2011年12月5日月曜日

英国議会上院「科学・技術特別委員会」が英国の長期的な核開発R&D能力につき警告的報告書を発表










本ブログでは英国の原子力エネルギー関連問題につき4月19日「英国の日本の原子炉メルトダウン直前の緊張等によりウラン・プルトニウム混合酸化物燃料売却計画凍結問題」、8月5日「英国は日本の電力各社や政府の原子力問題慎重化によりMOX燃料製造工場の閉鎖を決定」で取上げてきた。

さて11月22日、英国議会上院特別委員会(UK Parliament :House of Lords:Select Committee)の「科学・技術委員会(Science and Technology Committee )」が英国の長期的な核研究および核開発能力につき警告的内容の報告書「科学・技術特別委員会第3次報告書(Science and Technology Committee-Third Report)」を発表した。(筆者注1)最も特徴的な部分は、政府の核問題R&Dの取組みは長期的にみて楽観的すぎるという批判的な内容である。

本特別委員会が、2050年までを見据えた英国の核エネルギー問題を取り上げた背景は言うまでもなく2011年3月11日のわが国の福島第一原発の悲惨な事故である。
すなわち、英国議会自身が2050年を目標とする長期的核研究・開発能力(R&D)につき、2011年4月28日を期限とする「意見具申(Call for Evidence)」の結果を受けて検討を開始したのである。議会は「政府」に対し、英国の核問題の将来を考え、この問題を正面からとりあげるべき立場から検討を開始したといえる。

なお、筆者自身最も興味を抱いた点は、この問題に関する特別委員会の審議・証言内容を議会自身が公開していることである。議会の委員会ビデオ・サイトで確認することが出来る。特に、2011年7月6日、上院科学・技術委員会においてわが国の原子力安全委員会副委員長である鈴木辰二郎氏が証人として発言している。その内容は逐一確認したわけではないが、前述した意見具申と重なる部分が多いと思われるのでここで引用した。
一方、わが国の原子力委員会、専門審査会や部会の速記録は従来から「原子力安全委員会・会議資料」サイトで公開されている。他方、衆議院や参議院の審議内容はインターネットで完全中継や録画が閲覧できると謳っているが、重くてほとんど利用できない。この点も今回の情報収集を通じて筆者が学んだ点である。

さらに、注目すべき点は議会の具申に対し、「証拠書面意見(Written Evidence)」として提出された証言者の範囲と多様性である。本文で詳しく述べるが、その内容の科学的に見た正当性評価等は別としても短時間にこれだけの関係者・関係機関等の意見を集約する関係者や議会の熱意と姿勢に筆者は強く心を打たれた。

今回のブログは、このようなEU加盟国において核問題と2050年に合わせた脱炭素問題に積極的に取り組んでいる国の例として英国議会や政府に関する最新情報を体系的かつ時系列にまとめて整理したいと考えてまとめた(わが国の今後のR&D能力問題も気になる)。また、国際原子力協会(WNA)がまとめている英国の原子力政策概観(“Nuclear Power in the United Kingdom”)は都度内容が更新されており併用されたい。

重要な点は、これら一連の政府や公的機関およびエネルギー供給企業(多国籍原子力企業)の述べていることが真実かどうかである。海外メディア特に英国メディアの記事例を最後に挙げた。英国における安全性問題についての議論が明らかに少ないと感じた。

最後に、わが国政府は2012年4月に発足させる「原子力安全庁」について、放射線被害を防ぐための基準を検討する「放射線審議会」を文部科学省から移すなど組織の骨格を固め、2012年の通常国会に必要な法案を提出する予定である。わが国のエネルギー政策と核の安全問題につき長期的戦略を考える上で英国の例を取上げた。


1. 英国の電力脱炭素化政策と原子力発電への取組みの基本方針と具体的な取組み内容の概観
わが国の原子力問題の研究機関が解説しているとおり、英国政府は2008年1月、新規原子力発電所の建設はしないとする従来の政策を転換し、「民間事業者が競争市場で原子力発電所を建設できるよう環境整備を行う」という新たな原子力政策を発表し、以降、新規原子力発電所建設促進のための様々な制度改革が進められている。
このような説明自体は間違いではないが、このような極めて重要な政策転換の説明としては不十分であろう。
ここでは2008年1月のエネルギー政策方針返還の具体的内容およびその後の政府や議会等関係機関の対応について概観する。

(1)2008年1月、ビジネス・企業・規制改革省(BERR)(筆者注2)は「核エネルギー白書(A White Paper on Nuclear Power :Meeting the Energy Challenge)」を公表し、その中で次の3点の新政策が明確に表明された。
①新たな原子力発電所は、英国の将来のエネルギー混合施策として低炭素資源とともに役割を負うべきである。
②エネルギー開発会社に対し、新たな原子力発電所に対する投資を認めることは公益にかなうことになる。
③政府は、これらの施策を容易にするため積極的な手段をとるべきである。

(2)2009年4月、社会資本計画委員会(Infrastructure Planning Commission:IPC)がまとめた「コンサルテーション結果報告書」を公表

