2010年9月21日火曜日
米国FBIが米国の重要な最新ホワイトカラー犯罪動向を公表(第1回)
9月10日付けで、米国連邦捜査局(FBI)がこの1年以内に扱ったいわゆる(1)重要ホワイトカラー犯罪の内容、(2)米国の関係法執行機関が取組んでいる内容について要約したレポートを発表した。
このレポートは「創造性の盗取その-阻止に向けた協力体制-(the theft of creativity)」と題するもので、3つの重要事件を中心にFBIや関係捜査機関の取組み状況を解説しており、いずれもデザイン、創案(inventions)、登録商標情報(proprietary business information)、文学、音楽や映画等一般的に「頭で考えた創造力(creation of the mind)」といわれる知的財産の盗取犯罪を取り上げている。
これらの犯罪は、当該資産の正規の所有権者(rightful owners)や米国の消費者ならびに国民から仕事を奪ったり税収を減じさせ、ひいては米国経済に重大な被害を引き起こさせる重大犯罪行為にあたるとFBIは論じている。
わが国でも米国における同様の犯罪行為について論じたものは少なくないが(筆者注1)、今回のFBIレポートはより具体性があり、また衛星通信やケーブル・テレビ信号盗取(television signal /cable theft)犯罪についても言及するなど、わが国の関係機関としても参考になる点が多いと考えまとめた。
また、9月10日付けのFBIのリリースが引用している過去にFBI等が取上げ事件の裁判経緯の詳細についても米国内の情報に基づき補足した。
なお、わが国では完全地上デジタル放送の実施が2011年7月24日に実施されることに伴いデータの暗号化や復号化技術の信頼性等に関する議論は、必ずしも関係機関により十分に整理されているとは言い難いと思う。
[はじめに]
FBIは多くの協力機関とリーダー的役割を演じている。FBIは現在約400の事件と取組んでいるが、その多くは世界的なつながりにおいて機能している。
1.FBIの取組み分野と起訴事例
知的財産犯罪は多くの分野を包含する。すなわち、著作権侵害、商標権侵害、模造品(counterfeit good)、衛星通信やケーブル・テレビ信号盗取(television signal /cable theft)である。
FBIにとってこの分野の最優先課題は2つに分類できる。第一に企業機密(trade secrets)であり、これは企業の経営の基本線(bottom line)問題であるだけでなく世界における米国の競争力に影響する問題である。
2010財政年度に関していうと、FBIは35件の健康・安全性侵害に関する捜査を、また企業機密の関し56件の捜査内容を公開した。両分野での捜査は次のとおり成功裡に終わっている。
(1)企業機密の盗取事件
①ニューヨーク市の在住のプログラマーが機密性のあるコンピュータ・コードを元雇主から盗取のうえ、新しい仕事に持ち込んだ。2010年2月11日に司法省が起訴時に公表した事案の概要は次のとおりである。
「2007年5月から2009年6月の間、被告セルゲイ・アレイニコフ(Sergey Aleynikov:40歳)が元雇主であったゴールドマン・サックス(GS)において同社の各種商品や株式取引で高頻度取引(high frequency trading:HFT)(筆者注2)の開発に責任を持つ者として雇われていた。GSは1999年に前所有者であるハル商社から同プログラムを5億ドルで購入、その後同システムを修正するとともに維持していたが、同システムのコンピュータ・プログラムに機密性保護のため同社のコンピュータ・ネットワークへのアクセス制限および高頻度取引プログラムへの内部アクセスを制限するためのファイアーウォール等を含む重要な施策を実施した。
GSにおける高頻度取引は、年間数百万ドルを生み出す重要なものであり、同社はシステムのソースコードを保護するため従業員に対し機密保保護協定の締結を求めるなどいくつかの施策を実施している。
2009年4月、アレイニコフはGSを退社後、イリノイ州シカゴに新たに創設されたテザ・テクノロジー社(TEZA Technologies LLC:Teza)に採用された。アレイニコフはTezaの自社の高頻度取引専用プラットホームの開発要員として採用された(アレイニコフのGSの最終勤務日は2009年6月5日であった)。
その最終勤務日5日の午後5時20分頃、アレイニコフはGSの機密コンピュータ・コードの大部分をドイツにある外部サーバーに移送した(当然ことながらGSには通知せずに暗号化したうえで移送した)。
アレイニコフは移送後、ファイルの暗号化を行ったプログラムを削除するとともに自身のコンピュータに最新実行履歴を記録するコマンド履歴「bash history」を削除した。
さらにアレイニコフはGSの雇用期間中に同社の認知や承認なしに同社のコンピュータから自宅のコンピュータに数千にのぼるGSの機密トレード・プログラムを転送した。アレイニコフはこの作業につきGSの電子メール・アカウントを自宅のコンピュータの電子メールア・カウントに宛ててコード・ファイルを転送し、自宅のPCだけでなくラップトップ、USBやその他データ記憶媒体にコード・ファイルのバージョンを保存した。(筆者注3)
