2010年12月18日土曜日
米国連邦議会下院が17年間続いた「1993年Don’t Ask,Don’t Tell Act」の単独廃止法案を可決
今回は、11月21日、12月4日の本ブログで最新動向を紹介したこの問題につき、12月15日連邦議会下院は「1993年同性愛公言禁止法」の単独廃止法案(H.R.6520:Don’t Ask Don’t Tell Repeal Act of 2010)を賛成250票(民主党235票、共和党15票)、反対175票(民主党160票、共和党15票)、棄権9(民主党5人、共和党4人)で可決した。
今後、上院(senate)での同名の法案(S.4023)の採決に移るわけであるが、軍の大規模改革や“DREAM Act法案”といった関係法案との抱き合せ立法政策は下院では可決したものの上院では2回否決されており、ねじれ議会や保守化が進む米国において今後の2年間でこのような法案が成立する可能性は少なく、DODのリリース文によれば議会は来週から休会に入るため18日にも上院で採決しないと今会期(第111)の廃止法案は不成立となる。
オバマ政権の公約であるこの法案の成立に向けた激しい議会内外での攻防が続くと思われる。
なお、米国の世論はこの問題をどのように見ているであろうか。ワシントンポストとABCニュースが共同で行った世論調査結果では、「同性愛者やレスビアンがオープンな形で軍務につくことを認めるべきとする回答者が約8割」であった。(筆者注1)
1.「1993年同性愛公言禁止法」の単独廃止法案(H.R.6520)の概要
本ブログで取上げてきた内容が中心ではあるが、法案そのものがDOD等の準備が出来た場合のみ現行法が廃止されるという条件付法案として特異なものであり、参考として仮訳しておく。なお、項目の立てかたがわが国の法令と異なるので、注意して読んで欲しい。
Ⅰ.法案提出者
2010年12月14日、Patrick J.Murphy(ペンシルバニア州出、民主党:共同提案者78名)が法案提出し、下院軍事委員会(Committee on Armed Services)に付託された。
Ⅱ.法案の内容
第1条 法律の名称は「同性愛公言禁止法の2010年廃止法(Don’t Ask Don’t Tell Repeal Act of 2010)」とする。
第2条 米国軍における同性愛者に関する国防総省の政策改正
(a)合衆国現行法律集第10編第654条(10 U.S.C.654)(筆者注2)の廃止の実施についての包括的再検討
(1)総則―2010年3月2日、国防総省長官は“10 U.S.C.654”の再検討を命じるメモを発布した。
(2)再検討の目的および範囲
(b)長官のメモに添えられた再検討の条件として、次のとおり検討の目的と範囲が指示された。
(A)既存法の廃止の結果ならびにその影響を考慮したときに行動として取るべき軍隊として準備、軍としての効率性および部隊の結束、新人採用や要員保持や軍人の家族において備えるべきあらゆる影響を決定すること。
(B)廃止後の新行動基準、リーダーシップ、ガイダンスおよび教育内容の内容を決定すること。
(C)人事管理、リーダーシップ、教育に関する問題に限らず既存のDODの政策や諸規則について野適切な変更内容を決定すること。
(D)仮に必要であれば統一軍事裁判法(Uniform Code of Military Justice)12/18⑤において改正すべき点があればその内容を勧告すること。
(E) “10 U.S.C.654”の廃止に関する既存の法案ならびに再検討を行う間に議会に上程されるであろう法案についてのモニタリングと評価を行うこと。
(F)新たな実施内容を成功裡に進めるため全軍の風潮や軍の効率性のモニタリングに関する適切な方法を保証すること。
(G)現在進められている“10 U.S.C.654”裁判から生じうる問題点を評価すること。
(b)法律の施行日
後記(f)項に基づく改正は以下の事項が行われた最終時点の60日後に施行するものとする。
(1)国防長官は前記(a)項により述べた長官メモにより要求された報告書を受け取ったこと。
(2)合衆国大統領は、大統領、国防長官、統合参謀本部議長が署名した次の内容を記した書面承認書を連邦議会国防関連委員会(congressional defense committees)(筆者注3)あて送ること。
(A)大統領、国防長官および統合参謀本部議長は、報告書および報告書で提案された行動計画につき考慮したこと。
(B)国防総省が、後記(f)項により改正によりなされた決定内容を執行するために必要な新政策や新DOD規則を準備できたこと。
(C) 後記(f)項にもとづく改正によりなされた決定内容に従い、必要となる実施内容が軍の準備、軍の効率性、部隊の結束力、新人採用や要員保持の基準と合致すること。
(c)DODの現行政策(10 U.S.C.654)の法的効力は、前記(b)に合致するすべての要求や承認内容が指定する時期までは何ら影響はないものとする。
(d)軍からの給付受給権は、本法および本法に基づく改正法において連邦「1996年婚姻保護法(Defense of Marriage Act) (筆者注4)の内容である“1 U.S.C.§7”および“28 U.S.C.§1738C”に定める婚姻、配偶者の定義に違反して受給を受けうると解釈してはならない。
(e)本法および改正法は、何人に対しても民事訴訟(private cause of action)を起こす権利を求めることを認めるものではない。
(f)1993年のDOD政策の措置
(1)「U.S.C.第10編第37章(b)」により定められた同編の施行日は次のとおり、改正する。
(A)“10 U.S.C.654”を削除し、
(B) 同章の冒頭の条文一覧(CHAPTER 37—GENERAL SERVICE REQUIREMENTS)から“10 U.S.C.654”に関する条項(b)を削除する。
