2011年2月23日水曜日

バーゼル銀行監督委員会作業部会報告「金融部門と実体経済部門間の波及経路に関する研究文献の批判的考察」





 2月21日、金融庁は「バーゼル銀行監督委員会による『金融と実体経済の波及経路に関する文献サーベイ(The transmission channels between the financial and real sectors:a critical survey of the literature)』の公表について」と題するリリースを行った(日本銀行もまったく同内容のリリースを行っている)。
 例のごとくであるが、今回も「詳細につきましては、以下をご覧ください」という文言のみで同委員会の当該リリース・サイト(英文)への
リンクが張られているのみである。

 筆者は、常日頃からこのような金融機関だけでなく研究者や広く国民に対する情報公開の観点から、その公表文や「要旨」部分だけでも仮訳で提供すべきと考えている。
 さらにいえば、わが国の金融規制監督とBISとの関係を正確に理解したり、欧米主要国の金融規制監督のあり方を巡る最新の情報についてより具体的な情報提供も金融庁や日本銀行の重要な任務であると感じている。(注1)

 このような問題意識を背景として、今回のブログでは久しぶりに作業部会の設置目的や同ペーパーの持つ意義等について簡単な導入解説を試みた。わが国の金融・経済の専門家による本格的な批判的検討を期待したい。(注2)
 なお、本報告に引用される専門用語について参考として筆者なりに調べた範囲で注記を加えた。その内容の補完を含めたレポートを期待したい。

1.本報告の作成背景と検討範囲
 まず、本ワーキング・ペーパーの標題である。リリース内容や本文から見て多少意訳とはなるが「金融部門と実体経済部門間の波及経路に関する既存の経験的分析に基づく研究文献に対する批判的考察(第一次報告)」と訳すのが本来であろうと思う。

(1)国際決済銀行(BIS)は特別調査委員会のもとに「金融部門と実体経済部門間の波及経路に関する作業部会」を設置
 その設置目的は、各国金融当局が最大の研究課題としている金融安定化のための研究にあたり金融と経済の実態部門の間にある波及経路(効果)の正確な理解は重要な要素といえる。
 「強固で安定的な金融システム」とは、プロパガンダや無意味な増幅を招く金融ショックに対抗しうる強さを持ち、かつ利益を確保できる投資機会に向けた貯蓄の配分において限定的な影響にとどまらせるものであると見られている。

 実際に、金融安定化の定義や金融監督における「マクロ健全性(macroprudential)」といった取組みは、「G20金融サミット」や「金融安定化理事会(Financial Stability Board)」(注3)等の金融安定化支援国家・機関は、これは金融システム機能のマクロ健全性の破壊の結果であるという見方を強調している。

 この問題の重要性に鑑みて、銀行監督委員会は金融部門と実体経済部門間の波及経路に関する検討作業グループ(Research Task Force on the Transmission Channels: RTF-TC group)をあらたに設置した。より具体的にいうと、本作業部会は既存の研究文献を批判的に見直すことおよび既存の枠にとらわれない検証を命じられたものである。

 作業グループは、金融部門と実体経済部門に存在する3つの波及経路、すなわち、(ⅰ)借手のバランスシートからみる経路(borrower balance sheet channel)、(ⅱ)銀行のバランスシートからみる経路(bank balance sheet channel)、および(ⅲ)流動性からみる経路(liquidity channel)につき限定した。前2つの経路はしばしば金融活性化経路(financial accelerator channel)と呼ばれ、3つ目は銀行危機の流動性ポジションが強調される。

2.第一次研究報告としてまとめた既存文献の欠陥といえる問題点
 7つの点に集約した。
①マクロ・ストレス・モデル(注4)の洗練化に関し、既存のモデルの最大の欠陥はフィードバック効果分析の欠如である。マクロ・ストレス・テスト・モデルは銀行のバランスシートの実際の状況の効果を考慮するものであるが、そのようなバランスシートの作成自体が初期のマクロショックの効果を強固なものにする点を考慮していない。

②実体経済においていかなる条件が金融部門に影響を与えるのかの問題について、 注目すべき問題認識のずれとして本レポートはさらに一般的といえる借り手の債務不履行(default)や返済遅延結果(delinquency outcome)について借り手のバランスシートのポジションについて限定的な考慮しか行っていない点に着目した。借り手のバランスシート(債務不履行(default)や返済遅延結果が存しない場合でも)は借り手の信用度の正確な理解の上で関係する問題であり、順次借り手の与信や与信条件に影響を与え、また順次貸し出し行為や最終的には経済活動そのものに影響を与えるものである。

③金融部門と実体経済部門間の条件の相互作用に着目したモデルの開発問題に関し、主要な問題認識のずれ(マクロ・ストレス・テストでは共通的なもの)は、非線形性(nonlinearities)および構造上の不安定(structural instabilities)について限定的にしか考慮していないことである。
 別の認識のずれは、金融と実体経済部門間の比較的銀行の処理の型にはまって 内容を考慮する「動学的確率的一般均衡(Dynamic Stochastic General Equilibrium:DSGE)モデル」を優先して関係付けていることである。
 一方、銀行の行動に関し有益な特性を提供し影響力が大である既存の研究論文は、何が最も実務者(銀行の資本制約、資産・負債の成熟期のミスマッチ等)にとっての最大の関心事であるいかについて把握していない。

④融資に関する銀行資本の影響の問題に関し、最近時の出来事で明らかなとおり、重要な認識のずれがある。民間対政府による資本注入とでは融資や経済活動において異なる意味があることである。現下の金融危機に即して、いくつかの国(注5)が銀行部門に公的資本注入を行い、民間による資本注入と完全に類似物であり立案策定者にとっての明確な価値があるか否かについて検証した。
 関連した取組みとして、システム全体として規制の効果についての分析の根拠の必要性を配慮した。例えば、銀行に対する規制・監督からイメージされる民間部門への動機付けはほとんど機能しなかった。しかし、規制による「自己資本裁定(capital arbitrage)」が金融危機の重要1つの根拠であることは示された。さらに、動機付けに関し理解すべき重要な点は、金融監督・規制は現下の過剰な規制のもとで作られている点である。
(⑤以下は今回は略す)


(注1) 筆者は翻訳の専門家ではない。しかし、毎日主要国の政治、経済、金融等に関する政府や行政機関や主要メディア等の情報を読みながら、その情報の価値や広くわが国民への情報開示の意味については勉強しているつもりである。

(注2)本ブログでも紹介したわが国におけるBISのWorking Paper等の内容はいずれを見ても難解である。いくら翻訳作業で工夫してみても限界がある。しかしながら、そのことは仮訳作業が不要という理由にはならない。

(注3) 「金融安定化理事会(Financial Stability Board:FSB)」は、(1)国際金融システムに影響を及ぼす脆弱性の評価及びそれに対処するために必要な措置の特定・見直し、(2)金融の安定に責任を有する当局間の協調及び情報交換の促進、(3)規制上の基準の遵守におけるベストプラクティスについての助言・監視等を役割としている。第2回金融・世界経済に関する首脳会合(ロンドン・サミット:2009年4月)の宣言を踏まえ、旧金融安定化フォーラム(FSF)が、より強固な組織基盤と拡大した能力を持つ組織として再構成された。FSBには、そのメンバー国および地域の関連当局、金融監督当局による国際機関(バーゼル銀行監督委員会、証券監督者国際機構(IOSCO)保険監督者国際機構(IAIS))および国際金融機関(国際通貨基金(IMF)・世界銀行)等が参加しており、我が国からは金融庁、財務省及び日本銀行が参加している。(平成21年11月12日時点での金融庁の説明を引用のうえ、筆者が各機関にリンクを張った)

(注4) 米国の金融監督機関であるFRB,FDICやOCCが2009年2月から4月にかけて行った「ストレス・テスト(正式には「監督資本評価プログラム(Supervisory Capital assessment Program:SCAP)」について基本的な点から説明しているものとしては、関雄太「資本市場クォータリー2009年(summer)」の「ストレステストの見方とバンクオブアメリカ、GMAC」が分かりやすいと感じた。
 また、2010年7月23日に公表した欧州銀行監督者委員会(CEBS)、欧州中央銀行(ECB)による銀行ストレス・テスト(特別健全性審査)に関する論文として、代表的なものといえるかどうかは別として、伊藤さゆり「ストレステスト後の欧州経済と銀行市場」(ニッセイ基礎研究所:Weekly エコノミストレター:2010年8月20日号)の内容が興味深かった。
 これらのストレス・テストの問題点として、次のような指摘がある。「近年では、特定のストレス・テストの数、深度、範囲を広げることで銀行はストレス・テストの改善に努めてきた。しかし多くの場合、これらのテストは事業活動、リスクの種類、資産の種類ごとに別々のものとなったままである。そのため、ストレス・テストの結果と全行的な資本充実度とを厳密な方法で結びつけるのが困難であった。」

(注5) 本報告では具体的に明記していないが、公的資本注入を最も大規模に行った国は米国であろう。

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2011年2月21日月曜日

米国電子政府の科学情報検索サイトに連邦議会図書館「議会法案検索専門サイト」が追加された本当の意義


 




1月31日付けで手元に連邦議会図書館“Law Library of Congress”ブログから新情報が届いた。
初めはその意味が良く理解できなかったこともあり、そのまま放置していたのであるが、時間が出来たので改めて読み直してみた。内容自体は簡単な話であるが、一方「電子政府問題」として考えたとき、その重要性について認識したので参考までにやや詳しく紹介する。

この情報自体は、わが国では2月4日付けで独立行政法人科学技術振興機構(JST)が
「STI Updates 学術情報流通ニュース」で取上げている。基本的にはそこに書かれているとおりである(誤字(注1)は別にして)。しかし、実は米国連邦政府の電子政府の科学技術情報ポータルである“Science. gov”(注2)の歴史的なフォローがわが国における同様の問題を考える上で重要なことを再認識した。JSTの役割から考えても、このような観点から本格的に解説して欲しいと考えたが、その期待が満たされるにはなお時間がかかりそうである。

今回のブログは、このような観点から“Science.gov”の機能強化の歴史と同ポータルへの“THOMAS”機能の追加の意義等について筆者なりにまとめて簡単に説明するものである。

1.米国連邦電子政府サイトにおける“Science.gov”の基本的な役割
“Science.gov”は、連邦政府による科学情報と研究結果に関するゲートウェイウェブサイトである。
“Science.gov”は、14の連邦行政機関の18の科学分野研究機関が率先して取組む省庁横断的なゲートウェイである。これら連邦機関は同サイトを管理するため機関の協力による「共同同盟(Science.gov Alliance)」(注3)を組織化、役割分担している。

2008年9月に更新した第5世代(Science.gov 5.0)では次の主な特性と能力を備えた究極的といえる科学分野の検索サイトを実現している。(注4)
①1つの質問に対し、45以上の科学データベースにアクセス出来、2億ページにわたる科学分野情報にアクセスを可能とした。
②検索作業を支援するためユーザー入力による「副題」、「日付」での検索結果の集団化を実現した。
③検索用語に関連する“Wikipedia”の検索結果とリンクさせた。
④利用者が入力した検索用語に関係づけられた“EUREKA News”(注5)の結果を確認できるようにした。
(⑤以下は、一般的な内容なので省略する)

これらの連邦政府機関の多くは「CENDI」(注6)のメンバーである。“Explore Selected Science Websites by Topics”の部分はCENDIがメンテナンスしている。“Science.gov”ウェブサイトはテネシー州のオークリッジに本部を有する連邦エネルギー省科学技術情報局(OSTI)が担当し、また深層検索(deep Web Search)(注7)能力を提供する。

2.“Science.gov”の今日までの機能改良の経緯
(1)第一世代
2002年12月に連邦政府による初めての広く一般人がアクセスでき、政府が保有する科学・技術分野に関する広大な情報の一元的検索できるサービスが発足、稼動を開始した。
(2)第二世代
2004年5月に連邦政府科学検索に関するリアルタイムでの関連性の順位付け機能(real-time relevancy ranking)を導入した。この技術は連邦エネルギー省(DOE)により資金支援を受けたもので、一般市民が政府の保有する情報倉庫の内容を選別し、かつ利用者個人の要求を最も満たす結果を引き出すことを支援するものである。同時に、更なる検索機能(advanced search capability)やその他機能が追加された。
2005年2月には無料か使い勝手のよい「注意喚起情報メール提供」サービスを始めた。このサービスは、市民が自分が関心を持つ分野についての最新の科学開発情報が電子メールで受信できるサービスである。同サービスでは選択した情報源から最大25件の関連情報が送られてくる。注意喚起メールに添付された情報は個人化された保管ボックス(Archive)に6週間保管される。この保管庫サービスでは過去の利用実績が検証でき、また注意喚起して欲しい検索条件の編集の変更が随時可能である。

(3)第三世代
2005年11月に稼動したが、より精度が高いレベルの検索が可能となった。連邦科学データベースに対する質問が可能となり、加えて分野別検索が増強され、またユーザーによる広範囲なブール値(注8)を用いた検索方法が選択肢として追加された。

(4)第四世代
2007年2月、更なる洗練された検索質問サービスが導入された。初めて常連利用者は現データを検索することが可能となった。さらに関連結果の中で関連性の順位付けアルゴリズムは全文に対するランキングを可能として機能的にさらに洗練された。該当文書の日付は順位付け目的において優先された。また新機能として常連は仲間や友人と電子メールで検索結果を共有できるようになった。

3.今回の追加された内容の確認手順
(1)“science,gov”のポータルページを開く
(2)画面右上の“SCIENCE GOV WIDGET”NEWをクリックする。
(3) Science.gov Widgetの文中“authoritative U.S.government science information”をクリックする。
(4)“Federal Regulations and Legislation”に“NEW THOMAS,112th Congress”および“NEW THOMAS,111th Congress”が追加されている。


(注1)誤字の個所は2月4日付けSTI学術情報流通ニュースの「・・・現時点の検索対象は、第111回議会(2009-2010)と第12回議会(2011-2012)の法案。」で、第112回が正しい。ちなみに“Science.gov”の原文URLは、http://www.science.gov/thomas.html である。

(注2) 国立国会図書館の“Science.gov”の解説(2009年5月10日更新)は次のとおりである。
「米国連邦政府のポータルサイトFirst govの科学技術版で、政府系機関の有する文書、データベース、書誌情報などの信頼性の高いデータを対象に一元的な検索ができます。2002年12月に12省庁の17機関の相互協力により、Version.1が公開された後、2005年11月には現在のVersion.3にアップグレードされ、検索結果のランク付け手法やブール演算子による検索機能が改善されました。2006年3月時点で、28のデータベース、1,700以上のWebサイトの総計47,000,000ページ以上が検索対象となっています。」
しかし、本文で述べたとおりその内容はかなり古い。2000年に稼動開始した連邦政府の電子政府ポータル“First .gov.”は2007年1月に“USA.gov.”に名称が変わっており(国立国会図書館自身がこの件を報告している)、また“Science.gov”は2008年9月にバージョン5.0で新機能等が追加されている。1回の検索で、検索可能科学データベースは45で、総ページ数は2億ページ、リンクできる科学関係ウェブサイト数は計2,000以上となっている。(“Science.gov”の概要説明より抜粋)

(注3) 2008年09月16日付けSTI学術情報流通ニュースは次の内容を報じている。
「Science.govは、9月15日、サイエンスを強化し2億ページを検索するバージョン5.0を発表した。
第5.0版に搭載したのは、(1)7つの深層ウェブデータベース、(2)検索結果をサブトピックスや日付でグループ化し、必要な科学情報のみを探せるクラスタリング機能、(3)更新アラートサービス機能。
また、検索結果のeメール送信、個人用研究ファイルや引用ソフトウェアへのダウンロード、検索語に関するWiki最新情報の入手、検索語に関するEureka News最新版の閲覧が可能。」
最後に米国科学技術情報局 (Office of Scientific & Technical Information、OSTI)へのリンク情報を掲示している。
しかし、わが国でこの訳文だけを読んで具体的な内容が理解できる一般人はいかほどいるであろうか。STIの電子政府にかかる社会的な役割から見て、筆者がここで補足した程度の解説は都度実行して欲しいと考えるがいかがか。

(注4)わが国の“science .gov 5.0”の解説として、JST以外に独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)も取上げている。説明内容はJSTに比べると各種の関係データを調べた結果がうかがえる。しかし、その内容において致命的なミスがある。1アクセスで検索できるページ数は2億ページである。200万ページではない。

(注5)“EUREKA”について補足しておく。
「ユーレカ・イニシャチブ(EUREKA)は参加国の企業と研究機関に対し、国境を越えて製品や工程技術やサービス等を開発するための市場志向の共同研究を行う道を開いている。ユーレカの目的は、欧州に存在する専門家人材やノウハウや研究施設及び資金を束ね、それを通じて先端技術に基礎をおいた製品や製造技術を開発し欧州産業の国際競争力を強化するために貢献することである。ユーレカは1985 年フランスの提案によりパリで開催された欧州理事会で設立が決定されているからEU フレームワークプログラムとほとんど同時に活動を開始している。
ユーレカは設立後EU と西欧の枠を越えた多数国の協力による共同研究開発活動として発展してきた。その特徴を示すキーワードは、市場性のある成果志向、企業参加者が研究の主体となり大学等科学基盤の能力を活用、企業ニーズを反映した研究テーマ提案のボトムアップ方式、柔軟な運営体制、研究資金が参加者の属する政府やEU からの補助金あるいは自費などである。」(2003年8月ジェトロ「EU の産業技術開発政策の動向」から一部(38ページ以下)抜粋)
“EUREKA”の具体的な活動内容については、 “EUREKA”のHP を参照されたい。

(注6)“CENDI”は,以下述べる14の米国連邦政府機関の科学技術情報担当シニア・マネージャーによる省庁間グループである。省庁別の専門図書館や情報局など12の機関が参加しており,連携や情報交換を通じて単独での活動よりも大きな力を発揮することに加え,効果的な科学技術情報の提供によって米国の科学技術プログラムを支援することを目的としている。1985年,4機関の覚書によって設立され,その後,順次他の機関が参加した。前身は1960年代初頭に設置された科学技術情報委員会(COSATI)にさかのぼる。定期的な運営会議,事務局を持ち,議会への働きかけなどを行うほか,著作権と知的所有権,科学技術情報政策,科学技術情報ポータルscience.govの運営などの5つのワーキンググループが活動している(独立行政法人 科学技術振興機構(JST)の解説から抜粋のうえ、“CENDI”のHP の内容に則して修正した。)
①国防総省・国防技術情報センター(DOD:defense Technical Information center)
②連邦環境保護庁・研究開発および環境情報局(EPA:Office of Environmental Information:OEI)
③政府印刷局(Government Printing Office)
④連邦議会図書館
NASA米国科学技術情報局(NASA Scientific and Technical Information Program)
⑥連邦農業省・国立農業図書館(National Agricultural Library)
国立公文書館(National Archives and Record Administration)
⑧連邦教育省・国立教育図書館(National Library of Education)
⑨連邦保健福祉省・国立医学図書館(National Library of Medicine)
全米科学財団(National Science Foundation)
⑪連邦商務省・技術情報局(National Technical Information Service)
⑫連邦運輸省・国立運輸図書館(National Transportation Library)
⑬連邦エネルギー省・科学技術情報局
⑭内務省・地質調査所(USGS/Biological Resources Discipline)