2009年7月2日、アレイニコフはTezaの事務所の打合せに出席するためシカゴにフライトしたが、その際GSの機密コードが保存されたラップトップやその他の記憶装置を持ち込んだ。その翌日3日にアレイニコフはニューヨーク空港に着いた時に逮捕された。
アレイニコフに対する起訴状によると、「企業機密盗取」が第1訴因、「窃盗物の国外移送・外国貿易違反行為」に基づく第2訴因、「無権限コンピュータアクセスおよび権限を越えた違法アクセス」に基づく第3訴因である。
これらの責任につき仮に有罪となるとアレイニコフは最高25年の拘禁刑を受ける。
②3人の被告「1998年デジタルミレニアム著作権法(Digital Millennium Copyright Act of 1998)」違反裁判(筆者注4)で有罪答弁
カリフォルニア州やフロリダ州在住の被告3人は、2009年7月9日、サンディエゴ連邦大陪審(federal grand jury)に手渡された1訴因の起訴状(デジタル・ミレニアム著作権法(Digital Mirenium Copyright Act of 1998)(筆者注5)違反の共謀罪)が提出されていた。(最高求刑は5年の拘禁刑および罰金25万ドルであった)
有罪答弁(Plead Guilty)に関して被告ヨン・カク(Jung Kwak :33歳:カリフォルニア州)、フィリップ・アリソン(Phillip Allison:35歳:フロリダ州)、ロバート・ウォード(Robert Ward:54歳・フロリダ州)の3人は2009年10月23日に起訴に対する有罪答弁を行った。
この有罪答弁において、被告は2008年3月頃からDish Network の暗号化スキームである“Nagra3” (筆者注6)を無効化するためコンピュータ・ハッカーを雇う計画を決定したことを認めた。起訴状および被告の有罪答弁によると、被告カクは自身がカリフォルニア州で“Viewtech Inc.”を所有・経営していたことを認めた。
“Viewtech”は無料衛星放送またはFTA衛星放送の受信ボックス(チューナー)を輸入し、ブランド名“Viewsat”で小売店ネットワークなどを通じ一般利用者に販売した。
起訴状によるとFTA受信機ボックス(チューナー)の所有者にとって多くは民族や宗教的な番組プログラムについては無料利用プログラム数は限定される。しかしながら、被告はViewsat受信機数百万台を一般に販売した。
FTA受信機ボックスの広い人気は、たとえば無料の“Echo Star’s Dish Network”等加入に基づき簡単な手続で衛星放送の受信が出来るといった設計が支持されたことにある。Dishは著作権で保護された所有者から版権を買い取り、その信号を暗号化してDishの加入者にその閲覧権を販売するのである。そのためDISH Networkプログラムの加入者はDishからDish衛星受信ボックス(チューナー)に挿入する「スマート・カード」を入手する。このスマート・カードは加入者のみが認められる番組プログラムを復号化する。
この数年間、Dishは暗号化アルゴリズムを変えたり、信号の盗取を破るためその他の対策をとってきた。
違法にDISH信号を解読・復号化するためにはFTAボックス(チューナー)は「Dishスマートカード」をもっているように見えなくてはならない。
その作業は“reverse-engineering Dish smart cards”(筆者注7) (筆者注8)とコンピュータ・コードの作成により行われるもので、同カードを適切なチューナーに挿入するとスマート・カードの存在を証明しあわせて配信会社のシステムを騙すことになる。
過去にDishの暗号化や安全対策が破られたとき、その違法コードはインターネット上で公開され、誰でもがダウンロードが可能となった。
2007年秋にDishは新しい信号の暗号化スキームを作成し、新しいスマート・カードを顧客に送付し始めた。新しい暗号化スキームが配備されるとFTAボックスの所有者はもはや正式加入なしにはDishの配信番組を見ることは出来なくなるり同ボックスの販売業者は市場を失う。
被告カクはアリソンとウォードがNagra3の解読できる人物たちの居場所を見つけることを認めた。カクはそのための資金の拠出と成功報酬の支払に合意した。彼らはこのスキームに参加する第三者(筆者注9)の勧誘したことを認めた。
アリソンはその第三者がスマート・カードのデータの解剖用で解析に使用する専門的な顕微鏡の購入を認め、カクにより返金された。
カクはNagr3 Cardと証するスマート・カードの解剖写真の費用として2万ドルの現金を支払った。またカクは、もしNagra3のEPROM(erasable programmable read-only memory)(筆者注10)が入手出来たなら25万ドル(約2,100万円)の報酬を支払うことも認めた。
被告3人は連邦補助裁判官(United States magistrate judge)アンソニー・J.バタグリア(Anthony J.Battaglia)に対し上記有罪答弁を申し出たが、 2010年1月22日午前9時、連邦地方裁判所判事ジャニス・L・サンマルチノ(Janis L.Sammaritino)により最終受理された。
なお、本件はサンディエゴのFBIサイバー犯罪捜査班(cyber squad)の捜査官により捜査が行われた。
(2)健康や安全性に関する違法行為裁判
①テキサス州南部地区連邦検事は2009年11月5日、次のとおりリリースした。
ヘイデンB.グリーン(32歳、オクラホマ州タルサ住)、ジェームズ・ロバート・ロイ(42歳、テキサス州トンボール住)は、2009年11月5日、偽造の管継手(pipe couplings)の製造・販売行為の共謀の罪で前者については30か月拘禁刑、後者については15か月の拘禁刑がそれぞれ宣告された。
グリーンとロイは、拘禁刑後の3年間監視下の釈放(supervised release)におかれ、また個別または共同被告とともに返還金として10,091ドルの支払いが命じられ、共同または個別に刑が宣告された。 グリーンとロイは、2009年8月12日に、ヒューストン連邦地方裁判所キースP.エリソン判事の前で第1訴因である共謀容疑である偽造品の搬送と詐欺を行ったことにつき有罪答弁を行った。
その検事と被告間の有罪答弁合意書では、グリーンとロイは彼らと共同被告人が油用の継手につきライセンスまたは認可なしで米石油協会(American Petroleum Institute:API)によって所有・登録された認証マークを印字して製造・販売する手口の共謀を認めた。
API認証プログラムは、損傷や不良、危険な製品から壊滅的な損失に関し保証するために設計された品質管理プログラムである。APIの保証組合せ文字(モノグラム)は、石油や天然ガスの特定のAPIの標準仕様に合致、特定されかつ推奨実践要件を満たすものの調査や製造に使用される製品や設備のみ保証する。APIの基準を満たしていない継手は限られたサービス・アプリケーション用のAPI認定製品に比べて大幅に低価格で売られている。APIによってライセンスを受けたメーカーのみが厳格な品質管理基準を満たし、またAPIの継続的なモニタリングの対象とされ、API認証マークを含む製品の製造・販売が認定される。
有罪答弁合意書によると、グリーンおよびロイは彼らとその共同被告人でライセンスなしにAPIの認証マークを含む継手の製造・販売を行い、不良材料を使っての多くを製造し利益を得て結果的に顧客から利益を得た。
グリーンとロイの答弁は、本起訴に基づく第2番目と3番目の答弁の背景となった。すなわち、2009年6月24日、共同被告ロナルド・アダムズは本犯罪手口の役割に応じ、8か月の拘禁刑とその後に続く3年間監視下の釈放におかれる刑が言い渡された。
これまでがリリースの内容である。読者はこの内容だけで「ホワイトカラー犯罪」といえるのか疑問がわこう。筆者は裁判検索サイト”justia”で地区連邦裁判所や事件のカテゴリーなどに基づき想定しながら検索してみたが、ついに起訴状等は見出し得なかった。
②詐欺的な耐空証明を詐欺的に発行したFAA点検証明工場の経営者に有罪判決
被告はマイアミ住のウィリー・マッケイン(Willie MacCain 52歳)であるが、フロリダ南部地区連邦地方裁判所は2010年5月24日、航空機部品を含む詐欺取締法である合衆国法律集第18編 セクション第38(§38. Fraud involving aircraft or space vehicle parts in interstate or foreign commerce)違反を理由として 4つの訴因に関し有罪判決を下した。
特に、裁判官(ダニエル・T.K.ハーリー:Daniel T.K.Hurley)は、1年と1日の拘禁刑およびその後に続く3年間監視下の釈放を判示した。さらに、同裁判官は合衆国空軍(United States Air Force)に対し21,750ドル(約1,827,000円)の返還を命じた。
実はこの詐欺事件は民間や空軍の航空機部品の偽ものの販売行為事件であり、共謀罪に問われたのはマッケイン以外には、マリエラ・ビアンチ(Mariella Bianchi,51歳)、ジュアン・ベルトラン(Juan Beltran,28歳)、ジュリオ・ゼレーヌ(Julio Zerene,49歳)、ジョン・ファルコ(John Falco,56歳)、ジョルジ・カスカンテ(Jorge Cascante,54歳)の5人であった。
ジュリオ・ゼレーヌとファルコは、2009年10月2日および2010年2月9日に別々に37か月の拘禁刑の有罪判決が下りた。2010年4月12日、ビアンチとベルトランは起訴状にある「合衆国法律集第18編セクション第38(a)」違反に基づく航空機部品の詐欺的販売の共謀につき「有罪答弁」を行い、判決は2010年7月7日に下される予定であったが、筆者は最終判決の確認は出来なかった(4月12日の同裁判所のリリースでは、被告は最長10年の拘禁刑を受けるとコメントされている)。
これらの有罪の根拠は2年間にわたる「翼巾検査強化(Operation Wingspan)」の原因を作ったというもので、それまでの“Operation Wingspan”の損失は500万ドル(約4億2,000万円)と見積られている。さらに同Operationは15万ドル以上の差押を招き、また連邦航空局(FAA)による少なくとも2社の航空部品補修免許取消を生じさせた。
被告ビアンチは、マイアミの民間航空機部品供給会社「エアーボーン・グループ」の所有者で、ベルトランは同グループの軍事販売担当部長であった。ビアンチとベルトランはKC-135 やE-3 等軍用機の各種部品の合衆国空軍への売込みや契約を得ていた。
ひとたび部品の販売契約を取ると、被告ビアンチとベルトランは認可を受けていない製造業者(ゼレーヌ・エアロスペースの所有者のJulio Zerene」)とコンタクトを取り、新たな供給部品またはボーイング社やその他認可された供給会社によって製造が特定される部品製造につき交渉を行った。一度このように違法に部品が製造されると被告の2人は偽造した適性合致証明を濫用した。
2.FBIの官民部門のホワイトカラー犯罪に関する共同パートナーとの緊密な捜査体制
FBI等は次のような取り組みを行っている。
①連邦政府は2010年6月、連邦省庁間協調および国際的な法執行の強化のため「2010年知的財産権保護のためのへの法執行に係る共同戦略計画」を立ち上げた。
FBIの解説の前に筆者が独自に調べた範囲で同計画の法的背景につき補足説明しておく。なお、この部分は2008年9月29日付けJETRO「包括的模倣品対策強化法案(PRO-IP法案)、議会を通過し大統領の署名待ちへ」および国立国会図書館「カレントアウェアネス・ポータル」から関係部分を抜粋し、一部加筆した
・同共同計画の根拠法は「包括的な模倣品・海賊版対策法案(Prioritizing Resources and Organization for Intellectual Property Act of 2008(PRO-IP法案(H.R.4279)」(筆者注11)である。同法案につき連邦議会上下両院は、2008年9月26日(上院)、同28日(下院)と、相次いでPRO-IP法案を承認した。通過法案は大統領府に送られ、10月13日、大統領の署名が署名して成立した。
・著作権侵害に対する非親告罪化や損害賠償額、罰金額の増額、知的財産権の強化に向けた新たな役職(IPEC)の設置などが中心である。なお、非親告罪化規定については最終的に削除された。
・同法第4章では大統領府への知的財産執行調整官(IPEC)の設置が定められこれについては連邦司法省や商務省が反対するなどもあったが最終的に残され、ほぼ原案通りに成立した。本法案の上院下院通過後、ただちに米国商工会議所(ACC)、全米製造業者協会(NAM)、全米レコード協会(RIAA)、全米映画協会(MPAA)、コピーライトアライアンス等が相次いで歓迎の意を表している。
・知的財産のエンフォースメント強化のための知的財産執行調整官(IPEC)の設置と共同戦略プラン策定として、大統領府に知的財産執行調整官(Intellectual Property Enforcement Coordinator)ポストを新設。同調整官は大統領により任命される(上院の助言と承認が必要)。(法案301条)
・法案施行後12月以内およびその後3年毎に模倣品・海賊版対策の共同戦略プラン(Joint Strategic Plan)を策定。毎年年末までに委員会の年次活動報告書を作成し議会へ提出する。(法案303、304条)
②2010年6月、ホワイトハウスは“2010 JOINT STRATEGIC PLAN ON INTELLECTUAL PROPERTY ENFORCEMENT”を発表した。この文書はPRO-IP法に基づき知的財産執行調整官(IPEC)ヴィクトリア A.エスピネル(Victoria A. Espinel)がオバマ大統領および連邦議会に宛てて提出したものである。
同報告書(全65頁)は米国の知的財産権の新たな戦略的考えを明確に打ち出しており、その導入部分を参考までに紹介する。
「私は『2010年知的財産権に係る法執行共同戦略計画』を報告できる大統領および連邦議会にお伝えることをうれしく思う。
知的財産に関する法律と権利は、革新的で創造的な製品の交換と言う意味で消費者と製作者、また彼らの開発に投資する投資家に確実性と予見性を提供する。
適切にこれらの権利を実施するために資質、能力または政治的意思が不十分な場合は、投資家と生産者と消費者の間の権利の交換は効率が悪く、不正であるか時には危険でさえあるかもしれない。
我々の起業家精神、創造性および創意工夫は世界経済におけるアメリカへの明らかに比較優位な部分である。 そういう意味でアメリカ人はデジタル・コンテンツを含む創造的で革新的なサービスと製品の生産の世界的なリーダーである。その多くが知的所有権の保護に依存している。 世界経済を導いて、成功し、繁栄し続けるために我々はアメリカの知的所有権において強い法執行を確実にしなければならない。
