2009年6月30日火曜日
海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向と新たな研究・開発への取組み(N0.10)
WHO等の統計では米国が1週間で6,268人(うち死者40人)の増加が確認されるなど米国大陸、オセアニア、英国等の確認累計感染者や死者数は引続き拡大傾向にある。今回は、WHOの6月29日公表の累計感染者数や死者数を中心に解説する。
6月26日比(No.9)で比較すると、これまで累計感染者数の多い国における死者の増加が依然高い水準にある一方で、オーストラリア、中華人民共和国、フィリピン、シンガポール等南半球や東南アジアの国々等の感染拡大が続いている。
1.わが国の最新情報
2009年6月29日現在の厚生労働省の発表では、日本の新型インフルエンザ感染者数は、1,211人(6月26日比+163人)である。各都道府県別発生状況は厚生労働省サイト「新型インフルエンザに関する報道発表資料」で確認できる。
なお、過去の増減比を見ようとすると、厚生労働省サイト確認感染者数は都度上書きされてしまうため、過去の感染者数の推移の確認は出来ない。国立感染症研究所「感染症情報センター」サイトで確認するしかない。
2.WHOの最新発表情報
WHOの公表確認感染者数(2009年6月29日世界標準時9時現在)(update55)データに基づき累計確認感染者数が100人以上の国(34か国)のみ紹介する。(多い順に並べ替えた)
全体の数字は109か国(6月26日比+4か国)、累計感染者数は70,893人(6月26日比+11,079人)(うち死者は311人(6月26日比+48人))(筆者注1)
「国名」、「累計感染者数(死者数)」、「6月26日比増加数(死者数)」の順に記載した。
①米国:27,717人(うち死者127人(+40人))(+6,268人)、②メキシコ:8,279人(うち死者116人(+0人))(+0人)、③カナダ:7,775人(うち死者21人 (+2人) )(+1,043人)(筆者注2) 、④チリ:5,186人(うち死者7人(+0人))(+0人) 、⑤英国:4,250人(うち死者1人(+0人)) (+653人)(筆者注3)、⑥オーストラリア:4,038人(うち死者7人(+4人)) (+758人)(筆者注4)、⑦アルゼンチン:1,488人(うち死者23人(+2人)) (+97人)、⑧中華人民共和国:1,442人(+353人)⑨日本:1,212人(+163人)、⑩フィリピン:861人(うち死者1人(+0人)) (+416人)、⑪タイ:774人(+0人)、⑫シンガポール:599人(+284人)、⑬ニュージーランド:587人(+134人)、⑭スペイン:541人(+0人)、⑮イスラエル:469人(+64人)、⑯ブラジル:452人(+53人)、⑰パナマ:403人(+45人)、⑱ドイツ:366人(+33人)、⑲ペルー:360人(+108人)、⑳ニカラグア:277人(+12人)、(21) コスタリカ:255人(うち死者1人(+0人))(+33人)、(22)ガテマラ:254人(うち死者2人(+0人))(+0人)、 (23) フランス:235人(+44人)、(24)エルサルバドル:226人(+6人)、(25) 韓国:202人(+60人)、(26)ウルグアイ:195人(+0人)、(27)ベネズエラ:172人(+19人)、(28)ボリビア:126人(+79人)、(29)エクアドル:125人(+0人)、(30)ホンジュラス:118人(うち死者1人(+0人)) (+0人)、(31)オランダ:118人(+2人)、(32) イタリア:112人(+10人)、(33)マレーシア:112人(+44人)、(34)ドミニカ共和国:108人(うち死者2人(+0人)) (+0)
(筆者注1)WHOの死者数の増加48人のうち米国が40人を占める。
(筆者注2) カナダの公衆衛生庁の6月29日現在の公表値は7,983人(うち死者25人)(6月26日比+208人(死者+4人))である。
(筆者注3) 英国も感染者数が急増しており、ほぼ毎日、健康保護局サイト(HPA)で更新している。6月29日現在5,937人(6月26日比+1,687人)である。
(筆者注4) オーストラリア連邦保健高齢者担当省(DHA)によると、死者4人増の内訳は、6月27日に2人(26歳男性、26歳女性)、6月29日に2人(50歳男性、85歳男性)である。
〔参照URL〕
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/19.html
http://www.who.int/csr/don/2009_06_29/en/index.html
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2009年6月28日日曜日
海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向と新たな研究・開発への取組み(N0.9)
WHO等の統計では米国大陸、オセアニア、英国等の確認累計感染者や死者数は引続き拡大傾向にある。今回は、WHOの6月26日公表の累計感染者数や死者数を中心に解説する。
6月22日比(No.8)で比較すると、これまで累計感染者数の多い国における死者の増加が依然高い水準にある 一方で、オーストラリア、アルゼンチンやブラジル等南半球の国々の感染拡大が続いている。
また、厚生労働省は季節性インフルエンザの流行時期に合わせ全国的かつ大規模な感染拡大が想定されることから、その回避策の一環として従来行ってきた「全数調査」に代えて医療機関、学校等施設等における同一集団での「集団発生(クラスター発生)報告」を実施する方針を打ち出し、併せて監視体制の実施について6月25日付けで各都道府県等の衛生主管部あて事務連絡を発出している。(筆者注1)
1.わが国の最新情報
2009年6月26日現在の厚生労働省の発表では、日本の新型インフルエンザ感染者数は、1,048人(6月22日比+156人)である。各都道府県別発生状況は厚生労働省サイト「新型インフルエンザに関する報道発表資料」で確認できる。
なお、過去の増減比を見ようとすると、厚生労働省サイト確認感染者数は都度上書きされてしまうため、過去の感染者数の推移の確認は出来ない。国立感染症研究所の「感染症情報センター」で確認するしかない。
2.WHOの最新発表情報
WHOの公表確認感染者数(2009年6月26日世界標準時7時現在)(update54)のデータに基づき累計確認感染者数が100人以上の国(31か国)のみ紹介する。(多い順に並べ替えた)
全体の数字は105か国(6月22日比+11か国)、累計感染者数は59,814人(6月22日比+7,654人)(うち死者は263人(6月22日比+32人))
「国名」、「累計感染者数(死者数)」、「6月22日比増加数(死者数)」の順に記載した。
①米国:21,449人(うち死者87人(+0人))(+0人)(筆者注2)、②メキシコ:8,279人(うち死者116人(+3人))(+655人)、③カナダ:6,732人(うち死者19人 (+6人) )(+1,022人)(筆者注3) 、④チリ:5,186人(うち死者7人(+3人))(+869人) 、⑤英国:3,597人(うち死者1人(+0人)) (+1,091人)(筆者注4)、⑥オーストラリア:3,280人(うち死者3人(+0人)) (+844人)(筆者注5)、⑦アルゼンチン:1,391人(うち死者21人(+14人)) (+381人)、⑧中華人民共和国:1,089人(+350人)⑨日本:1,049人(+199人)、⑩タイ:774人(+185人)、⑪スペイン:541人(+19人)、⑫ニュージーランド:453人(+195人)、⑬フィリピン:445人(うち死者1人(+0人)) (+101人)、⑭イスラエル:405人(+114人)、⑮ブラジル:399人(+268人)、⑯パナマ:358人(+28人)、⑰ドイツ:333人(+58人)、⑱シンガポール:315人(+143人)、⑲ニカラグア:265人(+76人)、⑳ガテマラ:254人(うち死者2人(+1人))(+46人)、(21)ペルー:252人(+67人)、(22) コスタリカ:222人(うち死者1人(+0人))(+73)、(23) ウルグアイ:195人(+159人)、(24)フランス:191人(+44人)、(25)エルサルバドル:160人(+0人)、(26) 韓国:142人(+37人)、(27)エクアドル:125人(+30人)、(28)ホンジュラス:118人(うち死者1人(+1人)) (+10人)、(29)オランダ:116人(+25)、(30)ドミニカ共和国:108人(うち死者2人(+1人)) (+15)、(31)イタリア:102人(+14人)
(筆者注1)厚生労働省の 6月25日付事務連絡は、 「新型インフルエンザの国内発生時における積極的疫学調査について」、 「新型インフルエンザにかかる今後のサーベイランス体制について」である。
(筆者注2)米国CDCが6月26日公表した確認累計感染者数は27,717人(うち死者は127人)である。
(筆者注3) カナダの公衆衛生庁の6月26日現在の公表値は7,775人(うち死者21人)(6月24日比+1,043人(死者+2人))である。
(筆者注4) 英国も感染者数が急増しており、ほぼ毎日、健康保護局サイト(HPA)で更新している。6月26日現在4,250人(6月25日比+653人)である。なお、過去の感染者数のアーカイブはHPAの専門サイトで確認できる。
(筆者注5) オーストラリア連邦保健高齢者担当省(DHA)の6月27日現在の公表値は3,519人(死者5人)(6月25日比+239人(死者+2人))である。
〔参照URL〕
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/19.html
http://www.who.int/csr/don/2009_06_26/en/index.html
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2009年6月23日火曜日
海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向と新たな研究・開発への取組み(N0.8)
WHOの統計を始め各国の確認感染者や死者数は引続き拡大傾向にある。今回は、WHOの6月22日公表の累計感染者数や死者数のみ記載する。
6月19日比で比較すると、これまで累計感染者数の多い国における新規感染者数の増加が依然高い水準にある。
なお、WHOでみる米国の感染者数の増加が3,594人、死者の増加が43人となっているが、これは6月19日に米国疾病対策センター(CDC)が公表した数字で6月12日比であり、最新の実態を反映したものでない。従って、世界全体の死者数の増加51人のほとんどは米国によるもので、他の国の死者数の増加は1~2人である。
さらに疑問点をあげれば、6月17日以降のWHOの公表するわが国の確認感染者数(厚生労働省公表値)が「1人多く」表示されている。世界的な統計であり確認を求めたい。
1.わが国の最新情報
2009年6月22日現在の厚生労働省の発表では、日本の新型インフルエンザ感染者数は、892人(6月22日比+43人)である。各都道府県別発生状況は厚生労働省サイト「新型インフルエンザに関する報道発表資料」で確認できる。
なお、過去の増減比を見ようとすると、厚生労働省サイト確認感染者数は都度上書きされてしまうため、過去の感染者数の推移の確認は出来ない。国立感染症研究所の「感染症情報センター」で確認するしかない。ちなみに米国CDCのサイトでは“Past Situation Updates”、またカナダ公衆衛生庁(PHA)サイトの“Surveillance”の“Archive”で過去の特定日の統計値の確認が容易に出来る。
2.WHOの最新発表情報
WHOの公表確認感染者数(2009年6月22日世界標準時7時現在)(update52)のデータに基づき累計確認感染者数が100人以上の国(26か国)のみ紹介する。(多い順に並べ替えた)
全体の数字は94か国(6月19日比+6か国)、累計感染者数は52,160人(6月19日比+7,873人)(うち死者は231人(6月19日比+51人))
「国名」、「累計感染者数(死者数)」、「6月19日比増加数(死者数)」の順に記載した。
①米国:21,449人(うち死者87人(+43人))(+3,594人)(筆者注1)、②メキシコ:7,624人(うち死者113人(+0人))(+0人)(筆者注2)、③カナダ:5,710人(うち死者13人 (+1人) )(+805人)(筆者注3) 、④チリ:4,315人(うち死者4人(+2人))(+1,190人) 、⑤英国:2,506人(うち死者1人(+0人)) (+754人)(筆者注4)、⑥オーストラリア:2,436人(うち死者1人(+1人)) (+237人)、⑦アルゼンチン:1,010人(うち死者7人(+3人)) (+92人)、⑧日本:850人(+160人)、⑨中華人民共和国:739人(+220人)、⑩タイ:589人(+71人)、⑪スペイン:522人(+10人)、⑫フィリピン:344人(+33人)、⑬パナマ:330人(+58人)、⑭イスラエル:291人(+72人)、⑮ドイツ:275人(+37人))、⑯ニュージーランド:258人(+42人)、⑰ガテマラ:208人(うち死者1人(+0人))(+55人)、⑱ニカラグア:189人(+45人)、⑲ペルー:185人(+44人)、⑳エルサルバドル:160人(+0人)、(21) コスタリカ:149人(うち死者1人(+0人)) (+0人)、(22)フランス:147人(+16人)、 (23)シンガポール:142人(+65人)、(24)ブラジル:131人(+35人)、(25)ホンジュラス:108人(+0人)、(26)韓国:105人(+21人)
(筆者注1) 米国の疾病予防センター(CDC)の公表が毎週1回金曜日であるため、このような数値になっている。
(筆者注2)メキシコの場合、6月19日現在の公表値7,624人のまま感染者数の増加がない。その背景について汎米保健機関(PAHO)の公表等にも当ったが、PAHOの最新統計が6月17日現在のため同じ数字である。6月25日未明にメキシコ連邦衛生試験所(SALUD)サイトで確認した結果では、6月23日現在の累計感染者数は8,279人、死者116人である。
(筆者注3) カナダの公衆衛生庁の6月22日現在の公表値は6,457人(6月19日比+747人)である。
(筆者注4) 英国も感染者数が急増しており、毎日、健康保護局サイト(HPA)で更新している。6月22日現在2,773人(6月21日比+204人)である。
〔参照URL〕
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/19.html
http://www.who.int/csr/don/2009_06_22/en/index.html
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2009年6月21日日曜日
EUにおける新型インフルエンザA(H1N1)の疫学面の研究動向
メキシコや北米を中心とするH1N1の世界的感染拡大のニュースが毎日報道される中、5月15日にEUにおける国際感染予防機関である「欧州疾病予防管理センター( The European Centre of Disease Prevention and Control:ECDC)」(筆者注1)が発刊するオンライン・ジャーナル“EUROSURVEILLANCE” (筆者注2)が手許に届き、その中に特集論文「なぜ、メキシコのデータが重要なのか」があった。
筆者は感染症(数理)問題の専門家ではないが、一般メディアや米国CDCやWHOといった専門機関から日々伝わるH1N1に関する情報は、いつ世界的なパンデミックになるのか、第二波はいつ来るのか、日常の予防策はどうすればよいのか等で、本来の専門疫学的な視点に立ったものが少ないように思う。(筆者注3)(筆者注4)
そこで、今回のブログでは“EUROSURVEILLANCE”の第14巻19号の論文の中から小論文“Why are Mexican Data Important?”の概要を紹介する。(筆者注5)
なお、6月4日発刊の“EUROSURVEILLANCE”第14巻22号においてオランダ・ヨトレヒト大学研究員の西浦博氏等の理論疫学研究グループが「日本にみる新型インフルエンザA(H1N1)の潜在的感染拡大とその年齢特性(Transmission Potential of the New Influenza A(H1N1)Virus and Its Age-Specificity in Japan)」を発表し、わが国における感染拡大と基本再生率について分析している。
一方、本原稿を執筆中に厚生労働省が都道府県等の新型インフルエンザ担当部長等宛5月1日付事務連絡で「新型インフルエンザ((Swine-origin influenza A/H1N1)に係る積極的疫学調査の実施等について」を発出している情報を得た。(筆者注6)
本来、このような専門的な報告書の紹介はわが国の「国立感染症研究所」および「国際疾病センター(DCC)」や関係医療研究機関が行うべきものであり、本論文の意義も含め正確な解説を期待するものである。(筆者注7)
1.筆者の紹介と報告書の意義
本報告書は、ECDCフランスチームのCoulombier D(筆者注8)、J Gieseckeによるメキシコにおける新型インフルエンザA(H1N1)の集団発生(outbreak)から感染の推定に関する重要な変数とりわけ増加率(R)に関する公開された数字を使ってとりまとめた共同発表である。
2.増殖率(R)とは何か
感染の増殖率は2つの要素により決定される。(ⅰ)個別の事例における新しい感染者数、(ⅱ)1つの事例において感染(infectiousness)が始まって第一次感染者から第二次の感染が始まるまでの時間である。第1の要素が増加率(reproduction rate)で、通常“R”で表示される。仮に疾病が広く国民に拡大するという感染力が高い場合は「基本再生産率(1人の感染者あたりが生産する2次感染者の比率)(basic reproduction rate:R0(ゼロ))が使用される。“R”値は4つの条件に基づき製造される。すなわち、(ⅰ)感染者と感染可能性のある1回の接触における感染リスク、(ⅱ)集団内でそのような接触をする頻度、(ⅲ)当該事例における伝染力の持続期間および(ⅳ)集団内における感染者の割合である。もし、R>1であるならば、1人以上の新しい感染者が感染し、拡大し続けることを意味する。また、R<1であるならば、いくつかの事例があったとしてもこの蔓延は絶滅することを意味する。1つの事例における感染から第二感染事例にいたる期間を「世代交代時間(generation time:Tg)」といい、仮に正確な価値をどのように推定しようとも生物学的には普遍(constant)なものである。