(注7)“deep Web Search”の具体的なアクセス方法は http://deepwebtech.com/で確認できる。

(注8) “Boolean capability”は論理演算の「真偽値」をいう。複雑な式が真になるか偽になるか判断することをブーリアン演算(論理演算)と呼ぶ。コンピュータの扱う処理や計算の多くは、最終的に論理演算に変換されて実行される。身近な例では、データベースサーチエンジンに複雑な検索を行わせる時に使われている。(Wikipedia から引用)

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2011年2月19日土曜日

欧州委員会がEU域内の統一緊急呼出し番号「112」の徹底を呼びかけ(EUデジタル・アジェンダ-第1回目)



 2月11日、欧州委員会副委員長でデジタル化問題担当委員ネリー・クルース(Neelie Kroes)(筆者注1)がEU統一緊急電話サービス番号「112」のEU市民等に認識率がなお4人中1人という調査結果を公開し、加盟各国にその引き上げ促進を訴えた。

 この問題自体わが国でも一部EU関係者しか理解されておらず、EUへの旅行を企画するわが国の国民に警告の鳴らす意味でも、今回はその意義等について改めて説明する。
 これに関し付言すべき重要な点は、この問題は単にEUの防災行政的な取組み課題というだけでなく、本年5月25日を各国国内法化の遵守期限とする2009年12月19日に発効したEU電気通信規則にかかる指令や規則にかかる重要な問題の一部であることである。

 さらにいえば、これらの問題の背景にあるEUの長期的経済成長戦略「EU 2020」の内容やその一環としての具体的ICT政策課題である「欧州デジタル・アジェンダ」の正確な理解が、わが国の電子政府問題や経済回復戦略をさらに進める上で重要な意義を持つという点である。

 すなわち、マッチ箱の角を針でつつく解説ではなく、全体像を理解で出来るブログ・レポートを目指すものである。(筆者注2)
 その中で、数回に分けてEU通信規制にかかる指令や規則が定めた各課題につき、その後の加盟国の国内法化の状況を追いつつ、問題点の整理を試みるものである。
 今回は連載の第1回目として「112」問題を取り上げる。


1.EUの世論調査機関“Eurobarometer”(筆者注3)の最近時の調査結果
 最近時の“Eurobarometer”調査結果は、警察、消防および救急を呼び出す電話番号である「112」を理解している市民が26%(4人に1人)であった。
 ほとんどが認識している国はチェコ、フィンランド、ルクセンブルグ、ポーランド、スロバキアの5カ国であった。一方、ギリシャ、イタリア、英国は10%未満であった。
 EU全体として見ると認識率の向上は2008年の22%から2011年の26%と極めて低いものであったが、一部の国では認識率の2010年比で際立った改善が見られた。
 オーストリア(31%から39%)、フィンランド(50%から56%)、オランダ(45%から50%)である。

 ほとんどのEU加盟国は緊急車輌に「112」を表示するなど認識向上の策をとっていると報告しているが、調査結果では27%の市民のみが昨年1年間中に「112」に関する何らかの情報を受け取っていると回答している。このような低い向上率から見て、欧州委員会は加盟国が国民に「112」に通知すべき義務を十分果たしているかにつき調査している。

2.欧州司法裁判所への提訴に基づく旅行者への徹底が課題
 欧州委員会は2002年3月に発布した「ユニバーサル・サービス指令(Universal Service Directive)」第26条(筆者注4)に基づく加盟国における「112」の適切な対応や位置情報が緊急対応機関に伝わるよう監視、強化を行っている。また、違反の事実に基づき欧州司法裁判所に対し、「EU Treaty」第226条に基づく「侵害訴訟手続(infringement procedure)」(筆者注5)を行っている。
 同委員会は加盟国のうち14カ国に対し提訴したが、うち11カ国は位置情報の利用を完全に対応したため取り下げたため、同裁判所は2009年5月に残ったリトアニアを除くイタリアとオランダに対する義務違反判決を下した。
 2009年6月現在の「112」位置情報をめぐる加盟27カ国の対応状況は、2009年6月25日付けEUのリリースの別表で一覧にまとめられている。

 このような背景のもとで、EU市民が他のEU加盟国を旅行する際に「112」に関する情報をSMSまたは警告メッセージを受け取るべく義務が通信事業者に義務づけられたのである。
 しかし、今回の調査結果では他国を旅行したEU市民の81%はこのような情報を受け取っていないという結果が出ている。2011年5月に実施される「ユニバーサルサービス修正指令(DIRECTIVE 2009/136/EC OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 25 November 2009)」(筆者注6)では「112」情報は、例えば空港、鉄道の駅や国際バスターミナル等で旅行者が利用可能とすることが義務づけられた。

(3)電話の架け手の位置情報の重要性とその徹底
 前記新指令は架け手の位置情報は電話のコール受けると緊急サービス機関は直ちに無料で利用することができるシステムの構築を求めている。また、当該システムについてより正確な位置情報が提供でき、かつ信頼性の高いシステムに改良するよう定めている。

 「112」システムが効率的に機能するよう同委員会は14カ国に対する欧州司法裁判所への提訴を行ったが、本年2月11日時点でうち13カ国はフォローのために是正措置により裁判は閉鎖されている。
 また、「112」の有用性に関する法的措置はポーランドとブルガリアに対して起こされたが、その後取り下げられており、現在係争中はイタリアのみである。

(4)「112」の採用にかかる最新情報
 EU統一緊急電話サービス番号「112」は全加盟国で固定電話および携帯電話から無料でかけることができる。また、デンマーク、フィンランド、マルタ、オランダ、ポルトガル、ルーマニア、スェーデンは国内の緊急電話番号も「112」とすることを決定している。
 さらにEU外のクロアチアやモンテネグロやトルコも「112」を国内で採用しており、ウクライナもその採用を計画している。

3.「112」に関する欧州委員会の詳しい解説情報
(1)専門サイトで詳しい内容を理解されたい。
(2)Q&A公式サイト:EUの“Digital Agenda”の解説サイト中「112」関連でQ&A形式で説明されている。
(3)啓蒙ビデオ
(4)自分の国の対応状況確認のための専用サイト


(筆者注1) EUの“Digital Agenda for Europe”について簡単に補足しておく。2010年5月19日にリリースされたものである。
 リリースのタイトルは「デジタル時代における経済的・社会的利益の増大のためのアジェンダ(Digital Agenda: Commission outlines action plan to boost Europe's prosperity and well-being)」である。
 「活気に満ちたデジタルの単一市場(Vibrant Digital Single Market)」、「相互運用性と標準化(Interoperability and Standards)」、「インターネットの信頼性とセキュリティ(Trust and Security)」、「超高速インターネット・アクセス化(Fast and Ultra fast internet access)」、「研究と開発(Research and Innovation)」、「デジタルリテラシーの向上(Enhancing Digital Literacy, skills and inclusion )」、「EU社会における情報通信技術適用による利益(ICT-enabled benefits for EU society)」という7項目に分けてまとめられている。
 2010年8月26日、「デジタル・アジェンダ」は正式に公布(COM(2010) 245) された。

(筆者注2) EUの今後10年間を見据えた中長期経済成長戦略「欧州2020」や同時期のICT政策課題「デジタル:アジェンダ」について、わが国では駐日欧州連合代表部の解説が情報源の中心となることは言うまでもない。これに比してわが国の電子政府さらに言えば中長期経済戦略はどのように理解すればよいのであろうか。GDPの前期比マイナスなど一部経済指標のみで日本の未来が占えるわけはない。

(筆者注3) Eurobarometer(ユーロバロメーター)は、1973年から欧州委員会が行っている世論調査分析(Public opinion analysis)の結果をまとめた資料で、調査範囲は、EU拡大、社会情勢、健康、文化、情報技術、環境、防衛、欧州の市民権に関するものなど多岐にわたる。(駐日欧州連合代表部「EU資料利用ガイド」から抜粋)

(筆者注4)2002年3月7日公布されたEUの「ユニバーサル・サービス指令第26条」(Directive 2002/22/EC)の原文を以下引用しておく。
〔Article 26〕
Single European emergency call number
1. Member States shall ensure that, in addition to any other national emergency call numbers specified by the national regulatory authorities, all end-users of publicly available telephone services, including users of public pay telephones, are able to call the emergency services free of charge, by using the single European emergency call number "112".
2. Member States shall ensure that calls to the single European emergency call number "112" are appropriately answered and handled in a manner best suited to the national organisation of emergency systems and within the technological possibilities of the networks.
3. Member States shall ensure that undertakings which operate public telephone networks make caller location information available to authorities handling emergencies, to the extent technically feasible, for all calls to the single European emergency call number "112".
4. Member States shall ensure that citizens are adequately informed about the existence and use of the single European emergency call number "112".

(筆者注5) EUにおける司法的統制である欧州司法裁判所(ECJ)に対する「侵害手続(infringement procedure)」について補足説明しておく。
「欧州委員会または他の加盟国は義務不履行をおこしている構成国を一定の手続を経て、欧州司法裁判所に提訴することができる。欧州裁判所が構成国の義務不履行を認める判決をしたときは、当該構成国は判決履行義務が課される。当該構成国がなお判決履行義務の履行を怠るとき派、欧州委員会が二度目の義務不履行訴訟を欧州司法裁判所に提起し、欧州司法裁判所は義務不履行を認めるときは、制裁金を当該構成国に課すことができる。」2004年9月衆議院憲法調査会事務局「欧州憲法条約―解説及び翻訳」(衆憲資第56号)(39頁以下参照)

(筆者注6) 欧州の通信規制改革に関する新指令の概要についてのわが国の解説例を以下引用する。なお、この解説自体は2009年12月時点でまとめられているので承知されたい。
 「欧州連合(EU)は、2009年12月18日、新たな通信規制(新指令等)をEU官報で公布し、翌19日より発効した。
 新たな通信規制は、主に、通信市場における競争と消費者の権利の強化、域内の高速ブロードバンド接続の普及促進、単一通信市場の完成に向けた新たな独立機関の創設などに焦点が当てられ、具体的に以下の12項目が改革点として挙げられている。
1. ナンバーポータビリティ(固定/移動)手続き期間の短縮。
2.より適切な消費者への情報提供。
3.消費者のインターネットアクセスの権利保護(新インターネットの自由条項)。
4.オープンかつニュートラルなインターネットの保証(ネット中立性)。
5.個人情報の侵害とスパムからの消費者の保護。
6.緊急サービス番号「112」へのアクセス改善。
7.各国規制機関の独立性の強化。
8.「欧州電子通信規制機関(BEREC)」の創設 。
9.競争上の是正措置に関する欧州委員会の発言権の強化。
10.競争上の問題解決手段としての機能分離。
11.ブロードバンド・アクセスの普及促進。
12. NGA(次世代アクセス網)における競争と投資の促進。
 通信規制の改革については、2007年11月に、欧州委員会が現行指令の改正を提案し、2009年5月に概ね承認されたが、インターネットアクセスの制限と利用者の権利保護が争点として残り、議論が継続されていた。2009年11月に、利用者の権利を強化する「新インターネットの自由条項」(司法の関与なく一方的にインターネットアクセスを停止することはない等)を盛り込むことで最終合意に至った。
 今後、EU加盟27カ国は、2011年6月を期限として、新指令を国内法化することになっている。また、欧州電子通信規制機関(BEREC)の設立は、2010年春に予定されている。]
(KDDIの「テレ虎」記事から抜粋)。
 なお、BEREC(Body of European Regulations for Electronic Communications)の訳語はその機能や法的位置づけから見て「欧州電子通信規制者団体」というほうがベターであるといえよう。
 なお、国立国会図書館(外国の立法)が“BEREC”の法的位置付けについてEUでの検討経緯をまとめているので以下引用する。
「この組織は、EU全体の電子通信市場において、公正な競争及び法規の整合性を確保するものであるが、規則の提案(COM(2007)699)当初、欧州委員会は、各加盟国の国内監督機関を監督する機関として、市場評価やEUの周波数管理を行うに当たって決定権を有する組織を想定していた。しかし、これには、欧州議会の要請により、最終的には、権限を持たない諮問機関として位置づけられることとなり、名称も提案当初の欧州電子通信市場監督機関から欧州電子通信規制者団体と名称も実態も変更された。(国立国会図書館「外国の立法246号(2010年12月)」植月献二「EUの情報通信規制改革―急速な通信環境変化への対応―」から抜粋)
 なお、余談であるが、“BEREC”のHP の下に“Subscribe to news”といった案内メッセージがある。登録内容に関する簡単な説明である。是非チャレンジされたい。1日程度でウェルカム・メッセ-ジが届く。


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英国政府は2006年国民IDカード法の廃止法に基づく全登録データの全面破棄を2月21日までに実施



 2月10日、英国大手メディア「インデペンデント(The Independent)」は「英国の国民IDカードはデータベース国家に反対する取組みの第一段階で焼け落ちた」と題する記事を掲げた。(筆者注1)

 筆者がその背景を調べた結果は次のとおりである。
 英国の内務省「国民IDおよびパスポート局(Identity & Passport Service:IPS)」は、2006年3月30日に国王の裁可し成立した「国民IDカード法(Identity Cards Bill:chapter-15)」(筆者注2)の廃止法案である「国民身分証明文書法(Identity Document Act 2010:c 40)」が2010年12月21日に成立し(筆者注3)、IDカード法に基づき登録された英国民の写真や指紋情報を含む個人情報は廃止法成立後2カ月後にあたる2011年2月21日までにすべては破棄されることとなった旨を報じた。英国の歴史上極めて異例な措置である。IPS自体、国民IDカードおよびデータベース化のために改組した機関である。

 正確な資料が手元にないこともあるが、IDカード法の廃止が英国における政権交代時の重要なマニフェストの1項目であることは分かる。(筆者注4)しかし、同法に関する多く問題点は今さら始まったものではない内容が多い。(筆者注5)

 筆者が懸念するのは、わが国政府がまさに本格的に取組み始めている「国民ID制度」の検討が、財政的な負担も含め真に国民や地方自治体の福祉や行政サービスの充実につながるのか改めて問い直すべき良い機会であり、今回のブログで取上げる英国の例は、まさに好材料であるとの考えから急遽まとめたものである。(筆者注6)

 なお、英国のIDカード法廃止に関連して調査している中で、パキスタン政府「国民データベースおよび登録局(National Database & Registration Authority:NADRA)」の「複数生体認証による身分証明カード(Multi-Biometric ID Card)」等の説明を読んだ。
 筆者は、その内容はまさに英国政府が目指していたものであると理解した。わが国も含め注目度は低いが、同国が目指す電子政府(自動越境管理システム(Automated Border Control (ABC) system)や電子運転免許管理システム(RFID based Driver’s License)の内容も含め、改めてわが国の国民ID番号の検討上解析すべき重要な情報であると考える。(筆者注7)
 この内容は機会を改めて本ブログで取上げたい。


1.内務省「IDおよびパスポートサービス局」サイトやインデペンデント記事による法廃止にかかる手続等の説明内容
(1)英国政府は2010年5月26日、「国民身分証明公文書法案(Identity Document Bill)(以下「Bill」)」を上程した。同法案の目的は「国民IDカード」と「国民身分証明登録データ」の廃止である。すなわち「2006年国民IDカード法(2006年法)」の廃止であり、また約15,000人(外国人や空港従業員を含む)の既カード保有者に対する交付手数料の還付はない。
 2006年法の規定中で身分証明書に関係しない数少ない規定は、「Bill」でも再規定した。それらの規定は、パスポートや運転免許証の偽造物の所有や作成にかかる犯罪処罰規定である。また、「Bill」はパスポート申請時の個人情報の確認に関する2006年法の情報共有規定も再規定した。
 非欧州経済領域(non-EEA)の国民に関する身分証明カード(National ID Card)については「Bill」による影響はない。(筆者注8)

(2)「国民識別情報登録データベース(National Identity Register)」の完全廃棄処理
 「Bill」は2010年12月21日に議会で可決、同月21日に国王の裁可を得て成立した。同法により、国民IDカードは身分証明、年齢やEU内の旅行時の有効な法的文書ではなくなり、また同法施行後2か月以内に2006年法に基づき登録された生体認証情報を含む「国民識別情報登録データベース(National Identity Register:NIR)」の完全廃棄が義務づけられた。

(3)既登録データの完全廃棄処理
 発行手数料の還付は行われない。写真や生体認証データを含むNIR(約500台のHD、約100本のバックアップテープに保管)データは、完全に破棄(エセックス工業団地での裁断処理、バーミンガムの工業焼却炉での焼却処理)される。
 その最終結果は、内務大臣兼女性・機会均等問題担当大臣(テレイザ・メイ:Theresa May:Home Secretary and Minister for Women & Equalities)により議会で報告される。

(4)本人が保有する既発行カードの扱い
 同カードをISPに返還することは不要である。自身で完全に廃棄することを勧める。もし、同カードを引続き保管する場合は安全な場所に保管することを確保すべきである。

2.英国の連立政権の立法戦略の内容
(1)英国メディアの立法解説例
 英国の連立与党の新立法の動きはわが国で報じられている以上に活発である。これら立法の最新情報を読み取るには、メディアとしてすでに紹介した「インデペンデント」はまず役に立たないと考えてよい。
 では、有用なメディアとはどこであろうか。あえて筆者が推薦するとすれば
”politics.co. uk”である。その理由は、議会の会期単位での主要法案について簡単なコメントつきで成立、審議中も含め、立法目的、要旨や論争点、審議経緯等が簡潔にまとめられている点である。
 その中で筆者が関心を持った現在審議中の法案について簡単に紹介しておく(訳語は立法目的にそって筆者が意訳した)。

国家予算責任および監査強化法案(Budget Responsibility and National Audit Bill):国家予算につき政治的要素を排除し独立した財政見通しを行う機関を創設することで予算についての信頼性を強化する。

健康および社会医療強化法案(Health and Social Care Bill)
医療資源を割り当ておよび委託医療ガイダンスを提供する独立した国民健康保険サービス理事会(independent NHS Board)を創設する。理事会は患者に代り委託医療サービスに対する主治医(GPs)の権限を強化させる。また、医療品質委員会の役割を強化する。

警察改革およびその社会的責任の強化法案(Police Reform and Social Responsibility Bill)
警察の地域社会に対する説明責任を確保し、アルコールに関する暴力行為や反社会的行動に対処すべき各手段を導入する。
国家からの市民的自由の回復法案(Protection of Freedoms Bill)
私生活に対する国家の侵入から常識的な市民的自由を回復させる。同法案は,すでに成立した前記「Identity Document Bill」と密接に関係するものであり、法案のポイントを一部紹介する。

1)犯罪証拠の保管と破壊に関する規定を定める。
・未成年者による犯罪で、無罪判決や免罪となった場合の指紋情報およびDNA情報の完全な破棄する。また重大犯罪(serious offence)(筆者9)で起訴されたが有罪判決が下されなかった場合は指紋情報とDNA情報は3年間(2年間の延長措置あり)保存される。
・学校や大学が、18歳未満の子供の生体認証情報を登録する場合は、事前に親の同意を得ること。
・警察や自治体によるCCTV、自動ナンバープレート認識システム(ANPR)およびその他の監視カメラの運用に関するより具体的規定化を行う。国務大臣に対し、監視カメラに運用に関する実務綱領(code of practice)の公開を義務づけまたその運用をモニタリングすべく監視カメラ委員の任命を命じる。
・以下の3つの秘密裡に行う捜査技術の使用前に地方機関は司法機関による承認を得るよう「2000年調査権限規制法(Regulation of Investigatory Powers Act 2000(c.23)」(筆者10)を改正する。
*通話内容(電話料金等)の取得や開示
*命じられた監視方法(公共の場でのひそかな監視等)の使用
*私服警官による監視等秘密裡の人的諜報活動の使用
( 2)以下は省略する)