(3)連立政権(Coalition Government)は、2010年6月にエネルギー供給会社は主要な計画につき通常の計画手続をとり、かつ公的助成金を受けることがない場合は新たな原子力発電所の建設が認められるというビジョンをまとめた計画を公表した。
2010年6月27日、政府は議会に対して行った報告「第1次エネルギー政策声明(Annual Energy Statement 2010:AES)」(筆者注3)において、核エネルギーは将来エネルギー混合施策として「再生可能エネルギー(Renewable Energy)」および「二酸化炭素回収・貯留 (CCS: Carbon Capture and Storage)」(筆者注4)とともに重要な役割を担うことを確認した。(エネルギー・気候変動省(Department of Energy & Climate Change:DECC)のサイト解説参照)

(4)DECCサイトで見る新原子力エネルギー政策への新たな前進に向けた諸活動(最新情報に更新されている)
DECCサイトの説明によると、政府は規制と投資家の計画リスクの削減に向け、具体的に次のような前向きな行動をとる旨明言している。
国家政策声明文書(National policy Statements):国家戦略レベルに合致する新施設の構築に向けた潜在的な可能性を調査する。同声明は、後述するとおり2011年7月19日に指定され、新たな原子力発電所の建設に適するとして8用地がリストアップされた。

EU法(筆者注5)に適合する健康リスク等から見た英国の核規制の正当化(Regulatory Justification)
EU法(EU指令)が求める健康侵害リスク査定を上回る新たな原子力開発のメリットの有無に関する明確化問題。2010年10月18日、DECC大臣はAP100(改良型加圧水型原子炉)やEPR(欧州型加圧水型炉)の構造・設計が正当化できるもので、かつ健康侵害リスク査定を上回るメリットがあるという決定を行った。

核廃棄物および廃棄費用にかかる保証合意(Wastes and Decommissioning Financing Arrangement)
新たな原子力発電所の運営会社が将来の発電所の廃棄および生産した廃棄物につき十分な基金を確保(put aside)することを保証させる。

④一般的発電所の構造・設計にかかる評価審査(Generic Design Assessment:GDA)と型式認可(筆者注6)
英国の新規原子力発電所建設に伴う事前設計認可は、包括的設計審査(Generic Design Assessment:GDA)と呼ばれ、現在2つの炉型が申請されている。(中略)・・今後、国家の重要な基盤施設建設計画について総合的な判断を下す独立機関IPC(Infrastructure Planning Commission)が「2008 年土地開発・社会資本整備計画法(Planning Act 2008)(筆者注7)に基づいて2009年10月に設置された)が設置者の申請に対して建設の許可を判断することになる。
なお、DECCサイトの解説では、福島第一原発事故を反映してまとめられた「Weightman report」の検討経緯を踏まえ、新たな原子炉設計は安全性および環境問題をクリアすべく問題に対処する形で纏められたと記されている。

DECCは、前向きな規制に向けた効率化に挑戦に取組むべく原子力監督・規制改革プログラム作成の任務を引き受けた。その一環として2011年4月に「原子力規制局(Office for Nuclear Regulation:ONR)」が稼動を開始した。また、DECCはグローバルな競争力を持った原子力のサプライチェーン管理グループ、原子炉提供事業者、運営会社の創設およびその支援を行うべく機能を始めた。また、英国内での新たな原子炉建設に向けた適切な技術を持った労働力を保証すべく役割を担った。
これらの目的は、2018年頃から最初の新たな原子力発電所を稼動させることである。

(5)DECCが新原子力発電所の建設、稼動に向けた指標スケジュール(Indicative timeline for new nuclear)公表
DECCは2011年11月14日、2010年8月に策定した指標スケジュール線表を見直し新線表を公表した。線表改定の要旨は別途まとめられている。

(6)英国の核開発問題に関する意見公募と査定評価報告書
ここでDECCサイトから英国の核開発の未来にかかる査定評価報告書の取りまとめ経緯を概観する。
・2007年5月、政府は「原子力エネルギーの開発の未来:英国の低炭素経済下における原子力エネルギーの役割(The future of nuclear power:the role of nuclear power in a low carbon UK economy )」を取りまとめ、意見公募を行った。この意見公募原案および付属資料(annexes)にかかる評価最終報告書「英国における将来の民間原子力エネルギーにかかるBERRの公的取組みおよび他の関係機関の査定評価(Evaluation of BERR’s engagement of the public and other interested parties in the future of civil nuclear power in the UK:Final report)」は政府が委託したダイアン・ウォーバートン(Diane Warburton)が責任者として取りまとめ、2009年10月に公表された。
なお、ダイアン・ウォーバートンは“Sciencewise-ERC:Sciencewise Expert Resource Centre for Public Dialog in Science and Innovation”のプログラムチームのメンバーでEvaluation Managerである。(筆者注8)

2.2011年年初以降の具体的な取組み内容
前述した内容と一部重複するが、ここで英国の標記問題への取組みを全体的にまとめたレポートがあるので抜粋する。そのレポートは独立行政法人 日本原子力研究開発機構「 原子力海外ニューストピックス 」2011年 第4号 須藤 收「英国の電力脱炭素化政策と原子力発電 」である。筆者が英国のエネルギー政策機関から得た情報にも合致する内容であり、専門的な解説部分も含め正確であると判断した。このレポートを予め読んでおかないと今回のブログの意義は半減する。(筆者注9)なお、下記の引用文のうち正式名やリンクについては筆者の責任で行った。

