2010年9月30日木曜日
米国FBIが米国の重要な最新ホワイトカラー犯罪動向を公表(第2回)
9月21日付けの本ブログで、米国連邦捜査局(FBI)がこの1年以内に扱ったいわゆる(1)重要ホワイトカラー犯罪の内容、(2)米国の関係法執行機関が取組んでいる内容について要約したレポート内容を詳細に報告した。
このレポートは知的財産犯罪を中心とするものであったが、FBIは今年の8月から9月にかけて行った3件の企業機密や知的財産権盗取起訴事件をまとめたリリースを9月24日に公表した。
今回のブログはその内容ならびに関係する裁判の内容をフォローすべく、確認できた範囲で起訴状の内容を含め事実関係を中心に解説する。
なお、今回取上げた事件はいずれも米国籍や永住権がある中国人である。FBIのリリースでは、うち1件の被告は中華人民共和国(People’s Republic of China:PRC)が派遣した産業スパイであると明言している。筆者は断言できるほどの情報は特に持たないが、これらの実態を踏まえると今回の起訴は氷山の一角であり、さらに考えればわが国の企業や研究機関等の知的財産権のファイアー・ウォールは十分なのか極めて不安になってくる。
ちなみに沖縄・尖閣諸島周辺の日本の領海内で、海上保安庁の巡視船に中国漁船が衝突した事件で公務執行妨害容疑で逮捕された漁船の船長である「詹其雄(セン・キユウ)」(筆者注1)41歳の勾留が10日間延長されていた中で、急遽の釈放等わが国政府や司法当局の奇異な行動なども気がかりである。
一方、同船長は国家統制下にある中国政府公式サイト(中华人民共和国中央人民政府)でも英雄扱いである。
今回のFBIのリリースが意図的とは思えないが、中国系人材で米国の最新技術開発や企業経営、経済がもっている面は見逃せない。しかし、このような国ぐるみの経済犯罪となると問題は別である。わが国の政府や関係機関はこのような米国の実態を理解して、今回の措置を行ったのか極めて遺憾としか言いようがない。また、海外情報に疎い日本といわれても仕方がないと言える。(筆者注2)
Ⅰ. 米国の企業機密や知的財産権盗取起訴事件
1.インディアナポリスに本社をもつ米国大手農薬会社「ダウ・アグロサイエンス(Dow AgroScience L.L.C.)(以下、ダウ社という)」から企業機密を中国政府と協力して盗取したとして中国人研究者を産業スパイ容疑で2010年8月31日に起訴(筆者注3)(筆者注4)
(1)中国人科学者の黄科学(Ke-xue huang、通称John、45歳)は(1)外国政府(中華人民共和国:PRC)およびその手段として利益を得ることを目的とした「1996年経済スパイ活動法(Economic Espionage Act of 1996)」(筆者注5)および(2)盗取データの州際および米国外への持ち出しを理由として、2010年7月13日に逮捕、インディアナポリスFBIと連邦司法省インディアナポリス南部地区刑事部から起訴され、8月31日に黄被告は同地区の連邦地方裁判所に初めて出廷した。
(2)黄被告は、中国国籍であるが米国の永住権を持つ。カナダの市民権も持つ。
(3)起訴状の内容の概要は次のとおりである。
・被告は2003年前半から2008年2月29日の間、ダウ社の科学専門研究員として雇用されていた。ダウ社は農薬とバイオテクノロジー製品を供給する農薬会社であるが、1989年頃以降同社は一連の有機的害虫駆除(organic insect control)と製品管理を行うために多額の研究開発費を投入した。独占権をもつ酵母などの微生物の作用で、有機体が単体に分解する化学過程発酵工程(Proprietary fermentation process)は有機的害虫駆除の開発に利用された。
・被告は、ダウ社の従業員として企業機密を含む機密情報の取扱いおよびダウ社の同意なしに機密情報を持ち出すことの禁止条項を盛り込んだ雇用協定書に署名している。
・被告は、2008年12月に中華人民共和国・長沙(Changsha)の湖南師範大学(Hunan Normal University)(筆者注6)の雑誌を通じてダウ社の事前同意なしに共著論文(K.Huang et al.“Applied Microbiology and Biotechnology.Volume 82,Number 1.13-23,「生化学的農業化合物スピノシンの最新研究動向」(Recent advances in the biochemistry of spinosyns)」を公表した。
また、被告が発表した論文は中国政府の中国国家自然科学基金委員会(National Natural Science Foundation of China:NSFC)からの交付金を資金的背景に書かれたものである。また、被告はダウ社の企業機密の内容につき同大学の実験室で研究するよう個人的に指示した。
さらに、被告はダウ社を退職後、2008年3月以降NSFCからの交付金を申し込み、最終的に受領した。
・被告は2007年9月に早くもPRCに対し、自身がダウ社の雇用中にもかかわらず取組んでいるダウ社の企業機密の研究を指示した。さらに、被告はPRCに対し製造設備およびダウ社と同一市場の競合企業の情報提供を求めた。
・経済スパイ活動について被告は「12の訴因」で起訴されたが、有罪と判断されたときは各訴因につき最高15年の拘禁刑、罰金50万ドル(約4,200万円)が科される。また、盗取物の海外への移送については「5つの訴因」で起訴されたが、最高10年の拘禁刑、罰金25万ドル(約2,100万円)が科される。
(4)米国の企業機密にかかわる科学者等が中国政府との提携を理由とした起訴有罪の例等にみる司法・関係当局の取組み
“nature”の記事によると、2009年7月元テネシー大学の教授ジョン・リース・ロス(John Reece Roth)が中国およびイランの大学院生とともに無人機のプラズマ誘導システムに関する機密情報を共有したとして「米国武器輸出管理法(Arms Export Cotrol Act)」違反を理由に4年の拘禁刑判決を受けた。
また、2008年6月18日、連邦司法省は中国生れのソフトウェア技術者Xiaodong Sheldon Meng(孟小东、シャオドン・シェルドン・メン)(42歳、カリフォルニア州居住)がサンホセの連邦地方裁判所により判決「拘禁刑24カ月、罰金1万ドル(約84万円)および押収されたコンピュータ機器の没収」が下され、刑期終了後3年間裁判所の監視下におかれるという内容をリリースした。(筆者注7)
この判決に関し、刑が軽すぎると感じる読者も多かろう。米国の同盟国のイスラエル人で連邦海軍の諜報部員であったが1987年にイスラエルのためのスパイ活動を理由に終身刑(Life Sentence)を言い渡されたJonathan Jay Pollard (1954年生まれ)の場合等と比較して、いくら量刑ガイドラインが改正されたとはいえ、その不均衡について問題視する意見もある。
この裁判に関する詳細な分析は機会を改めざるを得ない。しかし、そのスパイ情報の重要性などから見て、被告が2007年8月1日に経済スパイ活動法(第1訴因)および武器輸出管理法や国際武器取引規則(International Traffic in Arms Regulations:ITAR)(筆者注8)(第2訴因)につき有罪答弁したことも関係があるとしても、何か政治的な背景を勘ぐらざるを得ない(連邦司法省の2008年6月18日のリリースは、「経済スパイ活動法」セクション1831違反を理由に刑事責任を追及した5件の先例につき解説している)。
なお、2009年カリフォルニア州の半導体会社から企業機密を盗み、それを中国に移送した罪で起訴された事件で陪審は中国生まれの技術者2人を無罪とした裁判も注目したい(この裁判の詳細は略すが“California Lawyer Magazine”(2009年11月号)のレポート「経済スパイ活動法の被告が無罪(Economic Espionage Acquittal)」が詳しく論じているので参照されたい)。
2.米国籍の中国人夫婦によるGMのハイブリッド・カーのモーター制御等技術の共謀による盗取罪起訴
ミシガン南部地区連邦地方裁判所に対する起訴状および連邦司法省のリリース等に基づき事件の詳細をまとめてみる。
(1)起訴事実
2010年7月22日、企業の承認を受けない企業機密情報の所有(possess)、企業機密の不正所有および電子通信詐欺の共謀を理由とする2人の個人に対する起訴(計7つの訴因)デトロイトで行われた。
なお、筆者は後記3.で紹介する現中国企業の元フォード社員が企業機密を盗取した罪で起訴した事件と同様に起訴状原本の検索に時間がかかった。99%の解説記事が連邦司法省やFBIのリリースとのリンクであり、はっきり言って役に立たなかった。
結果的には、筆者はミシガン南部地区連邦地方裁判所の大陪審判断を求める連邦検事の正式起訴状原本のURLを探し出した。
この作業の意味は、米国刑事裁判における訴因に基づく具体的適用法・条文の確認、証拠や犯罪捜査の具体的内容を確認することであり、筆者の最大の関心事項である。
被告は夫:秦宇(Yu Qin 通称Yu Chin 49歳)妻:杜珊珊(Shanshan Du 通称Shannon Du 51歳)でミシガン州居在の米国市民である。
・起訴状の内容は、概要以下のとおりである。
杜被告は2000年にGMのエンジニアとして採用された際、雇用期間中に取得したり創作的な機密情報の保護に関する合意書に署名した。2003年に杜被告はGM社に対し、ハイブリッドカーのモーターコントロールを含む仕事への配転を要請した。
このことは、GMの企業機密のアクセス権を与えたことになり、実際被告はその後数年間にわたりGMの機微情報や自身のGM内のe-mail アカウントを社外のHDやUSBにコピー・送信した。
被告宇は電気会社(power electronics company)(筆者注9)に勤務する一方で、秘密裡に自身が経営するハイブリッド技術を扱う会社を経営していた。
被告2人は2003年12月から2006年5月の間に共謀しGM社のハイブリッドカーに関する企業機密情報であることを知りつつ、情報をメディア変換しまた同社の承認なしに盗取した。
被告杜は技術者としてGMに勤めている間、夫とともに自分たちが経営する会社「ミレニアム・テクノロジー・インターナショナル社(Technology International Inc.:MTI)」の利益を目的としてGMの企業機密を提供した。2005年1月に被告杜はGMと雇用契約解除したその約5日後に、企業機密を含む数千枚の社内文書をコピーMTIの外部HDにコピーした。
数か月後、夫宇は中国に本拠を置くGMの競合企業である中国の自動車メーカー「奇瑞汽车(Chery Automobile:チェリー自動車)」に対し、ハイブリッドカー技術を提供する新事業計画を進めた。
また、被告は2006年5月時点でGMの承認なしに自宅にGMの企業機密を記録した数台のPCと電子媒体を所有していた。
被告の証拠隠滅に関し、被告2人は、連邦大陪審がMTIとGMのハイブリッドカーの関係を調べる目的の召喚に迅速に対応するため、2006年5月23日に宇が運転する車で食料品店の裏の大型ゴミ箱にシュレッダーにかけた証拠文書を廃棄した。
GM社は10年以上の間、ハイブリッドカーの開発と製造に取組んでおり、何百万ドルをも研究開発費を投入してきた。GMの試算によると、今回盗取された新技術の価値は4千万ドル(約33億6千万円)以上あるとされる。
(2)起訴状の内容と被告が有罪となった場合の刑事罰の内容
起訴状によると、各訴因にかかる適用法は次の条文である。
①[第1訴因]無許可による企業機密情報盗取にかかる共謀行為(conspires) (18 U.S.C.§1832(a)(5))
②[第2訴因]無許可による企業機密情報の所有に係る教唆(aiding)および幇助(abetting)行為の正犯行為(18 U.S.C.§2)