年金制度改革法案(Pensions Bill)
 この法案の原型は「2007年年金法案」である。2012年までに事業主に対し資格を有する従業員を自動的に適格年金制度に取り込む義務を課す。現在の英国の公的年金の受給開始年齢が男65歳、女60歳であるが、2018年12月までに女性の開始年齢を段階的に65歳まで引上げる。その上で男女とも66歳への引き上げの線表を改正する。2024年から2026年の間に実施する引き上げについては2020年までに施行予定の年金法案に盛り込む。(筆者注11)

郵便事業の民営・自由化法案(Postal Services Bill)
国営の英国郵便事業「Royal Mail」がかかえる年金赤字を政府に振り向け、また多くの論争を呼んでいる制限をつけない株式の販売を認めるべく規則を改正する。

3.英国議会の法案審議追跡ウェブサイトの具体的な活用方法
 同サイトについては、本ブログでも以前に簡単に紹介したことがある。また、国立国会図書館「レファレンス」が2009年4月号(筆者注12)で英国議会のウェブサイトの最新情報を紹介している。しかしその後の改良点も含め、同サイトは多くの点でわが国としても参考となる面が多い。
 わが国では詳しく解説したものが少ないので、参考として利用方法を中心に簡単に流れにそって説明しておく。特にわが国でも参考とすべき点は法案画面から各法案審議の最新情報が「メール登録(E-mail Alert)」できることである。

(1)2010―2011年会期の全上程法案の確認
全法案がアルファベット順かつ上院(L)、下院(C)での審議中、ならびに国王の裁可(RA)により法律として成立に分類されている。
(2)本ブログで取上げた“Identity Documents Bill 2010-11”の審議内容について詳しく見てみよう。
一覧画面
②成立した法律(Identity Documents Act 2010 (c.40))全文(筆者注13)
③右上“All Bill document”:上院および下院での全修正データ
④左“Last Events”Ping Pong (筆者注14):House of Loads(2011年2月21日):下院の修正案に関する上院での最終審議、採択の内容が時間を追って確認できる。
⑤左“Royal Assent”(2011年2月21日国王の裁可)
⑥左“All previous stages of the Bill”:上院、下院での日別の法案審議の概要が確認できる。
⑦“Latest news on the Bill”最新情報
⑧“Summary of the Bill”法案要旨の説明


(筆者注1)「インデペンデント」の「IDカード廃止」の記事情報は筆者が毎日目を通している同紙からの直接情報ではなく、筆者がそのディスカッション・メンバーとなっているオーストラリアのプライバシー擁護NPOグループ(Electronic Frontiers Australia Inc.:EFA)からのメールであった。

(筆者注2) 2006年4月1日付の筆者のブログで紹介したとおり、「Identity Cards Bill」は英国議会の審議、成立にいたる時点で与野党や関係者間で多くの論議があった法律である。

(筆者注3) 今回のブログの内容とは直接関係がないが、英国議会の法案の正確なトラッキング・サイトの最新情報について本ブログ(筆者注4)で英国やフランスの議会審議法案のトラッキング方法について紹介している。従来から英国の議会の法案審議のトラッキングは時間と手間がかかる膨大な作業負担があったのであるが、大幅な改善によりその平易さは世界のトップレベルといえる。
例えば、「Identity Documents Bill 2010-11」の例で見てみて欲しい。略字ロゴと色分けで法案審議のステップが読みやすく作られている。下院(House of Commons)、上院(House of Lords)のそれぞれ第一読会から第三読会、修正案審議、採決、国王裁可の過程が一覧で確認できる。さらに法案修正の全過程の確認も容易である。

(筆者注4)「インデペンデント」や「zdnet」等英国のメディア記事を読む限り、国民IDカードや登録制度の廃止による英国全体の経費節減効果の正確な規模は明確ではない。内務省が2010年5月には廃止法案を上程した際に引用した調査機関の報告書(2009年Kable)は廃止した場合、10年以上にわたり49億5,000万ポンドかかる関係費用が30億8,000万ポンドに削減できると試算している。
また、自由民主党の選挙マニフェストでは、生体認証パスポートの廃止による節減効果は2010-2015予算年度で計18億3,000万ポンド(約2,490億円)(うちIDカード廃止によるものが5.5億ポンド(約748億円))と述べている。
 一方、IPSの最高責任者(Chief Executive)であるジェームズ・ホール(James Hall:2010年7月に退任済)は2010年5月時点において政府は生体認証パスポートシステムの導入につきすでに2億5,700万ポンド(約349億5,200万円)を費やしており、同手続の終了に伴う費用が約1億ポンド(約136億円)、さらに数百万ポンド規模のベンダー民間企業4社との契約があると説明している。その4社中1社は契約を取り消し、2社は規模を縮小し、残り1社についてはパスポートの製造に関するものなので影響はないとしている。しかし、英国メディアは2009年5月18日にイングランドで稼動した18歳以下の全児童のデータベース(ContactPoint children’s database:子ども・学校・家庭省と地方自治体の責任のもとに管理されているデータベースシステム)に保存された情報は、何千人もの政府や民間機関の職員が利用することが可能であり、その利用範囲は、教育、社会福祉、青少年犯罪にわたることとなるため、連立政府の出方が不明瞭な状態が続いている。同システムは2.24億ポンド(約305億円)かけたもので稼動開始が大幅に遅れたことやプライバシー問題の指摘がなされている。

(筆者注5) 2006年3月30日付けの「Computer World(日本語版)」が簡潔に問題点をまとめているので以下引用する。

「プライバシーに関する懸念が指摘されるなか、英国議会上院はこれまで、国民IDカード法案に数回にわたって修正を加え、当初から全国民にIDカード取得を義務づけるとする政府の意向に抵抗し続けた。トニー・ブレア首相のスポークスマンは、「任意取得の期限を設けたのは賢明な妥協策だ」と語っている。
 ただし、国民IDカード・システムの構成要素として運用される「National Identity Register」と呼ばれる国民識別情報登録データベースには、2010年1月1日以前にパスポートを申請した人のバイオメトリクス情報も登録される。また、2010年1月1日以降は、身元証明書類の申請者すべてに国民IDカードの取得が義務づけられることになるという。
 同法案はこのあと、法律化の最終段階として、女王から認可を得るための手続きへと送られる。
 英国内務省は、2008年までに国民IDカードの発行を開始したい考えだ。同カード取得の義務づけに対して多くの反対の声が上がったが、英国政府は、国民IDカードは国の安全の強化、各種手当の不正受給の減少、入国管理の強化に役立つと説明している。
 英国は現在、パスポート所持者の顔立ちのスキャン・データを埋め込んだ「eパスポート」の発行を段階的に進めているが、国民IDカードには、指紋や虹彩パターンなどのバイオメトリクス情報も登録される予定となっている。
 英国政府は、このバイオメトリクス技術を使用した国民識別プログラムにかかる経費は年間約5億8,400万ポンド(10億ドル)と概算している。詳しい計算は今後の調達プロセスへの影響を避けて公表していないが、National Identity Registerの構築とIDカードの製造に費用がかさむため、10年有効のIDカードの発行コストは1枚当たり30ポンド、新パスポートは1通当たり63ドルになる見通しとしている。
 だが、ロンドン大学経済学部(LSE)は、国民識別プログラムのコストは政府が示した数字の倍はかかるかもしれないと指摘している。」

(筆者注6)英国においても国民ID番号情報は他の社会保障制度のキー情報となっている。例えば、歳入関税庁(HM Revenue & Customs)が所管する「国民保険制度」の保険番号については、英国に住んでいたり両親や保護者が児童手当を受けている場合は、満16歳になる前に自動的に「国民保険番号」を受け取る。ただし、次のような一定の場合は、国民保険番号をもって申請すべきときがある。
①就職したり自営業を始めるとき、②奨学金の申し込み

 この面接を含む申請時には身分証明証拠書類の立証(Evidence of identity)が義務づけられている。「有効なパスポート」、「国民IDカード(national identity card)」、生体認証情報を含む移民居住許可文書を含む「在住許可証(residence permit)」または「在住許可カード(residence card)」、完全な出生証明書や男女間関係証明(adoption certificate)、運転免許証が必要となる。

(筆者注7)パキスタン政府の“Multi –Biometric ID Card”についての説明、英国在住・在勤パキスタン人向けの国民IDカード申請手続きの説明(フローチャート)等が参照可である。

(筆者注8) 英国内務省やパキスタン政府NADRAの解説等に見るとおり、非EEA国の国民に対する生体認証データに基づくIDカード制度は残る。英国民と非EEA国民とによる差別問題は残るといえる。

(筆者注9)“serious offence”とは、「2007年重大犯罪法(Serious Crime Act 2007)および同附則第1部」にもとづき定めた「重大犯罪阻止命令(Serious Crime Prevention Orders)」第9(Serious Offence)に明記されている。
 この犯罪区分は、裁判管轄(高等法院(High Court)および刑事法院(Crown Court))とからむのであり、同法第2条(2)項にもとづき附則(Schedules)第1部が根拠規定である。具体的には以下の犯罪行為である。
麻薬取引(Drug trafficking)、人身売買取引(People trafficking)、兵器取引(Arms trafficking)、売春および子供に対する性犯罪(Prostitution and Child sex)、武装強盗(Armed robbery etc.)、マネー・ローンダリング(Money laundering)、詐欺(Fraud)、公的収入にかかる犯罪(Offence in relation to public revenue)、汚職(Corruption)および贈収賄(bribery)、偽造(Counterfeiting)、恐喝(Blackmail)、知的財産権侵害(Intellectual property)、環境破壊(Environment)。

(筆者注10) 「2000年捜査権限規制法(Regulation of Investigatory Powers Act 2000(c.23)」の問題点の一部は、わが国のブログでも紹介されている。

(筆者注11) 英国では毎年のように年金制度改革法案が上程されており、また政権交代などでさらに改定が行われている。データは古くなっているが英国の基本的な年金制度の内容を理解する上でわが国で参考となりうるのは、厚生労働省「世界の厚生労働2009」(137頁以下)、みずほ総研論集2008年Ⅰ号「年金支給開始年齢の更なる引上げ~67歳支給開始の検討とその条件~」等である。

(筆者注12) 武田美智代「議会の情報発信と情報通信技術(ICT)―国際的動向と英国の事例を中心に―」

(筆者注13)英国の立法過程を正確に理解する上でもう1点重要な留意事項がある。同法を例にいうと議会事務局が管理する法案審議中の法案名は「Identity Documents Bill 2010-11」である。しかし、法律としていったん成立するとその管理は政府機関でかつ法務省の執行部門である「国立公文書館(The National Archives)」が管理するウェブサイト“legislation .gov.uk”に移る。以降の法改正等に関する情報は同サイトで管理されるのである。さらに正式の法律名は「Identity Document Act 2010(2010 Chapter 40)」となる。全文はそこで確認することになる。

(筆者注14)“Ping Pong”とは上院、下院間で行われる法案修正を巡る審議内容を指す。専門サイトがある。


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2011年2月12日土曜日

米国の全土3分の1にわたるブリザードや寒波対策のため6州知事の非常事態宣言等と州兵の稼動状況



 2月2日、DOD(防衛総省)の連邦州兵総局(National Guard Bureau:NGB)から届いたリリースでは、米国全土の3分の1にわたるブリザード(筆者注1)や極めて強い冬の嵐により現在6州が非常事態宣言を発布しており、その他の州も含め11の州から連邦州兵(筆者注2)約1,100人が各地で活動を開始したり、待機態勢に入ったと報じている。
 また、同時に米国DODは全米の州兵全体の員数についても公表した。

 世界全体にわたる異常気象の問題は今さら始まったことではないが、米国の最新情報を伝えるべくこのニュースの概要を紹介する。これに関し、筆者は別途米国地質調査局(USGS)等の多角的大規模災害実証計画の第二段:米国西海岸地域「冬季スーパー嵐(ARkStorm)シナリオ」動向について別ブログでまとめたので併せて読まれたい。(筆者注3)

 今回の北米における大寒波( 「2011年啓蟄の冬嵐(2011 Groundhog Day Blizzard)」と命名されている)を巡る連邦機関の対応とりわけ「連邦非常事態管理庁(FEMA)」の取組み状況をチェックしてみた。
 やはり、直近で見た大統領の非常事態宣言はメイン州(暴風雨:severe stormおよび洪水で2月1日発布)カリフォルニア州(吹雪(winter storm)洪水および泥流・土石流(Debris and mud Flows)(筆者注4)で1月26日)(この2州はMajor Disaster Declarations)、オクラホマ州(2月2日発布)ミズリー州(2月3日発布)ニュージャージー州(2月4日発布)ウタ州(2月11日発布)オレゴン州(2月18日発布)コネチィカット州(3月3日)マサチューセッツ州(3月7日)イリノイ州(3月17日)ミズーリ州(3月23日)ニューメキシコ州(3月24日)、ワシントン州(3月25日)ウィスコンシン州(4月5日)であり、本ブログで取上げた州の取組みとほぼ重なりつつある。2005年8月のハリケーン「カトリーナ」で問題となった連邦政府と州政府等による州兵の派遣を巡る対応の矛盾が、またも繰り返されないことを祈りたい。(筆者注5)

 なお、米国の大寒波による被害は昨年末から続いており、市民生活等にも重大な影響が及んでおり、例えば金融監督機関である連邦預金保険公社(FDIC)は昨年末頃からのメイン州を襲った猛烈な嵐や洪水による金融業務や地元の復旧活動を支援すべく関連通達を発出している。(筆者注6)


1.6州の非常事態宣言や他州における州兵の派遣要請
(1)州知事による非常事態宣言や州兵の派遣活動状況
 2月1日東部時間午後6時時点でイリノイインディアナ、カンサス、ミズリーオクラホマウィスコンシンの6州の知事(筆者注7)は非常事態宣言を発布、アーカンサス、イリノイ、アイオワ、ミズリー、テキサス、ウィスコンシンでは州兵が救援活動を開始した。
 一方、インディアナ、カンサス、ニュージャージー、オクラホマおよびペンシルバニアの州兵が待機態勢に入った。

 ミズリー州のミズリー州のジェイ・ニクソン知事(Jay Nixon)が非常事態宣言を行った1日後、ミズリー州兵全州にわたる緊急任務に当たるため600人の陸軍州兵と州兵空軍が召集された。同州の人事統括最高責任者・上級幕僚(Adjutant General)であるステーブン・L.ダナー陸軍少将(Army Maj.Gen.Stephen L.Danner)は「同州の州兵((Citizen Soldiers)(筆者注8)は、3つの機動部隊に広がっている。わが軍は何ダースにわたる部隊が海外展開を担っており、かつ2005年以来18州の緊急任務にも当たっている。

 セントルイスに基地をもつ東部機動部隊、カンサスシティに基地をもつノースウェスト機動部隊、およびスプリングフィールドに本拠をもつサウスウェスト機動部隊の陸軍州兵と州兵空軍は州警察等と連携を図りつつ、1軒ごとに安全確認や、高速道路や緊急対応車両用の通路確保のための雪かき等を行っている。

 以下、DODが2月2日に発表した各州別の州兵の活動状況のポイントを述べておく。

①イリノイ州
500人以上の州兵を派遣、足止めされた車両の救助等を行っている。

②アーカンソー州
州兵約5人が緊急輸送の支援を行っている。

③インデイアナ州
州兵はまだ活動は行っていないが、約875人が待機態勢に入っている。

④アイオワ州
約30人の州兵が足止めされた車の救助作業を行っている。

⑤カンサス州
州兵派遣を含む緊急支援の発動を宣言した。

⑥オクラホマ州
FEMAの活動のために同州の空軍基地を提供しているが州兵そのものは活動していない。

⑦テキサス州
約30人の州兵が足止めされた車の救助作業を行っている。

⑧ウィスコンシン州
州兵空軍の人事統括最高責任者・上級幕僚に対し、必要に応じ自治体の支援するため州兵の活動を行うべき権限を命じた。

⑨ニュージャージー州とペンシルバニア州については予備州兵がいるが、2月1日夜の段階では知事からの任務要請は行われていない。

(2)州兵総局(NGB)の情報にみる新たな課題
 前述したとおり、NGBのデータによるとこれだけの大規模災害でありながら州兵の派遣数は1,100人であるという現実はカトリーナの災害地支援の際、海外派兵で派あまりにも少ないと思えるし、また連邦軍の国内活動投入については連邦法の規制があり、自然災害からみの治安維持などには主に警察や州兵が第一次的に対応せざるをえないという問題があるようである。
 カトリーナの際、再上陸した2日後の8月31日、ブッシュ大統領は救援のため連邦軍の派遣を決定したが当初は海軍中心の後方支援であったため、有効性を欠く結果となり、また州知事と連邦との州兵の指揮権を巡る確執等が指摘されたが、今回も同様の懸念される事態がありえると思う。

2.米国の州兵制度の概要と課題
(1)米州兵のもつ「二重の地位と任務」の意味
 日本では日頃、州兵と連邦兵の区別も曖昧にしか理解されていない。2003年7月とややデータとしては古いが、国立国会図書館レファレンス(筆者注9)がわかりやすくまとめているので筆者の責任で抜粋、引用する。

①州兵は「陸軍州兵」(Army National Guard)と「州兵空軍」(Air National Guard)という二つの組織を持ち、国内にあっては暴動鎮圧や災害救助などに従事するとともに、海外においては、国家安全保障上の緊急事態に際して迅速に行動できる「動員日の軍隊」(Mobilization Day Force :M-Day Force) として数々の作戦に参加してきた。このような「二重の地位と任務」(Dual Status and Mission) は、州兵が有する最も際立った特徴である。
 合衆国憲法は、国家安全保障の根幹として民兵制度を規定しており、連邦法は、州兵を「組織化された民兵の一部」と定めている。「二重の地位と任務」という、州兵固有の法的地位と組織原理は、最終的にはこのような、民兵としての地位から導かれているといえよう。そのほか、連邦法は、州兵を合衆国軍隊が有する「予備戦力」(Reserve Force) と定めている。したがって、連邦法上のこういった規定も、州兵の組織と任務に関する根拠と考えられる。

②州兵は、平和時・地域的緊急事態においては、各州知事の指揮に服し、治安維持や緊急事態対処等、国内での活動に携わる。知事の指揮権は、大統領から任命され、軍事問題に関して知事の最高顧問を務める「上級幕僚」(Adjutant General) によって各州兵部隊に対し行使される。
 これに対し、戦争時・国家的緊急事態において、州兵は大統領の命令により補充戦力として動員され、連邦政府の指揮下で各種任務にあたる。

