2011年2月23日水曜日

バーゼル銀行監督委員会作業部会報告「金融部門と実体経済部門間の波及経路に関する研究文献の批判的考察」





 2月21日、金融庁は「バーゼル銀行監督委員会による『金融と実体経済の波及経路に関する文献サーベイ(The transmission channels between the financial and real sectors:a critical survey of the literature)』の公表について」と題するリリースを行った(日本銀行もまったく同内容のリリースを行っている)。
 例のごとくであるが、今回も「詳細につきましては、以下をご覧ください」という文言のみで同委員会の当該リリース・サイト(英文)への
リンクが張られているのみである。

 筆者は、常日頃からこのような金融機関だけでなく研究者や広く国民に対する情報公開の観点から、その公表文や「要旨」部分だけでも仮訳で提供すべきと考えている。
 さらにいえば、わが国の金融規制監督とBISとの関係を正確に理解したり、欧米主要国の金融規制監督のあり方を巡る最新の情報についてより具体的な情報提供も金融庁や日本銀行の重要な任務であると感じている。(注1)

 このような問題意識を背景として、今回のブログでは久しぶりに作業部会の設置目的や同ペーパーの持つ意義等について簡単な導入解説を試みた。わが国の金融・経済の専門家による本格的な批判的検討を期待したい。(注2)
 なお、本報告に引用される専門用語について参考として筆者なりに調べた範囲で注記を加えた。その内容の補完を含めたレポートを期待したい。

1.本報告の作成背景と検討範囲
 まず、本ワーキング・ペーパーの標題である。リリース内容や本文から見て多少意訳とはなるが「金融部門と実体経済部門間の波及経路に関する既存の経験的分析に基づく研究文献に対する批判的考察(第一次報告)」と訳すのが本来であろうと思う。

(1)国際決済銀行(BIS)は特別調査委員会のもとに「金融部門と実体経済部門間の波及経路に関する作業部会」を設置
 その設置目的は、各国金融当局が最大の研究課題としている金融安定化のための研究にあたり金融と経済の実態部門の間にある波及経路(効果)の正確な理解は重要な要素といえる。
 「強固で安定的な金融システム」とは、プロパガンダや無意味な増幅を招く金融ショックに対抗しうる強さを持ち、かつ利益を確保できる投資機会に向けた貯蓄の配分において限定的な影響にとどまらせるものであると見られている。

 実際に、金融安定化の定義や金融監督における「マクロ健全性(macroprudential)」といった取組みは、「G20金融サミット」や「金融安定化理事会(Financial Stability Board)」(注3)等の金融安定化支援国家・機関は、これは金融システム機能のマクロ健全性の破壊の結果であるという見方を強調している。

 この問題の重要性に鑑みて、銀行監督委員会は金融部門と実体経済部門間の波及経路に関する検討作業グループ(Research Task Force on the Transmission Channels: RTF-TC group)をあらたに設置した。より具体的にいうと、本作業部会は既存の研究文献を批判的に見直すことおよび既存の枠にとらわれない検証を命じられたものである。

 作業グループは、金融部門と実体経済部門に存在する3つの波及経路、すなわち、(ⅰ)借手のバランスシートからみる経路(borrower balance sheet channel)、(ⅱ)銀行のバランスシートからみる経路(bank balance sheet channel)、および(ⅲ)流動性からみる経路(liquidity channel)につき限定した。前2つの経路はしばしば金融活性化経路(financial accelerator channel)と呼ばれ、3つ目は銀行危機の流動性ポジションが強調される。

2.第一次研究報告としてまとめた既存文献の欠陥といえる問題点
 7つの点に集約した。
①マクロ・ストレス・モデル(注4)の洗練化に関し、既存のモデルの最大の欠陥はフィードバック効果分析の欠如である。マクロ・ストレス・テスト・モデルは銀行のバランスシートの実際の状況の効果を考慮するものであるが、そのようなバランスシートの作成自体が初期のマクロショックの効果を強固なものにする点を考慮していない。

②実体経済においていかなる条件が金融部門に影響を与えるのかの問題について、 注目すべき問題認識のずれとして本レポートはさらに一般的といえる借り手の債務不履行(default)や返済遅延結果(delinquency outcome)について借り手のバランスシートのポジションについて限定的な考慮しか行っていない点に着目した。借り手のバランスシート(債務不履行(default)や返済遅延結果が存しない場合でも)は借り手の信用度の正確な理解の上で関係する問題であり、順次借り手の与信や与信条件に影響を与え、また順次貸し出し行為や最終的には経済活動そのものに影響を与えるものである。

③金融部門と実体経済部門間の条件の相互作用に着目したモデルの開発問題に関し、主要な問題認識のずれ(マクロ・ストレス・テストでは共通的なもの)は、非線形性(nonlinearities)および構造上の不安定(structural instabilities)について限定的にしか考慮していないことである。
 別の認識のずれは、金融と実体経済部門間の比較的銀行の処理の型にはまって 内容を考慮する「動学的確率的一般均衡(Dynamic Stochastic General Equilibrium:DSGE)モデル」を優先して関係付けていることである。
 一方、銀行の行動に関し有益な特性を提供し影響力が大である既存の研究論文は、何が最も実務者(銀行の資本制約、資産・負債の成熟期のミスマッチ等)にとっての最大の関心事であるいかについて把握していない。

④融資に関する銀行資本の影響の問題に関し、最近時の出来事で明らかなとおり、重要な認識のずれがある。民間対政府による資本注入とでは融資や経済活動において異なる意味があることである。現下の金融危機に即して、いくつかの国(注5)が銀行部門に公的資本注入を行い、民間による資本注入と完全に類似物であり立案策定者にとっての明確な価値があるか否かについて検証した。
 関連した取組みとして、システム全体として規制の効果についての分析の根拠の必要性を配慮した。例えば、銀行に対する規制・監督からイメージされる民間部門への動機付けはほとんど機能しなかった。しかし、規制による「自己資本裁定(capital arbitrage)」が金融危機の重要1つの根拠であることは示された。さらに、動機付けに関し理解すべき重要な点は、金融監督・規制は現下の過剰な規制のもとで作られている点である。
(⑤以下は今回は略す)


(注1) 筆者は翻訳の専門家ではない。しかし、毎日主要国の政治、経済、金融等に関する政府や行政機関や主要メディア等の情報を読みながら、その情報の価値や広くわが国民への情報開示の意味については勉強しているつもりである。

(注2)本ブログでも紹介したわが国におけるBISのWorking Paper等の内容はいずれを見ても難解である。いくら翻訳作業で工夫してみても限界がある。しかしながら、そのことは仮訳作業が不要という理由にはならない。

(注3) 「金融安定化理事会(Financial Stability Board:FSB)」は、(1)国際金融システムに影響を及ぼす脆弱性の評価及びそれに対処するために必要な措置の特定・見直し、(2)金融の安定に責任を有する当局間の協調及び情報交換の促進、(3)規制上の基準の遵守におけるベストプラクティスについての助言・監視等を役割としている。第2回金融・世界経済に関する首脳会合(ロンドン・サミット:2009年4月)の宣言を踏まえ、旧金融安定化フォーラム(FSF)が、より強固な組織基盤と拡大した能力を持つ組織として再構成された。FSBには、そのメンバー国および地域の関連当局、金融監督当局による国際機関(バーゼル銀行監督委員会、証券監督者国際機構(IOSCO)保険監督者国際機構(IAIS))および国際金融機関(国際通貨基金(IMF)・世界銀行)等が参加しており、我が国からは金融庁、財務省及び日本銀行が参加している。(平成21年11月12日時点での金融庁の説明を引用のうえ、筆者が各機関にリンクを張った)

(注4) 米国の金融監督機関であるFRB,FDICやOCCが2009年2月から4月にかけて行った「ストレス・テスト(正式には「監督資本評価プログラム(Supervisory Capital assessment Program:SCAP)」について基本的な点から説明しているものとしては、関雄太「資本市場クォータリー2009年(summer)」の「ストレステストの見方とバンクオブアメリカ、GMAC」が分かりやすいと感じた。
 また、2010年7月23日に公表した欧州銀行監督者委員会(CEBS)、欧州中央銀行(ECB)による銀行ストレス・テスト(特別健全性審査)に関する論文として、代表的なものといえるかどうかは別として、伊藤さゆり「ストレステスト後の欧州経済と銀行市場」(ニッセイ基礎研究所:Weekly エコノミストレター:2010年8月20日号)の内容が興味深かった。
 これらのストレス・テストの問題点として、次のような指摘がある。「近年では、特定のストレス・テストの数、深度、範囲を広げることで銀行はストレス・テストの改善に努めてきた。しかし多くの場合、これらのテストは事業活動、リスクの種類、資産の種類ごとに別々のものとなったままである。そのため、ストレス・テストの結果と全行的な資本充実度とを厳密な方法で結びつけるのが困難であった。」

(注5) 本報告では具体的に明記していないが、公的資本注入を最も大規模に行った国は米国であろう。

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2011年2月21日月曜日

米国電子政府の科学情報検索サイトに連邦議会図書館「議会法案検索専門サイト」が追加された本当の意義


 




1月31日付けで手元に連邦議会図書館“Law Library of Congress”ブログから新情報が届いた。
初めはその意味が良く理解できなかったこともあり、そのまま放置していたのであるが、時間が出来たので改めて読み直してみた。内容自体は簡単な話であるが、一方「電子政府問題」として考えたとき、その重要性について認識したので参考までにやや詳しく紹介する。

