2010年7月16日金曜日

米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦規制・監督機関やEU関係機関等の対応(第4回)

 
  6月24日付けの本ブログ6月29日および7月9日のブログで、世界的に注目されている歴史的海洋汚染事故である米国「ディープウォーター・ホライズン(Deepwater Horizon)」 の半潜水型海洋掘削装置(rig )爆発事故とその後の大規模な原油流失について連邦監督機関の対応や欧州議会総会での欧州委員会エネルギー担当委員の証言を中心に3回にわたりとりあげた。

 今回は引き続き、ルイジアナ連邦地裁判決が出した連邦政府が発布した6か月間の掘削猶予モラトリアムに対する仮差止命令の意義や国土安全保障省合衆国沿岸警備隊(USCG)、連邦保健福祉省・食品医薬品局(FDA)の対応等について解説するつもりであった。

 しかし、ここに来てこの問題が長期化し米国経済に大きなマイナス材料となることを予想させる情報が筆者の手元に入ってきたので急遽取り上げる。

 すなわち、7月14日に連邦金融監督機関である連邦準備制度理事会(FRB)、連邦預金保険公社(FDIC)、財務省通通貨監督局(OCC)、財務省貯蓄金融機関監督庁(OTS)、全米信用組合管理機構(NCUA)および州銀行監督機関協議会(CSBS)が連名でディープウォーター・ホライズン事故で影響を受ける金融機関やその顧客保護のための支援策を表明したことである。

 連邦機関が、大規模災害時にこのような金融支援策を打ち出すことは今までも珍しくない。また、本文で紹介するとおりその内容は決して即効性があるとは思えない。金融監督機関の姿勢を表明する程度かも知れないが、逆にこのような定型的な施策しか打ち出せないことが米国の悩みの証左といえるかも知れない。


1.取組みの背景
 金融監督機関は金融機関が顧客とともに行動し、この状況下で影響を受ける借り手を支援し、あわせて結果的に地域コミュニティに良い影響をあたえる手段を検討することを強く促す。ガルフ・コーストに沿った地域ではかなりのビジネスに混乱や損害が発生した。この大規模災害に対応して、金融機関は顧客やコミュニティの重要な金融ニーズに合致すべく各種手段をとりうる。

 この点で、金融監督機関は金融機関に対し、今回の大規模災害により影響を受けたと証明する顧客に代替手段を配慮するよう奨励するものである。その代替手段とは次のようなことを含む。

2.金融機関が取るべき顧客支援策例
①貯蓄性定期預金(CD)の満期前解約に対するペナルティ処分(early withdrawal of savings)、ATM手数料および住宅ローンの返済遅延に対して課される遅延支払金(late payment charge)の自主的撤回。

②融資希望者において安全性および健全性に合致する場合、可能な限り貸付決定の実行。

③BP社への損害賠償請求を見越した融資債務者に対する融資実行や融資契約の再設定。

④良識的な銀行の行動に合致する一定の借り手に対する与信条件の緩和や手数料の引下げ。

3.これらの対応による金融経営面の影響に関する金融検査官の検査内容
 これらの手段は顧客が財政的に回復に寄与するかも知れないし、また彼ら自身債務を履行する上で良い立場におくことになるかも知れない。被害を受けている地域では、これらの努力が地域社会の健全性や金融機関とその顧客にとって長期的利益に貢献するといえる。
 債務契約の修正や返済条件の緩和措置を考慮して、金融検査官は金融機関が出来る限り迅速に損失を推計し、適切に与信損失を認識するよう期待するであろう。

 その上で、検査官は金融機関が内部の融資に当たっての融資格付け方法の完全性を保持しつつ、影響を受ける与信の保持、適切な未収利息計上の地位、影響を受ける与信を保持しているかを検査するであろう。

 もし影響を受ける金融機関の自己資本比率において重大な低下が起こることが見込まれるときは、金融検査官は金融機関の取締役会が時宜にあった資本増強を実行させる十二分な資本回復経計画をたてるかにつき考慮することになろう。