③州兵の組織的特色としてあげられるのは、原則として、各州の知事(State Governor)が最終的な指揮権を持っていることである。知事の指揮権は、大統領から任命され、軍事問題に関して知事の最高顧問を務める「上級幕僚」(Adjutant General) によって各州兵部隊に対し行使される。
 したがって、大統領命令により連邦任務のため動員されている場合を除き、国防総省、各軍は州兵に対して直接指揮権を持たない。

④国防総省(DOD)が行うのは州兵組織の行政的な管理である。担当部署として、国防総省に陸軍省と空軍省の合同機関である「州兵総局」(National Guard Bureau) が置かれており、大統領によって任命された「州兵総局長」(Chief, National Guard Bureau) がこれを統括する。陸軍州兵と州兵空軍とを直接管理する責任者は、「陸軍州兵局長」(Director, Army National Guard:ARNG)「州兵空軍局長」(Director,Air National Guard:ANG)であるが、両者は、それぞれ陸軍長官と空軍長官によって任命され、「州兵総局長」に対して報告義務を負う。

(2)州兵の収入源や家族生活の確保を巡る具体的な課題
 時間の関係でこの問題の詳細は機会を改めるが、米国NPOメディア”Stateline”(筆者注10)が詳しくこの問題を論じている。米国がかかえる重要な問題だけに貴重なレポートであり、是非解析すべきものと考える。


(筆者注1) 「ブリザード」:「このことばは、初めは冬季アメリカ合衆国バージニア州において、低気圧が通過するときに吹く、吹雪(ふぶき)を伴った冷たい北西の強風をさしていわれたらしいが、現在は、寒気と吹雪を伴う強風全体に対して広く使われるようになった。アメリカの気象局では、ブリザードの定義を、風速が毎秒14.3メートル以上、低温で、飛雪による視程が150メートル以下としている。激しいブリザードは、風速が毎秒20メートルを超し、気温はマイナス12℃以下、視程はほとんどゼロに近い場合をいう。」(根本順吉:日本大百科全書(小学館)より引用)

(筆者注2) 「州兵(National Guard)」”とは、アメリカ合衆国における軍事組織の一。主な任務は、アメリカ軍の予備部隊として、兵員・部隊・サービスを連邦軍に提供することと、アメリカ国内における災害救援、暴動鎮圧などの治安維持を行うことにある。州軍(しゅうぐん)とも呼ばれる。行政組織上はアメリカ国防総省州兵総局(中将指揮)の管轄下にある。ただし、平時においては、連邦軍は州兵の指揮権を持たず、各州知事が指揮権を持つ。連邦軍が指揮権を発動するのは、大統領の命令により、州兵が連邦軍に編入された場合である。(“Wikipedia”から引用)

(筆者注3) 同ブログの要旨は「米国連邦内務省・地質調査局(DOI・USGS)が公表した「冬季 超大規模嵐(ARkStorm)シナリオ(Atomspheric River 1000 Storm)」の報告書の概要が届いた。このシナリオは1月13日、14日にサクラメントで開催された連邦およびカリフォルニア州の防災や地質気候研究関係機関による研究会議「ARkStorm Summit」で公表された内容である。
 同地域での本格的な緊急対策目的で策定されたシナリオでは、最大10フィート(約3.5m)の降雨により既設の州の防護システムを超える大規模な氾濫が引き起こされ被害額は3千億ドル(約24兆4,600億円)以上となるとの仮説が立てられた。」というものである。

(筆者注4) “Debris and mud Flows”とは、大雨でゆるんだ山腹から、主として谷沿いに土砂が水と混合して流下する現象を泥流という。水と土砂とが一体となり、かゆ状となってそれ自体に働く重力の作用によって運動する様式で流下する。泥流は、細粒分を多く含み、活火山や火山噴出物地帯に多く発生する。土石流は、巨礫、岩塊等を含み、巨礫が先頭に集中して回転・滑動しつつ移動する。侵食力がきわめて強く、流下の途中で渓床材料をまきこみ、渓岸をけずっていく。(財団法人資源・環境観測解析センター「用語集」から引用)

(筆者注5) ハリケーン「カトリーナ」で問題となった連邦政府と州政府等による対応の失敗についてはわが国でも多くの報告が行われているが、詳細性で比較した場合、東京海上日動リスクコンサルティングの報告「ハリケーン『カトリーナ』に対する米国政府・州政府等による対応の問題点について」連邦政府の対応および州政府の対応が良く整理されていると思う。

(筆者注6)FDIC通達の別添で「メイン地区の悪天候による嵐や洪水被害に関する金融機関監督的立場からの具体的実務措置:金融機関および被融資者の支援措置(Supervisory Practices Regarding Depository Institutions and Borrowers Affected by Severe Weather in Areas of Maine)」の内容について概略紹介しておく。

①貸出関係
銀行員は、今回の異常天候で影響を受ける共同体の借手と共に建設的な立場で働くべきである。FDICは地元企業や個人への自然災害は時として一時的であると理解しており、また永久を受ける地域での融資内容の調整や変更についての銀行の真摯な努力は検査官の批判に当らないと理解している。FDICは公益とともに被害地域の借手とともに行動する努力は公益に合致するとともに安全かつ健全な銀行実務と矛盾しないと理解している。

②投資関係
銀行員は、異常気象で影響を受ける地方債(municipal securities)や融資を正確にモニターすべきである。FDICは地方政府のプロジェクトがマイナスの影響を受けると理解している。そのような投資を安定化させるためには銀行による適切なモニタリングと真摯な努力が奨励されるべきである。

③報告義務関係
悪天候で影響を受けるFDICの監督下にある金融機関は、定期的な収支報告につき遅延が予想されるときはFDICボストン地区事務所に通知を行わねばならない。FDICは報告金融機関につき許容できる範囲を考えコントロールできる以上の原因についても再査定する。

④公表義務関係
FDICは異常気象により引き起こされた損害が支店の閉鎖や移転、および仮設店舗につき各種の法律や規則の遵守面で影響を受ける点につき理解する。銀行に課される公表や要求につき災害に絡んで困難に陥る銀行はFDICボストン地区事務所に通知を行わねばならない。

⑤消費者保護法関係
消費者ローンに関し「レギュレーションZ」の規定(筆者追加注:具体的にはRegulation Zの Sec. 226.23 Right of rescission.(e)項 Consumer's waiver of right to rescind を指す)は「信義誠実原則から見て個人的な財政危機事由」が存在する場合、借手に3日間の契約の解除または変更する選択権を定める)がある。銀行は、この顧客の選択権を実行させるべく消費者は銀行に対し同レギュレーションに基づき緊急性の声明を実行する文書を提出すべき点を提供しなければならない。

⑥一時的な銀行施設関係
FDICボストン地区事務所は異常気象により銀行の支店が損害を被ったかもしくはより使い勝手が良いサービスを提供するため一時的な銀行の施設ニーズを促進させることを求めるであろう。多くの場合、FDICへの電話通知で文書での通知は後日で十分である。

(筆者注7) 米国の災害対応は州政府を軸にしている。市やカウンティ(ルイジアナの場合はパリッシュ)のような地方自治体には州政府の政策を実行に移す役割が与えられているが,災害対策の基本方針や事前対策などを決定するのは州政府の重要な責務となっている。そのため州知事の権限は大きく,知事は州軍(National Guard)の最高司令官の役割も与えられている。連邦政府は州政府だけでは手に負えない災害やテロなどの緊急事態が発生した際に,その支援を行う役目を担っており,その場合は大統領が各州の州兵を連邦正規軍に編入し,知事の統率権が停止される。(防災科学技術研究所「ハリケーンカトリーナ調査チーム報告速報」から抜粋)

(筆者注8) ここでいう“citizen-soldiers”とは、「主として平時にではあるが、州兵に対する指揮権が知事に委ねられている事実は、民兵制度にさかのぼる「郷土防衛軍」的な性格が、未だ州兵組織に根づいていることを示している。州兵が持つ緊急事態への対処能力は、地域社会との濃密な関係のなかで培われてきた。
知事による指揮権という制度は、このような米国社会の歴史的・文化的特色を反映したものといえよう。」(2003年7月号国立国会図書館レファレンス 鈴木滋「米国の『国土安全保障』と州兵の役割―9.11同時多発テロ以降の活動を中心にー」から一部抜粋)
なお、州兵の歴史の詳細は州兵総局の専用HP で詳しく説明している。

(筆者注9) 2003年7月号国立国会図書館レファレンス 鈴木滋「米国の『国土安全保障』と州兵の役割―9.11同時多発テロ以降の活動を中心にー」

(筆者注10) “stateline ”は、フィラデルフィアに本拠を置く財団(Pew Charitable Trusts:PCT)が運営しているNPOメディアである。全米を代表する民間助成財団であるPCTについて解説しておく。
「現在ピュー・チャリタブル・トラスト(The Pew Charitable Trusts/以下「トラスト」)の名で知られる当財団は1948年に設立された。ジョセフとメアリー・ピュー夫妻の4人の子供たちはこの年、両親の理想と問題意識を反映するような活動や団体への資金援助を決めた。ジョセフは米国の石油産業界において成功し、かつ先見性のある企業家であった。彼が創業した大手総合石油会社のサン石油の株式が、トラストの助成活動の財政的基盤となった。
トラストは、1948年から1979年までの間に設立された7つの基金によって構成される。これらの基金は一括して管理され、助成事業も共通の方針に基づいて行われている。フィランソロピー(博愛精神等にもとづく企業の社会貢献:Philanthropy)活動を目的とするこれらの基金は、いわばひとつの財団における諸事業のように運営されているといえよう。トラストはピュー家からの7人を含む11人編成の理事会によって管理されている。2000年度におけるトラストの資産価値は約48億ドル(約3,936億円)、助成事業費の総額は2億3,500万ドル(約192億2,700万円)だった。同年度には3,600件以上の助成申請を受け付け、最終的にはそのうちの369件に対して助成を決定した。各年度の助成事業予算の約10%が芸術と文化活動に充当される。
米国の法律では、財団のフィランソロピー活動が多分野にわたっても全く問題ない。米国の民主主義社会において、フィランソロピーの分野が特に活発な理由は、国民一人ひとりのバックグラウンドや利害、ニーズの多様性を尊重する一方、共存しやすい状態を促進させる必要があるからだ。(以下省略する)」。(わが国のセゾン文化財団の解説から抜粋した)


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2011年2月11日金曜日

米国FRBがドッド・フランク法のボルカー・ルール遵守期間に関する「レギュレーションY」の最終規則を公布



 2月9日、米国連邦準備制度理事会(FRB)は抜本的な金融規制監督法である「ドッド・フランク・ウォールストリート金融街改革および消費者保護法(Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act)(以下“DFA”という)」第619条いわゆる「ボルカー・ルール」規定につき金融機関の遵守期限の概要予定表に関する連邦金融行政規則「レギュレーションY」の最終規則(final rule)を公布した。本規則は2011年4月1日施行され、速やかに連邦官報に載る予定である。(筆者注1)(筆者注2)

 本ブログは、従来から予告しているとおり“DFA”の内容についての詳細な解説を意図しているが何せ大部(2,316頁)な法律である。

 なお、米国の金融監督機関で共通的に見られることであるが規則案の小出しが頻繁である。FDIC、FRB等が個々に規則制定権にもとづく策定作業を行っているせいもあり、本ブログでも紹介しているとおり、DFA対応作業につき全体的に鳥瞰できるサイトは今のところ皆無のようである。


1.「レギュレーションY」の意義と内容等
 今回のFRBが公布した規則とは、具体的にいうと金融規制監督に関する「連邦行政規則(CFR)」のうち「レギュレーションY」の追加にかかるものである。

(1)「レギュレーションY」とは、銀行持株会社の企業活動および一定の範囲の州法設立銀行の活動を監督する規則である。また、銀持株会社がFRBの認可を得て行う次の取引について定める
①持株会社が別の持株会社から銀行を買収、合併する場合
②銀行持株会社が直接または子会社を通じノンバンクの企業活動を行う場合
③個人(個人のグループを含む)が持株会社または商業銀行のうち各州銀行法免許の州法銀行(State Member Bank)の経営権を取得する場合
④経営困難に陥った銀行持株会社または州法銀行が上級経営者または役員を選任する場合

(2)「レギュレーションY」が統治する問題は、銀行持株会社における最低資本準備金(資産準備率)の確保、一定の銀行持株会社の取引、銀行持株会社のノンバンク取引、州法銀行および米国内で営業する外国銀行の定義である。

(3) 「レギュレーションY」の銀行持株会社への適用手順については、例えばサンフランシスコ連銀のサイト等で詳しく解説している。

(4) 「レギュレーションY」の改定経緯
FRBのサイト(12 CFR 224)で詳しく解説している。

2.「ボルカー・ルール」の概要と意義
 DFAの619条「ボルカー・ルール」について以前に本ブログで紹介したアメリカ銀行協会(American Bankers Association:ABA)のDFAの専門サイト「ドッド・フランク法の本格実施に向けた銀行員のための重要テーマに関する施策」が金融機関にとっての実務対応面から問題を整理し、また政策立案事項を一覧形式でかつタイムテーブルに即してまとめている。

(1)「ボルカー・ルール」の内容(筆者注3)
 銀行(預金保険対象金融機関、銀行持株会社およびこうした機関の子会社)が、自己勘定取引(proprietary trading)(筆者注4)を行うこと、ヘッジファンド(hedge funds)やプライベート・エクイティー・ファンド(private equity funds)に出資等することを禁止する。
 ただし、例外として銀行の出資額等が当該銀行のTier 1 資本の3%以内であり、かつ、ファンドの総出資額の3%以内である場合には、ヘッジファンド等への出資を行ったり維持したりすることができる。
 連銀の監督下にある非銀行金融会社が自己勘定取引やヘッジファンド等への出資等を行う場合には、通常の規制に追加する形での資本規制および自己勘定取引や出資に関する量的制限を受ける。
 DFAの成立後6か月以内に連邦財務省内の金融安定化監督委員会(FSOC)はボルカー・ルールの適用に関して研究し提言を行い、FSOCの研究後9か月以内に、関連する規制当局(連邦銀行監督当局、米証券取引委員会(SEC)、米商品先物取引委員会(CFTC))は所要の規制を策定することが決定されていた。
(2010年8月24日付、財団法人 国際金融情報センター「金融規制改革法(ドッド・フランク法)の成立」から抜粋の上、筆者の責任で追加・補筆した)。

(2) 「ボルカー・ルール」に関する法実務的な解説サイト
 「ボルカー・ルール」そのものについて米国でも金融規制面から詳細な解説はそう多くない。その中で世界的に展開している「Chadbourne & Parke 法律事務所」解説(12頁)が正確でわかりやすく感じたので紹介しておく。


(筆者注1)アメリカ銀行協会がDFAに関する連邦の各金融規制監督機関の政策立案動向を追跡していると述べたが、今回のFRBの最終規則案についても2月10日付、追跡専門サイト(ABA Dodd-Frank Tracker)で次のとおり紹介している(FRBの解説内容と異なる部分もあるのであえて追加する)。
 「ボルカー・ルールは、財務省内に設置した金融安定化監督委員会(FSOC)が規則の詳細を定める時期または2012年7月21日のいずれか早い時期後、12ヵ月後に施行する。今回定めた最終規則はボルカー・ルールが施行される日付後、2年間の遵守期間を置く。FSOCが指定するFRBの監視下に置かれるノンバンクについては監視が指定された後2年間はFRBの認定専用窓口で対応する。また、FRBは、一定条件の下ではさらに3年の遵守期限の延長することができる。」

(筆者注2)2月9日のFRBの最終規則については例えば米国メディア“Bloomberg”の記事が翻訳されて紹介されている。しかし、筆者が斜め読みしただけでも次のような誤訳や説明不足な点があった。翻訳者(笠原文彦氏)に確認する時間がもったいないのでここで筆者だったらこのように原稿を書くという見本を挙げておく。
原文の説明自体が内容的に問題なのであるが、少なくとも経済・金融関係の翻訳を請け負う以上、米国の金融機関監督法や行政規則の内容、種類、意義等について日頃勉強しておいて適宜補足するなど意欲を見せて欲しい。

 「米国連邦準備制度理事会(FRB)は9日、預金保険対象金融機関、銀行持株会社および同金融機関の関連会社や子会社について自己勘定取引、ヘッジ・ファンドやプライベート・エクイティー・ファンドに出資等することを原則禁止するいわゆる「ボルカー・ルール」の適用につき、原則2年間の遵守期限を設ける行政規則を承認した。
 FRBは9日のリリースで「ボルカー・ルール」の適用に関するFRBとしての行政規則(レギュレーションY)の改正を承認したものであり、その内容は2010年11月にFRBが公布しコメントを求めた改正内容とほぼ同一であると説明した。
 昨年7月に成立した米国金融規制監督法(ドッド・フランク・ウォールストリート金融街改革および消費者保護法:ドッド・フランク法)には、その第619条でポール・ボルカー元FRB議長の名前にちなんだ同ルールが盛り込まれた。第619条は「1956年銀行持株会社法(Bank Holding Company Act of 1956)」に第13条を新規に追加するものである。このルールは銀行等が自己資本に影響を負わせるようなリスクの高い投資を行ったり、預金保険の対象となる預金をリスクにさらしたりすることを制限することに狙いがある。
なお、『レギュレーションY』は本年4月1日施行される。」

(筆者注3)わが国向けに米国の法律事務所がまとめた「ボルカー・ルール」の解説例を見ておく。
 「ボルカー・ルールは、銀行及びその関連会社に対し、自己勘定による取引を行うこと、又はヘッジファンドもしくはプライベート・エクィティ・ファンドのスポンサーとなることもしくはそれらに投資することを一般的に禁止しています。また、金融システム上重要な(systemically important)ノンバンク金融会社(たとえば、規模の大きい保険会社や証券会社等)に対し、自己資本規制や、上記の活動に対するその他の定量的な制限(禁止ではありません)について遵守することを義務付けています。ボルカー・ルールは、制定時から2年後に発効し、その時点から2年間の経過期間が開始することになっています。」

(筆者注4)「自己勘定取引」とは 基金を集め、それにより企業を買収し、収益力を向上させ、その後その企業を転売し、売却益を基金出資者に配当すること。

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2011年1月6日木曜日

米国社会保障番号(SSN)の2011年6月新規付番からの無作為化および「なりすまし対策」等セキュリティ強化計画



 筆者は米国籍は持たないが、連邦社会保障庁(SSA)SSN認証局(Social Security Number Verification Service:SSNVS)から届くSSNの割当手方法の最新付番末尾番号に関する「ハイグループ・リスト」等の情報は研究材料として従来から継続して入手している。

 わが国でも2013年度から実施を計画し、2011年秋の国会で法案提出が予定されている「国民共通番号制」の議論はメディア等で取り上げられてはいるものの、国民にとっての本当の意義は何かがまだ国民が理解できる状況にないことも事実である。(筆者注1)

 今回のブログは、このようなわが国が取組もうとしている国民共通番号制についてより正確な理解に寄与すべく、米国で1936年以降国民の生涯にわたる社会給付金の過程における労働者の所得を追跡する目的で始まった9桁の社会保障番号制度が2011年6月25日新規付番分から9桁のままでその寿命延長化を目的とする「ランダム(無作為)化」という抜本的改定を行うことから、その目的、意義および具体的な改正手順等につき国民付番制の先行事例として概観することが目的である。(筆者注2)