③[第3訴因]無許可による企業機密情報の盗取のための所有行為 (possesses)(18 U.S.C.(a)(3))およびの教唆および幇助行為(18 U.S.C.§2)の正犯行為
④[第4~6訴因]電子通信詐欺(Wire Fraud)(18 U.S.C.§1343)9/27(21)
⑤[第7訴因]目撃者、犠牲者、または通報者を故意に干渉した司法妨害行為(18 U.S.C.1512(c)(1))
⑥[刑事法に基づく没収(criminal forfeiture)](18 U.S.C.§981(a)(2)(C)、18 U.S.C.1834 および2323
仮に被告が有罪となった場合、訴因第1から第3訴因のそれぞれにつき最高10年の拘禁刑と最高25万ドルの罰金刑が科される。また、第4~6訴因については最高20年の拘禁刑と最高25万ドルの罰金刑が科される。さらに、第7訴因については最高20年の拘禁刑と最高25万ドルの罰金刑が科される。
(3)今回の事件でみる米国のR&D研究体制の問題点
被告宇(Yu Chin Qin)は、米国の連邦エネルギー省の中核研究機関であるサンデイア国立研究所(Sandia National Laboratories)(筆者注10)が公表した論文「太陽光発電インバータに関するパワー・エレクトロニクスの現状とニーズ(Status and Needs of Power Electronics for Photovoltaic Inverters)(2002年6月無制限公表)」に会社名も含め名乗り上げている。
ここで同論文の前書きの概要の内容を専門外の筆者による仮訳で紹介しておく。
「今日のPVインバータは、AC電力を発生させる太陽光発電システムの高価かつ複雑な部品であるが、 現在のインバータMTFF(故障するまでの平均時間・寿命 )は容認できない。 PVインバータの低い信頼性は再生可能技術に関しても頼りないばかりでなく発電システムへの信用の喪失にも寄与している。 インバータが生産するPVの低容量は、精巧な研究や信頼性プログラムや製法もない製造を小規模な供給事業者による製造に限定されている。 したがって、PVインバータ供給の現在の取組みは、連邦エネルギー省の信頼性目標についていえば低い目標達成率でしかない。
連邦エネルギー省(DOE)のパワー・エレクトロニクスへの投資は、米国パワー・エレクトロニクスの信頼性と費用問題を扱うことを意図する。 本レポートは低コストを実現する一方で、パワー・エレクトロニクスの進歩を詳しく述べて、現在、使用されている技術を特定して、インバータの信頼性にかなりの改善を提供できる新しいアプローチについて調査したものである。 改良されたインバータ・デザインへの主要な要素は設計するシステム・アプローチである。 このアプローチは設計されている製品のための要件のリストを含んでおり、そして予備の要件文書は本レポートの一部である。
最終的に、そのデザインはいくつかの技術に適用できる普遍的なインバータのためにものになるであろう。 普遍的なインバータの目的は、大規模な生産技術に適用できるように製造量を増加させることである。
本レポートは、最初にMTFFへの10年の平均寿命を持ちかつ低い費用で製造できる新しいインバータのための要件と勧告できる設計デザイン含んでいる。
この開発は新しくかつ高信頼性を持つインバータを作り出すための未来技術と最も良い製造プロセスに投機する能力における「飛躍前進」を構成するであろう。 その狙いとするインバータ・サイズは10~20KWである。
レポートは4つの編にまとめられている。第1部は サデイア研究所による簡潔な序論、第2部はMillennium Technologies(無停電電源装置(UPS)の製造経験がある会社)の紹介、第3部はXantrex Technology Inc.(カナダに本拠を有するPV製造会社)によって提供され、そして第4部はミネソタ大学により提供された。本レポートは、非常に詳細であり、専門外の人にとっては無関係のインバータ設計情報を提供します。 そこで立証された内容はPVインバータに関する包括的な文書とすることを目的としている。 また付属の報告はPVインバータ開発のため勧告できる取組みの概要を提供するであろう。」
この導入文を読むだけでも専門外の筆者も思わず読みたくなるような見出しではないか。
3.現中国企業の元フォード社員を企業機密盗取の罪で起訴
中国人による米国企業の機密事件として2009年10月15日、連邦司法省ミシガン東部地区連邦検事局・FBIは次のような詳細なリリースを公表した。
前述したとおり、この種の裁判では起訴(連邦)側は犯行の手口については詳しくは取上げない。担当検事の指示等が異なるのか良く分からないが、この種の事件の起訴状自体の入手は難しい。(起訴状の日付は2009年7月8日)
(1)起訴事実
ミシガン州東部地区検事局のリリース内容は次のとおりである。
被告は翔董于?(Xiang Dong Yu,シャン・ダン・ユウ)は、2009年10月14日、企業機密盗取および保護されたコンピュータへの不正アクセスの未遂を理由に起訴された。
于被告は、10月14日、中国からシカゴ国際空港に着いた時に逮捕された。
起訴状によると于被告は、1997年から2007年の間にフォード・モーター社の生産技術者としてフォードの設計文書を含む企業機密にアクセスできた。2006年12月に被告はフォードを退社して米国の会社の中国支社での仕事を引き受けた。
起訴状では、その際、被告はフォードを退社して新しい会社への就職についてフォードに説明する前に約4千枚のフォードの機密設計文書を含む社内文書を社外のHDにコピーした。それらの文書に含まれる内容は、特に「エンジン・トランスミッションのマウンティング・サブシステム(Engine /Transmission Mounting Subsystem)」、「電子系統制御システム(Electronic Distribution System)」、「電力供給システム(Electronic Power Supply)」、「電子サブシステム」、「業界標準車体モジュール(Generic Body Module)」その他であり、フォードはデザインや仕様の改良のため研究、開発、試験等に数百万ドルおよび10年以上を費やしてきている。
被告は2008年に中国の自動車メーカーの採用を確実にするため、これらフォード社の機密文書を盗取した。
(2) 起訴状の内容と被告が有罪となった場合の刑事罰の内容
起訴状によると、各訴因にかかる適用法は次の条文である。
①[第1訴因]企業機密の盗取未遂(Attempted Theft of Trade Secrets) (18 U,S.C.1832(a)(2)および(a)(4))
②[第2~3、5訴因]企業機密の盗取(Theft of Trade Secrets)(18 U.S.C.§§1832(a)(1),(a)(4))
③[第4訴因]保護されたコンピュータへの無権限アクセス(18 U.S.C.§1030(a)(4))
仮に被告が有罪となった場合、第1訴因から第5訴因の企業機密の盗取および同未遂についてはそれぞれにつき最高10年の拘禁刑と最高25万ドルの罰金刑が科される。また、第4訴因については最高5年の拘禁刑と最高25万ドルの罰金刑が科される。
4.元塗料製造会社の化学者による企業機密の盗取による起訴と有罪答弁
2010年9月1日、イリノイ北部地区検事局は大手塗装会社バルスパー社(Valspar Corporation)の元社員 (李彦:David Yen Lee:デビッド・イエン・リー、54歳)が、化学者が海外の競合企業(日本ペイント)に就職するにあたり、約2千万ドル(約16億8千万円)に相当する同社の製品の化学公式と機密情報を盗取し連邦地裁イリノイ東地区連邦地裁(事件番号:No.09 CR 2909に起訴していたが、同日有罪答弁(pleads guilty)を行った旨発表した。(9月8日付け中国語の記事「窃商业机密 亚裔男认罪」参照)
この事件では同検事局は2009年6月25日に起訴している。その際のリリース内容および有罪答弁時のリリースならびに米国塗料業界ニュース(The Journal of Architectural Coatings:2010年9月2日付け記事)に基づき事実の概要や裁判面の解説を試みる。
(1)起訴事実
起訴状によると被告は2006年バルスパー社の技術部長として働き始めた。その際、雇用上の義務に関し、バルスパー社および中国子会社である「華潤塗料集團有限公司(Hua Run Paints Holdings Company Limited)」(筆者注11)の機密情報保護に関する指示を受けていた。
一方で被告は、2009年4月1日から上海で塗装製品の開発および技術開発を条件として日本ペイントの子会社(筆者注12)の技術部門の副社長および研究開発部長としての就職の条件交渉を2008年9月から2009年2月の間に行っており、採用を決めたとされている。しかし、バルスパー社の競合会社である日本ペイント自身は本刑事裁判の被告とはなっていない(被告は2009年3月27日の退職時に日本ペイントへの採用につきバルスパー社には何ら通知を行っていない)。
2008年11月から2009年2月の間、被告はバルスパー社のセキュリティ保護を守るため社内ネットワークに保存された企業機密を含む技術文書や資料類を違法にダウンロードするとともに、シカゴのウィーリングにあるバルスパー社の事務所から多数の文書を持ち去った。
なお、“The Journal of Architectural Coatings”は起訴状に基づき時系列的にまとめている。
(2) 起訴状の内容と被告が有罪となった場合の刑事罰の内容
訴因は第1~第5訴因すべてが企業機密盗取罪(18 U.S.C.§§1832(a)(3))である。
仮に被告が有罪となった場合、訴因第1から第5訴因の企業機密の盗取についてはそれぞれにつき最高10年の拘禁刑と最高25万ドルの罰金刑が科されるというものであった。
(3)有罪答弁合意書の内容
2010年9月1日、李被告は連邦検事局との間で有罪答弁を行った旨連邦検事局はリリースした。
今後の合意書に基づき、連邦裁判所は57~71か月の間で拘禁刑の範囲を「連邦量刑ガイドライン」に基づき判決を検討することになるが、裁判所は強制的弁償命令(mandatory restitution order)(筆者注13)を下さねばならない。
Ⅱ.最近時の中国国内の知的財産権問題への取組み
中华人民共和国最高人民法院(筆者注14)は、たとえば中国法院知识产权司法保护状况(2009)(英文本)(Intellectual Property Protection by Chinese Courts in 2009)で見るとおり、知的財産権保護強化に向けた取組みは顕著である。これは欧米だけでなくわが国に対する関心が高いことを意味する。
ちなみに、中国の大手ローファームである金杜法律事務所のHPでは「最高人民法院の特許権侵害紛争事件審理における法律適用の若干問題に関する解釈(意見募集稿)」と題する日本の顧客向け解説を2009年6月に行っている。
「意見募集の締め切りは2009年7月10日である。顧客様が該司法解釈の内容を早急に把握できるように、本期のNewsletterは該司法解釈意見募集稿全文の日本語訳を掲載した。今後も該司法解釈の実施により生じ得る影響について詳しく説明する予定である」と記されている。
(筆者注1)釈放後は正確に表示されたが、しばらくの間、わが国のメディアで中国漁船の船長名「詹其雄(セン・キユウ)」を正確に記しているものは沖縄タイムス以外は皆無であった。筆者は決して中国語に精通しているわけではないが、この程度の調査はごく簡単である。中国とは漢字文化の共通性がありながら訳の分からない「セン其雄」(共同通信)、「●(=擔のつくり)其雄(せんきゆう)」(産経ニュース)のような記事はやめて欲しい。
