2009年4月5日日曜日
オーストラリア政府の生活支援ボーナス支給とフィッシング詐欺警告について
2009年4月に給付されるオーストラリア政府の生活支援ボーナスについては3月2日付の本ブログで取り上げた。
これに関し、筆者も懸念していたとおりボーナ給付をめぐる詐欺集団の行動が同国で問題となり、政府税収局(Australian Taxation Office:ATO)や、SCAMwatchおよび給付事務の中心となるCentrelink等関係機関が広く消費者にフィッシング詐欺の警告を行っている。その情報は筆者が参加している同国のディスカッショングループから入手したのであるが、今回のボーナス給付に関する政府税当局の情報フォローの実態も併せて紹介しておく。
また、同国の詐欺専門サイトSCAMwatch は詐欺問題の各被害者からの報告に基づき各種詐欺の手口を簡潔に公開している。その内容を見ると主たるパターンは以下の2.のようになるが、類似のパターンも併せて説明されている。なお、各類型の解説は別途米国のインターネット犯罪苦情センター(Internet Crime Complaint Center:IC3)の2008年中の苦情受付に基づくインタ-ネット詐欺に関するブログ原稿を別途作成中であり、重複しない範囲で解説を試みたので、その内容も併せて読んで欲しい。
なお、わが国の定額給付金にかかる詐欺の手口に関し警視庁が警告を鳴らしている(筆者注1)。詐欺社会の変化についていくことがIT社会で生きていくことなのか。
1.SCAMwatchのオーストリアにおける1回限りのボーナス支給に関する詐欺被害の危険性に警告
4月上旬にオーストラリア政府機関であるATOとCentrelinkは緊急総合経済対策の一環としてボーナス支給を行うが、SCAMwatchが集めた苦情によると詐欺師が政府機関(ATOやCentrelink)のふりをしてボーナス支給を受けるため(受給者適格)には特定の様式を持った請求書の完全な作成が必要であると説明する偽の電話、Eメール等を送りつけている。その様式の内容は受給者の姓名、住所および銀行取引の詳細情報である。
今回の給付手続において、Centrelinkは受給対象者の2007年・2008年度の給付税額控除指定口座に一定の計算方式に基づき振込むため、そのような手続は一切不要なのである。大多数のオーストラリア人はその事実を知っているはずであるが、まだ銀行口座の変更中のため税還付手続を行っていない人などのために警告を鳴らしたものといえる。
自分自身を守るために何をなすべきか、次のような注意事項を記載している。
(1)自分から要求していないEメールに対しクレジットカード情報や銀行取引の明細情報を返信したり、相手が真に確認できない場合は決してウェブサイト上でそれらの個人情報を送信してはならない。
(2)あなたがATO、Centrelinkや取引銀行からEメールを受け取ったときは、直ちに削除すること。
(3)それらのEメールに添付された文書等を開いたり、リンクを張らないこと。
(4)電話番号やアドレスは銀行の取引明細書や電話帳といった公式に認められたものに記載されたもののみを使用すること。自らが要求していないEメールに対し、これら機微情報を回答してはならない。
2.SCAMwatchの詐欺手口・犯罪類型分析
” SCAMwatch”は、オーストラリア競争・消費者委員会(Australian Competition & Consumer Commission:ACCC)が運営している詐欺・悪徳商法に関する情報ウェブサイトである。連邦の各州や海外の被害の場合はACCC、また金融や投資に関する詐欺の場合はオーストラリア証券投資委員会(Australian Securities & Investments Commission:ASIC)、銀行やクレジットカード詐欺の場合は取引金融機関というようにいろいろな報告先とリンクを張り、また被害に会わないための関連記事等を検索できる。(筆者注2)
さらに興味深いのは詐欺の手口・類型を具体的に列挙し、それぞれに対し前記報告の重要性の説きながら、自身の被害拡大を阻止するための相談機関等の情報を具体的に説明している点である。
詐欺の類型分類は欧米各国で工夫されている。SCAMwatchサイトでは、一部米国のIC3では解説されていない詐欺類型があるので、その項目についてのみ簡単に説明する。
なお、これらの被害防止の解説を読めばすぐに理解されると思うが、共通的な答は自分自身常識的に判断し、人間欲を出さないことのようである。「うまい話の裏には詐欺がある」という昔からの言い伝えは正しかろう。
①宝くじや勝ち抜き詐欺(Lottery and competition scams)
