2009年11月24日火曜日

海外における新型インフルエンザ感染拡大阻止に向けた最新動向と新たな取組み課題等(N0.16)

 
 わが国の優先者への新型インフルエンザ・ワクチン接種が11月から始まり、一部では死亡事例の報告が聞かれるが(11月20日現在の厚生労働省の発表では13例)、前倒しスケジュールも発表されるなど、具体的な対応は進んでいる。
 一方、海外も同様に優先者への接種が進んでいるとされるものの、カナダでは11月20日に世界的に見ても最大手のワクチン・メーカーであるグラクソ・スミス・クライン(GlaxoSmithKleine;GSK)が製造した新型インフルエンザ・ワクチン“Pandemrix TM”について同社から「アナフィラキシー反応(anaphylactic reactions)」(筆者注1)のリスクに鑑みて各州の保健機関への接種の中止要請およびカナダ国内での同社のワクチンの回収が行われている旨のニュースが報道された。
 わが国のメディアではその内容についてあまり詳細には報道されていないため、来年に入ってのわが国の輸入ワクチン接種開始にかけての不安感もあり、改めてカナダ連邦や各州の保健機関の対応状況について正確と思われる情報を集めてみた。(筆者注2)
 この接種の緊急中断要請についてカナダ政府の保健機関サイトでは特段具体的に報じていない。また、保健機関というより公安機関であるカナダ公共安全省(Public Safety Canada)サイトで見てもワクチンの適格性・接種拡大計画が順調に進んでいる旨の情報が中心である。
 しかし、一方ではカナダ国内の疫学関係者が10月21日の連邦保健省が 発表したGSK製“Arepanrix”の販売承認に関する暫定決定は拙速であると指摘するなど(カナダの承認の前提となった治験結果はベルギーで行った結果に基づくものである)、また州保健当局の対処にも混乱があるようである。
 世界的に見て、ワクチンの安全性はWHOの世界的接種状況や重度の副作用(side effect)に関する報告にもかかわらず、引続き世界中で強い関心事項となっていることも事実である。また、欧州連合の分権化機関である欧州医薬品審査庁(European Medicines Agency:EMEA)は、11月20日に接種拡大勧告を再度行っている。
 世界的なパンデミックの中でH1N1ワクチン接種に係る緊急承認に伴うリスクは過去の臨床試験の経験を超えるものであり、承認緊急承認措置を行うのはカナダだけでなくわが国も同様(特例承認)である。
その意味で、改めて厚生労働省のワクチン専門サイト「 新型インフルエンザワクチンQ&A」「7.海外産ワクチンについて」の説明を読んだ。しかし、今のところそのリスクについては情報収集に努め、Q&Aの改訂は改めて行うといった説明があるのみである。
 いずれにしても国民への不安に応えられるワクチン接種に関する情報開示体制が緊急の課題であろう。


1.カナダの「2009H1N1ワクチン」の承認状況 やワクチン緊急回収の対応状況
(1) 「2009H1N1ワクチン」の承認状況
 カナダ連邦公衆衛生庁(Public Health Agency of Canada:PHAC)は、11月13日にGSK製造の免疫補助材使用(アジュバンテ)ワクチンの①“Arepanrix”と②非使用ワクチンの2種を承認するとともに、妊婦への早期接種を実施するためオーストリアの③「CSLバイオセラピー社」製“Panvax H1N1”の使用を承認した旨発表した。(筆者注3) (筆者注4)

(2)ワクチン接種開始後の副作用報告とGSKのワクチン回収
①GSKからカナダの各州の衛生当局に対し発せられた回収通知の内容は次のようなものであった。
 「GSKはカナダへ出荷した10月分のワクチン(October batch)の接種時に、重大かつ即時的アナフラキシー反応が見られた。同反応は通常10万回の接種で1回なのであるが今回は2万回に1回見られたためその調査のため回収要請を行う。」
 なお、メデイア記事によるとアナフィラキシー反応は短期的なもので患者は全員回復したとある。
②州別の対応は記事によると次のとおりである。
・マニトバ州:GSKからの警告前にワクチンの接種が終了しており、未使用回収済ワクチンは出荷63,000投与分のうち地方の保健所にあった630であった。
・オンタリオ州:1,500投与分を保有する保健当局は接種を開始しておらず、調査結果が明らかになるまで接種は棚上げとする。
・アルバータ州:同州の保健当局はワクチン配布を中止したが同州においてアレルギー反応の報告は行われていない。

2.カナダにおけるワクチン接種によるアレルギー反応の具体例
 以下の情報はあくまで医療専門メディア情報であるが参考にはなろう。
 なお、連邦公衆衛生庁の主席管理官であるデビッド・バトラー・ジョーンズ博士はカナダ国民向けのワクチン660万回投与分を準備しているが、現時点の重大な副作用報告は36件であると述べている。
(1)アレルギー反応の大部分はワクチン接種時の数分間に始まる。
(2)吐き気(nausea)、ひりひりする痛み(soreness)、頭痛(headaches)、発熱(fever)など温和な副作用が見られた(これらは季節性インフルエンザ・ワクチンでも見られる)。
(3)これらの症状を訴えた患者は、直ちに接種場所に待機していた医療関係者により処置された。なお、ワクチン接種後1人が死亡したと信じられているケースについてバトラー博士は死亡は最終的にワクチン接種によるものと関連づけられない点を強調している。

3.“Pandemrix”の特性とワクチン承認のあり方
 メデイアの記事から簡単に紹介する。
(1) “Pandemrix”は不活性化したウイルス・ワクチン種(A/California/7/2009(H1N1)v-like strain(X-179A))を一部含む。
(2) “Pandemrix”は1投与量ごとに肩の筋肉の注射される。2回目の投与は少なくとも3週間後に行われ、2回目の接種は6か月から9歳以下の子供に投与される。
(3) “Pandemrix”は現在のパンデミックを引き起こしている“A(H1N1)v”ウイルスのヘマグルチニン(赤血球凝集素(haemagglutinins):表面タンパク) (筆者注5)を極少量含んでいる。しかし、はじめに不活性化されているので症状を引き起こさない。
(4) “Pandemrix”接種で最も共通的(10回の投与で1回程度見られる)に見られる副作用は次のようなものである。
副作用:頭痛、関節痛(arthralgia)、筋肉痛(myalgia)
反応:硬化(hardening)、膨張(swelling)、痛み、赤らむ(redness)、熱やだるさ
(5)欧州委員会(EMEA)は、2008年5月20日にH5N1ワクチンとしてGSKの
“Pandemrix”を承認したもので、その後2009年9月29日にH1N1ワクチンとして承認したものである。

 最後に筆者はまったくの門外漢であるが、カナダ保健省自身が“Arepanrix”の暫定承認決定書において同ワクチンをH1N1パンデミック開始以前の段階で開発された試作品(prototype)または“mock”(模擬)vaccineと説明している。
「H5N1ウイルス」と「H1N1ウイルス」の疫学的に見た相違はよく分からないが、少なくとも将来「人」使った実験台といわれないようメーカーだけでなく内外の規制当局の慎重な取組みを期待する。

(筆者注1) 「アナフィラキシー」はⅠ 型アレルギーに分類される全身性疾患であり,時に生命を脅かすようなショック状態(アナフィラキシーショック)に陥ることがある。(川崎医療福祉大学「川崎医療福祉学会誌」vol.17、No.1 2007 71頁以下から引用)

(筆者注2)筆者自身疫学専門家ではないため輸入ワクチンの安全性について関係者のブログを参考までに調べた。輸入ワクチンでも免疫補助材使用のものと使用しないもの、さらに製造メーカー、国により免疫補助材を認めない国(米国)等について平易に説明されている「Sasayama’s Weblog」は参考になった。特に主要国で複数のワクチン開発の方法を採用している米国等の取組みの違いなどが明確に理解できた。

(筆者注3) 連邦保健省(Health of Canada)は、2009年10月21日に「食品・医薬品法(Food and Drug Act)」30.1条に基づき“Arepanrix”(AS03-Ajuvanted H1N1 Pandemic Influenza Vaccine)の暫定承認命令(Interim Order)を発した。その通知決定書では、今回の承認は緊急的な対処目的で限定的治験に基づくもので、同省は販売開始後においても同省および公衆衛生庁はワクチンの品質、非臨床・臨床データに基づく継続的モニタリングを行うと明記している。
 なお、PHACサイトではH1N1ワクチンの承認発表とあわせ、従来から指摘されているワクチンの安定化・保存材である水銀物質「チロメサール(thimerosal)」の健康上の問題指摘に対する説明や安全性や効果等に関する解説を行っている。しかし、「チロメサール」とワクチンとの関係については横浜市衛生研究所が専門的な視点で次のとおり解説している。「チメロサール( thimerosal )は、殺菌作用のある水銀化合物で、以前はワクチンに保存剤として、よく添加されていました。しかし、最近では、日本でも、チメロサール( thimerosal )を添加しないワクチンや、チメロサール( thimerosal )を減量したワクチンが増え、チメロサール( thimerosal )をワクチンの保存剤としてできるだけ添加しない方向にあります。」
 このような説明を読むにつけ、輸入ワクチンのリスク問題は解決していないように思う。

(筆者注4) EU加盟国におけるワクチン市販後の監視体制とはいかなるものであろうか。専門家の解説を探してみた。
「英国では、MHRAのVRMMが国内の集計を実施:①ワクチン・メーカーからの情報、②臨床医が発行するイエローカード(予防接種証明書)を用いる。ドイツではPEIのpharmacovigilance部門が、全国の臨床医とワクチン・メーカーからの情報をon lineで収集。メーカーからのものが大部分で10~15%が臨床医から入手。
これらEU各国の情報がEMEAに集められ、相互にデータの把握が可能。一部のデータはインターネット上で公開されている。
一方、わが国ではメーカーの副作用情報は「独立行政法人医薬品医療機器総合機構健康被害救済部」、臨床医情報は「厚労省医薬食品局総務課医薬品副作用被害対策室」ということでその情報統合化が課題である」と説明している。(富山県衛生研究所 倉田毅:2008年12月5日に筆者が一部加筆)
 なお、英国のイエローカード制度(正確には「イエローカード副作用報告システム(Yellow Card Scheme)」)についてはアポネット研究会が詳しく解説している。わが国でもサリドマイド事件等多くの薬害被害問題が起きているのであるが、国民の理解向上策をいまだに模索しているのが現状である。

(筆者注5)ワクチン効果と「 ヘマグルチニン」についてはわが国でも多くの解説があり参照されたい。筆者は愛知県薬剤師会のサイトを読んでよく理解できた。


〔参照URL〕
http://www.phac-aspc.gc.ca/alert-alerte/h1n1/vacc/rec-h1n1-eng.php
http://www.dancewithshadows.com/pillscribe/glaxosmithkline-recalls-a-lot-of-h1n1-vaccine-pandemrix-from-canada-due-to-side-effects/
http://www.who.int/csr/disease/swineflu/notes/briefing_20091119/en/index.html
http://www.who.int/csr/disease/swineflu/notes/briefing_20091119/en/index.html

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2009年11月20日金曜日

カリフォルニア州司法長官とウェルズ・ファーゴの子会社3社のARSに関する14億ドルの返還和解が成立

 
 11月18日、カリフォルニア州司法長官エドモンド・G.ブラウン(Edmond G. Brown Jr.)とウェルズ・ファーゴの子会社3社が行ったオークション・レート証券(auction-rate security:ARS)を購入した投資家への14億ドル(約1,232億円)の返還和解が成立した。
 このARS取引をめぐる投資家への返還について、例えば2008年8月21日にメリル・リンチがニューヨーク州司法長官やSEC等と和解しており、同年7月24日に同州のクオモ司法長官はUBSに対し民事訴訟 を起こした後、8月11日に194億ドル(約1兆7千億 円)で和解するなど一連の和解事例があげられる。(ニューヨーク州の司法省長官サイトで見てもARSをめぐる和解は2008年7月以降続いており、今回のカリフォルニア州の和解もこれら一連の司法機関や法執行機関対応であることはいうまでもなかろう。
 一方、2009年3月30日、ニューヨーク連邦地方裁判所はUBSに対するクラス・アクションについて棄却命令(dismiss order)(筆者注1)を下した。その理由は、前述した2008年8月11日付けのニューヨーク州や連邦の金融監督機関や法執行機関のUBSとの和解で、流動性のない証券を持たされた原告自身すでにUBSによる額面によるARSの買取を選択した以上、買値全額を受け取っているというものである(購入時1株当り25,000ドル支払い、和解により1株当り25,000ドル受け取る)。(筆者注2)
 今回のブログは、カリフォルニア州の和解のニュース・リリースの概要とそもそも問題となった“ARS”とはいかなる取引でどのようなリスクがあるのか等について改めて簡単に整理する。特に、リリースの最後に指摘しているとおり、2005年3月にSEC、米国四大会計事務所および米国財務会計基準審議会(FASB)がいずれも“ARS”は現金同等と扱うべきでないことを決定した警告をウェルズ・ファーゴは無視した点が最大の起訴事由といえる。
 また同様な監視強化の動きとしては、11月16日に証券監督者国際機構(IOSCO) (筆者注3)専門委員会は、市中協議文書「リテール投資家に対する販売時(Point of Sale)の販売時の開示に関する原則」を公表し、広く意見を求めている(コメント期限は2010年2月16日)。本文書は集団投資スキーム(CIS)について、情報開示に関する原則を提示するものでわが国の金融庁も概訳し取扱機関の関心を求めており、関連情報として追記する。
 なお、今回紹介する返還和解だけでなく証券詐欺行為に対し米連邦裁判所陪審が2008年8月17日、クレディ・スイス・グループの元ブローカーで、証券詐欺などの罪で起訴されたエリック・バトラー被告(37歳)にすべての起訴事実について有罪の評決を下すなど、米国の金融危機を背景とした証券取引詐欺訴訟は多くの事例を見るが、今回は省略する。


1.カリフォルニア州司法長官等の投資家に対する返還金和解のリリース内容
 以下のとおり仮訳した。その投資家保護の意義と法執行機関としての問題意識が表れていると感じた。
 
 カリフォルニア州司法長官エドモンド・G.ブラウン(Edmond G. Brown Jr.) は本日“誤解を招く投資アドバイス(misleading advice)”に基づくオークション・レート証券を購入した投資家、慈善団体、中小企業に対しウェルズ・ファーゴの子会社3社に対する14億ドルの画期的な和解について合意した。

「ウェルズ・ファーゴは、確固たる利益と流動性を約束してオークション・レート証券を購入するよう数千の投資家を勧誘したが、市場が崩壊した時、これら投資家はのけ者にされ置き去りにされた。誤解を招く助言に基づき投資家はこれらのリスクのある証券を購入したのである。今や、一般投資家や中小企業は最終的にこれらの資金を取り戻せる。」
 
 本日の和解に基づき、ウェルズ・ファーゴは全米の数千の小口顧客、慈善団体や全米の中小企業に対しいまや流動性のないARSをカリフォルニア州の投資家分の7億ドルを含む14億ドルを買い戻すことになる。同時にウェルズ・ファーゴはカリフォルニア司法長官府にかかる法律手続費用および将来にわたるモニタリング費用(筆者注4)も支払う。

 2008年2月、全米のARS市場は凍りつき、その投資家は自分が保有する証券の売却が不可となった。2009年前半に長官はカリフォルニア州の証券法した理由で、ウェルズ・ファーゴの子会社である「ウェルズ・ファーゴ投資、LLC(Wells Fargo Investments,LLC)(筆者注5)」、「ウェルズ・ファーゴ仲介業務サービス、LLC(Wells Fargo Brokerage Services,LLC)」および「ウェルズ・ファーゴ金融機関向け証券サービス、LLC(Wells Fargo Institutional Securities,LLC)(筆者注6)」を起訴した。(筆者注7)(筆者注8)司法長官の起訴はウェルズ・ファーゴが重要な事実を省略して、ARSについて繰り返し安全で流動性があり現金と同様の投資方法であるといった誤った説明を行い販売してきたことを理由とする。また、ウェルズ・ファーゴは販売代理店に対する適切な監督、教育を怠ったとともに不適切な投資の販売行為を行ったことも起訴事由に当たる。

 本起訴は、ウェルズ・ファーゴがARSのリスクや過去におけるオークションの失敗という産業界や社内の警告を明らかに無視した点を争うものである。
 2005年3月にSEC、米国四大会計事務所および米国財務会計基準審議会(FASB)がいずれも“ARS”は現金同等と扱うべきでないことを決定している。これらの警告にもかかわらず、ウェルズ・ファーゴは安全、流動性があり現金類似の投資対象として2008年の前半に全米のオークション市場が凍結するまで積極的に販売し続けていた。

 また、ウェルズ・ファーゴは“ARS”をマーケテイングや販売する際に“ARS”がどのような投資商品でオークション手続がどのように機能するかについて、そのリスクやオークションが失敗に終わったときの当然の結果について情報提供を行っていなかった。

2.“ARS” の商品スキームおよびリスク発生の経緯と具体的リスク
(1)わが国のオークション・レート証券(ARS)の定義
 わが国で“ARS”について正確に説明した資料を探してみた。2008年8月8日付けのロイター通信(日本語版)は次のように米国の現状を解説している。

「米連邦政府や州政府がオークション・レート証券(ARS)の販売をめぐり、大手金融機関の取り締まりを強化している。ARSは当初、安全で流動性の高い金融商品として販売されたが、世界的な信用収縮の影響で今年2月に市場がまひし、投資家が、保有するARSを売却できない状態となっている。

ARSの仕組みやこれまでの経緯は以下の通り。
・ARSは長期債の一種。1984年に初めて発行された。課税・非課税の双方がある。金利は短期市場金利に連動し、一定期間ごとに入札で見直す。入札は、7日、28日、35日ごとに行うケースが多い。
・発行体にとっては、短期金利で長期資金を調達できる利点がある。ARSの市場規模は3300億ドル。米国の州・市・公的機関による発行が、全体の半分を占める。残りは、クローズドエンド型ファンド、企業、教育ローン機関などが発行していた。
 ・ARSは、現金に近い性質を持つ流動性の高い金融商品として販売され、通常の預金よりも高い金利を求める個人投資家、富裕層、企業などが購入していた。
・今年に入るまで入札が不成立になるケースはほとんどなかったが、サブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅ローン)問題で業績の悪化した大手金融機関が、ARSの買い入れを中止したことで、今年2月以降、入札が成立しないケースが相次いだ。多くのARSには金融保証会社(モノライン)の保証が付いており、モノラインの経営悪化も、ARS市場の縮小に拍車をかけた。」
 ・トムソン・ロイターのデータによると、過去8年間ARSの引受額が多かった金融機関は、シティグループ、UBS、ゴールドマン・サックス、RBC、モルガン・スタンレーリーマン・ブラザーズLEH.N、JPモルガン、ワコビアWB.N、メリルリンチMER.N、バンク・オブ・アメリカなど。
 ・ARS市場の混乱で、ARSの金利は長期金利を上回る水準に跳ね上がった。投資家は保有するARSを換金できず、発行体は高金利の支払いを余儀なくされた。入札が不成立となったニューヨーク・ニュージャージー港湾公社のケースでは、20%の金利支払いを迫られた。(以下略す)」

 一方、わが国の“ARS”の解説例を見てみよう。2008年8月14日付けフジサンケイ・ビジネスの記事は次のとおり紹介している。

「ARSは、州や市といった自治体などが発行する長期債券の一種で、1984年に初めて発行されました。金利は短期市場に連動し、一定期間を過ぎると入札で金利を再び設定します。
 発行側としては、短期市場金利で長期資金を調達できるメリットがあります。発行体は自治体のほかにも、信用力の高い企業や教育ローン機関なども発行し、その市場規模は3000億ドル(約33兆円)にものぼります。発行体の信用力も高いことから、金融市場では「安全性が高い金融商品」として知られています。通常の預金よりも金利が高いため、個人投資家や企業などが購入していたようです。
 安全性が高いのに、米大手金融機関が買い戻しているのはなぜでしょうか。
 実は、金融機関側の販売方法に問題があったとされています。投資家に販売する際、損失のリスクがあるにもかかわらず、「換金性が高く、現預金と変わらない」などと説明したことを自治体などは問題視しているようです。
 もともと換金性が高かったためこうしたセールストークになっていたようですが、昨年夏に端を発したサブプライム(高金利型)住宅ローンの焦げ付き問題により、ARSの神話が徐々に崩れていきました。(以下略す)」

 以上のように、ARSは米国における金融破たんの影響の広がりと深さが多くの投資家を巻き込んだ事例の1つといえる。
 翻って、わが国の詐欺的証券アドバスに対する司法機関や金融監督機関の対応はどのようなものといえようか。ためしに金融庁のサイトから「オークション・レート証券」や「ARS」を検索してみた。結果は「ゼロ」であった。

(筆者注1)筆者自身、スタンフォード大学ロースクールの「クラス・アクション」専門解説サイト(正式名は“The Securities Class Action Clearinghouse”)を定期的に読んでいるが、この件は忙しさに紛れ読み飛ばしていた。改めて調べると、ARSをめぐる多くのクラス・アクションが提起されており、3月30日の裁判所命令の対象となった事件は2008年3月21日に申し立てられた証券法違反を理由(告訴状参照)とするものである。以降の裁判経緯や決定内容等がわかりやすく一覧になっている。

(筆者注2)、USBに対する複数クラス・アクションが統合されており、3月30日のニューヨーク連邦地方裁判所の判決はすべてを棄却することを承認するものである。なお、判決後20日以内に原告は再告訴できるのであるが、原告は5月6日に同裁判所に再告訴している。その詳細は同ロースクール・サイトでは確認できなかった。

(筆者注3) 1.証券監督者国際機構(International Organization of Securities Commissions :IOSCO、通常イオスコと呼ばれます)は、世界109の国・地域(2008年11月現在)の証券監督当局や証券取引所等から構成されている国際的な機関であり、以下の4つを目的としています。
•①公正・効率的・健全な市場を維持するため、高い水準の規制の促進を目的として協力すること。
•②国内市場の発展促進のため、各々の経験について情報交換すること。
•③国際的な証券取引についての基準及び効果的監視を確立するため、努力を結集すること。
•④基準の厳格な適用と違反に対する効果的執行によって市場の健全性を促進するため、相互に支援を行うこと。
(金融庁サイトの説明から一部抜粋引用。なお、改めて注意しておくが“IOSCO”を、「通常イオスコ」と言うのはわが国だけである。海外では恥をかくので注意して欲しい。)

(筆者注4)「将来にわたるモニタリング費用」とはいかなるものか。これに類した表現を含む米国の類似の和解判決を読んでみた。正確な金額は不明であるが、おそらく和解内容の遵守状況を法執行機関として監視する諸費用であり、環境破壊裁判では汚染状態をなくす費用等が例示されている。

(筆者注5)米国における“LLC”とはいかなる経営組織をいうのであろうか。「有限責任会社」と言う訳語が一般的に使われているが、組合(partnership)や会社、法人(corporation)の違いは何か。
 現中央大学法科大学院教授の大杉謙一氏が2001年1月に発表した「米国におけるリミティッド・ライアビリティー・カンパニー(LLC)およびリミティッド・ライアビリティー・パートナーシップ(LLP)について」(日本銀行金融研究所/金融研究/2001.1)でわが国の旧有限会社等と比較しつつ正確にまとめられている(なお、2006年5月1日施行の会社法により有限会社法は廃止され、有限会社の新設は出来ない点に留意されたい)。一言で言うと「LLCはスモール・ビジネスを主として念頭においた組織形態であり、小規模会社に私法上というよりもむしろ税法上の恩典を与えることを主目的として導入された組織形態」とある。今回被告となったウェルズ・ファーゴの子会社はウェルズファーゴ経営実体の業務別担当部門そのものであることになり、今回の和解においてウェルズ・ファーゴ・グループ自体の責任を前面においたリリース等の意味がやっと理解できた。

(筆者注6) “Wells Fargo Institutional Securities,LLC”は正確にはウェルズ・ファーゴ証券の機関投資家担当の子会社のようである。

(筆者注7)起訴状(12頁)によると第一訴因(first cause)はカリフォルニア州法人法(California Corporations Code)25401条にもとづく証券詐欺(security fraud)、第二訴因は25216(a)条にもとづくブローカー・ディラーによる証券詐欺(security fraud by a broker-dealer)である。
25401. It is unlawful for any person to offer or sell a security in this state or buy or offer to buy a security in this state by means of any written or oral communication which includes an untrue statement of a material fact or omits to state a material fact necessary in order to make the statements made, in the light of the circumstances under which they were made, not misleading.