(筆者注2)わが国のメディアは「ラジオ・フランス・アンテルナショナル(Radio France Internationale、:RFI) 」を読んでいるだろうか。世界中のメディア記事等に基づき機械翻訳でない主要国の言語翻訳が的確に行われている。今回紹介するダウ社の産業スパイ事件の起訴の経緯の詳細について9月1日付けの中国語の解説記事「华裔化工学者被控经济间谍罪」を読んで欲しい。香港の特約記者がまとめているが、FBIのリリース等に基づくもので内容はかなり正確である。
ちなみに、わが国の大問題である中国漁船の船長釈放の解説記事があるので、ぜひ読んで欲しい。
なお、“RFI”フランス政府によりラジオ・フランスの一部として1975年に設立された国際放送サービスである。(Wikipedia から一部引用)
より国際的メディアとして有名な“BBC”の例で中国語情報の調べ方を説明する。今回のブログの2番目の記事「米国籍の中国人夫婦によるGMのハイブリッド・カーのモーター制御等技術の共謀による盗取罪起訴」についてBBC中国語サイトでどのように書かれているであろうか。その手順を紹介する。
①英国BBC国際ネットのHP からWorld Serviceにリンクする。→②画面左下の“langage services”の中国語(中文)を選択→③BBCの中国語版HP →④BBC中国語HPの「国际新闻(国際新聞)」にリンクし、右上の「BBC接続」欄に「被告夫の姓名:秦宇」を入力すると中国語関連記事一覧が出てくる。「美籍华人夫妇被控窃取通用汽车商业机密」(2010年7月23日付け記事)を選択し、記事内容を確認する。
このBBCの記事は中国内の一般メディア「萬維讀者(creaders.net)」の「美国看台(USA NEWS)」等に直接引用されている。
中国の世論を動かすためには何が必要か、改めてわが国の情報世界戦略を考えるべきであり、NHKワールドや民間メディアもこのくらい国際化して欲しいと考えるが無理か。
なお、中国の公的国際メディア「チャイナネット」の国際度、情報発信力をいかが見るか。
(筆者注3) 本ブログの執筆にあたりFBIのリリース以外に米国化学会(American Chemical Society)が発刊するニュース“Chemical & Engineering News”の解説記事「化学者が知的財産権違反で逮捕拘留される:FBIは元ダウの従業員を逮捕」を参照した。
(筆者注4)本事件については、科学技術振興機構が発刊している2010年8月2日付け「学術情報流通ニュース」でごく簡単に紹介されているが、そこには知的財産権や外国からの経済スパイ活動に関する危機感がない。
(筆者注5)「1996年経済スパイ活動法」は国防・軍事機密よりビジネス民間部門による外国からのスパイ活動の増加に対処するために立法された法律である。すなわち、企業機密の盗取や横領(misappropriation)行為を連邦法上の犯罪として扱うものである。
(筆者注6) 湖南師範大学の姉妹大学は日本にいくつあるのであろうか。中途半端な姉妹校はわが国の政府や企業の機密情報の漏洩だけに終わる。
なお、被告は中国吉林農業大学(Jilin Agricultural University)で生物学を専攻、日本の東京大学(?)で博士号(phD)を取得、その後1990年代半ばにはテキサスのA&M 大学での2年間の博士課程後期の任務後、さらにライス大学に移り、「ビタミン12の生産にかかる生合成遺伝子配列(sequencing biosynthetic genes for vitaminB12 Production)」についての研究を行っている。2009年7月以降はバイオ燃料開発会社“Qteros”に勤務している。
(筆者注7)「6日のWeb Wire 掲載記事。米検察当局が5日、元中国人でカリフォルニア住民のXiaodong Sheldon Meng(孟小东)(42)は、米国の経済スパイ法(EEA)、輸出管理法(AECA)及び国際武器取引規則(IRAR)に違反して、軍事訓練目的の模擬プログラムQuantum3D を盗み中国海軍へ売り渡そうとしていたと発表した。この事件摘発は、米検察のコンピュータ・ハッキング及び知的財産部門と、FBI、ICE 等の3年間の合同調査並びに国務省及び国防総省の協力による成果であるという。」(安全保障貿易情報センターNewsletter Vol.13, No.5 2007.09.12 より一部抜粋。中国名は筆者が加筆)
(筆者注8)わが国で米国の輸出規制(武器輸出管理法や国際武器取引規則等)について更新つきで邦訳している個人サイトがあるので参照されたい。
(筆者注9) 被告宇が勤務していた電気会社名は明記されていないが、流れから見てバッテリー電池等関係の企業であろう。となると、この会社の機密情報も盗取されている危険性は高い。
(筆者注10) サンディア国立研究所は、米国エネルギー省が管轄する国立研究所。核兵器の開発と管理、 国防・軍事科学、エネルギー・気候や設備の保護、米国内外の核の安全性、安全保障の全分野などについて、国家機密に属する先進的な研究が行われている。現在、研究所施設は政府の財産であるが、管理・運営は請負契約を結んだサンディア社(Sandia Corporation、ロッキード・マーチン社の 100% 出資子会社)が行っている。主要なgovernment owned/contractor operated (GOCO) facilitiesである. (Wikipediaから引用後、同研究所のHPに基づき筆者が加筆)
2002年時点のものであるが、同研究所は「次世代の太陽光発電インバータ(DEVELOPING A “NEXT GENERATION” PV INVERTER)」と題するレポート(要旨)を発表しているし、その中で被告宇の論文が引用されている。
また米国電子電気学会(IEEE)(IEEE日本カウンシルのウェブサイトの説明:世界最大の技術者組織です。「アイ・トリプル・イー」と呼称され、世界160カ国以上に395,000人以上の会員を擁し、米国ニューヨークに本部がある非営利団体です。IEEEは、コンピュータ、バイオ、通信、電力、航空、電子等の技術分野で指導的な役割を担っています。 38の専門部会(Society)と7つのTechnical Council(関連Societyの連合:略称TC)があり、国際会議の開催、論文誌の発行、技術教育、標準化などの活動を行っています。)なども随時、PV inverterの機能・信頼性強化に関する研究発表を行っている。
なお、“power electronics”という用語が多用される。「電力・電子・制御の混合領域であると定義されている。電力の部分は変圧器や電動機等の機器であり、パワーエレクトロニクス装置の制御対象や入出力機器であるといえる。電子は電力用半導体デバイスやこれを用いた回路を指し、パワーエレクトロニクスの中心的な部分である。制御は電力分野と電子分野をコントロールする分野で、連続系や離散値系等がある。このようにパワーエレクトロニクスは多くの技術分野を包含した領域であり、電力用半導体デバイスを用いて電力の変換、制御、開閉を行う技術である。」(「電気事業事典」電気事業講座2008 別巻から引用)
ちなみに、米国連邦エネルギー省の“Vehicle Technologies Program”は効率的な交通・運輸手段開発プログラムについて国家レベルとしての取組み姿勢がわかりやすく説明されている。特に筆者が興味を持ったのは“Energy Storage”の個所であり、その分野のR&Dの取組みの「2009年アメリカ再生・再投資法(America Recovery and Reinvestment Act of 2009)」等法的な側面を含む説明は米国の近未来への取組課題を理解する上で興味深いものがある。
(筆者注11)起訴状や有罪答弁合意書原本のValspar社の中国子会社名はいずれも“Huarun Limited”である。 これは正確に書くと本文に書いたとおり「Hua Run Paints Holdings Company Limited (華潤塗料集團有限公司)」である。司法省に確認するまでもないが、このような誤った記述は問題であろう。
(筆者注12)日本ペイントがPRCに置く子会社とは、“Nippon Paint (China) Co., Ltd.” を指すと思う。
(筆者注13)裁判所による「強制弁償命令(mandatory restitution order)」“”とはすべての州法および連邦法で、刑事裁判所が被告に対し弁償命令を出す制度であり連邦量刑委員会(USSC)が制定する連邦法“18 USC 2248 - Sec. 2248. Mandatory restitution ” および連邦量刑ガイドラインが定めるものである。その歴史的な背景や具体的手続きについては、たとえば「連邦刑事事件における弁償手続(Restitution in Federal Criminal Cases)」で詳しく解説されている。その他の資料としては「連邦刑事裁判における強制的弁償命令(MANDATORY RESTITUTION IN FEDERAL)」などもある。
(筆者注14) 「最高人民法院は国の最高裁判機関であり、裁判権を独立して行使し、同時に、地方各クラス人民法院および専門人民法院の裁判の仕事の最高監督機関でもある。最高人民法院は全国人民代表大会およびその常務委員会に責任を負い、活動を報告し、最高人民法院院長、副院長の任命および最高人民法院裁判委員会委員の任命はいずれも全人代によって決定される」(中華人民共和国の国家機構の「中华人民共和国最高人民法院」の日本語解説(チャイナネット)から抜粋)ただし、この解説は2003年時点のもので内容は古い。
最新情報を見る意味で、最高人民法院の主页(HP)を見ておこう。一番上に構成画面が出ている。①工作动态(現時点の取組み課題)、②裁判文书(裁判判決文)、③调查研究(調査研究)、④开庭公告(開廷公告)、⑤知识产权战略实施(知的財産権戦略)、⑥司法解释和指导性文件(司法解釈およびガイダンス)であり、中国にとって知的財産権問題が重要な司法行政問題であることは間違いない。これに関し、国家知识产权局(State Intellectual Property Office:SIPO)のHPを参照されたい(英語版のサイト内容から見て国際化がすすんでおり、EUや米国などの最新情報を提供している)。ただし、最新画面下の著作権表示“Copyright © 2009 SIPO. All Rights Reserved”はいただけない。珍しいことではないが、改訂は行っているはずであり“2009-2010”への更新漏れか?
[参照URL]
・2010.9.24:司法省・FBIが公表した中国人による企業機密の盗取犯罪事件
http://www.fbi.gov/page2/september10/secrets_092410.html
・2010.8.31:司法省・FBIが公表した大手農薬会社の企業機密を中国政府と協力して盗取したとして中国人研究者を産業スパイ容疑で起訴
http://indianapolis.fbi.gov/dojpressrel/pressrel10/ip083110a.htm
・2010.7.22:米国籍の中国人夫婦によるGMのハイブリッド・カーのモーター制御等技術の共謀による盗取罪で起訴
http://www.fbi.gov/page2/september10/secrets_092410.html
・2009年10月15日:現中国企業の元フォード社員を企業機密盗取の罪で起訴
http://detroit.fbi.gov/dojpressrel/pressrel09/de101509.htm
・2010年9月1日:元塗料製造会社の化学者による企業機密の盗取による起訴と有罪答弁
http://chicago.fbi.gov/dojpressrel/pressrel10/cg090110.htm
・最近時の中国国内の知的財産権問題への取組みに関する「中华人民共和国最高人民法院」の解説ウェブサイト
http://japanese.china.org.cn/japanese/77700.htm
Copyright © 2006-2010 福田平冶. All Rights Reserved.
