2012年9月16日日曜日
米国連邦預金保険公社が行った第2次非銀行取引世帯調査結果と米国の経済弱者支援強化に向けた更なる課題
本ブログでは、2010年5月15日付けで「米国の低所得者給付金支払デビット・カード化完全移行と銀行非取引世帯救済対策の現状と課題」と題するレポートを掲載した。
この中で紹介した連邦預金保険公社(FDIC)が連邦商務省国勢調査局(U.S. Census Bureau)に委託し2009年1月に実施し、その結果を同年12月に還元した「全米銀行口座非保有世/帯追加調査(2009 FDIC National Survey of Unbanked and Underbanked Households)」につき、このほど2011年6月に実施した第2次調査結果(2011 FDIC National Survey of Unbanked and Underbanked Households )が公表された。(筆者注1)
米国連邦政府(オバマ政権等)が従来から取り組んできた経済弱者の銀行取引開始に向けた諸施策については前記ブログで詳しく述べたが、米国経済の活性化の金融面からの支援やその効果が本物か改めて問う意味で今回の調査結果および“Economic Inclusuion gov.”の最新動向を概観するものである。
なお、2010年5月の本ブログでは必ずしも詳細に説明していなかった、銀行口座非保有世帯の定義等調査の正確性にかかわる用語について補足的に解説を加えた。
1.「2011 FDIC National Survey of Unbanked and Underbanked Households」の概要
2011年6月にFDICは第2次となる「全米銀行口座非保有世帯調査」を後援した。同調査は米国内の銀行口座非保有世帯数、人口統計学特性(demographic characteristics)および非銀行取引である理由等に関するデータを収集した。この調査は連邦商務省国勢調査局が人口現況調査(Current Population Survey:CPS)の補足調査として行われた。
富裕層や地理的データはCPSを通じて条件つけられ、本調査以前は不可能であった非銀行取引世帯につき全米、州および大都市統計圏(large metropolitan statistical area:MSA)レベルで利用可能となった。
2011年の調査結果に見る総合的に見た主要なポイントは次のとおりである。
①全米の世帯のうち8.2%は非銀行取引世帯である。これは全米で見た場合12世帯中1世帯にあたり約100万世帯である。
②非銀行取引世帯数は2009年の前回調査に比して微増している。推定で0.6%増は82万1000世帯を表す。
③全世帯の20.1%が“underbanked”である。これは5世帯に1世帯が該当することを意味し約2400万世帯に当たる。2011年調査の“underbanked”世帯数は2009年調査比で18.2%増となるが、2つの調査内容が必ずしも同一でないことからその割合は単純比較できない。
④29.3%の世帯は貯蓄口座を保有しておらず、また約10%の世帯は当座預金口座を保有していない。一方、約3分の2の世帯は当座および貯蓄口座の両方を保有している。
⑤全世帯の4分の1の世帯が過去1年間も少なくとも1回AFS商品を利用し、また10世帯に1つは2回以上AFS商品を利用している。全体的に見て、12%の世帯がこの30日以内にAFS商品を利用し、その10世帯に4世帯は非銀行取引世帯であった。
なお、完全な報告書(全155頁)のURLは次のとおりである。
http://www.fdic.gov/householdsurvey/2012_unbankedreport.pdf
2.FDIC“Economic Inclusuion gov.”の最新動向
同サイトを改めて見ておく。特徴的な点は次の内容である。いずれにしてもFDICは金融に関する多様な教育・啓蒙活動に積極的に取り組んでいる事実は理解できよう。
(1)全米規模、州別、4地区別、MSAに分けてそれぞれの調査結果の詳細が見れる。
(2)全世帯に対する銀行取引の位置づけや“underbanked”“unbanked”等の割合が一覧で見れる。
(3) 2011年調査で初めて当座預金口座や貯蓄口座の所有形態と割合につき調査を行った。当座預金口座を保有する世帯は88.5%であり、貯蓄口座は69.2%と当座取引より一般的でなかった。さらに貯蓄口座に関してみると完全な銀行取引世帯では78.4%保有である一方、非取引世帯(underbanked)では67.8%であった。
3.国勢追加調査にかかる用語解説