「 英国の保守党と自由党の連立政権は、電力の脱炭素化のためのエネルギー源として原子力を重要な柱の1つとする政策を変更せずに着々と新規原子力発電所建設に向けた環境づくりを進めている。 (筆者注10)
2011年7月18日、下院議会で6件のエネルギーに関する国家政策文書(NPS: National Policy Statements for Energy Infrastructure,EN-1からEN-6までの6つの文書1))が承認された。これ等の文書は、2050年までに温室効果ガスの排出量を1990年レベルの80%減まで削減するとともに将来のエネルギー供給保障を確立するための政策に関するもので、将来のエネルギー構成としては再生可能エネルギー、原子力、化石燃料(ただし将来は排出する炭酸ガスを回収、貯蔵するCCS(Carbon Capture and Storage)システムの導入が条件)の3つとし、各々のエネルギー関連施設の導入政策及び施設の建設に当たっての国の審査の技術規定を定めたものである。福島第一原子力発電所の事故後に、将来のエネルギー源として原子力の必要性を再確認し、新たな原子力発電所の建設促進を国家政策として議会で決定したのはイギリスが初めてである。

英国のエネルギー政策の基本は、エネルギー供給保障を確保しつつ、2050年までに温室効果ガス(GHG: Greenhouse Gases)の排出量を1990年レベルの80%減まで低減することで、この目標達成に当たっては国民の負担を最小になるような政策を選択するとしていて、原子力発電を選択する理由としては、低炭素排出で既に技術的に証明された発電技術であること、そして、燃料供給の安定性、燃料価格の安定性、資源の安定性などを挙げている。
(以下中略)

3)原子力発電所建設計画
(1)英国政府の取り組み
英国の電力市場の発電分野は、国営電力会社の分割民営化と市場の自由化によって海外企業による企業買収が進み、現在は、フランスの国営電力会社EDF、ドイツの大手電力会社のE.ON(ドイツ第1位)とRWE(ドイツ第2位)、スペインの大手電力会社イベルドローラ(Iberdrola)、国内企業のSSE(Scottish and Southern Energy)の大手5社に集約されている。これらの5社全てが原子力発電所の建設を計画している。
英国政府の原子力発電所建設への推進政策としては、建設サイトの事前審査、原子炉の型式承認に当たる包括的設計審査(GDA)により許認可期間の短縮を推し進めている。
原子炉の設計に関する審査は、AREVAのEPRとWestinghouseのAP1000についてのGDAが2011年6月に終了する予定であったが、2011年9月末に予定されていた原子力規制局(ONR )の局長Mike Weightmanの福島第一原子力発電所についての最終事故報告書の内容を審査に反映するため、審査が延びていたが、2011年10月11日に最終報告書「日本の大地震および津波:英国の原子力産業へ適用(Japanese earthquake and tsunami: Implications for the UK nuclear industry)」が提出された。
報告書の最終的結論は、英国の原子力発電所は基本的に安全であり、また新規原子力発電所建設に関するエネルギー国家政策文書NPSのEN-1及びEN-6を変更するような大きな問題はないとの結論であった。ただし、 2011年5月に報告された暫定報告書で指摘されたように非常用電源や洪水対策等に関する改善が必要であり、GDAにおいても反映する必要があるが2011年末までには審査は終了するとONRは発表している。(以下略す)」(筆者注11)
なお、12月1日、政府はマイク・ウェイトマン最終報告書で示された福島第一原発の調査結果を踏まえた問題指摘に対する政府の回答(Government response to Dr Mike Weightman's final report on 'Lessons Learnt' from Fukushima for UK Nuclear Industry)を公表した。

(2)政府のプルトニューム再利用やMOX燃料加工に関する新たな戦略内容
12月1日、英国政府(DECC)は「民間部門が保管するプルトニュームの長期的観点からの利用に関する意見公募結果を踏まえた政府の方針(Management of the UK’s Plutonium Stocks :A consultation response on the long-term management of UK-owned separated civil plutonium)」を公表した。この件についてはわが国のメディアも取り上げているが、内容は英国メディアの受け売りで正確性を欠く。別途、経緯も含め本ブログでまとめる。

3.2011年7月18日、下院議会(筆者注12)で討議、承認された「エネルギーに関する国家政策文書(NPS: National Policy Statements for Energy Infrastructure,EN-1からEN-6)」を受けた政府等の具体的動き
7月18日、下院議会は次の6つの「エネルギーに関する国家政策文書」を討議、承認した。また、7月19日クリス・ヒューン(Chris Huhne)エネルギー・気候変動相は「2008年土地開発・社会資本整備計画法(Planning Act 2008)(c.29)」(筆者注12)の下で“NPS”を指定した。

「エネルギーNPS」は、主要なエネルギー計画に関する提案につき独立機関「IPC」が査定の上決定した国家政策である。今回発表した「エネルギーNPS」は次の6つからなる。
①EN-1 包括的エネルギーNPS(Overarching Energy NPS)
②EN-2 化石燃料発電インフラストラクチャーャーNPS(Fossil Fuel Electricity Generating Infrastructure NPS)
③EN-3 再生可能エネルギー・インフラストラクチャーNPS(Renewable Energy Infrastrucure NPS)
④EN-4 ガス供給インフラストラクチャーおよびガス・石油パイプラインNPS(Gas Supply Infrastructure & Gas and Oil Pipelines NPS)
⑤EN-5 配電網インフラストラクチャーNPS(Electricity Network Infrastructure NPS)
⑥EN-6 原子力発電NPS(第Ⅰ巻)(Nuclear Power Generation NPS-Volume Ⅰ)
⑥EN-6原子力発電NPS(第Ⅱ巻)(Nuclear Power Generation NPS-Volume Ⅱ)

