2010年10月31日日曜日
米国元銀行頭取が銀行を故意に破産させかつFDICに約430万ドルの損失を生じさせた訴訟で有罪答弁
10月26日、FBIは2001年から2007年の間「ヒューム・バンク(Hume Bank)」頭取であった被告ジェフリー・W・トンプソン(Jeffrey W.Thompson)が銀行に対する詐欺を事由とする裁判で「有罪答弁(Pleads Guilty)」を行った旨リリースで発表した。
FBIの解説は主に母親や親戚に対する不正融資等極めて悪質な犯罪行為の内容が中心であり、司法関係者が読むには情報不足である。筆者は独自にFDICの資料や起訴時の報道等を調べて、あらためて事件の全貌の解明を試みた。
時間の関係ですべての情報を網羅しているとは思えないが、経営破たんが続く米国金融界の闇の部分が多少でも垣間見ることが出来れば幸いである。
なお、本起訴につき米国民の反応は弱いようである。この種の金融機関経営者は米国では珍しくないということなのか。
1.元ヒューム銀行頭取の起訴
2009年12月2日、ジェフリー・W・トンプソンはミズーリー州のヒューム銀行の頭取であった時期の2004年1月から退任した2007年8月の間に銀行に対する詐欺行為(1訴因)、資金の不正使用(3訴因)、不正な銀行取引・報告(6訴因)、さらにはFDICへの虚偽の報告(3訴因)の計13訴因につき連邦大陪審(grand jury)により起訴相当と判断された。
トンプソンが持ち出し管理していた融資につき被告は融資管理記録を改ざん・隠蔽したため返済期限経過の融資等による損失をもたらしたことから、ヒューム銀行は2008年3月7日に破産し、ミズーリー州金融当局(Missouri division of Finance)はFDICを管財人(Recipient)に指名した。(筆者注1)。FDICは保険金432万4,463ドル(約3億5千万円)を預金者に支払い、また、セキュリティ銀行(Security Bank)はヒューム銀行の全預金を引き継ぎ、ヒューム銀行は同日のSecurity Bankの支店となった。
2.起訴状や有罪答弁に見る違法行為の具体的内容
(1)被告は、融資管理記録を改ざん・隠蔽したため返済期限経過の融資等による損失をもたらした。例えば、返済期限経過の融資につき元本をゼロに改ざん(1,584件)、延滞利息をゼロに改ざん(1,460件)、融資管理報告書上の満期日を改ざんした(1,445件)。
(2)妻の叔父に対する融資23万4千ドル(約1,895万円)の融資損失させた。
起訴状ではその他、次のような不正融資が記載された。
・被告の妻の従兄弟ブラッド・ラニング(Brad Laning)に対する融資において、返済期限経過後の融資の元本(past-due principal)記録をゼロに改ざんした。
・妻の叔父リック・ラニング (Rick Laning) への融資につき未払い利息(実際は3,672ドルあり)をゼロ、また弁済期限経過後の元本(実際は5,510ドルあり)をゼロと改ざんした。
(3)被告は次のような手口でヒューム銀行の取締役会に対し、融資内容と当座貸越しの内容を隠蔽した。
・未投函当座貸し越しの事実や利息を計上すべき融資につき隠蔽した。
・顧客に対し指示欄、財務表や信託証書につき空白のままにするよう指示し、後日自分が記入する旨説明した。
(4)被告は問題がある借り手の融資目的につき取締役会に次のような虚偽の説明を行った。
・被告の義父(father–in-law)ディビー・クリンクシック(Davie Klincksick)に対し、14,500ドル(約118万円)を農機具の購入資金として記載して融資したが、その収益のうち9,000ドル(約73万円)を直ちに被告夫婦の共同預金口座(joint account)に入金後、同日にその資金を車の支払代金として小切手を切った。
このような虚偽の融資完了報告は、州や連邦銀行検査官さらには同行の取締役会に対し問題を隠蔽した。
(5)被告は、銀行検査官の質問状に対し同行は“accommodation loan” (利子や手数料がかからず借り手を支援する特別融資)、“nominee loans”(名義貸し不正銀行融資)(筆者注2)はまったくないと記載した。
しかし、実際に被告は“accommodation loan”や“nominee loans”を実行し、親戚から個人的に元本に対する裏利子等利益を得ていた。
被告は今回有罪答弁したことで、詐欺の手口や自身の住居につき計30万ドル(約2,430万円)を政府に没収されることに同意した。
(筆者注1) より正確に手続を説明すると次のようになる。
FDICは管財人(receiver)に指名され、資産を売却、回収し、非付保預金者および債権者(security holder)に配当を支払う。預金者優先弁済権が預金者に与えられている。(預金保険機構「預金保険制度の国際比較(2008年5月現在)」)
(筆者注2) “nominee loans”は、米国金融監督検査協議会(FFIEC))「内部ローン詐欺(Insider Loan Fraud)」(2頁以下)等で取上げられているものである。一般的でない用語なので補足すると「融資契約書に記載された借り手は実際の融資の使用や利益を得る者ではない融資形態である。このような融資は健全な銀行経営原則から見て違法なものである。」
〔参照URL〕
http://www.nevadadailymail.com/story/1591477.html
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2010年10月30日土曜日
米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦規制・監督機関やEU関係機関等の対応(第8回)
〔米国全米海洋大気局と食品医薬品局がメキシコ湾石油分散剤の魚介類への化学的影響検査結果を公表〕
10月29日、米国商務省全米海洋大気局(NOAA)と米国連邦保健福祉省・食品医薬品局(FDA)が「メキシコ湾石油分散剤の魚介類への化学的影響検査結果:安全閾値にかかる全サンプル調査結果」を公表した。
メキシコ湾の原油流出事故の魚介類への影響については本ブログでも報告してきたが、流出が完全に停止したとされた後である9月28日にもオバマ大統領は長期的な取組が必要と宣言(筆者注1)している。
オバマ大統領の声明の根拠となったのは海軍省のレイ・バマス長官の報告書「America’s Gulf Coast:A Long Term Recovery Plan after the Deepwater Horizon Oil Spill」(全130頁)である。
今回発表されたNOAAとFDAの報告内容はEPAとの関係は明確でないが、今まで本ブログで解説してきたこれら機関の取組み内容から見て当然の活動であると思う。
環境保護団体や研究機関のこの報告に対する反応についてはこれからであるといえるが、「安全閾値(safety threshold)」(筆者注2)に関する全サンプル調査と断り書きがある今回の報告を、とりあえず現時点での最新情報として紹介する。
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すでに行われてきた連邦、州や地方の官吏による膨大な量の試験や手順を足がかりとしてNOAAとFDAは魚、牡蠣、カニおよびエビについてデープウォーター・ホライズン海域で使用された石油分散剤を調査するため化学試験の開発のならびに使用して検査を行ってきた。
厳格な官能分析手順(rigorous sensory analysis process)につき教育を受けた専門家がメキシコ湾の魚について汚染物質の存在および魚介類の各サンプル原油や分散剤が付着した検査をパスして再開した海域の水について検査を行った。
それにもかかわらず、なおメキシコ湾で収穫される魚介類の安全性を完全な形で保証するため、NOAAとFDAはメキシコ湾での漁業の再開時期を決定するため第2番目の検査を追加した。
この新たな第2次検査を使い、メキシコ湾岸の科学者達はメキシコ湾の連邦管理海域の再開のため集められた半分以上の細胞組織見本1,735を試験した。
極めてわずかな量(1,735のうち13)に残留物があったが、魚類(finfish)については100万につき100、またエビ゙、カニおよび牡蠣については100万分の500という安全閾値(safety threshold)以下であった。
このようなことから、人体への影響を与えることはない。
この新しい検査では、分散剤の主要成分である「ジオクチル・ソジウム・スルホサクシネート (Dioctyl Sodium Sulfosuccinate:DOSS)(筆者注3)が検出されたが、これは家庭用用品や市販薬で使用されているもので、その毒性はきわめて低くFDAが承認している。
今までの検査で得られた最も優れた科学データは、DOSSは魚肉細胞組織では蓄積しないことである。
今 まで試験された1,735のサンプルは2010年6月から9月の間に連邦や州が管理するメキシコ湾全域の公開海域から集められたもので、連邦の海産物分析専門家の要請に応じてドックに集めた漁夫が持ち込んだものである。
サンプルは様々な種類の見本からなる。ハタ(grouper)、マグロ(tuna)、サワラ(wahoo)、アオチビキ(gray snapper)、マナガツオ(butterfish)、サケ(red drum)、グチ(croaker)ならびにエビ、カニ、牡蠣である。
以前の研究では魚類がどのようにDOSSを代謝するかにつき情報を提供した。FDAのドルフィン・アイランド、アラバマ実験室において科学者が魚、牡蠣、カニにつき更なる汚染試験を行っている。またエビに関する検査はNOAAのガルベスト( テキサス州)研究室に移されている。
現在、約9,444平方マイル(連邦管理海域全体の4%にあたる)、なお商業やレジャー目的の釣りが禁止されている。」
(筆者注1) オバマ大統領の声明の要旨(仮訳)は次のとおりである。
「私はメキシコ湾の復旧および復元計画を策定した海軍省のレイ・マバス長官の信頼できる仕事に感謝する。BP社の原油流出は同地域での重大な環境面と経済面の課題を作り上げた。オバマ政権は、メキシコ湾に住む人々とともに支援する生態系を保持し、また健康で安全な生活や安全対策の再構築を支援すべくその作業に取組んでいる。
マバス報告は、方針の策定に関しては非営利団体や民間部門の提言と同様に、地域、州、先住民(tribal)および連邦レベルでのアイデアや協調といった常識的な提言である。私は、連邦議会に回復に向けた打ち込むべき資源の提供を働きかけるつもりであるが、議会の回復に向けた行動のみを許すわけには行かない。
私は、米国の景気回復問題と長期の保健制度を推し進める一方で、より健康的で回復力のある生態系を作るよう連邦環境保護庁(EPA)のリサ・ジャクソン長官(Administrator Lisa P.Jackson)に命じた。
