2011年2月12日土曜日
米国の全土3分の1にわたるブリザードや寒波対策のため6州知事の非常事態宣言等と州兵の稼動状況
2月2日、DOD(防衛総省)の連邦州兵総局(National Guard Bureau:NGB)から届いたリリースでは、米国全土の3分の1にわたるブリザード(筆者注1)や極めて強い冬の嵐により現在6州が非常事態宣言を発布しており、その他の州も含め11の州から連邦州兵(筆者注2)約1,100人が各地で活動を開始したり、待機態勢に入ったと報じている。
また、同時に米国DODは全米の州兵全体の員数についても公表した。
世界全体にわたる異常気象の問題は今さら始まったことではないが、米国の最新情報を伝えるべくこのニュースの概要を紹介する。これに関し、筆者は別途米国地質調査局(USGS)等の多角的大規模災害実証計画の第二段:米国西海岸地域「冬季スーパー嵐(ARkStorm)シナリオ」動向について別ブログでまとめたので併せて読まれたい。(筆者注3)
今回の北米における大寒波( 「2011年啓蟄の冬嵐(2011 Groundhog Day Blizzard)」と命名されている)を巡る連邦機関の対応とりわけ「連邦非常事態管理庁(FEMA)」の取組み状況をチェックしてみた。
やはり、直近で見た大統領の非常事態宣言はメイン州(暴風雨:severe stormおよび洪水で2月1日発布)、カリフォルニア州(吹雪(winter storm)洪水および泥流・土石流(Debris and mud Flows)(筆者注4)で1月26日)(この2州はMajor Disaster Declarations)、オクラホマ州(2月2日発布)、ミズリー州(2月3日発布)、ニュージャージー州(2月4日発布)、ウタ州(2月11日発布) 、 オレゴン州(2月18日発布)、コネチィカット州(3月3日)、マサチューセッツ州(3月7日)、イリノイ州(3月17日)、ミズーリ州(3月23日)、ニューメキシコ州(3月24日)、、ワシントン州(3月25日)、ウィスコンシン州(4月5日)であり、本ブログで取上げた州の取組みとほぼ重なりつつある。2005年8月のハリケーン「カトリーナ」で問題となった連邦政府と州政府等による州兵の派遣を巡る対応の矛盾が、またも繰り返されないことを祈りたい。(筆者注5)
なお、米国の大寒波による被害は昨年末から続いており、市民生活等にも重大な影響が及んでおり、例えば金融監督機関である連邦預金保険公社(FDIC)は昨年末頃からのメイン州を襲った猛烈な嵐や洪水による金融業務や地元の復旧活動を支援すべく関連通達を発出している。(筆者注6)
1.6州の非常事態宣言や他州における州兵の派遣要請
(1)州知事による非常事態宣言や州兵の派遣活動状況
2月1日東部時間午後6時時点でイリノイ、インディアナ、カンサス、ミズリー、オクラホマ、ウィスコンシンの6州の知事(筆者注7)は非常事態宣言を発布、アーカンサス、イリノイ、アイオワ、ミズリー、テキサス、ウィスコンシンでは州兵が救援活動を開始した。
一方、インディアナ、カンサス、ニュージャージー、オクラホマおよびペンシルバニアの州兵が待機態勢に入った。
ミズリー州のミズリー州のジェイ・ニクソン知事(Jay Nixon)が非常事態宣言を行った1日後、ミズリー州兵全州にわたる緊急任務に当たるため600人の陸軍州兵と州兵空軍が召集された。同州の人事統括最高責任者・上級幕僚(Adjutant General)であるステーブン・L.ダナー陸軍少将(Army Maj.Gen.Stephen L.Danner)は「同州の州兵((Citizen Soldiers)(筆者注8)は、3つの機動部隊に広がっている。わが軍は何ダースにわたる部隊が海外展開を担っており、かつ2005年以来18州の緊急任務にも当たっている。
セントルイスに基地をもつ東部機動部隊、カンサスシティに基地をもつノースウェスト機動部隊、およびスプリングフィールドに本拠をもつサウスウェスト機動部隊の陸軍州兵と州兵空軍は州警察等と連携を図りつつ、1軒ごとに安全確認や、高速道路や緊急対応車両用の通路確保のための雪かき等を行っている。
以下、DODが2月2日に発表した各州別の州兵の活動状況のポイントを述べておく。
①イリノイ州
500人以上の州兵を派遣、足止めされた車両の救助等を行っている。
②アーカンソー州
州兵約5人が緊急輸送の支援を行っている。
③インデイアナ州
州兵はまだ活動は行っていないが、約875人が待機態勢に入っている。
④アイオワ州
約30人の州兵が足止めされた車の救助作業を行っている。
⑤カンサス州
州兵派遣を含む緊急支援の発動を宣言した。
⑥オクラホマ州
FEMAの活動のために同州の空軍基地を提供しているが州兵そのものは活動していない。