この情報自体は、わが国では2月4日付けで独立行政法人科学技術振興機構(JST)が
「STI Updates 学術情報流通ニュース」で取上げている。基本的にはそこに書かれているとおりである(誤字(注1)は別にして)。しかし、実は米国連邦政府の電子政府の科学技術情報ポータルである“Science. gov”(注2)の歴史的なフォローがわが国における同様の問題を考える上で重要なことを再認識した。JSTの役割から考えても、このような観点から本格的に解説して欲しいと考えたが、その期待が満たされるにはなお時間がかかりそうである。

今回のブログは、このような観点から“Science.gov”の機能強化の歴史と同ポータルへの“THOMAS”機能の追加の意義等について筆者なりにまとめて簡単に説明するものである。

1.米国連邦電子政府サイトにおける“Science.gov”の基本的な役割
“Science.gov”は、連邦政府による科学情報と研究結果に関するゲートウェイウェブサイトである。
“Science.gov”は、14の連邦行政機関の18の科学分野研究機関が率先して取組む省庁横断的なゲートウェイである。これら連邦機関は同サイトを管理するため機関の協力による「共同同盟(Science.gov Alliance)」(注3)を組織化、役割分担している。

2008年9月に更新した第5世代(Science.gov 5.0)では次の主な特性と能力を備えた究極的といえる科学分野の検索サイトを実現している。(注4)
①1つの質問に対し、45以上の科学データベースにアクセス出来、2億ページにわたる科学分野情報にアクセスを可能とした。
②検索作業を支援するためユーザー入力による「副題」、「日付」での検索結果の集団化を実現した。
③検索用語に関連する“Wikipedia”の検索結果とリンクさせた。
④利用者が入力した検索用語に関係づけられた“EUREKA News”(注5)の結果を確認できるようにした。
(⑤以下は、一般的な内容なので省略する)

これらの連邦政府機関の多くは「CENDI」(注6)のメンバーである。“Explore Selected Science Websites by Topics”の部分はCENDIがメンテナンスしている。“Science.gov”ウェブサイトはテネシー州のオークリッジに本部を有する連邦エネルギー省科学技術情報局(OSTI)が担当し、また深層検索(deep Web Search)(注7)能力を提供する。

2.“Science.gov”の今日までの機能改良の経緯
(1)第一世代
2002年12月に連邦政府による初めての広く一般人がアクセスでき、政府が保有する科学・技術分野に関する広大な情報の一元的検索できるサービスが発足、稼動を開始した。
(2)第二世代
2004年5月に連邦政府科学検索に関するリアルタイムでの関連性の順位付け機能(real-time relevancy ranking)を導入した。この技術は連邦エネルギー省(DOE)により資金支援を受けたもので、一般市民が政府の保有する情報倉庫の内容を選別し、かつ利用者個人の要求を最も満たす結果を引き出すことを支援するものである。同時に、更なる検索機能(advanced search capability)やその他機能が追加された。
2005年2月には無料か使い勝手のよい「注意喚起情報メール提供」サービスを始めた。このサービスは、市民が自分が関心を持つ分野についての最新の科学開発情報が電子メールで受信できるサービスである。同サービスでは選択した情報源から最大25件の関連情報が送られてくる。注意喚起メールに添付された情報は個人化された保管ボックス(Archive)に6週間保管される。この保管庫サービスでは過去の利用実績が検証でき、また注意喚起して欲しい検索条件の編集の変更が随時可能である。

(3)第三世代
2005年11月に稼動したが、より精度が高いレベルの検索が可能となった。連邦科学データベースに対する質問が可能となり、加えて分野別検索が増強され、またユーザーによる広範囲なブール値(注8)を用いた検索方法が選択肢として追加された。

(4)第四世代
2007年2月、更なる洗練された検索質問サービスが導入された。初めて常連利用者は現データを検索することが可能となった。さらに関連結果の中で関連性の順位付けアルゴリズムは全文に対するランキングを可能として機能的にさらに洗練された。該当文書の日付は順位付け目的において優先された。また新機能として常連は仲間や友人と電子メールで検索結果を共有できるようになった。

3.今回の追加された内容の確認手順
(1)“science,gov”のポータルページを開く
(2)画面右上の“SCIENCE GOV WIDGET”NEWをクリックする。
(3) Science.gov Widgetの文中“authoritative U.S.government science information”をクリックする。
(4)“Federal Regulations and Legislation”に“NEW THOMAS,112th Congress”および“NEW THOMAS,111th Congress”が追加されている。


(注1)誤字の個所は2月4日付けSTI学術情報流通ニュースの「・・・現時点の検索対象は、第111回議会(2009-2010)と第12回議会(2011-2012)の法案。」で、第112回が正しい。ちなみに“Science.gov”の原文URLは、http://www.science.gov/thomas.html である。

(注2) 国立国会図書館の“Science.gov”の解説(2009年5月10日更新)は次のとおりである。
「米国連邦政府のポータルサイトFirst govの科学技術版で、政府系機関の有する文書、データベース、書誌情報などの信頼性の高いデータを対象に一元的な検索ができます。2002年12月に12省庁の17機関の相互協力により、Version.1が公開された後、2005年11月には現在のVersion.3にアップグレードされ、検索結果のランク付け手法やブール演算子による検索機能が改善されました。2006年3月時点で、28のデータベース、1,700以上のWebサイトの総計47,000,000ページ以上が検索対象となっています。」
しかし、本文で述べたとおりその内容はかなり古い。2000年に稼動開始した連邦政府の電子政府ポータル“First .gov.”は2007年1月に“USA.gov.”に名称が変わっており(国立国会図書館自身がこの件を報告している)、また“Science.gov”は2008年9月にバージョン5.0で新機能等が追加されている。1回の検索で、検索可能科学データベースは45で、総ページ数は2億ページ、リンクできる科学関係ウェブサイト数は計2,000以上となっている。(“Science.gov”の概要説明より抜粋)

(注3) 2008年09月16日付けSTI学術情報流通ニュースは次の内容を報じている。
「Science.govは、9月15日、サイエンスを強化し2億ページを検索するバージョン5.0を発表した。
第5.0版に搭載したのは、(1)7つの深層ウェブデータベース、(2)検索結果をサブトピックスや日付でグループ化し、必要な科学情報のみを探せるクラスタリング機能、(3)更新アラートサービス機能。
また、検索結果のeメール送信、個人用研究ファイルや引用ソフトウェアへのダウンロード、検索語に関するWiki最新情報の入手、検索語に関するEureka News最新版の閲覧が可能。」
最後に米国科学技術情報局 (Office of Scientific & Technical Information、OSTI)へのリンク情報を掲示している。
しかし、わが国でこの訳文だけを読んで具体的な内容が理解できる一般人はいかほどいるであろうか。STIの電子政府にかかる社会的な役割から見て、筆者がここで補足した程度の解説は都度実行して欲しいと考えるがいかがか。

(注4)わが国の“science .gov 5.0”の解説として、JST以外に独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)も取上げている。説明内容はJSTに比べると各種の関係データを調べた結果がうかがえる。しかし、その内容において致命的なミスがある。1アクセスで検索できるページ数は2億ページである。200万ページではない。

(注5)“EUREKA”について補足しておく。
「ユーレカ・イニシャチブ(EUREKA)は参加国の企業と研究機関に対し、国境を越えて製品や工程技術やサービス等を開発するための市場志向の共同研究を行う道を開いている。ユーレカの目的は、欧州に存在する専門家人材やノウハウや研究施設及び資金を束ね、それを通じて先端技術に基礎をおいた製品や製造技術を開発し欧州産業の国際競争力を強化するために貢献することである。ユーレカは1985 年フランスの提案によりパリで開催された欧州理事会で設立が決定されているからEU フレームワークプログラムとほとんど同時に活動を開始している。
ユーレカは設立後EU と西欧の枠を越えた多数国の協力による共同研究開発活動として発展してきた。その特徴を示すキーワードは、市場性のある成果志向、企業参加者が研究の主体となり大学等科学基盤の能力を活用、企業ニーズを反映した研究テーマ提案のボトムアップ方式、柔軟な運営体制、研究資金が参加者の属する政府やEU からの補助金あるいは自費などである。」(2003年8月ジェトロ「EU の産業技術開発政策の動向」から一部(38ページ以下)抜粋)
“EUREKA”の具体的な活動内容については、 “EUREKA”のHP を参照されたい。

(注6)“CENDI”は,以下述べる14の米国連邦政府機関の科学技術情報担当シニア・マネージャーによる省庁間グループである。省庁別の専門図書館や情報局など12の機関が参加しており,連携や情報交換を通じて単独での活動よりも大きな力を発揮することに加え,効果的な科学技術情報の提供によって米国の科学技術プログラムを支援することを目的としている。1985年,4機関の覚書によって設立され,その後,順次他の機関が参加した。前身は1960年代初頭に設置された科学技術情報委員会(COSATI)にさかのぼる。定期的な運営会議,事務局を持ち,議会への働きかけなどを行うほか,著作権と知的所有権,科学技術情報政策,科学技術情報ポータルscience.govの運営などの5つのワーキンググループが活動している(独立行政法人 科学技術振興機構(JST)の解説から抜粋のうえ、“CENDI”のHP の内容に則して修正した。)
①国防総省・国防技術情報センター(DOD:defense Technical Information center)
②連邦環境保護庁・研究開発および環境情報局(EPA:Office of Environmental Information:OEI)
③政府印刷局(Government Printing Office)
④連邦議会図書館
NASA米国科学技術情報局(NASA Scientific and Technical Information Program)
⑥連邦農業省・国立農業図書館(National Agricultural Library)
国立公文書館(National Archives and Record Administration)
⑧連邦教育省・国立教育図書館(National Library of Education)
⑨連邦保健福祉省・国立医学図書館(National Library of Medicine)
全米科学財団(National Science Foundation)
⑪連邦商務省・技術情報局(National Technical Information Service)
⑫連邦運輸省・国立運輸図書館(National Transportation Library)
⑬連邦エネルギー省・科学技術情報局
⑭内務省・地質調査所(USGS/Biological Resources Discipline)

