2010年3月6日土曜日

米国FRBがクレジットカード利用者保護強化に係る改正レギュレーションZの最終段階案を公募



米国の金融監督金機関かつ中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は、3月3日に法外な遅延利息や罰則的手数料からのユーザー保護ならびに適用金利の再考を求める「レギュレーションZ(「貸付真実法(Truth Lending Act)」の適用規則)」の改正案を公開し、ひろく意見を公募した。

 今回の「レギュレーションZ」の改正は2009年5月22日に成立し、2010年2月22日に大部分が施行された(残りは8月22日施行) 「2009年クレジットカード発行者の説明責任、責務および開示法(Credit Card Accountability Responsibility and Disclosure Act of 2009)H.R.627(以下、“Credit Card Act”という)」 (筆者注1)を受けた2009年7月、2010年1月に続く同規則改正の第三段階に当たるものである。

 筆者は、米国のクレジットカード利用方法の詳細や貸手の規制強化に関する2008年12月の4つのレギュレーション改正の動向について、2009年5月5日付けの本ブログ「米国FRB,OTS等によるクレジットカード規制の厳格化等に係るレギュレーション等の改正」で言及した。

 しかし、同時点のレギュレーションZは“Credit Card Act”法が成立する以前の状況下で策定されたものであり(施行時期は4規則とも2010年7月1日)、同法に基づき新たなカード発行者の義務が多数追加された。

 筆者は、同ブログ執筆時点では同法(H.R.627)が2009年末以降具体化している米国の金融監督制度改革(消費者金融保護庁(CFPA)の新設等)の一環であることまでは理解していなかった。そのため法律の具体的内容についてはほとんど言及しておらず、またわが国の同法に関する金融機関系のシンクタンクのレポートを読んでも今一ポイント・問題点が理解できなかった(筆者注2)(連邦議会調査局の「法案summary」は詳細すぎて使えない)。

 これは米国のシンクタンクのレポートでも同様であり、筆者なりに調べた結果、ホワイトハウスの解説が最も具体的で法案に忠実であったことから、その概要および今回FRBが公開した規則改正案を含む3つの「レギュレーションZ」の改正内容をまとめて解説する。

 なお、同法の最も重要な施行内容が集中する第二段階である2月22日付けの連邦議会下院「金融サービス委員会」フランク委員長の声明が筆者宛に届いた。その中でJPモルガン・チェース・アンド・カンパニーのCredit Card Actによりどのような点が変わるのか顧客宛に送付した「お客様ニュース」の紹介や本文2.で述べるFRBの解説サイトのリンクが行われている。
 

1.米国の「2009年クレジットカード発行者の説明責任、責務および開示法(Credit Card Act)」の背景とその内容
(1) 制定の背景
 わが国のシンクタンクの解析では「従来、米国の金融機関はリスクの変化に応じてクレジットカードの返済金利を柔軟に変更してきた。例えば、返済金利をいつでも変更できるとしているカードは93%に上る(Pew Charitable Trust調査)。景気後退下の現在も、クレジットカードに対する融資姿勢が大幅に厳格化するなかで、延滞など顧客に非がある場合に加えて、不動産不況が深刻な地域に住んでいる、借入残高が高水準である、などの理由から金利が引き上げられるケースが多発。」とする。(筆者注3)

(2)“Credit Card Act”の主な立法事項
A.不公正な金利引上げの禁止
①遡及効を持った金利引上げの禁止(Bans Retroactive Rate increases)
 「いつでもいかなる理由でも(any time,any reason)」や「一般的債務不履行条項(universal default)」(筆者注4)を理由とする既存口座の金利の引上げや支払い遅延に基づく遡及効を有する引上げは極めて限定する。

②カード口座開設初年度の優遇金利の6か月以上の適用(First Year Protection)
 カードの契約条件は明確に記載・説明されかつ初年度中において安定的に遵守されねばならない。発行会社は新規口座や既存口座につき優遇金利を継続して申出ることができるが、この適用金利は明確に開示されかつ最低6か月間は継続して適用しなければならない。
 
B.不公正な手数料体系の罠の禁止(Bans Unfair Fee Traps)
①支払期限の罠にもとづく遅延手数料徴求の禁止(Ends Late Fee Traps)
 発行者は毎月のカード代金の支払につき郵送時期から暦日で最低21日の支払の準備期間を消費者に与えなければならない。また、“Credit Card Act”は週末、毎月変更するものやさらに昼の時刻を支払期限とする遅延手数料規定を禁止する。

②公正な利息計算の強制(Enforces Fair Interest Calculation)
 発行者は消費者が当然期待するように初めに最も高い金利の口座残高を支払いに適用することになる。“Credit Card Act”は発行者が当月の利息計算につき前月の残高を使用する不公正な慣行(double-cycle billing)を止めさせるものである。