“R”を決定するこれらの要素の価値は、感染の状況の中で疾病に関する科学的知識および集団の免疫状況(immunity status)に基づき計算可能である。しかしながら、蔓延時において通常“R”の値は、蔓延曲線(epidemic curve)の分析または感染連鎖(transmission chains)の研究から導き出される。
現在いくつかの研究が、メキシコのデータに基づき新型インフルエンザA(H1N1)に関する“R”(または“R0(ゼロ)”)および“Tg”を推定すべく試みられている。“EUROSURVEILLANCE”において発表された論文(注記1)の著者は1つの指数適合およびリアルタイム推定モデル(Exponential fitting and real-time estimation model)を使って“R”値を2.2~3.1と推定している。この推定値は、「総合科学ジャール:サイエンス」(注記2)で発表されたメキシコのラ・グロリアの集団発生で限定された確認された3つのモデル(指数適合(exponential fitting)モデル、遺伝子解析(genetic analysis)モデル、および2つのSIRモデル(筆者注9))から導きだされた数値である1.4~1.6よりも高い数値である。
3.なぜ“R0(ゼロ)”が公衆衛生にとって重要なのか
増加率(R)は、感染拡大の効率性を反映し、従ってまた公衆衛生当局が集団発生の封じ込めや緩和措置をとることに努めることに重要な意味合いを持つ。例えば、“R0”が1.16であれば14%の場合で最終的に感染の遮断が可能であり、他方3.1%であれば人口全体のランダム混合による接触を68%阻止することが必要となろう(筆者注記:“R0”が1より小さい場合は感染率はゼロであるが、1以上になると感染率が急増し、また集団サイズが大きい場合は増加率が小集団の場合より高くなる)。
4.なぜ“R0(ゼロ)”が季節性インフルエンザと新型インフルエンザで異なるのか
季節性インフルエンザの“R0”に関するいくつかの研究(注記4)が行われ、1.2~1.4という値が出ている。しかしながら季節性インフルエンザ菌に関し、国民のほとんどが過去の季節的流行からの免疫性をもっており“Ro”値を低くしている(実際この状況では“Ro”と呼ぶべきでない)。疾病の感染流行(epidemic)に関し、感染当初のの免疫性“R0”は時間的経過後においてより高くなる。従って国民全体への感染比率は減少する。また、事例について遅れた報告は“R”の推定に影響を与える:すなわち、この問題の研究結果への固執や前述した問題があるからである。
5.「インフルエンザ R0(ゼロ)」とは
感染者が非感染者に接触することによる感染リスクは、現状の感染持続性において、基本的な点で生物学的には普遍である(仮に感染の時間的経過の中で変化するとしても)。しかしながら、接触の頻度は集団や集団グループ間でかなり変化する。例えば学校や日中育児(ディケア)の接触は大人とに比べると接触頻度が高く(注記5)、生活文化や家族の規模、社会相互作用(social interaction)により変化する。
6.なぜメキシコからの“R0(ゼロ)”が重要なのか
なぜメキシコのデータに基づく“R”や“R0”の研究がそれほどに関心を持つのか疑問を投げかける人がいよう。その結果はEUにおいて適用可能なのか。接触の運命はメキシコの場合より高いかも知れない。しかし、他方、感染流行はすでに一定期間動き出しており、感染者(non-susceptibles)の割合はメキシコで上がってきており、EUの状況においても感染者総数とともに実際の高い“R0”値に基づく取組みが必要になるであろう。
下図(2009年4月―5月のメキシコ、カナダ、米国およびEU/EFTAの累積感染者・死者数)にあるとおり、我々はメキシコ、カナダ、米国およびEU/EFTAの国々の累積感染者・死者数を日々報告してきた。同図の片対数目盛り(semi –Logarithmic scale)によるとEUの 状況はメキシコの場合と大変相似していることが明らかである。EUにおける時間的差に基づく推定は困難であるが、約1,2か月遅れと思っている。もし世代交代時間がメキシコとEUで同一であると考えるとー極めてもっともらしい説明といえるかもしれないがーメキシコの“R0”の推定はEUでも適用可能と言うことになる。まさにちょうど「1」のすぐ上の“R0”値は封じ込め作戦の成功を意味しよう。
(注記1)Boëlle PY, Bernillon P, Desenclos JC. A preliminary estimation of the reproduction ratio for new influenza A(H1N1) from the outbreak in Mexico, March-April 2009. Euro Surveill. 2009;14(19):pii=19205. http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=19205
(注記2) Fraser C, Donnelly CA, Cauchelmes S, Hanage WP, Van Kerkhove MD, Hollingsworth TD, et al. Pandemic potential of a strain of influenza A (H1N1): early findings. Published 11 May 2009 on Science Express. DOI: 10.1126/science.1176062. http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/1176062(筆者注:次のURLで全文(全9頁)が読める。)
(注記3) Rambaut A. Human/Swine A/H1N1 flu outbreak - BEAST analysis. http://tree.bio.ed.ac.uk/groups/influenza/wiki/178c5/BEAST_Analysis_29_Apr_2008_-_Andrew_Rambaut.html
(注記4) Chowell G, Miller MA, Viboud C. Seasonal influenza in the United States, France, and Australia: transmission and prospects for control. Epidemiol Infect. 2008;136(6):852-64.
(注記5) Keeling MJ, Eames KT. Networks and epidemic models. J R Soc Interface. 2005;2(4):295-307.
(筆者注1)ECDCの研究者グループは、2009年2月19日付の“EUROSURVEILLANCE”の中の論文「Human case of swine influenza A (H1N1), Aragon, Spain, November 2008」でスペインの養豚場経営者からの情報入手に基づき2008年11月に豚インフルエンザウイルスを検出し、豚インフルエンザが大流行するとの警告を行っている。
(筆者注2)現在の“EUROSURVEILLANCE”は、ECDC(欧州疾病予防管理センター: The European Centre of Disease Prevention and Control)が発行する週刊感染症、監視、予防および管理に関するオンライン科学専門ジャーナルである。1995年に設立され、2007年3月までは欧州委員会、フランス国立公衆衛生研究所“L’Institut National de la Veille Sanitaire (INVS)”、英国ロンドンの健康保護局(The Health Protection Agency)の共同出資により運営され、また各国が記事を執筆、媒体も印刷版であった。2007年3月に“EUROSURVEILLANCE”はECDC(本部:スェーデンのストックホルム)で発刊されることとなり、2008年1月から緊急情報、ニュース、専門論文や感染症の爆破的拡大等を内容とする週刊オンライン・ジャーナル(四半期ごとのペーパベースの雑誌も引続き発刊されている)となった(同ジャーナルの現加入購読者数は約1万4,000人である)。
なお、“EUROSURVEILLANCE”が発信する海外の感染症情報の重要性は、厚生労働省検疫所が発する「海外者のための感染症情報(FORTH)」の公式情報トピックス(2008年)でも頻繁に出てくることからも明らかであろう。
(筆者注3)本年2月に新型インフルエンザの感染増殖のメカニズムの研究成果を英国の専門雑誌“Nature”に発表したフランスの研究グループ(ウイルス宿主間相互作用研究連合:Unit of Virus Host Interactions :UVHCI)のことがわが国でも紹介されている。同グループは正確にいうとフランスの(ⅰ)グルノーブル第一大学(ジョセフ・フーリエ大学(Université Joseph Fourier:UJF))、(ⅱ)国立科学研究センター(Centre national de la recherche scientifique:CNRS)、(ⅲ)グルノーブル欧州分子生物学研究所(The European Molecular Biology Laboratory(EMBL):(欧州20か国の出資により1974年に創設された分子生物学の研究所。本部はドイツのハイデルベルクにあり、他にイギリスのケンブリッジ、フランスのグルノーブル、ドイツのハンブルク、イタリアに研究施設を有する)
(筆者注4)各種情報が混乱する中で、欧州委員会共同調査センター(Joint Research Center :JRC)は、既存の個別メディアや非公開の「早期警告対応システム(EWRS)」等専門告機関とは別に、世界43か国の新しいニュースを統合、分析ならびに警告を行うべく一般市民向けの3つのウェブ・ポータル(NewsBrief、NewsExplorer、NedISys)の統合サイト(Europe Media Monitor:EMM) 設置している。しかしこのプロジェクトでとりあげられている記事は雑多な情報の集合体であり、個別国の正しい情報が正確に伝わっているとは思えず、あまりお勧めではない。
(筆者注5)本原稿の執筆に当っては訳語の適確性も含め、次の論文、大学の講義資料および連載ブログを参考とした。新型インフルエンザに関する個人・企業の予防・回復策を疫学的に解明して欲しいと考えるのは当然であろう。なお、ブログの筆者自身は専門家ではないといっているが5回連載ブログ「数理科学からみたインフルエンザの脅威」の最終回の「伝染病の数理モデルおよび導出結果の有効性」の項目は是非読んでおくべきであろう。
①統計数理研究所54巻2号「感染症流行の予測:感染症数理モデルにおける定量的課題」西浦博、稲葉寿
②奈良女子大学高鷲夫悟教授の講義用プレゼン資料「伝染病拡大の為の閾値」
③連山改「数理科学からみたインフルエンザの脅威」(②を元にまとめたものである)
(筆者注6)厚生労働省は平成21年4月29日付け「新型インフルエンザに係る対応について(平成21年4月28日健感発0428003号厚生労働省健康局長通知)」を発出しており、本通達が“H1N1”を前提にした政府としての行動計画が開始されたことになる。これを受けて従来出されていた事務連絡等を急遽見直し、平成21年5月1日付で「新型インフルエンザウイルス診断検査の方針と手引き(暫定版)」を発出しており、その際同日付けの「新型インフルエンザ積極的疫学調査実施要項(暫定版)」等を参照することとなっている(同省の今までの疫病調査に関するガイドラインは関連サイトで見られるとおり本年1月までは鳥インフルエンザである“H5N1” を対象としたものである)。
これらの情報は「新型インフルエンザ最新情報」を見る必要がある。
(筆者注7)EU加盟国を中心とする感染症に関する国際的な早期警告や政策協調のための情報システムとして「早期警告対応システム(EWRS)」、健康危機情報システム(HEDIS)および医療情報システム(MedISys)がありわが国でも国立感染症研究所も構成機関となっている。(「欧州の感染症対策システム:鳥インフルエンザを機に強化された各国連携」(NTTデータ:マンスリーニュース2006年9月号)、「EUの豚インフルエンザの情報収集や対応協議に着手(EU)」(ジェトロ:世界のビジネスニュース通商広報:2009年4月27日付)
(筆者注8) Coulombier D氏の論文は、わが国の厚生労働省検疫所「公式情報(データベース)」において要旨が紹介されている。
(筆者注9)“SIR model”については1927年Kermack McKendrickが考案したもので5月12日の本ブログで紹介した米国の理論物理学者Stephen Wolfram 氏が主催するWolframMathwold等でも簡潔に解説されている。非感染者集団(健常者:Susceptible))、感染集団(Infectious)、隔離集団(死亡または隔離・治癒)(Recovered)) これらの3つの構成要素の時間的変化を数式で記述したモデルである。したがって、このモデルが「SIR model」と呼ばれる。
〔参照URL〕
http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=19212
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2009年6月20日土曜日
海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向と新たな研究・開発への取組み(N0.7)
WHOの統計を始め各国の確認感染者や死者数は引続き拡大傾向にある。今回は感染者の最新情報とともに、主題の1つである「ワクチンや試薬開発の最新動向」について英国の国立生物学的製剤研究所(A Center of the Health Protection Agency:NIBSC)のサイトから最新動向を紹介する。
言うまでもなく、“NIBSC”はWHOや米国連邦保健省疾病対策センター(CDC)等との連携作業を行っており、今まで本ブログで紹介してきたワクチン開発の動向が具体的に確認できる。(筆者注1)
それにしても国民に冷静な対応を呼びかける前提として、わが国の入手しているワクチン開発の世界の最新情報は公的関係サイトで流すべきではないか。(筆者注2)(筆者注3)
なお、たびたび紹介している”Eurosurveillance”の最新号(6月18日号)が手元に届いた。今回の特集論文は、「南半球のインフルエンザA(H1N1)―ヨーロッパにおいて学ぶべき点は?」と題し、チリとオーストラリアに見る南半球のインフルエンザA(H1N1)の本年秋以降の北半球への影響を予測している。機会を改めて解説したい。
1.わが国の最新情報
2009年6月19日現在の厚生労働省の発表では、日本の新型インフルエンザ感染者数は、740人(6月18日比+51人)である。各都道府県別発生状況は厚生労働省サイト「新型インフルエンザに関する報道発表資料」で確認できる。
2.WHOの最新発表情報
WHOの公表感染者数(2009年6月19日世界標準時07時現在)(update51)のデータに基づき累計確認感染者数が100人以上の国(23か国)のみ紹介する。(多い順に並べ替えた)(update50は筆者の都合で間に合わず省くが、前回比は前々回update49(6月15日)比を用いた)
全体の数字は84か国(6月15日比+8か国)、累計感染者数は44,287人(6月15日比+8,359人)(うち死者は180人(6月15日比+17人))
「国名」、「累計感染者数(死者数)」、「6月15日比増加数(死者数)」の順に記載した。
①米国:17,855人(うち死者44人(―1人))(+0人)(筆者注4)、②メキシコ:7,624人(うち死者113人(+5人))(+1,383人)、③カナダ:4,905人(うち死者12人 (+8人) )(+1,927人) 、④チリ:3,125人(うち死者2(+0人))(+1,431人) 、⑤オーストラリア:2,199人(+376人(筆者注5)、⑥英国:1,752人(+526人)(筆者注6)、⑦アルゼンチン:918人(+573人)、⑧日本:690人(+85人)、⑨中華人民共和国:519人(+431人)、⑩タイ:518人(+489人)、⑪スペイン:512人(+24人)、⑫フィリピン:311人(+234人)、⑬パナマ:272人(+0人)、⑭ドイツ:238人(+68人)、⑮イスラエル:219人(+102人)、⑯ニュージーランド:216人(+130人)⑰エルサルバドル160人(+65人)、⑱ガテマラ:153人(うち死者1人)(+34人)、⑲コスタリカ:149人(+45人)、⑳ニカラグア:144人(+88人)、(21) ペルー:141人(+50人)、(22)フランス:131人(+51人)、(23)ホンジュラス:108人(+19人)
3.新型インフルエンザ・ワクチン開発と試薬をめぐる英国や他の国の最新動向
今回は“NIBSC”のサイトにもとづき、英国その他の国の研究室が取組んでいる新型インフルエンザA(H1N1)(ブタ由来)ワクチン候補株(candidate vaccine virus)や試薬(reagents)の開発動向について概要を紹介する。
(1) ワクチン候補株(candidate vaccine virus)の研究・開発状況
現在新型インフルエンザA(H1N1)(ブタ由来)ワクチン候補株について“NIBSC”取組みのため入手したウイルスサンプルは次のとおりであり、2009年5月初めから研究・開発を開始している。
