2012年9月23日日曜日
米国大手銀行等に対するイランが後ろ盾のサイバー攻撃やイスラエルの銀行等に対する攻撃とその対応問題
米国の「イスラム教徒の無実(The Innocence of Muslims)」フィルム問題に端を発したイスラム教の国々の反発はドイツやフランス等にも急速に拡大している。
このような政治環境のもとで米国の大手銀行やニューヨーク証券取引所等に対するサイバー攻撃が行われた旨、連邦議会上院ジョー・リーバーマン(Joe Lieberman)元議員(コネチカット州選出:元上院国土安全保障・政府問題委員会(former Senate Committee on Homeland Security and Governmental Affairs)の委員長:2013年1月に議員を退任している )が9月21日、議会中継CATVサイトである“C-SPAN”(筆者注1)の“newsmakers”(主要メディア別のインタビュー記録)で述べた内容である。また、この問題は、米国サイバー・セキュリティの専門家の指摘や金融サービスの安全性に関する格付け機関も脅威レベルを引き上げるなど多くの関係機関を巻き込んでいる。
このインタビューにつき逐次解説するのは、筆者の語学力から見てあまりにも負担が大きいのでダラス・ニュース(Dallass News)の記事をここでは引用する(この記事の内容を良く読むと、サイバー攻撃を行っているのはイランだけではない。米国やイスラエルも“Stuxnet”を使ってのサイバー攻撃を仕掛けており、ある意味で「サイバー戦争」のやりとりを垣間見ることが出来る)(筆者注2)
なお、“Voice of America”は連邦議会上院が9月22日、米国上院はイランが核兵器を開発するのを止めるため、米国の努力を再び決意する決議を圧倒的賛成で承認した旨報じた。
上院の土曜日の決議は、土曜日に内容は軍事力使用の許可または宣戦布告と解されるべきでない法的拘束力がない手段(no-binding measure)であるが、賛成90(反対1)の投票で支持された。この決定は前記リーバーマン委員長のイラン告発の1日後となる。
1.イランのサイバー攻撃の実態
(1)リーバーマン議員の説明の概要を引用しておく。なお、補足説明すべき点があるので筆者の責任で適宜注記せずに補足した。
イラン革命防衛隊(Revolutionary Guard)の精鋭特殊部隊「Quds Force」が今週、米国のJPMorgan Chaise & Co.やBank of America等に対する攻撃を仕掛けた。これらの行為は単にハッカーの仕業ではなく自身がサイバー攻撃の展開能力を持つ「Quds Force」が行っていると思われる。同サイバー攻撃は核兵器の製造能力の開発を阻止するため米国主導で行った経済制裁に対する措置として行われた可能性がある。イランは、米国やイスラエルが“Stuxnet”として知られているマルウェアを利用して核開発計画を故意に妨害したと非難した。
なお、JPMorgan やBank of Americaの責任者はリーバーマンの発言につき、コメントを避けている。また、FBIスポークスマンのポール・ブレッソン(Paul Bresson)、ホワイトハウス国家安全保障会議のスポークスウーマンのケイトリン・ヘイデン(Caitlin Hayden)さらに国土安全保障省のスポークスマンであるピーター・ボーガード(Peter Boogaard)はコメントを断っている。(筆者注3)
(2)一方、ヴァージニア州アーリントンに本部を置くグッド・ハーバー・コンサルテイングLLCのヤコブ・オルコット(Jacob Olcott)は、「米国とイランはますますサイバー攻撃の破壊的やり取りという危険を冒しつつある。また、攻撃に取り組むことの問題は、誰が仕返しを行ってくるか決してわからないという点である。イラン人は彼らに対し攻撃を行った国に対し報復を欲することは驚くにあたらない。」と述べている。
(3)米国の基幹インフラである金融機関のサイバー・セキュリティやその脆弱性に関する情報を共有すべく設置された「Financial Services - Information Sharing and Analysis Center 」は、9月19日、最近の最新情報「Current Financial Services Sector Threat Levels」でCyber Threatについて「High」に引き上げ警告を鳴らした。(筆者注4)
(4)米国のイランに対するサイバー攻撃や米国の当局の見方