[参照URL]
http://www.fdic.gov/news/news/press/2010/pr10155a.html

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2010年7月15日木曜日

欧州議会がSWIFTを介したテロ資金追跡プログラムにかかる暫定合意の改定協定を承認

 
 本年2月9日 および2月12日 の本ブログで、米国から強く要請があり、他方でEU市民の人権侵害につながる大きな問題として取り上げられEU議会だけでなく、EU加盟国の情報保護委員等も巻き込んだ論議の内容について詳しく紹介した。

 その後、EUの欧州委員会や米国のハイレベルの協議が行われていたが、6月上旬に欧州委員会域内担当委員セシリア・マルムストロム(Cecilia Malmstrom)氏は米国とのハイレベル協議の結果を踏まえ、改正案を議会に提出していた。
 6月28日(月)、欧州連合理事会の輪番議長国(rotating presidency)であるスペインのアルフレド・ペレス・ルバルカバ(Alfredo Pérez Rubalcaba )内務相と、マイケル・ドッドマン(Michael Dodman)駐EU米国大使館経済担当官は、マルムストロム氏の立会いの下で署名した。

 最終的に改正協定案は7月8日の本会議に諮られ、投票では、賛成484票、反対109票、棄権9票で可決・承認され、2010年8月1日施行されることとなった。

 今回のブログは本年2月以降の動向等も踏まえ問題点を整理することであるが、7月8日のマルムストロム委員の声明のとおり、EU市民にとって(1)個人データへのアクセスと使用に関する透明性確保の完成、(2)プライバシー保護を保証するための適切な手段と救済措置が手当てされたといえるのか、今後改めてEDPSの意見書や“StateWatch”や“EDRi(Digital Civil Rights in Europe)”等関係団体による法的問題や人権上の課題が明確となった段階で詳しく分析のうえ論じてみたい。(筆者注1)

 なお、この問題だけではないがEUの議会関係者が指摘するリスボン条約に基づく議会の権限強化のあり方論がある。この問題についても機会を改めたい。


1.改正協定の議会での承認にいたる経緯
(1)6月上旬に、 EU議会、欧州委員会、米国当局間の外交交渉に基づく協議によりマルムストロム委員による改正協定案が提示された。また、6月15日、委員会の最終協定案(COM 316)が決定された

(2) 6月22日、欧州情報保護監察局(EDPS)による欧州委員会の最終協定案に対する公式意見書(Opinion of the European Data protection Supervisor)が提出された。

(3)6月24日、 EU・米国間の改正TFTP協定にかかる欧州連合閣僚理事会決定が行われた。

(4)6月28日、EU理事国と米国との改正協定の署名が行われた。この点につき、同日のわが国の欧州連合サイトは、「本日、欧州連合(EU)を代表するスペインのアルフレド・ペレス・ルバルカバ内務相(筆者注2)と、マイケル・ドッドマン駐EU米国大使館経済担当官は、テロの容疑者が残した金融取引の痕跡の追跡をより容易に行えるよう、銀行間決済ネットワーク(SWIFT)に関する協定に調印した。
 同協定は、欧州委員会のセシリア・マルムストロム内務担当委員出席の下、ブリュッセルで調印された。今後は欧州議会に提出され、7月5日から8日にかけて開催される本会議で議員の過半数の賛成で批准されれば、発効に至る。」と報じている。

(5)7月8日、欧州議会本会議で改定協定案の採決・承認され、同日、マルムストロム委員は採決・可決につき声明を発表した。声明自体、これまでの経緯を含め米国との協議内容にはほとんど言及していない。今後、EU加盟国の関係機関等からも各種意見が出されると思うが、問題点を整理するうえで筆者が従来からしばしば引用する“EurActive” の最新記事等に基づき解説する。

 議会筋によると議員の賛意を得られた最大の理由は、米国当局への大量データ(bulk data)に移送制限を明記したことである。議員は賛意の見返りに米国のTFTPに必要性を排除するためにそれに相当するEUの作業が今後、12か月以内に開始する保証を得た。EUが独自に同地域内での追跡システムによるデータ分析を可能にするとEUが必要とする特定のテロリストの追跡システムにデータを移すだけでよくなるという効果があるからである。

2.新協定の主な改正内容
 欧州委員会は、今回の改定協定案と2009年11月に欧州連合理事会で採決、米国との間で締結した「暫定協定」との相違点につき公式な資料を作成、公表している。
 その主な点につき以下のとおり紹介しておくが、EUの関係機関での意見が強く反映されていることは間違いなく、その点は2月9日付けの本ブログで確認されたい。