⑦テキサス州
約30人の州兵が足止めされた車の救助作業を行っている。
⑧ウィスコンシン州
州兵空軍の人事統括最高責任者・上級幕僚に対し、必要に応じ自治体の支援するため州兵の活動を行うべき権限を命じた。
⑨ニュージャージー州とペンシルバニア州については予備州兵がいるが、2月1日夜の段階では知事からの任務要請は行われていない。
(2)州兵総局(NGB)の情報にみる新たな課題
前述したとおり、NGBのデータによるとこれだけの大規模災害でありながら州兵の派遣数は1,100人であるという現実はカトリーナの災害地支援の際、海外派兵で派あまりにも少ないと思えるし、また連邦軍の国内活動投入については連邦法の規制があり、自然災害からみの治安維持などには主に警察や州兵が第一次的に対応せざるをえないという問題があるようである。
カトリーナの際、再上陸した2日後の8月31日、ブッシュ大統領は救援のため連邦軍の派遣を決定したが当初は海軍中心の後方支援であったため、有効性を欠く結果となり、また州知事と連邦との州兵の指揮権を巡る確執等が指摘されたが、今回も同様の懸念される事態がありえると思う。
2.米国の州兵制度の概要と課題
(1)米州兵のもつ「二重の地位と任務」の意味
日本では日頃、州兵と連邦兵の区別も曖昧にしか理解されていない。2003年7月とややデータとしては古いが、国立国会図書館レファレンス(筆者注9)がわかりやすくまとめているので筆者の責任で抜粋、引用する。
①州兵は「陸軍州兵」(Army National Guard)と「州兵空軍」(Air National Guard)という二つの組織を持ち、国内にあっては暴動鎮圧や災害救助などに従事するとともに、海外においては、国家安全保障上の緊急事態に際して迅速に行動できる「動員日の軍隊」(Mobilization Day Force :M-Day Force) として数々の作戦に参加してきた。このような「二重の地位と任務」(Dual Status and Mission) は、州兵が有する最も際立った特徴である。
合衆国憲法は、国家安全保障の根幹として民兵制度を規定しており、連邦法は、州兵を「組織化された民兵の一部」と定めている。「二重の地位と任務」という、州兵固有の法的地位と組織原理は、最終的にはこのような、民兵としての地位から導かれているといえよう。そのほか、連邦法は、州兵を合衆国軍隊が有する「予備戦力」(Reserve Force) と定めている。したがって、連邦法上のこういった規定も、州兵の組織と任務に関する根拠と考えられる。
②州兵は、平和時・地域的緊急事態においては、各州知事の指揮に服し、治安維持や緊急事態対処等、国内での活動に携わる。知事の指揮権は、大統領から任命され、軍事問題に関して知事の最高顧問を務める「上級幕僚」(Adjutant General) によって各州兵部隊に対し行使される。
これに対し、戦争時・国家的緊急事態において、州兵は大統領の命令により補充戦力として動員され、連邦政府の指揮下で各種任務にあたる。
③州兵の組織的特色としてあげられるのは、原則として、各州の知事(State Governor)が最終的な指揮権を持っていることである。知事の指揮権は、大統領から任命され、軍事問題に関して知事の最高顧問を務める「上級幕僚」(Adjutant General) によって各州兵部隊に対し行使される。
したがって、大統領命令により連邦任務のため動員されている場合を除き、国防総省、各軍は州兵に対して直接指揮権を持たない。
④国防総省(DOD)が行うのは州兵組織の行政的な管理である。担当部署として、国防総省に陸軍省と空軍省の合同機関である「州兵総局」(National Guard Bureau) が置かれており、大統領によって任命された「州兵総局長」(Chief, National Guard Bureau) がこれを統括する。陸軍州兵と州兵空軍とを直接管理する責任者は、「陸軍州兵局長」(Director, Army National Guard:ARNG)と「州兵空軍局長」(Director,Air National Guard:ANG)であるが、両者は、それぞれ陸軍長官と空軍長官によって任命され、「州兵総局長」に対して報告義務を負う。
(2)州兵の収入源や家族生活の確保を巡る具体的な課題
時間の関係でこの問題の詳細は機会を改めるが、米国NPOメディア”Stateline”(筆者注10)が詳しくこの問題を論じている。米国がかかえる重要な問題だけに貴重なレポートであり、是非解析すべきものと考える。