25216. (a) No broker-dealer or agent shall effect any transaction in, or induce or attempt to induce the purchase or sale of, any security in this state by means of any manipulative, deceptive or other fraudulent scheme, device, or contrivance. The commissioner shall, for the purposes of this subdivision, by rule define such schemes, devices or contrivances as are manipulative, deceptive, or otherwise fraudulent.

なお、カリフォルニア州の法律検索のイロハについては11月13 日の筆者ブログ 2.(2)を参照されたい。 

(筆者注8) わが国では“CALIFORNIA CORPORATIONS CODE”自体一般的でないので簡単に補足する。
「カリフォルニア州の法人の設立根拠法は、CALIFORNIA CORPORATIONS CODEで、各種法人や非法人組織の規定も整備されています。
 Title 1.CORPORATIONS(会社)
 Title 2.PARTNERSHIPS(組合)
 Title 2.5. LIMITED LIABILITY COMPANIES(有限責任会社)
 TITLE 3.UNINCORPORATED ASSOCIATIONS(法人化されていない組織)
 Title 4~ Title 5 省略
 カリフォルニアの会社設立は州当局(Secretary of State)への法人設立の届出(110条)を行い、届出から90日以内に受理され効力が発行します。設立の届出から90日以内に定款の内容の一定の情報(STATEMENT OF INFORMATION)について届出が義務付けられています(1502条)。
(東京フィールド法律事務所のブログから引用)

〔参照URL〕
http://ag.ca.gov/newsalerts/release.php?id=1834&
http://ag.ca.gov/cms_attachments/press/pdfs/n1719_wellsfargoaffiliates.pdf
http://www.leginfo.ca.gov/cgi-bin/calawquery?codesection=corp&codebody=&hits=20

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2009年10月20日火曜日

欧州委員会「情報社会・メデイア担当委員」ヴィヴィアン・レディングのデジタル時代の近未来課題

 
 2009年10月6日に欧州委員会の「情報社会とメデイア担当委員(the European Commission in charge of Information Society and Media)」ヴィヴィアン・レディング氏(Viviane Reding)が「インターネットと欧州のデジタル戦略に関する近未来の課題(The Future of the Internet and Europe’s Digital Agenda)」と題する討議を立ち上げた。
 わが国でもインターネット社会の近未来課題として「ソーシャル・ネットワーク(web 2.0)」、「クラウド・コンピュータ」や「3Dやヴァーチャル社会」等が一般新聞にも紹介され始めている。しかし、プライバシー保護やセキュリティの視点から論じたものが多く、インターネットの限界を見据え、デジタル社会の「通信・放送」といった観点から本格的に論じたものはまだ数少ないのが現実である。同氏は、特にEU加盟国の電気通信監督機関の取組み課題という観点から本格的に論じ、例えばEU内の携帯電話会社によるVoIPのブロッキングの実態という具体的に踏み込んだ課題を提起するとともに「インターネットの中立性確保や通信量の限界」さらに「本のデジタル化」「デジタル・コンテンツの主導」等というICTの理念や新たな課題を立法論と併せ論じたものであり、欧米では多くの専門メディアで紹介されている。
 本ブログで取り上げた背景は、単なる翻訳作業ではなく同氏の提起している欧州内での政策議論の背景や事実関係を正確に理解できるよう筆者なりに注書きで補強する目的で取り上げたものである。細部に誤解等があろうが関係者による補正の指摘があればなお望ましい。
 なお、わが国の通信・放送委員会(日本版FCC)構想が新たな論議を呼ぶであろうことはいうまでもないが、FCCやFTC(証券取引委員会)等欧米の「委員会制度」の導入の前提として中央官庁の機能からの独立性の前提等正確な機能分析が必要であり、この問題は別途解説したい。(筆者注1)
 

1.序論
 現存の人々の記憶にある限り最悪の金融経営、失業率が引続き上がる等経済危機がEUや家族に対し極めて破壊的な影響を持ち続けている。2008年11月26日に欧州委員会が提案した欧州経済回復計画(A European Economic Recovery Plan)(筆者注2)の中心にあるのは「迅速な投資の必要性(smart investment)」である。私はこの「未来への投資」の意味するところは、すなわちEUが景気後退に続く成長段階に入るためにその位置に到達することを保証することにあると思う。従って、おそらく将来の成長と生産性の基盤を形成するための迅速な投資が最も重要な分野であるが故に、本日のフォーラムにおいてEUのデジタル戦略の近未来について討議することは極めてタイムリーなことである。

2.インターネットの近未来
 過去10年以内にインターネット(以下「ネット」という)は新たな技術装置(novel technical gadget)の利用から先進国の経済システムの中核に成長した。これはネットが持つ水平的な本質すなわちどこでも使え、産業界全体を通じ、ビジネスやレジャーという分野を問わず経済、社会面で利用されていることにある。従って、EUや米国の双方において生産性向上の半分以上の原動力となった。ネットは情報・通信技術を通じビジネスや経済の広い範囲さらに市民や消費者にとっての社会的利益をもたらすメディアである。
 我々がすでに理解しているとおり、ネットの成長は目を見張るものがあるが、単なる成長だけではなく「変化」し続けるのである。ネットは本来コミュニティの専門ユーザーのためのコンピュータ・システム間の情報仲介を意図して設計されたものであり、無限に増加するユーザー数、アプリケーションやビジネス・モデルに耐えられないという本質を持つ。
 ネットの構造的な制約・限界はますます世界中で認識され、ネットの近未来は世界中のICT政策協議の主要テーマとなっている。最近開催された「インターネット経済の未来(the Future of the Internet Economy)」と題するOECD閣僚会議(OECD Ministerial Conference)(筆者注3)において、OECD加盟国は社会・経済的重要性に鑑みてアプリケーション開発およびネットをより堅固、多用途化する戦略を支援し、かつ新しい活用を包含・最適化した統治モデルに合致した準備を支援するという取組み課題を再確認した。
 欧州委員会は政策方針立案と研究への資金援助の双方において支援を行ってきた。後で政策方針について言及するが、まず初めにネットの未来の調査・開発(R&D)に関するEUの第7次フレームワーク計画(the 7th Framework Programme)(筆者注4)について説明したい。第7次フレームワーク計画のICTプログラム(筆者注5)は2年以上にわたり約9億ユーロ(約1,188億円)をもってネットの近未来のさまざまな側面を目指すICTプロジェクトの最適管理(portfolio)を現在支援している。ICT研究の中でネットの近未来研究は2011年から2013年の極めて優先度の高いテーマとして残されている。
 近未来のネットのR&Dは、とりわけソーシャル・ネットワーク(web 2.0)、セキュリティやプライバシー問題、可動性やブロードバンド接続ニーズ、「モノのインターネット(Internet of Things)」(筆者注6)、分配型サーバー・ファーム(サービスのクラウド・コンピューティング)および新しく膨大な形式・量を持つコンテンツ(3Dやヴァーチャル世界)の出現でさらに駆り立てられている。

 これらの開発は、ネットのインフラストラクチャーの容量の膨大な増加を必要とする。ネットのトラフィック量は年間60%増加しており、可動式端末についていえば成長率は年間100%である。これに対応して、ネットの通信量の優先付け技術(traffic prioritization techniques)はネットワーク容量を最適化するとともに過密による混乱を回避するため開発されている。しかしながら、一部の通信量を優先させることは残りの通信部分を制限することになり、特に競争上の影響に関し慎重な対応を保持することが不可欠といえる。
 欧州委員会は、EU内におけるインターネットが公正な競争と消費者がその利益を理解できるようオープンかつ政治的(筆者注7)に中立な特性の保持を最優先する。

 一般的にみてヨーロッパの消費者とプロバイダーは、今まさにその議論が始まった米国に比べネットの中立性に関し全体的に見て比較的良い位置にあるように思う。これは競争促進的な(pro-competitive)EUの監督・規制のおかげでヨーロッパの消費者は強引に規制解除された米国の通信市場に比べ、サービスプロバーダーをより競争的に利用することが可能となっているからである。すなわち欧州委員会と加盟国の通信規制機関は、過去数年間消費者の申出内容をより透明にし、かつ段階的に競争を強化することにより競争的通信市場を共同して開発することを保証してきた。

 しかしながら、我々が市場と技術開発の間の過程において起こりうるインターネットの中立性における新たな脅威に対し非常に用心深くとらえる多くの理由がある。
 EUの数カ国の携帯電話会社によるVoIPサービスのブロッキングや通信差別(discrimination)がその例である。これは、2007年11月13日の欧州議会において本委員会が提案し現在、欧州議会(Parliament)およびEU理事会(the Council)で最終合意(立法化)される予定の「電気通信パーケージ(Telecoms Package)」(筆者注8)改革の背景である。この改革の実現により、EUの電気通信市場における消費者にとっての競争性や市場力がより強化されるとともに非競争的な行動(このEU競争法上の手段についてはすでにEC条約(ローマ条約(筆者注9))第81条、第82条により規制されている)(筆者注10) に対し追加的安全策を提供することが可能となる。
 加盟国の通信監督機関は、とりわけエンドユーザーがアクセスや情報の配信を受けもしくは自らの選択権にもとづきアプリケーションやサービスを実行できる能力の促進を求められるといえる。このことはEUにおけるネットの「中立特性」の強化に貢献するであろう。
 競争的な力のみではネットの開放の安全保障に不十分な場合、当該加盟国の通信監督機関はEU電気通信改革の下で、ネットワーク送信サービス(EUの電子通信ネットワークの普遍的サービスと消費者の権利に関する指令により(ユニバーサル・サービス指令(筆者注11)第22条第3項))(筆者注12)その最小限の品質を設定することで市場への介入が可能になるであろう。これは消費者と向い合った新しい透明性要求によって支援されることになろう(第21条および第22条)。
 モバイルのブロードバンド・ネットワークにおけるVoIPのブロックの例に関し、2009年7月1日発効の第2次EU Roaming Regulation(筆者注13)はWiFi、VoIPやInstant Messaging Services等の代替手段の利用や技術の出現について何ら障害となってはならない。従って、ネットの中立性を支持するこれらの改革はしばしば過小評価されるが、電気通信改革や欧州議会議員にとって非常に重要な点であるだけでなく、多くの欧州議会の大臣は同Regulationの立法過程における対応に関する電気通信パッケージの言い回しにおいて強調することがふさわしいと見ている。
 私は中立性を高めるためこれらの新しいツールをうまく利用すべきであると考える。私自身一部の携帯電話会社がVoIPのブロッキングを継続しているケースに関し、この根拠に基づき行動する用意がある点を述べている。さらに、私は2010年に本委員会がこれらの新しい道具をいかにうまく利用するか広い視点から論議が深まることを期待する。

 新しい電気通信パッケージはネットの中立性につきかなり体力を労して応えている。しかしながら、私は技術と規制がこの数年さらに発展することも知っている。そして、私はネットの中立性に関し本当の脅威が来たときは常にその防御の最前線に立つと考えている。

 あなた方は、私および欧州委員会が全体として緊密な精査に基づく開発を維持しかつ欧州議会やEU理事会に対しネットの中立性を実施する状態につき定期的な報告をあてにすることが出来る。

3.欧州委員会の近未来デジタル課題とは(Future Commission’s Digital Agenda)
 バローゾ欧州委員会委員長と私は、すでに立法措置の目標となる「真のデジタル単一市場(genuine digital single market)」の主たる障害と取組むことを目的とした明確な「EUのデジタル課題」を定義する次期任務(next Commission)への取組みを発表した。消費者は完全な汎ヨーロッパ・サービスの利益を得られなければならず、また企業は新しい市場へのアクセス権を得なければならない。今日、単一市場の重要な問題は「オンライン」に関する問題で起こる。もし我々が電気通信規則の近代化やブロードバンドの立ち上り(take-up)の推進、超高速で競争的かつ安全な次世代ネットワークに関する仕事に関しネットに基づくサービスを巻き取らないとすると、単一市場はひそかに弱体化することになろう。しかし、目的地に進むに価値がないとすれば最善の高速道路が十分でないがゆえに、デジタル・サービスやデジタル・コンテンツにより簡単にアクセスできることが必要となる。
 今日デジタル・サービスの自由化の動きは、加盟国の国内レベルでの細分化された規則により著しい障害に出会っており、この問題が解決されない限り企業や消費者は知識経済(knowledge economy)の最大の可能性に達し得ないであろう。消費者側における信頼性の欠如の問題の解決を支援するため、メグルナ・クネワ消費者保護担当委員(Meglena Kuneva)と私は2009年5月に消費者のオンラインに関する諸権利について説明する多言語オンライン情報ツール“eYou Guide”を立ち上げた。
 私は“e-Commerce”がネットの生命力であり、すべての関係者が残されたままの障害に協力して取組むべきとするICOMP(Initiative for a Competitive Online Marketplace)(筆者注14)に賛同する。e-Commerce市場で活動する経営者たちを支援するため「e-Commerce指令(the eCommerce Directive) 」(筆者注15)に追加されるべく審議が行われている「消費者の権利に関する指令案(the Draft Consumer Rights Directive)」(筆者注16)を優先すべきであり、私は欧州議会に支援を再確認した。消費者および単一市場が問題となる時、SMSやデータローミング規制の採択の時と同様、欧州議会は我々にすべてのヨーロッパの消費者の利益のため何をなすべきかまた欧州議会が迅速な採択を行うべきか示してくれた。しかし、デジタル・サービスの単一市場化に関し我々がデジタル・コンテンツの越境利用規定についてみる時、そのギャップはさらに明確になる。デジタル技術は創造的仕事のコミニケーションをより容易にさせ、免許権に関する伝統的実践内容はその限界に到達すると思われる。デジタル技術は価値連鎖(value chain) (筆者注17)において新たな役者と役割をもたらすとともに創造的コンテンツの手続や流通に関する条件を変えてきている。コンテンツ部門は著者、プロデューサー、出版社、著作権管理団体(collecting societies)および配給会社(distributing companies)等「伝統的なプレイヤー」に限定されない。消費者は、自らがコンテンツを作り出すいわゆる「生産消費者(prosumers)」となってオンライン・メデイアにおいて次第に重要な役割を演じるとともに一般的に「メデイア多元論(media pluralism)」と民主主義の利益に対するサービスを供給する。
 しかし、ビジネス・モデルと技術供与はこれらの新しいコンテンツに十分適合できないため、このことが法的オンライン・コンテンツの有用性を制限するだけでなくニューメデイア・サービスの開発・供給そのものを停止させてしまう。
 我々の未来は新しいタイプのメディアで満たされるであろうが、今日ニューメデイア・サービスはコンテンツ権の明確化のため極めて複雑で割高でかつコストがかかる手続に直面している。その結果、プロバイダーは特定のEU加盟国の大国のユーザーのみ(小国のユーザーにとって不利益なかたちで)サービスを提供することを決定する。正直に言おう。デジタル・コンテンツの供給に関し、EUは世界最大の市場であること主張できない、27の別々の市場なのである。このことはこれらの問題に取組む際に米国を目標とする法的手段における競争的有利性に貢献するのである。

4.本のデジタル化への挑戦(The challenge of books digitisation)
(1)本のデジタル化と“Orphan Works”
 私が第一におく優先課題は、①大量の本のデジタル化、②著作権の保護期間が存続しているが著作権者の識別・連絡先の特定ができない著作物すなわち“Orphan Works”(筆者注18)問題である。我々の文化遺産がEU市民にとって近づきがたいままであることは容認できない。文化遺産は1クリックで読めてかつそうあるべきである。欧州の出版社や著者の権利が尊重されかつ公正に報酬が保障されることが可能となる欧州著作登録(European Rights Registry)(筆者注19)または欧州著作権登録システム(European System of Rights Registries)を含む「本のデジタル化」を奨励する一連の欧州規則を新たに設けるべきである。そのためには既存の“ARROW(the Accessible Registeries of Rights Information and Orphan Works)”や“Europeana”(筆者注20)のような革新的プロジェクトの役割を強く認識することが求められよう。
(2)コンテンツ・オンラインでの主導権
 第二に、我々はユーザーが自由に買えまたどこでも楽しめ、いかなるオンライン・プラットフォーム上支払対象となるコンテンツに関するルールと調和した市場が必要である。
 コンテンツ・プラットフォームに関する今回の委員会の「付託・要請文(mandate)」の最後の前でコンテンツ・オンライン・プラットフォーム(Content Online Platform)(筆者注21)の議論の結果を考慮し、チャーリー・マクグリービー委員(Commissioner Charlie McGreevy)と私はコンテンツの権利者、インターネット・サービスプロバイダーおよび消費者の利益に関し、デジタル単一市場への道を敷き詰めるにあたり一連の可能な政策や立法上の選択肢に関する「考え方をまとめた文書(reflection paper)」(筆者注22)と合せ公の議論を刺激したい。
 我々は、デジタル・コンテンツの消費者ニーズと権利者の間のバランスについて再評価するため働くつもりである。その主要目的は、欧州のどこで制作されたものでもデジタル・コンテンツに簡単かつ楽しくアクセスできることとなろう。
 我々は、EUの他の委員会と協同してコンテンツ・クリエーターが消費者の高い期待に合致させる一方でそれらのクリエイターの権利を保証するつもりである。サービス・プロバイダー、消費者および権利の保有者にとって共に仕事を行い、バランスの取れたアプローチを実現することが最善の方法であり、また私はICOMPにこのような過程に参加するとともに前向きに取組むよう要請したい。

5.情報社会におけるプライバシー問題(Privacy in the Information Society)
 しかし、欧州のデジタル課題はコンテンツ問題に限るべきでない。すなわち、次期委員会が目指すべき取組み課題として次のような切迫した課題がある。私が極めて注意を払っている1つの問題は「オンライン環境におけるプライバシーと個人情報保護問題」である。私はプライバシーに関し特定の意味を持つ3つ-①ソーシャル・ネットワーキング、②行動ターゲティング広告(筆者注23)、③RFID(ICチップ)-技術・商業面の開発に関する問題を引用したい。
第一に、ソーシャル・ネットワーキングは参加者がどこにいたとしても新しいコミュニケーションの利用形態面および人々を集めるという特性において強力な潜在能力を持つ。しかし、ネットワーカーは自分のネットワーク上に掲載されたあらゆるウェブ上のプロフィールについて誰がアクセスしてどのように使用しているかに認識しているであろうかを知りえない。私の意見では「プライバシー」保護はソーシャルネットワーキング・プロバイダーとそのユーザーにとって最優先の問題であるべきである。私は少なくとも未成年のプロフィールについてはネット検索エンジンは不履行かつ利用不能でなければならないと固く信じる。欧州委員会は、すでにプロバイダーの自主規制によりソーシャル・ネットワーキングサイトへの未成年に関し注意して扱うよう呼びかけている。私はすでに対処しなければならない時のため「新規則」を準備している。しかし、それは他に手段がない場合のためである。
 第二に、欧州委員会に対し繰り返し指摘されているプライバシー問題が「行動ターゲティング広告」の問題である。それは、広告目標でより明確なかたちでネットユーザーの閲覧状況をモニタリングするシステムであり、当該個人の事前の同意がある場合のみ使用が可能である。
 「透明性」と「選択」がこの今回の討議のキーワードである。本委員会は我々のプライバシー権に対する尊重を保証するため「行動ターゲティング広告」について緊密にモニタリングしている。私はEU加盟国がこの義務を怠ったときとるべき行動に躊躇するつもりはない。その初めての例が、本委員会が「Phorm事件」(筆者注24)で英国に対して取った行動である。
 第三に、プライバシーに影響する最新の技術傾向は有名なICチップ(RFID)である。RFIDはビジネスをより効率的またよりよく組織化するものであるが、私はもしそれが 消費者に対して使われる(on the consumers)のではなく、消費者によって使われる(by the consumers)のであれば欧州において歓迎されると信じる。いかなる欧州人もどのような目的で使うのか予め説明を受け、またその除去やスイッチを切るという選択肢なしにその所持物にICチップ1つを登載すべきでない。人々によって受け入れられたときのみ「モノのインターネット」は機能するであろう。
 我々は現在EUの電気通信規則の改正と合せEUのプライバシー法の強化しており、それらにおいて個人情報のコントロール権に確実化が必要なとき新しい主導とともに戻るつもりである。とりわけ、これらの個人情報が影響するであろう第三国(筆者注25)と提携しつつ実行することになろう。