(1)改定協定は、本協定の下で行われるEU市民の個人情報の移送に関し、そのプライバシー保護を保証するため、次のような法的な約束事を定める。
①対象とするデータは、テロおよびテロ資金の阻止、捜査および起訴にかかわるもののみ排他的に限定して扱う。
②いかなるデータ・マイニング(data mining)形式(筆者注3)の禁止
③EUのリテール決済サービス市場の統合に向けたSEPA(Single Euro Payments Area)(筆者注4)に関するすべての個人情報の米国への移転の禁止

(2)個人情報保護の保証をより強化する。TFTP手続の透明性に関し、米国連邦財務省はTFTPに関するデータ主体の権利、すなわちアクセス権、訂正権およびどのように司法や行政機関への救済手続きを行うかにつき、すべての情報を同省のウェブサイトに掲示する。従来の暫定協定と異なり、アクセス権の保証、不適切なデータであると判断するときは、これらデータの訂正、削除やブロッキングを規定する。

(3)データ主体の救済手続を明記する。協定では、連邦財務省はその行政手続の適用において、すべての人につき国籍や居住国にかかわらず平等に扱うこととした。また、これに続けて不利な行政処分に対し米国法に基づく司法救済を定める旨を明記した。

(4)本協定は、EUの公的機関すなわち「欧州警察機構(Europol)」が米国の要求が本協定の条件を充足しているか確認する包括的メカニズムを定めた。特に、“Europol”は米国のデータ提出要求につき次のようなチェックを行う。(ⅰ)米国機関からの要求データの可能な限りの特定(identify as clearly as possible)、(ⅱ)なぜ当該データが必要なのかの理由説明を求め、また、テロやテロ資金と戦う目的のため最小化する意味でその目的に適合した可能な限り狭い範囲であるかにつきチェックする。さらに、“Europol”は要求データの量自体もチェックする。
 仮に連邦財務省の要求がこれらの基準に合致しないときは当該要求は拒否され、データは移送されない。

(5)改定協定では、欧州委員会は日々TFTPのデータにつきその抽出とアクセスの監視を行う者の任命権を定める。その者は問題が起き、モニタリングができるポストにつく。特定に人物に対する検索を正当化できる十分なデータが存しないとみられる場合は検索をブロックできる権限が与えられる。

(6)改定協定はTFTPの詳細および監視に関する点ならびに適用の詳細を定める。EUは改定協定施行6か月以内に具体的準備を開始し、データ保護に係る法遵守状況につき定期的に詳細なモニタリングを行う。このEU専門家チームは米国当局により行われた検索内容につきプライバシーが正当に尊重されているかランダムに調査する権限を持つ。
 EUの検査チームは、欧州委員会により指揮されEUの2つの情報保護機関(筆者注5)および司法経験者の代表を含むメンバーで構成される。

(7)改定協定は、テロリストを推定させる人物の情報を第三国に移送する前に行うべき重要な詳細な要求条件―EU市民や住民にかかわる当該国所管当局の事前同意の取得要件―を定める。

(8)改定協定は、個人情報保護に関しEUと米国の将来におけるより拘束力をもつ協定の締結の原型となり、また、将来EU・米国間でそのような協定が締結されるときTFTP協定がそのベースになるという性格を確立させた。

(今回の協定で暫定協定と変更しない事項)
データの保持期間(Data Retention Periods):従来から欧州議会から出されていた米国との交渉の負託(Mandate)において「出来る限り短期でかついかなる場合でも5年とすべき」と定めていた。しかし、米国との交渉において連邦財務省は3年から5年という条件(TFTPの分析から引き出された結果では28%がその期間に対応する)を引用し、今回の協定案では5年となった。ただし、保持期間については施行以降その短縮化につき欧州委員会・米国財務省間で3年以下とすることを基本としつつ、分析するということとなった。

3.米国のコメント
 米国のオバマ大統領は「終わりよければすべて良し(all’s well ends well)」とEU議会の承認を歓迎するコメントを述べている。ホワイトハウスによると、2001年9月11日のテロの後、米国TFTPはEU加盟国に1,550件以上の重要な捜査情報を提供してきたと述べている。