今回のNPSの指定に先立ち、エネルギーNPSは2回りの議会による精査(Parliamentary Scrutiny)および公開意見公募を受けた。過去の政府によるエネルギーNPS草案に関する第一次公開意見公募は2009年11月から2010年2月の間に行い、第二次公募は2010年10月18日から2011年1月24日の間に実施した。具体的な、公開意見への政府回答( The Government Response to Consultation on the Revised Draft National Policy Statements for Energy Infrastructure)議会への政府回答(The Government Response to Parliamentary Scrutiny of the Revised Draft National Policy Statements for Energy Infrastructure)インパクトアセスメント(Impact Assessment)についてそれぞれアクセスが可である。

4. 2011年11月21日委員会が公表した関係者からの提出された「証拠書面意見(Written Evidence)および議会宛メモ(Memorandum )」の概観(筆者注14)
(1) 「証拠書面意見(Written Evidence)および議会宛メモ(Memorandum )」
短期間に関係機関や個人等から多くの意見が寄せられた。出された意見は全部で70件である。提出者をカテゴリー分類すると概略次のグループに区分できる。
(1)大学教授等の原子力開発研究者
(2)大学等の調査研究機関
(3)エネルギー監督行政機関
(4)原子力エネルギー関連開発企業
(5)原子力エネルギー業界団体

(2)わが国の意見メモ
この中に(NRD58)として、わが国の原子力委員会鈴木辰二郎委員長代理が提出したものが含まれている。専門外のこともあり国内での意見陳述の内容もフォローしていないので正確なコメントは差し控えたいが、少なくともドイツの日本大使館で行ったスピーチ内容に関しては批判等が多い。
また、同委員会での証言記録の中で鈴木代理の証言は前記証拠書面意見ビデオのみで、書面記録(Committee publications)には同氏の7月6日の発言記録は含まれていない。

5.11月22日上院特別委員会「科学・技術委員会」のリリース文
概略次のような内容である。原文に忠実に仮訳しておく。
・政府は英国のR&D能力につき過度に楽観的過ぎ(too complacent)、かつ政府のアプローチの基本的変更が行われないと失われてしまう程度の専門的技術といえる。ただし、今回公表した報告書「第3次報告書(Science and Technology Committee - Third Report)」の見解は本委員会の結論の1つである。

・本委員会の主要な勧奨内容は次のとおりである。
①2025年以降を展望した原子力エネルギーに関する長期的戦略の策定、すなわちR&Dのロードマップを介したR&Dの支援、原子力に関する英国の現時点での強さについて商業ベースでの営利的な開発の支援の重要性。
この点は、英国が原子力エネルギーの選択肢の公開性を維持する上で重要なことである。
②R&Dロードマップの開発、適用および調査における脆弱的な分野の保護や能力面でのギャップを埋めるため、R&D活動の共同化の改善を補助すべく、産業界、アカデミック分野、政府のパートナーにより構成する「原子力R&D委員会(Nuclear R&D Board)」を設置する。

クレブス委員長(Committee Chairman Lord Krebs)のコメントは以下のとおり。
・原子力エネルギーのR&Dに関する専門家の多くが定年年齢に近づいている。英国の専門技術は過去の投資による研究により構築してきた。 最近の20年間の新規投資の欠如は、英国がこの専門技術を失うという危険性を意味する。その結果、我々自身が2050年までに安全かつ安全性を持ったエネルギー供給が保証できないといった危険性におかれることになる。
・政府は、将来原子力が電力供給において重要な役割を果たすと述べてきた。政府が、この取組が重要であるとするなら、R&Dとともに原子力産業分野、政府およぶ規制機関が依存できる若い専門家の存在が欠かせない。今、行動を起こさなければ、政府の原子力政策は真実性を欠くものというのが我々の意見である。

6.報告書の要旨
(1)序論
本委員会の取上げた問題点の背景は、将来において安全、手頃かつ低炭素の電力供給が可能となる混合エネルギー源の提供にかかる政府の取組み方である。政府は、原子力がこれらの目標を達成する上で重要な役割を果たすと述べた。英国の現在の原子力エネルギーは、英国全体の電力(10-12ギガワット:GW)の16%を供給している。未来の電力発電量需給のシナリオでは、現在と2050年の間で原子力発電依存度は15%から49%に上昇する(英国全体の電力使用量は12GWから38GWを想定)。2050年までに1990年のレベルまで地球温暖化(温室効果)ガス放出量を削減するという法的な拘束目標を達成するには、原子力発電量は20GW~38GWが必要となろう。

(2)委員会が勧奨を行った中心事項
我々の議論の目標は、原子力発電の議論や反対ではない。しかしながら、政府が言っている将来において英国のR&D能力が維持できるとする点に関しては反対の結論を下した。我々はR&Dのためには根本的な変革を行うべく行動開始を強く勧奨する。