6.欧州のウェブサイトに対するより多くの信頼
 デジタル欧州戦略(Digital Europe Strategy)(筆者注26)は、ヨーロッパのウェブサイトが消費者の信頼を組み込むため自己規制システムの開発に新しい機動力を与えることになろう。消費者の信頼は欧州のデジタル・サービスの信頼性と品質を保証する信頼性付与機関(European trusted authorities)または「トラスト・マーク(trustmarks)」を通じ構築される。欧州のトップ・ドメイン名である“dot.eu”は、EU内の「eu.ドメイン」に登録する各企業が欧州の法律に従わねばならないためこの成功が重要な点である。
 “.eu”を探すと何らかの形式で基本的な保護が与えられ高度な規格に合致する企業は“.eu”を採用することで差別化できる。「トラスト・マーク」問題は非常に長い期間検討されてきたが欧州システムとしてはほとんど進歩していない。それは産業界の団体や消費者団体―特に私は欧州消費者連盟(the European Consumers’ Organisation: Bureau européen des unions de consommateurs:BEUC)を想定している-は私が信じるところの持続可能性のある欧州トラスト・マーク(海外でインターネット・サーフを行う我々のユーザーに信頼や巨大なオンライン市場の利益を与える)の確立のためともに集合すべきである。その必要があれば、本委員会は行動を起こす準備が出来ている。

7.ブロードバンド・インターネット(Broadband Internet)
 デジタル課題は新しい委員によってさらに発展されるであろうし、私は彼らの決定すべきことを先取りしないよう慎重であるべきである。しかし、私が取るであろう1つのリスクはブロードバンドが近未来の課題の重要な役割を果たすと確信して予測することである。私は5年間の欧州委員会の情報社会とメディア担当委員として、部分的ではあるが欧州経済回復計画においてブロードバンドを極めて高い優先的に位置づけていることの背景である。
 我々は本日ブロードバンド戦略について時間をかけた議論の時間はないが、3つの質問すなわち「なぜ」「何を」「いつ」について答えることで我々の考えを紹介するとともに欧州経済回復においてブロードバンドが重要な役割を果たすことについて説明したい。

(1)なぜブロードバンド・インターネットなのか
 我々はICT投資と経済の業績が直接リンクすることを知っている。それはあらゆる産業部門を水平的にかたちで改革能力や生産性を改善させ、自然資源の最適化を支援してくれる。それは、また公共部門の効率性と効果向上の重要な操縦者であり、また我々市民の生活の質を向上させるのに不可欠である。ICTは、我々により多くのエネルギー効率や正確な環境モニタリングさらにより良い公共医療サービスや高齢化社会の状態の改善に関しユニークな解決策を与えてくれる。
 ICT革新を配備、使用する点でリーダー的であるEU加盟国は、高い経済成長と市民に提供するサービスにおける世界標準(world benchmarks)を確立し、またより低炭素経済(lower carbon economies)に向けた動きを牽引している。
 なぜブロードバンドなのか:答えは簡単である。ICTの最善の使用における基本的な慣らし状態(pre-condition)は高速ブロードバンドの配備である。
 欧州委員会が提案するものは何か:経済回復パッケージの一部として我々は農村村落における高速インターネットを拡大、アップグレードするための資金的保証を行った。この資金支援はブロードバンドへのアクセスを持たない農村地域の23%を目標にしたものである。
 この提案(Rural Development Plans)の目的は次の2つである。すなわち、①すべての欧州人は、どこ住む人もブロードバンド・インターネットの利益を享受出来ることを保証すること、②可能な限り迅速に資金供与を行い、即効性の刺激を経済に与えることである。後者に関し、その成果は期待したよりやや遅いといえる。その最新の成果は「農村部開発計画(Rural Development Plans)」 中、ブロードバンドに割り当てられた50億200万ユーロ(約6,677億円 )のうちわずか315万ユーロ(約4億1,900万円)であった。私は加盟国の数か国が本委員会が承認した農村部開発計画の資金利用に配慮する決定に消極的なことに失望している。しかし、私は当該国を引続き納得させるつもりであり、さらに極めて高速のブロードバンドを支援する一連の規則手当てとガイドライン策定を進めている。
 ブロードバンドを推進しかつ始めるためには、また、先進的越境ウェブベース・サービスにとって好ましい条件の要求も促されなければならない。言い換えれば、「デジタル単一市場」とは私が先ほど話した「デジタル課題」の主目的なのである。
(3)最後の質問、結果はいつでるのか
 最初に悩むのは経済を刺激するため資金の緊急注入問題であるしかし、また一方で我々はデジタル社会の水平線に向けて短期的な先を見る必要がある。ICTは景気循環によって引き起こされる必然的変動にもかかわらず、近代化が確実なペースで続く部門である。私は景気回復の「若芽(green shoots)」について話しているのではない。私は、継続的に我々に生産性利益を獲得を獲ることを許し、経済を成長させ、またより高い生活水準を成し遂げる長期の技術発展について話しているのである。すなわち、このことは欧州の経済回復の重要性はもとより、より生産的なビジネスや一方ではその組織また他方では革新的生産物およびより消費者の選択の重要性を提案したい理由である。

8.結論
 私は欧州を見通すことについて自信がある。それは我々の莫大な強さだけではない。すなわち、安定した民主主義、単一市場、そして成功した単一通貨等過去5年間欧州委員会が成し遂げてきたもの、とりわけ歴史において最大の拡大に成功し、遠大で法的に拘束力を持つエネルギーと気候変化目的を持つ初めての地域となった点である。そして、あなた方の携帯電話から安い電話がかけられるようになったことを忘れないでほしい。
 しかし一方で、私は奇妙な方法で我々が危機によってかえって強くなったと考える。その危機が我々に欧州および地球規模での経済の相互依存性について教えてくれたからである。
 今、我々は自らの繁栄を守るため将来に向け政策の協調や早期化を行うべきであることを知っている。我々は目的の新たな意味を認識している。私は、今ますます強力になりまた解決と創意において欧州が21世紀の経済の主役になると信じている。

(筆者注1)本原稿の執筆中に、筆者が参加しているデスカッション・グループ:ハーバード大学ロースクールの “The Berkman Center for Internet & Society”がFCCの研究委託に基づきとりまとめた報告書「次世代の接続性:世界におけるブロードバンド・インターネットの変遷と政策(Next Generation Connectivity: A review of broadband Internet transitions and policy from around the world)第一次草案」(全232頁)が公表され、FCCが広く意見(パブリック・コメント:期限11月16日)を求めている旨のレターが同センターより筆者の手元に届いた(10月15日付のロイター通信もこの件を報じている)。筆者としてもレディング氏が今回投げかけた課題とともに各国のオープン・アクセスの確保やブロードバンドの競争政策について別途の詳細な検討が必要であると考える。

(筆者注2)同委員の問題提起を正確に理解するためには“A European Economic Recovery Plan”(欧州委員会2008年11月26日提案、 "2008年12月11~12日の欧州理事会(EU首脳会議)採択) ”の閲覧が必須である。総務省の以下の資料もある
 2009~2010年の2年間で2000億€(加盟国負担1700億€、EU予算・欧州投資銀行(EIB)予算300億€*)。(*EIB:156億€、EU 予算:144億€)
■2008年12月12日欧州理事会において合意。今後、予算案が欧州議会において審議予定。
■2009年3月、欧州委員会は進捗状況調査を公表予定。
■エネルギー供給やブロードバンド環境改善のために、EU予算の未使用剰余金(本来は農業分野に充当)を転用し50億€(2009~2010)支出。(ブロードバンドインフラ整備に当てられる額は10億€。)
■使途を自由に決定できる21億€の調査研究予算(既存予算の使途振替)は、グリーンカー構想、エネルギー効率建築、未来の工場構想、超高速インターネットに配分。
総務省「ICTビジョン懇談会(第2回)」平成21年1月27日(火)開催参考資料3「主要国における最近の経済対策(概要)」より抜粋。ただし、この要約資料は同懇談会の性格からEU委員会が提案した計画の本来の主旨・全体像を網羅したものではない。正確な理解のためにはJETROブリュッセルセンターがまとめた「EUの景気対策~欧州経済回復計画の概要」の閲覧を薦めるし、その内容を理解していないと同委員の主張の背景・根拠が理解できない。

(筆者注3)「インターネット経済の未来(A Future of the Internet Economy)」と題するOECD閣僚会議は2008年6月17~18日韓国ソウルで開催された。その結果は「韓国宣言(THE SEOUL DECLARATION FOR THE FUTURE OF THE INTERNET ECONOMY)」としてまとめられている。

(筆者注4) わが国で EUの第7 次フレームワーク計画について解説した資料としては、駐日欧州委員会代表部サイト、新エネルギー・産業技術総合開発機構のサイト、東北経済産業局情報等があげられる。EU加盟国間の共同研究活動,欧州研究評議会(European Research Council:ERC)を通して実施される基礎的研究,人材の流動性の促進,「知」に基盤を置く地域や中小企業の支援,この4つの助成を行うものである。いずれにしても時々刻々と変化しているので欧州委員会の当該サイトで最新情報のチェックが重要である。

(筆者注5)EUの研究会発情報サービスである“Community Research and Development Information Service-CORDIS”はテーマ別に分類されナビゲーションがしやすくしてある。すなわち①農業と食糧供給(agriculture and Food supply)、②生物学と医薬(biology and medicine)、③エネルギー(energy)、④環境と気候(environment and climate)、⑤産業と産業技術(industry and industrial technology)、⑥情報通信技術(information and communication)、⑦実地研究(research in practice)、⑧研究成果の出力(research outputs)、⑨社会経済的な関心(social and economic concerns)、⑩輸送と建設(transport and construction)である。

(筆者注6) 東京大学大学院情報学環教授の坂村健氏の2009年7月5日の毎日新聞での説明によると“Internet of Things”とはモノを結ぶインターネットのような次世代環境である。EUの“7th Framwork Programme”のcasagras project で検討されており、わが国でいうユビキタスのような概念であるとある。わが国の調査研究機関でも取組んでいる例がある。しかし、一般向にはこのような説明でよかろうが、わが国のICT関係者は満足できまい。筆者なりにEUの“CORDIS”サイトから調べてみた。簡単にいうと“CASAGRAS(Coordination and support action for global RFID-related activities and standardisation)”とは「インターネット・ネットワークを介したグローバルなRFID関連の活動と標準化に関する調整と支援活動」のことである。本プロジェクトにはわが国(坂村教授がメンバーである)を始め中国、フランス、ドイツ、韓国、イギリス、米国が参加している。その活動の経緯については“CORDIS”や“CASAGRAS”最終報告等を参照されたい。いずれにしても従来取り上げられてきたインターネットの利用概念とは異なるものであり、研究に値するテーマと言えよう。

(筆者注7)ここで言う「政治的」とは狭義の政治的という意味ではない。後述するとおり、現政権や特定の事業者への批判的意見も含まれるし、実際筆者も総合セキュリティソフトを利用していてなぜアクセス禁止メッセージが出るのか判断に迷うケースがある。このブロック問題はEUだけでなく筆者がディスカッション・メンバーとなっている米国人権擁護団体Center for Democracy & Technology:CDTの最新情報で実際経験済である。

(筆者注8)“Telecoms Reform Package” とは2007年11月13日レデイング氏が欧州議会に初めて提案した「2002年EU電気通信規則」改正による電気通信改革のことである。EUの単一市場化を目指すとともに、競争を促進することによって、消費者により有利な市場として市場を活性化をするため、特に高速無線ブロードバンド市場の活性化を目的としている。
 また、レディング氏は2008年6月12日のEU電気通信閣僚会議の後、EUの電気通信改革の背景や具体的進め方について整理している。併せて読まれたい。
 なお、本原稿を執筆中、2008年1月に情報通信研究所特別研究員本間雅雄氏がまとめたレポート「欧州委員会、テレコム市場改革プランを採択」を読んだ。EU内や米国の議論も踏まえまとめられているが、体系的・専門的に整理された内容とは思えない。

(筆者注9) 「ローマ条約」とは、欧州経済共同体 (EEC) 設立に関する、フランス、西ドイツ、イタリア、ベルギー、オランダおよびルクセンブルグが1957年3月25日にローマで調印、1958年1月1日に発効した「欧州経済共同体設立条約 (Treaty establishing the European Economic Community) 」(1993年11月に発効したマーストリヒト条約により、他の事項とともに共同体と条約両方の名称から"経済"を除去する修正を受けた。この結果「欧州共同体設立条約」または「EC条約」と呼ばれている)および同日調印された「欧州原子力共同体(Treaty establishing the European Atomic Energy Community:EURATOM)」とあわせと総称として「ローマ条約」といわれる。

(筆者注10)EU競争法は市場の統合と消費者の保護を主要な目的とし、競争法違反規制と企業集中規制の2分野から成っている。競争法違反はEC条約(ローマ条約、1958年発効)第81条(anti-competitive agreements)、第82条(abuse of dominant positions)により規制されている。(国立国会図書館「レファレンス」2005年5月号高澤美有紀「EU競争法の改正―執行手続の強化と分権化」)から一部抜粋。

(筆者注11)「EUの電気通信分野のユニバーサル指令」をはじめとする「サービス指令」についてはジェトロが2007年7月「 サービス分野の市場統合とサービス指令(EU)」で制定の経緯や内容について詳しく解説しており、その中(12~13頁)で電気通信分野について解説されている。すなわち「電気通信ネットワークおよびサービスの共通規制枠組みに関する2002年3月7日付欧州議会および理事会指令2002/21/EC」により、電気通信関連の新たな規制枠組みができた。同枠組み指令は、「認証指令」、「アクセス指令」、 「ユニバーサル指令」、「プライバシーと電子通信に関する指令」の4つの指令とともに電子通信セクターの競争力を高め既成の電気通信に関する法的枠組みを改善することを目的とした電気通信規制パッケージを構成している。同枠組み指令は、2002年4月24日に発効し、2003年7月24日までに加盟国で国内法制化することが規定された。」

(筆者注12)Reding 氏のEU原稿では第22条第3項とあるが現行ユニバーサル指令の原本に当たったが第3項はない。このため昨年10月にメールのやり取りをしているReding氏の担当秘書役Francoise Mingelbier氏に改めて照会メールを送ったところ、約3時間後にReding氏のスポークスマンMartin Selmayr氏にかわり同氏より回答が来た。参考までにその回答要旨を簡単に説明しておく。
「第22条第3項は加盟国の電気通信監督機関による中立性保証条項で現在欧州議会やEU理事会において最終審議中であり、その回答に第3項案が添付されていた。レディング氏がスピーチ中に引用したのはそのことである。また、委員会は現在そのような条項(ガイドライン等)の追加が国際通信市場にとって新たな障害となりうるかにつき欧州電気通信規制機関(the Body of European Regulators in Telecom:BERT)に意見具申中である。」
筆者にとって以外に早い回答であったが、欧米の場合、このように質問の意義に応じ迅速な回答が来るのが通常である。国際的知識人の良識を感じた。

(筆者注13)“International Roaming”について説明しておく。EUのウェブサイトの説明によると国際ローミングとは、ローミングサービスの一つ。契約している国内通信事業者のサービスを、海外の提携事業者の設備を利用して受けられるようにすること。また、そのようなサービスをいう。インターネット接続サービスや携帯電話などで提供されている。DDIやIDOの携帯電話であるcdmaOne(CDMA(Code Division Multiple Access)方式を使用したデジタル携帯電話システムで米国CDG(CDMA Development Group)の登録商標)は世界的な規格であり、海外でも多くの事業者がcdmaOneによるサービスを提供しているため、多くの国でローミングサービスを受けることができる。

(筆者注14)“ICOMP” はオンライン出版社、広告主、インターネットやネットワークサービス・プロバイダーおよびオンライン広告代理店などインターネット・ビジネスに関する業界団体の業界主導のための団体である。ヨーロッパ、北米、中東の14カ国40社以上の企業、業界団体、消費者団体、個人がICOMPプリンシプルを支持している。 ,

(筆者注15) 2000年6月8日に、欧州議会・閣僚理事会は、欧州域内市場における消費者と事業者に情報社会サービスの一定の法的確実性の提供に関する指令いわゆる「電子商取引指令(2000/31/EC)」を採択した。本指令は、加盟国間のオンライン・サービスの自由な流通を確保することによって域内市場を適切に機能させることを目的としており、具体的には、サービス・プロバイダーの設立、商用の電気通信、電子契約、オンライン媒介サービス事業者(intermediary service providers)の透明性・情報要件および責任制限、裁判外紛争処理等に関する国内法令を調和させることを意図している。本指令の重要な特徴のひとつが、いわゆる「域内市場条項(Internal Market clause)または「本国の原則(‘country of origin’principle)」を採用していることである。この原則は、情報社会サービスは原則としてサービス・プロバイダーが設立された加盟国の法律に支配されるというもので域内電子商取引について生じる適用法の問題を一定の範囲で解決したものといわれている。
 加盟国は2002年1月17日より前にその内容を国内法に編入しなければならないとされていた(第22条第1項)。しかし、実際における各国の立法は遅れている一方で現在の立法状況について一覧形式のEU公式資料はない。このため筆者は“epractice.eu”サイトの電子政府(eGovernment)の資料(factsheets)および当該国のポータル等を基に調べ、参考までに27カ国中4カ国の立法化状況(関係法律名および成立・施行年月日など)を以下のとおりまとめた(調査時間の関係で残りの23カ国については省略する)。
 なお、EU加盟国法等外国法に精通されている読者であれば理解されると思うが、EUの公式資料だけでは正確な法律名は説明されていないため筆者なりに補足するとともに法律の原文にリンクさせたので、関心のある方は法律の原文(英訳化もかなり進んでいる)を直接当たられたい。
①オーストリア: ”eCommerce Gesetz; ECG” 2002年1月1日施行。
②ベルギー:2003年3月11日に次の2つの法律が採択された「ベルギー憲法第77条が目的とする情報社会サービスの特定の側面に関する法律p. 12960(Loi sur certains aspects juridiques des services de la société de l’information visés à l’article 77 de la Constitution)」「情報社会サービスの特定の側面に関する法律p. 12963(Loi sur certains aspects juridiques des services de la société de l’information)」
③ブルガリア:「電子商取引法(ЗАКОН ЗА ЕЛЕКТРОННАТА ТЪРГОВИЯ В сила от 24.12.2006 г. Обн. ДВ. бр.51, изм. доп. ДВ бр. 105/2006 г., ДВ бр. 41/2007 г. )」 2006年6月23日成立(法律第51号)、2006年12月24日施行」。(英訳条文)
④キプロス:「電子商取引法」2004法律第156号(I)。2004年4月30日成立。キプロス官報 (112(Ι)/2000, Νόμος που προνοεί για την αναγραφή της τιμής πώλησης και της τιμής ανά μονάδα μέτρησης των προϊόντων τα οποία προσφέρονται από τους εμπόρους στους καταναλωτές προκειμένου να βελτιωθεί η ενημέρωση των καταναλωτών και να διευκολυνθεί η σύγκριση των τιμών) 

(筆者注16) 「いわゆる消費者の権利に関する指令案(the Draft Consumer Rights Directive)」は欧州委員会が2008年10月8日に採択のうえ欧州議会およびEU理事会に提出し、2009年9月28日に議会において討議方針説明(position paper)が行われている。
 その内容の詳細や審議経過については欧州委員会保健消費者保護総局(the Directorate General for 'Health and Consumers:DG-SANCO)消費者対策課(Consumer Affaires)のサイトで詳しく解説されている。なお、DG-SANCOの守備範囲は、①食物・食品の安全性、②消費者保護、③公衆衛生をその柱としており、EUの“2009 H1N1”といった緊急問題も扱っている。

(筆者注17)「バリュー・チェーン」とは、1985年Michael Porterがベストセラー「競争優位の戦略(Competitive Advantage: Creating and Sustaining Superior Performance)」で提唱したもの。 競争優位を生み出すためには製品の付加価値(販売価格―原料コスト)だけに着目せず、生産活動を主活動と支援活動に分け、それぞれの活動が価値(value)を生み出すという構造でありことを認識し、各活動を分析、最適化を行うことで競争優位につなげるという考え方。これまでは、個々の企業間での連鎖過程を主に意味していたが、企業群、業界のネットワーク間での連鎖までも含めて、バリュー・ネットワークという新しい企業の定義も出てきている。(経済産業省商務情報政策局情報セキュリティ制政策室資料等より抜粋)

(筆者注18) 英国図書館(BL)の試算では,著作権の保護期間が存続している同館蔵書のうち40%がOrphan Worksである,とされているほどであり,欧州デジタル図書館高次専門家グループ(HLEG)ではこれらをデジタル化し,インターネットで公衆送信するための環境整備の必要性を提起していた。この提起を受けて,HLEGの著作権サブグループは2007年9月から,利害関係者を集め,Orphan Worksの利用に先立つ「著作権者の真摯な調査」のガイドラインを策定してきた。この利害関係者会議には,国立図書館・文書館などの文化機関,出版社・著作者・実演家等の権利者団体の双方から代表が参加し,著作物の形態に基づく4つのセクター(文書資料(text),視聴覚資料(audiovisual),視覚・写真資料(visual/photography),音楽・音声資料(music/sound))ごとのワーキンググループでの協議および全体での協議を行ってきた。こうした協議の結果,2008年6月4日,欧州委員会のレディング(Viviane Reding)情報社会・メディア担当委員長臨席のもと,BL,フランス国立図書館(BnF),英国公文書館(NA),欧州国立図書館長会議(CENL)や各権利者団体が,『Orphan Worksのための真摯な調査ガイドライン』に合意し,覚書に署名を行った。(国立国会図書館カレントアウェアネス・ポータルNo.132 2008年7月23日号より抜粋。