我々は、復旧の努力は新しい考え、協調および創造性を取り込むべきであると理解している。しかし、とりわけ時間がかかる問題である。」
(筆者注2) 「安全閾値(しきいち)(safety threshold)」とは、最小有効量(minimum effective dose)ともいう。刺激が効果を発揮し、生体反応を誘発するためには、ある値以上の強さを有する必要があり、その境界の値を閾値という。原則として、刺激に対する生理反応には、全か無かの法則(恣無律ともいう。all-or-none law)がある。閾値以下の刺激では反応は現れず、それを超えると一定の大きさの反応が現れる。(出典:小野宏・小島康平・斎藤行生・林裕造監修「食品安全性辞典」共立出版)
(筆者注3) 白色のろう状又は樹脂状物質で、オクチルアルコールようの特異なにおいがある。エーテルに極めて溶けやすく、エタノール又はクロロホルムに溶けやすく、水又はメタノールにやや溶けにくい。吸湿性である。便軟化・腸運動促進緩下剤の成分として一般に利用されている。(ゲノムネット医薬品データベースから引用)。
[参照URL]
・全米海洋大気局(NOAA)と米国連邦保健福祉省・食品医薬品局(FDA)がメキシコ湾石油分散剤の魚介類への化学的影響検査結果
http://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/ucm231653.htm
〔メキシコ湾原油流出事故に関する連邦機関の専門ウェブサイト〕
・FDA〔Gulf of Mexico Oil Spill Update〕http://www.fda.gov/Food/FoodSafety/Product-SpecificInformation/Seafood/ucm210970.htm
・連邦政府のメキシコ湾Oil Spill復元専門サイト
http://www.restorethegulf.gov/
・NOAAのOil Spill専門サイト
http://www.noaa.gov/sciencemissions/bpoilspill.html
・EPAのOil Spill専門サイト
http://www.epa.gov/bpspill/index.html
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2010年10月24日日曜日
オーストラリアの連邦ブロードバンド・通信・デジタル経済省(DBCDE)サイトに見る詐欺電話被害の急増
筆者は本ブログで「スケアウェア詐欺」や「トロイの木馬:ゼウス型」を取上げる一方で、10月6日には北米における「高齢者を対象とする振込め詐欺」について紹介した。
筆者の手元にオーストラリアの連邦通信監督機関である「ブロードバンド・通信・デジタル経済省(Department of Broadband,Communications and Digital Economy:DBCDE)」大臣スティーブン・コンロィ(Stephen Conroy)からのリリース・メールが届いた。
最近数ヶ月だけ見てもDBCDEや同国の競争規制機関である「競争・消費者委員会(Australian Competition and Commission:ACCC)」に対する消費者からの1ヶ月あたりの「電話詐欺」苦情件数が200件から2000件に急増しているという。
また、今回のブログでは主要国の“Don’t Call Registry”の実施状況について簡単にまとめておく。この種の基本的なデータが審議会等ごく限られた場でしか公開されていないわが国の実態を踏まえて、このような作業を行う趣旨を理解して欲しい。
筆者の自宅にも、ひっきりなしにワンギリ電話や時間を問わないセールス電話が絶えない。
わが国でも“Don’t Call Registry”による規制強化論議が喫緊の課題となりつつある状況なのではないか。
1.詐欺電話の内容
ACCCや「連邦通信メディア庁(Australian Communications and Media Authority:ACMA)」が公表した詐欺師からの通話内容は次のような内容である。
(1)「あなたのPCはコンピュータ・ウィルスが感染しています。直ちに問題を解決するため、検索用ソフトウェアをダウンロードするので、あなたのクレジットカード情報を送ってください」といって金融取引情報を入手する。
(2)政府からの給付(grant)と称して偽の製品、サービスや現金の給付を受け取るための手続に必要であるとして、資金の提供を求めたり金融取引情報の提出を求める。
(3)銀行手数料や税金の還付が受けられることになったので、その手続のためにあなたの金融取引情報を提供してくださいと呼びかける。
(4)“Do Not Call Registry”(筆者注1)(筆者注2)の登録を有料で代行しますと呼びかける。
(5)録音ガイドで「あなた×××からの休日の無料パッケージ・サービスをうける権利が当りました。すぐに「ダイヤル9××」に電話してください。」と呼びかける。
この手口はわが国であまり聞かないものなのでACCCサイトの説明で補足する。
①あなたはこのたび×××休日無料パッケージ・サービスに当選されました。
ついてはすぐに「ダイヤル9で始まる」または「1900等19で始まる番号」(筆者注3)に電話してください。
②「ダイヤル9××」等に電話すると今度はオペレータが出てホリデイ・パッケージのセールスを始める。そこではオペレーターはこの権利を生かすには税金分と関連諸手数料として598ドル(約46,000円)を請求する。その際、オペレータはこのお金は一定期間内は全額払い戻される旨説明する。
⑤被害者はクレジットカード情報や金融取引情報を提供して後日、この権利は偽もので詐欺に遭ったことを知る。
2.米国を除く主要国における“Do Not Call Registry”の実施機関とポータル概要
(1)オーストラリア
連邦通信メディア庁(ACMA)が運営する「Do Not Call Register」
(2) ニュ-ジーランド
ニュージーランド・マーケティング協会が運用する任意登録制度“Do Not Mail and Do Not Call Service”
(3)英国
“Telephone Preference Service(TPS)” は、個人や法人が求められていない営業通話を受けないという彼らの要求を登録できるオプト・アウト制度である。 TPSに番号が登録された会社は登録者に電話をかけないという法的義務が発生する。もともとの根拠法は1999年5月に成立した“Telecommunications (Data Protection and Privacy) Regulations 1999”である。法執行機関は「情報保護委員」である。最新の根拠法は“Privacy and Electronic Communications (EC Directive) (Amendment) Regulations 2004”である。
(4)カナダ
カナダのラジオ・テレビ・通信委員会が運営する“National Do Not Call List”
(5)オランダ
オランダが2009年10月1日施行開始した“Do-not-call register”
なお、オランダの英文ニュースリリースは概要を理解する上で参考になる。
(筆者注1)現在、主要国で “Do Not Call Registry”を導入しているのは米国、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、英国、およびオランダである。
米国の“Do Not Call Registry”制度については筆者ブログで詳しく説明している。
(筆者注2) 国民生活審議会消費者契約法評価検討委員会〔不招請勧誘]等で次のような論議されている。しかし、これらの議論を踏まえた今後の明確な見通しはいまだに見えないし、被害は広がるばかりである。
「不招請勧誘については、今回の調査対象とした諸国では、「不招請勧誘」という一般的な形で取り上げて民事ルールを論じる国は見出されなかった。むしろ、郵便、ファックス、電子メールといったような個別媒体を用いた勧誘についての禁止規範をどのように設計するかという、個別問題対応型での処理をする傾向が強い。いずれの諸国においても、契約法や消費者法にかかる一般的な教科書・体系書においても、「不招請勧誘」という一般的な観点から項目を立てて論じるものは、まれである。さらに、とりわけ、アメリカでは、不招請勧誘に関する個別問題対応型のルールは、民事ルールというよりも、事業規制の観点から、業法ルールとして整備されるという傾向にある。・・・、既に不招請勧誘禁止の個別ルールがほぼ確立している領域(なかでも、EU指令において不招請勧誘制度が導入されている電話勧誘、ファックスによる勧誘、Eメールによる勧誘の場面)については、わが国でも早急にこれに対応する制度を準備するに値するものと思われる。」
なお、わが国のこの種の審議会資料の公平性、専門性は疑わしい。
(筆者注3) 9や 19で始まる電話番号は「プレミアム・レート・電話番号」である。海外では一般的に手数料稼ぎビジネスとなっているものである。プレミアム・レート・電話番号は、ある一定のサービスが提供されるときに適用されるもので、標準より高い通話料が請求される通話のための電話番号をさす。通常の呼び出し電話と異なり、通話料の一部をサービス・プロバイダーに支払うため、呼び出しそのものでサービス企業は収入が得られることが可能となっている。
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2010年10月11日月曜日
英国弁護士等に対する顧客からの苦情に対するリーガル・オンブズマン制度改正の背景と今後の課題
10月7日、英国法務政務次官ジョナサン・ジュノグリィ(Jonathan Djanogly )は弁護士に対する顧客からの苦情を専門に受付ける国家機関たるオンブズマン制度を10月6日にスタートした旨発表した。
この問題につき筆者はBBCやガーディアンといったメディアや大手ローファームのニュースで知っていたが、今一その意義や目的が良く理解できなかった。
そこで筆者なりに英国の従来の複雑な諸制度を改革すべく、司法改革の一環となる今回の制度改正の法的背景( 「2007年リーガル:サービス法(Legal Services Act 2007)」)や意義につき、改めて英国法務省や従来からある「リーガル・オンブズマン」サイト、弁護士会関係等の情報をもとに整理してみた。
わが国では、企業や市民が依頼先の弁護士の納得できない法手続き実務や弁護活動について不満や苦情があれば「弁護士法」(筆者注1)に基づき一般的に懲戒権を持つ当該弁護士の所属弁護士会(筆者注2)への相談から入る。英国に比して制度的に複雑ではないが、実際多くの苦情・トラブル等があることも事実である。