2010年9月21日火曜日
米国FBIが米国の重要な最新ホワイトカラー犯罪動向を公表(第1回)
9月10日付けで、米国連邦捜査局(FBI)がこの1年以内に扱ったいわゆる(1)重要ホワイトカラー犯罪の内容、(2)米国の関係法執行機関が取組んでいる内容について要約したレポートを発表した。
このレポートは「創造性の盗取その-阻止に向けた協力体制-(the theft of creativity)」と題するもので、3つの重要事件を中心にFBIや関係捜査機関の取組み状況を解説しており、いずれもデザイン、創案(inventions)、登録商標情報(proprietary business information)、文学、音楽や映画等一般的に「頭で考えた創造力(creation of the mind)」といわれる知的財産の盗取犯罪を取り上げている。
これらの犯罪は、当該資産の正規の所有権者(rightful owners)や米国の消費者ならびに国民から仕事を奪ったり税収を減じさせ、ひいては米国経済に重大な被害を引き起こさせる重大犯罪行為にあたるとFBIは論じている。
わが国でも米国における同様の犯罪行為について論じたものは少なくないが(筆者注1)、今回のFBIレポートはより具体性があり、また衛星通信やケーブル・テレビ信号盗取(television signal /cable theft)犯罪についても言及するなど、わが国の関係機関としても参考になる点が多いと考えまとめた。
また、9月10日付けのFBIのリリースが引用している過去にFBI等が取上げ事件の裁判経緯の詳細についても米国内の情報に基づき補足した。
なお、わが国では完全地上デジタル放送の実施が2011年7月24日に実施されることに伴いデータの暗号化や復号化技術の信頼性等に関する議論は、必ずしも関係機関により十分に整理されているとは言い難いと思う。
[はじめに]
FBIは多くの協力機関とリーダー的役割を演じている。FBIは現在約400の事件と取組んでいるが、その多くは世界的なつながりにおいて機能している。
1.FBIの取組み分野と起訴事例
知的財産犯罪は多くの分野を包含する。すなわち、著作権侵害、商標権侵害、模造品(counterfeit good)、衛星通信やケーブル・テレビ信号盗取(television signal /cable theft)である。
FBIにとってこの分野の最優先課題は2つに分類できる。第一に企業機密(trade secrets)であり、これは企業の経営の基本線(bottom line)問題であるだけでなく世界における米国の競争力に影響する問題である。
2010財政年度に関していうと、FBIは35件の健康・安全性侵害に関する捜査を、また企業機密の関し56件の捜査内容を公開した。両分野での捜査は次のとおり成功裡に終わっている。
(1)企業機密の盗取事件
①ニューヨーク市の在住のプログラマーが機密性のあるコンピュータ・コードを元雇主から盗取のうえ、新しい仕事に持ち込んだ。2010年2月11日に司法省が起訴時に公表した事案の概要は次のとおりである。
「2007年5月から2009年6月の間、被告セルゲイ・アレイニコフ(Sergey Aleynikov:40歳)が元雇主であったゴールドマン・サックス(GS)において同社の各種商品や株式取引で高頻度取引(high frequency trading:HFT)(筆者注2)の開発に責任を持つ者として雇われていた。GSは1999年に前所有者であるハル商社から同プログラムを5億ドルで購入、その後同システムを修正するとともに維持していたが、同システムのコンピュータ・プログラムに機密性保護のため同社のコンピュータ・ネットワークへのアクセス制限および高頻度取引プログラムへの内部アクセスを制限するためのファイアーウォール等を含む重要な施策を実施した。
GSにおける高頻度取引は、年間数百万ドルを生み出す重要なものであり、同社はシステムのソースコードを保護するため従業員に対し機密保保護協定の締結を求めるなどいくつかの施策を実施している。
2009年4月、アレイニコフはGSを退社後、イリノイ州シカゴに新たに創設されたテザ・テクノロジー社(TEZA Technologies LLC:Teza)に採用された。アレイニコフはTezaの自社の高頻度取引専用プラットホームの開発要員として採用された(アレイニコフのGSの最終勤務日は2009年6月5日であった)。
その最終勤務日5日の午後5時20分頃、アレイニコフはGSの機密コンピュータ・コードの大部分をドイツにある外部サーバーに移送した(当然ことながらGSには通知せずに暗号化したうえで移送した)。
アレイニコフは移送後、ファイルの暗号化を行ったプログラムを削除するとともに自身のコンピュータに最新実行履歴を記録するコマンド履歴「bash history」を削除した。
さらにアレイニコフはGSの雇用期間中に同社の認知や承認なしに同社のコンピュータから自宅のコンピュータに数千にのぼるGSの機密トレード・プログラムを転送した。アレイニコフはこの作業につきGSの電子メール・アカウントを自宅のコンピュータの電子メールア・カウントに宛ててコード・ファイルを転送し、自宅のPCだけでなくラップトップ、USBやその他データ記憶媒体にコード・ファイルのバージョンを保存した。(筆者注3)
2009年7月2日、アレイニコフはTezaの事務所の打合せに出席するためシカゴにフライトしたが、その際GSの機密コードが保存されたラップトップやその他の記憶装置を持ち込んだ。その翌日3日にアレイニコフはニューヨーク空港に着いた時に逮捕された。
アレイニコフに対する起訴状によると、「企業機密盗取」が第1訴因、「窃盗物の国外移送・外国貿易違反行為」に基づく第2訴因、「無権限コンピュータアクセスおよび権限を越えた違法アクセス」に基づく第3訴因である。
これらの責任につき仮に有罪となるとアレイニコフは最高25年の拘禁刑を受ける。
②3人の被告「1998年デジタルミレニアム著作権法(Digital Millennium Copyright Act of 1998)」違反裁判(筆者注4)で有罪答弁
カリフォルニア州やフロリダ州在住の被告3人は、2009年7月9日、サンディエゴ連邦大陪審(federal grand jury)に手渡された1訴因の起訴状(デジタル・ミレニアム著作権法(Digital Mirenium Copyright Act of 1998)(筆者注5)違反の共謀罪)が提出されていた。(最高求刑は5年の拘禁刑および罰金25万ドルであった)
有罪答弁(Plead Guilty)に関して被告ヨン・カク(Jung Kwak :33歳:カリフォルニア州)、フィリップ・アリソン(Phillip Allison:35歳:フロリダ州)、ロバート・ウォード(Robert Ward:54歳・フロリダ州)の3人は2009年10月23日に起訴に対する有罪答弁を行った。
この有罪答弁において、被告は2008年3月頃からDish Network の暗号化スキームである“Nagra3” (筆者注6)を無効化するためコンピュータ・ハッカーを雇う計画を決定したことを認めた。起訴状および被告の有罪答弁によると、被告カクは自身がカリフォルニア州で“Viewtech Inc.”を所有・経営していたことを認めた。
“Viewtech”は無料衛星放送またはFTA衛星放送の受信ボックス(チューナー)を輸入し、ブランド名“Viewsat”で小売店ネットワークなどを通じ一般利用者に販売した。
起訴状によるとFTA受信機ボックス(チューナー)の所有者にとって多くは民族や宗教的な番組プログラムについては無料利用プログラム数は限定される。しかしながら、被告はViewsat受信機数百万台を一般に販売した。
FTA受信機ボックスの広い人気は、たとえば無料の“Echo Star’s Dish Network”等加入に基づき簡単な手続で衛星放送の受信が出来るといった設計が支持されたことにある。Dishは著作権で保護された所有者から版権を買い取り、その信号を暗号化してDishの加入者にその閲覧権を販売するのである。そのためDISH Networkプログラムの加入者はDishからDish衛星受信ボックス(チューナー)に挿入する「スマート・カード」を入手する。このスマート・カードは加入者のみが認められる番組プログラムを復号化する。
この数年間、Dishは暗号化アルゴリズムを変えたり、信号の盗取を破るためその他の対策をとってきた。
違法にDISH信号を解読・復号化するためにはFTAボックス(チューナー)は「Dishスマートカード」をもっているように見えなくてはならない。
その作業は“reverse-engineering Dish smart cards”(筆者注7) (筆者注8)とコンピュータ・コードの作成により行われるもので、同カードを適切なチューナーに挿入するとスマート・カードの存在を証明しあわせて配信会社のシステムを騙すことになる。
過去にDishの暗号化や安全対策が破られたとき、その違法コードはインターネット上で公開され、誰でもがダウンロードが可能となった。
2007年秋にDishは新しい信号の暗号化スキームを作成し、新しいスマート・カードを顧客に送付し始めた。新しい暗号化スキームが配備されるとFTAボックスの所有者はもはや正式加入なしにはDishの配信番組を見ることは出来なくなるり同ボックスの販売業者は市場を失う。
被告カクはアリソンとウォードがNagra3の解読できる人物たちの居場所を見つけることを認めた。カクはそのための資金の拠出と成功報酬の支払に合意した。彼らはこのスキームに参加する第三者(筆者注9)の勧誘したことを認めた。
アリソンはその第三者がスマート・カードのデータの解剖用で解析に使用する専門的な顕微鏡の購入を認め、カクにより返金された。
カクはNagr3 Cardと証するスマート・カードの解剖写真の費用として2万ドルの現金を支払った。またカクは、もしNagra3のEPROM(erasable programmable read-only memory)(筆者注10)が入手出来たなら25万ドル(約2,100万円)の報酬を支払うことも認めた。
被告3人は連邦補助裁判官(United States magistrate judge)アンソニー・J.バタグリア(Anthony J.Battaglia)に対し上記有罪答弁を申し出たが、 2010年1月22日午前9時、連邦地方裁判所判事ジャニス・L・サンマルチノ(Janis L.Sammaritino)により最終受理された。
なお、本件はサンディエゴのFBIサイバー犯罪捜査班(cyber squad)の捜査官により捜査が行われた。
(2)健康や安全性に関する違法行為裁判
①テキサス州南部地区連邦検事は2009年11月5日、次のとおりリリースした。
ヘイデンB.グリーン(32歳、オクラホマ州タルサ住)、ジェームズ・ロバート・ロイ(42歳、テキサス州トンボール住)は、2009年11月5日、偽造の管継手(pipe couplings)の製造・販売行為の共謀の罪で前者については30か月拘禁刑、後者については15か月の拘禁刑がそれぞれ宣告された。
グリーンとロイは、拘禁刑後の3年間監視下の釈放(supervised release)におかれ、また個別または共同被告とともに返還金として10,091ドルの支払いが命じられ、共同または個別に刑が宣告された。 グリーンとロイは、2009年8月12日に、ヒューストン連邦地方裁判所キースP.エリソン判事の前で第1訴因である共謀容疑である偽造品の搬送と詐欺を行ったことにつき有罪答弁を行った。
その検事と被告間の有罪答弁合意書では、グリーンとロイは彼らと共同被告人が油用の継手につきライセンスまたは認可なしで米石油協会(American Petroleum Institute:API)によって所有・登録された認証マークを印字して製造・販売する手口の共謀を認めた。
API認証プログラムは、損傷や不良、危険な製品から壊滅的な損失に関し保証するために設計された品質管理プログラムである。APIの保証組合せ文字(モノグラム)は、石油や天然ガスの特定のAPIの標準仕様に合致、特定されかつ推奨実践要件を満たすものの調査や製造に使用される製品や設備のみ保証する。APIの基準を満たしていない継手は限られたサービス・アプリケーション用のAPI認定製品に比べて大幅に低価格で売られている。APIによってライセンスを受けたメーカーのみが厳格な品質管理基準を満たし、またAPIの継続的なモニタリングの対象とされ、API認証マークを含む製品の製造・販売が認定される。
有罪答弁合意書によると、グリーンおよびロイは彼らとその共同被告人でライセンスなしにAPIの認証マークを含む継手の製造・販売を行い、不良材料を使っての多くを製造し利益を得て結果的に顧客から利益を得た。
グリーンとロイの答弁は、本起訴に基づく第2番目と3番目の答弁の背景となった。すなわち、2009年6月24日、共同被告ロナルド・アダムズは本犯罪手口の役割に応じ、8か月の拘禁刑とその後に続く3年間監視下の釈放におかれる刑が言い渡された。
これまでがリリースの内容である。読者はこの内容だけで「ホワイトカラー犯罪」といえるのか疑問がわこう。筆者は裁判検索サイト”justia”で地区連邦裁判所や事件のカテゴリーなどに基づき想定しながら検索してみたが、ついに起訴状等は見出し得なかった。
②詐欺的な耐空証明を詐欺的に発行したFAA点検証明工場の経営者に有罪判決