(筆者注19)Reding 氏の主張は“Book Rights Registry”をさしていると思う。そうであるとすると最近わが国でも話題となっているGoogle社が進めている書籍のデジタル化の話とつながる。国立国会図書館の9月8日付けカレントアウェアネス・ポータルで次のような記事がでており、参考までに紹介する。「Google社は、書籍のデジタル化について、欧州で販売中の書籍に限り権利者に事前に許諾を得る方式に変更すると発表しています。同社は、米国で絶版であっても欧州で販売中である書籍については権利者の事前許諾を個別に得るまではGoogleブックスに加えないとしています。また、同社は欧州の出版社と欧州の著者をBooks Rights Registryの委員会に追加する提案も行っているようです(GoogleがEUに大幅譲歩、書籍スキャンをopt-in方式に変更し、Book Rights Registryで2議席も約束)」。

(筆者注20)欧州デジタル図書館 “Europeana”は2008年11月20日に公開された。これは,欧州連合に加盟する27か国の,合計1,000を超える国立図書館・文化機関等が提供している,合計200万点以上の各種デジタルコンテンツ(書籍,地図,録音資料,写真,文書,絵画,映画など)へのアクセスを提供するポータルサイトの機能を果たすものであり,登録ユーザがデータを保存できる個人用ページ“MyEuropeana”やタグ付与機能など,Web 2.0機能も有している。公開時点で提供されている200万点のコンテンツの過半数(52%)はフランスの機関によるものであり,オランダ,英国がともに10%と続いている。有名なコンテンツとしては,ベートーベンの交響曲第9番を筆頭に,マグナ・カルタ(大憲章),フランス人権宣言,ダンテの『神曲』,フェルメールの絵画『真珠の耳飾りの少女』,モーツァルトの自筆書簡・楽譜,シベリウスの作品の演奏,ベルリンの壁崩壊時の映像などが含まれている。(国立国会図書館カレントアウェアネス・ポータル2008年12月10日号より抜粋)

(筆者注21)同委員会が取組む “Creative Content Online”については“Audiovisual and Media policies”サイトで詳しく説明されている。

(筆者注22) Reding氏に直接確認していないが、文脈からみて「考え方をまとめた文書」とは2009年5月に委員会が発表した “Content Online Platform”であろう。

(筆者注23) 「行動ターゲティング広告(Behavioral Targeting Advertising: BTA)」とは、インターネット広告の一種で、各ユーザーをWebサイト上での行動履歴に基づいて分類し、ユーザーごとに最適な広告を配信できるようにした方法のことである。行動ターゲティング広告においては、クッキー情報を元にしてWebブラウザ単位でユーザーの行動が追跡されており、そのWeb上での行動履歴が専用サーバーに蓄積されている。この行動履歴を数百の行動パターンに分析し、次回の広告配信の機会に反映させることによって、ユーザーにとって最も適した広告内容が配信可能になっているとされる。
 従来のバナー広告やリスティング広告などのような広告配信の仕組みでは、広告の内容は広告媒体であるWebサイトのコンテンツに合わせて選択されていた。これに対して行動ターゲティング広告では、広告媒体サイトのコンテンツに関係なく個々のユーザーに合わせた広告を配信させることができるという利点がある。(「IT用語辞典バイナリー」から引用)

(筆者注24)「Phorm事件」については、欧州委員会のプレス発表等に基づき作成されたわが国の解説記事の問題点につき、ブログ(Foreign Media Analyst in Japan)が2009年4月27日付け記事「NRIの英国政府の“phorm”に対する取組みと欧州委員会の強硬姿勢の紹介記事の具体的問題点」指摘している。しかしNRIの記事はいまだに修正されていない。この無責任さが問題である。(「平野龍冶」は筆者の第二ペンネームである)

(筆者注25)Reding氏に確認したわけではないが、ここでいう「第三国」は主に米国を指すものと思う。その根拠はEUと米国政府間の「セーフ・ハーバー協定」の存在である。2009年10月6日に米国連邦取引委員会(FTC) は、連邦商務省(U.S.Department of Commerce)の強力な支援のもとで欧州連合(EU)・米国連邦政府間の「プライバシー保護に関するセーフ・ハーバー合意(筆者注1)」に基づく米国企業6社に対する遵守指針違反に基づく個別告訴につき和解に達した旨発表した。
 セーフ・ハーバー合意のもととなったのは1998年10月に発効した個人情報保護に関するEU指令(「個人データ処理に係わる個人の保護及び当該データの自由な移動に関する1995年10月24日の欧州議会および理事会の95/46/EC指令」)である。同指令は、十分なレベルの個人情報保護を行っていないEU域外の第三国に対して、EU域内の個人情報の移転を禁ずることを定めたもので、これにより域外の事業者がEU市場から締め出される懸念が生まれた。
 これに対して米国は、法規制の導入による個人情報保護を提案するEUとは異なり、民間による自主規制を尊重する立場をとっており、法規制のあり方についても個別法によるセグメント方式を採用している。このため、米国政府はEUに働きかけ、1999年4月に個人情報の取り扱いについての保護基準を導入することで合意し、その具体的指針となるセーフ・ハーバー協定を結んだ。セーフ・ハーバー協定は、1)本人への通告(notice)、2)消費者の選択、3)第三者への情報の移転、4)本人のアクセス権、5)セキュリティ対策、6)データの一体性、7)法執行の7つの保護遵守指針(privacy principles)からなり、ここに示される条件を遵守する企業はEU指令のいう「適切な」個人情報保護を行っているものとみなされる。

(筆者注26)「 デジタル欧州戦略(digital Europe strategy)」についてReding 氏が2009年7月9日に“Lisbon Council” (ベルギーに設立された非営利団体(NPO))でスピーチしている。Reding 氏のスピーチはYoutubeでも確認できる。彼女なりのキャラクターがにじみ出たスピーチである。


〔参照URL〕
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=SPEECH/09/446&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
http://ec.europa.eu/research/fp7/index_en.cfm
http://ec.europa.eu/news/science/071113_1_en.htm


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2009年9月12日土曜日

米国やEU加盟国における銀行上級役員や職員の高額報酬問題の現状と課題

 【はじめに】
 去る9月9日にオランダ銀行協会が銀行上級役職員の固定給や賞与についてコンプライアンスを前提とする行動規範を策定した旨公表したとわが国のメデイアも報じた。筆者は実は2009年春にこの問題につきブログ原稿の下書きを作成していたが多忙のため棚上げになっていた。
 しかし、今回のオランダ銀行協会等の動きの背景にある金融先進国の動向はわが国の金融監督機関行政や金融機関としても無視しえない経営上重要な問題を含んでおり、そのためには正確な情報提供が不可欠と考え急遽取り纏めたものである。後日あらためて最新情報に基づきより詳細なレポートをまとめるつもりである。

【要旨】
 2009年2月5日付日本経済新聞は、米国オバマ大統領とガイトナー財務長官が資本注入など公的支援を受けている金融機関の経営者層の年間総報酬を50万ドル(約4,500万円)に制限する旨報道した。
 筆者の手元の資料に基づき正確に言うと、2月4日に連邦財務省およびホワイトハウスは金融危機のため政府から支援の内容により2つに区分した「役員報酬規制ガイドライン」(筆者注1)を発布した旨リリースしている。米国の「2008年緊急経済安定化法(Emergency Economic Stabilization Act of 2008:EESA)」に基づく財務省を中心とする各種施策のうち、同省は2008年10月30日に不良資産救済プログラム(Troubled Asset Relief Program)下における資本注入プログラム(Capital Purchase Program)(筆者注2)の適用金融機関の経営責任を問うため役員報酬制限に関する連邦暫定最終規則(October Interim Final Rule:31 CFR Part 30)を公表した。さらに本年1月16日には、役員報酬に関する報告および記録に関する規定等を同規則に追加している。

 その後、AIGが連邦政府から総額約1,735億ドル(約16.7兆円)巨額の公的資金を投入、その見返りとして政府は同社の株式の8割を保有するという状況下でニューヨーク州のクオモ司法長官(Andrew M. Cuomo)が調査した結果、破綻原因を作った金融子会社の上級幹部等にボーナスを計1億6,500万ドル(約158億円)支給していた事実が明らかとなった。

 わが国では欧米金融機関の役員報酬規則やガイドラインの詳しい内容はほとんど報じられていないが(筆者注3)、納税者(taxpayer)たる国民を納得させるには必須のものと言えよう。また、3月3日付けのウォールストリート・ジャーナルはバンク・オブ・アメリカが2009年1月1日にメリル・リンチの買収の直前にメリル幹部に現金や株式で約10億円以上のボーナスを受けとった上級役員が11人、約3億円以上が149人いると具体名をあげて報じている。(筆者注4)

 一方、米国以上に金融危機の深刻化が進んでいるEU主要国とりわけ英国やドイツ、オランダ、フランス、スイスの役員報酬問題はどうなっているのか。手元の資料で見る限り米国に比べ政府自体の姿勢も曖昧な点が気になっていたが、2月25日に欧州委員会は金融機関と市場の監督強化による金融危機の再来を防止するため、専門家グループによる31項目からなる勧告(recommendations)をとりまとめ公表した。同勧告は、(1)EU加盟27か国のための投資ファンドに関する共通ルールの策定、(2)株主保護およびEUの金融部門の危機管理システムの確立という観点に則し銀行員のボーナス支給額に上限(キャップ)を設けるといった内容が含まれている。

 さらに9月4日、5日にロンドンで開催された20か国国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議が金融持株会社やグローバル金融グループ、金融機関の上級経営者、インベストメント・バンカーやトレーダー(筆者注5)に対する長期的視点に立った業績報酬といった報酬規制の国際的基準の必要性を共同声明に盛り込んだ。

 これと時期を同じくして9月9日にはING等金融大国であるオランダ銀行協会、財務省が銀行上級役員等の固定給や賞与について銀行免許に従い、オランダ国内だけでなく、EU加盟国等における具体的行動規制を盛り込んだ全役職員が遵守すべき行動規範(Banking Code)を公表した。(筆者注6)

 また、英国では個別金融機関の役員報酬問題から金融監督機関である金融サービス機構(FSA)(筆者注7)(筆者注8)の経営層や事務スタッフの報酬引上げ問題も話題となっている。

 わが国でも、地域金融機関等の経営悪化の状況は今後より具体的なかたちで問題視されるであろうが(3月13日に金融庁が公表した第二地銀3行に対する資本参加等)、国民の多くが生活の危機的状況下にあるなか、政府や監督機関はより透明な経営を実現すべくその機会を積極的に広げるべきであろう(筆者注9)。
 
 今回のブログは、(1)米国財務省の役員報酬規制ガイドラインの概要、(2)EU、スイス、オランダや英国の主要金融機関における役員やスタッフの報酬プログラムの具体的見直しの状況、および(3)各国政府の取組み姿勢等について最新資料に基づき解説する。


1.米国財務省の役員報酬規制ガイドラインの概要
〔2月4日付財務省リリースの要旨〕
(1)2月4日、財務省は現在の金融危機の解決を目指して米国政府から公的支援を受けている金融機関の役員報酬に関する新たな規制ガイドラインを公表した。そこに盛り込まれた諸施策は、公的資金が不適切に個人の所得に向けられることなくわが国の金融システムを安定化させることにより経済全体を強化するという公益目的のみに向けられるよう設計されている。すなわち、これら諸施策は金融界のトップ経営者の報酬が密接に株主や金融機関の利益と調整されるだけでなく、公的支援の最終的スポンサーである納税者との調整を行うものである。
(2)本ガイドラインは「一般的に利用される資本入手プログラム(generally available capital access program)」と特に金融機関が必要とする場合の「例外的支援プログラム(exceptional assistance)」の2つに区分する。前者は金融機関が受け取る金額限度と納税者への特定の返還方法はすべて同一である。また、本プログラムの最終目標は、中小企業や家庭等への融資において重要な役割を果たす比較的小規模の地域銀行に資金を提供することで、経済回復に必要な信用供与の支援を金融システム全体に保障するものである。従来、政府が発表してきた金融安定化策資本注入計画(不良資産救済プログラム(Troubled Asset Relief Program:TARP )がその例である。
 一方、後者は標準的な支援以上のものを必要とする金融機関に対するものであり、同支援基準のもとで支援を受ける銀行は特に財務省との間で交渉結果を踏まえた協定を結ばなければならない。後者の例としてはAIG、バンクオブアメリカ、シティとの取引を含む。

Ⅰ.役員報酬規則の遵守とCEOによるその証明義務
 政府の支援を受ける全金融機関は、役員報酬規則の遵守を確実なものとしなければならない。いかなる形式であれ支援を受ける全金融機関のCEOは、法令、財務省、契約上の役員報酬を厳格に遵守していることについて毎年証明することが義務づけられる。さらに政府支援を求める金融機関の報酬決定委員会(compensation committee)は上級役員報酬の調整について過剰かつ不要なリスク負担を負わないよう説明した資料の提出が義務化される。

 Ⅱ.役員報酬に関する今後(筆者注10)強制される条件
A.例外的資金支援を受ける金融機関の場合
①従来の規制プログラムは、支援を受けている金融機関における上級役員に対する譲渡制限付株式以外の総年間報酬が50万ドル以上の者に対し、税控除措置(tax deduction)(必要経費としての計上)を禁止している。改正ガイドラインは、同制限を発展的に撤廃し、譲渡制限株式(Restricted Stock)(筆者注11)以外(cashによる報酬)について50万ドル以下に制限するという内容である。具体的には次のような内容が新たに課される。

②上級役員への追加的支給は、如何なる場合でも譲渡制限株式によるものでなければならず、当該株式は、政府支援債務を完済した場合にのみ譲渡制限が解除される。例外的資金支援を受けている金融機関の上級役員に対する50万ドルを超える報酬は、譲渡制限株式または他の類似の長期的奨励手段によらなければならない。譲渡制限株式を受取る上級役員は、政府に支援金を返済した後(この返済には、契約に基づく配当金の支払いを含み、当該配当金で納税者の現在価値が保証される)か、または一定の期間(金融機関が、どの程度返済義務を果たしているか、納税者の利益がどの程度保護されているか、また貸出・安定化の基準がどの程度満たされているか等について検討のうえで定められる一定の期間)が経過した後のみ現金化することができる。
譲渡制限株式を利用することによって、例外的資金支援を受けている金融機関の上級役員には、納税者にかかるコストを最小化するとともに、株主の長期的利益になるように努めようとする動機が働くことになろう。

③役員報酬の体系と戦略は、完全に情報開示されなければならず、また「法的拘束力のない投票権(“Say on pay” resolution)」に従うものとする。この“Say on pay”とは、経営者の報酬を株主総会の議案として株主の「賛否」を問うものである。 上級役員の報酬体系およびその報酬が健全なリスク管理と連動しているかについての合理性を説明した資料が、拘束力のない株主決議において承認されなければならないとするものである。ただし上記の通り、この決議は“advisory voting”つまり勧告的決議で可決したとしても経営者を法的に拘束しない(現在の制度には、株主の拘束力のない決定権条項はない)。(筆者注12)

④賭け的経営行為に関与した経営トップの役員について、ボーナスといった報酬を条件付で減らす「条件付回収条項(clawback provision)」(筆者注12)の制定を求める。例外的支援の下での現行の制度では、 上位5人の上級役員にしかボーナス条件付回収条項は適用されない。今後は、例外的資金支援を受けている金融機関は、ボーナスに関し条件付回収条項を設けなければならず、また、当該機関の財務情報や自分自身の成功報酬を計算する上で必要な数値実績につき不正確な情報を提供したと後日判明した場合には、上位5人以下の20名の上級役員からも回収するという条項を設けなければならない。

⑤上級役員についてのゴールデン・パラシュート(Golden Parachutes)の禁止拡大
 金融機関に例外的資金支援を認める現行制度は、解任に際し支払われる多額(平均年収の3年分)の割増退職金であるゴールデン・パラシュート(筆者注13)の受取りを、上位5人の上級役員について禁止しているが、それを上位10人の役員にまで拡大する。さらに、それ以下の25名の役員については、最低1年分の報酬を超える退職金を受け取ることを禁止する。

⑥金融機関の取締役会による特別に贅沢な支出の承認に関するポリシーを採択の義務化
 政府から例外的資金支援を受ける金融機関は、航空旅客サービス、オフィスや事務所の改修、娯楽、休日のパーティおよび会議やイベント等に関し、すべての全社的ポリシーを策定しなくてはならない。なお、このポリシーは、会社の通常の業務に関係する販売会議や職員の教育、報奨金等企業の通常の業務運営上に必要な合理的支出を対象としたものではない。
 こうした新しい規則は、これまでのガイドラインの規定範囲を超えるものであり、過度な支出や贅沢な支出と認められるものについては、CEOによる支出証明を求めることになる。また、金融機関は、ホームページ上でこれらの経費の支出に関するポリシーを公開しなければならない。

B.一般的に利用可能な資本支援を受ける金融機関の場合
 財務省は、将来の一般的に利用可能な資本入手プログラムに関連して求められる役員報酬について、パブリックコメントに付すこと条件として以下のような「ガイダンス(案)」を提案する予定である。
①上級役員の年間総報酬は、完全かたちでの一般公開し(Full Public Disclosure)また株主の投票により承認された場合を除き50万ドルを上限とする。
 一般に利用可能な資本入手プログラムに参加する金融機関は、報酬内容の開示による50万ドルに加え譲渡制限株式の取得に関する規則につき、また要求された場合には、「法的拘束力のない投票権(Say on pay resolution)」に基づきその放棄をなしうる。
 将来の資本入手プログラムに参加するすべてに金融機関は、上級役員およびその他の従業員について過度のかつ不要な危険負担を行わないよう、報酬協定(compensation arrangements)の理由を見直し、かつ開示しなければならない。
 なお、現行の資本入手プログラムの下では、金融機関は上位5人の上級役員の報酬協定のみ過度かつ不要な危険負担を回避するための見直しや承認するのみでよかった。

②欺まん的不公正な慣行を行っているトップ経営者がいる場合のボーナスの「条件付回収条項」の適用
 例外的資金支援を受ける金融機関に適用される「条件付回収条項」は、一般的資本支援を受ける金融機関にも等しく適用される。資本買取プログラム(Capital Purchase Program)の下で上位5人の役員に適用されていた「条件付回収条項」はさらに奨励金の支払計算に使用する財務諸表(financial statements)や業績評価指標(performance metrics)に関し、故意に不正確な情報を流したと認められる場合は5人に続く上位20人の上級役員に対しても適用される。

③上級役員に対するゴールデン・パラシュートに基づく支給の禁止
 一般的に利用可能な資本支援を受ける金融機関の場合においても、ゴールデン・パラシュートに基づく支給禁止は強化される。すなわち現行は解任時に3年分の年間報酬が認められているのに対し、今後は上位5人の上級役員に対し1年分の報酬額以上のゴールデン・パラシュートに基づく給付は認められなくなる。

④贅沢な支出に関する取締役会の承認ポリシーの採択
 本ポリシーは例外的資金支援を受ける金融機関向けのものであるが、同様のことが一般的に利用可能な資本支援を受ける金融機関にも適用される。現行の資本買取プログラムには贅沢な支出に関するガイドラインはまったく決められていない。

C.長期的観点に立った規制改革
 報酬戦略は適切なリスク管理、長期的価値および企業の成長と並ぶものでなければならない。そのためには次のステップを踏まなければならない。

①公的金融機関は自身の報酬決定委員会において健全なリスク管理のための戦略の見直しとその開示が求められる。
 財務省長官と証券取引員会委員長は、政府による支援を受けていない金融機関も含め、報酬決定委員会に対し、役員や一定以上クラスの従業員の関する報酬協定の見直しや開示について、健全なリスク管理の推進や自社および株主にとって長期的価値の創造との調和をいかに行うかにつき協調して取組なくてはならない。
②トップ経営者の報酬は長期的見通しを奨励するという観点が求められる。

 この10年間、金融機関のトップ経営者はますます株主や経済全体のために長期的経済的価値の創造を見通すことに努めてきたというコンセンサスがある。
 真剣に考慮すべき価値がある1つの考え方として、金融機関のトップ経営者は数年間株式を維持しさらに企業の長期的観点から経済的利益が得られると判断できるときに初めてそれを現金化すべきであるというものがある。

③役員報酬に関する法的拘束力のない投票権(Say on pay resolution)の行使
 金融面の回復支援を受ける金融機関を以上に、金融機関の所有者である株主はいかに報酬報奨的な構造がリスク管理を推進させるというのと同様の意味で、役員報酬のレベル設定および経済全体としての長期的な価値の創造の双方の視点から拘束力のない投票権を行使すべきである。

④ ホワイトハウスと連邦財務省による長期的役員報酬のあり方に関するカンファレンスの開催
 財務省長官は、役員報酬の改革問題につき、株主の擁護者、主な公的年金、機関投資家のリーダー、政策立案者、役員、学識経験者、その他を交えた会議のホストを務める予定である。また、金融機関の役員報酬に関し良き実践例やガイドラインの確立のためのモデル役員報酬発議に関する証言、コメントおよび白書を求める。

2.EU委員会の高度専門家グループ(ラロズィール・グループ:議長Jacques de Larosière)による立案政策や金融監督等の改善勧告報告書
 本報告書(全文)は4章全86頁からなるが、次のとおりの構成である(筆者注14)。わが国の政策立法者(policy maker)や金融関係者は、世界中の金融危機をめぐる日々のメデイア情報を悲壮感をもって単に眺めるのではなく、本報告書の持つ意義を改めて分析し、真の原因の探求と長期的観点に立った政策のありかた、見直し項目について早急に研究を進めることが、金融システム全体の安定化と底の見えない不況からより早い段階での脱出につながるのではないか。