(注7)“deep Web Search”の具体的なアクセス方法は http://deepwebtech.com/で確認できる。

(注8) “Boolean capability”は論理演算の「真偽値」をいう。複雑な式が真になるか偽になるか判断することをブーリアン演算(論理演算)と呼ぶ。コンピュータの扱う処理や計算の多くは、最終的に論理演算に変換されて実行される。身近な例では、データベースサーチエンジンに複雑な検索を行わせる時に使われている。(Wikipedia から引用)

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2011年2月19日土曜日

欧州委員会がEU域内の統一緊急呼出し番号「112」の徹底を呼びかけ(EUデジタル・アジェンダ-第1回目)



 2月11日、欧州委員会副委員長でデジタル化問題担当委員ネリー・クルース(Neelie Kroes)(筆者注1)がEU統一緊急電話サービス番号「112」のEU市民等に認識率がなお4人中1人という調査結果を公開し、加盟各国にその引き上げ促進を訴えた。

 この問題自体わが国でも一部EU関係者しか理解されておらず、EUへの旅行を企画するわが国の国民に警告の鳴らす意味でも、今回はその意義等について改めて説明する。
 これに関し付言すべき重要な点は、この問題は単にEUの防災行政的な取組み課題というだけでなく、本年5月25日を各国国内法化の遵守期限とする2009年12月19日に発効したEU電気通信規則にかかる指令や規則にかかる重要な問題の一部であることである。

 さらにいえば、これらの問題の背景にあるEUの長期的経済成長戦略「EU 2020」の内容やその一環としての具体的ICT政策課題である「欧州デジタル・アジェンダ」の正確な理解が、わが国の電子政府問題や経済回復戦略をさらに進める上で重要な意義を持つという点である。

 すなわち、マッチ箱の角を針でつつく解説ではなく、全体像を理解で出来るブログ・レポートを目指すものである。(筆者注2)
 その中で、数回に分けてEU通信規制にかかる指令や規則が定めた各課題につき、その後の加盟国の国内法化の状況を追いつつ、問題点の整理を試みるものである。
 今回は連載の第1回目として「112」問題を取り上げる。


1.EUの世論調査機関“Eurobarometer”(筆者注3)の最近時の調査結果
 最近時の“Eurobarometer”調査結果は、警察、消防および救急を呼び出す電話番号である「112」を理解している市民が26%(4人に1人)であった。
 ほとんどが認識している国はチェコ、フィンランド、ルクセンブルグ、ポーランド、スロバキアの5カ国であった。一方、ギリシャ、イタリア、英国は10%未満であった。
 EU全体として見ると認識率の向上は2008年の22%から2011年の26%と極めて低いものであったが、一部の国では認識率の2010年比で際立った改善が見られた。
 オーストリア(31%から39%)、フィンランド(50%から56%)、オランダ(45%から50%)である。

 ほとんどのEU加盟国は緊急車輌に「112」を表示するなど認識向上の策をとっていると報告しているが、調査結果では27%の市民のみが昨年1年間中に「112」に関する何らかの情報を受け取っていると回答している。このような低い向上率から見て、欧州委員会は加盟国が国民に「112」に通知すべき義務を十分果たしているかにつき調査している。

2.欧州司法裁判所への提訴に基づく旅行者への徹底が課題
 欧州委員会は2002年3月に発布した「ユニバーサル・サービス指令(Universal Service Directive)」第26条(筆者注4)に基づく加盟国における「112」の適切な対応や位置情報が緊急対応機関に伝わるよう監視、強化を行っている。また、違反の事実に基づき欧州司法裁判所に対し、「EU Treaty」第226条に基づく「侵害訴訟手続(infringement procedure)」(筆者注5)を行っている。
 同委員会は加盟国のうち14カ国に対し提訴したが、うち11カ国は位置情報の利用を完全に対応したため取り下げたため、同裁判所は2009年5月に残ったリトアニアを除くイタリアとオランダに対する義務違反判決を下した。
 2009年6月現在の「112」位置情報をめぐる加盟27カ国の対応状況は、2009年6月25日付けEUのリリースの別表で一覧にまとめられている。

 このような背景のもとで、EU市民が他のEU加盟国を旅行する際に「112」に関する情報をSMSまたは警告メッセージを受け取るべく義務が通信事業者に義務づけられたのである。
 しかし、今回の調査結果では他国を旅行したEU市民の81%はこのような情報を受け取っていないという結果が出ている。2011年5月に実施される「ユニバーサルサービス修正指令(DIRECTIVE 2009/136/EC OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 25 November 2009)」(筆者注6)では「112」情報は、例えば空港、鉄道の駅や国際バスターミナル等で旅行者が利用可能とすることが義務づけられた。

(3)電話の架け手の位置情報の重要性とその徹底
 前記新指令は架け手の位置情報は電話のコール受けると緊急サービス機関は直ちに無料で利用することができるシステムの構築を求めている。また、当該システムについてより正確な位置情報が提供でき、かつ信頼性の高いシステムに改良するよう定めている。

 「112」システムが効率的に機能するよう同委員会は14カ国に対する欧州司法裁判所への提訴を行ったが、本年2月11日時点でうち13カ国はフォローのために是正措置により裁判は閉鎖されている。
 また、「112」の有用性に関する法的措置はポーランドとブルガリアに対して起こされたが、その後取り下げられており、現在係争中はイタリアのみである。

(4)「112」の採用にかかる最新情報
 EU統一緊急電話サービス番号「112」は全加盟国で固定電話および携帯電話から無料でかけることができる。また、デンマーク、フィンランド、マルタ、オランダ、ポルトガル、ルーマニア、スェーデンは国内の緊急電話番号も「112」とすることを決定している。
 さらにEU外のクロアチアやモンテネグロやトルコも「112」を国内で採用しており、ウクライナもその採用を計画している。

3.「112」に関する欧州委員会の詳しい解説情報
(1)専門サイトで詳しい内容を理解されたい。
(2)Q&A公式サイト:EUの“Digital Agenda”の解説サイト中「112」関連でQ&A形式で説明されている。
(3)啓蒙ビデオ
(4)自分の国の対応状況確認のための専用サイト


(筆者注1) EUの“Digital Agenda for Europe”について簡単に補足しておく。2010年5月19日にリリースされたものである。
 リリースのタイトルは「デジタル時代における経済的・社会的利益の増大のためのアジェンダ(Digital Agenda: Commission outlines action plan to boost Europe's prosperity and well-being)」である。
 「活気に満ちたデジタルの単一市場(Vibrant Digital Single Market)」、「相互運用性と標準化(Interoperability and Standards)」、「インターネットの信頼性とセキュリティ(Trust and Security)」、「超高速インターネット・アクセス化(Fast and Ultra fast internet access)」、「研究と開発(Research and Innovation)」、「デジタルリテラシーの向上(Enhancing Digital Literacy, skills and inclusion )」、「EU社会における情報通信技術適用による利益(ICT-enabled benefits for EU society)」という7項目に分けてまとめられている。
 2010年8月26日、「デジタル・アジェンダ」は正式に公布(COM(2010) 245) された。

(筆者注2) EUの今後10年間を見据えた中長期経済成長戦略「欧州2020」や同時期のICT政策課題「デジタル:アジェンダ」について、わが国では駐日欧州連合代表部の解説が情報源の中心となることは言うまでもない。これに比してわが国の電子政府さらに言えば中長期経済戦略はどのように理解すればよいのであろうか。GDPの前期比マイナスなど一部経済指標のみで日本の未来が占えるわけはない。

(筆者注3) Eurobarometer(ユーロバロメーター)は、1973年から欧州委員会が行っている世論調査分析(Public opinion analysis)の結果をまとめた資料で、調査範囲は、EU拡大、社会情勢、健康、文化、情報技術、環境、防衛、欧州の市民権に関するものなど多岐にわたる。(駐日欧州連合代表部「EU資料利用ガイド」から抜粋)

(筆者注4)2002年3月7日公布されたEUの「ユニバーサル・サービス指令第26条」(Directive 2002/22/EC)の原文を以下引用しておく。
〔Article 26〕
Single European emergency call number
1. Member States shall ensure that, in addition to any other national emergency call numbers specified by the national regulatory authorities, all end-users of publicly available telephone services, including users of public pay telephones, are able to call the emergency services free of charge, by using the single European emergency call number "112".
2. Member States shall ensure that calls to the single European emergency call number "112" are appropriately answered and handled in a manner best suited to the national organisation of emergency systems and within the technological possibilities of the networks.
3. Member States shall ensure that undertakings which operate public telephone networks make caller location information available to authorities handling emergencies, to the extent technically feasible, for all calls to the single European emergency call number "112".
4. Member States shall ensure that citizens are adequately informed about the existence and use of the single European emergency call number "112".