わが国も今後ますます民事・刑事裁判やADRなど紛争解決の新たな制度の見直しを考える上で、筆者はその代理人である弁護士が適法・適正に法律の番人として機能すべく基盤整備問題として考えた。その意味で英国の例を参考とすべく今回の調査結果を公表するものである。
特に「弁護士自治」か「国家独立機関」による監視・規制かという問題は、英国でも喫緊の問題となっている。「検察制度」改革問題と同様、わが国の司法制度上極めて基本的かつ重要な問題と思う。
なお、時間の関係で調査不足な点が多いと思うが、筆者の問題意識だけは理解していただきたい。
1.わが国における「英国の弁護士の懲戒権規定の概要」資料
日本弁護士連合会がまとめている資料「世界弁護士会便覧欧州」が、英国(UK:グレートブリテンおよび北アイルランドからなる連合王国)各構成国における弁護士会等の懲戒規程等につきまとめている。
同資料はイングランド、ウェールズ、スコットランドなど個々に事務弁護士(Solicitors )からなる弁護士会(The Law Society)や法廷弁護士(barrister)からなる弁護士会(General Council)等の懲戒制度について解説しており、それなりにまとまっている。
しかし、それだけでは今回のオンブズマン制度の改正の本当の背景は理解できない。
2.英国の新オンブズマン制度導入の背景
(1)「2007年リーガル・サービス法(c.29)」の主要な立法目的
同法は2007年10月30日に国王の裁可(loyal assent)により成立した。法案提出にあたり法務省の行った調査や英国国立公文書館(National Archives)が運営している時間軸で法令の内容や逐条的な改正状況を検索閲覧できる“legislation.gov.uk”(筆者注4)等でその内容を確認した。
同法の立法目的の1番目は「法律サービス監視委員会(Legal Services Board)」の創設である(同委員会は2010年1月1日に運用を開始した)(第2編)。
2番目がリーガル・オンブズマン制度の整理統合である。(第6編:Legal Complaints)
3番目が弁護士と非弁護士とで'ワンストップショップ'タイプ会社をつくり法的で他のサービスを探している顧客に提供するパートナーシップを形成させるAlternative Business Structures(ABS)制度の導入であり、ABSは2011年末までに稼動する予定である。(第5編)
同法が新たに導入した「非弁護士法律専門会社実務制度(ABS)」についても事務弁護士会(Law Society)等から多くの問題指摘が出されている。この問題自身、わが国で解説を見たことがない。今回のブログで取り上げるにはあまりに複雑な背景があるようなので機会を改めるが、1つはっきりしているのは英国の雇用対策である点やかえって複雑な制度を作ったのではないかと言うことである。
英国内でも情報が限られている模様であるが、筆者が独自に調べた結果では、次の2つの解説が本音かつ専門的であり、少なくとも英国法務省の解説より正確である。
①「非弁護士法律専門会社実務(Legal Disciplinary Practices:LDPs)」(2009年3月26日)英国事務弁護士会(Law Society)が作成したもので、新制度の内容、非弁護士を管理する新会社のための経営面も含めた実務的な取組み内容等について逐一解説しており、分かりやすい。
②「なぜ非弁護士法律専門会社実務(LDPs)の運用開始が遅れたのか」英国事務弁護士会の機関紙“Law Society Gazette”(2009年4月9日)のレポートである。体系的な内容ではないが関係者の意見は網羅している。
(2)従来あった「リーガル・オンブズマン」制度の問題点
法務省の資料説明は概要次のとおりである。英国の一般市民や外国人にとっては比較的不親切な内容と思える。なお、初めに英国メディアの解説例を見ておく。「ガーディアン(10月5日)」や「BBC(10月5日)」が取上げている。誠意のない依頼主の期待に的確に応じていない弁護士への最高3万ポンド(約381万円)の補償義務といった点等が中心となっている。
①法律専門家の強制納付金を資金源とする独立運用制度で顧客やローファームにとって苦情対応を円滑化する。
②弁護士の過誤が明らかとなったときは謝罪要求から最高3万ポンドの損害賠償金といった罰則が科される。
③新しいオンブズマン制度は従来の“Legal Complaints Service”と“Bar Standards Board”を含む8つの異なる機関(従来のLegal Ombudsmanサイトの解説に8団体名が明記されている)を中心とする、法的な市場セクターに関する苦情を扱う現在の紛らわしい複雑なシステムに取って代わる点は高く期待される。
④ABSは2011年末までに稼動する予定である。
(3)新リーガル・オンブズマンとはいかなる具体的な専門家を指すのか
事務弁護士、法廷弁護士、法律専門家(Legal executives)、土地等不動産に関する権利移転専門法律家(Licensed Conveyancers:LC)(筆者注5)等からなる。スタート時の理事会理事一覧や具体的なチームの顔ぶれの一覧がある。
3.新リーガル・オンブズマンの基本的な制度概要
新オンブズマン・サイトでは基本的知識として次のとおり説明している。なお、同サイトでは説明リーフレット、ビジョンの内容、理事会や委員会組織、制度にかかる公文書等につき逐一解説しているので参照されたい。また、同サイトでは「消費者向け情報コーナー」を設け、具体的な苦情様式やアクセス等について説明している。
(1)対象エリア:イングランドとウェールズ
(2)利用者は一般市民、零細企業、慈善団体、クラブや受託者等で「無料」である。
(3)政府から独立した機関で、公平性を最重要視する。
(4)我々は、原則非公式に業務を進め、必要に応じ正式な調査を行う。一度本オンブズマンの決定が受け入れられたとき、弁護士に対し我々が何が必要かにつき述べた内容についてはその実行を保証する。
(5)我々は基本的な権限があっても苦情申立のすべてについて調査する義務はない。あなたが受ける「法律上の助言」や裁判所の判断に同意しないことで不満があったとしてもその点をカバーするものではない。
(6)我々は法令が失効していたとしても弁護士や警察のために規則化を行うものではない。これは異なる規制監督機関が行う問題である。
(7)我々は次の内容を含む司法サービスにつき苦情を調査できる。
①家や財産の購入や売却
②離婚等の家族法
③遺言(wills)
④身体傷害(personal injury)
⑤知的財産
⑥刑事法
⑦民事訴訟
⑧移民問題
⑨雇用問題
⑩その他
4.新オンブズマン制度への移行にかかる経過措置
従来のオンブズマン・サイトは新オンブズマンへのアクセス内容を説明するとともに移行措置について解説している。いずれにしても混乱はありそうである。
なお、苦情申立に対象となる異なる法律専門家につき具体的に列挙しており参考になると思われるのでここであげておく。
①事務弁護士(Solicitors)
②法廷弁護士(Barristers)
③不動産等権利移転専門法律家(Licensed Conveyancers:LC)
④公証人(notaries)
⑤商標弁理士(Trade mark attorneys)
⑥法律費用見積専門士(Law costs draftsmen)(筆者注6)
(筆者注1) 参考までにわが国の「弁護士法」第8章第1節に基づく弁護士会による「懲戒事由・処分」の規定内容につき記しておく。
(1)第56条 弁護士及び弁護士法人は、この法律又は所属弁護士会若しくは日本弁護士連合会の会則に違反し、所属弁護士会の秩序又は信用を害し、その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があつたときは、懲戒を受ける。
2 懲戒は、その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会が、これを行う。
3 弁護士会がその地域内に従たる法律事務所のみを有する弁護士法人に対して行う懲戒の事由は、その地域内にある従たる法律事務所に係るものに限る。
(懲戒の種類)
第57条 弁護士に対する懲戒は、次の4種とする。
一 戒告
二 2年以内の業務の停止
三 退会命令
四 除名
2 弁護士法人に対する懲戒は、次の4種とする。
一 戒告
二 2年以内の弁護士法人の業務の停止又はその法律事務所の業務の停止
三 退会命令(当該弁護士会の地域内に従たる法律事務所のみを有する弁護士法人に対するものに限る。)
四 除名(当該弁護士会の地域内に主たる法律事務所を有する弁護士法人に対するものに限る。)
(2)依頼者側にたった苦情のためのアドバイスの解説例(東京商工リサーチ「横山雅文のリーガルリスクマネジメント」(2003年1月1日掲載文より引用)
「第12回 弁護士に対する苦情−紛議調停と懲戒申立て」2003.1.1寄稿
依頼した弁護士が案件の処理をしない、処理の仕方に問題がある、予期せぬ高額の報酬を請求された、などというような弁護士に対する苦情はどこに申し立てればよいでしょうか。
まず、弁護士会には「市民窓口」という電話での弁護士に対する苦情受け付けがあります。市民窓口では、相談内容によって「紛議調停」や「懲戒申立て」の説明・案内をします。
「紛議調停」とは、弁護士と依頼者との間で事件処理や報酬等で紛争が生じた場合に、弁護士や依頼者からの申し立てによって、弁護士2名からなる調停委員会が実情に即した円満な解決をはかるあっせん調停の手続です。9割方は依頼者からの申立てで、報酬に関する紛争が多いようです。
「懲戒申立て」とは、弁護士に弁護士会の信用を害する行為や品位を失うべき非行があったとして、弁護士会にその弁護士に対する懲戒を求める手続で、依頼者でなくても申し立てることができます。
弁護士に対する懲戒は、懲戒委員会が決定しますが、懲戒委員会は、弁護士だけでなく、裁判官、検察官、学識経験者からなる懲戒委員によって構成されています。
懲戒処分は、軽い順に、戒告、業務停止、退会命令、除名となっています。
不幸にして依頼した弁護士との間で紛争が生じた場合、とりあえず、弁護士会の市民窓口に電話することをお勧めします。
(筆者注2)「東京弁護士会」の弁護士の苦情専門サイトURL
http://www.toben.or.jp/consultation/complaint/
「東京第二弁護士会」の苦情専門サイトURL
http://niben.jp/consul/kujo.html
(筆者注3) 「イギリスで法律の専門家(legal executive)の資格を取得するには、法律専門家協会(ILEX)の認定を受けたコースを受講する必要があります。高等教育レベルで法学を学びたい場合、入学申し込みの前にLNAT (National Admissions Test for Law)と呼ばれる試験を受ける必要があります。法学のHNDコースに加え、法律関連のFoundation Degreeも9コースあります。