③利用限度手数料の設定につき消費者の事前同意を義務化(Requires Opt-in to Over-Limit Fees)
 この結果、消費者は発行者が予め口座の限度額設定時に本人の許可を得ることから限度額超過によりペナルティ手数料が課さることを避けることがより容易に理解出来ることになる。

④不公平なサブプライム連動・限度額が低いクレジットカード手数料の限定(Restrains Unfair Sub-Prime Fees)

⑤ギフトカードやプリペイドカード(stored value cards)の手数料の制限
 “Credit Card Act”はギフトカードやプリペイドカードの手数料についての開示と12か月の間休眠でない限り当該休眠手数料の徴求を制限する。

⑥契約条件の見易さ、理解しやすさ、平易な言語の使用義務化(Plain Sight/Plain Language Disclosures)

⑦発行者への消費者が融資決定を行うにあたり必要な正しい情報開示が義務化
・発行者は消費者が最低支払額で支払い続けたとした場合、現在の既存の口座残高で支払完了までに要する「期間」および「金利コスト総額」の表示を毎月の請求通知で行わねばならない。また発行者は、30か月間で既存の残高での総支払額および利息額を表示しなければならない。

C.発行者および監督機関による説明責任(Accountability)と責務
 “Credit Card Act”は、発行者および不公正な取引慣行を阻止しかつ消費者保護責任監督機関に対し説明責任を保証させるべく支援する。
①クレジットカード契約に関する一般的な公開
 従来のクレジットカード契約は紙媒体でのみ交付されまた平易な用語では書かれていない。今後、発行人はインターネットでの利用可能な形式で契約が作成が義務化される。

②監督機関は、毎年議会に対しクレジットカードの実施状況等につき報告が義務化される。

D.カード発行者に対する罰則の強化(increases penalties)
 カード発行者は従来の法立が違反の予防であったのに対し、これらの法に定める義務違反を行った場合は極めて重い罰則が科されることになる。

2.「レギュレーションZ」の改正段階別改正状況
 各段階別に改正内容と施行時期についてまとめておく。(筆者注5)
 なお、FRBは2010年2月22日から施行する新レギュレーションにつきクレジットカードの消費者向けに基づき具体例で解説するサイト「What you need to know :New Credit Card Rules」を開設した。中央銀行が消費者向けにここまで具体的かつ平易な解説を行うことは欧米でも珍しいような気がする一方で消費者保護の難しさを感じた。少なくとも参考になるサイトといえよう。

(1)第一段階
 2009年7月15日に暫定最終規則(interim final rule)を公布、2009年8月20日施行した。FRBのリリースによると三段階でレギュレーションZの改正を行うことも明記している。今回の改正主目的は、カード発行者に対しカード保有者に対しクレジットカード口座の金利引き上げや口座の利用条件について重要な変更通知の早期化を求め、あわせて実際条件更実施前の消費者の拒否権を明記したものである。具体的な規定内容は次のとおりである。

①発行者は、クレジットカード口座の金利(APR)の引上げおよび利用条件の重要な変更を行うときは、書面によりその実施の45日前に消費者に通知しなければならない。

②発行者は、①の通知においてクレジットカード口座の金利(APR)の引上げおよび利用条件の重要な変更に基づく消費者のカード口座の取消権について通知しなければならない。
 消費者が取消を行うときは、一般的に発行者は金利引上げや条件変更を行うことが禁止される。

③発行者は、一般的に支払期限の21日前までにクレジットカードや一定額限度内での返済型クレジット(open-end consumer credit accounts)(筆者注6)について周期的な通知を郵送または交付しなければならない。

(2)第二段階
 2010年1月最終規則が公布、2010年2月22日施行した。具体的な規定内容は次のとおりである。

①一般的にカード利用口座開設の初年度の予期せぬカード金利の引上げや既存カード残高に応じた予期せぬ金利の引上げから消費者を保護する。

②21歳以下の若者に対するカード口座開設は、本人に必要な支払能力があるとき、または支払につき親や連帯保証人(cosigner)の署名があるとき以外は禁止する。

③発行者に対しクレジット限度額を超えた取引に対する手数料を課す場合は、消費者の同意を得ることを義務化する。

④サブプライム・クレジットカード(subprime credit cards)3/5⑧に関連する高額手数料の適用を制限する。

⑤発行者が金利を課すにあたり、”two-cycle billing method” (筆者注7)の使用を禁止する。

⑥発行者に対し最高金利の配分適用による支払いを禁止する。

(3)第三段階
 2010年3月3日、修正規則案が公開され、2010年8月22日施行予定。具体的な規定内容は次のとおりである。
①カード発行者は消費者に対し返済遅延手数料や限度額超過手数料を含むペナルティ手数料を課す場合、消費者の口座利用条件違反の場合に課すべき金額を越えた金額を課すことを禁じる。例えばカード発行者は今後、支払遅延の場合の最低ペナルティ金額が20ドルの時に39ドルのペナルティを請求することは出来なくなる。