(筆者注1)“EDRi”は、EDPS やEU情報保護指令第29条専門委員会はEU・米国間の改定協定はEUの保護基準を完全には満たしていない点や改正協定にいう「テロリズム」の定義が広すぎるなど更なる問題点をまとめたFAQ を7月7日に公表している。
 また、“statewatch”は欧州議会の議員による未解決の課題の指摘について紹介している。

(筆者注2) EUでは常識的なことであるが、スペインの現内務相がなぜ署名にあたりEU代表となる意味が説明されていない。正確にいうと、6か月ごとに交代する欧州連合理事会の現議長国の代表として署名したものである。(スペインの任期は2010年1月から6月である)

(筆者注3) 米国のテロ対策における「データ・マイニング」の効果に関し、米国学術研究会議(National Research Council:NRC)の調査報告:複数の米国連邦機関がテロリストの疑いのある人物を特定するのに利用している、行動パターン特定データ・マイニングおよび態度観察(behavioral surveillance)技術の類は、信頼性があまりに低すぎて有効であるとは言いがたいーとする記事が紹介されている。要するに、テロリストの特定は消費者行動の分析のようにはいかない。さらにデータ・マイニング・ツールや態度観察ツールのような技術を無計画に使用し続けた場合、個人の情報プライバシー侵害の問題が生じるおそれもあると記している。」という解説記事が、わが国の「コンピュータ・ワールド」2008年10月15日号で紹介されている。

(筆者注4)「 リテール決済サービス市場の統合に向けたSEPA(Single Euro Payments
Area)と呼ばれるプロジェクトが進められている。SEPA とは「効率的な競争が機能し、ユーロ圏内におけるクロスボーダー決済を国内決済と同じように利用することができる、統合された決済サービス市場」の実現を目指すプロジェクト」をいう。(日本銀行金融研究(第28巻第1号(2009年3月発行)のSEPAの解説から引用)。

(筆者注5)EUの2つの情報保護機関につき、1つはEDPSであることは間違いないがもう1つは何を指すのか。協定第13条〔Joint Review〕規定の原文等からも判明できなかった。
EU指令第29条専門委員会を指すのか。


[参照URL]
・http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/10/308&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
7月8日付けのセシリア・マルストロム(Cecilia Mastrom)EU内務担当委員の公式声明
・http://register.consilium.europa.eu/pdf/en/10/st11/st11222-re01.en10.pdf
EU・米国の改定協定原本(full text)(全37頁) :11222/1/10 REV 1
・http://ec.europa.eu/commission_2010-2014/malmstrom/archive/improvements_tftp_agreement_20100629_en.pdf
今回の協定の旧協定との主な変更点(公式資料)(全3頁)
・http://eurocrim.jura.uni-tuebingen.de/cms/en/doc/1358.pdf
6月15日、 EU・米国間の改正TFTP協定にかかる欧州委員会の最終協定案(COM(2010) 316 final) (全20頁)
・http://www.edps.europa.eu/EDPSWEB/webdav/site/mySite/shared/Documents/Consultation/Opinions/2010/10-06-22_Opinion_TFTP_EN.pdf
欧州個人情報保護監察局(EDPS)による欧州委員会改正協定案(COM 316)への公式意見書


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2010年7月9日金曜日

米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦規制・監督機関やEU関係機関等の対応(第3回)

 
 6月24日付けの本ブログ6月29日のブログで、世界的に注目されている歴史的海洋汚染事故である米国「ディープウォーター・ホライズン(Deepwater Horizon)」 の半潜水型海洋掘削装置(rig )爆発事故とその後の大規模な原油流失について連邦監督機関の対応を中心に2回にわたりとりあげた。

 今回は、EU等国際的石油掘削メジャーの監督にあたる国々の対応にも厳しさが増している状況を反映するため、さる7月7日、欧州委員会エネルギー担当委員のギュンター・エッテインガー(Günther Oettinger)氏が欧州議会総会で行った「沖合い(offshore)の原油探査や採取についてリスク、責任および規制強化」と題するスピーチの内容を仮訳で紹介する。