(3)「原子力政策の立案、R&DのロードマップおよびR&D委員会」の設置提案として次の具体的項目をあげる。
①原子力エネルギーに関する長期的戦略の策定
政府によると英国の原子力の今後の供給は市場により決定されるであろう。他の決定要因となる証拠としては、電力市場改革が2025年までに必要なインセンティブを与えるにもかかわらず、より長期的な視点にたてば必要な原子力のR&Dにかかる能力と関係する専門技術の維持が困難であることを示す。
原子力業界、政府やエネルギー規制機関は核専門家の次世代要員の育成支援につき研究機関をあてにしているが、いったん失ったこれらのR&D能力の回復はきわめて困難である。さらに、長期戦略がなければ各企業は英国内での長期的な核投資に対するインセンティブを持たなくなろう。

②核の研究開発ロードマップの策定
核の長期戦略のためには、特に次のような英国のR&Dにおけるギャップを埋めるための施策を織り込んだ「R&Dロードマップ」を策定すべきである。
・照射後物質(post-irradiated materials)、深層核廃棄物処理の研究(deep geological disposal)、余剰プルトニウム(Plutonium stockpile)の廃棄処分、先進的核燃料リサイクルや再処理および第4世代原子炉技術(Generation Ⅳ technologies)(筆者注15)を実行できる施設である。
また、ロードマップは英国の国際協力にために信頼できるパートナーの設立、すなわち政府による第4世代国際フォーラム(Generation IV International Forum:GIF)への積極的参加体制や国立原子力研究所(National Nuclear Laboratory:NNL)(筆者注16)が取組んでいる国際的な重要なフェーズ3施設化を確保することにある。

③独立機関「原子力R&D委員会」創設の勧奨
④長期的に見た英国の原子力R&Dの資金源問題
⑤核R&D能力向上に向けたNDA、NNL等特定機関の責務

7.報告書の構成とその特徴的内容
第3次報告書自体は116頁にわたる大部なものである。その言わんとする内容はこれまで述べてきたとおりである。最後にその検討の範囲や問題意識を理解するため、目次のみであるが列記する。

(1)構成
要旨
第1章 序論
○検討範囲
・2050年およびその後の問題
・本レポートの構成
・確認事項

第2章 英国の原子力R&D-過去と現在
○歴史的背景
囲み記事1:原子炉技術
図1:英国の公的部門の核分裂(fission)のR&D
図2:英国のR&Dの要員
○英国の核部門
○調査部門の支出
表1:政府出資によるエネルギー研究と核分裂研究の比較
○英国における原子力R&Dおよび協力専門機関の強さ
図3:民間核分裂研究の鳥瞰
図4:核分裂研究の鳥瞰:技術準備面レベルからの概観た
○原子力R&Dの資金面および実行を担う組織
・民間事業者
・研究会議(Research Councils)
表2:核分裂に関する研究の機関の年次支出
・大学
・その他公的研究機関
・国際的な研究共同活動

第3章 2050年および以降のエネルギー配分における原子力の役割
○適正配分アプローチ
・エネルギー適正配分において核はどのような貢献が可能か?
囲み記事2:未来のエネルギーシナリオにおけるエネルギー混合において原子力はいかなる貢献が可能か
・異なる原子力技術の役割と核燃料のサイクル
囲み記事3:核燃料サイクル

第4章 エネルギー政策
○背景
・低炭素技術開発に力を入れた長期的計画
・原子力R&Dや関係専門機関による商業化の機会(ビジネスチャンス)
・新建設計画におけるサプライチェーンの開発
・商業的開発の強化に向けた枠組みの構築
・エネルギーの安全性問題

第5章 現在の英国のR&D能力や関連専門能力は原子力エネルギーの選択肢を明らかにしているか?
現在の取組み内容の適合性:2050年およびそれ以降の12-16GW発電能力に向けた既存の原子力施設や新たな発電施設計画はR&D能力や関係専門能力のニーズに合致しているか
○労働力の高齢化
○研究労力における追加的なギャップ
・照射物質研究の研究施設
・核廃棄に関する遺産および現存するシステム
○核燃料のリサイクルと再処理
・国際的な人材採用機関(Skills Provision )12/1⑧の役割

第6章 原子力エネルギーの選択肢を維持するために
○異なる原子力の未来のかかるR&D能力や関係専門能力をいかに維持するか
・R&D計画とそのロードマップ
・全英べースのR&Dロードマップの必要性
・全英べースのR&Dロードマップの呼びかけに対する政府の反応
・全英ロードマップの策定
・研究のための資金源
○国際的な研究プログラムへの参画
(以下、略す)

8.英国のエネルギーや環境専門家や団体の議会報告に対する評価や見方
明確な解説レポートは見出しえなかった。第3次報告の紹介記事を引用するにとどめる。
(1)EAEM「Government "lacks credibility" on nuclear policy, waste and safety」

(2)原子力推進派の「Nuclear Engineering International」の記事「UK's nuclear plans 'lack credibility' without greater R&D spend」
11月22日記事で、第3次報告の要旨を詳しく取上げているが、特にコメントはない。