②マルチ商法やねずみ講(Chain letters and pyramid scams)
③投資詐欺(一攫千金詐欺)(Investment scams :get-rich- quick)
(ⅰ)売込み電話(Cold calling investment telemarketing)
時として海外市場における高収益とハイリスク投資を強引に働きかける押し売り電話セールスである。電話のかけ手は、一見投資のプロのように聞こえるがオーストラリアでの取扱免許をもっていない詐欺者である。
(ⅱ)株式の販売促進と「トビキリいい情報(hot tips)」
スパムメールや胡散臭い電話によりほとんど流通していない株式の購入をせかす。詐欺師は犠牲者が同株に投資するまで株式の売却を待つのである
(ⅲ)投資セミナーと不動産詐欺(real estate scams)
ハイリスク商品販売戦略による高圧的販売セールスを行う詐欺。詐欺師は一方でセミナー参加手数料(attendance fee)で儲け、また他方で暴騰的価格(inflated prices)で不動産を被害者に売却する。
(ⅳ)コンピュータ予測ソフト(賭けソフト)の販売詐欺
スポーツ・イベントや株式市場の結果を予想するソフトウェアー・パッケージを売り込む。そのソフトは期待通り機能せず配当はありえない。
(ⅴ)退職年金詐欺(superannuation scams)
特に自己管理型年金ファンド(self-managed super fund:SMSF)の加入者に退職前に繰り上げ給付(release)をすすめる申出詐欺が大きな社会問題となっている。(筆者注3) (筆者注4) (筆者注5) (筆者注6) (筆者注7)
なお、投資詐欺に類似するものとして次のものが例示されている。
(ⅵ)ビジネスチャンス詐欺
(ⅶ)雇用や収入保証を誘いつつ前払いの謝礼や教材費を要求する詐欺
④送金・金融取引情報要求詐欺(ナイジェリアからの手紙詐欺(Nigerian’ scams))(筆者注8)
⑤銀行取引情報入手詐欺(banking & online account scams)
なりすまし詐欺の手口と共通性がある。フィッシング詐欺が典型であるが
その偽メールでは被害者の口座に不具合があり確認ために口座番号や暗証番号等正確な取引情報の提供を求めるのである。また、キャッシュカードやクレジットカードの磁気ストライプ情報等を違法にコピーするスキミング詐欺も類似の詐欺である。その他、オンライン・バンキングのキーボードの入力内容を違法なソフトウェアーを使って盗取する「キー・ロガー(Key-loggers)」も同種の詐欺行為である。
⑥なりすまし詐欺(Identity theft scams)
⑦インターネット詐欺(Internet scams)
(ⅰ)オンライン・オークション詐欺
(ⅱ)偽ドメイン名更新詐欺(Domain name renewal scams)
被害者の真のドメインに関し偽の更新ドメイン名を通知してきたり、または請求明細書(invoice)で極めて紛らわしいドメイン名を送りつけてくる詐欺である。
(ⅲ)一般にスパムメールは極めて安いおまけ品や冨を約束するが、これに回答することは消費者のPCや銀行口座の安全性に問題を引き起こす結果となる。
(ⅳ)無料のウェブサイトへのアクセス、ダウンロード、休暇提供、株式、および試供品―被害者はその対価としてクレジットカード情報や個人情報を提供することになる。
(ⅴ)モデムのハイジャッキング(modem hijacking)(インターネットでユーザーに接触し、閲覧ソフトをダウンロードさせ、ユーザーがこの閲覧ソフトを使用すると、ユーザーが知らないうちにダイヤルアップの設定を勝手に変更してしまうプログラムを利用して、従来使用していたローカルのインターネットプロバイダーに接続する代わりに、非常に使用料の高い0900番号(premium rate phone number)や国際電話番号に接続させてしまう詐欺行為である。被害者は膨大な料金請求を受けて初めて被害に気づく。)
⑧携帯電話詐欺(Mobile phone scams)
詐欺者は被害者を以前から知っていたような電話(テキスト・メッセージ)をかけてきたり、不在着信コール(missed call)で被害者からのリダイヤルを待っていたりする。無料の着信音を提供したり、夢のような商品の提供を約することで前払いを促すが隠れた費用請求があるのが一般である。被害者がこの呼び出しに答えるとがっかりする商品やまったく欲しくない商品やサービスが提供され、取消できないようサインしてしまうことがある。最後に巨額な電話代の請求が届くのである。