1.社会保障庁の「社会保障番号のランダム化計画」
(1)現行制度
 1936年以来、SSNは“AAA-GG-SSSS”の3つのグループによる計9桁の数字が割り当てられてきた。また、社会保障カードの発行システムについては同カードに関するFAQを参照されたい。

A.9桁の構成内訳と付番順序
・上3桁(AAA)(エリア番号):当初のSSNの付番時の取扱った地域または州を表す。この数字は北東部から始まり、西に向けて付番されている。
・中2桁(GG)(グループ番号):“01”から“99”が連続性を持たない方法で付番される。管理上の理由から奇数と偶数に分かれて付番される。すなわち、奇数グループ(01→03→05→07→09)の順に付番し、次に偶数グループ(10→12→14→・・・・・98)がエリア内の州に割り当てられる。特別地域の“98”のすべてのシリアル番号が付番し終った後に、偶数グループ(02→04→06→08)が付番され、最後に奇数グループ(11→13→15・・・・99)が付番される。
・下4桁(SSSS):各グループ内で“0001”から“9999”までが順番に付番される。

 以上の付番結果、毎月の最新情報(現時点では2011年1月3日付け末尾付番情報:Highest Group Issued as of 01/03/11)が「ハイグループ・リスト」として公開されている。


(2)無作為化の目的と無作為化後の9桁の構成
A.SSAの説明では、次のような点が改正目的と内容といえる。

①ランダム化は各州が付番する9桁のSSNについて割り当て用にプールできる数を拡大し余裕数が高まる。

②SSNは他のツールや手続と連結したかたちで、公的機関や民間企業ともに個人のID認証手段として利用が増える一方で、社会保障番号詐欺、濫用、なりすまし詐欺も拡大している。ランダム化は、公的情報の使用における再構成をより困難にすることで個人のSSNの保護に寄与する。

③SSAは現在エリア番号として個人に割り当てている上3桁の地理的重要性を排除する。また、SSNの有効性確認目的で行っている「最終付番グループ番号リスト(4桁目、5桁目)」の重要性も排除される。さらに、ランダム化により従前は付番してこなかった「000」、「666」および「900-999」も割当に利用する。(ただし、ランダム化においてグループ番号における「000」や下4桁のシリアル番号に「0000」を割り当てることはない)

④ランダム化計画は2011年6月25日新規付番手続から開始する。

⑤現在SSNの割り当てを受けており、またSSNカードの保持者については、新番号や新カードが交付されることはない。

⑥SSNは個人1人に1つのSSNしか割り当てることはない。しかし、次の場合は異なるSSNを割り当てることがある。
・同一家族構成員で連続するSSNについて問題が起きたとき。
・1人以上に対し同一SSNを割り当てたとき。
・当該個人について付番番号について宗教上または文化的な理由で使用を拒否するとき。
・当初の付番番号の使用により継続的に不利益を被る「なりすまし詐欺」の被害者であるとき。
・家庭内暴力等による嫌がらせ、虐待や生命の危険の状況にあるとき。

⑦ランダム化以降における個人名やSSNの直接的な認証方法についてSSAはさらに次の手段を用意している。
・SSAの「社会保障番号認証サービス(SSNVS)」(雇用者のみ利用可能)
・国土安全保障省(DHS)の「e-Verify サービス」
・SSAの「本人の同意に基づくSSN認証サービス(CBSV)」

⑧現在SSNの検証目的で行っている「最終付番情報(High Group List)」についてはランダム化後の更新は予定していない。2011年6月時点で凍結する予定である。

2.社会保障制度や課税面での利用目的から見たSSNの無作為化の更なる課題
 米国のSSNは長い歴史はあるものの、これだけIT技術が進んだ時代で見たとき、今回のランダム化は決して運用面やセキュリティ面やさらに長期的に見たとき、抜本的な解決策とは思えない。(実際、SSNVSサイトのFAQの項目3で長期的な割当が可能となる(・・for many years)と書かれているが、おそらく米国自身、国民IDのあり方や社会保障カードを巡る抜本的、かつ長期的な制度改革の研究は行っていると思う。)(筆者注3)
 
 なお、時間の関係でわが国が取り組もうとしている「国民共通番号制」の比較検討問題は今回は省略する。しかし、学会有志による提言書「将来を見据えた国民ID構築のための提言」の1メンバーである筆者としては、この問題の国民個人、国や地方自治体等行政機関、民間企業等多くの関係者が理解し納得できる制度的、技術的、セキュリティ面等からの議論を踏まえた意見集約が喫緊の課題であることを指摘しておく。


(筆者注1) 1月5日現在の内閣官房サイトでは「社会保障改革」のページで政府や与党の社会保障・税に関わる番号制度に関する実務検討会の中間整理の内容が掲げられている。
 具体的には「政府・与党社会保障改革検討本部」第2回会合資料3-1 ,3-2 ,である。
 また、2010年12月14日閣議決定では「2011年1月を目途に基本方針をとりまとめ、さらに国民的な議論を経て、同年秋以降、可能な限り早期に関連法案を国会に提出できるよう取り組むものとする」とある。

(筆者注2) 米国のSSN(社会保障番号)について一般向け解説としてはWikipedia が参考になると思って読んだが、2011年1月6日時点の内容(最終更新時期は2010年6月23日 と書かれている)では、今回取上げた「無作為化」についてはまったく言及していない。

(筆者注3)jetro ニュ-ヨークは2010年10月「米国における国民IDとIDマネジメントを巡る動向」の中で「SSNの問題点と解決に向けた取り組み」について次のとおり課題を整理している。
「SSNは、銀行口座残高の電話などでの問い合わせや、携帯電話やガス、電気の申し込み時の本人確認の際に使われることもある。このため、悪意ある第三者がある人のSSNを取得した場合、本人に成りすますなどの悪用が容易である。これに加え、SSNカードの偽造も問題の1つとなっていたため、2004年に成立したIntelligence Reform and Terrorism Prevention Actの項目の一部でSSNカードの再発行回数の上限が定められると共に、カードのデザインを改めて偽造を防ぐことも決定された。
また、これまでに、不法労働者の取締りの一助として、SSNカードに生体認証を組み込という法案が議会に提出されているが、これについては議論も多い。また、最近では、SSNを身分証明として使用することを制限するという法案も検討されている。」

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2010年12月31日金曜日

米国連邦取引委員会が消費者のオンライン・プライバシー保護強化目的の“Do not Track Mechanism”の第2次提案



米国の連邦消費者保護機関である連邦取引委員会(FTC)は、12月1日付けで消費者のオンライン・プライバシー保護すなわち「インターネットなどオンライン行動の詳細追跡情報をプロファイルし対象者を絞る新広告ビジネス(行動追跡分析型ターゲット広告事業:Behavioral Advertising)」が急速に拡大していることから、プライバシー保護面から規制をかけるべく、従来の「プライバシー・ポリシー」の問題も含め、それら実務慣行に警告を鳴らすとともに、消費者の「opt out権」を確保するための技術的な標準化に関する第2次報告書を5-0で承認、その提案内容を公開した(コメント期限は2011年1月31日である)。

筆者はこの問題につき、初めはFTCのプレス・リリースを読んだ。しかし、その内容はやや抽象的であり、何をどのように変えるのかといった意図が不明でありその扱いに苦慮していた。しかし、本ブログでもしばしば紹介する人権擁護NPO団体EFF(Electronic Frontier Foundation)等のウェブサイトで読んで今までの経緯や具体的な提言内容、関係業界が取り組むべき課題等がやっと理解できた。

一方、冒頭で述べたこの問題につき、わが国で公開されている情報にあたってみたが、FTCのこれまでの取組み内容も含め、はっきり言ってまともなものは皆無であった。唯一、2010年5月15日付け高木浩光氏がブログ「『ライフログ活用サービス』という欺瞞」で3月の総務省主催の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」において指摘した有識者としての意見(ネットワーク事業者のプライバシー・ポリシーの内容や“opt out”の不徹底な仕組みなど具体的な問題点)の内容を紹介されている。(筆者注1)

執筆時間の関係や技術的な説明といった側面で十分な内容とはいえないが、今回のブログは、EFFや最近知ったブログ“33 Bits of Entropy”(筆者注2)の解説等を中心に据えて、FTC報告の意義や今後の課題を紹介する。

この問題についてさらに法的、技術的な点等につき最新情報を得たいと考えるならば、スタンフォード大学ロースクールの「インターネットおよび社会問題センター(Center for Internet and Society)」および同大学コンピュータ科学部の「セキュリティ研究所(Security Laboratory)」の専門ウェブサイト“Do Not Track”(副題:普遍的なウェブ追跡からのopt out対応を探る)が網羅されており、特に本文中に取上げた「HTTP header approach」をopt out 手段として推奨しており、各ブラウザの対応状況調査もあり、この点でも最も参考になるサイトである。その詳細は機会を見て取上げたい。

なお、本ブログの読者の中には、今話題となっている“Wall Street Journal”の特集“Your Apps Are Watching You”を読まれた人もいると思う。オンライン行動追跡広告やマーケティングにおける消費者保護問題がこの数年関係者による議論が高まる一方で、オンライン行動追跡広告自体について最近米国メディアが大きく取り上げたり、連邦議会や関係委員会でも具体的論議が始まっている。

このような中で、12月23日に米国ではApple Inc.に対する2件の集団訴訟が同一裁判所に起こされた。
1件目( Jonathan Lalo v.Apple:事件番号10-5878)は、12月23日、カリフォルニア北部地区(サンノゼ)連邦地方裁判所に携帯電話端末“iPhone”や携帯情報端末“iPad”の製造メーカーである“Apple Inc.”に対し、これらのデバイスのアプリケーション・ソフトがUnique Device ID(UDID)をもとに個人情報(ユーザーの位置情報、年齢、性別、収入、民族、性的性向、政治的意見等)を顧客の同意なしに集め、広告ネット会社に伝達・販売するのは「連邦コンピュータ詐欺および不正使用防止法(Computer Fraud and Abuse Act (CFAA:18 U.S.C. § 1030)」(筆者注3)やプライバシー法違反であるとして告訴したものである。(原告弁護事務所はキャンバー法律事務所(KamberLaw LLC))(筆者注4)
2件目(Freeman v.Apple:事件番号 不明)については、告訴状による告訴内容が確認できた。1件目もほぼ同様の起訴事由であると思われるが、被告にはその他に追跡ソフトの提供メーカー(わが国でも一般的なDirectory.com ,Pandora Media ,Pimple Popper Lite ,Talking Tom Cat ,TextPlus ,Toss It およびThe Weather Channel 等の制作会社)があげられている。(本訴訟では原告は損害賠償のほかにマーケッターに対するユーザーの個人情報の継続しての配布の禁止命令を求めている)

現時点ではその他の被告の範囲等も含め起訴状の内容が厳密には確認できていない。
また、これら裁判は集団訴訟であり、その手続等をめぐり同州の消費者保護法(筆者注5)との関係、また連邦法と州法とが交差した裁判であり論ずべき点が多い。別途まとめることとしたい。


1.“Do not Track Mechanism”の検討経緯の概観
EFFがまとめた内容を経緯も含め概観しておく。
(1)今回のFTC報告は2007年12月にFTCが行動追跡分析型ターゲット広告事業の更なる透明性と消費者によるコントロール権確保を目指し、業界の自主規制策定を推奨すべく事務局がまとめた「オンライン行動追跡に基づく広告のプライバシー保護にかかる取扱い自主規制のための原則(Online Behavioral Advertising privacy Principles)」を5-0で承認、公表した。

主な項目を挙げると、次の内容であった。
A.行動追跡広告の目的で個人情報が収集するすべてのウェブサイトは、データが狙いを定めた広告対象目的で集められること、消費者に当該目的に沿った収集の是非に関する選択権を与えるべく、明確な文言で、消費者に分かりやすくかつ目立つ形の情報を提供すること。
B.行動追跡広告の目的で個人情報を収集・保存する広告会社は取扱いデータにつき合理的といえるセキュリティを提供し、また合法的なビジネスや法執行上の十分な必要性に応じる限りにおいて保有すべきである。
C.広告会社は、当初データを収集した際の約束内容と著しく異なる方法でデータを使用するときは影響を受ける消費者から明示的な合意を得るべきである。
D.機微情報(医療、子供のオンライン活動等)の収集にあたり消費者が広告を受けるにつき明示的な同意を得た場合のみ収集を行うべきである。
この原則に対し関係者から多くのコメントが寄せられ、FTCは2009年2月に自主規制原則の改定版を策定、公表した。

このような自主規制による保護強化策については有効性が弱いという批判が多く寄せられた。このことが今回の第2次対応の主たる背景である。

(2)今回のFTCのリリース内容によると、提案の主旨と内容は次のとおりある。
今回、FTC事務局は高速な手段による個人情報収集や消費者にとって見えないかたちでの情報の共有を許す技術の進歩があるという理解の枠組みの下で策定した。多くの広告会社は個人情報の取扱いの説明を行ううえで「プライバシー・ポリシー」を使用するが、その内容は通常消費者が正確に読むには長すぎ、また読んだとしても理解できないような法的なロジックに終始している。現行の「プライバシー・ポリシー」は多くの負担を消費者に負わせている。

A.第一の点は前述したような消費者の負担を軽減し、基本的なプライバシー保護を確実なものとするため、広告会社は日常的な商慣行の中でプライバシー保護のため意図したプライバシーを取り入れるべきとした。すなわち、会社はプライバシー問題の監視役の要員を指名し、従業員を教育し、新商品や新サービスに関するプライバシー面の見直しを実施するなど組織全体を通じて健全なプライバシーの実務を手続面で実行すべきである。

B.第二に、この点が今回の報告書の中心テーマとなる点であるが、消費者のインターネットの効果的に活動するための情報収集としてターゲット広告を提供する場合と、その他の目的をもつものを区別する具体的方法として“Do Not Track”メカニズム(Do Not Track Mechanism)を提案した。

FTCのリリースはこれにより、企業と消費者双方の負担軽減につながると述べている。しかし、これだけでは良く理解できない説明であり、ここまで読んでその内容や意義が理解できる人はまれであろう。そこで登場するのが前文で紹介した“33 Bits of Entropy”(以下、“Entropy”という)である。
次項2.で“Entropy”の説明に基づき具体的に解説する。

2.“Do Not Track Mechanism”とは
9月20日付けの“Entropy” は“Do Not Track”(DNT)について決して簡単ではないが、次のような比較的分かりやすい説明を行っている。

(1)DNTは“Do Not Call registry”と類似しかつその考えは似ている。しかし、その実現方法は異なる。
当初、DNTの提案は、「ユーザー登録(registry of users approach )」や「追跡のためのドメイン登録(domain-registry approach)」という内容であったが、両者ともその仕組みが次のとおり不必要に複雑であった。

A.「ユーザー登録」方式は各種の欠点があり、その1つは致命的である。すなわち、ウェブ上で使用される普遍的に認識されるユーザー識別子(user identifiers)はないということである。
あるユーザーの追跡は、広告ネットワークが配備するクッキーを含む「その都度作成する識別メカニズム(ad-hoc identification mechanisms)」にもとづき行われる。また、世界的に共通かつ強固な識別子を強制することは、ある意味で問題解決をさらに困難にさせる。
また、この方式はユーザーがサイトごとにDNTを設定する上での柔軟性が考慮されない。

B.「追跡のためのドメイン登録」方式は、権限中心機関(central authority)が追跡するために使用するドメインの登録を広告ネットワーク会社に強制するものである。ユーザーはこのドメイン・リストをダウンロードして、使用するブラウザ上でそのリスト先をブロックする設定する能力が与えられることとなる。

しかし、この戦略には次のような複数の問題がある。
(ⅰ)要求される中央集権化はこの方式を移り気にさせる、(ⅱ)広告がホスト・サーバーとのコンタクトを要求した以降、広告全体をブロックせずに追跡ドメインのみをどのようにブロックするかについての方法が明確でない、また(ⅲ)この方法は消費者に一定のレベルの用心深さ-例えば、ウェブ上で入手可能なソフトウェアにもとづきドメイン・リストの更新を確実に行うことーが求められる。

(2)ヘッダー・アプローチ(header approach)
今日、大方に意見は次のようなはるかに単純なDNTメカニズムの周辺で内容のイメージが持たれている。
すなわち、“X-Do-Not-Track”というような特にHTTPヘッダー(筆者注6)情報でブラウザがユーザー側において、追跡につき“opt out”を欲している旨の信号をウェブサイトに送るというものである。
ヘッダーはあらゆるウェブに対する要求内容を送るものであり、このことは広告や追跡者を含む当該ぺージに埋め込まれた目的や台本のそれぞれと同様、ユーザーが見たいと欲するページを含むのである。

それは、ウェブブラウザにおける実行において極めて些細なことではあるが、事実、すでに“Firefox add-on”(筆者注7)等においてそのようなヘッダー・アプローチで対応した例はある。

また、ヘッダー・ベースの取組みは中央集権化や固定が不要であるという利点がある。しかし、それが意味あるものであるためには、広告主は追跡されたくないという消費者の好みを尊重しなければならない。
では、それをどのように強制すべきか。選択肢は、米国ネットワーク事業者自主規制団体「ネットワーク広告イニシアティブ(Network Advertising Initiative:NAI)」(筆者注8)による自主規制から「監督機関下での自主規制(supervised self-regulation)」、「官民共同規制(co-regulation)」(筆者注9)さらには「公的機関による直接規制」まで多様な分布がある。

現行の一般的なクッキー・メカニズムに比べ“opt out”メカニズムおよびその意味の標準化によりユーザーにとってDNTヘッダー方式は大いに手続の簡素化が約束される。DNTヘッダー方式は、緊急性を要する場合でもユーザーの新たな行動を必要としない。

最後の部分で“Entropy”は、DNTヘッダー方式についてDNTの実施時の事業者による「ひも付きウェブ化の危険性(danger of tiered web)」、「追跡の定義をどのように行うか」、「その違反行為の調査方法」および「ユーザーに権限を持たせるためのツール」の4点について技術的な問題を論じている。ただし、筆者のレベルを超える内容なので今回は省略する。

3.強化されるオンライン行動追跡広告ビジネス活動への懸念やプライバシー侵害問題
EFFはウェブでアドビ社の“Local Shared Objects”(筆者注10)やマイクロソフトの“User Data Persistence”等多くのウェブ技術企業が次々にオンライン行動追跡技術を導入し、インターネット接続サービス企業や「データウェアハウス」(筆者注11)との情報共有契約などの拡大、さらには広告主に膨大なユーザーの行動や個人情報へのアクセスを認めるソーシャルネットワークへの拡大などの動きを懸念している。

4.連邦議会の関係委員会での具体的な立法化論議の動向
2009年6月18日、下院「エネルギー・商務委員会(Energy and Commerce Committee)」の下部にあたる「商業、貿易および消費者保護小委員会(Subcommittee on Commerce, Trade, and Consumer Protection)は関係者の証言に基づく公聴会を開催して「消費者の行動に基づく広告活動:産業界の実務内容と消費者の期待Behavioral Advertising: Industry Practices and Consumers' Expectations)」を論議した。