(筆者注5) EUにおける司法的統制である欧州司法裁判所(ECJ)に対する「侵害手続(infringement procedure)」について補足説明しておく。
「欧州委員会または他の加盟国は義務不履行をおこしている構成国を一定の手続を経て、欧州司法裁判所に提訴することができる。欧州裁判所が構成国の義務不履行を認める判決をしたときは、当該構成国は判決履行義務が課される。当該構成国がなお判決履行義務の履行を怠るとき派、欧州委員会が二度目の義務不履行訴訟を欧州司法裁判所に提起し、欧州司法裁判所は義務不履行を認めるときは、制裁金を当該構成国に課すことができる。」2004年9月衆議院憲法調査会事務局「欧州憲法条約―解説及び翻訳」(衆憲資第56号)(39頁以下参照)

(筆者注6) 欧州の通信規制改革に関する新指令の概要についてのわが国の解説例を以下引用する。なお、この解説自体は2009年12月時点でまとめられているので承知されたい。
 「欧州連合(EU)は、2009年12月18日、新たな通信規制(新指令等)をEU官報で公布し、翌19日より発効した。
 新たな通信規制は、主に、通信市場における競争と消費者の権利の強化、域内の高速ブロードバンド接続の普及促進、単一通信市場の完成に向けた新たな独立機関の創設などに焦点が当てられ、具体的に以下の12項目が改革点として挙げられている。
1. ナンバーポータビリティ(固定/移動)手続き期間の短縮。
2.より適切な消費者への情報提供。
3.消費者のインターネットアクセスの権利保護(新インターネットの自由条項)。
4.オープンかつニュートラルなインターネットの保証(ネット中立性)。
5.個人情報の侵害とスパムからの消費者の保護。
6.緊急サービス番号「112」へのアクセス改善。
7.各国規制機関の独立性の強化。
8.「欧州電子通信規制機関(BEREC)」の創設 。
9.競争上の是正措置に関する欧州委員会の発言権の強化。
10.競争上の問題解決手段としての機能分離。
11.ブロードバンド・アクセスの普及促進。
12. NGA(次世代アクセス網)における競争と投資の促進。
 通信規制の改革については、2007年11月に、欧州委員会が現行指令の改正を提案し、2009年5月に概ね承認されたが、インターネットアクセスの制限と利用者の権利保護が争点として残り、議論が継続されていた。2009年11月に、利用者の権利を強化する「新インターネットの自由条項」(司法の関与なく一方的にインターネットアクセスを停止することはない等)を盛り込むことで最終合意に至った。
 今後、EU加盟27カ国は、2011年6月を期限として、新指令を国内法化することになっている。また、欧州電子通信規制機関(BEREC)の設立は、2010年春に予定されている。]
(KDDIの「テレ虎」記事から抜粋)。
 なお、BEREC(Body of European Regulations for Electronic Communications)の訳語はその機能や法的位置づけから見て「欧州電子通信規制者団体」というほうがベターであるといえよう。
 なお、国立国会図書館(外国の立法)が“BEREC”の法的位置付けについてEUでの検討経緯をまとめているので以下引用する。
「この組織は、EU全体の電子通信市場において、公正な競争及び法規の整合性を確保するものであるが、規則の提案(COM(2007)699)当初、欧州委員会は、各加盟国の国内監督機関を監督する機関として、市場評価やEUの周波数管理を行うに当たって決定権を有する組織を想定していた。しかし、これには、欧州議会の要請により、最終的には、権限を持たない諮問機関として位置づけられることとなり、名称も提案当初の欧州電子通信市場監督機関から欧州電子通信規制者団体と名称も実態も変更された。(国立国会図書館「外国の立法246号(2010年12月)」植月献二「EUの情報通信規制改革―急速な通信環境変化への対応―」から抜粋)
 なお、余談であるが、“BEREC”のHP の下に“Subscribe to news”といった案内メッセージがある。登録内容に関する簡単な説明である。是非チャレンジされたい。1日程度でウェルカム・メッセ-ジが届く。


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英国政府は2006年国民IDカード法の廃止法に基づく全登録データの全面破棄を2月21日までに実施



 2月10日、英国大手メディア「インデペンデント(The Independent)」は「英国の国民IDカードはデータベース国家に反対する取組みの第一段階で焼け落ちた」と題する記事を掲げた。(筆者注1)

 筆者がその背景を調べた結果は次のとおりである。
 英国の内務省「国民IDおよびパスポート局(Identity & Passport Service:IPS)」は、2006年3月30日に国王の裁可し成立した「国民IDカード法(Identity Cards Bill:chapter-15)」(筆者注2)の廃止法案である「国民身分証明文書法(Identity Document Act 2010:c 40)」が2010年12月21日に成立し(筆者注3)、IDカード法に基づき登録された英国民の写真や指紋情報を含む個人情報は廃止法成立後2カ月後にあたる2011年2月21日までにすべては破棄されることとなった旨を報じた。英国の歴史上極めて異例な措置である。IPS自体、国民IDカードおよびデータベース化のために改組した機関である。

 正確な資料が手元にないこともあるが、IDカード法の廃止が英国における政権交代時の重要なマニフェストの1項目であることは分かる。(筆者注4)しかし、同法に関する多く問題点は今さら始まったものではない内容が多い。(筆者注5)

 筆者が懸念するのは、わが国政府がまさに本格的に取組み始めている「国民ID制度」の検討が、財政的な負担も含め真に国民や地方自治体の福祉や行政サービスの充実につながるのか改めて問い直すべき良い機会であり、今回のブログで取上げる英国の例は、まさに好材料であるとの考えから急遽まとめたものである。(筆者注6)

 なお、英国のIDカード法廃止に関連して調査している中で、パキスタン政府「国民データベースおよび登録局(National Database & Registration Authority:NADRA)」の「複数生体認証による身分証明カード(Multi-Biometric ID Card)」等の説明を読んだ。
 筆者は、その内容はまさに英国政府が目指していたものであると理解した。わが国も含め注目度は低いが、同国が目指す電子政府(自動越境管理システム(Automated Border Control (ABC) system)や電子運転免許管理システム(RFID based Driver’s License)の内容も含め、改めてわが国の国民ID番号の検討上解析すべき重要な情報であると考える。(筆者注7)
 この内容は機会を改めて本ブログで取上げたい。


1.内務省「IDおよびパスポートサービス局」サイトやインデペンデント記事による法廃止にかかる手続等の説明内容
(1)英国政府は2010年5月26日、「国民身分証明公文書法案(Identity Document Bill)(以下「Bill」)」を上程した。同法案の目的は「国民IDカード」と「国民身分証明登録データ」の廃止である。すなわち「2006年国民IDカード法(2006年法)」の廃止であり、また約15,000人(外国人や空港従業員を含む)の既カード保有者に対する交付手数料の還付はない。
 2006年法の規定中で身分証明書に関係しない数少ない規定は、「Bill」でも再規定した。それらの規定は、パスポートや運転免許証の偽造物の所有や作成にかかる犯罪処罰規定である。また、「Bill」はパスポート申請時の個人情報の確認に関する2006年法の情報共有規定も再規定した。
 非欧州経済領域(non-EEA)の国民に関する身分証明カード(National ID Card)については「Bill」による影響はない。(筆者注8)

(2)「国民識別情報登録データベース(National Identity Register)」の完全廃棄処理
 「Bill」は2010年12月21日に議会で可決、同月21日に国王の裁可を得て成立した。同法により、国民IDカードは身分証明、年齢やEU内の旅行時の有効な法的文書ではなくなり、また同法施行後2か月以内に2006年法に基づき登録された生体認証情報を含む「国民識別情報登録データベース(National Identity Register:NIR)」の完全廃棄が義務づけられた。

(3)既登録データの完全廃棄処理
 発行手数料の還付は行われない。写真や生体認証データを含むNIR(約500台のHD、約100本のバックアップテープに保管)データは、完全に破棄(エセックス工業団地での裁断処理、バーミンガムの工業焼却炉での焼却処理)される。
 その最終結果は、内務大臣兼女性・機会均等問題担当大臣(テレイザ・メイ:Theresa May:Home Secretary and Minister for Women & Equalities)により議会で報告される。

(4)本人が保有する既発行カードの扱い
 同カードをISPに返還することは不要である。自身で完全に廃棄することを勧める。もし、同カードを引続き保管する場合は安全な場所に保管することを確保すべきである。

2.英国の連立政権の立法戦略の内容
(1)英国メディアの立法解説例
 英国の連立与党の新立法の動きはわが国で報じられている以上に活発である。これら立法の最新情報を読み取るには、メディアとしてすでに紹介した「インデペンデント」はまず役に立たないと考えてよい。
 では、有用なメディアとはどこであろうか。あえて筆者が推薦するとすれば
”politics.co. uk”である。その理由は、議会の会期単位での主要法案について簡単なコメントつきで成立、審議中も含め、立法目的、要旨や論争点、審議経緯等が簡潔にまとめられている点である。
 その中で筆者が関心を持った現在審議中の法案について簡単に紹介しておく(訳語は立法目的にそって筆者が意訳した)。

国家予算責任および監査強化法案(Budget Responsibility and National Audit Bill):国家予算につき政治的要素を排除し独立した財政見通しを行う機関を創設することで予算についての信頼性を強化する。

健康および社会医療強化法案(Health and Social Care Bill)
医療資源を割り当ておよび委託医療ガイダンスを提供する独立した国民健康保険サービス理事会(independent NHS Board)を創設する。理事会は患者に代り委託医療サービスに対する主治医(GPs)の権限を強化させる。また、医療品質委員会の役割を強化する。

警察改革およびその社会的責任の強化法案(Police Reform and Social Responsibility Bill)
警察の地域社会に対する説明責任を確保し、アルコールに関する暴力行為や反社会的行動に対処すべき各手段を導入する。
国家からの市民的自由の回復法案(Protection of Freedoms Bill)
私生活に対する国家の侵入から常識的な市民的自由を回復させる。同法案は,すでに成立した前記「Identity Document Bill」と密接に関係するものであり、法案のポイントを一部紹介する。

