⑤なりすまし詐欺の阻止
SISレポート内容は、当該ユーザー企業自身が保有する顧客情報の増加をもたらすのみでなく、金銭面以外の顧客のなりすまし詐欺被害を阻止・保護するといった面で企業の信用度全体を向上させる機能を持つ。すなわち、SISは次の4要素を用意している。
(a)信用情報以外の個人のID全体のモニタリング
最新のFTCの報告でも、なりすまし詐欺の70%は非信用情報(non-credit related)に関するものであるとしている。このことは信用情報機関の保有する信用情報のみに頼らない、効果的な「なりすまし詐欺対策プログラム」が必要であることを示している。SISとしてはモニタリング対象とすべき取引項目・データは次であると指摘する。(%の数字はモニタリング対象を100%とした割合)
・ 信用情報関連:20%
・ 社会保障番号(SSN):15%
・ 政府の文書:10%
・ 銀行口座:16%
・ 電子的資金移動:8%
・ ワイヤレス口座(モバイル口座等):8%
・ 電話:4%
・ 詐欺的住所変更:6%
・ 公益事業(utility account):6%
・ 犯罪関係:3%
・ 投資:4%
(b)当初の調査
SISは新規利用企業等に対し、1,000のデータベースの矛盾点等を調査し、IDに関する危険な事態がすでに生じているか否かについて決定する。
(c)レッド・フラッグを立てる
次に矛盾するデータについてフラッグを立てることにより将来の潜在的詐欺行為を阻止することである。矛盾事項の選別は金銭面の損失の阻止のための更なる確認を必要とさせる。換言すると、顧客のクレジットカードの申込において既存の届出住所と異なる住所の記載がある場合は顧客へ警告が必要となる。
(d)継続的モニタリング
(e)SISは専門的教育を受けた紛争解決専門の企業内弁護士(professionally trained Resolution Advocates)を擁している。彼らは、詐欺被害の程度および問題解決のために行うべき事項の決定のため詐欺被害者に直接面談する。彼らは
個別解決案を予め用意し、徹夜で被害者にメールを送信するとともに一般の弁護士では限られる被害者の立場に立った直接的な支援(信用回復の過程を通じた被害者が持つであろう懸念材料に対する答等を用意)を行う。
(f)ユーザーたる金融機関等の顧客や役職員への教育的研修会を実施し、なりすまし詐欺の阻止に向けて相互のコミニュケーションの円滑化を支援する。
(g)AIGグループが開発した個人負担ゼロで25,000ドルを上限とする支出保障プラン“zero-deductible $25,000 expense reimbursement insurance”(筆者注15)を提供する。信用回復にかかる裁判費用等の個人的負担軽減策と言えるもので、1週あたり1,000ドル(最大4週間)が支給される。
(2)Equifaxの例
米国の3大信用情報機関の1つである“Equifx”もAIGグループと類似の保障サービス(Equifax Credit WatchTM Gold )を提供している。個人負担ゼロで最大20,000ドル(制約あり)、その他の点もAIGの保障内容と類似している(利用金額は月額9.95ドル)。
(3)LexisNexisの例
2005年3月の30万人以上の個人情報の流失事件を起こしているリスク・情報分析の専門会社である同社であるが、一方でSISと似たレッド・フラッグ規則に対応するためのモニタリング・システムを提供している。同社のHPを見て気が付くようにとにかく米国の市民は“good man”であることが金融取引だけでなく就職、結婚等日常生活すべてにかかわってくるのである。そのような背景からも、“InstantIDⓇ”、“FraudDefenderⓇ”といったツールを用いながら、なりすまし詐欺から自分自身を守らなければならない米国社会の現状が浮かび上がってくる。
(筆者注15)わが国において、米国における消費者の生保・損保等各種保険料負担対策について詳しく解説しているものは少ない。“deductible”の1語だけでも的確な訳語がない。その背景には仕組みが複雑な点もあるが、連邦・州政府の保険政策とのからみもあり、これだけで論文が書けよう。機会を改める。
AIGの保険サービス約款(AIG Personal Internet Identity Coverage Policy)の保障内容には、収入保障、信用回復にかかる民事訴訟の弁護士費用、ローンの再登録にかかる費用等が含まれる。
〔参照URL〕
http://www.federalreserve.gov/boarddocs/srletters/2008/SR0807.htm#Footref2
http://www.fdic.gov/news/news/financial/2008/fil08105.html
http://www.bankinfosecurity.com/external/fil08105a.pdf
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