録拒否された場合、2回目の登録を拒否するといった登録の規制に関する方法も役に立つかもしれない。しかし、現実に戻ってみよう。未成年の登録を完全に阻止するのは現状では不可能である。インターネット業界は彼らのサービスを利用する未成年を保護することで先見的役割を果たすべきである。私は利害関係者により広く受け入れられて有効な実効性が保証される限り業界自主規制(self-regulation)の支持者である。
業界による自主規制の具体例を挙げてみよう。
英国では2008年4月に「2008年SNSプロバイダーおよび娯楽サービス提供者のための良き実践ガイダンス(Good practice guidance for the providers of social networking and other user interactive services 2008)」 (筆者注17)が採択された。その策定にあたり、デジタル・コンテンツの関係産業界、英国政府が割り振ったアカデミー、通信事業者、放送機関、NOP等がメンバーとしてかかわった。また、デンマークのインターネット・メデイア協会の自主規制協定、米国連邦司法長官とFacebookおよびMySpaceとの協定が行われている。
EUにおいて2007年に欧州委員会が主導し成功裡に進んだ携帯電話が若いティーンエイジャーや子供の安全な携帯電話の利用問題に続いて、委員会は現在、子供や若年層が安全にSNSを利用できるためのガイドラインを策定するためSNSと議論を行っている。私はこの点を祝うとともに、2009年2月10日に開催される“Safer Internet Day”において具体的な成果が出ることを願っている。
②サイバーいじめ対策
我々はすでにSNSユーザーを安全に導くツールや情報に関し、うまく行っている例を持っている。それらの例では「サイバーいじめとその教育問題」と同様に嫌がる内容、不適当、違法な行為を報告する場所がある。攻撃的なユーザーに対する文書による警告、登録アカウントの利用停止や取消といったことにつながるという報告が行われている。警察がその合法性を求めるとき、SNSサイトは国内法に即したかたちで「通信内容データ」と「内容の開示」を行うべくポリシーを有している。さらに、ほとんどのSNSは従業員に対し異なるタイプの状況に応じられるよう教育を行っている。デンマークのNGOであるセイブ・デンマークはSNS業者のArto.dkの仲介役となっており、その点を保存しておいて欲しい。
SNSの安全な設定に関し、私は特に12歳以下の年少者を目標とする例えば“Penguin、“Cbeebies”“Barbiegirls.com”“Imbee”“kpwebben.se”等チャット、メッセージ交換の内容について事前にスクリーニングする等、仲介機能や最小限の個人情報を収集し、可能な範囲で両親のコントロール権に寄与することが必要であると考える。この点について、もちろんティーンエイジャーにとって状況はそれぞれ異なる。先ほど述べた両親自体が子供を安全に過ごすことやオンラインを倫理的に利用することについて教育すべきであると指摘したアイルランドの若人の貢献の件に戻りたいと思う。また、私は子供や若年層の間における技術の利用や大人の利用に関する理解のギャップが広がっていることを踏まえると正しいことであると考える。
本委員会に対するパブリック・コメントの中で、発言者は両親と子供の間の議論と協同的利用がオンライン時の子供や若年者を守る最も有効な方法であると指摘された。子供や若年層も他の大人の市民と同様に、彼らの権利を意識すべきである。EU各国は違法な個人情報に使用を保護するための良い国内法を持っている。(続く)

(筆者注13)レディング氏が引用した最近の研究とは、2008年9月1日に発刊された“Born Digital:Understanding the First Generation of Digital Natives”である。この本の執筆者(John Palfrey 教授とUrs Gasser助教授の共著)はハーバード・ロー・スクールのサイバー法やメディア法の研究グループ“Berkmann Center for Internet & Society”のメンバーである。実は過去のブログでも紹介したことがあるが、筆者も同センターのディスカッショングループのメンバーである。

(筆者注14)レディング氏はコメントのもととなる欧州委員会の公的資料には言及していないが、筆者が独自に知らべた限り次の資料にもとづくものと思われる。
“PUBLIC CONSULTATION ;Age Verification,Cross Media Rating and Classification,Online Social Networking”のQuestionnaire 3の箇所である。 http://ec.europa.eu/information_society/activities/sip/docs/pub_consult_age_rating_sns/results/iyac_a532002.pdf

(筆者注15)Sonia Livingstone 教授はロンドン大学メデイア・コミュニティ学部教授で社会心理学が専門である。

(筆者注16)英国では、2003年7月にEU での先陣を切って通信と放送両分野の規制の統合を目的とする新たな法律として「2003年通信法(Communications Act 2003)」が成立した。これに基づき、同年12月通信と放送分野に個別分散していた5つの規制機関が廃止され、それらの機能・権限を統合した新しい独立規制機関「通信・メディア庁」(Ofcom:Office of Communications)が誕生した。(レファレンス2004.11号 69頁より引用)。なお、Ofcomの活動内容については筆者が2006年5月13日付ブログで紹介している。http://fukuhei.blogspot.com/2006/05/blog-post_13.html

(筆者注17)レディング氏の原稿に基づき筆者が独自に調べたが“Good practice guidance for the providers of social networking ”と言うガイダンスは英国内にはなかった。本文の標題が正しいと思う。
同ガイドラインの策定プロジェクト・チームのメンバーは次の機関である。英国・米国の業界代表はもちろん研究機関、NPOだけでなく放送機関も含まれる等幅広い研究姿勢が伺える。AOL UK、Yahoo!UK、MySpace、セントラル・ランチェスター大学(サイバースペース研究機構)、ロンドン大学のソニア教授、安全なインターネットのための慈善組合連合、Orange、Facebook、Childnet Intenational、BBC、全米子供の搾取から権利を守る保護センター、Internet Watch Foundation、UK モバイルブロードバンド・グループ、Google /Youtube、Mychild Online(オランダ)等である。

〔参照URL〕
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=SPEECH/08/465&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/08/587&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en


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