2010年10月6日水曜日
米国やカナダの高齢者を対象とする振込め詐欺「おばあちゃん・・助けて」の警告と防止対策
本ブログでは、しばしばハイテク・詐欺の手口やその対策・起訴等の最新情報を紹介してきた。
今回紹介するテーマは、日本でなお被害が減らない「振り込め詐欺」が北米で被害が広がっていることから、詐欺専門サイトを開設、各種詐欺手口を列挙し、その被害予防防止につとめている「米国商事改善協会(BBB)」および「カナダ銀行協会の詐欺予防サイト(Fraud prevention Tip))の最新情報や「詐欺予防コール・センター(Canadian Anti-Fraud Call Centre:CAFC)」等の具体的な取組みを紹介する
読者は読んですぐに気がつくと思うが、孫の懇請に弱い祖父母の感覚は古今東西を問わないことがよく理解できる。「ちょっと待て」、「冷静に考えて」と言葉だけでなく国際犯人グループの早期逮捕が急務であるが、組織全体を壊滅するため国際協力がますます欠かせなくなってきている。
また、カナダのCAFCの“SeniorBusters program”で見るとおり、相談相手も相者も高齢者といういい意味での高齢社会の相互コミュニケーションの場として有効に機能している点は、筆者が従来からかかわっている東京大学「高齢社会総合研究機構(IOG)」の研究テーマと関係してこよう。
なお、筆者は皮肉にも銀行協会や捜査当局による振込阻止の取組みは、わが国の方がすすんでいると思う。
1.米国商事改善協会(Better Business Bureau:BBB) (筆者注1)の取組み
2009年11月2日、BBBは次のようなカナダ人からの振り込め電話詐欺に関し、消費者向けの警告文を発表した。
(1)手口の概要
・ある祖父母に孫からと信じさせる「今、大変困っているんだ」との電話がかかってくる。
・思わせぶりの孫は、通常「カナダを旅行中であるが逮捕されたとか自動車事故に巻き込まれたと窮状をうったえる。損害賠償金や保釈金をすぐ払わねばならないので、すぐにおばあちゃんは数千ドル(1万5千ドルといったケースもある)を電信為替で送金して欲しい」といった内容の電話をかけてくる。
多くの高齢者は、この手の詐欺にはかからずに詐欺の報告を警察等関係機関に報告している間に別の犠牲者が発生している。話の内容はそれぞれ異なるものの、常に緊急事態として「悲しい身の上話(tale of woe)」(筆者注1)が出てくる。
緊急性をうったえる詐欺者の言葉は、人の錯覚を麻痺させる。論理的でない感情で物事を決めてしまうのである。
振り込め詐欺の広がりを考えて、米国では数州の司法長官は警告を行った。
米国の法執行機関は、加害者が米国全体にわたる高齢者の電話番号をどのように取得しているかは確認できていない。しかしながら、加害者は高齢者にあたるまでランダムに電話をかけていると推測される。
この場合の基本的な手口は疑いを持たない祖父母に対し犯人は、まず「おれだよ」といって電話の相手に自分の親しい孫の名前を言わせるように誘導する。
(2)詐欺にかからないための方策
①このような詐欺の手口にかからないためには高齢者は本当の孫しか知らない質問を電話口で問いかけるべきである。電話のかけ手が秘密であり、この場では言えないとするときは慎重に対処すべきである。すなわち、警察に電話して合法的な正しい内容確認を要請すべきである。
②それ以上の行動を行う前に電話相手の話の確認を他の家族や親族等に行う。
③詐欺師は通常“Western Union”(筆者注2)や“MoneyGram”(筆者注3)を通じた電信送金を要求するが、それは「赤旗(red flag)」が立ったものとみなすべきである。これら電信送金で送られた資金は詐欺師によりいったん受け取られるとその追跡は極めて困難で法執行機関や銀行でも取り戻しは不可である。
④犠牲者になったときは、速やかに地元警察に報告するとともに次の関係機関に報告すべきである。
「カナダ詐欺予防コール・センター」へのホットライン(1-888-495-8501:通話無料:toll free)やインターネットでの報告が可能である。
2.カナダの振込み詐欺の実態と取組
カナダの振込詐欺の実態と具体的な阻止策について概観してみる。
(1)カナダ銀行協会(CBA)の警告と注意事項
「おばあちゃん! 助けて」と言う標題で始まる振込め詐欺の手口の説明は米国のBBBよりやや具体的である。ほとんどは同様の内容であるが、話を本物らしく見せるため詐欺師は、警察官、保釈保証人または弁護士のように行動するために別の人を電話口に置くかもしれないと書かれている点である。
CBAは、消費者を巻き込んだ詐欺対策強化のための情報提供サービスとしてウェブサイト上に“Safeguarding Your Money”と題して“Canadian Anti-Fraud Call Centre”、「経済犯罪オンライン報告サイト(Reporting Economic Crime Online:RECOL)」(筆者注4)等外部機関に関するリンク情報も提供している。
(2) 詐欺予防コール・センター(Canadian Anti-Fraud Call Centre:CAFC)の取組み
1993年に設立された「Canadian Anti-Fraud Call Centre」は、カナダ騎馬警官隊(Royal Canadian Mounted Police:RCMP)、オンタリオ州警察(Ontario Provincial Police)およびカナダ連邦産業省競争局(Competition Bureau of Canada )10/5(26)(筆者注5)により共同管理されている。