「包括的模倣品対策強化法案(Prioritizing Resources and Organization for Intellectual Property Act:PRO-IP Act)」の執行に関し、偽ものと権利侵害に対して共同戦略計画(Joint Strategic Plan)の開発を調整するよう知的財産執行調整官(Intellectual Property Enforcement Coordinator:IPEC)に命じる。 この共同戦略計画を準備するために、我々事務局は多数の連邦政府の機関や省と緊密に働くとともに広く国民からの重要な情報入力を行う。
我々は、アメリカ人の広い層から意見を聞き、特定のあるいは創造的な提案1,600以上のパブリックコメントを受けた。 農務省( (USDA)、 商務省(DOC)、健康保健福祉省(HHS)、国土安全保障省(DHS)、司法省(DOJ)、国務省(DOS)、米通商代表部(USTR)、および著作権庁を含む連邦機関がこの共同戦略計画の開発に参加した。
この過程で、我々は連邦政府がアメリカの知的所有権の保護を機能アップするために取るべき次の行動内容を特定した。
1. 我々は、連邦政府が権利侵害製品を購入せず、使用もしないことを保証するために自ら実例を示してリードする。
2. 我々は法執行政策(内外での法執行活動について共有しかつ情報を報告し合う)の策定における透明性を支持する。
3. 我々は、協調の内容を改善し、その結果として連邦政府、州、ならびに地方レベルにおける法施行努力の効率性、海外に配置された人員および米国政府の国際的なトレーニングの努力の効率と効果を増加させる。
4. 我々は、世界経済におけるアメリカの知的所有権をよりよく保護するために我々の貿易相手国と国際機関とともに働くつもりである。
5. 我々は、私たちの境界における協力の強化を通した権利侵害製品の流れを食い止めるため、民間部門との協調を踏まえ、サプライ・チェーンを保証する。
6. 我々は、知的財産関連の活動からデータと情報収集を改善するともに、継続的に米国内外の法執行活動を調査し、またアメリカ人の知的財産権利者のためにオープンで、公正かつバランスのとれた環境を維持するつもりである。
③全米知的財産権協調センター(Ntional Intellectual Property Rights(IPR) Coordination Center)は、国土安全保障省連邦移民関税取締局(U.S. Immigration and Customs Enforcement :ICE)および同省税関国境警備局(U.S.Customers and Border Protection)を含む連邦機関とともに捜査や違反取締り責任を負う。
④2010年月に設置された連邦司法省知的財産権特別調査班(Department of Justice’s Task Force on Intellectual Property Crime)は州や地方の法執行機関ならびにFBIの世界の関係機関と緊密な連携をとり知的財産犯罪と戦っている。
3.米国以外の海外の電子出版、放送等オンライン著作権保護強化の動き
海外の電子出版等著作権保護強化の動きは急速に進んでおり、例えば英国の例で見ると、政府のデジタル化政策「デジタル・ブリテン」を法的に支える「2010年デジタル経済法案(Digital Economy Bill)c.24」が議会を通過し、2010年4月8日に国王の裁可を受け成立した。
同法のコンテンツやメインの政策内容については、ビジネス・イノベーション・職業技能省(BIS)に専門ウェブサイト“digital Britain”で詳しく解説されているので参照されたい。
なお、わが国における同法に関する解説は意外と少ない。機会を見て解説文を作成したい。
(筆者注1) 米国のホワイトカラー犯罪に関する論文でウェブ上で読めるものとしては、例えば元日本大学大学院法務研究科教授・有限会社ストラテジスト・代表取締役の本間忠良氏「米国における特許関連違法行為と民事RICO法(1993年10月の発表されたものであるが内容は詳しい)」、KDDI総研 制度・政策G 研究主査 藤崎 太郎氏「米国 インターネット犯罪の動向」、2009年10月7日付けウォールストリートジャーナル日本版「米サイバーコップ、増加するインターネット犯罪に苦慮」や社団法人 日本公認不正検査士協会( ACFE JAPAN )のサイト情報(メールマガジン)を薦める。ACFEの理事長の慶應義塾大学の安冨潔教授や副理事長の甘粕潔氏は筆者の古くからの知り合いである。
なお、欧米の主要ローファームでは多くがホワイトカラー犯罪を主要業務として扱っている。
