2011年9月11日日曜日

オーストラリア連邦裁判所がACMAによる初めてのSMSスパム裁判の有罪判決を確定



 わが国では、本ブログも含めオーストラリアの裁判所判決を詳しく引用する例は少ない。今回の紹介する連邦裁判決はスパム犯罪に対する特徴のある判決である。

 すなわち、“Safe Divert”と呼ばれる詐欺手口を使い、香港を拠点とする出会い系サイト会社3社およびその幹部やオペレーター計5人が被告、携帯電話の活用、SMSチャット・ゲートウェイを利用、被告8人中7人に対する罰金刑合計額が2,225万豪ドル(約17億8千万円)と極めて高額であること等である。

 今回のブログは、これら犯罪の手口を解説するとともにスパム問題の規制・監督機関である「オーストラリア連邦通信メディア庁(Australian Communication & media Authority:ACMA)」「連邦競争・消費者委員会(Australian Competition and Consumer Commission :ACCC)」のスパムに対する近年の法執行や起訴の状況について紹介することが目的である。

 米国であれば、この種の犯罪の起訴や法執行は「連邦司法省」や「FBI」の独壇場になると思うが、オーストラリアではまず通信メディア庁(ACMA)(筆者注1)による法執行・規制が優先している点がわが国の姿勢と共通性があるとも考え、紹介するものである(法執行の詳細な説明もACMA自身が行っていることも欧米各国とも異なる対応であり、興味深い)。
 また、法執行時のプレスリリースには必ずその根拠法令や最近時の関連法執行に関する解説を注記するのは英国と同じスタイルである。わが国も参考とすべき点であろう。

 取りまとめにあたり、以前にも本ブログ(筆者注2)で取り上げたACCCが運営する詐欺阻止専門サイト“SCAM watch”等も参照した。(筆者注3)

 なお、この情報と併せ「オーストラリア連邦裁判所(Federal Court of Australia)」判例等検索サイトの先進性・機能性についても紹介する予定であったが、機会を改める。


1.ACMAの最近時の詐欺犯罪規制の実態
(1)オーストラリアにおけるスパム規制法や規則ならびに関係法令
A. 「2003年スパム法(Spam Act 2003)」は2004年4月10日に施行した。国際的なスパムの傾向の分析機関である“Sophos”のデータによると、それまではスパムメールの発信・中継頻度でみたオーストラリアは第10位であったが、同法施行後、第32位に下がった。(筆者注4)

 同法は、商業目的の電子メッセージの送信については次の要件を定める。
a.受取人の同意に基づき送信すること、その同意は明らかな意思表示もあるし
あるいは一定の行動や既存のビジネス関係に基づくものもある(consent 原則)。
b.発信者の特定できる情報を同時に発信しなければならない(identity原則)。
c.受取人が将来発信者から受取りを「オプト・アウト」できる容易な手段を提供していること(unsubscribe原則)。

 同法の適用範囲は、商業目的の「E-mail」、「インスタント・メッセージ」(筆者注5)、「SMS(ショート(テキスト)・メッセージ・サービス)」(筆者注6)、「MMS(マルティメディア・メッセージング・サービス:イメージベースの携帯電話間のメッセージ交換)」(筆者注7)が対象となる。ただし、ファクシミリ、インターネット・ポップアップ広告(筆者注8)および音声によるマーケティング行為は除かれる。なお、マーケティング活動における電話呼出しとファクシミリは“Do Not Call Registry”の登録により受信拒否が可能である。
 同法25条に基づき反復した法人の違反者に対しては、1日あたり最高110万豪ドル(約8,800万円)、個人の場合は最高22万豪ドル(約1,760万円)の罰金刑(民事罰)が科される。(第4章 民事罰)(筆者注9)
 また、オーストラリアのスパム法第4章24条では連邦裁判所による民事罰たる科料(pecuniary penalty)、同章25条が民事罰の最高刑、同章26条はACMAが連邦政府に代り違反行為の6か月以内に連邦裁判所に民事裁判を提訴できる(民事罰裁判中に刑事訴追は出来ない(27条)。
 28条は裁判所による「付随的被害者救済命令(ancillary order)」規定である。同条にいう民事訴追を受けて裁判所が支払いを命じるもので当局は各種要因を考慮して算定(行為の態様、損害の程度、背景事情、違反歴等を考慮する旨法律に規定あり。具体的な算定ガイドラインは存在しない)のうえ制裁金の勧告額を提示)する。(筆者注10)

B.スパム法第6章は「当局との強制的約束(enforceable undertaking)」に関する規定である。(筆者注11)

(スパム法により、次の機関はその公的機能や言論の自由等から適用除外されている。政府関係省庁、登録された政党、慈善団体、宗教団体、教育機関(現在および元学生への通知))

C. 「2004年スパム規制に関する規則(Spam Regulations 2004)」
 2003年スパム法に基づき制定され、2004年4月8日に公布された。

D. 「1997年電気通信法(Telecommunication Act 1997」

E.業界の自主規制綱領の制定と監督機関による登録
 スパム法規制とは別にオーストラリアでは、電子マーケティングやインターネットサービス関連業界は3つの自主規制綱領(Code of Practice)やガイダンスを策定している。その一部は2006年5月3日付けの本ブログで詳しく説明しているが、さらに今回はまとめて補足する。
a.「電子マーケテイング実践綱領(e-Marketing Code of Practice)」11/8(21)
オーストラリア・ダイレクト・マーケティング協会(ADMA)等多くの業界団体が2003年3月策定、2005年3月16日に監督機関であるACA(オーストリア通信庁、ACMAの前身)に登録された。(全67頁)

b.「ベストDM実践ガイドライン(Best Practice Guideline) 」
 ADMAが2001年1月に他の産業界や消費者を中心に「ベスト・マーケティング実践ガイドライン(Best Practice Marketing Guideline) 」をまとめ、その後ADMAはDMの形態の変化に応じ次のようなガイドラインを策定、公表している。
Best Practice for Direct Mail 
Environmental Guidelines
Chance Draws and Competitions
Online Marketing Guidelines
Best Practice for Use of Data in Direct Marketing
Mobile Marketing Code of Practice
Best Practice for List Management

c. 「インターネット業界スパム実践綱領(Internet Industry Spam code of Practice)」 (全29頁)
 オーストラリアのインターネット産業協会(IIA)11/8(25)が2005年12月(第1版)に策定、2006年3月16日にACMA登録された。

(2)オーストラリアにおけるスパム犯罪の急増とACMAの積極的な法執行の取組み
 ACMAの法執行は他の監督機関と同様な法執行を行っている。すなわち、「当局との強制的約束(enforceable undertaking)」(18件)、「法律に基づく正式警告(formal warnings)」(23件)、「法律にもとづく正式の違法通知(formal notice)」、「違反通知(infringement notice)」(筆者注12)(26件)、「スパム行為の停止にかかる裁判所差止命令(injunction)」(1件)、「連邦裁判所への告訴(prosecute a person in the Federal Court)」(2件)である。(括弧内はこれまでAMCAが行ってきた取扱件数)。
 ACMAのこれまでの主要な法執行活動の詳細は法執行専門サイトで一覧になっている。

2.差止命令から起訴、さみだれ式に下された連邦裁判所判決の概要
 AMCAサイトでは今回取上げた事件(QUD 426 of 2008)についてまとまった解説はない。前記法執行記録の中にまぎれており、分かりにくい。
 筆者の判断であらためて本訴訟の経緯のみ抜粋して時系列で解説する。なお、本裁判以降にもスパム裁判が行われており、その判決結果についても最後に追加する。

(1)2009年1月13日、AMCAは違法なSMSスパム行為を行ったことを理由にスパム法に基づき法人3社(Mobilegate Limited,Winning Bid Pty Ltd,Jobspy Pty Ltd )および個人5人(Simon Anthony Owen,Tarek Andreas Salcedo,Scott Mark Moles, Glenn Christopher Maughan,Scott Gregory Philips)を被告とするブリスベンの連邦裁判所への手続を開始した旨リリースした。

 起訴事由の内容は次のとおりである。
a.被告は、“Safe Divert”または“Maybemeet”と呼ばれるSMSのテキストデータをリレーするマーケティング・サービスを供給、広告、または販促した。
b.被告は、同時に捏造で作った出会い系サイトや偽の加入者プロファイルを利用してオーストラリアの携帯電話のアカウントを持つ利用者を金銭的な利益を不正に得る目的で騙した(1SMSメッセージあたり最高5豪ドルが費用として課金されるように設計した)。
その結果、犯人グループは200万豪ドル以上を違法に稼いだとACMAは見ている。

 また、ACMAは被告のデートサイトを利用するための誤解を招く見掛け倒しの表現の使用は「1974年競争取引および消費者保護法(Trade Practices Act 1974)」(筆者注23:参照)に違反すると告訴した。

 ACMAは、起訴状において宣言(declarations)、差止命令(injunctions)および刑罰その他の命令を求めた。また被害拡大を回避すべく「暫定差止命令(interim injunction)」もあわせて求めた。

(2)2009年8月14日、連邦裁判所(ローガン判事(John Alexander Logan))は被告5人(Mobilegate Limited,Winning Bid Pty Ltd,jobspy Pty Ltd, Simon Anthony Owen,Tarek Andreas Salcedo)に対する「差止命令」および「宣言」を下した。5人の刑罰に関する審問(hearing)は未定であるが、残りの3人の被告に対する審問は11月30日に行われる旨発表された。

(3)2009年10月23日、ブリスベンの連邦裁判所は被告5人に対し、「2003年スパム法」違反に基づく合計1,575万豪ドル(約12億6千万円)の罰金刑判決を下した。被告各人別の刑罰内容は次のとおりである。
a.Mobilegate Limited・・・・・・・・・・500万豪ドル(約4億円)
b.Winning Bid Pty Ltd・・・・・・・・・・350万豪ドル(約2.8億円)
c.Simon Anthony Owen・・・・・・・・・・300万豪ドル(約2.4億円)
d.Tarek Andreas Salcedo・・・・・・・・・300万豪ドル
e.Glenn Christopher Maughan・・・・・・・125万豪ドル(約1億円)

(4) 2009年12月16日、ブリスベンの連邦裁判所は次の被告2人に対し、計650万豪ドルの罰金刑を科した。10月23日の罰金刑と合計すると2,225万豪ドル(約17億8千万円)となる。
f.Jobspy Pty Ltd・・・・・・・・・・・・400万豪ドル(約3.2億円)
g.Scott Mark Moles・・・・・・・・・・・250万豪ドル(約2億円)

 ACMAは起訴状で、被告f、gは他の被告とともに本物の出会い系サイトのユーザーの携帯電話番号を入手する目的でにせのウェブサイト・プロファイルや許可なしに写真を掲載するなど複雑な手口を用いた。ACMAは被告は2005年後半以来この手口にかかったオーストラリア人の被害総額は400万豪ドル(約3億2千万円)以上であると主張している。

(5)2010年11月5日、最後の被告h.Scott Gregory Philips(35歳)に対する連邦裁の判決が12月1日に下される予定である旨ACMAは公表した。
 フィリップ被告は元pinkbits.comおよびInternet Billing Servicesのオペレーターであり、またユーザーから本物の携帯電話番号の提示を勧誘する係りであった。

3.連邦裁判所における初めてのスパム有罪裁判例
 オーストラリア連邦裁判所は2003年スパム法16条、22条に違反したとするACMAの告訴に対し、2006年10月27日、 Clarity1 Pty Ltd社に対して450万豪米ドル(約3億6千万円)、 同社専務取締役Wayne Mansfield氏に対して100万豪米ドル(約8千万円)の科料を命じた(Australian Communications and Media Authority v Clarity1 Pty Ltd [2006] FCA 410)。
 同裁判の事実関係、双方の主張内容や判決の結論部分ならびにマーケッターの留意事項については“Australia FindLaw”が詳しく解析しているので参照されたい。その電子メール・マーケッターにとってのポイントが最後にまとめられているので引用する。
①オプト・アウトの道具を包含させることのみで、受信者に同意の推定を避ける義務を課すことにはならない。
②発信者と受信者の間のコミュニケーションが一方的であるときは「取引関係」があるとは推定されない。
③関連する電子メールアドレスを公開したからという事実のみでは「同意」があったとは推定されない。
④商業電子メールの送信はスパム法16条の適用を受ける。

(2)「当局との強制的約束(enforceable undertaking)」例
 ACMAのサイトで過去18件の合意内容の詳細が確認できる。

(3) 「違反通知(infringement notice)」例
・2007年6月21日、ACMAは「ピッチ・エンターテインメント・グループ(Pitch Entertainment Group)」および「インターナショナル・マシーナリー・パーツ株式会社(International Machinery Parts Pty Ltd)」に対し、スパム法違反を理由にそれまでの最高額の罰金(前者は1日あたり11,000豪ドル(約88万円)、後者は1日あたり4,400豪ドル(約352,000円))である。

4.恋愛詐欺サイトへの警告
 前述した“ACCC”が運営する詐欺阻止専門サイト“SCAM watch”では「デートと恋愛詐欺(Dating and Romance scams)」警告専門サイトがある。ここでの詳細は省略するが、わが国でもすでに始まっているのかもしれない。


(筆者注1) “ACMA”の組織の歴史的経緯について補足しておく。2005年7月1日、オーストラリア通信庁(ACA)とオーストラリア放送庁(ABA)が統合し、通信、放送分野の規制監督機関として“ACMA”が設立された。“ACMA”電気通信事業および放送事業の規制・監視、インターネット・コンテンツの規制、競争政策の施行、消費者保護、電子メディア環境の監視、周波数管理等を所掌する。

(筆者注2) 連邦競争・消費者委員会や1974年取引慣行法(The Trade Practices Act)について概要について参考とすべきわが国のサイトのURLをあげておく。
公正取引委員会
オーストラリアの弁護士

 なお、筆者のブログ(筆者注23)では “The Trade Practices Act”を「 取引慣行法」というのは正確でないとし、意訳となるが「競争取引および消費者保護法」という訳語を用いた。日本語解説は内容的には唯一参考といえるものであり、そのまま引用する。

(筆者注3) ACCC は排除命令を出す権限がないため、被害者への救済は訴訟をもって実現しなければならない。具体的にACCC は、差止命令、一定の被害者のための損害賠償や付随的な命令を求める訴訟(第87 条1B 項、同条1C 項)、情報の開示や訂正広告を求める訴訟(第80条、第86C 条2 項、第86D 条)、事実認定(第83 条)、違法行為についての宣言(declaration)などを求める訴訟などの権限を持っている。

(筆者注4) “Sophos”は、毎年「ソフォス・スパム送信国ワースト12」を発表している。2010年7月~9月調査結果では、中国が圏外になり、上位12カ国の順位と割合は次のとおりである。
1.米国:18.6%、2.インド7.6%、3.ブラジル:5.7%。4.フランス:5.4%、5.英国:5.0%、6.ドイツ:3.4%、7.ロシア:3.0%、7.韓国:3.0%、9.ベトナム:2.95、10.イタリア:2.8%、11.ルーマニア:2.3%、12.スペイン:1.8%
 以上見るようにいわゆるIT先進国が軒並み並んでいる。なお、2004年8月時点では日本は第6位(2.87%)であった。
 地域別で見ると、1.欧州:33.1%、2.アジア:30.0%、3.北アメリア:22.3%、4.南アメリカ:11.5%、5.アフリカ:2.3%、である。

(筆者注5) 「インスタント・メッセージ(Instant Message/Instant Messaging)」は,略して「IM(アイエム)」と呼ばれる。エンドユーザーが使うクライアント・ソフトのことを「インスタント・メッセンジャー」や「メッセンジャー」などという。これも「IM」と呼ばれる。現在、よく使われているメッセンジャーはマイクロソフトの「Windows Messenger」(Windows XPに標準)やWindows Live Messenger(Windows Vistaに標準)。Yahoo! JAPANが提供する「Yahoo!メッセンジャー」やGoogleの「Google Talk」も人気がある。(ITpro「インスタント・メッセージとはなにか」より引用)

(筆者注6) 「ショート・メッセージ・サービス(Short Message Service:SMS)」とは、携帯電話やPHS同士で短文を送受信するサービスである。Text Message(テキストメッセージ)とも呼ばれる。

(筆者注7)「 MMS(Multimedia Messaging Service)」とは、携帯電話を使ったメールシステムの1つで、テキストのほか、静止画/動画/音楽といったデータを送受信することができる。欧州の携帯電話で一般的に使われているSMSが発展したもので次世代SMSといわれている。

(筆者注8) 「インターネット・ポップアップ広告」とは、ある特定のウェブページを開いた時に自動的に一番手前に表示される広告用の小さなウィンドウをいう。

(筆者注9) オーストラリア刑法(Crime Act of 1914)4AA条における「罰則点数 (penalty unit) は、110豪ドルを意味する」と規定する。従って、例えば法律に”1,000 penalty units”と規定されていれば具体的な罰金金額は「11万豪ドル」となる。

(筆者注10) 同命令は、「差止命令」とともに連邦裁判所に頻繁に申し立てられている。その例として、「利益吐出し(disgorgement)」が挙げられるが、これは違法行為により得た利益を強制的に取り上げる行為である。なお、発生した損害に対する填補賠償(restitution)は認容されても、被害者の金銭を利用して利益を得たという証拠がない以上は、利益吐出し(disgorgement)は認められない。

(筆者注11)スパム法 第6章に定める「当局との間の強制力を持つ合意(enforceable undertakings)」とは、「規制当局(ACMA)は、スパム・メールまたはアドレス収集目的とする違法ソフトに関し、大臣の命令に基づき、規制対象者による規制の自発的執行の提案を受け入れることができるものである(38条)。規制の自発的執行を強制することはできないし、ACMAの同意が前提となるが対象者はその撤回や変更ができる。提案を受け入れた場合、当該の規制対象者は、自発的執行の不履行が確認されるまで、訴追を受けたり、定額罰金または裁量的要件を科されることはない。合意に基づく法執行違反に対し裁判所の命令を求めうる。(39条)」