この種の詐欺にはSMS(携帯電話同士で短い文字メッセージを送受信できるサービス。国内のSMSとしてはNTTドコモの「ショートメール」や、auの「Cメール」などがある)を利用したコンテストや簡単なクイズですばらしい商品が当たるというものがあり、しかし参加費がいくらかかるかは知らされないである。
⑨健康や医学に関する詐欺(Health & medical scams)
健康に不安をもっている人々を搾取する詐欺である。詐欺師はありえない対処策や複雑な健康治療を簡素化できると約束するが、これらの詐欺にかかると被害者は重大な健康被害を受ける。
(ⅰ)妙薬(Miracle cures)
この妙薬詐欺は、病気にかかったり荒治療を要する者をえさにまったく機能しないか、かえって危険なものである。
(ⅱ)減量詐欺(Weight loss scams)
詐欺師の不当な要求は「革命的やせ薬」、「クリーム」、「食事のアドバイス」、「健康機器」に基づき行われる。
(ⅲ)偽のオンライン薬局(Fake online pharmacies)
非常に安価の薬や処方箋なしで薬を提供するが、重大な健康障害や不当に高額な請求を伴う。(筆者注9)
⑩仕事や雇用斡旋詐欺(Job & employment scams)
⑪中小企業経営者向け詐欺(Small business scams)
この種の詐欺は、数種類の書式すなわち一度も注文したことがない広告代の請求書、ありえない事務所内の事務用品代および政府からのにせの送金要求書等で行われる。被害に会わないための防御策は、購入や注文する際の責任者を限定し、すべての注文書・購入書を保存するとともにそれらの権限を信頼に足る人物のみ行わせることである。
(筆者注1)4月2日付の警視庁生活安全総務課の警告内容は次のとおりである。このような早期の被害防止の姿勢が詐欺師には最も効果的であることは過去の例に見られる。
「大阪府や宮城県において、市職員や代行業者を装い現金を騙し取る「給付金詐欺」が発生したほか、全国で給付金の支給開始にあわせた不審電話等が多発しています。
都内でも、3月に入り、市や区の職員を名乗り
・高齢者宅へ「給付金のことで」と言って、個人情報を尋ねる
・携帯電話に「給付方法はどれを希望しますか」等の確認をしてくる
・「郵政省です。定額給付金のお知らせです」等のガイダンスを流す
・口座番号が誤っていないかどうか確認に行きたい
等の不審な電話や、
・定額給付金の申請書を持っている人に対する「手続きを代行します」
という声掛け、また、
・手続きが面倒なので区役所から手伝うよう言われて回っています
・定額給付金はいくらもらえるか知っていますか
等代行業者やアンケート調査を装う訪問事案等が発生しています。
○予想される事案
・手数料の支払いを求められたり、個人情報・口座番号を聞かれる
・訪問し、通帳・カードの確認を要求される
・窓口で現金の給付を受けた人を狙う「ひったくり」
○防犯対策
不審な訪問・電話には、相手の連絡先、氏名、部署を尋ね、自治体に必ず確認するとともに110番通報をお願いします。また、「ひったくり」も多発していますので十分気をつけてください。」
(筆者注2) SCAMwatchのサイトを見てすぐ気が付くのは詐欺被害者へ詐欺の類型別に報告方法・報告先について詳細な説明を行っている点である。要するに迅速な関係機関への報告が新たな被害者の増加を阻止する最も有効な手段であるからである。もう1点は消費者が自分自身被害に会わないために以下に行動すべきかについて懇切丁寧に解説を加えていることである。その中でわが国でも共通的に使える教訓は次の2つであろう。
①黄金律(Golden rules)要するにうまい話には裏がある。冷静に常識に従って判断することの重要性である。一攫千金で儲けるのは詐欺師のみである。
②圧力がかかった状態で決定を行わないこと。金銭や投資に関するものであれば独立系の金融アドバイザーの支援を受けるべきである。
(筆者注3)オーストラリアの連邦金融監督機関である証券・投資委員会(Australian Securities & Investment Commission:ASIC)のサイトでは概要次のとおりの警告が行われ、併せて年金受給権の早期譲渡に関する犠牲者実話例(true story from victims of early release schemes)が紹介されている。
「自己管理型年金(self-managed super fund:SMSF)における年金受給資格者が給付金(benefit)につき早期繰上げ給付(early release)を受けたり、代行業者により有料で入手するよう説得する者がいたら直ちにASICまたはATOに報告してください。住宅ローンの返済が滞るなど世帯の財政危機を経験したときにそのような行動に出ることは一応理解できるが、その行為は明らかに違法なものであり最後の切札である。繰上げ給付の違法な実行は金融監督機関が定める規則に基づき重大な法的および金銭的刑罰を受けることになります。」