1)犯罪証拠の保管と破壊に関する規定を定める。
・未成年者による犯罪で、無罪判決や免罪となった場合の指紋情報およびDNA情報の完全な破棄する。また重大犯罪(serious offence)(筆者9)で起訴されたが有罪判決が下されなかった場合は指紋情報とDNA情報は3年間(2年間の延長措置あり)保存される。
・学校や大学が、18歳未満の子供の生体認証情報を登録する場合は、事前に親の同意を得ること。
・警察や自治体によるCCTV、自動ナンバープレート認識システム(ANPR)およびその他の監視カメラの運用に関するより具体的規定化を行う。国務大臣に対し、監視カメラに運用に関する実務綱領(code of practice)の公開を義務づけまたその運用をモニタリングすべく監視カメラ委員の任命を命じる。
・以下の3つの秘密裡に行う捜査技術の使用前に地方機関は司法機関による承認を得るよう「2000年調査権限規制法(Regulation of Investigatory Powers Act 2000(c.23)」(筆者10)を改正する。
*通話内容(電話料金等)の取得や開示
*命じられた監視方法(公共の場でのひそかな監視等)の使用
*私服警官による監視等秘密裡の人的諜報活動の使用
( 2)以下は省略する)

年金制度改革法案(Pensions Bill)
 この法案の原型は「2007年年金法案」である。2012年までに事業主に対し資格を有する従業員を自動的に適格年金制度に取り込む義務を課す。現在の英国の公的年金の受給開始年齢が男65歳、女60歳であるが、2018年12月までに女性の開始年齢を段階的に65歳まで引上げる。その上で男女とも66歳への引き上げの線表を改正する。2024年から2026年の間に実施する引き上げについては2020年までに施行予定の年金法案に盛り込む。(筆者注11)

郵便事業の民営・自由化法案(Postal Services Bill)
国営の英国郵便事業「Royal Mail」がかかえる年金赤字を政府に振り向け、また多くの論争を呼んでいる制限をつけない株式の販売を認めるべく規則を改正する。

3.英国議会の法案審議追跡ウェブサイトの具体的な活用方法
 同サイトについては、本ブログでも以前に簡単に紹介したことがある。また、国立国会図書館「レファレンス」が2009年4月号(筆者注12)で英国議会のウェブサイトの最新情報を紹介している。しかしその後の改良点も含め、同サイトは多くの点でわが国としても参考となる面が多い。
 わが国では詳しく解説したものが少ないので、参考として利用方法を中心に簡単に流れにそって説明しておく。特にわが国でも参考とすべき点は法案画面から各法案審議の最新情報が「メール登録(E-mail Alert)」できることである。

(1)2010―2011年会期の全上程法案の確認
全法案がアルファベット順かつ上院(L)、下院(C)での審議中、ならびに国王の裁可(RA)により法律として成立に分類されている。
(2)本ブログで取上げた“Identity Documents Bill 2010-11”の審議内容について詳しく見てみよう。
一覧画面
②成立した法律(Identity Documents Act 2010 (c.40))全文(筆者注13)
③右上“All Bill document”:上院および下院での全修正データ
④左“Last Events”Ping Pong (筆者注14):House of Loads(2011年2月21日):下院の修正案に関する上院での最終審議、採択の内容が時間を追って確認できる。
⑤左“Royal Assent”(2011年2月21日国王の裁可)
⑥左“All previous stages of the Bill”:上院、下院での日別の法案審議の概要が確認できる。
⑦“Latest news on the Bill”最新情報
⑧“Summary of the Bill”法案要旨の説明


(筆者注1)「インデペンデント」の「IDカード廃止」の記事情報は筆者が毎日目を通している同紙からの直接情報ではなく、筆者がそのディスカッション・メンバーとなっているオーストラリアのプライバシー擁護NPOグループ(Electronic Frontiers Australia Inc.:EFA)からのメールであった。

(筆者注2) 2006年4月1日付の筆者のブログで紹介したとおり、「Identity Cards Bill」は英国議会の審議、成立にいたる時点で与野党や関係者間で多くの論議があった法律である。

(筆者注3) 今回のブログの内容とは直接関係がないが、英国議会の法案の正確なトラッキング・サイトの最新情報について本ブログ(筆者注4)で英国やフランスの議会審議法案のトラッキング方法について紹介している。従来から英国の議会の法案審議のトラッキングは時間と手間がかかる膨大な作業負担があったのであるが、大幅な改善によりその平易さは世界のトップレベルといえる。
例えば、「Identity Documents Bill 2010-11」の例で見てみて欲しい。略字ロゴと色分けで法案審議のステップが読みやすく作られている。下院(House of Commons)、上院(House of Lords)のそれぞれ第一読会から第三読会、修正案審議、採決、国王裁可の過程が一覧で確認できる。さらに法案修正の全過程の確認も容易である。

(筆者注4)「インデペンデント」や「zdnet」等英国のメディア記事を読む限り、国民IDカードや登録制度の廃止による英国全体の経費節減効果の正確な規模は明確ではない。内務省が2010年5月には廃止法案を上程した際に引用した調査機関の報告書(2009年Kable)は廃止した場合、10年以上にわたり49億5,000万ポンドかかる関係費用が30億8,000万ポンドに削減できると試算している。
また、自由民主党の選挙マニフェストでは、生体認証パスポートの廃止による節減効果は2010-2015予算年度で計18億3,000万ポンド(約2,490億円)(うちIDカード廃止によるものが5.5億ポンド(約748億円))と述べている。
 一方、IPSの最高責任者(Chief Executive)であるジェームズ・ホール(James Hall:2010年7月に退任済)は2010年5月時点において政府は生体認証パスポートシステムの導入につきすでに2億5,700万ポンド(約349億5,200万円)を費やしており、同手続の終了に伴う費用が約1億ポンド(約136億円)、さらに数百万ポンド規模のベンダー民間企業4社との契約があると説明している。その4社中1社は契約を取り消し、2社は規模を縮小し、残り1社についてはパスポートの製造に関するものなので影響はないとしている。しかし、英国メディアは2009年5月18日にイングランドで稼動した18歳以下の全児童のデータベース(ContactPoint children’s database:子ども・学校・家庭省と地方自治体の責任のもとに管理されているデータベースシステム)に保存された情報は、何千人もの政府や民間機関の職員が利用することが可能であり、その利用範囲は、教育、社会福祉、青少年犯罪にわたることとなるため、連立政府の出方が不明瞭な状態が続いている。同システムは2.24億ポンド(約305億円)かけたもので稼動開始が大幅に遅れたことやプライバシー問題の指摘がなされている。

(筆者注5) 2006年3月30日付けの「Computer World(日本語版)」が簡潔に問題点をまとめているので以下引用する。

「プライバシーに関する懸念が指摘されるなか、英国議会上院はこれまで、国民IDカード法案に数回にわたって修正を加え、当初から全国民にIDカード取得を義務づけるとする政府の意向に抵抗し続けた。トニー・ブレア首相のスポークスマンは、「任意取得の期限を設けたのは賢明な妥協策だ」と語っている。
 ただし、国民IDカード・システムの構成要素として運用される「National Identity Register」と呼ばれる国民識別情報登録データベースには、2010年1月1日以前にパスポートを申請した人のバイオメトリクス情報も登録される。また、2010年1月1日以降は、身元証明書類の申請者すべてに国民IDカードの取得が義務づけられることになるという。
 同法案はこのあと、法律化の最終段階として、女王から認可を得るための手続きへと送られる。
 英国内務省は、2008年までに国民IDカードの発行を開始したい考えだ。同カード取得の義務づけに対して多くの反対の声が上がったが、英国政府は、国民IDカードは国の安全の強化、各種手当の不正受給の減少、入国管理の強化に役立つと説明している。
 英国は現在、パスポート所持者の顔立ちのスキャン・データを埋め込んだ「eパスポート」の発行を段階的に進めているが、国民IDカードには、指紋や虹彩パターンなどのバイオメトリクス情報も登録される予定となっている。
 英国政府は、このバイオメトリクス技術を使用した国民識別プログラムにかかる経費は年間約5億8,400万ポンド(10億ドル)と概算している。詳しい計算は今後の調達プロセスへの影響を避けて公表していないが、National Identity Registerの構築とIDカードの製造に費用がかさむため、10年有効のIDカードの発行コストは1枚当たり30ポンド、新パスポートは1通当たり63ドルになる見通しとしている。
 だが、ロンドン大学経済学部(LSE)は、国民識別プログラムのコストは政府が示した数字の倍はかかるかもしれないと指摘している。」

(筆者注6)英国においても国民ID番号情報は他の社会保障制度のキー情報となっている。例えば、歳入関税庁(HM Revenue & Customs)が所管する「国民保険制度」の保険番号については、英国に住んでいたり両親や保護者が児童手当を受けている場合は、満16歳になる前に自動的に「国民保険番号」を受け取る。ただし、次のような一定の場合は、国民保険番号をもって申請すべきときがある。
①就職したり自営業を始めるとき、②奨学金の申し込み

 この面接を含む申請時には身分証明証拠書類の立証(Evidence of identity)が義務づけられている。「有効なパスポート」、「国民IDカード(national identity card)」、生体認証情報を含む移民居住許可文書を含む「在住許可証(residence permit)」または「在住許可カード(residence card)」、完全な出生証明書や男女間関係証明(adoption certificate)、運転免許証が必要となる。

(筆者注7)パキスタン政府の“Multi –Biometric ID Card”についての説明、英国在住・在勤パキスタン人向けの国民IDカード申請手続きの説明(フローチャート)等が参照可である。

