2013年7月3日水曜日

米国連邦FDAが違法なオンライン薬局に対し1,677の未承認ウェブサイトの閉鎖等国際的共同法執行措置を発動






去る6月27日、米国連邦保健福祉省・食料医薬品局(U.S.Food and Drug Administration:FDA)は6月18日から25日の間に実施した国際的な規制当局や捜査・法執行機関と共同して消費者に極めて重大な危険性をもたらす違法でありまた未承認の処方薬を販売する96,000以上のウェブサイトに対し、規制・監督機関の警告発布、提供物の押収および世界的規模で違法な医薬品約4,110万ドル(約39億9,900万円)相当に対する法執行活動(第Ⅵ次パンジア作戦:Operation Pangea Ⅵ)を行った旨リリースした。

 この情報はわが国では、唯一、ペンネーム(桜下街(おうかがい)ブログ「くすりなひと」がFDAのリリースやCBSニュースに基づき概要を解説している。

 また、これまでの世界的にみたパンジア作戦の取組みについて、わが国の一部専門ブログのみが取り上げている。しかし、筆者が見るにこれだけ国際的な規制・法執行活動について、どういうわけかわが国の規制監督機関である厚生労働省や捜査取締機関である警察庁の公式リリースは皆無である。(筆者注1)

 筆者が独自に調べた範囲では、鳴り物入りでスタートさせたわが国のインターネットによる医薬品販売の適正化ルールに関し、担当規制機関である厚生労働省医薬食品局総務課が主催する「一般用医薬品のインターネット販売等の新たなルールに関する検討会(1回~11回)」の第9回会合(2013年5月16日)でやっと「資料3:インターネット上の監視強化について:検討課題」という資料が提示されている。要するに日本は担当行政機関の特定も含めこの問題はこれからなのである。

 さらに本ブログの執筆にあたりわが国のオンライン薬局特に海外からの輸入医薬品を扱うサイトの内容をつぶさに読んでみた。本文で具体的に紹介するが米国の場合と危険性はまったく変わらない。(筆者注2)

 今回のブログでは、FDAのリリースだけでなく国際的な共同作戦である「パンジア作戦」についても国際関係機関のデータを織り込んでまとめてみた。この問題に関するわが国の消費者保護のあり方を改めて考えるきっかけとしたい。 

 なお、筆者は医薬品問題の専門家ではない。消費者から見たICT世界の適性な発展を期待するが故の問題提起であり、わが国の関係者によるさらに具体的論議が高まることを祈る者である。

1.FDAのリリース要旨

前述したブログ「くすりなひと」が、FDAのリリースに基づき主要な事項は整理しているので参照されたい。ここでは、この問題が国際的な犯罪組織がバックにあるがゆえ手口の専門性やその健康面に極めて重大な悪影響を与えているかについて、FDAのリリース等に基づき補足する。

(1)「第Ⅵ次パンジア作戦」の米国の取組み

FDAの犯罪捜査局(Criminal Investigations)は、6月18日から6月25日の間にコロラド地区連邦検事局と共同し、1,677の違法な薬局ウェブサイトを押収(seized)、閉鎖(shut down)させた。

これらのウェブサイトの多くは一見“Canadian Pharmacies”(筆者注3)に偽者でありながら類似するもので犯罪組織ネットワークの一部として活動しているように見えた。これらのウェブサイトは、「有名ブランド名」や「FDA認可」を名乗った広告手段を用いて米国の消費者に医薬品を購入させるべく、その納得させるため、にせの免許証や認可証を画面上に表示した。

パンジア作戦で対象となる一部受け取った医薬品は、カナダからでなくまたブランド名でもなくFDAの認可も受けていなかった。また、これらのウェブサイトは、米国の消費者に対し米国の主要な小売業者と提携関係があるように信じさせるべく、その名前を詐称した。

現在、消費者が違法な押収ウェブサイトを識別しうるよう、FDA犯罪捜査局サイバー犯罪ユニットは禁止リストを表示した。

ここにいくつかの詐称例を挙げる。

・http://www.canadianhealthandcaremall.com/

・http://www.walgreens-store.com

・http://www.c-v-s-pharmacy.com

FDA犯罪捜査部長ジョン・ロス(John Roth)は、「違法なオンライン薬局は米国の消費者に潜在的に危険な製品を販売することでその健康を危機的状況に置く。これらは米国や海外の諸国による現下の戦いであり、FDAは刑事事件としての法執行や規制監督を続ける。また、FDAは消費者を保護するとともにこの戦いに参加する国際的なパートナー達と関係強化を図るためパンジア作戦に参画したことに満足している」と述べた。

全部で99カ国の法執行機関、税関、規制機関からなる「第Ⅵ次パンジア作戦」の目標は、違法な医薬品や医療機器メーカーやその販売業者を特定し、サプライチェーンからこれらを排除することである。

第Ⅵ次パンジア作戦において具体的な標的として違法なウェブサイトで販売された危険な医薬品例としては次のものがあげられる。

・AVANDARYL(Glimepiride およびRosiglitazone):FDAにより認可されている医薬品は「タイプ2」の糖尿病の治療用の用いられる一方で、体液貯留(fluid retention)による浮腫(edema)、心臓の悪化や心不全を引き起こすリスクが指摘されている。このため、AVANDARYLは認可された医療サービス機関で処方され、また薬物療法ガイドに即して潜在的危険性につき説明をもって認可を受けた薬局で配布されなければならない。(筆者注4)
・GENERIC CELEBREX:オンラインで販売される“GENERIC CELEBREX”はFDA認可医薬品ではない。FDAが認可する“GENERIC CELEBREX”(celecoxib:セレコキシブ)は骨関節炎(osteoarthritis)やリュウマチ様関節炎(rheumatoid arthritis)の兆候に対処するもので成人の激痛を緩和させるために使用される非ステロイド(non-steroidal)の抗炎症剤製品(anti-inflammatory product)である。

一定の長期使用の場合、消化管出血(gastrointestinal bleeding)、心臓発作(heart attack)または脳卒中(stroke)のような関係する潜在的な危険性を最小化するため、GENERIC CELEBREXはこれらの潜在的リスクにつき薬物療法ガイドに基づいた説明の上で配布されねばならない。

・Levitra Super ForceおよびViagra Super Force:Levutra(vardenafil:バルデナフィル)およびバイアグラ(sildeafil:シルデナフィル)は勃起障害(ED)のために使用するFDAにより認可された医薬品であるが、Levitra Super ForceおよびViagra Super ForceはFDAにより認可されておらず、早漏治療薬であるdapoxetine(ダポクセティン)を含むといわれている。FDAはダポクセティンの安全性や効能につき何等の決定を行っていない。一定の心臓に疾患を持つ人はバルデナフィルまたはシルデナフィルを含有するED薬を飲むべきでない。これらの医薬品による危険な薬物相互作用または重大な悪影響の潜在可能性としては「聴覚障害(loss of hearing)」や「視覚障害(loss of vision)」がある。

・Clozapine(クロザピン)(筆者注5):FDAが承認しており、重度な統合失調症(severe schizophrenia)の治療に使用されるが、潜在的に致命的な無顆粒球症(agranulocytosis)(筆者注6)や、重症化したり、生命に危険を及ぼす白血球数の低下をもたらす。

この危険性を最小化するためには、FDAが承認したクロザピンを処方された患者は彼らの白血球数を定期的にモニタリングするため登録しなくてはならない。

FDAはその他の連邦機関と共同作業にしておいて第6次国際インターネット行動週間(6th annual International Internet Week of Action:IIWA)において国際郵便サービス機関を通じて受け取った医薬品のスクリーニングを行った。

予備調査段階で明らかとなったことは、海外からの送られてきた例えば「性機能障害(antidepressants)」、「ホルモン補充療法(hormone replacement therapies)」、「睡眠導入」、その他勃起機能障害(treat erectile dysfunction)、高コレステロール、発作薬(seizures)などが米国の消費者に近づきつつあることを示した。

また、健康リスクに加えてこれらの薬局クレジットカード詐欺、成りすまし、コンピュータウィルスなどを含む非健康関連の危険性も消費者に引き起こす。 

FDAは専門サイト“BeSafeRx”を介した違法な薬局ウェブサイトの特定方法やどのようにして安全なオンライン薬局を見つけ出すかに関する情報を提供する。まずは“Know Your Online Pharmacy”を読むことである。

2.近年のパンジア作戦の概要と経緯

2012年3月、国際刑事警察機構(INTERPOL)と世界各国の製薬会社の合意に基づいて、医薬品犯罪プログラムが開設される。これは、インターポールの医薬品偽造・医薬品犯罪 (MPCPC)ユニットに属し、医薬品犯罪の防止、及び違法行為に関与する組織の実態の解明と解体を目的とする。
もう1つの重要な目的は、近年増加するインターネットを利用した医薬品の購入者に、偽造医薬品の危険性に対して注意を促すことである。

2012年に、世界100カ国で繰り広げられた「オペレーション・パンジア5」では、違法な医薬品をオンライン販売する犯罪組織を摘発することを目的とし、結果として逮捕件数が約80、死に至る危険性がある偽造医薬品の押収が375万点、総額1050万ドル相当であった。(2013.3.15 QLife Pro記事「偽造医薬品の撲滅へ インターポールと製薬企業が手を組む」から一部抜粋。2013年3月の第5次パンジア作戦の成果に関するINTAPOLのリリース文 (筆者注7)