イギリスでは、弁護士の資格を取得するための決められたルートがあります。まず、法知識の基礎と称される7つの専門分野のモジュールを勉強し、それぞれの試験に合格しなければなりません。これらのモジュールは、学士号(LLBまたはBA)の取得につながります。その後、法律実習コース(LPC)や法廷弁護士志願者のためのコース(BVC)に進み、弁護士や法廷弁護士(barrister)の資格を取得することができます。」
また、大学院での勉強や実務研修は、事務弁護士(solicitor)、法廷弁護士(barrister/advocate)の資格につながります。」
(ブリティッシュ・カウンセル「英国で勉強できる法律分野のコース」の解説から抜粋引用)。
(筆者注4)英国UKの議会での法案審議のプロセスに即した図解入りの一覧性を持った専門サイトを議会が提供している。
なお、わが国の国立国会図書館のカレントアウェアネス・ポータル(7月30日号)は、英国議会の時間軸での法令の内容変更内容につきその過程を追いながら検索できるサイトの紹介を行っている。
「2010年7月29日、英国国立公文書館(NA)が、これまでに英国内で制定された法令を検索、閲覧できるウェブサイト“legislation.gov.uk”を公開しました。時間軸で表示することで、法の変遷過程を分かりやすくしたとのことです。ウェブサイトでは、1988年から現在までは全法令を、1988年以前については第一次立法分のみ利用可能のようです。また“legislation.gov.uk”の公開に伴い、これまで“Office of Public Sector Information”と“Statute Law Database”で提供していた内容は、今後“legislation.gov.uk”に引き継がれるとのことです。」
極めてさらりと説明されているが実は筆者が従来から考えている議会制民主主義の最も基本的な問題(日本国憲法で定める国民の知る権利(21条)、参政権(15条))に英国が取組んだ結果であることを忘れてはならない。このような英国の公的情報とりわけ議会の立法審議内容や制定後の改正につき抜本的な情報公開体制を構築した見本はおそらく米国であろう。
またフランスについても議会上院(Senat)の立法過程のトラッキング・サイトは理解しやすい構成である。
一方、わが国の議会サイトでの法案審議トラッキング情報はいかがであろうか。現在のサイトを見てみる。衆議院サイト「第176回国会 議案の一覧」がある。議案種別に議案審議経過情報が見れるが、委員会やどこでどのような議論が行われているかに関する情報はほとんどない。もう20年以上画面構成は見直されていないのではないか。
(筆者注5)英国の“Licensed Conveyancers”ついてはわが国では解説は皆無であるし的確な訳語は難しい。その資格管理団体である“Council for Licensed Conveyancers”サイトでは制度の概要について説明している。なお、根拠法は「1985年司法行政法(Administration of Justice Act 1985)(c.61)」である。
(筆者注6)“Law costs draftsmen” もわが国で存在しない法律専門家である。英国大手の
“Law costs draftsmen”会社である「R COSTINGS LTD社」のサイトで確認してみた。まず訴訟ありきの国柄かも知れないが、法律実務の分散化は司法システムの効率化とは相反するものであり、英国のさらなる課題を垣間見た気がする。なお、法律費用見積専門士には協会(Association of Law Costs Draftsmen)があり、その主催する試験の合格や会員登録が必要である。
〔提供サービスの内容〕
①身体障害、医療過誤、重傷、婚姻や刑事民事裁判費用等の見積り
②弁護士費用(counsel fee)、診断書、条件付手数料や成功報酬手数料等を含む費用見積り
③訴訟などにおいて交渉が行きずまったとき、裁判所による詳細調査聴聞(Detailed Assessment hearnig)が求められるときの出席
④裁判費用等に関する各種助言
[参照URL]
・英国法務省の新リーガル・オンブズマン制度開始のリリース
http://www.justice.gov.uk/news/announcement071010a.htm
・英国「2007年リーガル:サービス法(Legal Services Act 2007)」
http://www.legislation.gov.uk/ukpga/2007/29/contents
・英国新リーガル・オンブズマンの専用サイト
http://www.legalombudsman.org.uk/aboutus/index.html
・「法律サービス監視委員会」のサイト
http://www.legalservicesboard.org.uk/
Copyright © 2006-2010 福田平冶. All Rights Reserved.
2010年10月6日水曜日
米国やカナダの高齢者を対象とする振込め詐欺「おばあちゃん・・助けて」の警告と防止対策
本ブログでは、しばしばハイテク・詐欺の手口やその対策・起訴等の最新情報を紹介してきた。
今回紹介するテーマは、日本でなお被害が減らない「振り込め詐欺」が北米で被害が広がっていることから、詐欺専門サイトを開設、各種詐欺手口を列挙し、その被害予防防止につとめている「米国商事改善協会(BBB)」および「カナダ銀行協会の詐欺予防サイト(Fraud prevention Tip))の最新情報や「詐欺予防コール・センター(Canadian Anti-Fraud Call Centre:CAFC)」等の具体的な取組みを紹介する
読者は読んですぐに気がつくと思うが、孫の懇請に弱い祖父母の感覚は古今東西を問わないことがよく理解できる。「ちょっと待て」、「冷静に考えて」と言葉だけでなく国際犯人グループの早期逮捕が急務であるが、組織全体を壊滅するため国際協力がますます欠かせなくなってきている。
また、カナダのCAFCの“SeniorBusters program”で見るとおり、相談相手も相者も高齢者といういい意味での高齢社会の相互コミュニケーションの場として有効に機能している点は、筆者が従来からかかわっている東京大学「高齢社会総合研究機構(IOG)」の研究テーマと関係してこよう。
なお、筆者は皮肉にも銀行協会や捜査当局による振込阻止の取組みは、わが国の方がすすんでいると思う。
1.米国商事改善協会(Better Business Bureau:BBB) (筆者注1)の取組み
2009年11月2日、BBBは次のようなカナダ人からの振り込め電話詐欺に関し、消費者向けの警告文を発表した。
(1)手口の概要
・ある祖父母に孫からと信じさせる「今、大変困っているんだ」との電話がかかってくる。
・思わせぶりの孫は、通常「カナダを旅行中であるが逮捕されたとか自動車事故に巻き込まれたと窮状をうったえる。損害賠償金や保釈金をすぐ払わねばならないので、すぐにおばあちゃんは数千ドル(1万5千ドルといったケースもある)を電信為替で送金して欲しい」といった内容の電話をかけてくる。
多くの高齢者は、この手の詐欺にはかからずに詐欺の報告を警察等関係機関に報告している間に別の犠牲者が発生している。話の内容はそれぞれ異なるものの、常に緊急事態として「悲しい身の上話(tale of woe)」(筆者注1)が出てくる。
緊急性をうったえる詐欺者の言葉は、人の錯覚を麻痺させる。論理的でない感情で物事を決めてしまうのである。
振り込め詐欺の広がりを考えて、米国では数州の司法長官は警告を行った。
米国の法執行機関は、加害者が米国全体にわたる高齢者の電話番号をどのように取得しているかは確認できていない。しかしながら、加害者は高齢者にあたるまでランダムに電話をかけていると推測される。
この場合の基本的な手口は疑いを持たない祖父母に対し犯人は、まず「おれだよ」といって電話の相手に自分の親しい孫の名前を言わせるように誘導する。
(2)詐欺にかからないための方策
①このような詐欺の手口にかからないためには高齢者は本当の孫しか知らない質問を電話口で問いかけるべきである。電話のかけ手が秘密であり、この場では言えないとするときは慎重に対処すべきである。すなわち、警察に電話して合法的な正しい内容確認を要請すべきである。
②それ以上の行動を行う前に電話相手の話の確認を他の家族や親族等に行う。
③詐欺師は通常“Western Union”(筆者注2)や“MoneyGram”(筆者注3)を通じた電信送金を要求するが、それは「赤旗(red flag)」が立ったものとみなすべきである。これら電信送金で送られた資金は詐欺師によりいったん受け取られるとその追跡は極めて困難で法執行機関や銀行でも取り戻しは不可である。
④犠牲者になったときは、速やかに地元警察に報告するとともに次の関係機関に報告すべきである。
「カナダ詐欺予防コール・センター」へのホットライン(1-888-495-8501:通話無料:toll free)やインターネットでの報告が可能である。
2.カナダの振込み詐欺の実態と取組
カナダの振込詐欺の実態と具体的な阻止策について概観してみる。
(1)カナダ銀行協会(CBA)の警告と注意事項
「おばあちゃん! 助けて」と言う標題で始まる振込め詐欺の手口の説明は米国のBBBよりやや具体的である。ほとんどは同様の内容であるが、話を本物らしく見せるため詐欺師は、警察官、保釈保証人または弁護士のように行動するために別の人を電話口に置くかもしれないと書かれている点である。
CBAは、消費者を巻き込んだ詐欺対策強化のための情報提供サービスとしてウェブサイト上に“Safeguarding Your Money”と題して“Canadian Anti-Fraud Call Centre”、「経済犯罪オンライン報告サイト(Reporting Economic Crime Online:RECOL)」(筆者注4)等外部機関に関するリンク情報も提供している。
(2) 詐欺予防コール・センター(Canadian Anti-Fraud Call Centre:CAFC)の取組み
1993年に設立された「Canadian Anti-Fraud Call Centre」は、カナダ騎馬警官隊(Royal Canadian Mounted Police:RCMP)、オンタリオ州警察(Ontario Provincial Police)およびカナダ連邦産業省競争局(Competition Bureau of Canada )10/5(26)(筆者注5)により共同管理されている。