被告はマイアミ住のウィリー・マッケイン(Willie MacCain 52歳)であるが、フロリダ南部地区連邦地方裁判所は2010年5月24日、航空機部品を含む詐欺取締法である合衆国法律集第18編 セクション第38(§38. Fraud involving aircraft or space vehicle parts in interstate or foreign commerce)違反を理由として 4つの訴因に関し有罪判決を下した。
特に、裁判官(ダニエル・T.K.ハーリー:Daniel T.K.Hurley)は、1年と1日の拘禁刑およびその後に続く3年間監視下の釈放を判示した。さらに、同裁判官は合衆国空軍(United States Air Force)に対し21,750ドル(約1,827,000円)の返還を命じた。
実はこの詐欺事件は民間や空軍の航空機部品の偽ものの販売行為事件であり、共謀罪に問われたのはマッケイン以外には、マリエラ・ビアンチ(Mariella Bianchi,51歳)、ジュアン・ベルトラン(Juan Beltran,28歳)、ジュリオ・ゼレーヌ(Julio Zerene,49歳)、ジョン・ファルコ(John Falco,56歳)、ジョルジ・カスカンテ(Jorge Cascante,54歳)の5人であった。
ジュリオ・ゼレーヌとファルコは、2009年10月2日および2010年2月9日に別々に37か月の拘禁刑の有罪判決が下りた。2010年4月12日、ビアンチとベルトランは起訴状にある「合衆国法律集第18編セクション第38(a)」違反に基づく航空機部品の詐欺的販売の共謀につき「有罪答弁」を行い、判決は2010年7月7日に下される予定であったが、筆者は最終判決の確認は出来なかった(4月12日の同裁判所のリリースでは、被告は最長10年の拘禁刑を受けるとコメントされている)。
これらの有罪の根拠は2年間にわたる「翼巾検査強化(Operation Wingspan)」の原因を作ったというもので、それまでの“Operation Wingspan”の損失は500万ドル(約4億2,000万円)と見積られている。さらに同Operationは15万ドル以上の差押を招き、また連邦航空局(FAA)による少なくとも2社の航空部品補修免許取消を生じさせた。
被告ビアンチは、マイアミの民間航空機部品供給会社「エアーボーン・グループ」の所有者で、ベルトランは同グループの軍事販売担当部長であった。ビアンチとベルトランはKC-135 やE-3 等軍用機の各種部品の合衆国空軍への売込みや契約を得ていた。
ひとたび部品の販売契約を取ると、被告ビアンチとベルトランは認可を受けていない製造業者(ゼレーヌ・エアロスペースの所有者のJulio Zerene」)とコンタクトを取り、新たな供給部品またはボーイング社やその他認可された供給会社によって製造が特定される部品製造につき交渉を行った。一度このように違法に部品が製造されると被告の2人は偽造した適性合致証明を濫用した。
2.FBIの官民部門のホワイトカラー犯罪に関する共同パートナーとの緊密な捜査体制
FBI等は次のような取り組みを行っている。
①連邦政府は2010年6月、連邦省庁間協調および国際的な法執行の強化のため「2010年知的財産権保護のためのへの法執行に係る共同戦略計画」を立ち上げた。
FBIの解説の前に筆者が独自に調べた範囲で同計画の法的背景につき補足説明しておく。なお、この部分は2008年9月29日付けJETRO「包括的模倣品対策強化法案(PRO-IP法案)、議会を通過し大統領の署名待ちへ」および国立国会図書館「カレントアウェアネス・ポータル」から関係部分を抜粋し、一部加筆した
・同共同計画の根拠法は「包括的な模倣品・海賊版対策法案(Prioritizing Resources and Organization for Intellectual Property Act of 2008(PRO-IP法案(H.R.4279)」(筆者注11)である。同法案につき連邦議会上下両院は、2008年9月26日(上院)、同28日(下院)と、相次いでPRO-IP法案を承認した。通過法案は大統領府に送られ、10月13日、大統領の署名が署名して成立した。
・著作権侵害に対する非親告罪化や損害賠償額、罰金額の増額、知的財産権の強化に向けた新たな役職(IPEC)の設置などが中心である。なお、非親告罪化規定については最終的に削除された。
・同法第4章では大統領府への知的財産執行調整官(IPEC)の設置が定められこれについては連邦司法省や商務省が反対するなどもあったが最終的に残され、ほぼ原案通りに成立した。本法案の上院下院通過後、ただちに米国商工会議所(ACC)、全米製造業者協会(NAM)、全米レコード協会(RIAA)、全米映画協会(MPAA)、コピーライトアライアンス等が相次いで歓迎の意を表している。
・知的財産のエンフォースメント強化のための知的財産執行調整官(IPEC)の設置と共同戦略プラン策定として、大統領府に知的財産執行調整官(Intellectual Property Enforcement Coordinator)ポストを新設。同調整官は大統領により任命される(上院の助言と承認が必要)。(法案301条)
・法案施行後12月以内およびその後3年毎に模倣品・海賊版対策の共同戦略プラン(Joint Strategic Plan)を策定。毎年年末までに委員会の年次活動報告書を作成し議会へ提出する。(法案303、304条)
②2010年6月、ホワイトハウスは“2010 JOINT STRATEGIC PLAN ON INTELLECTUAL PROPERTY ENFORCEMENT”を発表した。この文書はPRO-IP法に基づき知的財産執行調整官(IPEC)ヴィクトリア A.エスピネル(Victoria A. Espinel)がオバマ大統領および連邦議会に宛てて提出したものである。
同報告書(全65頁)は米国の知的財産権の新たな戦略的考えを明確に打ち出しており、その導入部分を参考までに紹介する。
「私は『2010年知的財産権に係る法執行共同戦略計画』を報告できる大統領および連邦議会にお伝えることをうれしく思う。
知的財産に関する法律と権利は、革新的で創造的な製品の交換と言う意味で消費者と製作者、また彼らの開発に投資する投資家に確実性と予見性を提供する。
適切にこれらの権利を実施するために資質、能力または政治的意思が不十分な場合は、投資家と生産者と消費者の間の権利の交換は効率が悪く、不正であるか時には危険でさえあるかもしれない。
我々の起業家精神、創造性および創意工夫は世界経済におけるアメリカへの明らかに比較優位な部分である。 そういう意味でアメリカ人はデジタル・コンテンツを含む創造的で革新的なサービスと製品の生産の世界的なリーダーである。その多くが知的所有権の保護に依存している。 世界経済を導いて、成功し、繁栄し続けるために我々はアメリカの知的所有権において強い法執行を確実にしなければならない。
「包括的模倣品対策強化法案(Prioritizing Resources and Organization for Intellectual Property Act:PRO-IP Act)」の執行に関し、偽ものと権利侵害に対して共同戦略計画(Joint Strategic Plan)の開発を調整するよう知的財産執行調整官(Intellectual Property Enforcement Coordinator:IPEC)に命じる。 この共同戦略計画を準備するために、我々事務局は多数の連邦政府の機関や省と緊密に働くとともに広く国民からの重要な情報入力を行う。
我々は、アメリカ人の広い層から意見を聞き、特定のあるいは創造的な提案1,600以上のパブリックコメントを受けた。 農務省( (USDA)、 商務省(DOC)、健康保健福祉省(HHS)、国土安全保障省(DHS)、司法省(DOJ)、国務省(DOS)、米通商代表部(USTR)、および著作権庁を含む連邦機関がこの共同戦略計画の開発に参加した。
この過程で、我々は連邦政府がアメリカの知的所有権の保護を機能アップするために取るべき次の行動内容を特定した。
1. 我々は、連邦政府が権利侵害製品を購入せず、使用もしないことを保証するために自ら実例を示してリードする。
2. 我々は法執行政策(内外での法執行活動について共有しかつ情報を報告し合う)の策定における透明性を支持する。
3. 我々は、協調の内容を改善し、その結果として連邦政府、州、ならびに地方レベルにおける法施行努力の効率性、海外に配置された人員および米国政府の国際的なトレーニングの努力の効率と効果を増加させる。
4. 我々は、世界経済におけるアメリカの知的所有権をよりよく保護するために我々の貿易相手国と国際機関とともに働くつもりである。
5. 我々は、私たちの境界における協力の強化を通した権利侵害製品の流れを食い止めるため、民間部門との協調を踏まえ、サプライ・チェーンを保証する。
6. 我々は、知的財産関連の活動からデータと情報収集を改善するともに、継続的に米国内外の法執行活動を調査し、またアメリカ人の知的財産権利者のためにオープンで、公正かつバランスのとれた環境を維持するつもりである。
③全米知的財産権協調センター(Ntional Intellectual Property Rights(IPR) Coordination Center)は、国土安全保障省連邦移民関税取締局(U.S. Immigration and Customs Enforcement :ICE)および同省税関国境警備局(U.S.Customers and Border Protection)を含む連邦機関とともに捜査や違反取締り責任を負う。
④2010年月に設置された連邦司法省知的財産権特別調査班(Department of Justice’s Task Force on Intellectual Property Crime)は州や地方の法執行機関ならびにFBIの世界の関係機関と緊密な連携をとり知的財産犯罪と戦っている。
3.米国以外の海外の電子出版、放送等オンライン著作権保護強化の動き
海外の電子出版等著作権保護強化の動きは急速に進んでおり、例えば英国の例で見ると、政府のデジタル化政策「デジタル・ブリテン」を法的に支える「2010年デジタル経済法案(Digital Economy Bill)c.24」が議会を通過し、2010年4月8日に国王の裁可を受け成立した。
同法のコンテンツやメインの政策内容については、ビジネス・イノベーション・職業技能省(BIS)に専門ウェブサイト“digital Britain”で詳しく解説されているので参照されたい。
なお、わが国における同法に関する解説は意外と少ない。機会を見て解説文を作成したい。
(筆者注1) 米国のホワイトカラー犯罪に関する論文でウェブ上で読めるものとしては、例えば元日本大学大学院法務研究科教授・有限会社ストラテジスト・代表取締役の本間忠良氏「米国における特許関連違法行為と民事RICO法(1993年10月の発表されたものであるが内容は詳しい)」、KDDI総研 制度・政策G 研究主査 藤崎 太郎氏「米国 インターネット犯罪の動向」、2009年10月7日付けウォールストリートジャーナル日本版「米サイバーコップ、増加するインターネット犯罪に苦慮」や社団法人 日本公認不正検査士協会( ACFE JAPAN )のサイト情報(メールマガジン)を薦める。ACFEの理事長の慶應義塾大学の安冨潔教授や副理事長の甘粕潔氏は筆者の古くからの知り合いである。
なお、欧米の主要ローファームでは多くがホワイトカラー犯罪を主要業務として扱っている。
(筆者注2)わが国ではほとんど専門家による詳しい解説がない「 高頻度取引(high frequency trading:HFT)」自体がどのような取引であり、最新IT技術とのかかわり、米国の金融危機への影響(連邦証券取引委員会(SEC)や連邦商品先物取引委員会(CFTC)の規制強化の動向)、米国メディア(ニューヨーク・タイムズ等)や識者(Wharton school :The Impact of High-frequency Trading: Manipulation, Distortion or a Better-functioning Market?)の見解、またHFTの規制強化に関するEU域内の証券監督機関である「証券監督者委員会(CESR)」の「2004年金融商品市場指令(the Market in Financial Instrument Directive:MiFID)」改正の動き等をまとめたいが、これだけでまとまった内容にすべきであり、機会を改める。さらに2009年9月17日、SECが採択した「フラッシュオーダー」禁止案についても正確に説明されている。
なお、わが国で“HFT”について書かれた日立総合計画研究所「今を読み解くキーワード」欄:経済グループ 杉山 卓雄氏のレポート「高頻度トレーディング」は、「高頻度トレーディングとは」「高頻度トレーディングを可能とした技術革新」「高頻度トレーディングの問題点」から構成され、簡潔に良くまとまっている。
また、“The Economist”の2009年8月1日付けの記事「HFTはアルゴリズム取引が市場取引におけるコンピュータの役割を独占的に引上げる」を仮訳しているブログがあるので参照されたい。
(筆者注3) この事件の被告の逮捕や起訴について、わが国ではあまり詳しく報じられていないが、「逮捕」についてはニューヨーク・タイムズ等が2009年8月23日付け記事で、また「起訴」についてはWSJが2010年2月12日付け記事で詳しく報じている。