(A)カリフォルニアで分離されたA(H1N1)ウイルスのサンプル:1
(B)メキシコで分離された同サンプル:2
(C)ニューヨークで分離された同サンプル:1(以上は、米国CDCから入手)
(D)英国で分離された同サンプル:3
(E)ニュージーランドで分離された同サンプル:2
○ NIBSCは、迅速なウイルスの世代交代を把握するため、過去におけるワクチン候補株の開発において成功してきた確実な手法である、①古典的再集合法(classical reassortment)、②逆遺伝学法(reverse genetics)という2つの手法を用いている。
また、追加的活動としてワクチンの大量製造やA(H1N1)ワクチンの研究機関の全国的な管理やワクチンの品質管理のための標準化目的でと特性化研究や試薬の製造のため坑血清の開発のためウイルス量の増量が必要となる。
さらに、A(H1N1)の毒性の特徴づけおよび最近時のヒト A(H1N1)ウイルスとの類似性の調査を開始している。
○ 国際的に開発されているワクチン候補株
ワクチン候補株は次の研究室およびWHOの指示により研究が行われている。
①NYMCX-179A従来型再集合ウイルス:担当国(米国ニューヨーク医科大学)
②IVR-153 従来型再集合ウイルス:担当国(オーストラリア)
③IDCDC-RG15 逆遺伝学ウイルス:担当国(米国CDC)
④NIBRG-121逆遺伝学ウイルス:担当国(英国NIBSC)
○試薬の開発
NIBSCおよびWHOの義務的基本研究室(Essential Regulatory Laboratories)において、インフルエンザA(H1N1)ウイルスの単放射拡散検査(Single Radial Diffusion)のための試薬が開発される予定である。
(2)H5N1ワクチン候補株の準備動向
NIBSCはワクチン製造メーカーおよび他国の誠実な研究所のためにH5N1ワクチン候補株を準備している。その目的は、①世界的なインフルエンザの大流行への準備、②毒性のあるウイルス種の安全性を保証、③公衆およびWHO を支援することである。
NIBSCは現在、次の4つのH5N1ワクチン候補株を無料で利用可能としている。
①NIBRG-12(A/Hong Kong/213/2-0-3(H5N1)
②NIBRG-14(A/Vietnam/1194/2005(H5N1))
③NIBRG-23(A/Turkey/Turky/1/2005(H5N1)
④NIBRG-88(A/Cambodia/R0405050/2007(H5N1)
(筆者注1)筆者が日頃から興味をもっている「インフルエンザワクチンの作り方」について5月1日付けのBBCの記事がある。NIBSC等への取材に基づくもので、内容はそう難しくないので、関心のある方は読まれてはいかがか。
(筆者注2)6月12日付けWHOの「フェーズ6」引上げ時の厚生労働大臣の声明(「新型インフルエンザへの対処について」)の一部を引用する「これまで国内において合計539名の方が感染され、少なくとも394名は治癒しています。・・・秋口から第二波の感染拡大が起こる可能性があることを示唆しているものと受け止めています。したがって、現在の対策の基本的な枠組みを維持しつつも、今後日本においてある程度の感染拡大は避けられないということを前提に、専門家の方々の御意見を伺いながら、感染拡大の早期探知のためのサーベイランスの強化や医療体制について重症者への対応を中心としたものにシフトすること等を速やかに提示したいと考えております。政府としても、地方自治体や医療関係者などと十分協力・連携をとって、万全の備えに努めてまいります。国民の皆様におかれては、繰り返し申し上げておりますように、警戒を怠ることなく、正しい情報に基づき冷静に対応していただきたいと思います」。筆者が言いたいのは、ここで言う「ある程度」とはどの程度か、「正しい情報」とは誰の発言をどのように信頼して読めばよいのかなど、疑問はさらに拡がる。
なお、同省は「新型インフルエンザ関連用語集」を6月17日に公表している。選択基準が不明であり、また国民が一般メディアの記事を理解するうえ最新情報とは思えないし、特に筆者がこだわるのは、内容から見てわが国のオリジナルなものかと言う点である。
さらに気になるのは、厚生労働省サイトで「国立医薬品食品衛生研究所」の部長職など幹部の募集を行っている点である。国民の不安は拡がる一方である。
(筆者3) 筆者が6月18日未明に受信した情報で、欧州食品安全機関(EFSA)、ヨーロッパの疾病予防管理センター(ECDC)、およびヨーロッパのMedicines Agency(EMEA)は6月16日、家畜、ペット、および食物の中のメチシリン耐性がある黄色ブドウ球菌(meticillin resistant staphylococcus aureus :MRSA)に関する共同科学報告を記者発表している。
“Wikipedeia” の説明では、MRSAは黄色ブドウ球菌が耐性化した病原菌であり、黄色ブドウ球菌と同様に常在菌の1つと考えられ、健康な人の鼻腔、咽頭、皮膚などから検出されることがある。そもそも薬剤耐性菌であるため薬剤の使用が多い病院で見られることが多く(耐性菌は抗生物質の乱用により出現すると言われている)、入院中の患者に発症する院内感染の起炎菌としてとらえられている。
「院内感染とMRSA」に関する論文としては例えば、バージニア大学の論文などがある。
(筆者注4)米国の疾病予防センター(CDC)の公表が毎週1回金曜日であるため、このような数値になっている。6月19日にCDCが公表した統計値は次のとおりである(6月12日比増加数)。
累計感染者数:21,449人(うち死者87人(+44人))(+3,594人)
(筆者注5)オーストラリア保健高齢者担当省(DHA)は毎日午前5時、午後5時の2回公表している。6月19日午後5時の公表値は2,330人である。
(筆者注6) 英国も感染者数が急増しており、毎日、健康保護局サイト(HPA)で更新している。6月19日1,984人(前日比+224人)である。
〔参照URL〕
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/19.html
http://www.who.int/csr/don/2009_06_19/en/index.html
http://www.nibsc.ac.uk/
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2009年6月16日火曜日
海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向と新たな研究・開発への取組み(N0.6)
6月15日にわが国のメディアが東京大学医科学研究所の河岡教授グループが英国科学専門雑誌「ネイチャー」(電子版)にインフルエンザ・ウイルスの表面に人間の細胞にとりつく役割をもつ「赤血球凝集素:へマグルチニン(hemagglutinin:HA)」というタンパク質があり、研究の結果、一部のウィルスのHAに異変が発生している旨の報告したと報じている。
筆者は疫学の専門家ではないので、「ネイチャー」(電子版)の原データにあたり、何が本質的な問題なのか疑問に思い調べてみたが、有料会員でないため、これは不可。
これにめげずに、少なくとも最近時の(1)新型インフルエンザA(H1N1)の起源と(2)ゲノム(ある生物をその生物たらしめるのに必須な遺伝情報。ゲノムのなかで生命活動を維持するための機能的な部品を規定しているところが遺伝子である)進化等、疫学面等に関する話題を整理したので簡単に紹介する。
1.わが国の最新情報
2009年6月16日現在の厚生労働省の発表では、日本の新型インフルエンザ感染者数は、638人(6月12日比+99人)である。各都道府県別発生状況は厚生労働省サイト「新型インフルエンザに関する報道発表資料」で確認できる。
2.WHOの最新発表情報
WHOの公表感染者数(2009年6月15日世界標準時17時現在)(update49)のデータに基づき累計確認感染者数が100人以上の国(15か国)のみ紹介する。(多い順に並べ替えた)(筆者注1)
全体の数字は76か国(6月12日比+2か国)、累計感染者数は35,928人(6月12日比+5,834人)(うち死者は163人(6月12日比+18人))
「国名」、「累計感染者数(死者数)」、「6月12日比増加数(死者数)」の順に記載した。
①米国:17,855人(内死者45人(+18人))(+4,638人)、②メキシコ:6,241人(内死者108人(+0人))(+0人)(筆者注2)、③カナダ:2,978人(内死者4人 (+0人) )(+0人)(筆者注2) 、④オーストラリア:1,823人(+221人)、⑤チリ:1,694人(内死者2(+0))(+0人) (筆者注2)、⑥英国:1,226人(+404人)(筆者注3)、⑦日本:605人(+56人)、⑧スペイン:488人(+0人)、⑨アルゼンチン:343人(+0人)、⑩中華人民共和国:318人(+100人)、⑪パナマ:272人(+0人)、⑫ドイツ:170人(+75人)、⑬ガテマラ:119人(内死者1人)(+45人)、⑭イスラエル:117人(+49人)、⑮コスタリカ:104人(+0人)
3.新型インフルエンザをめぐる最新の研究・開発動向
筆者は、あくまで専門外の人間なので割り引いて読んで欲しい。専門家による平易な解説が時間の経過に即して出てくることを期待していたが、未だに出てこないのでやむを得ず書いた次第である(筆者注4)。
(1)河岡教授の論文を読む前に必要な知識とは
“HA”の定義はまずウィキペデイア(英文)で確認してイメージをつかもう。なお、河岡教授の論文が多数引用されている。
なお、執筆時期は古くなるが、同教授が2001年に発表された「インフルエンザウイルス感染過程の解明とその応用」は素人でも分かりやすい内容と思える。
(2)新型インフルエンザA(H1N1)の起源に関する論文を読もう。
数多くの論文あるが、具体的に筆者が推薦するのは次の3つである。
①「新型インフルエンザの起源:今行動を起こす時期である(Origins of the New Influenza A(H1N1)Virus:Time to take Action)」 Eurosurveillance第14巻22号(2009年6月4日号)(なお、同論文の要旨は本ブログのシリーズN0.5 (筆者注1)で紹介している。)
筆者は、メキシコ国立自治大学医療ウィルス研究室、米国イリノイ大学ゲノム生物学研究所である。この論文中で「2009年A(H1N1)ヒト・インフルエンザ」に至るウィルスの変異履歴が図解されている。ウイルスがブタ、鳥、ヒトを媒介し世界中を回りながら時間を経て変異していることが一目である。
②「新型インフルエンザA(H1N1)ウィルスの起源のクラスター分析(Cluster Analysis of the origins of New Influenza A(H1N1)virus)」Eurosurveillance第14巻21号(2009年5月18日号)
筆者は米国プリンストン大学物理学部、コロンビア大学感染・免疫センター、コロンビア大学生物医学情報学部・生命情報学および生命情報工学センター。
新しいウィルス種の遺伝子を研究し、クラスター分析を用いて最も近い種を特定し論文である。新種のウィルスが異なるブタ・インフルエンザ・ウィルスの異なる遺伝子を結合することを明らかにした。
③「2009年ブタインフルエンザA(H1N1)の起源とゲノム進化(Origins and evolutionary genomics of the 2009 swine-origin H1N1 influenza A epidemic)」
筆者は、香港大学リ・カ・シン医学研究室、エジンバラ大学進化生物学研究所、アリゾナ大学生態学・進化生物学部、オックスフォード大学動物学部。
なお、本論文の原文は日本語版「Nature」購読者しか閲覧できない(筆者は下書原稿を読んだ)。なお、要旨は「Nature 」アジア太平洋版サイトで読める。
(筆者注1) 最近、海外の感染者数を毎日更新したり、上位10か国を公表しているサイトを発見した。しかしそのデータとWHOのデータや各国の政府機関が公表している数値と比較するとデータが古い。また、なぜ上位10か国なのかが疫学的に見て曖昧である(興味本位であってはならない)。
(筆者注2) カナダ公衆衛生庁(Public Health Agency of Canada)の公表では、6月15日現在の確認感染者数は4,049人(うち死者7人)(6月12日比+534人(うち死者+3人:ケベック州))である。また、同庁の公表データの最後にある毎日の新規感染者発生数グラフを見て欲しい。完全に右肩上がりである。なお、汎米保健機関(PAHO)は、確認感染者数を毎日更新している。6月12日のデータを見てもメキシコ、カナダ、チリの3か国はいずれもWHOの数字と同じで前日比+0であるが、カナダは上記のとおり増加している。その後のデータをみると、6月17日現在のデータは各国の最新情報と同期が取れてきている。メキシコ等WHOの公表値より新しい。
(筆者注3) 英国も感染者数が急増しており、毎日、健康保護局サイト(HPA)で更新している。6月12日921人(前日比+73人)、6月13日1,121人(+200人)、6月14日1,226人(+105人)、6月15日1,320人(+59人)といった推移を経ている。
(筆者注4)筆者はスペイン語はほとんど読めないのであるが、メキシコの公衆衛生・疫学機関の関係サイトを横断した結果を見ての参考情報のみ記載しておく。
①連邦衛生試験所(SALUD)の疾患衛生局(CENAVECE)サイト等が専門家向けの内容で、公衆衛生・感染問題全般を取り上げ、その中でInfluenza A(H1N1)を特集している。
②“SALUD” が取り上げるインフルエンザでは「鳥インフルエンザ(Influenza Aviar)」、「季節性インフルエンザ(Influenza Estacional)」、「インフルエンザ・パンデミック(Influenza Pandémica)」に大別しているが、やはりリスクの大きさから鳥インフルエンザにウエイトを置いている。
③“SALUD”は、また一般大衆向けに広報専用サイトを設けており、感染予防策などについてアニメ風の解説を行っている。
④政府の取組みとしては、大統領府に「infuluenza A(H1N1)」専用サイトを設けている。
〔参照URL〕
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/19.html
http://www.who.int/csr/don/2009_06_15/en/index.html
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2009年6月13日土曜日
海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向と新たな研究・開発への取組み(N0.5)
世界保健機関(WHO)は6月11日、日本時間午後7時に開催された緊急委員会で「国際保健規則」の改定を議論し「フェーズ6」の引上げを決定した。
6月12日の本ブログでも簡単に紹介したとおり米国の米国疾病対策センター(CDC)は11日東部標準時間午後12時45分に緊急電話記者会見を行っている。
その中で気になったのは、①米国の感染者は予想より増加していることと、もう1点は②「インフルエンザH3ウイルス」の感染リスクについて具体的に言及していることである。その箇所について抜粋すると「インフルエンザH3ウイルスは、高齢者に影響する傾向があって、そこでしばしばかなりの重症を引き起こす。 同ウィルスに関しては、ワクチンという私たちのとって当然一般的予防策がないがゆえに、このウイルスの性格は季節性インフルエンザH1N1に似ていない。 それは「非常に新しいウイルス(very new virus)」である。 我々が報告を受けている事例の57%は5歳から24歳の人々に感染が起きている。そして、その同じ年齢層(年長の子供とヤングアダルト)では41%が入院している。また、人口10万あたりでみた入院率は実際に5歳未満の子供が最も高く、次に高い入院率は5歳から24歳の層である。」
一方、6月11日の朝日新聞はその特集記事で、今世界中に感染拡大しているウイルスは「伝統的ブタ由来インフルエンザH1N1」ではなく、1998年に検出された「3種混合H3N2」に「北米ブタ型H1N2」や「ユーラシアブタ型H1N1」が混合したウィルス(2009年H1N1)の可能性を米国や欧州の研究者等が指摘して点をあらためて紹介している。(筆者注1)
専門外の筆者としてはこれ以上言及しないが、CDCやECDC等のインフルエンザA(H1N1)の起源(possible origins)に関する研究結果等からみて、2009年春から急激に拡大した「新型インフルエンザAH1N1」の実体は「 H1N1 Influenza 2009 (Human Swine Flu) 」であり、そのルーツに「H3ウイルス」があるとすると、今後の展開は急速に入院を要する重症化事例の拡大や高齢者感染や死者数の増加が懸念される。また、すでに英国やわが国など主要国が製薬メーカーに依頼した新ワクチンの開発への影響等も気になる。(筆者注2)
1.わが国の最新情報
2009年6月12日現在の厚生労働省の発表では、日本の新型インフルエンザ感染者数は、549人(6月5日比+147人)である。各都道府県別発生状況は厚生労働省サイト「新型インフルエンザに関する報道発表資料」で確認できる。
2.WHOの最新発表情報
WHOの公表感染者数(2009年6月12日世界標準時7時現在)(update48)のデータに基づき累計確認感染者数が100人以上の国(12か国)のみ紹介する。(多い順に並べ替えた)
全体の数字は74か国(6月11日比+0か国)、累計感染者数は29,669人(6月11日比+895人)(うち死者は145人(6月11日比+1人))
「国名」、「累計感染者数(死者数)」、「6月11日比増加数(死者数)」の順に記載した。(WHOの集計が今回は前日比のため必ずしも各国の最新情報を反映していない)
