2009年8月16日日曜日

海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向と新たな研究・開発への取組み(N0.13)

 
 新型インフルエンザの感染リスクは、わが国においても8月15日に沖縄県での57歳の基礎疾患を持つ男性の初の死亡例、複数の年少者の急性脳炎重症化例、坑ウイルス薬タミフル耐性さらに学校が再開される秋以降の不安材料が引続き出始めている。
 特に9月になるとすぐ現実の問題となる「新型インフルエンザと休校・学年閉鎖等の対応」である。本ブログでもしばしば指摘しているとおり、わが国の国立感染症研究所等の分析結果を待つまでもなく、年齢別に見た感染拡大の年齢層の特定化や幼稚園から少中高等学校等における集団感染が大きなリスク要因であることは言うまでもない。
 この問題の保健分野の責任機関である厚生労働省から関係する事務連絡は、本年6月19日付けの「『医療の確保、検疫、学校・保育施設等の臨時休業の要請等に関する運用指針』の改定について」のみであり、また文部科学省の関連事務連絡は保健所と学校との報告・連絡体制(筆者注1)であって、学校管理者がどのような判断基準に基づいて生徒、職員や父兄に接したらよいか、その具体的指針となるものは一向出て来そうにもない。
 今回のブログは米国疾病対策センター(CDC)が本年秋以降の準備として公表した「米国の公的無償教育機関(K-12 grades(幼稚園から高校)(筆者注3)の管理者向け対応ガイダンス」等の要旨を紹介する。
 これらの新型インフルエンザの拡大阻止に向けた具体的な対応上の参考情報として、わが国の「国立感染症研究所」は従来からサイト上で「CDCによる情報―各ガイダンス・ガイドライン」を公表している。いずれ本件についても公表すると思われるが、時間的余裕もないので急遽取り上げる。
 なお、米国政府の新型インフルエンザ専門サイト“Flu.gov”は「学校の新型インフルエンザ対応」問題を“School Planning”として取り上げて関係者の取組み課題を整理し、かつ本年秋以降の季節性インフルエンザの流行とも抱き合わせで内容更新を図っており、今回その更新項目も併せて紹介する。いずれにしても国民・関係者への包括的な情報提供は欠かせない点を改めて強調したい。(筆者注2)


1.“Flu .gov”サイトの教育関係者向け事業継続計画更新の主要項目
 今回のサイト内容の更新は、連邦政府が2009―2010学年度用に策定したもので、①CDCの州・地方行政機関および学校管理者のための対応・報告ガイダンス、②州および地方行政機関に対するCDCガイダンスに基づく疫学技術や戦略面の具体的適用に関する報告書、および③学校管理者がCDCガイダンスを適格に実践するため教師、生徒の両親間の基本的情報内容とその具体的コミニケーション・ツールを提供することにある。
 なお、電子政府サイトである“Flu .gov”の構成を参考までにあげておく。ここで筆者が言いたい点は常に状況が変化しつつある「新型インフルエンザ」対応について、最新関係情報が一覧性をもって閲覧・アクセスできることが「電子政府」の基本機能と考えるからである。

(1)教育関係者向け新型インフルエンザの予防ワクチン接種ガイダンス(Novel H1N1 Vaccination Guidance)(CDC)、学校閉鎖(School Dismissal,School Closure)状況モニタリング・システム(CDCおよび連邦教育省(U.S.Department of Education))、連邦教育省の新型インフルエンザ情報、日帰り・泊込みキャンプ時の留意ガイダンス(CDC)、高等教育(Higher Education)・中等後教育(Post-Secondary Education)機関向けガイダンス(CDC)
(2)地方教育機関が新型インフルエンザの準備計画の策定等を行う際のチェック・リスト(幼稚園、中等教育機関、大学に分れている)(CDC、連邦保健福祉省(HHS)、連邦教育省の協同作成)
(3)各種ガイドライン、ツールおよび関係報告:緊急時の明確な学校閉鎖権限に関する法的見解(ジョージタウン大学およびジョンホプキンス大学の法律・公衆衛生センター作成)他