9.英国メディアに見る原発問題の裏交渉の実態
わが国の業界新聞の記事で次のような記事を読んだ。
「英国の原子力新設計画が前進 年末までに暫定設計承認:
英国の原子力規制機関(ONR)は2011年10月26日、政府の原子力新設計画の一環として実施している包括的設計審査(GDA)の進捗状況について9月末までの四半期報告書を公表し、ウェスチングハウス(EH)社のAP100、および仏電力(EDF)とアレバ社の欧州加圧水型炉(EPR)の両方について、年末までに少なくとも暫定的な承認を与えられる見通しだと発表した。」
これだけをよめば、わが国の読者は政府とともに安全宣言が出されたと読むであろう。なお、ONRは正確にいうと「安全衛生庁(HSE)・原子力規制局」である。(筆者注17)

一方、わが国のWatchdogであるブログ「もうひとつの暮し」で次のような英国メディア記事(抄訳)を読んだ。
「イギリス政府と原子力企業の共謀:
ガーディアン紙の電子版は2011年6月30日、イギリス政府関係者と原子力企業とのメールのやりとりを暴露した。
ガーディアン紙が入手した内部メールはネットで公開されている。
日本をおそった地震と津波の2日後に、イギリス政府は原子力企業に「原発の安全性」をアピールするPR作戦の協力を迫るメールを送っていた。
イギリスの経済省とエネルギー省が、フランス電力公社(EDF)、アレバ、ウエスチングハウスといった多国籍原子力企業と秘密裏に連絡をとっていたのがわかる。政府のこうした働きかけは、福島第一原発によってイギリスでの新世代原子炉建設計画が延期されるのを危惧したため。(以下略す)」

10.わが国の原子力問題は今行動すべきとき(私的メモ)
本ブログの執筆にあたり、英国を中心とする関係機関の情報にあたった。しかし、いずれもその内容はまず核開発ありきという大前提に立ったもので、わが国が日々危機的状況とその対応に追われている現状からは当然承諾しがたい内容であった。
専門外の筆者はこれ以上の客観的かつ専門的な解析は困難と考え、機会を改めてドイツやスイスの問題を取り上げたいと考える。なお、わが国の核問題を国際的な視野から取上げているNGO「アクション・グリーン(Action Green):代表はアイリーン・美緒子・スミス」のHPサイトを紹介しておく。このNGOは国際化がすすんでおり、多くの支援者がいることもうかがえる。

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(筆者注1) 上院「科学・技術特別委員会」は、2011年5月25日に「技術革新の支援ツールとしての公的調達のあり方(Public procurement as a tool to stimulate innovation)」(要旨 )、また、7月19日に「国民の行動変化と国家の成功への道(Behavior Change)」(要旨 )を取りまとめ、公表している。

(筆者注2) 英国の産業界育成の中心的である貿易産業省(DTI)は1983年に設置され、2007年6月まで機能してきたが、翌7月17日に「ビジネス・企業・規制改革省(BERR:Department for Business, Enterprise & Regulatory Reform)」に改組され、さらに2009年6月5日に内閣改造に伴い「イノベーション・大学・技能省(DIUS:Department for Innovation, Universities and Skills)」とBERRが統合した「ビジネス・イノベーション・職能技能省(BIS:Department for Business,Innovation and Skills)」が創設されている(2011年5月18日本ブログ「英国政府は『2006年消費者信用法』の今後2年にわたる具体的施行の総合計画を公表」(筆者注1)参照)。

(筆者注3)エネルギー・気候変動省のサイトでは、政府としての「年次エネルギー声明」を過去2回公表しており、その内容やエネルギー価格や法案等への影響については同省サイトで確認できる。

(筆者注4) 駐日英国大使館サイト「二酸化炭素回収・貯留 (CCS: Carbon Capture and Storage) 」の解説サイト(英国は、2010年3月17日 二酸化炭素回収・貯留のための専門部署、エネルギー・気候変動省・二酸化炭素回収・貯留局(Office of Carbon Capture and Storage :OCCS)を設立した)参照。なお、同大使館サイトの「ダウンロード」サイトは、英国のエネルギー・気候変動政策に関係する文書の一部について、概要(executive summary)等の翻訳を行っている。

(筆者注5)ここでいう「European Law」とは、具体的には「EU指令2009/71」等を指す。6 年の歳月を要して成立したのが2009 年に公布された「原子力施設の原子力の安全性確保のための欧州共同体枠組みを制定する2009 年6 月25 日の「閣僚理事会指令(2009/71/Euratom)」である。この指令は、先に紹介した「96/29/Euratom 指令」が一般的な放射線防護の指令であるのに対し、原子力施設に特化して安全性を確保するための枠組みを決めたものである。特に記すべき点としては、各構成国に対し、安全性に関する国内管轄統制機関を確保し、これを、原子力推進や電力関係者などの外圧から独立したところに確保することを各構成国に義務付けていることである。(「EU における原子力の利用と安全性」から一部抜粋、リンクは筆者の責任で行った)
なお、EUのローファーム等におけるEU指令等をめぐる原子力規制に関する解説レポートのURLを一部引用しておく。
(1) 2009年6月25日 世界原子力協会(WNA)の報告レポート「EU原子力安全指令(European nuclear safety law)」
(2) 2009年3月 英国のローファームBurges Salmon解説レポート「Nuclear Law」
(3) Journal of Energy & Natural 146 Resources Law Vol 28 No 1 2010 
Ana Stanič著「EU Law on Nuclear Safety:EU指令2009/71」