特に同センターは、マス・マーケテイング(telemarketinng)、前払い手数料詐欺:ナイジェリアン詐欺(advance fee fraud:West African)、インターネット詐欺、なりすまし詐欺等に関する情報や犯罪情報機関の情報を収集する。
CAFC自身は詐欺捜査を行うことはないが、世界中の法執行機関」に対し貴重な情報を提供する。
CAFCが集め分析した情報は、広く国民に各種の詐欺のタイプを周知する意味でその効果を計るための評価ツールとして機能する。
CAFCは“SeniorBusters program”により運営されており、現在は高齢者に対するマス・マーケティング詐欺と戦うために集まった高齢者のボランテイアから構成されている。
“SeniorBusters program”は、違法な「マス・マーケティング詐欺」および「なりすまし情報盗取や詐欺」に関する教育、カウンセリング、斡旋・紹介(referrals)等を提供している。
なお、同センターには2009年中に48件の振込詐欺関連の苦情が寄せられ、州全体では被害者は21人、被害総額は7万1,123カナダ・ドル(約569万円)と報告している。
(筆者注1)“tale of woe”と言う英語は日本人ではあまりなじみがなかろう。米国でもそうであるかは分からないが、BBBの記事の原文を良く読んで欲しい。原文(第5パラグラフ)では“tail of woe”となっている。BBBでもこのような初歩的なミスを犯すのかと考えたが、そのうちメールでBBB事務局に確認するつもりである。
(筆者注2) Western Union .JPサイトの説明を引用しておく。「ウエスタンユニオンは、電報会社として創立され、今日では世界最大手の国際送金サービス事業者へと発展しました。2006年には、創業以来ご提供してきた電報業務を完全に廃止し、国際送金サービス事業者に転換しました。ウエスタンユニオンは、様々なパートナーと協業し、現在全世界37万を超える取扱店で、お客様に多彩な金融サービスをご提供しています。」
同サイトでは、日本国内の取扱店、送金手続・受取方法や手数料等について解説している。
(筆者注3) “Money Gram”の取扱銀行であるブラジル系のイタウ・ウニバンコ銀行東京支店(Itaú Unibanco S.A. Tokyo Branch)(東京丸の内センタービル1F)のHPで確認できる(ただし、英語表示であるが)。送金・受取方法等が説明されている。日本の代理店は東京1個所しかない。
(筆者注4) カナダの“Economic Crime Online(RECOL)”についてはわが国では一般的に閲覧できる解説がないので、ここで簡単に触れておく。
“RECOL”は国際、連邦および州政府の法執行機関(経済犯罪の申立のコピーを受けるのに合法的な調査の利害を持つ規制監督機関や民間商業団体)と同様な統合パートナー・シップにかかる率先機関である。パートナーはカナダ騎馬警官隊、オンタリオ州警察、インターネットによる犯罪申立センター(Internet Complaint Center)である。
管理されたユーザーの同意(USER CONTROLLED CONSENT)では、適切な法施行機関と監督官庁に詐欺の申立を行わなければならない。RECOLは潜在的調査のための適切な法施行機関、規制監督機関または民間の商業団体を申立先として推薦する。RECOLは現在の詐欺の傾向に関係するリアルタイムのデータを提供するとともに、経済犯罪に関する教育、防止および認識を支援、提供する。
ユーザーによって入力されたすべてのデータのプライバシーは保護され、実際にオリジナルの申立データを入力したユーザーのみが調査できる。 RECOLイニシアチブに係わるすべてのメンバーは、内容のプライバシーと当該情報が経済犯罪申立の調査を支援するに使用されるだけであることを保証することにつき監視する。
このサービスは、カナダ全国ホワイトカラー犯罪センター(National White Collar Crime Centre of Canada )により管理されて、カナダ騎馬警官隊や他の共同機関により支援される。
(筆者注5) カナダ連邦産業省競争局(Competition Bureau of Canada )が執行する法律としては、 「競争法 ( Competition Act:c34)」、 「消費者包装表示法 ( Consumer Packaging and Labelling Act:R.S., 1985, c. C-38)」、 「繊維製品表示法 ( Textile Labelling Act:R.S., 1985, c. T-10)」、 「重貴金属表示法 ( Precious Metals Marking Act:R.S., 1985, c. P-19)」の4法がある。さらに競争局では、各種消費者詐欺の阻止に関する問題も取組んでいる。
[参照URL]
・「米国商事改善協会(BBB)」の高齢者向け振込め詐欺に関する警告サイト
http://newjersey.bbb.org/article/fake-grandchild-in-trouble-scam-13311
・カナダ銀行協会の高齢者向け振込め詐欺警告サイト
http://www.cba.ca/en/consumer-information/42-safeguarding-your-money/481-cba-fraud-prevention-tip
Copyright © 2006-2010 福田平冶.All Rights Reserved.
米国やカナダの高齢者を対象とする振込め詐欺「おばあちゃん・・助けて」の警告と防止対策
本ブログでは、しばしばハイテク・詐欺の手口やその対策・起訴等の最新情報を紹介してきた。
今回紹介するテーマは、日本でなお被害が減らない「振り込め詐欺」が北米で被害が広がっていることから、詐欺専門サイトを開設、各種詐欺手口を列挙し、その被害予防防止につとめている「米国商事改善協会(BBB)」および「カナダ銀行協会の詐欺予防サイト(Fraud prevention Tip))の最新情報や「詐欺予防コール・センター(Canadian Anti-Fraud Call Centre:CAFC)」等の具体的な取組みを紹介する
読者は読んですぐに気がつくと思うが、孫の懇請に弱い祖父母の感覚は古今東西を問わないことがよく理解できる。「ちょっと待て」、「冷静に考えて」と言葉だけでなく国際犯人グループの早期逮捕が急務であるが、組織全体を壊滅するため国際協力がますます欠かせなくなってきている。
また、カナダのCAFCの“SeniorBusters program”で見るとおり、相談相手も相者も高齢者といういい意味での高齢社会の相互コミュニケーションの場として有効に機能している点は、筆者が従来からかかわっている東京大学「高齢社会総合研究機構(IOG)」の研究テーマと関係してこよう。
なお、筆者は皮肉にも銀行協会や捜査当局による振込阻止の取組みは、わが国の方がすすんでいると思う。
1.米国商事改善協会(Better Business Bureau:BBB) (筆者注1)の取組み
2009年11月2日、BBBは次のようなカナダ人からの振り込め電話詐欺に関し、消費者向けの警告文を発表した。
(1)手口の概要
・ある祖父母に孫からと信じさせる「今、大変困っているんだ」との電話がかかってくる。
・思わせぶりの孫は、通常「カナダを旅行中であるが逮捕されたとか自動車事故に巻き込まれたと窮状をうったえる。損害賠償金や保釈金をすぐ払わねばならないので、すぐにおばあちゃんは数千ドル(1万5千ドルといったケースもある)を電信為替で送金して欲しい」といった内容の電話である。
多くの高齢者は、この手の詐欺にはかからずに詐欺の報告を警察等関係機関に報告している間に別の犠牲者が発生している。話の内容はそれぞれ異なるものの、常に緊急事態として「悲しい身の上話(tale of woe)」(筆者注1)が出てくる。
緊急性をうったえる詐欺者の言葉は、人の錯覚を麻痺させる。論理的でない感情で物事を決めてしまうのである。
振り込め詐欺の広がりを考えて、米国では数州の司法長官は警告を行った。
米国の法執行機関は、加害者が米国全体にわたる高齢者の電話番号をどのように取得しているかは確認できていない。しかしながら、加害者は高齢者にあたるまでランダムに電話をかけている推測される。
この場合の基本的な手口は疑いを持たない祖父母に対し犯人は、まず「おれだよ」といって電話の相手に自分の親しい孫の名前を言わせるように誘導する。
(2)詐欺にかからないための方策
①このような詐欺の手口にかからないためには高齢者は本当の孫しか知らない質問を電話口で問いかけるべきである。電話のかけ手が秘密であり、この場では言えないとするときは慎重に対処すべきである。すなわち、警察に電話して合法的な正しい内容確認を要請すべきである。
②それ以上の行動を行う前に電話相手の話の確認を他の家族や親族等に行う。
③詐欺師は通常“Western Union”(筆者注2)や“MoneyGram”(筆者注3)を通じた電信送金を要求するが、それは「赤旗(red flag)」が立ったものとみなすべきである。これら電信送金で送られた資金は詐欺師によりいったん受け取られるとその追跡は極めて困難で法執行機関や銀行でも取り戻しは不可である。
④犠牲者になったときは、速やかに地元警察に報告するとともに次の関係機関に報告すべきである。
「カナダ詐欺予防コール・センター」へのホットライン(1-888-495-8501:通話無料:toll free)やインターネットでの報告が可能である。
2.カナダの振込み詐欺の実態と取組
カナダの振込詐欺の実態と具体的な阻止策について概観してみる。
(1)カナダ銀行協会(CBA)の警告と注意事項
「おばあちゃん! 助けて」と言う標題で始まる振込め詐欺の手口の説明は米国のBBBよりやや具体的である。ほとんどは同様の内容であるが、話を本物らしく見せるため詐欺師は、警察官、保釈保証人または弁護士のように行動するために別の人を電話口に置くかもしれないと書かれている点である。
CBAは、消費者を巻き込んだ詐欺対策強化のための情報提供サービスとして
ウェブサイト上に“Safeguarding Your Money”と題して“Canadian Anti-Fraud Call Centre”、「経済犯罪オンライン報告サイト(Reporting Economic Crime Online:RECOL)」(筆者注4)等外部機関に関するリンク情報も提供している。
(2) 詐欺予防コール・センター(Canadian Anti-Fraud Call Centre:CAFC)の取組み
1993年に設立された「Canadian Anti-Fraud Call Centre」は、カナダ騎馬警官隊(Royal Canadian Mounted Police:RCMP)、オンタリオ州警察(Ontario Provincial Police)およびカナダ連邦産業省競争局(Competition Bureau of Canada )10/5(26)(筆者注5)により共同管理されている。