特に同センターは、マス・マーケテイング(telemarketinng)、前払い手数料詐欺:ナイジェリアン詐欺(advance fee fraud:West African)、インターネット詐欺、なりすまし詐欺等に関する情報や犯罪情報機関の情報を収集する。
CAFC自身は詐欺捜査を行うことはないが、世界中の法執行機関」に対し貴重な情報を提供する。
CAFCが集め分析した情報は、広く国民に各種の詐欺のタイプを周知する意味でその効果を計るための評価ツールとして機能する。
CAFCは“SeniorBusters program”により運営されており、現在は高齢者に対するマス・マーケティング詐欺と戦うために集まった高齢者のボランテイアから構成されている。
“SeniorBusters program”は、違法な「マス・マーケティング詐欺」および「なりすまし情報盗取や詐欺」に関する教育、カウンセリング、斡旋・紹介(referrals)等を提供している。
なお、同センターには2009年中に48件の振込詐欺関連の苦情が寄せられ、州全体では被害者は21人、被害総額は7万1,123カナダ・ドル(約569万円)と報告している。
(筆者注1)“tale of woe”と言う英語は日本人ではあまりなじみがなかろう。米国でもそうであるかは分からないが、BBBの記事の原文を良く読んで欲しい。原文(第5パラグラフ)では“tail of woe”となっている。BBBでもこのような初歩的なミスを犯すのかと考えたが、そのうちメールでBBB事務局に確認するつもりである。
(筆者注2) Western Union .JPサイトの説明を引用しておく。「ウエスタンユニオンは、電報会社として創立され、今日では世界最大手の国際送金サービス事業者へと発展しました。2006年には、創業以来ご提供してきた電報業務を完全に廃止し、国際送金サービス事業者に転換しました。ウエスタンユニオンは、様々なパートナーと協業し、現在全世界37万を超える取扱店で、お客様に多彩な金融サービスをご提供しています。」
同サイトでは、日本国内の取扱店、送金手続・受取方法や手数料等について解説している。
(筆者注3) “Money Gram”の取扱銀行であるブラジル系のイタウ・ウニバンコ銀行東京支店(Itaú Unibanco S.A. Tokyo Branch)(東京丸の内センタービル1F)のHPで確認できる(ただし、英語表示であるが)。送金・受取方法等が説明されている。日本の代理店は東京1個所しかない。
(筆者注4) カナダの“Economic Crime Online(RECOL)”についてはわが国では一般的に閲覧できる解説がないので、ここで簡単に触れておく。
“RECOL”は国際、連邦および州政府の法執行機関(経済犯罪の申立のコピーを受けるのに合法的な調査の利害を持つ規制監督機関や民間商業団体)と同様な統合パートナー・シップにかかる率先機関である。パートナーはカナダ騎馬警官隊、オンタリオ州警察、インターネットによる犯罪申立センター(Internet Complaint Center)である。
管理されたユーザーの同意(USER CONTROLLED CONSENT)では、適切な法施行機関と監督官庁に詐欺の申立を行わなければならない。RECOLは潜在的調査のための適切な法施行機関、規制監督機関または民間の商業団体を申立先として推薦する。RECOLは現在の詐欺の傾向に関係するリアルタイムのデータを提供するとともに、経済犯罪に関する教育、防止および認識を支援、提供する。
ユーザーによって入力されたすべてのデータのプライバシーは保護され、実際にオリジナルの申立データを入力したユーザーのみが調査できる。 RECOLイニシアチブに係わるすべてのメンバーは、内容のプライバシーと当該情報が経済犯罪申立の調査を支援するに使用されるだけであることを保証することにつき監視する。
このサービスは、カナダ全国ホワイトカラー犯罪センター(National White Collar Crime Centre of Canada )により管理されて、カナダ騎馬警官隊や他の共同機関により支援される。
(筆者注5) カナダ連邦産業省競争局(Competition Bureau of Canada )が執行する法律としては、 「競争法 ( Competition Act:c34)」、 「消費者包装表示法 ( Consumer Packaging and Labelling Act:R.S., 1985, c. C-38)」、 「繊維製品表示法 ( Textile Labelling Act:R.S., 1985, c. T-10)」、 「重貴金属表示法 ( Precious Metals Marking Act:R.S., 1985, c. P-19)」の4法がある。さらに競争局では、各種消費者詐欺の阻止に関する問題も取組んでいる。
[参照URL]
・「米国商事改善協会(BBB)」の高齢者向け振込め詐欺に関する警告サイト
http://newjersey.bbb.org/article/fake-grandchild-in-trouble-scam-13311
・カナダ銀行協会の高齢者向け振込め詐欺警告サイト
http://www.cba.ca/en/consumer-information/42-safeguarding-your-money/481-cba-fraud-prevention-tip
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