第Ⅰ章 金融危機の原因(causes of the financial crisis)
(1)マクロ経済面の原因(例:過剰流動性、低金利―極めてルーズな金融政策―特に米国);大規模かつ世界的な不均衡の累積;リスクの過大または過小な価格付け(mispricing of risk)、レバレッジ金融機関(低い自己資産比率で巨額な資金を動かす金融機関)の大規模な増加)
(2)リスク管理(金融機関、監督機関、規制機関のリスク管理および透明性の欠如―影のバンキングシステムの集積、証券化(the originate to distribute model))およびほとんど理解不可能な複雑性を導いた。)
(3)信用格付け機関
仕組み商品(structured products)や主要な利益の対立に関する大規模な失敗
(4)企業統治
 弱い株主と企業管理の弱さ(間違った動機づけをもたらす役員報酬計画)
(5)規制・監督
 誤った景気循環誇張作用(Procyclicality)(筆者注15)
(以下略す)筆者注9を参照されたい。

3.スイス、オランダや英国における報酬問題と政府の姿勢
(1)スイス
 3月4日にスイス金融最大手のUBSは、4月15日の株主総会で現取締役会議長のピーター・クラー(Peter Kurer)は再任せず、スイス連邦政府の元財務相(元連邦議会議員)であるカスパル・フィリガー(Kaspar Villiger:68歳)が議長に就任する人事内定を発表した。EUのメデイアによると、UBSのトップ経営者は1週間ごとに変わるという不安定な経営を続けており、2月28日に前任CEOマルセル・ローナー(Marcel Rohner)が退任したばかりであり、さらにUBS自身、昨年来米国の連邦内国歳入庁(Internal Revenue Service:IRS)から約17,000人のUBSに口座を有する米国の富裕層の氏名の公表を刑事訴追のかたちで迫られており、同行は顧客名の公開は銀行秘密保護法違反と反論しつつも最終的には2009年2月18日に課税回避幇助(ほうじょ)の疑いを認め、7億8,000万ドル(約760億5,000万円)を米国政府に支払うことで合意するなど、多難な経営を問われている。
 このような状況下でUBSは2008年11月27日の臨時株主総会において、①既存の報酬体系の見直し(Review of existing compensation systems)(UBSグループは臨時株主総会に先立ち11月17日に役員報酬報告(Compensation Report-)—新報酬モデル(USB’s New Compensation Model)-を公表している)、②報酬制度の変更(Changes to compensation programs)、③付与済インセンティブ・アワーズ(報奨報酬)の返還に関する事項(筆者注16)(Issue of repayment of previously granted incentive awards)を決定した。
 新報酬モデル(全15頁)の柱となる項目は、(1)UBSの報酬改定の主要要因(key facts)、(2)2008事業年度における可変的役員報酬(variable compensation for 2008)、(3)2009年度以降における報酬計画(compensation 2009 and beyond)、(4)UBSのコーポレート・ガバナンスと報酬ポリシー(corporate governance and compensation policy)である。以下、各項目の要旨のみ説明するが、その透明性の徹底性を理解するために、わが国の関係者による詳細な分析は必須と考える。
(1) UBSの報酬改定の主要要因
①2008事業年度について、UBSのトップ経営者にはボーナスは支給しない。取締役会議長(Chairman of the Board )、CEOおよびUBSグループ執行役員会のメンバーは固定基本給のみ受け取る。さらに全上級管理職(all members of the senior management)に対し2008年度は変額報酬部分を減額する。
②2009事業年度以降については、今回定めた新報酬モデルをトップ経営層に適用する。新報酬モデルは次の3つの要素からなる。
1.固定基本給(A fixed base salary)
2.変額現金報酬(variable cash compensation)
3.変額株式付与報酬(variable equity compensation)
変額現金報酬は、プラスボーナスまたはマイナスボーナスというシステムに基づき、最大年間変動現金報酬の3分の1は積極的な事業展開結果に従い事業年度末に支給される。また残りはボーナス計算上、第三者預託(escrow)により保持される。
 同様の概念が株式付与報酬にも適用され、数年以上のUBSの積極的な業績に基づき支給される。当該株式数およびその価値はUBS株式の長期的価値の醸成と価格実績に依存する。支給された株式は、3年経過後のみ完全に確定し(vest)、トップ経営層はこれら株式をさらに長期に保有することが義務付けられる。会長およびUBSグループ執行役員会に関する2009年報酬モデルはすでに改定された。同様の報酬改定は以下の役員クラスやいわゆる「進んでリスクを取った特定の従業員(specific employees,the so-call “risk takers”)」に対し同様の方法で行なわれる。また、それ以外の従業員に関しては、変額報酬の現行システムは基本的には変わらない。
(2) 2008事業年度における可変的役員報酬
会長およびUBSグループ執行役員12名のボーナスはない。非常勤役員等は2008年度に関しては引続き固定報酬を受け取るが、その半分は現金で残り半分の株式は4年間保有が固定され売却はできない。また、変額報酬の一般原則として、2008年度に関しては銀行の業績悪化を反映し減額する。2009年1月末までに年間の金融業績が確定したときは変額報酬の規模、組成およびその割当についてスイス連邦銀行委員会(Swiss Federal Banking Commission:SFBC)と協議のうえ決定することになる予定である。
UBSは、マルセル・オスペル元会長など旧経営陣が受け取った役員報酬のうち約7,000万スイスフラン(約58億3,000万円)の返還を決定しており、またピーター・クラ-会長等現経営陣も2008年のボーナス返上を決定している(前記インセンテイブ・アワーズの返還)。
 
(2)オランダ
 オランダ銀行協会(加盟銀行数87)の諮問委員会が2009年4月7日に行った「信頼を回復するために(Restoring Trust)」と題する報告書への対応として作成したのが今回の「行動規範(Code Banken:Banking Code)」である。英国「フィナンシャル・タイムズ」が報じたところ行動規範の前書きの最後にもあるとおり、本規範(全16頁)は銀行協会が監督機関である財務省への強い配慮があり、また内容面でも本ブログで述べたとおり国際的な監督当局等の動向も十分に配慮したもので今後他国への影響も視野に入れた内容といえる。
 本ブログでは、その前書きの内容および目次からその主旨と全体構成を見る。
A.前書き
・行動規範はオランダ金融監督法(We op het financieel toezicht:Wft)に基づき銀行免許を持つ銀行のオランダ国内およびEU加盟国内の支店活動を含むすべての活動に適用する。銀行が金融グループの一部の場合や連結ベースの場合でも適用し、また本規範の諸原則は銀行グループの関係機関にもすべて適用する。
・2008年12月10日制定した「オランダ・コーポレートガバナンス規範(De Nederlandse corporate governance code )」は加盟銀行に適用され、非加盟銀行に対しても任意ではあるが時として適用され、本規範もガバナンス規範の基本原則を取り込んでいる。特に本規範は取締役会、監査役会や銀行におけるリスク管理や監査に焦点を当てている。また規範は報酬(beloning)に関する基本原則を含むものである。
・行動規範は自らよって立つものではなく国内、欧州および国際法や規則、判例法や規範すべてを視野に入れたものである。国内、欧州および国際事情、個々の銀行(銀行グループの場合はグループ)の活動や特性は本規範の適用時に考慮されなければならない。年次報告において各銀行は規範を適用また適用しなかった場合はその理由の全部または一部を含め説明を行わねばならず、またウェブ上でその報告を行わねばならない。
・リスク選考(riscobereidheid)は、銀行が目標の追求に向け合理的に予見できる量を参照せねばならない。
・金融商品承認手順(Product Goedkeuringsproces)は、特定の商品が銀行の支出とリスクにおいてあるいは顧客の利益に則して作成、配分されるよう参照されなければならない。この手順は注意義務とリスク管理において大規模な試験を包含するものである。
・本規範は2010年1月1日施行予定である。
・国際的な規範の導入や策定を状況に応じタイミングを見て、将来本規範の改定が必要となろう。
・本規範の遵守状況については、財務省と協議のうえ任命する独立監視委員会が毎年モニタリングする。

B.規範の目次
1.行動規範の遵守(NALEVING CODE)
2.監督委員会(RAAD VAN COMMISSARISSEN)
2.1 メンバー構成と専門知識(Samenstelling en deskundigheid)
2.2 任務と活動方法(Taak en werkwijze)
3. 常務会(RAAD VAN BESTUUR)
3.1 メンバー構成と専門知識(Samenstelling en deskundigheid)
3.2任務と活動方法(Taak en werkwijze)
4. リスク管理(RISICOMANAGEMENT)
5.監査(AUDIT)
6.報酬方針(BELONINGSBELEID)
6.1 基本原則(Uitgangspunt)
6.2 統冶(Governance)
6.3 取締役会メンバーの報酬(Bestuurdersbeloning)
6.4 可変報酬(Variabele beloning)

(3)英国の主要金融機関の役員報酬の見直しの論議
A.破綻・国有化銀行のトップ経営者の報酬問題と政府・議会の論争
 英国の代表的な銀行の経営破たんの状況はわが国でも日々伝えられるが、ドイツやスイスの大銀行のトップであるCEO等がボーナス受給を放棄したのに比べ、ブラウン首相を始めとする政府の姿勢も必ずしも明確でなかった。筆者も昨年秋以降状況を主要メデイアによりフォローしていたが、議会の公聴会をはじめ閣内、労働組合会議など閣外の関係者を巻き込んだ論議が行われ、その間に大手金融機関はますます損失額が膨らむといった英国金融システム自体がマイナス・スパイラルに陥っていたことは間違いない。
 最近の話題では、3月20日付インデペンデント紙はでダーリング財務相が国有化が進んでいる金融機関のトップ経営者のボーナスや報酬にキャップをかけることを拒否したと報じている。同相は、19日の下院特別財務委員会(Treasury Select Committee)において議員(MP)に対し、政府は金融部門の過度な報酬支給に対し行動をとることを強く希望するが、一方でキャップによる規制は英国の税収入面でブラックホールを作ることになり「両刃」の手段と考えると述べている。すなわち、政府の所得税および国民保険の12%が伝統的に金融部門からの収入に依存しており、仮に役員報酬にキャップをかけるとしたら税収面で痛手を受けるし、また税金で尻拭いした金融機関の(bailed out banks)トップ経営者はより高い報酬を求めて海外の金融機関に移るであろうと証言している。
 他方で、同相は将来の報酬支給に対する要請のために報酬に関する強制規範を設けることにより、経営を失敗した銀行員(元RBSのCEOのフレッド・ゴッドウインに対する70万3000ポンド(約2,320万円)の報酬支給を含む)を活性化させることに対する国民の怒りに政府として応えることが不可欠であると述べている。なお姿勢が曖昧である。

B.金融サービス機構(FSA)が金融機関向け「報酬実施基準(remuneration code of practice)」を策定・施行
 FSAは2009年8月12日に銀行、住宅金融組合(building society)およびブローカーデーラーのための「報酬実施基準(Reforming remuneration practices in financial services)」を公表し、その施行は2010年1月1日である。(筆者注17)英国のメディア情報等によると、次のような内容である。
・施行時期までに各機関は報酬基準の策定やリスク管理強化と調和のための適用および維持に関する手続・実施方法を定めなくてはならない。
・本基準は報酬方針の声明の作成を金融機関に義務付けるもので、「8原則」とその詳細なガイダンスからなる。FSAは近々金融機関の報酬委員会の委員長に関する文書を作成する予定である。
・本基準は賞与報酬の仕組みに関しては、当初FSAが公表した基準案に比べ詳細な記述はないが、8原則の中で上級行員(senior employees)やリスクを扱う担当者(risk takers)に関する記述を置き、リスク管理を強化している。
・「8原則」は次の分野をカバーしている。
①報酬方針とそのメンバー(例えば報酬委員会(remuneration committee)、報酬方針声明)の役割
②報酬とリスク問題および法遵守の設定手順(Procedure for setting remuneration and risk and compliance function)
③従業員の報酬に関するリスクと法遵守効果
④収益ベースの測定とリスク調整(Profit-based measurement and risk- adjustment)
⑤長期業績測定(Long-term performance measurement)
⑥非財務面の業績測定基準(Non-financial performance metrics)
⑦長期的奨励計画の業績測定方法(Measurement of performance for long-term incentive plans)
⑧報酬の仕組み

C.金融監督機関であるFSAの役職員の報酬問題
 FSAの副議長であったSir James Crosbyは2009年2月11日に急遽辞任しておりFSAの役職員の報酬問題は英国のメディア度も時々取り上げられている。


(筆者注1)「経営者報酬ガイドライン」自体わが国ではなじみが薄い概念である。一方、わが国の銀行も含め経営の透明性の見る上で必須の要素であろう。その意味で本ブログの執筆中に見出した同ガイドラインに関する報告書「2007年度経営者報酬ガイドライン-報酬ガバナンスの確立を-」日本取締役協会(ディスクロージャー委員会)は海外と日本の役員報酬比較や動向も含め大変参考になった(内容から見て米国人材コンサルティング会社タワーズぺリンの寄与度が高いように感じられたが)。

(筆者注2)米国経済・金融の課題は毎日報道されているとおり、実際、行政における混乱の程度はかなりひどいといえる。従って、財務省等による「役員報酬規制」問題に特化して見ても、連邦規則の内容は刻々と変化しており、次のような経緯・内容を正確に理解しておく必要がある。
(1)2008年10月14日連邦財務省は2008年緊急経済安定化法(EESA)に基づくその支援適用金融機関が遵守すべき「役員報酬」および「コーポレート・ガバナンス」に関する次の3基準を「財務省通達」のかたちで公表した。
①不良資産競売プログラム(Troubled Asset Auction Program):EESAに基づき財務省に3億ドル(約290億円)以上で不良資産を競売する金融機関は、ゴールデン・パラシュート条項を含む新たな上級役員との雇用契約の締結を禁止する。(財務省通達2008-TAAP)
 さらに、EESA下で金融機関は50万ドル以上の役員の役員報酬の税控除措置(tax deduction)が禁止され、また一定のゴールデン・パラシュート報酬についても同措置を禁止、さらにゴールデン・パラシュート支給額に対し20%の消費税(excise tax)が課される。(内国歳入庁通達2008-94)
②資本買取プログラム:適用金融機関は、(ⅰ)金融機関自身の価値を脅かす不要かつ過度のリスクを行うことを上級役員に奨励するような報奨報酬を行わないこと、(ⅱ)後日実質的に不適切と判断された損益計算書等に基づく上級役員に支払われたボーナスや報奨の返還義務、(ⅲ)内国歳入庁規則に基づくゴールデン・パラシュート支給の禁止、(ⅳ)50万ドルを超える役員報酬の税額控除を行わない合意が求められる。
③業績悪化金融機関へのケースバイケースに応じたプログラム:前記②と同様であるが、ゴールデン・パラシュート支給に関してはより厳格な禁止規定が、設けられる予定である。
(2)2009年1月16日財務省は、役員報酬に関する報告および記録保存義務を追加した暫定最終規則を公表した。なお、財務省は役員報酬に関する連邦規則についてFAQを作成し公表している。
 今回の規則により金融機関のCEOは、毎年、事業年度終了後135日以内に今回の役員報酬基準を遵守しているかにつき認証を行うことが求められ、さらに買取対象金融機関と財務省の間で結ばれる証券買取契約の手続完了日後、120日以内にCEOは報酬決定委員会がリスク担当役員とともに上級役員報奨報酬契約において不要かつ過度のリスクを勧めていないことを保証すべく見直したことについて認証することが求められる。CEOは、これらの結果を毎年TARPの主席法遵守担当官(TARP Chief Compliance Officer)に報告しなければならない。
 また、当該金融機関はこれらの各認証後6年間実証結果の記録を保存するとともにTARPの主席法遵守担当官に当該記録を提供しなければならない。

(筆者注3)米国財務省のガイドラインについて、経済コラムニストの小笠原誠治氏が2009年2月5日のブログで翻訳されており、本ブログでも参考にさせていただいた。ただし、同氏のブログでは英国やドイツ等についての報告は行われていない。

(筆者注4)ニューヨーク州司法長官アンドリュー・クオモ(Andrew Cuomo)は、今回のメリル幹部に対するボーナス支給が証券取引法違反に該当する点につき捜査を進めており、これに対しバンクオブアメリカ(BOA)は3月5日にマンハッタンのニューヨーク州最高裁判所に対しボーナス支給に関する元メリルリンチCEOジョン・セイン(John Thain)の内部通報に基づく証言について、その機密性に関する緊急機密性保護命令(temporary confidentiality order)を求めた。一方、同長官はこの申立を却下するよう同裁判所に申し立てている。

(筆者注5) “investment banker”とは「インベストメント・バンク」においてその主要業務につき各種ファイナンス、金融工学や運用技法および証券・法律・税等の知識・経験を用いた財務相談やM&A、法人・公的機関・資産家等に運用アドバイスを行う金融のプロを言う。「インベストメント・バンク」は「投資銀行」と訳されて「銀行」という言葉が入ってはいるが、個人向けの融資は行わない。“Investment Bank”という呼称は、個人などから預かった預金を元手に企業に融資を行う“ Commercial Bank”と区別するための用語である。商業銀行はその収益の大部分を主に企業に融資することにより発生する利息に依るのに対し、投資銀行の収益は株式や債券の資本市場における発行時に発行額に応じて徴収する手数料に依ることが特徴で、自らはバランスシート上に大きなアセットを有さないので「銀行」と訳されているが、むしろ「法人向け証券会社」にイメージが近い。主に、株式市場を通じた企業の資金調達や、M&Aコンサルティングを手がけている外資系の金融機関を指す言葉で、インベストメント・バンクには預金の受入れ等の商業銀行業務の兼業は、法的には認められていない。なお、日本にも、このような事業を営んでいる企業は数多く存在しており、その多くは証券会社が担っている。
 歴史的にみると1990年代には高度な金融工学技術を駆使して複雑な企業合併や巨額の資金調達アドバイスを行えるゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーのような米系投資銀行に対して、日本の大企業や政府系機関が相談するようになり、日本で「投資銀行」「インベストメント・バンク」などの名称が知られはじめた。その後、不良債権処理やM&A仲介、債権の証券化などを手がけながら存在感を強め、2000年代に入るとインベストメント・バンクは一般的に認知されるようになった。
 インベストメント・バンクの主要業務は、顧客企業に対する有価証券の発行による資本市場からのファイナンス、M&Aコンサルティング、財務分野では、各種保有資産の流動化による資金調達(不動産やローン債権の証券化等)、金利や為替等のデリバティブ(スワップやオプション取引等金融商品の価格変動リスクを回避し、低コストでの調達や高利回りの運用といった有利な条件を確保するために開発された取引)を用いた財務リスクヘッジなどがある。また、ノンリコースローンやプロジェクトファイナンス等の、企業やプロジェクトが将来生み出すキャッシュフローに依拠した融資判断を行う先進的な融資も行っている。
 一方、インベストメント・バンクは、有価証券やデリバティブのトレーディング等も行う。投資顧問先やヘッジファンドなどのように、クライアント企業のために行うトレーディングや、自己勘定のために行うトレーディングがある。その責任担当者を”trader”と言う。
(SITE BANKのM&A辞典「インベストメント・バンク(Investment Bank)」解説から一部抜粋・追加。)

(筆者注6)オランダ銀行協会等が定めた規範の英文の原語は“Provisional Banking Code”である。わが国のメディアは行動規範と訳しているが正確には「倫理規範」の要素も含まれるといえよう。ちなみに世界的金融グループである“Deutche Bank”経営方針(日本語)を読んで欲しい。そこには倫理規範や行動方針の考えが明示されている。

(筆者注7)わが国では英国FSAは比較的多くの機会の紹介されている割には、その内容は正確でない。すなわち本文で述べたとおり、FSAの役員報酬がなぜ問題になるかはFSAの機能・組織論の理解なしには語れないのである。FSAは「2000年金融サービス市場法」に基づき設立された独立非政府機関たる保証有限責任会社(company limited by guarantee)である。「保証有限責任会社」とは営利を目的としない社団が法人格を取得する際に用いられる会社形態であり、Chairman(会長) が議長を務める取締役会があり、また業務執行の最高責任者CEOが置かれるなど民間事業会社と類似の組織を持つ。実際FSAサイトを見ると財務省が任命するFSAの取締役会のメンバーは会長(Adair, Lord Turner)、CEO(Hector Sants)、常務取締役3名(Sally Dewar、David Kenmir,Jon Pain)、非常勤役員(non-executive member)9名(Carolyn Fairbairn,Peter Fisher,Brian Flanagan,Karin Forseke,Sir John Gieve,Professor David Miles,Michael Slack,Hugh Stevenson,なお副議長であったSir James Crosbyは2009年2月11日に急遽辞任しており、現状は8名である)

(筆者注8)Sir James Crosbyの辞任報道に対する国民の関心は高い。彼は2008年9月18日にロイズ・TSBが買収した英国住宅金融最大手HBOSのCEOであった人物である。ガーデアン紙(電子版)、タイムズ・オンライン等によるとHBOSの世界的リスク管理部門長であったPaul Moore氏による内部通報に基づく議会下院特別委員会(select committee)の論議が辞任の引き金になったようであり、英国ゴードン・ブラウン政権はこのままでいくとますます混迷の度合いを深めていくようである。

(筆者注9)最近時、わが国の金融機関においても役員退職慰労金を廃止し、株式報酬型ストックオプション(新株予約権)の導入が行われ、各金融機関のホームページへも掲載されている。しかし、UBS等の例に見るとおり、欧米の企業ではさらにストック・オプションから譲渡制限付株式報酬への移行も行われ始めている。

(筆者注10) 前記小笠原誠治氏もブログ(追記)で指摘されているとおり、「将来の(going forward)」という用語は問題である。この規制ガイドラインは今後の新たに適用される金融機関への規制ルールであってAIG、バンクオブアメリカ、シティには適用されないと読める。それでは、今回の規制強化は世論を無視した骨抜き対策としか言いようがなかろう。

(筆者注11)“Restricted Stock(RS)”とは、譲渡制限期間付きの株式を付与する報酬プランである。RSを付与された役員や従業員は、譲渡制限期間中に配当を受け取ったり、議決権を行使することができる。ただし、譲渡制限期間が終了する前に退職するとRSの権利を失う。・・・・・RSは、一般に役職員の引留め効果が高いといわれる。ストック・オプションでは、権利確定時の株価が行使価格を上回らないと無価値になるのに対し、RSでは株価が下がってもゼロにならない限り報酬金額はゼロにならない。(野村総合研究所「資本市場クォータリー2004年冬」より引用)