①米国:13,217人(内死者27人(+10人))(+0人)(6月12日のCDCの公表数は後記のとおりである)、②メキシコ:6,241人(内死者108人(+2人))(+0人)、③カナダ:2,978人(内死者4人)(+532人) 、④チリ:1,694人(内死者2(+0人))(+0人)、⑤オーストラリア:1,307人(+83人)、⑥英国:822人(+0人)、⑦日本:549人(+31人)、⑧スペイン:488人(+131人)、⑨アルゼンチン:343人(+87人)、⑩パナマ:221(+0人)、⑪中華人民共和国:188人(+14人)、⑫コスタリカ:104人(+0人)
3.米国の最新発表情報
米国CDCは毎週金曜日に各州からの集計結果を公表している。
6月12日東部標準時間11時現在の数字は次のとおりである。
52州(6月5日比+0人)、確認感染者数17,855人(6月5日比+4,638人)、内死者45人(6月5日比+18人)である。
1,000人以上の感染者数の6州は次のとおり。
・ウィスコン州:3,008人(死者1人)
・テキサス州:2,049人(3人)
・イリノイ州:1,983人(5人)
・ニューヨーク州:1,160人(13人)
・カリフォルニア州:1,094人(6人)
・マサチューセッツ州:1,078人(0人)
(筆者注1)朝日新聞の記事は元なる研究者の資料名はなく「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メデイア(NEJM)などから作成」としか記述がない。筆者が独自に米国NEJMのサイトを調べてみたが、次の資料が源にあるらしい。
また、EUの感染症監視機関である「欧州疾病予防管理センター( The European Centre of Disease Prevention and Control:ECDC)」が発表した6月4日号“Eurosurveillance”の論文は、(1)400以上の系統のタンパク質相同性解析(protein homology analyses:複数のタンパク質の間に存在する類似性を検出をする解析の一種)結果に基づき、新型インフルエンザが最近時のブタ・インフルエンザから進化していること、(2)5,214のタンパク質の系統発生解析(phylogenetic analyses)結果として、1989年から2009年までの20年間に北米で変異を繰り返してきた際、新型インフルエンザの進化的特徴として、ブタが変異の介在役つまり「鳥、ブタ、人の3種混合ウィルスの混合容器」として機能してきた点を改めて論じている。
(筆者注2)6月12日、米国ヴォイス・オブ・アメリカは30か国以上の政府がスイスの製薬メーカーNovartisにブタ・インフルエンザ・ワクチンを発注した旨報じている。
〔参照URL〕
http://www.who.int/csr/don/2009_06_12/en/index.html
http://www.cdc.gov/h1n1flu/update.htm
http://www.eurosurveillance.org/public/public_pdf/Origins_influenza_A(H1N1)virus_04062009_Supplementary_material.pdf
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2009年6月12日金曜日
海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向と新たな研究・開発への取組み(N0.4)
6月9日の国立感染症研究所サイトでは「新型インフルエンザA(H1N1)の流行状況-更新10」として「各国におけるサーベイランスの状況、軽症例における受診行動やサーベイランスにおける把握状況、あるいは対策の方針は国によって異なるため、その国内地域ごとの状況を正確に評価するのは容易ではない。・・・・・・発生が確認されている都府県は、16に上り、それぞれの地域によって感染伝播の状況は異なる。また、現在の日本の交通状況を考えれば、早晩他の地域に伝播していく可能性は高い。現在、国内では、一例の確定例もでていない地域、渡航者からの散発例の出ている地域、地域内での感染で散発例、あるいは集団発生の出ている地域、より広範な感染伝播が疑われる地域が存在する。・・・・6月9日午前9時現在まで、国内においては死亡例および気管内挿管による人工呼吸器管理などを要する重症例は報告されていない。しかしながら、今後患者数が増加していく場合、すなわち米国並の死亡率(0.2%)であれば500人ほど、カナダ並の死亡率(0.1%)であれば1000人ほどの患者発生がある場合、死亡例を含む重症例が発生する可能性があることに留意する必要がある。特に基礎疾患を有する者、妊婦、小児などが重症化しやすいとされており、これらに該当する新型インフルエンザ患者に対する注意が必要である。」と言う情報が流れた。
それを裏付けるように6月11日に発表された感染者数は、518人(検疫対象者(米国から帰国)2人を含む)、感染者が発生した都道府県数も19都府県となった。
一方、世界保健機関(WHO)では6月11日、日本時間午後7時に開催された緊急委員会で「国際保健規則」の改定が議論され「フェーズ6」(筆者注1)への引上げが決定された。筆者は、この情報は12日(金)午前2時31分に米国連邦保健福祉省(HHS)経由で受信した。①WHOマーガレット・チャン事務局長の声明文の内容(動画やMP3フォーマットでも確認できる)、同時期に発表された②米国連邦保健福祉省(Health and Human Services:HHS)の疾病対策センター(CDC)科学・公衆衛生プログラム担当臨時副センター長(Interim Deputy Director for Science and Public Health Program)のアン・シュカット博士(Dr.Anne Schuchat)等やHHSおよび国土安全保障省(DHS)の両長官による共同声明等の内容については、本ブログで順次報告する予定である。
いずれにしても世界的大流行である「フェーズ6」下での監視強化と、同時に疫学的(筆者注2)、ワクチン学的側面からの更なる研究・開発が喫緊の課題となったことは間違いない。
1.わが国の最新情報
2009年6月11日現在の厚生労働省の発表では、日本の新型インフルエンザ感染者数は、518人(6月5日比+116人)である。各都道府県別発生状況は厚生労働省サイト「新型インフルエンザに関する報道発表資料」で確認できる。
2.WHOの最新発表情報
WHOの公表感染者数(2009年6月11日世界標準時14時現在)(update47)のデータに基づき累計確認感染者数が100人以上の国(12か国)のみ紹介する。(多い順に並べ替えた)
全体の数字は74か国(6月10日比+0か国)、累計感染者数は28,774人(6月10日比+1,037人)(うち死者は144人(6月10日比+3人))
「国名」、「累計感染者数(死者数)」、「6月10日比増加数(死者数)」の順に記載した。(北米3か国、オーストラリアの拡大が止まらない。特に世界中が関心を寄せているオーストラリアのビクトリア州1州の感染者数が1,011人の原因について疫病関係者が注目している)
①米国:13,217人(内死者27人(+10人))(+0人)(筆者注3)、②メキシコ:6,241人(内死者108人(+2人))(+524人)、③カナダ:2,446人(+0人) (筆者注4)、④チリ:1,694人(内死者2(+0))(+0人)、⑤オーストラリア:1,307人(+83人)、⑥英国:822人(+156人)、⑦日本:518人(+33人)、⑧スペイン:357人(+26人)、⑨アルゼンチン:256人(+21人)、⑩ パナマ:221(+0人)、⑪中華人民共和国:174人(+32人)、⑫コスタリカ:104人(+11人)
(筆者注1)WHOは「フェーズ6」への引上げにあわせ、「フェーズ6に関するQ&A」を改訂している。
(筆者注2)WHOの声明やオーストラリアのビクトリア州のサイト等を参考とすると、わが国の関係機関で使用されている「ブタ由来インフルエンザ」と言う曖昧な表現でなく、「 H1N1 Influenza 2009 (Human Swine Flu) 」と言う表現が現時点では適切ではないか。
(筆者注3)米国疾病対策センター(CDC)は、6月5日から各州からの報告に基づく毎週金曜日1回のみの公表に切り替えた関係でWHOの数字も更新されていない。なお、個別州の保健機関のデータを調べてみたが、例えばマサチューセッツ州で見ると6月10日現在で1,076人(6月9日比+66人)であり、米国の感染拡大は続いている。正確な数字は日本時間6月13日未明に公表される。
(筆者注4)カナダの公衆衛生庁(PHAC)サイトで見ると、6月10日現在の感染者数は2,978人(6月8日比+533人)である。
〔参照URL〕
http://www.who.int/csr/don/2009_06_11/en/index.html
http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/case-j-2009/090611case.html
http://www.mass.gov/Eeohhs2/docs/dph/cdc/flu/swine_flu_confirmed_case_count.rtf
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2009年6月10日水曜日
米国CDCが新型インフルエンザ流行時の23価肺炎菌多糖類ワクチン等の使用に関する暫定ガイダンスを公表
6月8日に厚生労働省は、新型インフルエンザA(H1N1)のワクチン製造に向け、国内のワクチンメーカー4社にウイルス株を送付したと発表した。ワクチン接種開始時期は本年秋以降である。
一方、北米やオーストラリアさらには欧州等でも感染拡大のペースは収まる傾向を見せていない。
その対処として米国における新ワクチン開発の取組み状況については本ブログでも取り上げたが、6月9日に米国疾病対策センター(CDC)は、死亡者の増加等への対応として、①65歳以上の高齢者全員、②2歳から64歳の慢性疾患患者、③喫煙中毒者、喘息の患者への接種により重病化や死亡を回避すべく緊急措置策として「23価肺炎球菌多糖類ワクチン(23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine:PPSV23) (筆者注1)および「7価結合型ワクチン(7-valent pneumococcal conjugate vaccine :PCV7)」接種にかかる暫定ガイダンス 」を公表した。
わが国の国立感染症研究所等がいずれ本ガイダンスの訳文を公表するであろう。世界への影響力の高いCDCのガイダンスだけに関心が寄せられている段階で、出来るだけ早い情報提供を目的として専門外の筆者があえて仮訳した意図を理解いただきたい。当然であるが、わが国の疫学関係者などの正確なコメント等を期待したい。
なお、推奨本文を読まれて気がつくと思うが、米国の「国民免疫強化プログラム」の内容や国民に対する啓蒙情報の充実の内容はわが国の医療関係者だけでなく、広く国民も知るべきではないか。
1.策定の目的
各グループにわたる潜在的感染予備者に対し、新型インフルエンザA(H1N1)の流行の期間において、肺炎感染による重症化や死亡の予防のため予防接種に係る暫定ガイダンスを提供する。
2.策定の背景
インフルエンザは細菌性地域感染型肺炎(bacterial community-acquired pneumonia)にかかりやすくさせる。20世紀のインフルエンザの世界的流行時、続発性細菌性肺炎(secondary bacterial pneumonia)は疾病や死亡の重要な原因であるとともに、連鎖球菌性肺炎(Streptococcus pneumoniae:pneumoccus)(筆者注2)はもっとも一般的な病因として報告されてきた。
流行性インフルエンザとともに激しい球菌性肺炎が報告されており、また連鎖球菌性肺炎は米国において疾患や死亡の予防を妨げる原因として認められている。
現在、新型インフルエンザA(H1N1)の感染は急速に拡大しており、CDCはインフルエンザのリスクに関する重要情報、病気の重症性およびインフルエンザの患者間における細菌性肺炎の攻撃率の情報の蓄積を継続的に行っている。しかしながら、現在のところ入院を要するものなど新型インフルエンザの重症事例における肺炎感染の役割については、なお明確となっていない。
3.肺炎球菌ワクチン(Pneumococcal vaccines)
インフルエンザの流行の間、肺炎球菌ワクチンは続発性肺炎感染を予防し、疾患や死亡の減少に役立つ可能性がある。現在、2つのワクチン(「23価肺炎球菌多糖類ワクチン」および「7価結合型ワクチン :PCV7)」)が予防のために使用が可能である。
4.新型インフルエンザA(H1N1)の大流行の間における“PPSV23” の使用の推奨
CDCの「予防接種の実施に関する諮問委員会 (CDC’s Advisory Committeeon on Immunization Practices :ACIP 」は65歳以上全員、2歳から64歳の以下に述べる特別な疾患を持つ人々への“PPSV23”の1回接種(single dose)を推奨(recommendation)する。このグループの人々は、インフルエンザによる重篤な合併症と同様肺炎球菌による疾病の増加するリスクにさらされている。65歳以上の人は65歳より前に最初の同ワクチン接種後5年後における1回の再接種(revaccination)が必要であり、また高いリスクのある人々(脾臓のない人、HIVやAIDS感染者等)にも同様に接種を推奨する。
すでに医師から“PPSV23”の接種の指示を受けている人は、現行のACIP推奨に従い新型インフルエンザの流行期間中、予防接種を引き続きうけるべきである。
さらに強調すべき点は、65歳未満の人でもすでに高いリスク状態にある人については、彼ら低い水準にある感染状態から見てワクチンの接種済率に従いワクチン接種をうけられるようは配慮すべきである。“PPSV23”の接種済率についてはCDCサイト参照。
なお、医師からの指示がない人については、現時点で接種の推奨は行わない。
本ガイダンスは、疫学や臨床学の観点から続発性細菌性肺炎感染の頻度や重症性がより正確に分析できた時点で改訂する。
5.「7価結合型ワクチン(7-valent pneumococcal conjugate vaccine :PCV7)」
“PCV7”について、5歳未満のすべての子供への接種を推奨する。すなわち2008年7月現在の全米ベースでの調査によると19か月から35か月の幼児への投与対象範囲は90%である。“PCV7”の投与予定の推定値はCDCサイト参照。
なお、米国の肺炎球菌ワクチンの使用忌避、注意や悪影響を含むその使用に関する推奨内容については次の各資料を参照されたい。
①成人免疫強化プログラム
②肺炎球菌多糖類ワクチンに関する一般向け解説パンフレット(2頁もの)
③肺炎球菌による疾病予防パンフレット
④ACIPの肺炎球菌ワクチンの使用に関する暫定推奨
[現行ACIPの肺炎球菌多糖類ワクチンの使用に関するグループ別推奨対象者]
(1)対象者全員への接種:65歳以上の成人全員
(2)2歳から64歳で次の疾患を持つ人で医師からの指示のある人
①慢性心臓血管疾患(chronic cardiovascular disease)( 鬱血(性)心不全(congestive heart failure)および心筋症(cardiomyopathies))
②慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease)および肺気腫(emphysema)を含む慢性呼吸器系疾患(chronic pulmonary disease)
③糖尿病(diabetes mellitus )
④アルコール中毒(alcoholism)
⑤肝硬変(cirrhosis)を含む慢性肝疾患(chronic liver disease)
⑥脳脊髄液減少(cerebrospinal fluid leaks)
⑦鎌状赤血球貧血症(sickle cell disease)および脾臓摘出(splenectomy)を含む機能・解剖学的無脾症(functional or anatomic asplenia)
⑧HIV感染(HIV infection)、白血病(leukemia)、リンパ腫疾患(ymphoma)、ホジキン病(Hodgkin’s disease)、多発性骨髄腫(multiple myeloma)、一般化腫瘍(generalized malignancy)、慢性腎不全(chronic renal failure)、ネフローゼ症候群(nephrotic syndrome)を含む免疫障害者(immunocompromising conditions)。
これらの人には免疫抑制性の科学療法(immunosuppressive chemotherapy)副腎皮質ホルモン(corticosteroids)を含む)を受けている人や臓器や骨髄の移植を受けた人を含む。
(3)19歳から64歳の成人で次の該当者
①喫煙中毒(smoke cigarettes)
②喘息疾患(asthma)
(筆者注1)「日本で認可されている肺炎球菌ワクチンは23価の多糖体ワクチンで、23種類の血清型の多糖体が含まれています。1血清型あたり25マイクログラムの多糖体が含まれており、非常に多くの抗原量が含まれたワクチンです。このワクチンは局所反応が強く、日本ではハイリスクグループ(脾摘患者、脾機能不全者、鎌状赤血球症、心・呼吸器系の慢性疾患患者、免疫抑制を受けている者)を対象にしています・・・米国では、成人に対して現在も23価多糖体ワクチンが使用されております。つまり、米国では7価の結合型ワクチンに移行したのではなく、7価の結合型ワクチンを小児に対して新たに導入したというのが正しい理解です。」国立感染症研究所感染症情報センターサイトの解説から抜粋、引用
(筆者注2) 参考解説1:“Streptococcus pneumoniae”は世界中の小児と成人における疾病と死亡の主要な原因の一つである。2002 年のWHO の試算によると、一年間に約160 万の致命的な肺炎球菌疾患が発生しており、そのほとんどが幼児と高齢者に発生している。さらに、あらゆる年齢層の免疫不全患者はリスクが高い。
参考解説2:インフルエンザがいったんは治癒したかに見えているが、2~3日の間隔をおいて突然に発熱、咳、痰などを訴える.