(筆者注1) 「ブリザード」:「このことばは、初めは冬季アメリカ合衆国バージニア州において、低気圧が通過するときに吹く、吹雪(ふぶき)を伴った冷たい北西の強風をさしていわれたらしいが、現在は、寒気と吹雪を伴う強風全体に対して広く使われるようになった。アメリカの気象局では、ブリザードの定義を、風速が毎秒14.3メートル以上、低温で、飛雪による視程が150メートル以下としている。激しいブリザードは、風速が毎秒20メートルを超し、気温はマイナス12℃以下、視程はほとんどゼロに近い場合をいう。」(根本順吉:日本大百科全書(小学館)より引用)
(筆者注2) 「州兵(National Guard)」”とは、アメリカ合衆国における軍事組織の一。主な任務は、アメリカ軍の予備部隊として、兵員・部隊・サービスを連邦軍に提供することと、アメリカ国内における災害救援、暴動鎮圧などの治安維持を行うことにある。州軍(しゅうぐん)とも呼ばれる。行政組織上はアメリカ国防総省州兵総局(中将指揮)の管轄下にある。ただし、平時においては、連邦軍は州兵の指揮権を持たず、各州知事が指揮権を持つ。連邦軍が指揮権を発動するのは、大統領の命令により、州兵が連邦軍に編入された場合である。(“Wikipedia”から引用)
(筆者注3) 同ブログの要旨は「米国連邦内務省・地質調査局(DOI・USGS)が公表した「冬季 超大規模嵐(ARkStorm)シナリオ(Atomspheric River 1000 Storm)」の報告書の概要が届いた。このシナリオは1月13日、14日にサクラメントで開催された連邦およびカリフォルニア州の防災や地質気候研究関係機関による研究会議「ARkStorm Summit」で公表された内容である。
同地域での本格的な緊急対策目的で策定されたシナリオでは、最大10フィート(約3.5m)の降雨により既設の州の防護システムを超える大規模な氾濫が引き起こされ被害額は3千億ドル(約24兆4,600億円)以上となるとの仮説が立てられた。」というものである。
(筆者注4) “Debris and mud Flows”とは、大雨でゆるんだ山腹から、主として谷沿いに土砂が水と混合して流下する現象を泥流という。水と土砂とが一体となり、かゆ状となってそれ自体に働く重力の作用によって運動する様式で流下する。泥流は、細粒分を多く含み、活火山や火山噴出物地帯に多く発生する。土石流は、巨礫、岩塊等を含み、巨礫が先頭に集中して回転・滑動しつつ移動する。侵食力がきわめて強く、流下の途中で渓床材料をまきこみ、渓岸をけずっていく。(財団法人資源・環境観測解析センター「用語集」から引用)
(筆者注5) ハリケーン「カトリーナ」で問題となった連邦政府と州政府等による対応の失敗についてはわが国でも多くの報告が行われているが、詳細性で比較した場合、東京海上日動リスクコンサルティングの報告「ハリケーン『カトリーナ』に対する米国政府・州政府等による対応の問題点について」連邦政府の対応および州政府の対応が良く整理されていると思う。
(筆者注6)FDIC通達の別添で「メイン地区の悪天候による嵐や洪水被害に関する金融機関監督的立場からの具体的実務措置:金融機関および被融資者の支援措置(Supervisory Practices Regarding Depository Institutions and Borrowers Affected by Severe Weather in Areas of Maine)」の内容について概略紹介しておく。
①貸出関係
銀行員は、今回の異常天候で影響を受ける共同体の借手と共に建設的な立場で働くべきである。FDICは地元企業や個人への自然災害は時として一時的であると理解しており、また永久を受ける地域での融資内容の調整や変更についての銀行の真摯な努力は検査官の批判に当らないと理解している。FDICは公益とともに被害地域の借手とともに行動する努力は公益に合致するとともに安全かつ健全な銀行実務と矛盾しないと理解している。
②投資関係
銀行員は、異常気象で影響を受ける地方債(municipal securities)や融資を正確にモニターすべきである。FDICは地方政府のプロジェクトがマイナスの影響を受けると理解している。そのような投資を安定化させるためには銀行による適切なモニタリングと真摯な努力が奨励されるべきである。
③報告義務関係
悪天候で影響を受けるFDICの監督下にある金融機関は、定期的な収支報告につき遅延が予想されるときはFDICボストン地区事務所に通知を行わねばならない。FDICは報告金融機関につき許容できる範囲を考えコントロールできる以上の原因についても再査定する。
④公表義務関係
FDICは異常気象により引き起こされた損害が支店の閉鎖や移転、および仮設店舗につき各種の法律や規則の遵守面で影響を受ける点につき理解する。銀行に課される公表や要求につき災害に絡んで困難に陥る銀行はFDICボストン地区事務所に通知を行わねばならない。