3.医薬品業界の偽造医薬品に関する国際的およびわが国の取組み

(1) わが国の医薬品業界の偽造医薬品取締りの取組み

製薬業界は偽造医薬品の取締り強化を実効性を持たせる目的で米国に設置された「インターネット医薬品安全化センター(center for safe internet pharmacies: CSIP)」につき、国際製薬団体連合会(IFPMA) 米国研究製薬工業協会(PhRMA)欧州製薬団体連合会(EFPIA)および日本製薬工業協会(JPMA)の4 つの製薬団体は、世界の研究開発型製薬業界を代表し、偽造医薬品取引の対応における重要なステップとして、CSIP をはじめとする幅広い各方面での取り組みを支援した。

(2)わが国のオンライン薬局のウェブサイトで見る危険度、警告

最後に本ブログを執筆するに当り、改めてわが国のオンライン薬局の実態をよく読んでみた。ほんの一部の例ではあるが極めて危険さが浮かび上がってきた。

①わが国の「薬通販ベストケンコー」のバルデナフィルの販売画面

「バルデナフィルの副作用・注意事項に関して」部分を引用する。

「バルデナフィル(vardenafil)の一般に言われる副作用は下記の通りです。

バルデナフィルの一般的な副作用として、「顔のほてり」「目の充血」などがあります。その他に「軽い頭痛」などもございます。副作用の程度は軽く一時的なものです。」FDAが指摘するような視覚障害など危険性の指摘は皆無である。

②海外医薬品の通販サイト「くすりの宅配便」のレビトラ・ジェネリックの商品説明サイト

・副作用など危険性に関する説明文言は一切なし

③オンライン薬局 Japan RX comスーパーピーフォース(ダボキセチン/ダポクセティン)の説明サイト

・副作用など危険性に関する説明文言は一切なし

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(筆者注1)厚生労働省が医薬品の輸入に係るリスクに関し何も警告を鳴らしていないとは言っていない。例えば厚生労働省・医薬食品局・監視指導・麻薬対策課「個人輸入において注意すべき医薬品等について」を見ておく。

「下記製品については、有害事象の発生や偽造医薬品の可能性がありますので、個人輸入による安易な使用はお控えください。」という説明の後に海外の保健機関の具体的な警告内容を列挙している。しかし、このような警告を都度確認している消費者はいかほどいるであろうか。また、その説明内容はいかにも専門家向きである。

また、厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル」が参考になる。ただし、患者自身や家族が読むように丁寧に説明されている部分があるが、オンライン薬局で掲示されている医薬品名で検索するにはなお、工夫の余地が大である。FDAのくすりに関する総合専門サイト“Know Your Online Pharmacy”と比較されたい。

(筆者注2) 日本医師会総合政策研究機構(JMARI)調査レポート1999年11月8日号 伊原和人・天池麻由美「普及するインターネット・ビジネス①―インターネット薬局―」は約14年前とはいえ、今日の米国やわが国の現状を踏まえた問題点を先取りしたレポートといえる。

(筆者注3) )確かに筆者の 手元にも“Canadian Pharmacies”を名乗る胡散臭い下手な英語の売り込みメールが時々届く。完全に無視しているが、この手のものであろう。

(筆者注4)FDAは、 AVANDARYL(Glimepiride およびRosiglitazone)に関す専門家(内分泌科、医療専門家)や消費者向けの解説サイトを提供している。ただし、その内容は必ずしも平易とは思えない。

(筆者注5) Clozapine(クロザピン)についてWikipedia の解説を引用する。「クロザピン(Clozapine)は治療抵抗性統合失調症の治療薬であり、非定型抗精神病薬である。元来世界初の第二世代抗精神病薬といわれていて、長く使用されていた言語地域もあるようだ。現在では97ヶ国で承認・使用されている。日本ではクロザリルの名前でノバルティスファーマより発売されている。

しかし無顆粒球症などの副作用もあり、使用する際一週間に一回血中濃度を測定しなければ命が危険になる。」

これだけ危険性が伴う医薬品でありながら、オンライン薬局で販売されている。例えば、

「Japan RX.com」は「クロザピン (クロザリル ジェネリック) 錠」を販売しているが、「効能関連注意」を読んでも具体的な危険性指摘は皆無である。

(筆者注6) 無顆粒球症(agranulocytosis) とは、血液中の白血球のうち、体内に入った細菌を殺す重要な働きをする好中球(顆粒球)が著しく減ってしまい、細菌に対する抵抗力が弱くなった状態のことです。

無顆粒球症になると体内に入った細菌を殺すことができなくなるため、かぜのような症状として「突然の高熱」、「のどの痛み」などの感染に伴う症状がみられます。(2007年6月厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル:無顆粒球症(顆粒球減少症、好中球減少症)」6ページ以下から一部抜粋)

(筆者注7) 2012年INTAPOLの第Ⅴ次パンジア作戦の動画解説参照

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