特に同センターは、マス・マーケテイング(telemarketinng)、前払い手数料詐欺:ナイジェリアン詐欺(advance fee fraud:West African)、インターネット詐欺、なりすまし詐欺等に関する情報や犯罪情報機関の情報を収集する。
CAFC自身は詐欺捜査を行うことはないが、世界中の法執行機関」に対し貴重な情報を提供する。
CAFCが集め分析した情報は、広く国民に各種の詐欺のタイプを周知する意味でその効果を計るための評価ツールとして機能する。
CAFCは“SeniorBusters program”により運営されており、現在は高齢者に対するマス・マーケティング詐欺と戦うために集まった高齢者のボランテイアから構成されている。
“SeniorBusters program”は、違法な「マス・マーケティング詐欺」および「なりすまし情報盗取や詐欺」に関する教育、カウンセリング、斡旋・紹介(referrals)等を提供している。
なお、同センターには2009年中に48件の振込詐欺関連の苦情が寄せられ、州全体では被害者は21人、被害総額は7万1,123カナダ・ドル(約569万円)と報告している。
(筆者注1)“tale of woe”と言う英語は日本人ではあまりなじみがなかろう。米国でもそうであるかは分からないが、BBBの記事の原文を良く読んで欲しい。原文(第5パラグラフ)では“tail of woe”となっている。BBBでもこのような初歩的なミスを犯すのかと考えたが、そのうちメールでBBB事務局に確認するつもりである。
(筆者注2) Western Union .JPサイトの説明を引用しておく。「ウエスタンユニオンは、電報会社として創立され、今日では世界最大手の国際送金サービス事業者へと発展しました。2006年には、創業以来ご提供してきた電報業務を完全に廃止し、国際送金サービス事業者に転換しました。ウエスタンユニオンは、様々なパートナーと協業し、現在全世界37万を超える取扱店で、お客様に多彩な金融サービスをご提供しています。」
同サイトでは、日本国内の取扱店、送金手続・受取方法や手数料等について解説している。
(筆者注3) “Money Gram”の取扱銀行であるブラジル系のイタウ・ウニバンコ銀行東京支店(Itaú Unibanco S.A. Tokyo Branch)(東京丸の内センタービル1F)のHPで確認できる(ただし、英語表示であるが)。送金・受取方法等が説明されている。日本の代理店は東京1個所しかない。
(筆者注4) カナダの“Economic Crime Online(RECOL)”についてはわが国では一般的に閲覧できる解説がないので、ここで簡単に触れておく。
“RECOL”は国際、連邦および州政府の法執行機関(経済犯罪の申立のコピーを受けるのに合法的な調査の利害を持つ規制監督機関や民間商業団体)と同様な統合パートナー・シップにかかる率先機関である。パートナーはカナダ騎馬警官隊、オンタリオ州警察、インターネットによる犯罪申立センター(Internet Complaint Center)である。
管理されたユーザーの同意(USER CONTROLLED CONSENT)では、適切な法施行機関と監督官庁に詐欺の申立を行わなければならない。RECOLは潜在的調査のための適切な法施行機関、規制監督機関または民間の商業団体を申立先として推薦する。RECOLは現在の詐欺の傾向に関係するリアルタイムのデータを提供するとともに、経済犯罪に関する教育、防止および認識を支援、提供する。
ユーザーによって入力されたすべてのデータのプライバシーは保護され、実際にオリジナルの申立データを入力したユーザーのみが調査できる。 RECOLイニシアチブに係わるすべてのメンバーは、内容のプライバシーと当該情報が経済犯罪申立の調査を支援するに使用されるだけであることを保証することにつき監視する。
このサービスは、カナダ全国ホワイトカラー犯罪センター(National White Collar Crime Centre of Canada )により管理されて、カナダ騎馬警官隊や他の共同機関により支援される。
(筆者注5) カナダ連邦産業省競争局(Competition Bureau of Canada )が執行する法律としては、 「競争法 ( Competition Act:c34)」 、 「消費者包装表示法 ( Consumer Packaging and Labelling Act:R.S., 1985, c. C-38)」 、 「繊維製品表示法 ( Textile Labelling Act:R.S., 1985, c. T-10)」 、「重貴金属表示法 ( Precious Metals Marking Act:R.S., 1985, c. P-19)」 の4法がある。さらに競争局では、各種消費者詐欺の阻止に関する問題も取組んでいる。
[参照URL]
・「米国商事改善協会(BBB)」の高齢者向け振込め詐欺に関する警告サイト
http://newjersey.bbb.org/article/fake-grandchild-in-trouble-scam-13311
・カナダ銀行協会の高齢者向け振込め詐欺警告サイト
http://www.cba.ca/en/consumer-information/42-safeguarding-your-money/481-cba-fraud-prevention-tip
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2010年10月4日月曜日
米国連邦司法省やロンドン警視庁が“Zeus Trojan”の大規模国際銀行口座サイバー詐欺犯を起訴
去る8月28日付けの本ブログで、筆者は「米国『スケアウェア詐欺』に見る国際詐欺グループ起訴と国際犯罪の起訴・裁判の難しさ」を取り上げた。
9月30日、連邦司法省ニューヨーク南部地区連邦検事局、ニューヨーク郡地方検事局(District Attorney for New York County)、FBIニューヨーク事務所(field office of FBI)等はオンライン・バンキングにおける銀行の機密取引情報を盗み、ACH(筆者注1)と電子通信詐欺(Wire Fraud)を介し、世界中に数百万ドルの被害を引き起こした詐欺グループ37人を逮捕し旨リリースした。
犯人グループはキー・ロガーを利用したマルウェア“Zeus Trojan”(筆者注2)を利用していた。
一方、英国では9月29日にロンドン警視庁(MPS)のサイバー犯罪特別捜査チーム(PCeU)(筆者注3)が、数千人の銀行顧客口座から最高600万ポンド(約7億6,200万円)以上を盗取した罪で東欧出身者19人を逮捕した旨発表した。
犯罪者グループはマルウェア“Zeus Trojan”を利用し、オンラインバンキングにかかるログオン情報を盗取したうえ、無権限アクセスを行い犯罪組織が管理する海外の口座に送金した。その手先になったのが違法な海外への資金の送金請負人“Money Mules”であった。
特に海外メディアはコメントしていないが、これら犯罪者たちの年令に注目して欲しい。米国の場合ほとんどが20歳前後である。また英国の場合、20歳代後半から30歳代前半である。彼らが何ゆえこれらの犯罪に引き込まれたのか、どのような国際犯罪組織が暗躍しているのか。英国の起訴犯人グループは年令が米国より上(20歳代後半)であるが、その多くは失業者である。
本文を読まれると理解できると思うが、経済的に恵まれない東欧諸国の若者を巻き込んだ詐欺犯罪として従来のサイバー犯罪の類型とは異なる手口である。
仮に彼らが有罪と判断させたときの最高刑はあまりにも重い気がするが、これが世界の現実である。さらにいえば、わが国の若者がこの手の犯罪グループに安易に巻き込まれない保証はない。
経済の低迷が続くわが国でも「他山の山」とすべき事例であろう。(筆者注4)
また、英国のサイバー犯罪対策組織の最新情報やその国家としての取組方針・施策についてわが国では詳しく論じたものがなく、今回あらためてまとめた。参考サイトの内容は今後のわが国の関係機関の研究課題につながろう。
筆者が本ブログでもしばしば取上げてきた米国が意図しているのはSWIFT(国際銀行間通信協会)を介した国際テロ資金の流れの追跡だけでなく、今回のような違法な国際詐欺グループの追跡にこだわる背景の1つとして、これらサイバー犯罪にかかる捜査のためにも重要な点であることが理解できよう。
なお、今回はその詳細は略すが、2010年7月28日にセキュリティ調査会社“Secure Works”がロシアを本拠とする国際犯罪組織、“botnets”、“Virtual Private Network”(筆者注5)“Zeus Trojan”の異種、オンラインの“Money Mules”役の募集広告、偽造小切手ネットワーク等まさにサイバー金融犯罪の最新形態の分析結果を公表している(被害総額は最大900万ドル(約7億5,600万円))。このレポートは関係国の法執行機関との協同作業に基づきまとめられたものであるが、この種のレポートにはない具体性がある(その内容の専門性から見て筆者の領域を越えることから目下関係専門家に相談中である)。“Secure Works”のZeusの銀行システムに与える影響解析レポート(Zeus Trojanの闇相場等)(2010年3月11日)もある。
Ⅰ.米国のサイバー犯罪手口と犯罪組織
1.連邦司法省ニューヨーク南部地区連邦検事局、ニューヨーク郡地方検事局、FBIニューヨーク事務所(field office of FBI)等の共同リリースの概要
(1)犯罪の手口
9月30日、公開されたマンハッタン連邦地方裁判所に提訴した訴状によると、今回のサイバー攻撃は、東欧で始まり「Zeus Trojan」として知られているマルウェアの使用を含んでいた。(マルウェアは、通常明らかに親切心からでたメールとして合衆国の中小企業や自治体(municipalities)のコンピュータに送られた)。 メールがいったん開かれると、マルウェアは犠牲者のコンピュータにそれ自体を埋め込み、被害者のキー・ストローク(オンラインで自己の銀行口座にログインしながら、それらの口座番号、パスワードおよび他の重要なセキュリティコードを含む) を記録した。 マルウェアを管理するハッカーは、次に犠牲者の銀行口座を引き継ぐ目的で盗んだ金融取引情報を使用して、共謀者が管理する口座に対し1回に何千ドルもの無権限海外向け資金送金を行った。
盗んだマルウェア攻撃の売上金を海外に送金するかまたは振り込むための役割を担う「Money Mules組織」によって準備された。同計画を実行に移すため、「Money Mules組織」は学生用ビザで合衆国に入った個人を取り込み、あるいは偽の外国パスポートをそれらに提供して、米国の銀行で偽名口座を開くよう彼らに命令した。