さらにいえばこの種の犯罪に伴いGSが被った損失は莫大な金額にのぼり、司法関係者の中には刑事責任より民事責任追及を優先すべきとの指摘もある。 しかし、この事件の責任と本質的問題は他のウォールストリート金融機関全体にかかわる超高速のコンピュータ化処理化している株取引の混乱した世界を垣間見ることにもつながる。すなわち、証券業界以外ではほとんど知られていないHFTが突然最も競争的で論議を呼ぶビジネスの1つになったのである。その心臓部である開発に数年間かかる機密性に極めて緊密にかかわるコンピュータ・プログラムがあるとると2009年8月23日付けのニューヨーク・タイムズ記事は紹介している。
(筆者注4)デジタルミレニアム著作権法(DMCA)違反裁判として2003年2月11日、衛星放送信号の復号化を行ったとして被告17人(うち6人がDMCAの反復号化禁止規定違反の刑事責任で理由に該当)が起訴された。衛星放送会社に数千万ドルにわたる高度な暗号化技術を開発させ、結果的に数百万ドルの損失を引き起こしとして起訴された。DMCAに基づく連邦地方裁判所としては初めてのケースであり、またカルフォルニア地区大陪審がDMCAに基づき起訴状を発行した2番目の裁判である。カルフォルニアFBIが同日、詳細なリリースを行っているのでそちらを参照していただきたいが、裁判の経緯や起訴の根拠法等につき簡単に紹介しておく(本事件の捜査ではFBIは「おとり捜査(undercover investigation)」を行った旨公表している)。
被告は、ソフトウェアの開発者および受信装置の製造業者等であるが、数千台の復号化デバイスの製造とスマート・カードの条件付アクセス・システムにハッキングをかけるために必要とされるソフトエアを開発したことを理由に捜査が行われ、2002年10月にFBIは7つの州で目標と家宅捜査を行い多数のコンピュータと違法な復号化端末を差し押さえた。
被告17人は、(1)違法ソフトウェアおよびハードウェアの両者の開発者(Randyl Walter:43歳、Chad Fontenot:26歳)、(2)ソフトウェアの開発者(Jason Hughes:19歳(plead guilty)、Edward Vanderziel:35歳、Daniel Wilson:33歳(plead guilty)、Stephen Thornton:36歳(plead guilty)、Christpher Humbert:20歳(plead guilty)、(3)ハードウェアの開発者(Gary Bumgardner:46歳、1michael Whitehead:37歳、Thomas Sprink:41歳(plead guilty)、Peter Deforest:30歳、Dennis Megarry:39歳、Robert Walton:37歳、Linh Ly:38歳(plead guilty)、ichard Seamans:52歳、Thomas Emerick:33歳(plead guilty)、Joseph Bolosky:30歳(plead guilty))という3つのカテゴリーに分類される。
起訴の根拠法はDMCA違反(17 U.S.C.§§1201(a)(2) 1204 )、衛星信号盗取のための端末製造犯罪(47 U.S.C. §605(e)(4))および共謀罪(18 U.S.C.371)の3つの連邦法の1つ以上が適用される。これら3つの訴因に基づき、いずれも最高5年の拘禁刑が適用され、また17編と47編の罪については最高50万ドルの罰金、また共謀罪については最高25万ドルの罰金が科される(併科もある)。
(筆者注5) 同法については、連邦著作権庁(U.S. Copyright Office)の「1998年デジタルミレニアム著作権法(Digital Millennium Copyright Act of 1998)の要約を参照されたい。また、米国著作権法に詳しい弁護士の山本隆司「米国におけるデジタル・ミレニアム著作権法その他最近の著作権法改正について」(1999年公表)が良くまとまっている。
(筆者注6) Dish Network L.L.C.(旧社名は“EchoStar Communications”)は米国の大手の衛星放送会社である。なお、DISH Networkおよびその指定販売代理店は2009年3月25日に連邦司法省(DOJ)および連邦取引委員会(FTC)から拒否電話番号リスト「National Do Not Call Registry」に登録された多くの電話番号に対して法に違反し過度な電話セールスを行った。またDISH Networkは,認定ディーラの自動電話セールス行為を支援してテレマーケティング販売規則(TSR:Telemarketing Sales Rule)にも違反したとして提訴されている。被告の販売代理店ディーラは2009年9月22日にFTCと和解が成立したが、DISH Networkはなお裁判を継続中であり、2009年11月4日に裁判所は被告から出されていた「公訴却下の申立(Motion to Dismiss)」および「口頭弁論の申立(Motion for Oral Argument)」を却下した。また、同裁判所は2010年2月4日には被告の「中間上訴の申立(Motion for Interlocutory Appeal )」または代替的な公訴棄却の再考申立を却下している。
(筆者注7) “reverse-engineering DISH smart cards”については、有名な衛星TV スマートカード・ハッカーのクリス・タルノフスキー(Chris Tarnovsky)が常に話題となる。彼は2008年4月、米国の衛星放送会社“News Corp.”に依頼され衛生放送受信機用のスマート・カードの暗号化コードを復号化するソフトウェアを開発したが、その技術を競合相手のDISH Networkのハッキングには利用していないと証言した。この産業スパイ裁判はDISH Networkの前会社である“EchoStar”が“News Corp.’s NDS group”がタルノフスキーを雇い、違法なスマート・カードを開発したことから、別の暗号化技術を取り込んだsmart card等ハッキング対策費用として9,400万ドル(約79億円)を費やしたと賠償請求を主張している民事裁判である。
この裁判で2008年5月15日、カリフォルニア中央地区連邦地裁の陪審は原告が主張する「ランハム法(連邦商標法)(Lanham Act)」(筆者注8)、「デジタル・ミレニアム著作権法」および「犯罪行為の影響下で腐敗した組織に関する法律(Racketteer Influenced and Corrupt Organizations Act:RICO Act)」(この法律の内容は簡単にいうと、1970年に常習的犯罪によって創出された資金が合法的な州際通商組織に流入し、これを支配することを防止する目的で制定されたものである(本間忠良「米国における特許関連違法行為と民事RICO法」より引用)に基づく衛星放送システムに対するセキュリティ違反請求に関しNDSの責任を否定した。
すなわち、原告が主張(allegations)する2000年12月にNDSが従業員に対し、原告の条件付利用アクセス・システム(smart card)をハッキングするよう命じたことについて被告の責任を否定したのである。むしろ、陪審はNDSは基本利用加入者であるにもかかわらずEchoStarのすべての番組にアクセスできるか否かにつきテストを命じたもので、「1984年ケーブル・コミュニケーション政策法(Cable Communications Policy Act of 1984 (CCPA) 」および「カリフォルニア州刑法(California Penal Code)」に違反する行為であると評決したのである。実際、NDSはこのテストを命じたこと自体は否定していない。
同陪審はこの技術的な違反行為がゆえに実損額45.69ドル、制定法上の損害額1,500ドルおよび補償額284.94ドルを裁定した。
このようなことから連邦地方裁判所は、原告“EchoStar”は実質的に見て勝訴したものではないとして弁護士費用に関し、EchoStarに対し弁護士費用1,300万ドル(約10億9,200万円)と裁定しそのうち900万ドルをNDSに渡すよう命じた。
原告および被告とも弁護士費用に関するこの判決を不服として第9巡回区連邦控訴裁判所(事件番号09-5505)に控訴した。
2010年8月6日、第9巡回区連邦控訴裁判所はNDSの責任は技術的な違法行為のみであり、「被告は仮に2000年以降にインターネット上の原告のセキュリティに危害を与えたことに責任があると判断されたら20億ドル近くの損害賠償責任を負う可能性に直面したが、陪審による実際の損害賠償額は2,000ドル以下であり、同様な取り組みは今後行うことを禁止されたのみである」と判断、実質的に訴訟の勝者であるとして下級審判決を取消し、EchoStarに対し弁護士費用として1,800万ドル(約15億1,200万円)の支払いを命じた。(この裁判経緯は“Law 360”の解説記事から引用した)
このような裁判経緯を見ると、米国でのビジネスを円滑に実行するには有能なローファームや企業内弁護士など裁判対策の重要性があらためて実感で出来よう。
(筆者注8)米国の場合、商標法の統治法は古くは州法(コモンロー)によっていたが、1800年代後半以降連邦法の制定により連邦法に適用の優先が移り、1946年制定された「連邦ランハム法」により統一的な適用・解釈が進んだ。また、ランハム法はや州の商標法(U.S.Trademark Law)に基づく保護を否定するものではない。なお、連邦ランハム法の最新改正は1995年である。
(筆者注9)ここでいう第三者とは、有名な衛星TV スマートカード・ハッカーのクリス・タルノフスキー(Chris Tarnovsky)である。彼はYouTubeで約5分間にわたりチップの内容解析の手順が詳しく紹介される。“How to Reverse-Engineer a Satellite TV Smart Card”と題するものである。このビデオは“Wired com”がTarnovskyに取材したとされており、9月13日時点で閲覧者数は493,417人である。編集者は閲覧者に対し「自宅でためすなよ!」といっているが意味が良く分からない。
(筆者注10) EPROMとは、データを一定回数消去し、書き込むことが可能な半導体メモリのことである。EPROMは、チップの製造時にデータの書き込みまでを行うマスクROMや、一度だけ書き込みが可能であり変更ができないPROMと比べて、データを書き換えられる分だけプログラムの修正や仕様変更に柔軟に対処できるという利点を持っている。(IT辞典バイナリより引用)
(筆者注11)今回通過した法案は、既に上院司法委員会により承認されていた「Enforcement of Intellectual Property Rights Act of 2008(S3325)」が、上院本会議で、下院本会議を通過している法案「Prioritizing Resources and Organization for Intellectual Property Act of 2008」(PRO-IP法案(HR4279)2)と全く同じ名称に修正されたもの。
[参照URL]
・FBI: 創造性の窃盗(最近1年間の重要ホワイトカラー犯罪の最新情報)
http://www.fbi.gov/page2/september10/creativity_091010.html
・2010年2月11日公表の企業機密の盗取事件
http://newyork.fbi.gov/dojpressrel/pressrel10/nyfo021110.htm
・「1998年デジタルミレニアム著作権法(Digital Millennium Copyright Act of 1998)」違反裁判
http://sandiego.fbi.gov/dojpressrel/pressrel09/sd102309.htm
・偽造の管継手(pipe couplings)の製造・販売行為の共謀の罪
http://houston.fbi.gov/dojpressrel/pressrel09/ho110509a.htm
・詐欺的な耐空証明を詐欺的に発行した事件
http://miami.fbi.gov/dojpressrel/pressrel10/mm052510.htm
・「包括的な模倣品・海賊版対策法案」
http://www.govtrack.us/congress/bill.xpd?bill=s110-3325
・知的財産執行調整官(Intellectual Property Enforcement Coordinator)の大統領および連邦議会への報告知的財産権保護のためのへの法執行に係る共同戦略計画」
http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/omb/assets/intellectualproperty/intellectualproperty_strategic_plan.pdf
・英国「2010年デジタル経済法案(Digital Economy Bill)c.24」
http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/20100511084737/http://www.opsi.gov.uk/acts/acts2010/ukpga_20100024_en_1
Copyright © 2006-2010 福田平冶. All Rights Reserved.
2010年9月15日水曜日
米国連邦司法会議が法廷での写真撮影や民事裁判ビデオ録画の一般公開パイロット計画を承認
わが国では2009年5月21日から「裁判員制度」が開始され、裁判や捜査等に関する国民やメディアの関心も高まりつつあるが、一方で去る9月10日、大阪地裁で元厚生省局長村木厚子氏に対する無罪判決が下された事件の内容を見るにつけ、わが国でも捜査や裁判の公正・公開性の重要度はますます増加するといえよう。
このような中で、筆者の手元に9月14日付けで米国連邦司法会議(Judicial Conference of the United States)が連邦地方裁判所法廷のカメラ撮影や一定の民事裁判手続きのデジタル・ビデオ録画の一般公開につき限定的ではあるが、今後最長3年間のパイロット計画(筆者注1)の実施につき承認した旨のニュースが届いた。
連邦司法会議については本ブログでも何回か紹介してきたが、タイムリーな話題として簡単に紹介する。
なお、2010年9月現在の司法会議の構成メンバーを参照されたい。
1.パイロット期間
最長3年間とする。
2.計画の評価対象
(1)連邦地方裁判所の法廷のカメラ撮影の効果、裁判手続のビデオ録画およびそれら記録の一般的公開の評価とする。その開発の詳細およびパイロット計画の実施については「同会議:裁判運営および事件管理委員会(Conference’s Committee Administration and Case Management)」により今後決定される。
(2)必要に応じ、本パイロットに参加する裁判所はパイロット試験計画に参加する裁判官に例外を提供するためローカル・ルール(適切な公的通知やコメントの機会の提供)を改正することとなる。
(3)本パイロット計画への参加は公判裁判官(trial judge)の裁量に基づく。
(4)パイロットの下で参加する裁判所は裁判手続を録音するが、その他の団体や個人」による録音は認められない。陪審メンバーの発言録音は認められず、また公判における訴訟当事者のパイロットへの同意が必要である。
2.実施結果の報告
連邦司法センター(federal Judicial Center))(筆者注2)は、本パイロット計画の中心的役割を担い、開始後1年目と2年目の終わりに中間報告を作成する。
3.電子メディアへの報道原則の見直しの経緯
刑事裁判手続の電子メディアへの適用は1946年採択された連邦刑事訴訟規則第53条(筆者注3)の下ならびに1972年連邦司法会議により明白に禁止されている。しかし、1996年に司法会議は控訴裁判所におけるカメラ撮影禁止を撤回し、口頭弁論の放送を認めるか否かは巡回区控訴裁判所の裁量に委ねることとなった。
今まで、第2巡回区控訴裁判所および第9巡回区控訴裁判所が当該報道(coverage)を認めている。
なお、連邦司法会議は1990年代前半に6つの連邦地方裁判所と2つの控訴裁判所で民事訴訟事件において電子メディア報道を認めるパイロットプログラムを実施した。
(筆者注1)「計画要旨(The Plan in Brief) 」の部分を仮訳しておく。
「本計画は、連邦司法部門の中核的価値を保存する一方で、挑戦と機会を利用するという伝統に合致し続けるものである。それは、効果的に使命を果たす司法部の能力に挑戦したりまたは複雑化する司法部門に影響する様々な傾向や問題を考慮に入れたものである。さらに、本計画は、未来が正義を提供するシステムの改良にとって非常に大きな機会を提供するかもしれないと認める。
本計画は、連邦司法制度の(1)アクセスしやすさ、(2)タイムリー性、(3)効率性および(4)米国民の最もすばらしい法的な才能を司法サービスに引き付けるもので、非常に適任な幹部要員と補助スタッフのための選択に関し連邦政府の他の部門と共に力を発揮して、国民の信認や信用を受ける雇い主になると期待する。
本計画は、行動について概説する議題が、司法部の成功を保存して、適切である場合積極的な変化を引き起こす必要がある場合に役立つ。
そこに記された目標と戦略は目下進行中である。また考えられているあらゆる重要な活動、プロジェクト、イニシアティブや研究を含んでいないが、本計画は全体の司法部門に影響する問題に注目に焦点を合わせるもので、かつ司法部門全体と国民の利益となる方法でそれらの問題に対処するものである。
本計画で特定されているのは、司法部門が現在記述しなければならない「7つの基本的な問題」と各問題に関し組合せとなる対応策である。
これらの問題の範囲は(1)司法の提供、(2)裁判データ等の有効で効率的な管理、(3)司法従事者、技術の可能性、司法過程へのアクセス、連邦政府の他の部門との関係の未来、および(4) 連邦裁判所への国民の理解、信頼および信任のレベルを含む。」
(筆者注2) 1967年に設立された連邦司法センター(Federal Judicial Center)は、継続的な教育・研究のための連邦最高裁の機関である。その職務は概して3つの領域に分かれる。すなわち連邦裁判所に関する研究を行うこと、連邦裁判所の管理・運営を向上させる提言を行うこと、司法府職員の教育・訓練プログラムを作ることである。
連邦司法センターの設立以来、裁判官たちは同センターが主催するオリエンテーションその他の教育プログラムを受けるという恩恵を受けてきた。近年は、治安判事、破産裁判所裁判官、管理職員たちも教育プログラムを受けることができるようになった。連邦司法センターは、ビデオや衛星中継技術を広範に活用しており、多数の人々が利用することができるようにしている。アメリカ合衆国日本大使館「Outline of the U.S.Legal System 」から引用。
(筆者注3) Rule 53の原文は次のとおりである。“Courtroom Photographing and Broadcasting Prohibited:Except as otherwise provided by a statute or these rules, the court must not permit the taking of photographs in the courtroom during judicial proceedings or the broadcasting of judicial proceedings from the courtroom.”
[参照URL]
・http://www.uscourts.gov/News/NewsView/10-09-14/Judiciary_Approves_Pilot_Project_for_Cameras_in_District_Courts.aspx
・http://www.uscourts.gov/uscourts/FederalCourts/Publications/StrategicPlanCover2010.pdf
・http://civilwatchdoginjapan.blogspot.com/2009/05/blog-post.html
Copyright © 2006-2010 福田平冶. All Rights Reserved.
2010年9月9日木曜日
米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦規制・監督機関やEU関係機関等の対応(第7回)
8月16日付けの本ブログで原油流失による健康被害について米国医療専門家の問題指摘の一部を紹介した。
8月16日付けの米国医学専門雑誌“Journal of the American Medical Association:JAMA”は「メキシコ湾の原油流質の健康への影響(Health Effects of the Gulf Oil Spill)」と題する例証(commentary)論文を公表した。(筆者注1)
一般的に米国のメディア情報に大部分を依存しているわが国のメディア情報を見る限り、今回取り上げた内容は米国民だけでなくわが国の一般消費者にとっても健康保持に極めて影響が大きい問題が含まれている。
たとえば、わが国で一般的に市販されている防虫剤には「パラジクロルベンゼン」や「香料」が成分であると記載されている。
あらためて、出版時期は1992年2月とやや古いが現在でも十分「合成防虫剤」の危険性を警告している本「暮らしの安全白書」 (学陽書房)を読んでみた。
そこに記載されているナフタリン、ベンゼン等を成分とする防虫剤と同様の化学物質がメキシコ湾の原油分散化剤として極めて大量(7月下旬までに180万ガロン)に使用され、特にルイジアナ州では清掃作業員の4人中3人が頭痛(headaches)、めまい(dizziness)、吐き気(nausea)、嘔吐(vomiting)、呼吸困難(respiratory distress)等を訴え、病院等で治療を受けている。
8月4日付けの本ブログでは、石油分散剤の有毒ガス化の危険性や我々自身が安易な化学物質汚染を引き起こしている日常性の怖さを関係レポートやブログに基づき解説したが、今回のJAMAのレポートを読む限り、わが国の合成防虫剤の使用に伴う一般消費者の健康被害問題も「他山の石」として業界指導や消費者教育を厳格に行わないといけないという意味で本ブログをまとめた。
なお、この一連のブログをまとめる際にコメントしているとおり、筆者は医療・公衆衛生関係者ではない。わが国の専門家による正確な健康リスク分析と消費者への警告レポートを期待したい。
1.著者による本レポートに関する注記
著者ジーナ・ソロモンは自身のブログで、本レポートをまとめた狙いや研究のポイント等につき次のように注記している。
「我々が求めた目標は次の2点である。
(1)メキシコ湾の医療・公衆衛生関係者に対し地域の重要な問題として認識させるための警告を行うこと
(2)石油流出の健康被害に関する既存の科学的例証を要約し歴史から学ぼうと試みること
本レポートはJAMAのウェブサイトにおいて「無料」で閲覧可である(筆者注2)
私と同僚のサラ・ジャンセンはメキシコ湾の地元の情報や関係者の話を数か月間収集し、同時に連邦環境保護庁(EPA)、BP社、商務省全米海洋大気局(NOAA)および他の関係機関の情報が入手可能になり次第データを解析した。また我々は湾で何が起きているかを解明する上で役立つであろう未発表の研究内容の追跡を含む、既存の科学記事を徹底的に検索した。
その結果、原油流出に関する4つの主な健康被害を特定した。
(1)石油の化学物質や分散化剤の空中への蒸発(vapors)
(2)油塊(tar balls)や汚染海水との直接接触による皮膚の損傷
(3)汚染された海産物の消費に伴う発ガンの潜在的危険性と長期的な健康リスク
(4)ストレスに伴う鬱(depression)、精神不安(anxiety)や自己破壊的行動というメンタルヘルス面の被害
1つの朗報は原油流出源である穴がふさがれたため湾内の大気質が改善されとこと、その結果長期の呼吸器への人体への被害がなくなるであろうことであり、我々はこの点をまもなく確認できよう。
海産物の安全性に関する漁業の再開はおそらく我々の最大の関心事である。エビの採取は8月16日に再開されたが、地元の人々はその安全性について知りたがっている。政府機関がそれらのデータをすべて公開していないので、それが安全であるかどうかにつき正直分からない。
すなわち最も重大な懸念材料は妊婦、子供および生計維持のため魚を消費している人々など弱者である。
我々はNOAAおよび連邦保健福祉省・食品医薬品局(FDA)に対し、8月17日にシーフード・リスク・アセスメントの問題点を意図的に修正していないかにつき正式文書を提出するとともに、両機関に対し海産物の安全性に関するすべてのデータの可能な限りの公開を求めるつもりである。
我々がJAMAの論文をまとめるにあたり調査結果から明らかとなったことは、原油流出に先立っての研究がほとんど行われていないという点である。この 分野に関する科学的文献は明らかにお粗末(threadbare)である。
我々は、まさに今それを実行し、いかなる人体への影響に関する正確な文書化を行うため必要な健康調査を行うつもりである。
8月17日午後に連邦国立衛生研究所・国立健康科学研究所(NIEHS)(筆者注3)はメキシコ湾の労働者に関する野心的健康調査結果を発表(筆者注4)する。同研究結果では短期的および長期的な多くの健康問題に関する情報を提供するであろう。そこにはメキシコ湾地域に住む妊婦、子供の研究計画がある。このこれらの調査・研究が行っている内容は極めて重要である。
私は次回の大規模原油流出事故がないことを願うが、もし可能性があるとすれば我々はその準備を行わねばならない。」
2.JAMA レポート「メキシコ湾の重油流出の健康への影響」(仮訳要旨)
メキシコ湾における原油流出は、原油や原油分散化剤(dispersant chemicals)の吸引や皮膚接触にもとづく人間の健康への直接的脅威を引き起こし、また間接的には海産物やメンタルヘルスへの脅威をもたらす。
原油の主な成分は脂肪族化合物(aliphatic hydrocarbons)および芳香族化合物(aromatic hydrocarbons)である。ベンゼン(benzene )、トルエン(toluene)、キシレン等芳香低分子化合物は揮発性有機化合物(volatile organic compounds:VOCs)であり、また原油が表面につくと数時間以内に気化する。
揮発性有機化合物は呼吸炎症や中枢神経系の鬱症状(central nervous system despression)を引き起こす。ベンゼンは人間に白血病(leukemia)を引き起こし、トルエンは高用量にともない催奇形物質[因子](teratogen)になると理解されている。ナフタリン等高分子化合物はより緩やかに気化する。
ナフタリンは動物実験によるに嗅神経芽細胞腫(olfactory neuroblastoma )、鼻腫瘍(nasal tumors)、肺癌(lung cancers)発生に基づき「米国毒性プログラム(National Toxicology Program:NTP)」(筆者注5)により合理的に予期される人間にとっての発がん物質リストに上げられる。また、原油は食物連鎖を汚染する不揮発性の多環式芳香族炭化水素(nonvolatile polycyclic aromatic hydrocarbons:PAHs)と同様に硫化水素ガス(hydrogen sulfide gas)や重金属の痕跡を含むとされている。
この硫化水素ガスは、神経毒性がありかつ急性および慢性の中枢神経疾患に結び付けられている。
一方、PAHsは当然変異誘発要因(mutagens and probable carcinogens)を含む。燃料油は心臓や呼吸器疾患や若死(premature mortality)につながる粒状物質を発生させる。
今回のメキシコ湾の原油流出は油膜を破壊するため石油分散剤を大量に使用しており、7下旬までに180万ガロン以上の分散剤が使用された。この分散剤は“2-butoxyethanol”、ポリプロピレン・グリコール(propylene glycol)やするフォン酸性塩等呼吸器刺激物質を含む洗浄剤、表面活性剤(surfactants)や石油蒸留物を含む。
(原油や石油分散剤による重大な健康被害)
メキシコ湾での原油流質が始まった早期の数か月にルイジアナ州では300人以上の個人(4分の3は清掃作業員)が頭痛、めまい。吐き気、嘔吐、咳、呼吸困難や胸痛等体質に起因する疾患による治療を求めた。これらの兆候は炭化水素や硫化水素による急性障害の典型であるが他の一般的疾患による中毒症状と臨床的に区別することは難しい。
連邦環境保護庁(EPA)は、VOCs、粒子状物質、硫化水素およびナフタリンがないか否かを検査するため大気汚染測定網にセットした。
連邦保健福祉省・疾病対策センター(CDC)とEPAのデータ分析結果は次のとおりであった。
「これまで報告された汚染物質の一部のレベルは一時的に目、鼻、のどの炎症や吐き気や頭痛を引き起こすかもしれないが、長期的な害を引き起こすレベルではない。」BP社のウェブサイトで載せられているデータによると沖合いの作業員の大気汚染の影響が陸地での作業員に比べ高いことを示している。
石油や分散剤の皮膚接触は脱脂、皮膚炎や二次皮膚感染を引き起こす。ある人は皮膚過敏症反応(dermal hypersensitivity eaction)、紅斑(erythema)、浮腫(edema)または灼熱感(burning sensations)や甲状腺皮膚炎(follicular rash)
が見られた。いくつかの炭化水素は光毒性(phototoxic)皮膚炎を引き起こす。
(長期的に見た健康リスク)
短期的に見て各種の炭化水素が魚介類を汚染するであろう。脊椎動物の海中生物はみずからPAHsの浄化機能を持つが、無脊椎動物の場合これらの化学物質は永年体内に蓄積される。メキシコ湾は米国の牡蠣生産の約3分の2を提供しており、またエビやカニの主要漁場である。微量のカドニウム、水銀は原油から生じ、魚肉組織に蓄積され、マグロやサバという大量消費による将来の健康被害への影響を増加させる。
(歴史的に見た原油流出による健康への影響)
1989年のエクソン・バルディーズ号原油流出事故の後、合計1811人の清掃作業員から労働災害補償金請求が行われた。その大部分は急性損傷によるものであったが15%は呼吸器系疾患、2%は皮膚炎(dermatitis)であった。この原油流出事故にかかる長期的健康被害に関しては論文審査を経た(peer-reviewed)学術専門紙で利用可能である。清掃作業後14年の健康状態に関する調査では、高度の原油を被曝した労働者において自己報告による神経学的傷害(neurological impairment)や多発性化学物質過便敏症(multiple chemical sensitivity) と同様、慢性気道疾患(chronic airway disease)の症状との著しい関連性が見られた。
原油流出後数週間から数か月の間に実施された症状調査(symptom surveys)では、頭痛、のどの炎症、目のいたみやかゆみ(sore or itchy eyes)が報告された。
また、いくつかの研究では下痢(diarrhea)、吐き気(nausea)、嘔吐(vomiting)、腹痛(abdominal pain)、湿疹(rash)、ゼーゼーといった喘鳴(wheezing)、咳や胸の痛みの緩やかな増加率が見られた。
ある研究では、清掃作業員4271人を含む漁夫6780人では清掃作業後2年経過において下気道疾患(lower respiratory tract symptoms)の流行が見られた。
この下気道疾患のリスクは原油被曝強度により増加している。
2002年スペイン沖の「プレステージ号」沈没事故の清掃作業にかかわった作業員858人の研究ではボランテアや作業員につき重大な遺伝子毒性(acute genetic toxicity)について調査が行われた。
「コメット・アッセイ法」(筆者注6)による検査ではとりわけ海岸で作業を行ったボランティアにおいてDNAの損傷が見られた。同様の検査では作業員においてCD4陽性細胞(リンパ球の一種で、細菌やウイルスといった病原体から身を守る「免疫」という働きをする細胞)、インターロイキン-2(IL-2)、インターロイキン-4(IL-4)、(筆者注7)、インターロイキン-10およびインターフェロン(IFN)の低下が見られた。
アラスカ、スペイン、韓国およびウェールズで起きた主要な原油流出事故の研究記録では、地元住民等の精神不安(anxiety)、鬱や精神不安の比率を上げた。エクソン・バルディーズ重油流出の1年後の調査で599人の被曝地元住民に対するメンタル・ヘルス調査では 平均指標に比べ不安障害にかかりそうな人の割合は3.6倍、心的外傷性ストレス障害にかかりそうな人が2.9倍、鬱にかかりそうな人が2.1倍という高い割合であった。また、メンタヘルヘルス副作用(adverse mental health effects)が重油流出の最大6年後までの間に観測された。
(患者へのアプローチ)
臨床医は原油と関連する化学物質の被曝による毒性を知っておくべきである。 本質的な兆候を示す患者には、住居の職業上の被曝と住居地に関して質問すべきである。 身体検査は皮膚、気道および神経系システムに焦点を合わせるべきである。油の関連の化学物質に関連づけることができるいかなる兆候も記録すべきである。ケアは、まず「兆候」と「症状」を記録し、兆候以外の他の潜在的原因や被曝から削除し、および対症療法を除外することから始める必要がある。
洗浄期間のメキシコ湾の原油と関連する化学物質からの病気の予防策は、労働者のための適切な保護具と地域住民に対する常識的な注意を含む。 労働者は潜在的に危険なレベルの気化蒸気、エアゾール、または粒子状物質が存在するとの前提で、ブーツ、手袋、作業着、保護メガネおよび呼吸装置を含む適切な訓練と設備を必要とする。また、作業労働者は、発熱に関連する病気(休憩休息と十分な水分を補給する)を避けるために予防策を講ずるべきである。 すべての労働者の負傷や病気については適切な経過追跡を確実に報告されるべきである。
地域住民は立ち入り禁止区域や原油に関する証拠があるところでの釣りをするべきでない。 油のにおいがある魚や貝は捨てるべきである。 汚染水、原油またはタールの塊との直接的な皮膚への接触は避けるべきである。 地域住民が原油や化学物質の強いにおいに気付いて健康への影響に関して心配するときは、エアコン付きの環境で難を避けるべきである。 地元住民におけるメンタル・ヘルスを記述する治療介入は臨床および公衆衛生機関の対応の尽力に組み入れられるべきである。より長い期間にわたる湾の清掃作業者と地元住人の「コホート研究」(筆者注8)は、原油流出時の健康後遺症に関する科学的データの精度を大いに高めるであろう。
3.米国国立保健研究所(NIH)・国立環境科学研究所(National Institute of Environmental Health Sciences:NIEHS)の原油流失問題への取り組み
NIEHSは「メキシコ湾の原油流出対応の尽力」と題する専用ウェブサイトを設けている。
主な取り組みの内容を紹介する。
(1)NIEHSは連邦議会、NIEHS諮問委員会(NIEHS Advisory Committees)、公益代表委員、連邦保健福祉省(HHS)、連邦国立衛生研究所(NIH)やその他の利害関係者に証言や情報提供を行っている。
その主な内容は広く国民は広く知ることが出来る。
・連邦議会での証言(testmonies)
・洗浄作業員の安全教育プログラム(WETP)内容を広く公開
・原油流出対応に関するWETPの内容をNIEHS国立諮問環境健康科学委員会(National Advisory Environmental Health Sciences Council)の洗浄活動にあわせ更新。
(2)全米科学アカデミーのNPO機関である「医学研究所(Institute of medicine:IOM)との協同研究
・2010年6月22日~23日に行われたIOM主催の公開会議に積極的に参加。
(3)健康への影響の研究と分析
・6月15日、NIHのフランシス・コリンズ博士は支援研究開発費として1,000万ドル(約8億3000万ドル)の拠出を発表した。
・8月19日、NIHはHHSが描く洗浄労働者の長期的健康保全のための研究を含むディープウォーター・ホライズン災害の潜在的健康への影響のより完全な理解のため連邦関係機関との連携的な省庁会合を開催した。
・NTP(National Toxicology Program)は、メキシコ湾で重要な危険物質の関連情報を特定するため既存の資料や文献の編纂や見直しを行っている。
(4)メキシコ湾の作業員の健康研究の重要ポイント
この研究は、呼吸器系、神経行動学(neurobehavioral)、発がん性(carcinogenic)、
および免疫(immunological)状態等の原油や分散化剤の被曝など健康への影響結に焦点を当てたものである。また、同研究ではメンタルヘルスや失業、家族分裂(family disruption)、家計の不確実性など原油流出にかかるストレス要因を査定する。
以下、省略する。
(筆者注1) JAMAの解説記事の筆者は、医学学士(MD)・公衆衛生学修士(MPH)のジーナ・M・ソロモン(Gina M.Solomon)。補足すると、Gina Solomon, MD, MPH, senior author, director of (カリフォルニア・サンフランシスコ大学医学部)UCSF's Occupational and Environmental Medicine Residency and Fellowship Program and senior scientist with the Natural Resources Defense Council (NRDC)(環境保護団体NGO:天然資源保護協議会) in San Francisco.
共著者は、医学博士(PhD)・公衆衛生学修士のサラ・ジャンセン(Sarah Janssen)である。
なお、本レポートはJAMAの有料会員等一定の条件つきでないと全文は読めない。他関係サイトで引用されている原文をもとに要約文をまとめた。
(筆者注2)ブログからJAMAサイトにリンクできるが、全文を読むためには同協会の会員資格を得るなどしなければならない。
(筆者注3) 国立医薬品食品衛生研究所安全情報部サイトでは米国NIEHS等「国際的化学物質評価文書類の翻訳やGHS健康有害性に関連する資料など、化学物質安全性情報を提供します。」と宣言しているが、今回のブログのようなまさに国民の健康に影響がある問題に関するレポートについての翻訳作業の記録はない。
(筆者注4)本文でも紹介したとおりNIEHSは「メキシコ湾の原油流出への取り組み」と言う専用ウェブサイトでその住民やボランティアを含む作業員等の健康保護問題につき連邦議会での証言や連邦関係機関との協調検討を行っている。ソロモン博士が指摘した8月17日に開催されたNIEHSのオンライン会議(Webinar)の内容は音声と文書で誰もが利用できる。
(筆者注5)“NTP”は 米国連邦保健福祉省(DHHS)により1978 年に設置された事業。慢性毒性を中心に、米国の国立環境健康科学研究所(NIEHS)等を中心として各省庁が連携して実施する毒性試験の計画、試験計画、物質選択、試験結果を含めて公表されている。評価対象化学物質の選択と発がん性の分類を行う機関である。(日本の環境省の用語解説等から引用)
(筆者注6) 「コメットアッセイは真核細胞におけるDNA の一本鎖或は二本鎖の切断量を測る上で感度がよく、定量性があり、のうえ簡便、迅速、安価な方法である。今やこの方法は、産業化学物質や環境汚染物質の遺伝毒性評価、ヒト集団における遺伝毒性影響のバイオモニタリング、分子疫学研究、さらにはDNA 損傷と修復の基礎研究などの領域で広く応用されている」
翁 祖 銓、 小 川 康 恭「コメットアッセイ: 遺伝毒性を検出するための強力な解析法」「労働安全衛生研究」, Vol. 3, No.1, pp.79-82, (2010)から抜粋。
(筆者注7) 「 サイトカインとは、免疫細胞(マクロファージやヘルパーT細胞など)から分泌される活性物質で、おもに2つの役割があります。
1.免疫細胞間の情報伝達をして互いの活性化を促し、戦闘能力を高める。
2.細菌、ウイルスや癌細胞を直接、攻撃する。
主なサイトカインは、5種類あります。IL-1、IL-2、IL-12、TNF、IFN(インターフェロン)です。」(「がんと免疫漢方薬で健康家族」免疫力を高め元気になりましょう」から一部抜粋)
分かりやすい解説なのであえて引用した。
(筆者注8)コホート研究(cohort study)とは、ある特定集団(コホート)を長期間にわたって追跡調査する研究手法。一定集団内の人々を対象に、長期間にわたり、健康状態と生活習慣や環境の状態など様々な要因(喫煙、運動、食生活など)との関係を追跡調査する研究。異なる点や、その違いでその後の経過がどうなっていくかを見ていく方法を特に前向きコホート研究といい、過去の記録を用いてコホート内の人々を調査する方法を後ろ向きコホートという。(国立環境研究所環境リスクセンター発刊の用語集から引用)
[参照URL]
・JAMA論文
http://jama.ama-assn.org/cgi/content/extract/304/10/1118
・著者ジーナ・ソロモン自身の注記ブログ
http://switchboard.nrdc.org/blogs/gsolomon/health_effects_of_the_gulf_oil.html
・NIEHSの原油流失問題への取り組み専門ウェブサイト
http://www.niehs.nih.gov/about/od/programs/gulfspill.cfm
Copyright © 2006-2010 福田平冶. All Rights Reserved.
登録:
投稿 (Atom)