(筆者注2)わが国ではほとんど専門家による詳しい解説がない「 高頻度取引(high frequency trading:HFT)」自体がどのような取引であり、最新IT技術とのかかわり、米国の金融危機への影響(連邦証券取引委員会(SEC)や連邦商品先物取引委員会(CFTC)の規制強化の動向)、米国メディア(ニューヨーク・タイムズ等)や識者(Wharton school :The Impact of High-frequency Trading: Manipulation, Distortion or a Better-functioning Market?)の見解、またHFTの規制強化に関するEU域内の証券監督機関である「証券監督者委員会(CESR)」の「2004年金融商品市場指令(the Market in Financial Instrument Directive:MiFID)」改正の動き等をまとめたいが、これだけでまとまった内容にすべきであり、機会を改める。さらに2009年9月17日、SECが採択した「フラッシュオーダー」禁止案についても正確に説明されている。
なお、わが国で“HFT”について書かれた日立総合計画研究所「今を読み解くキーワード」欄:経済グループ 杉山 卓雄氏のレポート「高頻度トレーディング」は、「高頻度トレーディングとは」「高頻度トレーディングを可能とした技術革新」「高頻度トレーディングの問題点」から構成され、簡潔に良くまとまっている。
また、“The Economist”の2009年8月1日付けの記事「HFTはアルゴリズム取引が市場取引におけるコンピュータの役割を独占的に引上げる」を仮訳しているブログがあるので参照されたい。
(筆者注3) この事件の被告の逮捕や起訴について、わが国ではあまり詳しく報じられていないが、「逮捕」についてはニューヨーク・タイムズ等が2009年8月23日付け記事で、また「起訴」についてはWSJが2010年2月12日付け記事で詳しく報じている。
さらにいえばこの種の犯罪に伴いGSが被った損失は莫大な金額にのぼり、司法関係者の中には刑事責任より民事責任追及を優先すべきとの指摘もある。 しかし、この事件の責任と本質的問題は他のウォールストリート金融機関全体にかかわる超高速のコンピュータ化処理化している株取引の混乱した世界を垣間見ることにもつながる。すなわち、証券業界以外ではほとんど知られていないHFTが突然最も競争的で論議を呼ぶビジネスの1つになったのである。その心臓部である開発に数年間かかる機密性に極めて緊密にかかわるコンピュータ・プログラムがあるとると2009年8月23日付けのニューヨーク・タイムズ記事は紹介している。
(筆者注4)デジタルミレニアム著作権法(DMCA)違反裁判として2003年2月11日、衛星放送信号の復号化を行ったとして被告17人(うち6人がDMCAの反復号化禁止規定違反の刑事責任で理由に該当)が起訴された。衛星放送会社に数千万ドルにわたる高度な暗号化技術を開発させ、結果的に数百万ドルの損失を引き起こしとして起訴された。DMCAに基づく連邦地方裁判所としては初めてのケースであり、またカルフォルニア地区大陪審がDMCAに基づき起訴状を発行した2番目の裁判である。カルフォルニアFBIが同日、詳細なリリースを行っているのでそちらを参照していただきたいが、裁判の経緯や起訴の根拠法等につき簡単に紹介しておく(本事件の捜査ではFBIは「おとり捜査(undercover investigation)」を行った旨公表している)。
被告は、ソフトウェアの開発者および受信装置の製造業者等であるが、数千台の復号化デバイスの製造とスマート・カードの条件付アクセス・システムにハッキングをかけるために必要とされるソフトエアを開発したことを理由に捜査が行われ、2002年10月にFBIは7つの州で目標と家宅捜査を行い多数のコンピュータと違法な復号化端末を差し押さえた。
被告17人は、(1)違法ソフトウェアおよびハードウェアの両者の開発者(Randyl Walter:43歳、Chad Fontenot:26歳)、(2)ソフトウェアの開発者(Jason Hughes:19歳(plead guilty)、Edward Vanderziel:35歳、Daniel Wilson:33歳(plead guilty)、Stephen Thornton:36歳(plead guilty)、Christpher Humbert:20歳(plead guilty)、(3)ハードウェアの開発者(Gary Bumgardner:46歳、1michael Whitehead:37歳、Thomas Sprink:41歳(plead guilty)、Peter Deforest:30歳、Dennis Megarry:39歳、Robert Walton:37歳、Linh Ly:38歳(plead guilty)、ichard Seamans:52歳、Thomas Emerick:33歳(plead guilty)、Joseph Bolosky:30歳(plead guilty))という3つのカテゴリーに分類される。
起訴の根拠法はDMCA違反(17 U.S.C.§§1201(a)(2) 1204 )、衛星信号盗取のための端末製造犯罪(47 U.S.C. §605(e)(4))および共謀罪(18 U.S.C.371)の3つの連邦法の1つ以上が適用される。これら3つの訴因に基づき、いずれも最高5年の拘禁刑が適用され、また17編と47編の罪については最高50万ドルの罰金、また共謀罪については最高25万ドルの罰金が科される(併科もある)。