また、2010年7月27日には上院商務委員会(Senate Commerce Committee)はConsumer Online Privacyで聴聞会を開いてApple、 Google、 AT&T および Facebookの役員から証言を求めた。そこでは、企業側の意見の多くは立法による規制は創造的なビジネスの足かせになり、あくまで業界の自主規制によるべきとするものが多かった。このような動きの中で上院委員会の考えは慎重ではあったが、民主党幹部のジョン・ケリー(John Kerry)議員等は2011年早期には法案提出の予定を明言した。また下院はさらに迅速な法案成立を求める意見が多かったとされている。

12月2日に下院「エネルギー・商務委員会(Energy and Commerce Committee)」の下部にあたる「商業、貿易および消費者保護小委員会(Subcommittee on Commerce, Trade, and Consumer Protection)が予定されており、“Do Not Track”の法制化問題がその公聴会(“Do-Not-Track Legislation: Is Now the Right Time?”)で証人の意見に基づき徹底的に論議され、その結果がオバマ政権が力をいれているインターネットのプライバシー問題への対応として、今後予定の商務省報告にも反映されることを期待しているとEFFはコメントしている。


(筆者注1)高木氏は、自身のブログで米国NAIの取組みにつき次のような補足を行っている(資料元とのリンクは筆者の責任で行った)。
「2010年3月以降、調べて知ったのだが、米国では、インターネット広告事業者の業界団体「Network Advertising Initiative」が自主的に、完全なオプトアウトの仕組みを提供する試みを実施しているようだ。
・NAI Consumer Opt Out Protector Add-On for Firefox (Beta Version),Network Advertising Initiative
・New NAI Opt-Out Tool Protects Against Cookie Deletion, ClickZ ,(2009年11月5日)
・クッキーを削除してもオプトアウトを維持, インターネット広告のひみつ, 2009年11月7日」
なお、上記の表現のとおり、高木氏はこのブログ作成時点では、スタンフォード大学の“Do Not Track”やNAIの“Opt out of Behavioral Advertising”等新しいサイト情報は完全には読んでいないと思われ、FTCの取組みも含め今回の本ブログで引用した内容が最新情報といえよう。

(筆者注2) ブログ“33Bits of Entropy”の筆者であるアービンド・ナラヤナン氏(Arvid Narayanan)について紹介しておく。テキサス大学オースティン校で博士課程を取り、現在はスタンフォード大学で主に博士課程修了後、研究者としての能力を更に向上させるため研究機関などで引き続き研究事業に従事しているとのことである。主たる研究テーマは、このブログで取り上げているとおりデータベースにおけるプライバシーと匿名性(anonymity)問題についてである。本文で紹介したスタンフォード大学ロースクールのトラッキング問題専門サイト“Do Not Track”の主担当者でもある。
なお、この「ブログ・タイトルの意味」について筆者がうまく説明しているのであわせて紹介しておく。
「世界の人口はわずか約66億人しかいない。1人の人間が自分が誰であるかにつき識別しようとすると33ビット(より正確にいうと32.6ビット)の情報量が必要となる。この事実は2つの結果を導く。
まず最初に、あなたが世界中隅々まで捜すことができないくらい大きい群衆に隠れることができるという匿名のデータについての多くの伝統的な考えが当てはまらないということである。今日のコンピュータの演算能力から見て、その概念に完全に失敗する。すなわち、悪者をもった人間が目標人物について十分な情報がある限り、悪人は単にあらゆる可能なデータベースの登録内容を検索し、最も良いマッチング結果を選択できるのである。
2番目の結果は、33ビットが本当にいろいろな事ができるという数字ではないということである。すなわち、あなたの故郷の人口が10万人であるとすると、私があなたの故郷を知っているかぎりあなたに関するエントロピー(ある出来事の起こりにくさの関数として表される情報量)の16ビットは私が持つことになる。そして、あなた自身の匿名性情報エリアとして17ビットだけが残る。しかし、本当に危険なことは、伝統的に個人の特定に関係していないとされる1個人の「行動」情報が異なる文脈においては重大なプライバシーの不履行を引き起こすということである。」
なお、“33Bits of Entropy”ブログを読んで読者は気がつかれると思うが、本ブログ
“Civilian Watchdog in Japan”と共通性がある。広告は一切リンクさせないことである。「中立性」の証左である。

(筆者注3)“Bloomberg”の記事自体には告訴の根拠法は明確に書いていない。“federal computer Fraud and privacy laws”としか書かれていない。文脈からいって通常、「コンピュータ詐欺および不正使用防止法(Computer Fraud and Abuse Act ("CFAA", 18 U.S.C. § 1030))が根拠法であることは間違いないが、“privacy laws”とは何か。膨大な量に上る連邦プライバシー法(解説例参照)の中から特定するのは難問である。米国の法律関係サイトを調べたがいずれも告訴状のURLは確認できなかった。しかし、筆者としては
該当法の1つとして、盗聴行為等の規制に関する「1986年電子コミュニケーション・プライバシー法(Electronic Communications Privacy Act of 1986 (ECPA): 18 U.S.C.§ 2510-22.)」であると考えたが、2件目の告訴状で見る限りそうではなさそうである。1件目に関し、IT分野に詳しい弁護士のblogでは次の法律違反が列記されていた。(米国法典や法律の要旨等との関係は筆者が確認のうえ補記)。このblogが正しいとすると、2件ともほぼ同一の根拠法による訴訟であるといえる。
①Federal Computer Fraud and Abuse Act
California State Computer Crime Law
California's Unfair Competition Law(UCL)(Business & Professions Code Sections 17200et. seq.)
④California Common Law for Trespass to Chattels/Personal Property(動産または個人資産に対する不法侵害にかかるカリフォルニア州のコモンローの意味)
⑤California Common Law for Conversion(横領に関するカリフォルニア州のコモンローの意味)
「(trespass to chattels」(動産への不法侵害)は、動産への侵害であるけれども、同じ動産侵害でも「侵害の程度」(the degree of the invasion)が酷(ひど)い場合は「conversion」(横領)に分類される。軽い侵害が「trespass to chattels」となるのである)」(中央大学総合政策学部 平野 晋教授のサイト「アメリカ不法行為法の研究」から引用)
⑥California Common Law for Unjust Enrichment(不当利得に関するカリフォルニア州のコモンローの意味)
いずれにしても確認できた時点で本ブログも更新する。

(筆者注4)キャンバー法律事務所は、多くの集団訴訟を手がけている。特に、出版社やマーケッターのために消費者情報の追跡支援サービス(オンライントラッキング・サービス)をうたい文句としている” Quantcast”の“zombie cookie”に対する集団訴訟で約240万ドル(約3億2,800万円)の和解金を勝ち得たことで有名である。また、本年9月2日にもフォックス・エンターテインメント・グループおよびクリアスプリング・テクノロジーズ社を被告とし、「コンピュータ詐欺および不正使用防止法(Computer Fraud and Abuse Act)、「カリフォルニア州刑法典のコンピュータ犯罪(Computer Crime Law,Cal.Penal Code §502)」、「カリフォルニア州刑法典のプライバシー侵害(Invasion of Privacy Act,Cal.Penal Code §630 )」等違法行為に基づく集団訴訟(CV10-6586)の原告側弁護を担当している。

(筆者注5) 本裁判は集団訴訟が故の問題も多い。例えば「カリフォルニア州消費者保護法違反の主張に基づく全米的なクラス・アクションを提起する際には、準拠法の選択によって、「クラス」として認められるための要件である連邦民訴訟規則23条(b)(3)の"predominance"要件(クラスの構成員に共通する法律又は事実に関わる問題が各構成員個人にのみ関わる問題に「優越」すること)を満たすか、という問題の結論が左右されることがあります。複数の州にまたがるクラス・アクションでは、各州法に差異があることにより、共通の争点が形成されなくなることがあるからです。(中略) しかしながら、2008年12月、カリフォルニア州中央地区の2つの裁判所は、上記法律違反の主張に基づく全米的クラスを承認する決定を下しました。」(クイン・エマニュエル法律事務所の2009年4月のニュースレター「カリフォルニア州消費者保護法違反を主張する全米的なクラスを連邦裁判所が承認」から抜粋。

(筆者注6)HTTP(HyperText Transfer Protocol)は、Webのサーバと、クライアント(ブラウザ)の間で、ウェブページを送受信するためのプロトコルであり、基本的にはテキストメッセージを交換することにより、実現される。HTTPは「HTTPリクエスト」と「HTTPレスポンス」に分けられ、ブラウザがサーバーに「このページを見たい」と頼む通信が「HTTPリクエスト」で、そのリクエストに応えてサーバーがブラウザに返す通信が「HTTPレスポンス」である。
HTTPヘッダー情報(HTTPリクエスト)とは、具体的には次の内容である。
①ユーザーエージェント名(User-Agent)、②リファラ(Referer)、③更新されていたら(If-Modified-Since)/同じでなければ(If-None-Match)、④クッキー(Cookie)、⑤受け取り希望(Accept、Accept-Language、Accept-Encoding、Accept-Charset)

(筆者注7) “Entropy”の説明は“Firefox add-on”でその例があるとしか書かれていない。筆者なりに補足する。
Mozilla の“Firefox アドオン”(日本語版)の画面上で拡張機能“Adblock Plus”をクリックすると広告のブロック方法が「バナーを右クリックして「Adblock」を選択すると、次回から読み込まれなくなります。配信されるフィルタセットを利用すれば、多くの広告を自動的にブロックできます。」のように説明されている。
事前にブラウザ“Firefox”用に開発されたフリーウェア“Adblock Plus”をインストールすると、検索バーの右側に「ABPアイコン(ブロック機能を有効にしたときにのみ赤地色になる)」が表示される。例えば画面上の特定の広告動画を非表示にしたいときは、該当画像上で右クリック→ボックスの下にAdblock Plusが表示→クリック→フィルター追加画面となる→フィルター追加をクリック→該当画像が消えて空欄になる。
さらに細かなフィルタリング・ルールの設定が可能である。「ABPアイコン」を右クリック→設定画面で、例えば「http://www.yahoo.co.jp/*」と登録する(最後に追加する“*”に意味がある)。次にGoogleで「yahoo.jp」の検索結果を表示してみよう。何も画面には表示されなくなる。

(筆者注8)「ネットワーク広告イニシアティブ」は、1999年にFTCが支援してオンライン広告のネットワーク業者とサービス業者で作る団体,ダブルクリック,24/7リアルメディアなどのウェブ広告技術企業8社で設立。プライバシー・サービスを提供する『トラストe』や,データ分析の米ウェブサイドストーリーなど,ほかにも25の企業が参加している。2000年夏,消費者の個人データの収集と共有に関して政府の介入を未然に防ぐため,業界自らが規制を定めるための団体として設立。NAI は自己規制のための業界団体を作る取り組みの先頭に立ち,米連邦取引委員会(FTC)は2000年7月,業界が自己規制を推進するという NAI の提案を受け入れた。 NAIは,オンラインにおける個人データ収集の基準となるルールを定め,消費者が NAI の会員企業による個人データ収集をやめてもらうよう選択できるウェブサイトを開設。
2002年11月26日,WebバグまたはWeb ビーコンを使用する際のガイドラインを発表。使用時期と目的を訪問者に通知することを義務付ける業界標準を定めた。また,消費者を特定できるデータの収集および共有技術を使用する場合は,あらかじめ消費者から許可を得なければならない。情報を得る側の業界が好むオプトアウトについて規定している。」(オンライン・コンピュー用語辞典から該当部分を引用。ただし内容が古いなど問題があり、筆者の責任で一部追加した。)
なお、NAIの会員企業に対し消費者がopt out 権を行使するための専門サイト(Opt Out of Behavioral Advertising)は業界自主規制の例として参考になる。

(筆者注9) 官民共同規制とは「公権力の実行目的―公権力と市民社会によって実行される共同活動―を達成するように設計された共同運用による規制の形式」をいう。FTCなど医療情報とプライバシー権問題を巡る論文(ウィンスコン大学)1177頁(注50)参照。

(筆者注10)“Local Shared Objects:LSO” とは、Adobe社のFlash Player がユーザーPCの内部に保存するデータ形式である。データは「Flashクッキー」とも呼ばれ、ブラウザのcookieのようにサイト毎の情報を保持する。LSOはcookieと違い有効期限がないため、情報が消えることが無いこともプライバシー上問題である。(Wikipediaから引用)

(筆者注11) 「データウェアハウス」とは、基幹系業務システム(オペレーショナル・システム)からトランザクション(取引)データなどを抽出・再構成して蓄積し、情報分析と意思決定を行うための大規模データベースのこと。(「情報マネジメント用語辞典」より引用)

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今回のブログが2010年の最終回となる。この1年間筆者の執筆意欲を支えてくださった読者の皆さんに感謝申し上げるとともに、来る2011年の皆さんのご活躍とご健康を祈念して筆をおく。

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2010年12月27日月曜日

米国ハーバード大学バークマン・センターがDDoS攻撃からメディアや人権擁護団体保護の具体策を提言(その2完)



 12月25日付けの本ブログで、米国ハーバード大学ロースクールのバークマン・センター(Harvard Law School’s Berkman Center for Internet & Society )がサイバー攻撃とりわけDDoS攻撃にさらされやすい独立系メディアや人権擁護団体を保護すべく、その脆弱性対策に関する報告をまとめた旨紹介した。
 その後、関連情報を読んでいたところセキュリティ専門解説サイト“Computerworld”が12月22日付け記事、および続編でこの報告を取上げ、その内容面の要約を行っていたので重複しない範囲で追加的な解説を行っておく。

 なお、同センターの活動は筆者が考えていたよりもその範囲は広い。例えば、最近、わが国でも同センターが中心となり「米国電子公共図書館(DPLA)構想始動」という記事が紹介されている。この問題についても簡単に紹介する。


1.DDoS攻撃による被害サイト数と被害内容
 最近12か月で見て、調査対象団体の62%がDDos攻撃の被害に遭い、61%で説明がつかないダウン時間(downtime)が発生した。親ウィキリークス・ハッカーグループ(pro-WikiLeaks activists)が行うDDoS攻撃は、数百、数千または数万台のPCから同時にまたはそれに近い状態で行われた。

 その攻撃目的は、サイトを運営・管理するサーバーを偽の要求情報で溢れさせたりまたは制圧することであり、その結果、被害サイト画面は真っ暗になるか、ホスト役のプロバイダーから不具合時の保護目的の別サイトに強制的に引き抜かれた。

2.調査内容
 同センターは、2009年9月から2010年8月の12か月間について280以上の人権擁護団体や少数意見(dissent)グループに対するDDoS攻撃被害の実態について、多くがごく少数のため未報告となっていた140のメディア報告を発掘した。
 また、世界中の人権擁護団体や独立系メディア45団体(調査対象団体の14%にあたる)からDDoS攻撃内容の実態について直接内容を聞いた。
 回答があった団体のほぼ3分の2(約62%)にあたるものが過去1年以内にDDoS攻撃を受けており、また61%が自身のドメインにつき説明がつかないダウン時間を経験していた。

 感染率が特に高い国は、ビルマ、中国、エジプト、イスラエル、イラン、メキシコ、ロシア、チェニジア、米国およびベトナムのサイトであり、いずれも国内および国外から攻撃を受けていた。

 報告は、特に次のような事実を明らかとした。
①ロシアの自由主義・独立系メディア“Новая газета(Novaya Gazeta)”(筆者注1)において複数回かつ持続したかたちでDDoS攻撃が行われていた。
②ベトナムにおけるボーキサイトの採掘に対し異議を唱える組織を目標とした。
③いわゆる“Iranian Cyber Army”(筆者注2)がイラン政府の政策に反対するウェブサイト“mowjcamp.com”が具体的にハッキングされた。
④イスラム聖戦を勧め、自ら“Jester”(th3j35t3r)と名乗るハッカーが活動していた。“Jester”は11月末にWikiLeaksを追い立てたISP等に対する新たなハッカー犯行声明を行っているとされる。

3.ハッカーに狙われやすい団体をハッカーから守るために行うべきこととは
 今回の報告作成の中心者であるイーサン・ザッカーマン氏(Ethan Zuckerman)の強い懸念のコメントを紹介しておく。
人権擁護団体や少数意見を主張する極めて弱小メディアにとって、ただ知名度を上げたいだけのハッカーの餌食にならないための本音の意見が織り込まれていて興味深い。

 DDos攻撃の純然たる(sheer)可視性ならびにハッカー達が極めて効果的な技術(サイトをシャットダウンさせる)をデモすることで人権擁護サイトに対するDDoS攻撃の集中を誘導させることを懸念する。通常、人権擁護団体や少数派メディアは小規模や中規模のDDoS攻撃に対抗しうる大規模なプロバイダーと契約をする経済的な余裕がなく、またはサイトの内容を探られたり論争開始の最初に圏外に投げ出されてしまうことをためらう傾向にある。

 ザッカーマンは、この敵対関係の問題がこのレポートの最も面白い部分であることを認めている。すなわち、DDos攻撃を回避するためには、メディア達が彼らのサイトを守れるだけの大規模なプロバイダーに移行しなければならない。しかし、問題は正しいプロバイダーを見つけなければならないことである。

 “Tier 1”(筆者注3)と呼ぶ最大手のプロバイダーは小規模なプロバイダーに比べ明らかに利点を持つ。あなたがもし“Tier 1”であったとすると、あなたはクローズしたメーリング・リストにより結束され信頼度の高いシステムの一部となり、また“Tier 1”同志の友達を持ち、ネットワークの中で深いコンタクトを取り合う、その結果あなたはこのようなDDoS攻撃に打ち勝つことに寄与すなわち問題となるルート上の過剰トラフィックのゼロ化(null route )を求めることが可能となる。

 より小規模なISPやユーザー自身がホスティングする場合、この“Tier 1”のようなプロバイダーネット社会(old boy)の一部ではなく、圏外に置かれる。

 あなたのサイトの帯域幅を単にあふれさせるだけのDDoS攻撃において、上流に進まねばならないときに「フィルタリング」は機能しない。より大きなISPにアクセスできなければ本当の意味でDDoS攻撃を防ぐことは出来ない。封じ込まれてしまうだけである。

 人権擁護団体や少数派メディアに今迫る選択肢は、「岩」か「にっちもさっちもいかないこと」を選ぶか1つの同種の問題に直面している。

4.米国「電子公共図書館 (Digital Public Library of America, DPLA)設立構想」
 「米国ハーバード大学のBerkman Center for Internet and Societyは12月13日、米国電子公共図書館 (Digital Public Library of America, DPLA)設立のための調査と計画立案を同センターが中心になって推進することを発表した。A.P.スローン財団の資金援助を受け、電子公共図書館の目的、構造、コスト、運営などを定めるために、広汎なステークホルダーを招集し、2011年から活動を開始する予定。
電子公共図書館構想(つまり公的機関が保有するオンライン情報資産への一般市民のアクセスの改善)は数年前から提起されていたが、なかなか具体化しなかった。同じく図書館の蔵書の電子化を進めていたGoogleとの関係もあり、また電子化につきものの著作権問題もある。構想は誰でも思いつくが、実現には並々ならぬ覚悟と自信と調整能力が必要という、いわくつきのテーマだからだ。したがって今回、ハーバード大学図書館のロバート・ダーントン館長(写真左)を委員長とする運営委員会が、すでに協議を始めている議会図書館、国立公文書館、スミソニアン協会という3つの連邦機関と連携する形で作業を始めるのは、それ自体が大きなニュースと言える。」とリリースしたことが、わが国でも紹介された。