(筆者注8) 英国内務省やパキスタン政府NADRAの解説等に見るとおり、非EEA国の国民に対する生体認証データに基づくIDカード制度は残る。英国民と非EEA国民とによる差別問題は残るといえる。

(筆者注9)“serious offence”とは、「2007年重大犯罪法(Serious Crime Act 2007)および同附則第1部」にもとづき定めた「重大犯罪阻止命令(Serious Crime Prevention Orders)」第9(Serious Offence)に明記されている。
 この犯罪区分は、裁判管轄(高等法院(High Court)および刑事法院(Crown Court))とからむのであり、同法第2条(2)項にもとづき附則(Schedules)第1部が根拠規定である。具体的には以下の犯罪行為である。
麻薬取引(Drug trafficking)、人身売買取引(People trafficking)、兵器取引(Arms trafficking)、売春および子供に対する性犯罪(Prostitution and Child sex)、武装強盗(Armed robbery etc.)、マネー・ローンダリング(Money laundering)、詐欺(Fraud)、公的収入にかかる犯罪(Offence in relation to public revenue)、汚職(Corruption)および贈収賄(bribery)、偽造(Counterfeiting)、恐喝(Blackmail)、知的財産権侵害(Intellectual property)、環境破壊(Environment)。

(筆者注10) 「2000年捜査権限規制法(Regulation of Investigatory Powers Act 2000(c.23)」の問題点の一部は、わが国のブログでも紹介されている。

(筆者注11) 英国では毎年のように年金制度改革法案が上程されており、また政権交代などでさらに改定が行われている。データは古くなっているが英国の基本的な年金制度の内容を理解する上でわが国で参考となりうるのは、厚生労働省「世界の厚生労働2009」(137頁以下)、みずほ総研論集2008年Ⅰ号「年金支給開始年齢の更なる引上げ~67歳支給開始の検討とその条件~」等である。

(筆者注12) 武田美智代「議会の情報発信と情報通信技術(ICT)―国際的動向と英国の事例を中心に―」

(筆者注13)英国の立法過程を正確に理解する上でもう1点重要な留意事項がある。同法を例にいうと議会事務局が管理する法案審議中の法案名は「Identity Documents Bill 2010-11」である。しかし、法律としていったん成立するとその管理は政府機関でかつ法務省の執行部門である「国立公文書館(The National Archives)」が管理するウェブサイト“legislation .gov.uk”に移る。以降の法改正等に関する情報は同サイトで管理されるのである。さらに正式の法律名は「Identity Document Act 2010(2010 Chapter 40)」となる。全文はそこで確認することになる。

(筆者注14)“Ping Pong”とは上院、下院間で行われる法案修正を巡る審議内容を指す。専門サイトがある。


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2011年2月12日土曜日

米国の全土3分の1にわたるブリザードや寒波対策のため6州知事の非常事態宣言等と州兵の稼動状況



 2月2日、DOD(防衛総省)の連邦州兵総局(National Guard Bureau:NGB)から届いたリリースでは、米国全土の3分の1にわたるブリザード(筆者注1)や極めて強い冬の嵐により現在6州が非常事態宣言を発布しており、その他の州も含め11の州から連邦州兵(筆者注2)約1,100人が各地で活動を開始したり、待機態勢に入ったと報じている。
 また、同時に米国DODは全米の州兵全体の員数についても公表した。

 世界全体にわたる異常気象の問題は今さら始まったことではないが、米国の最新情報を伝えるべくこのニュースの概要を紹介する。これに関し、筆者は別途米国地質調査局(USGS)等の多角的大規模災害実証計画の第二段:米国西海岸地域「冬季スーパー嵐(ARkStorm)シナリオ」動向について別ブログでまとめたので併せて読まれたい。(筆者注3)

 今回の北米における大寒波( 「2011年啓蟄の冬嵐(2011 Groundhog Day Blizzard)」と命名されている)を巡る連邦機関の対応とりわけ「連邦非常事態管理庁(FEMA)」の取組み状況をチェックしてみた。
 やはり、直近で見た大統領の非常事態宣言はメイン州(暴風雨:severe stormおよび洪水で2月1日発布)カリフォルニア州(吹雪(winter storm)洪水および泥流・土石流(Debris and mud Flows)(筆者注4)で1月26日)(この2州はMajor Disaster Declarations)、オクラホマ州(2月2日発布)ミズリー州(2月3日発布)ニュージャージー州(2月4日発布)ウタ州(2月11日発布)オレゴン州(2月18日発布)コネチィカット州(3月3日)マサチューセッツ州(3月7日)イリノイ州(3月17日)ミズーリ州(3月23日)ニューメキシコ州(3月24日)、ワシントン州(3月25日)ウィスコンシン州(4月5日)であり、本ブログで取上げた州の取組みとほぼ重なりつつある。2005年8月のハリケーン「カトリーナ」で問題となった連邦政府と州政府等による州兵の派遣を巡る対応の矛盾が、またも繰り返されないことを祈りたい。(筆者注5)

 なお、米国の大寒波による被害は昨年末から続いており、市民生活等にも重大な影響が及んでおり、例えば金融監督機関である連邦預金保険公社(FDIC)は昨年末頃からのメイン州を襲った猛烈な嵐や洪水による金融業務や地元の復旧活動を支援すべく関連通達を発出している。(筆者注6)


1.6州の非常事態宣言や他州における州兵の派遣要請
(1)州知事による非常事態宣言や州兵の派遣活動状況
 2月1日東部時間午後6時時点でイリノイインディアナ、カンサス、ミズリーオクラホマウィスコンシンの6州の知事(筆者注7)は非常事態宣言を発布、アーカンサス、イリノイ、アイオワ、ミズリー、テキサス、ウィスコンシンでは州兵が救援活動を開始した。
 一方、インディアナ、カンサス、ニュージャージー、オクラホマおよびペンシルバニアの州兵が待機態勢に入った。

 ミズリー州のミズリー州のジェイ・ニクソン知事(Jay Nixon)が非常事態宣言を行った1日後、ミズリー州兵全州にわたる緊急任務に当たるため600人の陸軍州兵と州兵空軍が召集された。同州の人事統括最高責任者・上級幕僚(Adjutant General)であるステーブン・L.ダナー陸軍少将(Army Maj.Gen.Stephen L.Danner)は「同州の州兵((Citizen Soldiers)(筆者注8)は、3つの機動部隊に広がっている。わが軍は何ダースにわたる部隊が海外展開を担っており、かつ2005年以来18州の緊急任務にも当たっている。

 セントルイスに基地をもつ東部機動部隊、カンサスシティに基地をもつノースウェスト機動部隊、およびスプリングフィールドに本拠をもつサウスウェスト機動部隊の陸軍州兵と州兵空軍は州警察等と連携を図りつつ、1軒ごとに安全確認や、高速道路や緊急対応車両用の通路確保のための雪かき等を行っている。

 以下、DODが2月2日に発表した各州別の州兵の活動状況のポイントを述べておく。

①イリノイ州
500人以上の州兵を派遣、足止めされた車両の救助等を行っている。

②アーカンソー州
州兵約5人が緊急輸送の支援を行っている。

③インデイアナ州
州兵はまだ活動は行っていないが、約875人が待機態勢に入っている。

④アイオワ州
約30人の州兵が足止めされた車の救助作業を行っている。

⑤カンサス州
州兵派遣を含む緊急支援の発動を宣言した。

⑥オクラホマ州
FEMAの活動のために同州の空軍基地を提供しているが州兵そのものは活動していない。

⑦テキサス州
約30人の州兵が足止めされた車の救助作業を行っている。

⑧ウィスコンシン州
州兵空軍の人事統括最高責任者・上級幕僚に対し、必要に応じ自治体の支援するため州兵の活動を行うべき権限を命じた。

⑨ニュージャージー州とペンシルバニア州については予備州兵がいるが、2月1日夜の段階では知事からの任務要請は行われていない。

(2)州兵総局(NGB)の情報にみる新たな課題
 前述したとおり、NGBのデータによるとこれだけの大規模災害でありながら州兵の派遣数は1,100人であるという現実はカトリーナの災害地支援の際、海外派兵で派あまりにも少ないと思えるし、また連邦軍の国内活動投入については連邦法の規制があり、自然災害からみの治安維持などには主に警察や州兵が第一次的に対応せざるをえないという問題があるようである。
 カトリーナの際、再上陸した2日後の8月31日、ブッシュ大統領は救援のため連邦軍の派遣を決定したが当初は海軍中心の後方支援であったため、有効性を欠く結果となり、また州知事と連邦との州兵の指揮権を巡る確執等が指摘されたが、今回も同様の懸念される事態がありえると思う。

2.米国の州兵制度の概要と課題
(1)米州兵のもつ「二重の地位と任務」の意味
 日本では日頃、州兵と連邦兵の区別も曖昧にしか理解されていない。2003年7月とややデータとしては古いが、国立国会図書館レファレンス(筆者注9)がわかりやすくまとめているので筆者の責任で抜粋、引用する。

①州兵は「陸軍州兵」(Army National Guard)と「州兵空軍」(Air National Guard)という二つの組織を持ち、国内にあっては暴動鎮圧や災害救助などに従事するとともに、海外においては、国家安全保障上の緊急事態に際して迅速に行動できる「動員日の軍隊」(Mobilization Day Force :M-Day Force) として数々の作戦に参加してきた。このような「二重の地位と任務」(Dual Status and Mission) は、州兵が有する最も際立った特徴である。
 合衆国憲法は、国家安全保障の根幹として民兵制度を規定しており、連邦法は、州兵を「組織化された民兵の一部」と定めている。「二重の地位と任務」という、州兵固有の法的地位と組織原理は、最終的にはこのような、民兵としての地位から導かれているといえよう。そのほか、連邦法は、州兵を合衆国軍隊が有する「予備戦力」(Reserve Force) と定めている。したがって、連邦法上のこういった規定も、州兵の組織と任務に関する根拠と考えられる。