(筆者注12) ACMAの法執行行為である「違反通知(infringement notice)」は同法30条および別表3(schedule 3)に定めるものである。すなわち、違反行為の通知だけでなく法律に定める罰金額を適用するものである。わが国で言うと独禁法の違反行為に対する「課徴金」(課徴金とは,カルテル・入札談合等の違反行為防止という行政目的を達成するため,行政庁が違反事業者等に対して課す金銭的不利益のことをいう)に相当するといえる。

[参照URL]
・ACMAの「2003年スパム法」に基づく法執行行為の一覧
http://www.acma.gov.au/scripts/nc.dll?WEB/STANDARD/1001/pc=PC_310314

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本ブログは、2010年11月9日掲載文の改訂版である。
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2011年9月4日日曜日

米国連邦取引委員会(FTC)が両親や家族のためのなりすまし詐欺等から子供の個人情報保護ガイダンスを公表



 わが国では2003年(平成15年)5月30日に成立、2005年4月1日に全面施行された「 個人情報の保護に関する法律(平成15年5月30日法律第57号)」の教育現場で起きた最大の課題は現場での「過剰反応問題」であろう。
 全面施行にあたり、各省庁はそれぞれ現場での混乱を避けて法律の的確な運用を行うべくガイドラインを作成したことは読者も記憶にあろう。しかし、それでも現場では混乱が起きた。特に両親や家族にとって学校や教育機関が保有する子供の個人情報の内容やその具体的な取扱いがどのようになっているのか、知りたくても十二分に知りえない部分があったことが混乱を広げたように思える。(筆者注1)

 その背景には毎度のことであるが、(1)ガイダンスの内容が一般人には理解しやすいレベルのなっていないこと、(2)さらに現場の教育担当者も問題の本質を理解できないため教育実務が混乱を極めたことであろう。

 今回のブログは、9月1日に米国の消費者保護機関である「連邦取引委員会(Federal Trade Commission)」が策定、公表した「消費者向け警告リリース」の意義を解説することである。特に、子供と「なりすまし詐欺」被害という一見結びつかない問題の本質ならびに被害に遭わないための施策を具体例として紹介することにある。


1.学校におけるあなたのお子さんの個人情報を保護する意義
(1)学校生活に戻ってみよう。新しいノートの購入、お弁当のパック、通学方法の確認、必要書類―登録簿記入、詳細な健康状態や予防接種の記入(筆者注2)、親の許可同意書(permission slips)(筆者注3)の記入等、年に1回の儀式として緊急連絡先等を記入する。これら学校が指定する様式は個人情報でかつ機微情報の記入を必要とする。
 詐欺師等は、あなたの子供の名前やこれら機微情報を悪用する。例えば、子供の社会保障番号は連邦政府による給付や支援措置(government benefits)(筆者注4)、銀行の口座開設、クレジットカードの口座開設、ローンや公益事業の申し込みならびに住居の賃貸等に利用するのである。
 FTCは子供がなりすまし詐欺の被害者に遭わないよう数年間もしくは子供が就職、奨学金や自動車ローンを利用するまでの間、検知されないリスク対策の重要性を警告する。

2.なりすまし詐欺のリスクを最小化するための具体的方法
 あなたの子供や家族の個人情報を守るために法律がある。例えば、連邦教育省(U.S.Department of Education)が執行する連邦「家族の教育権およびプライバシー保護法(Family Educational Rights Privacy Act:FERPA)」(筆者注5)がある。また、就学児童の両親に対し他の家族を含む第三者の情報共有に関する問い合わせのオプトアウト権の権利を規定する。

 FTCは学校に入学した児童の両親に次の施策を助言する。
(1)誰があなたの子供の個人情報に接近する手段をもっているか調べること、そして子供の記録が安全な場所に保管されていることを確認する。

(2)子供に送られてきた郵便物や電子メールで子供の個人情報を求める内容がないか注意を向ける。「個人識別情報」、「ディレクトリ情報」や「オプトアウト」等の用語を探すこと。あなたが子供の個人情報を明らかにする前に、かならずどのように使用され、誰と共有されるか調べること。

(3)“FERPA”に基づき学校が通知する親の権利について次の内容を読んで理解すること。
①子供の教育成績記録(education records)を点検、精査する。
②その記録中の情報の公開につき同意する。
③記録につき誤りの修正を行う。

(4)学生のディレクトリー情報のポリシーに関し、学校に以下の内容を照会する。
①学生のディレクトリー情報は、子供の氏名、住所、生年月日、電話番号、電子メールアドレスおよび写真であること。
②“FERPA”は学校はデレクトリーポリシーについて両親や保護者に通知し、第三者へのディレクトリー情報の伝達のオプトアウト権を提供すべき点を定める。あなたは書面で申し入れを行いかつコピーをとっておくことが最善である。
③学生の調査に関する学校のポリシーの写しを要求すべきである。
④生徒および両親の学校の受託契約者への情報開示時の事前調査内容修正権(Protection of Pupil Rights Amendment:PPRA)(筆者注6)
⑤学校で実施されるが、学校が支援しないプログラムに子供が参加する場合はその実施団体のプライバシーポリシーを読んで、子供の個人情報がどのように使用されまた誰に共有されるかについて必ず理解すること。
⑥あなたの子供の学校が情報漏えいを犯したと信じるときは行動を起こしなさい。その際、交渉内容は書面で記録すべきです。さらに必要に応じ苦情部(Family Policy Complaint Office)や学校の委員会に手紙を出すべきである。


(筆者注1) 文部科学省が策定したガイドラインの内容を検索する方法を説明しておく。極めて当然の方法でリンクできると思っていた。これがとんでもない誤解であることは読者自身が経験して欲しい。まずは混迷を極めるであろう。
 筆者なりに整理したので参考までに手順をあげておく。①文部科学省のサイトマップ→②申請・手続き→③情報公開・個人情報保護の「個人情報」→④個人情報保護制度の概要―個人情報保護法関連―→⑤平成16年(2004年)11月11日 文部科学省告示第161号「学校における生徒等に関する個人情報の適正な取扱いを確保するために事業者が講ずべき措置に関する指針」

 ちなみに、消費者庁サイトでは各省庁のガイドラインの一覧を作成している。そこでガイドライン名「学校における生徒等に関する個人情報の適正な取扱いを確保するために事業者が講ずべき措置に関する指針」を指定してリンクさせてみた。リンク先として前記①の画面が出るのみである。また、平成19年度文部科学省白書第2部第14章第6節 個人情報の保護:1.文部科学省における個人情報保護の取組の中でガイドラインへのリンク個所をクリックしてみた。やはり前記①の画面が出てくる。なぜ、直接リンクできるURL:http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2010/05/10/1251542_2.pdf―にアクセスできるように作業出来ないのか。

(筆者注2)シリコンバレーやサンフランシスコでクリニックを開いているM.D.の小林秀一氏のHP が州立学校の入学時の保健手続について詳しく解説しているので一部抜粋した。「公衆衛生」に対する米国保健機関の姿勢が鮮明に出ている。なお、一部州の機関(カリフォルニア州保健局:DHCS)の公式資料へのリンクは筆者の責任で補筆した。

「カリフォルニア州の学校(kindergartenからhigh school まで)に入学(転入を含む)するためには、その学年に応じて、法律で定められた一定の保健手続きを経る必要があります。これは各々の生徒の健康を守るとともに、各種感染症の学校での蔓延を防ぐという目的があります。必要な手続きは、(1)健康診断、(2)結核予防、(3)予防接種、に分けられます。

(1)健康診断について
・ Grade1への入学時に、「学校入学のための健康診断書(Health Examination For School Entry: Form PM171A)」を学校に提出する必要があります。このフォームは、入学を希望する学校、各学校区(school district)のオフィスの他、州保健局サイトからも入手できます。
・ この診断書を用意するために、Kindergarten入学の6ヶ月前(2月1日以降)から、Grade1の開始後3ヶ月以内(12月1日まで)に、医師の健康診断を受けなくてはなりません。期日を過ぎても診断書の提出がない場合には、退校処分になることもあります。

(2)結核予防(tuberculin test)について
・ カリフォルニアの学校に入学する生徒は、ツベルクリン反応(以下ツ反)を必ず受けなくてはなりません。
・ この検査は、Kindergartenへの入学あるいは転入前の18ヶ月以内、海外を含めたCounty外からGrade1-Grade12に転入する場合には、その前6ヶ月以内に行われなければなりません。

(3)予防接種(immunization)について
・ カリフォルニア州の学校に入学(転入を含む)する場合には、その学年に応じて、規定の予防接種を終了していることが必要です。」

(筆者注3) “permission slip”とは、親など親権者が学校の活動時に承認したことを示す書類のこと。遠足の際などに、親が子供達の参加を認めるときに用いられる。

(筆者注4) “government benefits”に関し、わが国で正確に解説したものを見ない。同ウェブサイトは、米国の市民税納付システム、連邦政府の規則制定、電子研修・教育、給付制度に関する情報提供などを対象とする「電子政府」の取組みの一環として複雑な連邦政府給付・支援措置へのアクセスをいかに迅速にかつ正確に行うかという観点から、2002年(GovBenefits.gov)にホワイトハウスが中心となって政府と市民、政府と企業および政府のウェブサイト間をつなぐ様々な品揃えと管理のシステムを創設したのである。当初のパートナーである連邦機関は10であり。具体的なプログラム数は55であったが、現在は17連邦機関、1,000以上のプログラムをフォローしている。

 同サイトをカテゴリー別に見ると次のような項目に分類されている。
①キャリアー開発支援、②保育や育児支援、③弁護支援や各種カウンセリング、④障害者支援、⑤災害時支援、⑥教育や訓練、⑦エネルギー支援、⑧環境持続・保持、⑨食物や栄養支援、⑩交付金や奨学金、特別研究員支援、⑪健康管理、⑫住宅支援、⑬生活支援、⑭ローン返済、⑮メディカイドやメディケア、⑯社会保障、⑰納税支援、他

(筆者注5)連邦教育省は、2011年4月7日に児童や学生のプライバシー保護強化の一環として、(1)“FERPA” の解釈の明確化、(2)政府投資の効果の判断および(3)州政府間の学校が保有する学生個人データの共有化等を図るため、以下の新たな安全保護強化策を公表した。

(1)連邦教育省に初めてチーフ・プライバシー・オフィサー(キャサリン・スタイル:Kathleen Styles)を任命。
(2)全米教育統計センター(National Center for Education Statistics:NCES)内に“Privacy Technical Assistance Center (PTAC)” を設置。同センターの役割は、幼児教育から大学院教育における(P-20 Education Community)プライバシー、機密性およびデータ・セキュリティに関する1箇所で用が足せる情報源として機能する。センターはプライバシー保護に関するFAQ、情報源ライブラリー、個人情報の統治計画策定に関するチェックリストを含むツールキットを開発する。
(3)プライバシー保護における最善の実践のための技術面の3つのガイダンスを策定
Basic Concepts and Definitions for Privacy and Confidentiality in Student Education Records 

Data Stewardship: Managing Personally Identifiable Information in Electronic Student Education Records 
Statistical Methods for Protecting Personally Identifiable Information in Aggregate Reporting 
(4) “FERPA”の解釈の明確化を図るため規則案(NPRM)を提示

(筆者注6) わが国で“PPRA”に関する解説は皆無である。連邦教育省に専用の解説サイトがあるので概要部を仮訳しておく。この問題はわが国ではほとんど問題になっていないように思うが、実は委託先管理面でのプライバシー保護や第三者提供に関し重要な課題が含まれている。
(1)“PPRA”の根拠法:20 U.S.C. §1232h  および 34 CFR Part 98(PART 98—STUDENT RIGHTS IN RESEARCH, EXPERIMENTAL PROGRAMS, AND TESTING)

(2)“PPRA”は学校から資金を提供される受託プログラムにおいて適用される。次の2つの方法において両親および学生の権利を保護することを目的とする。
①学校および受託業者において子供が参加する教育省が資金支援する調査、分析および評価に関し両親による査定が可能なように指示すべきことを保証する。
②次の事項に関し生徒の個人情報を開示する教育省が資金支援する調査、分析、評価を行う場合、学校および契約者は事前に両親の事前の文書による同意を得るべき点を保証する。
・政治的参加状況
・学生や家族に関する困難な精神的および心理学的な問題
・性行動や態度
・不法、反社会的および自らを有罪に導いたり品位をおとしめる行動
・家族関係につき緊密な関係を有する他の個人の批判的な評価
・弁護士、医師や大臣に対する法的特権を有する者との関係
・収入(ただし財政的支援を受けるため適格性判断を決する場合を除く)

 両親や学生はこれらの権利が侵害されたと信じうる場合は教育省「家族のポリシー遵守部(Family Policy Complaint Office)」に対し書面をもって訴えることができる。


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2011年8月12日金曜日

英国の法律扶助や刑事司法改革法案とりわけ「社会内刑罰(Community Sentences)」改正等更正措置の最新動向



 フランス、英国やカナダ等における刑罰の選択性や代替刑ならびに再犯防止策についてわが国でもようやく一部で論じられるようになってきた。
 その中で、8月8日に英国法務省(MOJ)から筆者の手元に届いたニュースで(1) 「社会内刑罰」における外出禁止(curfew)時間を1日当たり最大12時間から16時間に拡大する、(2)その禁止期間についても最大6か月から12か月に拡大することで、社会の保護強化と犯罪者の再犯の予防を図るという政府案が公表された。

 この改正案は英国の「法律扶助改正、裁判所による被告の刑罰処分権および新犯罪の追加に関する改革法案(Legal Aid,Sentencing and Punishment of Offenders Bill)」の一部であり、裁判所の権限強化は例えば週中や週末、当該日の中においてその変更を認めることなど弾力的運用案が織り込まれた。

 現在英国内には社会内刑罰の対象者が約24,000人いるが、法改正後は常に電子的にモニタリング(筆者注1)される予定である。仮に犯罪者が外出禁止措置の条件を破るならば、更なる罰則を受けるため裁判所に送り戻されることになる。電子モニタリングについては、2005年以来、英国では2社がイングランドとウェエールズで的確に運用を行って入る。これらのベンダー企業の政府とのサービス提供契約は再競争が予定されている。

 これだけの内容であれば、あえて本ブログで取り上げる必要性は低いかも知れない。しかし、英国の法律扶助や刑事司法改革法案そのものに関する重要ポイントの解説となると問題は別である。

 筆者なりにわが国の解説でウェブ上で確認できる情報を検索してみた。しかし、皆無であった。また、英国法務省や議会の法案トラッキング・サイト等を読んで見たが、その内容は決して平易ではないし、英国刑事司法の専門家以外にとっては難解なものである。

 そこで以前本ブログでも紹介した“politics .co.uk”のウェブサイトで調べてみたが、議会調査局の解説「Summary of the Bill」の方がより詳しく具体的であった。

 本ブログは、これら調査結果等につき整理するとともに、フランス、英国やカナダ等における刑罰の選択性や再犯防止策に関するわが国における論文の検索情報を簡単にまとめた。


1.「法律扶助改正、裁判所による被告の刑罰処分権および新犯罪の追加に関する法案(Legal Aid,Sentencing and Punishment of Offenders Bill 2010-2011)」(筆者注2)
法案トラッキング・サイトに基づき最新時点の法案審議状況や法案の重要ポイントを以下のとおりまとめる。
 なお、わが国では英国議会の審議経過(三読会制)について正確な解説文が少ないのでここでは丁寧な説明に心掛けた。(筆者注3)

(1)上程、審議の進捗状況
 6月21日の第一読会で上程、6月29日の第二読会で大法官および法務大臣ケネス・クラーク(Kenneth Clarke)により法案の趣旨説明と原則につき審議が行われた。審議後の発声表決(vote)では賛成(Ayes)295,反対(Noes)212で可決、公法案委員会(Public Bill Committee)での審議に移された。(筆者注4)
 公法案委員会(筆者注5)は、本法案につき毎週火曜と木曜に各条毎に検討を進めており、7月12日、19日に口頭証拠証言(oral evidence)(筆者注6)が発表され、今後は9月6日以降に委員会審議、10月13日には議会下院で委員会報告を行う予定である。
 これと並行して、議会(委員会)は法案に対する関係者からの証拠書面意見(written evidence)の提出につき7月12日を期限として受け取ることとなった。

(2)法案要旨
 本法案は多様な改革内容が盛り込まれており、4つの編(Parts)と16の附則(Schedules)から構成される。第1編は法律扶助(Legal Aid)、第2編は訴訟費用とコスト(Litigation Funding and Costs)、第3編は犯罪者への刑罰処分(Sentencing and Punishment Offenders)、第4編は最終規定(Final Provisions)である。なお、下院図書館(House of Common Library)も法案要旨(briefing paper)を作成、公表している。

 主たる法案項目は次のとおりである。
「1999年司法へのアクセス法(Access to Justice Act 1999:c.22)」(筆者注7)の規定内容を逆に改め、特に明確に除外されない限り適用可能であった民事法律扶助の原則を反対化した。すなわち、法案では法的扶助の一定のケースのみを取り出し、該当する場合のみ基金支援の適用資格を認めることとする。

②「法律サービス委員会(Legal Services Commission)」を廃止する。(英国の刑事司法制度改革については2011年2月26日付けの筆者ブログでも一部言及した)

③「ジャクソン報告」(筆者注8)において指摘、勧告された民事裁判における基金と費用に関する各種改善事項を政府として一段と進める。

④犯罪により犠牲者が損害や損失を被った場合に、次の場合のように裁判所が補償命令を出す権限を現行以上に緊急的に認めるべく刑罰規定を改正する。
・刑罰を科すにあたり裁判所に求められる詳細な理由説明の要件を減じさせる。
・裁判所に対し12か月の刑罰を最大2年に延長することを認める。また拘禁刑の期間延長の権限を認める。