1.欧州議会総会での欧州委員会エネルギー担当委員のスピーチ
 2010年7月7日、欧州議会総会で欧州委員会エネルギー担当委員ギュンター・エッテインガー(Guenther Oetttinger)氏は「沖合い(offshore)の原油探査や採取についてリスク、責任および規制強化」と題するスピーチを行った。欧州委員会の域内の関係大手企業へのアンケート調査の実施や加盟国の規制監督機関や法制度のあり方につき対策の考えが明示されているので、ここでその要旨を紹介する。(筆者注1)

2.要旨
・本年5月の本総会において私が初めて本件につきスピーチを行った時は、域内の沖合いの原油掘削大手企業の代表者を召集した時期であった。私は各企業の安全政策の精査に関するアンケートの回答を要請した。

 我々は来週7月14日開催の会合で、潜在的な弱点を特定するため適用すべき基準と手続の双方を見直すつもりである。私は、その翌15日に欧州議会環境委員会(European Parliament environment committee)を開催し、その結果を踏まえたエネルギー委員としての提案を行うつもりである。これと並行して関係する委員会事務局で既存の法律を詳しく調査している。

 エネルギー委員会の調査の中間結果で、沖合い採掘の安全性に関し多くの複雑な法律が関わっていることを示している。しかしながら、法律の数自体はあまり多くはない。重要なポントは以下の点である。

①これらのすべての法律は損害発生後のフォローアップと同様、リスク管理とその予防のために十分完全な形で適用できるであろうか?
 答えは簡単ではない。これは私が最も関係が深い委員会の仲間であるクリスタリナ・ゲオルギエヴァ(Kristalina Georgieva (EU International Cooperation, Humanitarian Aid and Crisis Response Commissioner) (筆者注2)、マリア・ダマナキ(Maritime affairs and fisheries Commissioner)(筆者注3)、ヤネス・ポトチュニック(Janez Potočnik (Environment Commissioner)(筆者注4)と緊密に働いている理由である。

 我々の考えは、手続のすべての過程で被害の予防から対処や責任問題についてカバーできる体制にもっていくことであり、この意味で本日、私の次にスピーチするマリア・ダマナキ氏は、我々が直面している海事問題に関しメキシコ湾大事故を文字通り潜在的再生可能な海洋エネルギー(renewable ocean energy)の確保の機会としてどのように変えうるかにつき言及するであろう。

 いかなる適切な規制制度がありまた監督されていても、第一に取組むのは産業界であり個々の企業である。彼らが完全に責任を持つべきことを理解しているがゆえに安全問題は最大の関心事であらねばならない。彼らは彼らの側から100%安全第一主義政策を維持しなくてはならない。安全には抜け道はない(Safey is not negotiable)。
 運用方法と労働者の安全性に関し、我々はEUの法律が定める基準や諸原則は高いレベルを提供していることを確認した。

 企業の責任に関し、「汚染実行者が支払う」と言うのが環境賠償責任の基本原則である。全体的に見て欧州の適用法は、この種の産業活動に伴うさまざまな危険と挑戦について記述しており役に立つといえる。
しかしながら、改善の余地があることも見出している。現行法制をより明確化し最新の内容にすることが出来よう。今後数ヶ月以内に我々は必要と判断するなら立法上のイニシアティブをとることに躊躇しないので安心していただきたい。

 また、このことは私が7月14日に加盟国の規制や監督当局のとの会合を開く理由である。ポトチュニックやダマナキ委員とともに安全性強化のための具体的措置につき論議する予定である。規制上の問題と同様に運用面の問題が議論されるであろう。規制面の問題について、私はEU基準が世界で最も厳しい体制を維持するため可能な限り最高に高いレベルに設定したいと考えている。
 同様にコントロールが有効であるという確証を得たいと思う。この点につき、私は必要なら「企業の管理者を管理する(controlling to controllers)」ための欧州の枠組み造りを提案することも辞さない。

②7月中旬に私はEUの行政機関や立法担当者とともにワシントンに出向きディープ・ウォーター・ホライズン原油流失事故の最も最近時の対応につき論議する予定である。
 私は、このような対話が国際基準強化を確実にする上で重要であると信じる。状況の正確な調査結果を持つためにはメキシコ湾における原油流失の正確な真の原因を知る必要があることは明らかである。しかしながら一方で、正確な原因を知る予防対策(precautionary principle)が優先されるべきである。この点につき米国やEUでない国のいかなる監督機関も予防措置を実行するよう助言を受けるであろう。