• 発熱とともに、呼吸器症状、胸部の不連続音を認め、高度の白血球増多、好中球増多がある
• 治療の第一は、二次感染菌に対する抗菌療法。そのため菌を決定するために、塗抹検査などが行われる。
• 二次感染として重要なものとしては、ブドウ球菌、インフルエンザ菌、肺炎球菌、レンサ球菌など (明治薬科大学 池之谷英希氏の解説から引用)
〔参照URL〕
http://www.cdc.gov/h1n1flu/guidance/ppsv_h1n1.htm
http://idsc.nih.go.jp/vaccine/cQA014.html
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2009年6月9日火曜日
海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向と新たな研究・開発への取組み(N0.3)
6月6日の本ブログでWHOの「フェーズ6」への引上げの決定は見送られた旨報告したが、世界の新型インフルエンザA(H1N1)の感染国や感染者数は確実に増加している。
わが国での感染者数は、新聞等で報道されている学校での感染事例や海外渡航者に感染事例が再度見られるなど予防策の強化はなお必須といえる。
今回のブログでは、①わが国の関係機関による感染者数の差の原因、②WHOの最新統計情報、③感染拡大情報の傾向を正確に読み取るためのグラフ化等の例を見ながら最新分析動向を検証してみる。
なお、筆者がWHOの世界統計から見て従来から疑問視していたことでWHOアフリカ事務所の公表データではアフリカ46か国の感染者数がゼロという点である。WHOの世界感染地図で確認したが6月9日時点でもエジプト1国のみである。
1.わが国の最新情報と公表値の疑問・改善希望
2009年6月8日現在の厚生労働省の発表では、日本の新型インフルエンザ感染者数は、432人(6月5日比+30人)である。各都道府県別発生状況は厚生労働省サイト「新型インフルエンザに関する報道発表資料」で確認できる。
わが国の感染者数統計の疑問や改善事項について言及しておく。
(1)国立感染症研究所感染症情報センターの集計(6月8日)を見ると患者数(確定例:累計)238人(感染症法上の届出(国内発生例))および検疫対象者での発生例8人となっている。同センターの区分では「疑似症患者」は別集計(103人)されている。これらを合計(238+8+103=349)しても厚生労働省の上記公表数(WHOの公表値のベース)432人にはるかに及ばない。この不一致の原因は何なのか。基準が曖昧なのか統計方法がいいかげんなのか。同一画面で閲覧できるため疑問が残るし、基準の明確化が課題であろう。(筆者注)
(2)厚生労働省は定期的新型インフルエンザ患者数(国内発生分・居住地別・男女別・年齢階層別を公表している。また、6月5日公表分からは発生日別感染動向グラフもあわせ公表している。後者のグラフ化についてはカナダの例で6月3日の本ブログで紹介したところであるが、前者についてもグラフ化が必要になっているのではないか。
なお、厚生労働省は6月8日付けで「新型インフルエンザ対策本部基本的対処方針(平成21年5月22日)等における「患者や濃厚接触者が活動した地域等」について【更新 第2報】」公表している。当該地域とは、(1)感染拡大防止地域(主に感染拡大防止に取り組んでいる地域):福岡県福岡市(板付中学校区に限る。)、(2) 重症化防止重点地域(主に重症化の防止に重点を置いて取り組んでいる地域):大阪府(大阪府、大阪市、高槻市、東大阪市の各保健所所管地域)といった内容である。
2.WHOの最新発表情報
WHOの公表感染者数(2009年6月8日世界標準時6時現在)(update45)のデータに基づき累計確認感染者数が100人以上の国(11か国)のみ紹介する。(多い順に並べ替えた)
全体の数字は69か国(6月5日比+4か国)、累計感染者数は25,228人(6月5日比+3,288人)(うち死者は139人(6月5日比+14人))
「国名」、「累計感染者数(死者数)」、「6月5日比増加数(死者数)」の順に記載した。(北米、オーストラリアの拡大が止まらない。オーストラリアの専門サイトでは6月9日、15時現在で1,211人である。クイーンズランド州の保育園があらたに1週間閉鎖を決定している)
①米国:13,217人(内死者27人(+10人))(+2,163人)、②メキシコ:5,717人(内死者106人(+3人))(+154人)、③カナダ:2,115人(+320人)、④オーストラリア:1,051人(+175人)、⑤英国:557人(+129人)、⑥チリ:411人(+42人)、⑦日本:410人(+0人)、⑧スペイン:291人(+73人)、⑨アルゼンチン:202人(+55人)、⑩ パナマ:179(+6人)、⑪中華人民共和国:108人(+19人)
(筆者注)感染症情報センターの公表サイトを過去さかのぼって調べてみた。5月19日の公表から2種類の統計値を併記する方式に変えている。改めて見ていかにもおかしいし、データの信頼性に疑問がわく。
〔参照URL〕
http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/houdou.html
http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/case-j-2009/090608case.html
http://www.who.int/csr/don/2009_06_08/en/index.html
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2009年6月7日日曜日
英国血友病患者800人の変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)感染問題
世界中のメディアや国際機関が「新型インフルエンザA(H1N1)」で大騒ぎしている一方で、英国では本年2月以降 変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)(筆者注1)やHIV、C型肝炎(hepatitis C)のリスクを抱えた血漿製品(blood plasma)の注入放置の事実が大きな政治・社会問題となっている。
わが国の厚生労働省サイトの“vCJD”の説明によると「プリオン病の中でも感染性プリオン病のひとつで、牛の海綿状脳症(BSE)との関係が指摘されているものです。1996年に英国において初めて“vCJD”の患者が報告されて以降、BSE感染牛が多く発生したヨーロッパ諸国を中心に169例(平成17年2月8日現在)が報告されています。その内イギリスが154例、フランスが9例となっており、ヨーロッパ以外のアメリカ、カナダで発生した症例については、英国の滞在歴があることがわかっています」とある。(筆者注2)
英国の各メディアが5月20日に報道した内容は、汚染された血液製剤を受けた血友病(Haemophilia) (筆者注3)患者に関する保健省政務次官(Lord Darzi) の議会での答弁が極めて消極的な内容であったり、犠牲者への不十分な対応を繰り返していたことを理由として国民健康保健サービス(NHS)委託専門家グループや血友病患者グループ等から強い反発を受けていたものである。
わが国の狂牛病問題(BSEは、TSE(伝達性海綿状脳症:Transmissible Spongiform Encephalopathy)という、未だ十分に解明されていない「異常プリオンタンパク」という伝達因子(病気を伝えるもの)と関係する病気のひとつで、牛の脳の組織にスポンジ状の変化を起こし、起立不能等の症状を示す遅発性かつ悪性の中枢神経系の疾病)については、厚生労働省や農林水産省の取組み(筆者注4)や関係国との協力に基づく努力が続けられているが、世界的に見れば狂牛病問題のリスクは依然十分に解決されていない重要な課題であることを忘れてはならない。
1.英国における最近のvCJDによる血友病患者の死者事例と凝固因子対策
(1)英国の国立クロイツフェルト・ヤコブ病監視機構(National CDJ Surveillance Unit)の調査結果では、英国のvCJD患者数は2009年6月1日現在で164人である。
(2)本年2月17日に英国保健省健康保護局(Health Protection Agency:HPA)が、“vCJD”に感染した供血者からの凝結剤で治療を受けた1人の血友病患者(英国内の血友病患者数は約4千人)が、BSEの人間版とされるこの病気に感染した証拠が発見されたと発表した。・・・70歳を超えたこの患者は、“vCJD”と無関係の病気で死亡、死に先立ち、“vCJD”またはその他の神経病のいかなる症候も示さなかった。脾臓(ひぞう)の死体解剖(post mortem)検査で、“vCJD”を引き起こした異常プリオンタンパク質(abnormal prion protein)が判明、“vCJD”感染の証拠が見つかった。・・・HPA感染センター長のマイク・キャッチポゥル教授(Professor Mike Catchpole)は、「この新たな発見は、今まで理論的リスクであったものが、リスクはなお非常に低いものの、血漿製品を受け取った一定の個人には現実的リスクになった可能性を示す。この発見が、調査とその解釈の完了を待っている血友病患者には重大問題だと認める。また、さらに優先すべきことは新たな調査結果と最新情報にアクセスできるようにし、可能な限り血友病センターの医師から専門的助言を得られるよう保証することである」と言っている。・・同じく2月17日、英国保健省(Department of Health:DH)はこれとは別に血液の安全性と供給のための供血者のスクリーニング検査と、それに続く“vCJD”のさらなる伝達の予防措置のあり得る結果(影響)の考察に関する新たな報告書を発表した。(筆者注5)
(3) BSE問題と輸血のリスクに関する英国の対応
英国ではBSEの恐怖とその輸血を介しての伝播のリスクを理由として、1999年に輸血の供給と試験に関する規則をより厳しいものとした。すなわち、血友病患者は1996年に輸血した6か月後“vCJD”の症候を見せたドナーの血漿を採取するときは第Ⅷ因子の1群(one batch)として治療されることとなった。また、2004年には血友病を含む出血疾患の全患者はすべて1980年から2001年の間に英国内で製造された血漿製品の取扱い上「リスクあり(at risk)」として分類されることになった(今回の死んだ患者もこの期間中に血漿治療を受けた1人である)。1999年以降、凝固因子(clotting factors)の製造に英国の血漿を使用せず、患者に合わせた合成凝固因子(synthetic clotting factors)を投与している。
2.血友病患者等への引き続く輸血感染死リスクと英国政府の支援対応の問題
5月20日英国インディペンデント紙が報じた保健省Darzi政務次官の英国議会(上院)での答弁内容が問題となっている。当該公式議事録(Hanzard)(筆者注6)に基づく正確な情報把握や、英国の国民健康保健サービスが委任している医療専門家グループの意見書等について正確に調べるのに時間がかかったことが、このブログの作成が遅れた最大の理由である。
(1) 国民健康保健サービス(National Health Service:NHS:英国全域の保健医療サービスを提供する政府組織)が2008年9月に公表した英国医療専門家グループの2008-2009年次報告の内容は現状把握には欠かせないが、今回はその要旨のみ紹介する。
「2008年1月10日にNHSの特殊医療問題の諮問機関である「全英特別委託専門家グループ(National Specialised Commissionig Group:NSCG)」(筆者注7)と「患者および大衆関与運営委員会(Patient and Public Involvement Steering Group:PPISG)は2007年12月10日に開催した会合においてHIVと血友病の優先的ケアについて政府の次の段階の誘致戦略政策について決定、申し入れたい。」
(2)議会Hanzardから見た政務次官の答弁の不十分さ
Darzi 政務次官の議会での答弁の内容を公的記録で再検証してみる。
①2008年11月11日(column WA120):
[質問者]O’Cathain 女性男爵(本名:Ms Detta O’Cathain(1938年生))(筆者注8):2008年10月9日のThornton女性男爵が質問した問題(Official Report,House of Loads,cols.331-32)に関し、さらに血友病患者団体の権利剥奪の範囲・その程度および英国血友病協会(Haemophilia Society)への主要助成金の7割削減について、この財政問題の解決のため政府はどのような行動をとるつもりか。
[Darzi 政務次官]:保健省の担当官は12月の早い時期に同協会との会合を開催し、そこではどのように効果的に第三セクターを利用できるか見出せることを希望している。保健省はこの問題に関し、全面的に支援や助言を行いたい。
②2009年5月14日(column WA230):
[質問者]Morris男爵(本名:Mr.Alfred Morris(1928年生))(筆者注9) :
保健省の医療局長(Chief Medical Officer:CMO)(筆者注10)は血友病患者の輸血リスクに関し、異種クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)のドナーから輸血を受けたことで死んだとするのは仮説(hypothtical)であり、最近の事例の検死結果では脾臓から“vCJD”が見つかったと書き換えている。何人の血友病患者がドナーからの輸血が原因で“vCJD”で死亡しているのか。
[Darzi 政務次官]:保健省および健康保護局(HPA)は2004年に1980年から2001年の間に英国で製造された血液製剤により出血性疾患の全患者について、vCJDのリスクに関し、潜在的にそれらの製剤の関与の可能性を認めている。HPAの「クロイフェルム・ヤコブ病事故調査委員会(CJD Incidents Panel)」は、最近時の無関係の原因で死亡した血友病患者における無症候性の死亡の研究結果を証拠および本年5月20日に会った他の血友病患者への適用につき検討している。HPAの助言はCMO、保健省および英国輸血サービス機関の提供されることになろう。
今日まで英国血友病センター医師データベースに登録されている、英国で後日vCJDを発病したドナーから英国製造の血漿から凝固因子を供給された血友病患者数は802人である。
加えていえば、後日vCJDを発病した血液ドナーから血液成分輸血(blood components transfusion)(赤血球、血小板、冷凍血漿を含む)を受けた22人の生存者がいる。
*************************************************************
(筆者注1)「変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)」とは、神経難病のひとつで、抑うつ、不安などの精神症状で始まり、進行性痴呆、運動失調等を呈し、発症から1年~2年で全身衰弱・呼吸不全・肺炎などで死亡する。 原因は、感染性を有する異常プリオンタンパクと考えられ、他の病型を含めて「プリオン病」と総称される。“CJD”の詳細については健康保護局サイトの解説参照。
(筆者注2)この説明はあまり正確でない。ちなみに国立医薬品食品衛生研究所安全情報部「食品安全情報((No.8/2009)」(2009.4.8)が引用している、英国政府の「海綿状脳症諮問委員会(Spongiform Encephalopathy Advisory Committee,UK:SEAC)の第102回議事要旨とかなり異なる。すなわち、同会合報告では「現在までに報告された英国のvCJD の確定または疑い患者数はのべ168 人で、うち165人が食品によりBSE に暴露し、3 人は後にvCJD を発症したドナーからの輸血によって感染した。食品からBSE に暴露した患者の死亡時の平均年齢は28 歳であった。1989 年以降生まれのvCJD 患者はいない。英国以外のvCJD 患者数はのべ44 人で、フランス23 人、スペイン5 人、アイルランド4 人、米国とオランダ各3 人、ポルトガル2 人、カナダ、サウジアラビア、イタリアおよび日本が各1 人である。アイルランドと米国の各2 人、フランス、日本1人(神奈川県相模原市保健予防課が平成17年2月4日に公式の認めている)、カナダの各1 人は英国滞在時に感染したと推定された。」とある。医療情報は最新かつ正確でなければならないと考えるが、いずれが医療情報として有用か。
(筆者注3)「 血友病」は先天性血液凝固障害の一部である。その他にも様々な先天性血液凝固障害がある。そのうち、先天性血液凝固第Ⅷ因子障害(血友病A)と先天性血液凝固第Ⅸ因子障害(血友病B)を総称して、「血友病」と呼ぶ。血友病は、血液を固める凝固因子の一部の因子活性が低いか無いため、止血するのに時間がかかる障害である。(立命館大学北村健太郎氏の説明より引用)
(筆者注4) 農林水産省は海外の発生状況や輸入牛肉の検査体制に関する報告は2004年10月までであり、BSE確認状況について」によると最も近時では平成21年1月30日の報告事例がある。
(筆者注5)農業情報研究所(WAPIC)2009年2月17号から一部引用、またHPAのリリースやインディペンデント紙記事から一部補筆した。なお、2月17日の英国タイムズ紙は輸血によるvCJD感染はこれまで3例(いずれもすでに死亡)報告されているが、凝血のため血漿を通じた感染例はないとしている。
(筆者注6)英国議会の本会議録(Hanzard)の調べ方について、わが国で参照できる説明は国立国会図書館の「リサーチ・ナビ」だけであろう。英国の議会の審議内容を知ろうとすると膨大な“Hanzard”を個々に調べなくてはならない。今回のDarzi政務次官の上院での答弁内容は以外と簡単に調べることが出来た。英国議会の審議記録データベースの効率化は思っていたより進んでいる。実際、審議した時刻から3時間後には“本日の上院(Today in the Loads)”クリックすることでその内容が調べられる。具体的な英国議会法案情報以外の情報の調べ方は、機会をあらためて説明する。