2.CDCの州・地方行政機関および学校管理者のための2009―2010学年度対応・報告ガイダンスの要旨
 CDCガイダンスの推奨内容は、2009年春以降に見られた新型インフルエンザの集団感染の経験に鑑みかなり具体的であり、また直裁的な言い方をしている。しかし、教育現場の責任者としては曖昧な形で責任を負わされるより運営しやすいとも言えよう。また、インフルエンザ様感染者の学生や事務職員について自宅待機原則を打ち出す一方でその間の学習プログラムの遅れ等を解決すべく取組むべき手段や項目を具体的に示した内容となっている。
(1) 2009―2010学年度において学校に要請すべき内容
①インフルエンザ様疾患(flu-like illness)の時、熱が下がっても自宅にいる:インフルエンザ様疾患(flu-like illness)の学生は、解熱剤を使用せずに熱が下がったり熱がなくないと判断されても24時間は自宅内にいること。坑ウィルス薬を使用した場合でも同様である。
②インフルエンザ様疾患(flu-like illness)の学生や職員を自宅まで送る際、速やかに別室に隔離し、関係者は可能であれば医師用マスク(surgical mask)等、防護用具(protective gear)等の使用を推奨している。
③頻繁に手を水と石鹸で洗浄し、咳やくしゃみをするときはテッシュで覆うかワイシャツの袖で覆う。
④学校の清掃担当者は定期的に学生や職員が頻繁に使用するエリアを清掃する。
その際、漂白剤(bleach)や非洗剤型クリーナー(non-detergent based cleaners)の使用した特別な清掃は不要である。
⑤妊娠、喘息(asthma)、糖尿病(diabetes)、免疫不全(compromised immune systems)、神経性疾患(neuromuscular diseases)をもつインフルエンザ様疾患者は、速やかに自分のかかりつけ医師に相談し、坑ウイルス薬による早期措置を行うことが重症化や死を回避することになる。

(2)この秋以降の感染状況は春以上に厳しいものである前提下での対応策
①インフルエンザ様感染者の積極的選別
 学校は毎朝学生や職員について熱やその他の症候がないかチェックし、また1日中チェックを適時行い、可能な限り隔離し、自宅に送りつける。
②高いリスクを持つ学生や職員は自宅待機を指示
 地域内でインフルエンザが循環始めたときは感染併合症のリスクの高い学生については担当医と相談の上自宅待機させる。その際、学校は授業の継続性を確保するため自宅にいる間の教育方法について電話指示、宿題(home pachets)、インターネット・レッスンやその他の適宜の手段を用いた教育の継続計画をたてるべきである。
③感染者を家族に持つ学生等の自宅待機
 家族がインフルエンザに感染した学生はその感染第1日目から5日間(感染する可能性が高い期間)は自宅待機させる。
④一定期間の自宅待機
 インフルエンザの感染拡大が広がったとき、インフルエンザ様の病人は仮にそれ以上の症状がまったくなくなっても少なくとも7日間は自宅に居るべきである。
⑤学校閉鎖(School Dismissals)
 学校および保健機関の担当者は学校閉鎖が教育や地域の混乱拡大を引き起こさないよう緊密に行動すべきである。
 学校閉鎖の期間はカレンダーでいう5日から7日間とすべきであり、正常に戻すときはこの期間のどこかにかかわらず再評価すべきである。先生と職員はその他の手段が取れるよう学校閉鎖実施時でも学校は開けたまま残るべきである。