これらの偽名口座がいったん口座が開設されるとマルウェア攻撃で危険にさらされた口座から盗んだ資金を受け取ると、「Money Mules」は不正に入手した大量の現金の大部分を海外にある他の口座に振り込むか、引き出しまたは海外に送金するよう命令された。
(2)捜査活動
マンハッタン連邦地方裁判所に告訴された被告には、(1)「Money Mules組織の管理者や人集め担当者、(2)money mulesのための偽海外パスポートを取得担当者が含まれる(連邦司法省のリリース文では“passports for the mules, and money mules.”の部分が抜けていた)。
協調的な操作活動の一環として、連邦および地元の法執行官吏は、9月30日早朝に10人の被告を逮捕したが、別の10名はすでに逮捕していた。 同日午後にマンハッタン連邦裁判所に今日ニューヨークで拘留されている被告が現れると予想される。 17人の被告はニューヨークと海外でなお捜査中である。
2.起訴内容の一覧
連邦司法省やFBIの9月30日のリリースは、次の様式で裁判ケース名や被告の氏名、年令、犯罪名(適用法)、有罪時の最高刑ごとに一覧を作成している。ここですべてを網羅することは省略するが、専門外の読者のために犯罪名と最高刑罰については簡単に補足する。
(1)United States v. Artem Tsygankov, et al. (10 Mag. 2126)
被告名 年令
ARTEM TSYGANKOV 22
SOFIA DIKOVA 20
MAXIM PANFEROV 23
KRISTINA IZVEKOVA 22
Ct :犯罪名 : 被告 : 有罪時の最高刑罰
1 Conspiracy to Commit Bank Fraud ARTEM TSYGANKOV, SOFIA DIKOVA, MAXIM PANFEROV, KRISTINA IZVEKOVA 30 years in prison; fine of $1,000,000 or twice the gross gain or loss; and restitution
2 Conspiracy to Possess False Identification Documents ARTEM TSYGANKOV, SOFIA DIKOVA, MAXIM PANFEROV, KRISTINA IZVEKOVA 15 years in prison; fine of $250,000 or twice the gross gain or loss; and restitution
3 False Use of Passport MAXIM PANFEROV 10 years in prison; fine of $250,000 or twice the gross gain or loss; and restitution
4 False Use of Passport KRISTINA IZVEKOVA 10 years in prison; fine of $250,000 or twice the gross gain or loss; and restitution
①銀行に対する詐欺罪の共謀罪(Conspiracy to Commit Bank Fraud):18 U.S.C. §§ 1349,1344 and 2
②偽の本人確認文書の所有罪(False Identification Documents):18 U.S.C. §1028
③パスポートの偽造または悪用罪(Forgery or false use of passport):18 U.S.C §1543
④マネー・ローンダリング罪(Money Laundering):18 U.S.C § 1956
または18 U.S.C § 1957
⑤偽の本人確認文書の譲渡罪(Transfer of False Identification Documents):
18 U.S.C. §1028
⑥偽の本人確認文書の作成罪(Production of False Identification Documents):18 U.S.C. §1028
⑦偽の入国管理文書の所有(Possession of False Immigration Documents):
18 U.S.C § 1546
(2) United States v. Artem Semenov, et al. (10 Mag. 2154)
(3) United States v. Maxim Miroshnichenko, et al. (10 Mag. 2141)
(4) United States v. Marina Oprea, et al. (10 Mag. 2142)
(5) United States v. Kristina Svechinskaya, et al. (10 Mag. 2137)
(6) United States v. Margarita Pakhomova, et al. (10 Mag. 2136)
(7) United States v. Ilyya Karasev, et al. (10 Mag. 2127)
(8) United States v. Marina Misyura, et al. (10 Mag. 2125)
(9) United States v. Nikolai Garfulin, et al. (10 Mag. 2138)
(10) United States v. Dorin Codreanu, et al. (10 Mag. 2152)
(11) United States v. Victoria Opinca, et al. (10 Mag. 2153)
(12) United States v. Alexander Kireev, et al. (10 Mag. 1356)
(13) United States v. Kasum Adigyuzelov, et al. (10 Mag. 1622)
(14) United States v. Sabina Rafikova, et al. (10 Mag. 1623)
(15) United States v. Konstantin Akobirov, et al. (10 Mag. 1659)
(16) United States v.Adel Gataullin , et al. (10 Mag. 1680)
(17) United States v. Ruslan Kovtanyuk, et al. (10 Mag. 1827)
(18) United States v.Yulia Klepikova , et al. (10 Mag. 1753)
(19) United States v.Alexande Sorokin , et al. (10 Cr.437(RWS))
(20) United States v. Alexander fedorov, et al. (10 Cr.873(KTD))
(21) United States v.Anton Yuferisyn , et al. (10 Cr.134(JGK))
(22) United States v.Jamal Beyrouti , et al. (10 Mag.2134)
Ⅱ. 英国のZeus Trojan犯罪グループの大量逮捕
2010年9月日午前0時までとする英国ロンドン警視庁の差止リリース記事(現時点では見れない)に基づき事件の概要を紹介する。
今回逮捕された19人はロンドン警視庁のPCeUにより9月28日に一斉逮捕されたもので、予め入念に計画されたハイテク犯罪で英国の銀行口座から数百万ポンドを盗取したものである。PCeUの捜査員は9月28日の5時から6時の間に23歳から47歳にわたる19人(男性15人、女性4人)を逮捕した。
容疑者は「1990年コンピュータの不正使用に関する法律(the Computer Misuse Act of 1990)」、 「2002年犯罪収益没収法(Proceeds of Crime Act of 2002:c29)」および「2006年詐欺法(Fraud Actof 2006)」容疑で逮捕、取調べ中である。逮捕された者のうち2人は違法銃器所持容疑でも逮捕されている。
今回の事件で多くの世界の主要銀行がこの3か月間顧客のオンライン口座をのっとられ、かつ資金を盗まれた。英国内で調査している600万ポンドの被害金額については今後さらに増額するかもしれない。
銀行口座の無権限ログオンするためのデータの詳細を盗み取る極めて効率的なマルウェアとされる“ZeuS”(Zeus Trojan)により損害を被った英国民は数千人と想定される。
全英警察本部長・部長会の“Virtual Task Force”(筆者注6)議長のマーチン・ミューアヘッド(Martin Muirhead)は次のコメントを行っている。「今回のサイバー犯罪グループの大量逮捕は、イギリスでどのように複数の政府機関と公的・民間の機能人材情報資源と専門的技術を生かすかに関する好例といえる。PCeUにとって導かれた先導的仕事といえる。」
マルウェア“Zeus Trojan”は、世界中のサイバー犯罪者によってインターネットの安全使用に対する大きな脅威を引き起こして、ますますその使用の可能性は拡がっている。今回の事件に限られないことに留意すべきである。
Ⅲ.SMSに拡がる”Zeus Trojan”
“Zeus Trojan”のマルウェアとしての最大の問題点は容易に異種が作成されることである。専門的な解説は略すが米国のセキュリティ専門サイトでは9月29日にモバイルバンキングで使用されるテキストメッセージの交換のデータ(SMS)(筆者注7)を盗取する“Zeus Trojan”が検出されたニュースが報じられている。欧州のモバイルバンキングの本人確認で使用される「取引認証番号(Transaction Authentication Number: TAN)」は伝統的なユーザー名やパスワードと同様、金融取引の認証要素として使用されている。
具体的な犯行の手口は目下関係機関が分析中であるが、“man-in-the mobile”攻撃には次のステップがあると解析されている。
①まず、ユーザーのPCが“Zeus Trojan”に感染される。その結果、被害者はユーザー名やパスワードを盗取される。
②違法なアプリケーションがモバイルフォンにインストール、感染するとSMSを介してサイバー詐欺師(cybercrooks)は情報検索する。
③次に詐欺師はすでに得た機微情報に基づき、銀行のウェブログにログインしTANを必要とする取引を実行する。
④銀行は自動的にモバイル端末宛にTANを含むSMSを送信する。
⑤モバイル内にすでに存するマルウェアにより、詐欺師が管理するサーバーにテキストメッセージを転送することで当該違法取引は完了する。
わが国のSMSは国際的な互換性がないことが幸いか?