(2)法改正の適合措置:「1994年財政年度国防授権法(National Defense Authorization Act for Fiscal Year 1994)」の第571条で定める施行日に関し、“10 U.S.C.654”の注記は(b),(c)および(d)の削除により改正する。
2. 国防総省のDADT法の廃止に向けた全省的な準備状況
12月17日、DODは次のようなプレスリリースを行っている。議会上院での廃止法案の採決を目的としたものであることは言うまでもない。
「早ければ12月18日に議会上院はDADA法の廃止法案を採決するであろう。DODは必ず起きるであろうこの法改正に関する全軍に通知すべきガイダンスを用意しつつある。同ガイダンスは、人事・即応担当次官(undersecretary of defense for personnel and readiness )であるクリフォード・L・スタンレー(Clifford L.Stanley)からメモのかたちで提示されるであろう。(以下略)」
(筆者注1)Washintongton Post-ABC Newsの12月12日に実施した「世論調査結果の概要」は以下のとおりである。
項目24. Changing topics, do you think [half sample: homosexuals / half sample: gays and lesbians] who do NOT publicly disclose their sexual orientation should be allowed to serve in the military or not?
Yes : No :No opinion
12/12/10 83 : 14 : 4
項目25. Do you think [half sample: homosexuals / half sample: gays and lesbians] who DO publicly disclose their sexual orientation should be allowed to serve in the military or not?
Yes : No : No opinion
12/12/10 77 : 21 : 2
(筆者注2) 10 U.S.C.654の標題は” Policy concerning homosexuality in the armed forces”であり、これは「1993年Don’t Ask,Don’t Tell Act」をさす。
(筆者注3) “congressional defense committees”とは次の4つの委員会をいう。
(1) The Committee on Armed Services of the Senate;
(2) The Subcommittee on Defense of the Committee on Appropriations of the Senate;
(3) The Committee on Armed Services of the House of Representatives; and
(4) The Subcommittee on Defense of the Committee on Appropriations of the House
of Representatives.
(筆者注4) 連邦法である「1996年婚姻保護法(Defense of Marriage Act of 1996)(DOMA)」の制定の背景や意義ならびに各州憲法の同性婚について説明しておく。
(1)米国における同性婚は数十年来の論争、特にハワイの裁判所が同州憲法上で同性婚の権利があると判断したことをきっかけとして他州、連邦法、婚姻管理行政機関、伝統的な道徳観、州の主権などへの影響を解決すべく連邦議会が行った立法措置の結果である。
(2)同法は2つの条文からなる。1つ目は連邦法における「婚姻(marriage)」の定義、2つ目は合衆国憲法第4章第1条(Article Ⅳ,section 1)の「州間の完全なる信頼と信用」に定める権限に基づく連邦主義の確認規定である。
「各々の州は、他のすべての州の一般法律、記録および司法手続に対して、十分な信頼と信用を与えなければならない。」
(Section 1 - Each State to Honor all others)
Full Faith and Credit shall be given in each State to the public Acts, Records, and judicial Proceedings of every other State. And the Congress may by general Laws prescribe the Manner in which such Acts, Records and Proceedings shall be proved, and the Effect thereof.
(3)同法は、1996年9月21日にクリントン大統領が署名、成立した。
(4)補足すると次のような内容である。
裁判を要する離婚と異なり,婚姻は単なる地位なので、合衆国憲法の信頼と信用条項の適用がなく、公序を理由として有効性を否定することができ、さらに、裁判で同性婚を勝ち得た場合についても、「1996年婚姻保護法」が当該裁判を無視してよいと定めているので、この連邦法が違憲とされない限り、他の州では有効性を否定することができる。
(5)現在、37州が独自の「婚姻保護法」を定めており、とりわけ2州は明確に婚姻は1人の男と1人の女の結婚であると明確な言葉で明記している。伝統的な結婚を保護する憲法修正を持つ州が30州であり、その中には2008年11月に憲法修正を行った3州(アリゾナ、カリフォルニア、フロリダ)を含む(米国「婚姻保護法の法律情報提供サイト“DOMA watch”」から引用した)。
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