(筆者注12)“Say on Pay”の意義は大和総研の吉川満氏や鈴木裕氏のレポートを参考にした。このような新語については必ずしも法的に見た適切な訳語がないことが一般的であり、レポート作成者はその辺を慎重に配慮した内容の精査が求められよう。また米国企業の動向で内容を精査することも大事である。例えばアップルは2009年4月28日付けで「アップル、Form 10-Qを修正」と題するリリースを行い、その中で「アップル取締役会の報酬委員会は、これまでSay on Pay問題の動向を注視してきましたが、近い将来、新しい法律または規則によって、すべての上場会社において何らかのSay on Pay投票が必要とされるようになるものと予想しています。また、仮にそうならない場合でも、アップルは来年度、Say on Pay 勧告的決議の導入をいたします。」と述べている。
 この点についてわが国のシンクタンクの解説例で見ると、みずほ総研『みずほ米州インサイト』2009年8月11日号西川珠子氏「米国における役員報酬規制強化~政府による金融支援対象企業から全上場企業に適用拡大へ~」2頁の“Say on Pay”の説明は「役員報酬に関する株主承認決議の義務付け」とのみで法的拘束力問題については言及していない。この新制度論議は十分米国内での議論されていないことも事実であるが、読者に正確なイメージを提供することが調査担当者としては必須であろう。特に西川氏のレポートはわが国では貴重なレポートだけに残念である(本注は筆者のこれまでの研究論文の査読経験から見た感想である)。

(筆者注13) “clawback provision”について、わが国では的確な訳語やまともな解説はほとんどない。筆者なりに解説を行っておくが、今回の金融危機を背景に欧米の金融機関における“clawback provision”の取組みや研究は進むであろう。
“Clawback Provision” とは、 日本語にすると「条件付回収条項」であり、ボーナスの一部は「人質」として差し押さえられていて、将来、会社にとって不利になるような取引に手を染めたり、会社の風評に傷つけたり、業績悪化を招くような仕事をした場合は、人質になっているボーナスは没収されるという条項である。“clawback provision”に合意しないとボーナスは払って貰えなくなる。

(筆者注14)“Golden Parachutes”に関する人事・経営面の解説を読んだのは経団連経済本部経済政策グループ?の藤原清明氏の論文が専門外の筆者にとって大変参考になった。
ただし原稿が未定稿と記されており気になって直接本人に照会したが、その後見直しは行っていないとのことであった。ここで補足すると、「ゴールデン・パラシュートとは、敵対的買収の標的にされた会社の経営陣が経営の座を譲り渡す代わりに多額(解任前の5年間の課税対象期間の平均年間報酬の3倍)の割増退職金を受け取る取り決めをさす。ハイジャックされた旅客機からパイロットだけが落下傘で脱出、そしてその落下傘は100ドル札を無数に貼って作られたものだった・・・。そんなイメージが浮かびやすい見事なネーミングである。」http://blog.livedoor.jp/blue_monday_777_3/archives/54860726.html他

(筆者注15)31の勧告を含め、本報告書の内容の重要点を理解するには、別途公表された要旨(18頁)を読むことをすすめる。

(筆者注16)「プロシクリカリティ(procyclicality)」とは金融機関の貸出を通じた信用膨張と信用収縮の景気循環への増幅効果をいう。2008年11月15日に米国ワシントンで開催されたG20金融サミットでの「金融・世界経済に関する首脳会合宣言」などで使用されてから一般的になった言葉と思っていたが、実は「景気悪化時には貸出の信用度が低下するので、バーゼルⅡの下では自己資本賦課が増加するため、金融機関の貸出姿勢が後退して景気の悪化を増幅する、という主張である。」と2004年11月に「新BIS 規制案の特徴と金融システムへの影響」において日本銀行信用機構局参事役 宮内 篤氏が紹介されている。

(筆者注17)「 付与済インセンティブ・アワーズ」という訳語はUBSの日本語サイトから直接引用した。日本の株主は、言葉の意味がほとんど理解できないであろうから、補足しておく。役員や従業員に対するインセンテイブ・アワーズとは、いわゆる報奨型報酬である。欧米の企業では株式関連報酬が一般的であり、代表的なものとしては、①ストック・オプション、②譲渡制限付株式、③パフォーマンス株式、④パフォーマンス・ユニット、⑤SAR(Stack Appreciation Rights:株価連動型報奨受給権)などがある。報酬に支払方法で区分すると①と⑤は値上がり利益型、②と③は株式の価値そのものが報酬となる、④は金額固定型である。

(筆者注18)FSAは2009年3月18日に経営リスクが集中する大銀行やブローカーデイーラーのほか連結自己資本価値(consolidated regulatory capital worth)が10億ポンド(約 1,490億円)または同価値が20億ポンド(約2,980億円)の国際金融グループの支店およびFSAが監督下におく金融機関や住宅金融組合向けの「報酬実施基準(案)」を公式に発表した。約45の金融機関が対象となるがFSAこの基準は報酬の絶対額を定めるものではないと述べている。

〔参照URL〕
http://www.whitehouse.gov/the_press_office/TreasuryAnnouncesNewRestrictionsOnExecutiveCompensation/
http://ec.europa.eu/commission_barroso/president/pdf/statement_20090225_en.pdf
http://business.timesonline.co.uk/tol/business/industry_sectors/banking_and_finance/article5721401.ece?&EMC-Bltn=MLWE7A
http://www.ubs.com/3/e?pg=1&or=r&lo=t&qt=2008+compensation+ceo
http://www.nvb.nl/scrivo/asset.php?id=291492
http://www.fsa.gov.uk/pubs/policy/ps09_15.pdf

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2009年9月1日火曜日

海外の新型インフルエンザ感染拡大阻止に向けた最新動向と新たな課題等への疫学・臨床戦略(N0.15)

 
 本ブログ連載NO.12(2009年8月7日)で紹介してきたとおり世界の主要国では製薬会社による新型インフルエンザ・ワクチンの治験やその準備が始まっている。
 AAP通信等によると、オーストラリアの製薬会社2社が7月22日までに、新型インフルエンザ・ワクチンの南部のアデレード(Adelaide)で、成人治験ボランティアによる投与治験を開始した。メルボルンの製薬会社CSL社は、240人が参加する7か月間の治験を7月初旬に開始し(筆者注1)、またアデレードのVaxine社は、300人の参加者による治験を開始した。これらの製薬会社によると、新型インフルエンザワクチンの治験は世界で初めてであり、最低6週間かかって有効性が確かめられれば、10月にも接種供給が可能だとしている。(筆者注2)
 一方、8月27日時点で英国(イングランド)の累計確認感染者は254,947人、入院患者数は218人、死者は少なくとも57人と発表されている。BBCが報じるところではこの両社は英国政府とは契約していないが、Vaxine社の研究者はブタ由来インフルエンザは過去経験したウイルスに比べ独特の野生的性格(peculiar beast)をもっており、新ワクチンに期待してはいるが十分機能するという保証はないと述べているそうである。
 その英国は感染拡大策として7月23日から病院や国民健康保健サービス(National Health Service:NHS:英国全域の保健医療サービスを提供する政府組織)の指定家庭医(General Practitioner:GP)の負担軽減と患者の混乱阻止策として新型インフルエンザ専用サイト“National Pandemic Flu Service”または専用電話回線を通じて症状を確認するサービスを始めた。また国民自らの感染状況を監視・報告するモニタリング・システム”FluSurvey”に基づく調査結果を公的保健機関の調査結果と並行して公表している。
 また、わが国ではなお結論が不透明なワクチン接種の費用負担の問題につき、ドイツ連邦内閣は8月19日に民間保険会社の団体である疾病保険協会(Der Verband der Privaten Krankenversicherung:PKV)、疾病保険会社との間での費用負担協議がまとまり、9月末か10月初めに予定されている接種実行に関する規則につき合意した旨発表した。
今回のブログはこれらの動向を中心に解説する。


1.オーストラリアの新型インフルエンザ・ワクチンの準備状況
 連邦保健高齢者担当省(DHA)によると、8月28日現在の同国の累計確認感染者は 34,467人、入院者数は417人(うち集中治療室(ICU)は83人)、累計死者数は150人である。ワクチンの治験開始から約1か月経過したがオーストラリア連邦保健高齢者担当省(Department of Health and Ageing:DHA)は8月20日にCSL社から世界で初めての大人に関する予備治験結果(preliminary trial data)報告を受けた旨公表している(専門家によると安全性を確認するには十分なデータではなく数週間後の追加報告を求めている)。DHAは2,100万人投与分のワクチンを発注しており、各人に1回接種するとすればオーストリアの全人口(2,100万人)に接種可能な量を確保している。従って、DHAは十分な治験結果の報告を受けた後、8月末には連邦政府は第一次分となる200万投与分バッチを受け取り、ワクチン接種プログラムとして優先接種グループ(詳細な治験結果が出ていない子供を除く)を対象に10月中に実施するとしている。(筆者注3)

2.英国の最新坑ウイルス・ワクチン対策と医師の責任問題
 英国における新型インフルエンザの感染拡大はやや落ち着いた傾向を見せている。しかし、秋以降季節性インフルエンザの感染時期と重なり、さらに今は耐性ワクチンの検出は世界的にみても限定的ではあるが、さらなる変異の危険性を指摘する疫学専門家は多い。
 従って、英国は医療体制に不安のある地域を限定しつつ次のような新たな感染拡大策を取り始めたというのが正直な見方であろう。なお、以下紹介する内容について在英国日本大使館は英国在住の日本人向けの“Q&A”を作成、公開している。英国の保健医療サービス制度であるNHS(GP)のことを知らないと分かりづらい点もあるが、説明内容は正確で参考になる。(筆者注4)

(1) “National Pandemic Flu Service”へのアクセス
 英国政府は、現在3,300万人の坑インフルエンザ薬(タミフル等)を備蓄しており、また今後5,000万人分まで増やす予定である。現時点で本サービスを利用できるのはイングランドだけで、北アイルランド、スコットランドおよびウェールズは公共医療体制の対応能力が十分と考えているようである。
 前記接種の優先順位に該当しないインフルエンザ様患者がこれら坑インフルエンザ薬を入手するためには専用サイト“National Pandemic Flu Service”や専用電話回線を通じた症状の報告が必要である。政府の方針として公衆衛生上の観点から、感染者の国籍、居住・非居住にかかわらず治療薬が届くことになるが、国民健康医療サービス(NHS)を利用するためには原則登録が必要となるのでまずその手続が必要である。

(2)坑ウイルス薬タミフル投与に関するWHOのガイドラインと英国の実績の相違問題
 8月21日、WHOはパンデミック(H1N1)2009“briefing note 8”において本来合併症を持たない健康なインフルエンザ様患者に対し坑ウィルス薬を投与すべきでないとするガイドラインを公表した。その仮訳は国立感染症研究所感染情報センターが行っており、詳細はそちらで確認して欲しいが、今までのWHOの坑ウイルス薬投与の取組み方針から見てどう受け止めるか微妙な点が気になる。その点はわが国の疫学専門家の意見を聞いてみたいが英国でもこの点が問題となった。また、WHOのガイドラインは5歳以上の健康な児童への坑ウイルス薬の投与も不要であるとしている(最新のWHOのアドバイスでもほとんどの患者がインフルエンザの症状を訴えたが、その大部分が1週間以内に回復したとしている)。
 一方、英国メディアによると英国では従来EU加盟国最大の感染拡大国として、最初の2週間でタミフル(oseltamivir)50万以上のパックを健康なNHS登録者に投与している。感染拡大の割合が低下傾向を示した8月中旬においても45,986治療単位(courses)が投与された。このようなタミフルの大量使用がウイルス耐性をもたらす危険性問題があり、実際、英国でも体調不調(sick)、脱水(dehydration)のリスクを伴う嘔吐(vomiting)、悪夢(nightmares)、不眠等418件の副作用(side-effects)報告が出ており、2件の死亡例がタミフルに関連している。
 英国のオックスフォード大学の研究チーム等は緩やかな新型インフルエンザ症状の場合に、坑ウイルス薬の投与方針の再考を促している。
 また、一方で、重症化問題に関し8月20日にランカシャー州プレストンの55歳の男性(Godfrey Armstrong)が健康体にもかかわらず新型インフルエンザで死亡したことから、医師(GPであろう)が重症化していたことを故意に隠蔽したとして家族がNHSの担当省である保健省の健康保護局長を訴えるなど問題が広がっている。(筆者注5)

3.ドイツ連邦政府のワクチン接種の優先順位問題と疾病保険機関・団体との接種費用の負担問題が決着
(1)ワクチン接種の優先順位
 本ブログでも紹介しているとおり、ドイツの感染者数は8月27日現在で英国を上回る15,567 人となり、連邦政府はその対処に力を入れている。連邦保健省は10月以降国民の80%に予防接種することを検討中であると報じられているが、優先的に接種を受けられるのは妊婦、慢性疾患を持つ人、医師・看護師、警察・消防士等である。
(2)ワクチン予防接種にかかる政府・関係機関による費用負担問題の閣議決定
 ワクチン接種は2回行うとして28ユーロ(約3,700円)かかる。今回の決定内容は疾病保険協会が加入者の費用50%を負担し、残りの費用を政府が負担する形をとり、追加予算として2009年度約6億ユーロ(約786億円)、2010年度約2億ユーロ(約262億円)を確保するとしている。なお、連邦保健省(Bundesministerium für Gesundheit)のリリースによると保険契約者の保険料率の引上げは行われないとしている。


(筆者注1)CSL社は2009年6月29日に次のようなリリースを行っている。
「7月中旬以降行われる治験ボランティアは18歳から64歳の健常者が対象で6か月間4回の指定接種を受ける。3週間の間をあけて2回ワクチン注射を打ち投与量の増加による変化結果を見るとともに、ウイルスへの適正な免疫性を生じているか血液検査結果等を見る予定である。」

(筆者注2)新型インフルエンザ(パンデミック2009)ワクチンの製造過程やその今回のスケジュール(time-line)とはどのようなものであろうか。専門外であるため筆者も勉強方々関係サイトを調べてみた。これだけ疫学・臨床上重要な問題であるにも拘らず、公的保健機関、研究機関、(社) 細菌製剤協会等や製薬メーカー(あえてあげるとすれば、2004年5月28日 厚生労働省感染症分科会感染症部会新型インフルエンザ対策に関する検討小委員会におけるわが国の製造メーカーである財団法人化学及血清療法研究所の後藤修郎氏の説明や「緊急研究 事後評価『新型インフルエンザ・ワクチンの生産に関する緊急調査研究』研究)(研究代表者名:国立感染症研究所板村繁之氏)等であろう」を調べてみた。残念ながら、一般的ワクチンに関する啓蒙教材のみであった。海外で見た場合は8月7日付け本連載NO.12で紹介したWHOの“briefing note 7” がこれに匹敵するものである(従来からWHOの参考重要データを仮訳している国立感染症研究所が今回note7を訳していないのはなぜか)。
 ここで、わが国のワクチンの開発・製造・使用段階に関する薬事法や同施行規則、省令について整理してみる。専門外の筆者が理解できる範囲でまとめてみた。専門家による正確かつ分かりやすい解説を期待したい。

・基礎調査
・スクリーニング・テスト
・製剤・製法研究及び薬学的研究
(1)開発段階
①非臨床試験(GLP省令) 「医薬品の安全性に関する非臨床試験の基準に関する省令」(2008年8月15日施行)
②治験届
③臨床試験(GCP省令) 「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(GCP)(1997年3月27日省令第28号)
(注)②、③は「治験薬の製造管理、品質管理に関する基準」(治験薬GMP)(2008年7 月9 日薬食発第0709002号)に基づく。

(2)製造段階(販売承認、製造許可)
①品質管理(GQP省令) 「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」(2004年12月24日省令第179号)
②安全管理(GVP (Good Vigilance Practice)省令)「医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の製造販売後安全管理の基準に関する省令」(2004年9月23日省令第135号)

(3)流通・使用段階
初めの段階で国家検定(承認申請・審査)が行われる。
①再審査
②再評価
(注)医薬品の市販後の品質、有効性及び安全性の確保を図るためのPMS(Post-marketing Surveillance)は、副作用・感染症情報の収集・処理制度(以下、副作用報告制度)、再審査制度及び再評価制度の3つの制度で構成されている。その根拠はGPSP省令(「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令」2004年12月20日厚生労働省令第171号)である(同省令により「新医薬品等の再審査の申請のための市販後調査の実施に関する基準:GPMSP省令」は廃止された)。
なお、GPSP(Good Post-Marketing Study Practice)は、製造販売業者等が行う製造販売後の調査及び試験に関する業務が適正に実施され、また、再審査及び再評価の申請を行う際の資料の信頼性を確保するために、遵守すべき事項を規定した基準である。

(筆者注3)8月26日の新聞報道によると「厚生労働大臣のワクチン接種への早期取組みに関し、海外製ワクチンの輸入は、緊急時に国内での臨床試験(治験)を省略して承認できる薬事法上の「特例承認」を初適用する方針だ。舛添厚労相は、国内で簡略化した臨床試験を実施し、安全性を確認してから承認する意向も示した。」とある。これを正確に言うとこの考え方は平成20年4月16日開催の第7回新型インフルエンザ専門家会議配布資料4「新型インフルエンザワクチンの国家検定について(案)」において示されている。
すなわち、次の考え方である。
(1)新型インフルエンザワクチンは、薬事法第43条に基づき、検定を受け、かつ、これに合格しなければ、販売、授与等をしてはならないものとされている。
(2)しかし、新型インフルエンザの発生時、健康被害の拡大を防止するため、新型インフルエンザワクチンが緊急に使用されることが必要である。ワクチンの備蓄原液を製剤化し、出荷するまでに、製剤化作業や規格試験の期間に加え、さらに上記の検定を受ける期間を要するため、ワクチンの迅速な供給が困難となることが懸念される。
従って、緊急に使用される必要があると認められる場合には、フェーズ4A以降、新型インフルエンザ専門家会議の議論を経て、直ちに国家備蓄しているプレパンデミックワクチン原液の製剤化を行うよう、ワクチン製造会社に要請した時点をもって、薬事法第43条の規定にかかわらず、当該新型インフルエンザワクチンの販売、授与等を行うこととする。

(筆者注4) 在英国日本大使館が提供するサイトでは、英国のNHS(GP)を初めとする医療制度、診療の流れ、NHSの加入方法等NHSの専門サイト“NHS Choices”を使った説明を行っている。大変わかりやすく正確かつ実践的である。現地の専門家によるアドバイスがあったと思うがわが国でも参考になろう。

(筆者注5) 8月21日付“Mail Online”は、WHOの発表(briefing note 8)によればかならずしも基礎疾患が重症化の要件ではなく、世界的に見て従来健康であった子供や50歳未満の成人の約40%が重症化しており、英国の医師も息切れ (shortness of breath)、呼吸困難(breathing difficulties)、胸痛(chest pain)や3日以上にわたる高熱といった症状をチェックできるはずであったと指摘している。


〔参照URL〕
http://www.healthemergency.gov.au/internet/healthemergency/publishing.nsf/Content/health-swine_influenza-index.htm
https://www.pandemicflu.direct.gov.uk/
http://www.bmg.bund.de/cln_091/nn_1168278/sid_32BA346D0590283B0BA985CF5C577CB3/nsc_true/SharedDocs/Pressemitteilungen/DE/2009/Presse-3-2009/pm-19-08-09-leistungsVO.html?__nnn=true

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2009年8月25日火曜日

海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向と新たな研究・開発への取組み(N0.14)

 
 わが国のメディアも欧州疾病対策センター(ECDC)が毎日更新・発表している新型インフルエンザの世界的な感染拡大情報に注目している。本ブログのN0.12で紹介したとおり、WHOが7月22日以降各国別の感染確認件数統計の公表を中止し、WHOの世界6つの地域事務局(regional office)(アフリカ、アメリカ、東地中海、欧州、東南アジア、西太平洋)からの累計確認数と死者数の集計方式に改定したことが、ECDCの個別国情報の意義があらためて浮かび上がった理由の1つといえよう。
 しかし、ECDCも従来独自に集計してきたEUやEFTA加盟国以外の各国の確認済累計感染者数の公表につき「8月9日」をもって中止している。その最大の理由は、ECDCの説明によるとわが国と同様世界の主要国が感染数の公表が出来ていないという最悪の状況になったことであろう。さらに疫学上の重要課題といえる監視情報の混乱の実態は、ECDCの独自の統計とWHOの集計時の誤差の解釈のあり方の問題も浮かび上がってきた。例えば、8月13日現在のWHOの世界統計では累積確認感染者数は182,166 人、死者は1,799人である。一方、ECDCが8月22日に公表したEU加盟国(EFTAを含む)感染者数は42, 099人(うち死者は80人)、その他の国々の感染者数は208,496人(うち死者は2,459人)である。世界全体では累計確認感染者は250,595人、死者は2,539人である。(筆者注1)
 一方、わが国の厚生労働大臣のコメントを待つまでもなく、新型インフルエンザの本格的な流行は本年秋以降といわれていたが、実際は夏から始まっている。都道府県ごとの集計でみた感染発生事例の累計疑似症患者数は8月16までの2009年第33週は1.69(患者報告数:7,750)となり季節性インフルエンザの全国的流行開始指数値(1.00)を上回った。第33週の受診患者数は約11万人と推計され、そのほとんどが新型インフルエンザであると国立感染症研究所は推定している。8月18日までの累計入院患者数は230人である。
 本文で述べるとおり、世界的な感染拡大傾向はこの数週間は従来拡大が続いていた北半球の北米や英国等は低下傾向にあり、わが国の増加傾向はアジア地域や中南米の傾向に近いともいえる。
このような本格的感染拡大への対応として、一層の医療体制の強化や学校等の集団感染対策が必要でありことはいうまでもないが、筆者が従来から懸念していたとおり新型インフルエンザ接種ワクチンの不足問題も具体化してきた。(筆者注2)(筆者注3)
 今回のブログは、グローバルな情報源として注目を集めている一方で、閲覧・検索が困難となっているECDCの最新感染情報の見方や特徴的情報公開を行っている個別国について紹介する。