(筆者注1)ACHは、 米国の連邦準備銀行(FRB)等によって運用され、銀行間の資金決済を電子的に行う決済システムである。給与振込、公共料金の支払いの他、利息や配当金の自動振込や自動引落、財務省が依頼人となる社会保障給付金等の受給資格付与プログラムに基づく給付等に利用されている(2007年10月14日付け本ブログ(筆者注8)参照)。
(筆者注2)シマンテックのサイトで“Zeus Trojan”の解説を引用しておく。なお、英語の資料からの直訳らしく、訳語はこなれていないため専門家でも読みにくい文章であるが一応参考にはなるので引用する(疑問に思う訳語には「?」をつけておいた)。
「 感染:Trojan.Zbot (別名 Zeus) は、侵入先のコンピュータから機密情報を盗み取ろうと試みるトロイの木馬です。また、インターネットから設定ファイルや更新ファイルをダウンロードする可能性があります。このトロイの木馬は、トロイの木馬作成用ツールキットを使って作成されます。・・このトロイの木馬自体は、主にスパム送信とドライブバイダウンロードを介して配布されますが、汎用性を考慮すると他の手段が利用される可能性もあります。ユーザーは、FDIC(連邦預金保険公社:米国金融監督機関)、IRS(米国連邦財務省連邦税課税庁)、MySpace、Facebook、またはマイクロソフトなどの組織(?)から送信されたように見える電子メールメッセージを受信する可能性があります。このメッセージは、ユーザーの金銭(?)情報、オンラインアカウント、またはソフトウェアに関する問題を警告して、電子メールで案内するリンク先を訪問するように促します。
機能:このトロイの木馬は、主に侵入先のコンピュータから機密情報を盗み取ることを目的として設計されました。特に、システム情報、オンライン資格(?)情報、銀行取引の詳細などがターゲットとなりますが、ツールキットを使ってカスタマイズすることで、どのような種類の情報でも収集することができます。・・・機密情報は、さまざまな方法で収集されます。このトロイの木馬が実行されると、Protected Storage (PStore) に格納されている Internet Explorer、FTP、POP3 に関連するパスワードを自動的に収集します。最も効率的な情報収集の手段として、設定ファイルで指定された Web サイトを監視し、タイミングを見計らって正規の Web ページを遮断して追加フィールドを挿入する(ユーザー名とパスワードの入力だけを要求するバンキングサイトに、生年月日を入力させるフィールドを追加するなど)という方法が使われます。・・・」
シマンテック「セキュリティレスポンス:Trojan.Zbot 危険度 2: 低」から引用。なお、この文章では米国FDIC、IRSについては説明部分がもれているので筆者が補筆した。
(筆者注3)ロンドン警視庁の“Police Central e-crime Unit(PCeU)”について、わが国では正確に説明したものがない。
この機会に、同ユニットのサイト等に基づき「任務記述書( Mission Statement)」やその具体的な任務内容について説明する。
(1) 任務記述書の概要
イングランド、ウェールズおよび北アイルランドにまたがる警察の能力を育成することによりサイバー犯罪の犠牲者への警察の対応を改善するため、警察サービスのあらゆるタイプのサイバー犯罪の法施行体制を整備、さらに最も重大なサイバー犯罪事件に対し国家としての捜査能力を提供する。
(2)同ユニットの具体的付託任務(remit)
①内務省(Home Office)、ロンドン市警察(City of London Police)、重大組織犯罪対策機構(Serious Organised Crime Agency:SOCA)等他の犯罪取締機関、政府機関との共同作業により、違法なIT情報犯罪に結びつくサイバー犯罪に対する高度な専門的情報の分析ならびに開発
②サイバー犯罪の壊滅を導くための情報収集
③サイバー犯罪に関する警察、政府および産業界との協同ネットワークの開発と維持
④政府の各省庁、産業界の協力者、アカデミー研究者および公益団体などを含む利害関係者との情報や機密情報の交換
⑤産業界および一般市民へのサイバー犯罪に関する教育と予防手段に関する助言
⑥サイバー犯罪に関するトレーニングの標準化、手順および対応の促進
⑦サーバー犯罪の脅威と脆弱性に関する産業界の協力者、政府機関およびアカデミー研究者との協同研究作業に基づく研究と助言
⑧同ユニットは捜査機関の重要経済詐欺事件の判断基準(Case Acceptance Criteria :捜査実施要件を定め、その犯罪要件の「すべて」、「1つ以上」、「2つ以上」等の充足程度によって犯罪事件として捜査を行うべきか否かを決める基準)に該当する重要犯罪であるか否かの調査を行う。
⑨最も重大な犯罪事件として次のような事件に責任をもって取組む
・コンピュータシステムへの侵入(computer intrusion)
・悪意あるコード(malicious code:情報システムが提供するサービスを妨害するプログラムの総称で、たとえば「コンピューターウイルス」、「ワーム」、「バックドア」、「キーロガー」等をさす)違法な配分
・DOS攻撃
・インターネットを介して可能となる詐欺犯罪(internet-enabled fraud)
PCeUの付託任務事項として、次の事項は明らかに除くものとする。
・サーバー犯罪に関する定期的な報告
・英国詐欺取締庁(National Fraud Authority:NFA)が運用・管理する「英国詐欺報告センター(National Fraud Reporting Centre)」に関するプロジェクト
・子供の搾取およびオンライン保護センター(Child Exploitation and Online Protection
Centre:CEOP)の付託事項
(3)“PCeU”の各チームの内容
①運用チーム、②情報活動チーム、③パートナーシップ開発チーム、④協同・コミュニケーションチーム、⑤犯罪阻止対策チーム
なお、現在の英国サイバー犯罪プログラムの内容を参考までに挙げておく。
①ACPO サイバー犯罪戦略、②英国サイバー犯罪プログラムの構造、③コンピュータを基礎とする電子証拠のための優れた実践ガイド、④サイバー犯罪捜査管理者向けガイド
特に、③についてはわが国においても参考とすべき点が多々あると思う。時間をかけて分析したい。
(筆者注4)筆者の手元に、オーストラリア大使館広報文化部よりオーストラリア政府の外交、政策に焦点をあてた最新情報を届けるニュースレター 「Headline Australia 最新号」が届いた。その中に次のようなレポートがあった。誤訳らしき問題のある訳語もあるが、世界の若者の現実を理解する意味で、そのまま引用する。
「世界の若者ホームレスたち
オーストラリアはメルボルンで5月17日から20日まで開かれたINSP(国際ストリートペーパーネットワーク)の年次会議には、大陸を超えて27カ国から70人の参加者が集った。ブラジルから参加した『オカス』誌の編集者ロジは、「ここに来るのに30時間もかかったわ」と笑う。今回特に各国代表に聞きたかったのは、世界の若者ホームレスの状況だった。「ビッグイシュー日本」では、リーマンショック後30~40代で「販売者になりたい」と事務所を訪れる人が急増している。今年7月に創刊を予定している『ビッグイシュー・韓国』誌のナラは語る。「韓国でも、若者のホームレス化が問題になっています。彼らに『自分がホームレスだ』という自覚はないけれど、インターネットカフェに泊まり続けていたりする。その大半は競争社会の韓国に疲れきった若者たちです。最近では、韓国版ワーキングプアも増え、『88万ウォン世代(いくら働いても月収が約7万円に満たない世代)』という言葉もできました」オランダの『ストラートニュース』紙のフランクも語る。「オランダでも若いホームレスはいるけれど、彼らは“透明人間”のようなものだよ。誰もその存在を把握していない。それで、彼らが人々の目に“見える”ようになるのは、犯罪を起こして“犯罪者”になった時なんだ」そんな社会から疎外されたホームレス状態の若者たちのためのプロジェクトが、世界で始まっている。例えば、カナダはモントリオールの『L’ltineraire』誌のサージュは、6カ月に及ぶビデオプロジェクトを立ち上げた。「ネガティブな経験しかもちあわせていない彼らには、自尊心がありません。だから、6カ月のプロジェクトを通して、自信を取り戻してほしいんです」。今、プロジェクトには、12歳で学校をドロップアウトをした若者をはじめ、16人が映画の作り方を学んでいる。ホームレス状態に落ちるしかない若者たちをいかに未然にくい止め、再び社会に包み込んでいくのか? ランチや休憩の時間にも、熱い議論は尽きなかった。」
(筆者注5) “Virtual Private Network (VPN)”または「 仮想プライベートネットワーク」とは 通信相手の固定された専用通信回線(専用線)の代わりに多数の加入者で帯域共用する通信網を利用し、LAN間などを接続する技術もしくは電気通信事業者のサービスをいう。(Wikipediaから引用)
(筆者注6) 英国警察本部長・部長(The Association of Chief Police Officers :ACPO) は、スコットランドを除くイングランド、ウェールズ、北アイルランドの全警察の本部長等からなる独立かつ自主的犯罪専門戦略策定・実行機関である。(筆者注2)で紹介した「ACPO サイバー犯罪戦略」をまとめている。その12頁で“Virtual Taskforce”について任務や機能等につき図解入りで解説している。わが国で同様な取組みがあるのか筆者は不明であるが、明確な説明は読んだ記憶はない。“Virtual Taskforce”の要旨を引用しておく。
警察、産業界、アカデミー研究者やその他法執行機関による相互協力的取組みは、緊密な協力と協力的作業が必要である。“Virtual Taskforce”の組織は各特定したサイバー犯罪を解決すべくお互いの専門技術を持ち寄り、すでにその結果で明らかなとおり新たな取組みを行っている。特に現在の“Virtual Taskforce”組織は、 金融業界に的を絞っており、銀行、決済サービス、通信業者、ISPおよび複雑な問題に多角的にビジネスサポートを行いかつ“academic rigour”(高いレベルの研究機能を指し、あらゆる前提や仮説の検証やサポートを通じて、詳細にわたる徹底した調査、先進的かつ批判的な分析や考証に関する詳細な注意を払うこと)である機関(facilitation service)「英国王立国際問題研究所 (The Royal Institute of International Affairs:チャタムハウス: Chatham House)等をパートナーとする。
なお、問題の性格上、各パートナーが遵守する“Virtual Taskforce Charter”を定める。
(筆者注7) ショート・メッセージ・サービス(SMS:Short Message Service)とは、携帯電話やPHS同士で短文を送受信するサービスである。Text Message(テキストメッセージ)とも呼ばれることがある。日本では第二世代携帯電話規格に「PDC」という独自の通信方式を採用したため、海外のGSMやCDMAとの間でサービスに互換性がない。従って厳密に言えばSMSとは区別されるべきものである。(wikipedia から引用)
[参照URL]
・http://www.justice.gov/usao/nys/pressreleases/September10/operationachingmulespr%20FINAL.pdf
・http://www.dailymail.co.uk/news/article-1316022/Nineteen-arrested-online-bank-raid-netted-20m.html
・http://www.scmagazineus.com/zeus-moves-to-mobile-devices-to-sniff-out-text-messages/article/179821/
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