(筆者注6) 英国の新規原子力発電所建設に伴う事前設計認可は、包括的設計審査(GDA:Generic Design Assessment)と呼ばれ、現在2つの炉型が申請されている。炉型はフランス・アレヴァ社製EPR(160万kW)と米ウェスチングハウス社製AP1000(110万kW)である。GDA対象炉型選定の初期評価は、2007年8月から開始され、米国原子力規制委員会(NRC)やフランス原子力安全機関(ASN)など諸外国の規制当局の知見も活用するとしている。今後、国家の重要な基盤施設建設計画について総合的な判断を下す独立機関IPC(IPC:Infrastructure Planning Commission、2008 Planning Actに基づいて2009年10月に設置された)が設置者の申請に対して建設の許可を判断することになる。(高度情報科学技術研究機構(RIST)の“ATOMICA” イギリスの原子力開発体制 (14-05-01-03)から抜粋)

また、「型式認可」では、同一形式の新型炉の建設計画が多数ある場合には、許認可に係る業務量の削減が見込める。英国では新規原子炉を対象に、「一般設計評価(GDA:Generic Design Assessment)」プロセスを策定し、EPR やAP1000 について評価を開始している。(2009年5月7日 経済産業省 総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会基本政策小委員会(第2回)配付資料5「原子力安全規制制度の国際動向(米国の例)」から引用。

(筆者注7)わが国では「Planning Act 2008」を100%といってよいほど「2008年計画法」と訳している。 しかしこれでは、何のための計画法なのかが理解できないし、またその適用に当たって解釈を行う際にミスリードが発生する。本ブログではこの誤りをさけるため「2008年土地開発・社会資本整備計画法」と意訳した。

(筆者注8) イノベーション・大学・技能省(DIUS)は、2009年5月29日、「サイエンスワイズ事業・科学・イノベーション国民対話専門家センター(Sciencewise-ERC)」の創設を公表した。“Sciencewise-ERC”は新興する科学技術による社会への影響に関する議論について、国民との対話をより促進するため、政策立案者に対して面談による情報共有等のサービスを提供する情報ハブである。複雑で論争になり得る科学的な問題について、大臣や官僚が国民の視点や関心を理解するため非常に重要な手段となり得る。
具体的活動は、①専門家空なるチームを整備して、省庁および政府関係機関等のサービスを提供するほか、②省庁および政府関係機関等による国民対話のためのプロジェクトに対して助成を行う。その他イベント・展示会やニュースレターの発行等も行う。(日本学術振興会(Japan Society for the Promotion of Science(JSPS)ロンドン支部の解説から抜粋)
なお、北海道大学も“Sciencewise-ERC”を「科学技術コミュニケーション 第9号( 2011)「科学と社会をつなぐ組織の社会的定着に向けて : 英国からの教訓」において取上げている。

(筆者注9)最近時の英国政府の原子力政策の解説としては、2011年11月9日の社団法人・日本原子力産業協会の記事「英国の原子力新設計画が前進 年末までに暫定設計承認」がある。ただし、ごく概要のみの解説である。

(筆者注10) 英国の原子力政策の基本方針の転換に関する解説として以下の点を補足しておく。わが国の高度情報科学技術研究機構「イギリスの原子力開発体制 (14-05-01-03)」から一部抜粋する。
「英国政府は2008年1月、新規原子力発電所の建設はしないとする従来の政策を転換し、「民間事業者が競争市場で原子力発電所を建設できるよう環境整備を行う」という新たな原子力政策を発表し、以降、新規原子力発電所建設促進のための様々な制度改革が進められている。」

(筆者注11)結論部分では本文で引用した以上の内容が含まれている。ここでは、その紹介は略す。

(筆者注12)英国の従来の原子力政策、DECC大臣の首席原子力施設検査官に対する報告要請、議会下院の審議等につき纏めたレポートとして国立国会図書館:外国の立法 (2011.5) 河島 太朗「特集 福島原発事故をめぐる動向 :【イギリス】 政府の対応と議会の審議」が詳しく参考になる。

(筆者注13) 「2008年土地開発・社会資本整備計画法(Planning Act 2008)」につき、駐日英国大使館サイトの解説から引用(関係データへのリンクは筆者が行った。なお、同サイトでは「環境とエネルギー」と題する一連の解説があり、体系的理解には参考になる)
「2008年11月26日に、英国「エネルギー法(Energy Act 2008)(c.32)」 が発効しました。この法律は、2007年のエネルギー白書に基づいて、二酸化炭素回収・貯留(CCS)などの新たな技術や再生可能エネルギー技術の発展・導入、洋上ガス貯留などエネルギー供給におけるニーズの変化、エネルギー市場の変化に対する国民および環境の保護、といった視点から、既存のエネルギー関連法案を更新するものです。 「2008年気候変動法(Climate Change Act 2008)(c.27)」「2008年土地開発・社会資本整備計画法(Planning Act 2008)(c.29)」とともに、英国の長期的なエネルギー・気候変動戦略の根幹をなします。」