(筆者注1)“Новая газета ”とは、“New Gazette”という意味だそうである。
英語バージョンもあり、最近時のニュースを読んでみたが人権侵害問題が多い。なお、英語バージョンで“New York Times”という表示があったので除いたが「このページは存在しない」と記されていた。意味不明であるが、なんとなく裏がありそうである。

(筆者注2) “Iranian Cyber Army”とはイラン国民とはまったく関係ないハッカー・グループのようである。 ”Computerworld” の記事によると「問題のハッカー・グループは最近、DNSの記録を改変してユーザーを他のサイトをリダイレクトするという攻撃をTwitterや中国の検索サイト(百度:Baidu)日本語サイトもある)に仕掛けた。セキュリティ調査・運営会社の“Seculert”が調査したところ、同グループがボットネットを運営しさらボットネットを仕掛けたがっているハッカー達にサーバーをレンタルしている事実を突き止めたとしている。

(筆者注3) 大手プロバイダは,配下に中小のプロバイダを数多く抱え,それらから送られてくる膨大な数の経路情報を保持している。しかし,どんなに大規模なプロバイダでも1社だけでインターネット上のすべての経路情報を得ることはできない。そこで,同じ境遇のプロバイダ同士をつないで,それぞれのプロバイダが持つ経路情報を交換し合う。こうして,他のプロバイダと経路情報を交換するだけでフル・ルートを入手できるプロバイダを,「Tier1」と呼ぶ。(日経IT PROから引用) 具体的イメージ図参照。

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2010年12月25日土曜日

米国連邦議会上院も17年間続いた「1993年Don’t Ask,Don’t Tell Act」の単独廃止法案を可決・大統領署名により成立



 11月21日12月4日の本ブログで最新動向を紹介したこの問題につき、12月15日連邦議会下院は「1993年同性愛公言禁止法(DADT Act)」の単独廃止法案を可決した旨本ブログで紹介した。
 そこで述べたごとく12月18日に上院が同内容の法案(S.4023)を賛成61票、反対31票、棄権4票で可決した。

 この上院での可決を受け、オバマ大統領ゲイツ国防長官およびマレン統合参謀本部議長はそれぞれ歓迎する旨の声明を発表している。

 12月22日、オバマ大統領は同法案に署名し、同法は成立した。大統領は署名式典で、「われわれの国家は、すべての愛国者が軍務に就くことを歓迎する」と述べ、軍務規制撤廃の意義を強調した。(筆者注)

 しかし、下院で12月8日に賛成216、反対198で可決した“DREAM Act法案”については上院の採決では賛成55票、反対41票、棄権4票となり、共和党による議事進行妨害に対応するための60票に達せず可決しなかった。

 “DADT Act”の廃止に基づく米国軍の環境整備については本ブログでも紹介してきたとおり、DODを中心に具体的な取組みは進むものと思われるが、各軍にはそれぞれこの問題に対する独自の見解があり、最前線での対応を含め更なる課題をかかえた出発となろう。

 それ以上に大きな問題は“DREAM Act法案”であろう。まさにオバマ政権の後半の指導力が問われる問題として本ブログでフォローしたいと考える。

(筆者注)12月22日付けのホワイトハウス・ブログは「オバマ大統領が『2010年Don’t Ask Don’t Tell Act廃止法(Don't Ask, Don't Tell Repeal Act of 2010)』に署名」と題し、署名式典の模様として大統領の声明を紹介している。
 その中で大統領は66年前の欧州西部戦線でのパットン第3軍団の2人の軍人の命をかけた友情と後から分かったことであるが1人は同性愛者であったという例そしてその子供がここに出席していると述べた。締めくくりの言葉は「われわれは多様さから脱して、1つになろう(Out of Many ,We are One)」である。


〔参照URL〕
1.“DREAM Act法案”に関する米国メディアの解説記事
・http://colorlines.com/archives/2010/12/dream_act_passes_house_moves_to_senate.html
2010年12月8日の“DREAM Act法案”の下院での可決を巡る動き(12月9日付けColorLines)
・http://colorlines.com/archives/2010/12/dream_act_fails_in_senate_55-41.html
2010年12月18日、上院採決で絶対的多数票を得られなかったことに関する記事(12月18日付けColorLines)

2.共和党内の同性愛者グループであり、2004年に政府に向け告訴を行っている“Log Cabin Republican”の「DADT 法廃止法」に関する意見サイト
http://www.logcabin.org/site/c.nsKSL7PMLpF/b.6417371/k.C2D6/Dont_Ask_Dont_Tell.htm

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米国ハーバード大学バークマン・センターがDDoS攻撃から独立系メディアや人権擁護団体保護の具体策を提言(その1)



12月に米国ハーバード大学ロースクールのバークマン・センター(Harvard Law School’s Berkman Center for Internet & Society )が予算や人材等の制約等からサイバー攻撃とりわけDDoS攻撃にさらされやすい独立系メディアや人権擁護団体を保護すべく、このほど“Distributed Denial of Service Attacks Against Independent Media and Human Rights Sites”と題する全66ページからなる報告書を公表した。

筆者は、2006年に同センターが設立されて以来、検討グループ等に知り合いがおり、また随時直近の研究課題や議論のテーマ等の情報を得ている。本ブログで筆者が追いかけているサイバー犯罪問題の最重要課題の1つであるますます多様化し、また国家レベルでのDDoS攻撃が顕在化する中で社会正義の実現に向けたIT社会の課題と対処策を提言するものとして評価したい。

今回は、細かに解析する時間がないので要旨部分のみ仮訳を掲載する。


1.我々グループの調査・研究はますます一般的なインターネット現象であり、通常短い間隔であるが時として長時間インターネットによる対話を黙らせることができる「分散型サービス妨害(DDoS)」について考えることから始めた。
 我々は独立系メディアと人権擁護団体に対するDDoS攻撃の特有の事象・特性や頻度、その有効性、攻撃下での対処策について理解すべく研究した。
今回の同センターの報告は、DDoSによって狙われやすい独立系メディアと人権擁護サイトへ助言することが目的であるが、結果としては特にネットワーク回線容量に対する莫大なデータ攻撃(attacks that exhaust network bandwidth)等により、これらのサイトの多くにとってこれら攻撃への容易な解決策はないという不愉快な結論に至った。

2.主要な研究課題に関し、次の4つの調査質問に対する回答を試みることから始めた。
① 独立系メディアと人権サイトに対するDDoS攻撃はよく知られる選挙、抗議および軍事作戦の外において特にどれくらい一般的であるのか?
②独立系メディアと人権サイトに対するDDoS攻撃はどのメソッドを使用しているか?
③独立系メディアと人権サイトに対するDDoS攻撃の影響はどのようなものか?
④独立系メディアと人権サイトはどうしたらDDoS攻撃に対して自分たちを最もよく保護できるか?

3.これらの質問に答えるために、我々のグループは「2009年および2010年における関連研究プロジェクト」に関する解析作業を引き受けた。
① 攻撃での焦点が独立メディアと人権サイトにある状態で、私たちは次の手順によりDDoSのメディア報道に対するDDoSに関するデータベースを作成した。

②世界の複数地域において活動を行っている9か国の独立系メディアと人権擁護サイトの管理者について調査した。

③12人のサイトの管理者とのインタビューを行い、DDoS攻撃に苦しみ、またうまくかわした彼らの経験について議論した。

④独立系メディアのサイト管理者と基幹ネットワークの専門家との会合を開き、DDoS攻撃を回避するため人権擁護および独立系メディアの共同組織化のニーズおよび基幹ネットワークの専門家と独立メディアと人権擁護に関する情報発行者との具体的な協力(collaboration)の可能性について議論した。

4.我々の研究結果は、次のような対応策を示した。
①独立系メディアや人権擁護サイトに対するDDoS攻撃は、2009年では選挙、抗議および軍事作戦のほかの分野でさえ一般的であった。 最近大々的にピーアールされた”Wikileaks”に対するDDoS攻撃および”Operation Payback”(筆者注1)といった”Wikileaks”の敵とみなす企業・機関等のサイトへの「匿名」攻撃がより一般的になると予想する。

②独立系メディアや人権擁護団体のサイトは、DDoS攻撃に加えウェブサイトへの違法なフィルタリング、不法占拠(intrusions)、無権限改変(defacements)(筆者注2)等さまざまな異なるタイプのサイバー攻撃を受けており、これらの違法行為は相互に複雑な方法で影響し合っている。

③独立系メディアと人権擁護サイトは、通常は熟練したシステム管理によりリスクを緩和させているローカルサーバ・リソースを使い果たす「アプリケーションDDoS攻撃」にさらされる一方で、高額な支出を伴うホスティング・プロバイダー(筆者注3)の助けにより帯域幅を使い果たす「ネットワークDDoS」のリスクを緩和させるしかないという両面からリスクにさらされている。

④独立系メディアと人権擁護サイトに対してDDoS攻撃を緩和させるためには、それらのサイトでインターネットのコア部分、 すなわち極めて数が少ない、特にネットワークDDoSは攻撃に対し経験とリソースをもっている大手ISPやウェブサイト、ならびに「コンテンツ配信ネットワーク(CDNs)」 (筆者注4)のより近くに移行することが必要となろう。

5.我々は独立系メディアと人権擁護サイトに対してDDoS攻撃に次の対処策を勧奨する。
①「静的なHTML」(筆者注5)を使う複雑なコンテンツ管理システム(CMSes)(筆者注6)に置き換えるか、または対話性を犠牲にして内容を提供するために攻撃的なキャッシュ・システムを追加することによって、強くアプリケーション攻撃を緩和できます。

②すべての組織・団体は、無料でかつ高度にDDoS攻撃に対抗力がある”Blogger”のようなホスティング・サービスを使うかどうかという点につき、権威のための費用、機能性および可能な仲介者による検閲のリスク等慎重に検討すべきである。 それら自身のサイトをホスティングするのを選ぶ際、組織・団体は、それらの計画プランにおいてダウン時間として受け入れられるレベルを含むあらかじめサイバー攻撃に対処すべき計画を立てるべきである。

③それら自身のサイトをホスティングする方式を選ぶ組織・団体は、攻撃を検出し、必要に応じサイト性能を下げて、Bloggerのような無料でかつ高度にDDoS攻撃に抵抗性が高いホスティング・サービスのバックアップの再処理を委ねるためにシステムを使用するべきである。簡単で人気があるコンテンツ管理システム・モジュールは、この過程を自動化して、DDoS攻撃による分裂被害を最小にするかもしれない。

④人権擁護団体の資金供給者は攻撃されたサイトにつき共同体で地元の専門家を特定し、DDoS攻撃やその他の攻撃に対して防御する技術的手段だけではなく、それぞれの地域の共同体に関する知識と信用も必要とすることを支持すべきである。

⑤人権擁護団体の資金供給者は、地元の人権擁護コミュニティの専門家への資金供与を行い、また大手ネットワーク機関が進んで人権擁護団体のサイトを手助けお互いと共に働けるよう配慮すべきである。

⑥人権擁護コミュニティは、インターネット接続サービス業者(ISP)と協力し、DDoSからサイトを保護するために働いて、法律が必要としない限り論議を呼んだ内容を取り除かないことに同意するオンラインサービス・プロバイダー(OSPs)を特定し、共に働くべきである。

⑦我々は、独立性のある報道機関および人権擁護団体に対して、DDoS攻撃の増加とその対処に関し、取り込むべき合法的な利益の幅とのバランスを取った持続可能な長期のアプローチに向けた視点に基づき、さまざまな政策対応について幅広い公開議論を行うよう提案する。

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(筆者注1) “Operation Payback”とは”wikilweaks”を支援する緩やかに結束したハッカーグループによる同サイトの敵と見なした企業や組織をオンラインで攻撃する戦略であり、マスターやビザカードといったクレジットカードの決済処理への影響、アサンジ氏の口座を凍結させたスイス系銀行(Julius Baer Bank and Trust Company)の決済サービスの中断、Paypalの公式ブログの停止等がその結果であるとされている。

(筆者注2) ウェブサイトの”defacement”攻撃は、かなり以前から問題となっている。その最大の話題は、ロシアによるグルジア共和国の外務省等政府機関のサイトを改ざんした例が代表的である。この事件についてNATOが解説している(この解説はクイックヴューでしか見れない)。
なお、IT分野に詳しい弁護士の高橋郁夫氏が2009年開催した会議“CCD CoE "Cyber Conflict Law and Policy Conference" :International Cyber Conflict Legal & Policy Conference 2009の報告において、2007年4月のエストニア共和国の政府サイト等へのDDoS攻撃、および2008年8月のグルジア共和国の公的機関だけでなくあらゆるウェブサイトの接続がDDoS攻撃により困難となった事件を例に「サイバー戦争の概念」ならびに「サイバー戦争の法的概念」等を論じている。わが国では、この種の論文は少なくまた、現実の拡大している問題を正面から取り上げており、貴重な論文と考える。
その他、英国マクロソフトのサイト等がエジプト語に書き換えられる被害にあっている等多くの例がある。一方、合法的Defacementの手口の動画解説も、サイト上ではごく一般的である。

(筆者注3) 「ホスティング・プロバイダー」とは、インターネットに接続可能なサーバーを有料で貸し出すプロバイダ業者(レンタルサーバー会社)をいう。ユーザーのメールやウェブサービスを預かり運用していくホスティング・サービスで、 ホスティングにはサーバーを複数のユーザーで共有する「共有ホスティング」と1人のユーザーで1つのサーバーを占有して利用する「専用ホスティング」がある。ただし、バークマンセンターが「オックスフォード大学インターネット研究所(Oxford University’'s Oxford Internet Insitute)」とともに中心となってサイバーセキュリティ問題ととりくんでいる   NPO”StopBadware.org”は、その活動の中でコンピュータ・ウイルスに感染した数多くのWebサイトを運営しているホスティング・プロバイダーも名指ししており、ホスティング・プロバイダーといえども安全ではないとされている。
なお、”StopBadware.org”のIT業界パートナーは、AOL,Google,Lenovo,Paypal,Trend Micro,Verisign等である。

(筆者注4) 「コンテンツ配信ネットワーク(CDNs)」とは、ファイルサイズの大きいデジタルコンテンツをネットワーク経由で配信するために最適化されたネットワークのこと。CDNを構築・運用し、企業などに有料で利用させるサービスを「コンテンツ・デリバリサービス(CDS)」という。

(筆者注5)「静的なHTML形式のページ(static HTML page)」とは、直接サーバーのディスク上でファイルを公開・使用するウェブページである。 ほとんどの洗練されたウェブサイトが、静的なHTML形式のページを使用するのではなく、むしろ各要求の都度しばしばデータベースに質問しサーバ・アプリケーションでHTMLを生成する「動的ページ(dynamic page)」を使用する。 動的ページは、かなり多くの機能性を持つが、簡単な静的なHTMLページ(サーバが同時に扱うことができる要求の数を減少させる)に比べ高価である。
なお、「要旨」では出てこない用語であるが、本文および「用語一覧」に出てくる“ping of death”について補足しておく。”ping”はもともとネットワーク相手に接続し、コンピュータが応答するかどうかを調べる単純かつ最小限の要求プログラムだが、”ping of death”はこれを使って規定のサイズを遥かに超える巨大なIPパケットを相手に送り付け、対象のコンピュータやルータをクラッシュさせてしまうサイバー攻撃手法をいう(「IT用語辞典」から引用の上、バークマン・センターの用語解説に基づき補完)

(筆者注6)コンテンツ・管理システム(Content Management System,CMSes)とは、Webコンテンツを構成するテキストや画像などのデジタル・コンテンツを統合・体系的に管理し、配信など必要な処理を行うシステムの総称である。“CMSes”はウェブサイトのエディタが手の編集HTMLファイルを手で編集するというより、むしろウェブサイト自体直接を通ってウェブ内容を編集できるウェブア・プリケーションである。過去10年間、CMSsは機能面において劇的な成長を見た。現在使用中の最も人気がある無料CMSsには、“WordPress”“Drupal”の2つがある。


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2010年12月20日月曜日

米国連邦控訴裁判所が裁判所の許可なくISPの保持するEメール・データの押収・捜索行為を修正第4に基づく違憲判断



12月14日、筆者の手元に米国人権擁護団体である「エレクトロニック・フロンティア・ファンデーション(Electronic Frontier Foundation:EFF)のプレス・リリースが届いた。(12月14日付けのCNETJapanがこの判決を紹介しているが、法的な意味で説明不足の感がある。)

その内容は、初めて連邦控訴裁判所のレベルにおいて連邦捜査機関が連邦憲法修正第4(筆者注1)に基づく裁判所の許可なくサービス・プロバイダーが保持する電子メール・データを秘密裡に押収・捜索した行為はプライバシー保護に違反するとの連邦司法上画期的判決を下したというものである。
同時に、この裁判において果たしたEFFの役割(法廷助言者(amicus curiae:(ラテン語)アミカス・キュリエ:amicus briefともいう)の大きさとその成果を広く訴える内容である。

わが国でも犯罪捜査におけるISP(インターネット・サービス・プロバイダー)が保持する電子証拠は極めて証拠としての有用性が高いものであり、通信傍受にかかる憲法(21条(通信の自由の保障)やプライバシー権)ならびに刑事訴訟法上の問題をあらためて正面から取り上げるべき時期が来ていると考える。(筆者注2)(筆者注3)

また、この問題に関連し、EUの「通信記録データ保持指令(2006/24/EC)」を受けたドイツ国内立法につき、2010年3月2日にドイツ連邦憲法裁判所(Bundesverfassungsgericht:Federal Constitution Court)は、法執行機関が活用できることを目的とする携帯電話や電子メール等の6か月間の通話記録の保持を定めた現行通信法の規定は連邦憲法に違反する可能性が高く大幅な修正を求める旨判示した。

さらに、オーストラリアでは、1979 年 電気通信傍受法(Telecommunications (Interception) Act 1979:以下、「傍受法」)により、当局が犯罪捜査の目的で傍受を行う場合は、電話などの非蓄積通信、電子メールやボイスメールなどISPのサーバー上にある蓄積通信の如何を問わず、従来は「傍受令状(interception warrant)」という要件が厳格な特別令状を必要としていた。
しかし、反テロ法パッケージにおける一部法改正案が端緒となり、テロ行為など重要犯罪の予防捜査の実効性を上げるため、「通常令状」のみで傍受可能とすべきとして、傍受法改正の機運を受けて改正が行われ、1年の時限立法とはいえ、2002年以降何度か試みられてきた一連の傍受法改正の動きが一定の決着をみている。


1.第6巡回区連邦控訴裁判所判決の内容と今後の検討課題
EEFのプレス・リリースに基づき、そのポイントをまとめておく。

(1) 12月14日に宣告された「U.S.v.Warshak事件」の刑事控訴審判決
連邦第6巡回区控訴裁判所は秘密裡にISPによって格納された電子メールを押収、捜索を行う前に検察当局(政府)は家宅捜索令状を得なければならないと判示した。同裁判所は、 法廷助言者(amicus brief)(筆者注4)であるEFFによって行われた厳密な議論を追跡して、電子メール・ユーザーは電話や郵便と同様に、電子メール・ユーザには彼らのISPが格納する電子メールについても同一の合理的なプライバシーの期待権があると判断した。