1.感染主要国における最新情報
(1)WHOの地域別累計感染者・死者数
 WHOが8月21日の公表したupdate62(8月13日現在)によると、累計確認感染者は182,166人以上、死亡者数は1,799人である
 なお、WHOは地域別の動向をモニタリングしており、この1週間の傾向を次のように分析している。
A.世界的傾向:南半球の温和な地域では遅れて感染が報告されている南アフリカを除き他の国では引き続き感染者数は減少傾向にある(オーストラリア、チリ、アルゼンチン等は国全体では減少しているものの一部地域で増加がみられる)。
B.インド、タイ、マレーシア等熱帯アジア地域は雨季に入るため拡大傾向にあり、香港も同様である。中米の熱帯地帯のコスタリカ、エルサルバドルは急激な増加傾向が見られる。
C.北米や欧州の北部温帯地域(northern temperate zones)では米国の3州や西欧州の数カ国での増加を除くと感染拡大率は減少傾向にある。
D.抗ウイルス薬タミフルの耐性ウイルスの報告は世界全体(累計)で12例報告(日本4例、米国・香港特別自治区各2例、デンマーク・カナダ・シンガポール・中華人民共和国各1例)されている。この分離された耐性ウイルスはノイラミニダーゼ(neuraminidase)(筆者注4)(H275Yという)によりタミフル耐性を持つ変異を検出している。(筆者注5)

(2)ECDCの新ポータルサイトのアクセス方法
 8月17日にECDCのポータルサイトが新しくなった。おそらく世界中の関係機関や個人からのアクセスが集中し、サーバーの管理上等で問題が出てきたのかもしれない。Pandemic(H1N1)2009を選択、閲覧しようとすると、IDやパスワード入力が求められエラーとなる。これは、欧州委員会の公衆衛生専門ポータル“Public Health”や米国CDCの“2009 H1N1 Flu:International Situation Update”からアクセスしても同様である。それを避けるには次の手順を参考までに薦めたい。
①ECDCのホームページにアクセスする。
②“Press Centre”を選択する。
③画面右“STAY UP TO DATE”の“RSS Subscribe to the Daily Update-Pandemic
2009”を使ってRSSフィードを利用する。
 また、EU加盟国における新型インフルエンザの取組みに関する最新情報は前記“Public Health”でも確認できる。
また、EUの個別国の担当省等の原データの見方について説明しておく。
①“Public Health”の“Influenza A(H1N1)”を選択する。
②“Information and Advice”の“Information from Member States,Candidate and EEA countries”を選択する。
ただし、この場合各国の言語が正確に理解できることおよびリンク先が外務省等必ずしも国を代表する保健機関でないこともあり、あまり薦められない。


2.個別国情報で情報内容につき特徴がある事例紹介
 米国等主要国や国際機関であるWHOの公表内容が入院患者数と死亡者数の推移等に移る中、疫学的に感染拡大情報を詳細にウォッチしまた国民の不安を解決すべく個人的な対応を行なっている国やあまりわが国では紹介されない国々もあり、今回はそれらの国の情報をあらためて紹介する。

A.カナダ
 公衆衛生庁(Public Health of Canada)の専門サイトは“FluWatch”である。8月15日に終わる週(第32週)で見るとインフルエンザ様疾患 (ILI) )診察率(consultation rate)は全国ベースで見て1,000分の15で前週と同様である。一方、陽性結果の割合は4.2%と前々週の9.9%,前週の5.5%からさらに低下した。
 累計感染者数7,083人のうち入院患者数は1,420人、うち集中治療室で治療中が275人である。累計死亡者数は70人である。アルバータ、マニトバ、オンタリオおよびケベックの4州だけで見ると入院率は90%以上、死亡率は約85%である。
 年令層別に見ると15歳未満の入院率が最も高いが、死亡率について見ると45歳以上の比較的高年齢層が最も高い。

B.オーストラリア
 連邦保健高齢者担当省サイトで見てみる。同国は毎日更新しており、8月25日現在の累計確認感染者数は33,844人、累計死亡者数は132人である。25日現在の入院者数は440人(累計入院患者数は4,198人)で、うち100人は集中治療室(Intensive Care Units)に入る重症患者である。

C.英国
 健康保護局(HPA)は毎週最新情報を公表している。英国の各地域の感染拡大傾向はこの時期として予想より盛んではあるが、収まりつつあり、8月16日までの第33週のイングランドやウェールズのインフルエンザ様疾患 (ILI) )診察率は季節性インフルエンザの率を下回る水準まで下がっている。なお、本ブログでたびたび紹介しているHPAの“Weekly pandemic flu media update”の分析内容は分かりやすいし、毎週公表している“Weekly epidemiological updates archive”は疫学的研究には必須のデータであると思う。
 一方、英国保健省の専門サイト“NHS choices”を8月21日時点で見ると、2週間前の1週で約25,000人が、前週には11,000人になり急速に減少傾向が見られたと分析している。累計死亡者数は59人である。
 英国の保健省サイトは8月13日には、2009年-2010年のブタ由来インフルエンザについてワクチンのグラクソスミス・クラインやバクスターという製薬メーカーに対す発注済である点や、欧州薬品審査庁(European Medicines Agency)により9月末または10月までの検査承認段階に入っており、10月中旬には接種がはじめられると公表している。また、英国「ワクチン接種および免疫合同委員会(Joint Committees for Vaccination and Immunisation:JCVI)」において健康弱者に対する本年10月に供給予定のブタ由来インフルエンザワクチン第一陣の接種の優先順位について次の順序とする考えが示されている。
①その時点で季節性インフルエンザの治療をうけている生後6か月から65歳の者。
②欧州薬品審査庁の承認条件に従い、全妊婦または一定の期間(trimsters)の妊婦。
③免疫システムに影響をもつ個人と接触せざるを得ない家族。
④65歳以上でかつ現時点で季節性インフルエンザで高い医療リスクを負っている人。
さらに、保健と社会医療の最前線従業者へもワクチンを提供する。今後の予定について、豚インフルエンザワクチン接種プログラムの実現の更なるガイダンスがPrimary Care Trust(PCT)免疫のコーディネータ宛に送られるとしている。
 なお、特記すべき記事として英国の“National Pandemic Flu Service”について簡単に解説しておく。わが国では基本的に厚生労働省の新型インフルエンザサイトに個人がアクセスできるとすれば「インフルエンザかな?症状がある方々へ」くらいであろうし、その他には地元保健所等ということになろう。
 一方、“National Pandemic Flu Service”の利用方法の詳細は詳しく見ていないが「本サービスの利用目的」から読み取る限り高い熱がある患者がまず一定の個人医療情報を整理した上で本サイトに直接アクセスするほか、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの各地区情報の入手も可である。

D.ニュージーランド
保健省サイト(Update 142)の情報を見る。8月16日までの第33週で見ると、ILI診察率は前年同週比でなお高い水準にある(特に0歳から19歳の年齢層が最も高い)。
 8月24日現在の確認累計感染者数は3,106人、死亡者数は16人である。

F.香港特別行政区(The Government of the Hon kong Special Administrative Region)
 環境衛生局(Center of Health Protection:衛生防護中心)が担当部署である。最新情報は8月21日現在の情報である。累計確認感染者数は8,535人で、この24時間で326人が新たに感染(うち男性174人、女性153人)しており、感染傾向の分析は別途チャート化したデータサイト(流感速遞)を作成、公表している。

G.ドイツ
 累計感染者数が英国(12,957人)を上回る(8月21日現在で14,325人)。ECDCの情報によるとドイツの感染情報は連邦機関である連邦保健省(Bundesministerium für Gesundheit)と、ロベルトコッホ研究所(Robert Koch Institute)が対外窓口になっている。
 後者の情報の方が詳しいのでその概要を紹介する。
 8月21日(第33週)現在の累計確認感染者数は14,325人である。第33週の感染者数増は1,947人で第32週の2,279人、第31週の2,847人から低下傾向にある。またインフルエンザ様患者の陽性結果の割合については第31週が8%、第32週が15%であったのに対し第33週は18%に上がっている。

3.ECDCに見るEU加盟国の新型インフルエンザ・ワクチン接種の優先順位決定状況
 この問題に関するわが国の取組み状況 (注2)で紹介するとおりであるが、世界の政府・保健関係者の最大の関心はワクチン接種の優先順位であるといっても言いすぎでないかもしれない。
 本ブログでも米国の状況等一部紹介してきたが、その他の国々はどうであろうか。わが国メディアではあまり出てこないEU加盟国の最新情報をECDCの情報等によりスェーデンの例を最後にまとめておく。前記英国の情報と合せ読んで欲しい。
 ○ECDCの“DC DAILY YPDATE” 8月24日号記事:スェーデンの全国保健福祉委員会がワクチン接種の優先順位に関する勧告を採択した。2グループに分れるが並列的に位置づけている。
1)重症化するリスクのある者
a.3歳以上全員および6か月以上で次の基礎的疾患を病んでいる者
ⅰ.慢性肺疾患(Chronic lung disease)
ⅱ.極端な肥満または神経疾患により呼吸困難を引き起こす者(Conditions that cause breathing difficulties like extreme obesity or neuromuscular
ⅲ.循環器疾患(高血圧症を除く)(Chronic cardiovascular diseases(excluding hypertension))
ⅳ.免疫抑制(HIVを含む)(Immune suppressed(incl HIV))
ⅴ.慢性肝不全(Chronic liver)または腎不全(renal failure)(GFR<30ml/min)
ⅵ.糖尿病(発熱性疾患の合併症を引き起こす)(Diabetes mellitus ,when a febrile illness can lead to complications)
ⅶ.過去3年以内に喘息治療をうけた(Asthma under medication for the past three years)
b.妊婦(Pregnant women)
2)医療従事者(Health care personnel)


(筆者注1)ECDCもEU以外の国々が累計確認感染者数の統計を中止したことから、8月9日を最後にEU以外の国の情報公表は中止し、死者数のみ公表している。また、EU加盟国については独自に入院患者者数(hospital admission)、集中治療対象者(intensive care)を集計、公表している。

(筆者注2)新聞でも報じられているとおり、新型インフルエンザ用ワクチンの接種の優先順位の問題が厚生労働省の主催による公開意見交換会が8月20日と同月27日に開催されている。(筆者注3)で説明するとおり、世界中の国でワクチン不足は現実のものである。本ブログ連載No.12(8月7日付け)3.で述べたとおり、米国CDCはワクチン接種の優先該当者を明示した推奨文書を公表し広く世論の支持を仰いだ。今回報道されているわが国の意見交換会の結果もその推奨文書とほぼ同じ内容であり、仰々しく意見会の名目で関係者の意見を聞いたかたちのこだわるより、世界のワクチンの受給体制の現状分析に注力すべきではないか。わが国の場合、準備にかかる体制・時間的余裕は極めて限られている。

(筆者注3) 8月19日の AFP通信は、次のように報じている。「世界保健機関(WHO)は新型インフルエンザA型(H1N1)のワクチンについて、北半球の各国からの発注がすでに10億回分を超えたことを明らかにするとともに、ワクチン不足が発生する可能性を警告した。
 ギリシャやオランダ、カナダ、イスラエルなど一部の国は、全国民に必要な接種分の2倍にあたるワクチンを発注。一方、米英仏独などの発注量は、それぞれ国民の30-78%分にとどまっている。こうした状況に専門家は、需要の急増と製造の遅れが重なって今後ワクチン不足が発生する可能性があると警告。死亡率が高まると見られている流行の第2波に備え、各国政府がワクチン接種対象者の優先度を決める難しい選択を迫られることになるかもしれないと指摘している」。

(筆者注4) 「ノイラミニダーゼ(neurminidase)」とは、ウイルス、微生物、動物の種々の臓器に存在する酵素の1種。シアル酸(ニイラミン誘導体)を糖タンパク質や糖脂質から切り離す作用をもつ。特にインフルエンザウイルスのもつノイラミニダーゼ(NA)はウイルスの標的細胞への侵入に重要な働きをし、ウイルス抗原としても重要である。精製されたノイラミニダーゼは糖タンパク質や糖脂質の機能や構造の研究に用いられる。(株式会社AMBiSサイトから引用)

(筆者注5) 米国における坑インフルエンザ薬への耐性変異についての詳細はCDCの「疫学週報(MMWR)(8月21日号第58巻32号885頁~912頁)に載せる情報が8月15日に筆者に直接届いていた。専門的に調べたいと思う方は是非原文を読まれたい。なお、“MMWR”について、わが国では(財)国際医学情報センターが毎週「抄訳」を発表(最新で8月7日号が訳されている)しているので、しばらく待つのも手かと思う。

〔参照URL〕
http://ec.europa.eu/health/ph_threats/com/Influenza/novelflu_en.htm
http://www.who.int/csr/don/2009_08_21/en/index.html
http://www.dh.gov.uk/prod_consum_dh/groups/dh_digitalassets/documents/digitalasset/dh_104315.pdf

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2009年8月16日日曜日

海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向と新たな研究・開発への取組み(N0.13)

 
 新型インフルエンザの感染リスクは、わが国においても8月15日に沖縄県での57歳の基礎疾患を持つ男性の初の死亡例、複数の年少者の急性脳炎重症化例、坑ウイルス薬タミフル耐性さらに学校が再開される秋以降の不安材料が引続き出始めている。
 特に9月になるとすぐ現実の問題となる「新型インフルエンザと休校・学年閉鎖等の対応」である。本ブログでもしばしば指摘しているとおり、わが国の国立感染症研究所等の分析結果を待つまでもなく、年齢別に見た感染拡大の年齢層の特定化や幼稚園から少中高等学校等における集団感染が大きなリスク要因であることは言うまでもない。
 この問題の保健分野の責任機関である厚生労働省から関係する事務連絡は、本年6月19日付けの「『医療の確保、検疫、学校・保育施設等の臨時休業の要請等に関する運用指針』の改定について」のみであり、また文部科学省の関連事務連絡は保健所と学校との報告・連絡体制(筆者注1)であって、学校管理者がどのような判断基準に基づいて生徒、職員や父兄に接したらよいか、その具体的指針となるものは一向出て来そうにもない。
 今回のブログは米国疾病対策センター(CDC)が本年秋以降の準備として公表した「米国の公的無償教育機関(K-12 grades(幼稚園から高校)(筆者注3)の管理者向け対応ガイダンス」等の要旨を紹介する。
 これらの新型インフルエンザの拡大阻止に向けた具体的な対応上の参考情報として、わが国の「国立感染症研究所」は従来からサイト上で「CDCによる情報―各ガイダンス・ガイドライン」を公表している。いずれ本件についても公表すると思われるが、時間的余裕もないので急遽取り上げる。
 なお、米国政府の新型インフルエンザ専門サイト“Flu.gov”は「学校の新型インフルエンザ対応」問題を“School Planning”として取り上げて関係者の取組み課題を整理し、かつ本年秋以降の季節性インフルエンザの流行とも抱き合わせで内容更新を図っており、今回その更新項目も併せて紹介する。いずれにしても国民・関係者への包括的な情報提供は欠かせない点を改めて強調したい。(筆者注2)


1.“Flu .gov”サイトの教育関係者向け事業継続計画更新の主要項目
 今回のサイト内容の更新は、連邦政府が2009―2010学年度用に策定したもので、①CDCの州・地方行政機関および学校管理者のための対応・報告ガイダンス、②州および地方行政機関に対するCDCガイダンスに基づく疫学技術や戦略面の具体的適用に関する報告書、および③学校管理者がCDCガイダンスを適格に実践するため教師、生徒の両親間の基本的情報内容とその具体的コミニケーション・ツールを提供することにある。
 なお、電子政府サイトである“Flu .gov”の構成を参考までにあげておく。ここで筆者が言いたい点は常に状況が変化しつつある「新型インフルエンザ」対応について、最新関係情報が一覧性をもって閲覧・アクセスできることが「電子政府」の基本機能と考えるからである。

(1)教育関係者向け新型インフルエンザの予防ワクチン接種ガイダンス(Novel H1N1 Vaccination Guidance)(CDC)、学校閉鎖(School Dismissal,School Closure)状況モニタリング・システム(CDCおよび連邦教育省(U.S.Department of Education))、連邦教育省の新型インフルエンザ情報、日帰り・泊込みキャンプ時の留意ガイダンス(CDC)、高等教育(Higher Education)・中等後教育(Post-Secondary Education)機関向けガイダンス(CDC)
(2)地方教育機関が新型インフルエンザの準備計画の策定等を行う際のチェック・リスト(幼稚園、中等教育機関、大学に分れている)(CDC、連邦保健福祉省(HHS)、連邦教育省の協同作成)
(3)各種ガイドライン、ツールおよび関係報告:緊急時の明確な学校閉鎖権限に関する法的見解(ジョージタウン大学およびジョンホプキンス大学の法律・公衆衛生センター作成)他

2.CDCの州・地方行政機関および学校管理者のための2009―2010学年度対応・報告ガイダンスの要旨
 CDCガイダンスの推奨内容は、2009年春以降に見られた新型インフルエンザの集団感染の経験に鑑みかなり具体的であり、また直裁的な言い方をしている。しかし、教育現場の責任者としては曖昧な形で責任を負わされるより運営しやすいとも言えよう。また、インフルエンザ様感染者の学生や事務職員について自宅待機原則を打ち出す一方でその間の学習プログラムの遅れ等を解決すべく取組むべき手段や項目を具体的に示した内容となっている。
(1) 2009―2010学年度において学校に要請すべき内容
①インフルエンザ様疾患(flu-like illness)の時、熱が下がっても自宅にいる:インフルエンザ様疾患(flu-like illness)の学生は、解熱剤を使用せずに熱が下がったり熱がなくないと判断されても24時間は自宅内にいること。坑ウィルス薬を使用した場合でも同様である。
②インフルエンザ様疾患(flu-like illness)の学生や職員を自宅まで送る際、速やかに別室に隔離し、関係者は可能であれば医師用マスク(surgical mask)等、防護用具(protective gear)等の使用を推奨している。
③頻繁に手を水と石鹸で洗浄し、咳やくしゃみをするときはテッシュで覆うかワイシャツの袖で覆う。
④学校の清掃担当者は定期的に学生や職員が頻繁に使用するエリアを清掃する。
その際、漂白剤(bleach)や非洗剤型クリーナー(non-detergent based cleaners)の使用した特別な清掃は不要である。
⑤妊娠、喘息(asthma)、糖尿病(diabetes)、免疫不全(compromised immune systems)、神経性疾患(neuromuscular diseases)をもつインフルエンザ様疾患者は、速やかに自分のかかりつけ医師に相談し、坑ウイルス薬による早期措置を行うことが重症化や死を回避することになる。

(2)この秋以降の感染状況は春以上に厳しいものである前提下での対応策
①インフルエンザ様感染者の積極的選別
 学校は毎朝学生や職員について熱やその他の症候がないかチェックし、また1日中チェックを適時行い、可能な限り隔離し、自宅に送りつける。
②高いリスクを持つ学生や職員は自宅待機を指示
 地域内でインフルエンザが循環始めたときは感染併合症のリスクの高い学生については担当医と相談の上自宅待機させる。その際、学校は授業の継続性を確保するため自宅にいる間の教育方法について電話指示、宿題(home pachets)、インターネット・レッスンやその他の適宜の手段を用いた教育の継続計画をたてるべきである。
③感染者を家族に持つ学生等の自宅待機
 家族がインフルエンザに感染した学生はその感染第1日目から5日間(感染する可能性が高い期間)は自宅待機させる。
④一定期間の自宅待機
 インフルエンザの感染拡大が広がったとき、インフルエンザ様の病人は仮にそれ以上の症状がまったくなくなっても少なくとも7日間は自宅に居るべきである。
⑤学校閉鎖(School Dismissals)
 学校および保健機関の担当者は学校閉鎖が教育や地域の混乱拡大を引き起こさないよう緊密に行動すべきである。
 学校閉鎖の期間はカレンダーでいう5日から7日間とすべきであり、正常に戻すときはこの期間のどこかにかかわらず再評価すべきである。先生と職員はその他の手段が取れるよう学校閉鎖実施時でも学校は開けたまま残るべきである。

(3)具体的行動過程における決定事項
 CDCや関係機関の意思決定者は次の1つ以上項目について特定のうえ伝達しなければならない。州や地域レベルで議論を行いまた決定に至るためには次のような疑問点を明確化する必要がある。
A.すべての正当な意思決定者と利害関係者が関与しているか、すなわち州や地域の保健機関、教育担当機関、治安担当機関、知事や市長等統治機関、保護者や学生の代表、地元企業、宗教団体(faith community)、先生の組合や地元のコミュニティ団体、教師、公的医療機関や病院、学校の看護婦、学校給食の責任者、学校の用品供給業者が関与しているか。
 B.州や地域の保健担当者は次の情報を共有し、同情報に基づき決定を行っているか。
・インフルエンザ様疾患の通院患者数
・同入院患者数
・同入院・死亡者数の傾向
・集中治療室に入った患者数の割合
・同死者の情報
・地域医療機関の対応能力と緊急対応機関の需要拡大時の対応能力
・入院用ベッド数、ICUの余裕、インフルエンザウイルス感染者用人工呼吸器(ventilators)の供給力
・病院職員の供給力
・坑ウイルス薬の供給力
C.地域教育機関や学校が次の情報を共有しそれに基づき決定しうるか。
・学校の欠席率
・学校の保健担当者への生徒の訪問数
・授業日においてインフルエンザ様学生を自宅に送りつけた件数
D.実行可能性(Feasibility)の検証
 意思決定者は検討すべき戦略の適用のための次の資源を持っているか。
・資金
・要員
・設備
・スペース
・時間
・法的権限または政策面からの要求
E.関係者等の受容性(Acceptability)
 意思決定者は戦略を具体的に適用するにあたり、以下の解決すべき課題をどのように取組んでいるか。
・インフルエンザに関する社会的な関心
・治療介入(intervention)についての公的支援の不足
・自分自身を自ら守ろうとしない人々
・同戦略実行時の副次的効果(学校閉鎖実施時の小児の栄養確保(child nutrition))、学校関係者の仕事の確保(job security)、公共医療機関へのアクセス、教育の進捗の遅れ等)