⑤社会内刑罰である有罪犯罪者の外出禁止令期間につき、現行の6か月から12か月に拡張する権限を認める。

⑥「2003年刑事司法(Criminal Justice Act 2003)」において治安裁判所(magistrate’s court)が最高刑を6か月から12か月に拡大できるとする規定を「廃止」する。

⑦不必要に拘留施設へ再拘留される者の数を減じさせるため、保釈(bail)と再拘留(remand)に関する規定を改正する。

⑧18歳未満の者を拘留施設の再拘留させるとき、多くは地方公共団体の宿泊施設移送されるが、その保証措置に関する規定を設ける。

⑨囚人(prisoner)の釈放(release)と更迭(recall)に関する規定を改正する。

⑩囚人の雇用、賃金支払、賃金からの差し引き控除(deduction)に関する刑務所規則の定める権限を法務大臣に新たに与える。これらの条項の目的は囚人が被害者への支援にかかる支払を円滑になさしめることである。

⑪教育的視点からの選択条件付罰則通知(penalty notice)および関係する検察官への事件と関連性を要せずに条件付警告に関する権限をあたえる規定を設ける。

⑫重大な身体的危害の緊急的リスクを引き起こす刃やとがったもの(point)をもつ攻撃的武器や物による脅迫的犯罪を新たな犯罪とする。これらの犯罪に対し最低6か月の拘禁刑が科される。

(3)法案策定の根拠となる文書類
 英国の法案作成手続の公開性を指し示す例としてここで詳しく説明しておく。特にわが国で参考とすべき法案策定時のアセスメントの充実度は米国等と同様参考にすべき点であろう。

A.法案作成の背景となる書面
① 内閣府のウェブサイトにおける「連立政権における合意事項書面(Coalition Agreement)」の第6項目「犯罪と刑事司法政策(crime and policing)」中の第3番目の項目(We will seek to spread information on which policing techniques and sentences are most effective at cutting crime across the Criminal Justice System. )をさす。

②次の政府による司法改革に関する公開諮問文書
Proposals for the Reform of Legal Aid in England and Wales
(公開日: 15 November 2010 、提出期限日: 14 February 2011 )
悪循環を断ち切るための施策(Breaking the cycle: effective punishment, rehabilitation and sentencing of offenders )
(公開日: 07 December 2010 、提出期限日: 04 March 2011 、政府からの回答期限日: 21 June 2011 )
Proposals for reform of civil litigation funding and costs in England and Wales
(公開日:05 November 2010 、提出期限日:14 February 2011 、政府からの回答期限日: 29 March 2011)
ジャクソン報告
法律サービス委員会(Legal Services Commission)の廃止( Legal Services Commission move to Agency Status (Business Case))
上院委任権および規則改正委員会の法務大臣に対する委任権限に関するメモ( Delegated Powers Memorandum prepared by the Ministry of Justice for the House of Lords Delegated Powers and Regulatory Reform Committee)

B.影響度調査(Impact Assessments)
・法律扶助
・刑罰処分
・ジャクソン報告

C.社会平等性から見た影響度調査(Equality Impact Assessments)
・法律扶助
・刑罰処分
・ジャクソン報告

D.プライバシー影響度調査
法律サービス委員会の廃止(2011年6月)
個人情報の出入り口(Information Gateway)( 2011年6月)

2.フランス、英国やカナダ等における刑罰の選択性や再犯防止策に関するわが国における論文の検索情報
 アトランダムに収集しかつオンラインで入手・閲覧可能な者をピックアップした。わが国における「代替刑」論議等を考える上で参考となろう。

①網野光明「フランスにおける再犯防止策―性犯罪者等に対する社会内の司法監督措置を中心にー」(レファレンス2006年8月号)
②網野光明「フランスにおける選択刑制度-拘禁刑の代替刑としての公益奉仕労働・日数罰金刑等-」レファレンス2007年5月号4頁以下
③内閣府男女共同参画局  内閣府男女共同参画局推進課暴力対策専門官 土井真知 「Ⅲ 海外現地調査に基づく制度の運用状況に関する報告―イギリスにおける加害者更生に向けた取組」(62ページ以下)8/9④“community sentences:社会内刑罰”の解説資料
カナダ連邦司法省「Community-Based Sentencing: The Perspectives of Crime Victims」解説(原文で読むしかないが内容は参考になる)


(筆者注1)英国で1999年以降行われている受刑者の監視システムである「電子モニタリング・システム」 につき議会科学技術局が2008年5月にまとめた「保護観察の代替方法」の解説資料から抜粋する。このような監視システムは米国では一般的であり、最近では「IMF前専務理事が保釈 足首に電子監視装置つけ軟禁へ」いった記事も出ている。なお、この問題につきわが国では「代替刑」問題として法務省等で議論になっている。この問題も「社会内刑罰」問題と並行して論じるべき問題といえよう。
「受刑者への電子モニタリング命令処分」
保釈または刑務所からの早期出所の条件を満たす場合に用いられるもので有罪判決に基づく量刑として電子モニタリング処分を科すことが出来る。 1999年に全英国で導入され、電子モニタリングを使用するとする「地域社会奉仕命令(community orders)」は、犯罪者が予め指定された期間において、24時間監視の上で特定の住所地に滞在することを命じるものである。
 この2つの電子モニタリング方法につき、両方とも受刑者の足首の上に‘タグ'を固定する。①RFIDタグによる監視システムでは自宅から離れるなど域外に出るとモニタリング会社のシステム上の警報が鳴る。②GPSシステムを使い受刑者の行動をトラッキングし、自宅からはなれることをチェックする方法である。
 英国内務省の電子モニターの評価によると、80%の犯罪者が外出禁止令の期間を無事終了しているが、2年間でみた「再有罪」率は73%となり高い数値を示した(拘禁刑の場合の66%と比較して)。

 なお、わが国では2007年4月、山口県美祢(みね)市に初犯の受刑者を収容する「美祢社会復帰促進センター」という名称の刑務所が新設された。その特徴として、(1)コンクリート塀や鉄格子のない刑事施設、(2)センターヘの入場者(受刑者・刑務官・民間職員・来訪者等)に無線タグを装備し、位置情報をリアルタイムに把握するというものである。

(筆者注2) 同法案の訳語については、筆者が法案の内容に基づき一部意訳した。

(筆者注3)英国議会における法案審議過程については、2010年3月国立国会図書館調査及び立法考査局政治議会課 那須俊貴 (調査資料2009-1-b)「主要国における議会制度(イギリス)」を参考にした上で、議会サイトの解説に基づき補筆した。
 なお、下院の「発声表決」とは 議長の呼びかけに対し、賛成の者は「Aye」、反対の者は「No」と答え、議長は、その声量の大きいほうに従って可決または否決を判断し、宣告するものである。
 三読会制のポイントを見ておく。下院の場合、第一読会は法案名を読み上げる。第二読会は法案の説明趣旨と原則につき審議し、その後表決を行い否決された場合は廃案となる。第二読会では法案そのものの修正はできないが、野党は影の大法官および法務大臣が反対を述べた修正案を提出し、政府提出法案に対する反対を行うことができる。
 公法委員会(法案の付託ごとに委員が選任され、本議会への報告が終了すると解散する)に法案が付託され、逐条審査が行われる(原則公開)。
 委員会の報告を受けた本会議での法案審議では、修正案の提出が認められる。
 第三読会は委員会報告の直後に開催、法案に対する最終審議が行われ、字句修正を除き、修正は認められない。賛否のみの討論が行われる。

(筆者注4) 6月29日の第二読会の模様は議会テレビで見ることができるし、また、下院の公式議会審議録(Common Hansard)で確認できる。これらデータの充実や公開性は米国議会と同様進んでいる。

(筆者注5)英国下院の委員会は、一般委員会(general committees)と特別委員会(select committees)に区分することができ、法案審査は主として公法案委員会(public bill committees)等の一般委員会、政府の政策および活動等に関する調査は特別委員会が行っている。(国立国会図書館 政治議会課 奥村牧人「英国下院の省別特別委員会」から抜粋した。)
 なお、英国議会での法案は(1)公法案(public bills)、(2)私法案(private bills)および(3)両者の性格を兼ね備える混合法案(hybrid bills)に大別される。ほとんどの法案が「公法案」に当たる。公法案は税金、公共支出等政策に関する事柄を扱い、政府大臣等が提出し、一般的法的な性格を有する(常に下院から初めに審議される)。公法案には、大臣以外の議員や大法官が提出する法案である”private member’ bills”が含まれる。
 一方、私法案は、地方自治体や民間企業団体や個人等特定の利害等に関わる法案である。この法案に対しては利害関係者たる個人や団体は議会に対し陳情したり委員会や議員に対し反対意見を提示できる。このため、“private bills”については新聞広告(newspaper adverts)や地方版官報(official gazettes)で公開するとともに関係者に書面での通知が義務づけられる。
この両者の性格を併せ持つ法案を「混合法案(hybrid bills)」という。その例としては「英仏海峡トンネル法案(Channel Tunnel Bills)」「英国鉄道網法案(Crossrail Bill)」があげられる。同法案に対しては、特定の個人やグループは陳情したり特別委員会で意見を陳述できる。
(国立国会図書館「主要国の議会制度(2010年3月)」19頁以下から抜粋したうえで、英国議会サイトの解説文に基づき筆者が大幅に加筆した)

(筆者注6)議会は政府の政策等について恒常的に精査している。とくに、下院では、省に対応して特別委員会(Select Committees)が設置されており、対応する省の支出、管理、政策について調べている。具体的には、審理する内容について決定したのち、DIUS 内のみならず関係者・関係機関から、書面による証拠(written evidence)や、証人として委員会に召喚することによって得られる口頭による証拠(oral evidence)に基づいて、報告書を作成し本院に報告するとともに、報告書を公表している。

(筆者注7)「イギリスの法律扶助制度はよく整備され,西欧諸国の中で最も多くの金額を支出しているとも言われている。資力がなくても国からの援助を受けて訴訟活動ができる反面,国から援助を受ける当事者にとっては,訴訟費用を抑制する動機に欠けるという指摘もある。すなわち,法律扶助の受給者にとっては,訴訟費用がどれだけ高額化しても自己負担がないため,弁護士に対して訴訟活動を効率的・短期的に行うよう要求する必要性がない。一方,弁護士の側からすれば,上記のような時間制で報酬が定められているため,こちらも訴訟活動を短期化する動機に欠ける。したがって,このような状況においては,法律扶助制度もまたイギリスの平均審理期間を長期化させてきた要因の1つであろう。」(最高裁「裁判の迅速化に係る検証に関する検討会(第20回)」平成19年(2007年)5月11日(金)参考資料2から一部抜粋。この法律扶助制度の根拠法となるのが「1999年司法へのアクセス法」である。
 この問題については「諸外国における民事訴訟の審理期間の実情等の概観」が解析している。
なお、参考までに「1999年司法へのアクセス法」の各編のタイトルを筆者なりに見ておく。
第1編 Legal Services Commission
第2編 Other Funding of Legal Services
第3編 Provision of Legal Services
第4編 Appeals, Courts, Judges and Court Proceedings
第5編 Magistrates and Magistrates’ Courts
第6編 Immunity and Indemnity
第7編 Supplementary

(筆者注8)ここでいう「ジャクソン報告」とは次の報告をさす。その18頁から26頁が要旨部分であるが、現行英国の民事裁判のかかえる問題のうち、弁護士費用の敗訴者負担制度、法律扶助制度等具体的に踏み込んだ内容である。機会を見て体系的に取上げたい。
2009年12月21日 「民事裁判における費用の見直し問題(最終報告)( Review of Civil litigation Costs―Final Report―)」(代表:Rupert Jackson英国イングランド・ウェールズ高等法院判事)(全584頁)

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2011年6月15日水曜日

EU評議会における公共放送やビデオ・オンデマンド、映画等に関するEU加盟国のための監視機関の役割と機能



 筆者は、2010年3月2日、EU 指令(2006/24/EC)を受けたドイツ連邦通信法改正に関するドイツ連邦憲法裁判所の違憲判決(筆者注1)に関する概要の解説ブログを同年12月20日にまとめた。実はその後のドイツ連邦政府の法改正の動向を正確に読み取るうえで重要な情報サイトを発見した。

 この問題を解く鍵として欧州評議会(Council of Europe)および欧州委員会(教育・文化事務局)が共同管理する監視機関である” European Audiovisual Observatory ”(EAO)が毎月取りまとめ公表している“IRIS”の概要について解説することが第一の目的である。

 さらに、EUのメデイア規制に関し解析することの重要な目的は、1992年12月(筆者注2)に設立されたEAOの制度面の枠組みについて正確な概要を説明することである。
 同機関について欧州連合の各機関に比べわが国では一部専門家以外では言及したものが極めて少ない。欧州連合(EU)の欧州委員会については、わが国では通商問題については「EU通商ニュース - 週間ダイジェスト」があるし、駐日欧州連合代表部が提供する最新情報がわが国でも簡単に閲覧できる。
 しかし、欧州評議会やEAOに関する詳細なデータを解析しようとして、その作業にかかる時間と予備知識を考えるとその情報量の格差は歴然である。

 今回のブログは、わが国のメデイア 関係者ならび(筆者注2)(筆者注3)(筆者注4)(筆者注5)で詳しく述べるEAOが取組んでいるテーマに関心を持つ方々にとって多少でも寄与できればという思いで作業してみた。


1.” European Audiovisual Observatory ”の制度的枠組み
(1)EAOは1992年12月、欧州のオーデオ・ビジュアル分野の専門組織の33カ国からなる「Audiovisual Eureka」(筆者注6)、欧州評議会および欧州委員会(教育・文化事務総局)の共同的努力により本部をフランスのストラスブールとして設立した。その具体的な活動は、欧州評議会の業務とりわけ「メディア事業部(Media Division)」、「ユーリマージュ(Eurimages)」(筆者注7)に関するメデイア分野を支援する。

(2)会員資格は、欧州37カ国と欧州連合(欧州委員会が代表する)で、会員からの直接的な資金提供と一部商品やサービスの販売代金が資金源となる。

(3)EAOの運営は事務局長(Executive Director:現事務局長はWolfgang Closs(ヴォルフガング・クロス)が率いる。各メンバー国は総務会(Executive Council)に1名を代表として任命し、一般的に総務会はEAOの予算とプログラムの決定のため1年に2回開催する。総務会は事務局(Bureau)を選任する。事務局は管理委員会としてのEAOの会合の準備やEAOの活動内容につきモニタリングする。

(4)EAOの年間活動計画は欧州のオーデオビジュアル分野の専門機関の代表からなる「諮問委員会(Advisory Committee)」の勧告内容に基づき作成される。

(5)EAOの年間予算は、独立した「監査委員会(Audit Committee)」によりチェックされる。

(6)EAOサイトは、わが国ではオープンなものとしてはほとんど公になっていない。主要国の公共放送等に関する監視監督機関の現状についてはわが国では、総務省の「世界情報通信事情」ならびにドイツオーストリア等一部の国のみであるがNHKのサイトにも解説がある。

2.EAOの主要任務や具体的活動分野とその責任の範囲
(1)欧州におけるオーデオ・ビジュアル分野の情報の透明性の確保である。
(2)具体的な活動対象分野
 EAOは以下の4分野に関し、市場と統計、法律および制作や資金を中心に次の情報を提供する。

①映画分野(Film)
・Legal Information
・General Data
・Public Funding Mechanisms
・Feature Film Production
・映画配給や展示(Distribution/Exhibition)
・National Reports
②テレビ分野
・Legal Information
・General Data
・Digital TV
・TV Fiction
・Audience Measurement
・By country
③ビデオ/DVDおよびその拡張分野
・Legal Information
・Market Information
④ニューメディア
・Legal Information
・General Data

2.IRISの編集方針と内容
(1)毎回約30程度の短い記事であるが、加盟国およびEU全般における公共放送、映画、ビデオ・オンデマンド・サービスおよびIPTV(IP(Internet Protocol)を利用してデジタルテレビ放送を配信するサービスまたはその放送技術の総称)の分野における立法、裁判判決に関し起きていることを定期的かつ自由な視点から概観するものである。
 簡単に言うと、EUのすべての政策決定者決定者やオーディオ・ビジュアル分野の専門家にとって不可欠の発刊物であり、これら分野の情報の流通および透明性の改善を目的としてEUの”the European Audiovisual Observatory ”が作成するものである。

(2)IRISは定期的に通信部門と緊密に関係するテレビ、オンデマンド・サービス、映画部門の製作に関するテーマを取上げる。伝統的な法分野、競争、著作権、データ保護、犯罪および税法についてそれらがオーデオ・ビジュアル部門に関係する限りにおいて最新の開発動向につき電子ニュースとして取り上げるのものである。
法律関係の政策展開に関するものとして、IRISは情報の自由、メデイアの集中(Media concentration)(筆者注8)、メディアの多元性(media pluralism)、若者保護、自己および共同的規制に関する記事を含む。

3.“IRIS”編集上のガイドライン
 標題にかかわらずIRISの記事のコア部分は事実に基づきかつ明確な内容である。すなわち、大部分のレポートは新しい法律、判決または重要な行政決定に関するものである。
 また、IRISの記事は新しい立法が採択される前に予備的に行う政治的出来事やさらに国際協定、2国間条約、重要な運賃協定(tariff agreement)に言及する。法律文は、慎重に解析され文脈において簡潔に説明される。

4.EAOのオンラインデータ・サービス
 有料の「The Yearbook Online Premium Service」と無料の「IRIS電子版」がある(筆者がsubscribeしているのは後者である)。