2010年にマルウェアStuxnetは、イランのコンピュータシステムや以前はうまく機能していた遠心分離装置を破壊した。2012年5月に、イランは今までで最も複雑なサイバー脅威とされる“Flame”を防御するツールを開発したと報じた。(筆者注5)
また、7月にはイランの核施設はコンピュータをシャットダウンさせて、かつロックバンドの音楽を演奏させるといったサイバー攻撃を受けた。
NBCニュースは、9月16日の週にDHSの官吏は銀行の対するサイバーDOS攻撃の背景にイラン政府があると特定できなかったと述べたと報じた。すなわち、そのような攻撃は極めて初歩的なコンピュータへの不正アクセスであり、誰でも可能であるとの理由である。
2.イスラエルの大手銀行に対するサイバー攻撃の実態と対応
2012年5月20日付けのイスラエルのメディアHaarez Onlineはイスラエルの中央銀行(Bank of Israel)がサイバー戦争の専門家を探しているという記事を掲載した。その同行における監査部門の新たな任務と責任は、サイバー戦争やテロから銀行の重要基盤を守るためのガイドラインの策定、そのモニタリングや潜在的な脅威を特定することである。
その専門家は国家情報セキュリティ庁および新たに民間銀行のコンピュータ部門の監督機関となる「国家安全庁(Shin Bet security Service)」(イスラエルの防諜および国内保安担当機関)(筆者注6)と緊密に連絡を取ることになる。
(筆者注1) C-SPANのNewsmakerサイトの右側でvideo playlistでLiebermanを選ぶと、Bloombergの記者によるインタヴュー・ビデオに繋がる。
(筆者注2) http://www.tanakanews.com/120608cyberwar.htm
2012.6.8 ブログ田中 宇「ウイルス『フレーム』サイバー戦争の表と裏 」やや内容の信頼性に問題はあろうが、詳しい。
(筆者注3) 連邦議会における官民の重要インフラ資産保護強化に関する法案につき最近数年間多くの法案が上院の国土安全保障・政府問題委員会等で論議や聴聞会が開催されている。その詳細については同委員会のサイトを見てほしい。これに関しては、ホワイトハウスのスポークスマンのケイトリン・ヘイデンは「意図的攻撃が新しい立法に対する感謝をすべての上院議員に提供することを意図する場合、それは、米国政府がサイバー攻撃に防いで、よりすばやく応じるのを助けることになろうと述べ、また上院は合衆国の重要インフラネットワークに対する仮定したサイバー攻撃に対する機密の打ち合わせを受けることになろうと言い足している。
(筆者注4) “Financial Services - Information Sharing and Analysis Center”(FS-ISAC) は1998年の大統領令(Presidential Directive 6)に基づき設立された。さらに同指令は2003年の国土安全保障に関する大統領令(Presidential Directive 7)により改正された。この指令は、米国の公的部門や民間部門の基幹部門の重要インフラの保護を支援すべく物理面ならびにサイバー・セキュリティの脆弱性の情報の共有が義務化されたものである。FS-ISACは金融サービス事業者、商業警備会社、連邦や州や自治体の機関、法執行機関、その他信頼性の高い機関から情報をタイムリーに収集している。
(筆者注5) “Flame”に関しては、欧米一般メディアも取り上げている。The Register、BBC 、AFP等である。
(筆者注6) イスラエルのメディアHaarez Onlineの記事では、民間銀行や中央銀行はShin Betの権限拡大には海外投資家が逃げるなど当初反対が強かったが、イスラエルの銀行監督機関とShin Bet協議を進め、国家としての重要性から前向きに検討が行われる一方で、5月にはパレスチナ自治区、シリア、イランやその他中東、ヨーロッパで政府機関を明らかに狙い撃ちする先駆的コンピュータウィルス“Flame”が現れたことが報道された。2011年にイスラエルはサイバー攻撃にさらされ、例えばサウジアラビアのハッカーが約15000のイスラエルのクレジットカード番号をオンライン上に掲示した事件がある。イスラエルの3つのクレジットカード会社(Isracard、Leumi CardoおよびCal)はすべて銀行保有であることから、この攻撃は銀行に対するものといえる。この攻撃の間、ハッカーは証券取引所やエル・アル航空など基幹ウェブサイトを閉鎖に落とし込んだ。
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