⑤消費者保護法関係
消費者ローンに関し「レギュレーションZ」の規定(筆者追加注:具体的にはRegulation Zの Sec. 226.23 Right of rescission.(e)項 Consumer's waiver of right to rescind を指す)は「信義誠実原則から見て個人的な財政危機事由」が存在する場合、借手に3日間の契約の解除または変更する選択権を定める)がある。銀行は、この顧客の選択権を実行させるべく消費者は銀行に対し同レギュレーションに基づき緊急性の声明を実行する文書を提出すべき点を提供しなければならない。
⑥一時的な銀行施設関係
FDICボストン地区事務所は異常気象により銀行の支店が損害を被ったかもしくはより使い勝手が良いサービスを提供するため一時的な銀行の施設ニーズを促進させることを求めるであろう。多くの場合、FDICへの電話通知で文書での通知は後日で十分である。
(筆者注7) 米国の災害対応は州政府を軸にしている。市やカウンティ(ルイジアナの場合はパリッシュ)のような地方自治体には州政府の政策を実行に移す役割が与えられているが,災害対策の基本方針や事前対策などを決定するのは州政府の重要な責務となっている。そのため州知事の権限は大きく,知事は州軍(National Guard)の最高司令官の役割も与えられている。連邦政府は州政府だけでは手に負えない災害やテロなどの緊急事態が発生した際に,その支援を行う役目を担っており,その場合は大統領が各州の州兵を連邦正規軍に編入し,知事の統率権が停止される。(防災科学技術研究所「ハリケーンカトリーナ調査チーム報告速報」から抜粋)
(筆者注8) ここでいう“citizen-soldiers”とは、「主として平時にではあるが、州兵に対する指揮権が知事に委ねられている事実は、民兵制度にさかのぼる「郷土防衛軍」的な性格が、未だ州兵組織に根づいていることを示している。州兵が持つ緊急事態への対処能力は、地域社会との濃密な関係のなかで培われてきた。
知事による指揮権という制度は、このような米国社会の歴史的・文化的特色を反映したものといえよう。」(2003年7月号国立国会図書館レファレンス 鈴木滋「米国の『国土安全保障』と州兵の役割―9.11同時多発テロ以降の活動を中心にー」から一部抜粋)
なお、州兵の歴史の詳細は州兵総局の専用HP で詳しく説明している。
(筆者注9) 2003年7月号国立国会図書館レファレンス 鈴木滋「米国の『国土安全保障』と州兵の役割―9.11同時多発テロ以降の活動を中心にー」
(筆者注10) “stateline ”は、フィラデルフィアに本拠を置く財団(Pew Charitable Trusts:PCT)が運営しているNPOメディアである。全米を代表する民間助成財団であるPCTについて解説しておく。
「現在ピュー・チャリタブル・トラスト(The Pew Charitable Trusts/以下「トラスト」)の名で知られる当財団は1948年に設立された。ジョセフとメアリー・ピュー夫妻の4人の子供たちはこの年、両親の理想と問題意識を反映するような活動や団体への資金援助を決めた。ジョセフは米国の石油産業界において成功し、かつ先見性のある企業家であった。彼が創業した大手総合石油会社のサン石油の株式が、トラストの助成活動の財政的基盤となった。
トラストは、1948年から1979年までの間に設立された7つの基金によって構成される。これらの基金は一括して管理され、助成事業も共通の方針に基づいて行われている。フィランソロピー(博愛精神等にもとづく企業の社会貢献:Philanthropy)活動を目的とするこれらの基金は、いわばひとつの財団における諸事業のように運営されているといえよう。トラストはピュー家からの7人を含む11人編成の理事会によって管理されている。2000年度におけるトラストの資産価値は約48億ドル(約3,936億円)、助成事業費の総額は2億3,500万ドル(約192億2,700万円)だった。同年度には3,600件以上の助成申請を受け付け、最終的にはそのうちの369件に対して助成を決定した。各年度の助成事業予算の約10%が芸術と文化活動に充当される。
米国の法律では、財団のフィランソロピー活動が多分野にわたっても全く問題ない。米国の民主主義社会において、フィランソロピーの分野が特に活発な理由は、国民一人ひとりのバックグラウンドや利害、ニーズの多様性を尊重する一方、共存しやすい状態を促進させる必要があるからだ。(以下省略する)」。(わが国のセゾン文化財団の解説から抜粋した)
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