(筆者注1) 2010年3月2日にドイツ連邦憲法裁判所(Bundesverfassungsgericht:Federal Constitution Court)は、法執行機関が活用できることを目的とする携帯電話や電子メール等の6か月間の通話記録の保持を定めた現行通信法( 「2004年通信法(Telekommunikationsgesetz vom 22.Juni 2004(BGBl.IS.1190)TKG)」につき、EU 指令(2006/24/EC)を受けて、2007年12月21日「通信の監視およびその他秘密裡捜査対策ならびに2006/24/EG指令の適用に関する法律」2条にもとづき新規定を追加した)の規定は連邦憲法に違反する可能性が高く大幅な修正を求める旨判示した。
 なお、この法律および憲法裁判所判決については、本ブログ(2010年12月20日「米国連邦控訴裁判所が裁判所の許可なくISPの保持するEメール・データの押収・捜索行為を違憲判断(その2完)」を参照。

(筆者注2) 立命館大学立命館大学政策科学部教授 安江則子氏「EU における視聴覚メディア政策と公共放送― 市場と文化の間で ―」において“European Audiovisual Observatory”につき次のとおり説明している。
「 なお、視聴覚メディアに関する機関としては、欧州審議会の設立したEAO(1992 年設立、European Audiovisual Observatory)がある。EAO は、欧州の視聴覚メディア産業に関する情報収集とその利用のための機関で、2010 年現在37 の国とEUが参加し、関連業界との緊密な連携のもとで会議を運営し各種報告書をまとめている。映画・TV・ビデオ・DVD・その他のニューメディアを対象とし、市場調査と統計、関係法令、制作と財務などの情報提供を行っている。」
 なお、ここで使われている「欧州審議会」とはわが国では一般的に「欧州評議会」と訳されている。
 わが国の外務省の説明およびEAOのサイト情報に基づき補足すると「1949年、人権、民主主義、法の支配という共通の価値の実現に向けた加盟国間の協調の拡大を目的としてフランスのストラスブールに設立。加盟国は47か国(EU全加盟国、南東欧諸国、ロシア、トルコ、NIS諸国の一部)、オブザーバー国は5か国(日本、米、加、メキシコ、バチカン)。
 伝統的に人権(欧州人権裁判所、欧州人権条約、子供の権利、死刑制度、拷問禁止(prevention of torture)、人種差別(racism)、ロマ民族と域内旅行者(roma and travellers )、同性愛嫌悪主義(homophobia))、法律(組織犯罪、国家汚職(group of sates against corruption)、サイバー犯罪、マネー・ロンダリング、個人情報保護、テロ、司法の効率化)、民主主義(ヴェニス委員会(筆者注3)、性の同等性、市民社会、選挙と民主主義)、社会(ヨーロッパ社会憲章(筆者注4)、体罰(corporal punishment)、身体障害者保護、移住、欧州社会開発銀行(Council of Europe Development Bank:CEB )、メデイアや通信(子供とインターネット、メデイアの自由化)、生命と健康(生命倫理(bioethics)、麻薬、欧州の医薬品業界、健康保護、文化と自然(映画やオーディオ・ビジュアル、欧州文化条約(筆者注5))知的および異教間対話、少数言語、生物種の多様性(biological diversity)、持続可能な発展、気候変動)、教育とスポーツ(市民権、校内暴力、スポーツ全般、ドーピング、スポーツにおける暴力)。各種条約策定(約200本)、専門家会合開催の他、国際問題などに関する勧告・決議採択、決議事項のモニタリングに取り組む。

(筆者注3)欧州評議会のヴェニス委員会は正式には「法による民主主義のための欧州委員会」(European Commission for Democracy through Law; La Commission européenne pour la démocratie par le droit)」である。その組織や目的等については、山田邦夫「欧州評議会ヴェニス委員会の憲法改革支援活動―立憲主義のヨーロッパ規準―」(レファレンス 2007年12月号45頁以下)が詳しい。

(筆者注4)ヨーロッパ社会憲章については、中野聡「欧州社会モデルの現在と未来」(豊橋創造大学紀要 第10号19頁以下)が詳しく解説している。

(筆者注5)欧州文化条約 (European Cultural Convention) は、1954 年 12 月 19 日にパリで調印され、これが今日まで続く文化・教育および青少年育成・スポーツ活動分野での国際協力の源となっている。

(筆者注6)わが国では、EUのユーレカ計画(Eureka Project)の全体については次のような説明があるが、“Audiovisual Eureka”プログラムについて説明したものはない。いずれにしても同プログラムは2003年6月30日に機能停止している。
 以下の説明のうちデータが古くまた正確さを欠く記述があるので、最新のデータにあわせ加筆した。
「ユーレカは、1985年、米SDI構想に対抗する研究開発奨励に向け、フランスの先導で欧州を中心に設立された国際組織であり、製品・サービスの技術革新を目指した汎欧州規模のプロジェクトを推進する企業、研究開発機関、大学等を支援することを通じて、欧州経済の競争力を高めることを目的としている。フランスは現在でも指導的立場におり、参加数・投資額でトップに立つ。
議長国(Chair)は1 年毎の輪番制で、2003 年7 月から2004 年6 月までフランスが務めた後、2004 年7 月から2005 年6 月までオランダが、2005 年7 月から2006 年6 月まではチェコが議長国の任に当たっている。
参加国は欧州地域の39か国と40番目としてEUである。」
 なお、ユーレカ・プロジェクトの成果についてはたとえば、「GSM方式携帯電話」、「ナビゲーションシステム」、「モバイルや電子商取引を支援するスマートカード」、「映画のための特殊効果用ソフトウェア」、「環境汚染のモニタリングや制限する最先端医療機器と技術」である、なお、ユーレカの組織全体や意思決定組織についてはユーレカ・プロジェクト・サイトで詳しく説明されており、ここでは略す。

(筆者注7)ユーリマージュ(Eurimages)の概要は次のとおりである。なお、以下の内容は、公益財団法人ユニジャパンのサイトから引用したが予算金額や加盟国数等については、ユーリマージュのサイトの最新数値に基づき修正した。
①運営行政区:欧州評議会(EC)
②予算:2,400万ユーロ
長編フィクション作品、ドキュメンタリー作品、アニメーション作品の共同製作や劇場のデジタル化、配給に対する文化支援。
「Eurimages」は、欧州映像作品の共同製作や配給、上映・放送を支援するため欧州評議会が設置したファンド。現在、本ファンドには35カ国が参与している。
1. 共同製作
予算:最大80万ユーロ
条件:
・国際共同製作契約の規定に準じる。
・プロデューサーが申請書を提出すること。
・本ファンド参与国から共同プロデューサーを2人以上立てること(同一国は不可)。
・共同製作の主出資国の最大出資割合は総予算の80%とする。
・共同製作の副出資国の最大出資割合は総予算の10%とする。
・二国間共同製作で予算が500万ユーロを超える場合、主出資国の最大出資割合は総予算の90%とする。
最大で総支出額の80%相当額(ただし、1万ユーロ以下)

(筆者注8) “media concentration”に関し、群馬大学社会情報学部研究論集第14巻155―174頁「2007アメリカ合衆国における2003年のメディア集中規制について― Prometheus Radio Project v. FCC が提起する問題を中心に―」160頁以下の「考察」は、わが国にとっての重要な課題を投げかけている。筆者が日頃関心を寄せている問題点に近いものであり、一部ここで抜粋・引用する。
「近時において、過去のどの時点にも増して、メディア集中規制についての議論がなされてきた背景には、1990年代中頃以降のインターネットの普及が存在する。それは、一般の個人にも、双方向性を有する「多対多」の通信を可能としてきた。FCC は、2003年のメディア集中規制において、インターネットを最も驚くべき通信の発展であると認識し、また、DI の算定の根拠の1つとして位置づけた。しかし、インターネットによって、莫大な数の情報源にアクセスが可能であるという前提は、過去において実現されてきたのと同様に、インターネットへのアクセスを提供するネットワークの保有者が、それに対する支配を有さないこと、換言すれば、当該ネットワークを経由して伝送されるコンテンツ等に対して影響力を行使しない状況が、規制的枠組み等によって実現される場合にのみ妥当性を有する。すなわち、メディアとしてのインターネットの存在によって担保されると主張される情報の「豊富さ」は、メディア産業における垂直的統合の可否、特にブロードバンドのインターネット・アクセス・サービスに対する規制のあり方とも密接に関係する。近時では、当該サービスを含むメディア産業における垂直的統合の可否及びそれに対する規制のあり方に対する検討も、活発に行われてきた。(以下略す)」

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2011年6月8日水曜日

米国の株価大暴落の背景にあるインサイダー取引事件や住宅ローン・バブル等の懸念材料



(本ブログは2007年3月12日に掲載(2回に分けて掲載)したものであるが、米国の証券投資に関する投資家保護や情報提供機関である全米証券業協会(NASD)が7月30日に金融取引業規制機構(FINRA)に改組されたことが反映されていないこと、また連載3回目は オーストリアにおけるインサイダー取引法の規制強化(公平性、効率に向けた)、および(3) 米国の住宅ローン・バブルの懸念と金融規制・監督の強化に向けたガイドライン(案)の公表の概要等を報告する予定が延期したままになっていることから今回改めて1回にまとめて書き直した。)

 2007年2月末から3月上旬に続く世界連鎖型株価低落については、テレビ等でいわゆる国際金融アナリストが勝手な根拠の薄い論説を縷々述べている。株価自体日々または一定の周期で高騰や低落を繰り返すものであり、本来の金融アナリストは世界経済または個別国の深部のある経済・金融の問題点をより分析し、十分な予見をもって指摘するのが本来の役目であろう。(筆者注1)

 同年3月1日に米国証券取引委員会(SEC:読み方は「エス・イー・シー」である。くれぐれも「セック」と呼ばないように。海外では誤解や恥をかく)、FBIおよびニューヨーク南部地区連邦地方検察庁当局(筆者注2)は、大規模なインサイダー取引きに関与したとしてUBS証券(UBS Securities LLC(筆者注3))の法人担当専務取締役・調査部門の幹部やベアーズ・スターンズ( Bear Starns & Co., Inc)の従業員兼ヘッジファンドの運用マネージャー、モルガン・スタンリー(Morgan Stanley & Co.,Inc)の担当弁護士夫婦2人、2人のブローカー兼ディーラー、ディ・トレーダー会社(筆者注4)、高額の違法利益を得た3ヘッジファンド等による1,500万ドル(約17億5,500円)以上に上る違法な利益を得たことを理由として14人(うちに3ヘッジファンド会社(法人)を含む)を逮捕、告訴した(筆者注5)。

 これらの犯人13人は刑事責任(criminal charge)および11人の個人と3法人は民事責任(civil charge)を問われることになったが、刑事責任容疑者のうち9人は逮捕され、また主犯格以外の4人は大陪審(grand jury)において証券詐欺罪(securities fraud)、証券詐欺にかかる共謀罪(conspiracy)および収賄罪(bribery)について有罪答弁(pleaded guilty)を行っている(筆者注6)。

 また、SECの訴状内容は監督権にもとづき、独自に①恒久的な差止請求(permanent injunctive relief)、②判決前の保持利益に関する不当利得返還請求(disgorgement of illicit profits with prejudgement interest)、③民事制裁金(civil money penalties )を求めている。筆者なりに今回の監督・司法当局がとった行動の背景にある事件の特徴(多くの容疑者がヘッジファンドのポートフォリオ・マネージャーであり、米国の連鎖的株価低落はこれらを放置(またはいたちごっこ)している米国の証券投資制度そのものの信頼性が問われている)とコンプライアンス強化等監督規制面からの問題点についても概観する。(筆者注7)

 なお、オーストラリアの財務省政務次官であるクリス・ピアス(Chris Pearce)は3月2日に「インサイダー取引に関する立場および諮問書(案)」に関するパブリック・コメントを6月2日を期限として求めている。世界の主要国の金融監督機関は証券取引の規制強化に向けて取組んでいる中、その法規制強化に向けた具体的内容の検討は、わが国でも業界関係者や司法関係者に重大な課題を投げかけているといえる。特に「2007年問題」は米国でも同様であり、1948年から1964年の17年間に生まれた約7,800万人のベビー・ブーマーは2008年以降毎年約400万人ずつ退職期に入る。年金や医療等の社会保障制度の大半が民間に委ねられている米国では老後のための貯蓄に関心が高く、また証券会社は従来の投資サービスから資産の活用、維持等を目指すラップ口座(投資一任勘定、分離管理口座)の残高を伸ばしている。今回の事件は、このような多大な顧客の信頼を失う事件としても注目すべきであろう(筆者注8)。


1.証券取引委員会等による大規模インサイダー犯罪告訴
(1)SEC等による捜査の結果判明した犯罪グループの存在
 今回の非公開情報にもとづくインサイダー取引の犯罪グループは2つに大別できる。容疑者によってはこの両者に関与している。
①UBS証券関連詐欺グループ(UBS scheme):2001年以降行われたもので、8人(うち1人は日本人(31歳)である)の証券投資プロ、3つのヘッジファンド、ディ・トレーダー会社1社、2ブローカー兼ディーラーによる数千の違法取引と1,400万ドルにのぼる違法利益容疑である。
②モルガン・スタンリー関連詐欺グループ(Morgan Stanley Scheme):数名の証券プロや企業買収に関する機密情報の漏洩を行った弁護士によるインサイダー取引である。60万ドルにのぼる違法利益容疑である。
主犯格のミシェル・グッテンバーグ(Mitchel S. Guttenberg 41歳:大証券会社であるUSBの株式調査部門の代表権を持つ役員兼登録代理人)は、共犯者たちとニューヨークの有名な牡蠣(かき)料理店で秘密の会合を続け、そのやり取りは使い捨て携帯電話、暗号、現金リベート(cash kickbacks)というものであった。

(2)SECの訴状における各容疑者の違法行為の概要

①ミシェル・グッテンバーグ(Mitchel S. Guttenberg 41歳)UBSが保有する非公開情報を機密裡に内報、株式取引きに違法な利益を得た。

②エリック・フランクリン(Erik R. Franklin 39歳)ベアー・スターンズの従業員でありかつ、Lyford CayおよびQ Capitalのヘッジファンドのポートフォリオ・マネージャー、Chelsey Capital ヘッジファンドのアナリストである。UBSおよびモルガンから非公開情報を入手、違法取引を行った。

③デビッド・タヴィ(David S. Tavdy 38歳)私設取引トレーダー(proprietary trader) (筆者注9)でありかつ登録代理人である。ディ・トレーダー会社であるジャスパー・キャピタルのトレーダーである。UBS詐欺に関与した。

④マーク・レノヴィッツ(Mark E. Lenowitz 43歳)Chelsey Capitalファンドのポートフォリオ・マネージャーでかつQ Capitalの有限責任パートナーである。UBS詐欺に関与した。

⑤ロバート・バブコック(Robert D. Babcock 33歳)サントラスト・キャピタル・マーケット社およびベアー・スターンズの登録代理人であり、またLyford Cay ヘッジファンドの共同事業者である。UBSおよびモルガン詐欺に関与した。

⑥アンドリュー・スレブニック(Andrew A. Srebnik 35歳)ジェフリーズ・アンドカンパニー社およびベアー・スターンズの登録代理人である。UBS詐欺に関与した。

⑦Ken Okada(岡田 謙? 31歳)キャセイ・フィナンシャル社およびベアー・スターンズの登録代理人である。UBSおよびモルガン詐欺に関与した。

⑧デビッド・グラス(David A. Glass 32歳)Jasper CapitalのオーナーでありかつAssent LLCの登録代理人である。UBS詐欺に関与した。

⑨ランディ・コラータ(Randi E. Collotta 30歳)弁護士であり、ガーデン・シティグループ社の証券運用部長である。またモルガンのグローバル法令遵守部門(global compliance department )の弁護士である。モルガンの機密情報を漏洩し違法な利益を得た。

⑩クリストファー・コラータ(Christfer K. Collotta 34歳)個人開業弁護士。妻であるランディから得た非公開情報にもとづき違法な利益を得た。

⑪マーク・ジュルマン(Marc R. Jurman 31歳)マリンズ・キャピタル LLCおよびファイナンス500社の支店の登録代理人である。モルガン詐欺に関与した。

⑫Q Capital Investment partners, LP

⑬DSJ International Resources Ltd.,

⑭Jasper capital LLC

(3)今回の大規模インサイダー取引犯罪の背景にある投資証券取引規制および投資一任勘定の規制強化
 米国におけるオープンエンド型投資信託(mutual fund)やヘッジファンドをめぐるトラブルは極めて多い。株式市場の不安定さによることも1つの原因といえようが、米国の連邦議会行政監査局(GAO) は、2004年1月27日付で「投資信託の受託手数料やその他の販売推進活動についてより一層の公平性・透明性」を求める報告書を連邦議会上院「国家財政管理、予算および国際証券取引に関する小委員会」あて提出している。

 SECや金融取引業規制機構(FINRA)(筆者注10)による厳しい規制監督や投資家保護に関する詳細な情報提供にもかかわらず、SECによる投資顧問会社(アドバーザー)やヘッジファンドの告訴があとを絶たない。ちなみにSECの法執行部(Division of Enforcement)サイトを見てみよう。SECの法執行行為は、①連邦裁判所への民事告訴(Federal Court Actions)、②行政手続(Administrative Proceedings)、③行政審判官による第一次審決(Administrative Law Judges Initial Decisions & Orders )、④委員会の意見(Commission Opinions)に区分されるが、連邦裁判所への民事訴追も本事件後だけでも13件起きている。 一方、FINRAのヘッジファンドに関する投資家向け情報(自信のある向きは投資に関する金融クイズ(18問)にチャレンジされたい)提供も継続的に行われている。
 SECサイトでは「あなたの投資資金を分散投資(Hedging Your Bets)―ヘッジファンドの有利な運用、ヘッジファンドのヘッジファンドとは―」(筆者注11)や2002年8月23日付の「ヘッジ・ファンズによるファンズ(Funds of Hedge Funds)-高い潜在的収益のための高いコストとリスク」を読んで欲しい。ヘッジファンド・マネージャーがいかに高度な?投資戦略と技術を用いているか、その違法すれすれの手法を紹介している。

(A)米国のおける投資家間の重要な企業情報へアクセスの公平性確保策(筆者注12)
 米国やわが国の企業において、投資家の信頼確保面の最大の問題は証券アナリストや機関投資家さらに個人投資家の間の情報格差の是正である。そのような点を背景として米国SECは2000年8月に「選択的情報開示およびインサイダー取引の規制に関する最終規則(Selective Disclosure and Insider Trading)」を採択、同年10月23日に施行した。
 本規則の主な狙いは、①発行者による未公開情報の選択的開示(レギュレーションFD(Fair Disclosure))、②インサイダー取引の責任問題は未公開情報のトレーダーの使用または意図的占有に基づく(同規則10b5-1)、③家族やその他ビジネス外の関係の基づくインサイダーにおける横領理論(misappropriation theory)(同規則10b5-2)の3つの問題に帰結するため、本規則は債券発行者による完全・公正な情報開示の徹底とインサイダー取引きに対する既存の禁止処分の一層の強化を図ったのである。
すなわち、SECは従来のインサイダー取引規制とは別に情報を保有しうる立場にある人間の選択的な情報開示自体を禁止することで、証券アナリストを通じた情報の漏洩の禁止策をとったのである。

 この開示義務が課されるのは、債券発行者(規則101条b項)および発行者に代って行動する発行者の上級幹部やIR担当役員やブローカー兼ディーラー、投資顧問業者、証券アナリスト等(規則101条c項)である。

 このような新たな観点からSEC規則を定めた背景には、企業の内部者が業務を通じて知りえた内部情報に基づいて証券売買を行った場合ならびに外部者がこれらの内部情報に基づいて売買を行った場合は当該内部者は共犯者として米国証券取引所法等に基づき罰せられる可能性が大であった。
しかし、近時の取引きの実際は、証券アナリストが顧客である機関投資家等に内部情報を提供し、これら情報に基づいて不当な売買行為が行われることが多くなってきた。

 これに関し、司法機関の解釈は「1934年証券取引所法」10条(b)項「SEC規則10b-5条」に関し限定的であり、例えば1983年の連邦最高裁判所判決(DIRKS v. SEC)は「証券アナリストがインサイダー取引きの共犯として処罰されるためには、①企業の内部者が個人的な利益を得るために証券アナリストに対し重要な情報を選択的に開示し、②その結果、企業に対する信認(fiduciary)義務」に違反した場合で、③情報を受け取ったアナリストもその義務違反の事実を知っていたかあるいは知るべきであった場合に限る」と判示している。 

(B)わが国の投資顧問業法にいう投資一任勘定(ラップ口座)に関する情報提供不足問題
 2003年10月に国民生活センターは「投資取引きにおける消費者向け情報に関する調査研究結果(英米日比較)」を公表している。前述のNASDのサイトも照会されているが、個人投資家が被害に会わないためのノウハウ提供が最も重要であろう。
 ちなみに、わが国の投資顧問業界の窓口である「投資顧問業協会」サイトで「投資一任勘定」見ると「お任せ」の一言である。これではまったく投資家保護にならない。一方、金融庁等のサイトも専門家向け以外の情報はない(2007年3月に金融庁は「ヘッジファンド調査(2006)の結果」を公表している。その中で米国でも問題となっている「ファンズ・オブ・ヘッジファンズ」おける運用手数料の二重徴収に言及している。それなりのパーフォーマンスを出すのであれば問題ないとする機関投資家も少なくないと述べているが、具体的な比率(20%プラス5%等)までは述べていない。個人投資家の場合はその評価は異なるはずである。そこが米国では問題になっているのである)。

(C)証券アナリストの利益相反行為と企業改革法( Sarbanes –Oxley Act of 2002 )の機能強化の必要性
 利益相反行為の制限・規制のポイントとなる点は証券アナリストによる利益相反行為である。大手証券会社は証券アナリストをかける市場リサーチ部門と投資銀部門が共存している。証券アナリストは大口顧客の証券会社に厳しい評価をつけづらく、その独立性の確保が課題となる。企業改革法501条(登録証券アナリストに関する利益相行為規制 15 U.S.C.§78o-6(a))では、この点について1934年証券取引所法の改正、新設(15D)が行われている。(筆者注13)

 すなわち、①投資銀行業務に従事するブローカーもしくはディーラーに雇われる者または投資リサーチに直接責任を負わない者は、法務または法令遵守部門を除きアナリストのリサーチ報告書を公表前に審査または承認することを制限される。②証券アナリストの監督または給与査定については、投資銀行業務に従事しないブローカーまたはディーラーにより雇われた職員が行わなければならない。③証券アナリストのリサーチ報告書がブローカーまたはディーラーの投資銀行取引に悪影響を及ぼしたとしても、アナリストに報復してはならない。④証券アナリストがリサーチ報告書の対象とする企業に対し、債券または株式を有しているか否か、リサーチ報告書で推薦の対象とされた企業が、その1年内にブローカーまたはディーラーの顧客であったか否かといった事実を、SEC 規則に従って開示しなければならない。


(筆者注1)本ブログを書いている間にも、わが国のインサイダー取引事件が発覚した。2007年3月9日に証券取引等監視委員会は総理大臣および金融庁に対し小松製作所に関する証券取引法175条7項、1項に基づく課徴金(4,378万円)の納付命令勧告を行った。

(筆者注2)マイケル・ガルシア・ニューヨーク南部地区連邦地方検察庁検事(MICHAEL J. GARCIA: United States Attorney for the Southern District of New York)の記者会見ビデオ(MSNBC)は、次のURLで見れる。この記者会見で同長官は後方に今回の容疑者の関係図を示しながら説明している。関係図は残念ながらこの画面でしか見れない。なおこのビデオの前に宣伝が入るが我慢して欲しい。http://www.msnbc.msn.com/id/17401254/

(筆者注3)平成18年5月に施行されたわが国の「新会社法」では有限会社が廃止され、新たに日本版LLC(合同会社:Limited Liability Company)制度が認められた。LLCの特徴は社員(出資者)が経営に参加しながら(人的会社)、会社の債務に対する責任は出資額が限度(有限責任)である点や内部組織や定款を自由に定めることができる。合同会社に関する規定は、合同会社固有のものとしてではなく、会社法上は「持分会社」というタイトルの下で、合名会社・合資会社と共通するものとして規定された。すなわち、合名会社・合資会社・合同会社の3種の会社は、その社員が有する会社に対する割合的地位のことを「持分」とし、内部関係において組合的規律がなされる点で共通する。そこで、会社法では、それら3種の会社をまとめて「持分会社」と称し(会社法575条1項)、会社法第三編で「持分会社」という独立の編を設けて規定がなされた。つまり、合名会社、合資会社および合同会社において、共通に適用すべき規律については、同一の規定が適用される(会社法575条~675条)。それらの会社形態のうち各会社のみに適用される内容については、特則という形で会社形態が明示されて規定される。

 なお、LLCに類似した経営形態にLLP(有限責任事業組合:Limited Liability Partnership)がある。LLPはLLCのように会社ではなく組合であり根拠法も「有限責任事業組合契約に関する法律」である。その最大の特徴は税金が組織に対して課されるのでなく出資者に対して課税される点である(構成員課税、出資者の事業所得との損益通算が可)

(筆者注4)被告David A. Glassはディ・トレーダー会社(Jasper Catital LLC)のオーナーである。会社の証券を1日のうちに売ったり買ったりして、目先の値ザヤ稼ぎをすることを「日計り商い」(day trading)というが、「ディ・トレーダー」とは、この日計り商いを行う投資家のことで、それら顧客向け商売にしているのが「ディ・トレーダー会社」ある。1990年代後半、アメリカではインターネットに開設された証券会社のホームページを通じて、低コストで取引をする個人投資家のディ・トレーダーが急増した。インターネットをはじめとするハイテクのおかげで、個人投資家がこの取引に参入しやすくなったが、損失を被る被害者も増加し、それが問題となっている。(スペースアルクより引用、一部変更)

(筆者注5)本事件についてワシントンポストやニューヨークタイムズ、フィナンシアルタイムズその他多くの世界のメディア(もとはAP、AFP通信等)が取り上げたのに拘らず、わが国のメディアでこの件を取り上げたのは朝日新聞(3月3日付)のみである。日頃海外情報に熱心な日本経済新聞といった専門紙はどうなったのか。

(筆者注6)これだけの大規模インサイダー事件となると裁判管轄も各州にまたがる。証券詐欺等容疑等に基づき最高25年の禁錮刑が科せられる主犯格のミシェル・グッテンバーグ(Michel S.Gutteberg )は無罪を主張しニューヨーク連邦地裁で50万ドルの保釈金、弁護士のランディ・コラータ(Randi Collotta)とクリス・コラータ(Chris Collotta)は無罪を主張し25万ドルの保釈金で釈放されている。デビッド・タヴィ(David S.Tavdy )はマイアミの連邦地裁に出廷予定とされている。エリック・R フランクリン(Erik R. Franklin )やその他の容疑者はいずれも釈放されている。

(筆者注7)米国の証券ブローカー・ディーラーの資格に関する登録制度等について簡単に見ておく。主たる証券取引の責任者は取引所法および全米証券業協会(NASD)規則に従いブローカー・ディーラーを運営する知識および経験を有していることについて、全米証券業協会の条件を満たす必要があり、また、SECに登録されているブローカー・ディーラーは、原則として取引を行っている証券の販売もしくは買付のための募集を行っている各州において登録を行わなければならない。さらに、各州や地域(provincial)の監督機関は、北米証券行政協会(North American Securities Administration Association:NASAA)のもとで一元的に管理され、証券取引業を営んでいるブローカー・ディーラーの従業員が、販売代理人として登録されることを要求するとともに、証券取引所法の15条(b)項に基づき登録され米国内で事業を行うブローカー・ディーラーは、証券投資家保護公社(Securities Investor Protection Corporation:SIPC)に加盟することが要求されている。

 SECは、証券関連法違反、とりわけ相場操縦、詐欺、マネー・ローンダリング、インサイダー取引、または横領を含む重大な違反がある場合には、ブローカー・ディーラーに対し、中止および停止命令または一時的ないし恒久的な差止命令の措置を取ることができる。また、SECからブローカー・ディーラーの監視権限の委託を受けている全米証券業協会(NASD)は、ブローカー・ディーラーが所定の資本要件を充足しなくなった場合や、全米証券業協会の規定に違反した場合、ブローカー・ディーラーの会員資格を取消すことができる。

(筆者注8)野村総研のレポート「変貌したアメリカのリテール証券市場(上)」(2005年11月)が参考になる。http://www.nri.co.jp/opinion/chitekishisan/2005/pdf/cs20051102.pdf

(筆者注9)取引所外で私設取引を行うトレーダーとは、クライアントを拠点とするビジネスに関して働くのではなく投資銀行の自己資金(自己勘定部門の資金)を運用するトレーダーのこと。そのようなトレーダーは、さまざまな資産における市場取引きにおいて、広範囲な戦略(技術的分析手法や統計的手法を含む)を利用する。なお、最近では、私設取引システム(Proprietary Trading System またはPTS)といった取引所外の新たな取引方法の導入等により、有価証券の売買の場が拡大してきている。

(筆者注10)全米証券業協会(National Association Of Securities Dealers:NASD)は2007年7月30日に新たに金融取引業規制機構(Financial Industry Regulatory Authority :FINRA)が発足した。この件については星野英二ブログ(2011年1月22日)(注4)で概要を説明しておいた。

(筆者注11)米国のヘッジファンド規制(設定、運用、販売)についての法制度面の解説はSECサイトより金融庁の解説(平成17年2月「ヘッジファンド調査の概要とヘッジファンドをめぐる論点」)の方が分かりやすいので以下引用する(SECの投資管理部サイトの最新情報を含め一部加筆、補足した)。以下の関係法の詳細を検索しようとするとSECサイトから「シンシナティ大学のサイト」に行き着く。米国らしい。

(1)ヘッジファンドの「設定」に関する法規制
 1934年証券取引所法(Securities Exchange Act of 1934)において、国法証券取引所上場会社のみならず、発行済証券の保有者が名簿上500人以上で、かつ100万ドル超の資産を有する証券発行者は、その発行する証券をSECに登録しなければならない。証券を登録した発行者には、継続開示義務(年次・四半期報告書等)、大量保有報告義務(5%超保有報告)および短期売買報告義務(10%超保有するファンド内部者の取引報告)が課せられている。なお、多くのヘッジファンドは、発行済証券の保有者が500人未満であることから、本登録を免除されている。
 また、1940年投資会社法(Investment Company Act of 1940)は、原則、すべての投資会社のSECへの登録、投資会社およびその関係者に対する行為規制、SECによる制裁等を規定している。ただし、証券の実質所有者が100人以下で、かつ公募を行っていない証券発行者は、本法上の投資会社とはみなされない。多くのヘッジファンドはこの規定により、SECによる規制が免除されている。なお、多くのヘッジファンドは、適格購入者を無制限に受け入れていることから、SECによる規制が免除されている。

(2) ヘッジファンドの「運用」に関する法規制
 SECは、2004年10月に1940年投資顧問法(Investment Advisors Act of 1940)を改正し、投資顧問の登録義務を強化する新ルールを追加するとともに、関連規則の一部改正を行った。本改正法は2005年2月10日に施行、登録義務の開始は2006年2月1日からとなっている。

A. 登録の対象
 米国に本部を置き、営業を行う投資顧問48のうち、①米国内に15人以上の顧客を有し、②2,500万ドル以上の資産運用を行う者は、投資顧問業者としてSECに登録する義務が生じる。米国に本部を置かないオフショア投資顧問も、米国に15人以上顧客を有する場合は、運用資産額に関係なくSECに登録する義務が生じる。なお、従前、直近12か月間の顧客が15人未満であることなど一定の要件を満たす投資顧問業者は、SECへの登録義務が免除されていたが、法改正により、顧客数の計算方法が変更となり、ヘッジファンドに投資している投資家の数も顧客の数に算入されることとなり、多くのヘッジファンドの投資顧問が規制の対象となった。

B. 開示義務
 投資顧問業者は、投資顧問業者登録様式により、ヘッジファンドの数・運用資産総額・従業員の数・顧客の種別等を含む情報をSECに登録しなければならない。また、登録された情報は投資家に開示される。投資顧問は、顧客利益に奉仕する旨書面で約し、その方針・手続に関する情報を顧客に開示する必要がある。また、業務方法・処分歴・財政状況等を含む書面の開示も必要となる。

C. 法令遵守(コンプライアンス)関連義務
 登録投資顧問業者は、SECによる定期的な検査や法令遵守に関する方針・手続を書面で採用し、毎年見直すとともに、それを管理する最高コンプライアンス責任者を任命しなければならない。また、職員の行動基準等を含む倫理規範を作成しなければならない。

D.その他の義務
 その他の義務として、成功報酬を徴収する投資家を、最低150万ドルの純資産か75万ドルの預入資産を有する者に限定、顧客資産の維持・管理、業務に関する帳簿・記録の5年間の保存が課される。

(3)ヘッジファンドの「販売」に関する法規制
 1933年証券法(Securities Act of 1933)は、原則すべての公募証券をSECに登録することおよび勧誘に当たり投資家に目論見書を交付すること等を義務付けている。
 ただし、これらの義務は、①私募の場合ならびに②適格投資家に対して募集を行う場合および③募集の額が少額である場合には適用除外となることから、多くのヘッジファンドは当該規定の適用を受けているようである。ただ、適格投資家への販売除外規定および少額免除を利用したヘッジファンドを投資家に勧誘する際には、新聞・雑誌・手紙・テレビ・ラジオ放送等を利用した不特定多数への勧誘が禁止されるほか、購入者が当該証券を転売しないよう、証券発行者は必要な措置を講じなければならない。

(筆者注12)SECの「公平情報開示およびインサイダー取引の規制に関する最終規則」についての解説は、一般的に読めるものとしては平松那須加「知的資産創造」2001年9月号24頁以下が上げられる。特に証券アナリストを介した内部情報の入手事件として有名な1983年7月1日連邦最高裁「DIRKS v. SEC事件(463 U.S.646)」におけるインサイダー取引規制(証券取引所法、SEC規則違反)の適用制約を回避することが同規則制定の背景にある点の解説が参考となろう。

 ただし、同稿は米国におけるインサイダー取引規制の経緯については十分言及していない。その点についてはやや古くなるが、1998年9月ケンブリッジ大学で開かれた第16回「国際経済犯罪シンポジューム」においてSECの法執行部次長トーマス・ニューキーク氏(Thomas C. Newkirk)が歴史的な流れについて分かりやすく解説している。また、同氏が言及している「EUにおけるインサイダー取引および市場操作に関するEU指令(2003/6/EC)」(2004年4月12施行、2004/72/EC指令で改正済)についてはEUの公式サイトで確認できる。
また、家田崇「アメリカ証券流通市場における選択的情報開示および内部者取引の新規則(1)(2)」(甲南大学会計大学院)もよりSEC規則の内容について詳しい。
http://www.nucba.ac.jp/cic/pdf/njeis462/03IEDA.PDF

(筆者注13)国立国会図書館「外国の立法215(2003.2)」88頁以下から 引用した。


〔参照URL〕
SEC: http://www.sec.gov/news/press/2007/2007-28.htm
ニューヨークタイムズ:http://www.nytimes.com/2007/03/02/business/02inside.1.html?ex=1330491600&en=b8f2c508e96155e3&ei=5088&partner=rssnyt&emc=rss
ワシントンポスト:http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/03/01/AR2007030100853.html
フィナンシャルタイムズ:
http://www.ft.com/cms/s/84f0e2ba-c81f-11db-b0dc-000b5df10621.html

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2011年3月9日水曜日

警察庁が死因究明・検視体制の強化策の検討動向とわが国のフォレンジック体制整備への取組み問題


 
 2月26日、筆者は英国法務省の検死官規則(Coroners Rules 1984)の一部改正の背景と司法改革の観点からみた意義について解説した。(筆者注1)
 また、FBIが現在稼動させている「統合自動指紋認証・検索システム(Integrated Automated Fingerprint Identification System:IAFIS)」の次期システムである「次世代生体認証システム(Next Generation Identification System:NGI」の構築計画の概要について、2007年12月27日の本ブログ(その1 ,その2 )で簡単に紹介した(“NGI”については3月8日、FBIは初期動作能力確認が成功した旨リリースしており、筆者は米国政府の本格的な生体認証データベース戦略につき別途取りまとめ中である)。

 今回のブログの執筆にあたり、わが国の警察庁関係の資料を読んでいたところ、2010年1月から検討を行っている警察庁「犯罪死の見逃し防止に資する死因究明制度の在り方に関する研究会」の検討資料の中で英国(イングランド&ウェールズ)の報告資料(4頁)での2009年「コロナー法改正」に関する解説が目にとまった。
 同研究会の検討状況についてはあまり知られていない問題であるが、「不審死」をめぐる問題意識が捜査・司法関係でも高まっていることは興味深い点であり、検討状況と課題につき概要をまとめた。

 一方、検視や死因究明問題と極めて深くかかわる法科学問題として「フォレンジック科学(Forensic Science)」への取組み問題がある。
 筆者は日頃から米国NIJ(連邦司法省・司法研究所)(筆者注2)(筆者注3)の“Forensic Sciences”、FBIの“Forensic Science Communications”、大学(米国マーシャル大学の“Marshall University Forensic Science Center”等)の発信情報にも目を通すことが多いが、わが国として本格的な研究をすべき時期はとっくに過ぎているように思える。

 今回のブログは、この問題についてはわが国としての取組み課題のみ整理する。


1.警察庁「犯罪死の見逃し防止に資する死因究明制度の在り方に関する研究会」の検討概要
(1)設置目的および今後の検討予定
 2010年7月に行った「研究会中間とりまとめ」から以下の点を抜粋する。なお、筆者として気になるのはこのような死因究明制度の整備について法医学や刑事法関係者等による検討は極めて望ましいことといえるが、(3)で述べるとおり、本来の研究成果や今後の実施線表が見えてこない研究は意味がない。まさに税金と時間の無駄である。

「犯罪死を見逃さない死因究明制度の確立を図るべく、中井洽国家公安委員会委員長の発案により、本年1月、警察庁に、法医学者、刑法学者等により構成する「犯罪死の見逃し防止に関する死因究明制度の在り方に関する研究会」が設置された。本研究会は平成22年度末に一定の結論を出すことを目指して議論を進めているが、凶悪犯罪の放置に直結する犯罪死の見逃しを防止するための施策を充実させることが喫緊の課題であるとの認識の下に、早急に対応策を講ずる必要がある事項については、可能な限り、平成23年度予算から着手することが望ましいと判断した。
 中間とりまとめは、このような判断に立って、関係当局における来年度予算の検討に資することを目的として、今後5年間を目途に、犯罪死の見逃し防止に資する死因究明制度を確立するに当たり必要となる施策や実現すべき目標値等についてこれまでの議論を整理したものであり、より具体的な内容や、その実現のための方法等については、現在行っている死因究明についての先進的な国々の制度についての実地調査の結果等も参考にしつつ、今後さらに議論を深めて、研究会としての結論を出すこととしている。(以下略す)」

(2)これまでの検討内容と海外の調査資料
第1回(2010年1月29日)
第2回(2010年2月19日)
第3回(2010年3月19日)海外調査対象国として、フィンランド、スェーデン、ドイツ、オーストラリア、英国を候補にあげた。
第4回(2010年4月16日)
第5回(2010年5月28日)フィンランドの報告
第6回(2010年7月2日)オーストラリア(ビクトリア州)の報告
第7回(2010年7月30日)英連邦(イングランドおよびウェールズ)およびドイツ(ハンブルク州)の報告中間取りまとめ
第8回(2010年9月16日)
第9回(2010年10月15日)スェーデン王国の報告)
第10回(2010年11月19日)今後の検討課題の整理
第11回(2010年12月17日)最終取りまとめに向けた論点整理
第12回(2011年1月28日)

(3)同研究会の審議経過や論点整理を読んでの感想
 第11回の議事要旨等を読んでみた。同研究会は初めから平成23年度予算の確保目的の研究会という側面が強いものであり、期待していなかったこともあるが、今後の課題を整理しただけで約1年間の研究成果というには程遠いと感じた。ここでは具体的な問題点の指摘は行わないが、今後の進むべき行程表(progress schedule)が見えてこない。研究会は専門家の勉強会や単なる意見交換会の場ではないはずである。

 事務局の体制(筆者注4)も含め、この程度の内容で本当に先進国並みの制度に生まれ変われるのか疑問が大である。

(4)いわゆる先進国の死因究明研究の実務や体制実態は本当に進んでいるのか
 各国の実態は、中間報告で指摘されている「実地調査」に基づき研究会で配布された資料程度のものであろうか。
 筆者の専門外のテーマではあるが、先進国として調査報告がなされているドイツやその他EU加盟国の情報等に基づき最近時に見た課題の要旨のみまとめておく。なお、不審死問題は薬物、アルコール等依存症、メンタルヘルス、児童虐待(child abuse)等とも極めて関係が深い問題である点を再認識した。
なお、オランダやアイルランドについては参照すべき論文のテーマとURLのみ記した。

①ドイツ
 「ドイツ医師会雑誌(国際版)(Deutsches Ärzteblatt International))の2010年8月の公表論文「死後の外表検案:死亡原因と死亡の種類の決定(The Post Mortem External Examination:Determination of the Cause and Manner of Death)」の内容を一部引用する。死亡原因の詳細な解析実施国の例としてその内容は参考となろう。

1)著者はボン大学付属病院・法医学研究所(Universitätsklinikum Bonn):医学博士 Burkhard Madea とケルン大学付属病院・法医学研究所(Universitätsklinikum Köln):医学博士 Markus Rothschild である。
2)検討の背景
 死後外表検案は医師が患者に出来る最後の医療サービスである。その目的は医学的な診断書の作成だけでなく、司法過程の公益に対し「事実」を提供することにある。主な任務は、死亡の厳密な確認、死亡原因の決定および死因の種類の調査である。

3)研究目標
①ドイツにおける死亡原因に関する基礎データに基づき、死亡認定における医学的な外表検案のコア項目を形成する。すなわち、死亡原因の決定と死因の種類の調査について正確に説明する。
②不審死についてどのように認定するかについて、具体的解決策を提供する。
③死亡証明の目的に関し医師の診断の法的要件および義務について説明する。

4)死亡統計により示された死亡原因
・2007年中にドイツ国内で報告された死亡件数は818,271件である。連邦政府統計局によるとうち784,962件は自然死であった。ドイツには全国ベースの死亡場所の統計はない。しかし、50%の死亡場所は病院(病院自身のデータによると)で、残り25%が自宅、残り約15%が介護施設(care home)である。残りの10%は移送中や労働災害である。

・2007年中の入院患者の入院数17,178.573件のうち6092,198件が内科で、2番目に多かったのが外科で3,592,386件であった。内科部門のうち、最も多いのは心臓病(cardiology)で続いて、胃腸系病(gastroenterology)、血液系病(hematology)、老人化病(geriatrics)の順である。死者総数818,271件のうち258,684件は心臓疾患で、最も共通的な原因は虚血性心疾患(ischemic heart disease)(148,641件)で、2番目に多かった原因は悪性新生物(malignant neoplasms)(211,765件)である。

・年齢別に見ると40歳以下において変死は病気による死亡内因より頻繁である。40歳以上についても悪性新生物疾患や虚血性心疾患による死亡は急増しない。

・これらのデータは、ドイツ連邦統計局は基礎疾患および死亡証明に基づく死亡証明書に基づきエントリーによるコード化したデータから導き出す。

・それとは対照的に、州(land)の統計局においては、基礎疾患を自動的に死因に結びつける統計を使用しない。すなわち、コード入力者は各死亡証明書の記載内容を検証し、基礎疾患の有無を決定し、ICD(疾病および関連保健問題の国際統計分類)規則に基づきその基礎疾患のコードを入力する。
 しかしながら、多様化する死亡原因過程を背景として、唯一死亡原因の表示において死亡原因統計のニーズや健康の指数から導き出すデータを部分的に充足するのみである。
(以下略す)

②オランダ
 1998年7月、オランダ・トリンボス・メンタルヘルス・依存症研究所:Trimbos Institute Netherlands Institute of Mental Health and Addiction
「REITOXサブ任務3.3に関する最終報告書で与えられた提案の実現の実行可能性調査―医薬関連の報告に関するデータの品質と比較可能性を向上させるためにー(Feasibility study of the implementation of the proposals given in the final report of REITOX sub-task 3.3 - to improve the quality and comparability of data on drug-related deaths―Final report―)」

③アイルランド
 「アイルランド・医学ジャーナル2011年1月(104巻1号)(Irish Medical Journal:January 2011 Volume 104 Number 1)
「法医学設定時の致命的な外傷性頭部外傷へのアルコールの貢献度問題(The Contribution of Alcohol to Fatal Traumatic Head Injuries in the Forensic Setting)」

④EUの法医学問題の公的専門機関
 EUの公的機関として、ドイツのケルンに本部を置く「欧州法医学評議会(European Council of Legal Medicine:ECLM)」が加盟国における法医学とりわけ「不審死」等に関する科学、教育および専門的な問題に取組むため重要な機能を担うと考える。
 設置準備途上ということもあり、各国の情報サイト内容も含めほとんど“under construction”な事項が多い。(筆者注5)

 ECLMのHPから、基本的な内容のみ紹介するにとどめる。
1)正式名称および登録場所
・EU加盟国の代表からなる評議会は、「欧州法医学評議会(以下“ECLM”という)」と称する。
・ドイツ連邦共和国のケルン(Cologne)を本部の登録場所とする。
2)設置目的およびその範囲
・“ECLM”は、EUにおける法医学に関する規律・統制を扱う公的機関とする。
・“ECLM”は、EU内における科学、教育および専門的な事項に関する規律規制機関とする。
・本規律・統制にかかわる専門家は、法システム(およびその専門的教育)の枠組内で不審死や身体への危害にかかる捜査(investigation)、その評価(evaluation)および解明(elucidation)についての高度な医学的能力を持つ者とみなす。
3)加盟資格
“ECLM”は、EU加盟国および欧州自由貿易連合(EFTA)加盟国の関係機関が指名した代表で構成され、そこでは法医学にかかる規律を完全に理解し、またそこではアカデミックな普遍性を構築し、かつ慎重な検討ののち対等な立場から意見を提供する。
・EU加盟国は前記1)につき最大3名を代表とできる。また希望する国については追加の代表の選任は出来るが、その場合は「オブザーバー」資格であり投票権は持たない。
4) “ECLM”には、執行委員会(Executive Board)を置く。
(以下略す)

2.わが国における「フォレンジック科学(Forensic Science)」に関する総括的な体制整備の重要性
 わが国の「フォレンジックス問題」は、「デジタル・フォレンジック」や「コンピュータ・フォレンジック」等ベンダー企業が都合が良い範囲で訳語を使い分けていることが混乱のもとになっていると思える。
 例えば、情報漏洩を中心としたセキュリティ・インシデント発生時、原因究明や再発防止策としてのデジタルデータに対する「フォレンジック調査」といったサイトがある現状を見ると本質的な整理が遅れているといえる。一般的にいえば確かにまだ定義自体が明確化されているとは言いがたいが「フォレンジック科学(Forensic Science)」という包括的な言葉で統一の上、内容整理を行うべきであると考える。

(1)“Forensic Science”の要素を細分化したらどのような分野に整理できるのか。
 あくまでドイツの影響を受けた医学分野から見た例示的な内容と思えるが、「名古屋市立大学大学院医学研究科」の整理内容を基に、以下の分類と英訳語をまとめてみた。
①法医学(Forensic Medicine):頻繁に使われる名称ではあるが、そのさし示す範囲は若干曖昧である。 一般的にはForensic Pathology,Forensic Toxicology、 および医療活動のmedico-legalな側面の三者を含むと考えられる。また、Forensic Sciencesの一分野として扱われることが多い。

②Forensic Pathology(法病理学):死体現象,損傷・窒息その他の外因死および内因死を扱う。 したがって米語では狭い意味での法医学にはこの語が用いられる。

③Forensic Toxicology(法中毒学):法的問題を有する事例から得られた試料の薬毒物分析・評価を行う。

④Forensic Genetics(法医遺伝学):従来は法医血清学と呼ばれ、血液型等の遺伝的多型による個人識別を目的としていた。また本邦ではドイツの影響や、国内の歴史的経緯から法医学の一主要分野を形成していた。その後1985年JeffreysによるDNAフィンガープリント法の開発や、1987年MullisらによるPCR法の発表を契機に、DNA多型が検査・研究対象の主流となり現在に至っている。

⑤Forensic Odontology, Forensic Dentistory(法歯学):歯科所見をもとに個人識別等を行うのが主たる目的である。 わが国では従来法医学の一分野とされていたが、近年は独立した分野を形成しつつある。またDNA多型も主要な研究領域となっている。

⑥Forensic Anthropology(法人類学):主たる対象は骨検査であり、歴史的試料も扱う。欧米では Physical Anthropology の一分野として位置づけられており、本邦においてもその傾向はある。この分野においてもDNA多型検出技術が導入されている。

 わが国の医科大学における法医学の系統講義の内容として扱われるのはおおむね上記の分野である。
同サイトでは、その他にこれに関する法医学分野として次のものが列記されている。
⑦Legal Medicine(法医学):この語は Forensic Medicineよりも広い意味で用いられる場合とMedical Jurisprudence (medico-legal aspects of medical practice)の意味で用いられる場合がある。本邦の法医学教室の英語名称はDepartment of Legal Medicineであるところが多いが、これは主としてドイツ法医学の影響によるものと考えられる。

⑧Forensic Entomology(法昆虫学):主に死体を蚕食する昆虫の生活環(life cycle)と死体昆虫相の遷移(succession)を指標として、死後経過時間の推定を行う。

(2) “Forensic Science”から見たその他の分野
あくまで筆者の個人的見解であり、詳細な内容は省略するが、犯罪捜査やサイバー犯罪捜査上で欠かせないもので広い意味から見た主要な分野をあげておく

①コンピュータ・フォレンジックス(Computer Forensics)およびデジタル・フォレンジックス(Digital Forensics)
②犯罪捜査学(Criminalistics)
③DNA鑑定とタイピング(DNAを元に遺伝子型を決定する手法)(DNA typing)
④指紋認証学(Fingerprints)

(3) “Forensic Science”の体系化
 前記の多様な分野について、その内容をいかように整理すべきか。前述した米国マーシャル大学はNIJの資金支援による研究の連携が顕著な大学であり、そのマスターコース用サイト(Master of Science Degree Program)では次の4つに取組み分野をカリキュラムとして整理している。捜査実務的な面等も踏まえており、参考になろう。

①DNA分析に関し司法関係者のための無料のフォレンジックス検査を提供している。そこでは性的暴行(sexual assault)、近親相姦(incest)、身体特性の識別(body identification)、殺人等の検査も支援する。
②フォレンジック化学(薬物分析、毒物、物証等)
③デジタル・フィレンジックス・
④犯罪現場の捜査(Examining the Scene of the crime)

(4)更なる検討課題
A.広く国民や関係者の関心を集める情報提供のあり方の研究の必要性
 例えば、米国は連邦ベースでDNAや指紋鑑定等の重要性に鑑みて、法執行者・捜査官、法科学者、裁判所事務官、鑑識管理者、研究者、政策立案者や議員、犠牲者擁護団体のメンバー等の参加を目的とする政策専門サイト“DNA initiative”を設置して、広く国民の関心を集めている。
 同イニシアティブの本来の目標とする点は、次のようにまとめられている。わが国でも共通的な課題の部分もあると考える。
①重大な暴行犯罪(レイプ、殺人や誘拐)や鑑定・検査を要する有罪判決を受けた罪人に関する分析が的確に行われていないDNAサンプルの現下の未処理分の削減
②DNA鑑定等に関し、時宜に合致した犯罪捜査研究機関の能力向上
③あらたなDNA技術の開発や全ての法科学分野の研究・開発の振興
④刑事司法専門家のために、より広範囲のDNA証拠に関する教育内容の開発や支援の提供
⑤公判で検証されなかった犯罪現場における有罪判決後におけるDNA検査へのアクセスを提供
⑥DNA法科学技術が行方不明者や人骨の識別問題を完全に解決するのに利用されることを保証
⑦無実の人の保護

B.同サイトでまとめられている米国連邦フォレンジック関係法とその目的について参考として列記しておく。
①「2004年万人のための司法手続法(Justice for All Act of 2004)」:犯罪被害者の権利を確立し、DNA 検査の充実を図るなど、刑事司法制度に関わる人の権利および保護を強化することを目的とする。(筆者注6)

②「2000年DNAサンプル未処理削減法(DNA Backlog Elimination Act of 2000)」:FBIの「統合DNAインデックス・システム(Combined DNA Index System:CODIS)」の利用に関し、各州に助成金を提供するとともに一定の暴力犯罪や性犯罪におけるDNAサンプルの収集や解析を提供する。

「1996年犯罪情報技術支援法(Crime Information technology Act of 1996)」:州際における刑事司法の同一性、情報、伝達およびフォレンジックスに関する改善施策を提供する。
「1994年DNA鑑定法(DNA Identification Act of 1994)」:DNA鑑定の品質保証を進めるため、解析研究機関への資金供与およびDNA記録やサンプルのインデックスの収集につき承認する。