特に、「2008年土地開発・社会資本整備計画法」に関しては英国のエネルギー政策を含め国家政策の立案、事業計画化等の全体の計画化に関わる法であり、具体的な立法目的や制度の概要をここで引用しておく(東京工業大学 屋井鉄雄「計画の法制度化に基づく行政裁量の適正化に向けて」から一部抜粋、ただし、原文がスライド原稿のため具体的に説明していない部分があり、引用データの正式名称やリンクは筆者が独自に行った)。

(1)新制度のねらい
1) 国家的重要インフラストラクチャ(Nationally Significant Infrastructure:NSI)を対象:
2)計画段階を3つに分離:
①政府による国家政策書(NPS)の策定段階(積極的な市民参加,議会の関与が今後の課題)
②事業主体(官または民)によるプロジェクト開発段階(Environmental Impact Assessment:EIA)実施,社会資本計画委員会(Infrastructure Planning Commission:IPC:Planning Act第1編で定義されている)との協議,計画案の申請),
③社会資本計画委員会による計画決定段階(市民参加の評価,公開審問,意義申立)
3)新制度の効果:
①単一の承認体制
②手続きの同時進行による効率化
③決定機関の独立性
④国家政策の明確化

(2) 新制度の概要
1)国家政策書(National Policy Statement: NPS)の作成
○国が策定・決定
○20年程度の長期を対象(概ね5年ごとの改定)
○NPSの内容や策定機会は分野ごとに異なる
(滑走路1本の場所決定から地域に拠らない方針決定まで)
○幅広く積極的な市民参加を採用
(特にNPSが事業位置を特定する場合は会合方式等採用)
2)事業計画の策定段階
○計画・事業主体は市民協議(PC:Planning consultation) を実施し,計画案を作り上げ,IPCに計画案を申請する(計画策定の途上でIPCと協議実施)
○小規模な事業計画は従来方式
3)事業計画の決定段階
独立第三者機関である社会資本計画委員会の設立(2009年10月1日)
○IPCが計画・事業主体の申請した計画案を審査・決定
(Public InquiryはIPCが決定手続きと並行して実施)
○IPCは常勤委員を抱え,省庁から独立した機関
○年間10件程度(交通,廃棄物施設,エネルギー施設など)
○IPC委員(任期8年,罷免なし)
(最高レベルの中立性,信頼性,客観性が要求される)

(筆者注14)英国議会の委員会の公式記録としては、審議記録や証拠書面意見(Written Evidence)、口頭証拠証言(Oral Evidence)、無修正口頭証拠証言(Uncorrected Oral Evidence)、修正証言(Corrected Evidence)や議会メモ(Memorandum)がある。

(筆者注15) 第4世代原子炉(Generation IV:GEN-IV)とは、「第1世代」(初期の原型炉的な炉)、「第2世代」(現行の軽水炉等)、「第3世代」(改良型軽水炉、東電柏崎刈羽のABWR等)に続き、米国エネルギー省(DOE)が2030年頃の実用化を目指して2000年に提唱した次世代の原子炉概念で、燃料の効率的利用、核廃棄物の最小化、核拡散抵抗性の確保等エネルギー源としての持続可能性、炉心損傷頻度の飛躍的低減や敷地外の緊急時対応の必要性排除など安全性/信頼性の向上、及び他のエネルギー源とも競合できる高い経済性の目標を満足するものである。

2)第4世代原子炉及び国際短期導入炉概念の選択経緯
このプログラムを国際的な枠組みで推進するため、米国、日本、英国、韓国、南アフリカ、フランス、カナダ、ブラジル、アルゼンチンの9か国が2001年7月に第4世代国際フォーラム(Generation IV International Forum:GIF)を結成し、その後スイスも参加して2002年9月には参加国は10か国となった。さらに2003年にはユーラトムが、2006年には中国とロシアがGIF憲章に署名している。憲章への署名は協力への関心を表明したものであり、実際の協力活動は枠組協定(Framework Agreement)への署名をもって行われる。2005年2月に、日本、米国、フランス、カナダ及び英国は、枠組協定(第4世代の原子力システムの研究及び開発に関する国際協力のための枠組協定)に署名し、締約国となった。その後、スイス、韓国及びユーラトムが加入、2007年12月に中国、2008年4月に南アフリカが加入書を寄託した。なお、英国は後に枠組協定から抜けている。枠組協定参加国は6つのGIF対象システムのうち、少なくとも1つの研究活動に参加する。
(高度情報科学技術研究機構(RIST)のATOMICA用語解説から抜粋)

(筆者注16) 原子力の利用・開発に不可欠な技術力を保存・利用・発展させるため、エネルギー・気候変動省(DECC:Department for Energy and Climate Change)の下に、国内外への技術提供事業に重点を置いた国立原子力研究所(NNL)が2009年に発足した。当所は、原子力廃止機関(NDA)、ウェスチングハウス社、英国健康安全省、防衛省、英国原子力公社(UKAEA)、燃料・材料研究や廃棄物処理研究を進める大学等が当面の主な顧客である(高度情報科学技術研究機構(RIST)のATOMICA用語解説から抜粋)。

(筆者注17)“ONR”については、本ブログでは詳しく説明しなかったが、英国における原子力政策と安全性問題を見る上で欠くことが出来ない規制機関である。原子力問題に関する「電子告示(Nuclear e-Bulletin)」については適時に出るので要注意である。


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