(筆者注4)ASICサイトで見ると、2004年10月27日クィーンズランド連邦裁判所は退職年金の早期繰上げ給付を消費者に勧めていた同州の業者2人に対し恒久差止め命令(permanent injunction)を全裁判官一致の決定として得た例を紹介している。わが国でも経済不安が広がる中、同様の詐欺行為が広がらないよう関係機関の早期の取組が期待される。
(筆者注5)連邦政府の監督下で責任投資原則(PRI)に基づき退職年金を厳格運用している産業ファンドとして代表的なのが、オーストラリア退職金投資連盟(Australian Reward Investment Alliance:ARIA)である。連盟の意味は、公的年金と公職年金の双方をカバーする産業ファンドであるからある。
なお、2008年5月に内閣府が公表した「安全・安心で持続可能な未来のための社会的責任に関する研究会報告書」はPRIやESG投資(Environmental ,Social,Corporate governance)について内外の状況を含めよく整理されている。
(筆者注6)わが国では、貸金業者における違法年金担保問題が社会問題化し、弁護士会や司法書士連合会等からの強い要請決議に基づき2004年(平成16年)12月28日施行されたいわゆる「違法年金担保融資対策法(貸金業の規制等に関する法律の一部を改正する法律(法律第158号(平成16年12月8日公布)」は次の規制強化を定めた。(金融庁サイトから引用)
1.広告・勧誘に当たって禁止される行為の追加
貸金業者は、年金等の公的給付の受給者の借入意欲をそそるような表示又は説明をしてはならないこととされた。
2.公的給付に係る預金通帳等の保管等の制限
貸金業を営む者は、貸付けの契約について、その貸付金の弁済を公的給付を原資とする資金から受ける目的で、法令の規定により譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができないこととされている公的給付が振り込まれる銀行口座等の預金通帳やキャッシュカード、あるいは年金証書などの引渡しを求め、又は保管する行為を行ってはならないこととされた。
3.罰則等
上記2に違反した者について、1年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科することとされました。また、上記1及び2に違反した者は、行政処分の対象とされた。
(筆者注7)類型②、③、④は基本的にかなり類似のものといえる。
(筆者注8)ナイジェリアからの手紙詐欺はわが国でも有名は詐欺である(ナイジェリア刑法419条)。筆者もかつて警察庁の幹部との勉強会で同詐欺が話題となったが、幸いかな日本向けに英文で送られてくるためほとんど理解されないまま削除されてしまうので被害届もまずないそうである。筆者は1日あたり海外からの各種メールが平均200通くらい来るのであるが、ナイジェリアからの手紙は1年間に数えるくらいである(あまりにもスペルミスが多くまたパターンが同じなので笑ってしまう)。しかし、米国の場合は笑っていられないのが実情のようである。2008年1年間の被害報告の基づく「2008 Internet Crime Report」4/1②によると、全報告件数のうち同犯罪類型に分類される件数は2.8%、被害金額中の割合では5.2%、平均被害額は1,650ドル(約16万5千円)と比較的高額である。なお、上記米国の統計(IC3)を見ると、投資詐欺の場合でも平均被害金額は3,548ドル(約35万5千円)である。わが国でよく問題となる投資詐欺に比べると被害額が極めて少ない気がするが、個人の貯蓄額の差であろうか。
(筆者注9) 4月7日に筆者に届いたメールに“World famous medical products at discount. http://lpmuz.zwefopcyn.com/と言うメッセージのみのものがあった。開きはしなかったが、この種のものであろう。
〔参照URL〕
http://www.scamwatch.gov.au/content/index.phtml/itemId/757362
http://www.scamwatch.gov.au/content/index.phtml/itemId/694085
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