3.認定研究機関や民間サービス・ベンダーのDNA鑑定の品質保証問題
(1)わが国の品質や基準問題
 わが国における「DNA型データベース・システムの問題点」に関し、2007年(平成19年)12月21日、日本弁護士連合会は「警察庁DNA型データベース・システムに関する意見書」を公開している。そこで指摘されており、米国のDNAデータベースの信頼性比較で重要と思った点は、「品質保証」(同意見書17頁以下)である。(筆者注7)

 法医学等関係者の報告内容で確認したが、わが国ではDNA鑑定の品質に関する法律はない。あえて言えば、1997年(平成9年)12月5日に日本DNA多型学会・DNA鑑定検討委員会が発表した「DNA鑑定についての指針」、1999年6月12日に 日本法医学会・親子鑑定についてのワーキンググループが発表した「親子鑑定についての指針」、2001年に文部科学省・厚生労働省・経済産業省がまとめた「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針(その後、3回改訂されている)」があるのみである。(千葉大学大学院医学研究院法医学教室サイト等から引用)(筆者注8)

(2)米国のDNA鑑定認定研究機関(DNA Testing Laboratory)の認定や格付け機関等による品質保証の取組み(筆者注9)
A.認定基準とその表示
 米国の場合、厳格な認定基準がある。民間ベンダーの例として米国“DNA Diagnostics Center:DDC”サイトで見る具体的な認定(Accreditations)基準のクリアー状況を確認してほしい。

B.「DNA諮問委員会(DAB)」、「米国AABB」(筆者注10)および「米国病理学会(CAP)」等の認定基準策定や格付け
 米国におけるDNA鑑定研究機関における品質保証の査定基準等について、歴史的な経緯を概観しながら振り返る。(2005年2・3月発刊“Forensic Magazine”第2巻第2号「DNA研究室のための品質保証文書の進化」および同誌2007年4月「フォレンジックDNA研究室の進化と直面する課題」から抜粋、引用した。このマガジン・サイトは専門的でありかつ良く整理されている。)

 1988年、FBIはバージニア州カンチコ(Quantico)のFBIにDNA分析手法に関する技術作業グループ(Technical Working Group on DNA Analysis Methodes:TWGDAM)を設置した。DNA検査に関する品質保証ガイドラインWGDAMの成功は、DNA鑑定に水準を引上げただけでなく、すべてのフォレンジックの規律の水準を引上げた。その技術が成熟した時点で“SWGDAM”または“Scientific Working Group on DNA Analysis Methods”という名称に改められ、その包括名称は“Scientific Working Group:SWG”となった。
 これを受けて、フォレンジックの規律につき科学的な基準の改善を行うため特定の分野ごとに品質保証の必要性の記述と最善の実践内容(bestpractices)に関するガイドラインを詳述するため、次のとおり新たなグループが設置された。FBIの解説では、現時点で20のワーキング・グループがある。うち主要なものをあげる。
①SWGDAM:DNA Analysis Methods
②SWGDE:Digital Evidence(www.swgde.org)
③SWGDQC:Questioned Documents
④SWGDRUG:Analysis of Seized Drugs(www.swgdrug org)
⑤SWGFST:Latent Fingerprints
⑥SWGGUN:Firearms and Toolmarks(www.swggun.org)
⑦SWGIBRA:Illicit Business Records
⑧SWGIT:Imaging Technologies(www.swgit.org)
⑨SWGMAT:Materials Analysis(www.swgmat.org)
⑩SWGSTAIN:Bloodstain Pattern Analysis(www.swgstain.org)
⑪SWGDOG:Dog and Orthogonal Detector Guideline(www.swgdog.org)

 1995年、DNA諮問委員会(DAB)が「1994年DNA鑑定法」のもとでの議会の命令に基づき、FBIによる明確に分離した形で設置された。
 同委員会の当初の目標は基礎的な検査の実現可能性への勧告を行うとともにDNA鑑定認定研究室の品質基準およびDNA有罪犯罪者データベースの構築であった。
 TWGDAMおよびSWGDAMのガイドラインや各種フォレンジックや規格設定機関の情報を使用して、DABはFBI長官宛「フォレンジック鑑定研究室の品質保証基準」を提示した。これらの基準は1998年7月15日に承認され、1998年10月1日に施行された。

 前記基準においてDNA鑑定認定研究室は試験活動にとって適切な文書化された品質保証システムの構築が義務化され「本質保証マニュアル」は最低限、次の記述が義務付けられた。
(a)達成目標、(b)組織および管理、(c)人的な資格認定、(d)施設、(e)証拠の統制(evidence control)、(f)検証(validation)、(g)分析手順(analytical procedures)、(h)検定(calibration)およびその維持(maintenance)、(i)習熟度試験(proficiency testing)、(j)修正措置(corrective action)、(k)報告、(l)再点検(review)、(m)安全性、(n)監査(audits)

C.品質保証基準
①「1994年DNA鑑定法」に基づき「DNA諮問委員会(DNA Advisory Board:DAB )」は、1998年10月に「犯罪DNAテストを行う研究室の品質保証基準(Quality Assurance Standards for Forensic DNA Testing Laboratories:Forensic Standards)」、1999年4月に「犯罪者DNAデータベース化を行う研究室の品質保証基準(Quality Assurance Standards for Convicted Offender DNA Databasing Laboratories :Offender Standards)」を策定、公開した。
 この2つの品質保証基準についてはFBI長官に、2000年7月に報告が行われた。


②「犯罪DNAテストを行う研究室の品質保証基準」等の改定
 FBI長官は2009年に「統合DNA インデックス・システム(Combined DNA Index System:CODIS)」に参加するための最小基準の改定を行った。なお、“CODIS”は、1990年に14の州及び地方の犯罪研究所によるパイロット・プロジェクトとして運用が開始されたシステムであり、「地方DNAインデックス・システム(Local DNA Index System:LDIS)」、「州DNA インデックス・システム(State DNA Index System:SDIS)」および「全米DNA インデックス・システム(National DNA Index System:NDIS)」の三層の階層から構成されている。

 「犯罪DNAテストを行う研究室の品質保証基準」および「DNA データベース研究室の品質基準(QUALITY ASSURANCE STANDARDS FOR DNA DATABASING LABORATORIES)」の改定を行い、これら改定基準は2009年7月1日施行された。

C.ISO 17025など国際基準への対応
 DNA鑑定認定研究室などDNA鑑定をビジネスとする研究所等は米国の基準のみでなく、国際基準である“ISO 17025”(ISOのHP でアクセスできるが具体的な規格内容は有料である)をクリアーしなければならない。

(3)EUの「欧州フォレンジック科学ネットワーク研究所(European Network Forensic Science Institute:ENFSI)」におけるDNA鑑定の国際フォレンジック鑑定評価基準認定
 わが国では一部専門家でしか報じられていないようであるが、FBI以外のフォレンジック法科学の先進的研究ネットワークとして紹介すべきは「欧州フォレンジック科学ネットワーク研究所(European Network Forensic Science Institute:ENFSI)」であろう。(筆者注11)


(筆者注1)筆者自身ブログ原稿を書きながら「検死」に関する法概念を整理してみたが無理であった。とりあえずWikipediaの「検死」説明から引用する。
「検死(Autopsy))は、死体を検分すること。日本では「検死」という法律用語は無いので明確な定義はない。一般に以下の3つの概念を包括した用語。
①検視(External examination on Forensic autopsy)
検察官またはその代理人として検察事務官や司法警察員(検視官)が、異状死体に対し犯罪性の有無を捜査する作業を指す。刑事訴訟法第229条に基づいて実施される。この時、解剖はせず、視覚、触覚、嗅覚を使い、着衣や所持品を調査し判断する。
②検案(External examination on Clinical autopsy)
医師が死体に対し、臨床的に死因を究明する作業を示す。医師法第19条に基づいてこれにより死体検案書を交付する。犯罪性の有無に関わらず、外傷性なのか、病死なのか死因を医学的臨床的に評価することである。画像検査・血液検査等も含めて臨床的に判断する。
③解剖(Internal examination on autopsy)
医師・歯科医師等が死因究明のために解剖を施行して死因を特定する作業を示す。日本の法律上では司法解剖・行政解剖・病理解剖と分類される。刑事訴訟法第168条に基づいて司法解剖が、死体解剖保存法第8条に基づいて行政解剖が、死体解剖保存法に基づいて病理解剖が行われる。

(筆者2)このブログ原稿を執筆している間にも、NIJから同研究所がスポンサーとなるフロリダ国際大学(Florida International University)で2011年4月、5月、7月、12月にわたり開催する「研究ワークショップ」の案内が届いた(参加は無料である)。
 今回の一連の研究テーマは、「犯罪現場の担当者向け有益な微物証拠分析(Instrumental Trace Evidence Analysis)」分野に関する実践教育と説明されている。参考までに、NIJがスポンサーとなる「フォレンジックに関する教育プログラムの主要分野」を列記しておく。

①法廷でのプレゼンテーション手法と法廷官吏への対応
②犯罪現場の調査(Crime scene investigation)
③爆発物(Explosive)および「化学・生物・放射性物質・核兵器(CBRN)」への対応
④指紋採取や保存
⑤火器の検査
⑥フォレンジックDNA/生物学
⑦痕跡証拠(Impression Evidence)*
⑧フォレンジック研究室の管理と経営
⑨法医学的死亡検査(Medicolegal death investigation)
⑩顕微鏡検査(Microscopy)
⑪質問書面類
⑫毒物(Toxicology)および規制物質検査
⑬微物証拠(Trace Evidence)*

 なお、*「痕跡証拠」とは、犯人が犯罪現場に残す、あるいは犯罪現場から持ち帰る物的証拠のうち、ある物体がその他の物体と接触することにより、接触された物体に残される形状が解析対象となる証拠物。痕跡証拠は、その痕跡の元になった「ある物体」が何であるかを明らかにすることを目標に鑑定が行われる。痕跡証拠には、指紋、発射痕、工具痕、歯型(バイトマーク)、足跡、タイヤ痕、血痕飛沫パターン、筆跡等が含まれる
 また、*「微物証拠」とは、犯人が犯罪現場に残す、あるいは犯罪現場から持ち帰る物的証拠のうち、残存物そのものが解析対象となるものをいう。それらの多くが微細物であることから、微物証拠と呼ばれるが) 微物証拠には、毒物、塗膜片、ガラス片、土壌、花粉、種子、麻薬・覚せい剤、血液、体液、唾液、毛髪、油類などがある。微物証拠の鑑定では、分析機械の精度や分析法によって結果が変化することはあっても、同種の機械や分析法を用いた場合には、同一の結論が導かれることが期待される。
( 「工具痕鑑定用語集」から抜粋した)。

(筆者注3)3月9日、筆者に連邦司法省司法研究所(NIJ)から届いたメールで、定期的に発刊している雑誌「NIJ Journal No. 267, Winter 2010」が発刊された旨が記されていた。雑誌そのものは後日手元に郵送されてくるのであるが、とりあえず内容を確認したところ、今回のブログに関係する小論文があったのでその概要を紹介する。米国における死因調査の課題がまとめられている。

①表題「死亡原因調査につき監察医と検死官に分断化されている現状改善に向けた課題(Improving Forensic Death Investigation)」
②この問題については、米国では2009年8月に米国科学アカデミー(National Academy of Sciences :NAS)がまとめた「米国における法科学の強化に向けた政策方針(Strengthening Forensic Science in the United States:A Path Forward)」が米国の死因調査の監察医(medical examiner)と検死官(coroners)のパッチワーク作業による「分断化」「不十分さ」ならびに「寄せ集め」が原因で、その調査の標準化を難しくしている点を指摘した。
 また、この問題は2010年6月7日~9日にNIJと全米法科学センター(National Center for Forensic Science:NCFS)の共催で開催された「フォレンジック死因調査シンポジューム(Forensic Death Investigation Symposium)」でジョージア州捜査局沿岸部地方監察医であるアッショウ・ダウンズ(Upshaw Downs)氏も多くの点で共通の問題があると指摘した。
 NAS報告の特に第9章「監察医と検死官のシステム統合化:現状と今後の必要性」はメディアの関心を集めたが、結果的にはその調査結果は目新しいものはなかった。このため、前記シンポジュームが開催され、検死官、監察医、法病理学者(forensic pathologists)、検視官(death investigators)、法執行官等が集まり、①法的ならびに倫理面からの問題、②教育・トレーニングおよび認証プログラム、③技術、および④死因調査に関する今後の研究領域等の分野の情報の緊密化に取組んだ。

④NAS報告第9章において最も多くの論議を呼んだのは「検死官システムの排除」である。
(以下、省略する)


(筆者注4) 公的検討研究会でありながら、資料面や審議内容が具体的に見えてこない。中間取りまとめ資料はPDF化されていないし、海外の先進国の報告資料の内容も具体的な制度改革のための参考とするには情報不足である。
 この程度のものであれば、 「山口大学医学部法医学教室」「日本の検視・司法解剖の問題を斬る!」等と大差がない。

(筆者注5)“ECLM”のサイトでは一部の国の情報のみは閲覧が可能となっている。ドイツやノルウェー2/27(24)である。特にノルウェーはEU加盟国ではないがEEA(欧州経済領域)の国として参加しており、現時点では最も詳しい法医学の研究体制に関する解説を行っている。

(筆者注6)国立国会図書館 中川かおり「2004年万人のための司法手続法―犯罪被害者の権利を確立し、DNA 検査の充実を図るための米国の法律―」が詳しく解説している。

(筆者注7)「(1) 現在, 日本の警察においては、第三者機関によるDNA 型鑑定の品質保証がなされていない。しかしながら、品質保証は、DNA型鑑定の信頼性を保つ上で不可欠であり、米国及び欧州では,このような方策が採られている。
ア まず、米国においては、1994(平成6)年に米国DNA鑑定法(DNA Identification Act of 1994)が可決され、連邦捜査局(FBI)長官は、DNA品質保証の方法に関する諮問委員会を任命しなければならないとされ、諮問委員会は、品質保証の基準(DNAの分析を必要とする際の犯罪科学研究所や分析官の技術・技能検定の基準も含む)を作成し、必要に応じて定期的に改正し、勧告を行わなければならないとされている。
そして、同法により設置されたDNA諮問委員会は、1998(平成10)年に「犯罪DNA テストを行う研究室の品質保証基準、1999(平成11)年に「犯罪者DNAデータベース化を行う研究室の品質保証基準」を設けている。
 また、FBI長官は、勧告された基準を考慮した後、品質保証の基準(DNAの分析を実施する際の犯罪科学研究所や分析官の技術・技能検定の基準も含む)を発しなければならないとされている。
 その結果、米国では、これらの基準を守ることが、DNA鑑定の法廷での信頼性の前提とされている。」

(筆者注8)海外の動向も含めDNA鑑定そのものについては、国立国会図書館レファレンス(2006年1月号) 岡田 薫「DNA 型鑑定による個人識別の歴史・現状・課題」、またDNA鑑定の証拠性の法的考察に関しては、一橋法学第1巻第3号(2002年11月) 徳永 光「DNA証拠の許容性―Daubert判決の解釈とその適用―」等参照。

(筆者注9)米国におけるDNA鑑定の品質保証基準問題を含む“Forensics”全般にわたる専門的な解説が充実している雑誌として“Forensic Magazine”を推奨する。同サイトは、多様な分野につき実務面から整理する上でも参考になり、今回のブログの執筆にあたり基礎的な解説を参照させてもらった。“e-Newsletters”も無料で読める。

(筆者注10) “AABB”の名称は、1947年に設置された当時の名称「米国血液銀行協会(America Association of Blood Banks:AABB)」を続いて使用してきていたが、その機能の多様化などもあり2005年に改称問題を議論した。しかし、歴史的な意義や知名度から従来の名称である“AABB”を引き継いだ。ただし、サイトでも表示されているとおり、キャッチフレーズは「世界的な輸血と細胞療法の推進(Advancing Transfusion and Cellular Worldwide)」で統一した。
 “AABB”は、輸血学(transfusion medicine)と細胞療法分野にかかわる個人および機関を代表するNPO団体である。患者やドナーのケアや安全性を最適化する目的で、基準の策定、認定および教育プログラムの開発ならびに提供を行う。世界中の80カ国以上、会員は約2,000の団体と約8,000人の個人会員からなり、医師、看護師、科学者、研究者、行政官、医療技術者および健康管理サービス業者等から構成されている。

(筆者注11) 「欧州フォレンジック科学ネットワーク研究所(European Network Forensic Science Institute:ENFSI)」については、そのワーキング作業部会についての解説を含め、科学警察研究所「法科学技術、13(1),2008年」5頁:勝又義直「裁判所における科学鑑定の評価について」が紹介している。


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2011年3月5日土曜日



 3月1日、米国連邦最高裁判所(U.S.Supreme Court)は、 「連邦通信委員会(FCC)」と「AT & T Inc.」の間で争われていた「連邦情報公開法(Freedom of Information Act:FOIA)」7(C)条(筆者注1)にいう「personal privacy exemption」の解釈につき、裁判官の全員一致(8-0)で法人には適用しない旨の解釈判決を下した。(事件番号:No. 09-1279 )

 筆者が、この判決を初めに知ったのは連邦司法省・情報政策局(Office of Information Policy:OIP)からの「FOIA速報(FOIA Post)」であった。(筆者注2)

 この裁判は連邦控訴裁判所という下級審判決に対する政府の最高裁への裁量上訴という事件で、その統一的解釈や判断が強く求められていたこと、さらに米国の主要プライバシー擁護団体(筆者注3)やメディア、言論の自由擁護団体等から「法廷の友(Amicus Curiae)」が出されるなど話題の多かった裁判でもある。

 今回のブログは、(1)同裁判の経緯や主な争点を整理、(2)プライバシー擁護団体など第三者による専門的意見である“Amicus Curiae”の内容、(3)この問題を迅速に報じた連邦最高裁(筆者注4)やOIPの背景にあるオバマ政権の電子政府の中核となる「オープン・ガバメント政策」の意義や連邦政府のCIO等IT強化体制そのものについて解説を行うものである。


1.「FCC対AT & T Inc.」裁判と今回の最高裁判決の要旨
(1)FCCの&T社の告訴、裁判の経緯、争点と判決の要旨(筆者注5)
 コーネル大学ロースクールの解説では第3巡回区控訴裁判所判決等にもとづき事実関係を説明している。以下、要約する。

[事実関係]
 “FOIA”は、連邦機関は一部適用除外の場合を除き、開示要求者に対し保有する記録を開示しなければならない。この開示を拒否したときは要求者は連邦地方裁判所に告訴することが出来ると定める。
 本件において問題となった同法が定める開示の例外の場合とは、次の3つの場合である。

①連邦機関は、特権的または機密性の高い企業機密および1個人から入手した商業営利または金融取引情報(例外規定§552(b)(4))
②個人のプライバシーへの不当な侵害(unwarranted invasion)を構成するであろう個人的かつ医療情報ファイルおよび類似のファイル(例外規定§552(b)(6))
③個人のプライバシーへの不当な侵害(unwarranted invasion)を構成するであろう法執行目的で収集した記録または情報でその収集した範囲内のみのもの(例外規定§552(b)(7)(C))

 米国の第2位の携帯電話事業者であるAT&T社はFCC(筆者注6)の連邦による費用の還付と引き換えに小学校や中学校への通信機器やサービスの提供を行う「米国民ブロードバンド普及プログラム(E-rate Program)」(筆者注7)に参加した。
 AT&T社はE-rate規則に違反したことをFCCに通知したが、結果的に政府は同社に払いすぎていたことになった。FCCの法執行局(Enforcement Bureau)は調査を行い、AT&T社が応じた範囲で情報の提出を求めた。最終的にAT&T社は50万ドルの支払に合意した。

 一方、競合相手である通信サービス業者の非営利団体である“COMPTEL” はFCCに対し調査の内容としてAT&T社から入手した情報および「E-rate Program」に関する情報の開示を要求した。2005年8月、FCCは一部開示は承諾したが、一部についはもし開示するとFOIA§552(b)(4)に該当するまたはAT&T社にとって競争力への侵害を引き起こすという理由により開示を拒否した。
 価格情報に加え、AT&T社の従業員や顧客を特定する情報の開示は、FOIA§552(b)(7)(C)に該当すると言うものであった。
 FCCはその他の調査から得られた請求書や電子メールを含む全記録を開示することとし、AT&T社が主張した「自社のプライバシー権」の基づく例外規定の適用を拒否した。
 このFCCの決定に対するAT&T社からの行政不服審査請求(administrative appeal)に対し、FCCは“personal privacy rights”を有する「corporate citizen(社会の一員としての企業の責任や義務)」の主張を退けた。

 AT&T社はこの問題の解決につき第3巡回区控訴裁判所にFOIA§552(b)(7)(C)には法人を含むという解釈の見直しを求めた。同裁判所はFCCへの差し戻し再手続命令(remanding)にあたり、個人の場合と同様に法執行による法人に対する不面目(public embarrassment)、ハラスメントや恥辱(stigma)がありうると判示した。

 2010年9月28日、連邦最高裁は訟務長官の裁量上訴(certiorari)を認め、法人がFOIA§552(b)(7)(C)の適用を受けられるか否かの判断を行うこととした。

 最高裁のジョン・ロバーツ(John Roberts)裁判長は判決文において以下の解釈を下した。(エリーナ・ケーガン(Elina Kagan)判事は訟務長官(solicitor general)として本件の最高裁への裁量上訴(certiorari)を申請しているため口頭弁論や裁決には参加せず。)(筆者注8)

 「形容詞は通常はかかる名詞の意味を反映するが、それは常にではない。時としてそれらは自身の異なる意味を帯びる。・・・通常我々は、法人(corporations)や法主体(artificial entities)(筆者注9)について言及するときに「個性(personal characteristics)」、「身の回り品(personal effects)」、「私信(personal correspondence)」、「個人的影響(personal influences)」や「個人的な悲しみ(personal tragedy)」という言葉を口にしない。
 これは、法人が個人的な手紙、影響、悲しみを持つことはなく、そのことを表すために“personal”という言葉を使わないからである。
 我々は、FOIAの目的の意味からして法人を含むという理由で適用除外規定である7(C)条を法人に適用する主張は組しない。
 すなわち、個人のプライバシーへの不当な侵害(unwarranted invasion)を構成するという理由に基づく法執行情報の開示要求に対するFOIAによる保護は、法人までは拡大しない。」
 また、同裁判所は、FOIAの「個人およびその医療ファイル(persona and medical files)」という言葉についても法人には適用しない旨明示した。

 なお、最高裁は判決文中、1974年にFOIA改正時に司法長官が「メモ(Department of Justice’s Attorney General’s Memorandum on the 1974 Amemdments to the FOIA)」において「7(C)例外規定は、法人およびその他の法主体に適用できるとは思えない」ことを引用している。

(2)最高裁は、2010年1月19日に口頭弁論(oral arguments)を行い、メリット・ブリーフ(筆者注10)や“Amicus Curiae”についての論議が行われた。口頭弁論の内容の詳細についてはコーネル大学ロースクール(筆者注4)やピッツバーグ大学ロースクールのサイト「JURIST」が詳しく報じているので略す。

2.連邦最高裁における業界団体やプライバシー擁護団体ならびにメディア等の法廷意見(Merit Brief)や「法廷の友(Amicus Curiae)」の主な内容

(1)“COMPTEL”の主張(本裁判につき米国法曹協会(ABA)サイトがまとめた“Merit Brief”33-34頁参照)
 連邦議会はFOIAの制定目的は市民(citizenry)が適切に情報を得て政府機関の活動をチェックするというものであり、また法人につきプライバシー権に基づく開示の例外を与えることはこの法の制定目的を害すると強く主張した。

(2)“Reporters Committee for Freedom of the Pres”や報道機関22社の主張
 法人につきプライバシー権を与えることは国民への危険な安全情報記録や企業の公衆衛生義務違反など重要な法人の情報を求めるジャーナリストやニュース・メディアの番犬機能を阻害する。(ABAがまとめた“Amicus briefs”“Merit Brief”18頁参照)

(3) “Citizens for Responsibility and Ethics in Washigton”の主張
 我々やメディアの任務の目標は、BP社の原油流出事故のように健康への危機と環境被害への対応に関する政府の対応についてひろく国民に情報提供することにある。仮に法人の開示の例外を許すならこのような情報への我々のアクセスは極めて制限される。(ABAがまとめた“Amicus briefs”“Merit Brief”16-17頁参照)

(4)前記の意見に対し、AT&T社や米国商工会議所(United State Chamber of Commerce)は次のような反論を提出した。

 FOIA§552(b)(7)(C)の例外規定の制定目的は、法執行機関により重大な結果をもたらす個人や法人を保護することであり、企業のプライベートな情報を競争相手を含む公衆に情報開示することは、この目的を弱体化する。(Brief of Respondent 43頁参照)
 さらに、開示が要求された情報について合法的な公益が存するときは、政府は公益が企業のプライバシー権を上回ると判断するなど公平な考慮を優先させるのであり、報道機関の番犬機能は侵害されない。(Brief of Respondent 45頁参照)
 反対に、AT&T社としては法人に“personal privacy”の権利を認めないことはそれらの情報への経済や産業界の競争者の自動的なアクセスを認めることなり、競争力を傷つけると主張した。(Brief of Respondent 43頁参照)
 また、競争的な「個人」情報の開示に直面した法人は法執行機関の調査の真っ最中においてお互いに自発的な協力を躊躇する可能性についても主張した。(Brief of Respondent 43頁参照)

 一方、米国商工会議所(Unites States Chamber of Commerce:Chamber)はAT&T社の主張を擁護すべく次のような“Amicus Curiae”(23頁)を述べた。
 この例外が否定されると法人の法執行機関の調査への法遵守に水を差すと述べ、さらにAT&T社がFCCに対し自主的に法違反の事実を報告した点に注目し、企業機密が漏洩する惧れがあるとなるとこれらの対応についても法人は不承不承となることを指摘した。
 また、中小企業の場合、所有者の“personal privacy”が法人との重なる面が多いため特定の被害が発生する点も指摘した。

3.オバマ政権の電子政府の中核となる「オープン・ガバメント政策」の意義や連邦政府のCIO等IT強化体制の実態
 前政権であるブッシュ政権の電子政府政策の目玉は2002年成立した「電子政府法(E-Government Act of 2002)( Public Law 107–347)」であり、また連邦省庁横断型の電子政府サービス用ポータルサイト“First.gov”(現在は“USA.gov”)等のように、ITの導入による行政の効率化や国民の利便性向上であった。

(1)2009年12月「オープン・ガバメント指令」
 2009年誕生したオバマ政権は、従来の電子政府政策の方向性を、最新のウェブ技術を活用した政府情報の積極的な公開、および政府決定プロセスへの市民参加を促進する「オープン・ガバメント政策」、すなわち民主主義の強化に重点を置いている。オバマ大統領は、連邦政府全体を統括する初めての最高情報責任者(連邦CIO)と最高技術責任者(連邦CTO)を新設して連邦政府のIT強化体制を整えると、2009年12月8日、オープン・ガバメント実現の3原則「透明性 (Transparency)」「国民参加 (Participation)」「官民連携 (Collaboration)」を中核に据えた「オープン・ガバメント指令(Open Government Directive)」を発令した。同指令の特徴は、1) 連邦政府が設置したイニシアチブを手本に行動計画を策定するよう、各省庁に対して4カ月以内という明確な期限を設けて求め、連邦政府の役割強化と政策における具体的な成果を追求している点、2)「透明性」、「国民参加」、「官民連携」の実現を、行政コストの削減・自然災害対策・医療サービスの向上・雇用創出につなげるという方向性を明示している点である。

(2)「透明性(Transparency)」に関する動き 
 連邦政府は、オープン・ガバメント指令と同時に、「米国民に向けたオープン・ガバメント進捗報告書(Open Government Progress Report to the American People)」を発表した。同報告書では、指令の3原則の定義に加え、各イニシアチブが分野・目的別に紹介されている。この定義によれば、「透明性」とは「政府の保有する情報を国民に公開することで行政の説明責任を果たすこと」である。透明性実現のため、 “DATA.gov”(筆者注11)、”IT dashboard ”“Open government” 、“USA spending.gov”“Recovery.gov”、官報のXML化などのイニシアチブが実行されている。(以上の説明はNTT データの米国マンスリーニュース2010年11号から一部抜粋。)


(筆者注1) §552. Public information; agency rules, opinions, orders, records, and proceedingsの条文内容は次のとおりである。
(a)連邦機関の開示義務に関する原則規定
(b)例外規定
(4) trade secrets and commercial or financial information obtained from a person and privileged or confidential;
(6) personnel and medical files and similar files the disclosure of which would constitute a clearly unwarranted invasion of personal privacy;
(7) records or information compiled for law enforcement purposes, but only to the extent that the production of such law enforcement records or information
(C) could reasonably be expected to constitute an unwarranted invasion of personal privacy,
(以下、略す)」

(筆者注2)“OIP”の記事は最高裁の判決文の内容については細目を紹介しているが、この裁判そのものについて全体像についてはコーネル大学やピッツバーグ大学のレポートの方が分かりやすい。

(筆者注3)団体名を以下列記する。 “Reporters Committee for Freedom of the Press”“American Society of News Editors”“Citizens for Responsibility and Ethics in Washigton” “ACLU” “Electronic Frontier Foundation” “National Security Archive”“Openthegovernment.org” “Associated Press”

(筆者注4)連邦最高裁は3月2日のウェブサイト“Recent Decisions”で「判決要覧(syllabus)」と本判決文(原文)を公開している。このような情報開示の迅速性も政府が進めるオープン・ガバメントの一環といえよう。

(筆者注5)対象期間が2011年1月19日の口頭弁論までであるが、コーネル大学ロースクールの「法情報研究所(Legal Information Institute)」が裁判経緯、法的解釈上の争点等について詳細に解説している。関係する資料等についてはリンクが張られているので検索の手間も省ける。

(筆者注6)連邦通信委員会(FCC)の基本的な機能や任務ならびにその組織の概要についてFCCの工学・技術局技術調査部のGeorge Tannahill氏が2009年3月4日、 「日米相互認証協定(MRA)」国際研修会でわかりやすく解説しているのでその要旨を紹介しておく。

「①FCCは、公益のために民間電気通信産業分野の規制を所管。無線サービスに混信を起こす可能性を最小限にするため、送信機その他の設備の技術基準を制定。また、市場出荷される機器が技術要求事項に適合するよう認証制度を管理。
②FCCの業務の根拠を定めるのは連邦行政規則(連邦規則集第47編(47 CFR))でその内訳として「管理規則(すべてのその他の規則条項に適用される一般要求事項を規定)」と「無線業務規則(ユーザーの免許及び機器認証試験の要求事項を規定)」が定められている。
③FCCの組織中、法執行局は監視、監督の立場から必要に応じ罰金等の行政処分を行う。」

(筆者注7)“E-rate”とは、「1996年制定の電気通信法(Telecommunications Act)で定められた、「米国内のあらゆる人々に対して平等の通信サービスを提供する」という「ユニバーサル・サービス」規定に基づく補助金制度として、位置付けられている。1997年に、独立の政府機関である連邦通信委員会(Federal Communications Committee: FCC)がE-rateを含めた「ユニバーサル・サービス」施行規則を制定し、1998年よりE-rateによる割引が実施されている。」
“E-rate”の財源としては、全米の通信事業者が拠出する「ユニバーサル・サービス基金」から捻出されている。この基金の補填のために、通信事業者は一般の電話加入者に対し電話料金の10%程度を「ユニバーサル・サービス料金」として徴収する、といったことが成されている。また、E-rateの運用に関する実務については、FCCの監督のもと、Universal Service Administrative Company(USAC)という民間の非営利機関が担当している。
E-rateが実施されてはや10年近くになるが、E-rateは学校や図書館でのインターネット接続、またブロードバンド接続の促進に貢献しているとの評価がある一方、運用状況に対する批判も多い。(以下略す)」

(筆者注8)米国の訟務長官(solicitor general)とは、連邦最高裁判所で連邦政府が当事者となっている訴訟に際し、政府のために弁論(amicus curiae)を行う官職であり、連邦司法省の公務員である。ケーガン判事は元第47代訟務長官でその任期は2009年3月~2010年5月であった。)

(筆者注9) 翻訳の専門家も法的な用語として「Entity」の的確な訳語は難しいらしい。ちなみに、契約翻訳専門家によるブログである「契約翻訳ヴァガボンド」が苦労話を展開している。その中で、世界的な英米法辞典「Black’s Law Dictionary Eighth Edition」の説明が引用されている。
“entity. An organization (such as business or an governmental unit) that has a legal identity apart from its members.

corporate entity. A corporation's status as an organization existing independently of its shareholders. ● As a seperate entity, a corporation can, in its own name, sue and be sued, lend and borrow money, and buy, sell, lease, and mortgage property.(略)

public entity. A governmental entity, such as a state government or one of its political subdivisions.”

 この大辞典は筆者が大学院時代に利用し、今も手元にあるのは“Revised Fourth Edition”(定価6,720円)であるが、以下のとおり極めて簡単な内容である。
“Legal existence.Department of Banking v.Hedges,136 Neb.382,286 N.W.277,281”

(筆者注10)“Merit Brief”とは、裁判用語で「裁判上の具体的争点に関し主張する制定法や判例法に基づき裁判で使用する目的の法的意見書をいう。」
 本裁判において1月19日に提出された“Merit briefs”および“Amicus briefs(Amicus Curiae)”は以下のとおりである。(米国法曹協会(ABA)サイトによる)。

(1)Merit briefs
・Brief for Petitioner Federal Communications Commission, et al.
・Brief for Respondent Comptel in Support of Petitioners
・Brief for Respondent AT&T, Inc., et al.
・Reply Brief for Petitioner Federal Communications Commission, et al.
・Reply Brief for Respondent Comptel in Support of Petitioners

(2)Amicus briefs
・Brief for the Reporter's Committee for Freedom of the Press — ALM Media, LLC, the
American Society of News Editors, the Associated Press, the Association of American
Publishers, Inc., Bay Area News Group, Bloomberg L.P., the Citizen Media Law
Project, Daily News, L.P., Dow Jones & Company, Inc., The E.W. Scripps Company,
the First Amendment Coalition, First Amendment Project, Gannett Co., Inc., NBC
Universal, Inc., the National Press Photographers Association, Newspaper
Association of America, the New York Times Co., NPR, Inc., the Society of Professional
Journalists, Stephens Media LLC, Tribune Company, and the Washington Post in
Support of Petitioner (reprint)
・Brief for Collaboration on Government Secrecy in Support of Petitioner
・Brief for Free Press in Support of Petitioner
・Brief for the Project on Government Oversight, the Brechner Center for Freedom of Information, and Tax Analysts in Support of Petitioner (reprint)
・Brief for Citizens for Responsibility and Ethics In Washington, the Electronic Frontier
Foundation, the American Civil Liberties Union, the American Library Association, the
Association of Research Libraries, the National Security Archive, and
Openthegovernment.Org in Support of Petitioner
・Brief for Constitutional Accountability Center in Support of Petitioner
・Brief for National Association of Manufacturers in Support of Respondent AT&T, Inc.
・Brief for the Chamber of Commerce of the United States of America in Support of
Respondent AT&T, Inc.
・Brief for the Business Roundtable in Support of Respondent AT&T, Inc.

(筆者注11)ホワイトハウスの発表では、“DATA.gov”は2009年5月に47のデータを用意して発足したが、約1年後の2010年5月にはデータ数は25万を越えた。同サイトへの総アクセス件数は9,760万件となっている。


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