(筆者注5) 同法については、連邦著作権庁(U.S. Copyright Office)の「1998年デジタルミレニアム著作権法(Digital Millennium Copyright Act of 1998)の要約を参照されたい。また、米国著作権法に詳しい弁護士の山本隆司「米国におけるデジタル・ミレニアム著作権法その他最近の著作権法改正について」(1999年公表)が良くまとまっている。
(筆者注6) Dish Network L.L.C.(旧社名は“EchoStar Communications”)は米国の大手の衛星放送会社である。なお、DISH Networkおよびその指定販売代理店は2009年3月25日に連邦司法省(DOJ)および連邦取引委員会(FTC)から拒否電話番号リスト「National Do Not Call Registry」に登録された多くの電話番号に対して法に違反し過度な電話セールスを行った。またDISH Networkは,認定ディーラの自動電話セールス行為を支援してテレマーケティング販売規則(TSR:Telemarketing Sales Rule)にも違反したとして提訴されている。被告の販売代理店ディーラは2009年9月22日にFTCと和解が成立したが、DISH Networkはなお裁判を継続中であり、2009年11月4日に裁判所は被告から出されていた「公訴却下の申立(Motion to Dismiss)」および「口頭弁論の申立(Motion for Oral Argument)」を却下した。また、同裁判所は2010年2月4日には被告の「中間上訴の申立(Motion for Interlocutory Appeal )」または代替的な公訴棄却の再考申立を却下している。
(筆者注7) “reverse-engineering DISH smart cards”については、有名な衛星TV スマートカード・ハッカーのクリス・タルノフスキー(Chris Tarnovsky)が常に話題となる。彼は2008年4月、米国の衛星放送会社“News Corp.”に依頼され衛生放送受信機用のスマート・カードの暗号化コードを復号化するソフトウェアを開発したが、その技術を競合相手のDISH Networkのハッキングには利用していないと証言した。この産業スパイ裁判はDISH Networkの前会社である“EchoStar”が“News Corp.’s NDS group”がタルノフスキーを雇い、違法なスマート・カードを開発したことから、別の暗号化技術を取り込んだsmart card等ハッキング対策費用として9,400万ドル(約79億円)を費やしたと賠償請求を主張している民事裁判である。
この裁判で2008年5月15日、カリフォルニア中央地区連邦地裁の陪審は原告が主張する「ランハム法(連邦商標法)(Lanham Act)」(筆者注8)、「デジタル・ミレニアム著作権法」および「犯罪行為の影響下で腐敗した組織に関する法律(Racketteer Influenced and Corrupt Organizations Act:RICO Act)」(この法律の内容は簡単にいうと、1970年に常習的犯罪によって創出された資金が合法的な州際通商組織に流入し、これを支配することを防止する目的で制定されたものである(本間忠良「米国における特許関連違法行為と民事RICO法」より引用)に基づく衛星放送システムに対するセキュリティ違反請求に関しNDSの責任を否定した。
すなわち、原告が主張(allegations)する2000年12月にNDSが従業員に対し、原告の条件付利用アクセス・システム(smart card)をハッキングするよう命じたことについて被告の責任を否定したのである。むしろ、陪審はNDSは基本利用加入者であるにもかかわらずEchoStarのすべての番組にアクセスできるか否かにつきテストを命じたもので、「1984年ケーブル・コミュニケーション政策法(Cable Communications Policy Act of 1984 (CCPA) 」および「カリフォルニア州刑法(California Penal Code)」に違反する行為であると評決したのである。実際、NDSはこのテストを命じたこと自体は否定していない。
同陪審はこの技術的な違反行為がゆえに実損額45.69ドル、制定法上の損害額1,500ドルおよび補償額284.94ドルを裁定した。
このようなことから連邦地方裁判所は、原告“EchoStar”は実質的に見て勝訴したものではないとして弁護士費用に関し、EchoStarに対し弁護士費用1,300万ドル(約10億9,200万円)と裁定しそのうち900万ドルをNDSに渡すよう命じた。
原告および被告とも弁護士費用に関するこの判決を不服として第9巡回区連邦控訴裁判所(事件番号09-5505)に控訴した。
2010年8月6日、第9巡回区連邦控訴裁判所はNDSの責任は技術的な違法行為のみであり、「被告は仮に2000年以降にインターネット上の原告のセキュリティに危害を与えたことに責任があると判断されたら20億ドル近くの損害賠償責任を負う可能性に直面したが、陪審による実際の損害賠償額は2,000ドル以下であり、同様な取り組みは今後行うことを禁止されたのみである」と判断、実質的に訴訟の勝者であるとして下級審判決を取消し、EchoStarに対し弁護士費用として1,800万ドル(約15億1,200万円)の支払いを命じた。(この裁判経緯は“Law 360”の解説記事から引用した)
このような裁判経緯を見ると、米国でのビジネスを円滑に実行するには有能なローファームや企業内弁護士など裁判対策の重要性があらためて実感で出来よう。
(筆者注8)米国の場合、商標法の統治法は古くは州法(コモンロー)によっていたが、1800年代後半以降連邦法の制定により連邦法に適用の優先が移り、1946年制定された「連邦ランハム法」により統一的な適用・解釈が進んだ。また、ランハム法はや州の商標法(U.S.Trademark Law)に基づく保護を否定するものではない。なお、連邦ランハム法の最新改正は1995年である。
(筆者注9)ここでいう第三者とは、有名な衛星TV スマートカード・ハッカーのクリス・タルノフスキー(Chris Tarnovsky)である。彼はYouTubeで約5分間にわたりチップの内容解析の手順が詳しく紹介される。“How to Reverse-Engineer a Satellite TV Smart Card”と題するものである。このビデオは“Wired com”がTarnovskyに取材したとされており、9月13日時点で閲覧者数は493,417人である。編集者は閲覧者に対し「自宅でためすなよ!」といっているが意味が良く分からない。
(筆者注10) EPROMとは、データを一定回数消去し、書き込むことが可能な半導体メモリのことである。EPROMは、チップの製造時にデータの書き込みまでを行うマスクROMや、一度だけ書き込みが可能であり変更ができないPROMと比べて、データを書き換えられる分だけプログラムの修正や仕様変更に柔軟に対処できるという利点を持っている。(IT辞典バイナリより引用)
(筆者注11)今回通過した法案は、既に上院司法委員会により承認されていた「Enforcement of Intellectual Property Rights Act of 2008(S3325)」が、上院本会議で、下院本会議を通過している法案「Prioritizing Resources and Organization for Intellectual Property Act of 2008」(PRO-IP法案(HR4279)2)と全く同じ名称に修正されたもの。
[参照URL]
・FBI: 創造性の窃盗(最近1年間の重要ホワイトカラー犯罪の最新情報)
http://www.fbi.gov/page2/september10/creativity_091010.html
・2010年2月11日公表の企業機密の盗取事件
http://newyork.fbi.gov/dojpressrel/pressrel10/nyfo021110.htm
・「1998年デジタルミレニアム著作権法(Digital Millennium Copyright Act of 1998)」違反裁判
http://sandiego.fbi.gov/dojpressrel/pressrel09/sd102309.htm
・偽造の管継手(pipe couplings)の製造・販売行為の共謀の罪
http://houston.fbi.gov/dojpressrel/pressrel09/ho110509a.htm
・詐欺的な耐空証明を詐欺的に発行した事件
http://miami.fbi.gov/dojpressrel/pressrel10/mm052510.htm
・「包括的な模倣品・海賊版対策法案」
http://www.govtrack.us/congress/bill.xpd?bill=s110-3325
・知的財産執行調整官(Intellectual Property Enforcement Coordinator)の大統領および連邦議会への報告知的財産権保護のためのへの法執行に係る共同戦略計画」
http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/omb/assets/intellectualproperty/intellectualproperty_strategic_plan.pdf
・英国「2010年デジタル経済法案(Digital Economy Bill)c.24」
http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/20100511084737/http://www.opsi.gov.uk/acts/acts2010/ukpga_20100024_en_1
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