(筆者注7)特別医療サービスの定義は法律の授権の下、行政レベルで制定される規則(Statutory Instrument(SI)= secondary legislation:SIは日本でいえば政省令。議会において、審議の上可決されるのが「法律(Act of Parliament= primary legislation)」)の「No.2375」において定義され、さらに詳細な定義が「全英特別医療サービスサービス定義セット(Specialised Services national Definitions Set(SSNDS))」に定められている。2002年12月にSSNDSの35の定義を持つ第2版が発布され、見直し作業の上、現在第3版の準備が進められている。
例示すると、癌(cancer)、血液・骨髄移植(blood and marrow transplantation)、血友病および関連する出血異常(haemophilia and other related bleeding disorders)、脊髄(spinal)、脳障害および複合障害(brain injury and complex disability)に関するリハビリ、神経科学(neuroscience)、熱傷(burn care)、嚢胞性繊維症(cystic fibrosis)、腎臓障害(renal)、在宅非経口的栄養法(home parenteral nutrition)、胸部移植を含む心臓胸郭部手術(cardiology and cardiac surgery including cardiothoracic transplantation)、HIV/AIDS、口唇口蓋裂(cleft lip and palate)等である。
(筆者注8) 英国議会上院(貴族院)の議席数:定数なし(2009年1月12日現在732議席)、任期:終身である。上院は「一代貴族」、一部の「世襲貴族」、「司教」等から構成され、公選制は導入されていない。英国議会の“Hanzard”サイトを検索すると、各議員の本名、生年月日、就任時期、過去の議会での発言記録はすべて閲覧可能である(該当年月、テーマをクリックすると画面一番上に表示される)。
(筆者注9)モリス議員はマンチェスター選出で、“Hanzard”2005年会期で見ると、医療、年金、障害者問題等多くの関連法案に関与している。
(筆者注10)医療局長(現局長はSir Liam Donaldson)保健省の医療政策に関する幹部であることは間違いない。
〔参照URL〕
http://www.guardian.co.uk/society/2009/feb/17/cjd-bse-blood-donor-plasma/print
http://www.independent.co.uk/life-style/health-and-wellbeing/health-news/800-haemophiliacs-given-tainted-blood-at-risk-of-vcjd-1687768.html
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2009年6月6日土曜日
海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向と新たな研究・開発への取組み(N0.2)
米国疾病対策センター(CDC)は、新型インフルエンザA(H1N1)に関する各州からの新規感染確認件数報告を従来の毎日から週1回に変更したことに伴い、6月6日以降の公表については毎日から毎週金曜日東部時間午前11時に変更した。
なお、欧州疾病対策センター(European Center for Disease Prevention and Control:ECDC)は6月5日時点では、24時間前比の集計発表方法は変更していない。
1.わが国の最新情報
2009年6月5日現在の厚生労働省の発表では、日本の新型インフルエンザ感染者数は、410人(6月3日比+25人)である。各都道府県別発生状況は厚生労働省サイト「新型インフルエンザに関する報道発表資料」で確認できる。
2.WHOの最新発表情報
WHOの公表感染者数(2009年6月5日世界標準時6時現在)(update44)のデータに基づき累計確認感染者数が100人以上の国のみ紹介する。(多い順に並べ替えた)
全体の数字は69か国(6月3日比+3か国)、累計感染者数は21,940人(6月3日比+2,667人)(うち死者は125人(6月3日比+8人))
「国名」、「累計感染者数」、「6月3日比増加数」の順に記載した。(オーストラリアの拡大が止まらない。同国の専門サイトでは6月5日、17時現在で1,006人である。)
①米国:11,054人(内死者17人)(+1,001人)、②メキシコ:5,563人(内死者103人)(+536)、③カナダ:1,795人(+263人)、④オーストラリア:876人(+375人)、⑤英国:428人(+89人)、⑥日本:410人(+25人)、⑦チリ:369人(+56人)、⑧スペイン:218人(+38人)、⑨パナマ:173(+18人)、⑩アルゼンチン:147人(+16人)
〔参照URL〕
http://www.who.int/csr/don/2009_06_05/en/index.html
http://www.ecdc.europa.eu/en/files/pdf/Health_topics/Situation_Report_090605_1700hrs.pdf
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世界保健機関(WHO)第3回「国際保健規則」緊急委員会の開催結果等の動向
6月5日に世界保機関(WHO)は、世界的にみた新型インフルエンザの感染状況を踏まえ、WHOとして今後パンデミックフェーズ(フェーズ6)変更という重大性調査の導入提言について助言を求めることを目的として、第3回「国際保健規則(International Health Regulations:IHR)」(筆者注1)緊急委員会(筆者注2)を開催した。今回のブログでは、その要旨を紹介するとともにWHOが新型インフルエンザのフェーズ変更に当り感染者の重症度評価を重視する点が明らかなったことから、今後の各国の検査・報告体制等に影響するであろう点を付言しておく。
また、同日、欧州疾病予防管理センター(ECDC)は6月3日、4日にスェーデンのストックホルムで「インフルエンザ疫学とウィルス学面の監視に関する専門家会議」を開催しており、併せて紹介する。
1.WHOの第3回「国際保健規則」緊急委員会のリリース内容
今後の同規則改正(フェーズ変更)の発表において、状況の判断に感染者の重症度に関する情報を含むことの重要性について幅広い合意が得られた。同委員会は多くの判断要素に関し多くの助言が出され、そのモニタリングが疫病の重症性の評価に関する情報提供することになるであろう。
同委員会の議論においてWHOマーガレット・チャン事務局長は、今世界は「フェーズ5」にあると断言するとともに、WHOは引続き新型インフルエンザA(H1N1)に関するすべての国とともに緊密に状況を監視することを再確認した。
委員会の助言に基づき、事務局長は現行の暫定奨励(Temporary Recommendations)につき、とりわけ次の点に留意の上、継続することが適切である旨決定した。
①すべての国はインフルエンザに似た疾患(influenza–like illness)および重症肺炎(severe pneumonia)の監視を強化する。
②各国は国境を閉鎖せずまた海外旅行を制限しない。このことは海外旅行の遅延で困っている人々や海外旅行後に医療面の配慮が必要な人々への良識ある行動であると考えるからである。
③季節性インフルエンザのワクチン製造は現時点では感染の展開をにらみつつ再評価のうえ継続すべきである。
2.欧州疾病予防管理センター(ECDC)の「インフルエンザ疫学とウィルス学面の監視に関する専門家会議」の要旨
ECDCは、季節性インフルエンザ(seasonal influenza )および新型インフルエンザA(H1N1)の疫学的(epidemiological)およびウィルス学的(virological)監視のあり方について討議するためEUおよびEEA(欧州経済地域)の全加盟国の疫学およびウィルス学のインフルエンザ専門家による会合を行った。
ECDCによる調整の下で行われた初めてのインフルエンザ監視の実践経験を踏まえた討議および、欧州感染症監視システム機関(TESSy)(筆者注3)によるITインフラを活用した感染報告へ差し迫った移行問題について有意義な公開討議が行われた。
「米国CDCアトランタ」および「WHO欧州」の専門家から主にインフルエンザA(H1N1)の感染状況の報告が行われた一方で、「ヒトインフルエンザ共同委託研究所地域ネットワーク(the Community Network of Reference Laboratories for Human influenza :CNRL) (筆者注4)では季節性インフルエンザとの比較において新型インフルエンザにおけるウィルス試験に関する研究室の準備、課題および解決すべき解決策等について討議が行われた。また、通常の監視に加え使用できるいくつかの革新的な検査情報源も提示され、議論された。
(筆者注1)「国際保健規則(IHR)」は、感染症等の国際的な健康危機に対応するためのWHOの規則。「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態と認定されると、事務局長はWHO加盟国に対し、国際保健規則の規定に基づく保健上の措置や国際交通等についての必要な勧告を行うことができる。
(筆者注2)参考までに言うとWHOのフェーズ改正(国際保健規則の改正)は2009年4月27日に「3」から「4」、4月29日に「4」から「5」に引上げている。
(筆者注3) ECDC は、2007年に感染症に関する欧州レベルでのインジケータベースのサーベイランスのための情報システムである“The European Surveillance System (TESSy)” を創設した。“TESSy”はサーベイランスデータの収集、評価、保管および提供の向上に役立ち、加盟国は感染症患者の通常のサーベイランスのための共通のデータセットの収集に、すでにこれを使用している。“TESSy” により次のことが可能となる。
・感染症サーベイランスに関するデータ収集の標準化
・加盟国のデータ報告および提供の一本化
・サーベイランスデータにもとづく基本的報告内容の標準化
・EU の現状について、一貫性のある容易に把握できる概要の提供
(国立医薬品食品衛生研究所「食品安全情報 No. 17 / 2008 (2008. 08.13)」より引用)
(筆者注4)“CNRL”の機能の概要につき説明しておく。
「欧州インフルエンザ監視計画(European Influenza Surveillance Scheme:EISS)」 は、インフルエンザの能動的臨床およびウイルス学的検査によってヨーロッパ域でのインフルエンザが原因となった患者や死者の発生を減少させるのに寄与することを目的とした、プライマリーケア臨床医、疫学者およびウイルス研究者の協力ネットワークであり、7か国で始めた1996年以来活動を続けている。EISSは現在「欧州疾病予防センター(ECDC)」、欧州委員会および各国政府や産業界によって資金提供され、EU加盟28国ほか3か国が参加している。WHOにより承認されている合計で38の研究所(24か国)である各国インフルエンザセンター(NIC)および現在NICのない3か国(ノルウェー、ルーマニア、スイス)のインフルエンザ委託検査機関3か所がある。これらの検査機関はEISS内では2003年以来ヨーロッパでのヒトインフルエンザ委託検査機関の域内ネットワーク(CNRL)として機能している。各国のインフルエンザ委託検査機関(the National Influenza Reference Laboratories :NIRL)は定点観察臨床医や非定点情報源(例、病院や非NIRL検査機関)によって収集された呼吸器献体からのウイルス検出や同定データをEISSに報告し、ウイルス学的監視改善活動を行っている。後者には抗ウイルス薬耐性監視が含まれる。
(厚生労働省検疫所「公式情報トピックス(2007年)」より抜粋、一部EISS資料に基づき修正加筆。)
ちなみにWHOが認めている日本の“NIC” は、「国立感染症研究所・村山分室」である。
〔参照URL〕
http://www.who.int/csr/disease/swineflu/3rd_meeting_ihr/en/index.html
http://ecdc.europa.eu/en/health_content/Articles/article_20090605.aspx
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2009年6月5日金曜日
米国の新型インフルエンザA(H1N1)の第二波への準備状況とワクチン開発の最新動向
5月30日の本ブログで予告したが、5月27日の朝日新聞夕刊で紹介された米国連邦保健福祉省(Health and Human Services:HHS)の疾病対策センター(CDC)科学・公衆衛生プログラム担当臨時副センター長(Interim Deputy Director for Science and Public Health Program)のアン・シュカット医学博士(Dr.Anne Schuchat)が5月26日に行った記者会見は電話記者会見(Press Telebriefing)であった。(筆者注1)(筆者注2)
新聞記事に書かれている会見での博士の冒頭のコメントや各メディアとの質疑応答を原資料(transcript)に基づいて敷衍してみる。メキシコから世界46か国への急速な感染拡大が始まって約1か月がたち、米国は新型ウイルスの疫学面や坑ウイルス薬の検証・研究が進み2009年秋以降への準備のために、この8週間から10週間が第一トラックを走ることになる、また、これから南半球が本格的なインフルエンザ流行の季節になり、変異しつつある新型ウイルスへのヒトの抵抗力が試される時期に入る。2009年秋に向け季節性インフルエンザのピーク対策に加え、今までの感染の監視結果や研究室での試験結果等に基づく、新ワクチンの準備が政府・関係機関の当面の最大の焦点ということになる。(筆者注3)
これらの取組むべき課題について、米国の動向を紹介するのが今回のブログの狙いである。
なお、米国では新ワクチンの研究・開発に関してはHHSが5月23日付けで、「新型インフルエンザA(H1N1)のワクチン開発」に関し“The Biomedical Advanced Research and Development Authority;生物医学先端研究開発局;BARDA” が取組んでおり、新ワクチンに関する大量生産準備の重要な段階に入る旨ならびに同計画に関する“Q&A”を公表している。
その内容および欧州疾病対策センター(ECDC)の新ワクチン研究・開発の動向きについても紹介する予定であるが、時間がないので機会を改める。
これに関し、わが国では国立感染症研究所等のサイトでは医療機関向けタミフルなどの抗インフルエンザ薬の予防投与の考え方等は説明されているがワクチンの開発動向に関する情報は見当たらない(6月2日付けで国立感染症研究所感染情報センターがWHOの「新型インフルエンザA(H1N1)に対するワクチン“Q&A”(5月27日改定)を公表している)。しかし、同研究所の最近時のコメントは季節性インフルエンザと重症度が季節性のものと変わらない点を鵜呑みしたり、世界的に見てH5N1の感染リスクがなくなったわけでない点をあらためて強調している(わが国の疫学専門サイトは、基本的に分かりやすさを追求するあまり、科学的な説明が不足がちである。) (筆者注5) (筆者注6)
さらにいえば、「ワクチン接種に関するガイドライン」について平成21年2月17日開催の新型インフルエンザ及び鳥インフルエンザに関する関係省庁対策会議において策定された「新型インフルエンザ対策ガイドライン」の中に「ワクチン接種に関するガイドライン」があるが、中身は空(「おって策定することとする」のみ)である。
1.米国の新型インフルエンザA(H1N1)ワクチン候補株(candidate vaccine)の開発・製造に関するHHSのリリース
5月22日に行ったHHSのリリ-ス内容は次のとおりである。
・HHSのSebelius長官は、5月22日にHHSが新型インフルエンザA(H1N1)の将来的工業生産規模の準備のため重要な段階に入り、このため予備流行段階のインフルエンザ備蓄のため本年夏に行う臨床研究と2つの潜在的ワクチン成分の工業規模生産に使用するため既存の基金約10億ドル(約950億円)の投入を指示した。
・同基金はインフルエンザ・ワクチンのため米国に免許を持つ医薬品会社との契約に基づく新しい注文に使用され、それに基づきワクチン抗原(vaccine antigen:抗原は、アレルゲンとも呼ばれ抗体を産生する物質。抗体は体内に侵入した抗原に結合することにより、毒性を失わせたり、ウイルスの感染性を失わせたり、あるいは体外へ排泄する作用をする有効成分。)(筆者注7)とアジュバント(adjuvant:免疫補助剤(抗原とともに生体に投与されたとき、その抗原に対する免疫応答を非特異的に増強させる物質))を大量に提供する。
・この両者が確保できると、将来の推薦できる免疫プログラムに対しては柔軟性をもって提供できる。例えば、2005年「全米パンデミック・インフルエンザ戦略(the National Strategy for Pandemic Influenza)」(筆者注8)に基づき推奨を受けたときは、健康医療サービス担当者やそのた重要インフラに関与する人々の健康保護を支援するためにこれらの成分が必要になった場合等である。