わが国ではほとんど詳しく解説されていない用語が多く、また金融専門用語に関しても同様といえる。ここではFDICの“Economic Inclusion.gov”のGlossaryに基づき出来るだけ正確な内容を理解できるよう工夫してみた。いずれにしても、従来から指摘されているとおり、米国の消費先行型の金融システムの抜本的改革は喫緊の課題といえよう。
①“Unbanked ”:世帯内のいずれも銀行等の当座預金口座や貯蓄口座を保有しない場合
②“Underbanked”:世帯内に当座預金口座や貯蓄口座を保有しているが、実際は代替の金融サービス、すなわち(1)ノンバンクが発行するマネー・オーダー(要求定時払いで一定金額を受け取ることを指名された個人や団体に与える銀行や郵郵便局やその他機関が発行する証書。そのメリットの1つはプリペイドであることからパーソナル・チェックより信頼性が高いことが挙げられる。その発行には小額の発行手数料がかかる。国際送金等でも利用される。)、(2)ノンバンクの小切手現金化サービス、(3)ノンバンクの送金(non-bank remittances)、(4)ペイディ・ローン(payday loans:極めて高利の消費者金融をいう。経済弱者を対象とし、また各種法規制を掻い潜る商法が大きな社会問題となっている)(筆者注2)、(5)レント・ツー・オウン契約(rent-to-own agreements):消費者と売り手の間で消費者が定めた期間の間に家具、電化製品や器具や他の商品を賃借できる合意契約をいう。消費者は、単に1週間や1カ月等と同じくらい短い予め定めた期間内に周期的にレンタル料金を支払う責任が生じるが、消費者はその更新するのを選ぶなら、その継続をなしうる。また、一時払い金を支払うことによって賃借された商品を購入する機会を消費者に提供する。同契約は、高価な商品等につき頭金なしに即座に使用できる機会を信用度の低い消費者に許容するので、人気がある。ただし、消費者は買った金額の2倍になるレンタル料を支払うといった問題も指摘されている)、(6)質屋(pawn shop)、(7)税還付見越しローン(refund anticipation loans:米国商事改善協会(BBB)はペイディローンと同様に50~500%の高利な短期貸付であり、貸し手は管理手数料を隠蔽したりしており、また還付金計算が誤っていたときは借り手は罰金や手数料を支払わねばならない旨警告している。なお、2010年の本ブログで述べたとおり、2011年から連邦税課税庁(IRS)は銀行口座を保有しない納税者への還付方法としてプリペイドでビットカードを選択できるようにした)、を過去12ヶ月間に1回利用した場合。
③「代替的金融サービスプロバイダー(Altenative Financial Services (AFS)Providers)」:
連邦政府による保険で保証される銀行や信用組合以外の金融サービスを提供する多くの機関をさす。具体的には小切手割引業者(Check-cashing outlets)、送金業者(money transmitters)、ペイディ貸金業者(payday lenders)、質屋、レント・ツー・オウン・販売店(rent-to-own stores)等はすべてAFSと呼ぶ。
(筆者注1) FDICが今回行ったリリース文に誤りがある。第1次調査の実施時期は2011年1月とあるが、正しくは「2009年1月」である。筆者は別途FDICの担当者に訂正依頼文を送った。
(筆者注2)ペイディ・ローンの例として、米国ではいわゆる(AFS)だけでなく、アラバマ州に本部を置く地方銀行「リージョンズ・バンク(Regions Bank)」が2011年5月以降、年利365%の高金利を当然としているペイディ・ローン類似商品(商標名:Regions Ready Advance)を持ち出した融資姿勢の問題を、全米規模のNPO団体“Center for Responsible Lending”が10月7日のブログなどで取り上げている。8月31日の「WRAL .com」の記事や9月19日付けの 「Newsobserver.com」の記事http://www.wral.com/news/state/nccapitol/story/11493239/が詳しい。
また、ノースカロライナ州司法長官ロイ・クーパー(Roy Cooper)は他州司法長官40名とともに消費者保護に危害をあたえるペイディ・ローン問題への対処法案にかかる共同意見書を提出している。
この問題は、本来的には金融機関監督規制法である「グラム・リーチ・ブライリー法(GLBA)」の第731条に絡んだ複雑な問題を抱える。わが国でこの問題を正面から解説したものは皆無である。詳しくは別途、本ブログで解説する予定である。
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