②州兵は、平和時・地域的緊急事態においては、各州知事の指揮に服し、治安維持や緊急事態対処等、国内での活動に携わる。知事の指揮権は、大統領から任命され、軍事問題に関して知事の最高顧問を務める「上級幕僚」(Adjutant General) によって各州兵部隊に対し行使される。
 これに対し、戦争時・国家的緊急事態において、州兵は大統領の命令により補充戦力として動員され、連邦政府の指揮下で各種任務にあたる。

③州兵の組織的特色としてあげられるのは、原則として、各州の知事(State Governor)が最終的な指揮権を持っていることである。知事の指揮権は、大統領から任命され、軍事問題に関して知事の最高顧問を務める「上級幕僚」(Adjutant General) によって各州兵部隊に対し行使される。
 したがって、大統領命令により連邦任務のため動員されている場合を除き、国防総省、各軍は州兵に対して直接指揮権を持たない。

④国防総省(DOD)が行うのは州兵組織の行政的な管理である。担当部署として、国防総省に陸軍省と空軍省の合同機関である「州兵総局」(National Guard Bureau) が置かれており、大統領によって任命された「州兵総局長」(Chief, National Guard Bureau) がこれを統括する。陸軍州兵と州兵空軍とを直接管理する責任者は、「陸軍州兵局長」(Director, Army National Guard:ARNG)「州兵空軍局長」(Director,Air National Guard:ANG)であるが、両者は、それぞれ陸軍長官と空軍長官によって任命され、「州兵総局長」に対して報告義務を負う。

(2)州兵の収入源や家族生活の確保を巡る具体的な課題
 時間の関係でこの問題の詳細は機会を改めるが、米国NPOメディア”Stateline”(筆者注10)が詳しくこの問題を論じている。米国がかかえる重要な問題だけに貴重なレポートであり、是非解析すべきものと考える。


(筆者注1) 「ブリザード」:「このことばは、初めは冬季アメリカ合衆国バージニア州において、低気圧が通過するときに吹く、吹雪(ふぶき)を伴った冷たい北西の強風をさしていわれたらしいが、現在は、寒気と吹雪を伴う強風全体に対して広く使われるようになった。アメリカの気象局では、ブリザードの定義を、風速が毎秒14.3メートル以上、低温で、飛雪による視程が150メートル以下としている。激しいブリザードは、風速が毎秒20メートルを超し、気温はマイナス12℃以下、視程はほとんどゼロに近い場合をいう。」(根本順吉:日本大百科全書(小学館)より引用)

(筆者注2) 「州兵(National Guard)」”とは、アメリカ合衆国における軍事組織の一。主な任務は、アメリカ軍の予備部隊として、兵員・部隊・サービスを連邦軍に提供することと、アメリカ国内における災害救援、暴動鎮圧などの治安維持を行うことにある。州軍(しゅうぐん)とも呼ばれる。行政組織上はアメリカ国防総省州兵総局(中将指揮)の管轄下にある。ただし、平時においては、連邦軍は州兵の指揮権を持たず、各州知事が指揮権を持つ。連邦軍が指揮権を発動するのは、大統領の命令により、州兵が連邦軍に編入された場合である。(“Wikipedia”から引用)

(筆者注3) 同ブログの要旨は「米国連邦内務省・地質調査局(DOI・USGS)が公表した「冬季 超大規模嵐(ARkStorm)シナリオ(Atomspheric River 1000 Storm)」の報告書の概要が届いた。このシナリオは1月13日、14日にサクラメントで開催された連邦およびカリフォルニア州の防災や地質気候研究関係機関による研究会議「ARkStorm Summit」で公表された内容である。
 同地域での本格的な緊急対策目的で策定されたシナリオでは、最大10フィート(約3.5m)の降雨により既設の州の防護システムを超える大規模な氾濫が引き起こされ被害額は3千億ドル(約24兆4,600億円)以上となるとの仮説が立てられた。」というものである。

(筆者注4) “Debris and mud Flows”とは、大雨でゆるんだ山腹から、主として谷沿いに土砂が水と混合して流下する現象を泥流という。水と土砂とが一体となり、かゆ状となってそれ自体に働く重力の作用によって運動する様式で流下する。泥流は、細粒分を多く含み、活火山や火山噴出物地帯に多く発生する。土石流は、巨礫、岩塊等を含み、巨礫が先頭に集中して回転・滑動しつつ移動する。侵食力がきわめて強く、流下の途中で渓床材料をまきこみ、渓岸をけずっていく。(財団法人資源・環境観測解析センター「用語集」から引用)

(筆者注5) ハリケーン「カトリーナ」で問題となった連邦政府と州政府等による対応の失敗についてはわが国でも多くの報告が行われているが、詳細性で比較した場合、東京海上日動リスクコンサルティングの報告「ハリケーン『カトリーナ』に対する米国政府・州政府等による対応の問題点について」連邦政府の対応および州政府の対応が良く整理されていると思う。

(筆者注6)FDIC通達の別添で「メイン地区の悪天候による嵐や洪水被害に関する金融機関監督的立場からの具体的実務措置:金融機関および被融資者の支援措置(Supervisory Practices Regarding Depository Institutions and Borrowers Affected by Severe Weather in Areas of Maine)」の内容について概略紹介しておく。

①貸出関係
銀行員は、今回の異常天候で影響を受ける共同体の借手と共に建設的な立場で働くべきである。FDICは地元企業や個人への自然災害は時として一時的であると理解しており、また永久を受ける地域での融資内容の調整や変更についての銀行の真摯な努力は検査官の批判に当らないと理解している。FDICは公益とともに被害地域の借手とともに行動する努力は公益に合致するとともに安全かつ健全な銀行実務と矛盾しないと理解している。

②投資関係
銀行員は、異常気象で影響を受ける地方債(municipal securities)や融資を正確にモニターすべきである。FDICは地方政府のプロジェクトがマイナスの影響を受けると理解している。そのような投資を安定化させるためには銀行による適切なモニタリングと真摯な努力が奨励されるべきである。

③報告義務関係
悪天候で影響を受けるFDICの監督下にある金融機関は、定期的な収支報告につき遅延が予想されるときはFDICボストン地区事務所に通知を行わねばならない。FDICは報告金融機関につき許容できる範囲を考えコントロールできる以上の原因についても再査定する。

④公表義務関係
FDICは異常気象により引き起こされた損害が支店の閉鎖や移転、および仮設店舗につき各種の法律や規則の遵守面で影響を受ける点につき理解する。銀行に課される公表や要求につき災害に絡んで困難に陥る銀行はFDICボストン地区事務所に通知を行わねばならない。

⑤消費者保護法関係
消費者ローンに関し「レギュレーションZ」の規定(筆者追加注:具体的にはRegulation Zの Sec. 226.23 Right of rescission.(e)項 Consumer's waiver of right to rescind を指す)は「信義誠実原則から見て個人的な財政危機事由」が存在する場合、借手に3日間の契約の解除または変更する選択権を定める)がある。銀行は、この顧客の選択権を実行させるべく消費者は銀行に対し同レギュレーションに基づき緊急性の声明を実行する文書を提出すべき点を提供しなければならない。

⑥一時的な銀行施設関係
FDICボストン地区事務所は異常気象により銀行の支店が損害を被ったかもしくはより使い勝手が良いサービスを提供するため一時的な銀行の施設ニーズを促進させることを求めるであろう。多くの場合、FDICへの電話通知で文書での通知は後日で十分である。

(筆者注7) 米国の災害対応は州政府を軸にしている。市やカウンティ(ルイジアナの場合はパリッシュ)のような地方自治体には州政府の政策を実行に移す役割が与えられているが,災害対策の基本方針や事前対策などを決定するのは州政府の重要な責務となっている。そのため州知事の権限は大きく,知事は州軍(National Guard)の最高司令官の役割も与えられている。連邦政府は州政府だけでは手に負えない災害やテロなどの緊急事態が発生した際に,その支援を行う役目を担っており,その場合は大統領が各州の州兵を連邦正規軍に編入し,知事の統率権が停止される。(防災科学技術研究所「ハリケーンカトリーナ調査チーム報告速報」から抜粋)

(筆者注8) ここでいう“citizen-soldiers”とは、「主として平時にではあるが、州兵に対する指揮権が知事に委ねられている事実は、民兵制度にさかのぼる「郷土防衛軍」的な性格が、未だ州兵組織に根づいていることを示している。州兵が持つ緊急事態への対処能力は、地域社会との濃密な関係のなかで培われてきた。
知事による指揮権という制度は、このような米国社会の歴史的・文化的特色を反映したものといえよう。」(2003年7月号国立国会図書館レファレンス 鈴木滋「米国の『国土安全保障』と州兵の役割―9.11同時多発テロ以降の活動を中心にー」から一部抜粋)
なお、州兵の歴史の詳細は州兵総局の専用HP で詳しく説明している。

(筆者注9) 2003年7月号国立国会図書館レファレンス 鈴木滋「米国の『国土安全保障』と州兵の役割―9.11同時多発テロ以降の活動を中心にー」

(筆者注10) “stateline ”は、フィラデルフィアに本拠を置く財団(Pew Charitable Trusts:PCT)が運営しているNPOメディアである。全米を代表する民間助成財団であるPCTについて解説しておく。
「現在ピュー・チャリタブル・トラスト(The Pew Charitable Trusts/以下「トラスト」)の名で知られる当財団は1948年に設立された。ジョセフとメアリー・ピュー夫妻の4人の子供たちはこの年、両親の理想と問題意識を反映するような活動や団体への資金援助を決めた。ジョセフは米国の石油産業界において成功し、かつ先見性のある企業家であった。彼が創業した大手総合石油会社のサン石油の株式が、トラストの助成活動の財政的基盤となった。
トラストは、1948年から1979年までの間に設立された7つの基金によって構成される。これらの基金は一括して管理され、助成事業も共通の方針に基づいて行われている。フィランソロピー(博愛精神等にもとづく企業の社会貢献:Philanthropy)活動を目的とするこれらの基金は、いわばひとつの財団における諸事業のように運営されているといえよう。トラストはピュー家からの7人を含む11人編成の理事会によって管理されている。2000年度におけるトラストの資産価値は約48億ドル(約3,936億円)、助成事業費の総額は2億3,500万ドル(約192億2,700万円)だった。同年度には3,600件以上の助成申請を受け付け、最終的にはそのうちの369件に対して助成を決定した。各年度の助成事業予算の約10%が芸術と文化活動に充当される。
米国の法律では、財団のフィランソロピー活動が多分野にわたっても全く問題ない。米国の民主主義社会において、フィランソロピーの分野が特に活発な理由は、国民一人ひとりのバックグラウンドや利害、ニーズの多様性を尊重する一方、共存しやすい状態を促進させる必要があるからだ。(以下省略する)」。(わが国のセゾン文化財団の解説から抜粋した)


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2011年2月11日金曜日

米国FRBがドッド・フランク法のボルカー・ルール遵守期間に関する「レギュレーションY」の最終規則を公布



 2月9日、米国連邦準備制度理事会(FRB)は抜本的な金融規制監督法である「ドッド・フランク・ウォールストリート金融街改革および消費者保護法(Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act)(以下“DFA”という)」第619条いわゆる「ボルカー・ルール」規定につき金融機関の遵守期限の概要予定表に関する連邦金融行政規則「レギュレーションY」の最終規則(final rule)を公布した。本規則は2011年4月1日施行され、速やかに連邦官報に載る予定である。(筆者注1)(筆者注2)

 本ブログは、従来から予告しているとおり“DFA”の内容についての詳細な解説を意図しているが何せ大部(2,316頁)な法律である。

 なお、米国の金融監督機関で共通的に見られることであるが規則案の小出しが頻繁である。FDIC、FRB等が個々に規則制定権にもとづく策定作業を行っているせいもあり、本ブログでも紹介しているとおり、DFA対応作業につき全体的に鳥瞰できるサイトは今のところ皆無のようである。


1.「レギュレーションY」の意義と内容等
 今回のFRBが公布した規則とは、具体的にいうと金融規制監督に関する「連邦行政規則(CFR)」のうち「レギュレーションY」の追加にかかるものである。

(1)「レギュレーションY」とは、銀行持株会社の企業活動および一定の範囲の州法設立銀行の活動を監督する規則である。また、銀持株会社がFRBの認可を得て行う次の取引について定める
①持株会社が別の持株会社から銀行を買収、合併する場合
②銀行持株会社が直接または子会社を通じノンバンクの企業活動を行う場合
③個人(個人のグループを含む)が持株会社または商業銀行のうち各州銀行法免許の州法銀行(State Member Bank)の経営権を取得する場合
④経営困難に陥った銀行持株会社または州法銀行が上級経営者または役員を選任する場合

(2)「レギュレーションY」が統治する問題は、銀行持株会社における最低資本準備金(資産準備率)の確保、一定の銀行持株会社の取引、銀行持株会社のノンバンク取引、州法銀行および米国内で営業する外国銀行の定義である。

(3) 「レギュレーションY」の銀行持株会社への適用手順については、例えばサンフランシスコ連銀のサイト等で詳しく解説している。

(4) 「レギュレーションY」の改定経緯
FRBのサイト(12 CFR 224)で詳しく解説している。

2.「ボルカー・ルール」の概要と意義
 DFAの619条「ボルカー・ルール」について以前に本ブログで紹介したアメリカ銀行協会(American Bankers Association:ABA)のDFAの専門サイト「ドッド・フランク法の本格実施に向けた銀行員のための重要テーマに関する施策」が金融機関にとっての実務対応面から問題を整理し、また政策立案事項を一覧形式でかつタイムテーブルに即してまとめている。

(1)「ボルカー・ルール」の内容(筆者注3)
 銀行(預金保険対象金融機関、銀行持株会社およびこうした機関の子会社)が、自己勘定取引(proprietary trading)(筆者注4)を行うこと、ヘッジファンド(hedge funds)やプライベート・エクイティー・ファンド(private equity funds)に出資等することを禁止する。
 ただし、例外として銀行の出資額等が当該銀行のTier 1 資本の3%以内であり、かつ、ファンドの総出資額の3%以内である場合には、ヘッジファンド等への出資を行ったり維持したりすることができる。
 連銀の監督下にある非銀行金融会社が自己勘定取引やヘッジファンド等への出資等を行う場合には、通常の規制に追加する形での資本規制および自己勘定取引や出資に関する量的制限を受ける。
 DFAの成立後6か月以内に連邦財務省内の金融安定化監督委員会(FSOC)はボルカー・ルールの適用に関して研究し提言を行い、FSOCの研究後9か月以内に、関連する規制当局(連邦銀行監督当局、米証券取引委員会(SEC)、米商品先物取引委員会(CFTC))は所要の規制を策定することが決定されていた。
(2010年8月24日付、財団法人 国際金融情報センター「金融規制改革法(ドッド・フランク法)の成立」から抜粋の上、筆者の責任で追加・補筆した)。

(2) 「ボルカー・ルール」に関する法実務的な解説サイト
 「ボルカー・ルール」そのものについて米国でも金融規制面から詳細な解説はそう多くない。その中で世界的に展開している「Chadbourne & Parke 法律事務所」解説(12頁)が正確でわかりやすく感じたので紹介しておく。


(筆者注1)アメリカ銀行協会がDFAに関する連邦の各金融規制監督機関の政策立案動向を追跡していると述べたが、今回のFRBの最終規則案についても2月10日付、追跡専門サイト(ABA Dodd-Frank Tracker)で次のとおり紹介している(FRBの解説内容と異なる部分もあるのであえて追加する)。
 「ボルカー・ルールは、財務省内に設置した金融安定化監督委員会(FSOC)が規則の詳細を定める時期または2012年7月21日のいずれか早い時期後、12ヵ月後に施行する。今回定めた最終規則はボルカー・ルールが施行される日付後、2年間の遵守期間を置く。FSOCが指定するFRBの監視下に置かれるノンバンクについては監視が指定された後2年間はFRBの認定専用窓口で対応する。また、FRBは、一定条件の下ではさらに3年の遵守期限の延長することができる。」

(筆者注2)2月9日のFRBの最終規則については例えば米国メディア“Bloomberg”の記事が翻訳されて紹介されている。しかし、筆者が斜め読みしただけでも次のような誤訳や説明不足な点があった。翻訳者(笠原文彦氏)に確認する時間がもったいないのでここで筆者だったらこのように原稿を書くという見本を挙げておく。
原文の説明自体が内容的に問題なのであるが、少なくとも経済・金融関係の翻訳を請け負う以上、米国の金融機関監督法や行政規則の内容、種類、意義等について日頃勉強しておいて適宜補足するなど意欲を見せて欲しい。

 「米国連邦準備制度理事会(FRB)は9日、預金保険対象金融機関、銀行持株会社および同金融機関の関連会社や子会社について自己勘定取引、ヘッジ・ファンドやプライベート・エクイティー・ファンドに出資等することを原則禁止するいわゆる「ボルカー・ルール」の適用につき、原則2年間の遵守期限を設ける行政規則を承認した。
 FRBは9日のリリースで「ボルカー・ルール」の適用に関するFRBとしての行政規則(レギュレーションY)の改正を承認したものであり、その内容は2010年11月にFRBが公布しコメントを求めた改正内容とほぼ同一であると説明した。
 昨年7月に成立した米国金融規制監督法(ドッド・フランク・ウォールストリート金融街改革および消費者保護法:ドッド・フランク法)には、その第619条でポール・ボルカー元FRB議長の名前にちなんだ同ルールが盛り込まれた。第619条は「1956年銀行持株会社法(Bank Holding Company Act of 1956)」に第13条を新規に追加するものである。このルールは銀行等が自己資本に影響を負わせるようなリスクの高い投資を行ったり、預金保険の対象となる預金をリスクにさらしたりすることを制限することに狙いがある。
なお、『レギュレーションY』は本年4月1日施行される。」

(筆者注3)わが国向けに米国の法律事務所がまとめた「ボルカー・ルール」の解説例を見ておく。
 「ボルカー・ルールは、銀行及びその関連会社に対し、自己勘定による取引を行うこと、又はヘッジファンドもしくはプライベート・エクィティ・ファンドのスポンサーとなることもしくはそれらに投資することを一般的に禁止しています。また、金融システム上重要な(systemically important)ノンバンク金融会社(たとえば、規模の大きい保険会社や証券会社等)に対し、自己資本規制や、上記の活動に対するその他の定量的な制限(禁止ではありません)について遵守することを義務付けています。ボルカー・ルールは、制定時から2年後に発効し、その時点から2年間の経過期間が開始することになっています。」

(筆者注4)「自己勘定取引」とは 基金を集め、それにより企業を買収し、収益力を向上させ、その後その企業を転売し、売却益を基金出資者に配当すること。

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