3.学校管理者がCDCガイダンスを適格に実践するため教師、生徒の保護者間の基本的共有情報内容とその具体的コミニケーション・ツール
 このようなかゆいところに手が届くような行政サースがうらやましいと見るか、やりすぎと見るかは意見が分れるといえようが、いずれにしても「2009年パンデミック」のリスクがなお不透明な現時点での準備としては、このような対応は関係者としては不可欠と思うのが当然であろう。
同ツールの主な内容を紹介する。
(1)学校管理者のためのCDCガイダンス理解のためのQ&A
(2)インフルエンザ感染拡大阻止のための行動ステップ
(3)学校が保護者に向け子供が感染した場合の早期チェックや学校閉鎖実施時の保護者への自宅待機を指示する際の説明内容
(4)インフルエンザ感染拡大阻止に関するCDCのポスター
(5)学校が感染拡大時に保護者に通知する手紙や電子メールのテンプレート


(筆者注1) 文部科学省は、6月26日付事務連絡で「各都道府県・指定都市教育委員会宛 新型インフルエンザに関する対応について」において「学校における新型インフルエンザ・クラスターサーベイランス」の具体的な協力要請を行っているのみである。

(筆者注2) “Flu.gov”のパンデミック対応計画はサイトで見るとおり、①連邦政府機関、②州・地域行政機関、③各家庭、④職場、⑤教育関係機関、⑥医療・保健機関、⑦地域、の7分野に分類し、その都度内容更新を行っている。一方、わが国でこれに該当するのは首相官邸「新型インフルエンザへの対応」である。最新時のサイトで確認したが、前文で述べた6月19日付け「『医療の確保、検疫、学校・保育施設等の臨時休業の要請等に関する運用指針』の改定について」に言及しているのみである。

(筆者注3) K-12(Kindergarten to 12th grade)とはウィキペデイアによると、次のとおりである。米国、カナダ、オーストラリア、英国の初等・中等教育無償の教育機関を指し、さらに“K14”はコミュニティ・カレッジ(大学の初めの1,2年目)、“K16”はその後の4年間の学位取得者を指す。 


〔参照URL〕
http://www.flu.gov/plan/school/schoolguidance.html
http://www.flu.gov/plan/school/k12techreport.html
http://www.flu.gov/plan/school/toolkit.html
http://www.flu.gov/plan/school/index.html

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2009年8月7日金曜日

海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向と新たな研究・開発への取組み(N0.12)

 
 WHOが新型インフルエンザA(H1N1)の世界的大流行宣言(pandemic (H1N1)2009)を行った後、各国の感染者数や死者数が大幅に増加しているにもかかわらず、世界的感染リスク問題について国際機関が正確かつ疫学面の専門的な情報を一元的に提供する機関がなくなるというまさに筆者が従来から指摘してきた問題が現実となった。(筆者注1)

 すなわち、WHOは本ブログで本年4月30日以降筆者が最優先で取り上げてきた新型インフルエンザの感染リスク(重症例や死者)の情報において先導的役割を担ってきた。しかし、本来一番の役割が期待された「フェーズ6宣言」以降は急速にその機能・役割が縮小し始めているように思える。
 その例証として次のような点があげられる。(1)WHOは加盟国の保健機関からの情報に基づく正確なデータを数日おきに公表してきたが、加盟国が調査や公表を中止していないにもかかわらず、その公表の廃止を宣言した(地域の問題とするにはH1N1の世界的感染リスクはあまリにも大きい)、(2)従来行ってきた定期的な公表に替えて「政策意思決定覚書(briefing note)」(筆者注2)が7月8日に第1号が出された後、合計7回出されているが、当初読んだ際、北半球が冬季に入る第2波感染拡大を阻止するための世界的な取組みの現状分析とはいえない内容と感じた。しかし、その後の最近の“briefing note” が取り上げているテーマを読む限り、主要国の秋に向けた坑ワクチンの製造準備にむけた体制整備問題がWHO等国際機関の重点課題になっていることは否めない。

 筆者は多忙のためしばらくの間WHOの活動をフォローしていなかったが、7月31日に米国保健福祉省(HHS)から受信したメールでWHOがまとめた新型インフルエンザH1N1の世界的感染拡大状況(7月27日付)のデータの更新(update 59)を確認したことからあらためてWHOの取組み姿勢が変わったことを知った。(筆者注3)
 すなわち、WHOのデータ収集・公表は個別国の集計方法から今後多少の時差はあるもののWHOの世界6つの地域事務局(regional office)(アフリカ、アメリカ、東地中海、欧州、東南アジア、西太平洋)(筆者注4)からの集計という方式に切り替えたといえる。(筆者注5)

 このような状況を踏まえ、WHOの集計機能等を補完すべく本ブログは今回以降、(1)WHOの公表データに加え、地域的な保健機関すなわち欧州保健機関(ECDC) や汎米保健機関(PAHO)の情報等に基づき大規模感染拡大国における保健機関の公式感染者・死者数および「パンデミック2009」に関する最新情報や新たな感染リスクの実態の紹介、(2)感染リスクに関する国際機関における新たな研究やWHOや主要国における坑ウイルス・ワクチン等の確保対策の分析、(3) 主要国における新型インフルエンザA(H1N1)に限らず感染症問題に関する情報提供の実態等を中心に内容を再構成のうえ、引き続き情報提供することとした。


1.わが国の最新情報
 2009年7月24日現在の厚生労働省の発表では、日本の新型インフルエンザ感染者数は、5,022人(7月6日比+3,155人)である。なお、厚生労働省新型インフルエンザ対策推進本部事務局による情報収集方法が変更となったため、(日本国内では、7月24日午前6時の時点で、5,022例(検疫対象者36例を含む)の確定例を最後に、全数の報告は終了しており、7月25日以降更新はない)旨国立感染症研究所のサイト上で説明されている。

 この全数調査報告の終了の意味について感染症の専門外の筆者が問題指摘するまでもなく、米国・カナダを除く海外の主要国で全数調査を中止した国の例は少ない。
 また、厚生労働省は7月22日付「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則の一部を改正する省令」に基づき、従来行ってきたH1N1に関する全数調査から、(1)クラスターサーベイランス(集団感染の発生件数等調査)、(2)入院患者数調査に置き換える旨都道府県等の新型インフルエンザ担当日局長宛施行通知を行っている。特に(2)に関し年齢層別、性別、基礎疾患を有する場合、集中治療を要する場合等の割合を開示するなど、やっと欧米の主要国並になったと思える点もあるが、基本的にメデイアを含む国民や医療関係者に十分な情報提供を行っていない点は変わらない。(筆者注6)
 なお、各都道府県別発生状況等の最新情報は厚生労働省サイト「新型インフルエンザに関する報道発表資料」で確認できる。

2.WHO公表の世界的感染者数・死者数
 WHOの公表確認感染者数および死者数(2009年7月22日世界標準時9時現在)(update59)のとおり、累計確認感染者数は134,503人(7月6日比+39,991人)、死者数は816人(7月6日比+387人)である。

3.WHOの「世界的流行(H1N1)2009 briefing note」が取り上げたテーマ
(1)7月8日第1号:今回のテーマは、わが国でもすでにメディアが報道しているH1N1ウイルスの坑ウイルス薬タミフルの耐性問題である。デンマークや日本からの報告に基づきWHOとしての公式見解が出された点にその意義があろう。
 なお、さる7月4日に厚生労働省が行ったタミフル耐性遺伝子変異に関する発表の内容は今回のWHOの発表内容と整合性が取れており、この点は一応理解できる。しかし、一方で同省はWHOの「フェーズ4」の時点の5月1日付で医薬品関係団体宛通達で政府備蓄の坑インフルエンザ薬が3,168万人分あり、さらに2009年度中に2,293万人分追加備蓄する予定と発表し、その後新型インフルエンザの年内生産量につき6月19日に発表した2,500万本(1mlバイアル(容器)入り)(成人2,500万人投与分)、6月26日の「新型インフルエンザ対策担当課長会議資料」で示されている2,540万本から7月3日には一挙に約1,000万人の大幅減産を記者発表している。
 また、7月10日付で厚生労働省は政府において備蓄した抗インフルエンザウイルス薬(タミフル、リレンザ)の都道府県への放出手順について事務連絡通達を各都道府県の衛生主管部(局)抗インフルエンザウイルス薬備蓄担当者宛発している。
 一方、7月31日の朝日新聞朝刊が報じているとおり、米国保健福祉省疾病対策センター(CDC)は、新型インフルエンザワクチン接種に関する諮問委員会(CDC’s Advisory Committee on Immunization Practices)が7月29日の会合で行ったワクチンの接種に関する優先該当者を明確にした勧告書を公表した。早ければ8月から一部実施される接種について5グループについて優先的接種の方針をまとめたものである。(筆者注7)
米国はパンデミック対策のうちワクチン備蓄を国家の基本的重要戦略と位置づけ、その製薬メーカーとの契約内容についてわが国の厚生労働省にあたるHHSの情報公開やリリースはわが国とは比較にならない。

(2) 7月13日第2号:
7月7日に開催された「専門家諮問会議(Strategic Advisory Group of Experts)」におけるパンデミックの現在の流行の現状、季節性インフルエンザワクチンとA(H1N1)の潜在的ワクチン生産能力およびワクチンの使用に関する選択肢などに関する検討結果とWHO事務局長に対する推奨文の内容。

(3) 7月16日第3号:
新型インフルエンザの実験室を介した確定感染件数の把握の限界とWHOにおける世界的な確認感染者数の表の提供の停止および新たな感染拡大国に関する情報提供の継続。

(4)7月24日第4号 :
感染拡大年令層や重症化例の年齢層の上昇変化情報とWHOネットワークにおける新ワクチン候補種の季節性インフルエンザ比でみた生産率の向上動向。

(5)7月31日第5号 :
妊娠第2期または後期の妊婦の感染拡大と胎児死亡や自然流産の危険性、および症状発現時後48時間以内のタミフル投与に関するWHOの推奨。

(6)8月6日第6号 :
1957年や1968年の大流行時ワクチンの開発が間に合わず最終的に5千万人が死亡した。今回の新型インフルエンザワクチンの規制機関による承認手続きに関する見直し動向および予防接種問題。

(7)8月6日第7号 :
WHOの世界的ワクチン開発・製造にかかる役割すなわち、①新種ウイルスの特定、②ワクチン痘種(vaccine virus)の準備、③ワクチン株の検証、④ワクチン試験のための試薬の準備、および製薬メーカーの役割。

4.世界の大規模感染拡大国の最新発表情報
 欧州疾病対策センター(ECDC)や 汎米保健機関(PAHO)および各国の保健機関が公表している累計確認感染者数および死者数の最新情報を紹介する。また、各国の関連サイトで特記すべき点も併せて記した。なお、今回の数値は引続き急速な感染拡大している現状を理解できるよう7月6日のWHOの公表値との比較を行った。しかし、ECDCは毎日更新データを公表しているが、PAHOは週間ベースでの更新であるなど各機関によって比較方法が異なるため、基準日の設定が難しく、今後は本ブログでは各機関の比較方法に準拠することとした。

(1)米国
 7月24日をもってCDCは各州からの報告に基づくH1N1の確認感染者数の公表を停止し、その代りに新型インフルエンザと季節性インフルエンザの感染状況を追跡する監視システムを導入した。その詳細についてはCDCサイトの“H1N1 Monitoring Question & Answers”で確認できるが、主な新型インフルエンザ監視システムは次のとおりであると説明されている。
 なお、次に述べる全米的モニタリング体制の原型はすでに1999年CDCが発行した「あらたなインフルエンザの世界的流行(パンデミック)の発生に備えて地方当局が対策を立案するための指針(Pandemic Influenza :A Planning Guide for State and Local Officials) 」で出来上っている。パンデミック時を想定し、ウイルスの検査体制の効率化といった理由だけでない米国らしい長期的かつ本格的な取組み姿勢があると判断するのは筆者だけであろうか。(筆者注8)
A.次の内容のモニタリングによるウイルスの監視
①インフルエンザの陽性について試験を行った標本の割合
②循環型インフルエンザの原型と亜型
③坑ウイルス薬への耐性
④新ウイルス種の出現
B.疑似インフルエンザに関する見張り役ボランテア医師(外来患者数当りの新型インフルエンザ様疾患患者を各年齢層別に報告)ネットワーク
C.成人と子供に分けて実験室で確認されたインフルエンザ感染者の入院者の監視
D.インフルエンザの地理的な感染拡大
E.全米122都市の死者の原因をインフルエンザと肺炎(pneumonia)とに分けてコード化し報告する(人口動態統計局が担当)
F.子供の実験室で確認された死亡者数
 なお、インフルエンザの監視情報は“FlueView”サイトで専門的な分析を行うこととなった。
7月24日現在の累計確認感染者43,771人(+9,869人)、死者302人(+132人)
(2)オーストラリア
 8月5日現在の累計確認感染者24,114人(+18,816人)、死者174人(+164)
オーストリアのメディアはクイーンズランド州北部のタウンズビルの北65km沖の先住民約4000人が住んでいるパームアイランド では7月21日に36週の胎児が新型インフルエンザで死亡し、母親(19歳)は重症で集中治療室で治療中であると報じられている。
 なお、オーストラリア在住の日本人向け危機管理情報サイト「青空ニュース」が新型インフルエンザA(H1N1)の感染拡大に関する最新情報を随時提供しているので、詳しくは同サイトを参照されたい。なお、同サイトでも紹介されているとおり、連邦政府(保健・高齢者担当省)は7月20日以降州別の累計感染者の公表は中止し、従来から行っている州別の入院者数、集中治療室収容者数、死亡者の公表に切り替えている。また、「青空ニュース」では累計感染者数の公表を中止していると記載されているが、これはあきらかに「誤り」であり、同サイトの“Update bulletins for Pandemic (H1N1) 2009” では毎日累計確認感染者数を公表している。
(3)メキシコ
同17,416(+7,154人)、同146人(+27人)
(4)英国
同11,912人(+4,465人)、同30人(+27人)
(5)チリ,
同11,860人(+4,484人)、同96人(+82人)
(6)カナダ
同10,449人(+2,466人)、同62人(+37人)
(7)タイ
同10,043人(+7,967人)、同81人(+74人)
(8)ドイツ
同7,963人(+7,458人)、同0人(+0人)
(9)日本(7月24日現在)
同5,022人(+3,232人)、同0人(+0人)
(10)ペルー
同4,889人(+3,973人)、同96人(+96人)
(11) 中華人民共和国香港特別行政区政府(Hong Kong SAR China)
同4,749人(+?人)、3(+?人)
(12)フィリピン
同3,207人(+1,498人)、同8人(+7人)
(13)ブラジル
同2,959人(+2,222人)、同96人(+95人)
(14)スペイン
同1,538人(+762人)、同8人(+7人)

5.新型インフルエンザの感染リスクに関する国際研究機関における新たな研究成果
“Eurosurveillance”の2009年7月30日付第14巻30号を参照されたい。

(筆者注1) わが国のH1N1の専門研究機関である国立感染症研究所感染症情報センターサイトでも「7月7日以降のWHOによる更新情報はありません」と記載されているのみである。では、わが国の関係機関や一般人はどのように海外情報を入手すべきか。このような「関心の風化」とその反面における世界的感染拡大危機を一番恐れるのは筆者だけでなかろう。

(筆者注2) WHOの“briefing note”とはどの様な位置づけの覚書といえるのか。WHOのサイトでは明確な定義づけは行われていない。通常「ブリーフィング・ノート」は「参考情報として」または「意思決定のため」に作成される。過去7回のテーマや内容を読む限りこの両者を含んでいるように思える。いずれにしてもWHOの機能や権限からみて単なる参考情報だけではない極めて戦略的な性格を持つものと考える。

(筆者注3) わが国の新型インフルエンザの研究機関である「国立感染症研究所」感染症情報センターの世界的感染情報はWHOが7月6日の最終更新後、情報掲載を停止していたが、WHOの再度更新し始めてことからリンクを始めている。

(筆者注4) WHOの6地域事務局の具体的担当エリアを参照されたい。

(筆者注5) 欧州保健機関(ECDC)は独自に毎日更新する国別で世界的感染者・死者数統計を行っている。7月31日付けの朝日新聞がWHOの統計でなくEWCDCの統計値を引用したのもうなずける。なお、わが国の国立感染症研究所のウェブサイトではECDCの世界統計はWHOのみでECDCはリンクしていない。しかし、米国CDCが国際的な統計についてWHO以外にH1N1に関する情報源としてECDCとリンクしている点は見逃せない。
 また、それ以上にECDCのデータの最新性、信頼性がポイントになろう。そこで筆者自らECDCのデータ(8月2日付け)と個別国の最新公表データを比較してみた。メキシコを初めカナダ、米国等米国大陸の国々のデータはPAHOのデータより新しいものであった。また、オーストラリアについても8月2日の同国政府の公表データが反映されていた。

(筆者注6)筆者がこのような情報開示にこだわる理由は、本ブログの読者は良く理解されていると思う。英国の保健保護局(Health Protection Agency:HPA)の例でわが国と比較しつつ説明する。
(1)HPAサイトでは7月2日以降、毎日から週単位の公表に変更している。公表方法はメデイア向け(Press releases and media updates on Swine Influenza)と感染症専門家向け(Surveillance and epidemiology)に分れ、前者においては記事にしやすいよう冒頭に“KEY POINTS”としてこの1週間のH1N1の感染者の増加傾向、ウイルスの変種・坑ウイルスの動向、地域・年令別の感染傾向等を解説している。
(2)7月30日号のメディ向け本文で特徴的な点を紹介しておく。6月下旬から7月上旬にかけて全年齢層10万人に対するインフルエンザ様疾患感染者数は221人から225.6人に急増したが学校が夏休みに入ったこと等から5歳から14歳以下の年齢層は減少傾向にある。同時期における年令層別の10万人あたりインフルエンザ様疾患感染者数は1歳から4歳が約550人と最も高く、1歳未満が約500人、5歳から14歳以下が約450人であり、逆に65歳から74歳未満は約50人となっている。
 7月28日現在のイングランドの重症入院患者数は793人、死者数は27人である。最後にECDCの集計にもとづき1,000以上の確認感染者数の国の累計感染者(7日前比の増加率)、累計死者数を記している。
(3)感染症専門家向けのサイトはさらに週別と日別(7月30日まで)に分れて詳細な分析を行っているが、専門外の筆者が解説するのは無責任なことでありあえて略す。
 なお、わが国の厚生労働省のH1N1の全数調査中止に関するメディア報告(毎日新聞)を読んで気になった点がある。1つは「感染症法施行規則」は不正確である。本文のとおり「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則」である。第2に現時点でも本文で解説しているとおり、EU、オセアニア、南米の国々では全数調査は引き続き行われており、全数調査の中止は決して世界の大勢ではない。

(筆者注7)8月5日、米国製薬大手メーカーのバクスター・インターナショナルが新型インフルエンザ・ワクチンの商品製造(commercial batches)が終り、8月に最終的な臨床試験(治験)開始し、保健衛生当局の承認後に出荷する旨発表した。参考までに米国の新型インフルエンザ戦略の予算的裏付けは、2005年8月に世界4カ国で鳥インフルエンザH5N1の人への感染が112例確認されたことを受けた緊急立法の2法「2005年緊急追加予算計上法(PL-109-148)」および「2006年緊急追加予算計上法(PL-109-234)」に基づくものである。米国の製薬メーカーと政府の協力関係は当然であり、その契約内容は公開され、また保健福祉省は毎年連邦議会に予算執行状況等を詳細に報告している(2009年1月の議会報告参照)。
 バクスター社の発表内容のポイントは次のとおりである。
①ワクチン薬のブランド名は「セルバパン(CLEVAPAN)」で、同社が製造特許権を持つ「ヴェロ細胞培養技術(Vero cell culture technology:アフリカミドリザル腎細胞由来株)を使用している。筆者なりに補足するとワクチン製造技術には有精卵を孵化させてワクチン原液を製造する“egg-based technology”とヒトに対して感染性のあるウイルス、細菌等を保有していないこと、ヌードマウスへの腫瘍形成能を持たないことが確認され、世界保健機構(WHO)によって使用が認められている培養細胞株技術(cell-based technology)がある。後者の1つがバクスター社の“Vero cell culture technology”であり、 インターフェロンを生産しないため、様々なウイルスを感染させることが可能、またヒト、牛、豚のウイルスなど非常に幅広い種類のインフルエンザ・ウイルスに対して高い感受性を示すといったことが特徴としてあげられる。(北里研究所生物製剤研究所サイトより引用)
②本年8月に成人、高齢者と子供を対象に安全性や免疫原性について臨床試験を行う。
③バクスター社は本年5月前半にCDCからA(H1N1)の試験とその評価のためその株(strain)を入手、6月3日から商業生産を開始した。大量のセルバパンはチェコのボフミルの大規模生産工場で製造後、各国への分配前に最終製剤(formulation)、調合(fill)および最終処理をオーストリアのウイーンで行う。
④バクスター社は新製薬の販売承認機関である欧州医薬品審査庁(European Medicines Agency:EMEA) が定める“mock-up vaccine(筆者注:対象とするウイルス株が特定されていない場合に、モデルウイルスを用いて作成されたワクチン。主として、治験等の薬事承認を得るための申請データの作成に用いる)”免許に要する製造品質や製造過程を適用している。

(筆者注8)CDCの立案ガイドは、実は2002年秋に公立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウィルス・センターが完訳している。米国の1999年のサーベイランス事業の骨格は訳文17頁を是非参照されたい。なお、訳文作業に協力したCDCインフルエンザ室、疫学セクションのチーフが現WHO事務局長副代行の福田桂治博士である。


〔参照URL〕
http://www.who.int/csr/don/2009_07_27/en/index.html
http://ecdc.europa.eu/en/files/pdf/Health_topics/Situation_Report_090805_1700hrs.pdf

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