・これらの基金に基づきワクチン製造メーカーは、ワクチンの適切な投与量、アジュバントが適切であるか否かおよびワクチンが安全で効果的であることの保証といった医療研究に使うことができる。米国政府はWHOや他国の関係機関とこれらの医療研究結果を共有すべく、また米国が研究を進めてきた投与量、安全性や効果についての情報を提供するつもりである(HHSのBARDAは2004年にインフルエンザの大流行に関しワクチン製造メーカーと開発・提供契約を結んでいる)。
2.CDCのアン・シュカット博士の記者会見の説明内容
(1)5月22日の記者会見時に同博士が述べた内容は、前記HHSのリリース説明より具体的であり、併せて説明しておく。(筆者注9)
「5月22日、CDCはニュ-ヨーク医科大学(New York Medical College)から新型H1N1ウイルスの遺伝子と他のウイルスの遺伝子を結合した候補ワクチン・ウイルスを入手した。このタイプのハイブリッド・ウイルス(筆者注10)はワクチン生産に不可欠な卵の中でより成長をみる。CDCは連邦食料医薬品局(FDA)とともに逆行性遺伝学(reverse generics:目的の遺伝子を選択的に破壊することで、その遺伝子の生体内における機能を解析する研究手法)を用いて第二の候補ウイルスを創り上げた。CDCは最適の免疫反応を得るため両者を試験中である。我々は適切なウイルスにした後、ワクチン工場にそれらを運び込みことになる。
5月末までにその試作品を数か月検査し、安全確認を行い、一方または両者が使用可能であることが判明したときは、製造メーカーは2009年夏に試作品が安全であるか否かを確認するパイロット・ウイルスの生産を開始することになろう。これに関連し、5月22日に公開された内容は新しい新型インフルエンザ・ウイルスを創る遺伝子の多くが10年間以上豚の間で検出されないまま循環していたことを示唆している。」
(2)記者との質疑応答の要旨
CDCとして新ウイルスの感受性分析、国際機関や他国との連携研究、各州の感染の現状分析、学校での集団感染リスクなど国内やグローバルな視点から、今後の米国としての取組みに関する重要な疑問に答えており、極力原文に忠実に全部紹介した。ただし、専門外なので誤訳などがあれば専門家の補足説明やコメントを期待する(質問の内容を読んで、わが国のメデイアもこのレベルに達して欲しいと思うが贅沢か?)。
○ワシントンポスト:先生は入院したインフルエンザの重症事例として患者の半分(彼らは基礎疾患がない若い青年)に対して研究が行われたと説明されたが、ある意味で大変ショックを受けてことは10代や20歳代の青年が、なぜ最後に人工呼吸器をつけなければならないのか。あなた方は、あらゆる調査を行っているがそのような重症に感染しやすいことにつき何か「遺伝的な特性(genetic characteristics)」が認められるのか。
〔博士〕我々は入院患者の臨床パターンを理解するとともにその原因となった真のリスクの要因を特定すべく、仮にあるとすればよりそれを特徴づけるためのプロジェクトを現在進めている。私は季節性インフルエンザでさえ他の健康な人々に重大な合併症を引き起こすことがあると考える。我々は、米国内の小児の死亡について積極的に報告を行い、実際毎年50人から100人がインフルエンザで死亡している。彼らの多くは基礎疾患はない。インフルエンザで死亡する大多数はシニア層であり、実際入院する人は基礎疾患者である。しかし全体としてみれば、健康な若い人や10代の人でもこの季節性インフルエンザで死ぬことがある。遺伝学上のリスク(genetics of risk)は面白い関心テーマである。その研究が現在進められているかは確かではないが、季節性インフルエンザ問題とともに興味深い研究課題である。
○ウォール・ストリート・ジャーナル:先生は、さきほどインフルエンザに似た感染者(influenza-like illness)数は予想したレベルに戻りつつあるといわれたが、そのことは季節性のインフルエンザのことを意味するのか、またはH1N1のレベルを意味するのか。我々が日々見る感染者数はそれとは反対のことを示しているが。今年の夏中も感染者数が増え続けると見ているのか。
〔博士〕我々がインフルエンザに似た感染についてウイルス検査を重ねてみたときに分かったことは“influenza-like illness”の大多数がウイルスとして分離出来るということである。まさに、今の問題が「新型H1N1ウイルス」なのである。数週間前はまだ一部季節性インフルエンザが流行していたが、現在「陽性」とされた場合はすべて新型H1N1ウイルスである。“influenza-like illness”の傾向についてより広く見るため国内の各地域別に見たとき、大部分の地域では減少し続けている。この時期としてはこの数週間は並外れた感染拡大が見られたが、国内9つの地域に分けて見ると1つのみの上昇傾向にあり、その他1から2の地域は予想したよりわずかに高い。今後の新型インフルエンザ・ウイルスの流行予想であるが、現時点ではおそらく1週間前より低くなっているといえる。
○USAトゥディ:今年の冬における南半球の新型インフルエンザの追跡調査について説明して欲しい。
〔博士〕最も重要な側面はおそらくウイルスを正しく理解することであろう。このことはインフルエンザ疾患の人の実験室内での呼吸状態の検査が必要であり、我々が開発および配分する特別な試験キッズが必要となる。南半球には定期的にインフルエンザ調査を行う実験室が一定箇所あり我々は定期的なウイルス検査の中で新型インフルエンザの検査を最優先させることを希望している。また、我々はこの疾患の疫学的特性(epidemiologic characteristics)に関心をもっている。
すなわち、①このウイルスは肺炎を併発し長期の入院を引き起こすか。②二次的細菌性肺炎を引き起こすのかまたはウイルス性の状況を優先させて見せているのか、③その環境は何か、④学校や集団での大流行を見ているが感染者を運び込む病院や地域での厳格な予防策はあるのか。
これらの問題につき我々は取組んでいる。CDCはWHOや世界中の保健担当大臣等とともに感染症の調査機能、実験室の機能や現地調査の機能強化に取組んでいる。また汎米保健機関(Pan-America Health Organization:PAHO)や南半球での積極的な開発計画に関し一定のパートナーとの連携作業を進めつつある。
○サイエンス・マガジン:第1に、米国のインフルエンザ拡大はピークに達したといわれたが本当か。第2に、2,000万人分のワクチン成分の購入を決定したとあるが、残りの米国民への購入決定はいつ行われるのか。
〔博士〕H1N1の感染がピークかどうかという問題は複雑な問題である。私は天気に例えて説明するのが好きである。米国の一部の地域では寒冷前線が発生するかもしれないが大部分はより暖かくまたは夏の季節に入る。この病気がニューヨーク市やその一部の地域でなお活発なことは知っており、地元民から見ればこの状況はまだピークとはいえないであろう。全米的な統計や大部分の地方の統計は毎年のこの時期のピークを過ぎたことを想像させる。我々はその次の段階を考えており、さらに暖かい季節が来ることが我々に中休みを与えてくれている。
ワクチン投与の問題に関する質問は重要な問題である。我々は、①ワクチン開発にかかる最初のステップ、②ワクチン製造にかかる次のステップ、さらに③一部または全国民に投与の決定というステップを分けて考えようとしている。これらのステップの決定に当り具体的な証拠に基づく十二分な熟考が必要であるが、免疫に関する決定は可能な限り遅れてはならないと考えている。この考えは、現在の深刻な状況とウイルスとともに生じている問題については南半球での経験のすべてを学ぼうということである。この対ウイルスのために開発している臨床パイロットの単位からすべてを学び、また試験したワクチンがさらに安全なものか、また潜在的リスクや潜在的有益性を理解し、おそらく今年の夏の遅い時期または初秋に決定するであろう国民への免疫提供プログラムに生かすつもりである。
(筆者注11)
○ヘルス・ディ(HealthDay):まさに今年の秋にウイルスが押し寄せてくると予想するのか。また、もしそうであるなら現状よりさらに悪くなると予想するか。
〔博士〕この点ははっきりさせたい。季節性のインフルエンザは今年の秋または冬に再び戻ってくる。毎年我々は多種のインフルエンザ種が流行し、その発病のタイミングは米国内の地域により晩秋と冬では大変異なる。毎年インフルエンザは季節性の問題として流行し続け、次の秋、次の冬と流行し続ける確かである。最近時に発生したインフルエンザよりさらに重度の病気を引き起こすか、流感ウイルスを支配するのか、または実際消えてしまうのかは予測できない。インフルエンザの大流行は時として波を打って押し寄せ、大変被害の大きかった「1918年インフルエンザ」では中程度の予告的な波が春に押し寄せ、大変ひどかった波は秋に来たことを記憶している。1918年の極めて悲惨な経験は心に残っている。しかし、我々は南半球においてこの冬に今回のウイルスが多くの疾病、一定規模の疾病を引き起こすか、または何も引き起こさないかにつき今言うことは出来ない。まさにその「可能性」のために準備しているのである。
○カナディアン・プレス:(筆者注12)今ほど説明された感受性試験(susceptibility testing)について伺いたい。すべてのウイルスがすべてOsteltamavir(製品名:タミフル)とZanamavir(製品名:リレンザ)に感受性がある、またはこれらの薬によりウイルスの感受性が減じると考えてきたがいかがか。
〔博士〕我々が試験したすべての新型H1N1ウイルスは、感受性がある。これと異なる結果を出した他の研究室は気にとめていない。この点につき私は本日問題解決のヒントがあるかどうか聞いたが答えは“No”であった。私の最新情報では我々は新型インフルエンザ・ウイルスに関しタミフルやリレンザの耐性(resistance)問題は調査していない。我々は季節性インフルエンザ・ウイルスの耐性はタミフルに対し実質的に感受性を持っているという観点から耐性の問題をとらえている。従って、ウイルスの動向を追跡しており、新型H1N1ウイルスが常に感受性(sensitive)があると信じてはいない。しかし、当分の間、我々の研究室から好ましい情報を提供し続けるつもりである。
○AP通信:先ほどの「ヘルス・ディ」の質問の通りであると思う。自分は南半球での監視体制についてその効果を疑問視している。先生は汎米保健機関(PAHO)と共同した研究を行うといわれたが、問題の季節はまさに南半球にある。我々に具体的な監視参加国に関する情報を示して欲しい。また、米国の新型インフルエンザ感染予防のためのワクチンについて説明されたが、南半球へのワクチン問題はどうなっているのか。南半球では流行の季節が間近に近づいており、あなた方はこの状態にうまく対応できるのか。
〔博士〕逆に質問させて欲しい。ワクチンの開発にかかるステップは極めて多い。南半球での流行シーズンに備えたウイルスの開発・製造に十分な時間がない。従って、不幸にも我々が考えもしなかった新種ウイルスの出現と検出のタイミングにおいて南半球の流行シーズンのピークに合わせた適切なワクチンを確保することが出来なかった。一方、WHOは製造会社、ワクチン開発の最終的な必要性に向け開発途上国と共同作業を行っている。
もう1つの質問である南半球の国々とは具体的にどの国かという点であるが、CDCはWHOの世界的なインフルエンザ監視ネットワークの一部である。我々も、また新ウイルスに対抗できる試薬(reagents)を開発し、正確な数字は今手元にないが100か国以上の国に移したと信ずる。我々はインフルエンザ研究施設を持つ他のほとんどの国が米国の新キットを活用し、新ウイルスの特定のために追加的に技術支援してくれることを期待する。そのことが南半球における重要な試薬の備蓄と試験をさらに進める技術的な支援を行う第一の方法となろう。さらに付け加えると我々は臨床疾患を調査するための積極的な努力をしたいと考えており、そのことがCDCが多くの国で呼吸疾患に的を絞り進めて来た本来の努力を真に形成することになる。どの国が我々の主たる対象となるかについての詳細はまだいえないが、今後の記者会見においてあなた方メディアと共有したいと考えている。
○New York One :まず米国内で高い陽性感染者の増加が見られる地域があるといわれたが明らかにニューヨークがその1つであるというのは正しいか。また、他の地域について具体的にコメントして欲しい。また、CDCの監視結果についてニューヨークに特化して言えばCDCの研究スタッフは今回の感染拡大の震源地(epicenter)と思われるクイーンズ行政区の現場で原因を突き止めるため何を行っているのか、また仮に震源地であるとすればなぜより大きな地域(そこでは人々はバス、地下鉄や徒歩で多くの接触がある)に感染が拡大し漏れ出さないのかについて調査しているのか。あなたがたが予想しているどのくらい長期にこれらの活動が続くのか、すでに暖かい季節に入ったがウイルスの活動にどのような影響を与えると見ているのか。
〔博士〕ニューヨークは“influenza-like illness”に関し依然の数週間より高いレベルにある2地域(ニュージャージーとニューヨーク)のうちの1つである。
比較的高いレベルにある第2のグループとはニューイングランド6州(コネチカット、メイン、マサチューセッツ、ニューハンプシャー、ロードアイランド、バーモント)である。ニューヨーク、ニュージャージーとニューイングランド地区は他地区が減少傾向にある中でなお基本線のレベルを上回っている。第2の質問に関し、CDCはニューヨーク州保健局に対し州内の都市全体の状況のより正確な把握を行うため幾人かの専門家を派遣しているが、州当局が独自に大変活動的な報告が行える状況になったら引上げる予定である。
第3の質問についてこのウイルスが米国内やニューヨーク州でどのくらい長く循環、感染拡大を続け、病気を引き起こすか、これはまさに取組むべき課題の1つである。時としてインフルエンザは夏でも病気を引き起こしており、季節性インフルエンザ・ウイルスはサマーキャンプで大流行することがある。この問題は一定の環境、すなわち人口特性や実際我々が知らない基準に基づくウイルスの生存性(survivability of the virus)の機能問題である。従って私はニューヨークがこの数週間および数か月後に感染事例がなくなるということは希望するが明言することは出来ない。しかし、南半球に関心を向けかつ今年の秋に向けて準備している理由の1つがそこである。ご存知の通り、ニューヨークでは積極的に調査が行われ、入院問題と取組んでいることから、我々はニューヨークの拡大する季節は終わったとは思ってはいない。
○グリニッジ・タイム:学校閉鎖について質問する。最も新しいCDC勧告によると、学校の活動を妨げるような大規模な欠席がある場合以外は学校閉鎖は不要としている。しかし、CDCの最近の調査でも特に「地域1」や「地域2」(筆者注13)では新たな感染例がある。感染事例の検出に基づく感染拡大を阻止すべく学校を閉鎖させるといったガイドラインや助言の更新は行わないのか。
〔博士〕私の記憶では5月5日以降、暫定ガイダンスの改訂は行っていない。同ガイダンスは1918年の過去最大の緊張から学んだより緊張感のある世界的流行の今回のウイルスの重大性や伝播性に関する情報を織り込もうとした。今回のウイルスに関し感染拡大を低下させるため下校を勧告しなかった。学校で感染が起きた当初の対応に関する勧告を行った。その代り、我々は地方自治体これらの決定を行い、下校の決定要素は学生や教員等の欠席率により本当に学校が機能しなくなった程度の判断によるべきとの助言を行った。地方自治体が考慮すべき事項としては、われわれが手助けできるウイルスの重大性判断に加え、複合的な要素(学校の規模、彼らが学校にいないときどのようなサービスを受けられるのか、学校の行事の最中であったらどうするのか、競合するニーズがないか、彼らが学校にいないことによる彼らへの潜在的保護の価値とのバランスはどうか)などである。CDCやほとんどの自治体のガイダンスの対象は病気で在宅治療し、また回復した学生の保護が重要であると考える。学校で感染が生じた時は自宅で治療が行えるよう自宅に送り、学校の環境を混乱させないことが重要である。下校を勧告し続ける我々の現在のガイダンスは、感染の低下が目的ではなく学校のもつ機能がゆえに自治体が個別に決定するために必要なものと位置づけている。
(筆者注1)CDCではインフルエンザに限らず“Press Telebriefing”はよく行う。緊急性が高いテーマを扱う機関らしい。「電話記者会見」であり、当日のやり取りは“webcast”で聞くことが出来、その内容は後日、記録(transcript)として公開されるとともにMP3ファイルで音声(やや聞き取りにくいが)でも確認できる。
(筆者注2)わが国のメデイアだけでなく研究機関においても米国CDCの動向は目がはなせないようである。国立感染症研究所の感染症情報センター(Infectious Disease Surveillance Center:IDSC)「最新情報」サイトでは、CDCが発表する「ガイダンス(手引)」の仮訳がこのところ頻繁に行われている。
最近時かつ一般人向けとおもわれるテーマに絞って掲載しておく。
①小児における新型インフルエンザ A (H1N1)ウイルス感染に対する予防と治療の暫定的手引き(Interim Guidance for Clinicians on the Prevention and Treatment of Novel Influenza A (H1N1) Influenza Virus Infection in Infants and Children)を5月13日発表: (IDSC訳文発表日5月27日)
②新型インフルエンザA(H1N1)によるヒト感染に対応した、集会に対するCDCの暫定的手引き(Interim CDC Guidance for Public Gatherings in Response to Human Infections with Novel Influenza A (H1N1)) を5月10日発表 : (IDSC訳文発表日5月26日)