(3)具体的行動過程における決定事項
 CDCや関係機関の意思決定者は次の1つ以上項目について特定のうえ伝達しなければならない。州や地域レベルで議論を行いまた決定に至るためには次のような疑問点を明確化する必要がある。
A.すべての正当な意思決定者と利害関係者が関与しているか、すなわち州や地域の保健機関、教育担当機関、治安担当機関、知事や市長等統治機関、保護者や学生の代表、地元企業、宗教団体(faith community)、先生の組合や地元のコミュニティ団体、教師、公的医療機関や病院、学校の看護婦、学校給食の責任者、学校の用品供給業者が関与しているか。
 B.州や地域の保健担当者は次の情報を共有し、同情報に基づき決定を行っているか。
・インフルエンザ様疾患の通院患者数
・同入院患者数
・同入院・死亡者数の傾向
・集中治療室に入った患者数の割合
・同死者の情報
・地域医療機関の対応能力と緊急対応機関の需要拡大時の対応能力
・入院用ベッド数、ICUの余裕、インフルエンザウイルス感染者用人工呼吸器(ventilators)の供給力
・病院職員の供給力
・坑ウイルス薬の供給力
C.地域教育機関や学校が次の情報を共有しそれに基づき決定しうるか。
・学校の欠席率
・学校の保健担当者への生徒の訪問数
・授業日においてインフルエンザ様学生を自宅に送りつけた件数
D.実行可能性(Feasibility)の検証
 意思決定者は検討すべき戦略の適用のための次の資源を持っているか。
・資金
・要員
・設備
・スペース
・時間
・法的権限または政策面からの要求
E.関係者等の受容性(Acceptability)
 意思決定者は戦略を具体的に適用するにあたり、以下の解決すべき課題をどのように取組んでいるか。
・インフルエンザに関する社会的な関心
・治療介入(intervention)についての公的支援の不足
・自分自身を自ら守ろうとしない人々
・同戦略実行時の副次的効果(学校閉鎖実施時の小児の栄養確保(child nutrition))、学校関係者の仕事の確保(job security)、公共医療機関へのアクセス、教育の進捗の遅れ等)

3.学校管理者がCDCガイダンスを適格に実践するため教師、生徒の保護者間の基本的共有情報内容とその具体的コミニケーション・ツール
 このようなかゆいところに手が届くような行政サースがうらやましいと見るか、やりすぎと見るかは意見が分れるといえようが、いずれにしても「2009年パンデミック」のリスクがなお不透明な現時点での準備としては、このような対応は関係者としては不可欠と思うのが当然であろう。
同ツールの主な内容を紹介する。
(1)学校管理者のためのCDCガイダンス理解のためのQ&A
(2)インフルエンザ感染拡大阻止のための行動ステップ
(3)学校が保護者に向け子供が感染した場合の早期チェックや学校閉鎖実施時の保護者への自宅待機を指示する際の説明内容
(4)インフルエンザ感染拡大阻止に関するCDCのポスター
(5)学校が感染拡大時に保護者に通知する手紙や電子メールのテンプレート


(筆者注1) 文部科学省は、6月26日付事務連絡で「各都道府県・指定都市教育委員会宛 新型インフルエンザに関する対応について」において「学校における新型インフルエンザ・クラスターサーベイランス」の具体的な協力要請を行っているのみである。

(筆者注2) “Flu.gov”のパンデミック対応計画はサイトで見るとおり、①連邦政府機関、②州・地域行政機関、③各家庭、④職場、⑤教育関係機関、⑥医療・保健機関、⑦地域、の7分野に分類し、その都度内容更新を行っている。一方、わが国でこれに該当するのは首相官邸「新型インフルエンザへの対応」である。最新時のサイトで確認したが、前文で述べた6月19日付け「『医療の確保、検疫、学校・保育施設等の臨時休業の要請等に関する運用指針』の改定について」に言及しているのみである。

(筆者注3) K-12(Kindergarten to 12th grade)とはウィキペデイアによると、次のとおりである。米国、カナダ、オーストラリア、英国の初等・中等教育無償の教育機関を指し、さらに“K14”はコミュニティ・カレッジ(大学の初めの1,2年目)、“K16”はその後の4年間の学位取得者を指す。 


〔参照URL〕
http://www.flu.gov/plan/school/schoolguidance.html
http://www.flu.gov/plan/school/k12techreport.html
http://www.flu.gov/plan/school/toolkit.html
http://www.flu.gov/plan/school/index.html

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