③最後に、EUの安全と環境を維持するため取るべき行動につき重要な5つの点につき概観する。これは事故の予防、救済および責任と関係する。

1.迅速な対応行動
 さしあたりあらたな油田掘削につき最大の警告を発しなければならない。一般的にいわれているとおり、現在の状況下ではいかなる責任ある政府も実際あらたな掘削の許可は凍結させるであろう。このことは事実上事故原因が判明し、ディープ・ウォーター・ホライズンによって実行される最先端の運用のための是正手段が取られるまではモラトリアムが発動することを意味する。

 各国政府は産業界がより安全性を改善のため、取りうるすべての手段を立上げ、極端な天候や地球物理学状況下で適用可能な最も高いレベルに合致する災害阻止を実行できることを確認する必要がある。緊急対策計画を見直し、もっとも良い実践結果に基づき強化しなくてはならない。許可手続において現場の重大な事故発生時に担当オペレーターが特定の操作能力についてデモンストレーションを必要とすべきである。これと同様に、企業には引き起こされた損害に対し完全に責任を持てる財務力も必要である。我々はこのことにつき特別な欧州基金やその他の適切な堅固たる付保義務にかかわらず、何が最もよい道具となりうるかを良く考えなければならない。

2.強固な認可体制を通じるだけでなく徹底した調査と管理により既存の事故予防レベルを再強化すべき
 各国の監督機関と欧州レベルの機関の分業はもはや十分でない。相乗効果を育て相互の協調効果を高め、かつ「企業の管理者を管理する(controlling to controllers)」といったあらたなモデルを必要とする。我々は産業界の安全実績と産業界を監督する公権力の警戒にとって透明性を増す必要がある。

 国民には知る権利があり、かつあらゆる許された情報にアクセスできる権利を持つ。透明性は最大の法遵守と予防措置を確実にする上で強い同盟者である。

3.既存の法令に基づく「負荷試験(stress test)」の完全実施
 遅滞なく我々は現行法令の分析と完全実施し、改善のための可能な弱点・ギャップ・改善の余地を特定するための適用基準を完全に実施しなければならない。我々の法律制度の枠組みは、最善の業界実践と明確な責任体制に対し、安全に関する最高の水準を保証することにある。

 最終的な分析結果において示される正確な弱点が何かによって、我々は既存法の改正または沖合いの掘削活動に関する特別な立法であれ、それに対応する立法案を提示することに躊躇はしない。

4.我々は欧州レベルでどのように災害をコントロールし、災害介入メカニズムで強化できるかにつき考えたい。
 これらの仕事は、現在欧州委員会のモニタリング・情報センターを介した支援を含む総合的なEU災害対応能力の一層の強化問題として進行中である。
 リスボンに本部のある「欧州海上保安庁(European Maritime Safety Agency)」は、すでにそのような施設の原油流失事故において有意義な介入を行っている。他方で、査察や検証活動等の予防的責任は現在のEMSAとは完全に異なる能力が必要となる。我々はそのような能力をどこの機関がどのように開発するか、陸地での掘削と海での掘削とで分けるべきかという問題も含め十分に反映すべきと考える。

5.既存の国際または地域の安全基準の強化のため国際的な協力を行いましょう


(筆者注1) 筆者は7月7日のスピーチの件は 7月7日付けのブルームバーグの記事で読んでいた。念のためEUの公式リリース“Pressrelease RAPID”で確認したところ公表されており、また欧州委員会の取組みの基本姿勢が明記されていたので急仮訳した次第である。

(筆者注2) クリスタリナ・ゲオルギエヴァはブルガリア出身(新任)で欧州委員会の国際協力・人道援助・危機対応担当委員である。

(筆者注3)マリア・ダマナキはギリシャ出身(新任)で欧州委員会の漁業・海事担当委員である。

(筆者注4) ヤネス・ポトチュニックはスロヴェニア出身(再任)で欧州委員会の環境担当委員である。

[参照URL]
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=SPEECH/10/368&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
http://www.bloomberg.com/news/2010-07-07/eu-energy-chief-urges-ban-on-new-offshore-drilling-until-bp-probe-finished.html

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