EFFは、2006年に民事訴訟事件において第6巡回区連邦控訴裁判所に対し、被告の電子メールに関する令状なしの押収に政府に対して今回の被告人Warshakに関し提出したのと同様の趣旨の「法廷助言者意見書」を提出した。
そこでは、第6巡回区連邦控訴裁判所は、電子メール・ユーザにはプライバシーへの彼らが自分達のメール・プロバイダーが格納する電子メールにおけるプライバシーに関する憲法修正第4により保護されるという期待があると判示しEFFに同意した、その決定は後に手続上の根拠により無効(vacated)とされた。
その後、被告人Warshakは刑事有罪判決に関する控訴として第6巡回区連邦控訴裁判所に問題を戻したところ、同裁判所は、再度EFFの意見に同意して、電子メール・ユーザーには彼らのメール・アカウントの内容についてのプライバシー権につき連邦憲法修正第4にいうところの保護されるべき合理的な期待があるという考えを支持した。

(2)裁判所が本日判示した結果による捜索等への影響
電子メールと郵便や通話のような伝統的なコミュニケーション形式の間の基本的な類似性を考えると、憲法修正第4の保護レベルをより減らすということは常識的に拒否されるであろう… すなわち電子メールも連邦憲法修正第4の下で強い保護を必要とするということになる。さもなければ、修正第4は私信に関する効果が薄い守護者、それが長い間認識されてきた不可欠の目的、警察は郵便局を攻撃して手紙を傍受してはならない・・が役立つと立証するであろう。また、警察は捜査令状を手に入れない限り、通話の秘密の録音をする目的で電話システムを使用することは同様に禁じられる。すなわち、その結果政府の捜査員がISPにその加入者のEメールの内容を明け渡すことを強制する場合、それらの捜査員は捜索令状の要求規定の遵守を求める連邦憲法修正第4による捜査令状に基づく捜査を行う方が、理にかなうというわけである…

本日の判決は、直接的にこの極めて重要なプライバシーの問題(現行の連邦法特に「保管された通信に関する法律(Stored Communication Act:SCA)」(筆者注5)で政府が証明書なしで多くの状況の下でメールを秘かに入手できるという事実によってひとしお重要とされた問題の判決として)について判断を下した現在記録された唯一の連邦上訴審決定である。

EFFは、この判決により連邦議会がEFFとそのパートナーとして「デジタル・デュー・プロセス連合(Digital Due Process coalitation)」が訴えてきた法の見直しを進めることを願う。
そうすることが、捜査当局(政府)が裁判官に対し逮捕令状または捜索令状の公布を求めうる「相当な理由(probable cause)」なしに秘かに他人のメールの提出を電子メール・プロバイダーに要求したときに、プロバイダーが確信をもって 「捜索令状に戻ってください」ということができるのである。

(2) 「1986年電子コミュニケーション・プライバシー法(ECPA)」の一般原則と例外
“EPCA”は、電子、コンピュータまたはインターネットによる交信を傍受し、利用または開示するといった行為を原則禁止している。また、“ECPA”は3編の制定法からなるが、第Ⅱ編で蓄積されたコミュニケーションおよびインターネット・サービス・プロバイダーのようなコミュニケーションサービス提供者の保有する記録へのアクセス規制(Stored Communications Act )を含んでいる。3編の法律はいずれの法律も同法が禁止する行為により損害が発生した場合に被害者に私訴の権利を付与している。
”ECPA”は、刑事犯罪の捜査にかかるプライバシーと市民権の保護目的で情報の傍受行為やプロバイダーが保管する通信データの内容の入手の禁止規定を定めており、以下の3つの犯罪行為類型を提供している。

第1に、18 U.S.C. §2511 (1)は、同法の他の条項により特に許容されていない限り、あらゆる「電線、口頭または電子的な交信」の内容および「電子的、機械的な装置」を用いて自らまたは他人をして故意、無権限の傍受、利用または開示の実行および試みる行為を処罰の対象としている。
また、「傍受」とは§2510(4)において「電子的、機械的またはその他の装置を使って行われた電線、口頭または電子的な交信内容を取得すること」と定義されている。
ただし、18 U.S.C.§2511 (2)で次のような例外規定を定める。
①交換業務のオペレータや通信サービス・プロバイダーの役員・従業員等がサービス提供目的で通常の業務の遂行上で行う傍受、開示や利用は合法行為として除く。
②他の法律の定めにかかわらず電子通信等のプロバイダーの従業員等は、1978年海外諜報法第101条により法律に基づく権限を持つ者とする。

第2に、18 U.S.C. §2512 は、郵便や州際間または国際商取引を通じて、故意に「主に電線、口頭または電子的交信を秘密裡に妨害する目的に資する」装置を送付または搬送する行為を刑事犯罪とする。これらの規制は、かかる装置の製造、販売および広告にも広く適用する。

第3に、18 U.S.C. §2701は以下の者に刑事罰を課す。すなわち、「故意かつ無権限で電子的な交信サービスを提供する設備にアクセスする者」および「電子的にシステムの中に蓄えられている際に、故意に権限を逸脱してかかる設備にアクセスし、送信または電子的交信へのアクセス権を獲得、変更または妨害する者」を処罰する。
(経済産業省『セキュリティホールに関する法律の諸外国調査』報告書の翻訳文を下に法律の原文に基づき修正を加えた。)

2.EUにおけるISPの通信記録データ保持の義務化国内法の違憲問題やEU機関への問題指摘に関する議論

(1) EUの「通信記録データ保持指令(2006/24/EC)」
2005年9月21日に欧州委員会はテロ対策目的での通信事業者による通信記録の保持(Data Retention)を義務付けるEU 指令案をまとめた。同案は、電気通信または通信ネットワークを提供する事業者に対し、固定電話や携帯電話の通信記録は「1年間(12か月)」、インターネット通信記録は「半年間(6か月)」の保持を義務付ける等の内容となっており、欧州委員会は、司法当局が重大犯罪やテロについて捜査を行う際に、通信記録は重要な手掛かりになるとの考えを示した。

同案は修正の上、2005 年12 月19 日の欧州議会で可決、2006 年2 月22 日に欧州理事会で承認され、3 月15 日に「EU指令2006/24/EC」として公示された。EU 加盟各国は、18か月以内に指令内容の実施に必要な措置を講ずるよう求められることとなった。

同指令によれば、ISP 等の通信事業者は、法人・自然人の通信・位置データ(ネットワーク参加者や登録者に関するデータも含む)の保持義務を負う。保持項目は、①発信者、②通信年月日・時刻、③通信手段、④接続時間等であり、プライバシーを守るため通信データの内容そのものの保持は求められていない。保持されたデータは、各国の国内法で定める重大犯罪につながる特定の事例において、管轄国家機関による調査、捜査、訴追を目的とした利用が可能である。

(2)ドイツの国内法の成立と連邦憲法裁判所の違憲判決
ドイツは、「2004年通信法(Telekommunikationsgesetz vom 22.Juni 2004(BGBl.IS.1190):TKG)」において、EU 指令(2006/24/EC)を受けて、2007年12月21日「通信の監視およびその他秘密裡捜査対策ならびに2006/24/EG指令の適用に関する法律(Gesetz zur Neuregelung der Telekommunikationsüberwachung und anderer verdeckter Ermittlungsmaßnahmen sowie zur Umsetzung der Richtlinie 2006/24/EG )」(筆者注6)2条「通信法の改正規定(Änderung des Telekommunikationsgesetzes)」に基づき新規定(§§113a,113b)等を追加した。また、同法9条で「刑事訴訟法(Strafprozessordnung:StPO)」に新規定(§100g)等を追加した。

しかし、2010年3月2日にドイツ連邦憲法裁判所(Bundesverfassungsgericht:Federal Constitution Court)は、法執行機関が活用できることを目的とする携帯電話や電子メール等の6か月間の通話記録(通信事業者に携帯電話を含む通話記録(日時や相手の電話番号)、IPアドレス、電子メールのメールヘッダ等)の保持を定めた現行通信法(TKG)の規定(§§113a,113b)および刑事訴訟法(§100g)の規定は、連邦憲法に違反する可能性が高く、大幅な修正を求める旨判示した。(裁判所リリース文)

今後法改正の手続が行われるが、改正法の施行時までドイツの通信プロバイダーは現時点で直ちに保持されているデータの完全削除ならびに適所での厳格な保管義務を負うこととなった。

裁判官は判決文においてデータの保存手続において十分な安全対策が行われておらず、またそのデータの使用目的は十分明確化されていないと指摘した。ただし、原告側はデータ保持法の完全な無効化を求めていたが、裁判所は通信データの保存と利用に関するルールを厳格化したうえで法律を運用すべきだとの判断を示した。具体的には、(1)通信データを暗号化してセキュリティを強化する、(2)データ管理の透明性を高めてデータの利用目的などが明確に分かるようにする、(3)連邦データ保護監察官が通信データの管理プロセスに関与する体制を整える― などの対策を講じるよう求めている。

本裁判は、原告団(Der Arbeitskreis Vorratsdatenspeicherung :AK Vorrat)が約35,000人とドイツの裁判史上記録的な数であり、また現法務大臣であるサビーヌ・ロイスーサー・シユナーレンブルガー(Sabine Leutheusser-Schnarrenberger)も加わるなど多くの話題をもたらした裁判である。

筆者の手元に連邦法務省のリリースが届いたのは日本時間で2010年3月2日午後11時過ぎであったが、リリース文のみでは何が問題なのか良く理解できなかった。そこでドイツのメディア記事や連邦憲法裁判所のリリース内容を確認した結果をまとめたいと考えていたところ同裁判所サイトに判決文要旨とともに掲載された。

(3)データ保持に関するEU加盟国等の法制化の状況と見直しに向けた動き
ドイツ憲法裁判所判決文は、2004年ドイツ通信法等がEU指令の目的を超えた内容であると指摘しており、今後の改正の内容は他のEU加盟国の通信関係法にも影響を与える可能性も大きいと考えられる。
これらの今後のEU委員会やEU加盟国への影響等についてわが国のメディア等で言及しているものは皆無であり、今回のみでは問題点を網羅することは難しいと考えるが、手元にある関係機関の資料の範囲でまとめておく。(筆者注7)

A.“AK Vorrat”はウェブサイトでスイスやブラジルを含むEU加盟国等31カ国におけるデータ保持に関する国内立法化状況の詳細な一覧(2010年11月3日更新)を公表している。

B.ドイツでは、個人情報の保持そのものの反対グループである“Daten-Speicherung,de”等が中心となってEU保持指令そのものの見直し等を強く求めている。
同グループのサイトから参考となるであろうEU加盟国やEU機関に対する関係グループの動きを概観する。

①2010年4月に欧州委員会が2008年11月の司法・域内問題政策委員会(Justice and Home Affairs policy Council:JHA council)委員会の指摘を受けてまとめた指令の評価、特にプリペイド式携帯電話に関する規制につき非立法的手段や技術的な解決策の「評価報告書(草案)」がリークされた。

②2009年10月8日、ルーマニア憲法裁判所は保持行為自体が「欧州人権条約(Convention for the Protection of Human Rights)」第8条に違反すると判示した。

③2010年5月、アイルランドの高等裁判所は欧州司法裁判所に対し、保持指令が「欧州基本権憲章(EU Charter of Fundamental Rights)」に違反するか否かの司法判断を求めた。

④2010年6月、EUの23か国の100以上の団体がEU域内担当委員セシリア・マルムストロム(Cecilia Malmstrom)、副委員長(Justice, Fundamental Rights and Citizenship担当)ヴィヴィアン・レディング(Viviane Reding)および副委員長(Digital Agenda担当)ネリー・クルース(Neelie Kroes)に対し、人の移動データ(traffic data)に関するより進んだかたちの保存や対象を絞った収集方法についてのEU委員会の要求を撤廃するよう共同意見書を提出した。

⑤2010年7月27日、欧州委員会は加盟国に対し、EU 指令(2006/24/EC)の下で交信ログについて保持状況について更なる情報の提供を求めた

欧州委員会は、2010年末にはEU指令に関する「評価報告および推奨報告」を欧州議会および欧州連合理事会に提出する予定である。

3.オーストリアにおけるサイバー犯罪対策としての令状主義の緩和措置
「オーストラリアでは、「1979年電気通信傍受法( Telecommunications
(Interception) Act 1979」
:以下、「傍受法」)により、当局が犯罪捜査の目的で傍受を行う場合は、電話などの非蓄積通信、電子メールやボイスメールなどISPのサーバー上にある蓄積通信の如何を問わず、従来は、46条以下で「傍受令状(interception warrant)」という、要件が厳格な特別令状を必要としていた。

しかし、政府が2002年に提案した反テロ法パッケージにおける一部法改正案が端緒となり、テロ行為など重要犯罪の予防捜査の実効性を上げるため、これら蓄積通信に対しては傍受令状なしに、すなわち「通常令状」のみで傍受可能とすべきとして、傍受法改正の機運が高まっていた。今回の改正は1年の時限立法とはいえ、2002年以降何度か試みられてきた一連の傍受法改正の動きが一定の決着をみたものである。」(2005年4月KDDIレポートから抜粋のうえ、一部筆者が法律の原文に基づき補筆した。

その後はどうなっているのか。オーストラリアでは、今回の改正以前にも「傍受法」は多くの問題点をはらみ、都度改正が行われてきている。これらの経緯をならびに筆者が参加しているオーストラリアの人権擁護グループ(EFA)のメンバーとの意見交換結果等を含め機会を見て別途まとめたい。

なお、本ブログでは「オーストラリアのネットワーク管理者等の防衛的な傍受・アクセス行為に関する法律改正」と題して2010年2月19日の「傍受法」改正の経緯を取上げている。参照されたい。

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(筆者注1)合衆国憲法修正第4 [不合理な捜索・押収・抑留の禁止] [1791 年成立]
「国民が、不合理な捜索および押収または抑留から身体、家屋、書類および所持品の安全を保障される権利は、これを侵してはならない。いかなる令状も、宣誓または宣誓に代る確約にもとづいて、相当な理由が示され、かつ、捜索する場所および抑留する人または押収する物品が個別に明示されていない限り、これを発給してはならない。」なお、原文は”The right of the people to be secure in their persons, houses, papers, and effects, against unreasonable searches and seizures, shall not be violated, and no Warrants shall issue, but upon probable cause, supported by Oath or affirmation, and particularly describing the place to be searched, and the persons or things to be seized.”である。
合衆国憲法修正第4条に加えて、合衆国憲法修正第14条の「適正な法手続き(デュー・プロセス)条項(Due Process Clause)」もまた、プライバシーの法的根拠になっている。連邦最高裁判所の解釈では、「適正な過程条項」は、主として刑事訴訟に関わる手続き上の権利について言及しているだけでなく、個人の自由に関する「実体的」権利を含んでいる。」
(訳文および解説は米国日本大使館サイトから抜粋)

(筆者注2)本原稿の執筆にあたり、財団法人社会安全研究財団「諸外国におけるインターネットカフェ関連法制に関する調査報告書」(平成19年11月発行)を一部参照した。

(筆者注3) 「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」(平成11年8月18日法律第137号最終改正:平成19年11月30日法律第120号)は、145回通常国会(平成11年)において可決成立した「組織的犯罪対策三法」の1つであり、この法律は、銃器、薬物、集団密航、組織的に行なわれた殺人の4種類の犯罪を対象に、組織犯罪を摘発するために、捜査機関による通信傍受(電話、FAX、電子メールをはじめとするコンピュータ通信一般)を限定的に認めるものである。

(筆者注4) 法廷助言者(amicus curiae:(ラテン語)アミカス・キュリエ:”friend of the court”の意味)による趣意書(amicus curiae brief):法廷助言者は、裁判所からの要請や許可を得た個人・組織がなり、裁判所に意見書(amicus (curiae) brief)を提出したり、口頭で意見を述べる。この制度は主に社会的、政治的、経済的影響のある事件で利用されている。アミカス・キュリエとなるための要件や手続は各裁判所規則で定められている。(より具体的な意見書例として関連論文等が参考となる。)裁判所は第三者意見に拘束されるということはないが、権威ある学者や擁護団体の意見等は十分に考慮される。意見書といっても、もちろん単なる結論だけの意見では採用されず、かなり緻密に立法時の議会での議論や憲法上の根拠、判例の変遷などを踏まえたうえで法的議論を練る必要がある。

(筆者注5) 「保管された通信に関する法律(Stored Communication Act)」は、「1986年電子通信におけるプライバシー規制法(Electronic Communications Privacy Act of 1986:ECPA)の一部である。すなわち「ECPAは、従来の電話盗聴法(Title III of the Omnibus Crime and Control Act of 1968)(旧Wiretap Act)を電話による通話からインターネット等新たなコミュニケーション手段の発達に合わせて拡張したものである。大きく分けて3 編からなり,第1 編は,人のコミュニケーション(電線経由,口頭,電子的手段による)の傍受の規制(Title I 通称“Wiretap Act”)である。
第2 編は,蓄積されたコミュニケーションおよびインターネットサービスプロバイダーのようなコミュニケーションサービス提供者の保有する記録へのアクセス規制(Title II 通称“Stored Communication Act:SCA”)。第3 編は,通話番号記録器等の通話者を特定する機器の規制(Title III 通称“Pen Register and Trap and Trace Statute ”)である。
さらに2001年には“PATRIOT Act”により、ECPAは新技術による適用範囲の拡大やISP等の保管するデータへのアクセスの条件の緩和が行われた。
また、司法省コンピュータ犯罪および知的財産部が策定した「犯罪捜査目的のコンピュータおよび電子証拠物の捜索、押収に関するマニュアル」はさらに詳細な内容を定めている。
米国連邦法におけるプライバシー権と市民的自由に関する制定法についての司法省の解説サイト参照。
なお、米国人権擁護NPOであるEPICの”Electronic Communications Privacy Act (ECPA)”の詳細な解説サイトは貴重な解説内容である。

(筆者注6) 2007年12月21日「通信の監視およびその他秘密裡捜査対策ならびに2006/24/EG指令の適用に関する法律(Gesetz zur Neuregelung der Telekommunikationsüberwachung und anderer verdeckter Ermittlungsmaßnahmen sowie zur Umsetzung der Richtlinie 2006/24/EG )(BGBl IS.3198)」

(筆者注7)ドイツの経済情報紙「NNA.EU」の日本語版「独憲法裁、EUデータ保存法に違憲判断」は、比較的正確に紹介している。

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[参照URL]
・米国エレクトロニック・フロンティア・ファンデーション(Electronic Frontier Foundation:EFF)のプレス・リリースhttp://www.eff.org/deeplinks/2010/12/breaking-news-eff-victory-appeals-court-holds
・EFFの本裁判での法廷助言者(amicus curiae)書面の内容
https://www.eff.org/files/filenode/warshak_v_usa/warshak_amicus.pdf
・2010年3月2日のドイツ連邦憲法裁判所(Bundesverfassungsgericht)の違憲判決
http://www.bundesverfassungsgericht.de/entscheidungen/rs20100302_1bvr025608.html
・オーストラリア「1979年電気通信傍受法( Telecommunications
(Interception) Act 1979」
http://www.comlaw.gov.au/ComLaw/legislation/actcompilation1.nsf/0/C999F984B945ADF8CA256FB70020F697/$file/TelecommInt1979_WD02.pdf


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