③新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染患者及び濃厚接触者に対する抗ウイルス薬使用の暫定的手引き-改訂版(Interim Guidance on Antiviral Recommendations for Patients with Novel Influenza A (H1N1) Virus Infection and Their Close Contacts)を5月6日: (IDSC訳文発表日5月20日)
(筆者注3) 厚生労働省厚生労働省結核感染症課は、5月28日付けで都道府県等の衛生主管部局宛事務連絡「 新型インフルエンザにおける病原体サーベイランスについて」を発布している。その目的と要請内容は、「 都道府県及び国において新型インフルエンザ及び季節性インフルエンザの流行状況について迅速な把握を行い、流行状況に応じた適切な対策を講じるため、新型インフルエンザの検査診断に加え、季節性インフルエンザの病原体サーベイランスとあわせた新型インフルエンザの検査について、地域の状況に応じ、可能な限り実施してする」とある。
http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/hourei/2009/05/dl/info0528-04.pdf
(筆者注4) 厚生労働省医政局経済課は5月28日付けで (社)日本衛生材料工業連合会宛協力要請に事務連絡「新型インフルエンザの国内発生に伴うマスク等の安定供給について」を発している。そこに言うマスクとは特に「N95、サージカルタイプ、不織布タイプ」である。
(筆者注5)本ブログの執筆中に慶応大学医学部熱帯医学寄生虫学教室生物災害危機管理研究室のブログ“Biosecurity Watch by Keio G-SEC Takeuchi Project”を見た。「バイオ・セキュリテイ」という筆者にとっては目新しい用語であるが、これらの研究があらためて注目されるべき時期になりつつあるのか。
(筆者注6)科学的でないということは説明の曖昧さにつながる。例示しよう。「マスク」である。CDCが2007年5月に発表した市民向けガイダンスは「フェイスマスク」と「医療用レスピレーター(N95以上:サージカルでは不適)」の効果を機密性、感染持続時間、装着性から比較し、その使用場所において適切な選択使用が効果的である、すなわち「フェイスマスク」通勤電車等や人ごみのなかで鼻や口との接触(液滴:droplets)を極力避けうるという意味で有効であり、他方、医療用レスピレーターは医療機関、検疫機関等や感染者との接触が不可避な場合に有効であるのである。両者とも感染の機会の減少効果はあるものの万全ではない。
(筆者注7)「抗原」、「抗体」、「免疫」やワクチンのイロハを説明しておく。体を守っているのが「免疫」で、主役ともいうべきタンパクに「抗体」がある。ポリオやインフルエンザのワクチン接種も、抗体の免疫性を利用したもの。一例をあげると、インフルエンザのワクチンは、感染性をなくした不活性ウィルスである。これを皮下に注射することで、このウィルスの抗原に結合する(特定の)抗体が、血液中にできるのである。
(筆者注8) “the National Strategy for Pandemic Influenza”は2005年11月1日にホワイトハウスから発表された基本国家戦略で、毎年報告が行われている。
(筆者注9)米国におけるインフルエンザa(HJ1N1)用新ワクチンの開発は医療研究機関からCDCやワクチンメーカーに渡りつつある具体的状況が5月3日付けの「ニューヨーク・タイムズ」等が報じている。
http://www.nytimes.com/2009/05/06/health/research/06vaccine.html?_r=1
(筆者注10) 「ハイブリッド・ウイルス」とは ヒトや豚が、鳥インフルエンザとヒトのインフルエンザに同時に感染して、体内で混ざり合い、ヒトからヒトへ感染するが生まれる。(ハイブリットとは「複合」という意味)。ところで新型インフルエンザはどこから来たのか。大阪府立公衆衛生研究所サイトの説明要旨は次のとおりである(専門用語は一部加筆した)。「ウイルスの遺伝子配列が決定され、その由来がある程度判明した。インフルエンザ・ウイルスの遺伝子RNA(リボ核酸)は8本の分節に分かれており、新型ウイルスの亜型を決定するヘマグルチニン(血球凝集素Hemagglutinin:HA)遺伝子と他の2本の遺伝子は北アメリカの豚インフルエンザ・ウイルスに由来するH1N1型のウイルスである。他の2本は北アメリカの鳥ウイルスに由来し、別の2本はユーラシア大陸の豚ウイルスで、残りの1本はヒト・ウイルスに由来することが判明している。従って新型インフルエンザは少なくとも4種類のウイルスの「ハイブリッド・ウイルス」であると考えられる。」
(筆者注11)5月26日の記者会見時の取材記者(John Cohen氏)自身が5月28日付けの“Science Insider”コーナーで「CDCの新型インフルエンザ・ピークの考えは楽観的過ぎる」と題して独自に専門家を取材した記事を載せている。
(筆者注12) “Canadian Press”はAP通信のようにカナダや世界の主要国を張りめぐる通信社である。
(筆者注13「地域2」に当る地域は、ニュージャージー、プエルトリコ、USバージンアイランド、セブントリバルネーションズである。
〔参照URL〕
http://www.cdc.gov/media/transcripts/2009/t090526.htm
https://www.medicalcountermeasures.gov/BARDA/MCM/panflu/nextsteps.aspx
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2009年6月4日木曜日
海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向と新たな研究・開発への取組み(N0.1)
4月30日以降、本ブログでは、世界的な新型インフルエンザ感染拡大にあわせ、わが国のメディアが十分にフォローしていない海外およびWHOといった国際機関の正確な情報の提供に努めてきた。
日々のブログ内容更新の方法について検討していたところ、6月2日の朝日新聞「文化」欄で京都大学佐藤卓己准教授による「熟慮要する危機報道」と題した投稿を読んで、改めてわが国の知識人といわれる人のレベルの低さを感じた。(筆者注1)
その点は別として、「ポリシー・アナリスト」である筆者があらためて本ブログで特定のテーマを連載する目的は毎回読んでいただくと理解できると思うが、著しい収入格差、医療格差、情報格差等および21世紀の人類が解決しなければならない疫学・感染症研究のモデル実験がまさに地球規模で始まっているのである。先進各国はその分析に早い時期から国をあげて取組んできている。
この連載ではWHOや各国別に研究・開発の最新情報を取り上げて紹介し、この問題は決して個別国だけでは解決し得ない問題であること、多くの国の利害を乗り越えながら国際的な研究機関のコラボレーションの取組みが不可欠であるという考えを広く日本でも広げたいと感じたからである。なお、筆者は従来から取組んできた海外主要国の公的機関との情報ネットワーク(通信社や一般メディア以外)の構築がほぼ完成したことも今回の取組みの背景にある。(筆者注2)
1.わが国の最新情報
2009年6月3日現在の厚生労働省の発表では、日本の新型インフルエンザ感染者数は、394人(前日比+9人)である。各都道府県別発生状況は厚生労働省サイト「新型インフルエンザに関する報道発表資料」で確認できる。
なお、本ブログで紹介してきているとおり、毎日厚生労働省は国内発生情報を公表するが、公的な海外情報は国立感染症研究所サイトのみである。しかし実際調べるとなるとそう簡単ではない。今後の話もあるので順を追って説明しておく。
例として首相官邸HPから入る場合で説明する。(6月4日午前8時時点)
①首相官邸を開く
②画面右「新型インフルエンザへの対応」を開く
③画面下「関連リンク」の中から「厚生労働省」を選択、クリック
④厚生労働省画面右「国立感染症研究所感染症情報センター(IDSC)」をクリック
(画面右に「世界の状況WHOフェーズ 5」とあるがこれは今「フェーズ5」であると言うだけの内容である。)
⑤IDSCの「インフルエンザパンデミック(Pandemic Flu)」の画面右「インフルエンザ関連:新型インフルエンザ(ブタインフルエンザA/H1N1)」をクリック
⑥「世界の報告数(WHO発表)」の画面にたどり着く。ただし、その情報は2.で説明するとおり、WHOの最新情報(6月3日発表分)ではない。最新情報はあらためてWHOのホームページに直接リンクするしかない。一方、米国CDCや英国(保健省健康保護局:HPA)の専門サイトはWHOの発表と数字と同期が取れている。また欧州疾病対策センター(European Center for Disease Prevention and Control:ECDC)域内の加盟国と域外の国の情報を分けてまとめている。その他フランスのインフルエンザ専門サイト「インフルエンザ流行情報(Info’pandémie grippale)は世界の各地域を分けて独自の統計や拡大傾向を分析している。特に、同サイトにリンクするフランス国立公衆衛生監視研究所(Institute de Veille Sanitaire)の収集情報に基づく最新感染世界地図をみたら前記佐藤氏はどのようにコメントするであろうか。
2.WHOの最新発表情報
WHOの公表感染者数(2009年6月3日世界標準時6時現在)(update43)のデータに基づき累計確認感染者数が100人以上の国のみ紹介する。(多い順に並べ替えた)
全体の数字は66か国、累計感染者数は19,273人(うち死者は117人)
「国名」、「累計感染者数」、「6月1日比増加数」、「一部の国の専門サイトへのリンク」の順に記載した。
①米国:10,053人(+1,078人):CDC、②メキシコ:5,029人(+0)、③カナダ:1,530人(+194人): PHAC(公衆衛生庁)、④オーストラリア:501人(+204人):DHA 、⑤日本:385人(+15人)、⑥英国:339人(+110人):HPA(健康保護局)、⑦チリ:313人(+63人)、⑧スペイン:180人(+2人)、⑨パナマ:155(+48)、⑩アルゼンチン:131(+31)(筆者注3)
(筆者注1)そこに見られる現状分析(原文を引用したいが某ブログが紹介しているので略す)は非科学的でかつ専門分野の「メディア史」から見ても研究者としての基本線がずれているとしか言いようがない(自説に都合の良い引用しかない)。
いちいち個別に反論を書いている時間が勿体ないので省略するが、同氏はWHOを初めとする海外の各国の取組みの厳しい現状をどの程度理解されたうえで発言されたのか、極めて疑わしい(今回のH1N1報道と関東大震災時の「流言蜚語(りゅうげんひご)」と同一の問題として比較する等現状認識が甘いし、研究者としての国際的視野に基づく自己検証機能が明らかに欠落している)。重ねて言うがWHOの事務局長マーガレット・チャン氏の総会スピーチや米国CDCのアン・シュカット部長の記者会見での発言をあらためて読み直して欲しい。
(筆者注2)平日平均300近い主として欧米等からの情報受信のピーク時間は、午前0時から3時頃である。睡眠時間はどうするのか・・「企業機密」である。この情報ネットワークにより日本にいながらにして海外メデイアと同時タイミングで最新情報がリアルタイムで入手できるし、海外のデスカッション・グループとの情報共有も可能となるのである。)
(筆者注3)この時期、南半球にあたるオーストラリア、チリ、アルゼンチンの感染者数の増加が気になる。この点はフランスの“Info’pandémie grippale”も指摘している。
〔参照URL〕
http://www.who.int/csr/don/2009_06_03/en/index.html
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2009年6月3日水曜日
オーストラリアや世界の新型インフルエンザA(H1N1)感染者数の急増と世界的パンデミック化の可能性
5月27日の午前中にオーストラリアの大型クルーズの乗船者等の感染拡大の記事(感染確認者数は当時50人)を書いたが、5月29日現地時間AEST午後6時現在の感染確認者数は168人と著しく急増している。
一方、WHOがまとめた5月29日現在(グリニッジ標準時午前6時)で見ると世界53か国(48か国)で感染者数15,510人、死者99人である(5月27日時点では13,398人、死者95人)と比較しても、その拡大規模は引続き大きい。
専門外の者がこれだけの数字でコメントすべきでないが、この数字の意味するところをわが国の国民はどのように解すべきなのか。また、後述するとおり、世界第三位の感染者数を出しているカナダの連邦政府関係機関の情報提供の内容を検証し、電子政府の内容比較の観点から考えてみる。
なお、別途筆者なりに米国やEUの新ワクチンの研究・開発動向に関するレポートを作成中である。
1.オーストラリアの最新感染状況
5月29日AEST(世界標準時(グリニッジ時)+10時間(日本は9時間) 午後6時現在)の州別確認感染者数を見ると8州のうち発生州は依然次の6州である(感染が確認されていないが疑いのある人数は今回は未公開である、集計自体出来ていないのかも知れない)。
・オーストラリア首都特別地域(ACT)3人(5月27日時点1人)
・ニュー・サウス・ウェールズ州(NSW)48人(16人)
・クイーンズランド州(QLD)11人(7人)
・南オーストラリア州(SA)6人(2人)
・ビクトリア州(VIC)99人(5月30日未明に州政府の専門サイトでみると138名となっている)(23人)
・西オーストラリア州(WA)1人(1人)
なお、学校の閉鎖状況につきビクトリア州教育庁サイトでみると、公立学校21校全行で1~2人の感染者がでており、閉鎖校は5校(6月1日再開予定)、一方私立学校7校も1~2人の感染が確認されており、2校が閉鎖している。
2.WHOの統計に見る感染拡大
5月29日現在で国別に見て増加傾向が続いている国が多い(括弧内は5月27日現在比増加数)。感染者確認数が100人以上の国を見ると、米国が感染者8,975人(+1,048):死者15人(+4)、メキシコ4,910人(+369):死者85人(+2)、カナダ1,118 人(+197):死者2人(+1):日本364人(+4) (筆者注1):死者0人、英国203人(+66):死者0人、オーストラリア147人(+108):死者0人、スペイン143人(+5):死者0人、パナマ107人(+31):死者0人
3.カナダに見る連邦政府関係機関の情報提供のあり方とH1N1感染情報提供の概観
筆者は新型インフルエンザの感染拡大問題が発生する前から毎日、連邦政府機関である「連邦公安省(Public Safety Canada(PHAC);Sécurié publique Canada))」から送られてくる各種情報を分析していた(これが本職に近い仕事である)。
同サイトは、サイバー犯罪(コンピュータ・ウイルス)やテロ情報、インフルエンザ情報、ハリケーン、渡航者の健康管理情報、地震情報、食物アレルギー情報、国際貿易取引情報などの連邦関係機関とリンクを張りつつリアルタイムの情報収集とその提供を行っている。5月29日に送られてきた情報(DIR09-103) を読むと分かるとおり、WHOの感染者数や死者数のリリースおよびカナダの公衆衛生庁(Public Health Agency of Canada:PHAC)の最新情報にリンクする。
ところで、今回の新型インフルエンザの急増国であるカナダのPHACサイトを見たが、州(10)や準州(3)ごとの最新感染者数の地図、5月27日時点から29日までの各州・準州の感染者増加数のほか感染者の平均年齢(22歳以下)が説明されている。さらに特徴的な点は、グラフで日別の症状発生者数を入院者とその他に分けて表示している点である。このグラフによると感染者発症のピークは5月8日~11日にかけてであり、その後は急速に減少していることが読み取れる。
わが国でこれに相当する専門情報サイトは国立感染症研究所感染症情報センター(IDSC)の「新型インフルエンザ(ブタ由来インフルエンザA/H1N1)」(筆者注2)であるが、日別の発生者数の傾向値は公表されていない。(筆者注3) しかし一方では総理大臣はテレビで「国身の皆さん、冷静に対応してください」のみである。正しくかつ迅速な情報提供が今求められているのではないか。
(筆者注1)6月2日現在の厚生労働省の発表ではさらに25人増え385人である。
(筆者注2)“IDSC”は確かに厚生労働省からリンクできるが、首相官邸からは直接リンクできない。また厚生労働省からの同センターへのリンクはまず「インフルエンザパンデミック」→「新型インフルエンザ(ブタインフルエンザA/H1N1)」へと再度リンク作業が必要となる。IDSCは専門サイトとはいえ、情報公開の徹底が国民の不安を軽減する手段と考えるがいかがか。
(筆者注3)筆者自身気が付いた時期は6月中旬であるが、“IDSC”サイトでは①2009年6月4日からの「発症日別報告数のグラフ」、②5月19日からの「日本の流行地図(都道府県別同確認件数)」を掲載し始めている。
〔参照URL〕
http://www.healthemergency.gov.au/internet/healthemergency/publishing.nsf/Content/0070BF69A1A93A41CA2575C00038EF5B/$File/Swine%20Update%206pm%2029%20May.pdf
http://www.who.int/csr/don/2009_05_29/en/index.html
http://www.phac-aspc.gc.ca/alert-alerte/swine-porcine/surveillance-eng.php
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