②消費者が口座により新しい買物を不履行の場合いわゆる睡眠口座に対する手数料の課金を禁ずる。

③発行者が支払い遅延または口座の利用条件違反に基づき複数のペナルティ手数料を課すことを禁ずる。

④発行者に金利改定の理由につき消費者に通知することを義務付ける。

⑤発行者に2009年1月1日以降金利引上げ変更の理由の再検証を行うよう求め、仮に適正である場合でも金利の引下げについても検討するよう求める。


(筆者注1) Credit Card Actの立法目的は法案(H.R.627)の前文にあるとおり” To amend the Truth in Lending Act to establish fair and transparent practices relating to the extension of credit under an open end consumer credit plan, and for other purposes.”
である。

(筆者注2) わが国の代表的な金融機関系シンクタンクのCredit Card Actの解説でも、「①正当な理由なくクレジット金利を引き上げることの禁止、②金利や手数料引き上げは45 日前までに通知、③新規発行時の勧誘金利の6 か月間維持、④請求書送付は支払期限の21 日前(従来は14 日前)などの措置が盛り込まれている。」程度である。

(筆者注3) 大中道 康浩氏は次のとおり指摘し、米国のクレジットカード業界の貸し渋りと個人消費の低迷が続くとの見通しを述べている。
「カード会社や商業銀行はリテール戦略の重要な柱としてカード事業を位置づけており、きめ細かな与信管理、金利設定、手数料徴求などを通じて大きな収益を上げている。滞りなく返済する消費者に対しては、与信枠を増やしたり、金利を引き下げるなどして一段の利用を促す一方で、延滞した消費者には与信額を即座に減額し、金利を引き上げたりしてきた。
規制強化により、こうしたきめの細かい与信管理ができなくなる。2009年5 月の法案成立後、カード会社は先を見越してリボルビング金利の引き上げ、請求書送付への課金、クレジット未利用者に対する休眠手数料の設定などを行い、延滞などの事故を起した先については口座の強制解約やクレジット限度額の引き下げといった対応を行ってきた。」
 なお、大中道氏は法律の正式名を「クレジット・カード責任・責務及び開示法」と訳されている。この点について“accountability”は「説明責任」と訳すべきであり、内閣府のサイトも「説明責任」と訳している。さらに言えば意訳になるが本文のとおり「クレジットカード発行者の説明責任、責務および開示法」とすべきであろう。

また、日本総研リサーチ・アイ岩崎氏「米国でクレジットカード業界への規制強化法が成立~個人消費回復の抑制要因に~」も同様な指摘を行っている。

(筆者注4)“universal default”とは、クレジットカード約款に書かれていて、多くのクレジットカードで採用されている「一般的債務不履行条項」である。カード会社は顧客の信用を定期的にチェックし、顧客の信用度やリスクをめぐる環境が変化したら、カード会社は適用する金利を引き上げられるという条項。支払い遅延とか、限度額超過、債務超過、信用供与の過享受、複数会社を同時に過剰に利用といった顧客の行為が該当する。

(筆者注5)FRBの規則策定や改正の経緯は専用サイトで確認できる。

(筆者注6) 米国金融機関が扱う“open-end credit consumer credit”とは、「銀行、貯蓄貸付組合やその他の他の貸し手によって消費者に提供された融資限度額内で回転させる消費者信用を言う。 融資限度額は一定の限度額内で設定されると、消費者は限度額内でクレジットカード、小切手またはキャシングを使用することができる。 購買やキャシングするときはいつも、与信額は消費者に代り拡大される。 消費者は毎月全体の債務残高を全部支払って利息に負担を避けることができるし、または、未払い残高に生じた利息のみの支払を行うこともできる」ものである。

(筆者注7) “two-cycle billing method”とは、「通常1か月ごとに決済するカード決済が2か月や3か月にわたる返済になるもので、最終的な定期月額金利(Periodic Interest Charge)が高くなるためこれを禁止する。興味のある方は“Single –cycle billing”と“Two-Cycle billing”との比較ウェブサイトで実際比較計算してみよう。なお、“Periodic Interest Charge”とは何を言うのか。通常金利の表示は「年利(APR)」であるがクレジットカードの金利は頻繁に変動することもあり、1か月あたりに換算した金利表示のことを言う。すなわち、APRが8%であるならば“Periodic Interest rate” は0.08/12=0.666%となる。」(本ブログ参照)


[参照URL]
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/bcreg20100303a1.pdf(レギュレーションZ:改正第三段階の原本)
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/20100303a.htm(レギュレーションZ:改正第二段階の原本)
http://edocket.access.gpo.gov/2009/pdf/E9-17195.pdf(レギュレーションZ:改正第一段階の改正案の原本)
http://www.govtrack.us/congress/billtext.xpd?bill=h111-627(Credit Card Actの原本)

Copyright (c)2006-2010 福田平冶. All Rights Reserved.


0 件のコメント: