【はじめに】
去る9月9日にオランダ銀行協会が銀行上級役職員の固定給や賞与についてコンプライアンスを前提とする行動規範を策定した旨公表したとわが国のメデイアも報じた。筆者は実は2009年春にこの問題につきブログ原稿の下書きを作成していたが多忙のため棚上げになっていた。
しかし、今回のオランダ銀行協会等の動きの背景にある金融先進国の動向はわが国の金融監督機関行政や金融機関としても無視しえない経営上重要な問題を含んでおり、そのためには正確な情報提供が不可欠と考え急遽取り纏めたものである。後日あらためて最新情報に基づきより詳細なレポートをまとめるつもりである。
【要旨】
2009年2月5日付日本経済新聞は、米国オバマ大統領とガイトナー財務長官が資本注入など公的支援を受けている金融機関の経営者層の年間総報酬を50万ドル(約4,500万円)に制限する旨報道した。
筆者の手元の資料に基づき正確に言うと、2月4日に連邦財務省およびホワイトハウスは金融危機のため政府から支援の内容により2つに区分した「役員報酬規制ガイドライン」(筆者注1)を発布した旨リリースしている。米国の「2008年緊急経済安定化法(Emergency Economic Stabilization Act of 2008:EESA)」に基づく財務省を中心とする各種施策のうち、同省は2008年10月30日に不良資産救済プログラム(Troubled Asset Relief Program)下における資本注入プログラム(Capital Purchase Program)(筆者注2)の適用金融機関の経営責任を問うため役員報酬制限に関する連邦暫定最終規則(October Interim Final Rule:31 CFR Part 30)を公表した。さらに本年1月16日には、役員報酬に関する報告および記録に関する規定等を同規則に追加している。
その後、AIGが連邦政府から総額約1,735億ドル(約16.7兆円)巨額の公的資金を投入、その見返りとして政府は同社の株式の8割を保有するという状況下でニューヨーク州のクオモ司法長官(Andrew M. Cuomo)が調査した結果、破綻原因を作った金融子会社の上級幹部等にボーナスを計1億6,500万ドル(約158億円)支給していた事実が明らかとなった。
わが国では欧米金融機関の役員報酬規則やガイドラインの詳しい内容はほとんど報じられていないが(筆者注3)、納税者(taxpayer)たる国民を納得させるには必須のものと言えよう。また、3月3日付けのウォールストリート・ジャーナルはバンク・オブ・アメリカが2009年1月1日にメリル・リンチの買収の直前にメリル幹部に現金や株式で約10億円以上のボーナスを受けとった上級役員が11人、約3億円以上が149人いると具体名をあげて報じている。(筆者注4)
一方、米国以上に金融危機の深刻化が進んでいるEU主要国とりわけ英国やドイツ、オランダ、フランス、スイスの役員報酬問題はどうなっているのか。手元の資料で見る限り米国に比べ政府自体の姿勢も曖昧な点が気になっていたが、2月25日に欧州委員会は金融機関と市場の監督強化による金融危機の再来を防止するため、専門家グループによる31項目からなる勧告(recommendations)をとりまとめ公表した。同勧告は、(1)EU加盟27か国のための投資ファンドに関する共通ルールの策定、(2)株主保護およびEUの金融部門の危機管理システムの確立という観点に則し銀行員のボーナス支給額に上限(キャップ)を設けるといった内容が含まれている。
さらに9月4日、5日にロンドンで開催された20か国国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議が金融持株会社やグローバル金融グループ、金融機関の上級経営者、インベストメント・バンカーやトレーダー(筆者注5)に対する長期的視点に立った業績報酬といった報酬規制の国際的基準の必要性を共同声明に盛り込んだ。
これと時期を同じくして9月9日にはING等金融大国であるオランダ銀行協会、財務省が銀行上級役員等の固定給や賞与について銀行免許に従い、オランダ国内だけでなく、EU加盟国等における具体的行動規制を盛り込んだ全役職員が遵守すべき行動規範(Banking Code)を公表した。(筆者注6)
また、英国では個別金融機関の役員報酬問題から金融監督機関である金融サービス機構(FSA)(筆者注7)(筆者注8)の経営層や事務スタッフの報酬引上げ問題も話題となっている。
わが国でも、地域金融機関等の経営悪化の状況は今後より具体的なかたちで問題視されるであろうが(3月13日に金融庁が公表した第二地銀3行に対する資本参加等)、国民の多くが生活の危機的状況下にあるなか、政府や監督機関はより透明な経営を実現すべくその機会を積極的に広げるべきであろう(筆者注9)。
今回のブログは、(1)米国財務省の役員報酬規制ガイドラインの概要、(2)EU、スイス、オランダや英国の主要金融機関における役員やスタッフの報酬プログラムの具体的見直しの状況、および(3)各国政府の取組み姿勢等について最新資料に基づき解説する。
1.米国財務省の役員報酬規制ガイドラインの概要
〔2月4日付財務省リリースの要旨〕
(1)2月4日、財務省は現在の金融危機の解決を目指して米国政府から公的支援を受けている金融機関の役員報酬に関する新たな規制ガイドラインを公表した。そこに盛り込まれた諸施策は、公的資金が不適切に個人の所得に向けられることなくわが国の金融システムを安定化させることにより経済全体を強化するという公益目的のみに向けられるよう設計されている。すなわち、これら諸施策は金融界のトップ経営者の報酬が密接に株主や金融機関の利益と調整されるだけでなく、公的支援の最終的スポンサーである納税者との調整を行うものである。
(2)本ガイドラインは「一般的に利用される資本入手プログラム(generally available capital access program)」と特に金融機関が必要とする場合の「例外的支援プログラム(exceptional assistance)」の2つに区分する。前者は金融機関が受け取る金額限度と納税者への特定の返還方法はすべて同一である。また、本プログラムの最終目標は、中小企業や家庭等への融資において重要な役割を果たす比較的小規模の地域銀行に資金を提供することで、経済回復に必要な信用供与の支援を金融システム全体に保障するものである。従来、政府が発表してきた金融安定化策資本注入計画(不良資産救済プログラム(Troubled Asset Relief Program:TARP )がその例である。
一方、後者は標準的な支援以上のものを必要とする金融機関に対するものであり、同支援基準のもとで支援を受ける銀行は特に財務省との間で交渉結果を踏まえた協定を結ばなければならない。後者の例としてはAIG、バンクオブアメリカ、シティとの取引を含む。
Ⅰ.役員報酬規則の遵守とCEOによるその証明義務
政府の支援を受ける全金融機関は、役員報酬規則の遵守を確実なものとしなければならない。いかなる形式であれ支援を受ける全金融機関のCEOは、法令、財務省、契約上の役員報酬を厳格に遵守していることについて毎年証明することが義務づけられる。さらに政府支援を求める金融機関の報酬決定委員会(compensation committee)は上級役員報酬の調整について過剰かつ不要なリスク負担を負わないよう説明した資料の提出が義務化される。
Ⅱ.役員報酬に関する今後(筆者注10)強制される条件
A.例外的資金支援を受ける金融機関の場合
①従来の規制プログラムは、支援を受けている金融機関における上級役員に対する譲渡制限付株式以外の総年間報酬が50万ドル以上の者に対し、税控除措置(tax deduction)(必要経費としての計上)を禁止している。改正ガイドラインは、同制限を発展的に撤廃し、譲渡制限株式(Restricted Stock)(筆者注11)以外(cashによる報酬)について50万ドル以下に制限するという内容である。具体的には次のような内容が新たに課される。
②上級役員への追加的支給は、如何なる場合でも譲渡制限株式によるものでなければならず、当該株式は、政府支援債務を完済した場合にのみ譲渡制限が解除される。例外的資金支援を受けている金融機関の上級役員に対する50万ドルを超える報酬は、譲渡制限株式または他の類似の長期的奨励手段によらなければならない。譲渡制限株式を受取る上級役員は、政府に支援金を返済した後(この返済には、契約に基づく配当金の支払いを含み、当該配当金で納税者の現在価値が保証される)か、または一定の期間(金融機関が、どの程度返済義務を果たしているか、納税者の利益がどの程度保護されているか、また貸出・安定化の基準がどの程度満たされているか等について検討のうえで定められる一定の期間)が経過した後のみ現金化することができる。
譲渡制限株式を利用することによって、例外的資金支援を受けている金融機関の上級役員には、納税者にかかるコストを最小化するとともに、株主の長期的利益になるように努めようとする動機が働くことになろう。
③役員報酬の体系と戦略は、完全に情報開示されなければならず、また「法的拘束力のない投票権(“Say on pay” resolution)」に従うものとする。この“Say on pay”とは、経営者の報酬を株主総会の議案として株主の「賛否」を問うものである。 上級役員の報酬体系およびその報酬が健全なリスク管理と連動しているかについての合理性を説明した資料が、拘束力のない株主決議において承認されなければならないとするものである。ただし上記の通り、この決議は“advisory voting”つまり勧告的決議で可決したとしても経営者を法的に拘束しない(現在の制度には、株主の拘束力のない決定権条項はない)。(筆者注12)
④賭け的経営行為に関与した経営トップの役員について、ボーナスといった報酬を条件付で減らす「条件付回収条項(clawback provision)」(筆者注12)の制定を求める。例外的支援の下での現行の制度では、 上位5人の上級役員にしかボーナス条件付回収条項は適用されない。今後は、例外的資金支援を受けている金融機関は、ボーナスに関し条件付回収条項を設けなければならず、また、当該機関の財務情報や自分自身の成功報酬を計算する上で必要な数値実績につき不正確な情報を提供したと後日判明した場合には、上位5人以下の20名の上級役員からも回収するという条項を設けなければならない。
⑤上級役員についてのゴールデン・パラシュート(Golden Parachutes)の禁止拡大
金融機関に例外的資金支援を認める現行制度は、解任に際し支払われる多額(平均年収の3年分)の割増退職金であるゴールデン・パラシュート(筆者注13)の受取りを、上位5人の上級役員について禁止しているが、それを上位10人の役員にまで拡大する。さらに、それ以下の25名の役員については、最低1年分の報酬を超える退職金を受け取ることを禁止する。
⑥金融機関の取締役会による特別に贅沢な支出の承認に関するポリシーを採択の義務化
政府から例外的資金支援を受ける金融機関は、航空旅客サービス、オフィスや事務所の改修、娯楽、休日のパーティおよび会議やイベント等に関し、すべての全社的ポリシーを策定しなくてはならない。なお、このポリシーは、会社の通常の業務に関係する販売会議や職員の教育、報奨金等企業の通常の業務運営上に必要な合理的支出を対象としたものではない。
こうした新しい規則は、これまでのガイドラインの規定範囲を超えるものであり、過度な支出や贅沢な支出と認められるものについては、CEOによる支出証明を求めることになる。また、金融機関は、ホームページ上でこれらの経費の支出に関するポリシーを公開しなければならない。
B.一般的に利用可能な資本支援を受ける金融機関の場合
財務省は、将来の一般的に利用可能な資本入手プログラムに関連して求められる役員報酬について、パブリックコメントに付すこと条件として以下のような「ガイダンス(案)」を提案する予定である。
①上級役員の年間総報酬は、完全かたちでの一般公開し(Full Public Disclosure)また株主の投票により承認された場合を除き50万ドルを上限とする。
一般に利用可能な資本入手プログラムに参加する金融機関は、報酬内容の開示による50万ドルに加え譲渡制限株式の取得に関する規則につき、また要求された場合には、「法的拘束力のない投票権(Say on pay resolution)」に基づきその放棄をなしうる。
将来の資本入手プログラムに参加するすべてに金融機関は、上級役員およびその他の従業員について過度のかつ不要な危険負担を行わないよう、報酬協定(compensation arrangements)の理由を見直し、かつ開示しなければならない。
なお、現行の資本入手プログラムの下では、金融機関は上位5人の上級役員の報酬協定のみ過度かつ不要な危険負担を回避するための見直しや承認するのみでよかった。
②欺まん的不公正な慣行を行っているトップ経営者がいる場合のボーナスの「条件付回収条項」の適用
例外的資金支援を受ける金融機関に適用される「条件付回収条項」は、一般的資本支援を受ける金融機関にも等しく適用される。資本買取プログラム(Capital Purchase Program)の下で上位5人の役員に適用されていた「条件付回収条項」はさらに奨励金の支払計算に使用する財務諸表(financial statements)や業績評価指標(performance metrics)に関し、故意に不正確な情報を流したと認められる場合は5人に続く上位20人の上級役員に対しても適用される。
③上級役員に対するゴールデン・パラシュートに基づく支給の禁止
一般的に利用可能な資本支援を受ける金融機関の場合においても、ゴールデン・パラシュートに基づく支給禁止は強化される。すなわち現行は解任時に3年分の年間報酬が認められているのに対し、今後は上位5人の上級役員に対し1年分の報酬額以上のゴールデン・パラシュートに基づく給付は認められなくなる。
④贅沢な支出に関する取締役会の承認ポリシーの採択
本ポリシーは例外的資金支援を受ける金融機関向けのものであるが、同様のことが一般的に利用可能な資本支援を受ける金融機関にも適用される。現行の資本買取プログラムには贅沢な支出に関するガイドラインはまったく決められていない。
C.長期的観点に立った規制改革
報酬戦略は適切なリスク管理、長期的価値および企業の成長と並ぶものでなければならない。そのためには次のステップを踏まなければならない。
①公的金融機関は自身の報酬決定委員会において健全なリスク管理のための戦略の見直しとその開示が求められる。
財務省長官と証券取引員会委員長は、政府による支援を受けていない金融機関も含め、報酬決定委員会に対し、役員や一定以上クラスの従業員の関する報酬協定の見直しや開示について、健全なリスク管理の推進や自社および株主にとって長期的価値の創造との調和をいかに行うかにつき協調して取組なくてはならない。
②トップ経営者の報酬は長期的見通しを奨励するという観点が求められる。
この10年間、金融機関のトップ経営者はますます株主や経済全体のために長期的経済的価値の創造を見通すことに努めてきたというコンセンサスがある。
真剣に考慮すべき価値がある1つの考え方として、金融機関のトップ経営者は数年間株式を維持しさらに企業の長期的観点から経済的利益が得られると判断できるときに初めてそれを現金化すべきであるというものがある。
③役員報酬に関する法的拘束力のない投票権(Say on pay resolution)の行使
金融面の回復支援を受ける金融機関を以上に、金融機関の所有者である株主はいかに報酬報奨的な構造がリスク管理を推進させるというのと同様の意味で、役員報酬のレベル設定および経済全体としての長期的な価値の創造の双方の視点から拘束力のない投票権を行使すべきである。
④ ホワイトハウスと連邦財務省による長期的役員報酬のあり方に関するカンファレンスの開催
財務省長官は、役員報酬の改革問題につき、株主の擁護者、主な公的年金、機関投資家のリーダー、政策立案者、役員、学識経験者、その他を交えた会議のホストを務める予定である。また、金融機関の役員報酬に関し良き実践例やガイドラインの確立のためのモデル役員報酬発議に関する証言、コメントおよび白書を求める。
2.EU委員会の高度専門家グループ(ラロズィール・グループ:議長Jacques de Larosière)による立案政策や金融監督等の改善勧告報告書
本報告書(全文)は4章全86頁からなるが、次のとおりの構成である(筆者注14)。わが国の政策立法者(policy maker)や金融関係者は、世界中の金融危機をめぐる日々のメデイア情報を悲壮感をもって単に眺めるのではなく、本報告書の持つ意義を改めて分析し、真の原因の探求と長期的観点に立った政策のありかた、見直し項目について早急に研究を進めることが、金融システム全体の安定化と底の見えない不況からより早い段階での脱出につながるのではないか。
第Ⅰ章 金融危機の原因(causes of the financial crisis)
(1)マクロ経済面の原因(例:過剰流動性、低金利―極めてルーズな金融政策―特に米国);大規模かつ世界的な不均衡の累積;リスクの過大または過小な価格付け(mispricing of risk)、レバレッジ金融機関(低い自己資産比率で巨額な資金を動かす金融機関)の大規模な増加)
(2)リスク管理(金融機関、監督機関、規制機関のリスク管理および透明性の欠如―影のバンキングシステムの集積、証券化(the originate to distribute model))およびほとんど理解不可能な複雑性を導いた。)
(3)信用格付け機関
仕組み商品(structured products)や主要な利益の対立に関する大規模な失敗
(4)企業統治
弱い株主と企業管理の弱さ(間違った動機づけをもたらす役員報酬計画)
(5)規制・監督
誤った景気循環誇張作用(Procyclicality)(筆者注15)
(以下略す)筆者注9を参照されたい。
3.スイス、オランダや英国における報酬問題と政府の姿勢
(1)スイス
3月4日にスイス金融最大手のUBSは、4月15日の株主総会で現取締役会議長のピーター・クラー(Peter Kurer)は再任せず、スイス連邦政府の元財務相(元連邦議会議員)であるカスパル・フィリガー(Kaspar Villiger:68歳)が議長に就任する人事内定を発表した。EUのメデイアによると、UBSのトップ経営者は1週間ごとに変わるという不安定な経営を続けており、2月28日に前任CEOマルセル・ローナー(Marcel Rohner)が退任したばかりであり、さらにUBS自身、昨年来米国の連邦内国歳入庁(Internal Revenue Service:IRS)から約17,000人のUBSに口座を有する米国の富裕層の氏名の公表を刑事訴追のかたちで迫られており、同行は顧客名の公開は銀行秘密保護法違反と反論しつつも最終的には2009年2月18日に課税回避幇助(ほうじょ)の疑いを認め、7億8,000万ドル(約760億5,000万円)を米国政府に支払うことで合意するなど、多難な経営を問われている。
このような状況下でUBSは2008年11月27日の臨時株主総会において、①既存の報酬体系の見直し(Review of existing compensation systems)(UBSグループは臨時株主総会に先立ち11月17日に役員報酬報告(Compensation Report-)—新報酬モデル(USB’s New Compensation Model)-を公表している)、②報酬制度の変更(Changes to compensation programs)、③付与済インセンティブ・アワーズ(報奨報酬)の返還に関する事項(筆者注16)(Issue of repayment of previously granted incentive awards)を決定した。
新報酬モデル(全15頁)の柱となる項目は、(1)UBSの報酬改定の主要要因(key facts)、(2)2008事業年度における可変的役員報酬(variable compensation for 2008)、(3)2009年度以降における報酬計画(compensation 2009 and beyond)、(4)UBSのコーポレート・ガバナンスと報酬ポリシー(corporate governance and compensation policy)である。以下、各項目の要旨のみ説明するが、その透明性の徹底性を理解するために、わが国の関係者による詳細な分析は必須と考える。
(1) UBSの報酬改定の主要要因
①2008事業年度について、UBSのトップ経営者にはボーナスは支給しない。取締役会議長(Chairman of the Board )、CEOおよびUBSグループ執行役員会のメンバーは固定基本給のみ受け取る。さらに全上級管理職(all members of the senior management)に対し2008年度は変額報酬部分を減額する。
②2009事業年度以降については、今回定めた新報酬モデルをトップ経営層に適用する。新報酬モデルは次の3つの要素からなる。
1.固定基本給(A fixed base salary)
2.変額現金報酬(variable cash compensation)
3.変額株式付与報酬(variable equity compensation)
変額現金報酬は、プラスボーナスまたはマイナスボーナスというシステムに基づき、最大年間変動現金報酬の3分の1は積極的な事業展開結果に従い事業年度末に支給される。また残りはボーナス計算上、第三者預託(escrow)により保持される。
同様の概念が株式付与報酬にも適用され、数年以上のUBSの積極的な業績に基づき支給される。当該株式数およびその価値はUBS株式の長期的価値の醸成と価格実績に依存する。支給された株式は、3年経過後のみ完全に確定し(vest)、トップ経営層はこれら株式をさらに長期に保有することが義務付けられる。会長およびUBSグループ執行役員会に関する2009年報酬モデルはすでに改定された。同様の報酬改定は以下の役員クラスやいわゆる「進んでリスクを取った特定の従業員(specific employees,the so-call “risk takers”)」に対し同様の方法で行なわれる。また、それ以外の従業員に関しては、変額報酬の現行システムは基本的には変わらない。
(2) 2008事業年度における可変的役員報酬
会長およびUBSグループ執行役員12名のボーナスはない。非常勤役員等は2008年度に関しては引続き固定報酬を受け取るが、その半分は現金で残り半分の株式は4年間保有が固定され売却はできない。また、変額報酬の一般原則として、2008年度に関しては銀行の業績悪化を反映し減額する。2009年1月末までに年間の金融業績が確定したときは変額報酬の規模、組成およびその割当についてスイス連邦銀行委員会(Swiss Federal Banking Commission:SFBC)と協議のうえ決定することになる予定である。
UBSは、マルセル・オスペル元会長など旧経営陣が受け取った役員報酬のうち約7,000万スイスフラン(約58億3,000万円)の返還を決定しており、またピーター・クラ-会長等現経営陣も2008年のボーナス返上を決定している(前記インセンテイブ・アワーズの返還)。
(2)オランダ
オランダ銀行協会(加盟銀行数87)の諮問委員会が2009年4月7日に行った「信頼を回復するために(Restoring Trust)」と題する報告書への対応として作成したのが今回の「行動規範(Code Banken:Banking Code)」である。英国「フィナンシャル・タイムズ」が報じたところ行動規範の前書きの最後にもあるとおり、本規範(全16頁)は銀行協会が監督機関である財務省への強い配慮があり、また内容面でも本ブログで述べたとおり国際的な監督当局等の動向も十分に配慮したもので今後他国への影響も視野に入れた内容といえる。
本ブログでは、その前書きの内容および目次からその主旨と全体構成を見る。
A.前書き
・行動規範はオランダ金融監督法(We op het financieel toezicht:Wft)に基づき銀行免許を持つ銀行のオランダ国内およびEU加盟国内の支店活動を含むすべての活動に適用する。銀行が金融グループの一部の場合や連結ベースの場合でも適用し、また本規範の諸原則は銀行グループの関係機関にもすべて適用する。
・2008年12月10日制定した「オランダ・コーポレートガバナンス規範(De Nederlandse corporate governance code )」は加盟銀行に適用され、非加盟銀行に対しても任意ではあるが時として適用され、本規範もガバナンス規範の基本原則を取り込んでいる。特に本規範は取締役会、監査役会や銀行におけるリスク管理や監査に焦点を当てている。また規範は報酬(beloning)に関する基本原則を含むものである。
・行動規範は自らよって立つものではなく国内、欧州および国際法や規則、判例法や規範すべてを視野に入れたものである。国内、欧州および国際事情、個々の銀行(銀行グループの場合はグループ)の活動や特性は本規範の適用時に考慮されなければならない。年次報告において各銀行は規範を適用また適用しなかった場合はその理由の全部または一部を含め説明を行わねばならず、またウェブ上でその報告を行わねばならない。
・リスク選考(riscobereidheid)は、銀行が目標の追求に向け合理的に予見できる量を参照せねばならない。
・金融商品承認手順(Product Goedkeuringsproces)は、特定の商品が銀行の支出とリスクにおいてあるいは顧客の利益に則して作成、配分されるよう参照されなければならない。この手順は注意義務とリスク管理において大規模な試験を包含するものである。
・本規範は2010年1月1日施行予定である。
・国際的な規範の導入や策定を状況に応じタイミングを見て、将来本規範の改定が必要となろう。
・本規範の遵守状況については、財務省と協議のうえ任命する独立監視委員会が毎年モニタリングする。
B.規範の目次
1.行動規範の遵守(NALEVING CODE)
2.監督委員会(RAAD VAN COMMISSARISSEN)
2.1 メンバー構成と専門知識(Samenstelling en deskundigheid)
2.2 任務と活動方法(Taak en werkwijze)
3. 常務会(RAAD VAN BESTUUR)
3.1 メンバー構成と専門知識(Samenstelling en deskundigheid)
3.2任務と活動方法(Taak en werkwijze)
4. リスク管理(RISICOMANAGEMENT)
5.監査(AUDIT)
6.報酬方針(BELONINGSBELEID)
6.1 基本原則(Uitgangspunt)
6.2 統冶(Governance)
6.3 取締役会メンバーの報酬(Bestuurdersbeloning)
6.4 可変報酬(Variabele beloning)
(3)英国の主要金融機関の役員報酬の見直しの論議
A.破綻・国有化銀行のトップ経営者の報酬問題と政府・議会の論争
英国の代表的な銀行の経営破たんの状況はわが国でも日々伝えられるが、ドイツやスイスの大銀行のトップであるCEO等がボーナス受給を放棄したのに比べ、ブラウン首相を始めとする政府の姿勢も必ずしも明確でなかった。筆者も昨年秋以降状況を主要メデイアによりフォローしていたが、議会の公聴会をはじめ閣内、労働組合会議など閣外の関係者を巻き込んだ論議が行われ、その間に大手金融機関はますます損失額が膨らむといった英国金融システム自体がマイナス・スパイラルに陥っていたことは間違いない。
最近の話題では、3月20日付インデペンデント紙はでダーリング財務相が国有化が進んでいる金融機関のトップ経営者のボーナスや報酬にキャップをかけることを拒否したと報じている。同相は、19日の下院特別財務委員会(Treasury Select Committee)において議員(MP)に対し、政府は金融部門の過度な報酬支給に対し行動をとることを強く希望するが、一方でキャップによる規制は英国の税収入面でブラックホールを作ることになり「両刃」の手段と考えると述べている。すなわち、政府の所得税および国民保険の12%が伝統的に金融部門からの収入に依存しており、仮に役員報酬にキャップをかけるとしたら税収面で痛手を受けるし、また税金で尻拭いした金融機関の(bailed out banks)トップ経営者はより高い報酬を求めて海外の金融機関に移るであろうと証言している。
他方で、同相は将来の報酬支給に対する要請のために報酬に関する強制規範を設けることにより、経営を失敗した銀行員(元RBSのCEOのフレッド・ゴッドウインに対する70万3000ポンド(約2,320万円)の報酬支給を含む)を活性化させることに対する国民の怒りに政府として応えることが不可欠であると述べている。なお姿勢が曖昧である。
B.金融サービス機構(FSA)が金融機関向け「報酬実施基準(remuneration code of practice)」を策定・施行
FSAは2009年8月12日に銀行、住宅金融組合(building society)およびブローカーデーラーのための「報酬実施基準(Reforming remuneration practices in financial services)」を公表し、その施行は2010年1月1日である。(筆者注17)英国のメディア情報等によると、次のような内容である。
・施行時期までに各機関は報酬基準の策定やリスク管理強化と調和のための適用および維持に関する手続・実施方法を定めなくてはならない。
・本基準は報酬方針の声明の作成を金融機関に義務付けるもので、「8原則」とその詳細なガイダンスからなる。FSAは近々金融機関の報酬委員会の委員長に関する文書を作成する予定である。
・本基準は賞与報酬の仕組みに関しては、当初FSAが公表した基準案に比べ詳細な記述はないが、8原則の中で上級行員(senior employees)やリスクを扱う担当者(risk takers)に関する記述を置き、リスク管理を強化している。
・「8原則」は次の分野をカバーしている。
①報酬方針とそのメンバー(例えば報酬委員会(remuneration committee)、報酬方針声明)の役割
②報酬とリスク問題および法遵守の設定手順(Procedure for setting remuneration and risk and compliance function)
③従業員の報酬に関するリスクと法遵守効果
④収益ベースの測定とリスク調整(Profit-based measurement and risk- adjustment)
⑤長期業績測定(Long-term performance measurement)
⑥非財務面の業績測定基準(Non-financial performance metrics)
⑦長期的奨励計画の業績測定方法(Measurement of performance for long-term incentive plans)
⑧報酬の仕組み
C.金融監督機関であるFSAの役職員の報酬問題
FSAの副議長であったSir James Crosbyは2009年2月11日に急遽辞任しておりFSAの役職員の報酬問題は英国のメディア度も時々取り上げられている。
(筆者注1)「経営者報酬ガイドライン」自体わが国ではなじみが薄い概念である。一方、わが国の銀行も含め経営の透明性の見る上で必須の要素であろう。その意味で本ブログの執筆中に見出した同ガイドラインに関する報告書「2007年度経営者報酬ガイドライン-報酬ガバナンスの確立を-」日本取締役協会(ディスクロージャー委員会)は海外と日本の役員報酬比較や動向も含め大変参考になった(内容から見て米国人材コンサルティング会社タワーズぺリンの寄与度が高いように感じられたが)。
(筆者注2)米国経済・金融の課題は毎日報道されているとおり、実際、行政における混乱の程度はかなりひどいといえる。従って、財務省等による「役員報酬規制」問題に特化して見ても、連邦規則の内容は刻々と変化しており、次のような経緯・内容を正確に理解しておく必要がある。
(1)2008年10月14日連邦財務省は2008年緊急経済安定化法(EESA)に基づくその支援適用金融機関が遵守すべき「役員報酬」および「コーポレート・ガバナンス」に関する次の3基準を「財務省通達」のかたちで公表した。
①不良資産競売プログラム(Troubled Asset Auction Program):EESAに基づき財務省に3億ドル(約290億円)以上で不良資産を競売する金融機関は、ゴールデン・パラシュート条項を含む新たな上級役員との雇用契約の締結を禁止する。(財務省通達2008-TAAP)
さらに、EESA下で金融機関は50万ドル以上の役員の役員報酬の税控除措置(tax deduction)が禁止され、また一定のゴールデン・パラシュート報酬についても同措置を禁止、さらにゴールデン・パラシュート支給額に対し20%の消費税(excise tax)が課される。(内国歳入庁通達2008-94)
②資本買取プログラム:適用金融機関は、(ⅰ)金融機関自身の価値を脅かす不要かつ過度のリスクを行うことを上級役員に奨励するような報奨報酬を行わないこと、(ⅱ)後日実質的に不適切と判断された損益計算書等に基づく上級役員に支払われたボーナスや報奨の返還義務、(ⅲ)内国歳入庁規則に基づくゴールデン・パラシュート支給の禁止、(ⅳ)50万ドルを超える役員報酬の税額控除を行わない合意が求められる。
③業績悪化金融機関へのケースバイケースに応じたプログラム:前記②と同様であるが、ゴールデン・パラシュート支給に関してはより厳格な禁止規定が、設けられる予定である。
(2)2009年1月16日財務省は、役員報酬に関する報告および記録保存義務を追加した暫定最終規則を公表した。なお、財務省は役員報酬に関する連邦規則についてFAQを作成し公表している。
今回の規則により金融機関のCEOは、毎年、事業年度終了後135日以内に今回の役員報酬基準を遵守しているかにつき認証を行うことが求められ、さらに買取対象金融機関と財務省の間で結ばれる証券買取契約の手続完了日後、120日以内にCEOは報酬決定委員会がリスク担当役員とともに上級役員報奨報酬契約において不要かつ過度のリスクを勧めていないことを保証すべく見直したことについて認証することが求められる。CEOは、これらの結果を毎年TARPの主席法遵守担当官(TARP Chief Compliance Officer)に報告しなければならない。
また、当該金融機関はこれらの各認証後6年間実証結果の記録を保存するとともにTARPの主席法遵守担当官に当該記録を提供しなければならない。
(筆者注3)米国財務省のガイドラインについて、経済コラムニストの小笠原誠治氏が2009年2月5日のブログで翻訳されており、本ブログでも参考にさせていただいた。ただし、同氏のブログでは英国やドイツ等についての報告は行われていない。
(筆者注4)ニューヨーク州司法長官アンドリュー・クオモ(Andrew Cuomo)は、今回のメリル幹部に対するボーナス支給が証券取引法違反に該当する点につき捜査を進めており、これに対しバンクオブアメリカ(BOA)は3月5日にマンハッタンのニューヨーク州最高裁判所に対しボーナス支給に関する元メリルリンチCEOジョン・セイン(John Thain)の内部通報に基づく証言について、その機密性に関する緊急機密性保護命令(temporary confidentiality order)を求めた。一方、同長官はこの申立を却下するよう同裁判所に申し立てている。
(筆者注5) “investment banker”とは「インベストメント・バンク」においてその主要業務につき各種ファイナンス、金融工学や運用技法および証券・法律・税等の知識・経験を用いた財務相談やM&A、法人・公的機関・資産家等に運用アドバイスを行う金融のプロを言う。「インベストメント・バンク」は「投資銀行」と訳されて「銀行」という言葉が入ってはいるが、個人向けの融資は行わない。“Investment Bank”という呼称は、個人などから預かった預金を元手に企業に融資を行う“ Commercial Bank”と区別するための用語である。商業銀行はその収益の大部分を主に企業に融資することにより発生する利息に依るのに対し、投資銀行の収益は株式や債券の資本市場における発行時に発行額に応じて徴収する手数料に依ることが特徴で、自らはバランスシート上に大きなアセットを有さないので「銀行」と訳されているが、むしろ「法人向け証券会社」にイメージが近い。主に、株式市場を通じた企業の資金調達や、M&Aコンサルティングを手がけている外資系の金融機関を指す言葉で、インベストメント・バンクには預金の受入れ等の商業銀行業務の兼業は、法的には認められていない。なお、日本にも、このような事業を営んでいる企業は数多く存在しており、その多くは証券会社が担っている。
歴史的にみると1990年代には高度な金融工学技術を駆使して複雑な企業合併や巨額の資金調達アドバイスを行えるゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーのような米系投資銀行に対して、日本の大企業や政府系機関が相談するようになり、日本で「投資銀行」「インベストメント・バンク」などの名称が知られはじめた。その後、不良債権処理やM&A仲介、債権の証券化などを手がけながら存在感を強め、2000年代に入るとインベストメント・バンクは一般的に認知されるようになった。
インベストメント・バンクの主要業務は、顧客企業に対する有価証券の発行による資本市場からのファイナンス、M&Aコンサルティング、財務分野では、各種保有資産の流動化による資金調達(不動産やローン債権の証券化等)、金利や為替等のデリバティブ(スワップやオプション取引等金融商品の価格変動リスクを回避し、低コストでの調達や高利回りの運用といった有利な条件を確保するために開発された取引)を用いた財務リスクヘッジなどがある。また、ノンリコースローンやプロジェクトファイナンス等の、企業やプロジェクトが将来生み出すキャッシュフローに依拠した融資判断を行う先進的な融資も行っている。
一方、インベストメント・バンクは、有価証券やデリバティブのトレーディング等も行う。投資顧問先やヘッジファンドなどのように、クライアント企業のために行うトレーディングや、自己勘定のために行うトレーディングがある。その責任担当者を”trader”と言う。
(SITE BANKのM&A辞典「インベストメント・バンク(Investment Bank)」解説から一部抜粋・追加。)
(筆者注6)オランダ銀行協会等が定めた規範の英文の原語は“Provisional Banking Code”である。わが国のメディアは行動規範と訳しているが正確には「倫理規範」の要素も含まれるといえよう。ちなみに世界的金融グループである“Deutche Bank”経営方針(日本語)を読んで欲しい。そこには倫理規範や行動方針の考えが明示されている。
(筆者注7)わが国では英国FSAは比較的多くの機会の紹介されている割には、その内容は正確でない。すなわち本文で述べたとおり、FSAの役員報酬がなぜ問題になるかはFSAの機能・組織論の理解なしには語れないのである。FSAは「2000年金融サービス市場法」に基づき設立された独立非政府機関たる保証有限責任会社(company limited by guarantee)である。「保証有限責任会社」とは営利を目的としない社団が法人格を取得する際に用いられる会社形態であり、Chairman(会長) が議長を務める取締役会があり、また業務執行の最高責任者CEOが置かれるなど民間事業会社と類似の組織を持つ。実際FSAサイトを見ると財務省が任命するFSAの取締役会のメンバーは会長(Adair, Lord Turner)、CEO(Hector Sants)、常務取締役3名(Sally Dewar、David Kenmir,Jon Pain)、非常勤役員(non-executive member)9名(Carolyn Fairbairn,Peter Fisher,Brian Flanagan,Karin Forseke,Sir John Gieve,Professor David Miles,Michael Slack,Hugh Stevenson,なお副議長であったSir James Crosbyは2009年2月11日に急遽辞任しており、現状は8名である)
(筆者注8)Sir James Crosbyの辞任報道に対する国民の関心は高い。彼は2008年9月18日にロイズ・TSBが買収した英国住宅金融最大手HBOSのCEOであった人物である。ガーデアン紙(電子版)、タイムズ・オンライン等によるとHBOSの世界的リスク管理部門長であったPaul Moore氏による内部通報に基づく議会下院特別委員会(select committee)の論議が辞任の引き金になったようであり、英国ゴードン・ブラウン政権はこのままでいくとますます混迷の度合いを深めていくようである。
(筆者注9)最近時、わが国の金融機関においても役員退職慰労金を廃止し、株式報酬型ストックオプション(新株予約権)の導入が行われ、各金融機関のホームページへも掲載されている。しかし、UBS等の例に見るとおり、欧米の企業ではさらにストック・オプションから譲渡制限付株式報酬への移行も行われ始めている。
(筆者注10) 前記小笠原誠治氏もブログ(追記)で指摘されているとおり、「将来の(going forward)」という用語は問題である。この規制ガイドラインは今後の新たに適用される金融機関への規制ルールであってAIG、バンクオブアメリカ、シティには適用されないと読める。それでは、今回の規制強化は世論を無視した骨抜き対策としか言いようがなかろう。
(筆者注11)“Restricted Stock(RS)”とは、譲渡制限期間付きの株式を付与する報酬プランである。RSを付与された役員や従業員は、譲渡制限期間中に配当を受け取ったり、議決権を行使することができる。ただし、譲渡制限期間が終了する前に退職するとRSの権利を失う。・・・・・RSは、一般に役職員の引留め効果が高いといわれる。ストック・オプションでは、権利確定時の株価が行使価格を上回らないと無価値になるのに対し、RSでは株価が下がってもゼロにならない限り報酬金額はゼロにならない。(野村総合研究所「資本市場クォータリー2004年冬」より引用)
(筆者注12)“Say on Pay”の意義は大和総研の吉川満氏や鈴木裕氏のレポートを参考にした。このような新語については必ずしも法的に見た適切な訳語がないことが一般的であり、レポート作成者はその辺を慎重に配慮した内容の精査が求められよう。また米国企業の動向で内容を精査することも大事である。例えばアップルは2009年4月28日付けで「アップル、Form 10-Qを修正」と題するリリースを行い、その中で「アップル取締役会の報酬委員会は、これまでSay on Pay問題の動向を注視してきましたが、近い将来、新しい法律または規則によって、すべての上場会社において何らかのSay on Pay投票が必要とされるようになるものと予想しています。また、仮にそうならない場合でも、アップルは来年度、Say on Pay 勧告的決議の導入をいたします。」と述べている。
この点についてわが国のシンクタンクの解説例で見ると、みずほ総研『みずほ米州インサイト』2009年8月11日号西川珠子氏「米国における役員報酬規制強化~政府による金融支援対象企業から全上場企業に適用拡大へ~」2頁の“Say on Pay”の説明は「役員報酬に関する株主承認決議の義務付け」とのみで法的拘束力問題については言及していない。この新制度論議は十分米国内での議論されていないことも事実であるが、読者に正確なイメージを提供することが調査担当者としては必須であろう。特に西川氏のレポートはわが国では貴重なレポートだけに残念である(本注は筆者のこれまでの研究論文の査読経験から見た感想である)。
(筆者注13) “clawback provision”について、わが国では的確な訳語やまともな解説はほとんどない。筆者なりに解説を行っておくが、今回の金融危機を背景に欧米の金融機関における“clawback provision”の取組みや研究は進むであろう。
“Clawback Provision” とは、 日本語にすると「条件付回収条項」であり、ボーナスの一部は「人質」として差し押さえられていて、将来、会社にとって不利になるような取引に手を染めたり、会社の風評に傷つけたり、業績悪化を招くような仕事をした場合は、人質になっているボーナスは没収されるという条項である。“clawback provision”に合意しないとボーナスは払って貰えなくなる。
(筆者注14)“Golden Parachutes”に関する人事・経営面の解説を読んだのは経団連経済本部経済政策グループ?の藤原清明氏の論文が専門外の筆者にとって大変参考になった。
ただし原稿が未定稿と記されており気になって直接本人に照会したが、その後見直しは行っていないとのことであった。ここで補足すると、「ゴールデン・パラシュートとは、敵対的買収の標的にされた会社の経営陣が経営の座を譲り渡す代わりに多額(解任前の5年間の課税対象期間の平均年間報酬の3倍)の割増退職金を受け取る取り決めをさす。ハイジャックされた旅客機からパイロットだけが落下傘で脱出、そしてその落下傘は100ドル札を無数に貼って作られたものだった・・・。そんなイメージが浮かびやすい見事なネーミングである。」http://blog.livedoor.jp/blue_monday_777_3/archives/54860726.html他
(筆者注15)31の勧告を含め、本報告書の内容の重要点を理解するには、別途公表された要旨(18頁)を読むことをすすめる。
(筆者注16)「プロシクリカリティ(procyclicality)」とは金融機関の貸出を通じた信用膨張と信用収縮の景気循環への増幅効果をいう。2008年11月15日に米国ワシントンで開催されたG20金融サミットでの「金融・世界経済に関する首脳会合宣言」などで使用されてから一般的になった言葉と思っていたが、実は「景気悪化時には貸出の信用度が低下するので、バーゼルⅡの下では自己資本賦課が増加するため、金融機関の貸出姿勢が後退して景気の悪化を増幅する、という主張である。」と2004年11月に「新BIS 規制案の特徴と金融システムへの影響」において日本銀行信用機構局参事役 宮内 篤氏が紹介されている。
(筆者注17)「 付与済インセンティブ・アワーズ」という訳語はUBSの日本語サイトから直接引用した。日本の株主は、言葉の意味がほとんど理解できないであろうから、補足しておく。役員や従業員に対するインセンテイブ・アワーズとは、いわゆる報奨型報酬である。欧米の企業では株式関連報酬が一般的であり、代表的なものとしては、①ストック・オプション、②譲渡制限付株式、③パフォーマンス株式、④パフォーマンス・ユニット、⑤SAR(Stack Appreciation Rights:株価連動型報奨受給権)などがある。報酬に支払方法で区分すると①と⑤は値上がり利益型、②と③は株式の価値そのものが報酬となる、④は金額固定型である。
(筆者注18)FSAは2009年3月18日に経営リスクが集中する大銀行やブローカーデイーラーのほか連結自己資本価値(consolidated regulatory capital worth)が10億ポンド(約 1,490億円)または同価値が20億ポンド(約2,980億円)の国際金融グループの支店およびFSAが監督下におく金融機関や住宅金融組合向けの「報酬実施基準(案)」を公式に発表した。約45の金融機関が対象となるがFSAこの基準は報酬の絶対額を定めるものではないと述べている。
〔参照URL〕
http://www.whitehouse.gov/the_press_office/TreasuryAnnouncesNewRestrictionsOnExecutiveCompensation/
http://ec.europa.eu/commission_barroso/president/pdf/statement_20090225_en.pdf
http://business.timesonline.co.uk/tol/business/industry_sectors/banking_and_finance/article5721401.ece?&EMC-Bltn=MLWE7A
http://www.ubs.com/3/e?pg=1&or=r&lo=t&qt=2008+compensation+ceo
http://www.nvb.nl/scrivo/asset.php?id=291492
http://www.fsa.gov.uk/pubs/policy/ps09_15.pdf
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2009年9月12日土曜日
2009年9月1日火曜日
海外の新型インフルエンザ感染拡大阻止に向けた最新動向と新たな課題等への疫学・臨床戦略(N0.15)
本ブログ連載NO.12(2009年8月7日)で紹介してきたとおり世界の主要国では製薬会社による新型インフルエンザ・ワクチンの治験やその準備が始まっている。
AAP通信等によると、オーストラリアの製薬会社2社が7月22日までに、新型インフルエンザ・ワクチンの南部のアデレード(Adelaide)で、成人治験ボランティアによる投与治験を開始した。メルボルンの製薬会社CSL社は、240人が参加する7か月間の治験を7月初旬に開始し(筆者注1)、またアデレードのVaxine社は、300人の参加者による治験を開始した。これらの製薬会社によると、新型インフルエンザワクチンの治験は世界で初めてであり、最低6週間かかって有効性が確かめられれば、10月にも接種供給が可能だとしている。(筆者注2)
一方、8月27日時点で英国(イングランド)の累計確認感染者は254,947人、入院患者数は218人、死者は少なくとも57人と発表されている。BBCが報じるところではこの両社は英国政府とは契約していないが、Vaxine社の研究者はブタ由来インフルエンザは過去経験したウイルスに比べ独特の野生的性格(peculiar beast)をもっており、新ワクチンに期待してはいるが十分機能するという保証はないと述べているそうである。
その英国は感染拡大策として7月23日から病院や国民健康保健サービス(National Health Service:NHS:英国全域の保健医療サービスを提供する政府組織)の指定家庭医(General Practitioner:GP)の負担軽減と患者の混乱阻止策として新型インフルエンザ専用サイト“National Pandemic Flu Service”または専用電話回線を通じて症状を確認するサービスを始めた。また国民自らの感染状況を監視・報告するモニタリング・システム”FluSurvey”に基づく調査結果を公的保健機関の調査結果と並行して公表している。
また、わが国ではなお結論が不透明なワクチン接種の費用負担の問題につき、ドイツ連邦内閣は8月19日に民間保険会社の団体である疾病保険協会(Der Verband der Privaten Krankenversicherung:PKV)、疾病保険会社との間での費用負担協議がまとまり、9月末か10月初めに予定されている接種実行に関する規則につき合意した旨発表した。
今回のブログはこれらの動向を中心に解説する。
1.オーストラリアの新型インフルエンザ・ワクチンの準備状況
連邦保健高齢者担当省(DHA)によると、8月28日現在の同国の累計確認感染者は 34,467人、入院者数は417人(うち集中治療室(ICU)は83人)、累計死者数は150人である。ワクチンの治験開始から約1か月経過したがオーストラリア連邦保健高齢者担当省(Department of Health and Ageing:DHA)は8月20日にCSL社から世界で初めての大人に関する予備治験結果(preliminary trial data)報告を受けた旨公表している(専門家によると安全性を確認するには十分なデータではなく数週間後の追加報告を求めている)。DHAは2,100万人投与分のワクチンを発注しており、各人に1回接種するとすればオーストリアの全人口(2,100万人)に接種可能な量を確保している。従って、DHAは十分な治験結果の報告を受けた後、8月末には連邦政府は第一次分となる200万投与分バッチを受け取り、ワクチン接種プログラムとして優先接種グループ(詳細な治験結果が出ていない子供を除く)を対象に10月中に実施するとしている。(筆者注3)
2.英国の最新坑ウイルス・ワクチン対策と医師の責任問題
英国における新型インフルエンザの感染拡大はやや落ち着いた傾向を見せている。しかし、秋以降季節性インフルエンザの感染時期と重なり、さらに今は耐性ワクチンの検出は世界的にみても限定的ではあるが、さらなる変異の危険性を指摘する疫学専門家は多い。
従って、英国は医療体制に不安のある地域を限定しつつ次のような新たな感染拡大策を取り始めたというのが正直な見方であろう。なお、以下紹介する内容について在英国日本大使館は英国在住の日本人向けの“Q&A”を作成、公開している。英国の保健医療サービス制度であるNHS(GP)のことを知らないと分かりづらい点もあるが、説明内容は正確で参考になる。(筆者注4)
(1) “National Pandemic Flu Service”へのアクセス
英国政府は、現在3,300万人の坑インフルエンザ薬(タミフル等)を備蓄しており、また今後5,000万人分まで増やす予定である。現時点で本サービスを利用できるのはイングランドだけで、北アイルランド、スコットランドおよびウェールズは公共医療体制の対応能力が十分と考えているようである。
前記接種の優先順位に該当しないインフルエンザ様患者がこれら坑インフルエンザ薬を入手するためには専用サイト“National Pandemic Flu Service”や専用電話回線を通じた症状の報告が必要である。政府の方針として公衆衛生上の観点から、感染者の国籍、居住・非居住にかかわらず治療薬が届くことになるが、国民健康医療サービス(NHS)を利用するためには原則登録が必要となるのでまずその手続が必要である。
(2)坑ウイルス薬タミフル投与に関するWHOのガイドラインと英国の実績の相違問題
8月21日、WHOはパンデミック(H1N1)2009“briefing note 8”において本来合併症を持たない健康なインフルエンザ様患者に対し坑ウィルス薬を投与すべきでないとするガイドラインを公表した。その仮訳は国立感染症研究所感染情報センターが行っており、詳細はそちらで確認して欲しいが、今までのWHOの坑ウイルス薬投与の取組み方針から見てどう受け止めるか微妙な点が気になる。その点はわが国の疫学専門家の意見を聞いてみたいが英国でもこの点が問題となった。また、WHOのガイドラインは5歳以上の健康な児童への坑ウイルス薬の投与も不要であるとしている(最新のWHOのアドバイスでもほとんどの患者がインフルエンザの症状を訴えたが、その大部分が1週間以内に回復したとしている)。
一方、英国メディアによると英国では従来EU加盟国最大の感染拡大国として、最初の2週間でタミフル(oseltamivir)50万以上のパックを健康なNHS登録者に投与している。感染拡大の割合が低下傾向を示した8月中旬においても45,986治療単位(courses)が投与された。このようなタミフルの大量使用がウイルス耐性をもたらす危険性問題があり、実際、英国でも体調不調(sick)、脱水(dehydration)のリスクを伴う嘔吐(vomiting)、悪夢(nightmares)、不眠等418件の副作用(side-effects)報告が出ており、2件の死亡例がタミフルに関連している。
英国のオックスフォード大学の研究チーム等は緩やかな新型インフルエンザ症状の場合に、坑ウイルス薬の投与方針の再考を促している。
また、一方で、重症化問題に関し8月20日にランカシャー州プレストンの55歳の男性(Godfrey Armstrong)が健康体にもかかわらず新型インフルエンザで死亡したことから、医師(GPであろう)が重症化していたことを故意に隠蔽したとして家族がNHSの担当省である保健省の健康保護局長を訴えるなど問題が広がっている。(筆者注5)
3.ドイツ連邦政府のワクチン接種の優先順位問題と疾病保険機関・団体との接種費用の負担問題が決着
(1)ワクチン接種の優先順位
本ブログでも紹介しているとおり、ドイツの感染者数は8月27日現在で英国を上回る15,567 人となり、連邦政府はその対処に力を入れている。連邦保健省は10月以降国民の80%に予防接種することを検討中であると報じられているが、優先的に接種を受けられるのは妊婦、慢性疾患を持つ人、医師・看護師、警察・消防士等である。
(2)ワクチン予防接種にかかる政府・関係機関による費用負担問題の閣議決定
ワクチン接種は2回行うとして28ユーロ(約3,700円)かかる。今回の決定内容は疾病保険協会が加入者の費用50%を負担し、残りの費用を政府が負担する形をとり、追加予算として2009年度約6億ユーロ(約786億円)、2010年度約2億ユーロ(約262億円)を確保するとしている。なお、連邦保健省(Bundesministerium für Gesundheit)のリリースによると保険契約者の保険料率の引上げは行われないとしている。
(筆者注1)CSL社は2009年6月29日に次のようなリリースを行っている。
「7月中旬以降行われる治験ボランティアは18歳から64歳の健常者が対象で6か月間4回の指定接種を受ける。3週間の間をあけて2回ワクチン注射を打ち投与量の増加による変化結果を見るとともに、ウイルスへの適正な免疫性を生じているか血液検査結果等を見る予定である。」
(筆者注2)新型インフルエンザ(パンデミック2009)ワクチンの製造過程やその今回のスケジュール(time-line)とはどのようなものであろうか。専門外であるため筆者も勉強方々関係サイトを調べてみた。これだけ疫学・臨床上重要な問題であるにも拘らず、公的保健機関、研究機関、(社) 細菌製剤協会等や製薬メーカー(あえてあげるとすれば、2004年5月28日 厚生労働省感染症分科会感染症部会新型インフルエンザ対策に関する検討小委員会におけるわが国の製造メーカーである財団法人化学及血清療法研究所の後藤修郎氏の説明や「緊急研究 事後評価『新型インフルエンザ・ワクチンの生産に関する緊急調査研究』研究)(研究代表者名:国立感染症研究所板村繁之氏)等であろう」を調べてみた。残念ながら、一般的ワクチンに関する啓蒙教材のみであった。海外で見た場合は8月7日付け本連載NO.12で紹介したWHOの“briefing note 7” がこれに匹敵するものである(従来からWHOの参考重要データを仮訳している国立感染症研究所が今回note7を訳していないのはなぜか)。
ここで、わが国のワクチンの開発・製造・使用段階に関する薬事法や同施行規則、省令について整理してみる。専門外の筆者が理解できる範囲でまとめてみた。専門家による正確かつ分かりやすい解説を期待したい。
・基礎調査
・スクリーニング・テスト
・製剤・製法研究及び薬学的研究
(1)開発段階
①非臨床試験(GLP省令) 「医薬品の安全性に関する非臨床試験の基準に関する省令」(2008年8月15日施行)
②治験届
③臨床試験(GCP省令) 「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(GCP)(1997年3月27日省令第28号)
(注)②、③は「治験薬の製造管理、品質管理に関する基準」(治験薬GMP)(2008年7 月9 日薬食発第0709002号)に基づく。
(2)製造段階(販売承認、製造許可)
①品質管理(GQP省令) 「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」(2004年12月24日省令第179号)
②安全管理(GVP (Good Vigilance Practice)省令)「医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の製造販売後安全管理の基準に関する省令」(2004年9月23日省令第135号)
(3)流通・使用段階
初めの段階で国家検定(承認申請・審査)が行われる。
①再審査
②再評価
(注)医薬品の市販後の品質、有効性及び安全性の確保を図るためのPMS(Post-marketing Surveillance)は、副作用・感染症情報の収集・処理制度(以下、副作用報告制度)、再審査制度及び再評価制度の3つの制度で構成されている。その根拠はGPSP省令(「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令」2004年12月20日厚生労働省令第171号)である(同省令により「新医薬品等の再審査の申請のための市販後調査の実施に関する基準:GPMSP省令」は廃止された)。
なお、GPSP(Good Post-Marketing Study Practice)は、製造販売業者等が行う製造販売後の調査及び試験に関する業務が適正に実施され、また、再審査及び再評価の申請を行う際の資料の信頼性を確保するために、遵守すべき事項を規定した基準である。
(筆者注3)8月26日の新聞報道によると「厚生労働大臣のワクチン接種への早期取組みに関し、海外製ワクチンの輸入は、緊急時に国内での臨床試験(治験)を省略して承認できる薬事法上の「特例承認」を初適用する方針だ。舛添厚労相は、国内で簡略化した臨床試験を実施し、安全性を確認してから承認する意向も示した。」とある。これを正確に言うとこの考え方は平成20年4月16日開催の第7回新型インフルエンザ専門家会議配布資料4「新型インフルエンザワクチンの国家検定について(案)」において示されている。
すなわち、次の考え方である。
(1)新型インフルエンザワクチンは、薬事法第43条に基づき、検定を受け、かつ、これに合格しなければ、販売、授与等をしてはならないものとされている。
(2)しかし、新型インフルエンザの発生時、健康被害の拡大を防止するため、新型インフルエンザワクチンが緊急に使用されることが必要である。ワクチンの備蓄原液を製剤化し、出荷するまでに、製剤化作業や規格試験の期間に加え、さらに上記の検定を受ける期間を要するため、ワクチンの迅速な供給が困難となることが懸念される。
従って、緊急に使用される必要があると認められる場合には、フェーズ4A以降、新型インフルエンザ専門家会議の議論を経て、直ちに国家備蓄しているプレパンデミックワクチン原液の製剤化を行うよう、ワクチン製造会社に要請した時点をもって、薬事法第43条の規定にかかわらず、当該新型インフルエンザワクチンの販売、授与等を行うこととする。
(筆者注4) 在英国日本大使館が提供するサイトでは、英国のNHS(GP)を初めとする医療制度、診療の流れ、NHSの加入方法等NHSの専門サイト“NHS Choices”を使った説明を行っている。大変わかりやすく正確かつ実践的である。現地の専門家によるアドバイスがあったと思うがわが国でも参考になろう。
(筆者注5) 8月21日付“Mail Online”は、WHOの発表(briefing note 8)によればかならずしも基礎疾患が重症化の要件ではなく、世界的に見て従来健康であった子供や50歳未満の成人の約40%が重症化しており、英国の医師も息切れ (shortness of breath)、呼吸困難(breathing difficulties)、胸痛(chest pain)や3日以上にわたる高熱といった症状をチェックできるはずであったと指摘している。
〔参照URL〕
http://www.healthemergency.gov.au/internet/healthemergency/publishing.nsf/Content/health-swine_influenza-index.htm
https://www.pandemicflu.direct.gov.uk/
http://www.bmg.bund.de/cln_091/nn_1168278/sid_32BA346D0590283B0BA985CF5C577CB3/nsc_true/SharedDocs/Pressemitteilungen/DE/2009/Presse-3-2009/pm-19-08-09-leistungsVO.html?__nnn=true
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