2009年5月27日水曜日
オーストラリアの新型インフルエンザA(H1N1)感染者数の急増の背景と対応の実態
わが国では世界的に見た感染者数の増加が頭打ち等と言う記事が一部出始めている。世界第4位の感染者数をかかえる国の正しい意見とは思えないが、世界的な観光国であるオーストラリアでは現地時間5月25日オーストラリア・シドニー港(NSW州)に25日に入港した大型クルーズ船「パシフィック・ドーン( Pacific Dawn )号」に乗っていたオーストラリア人の男子2人(ともに5歳)が新型インフルエンザA型H1N1の検査で陽性を示したため、同船の旅客全員の1,800人以上が下船し、7日間の自宅またはホテルでの隔離措置を実施するよう保健当局から要請を受けた。
今回のブログでは、まだわが国のメデイアではほとんど紹介されない(1)観光船におけるオーストラリアの集団感染とその対応の詳細、(2)海外からの帰国学生の監視や学校閉鎖さらに(3)観光国である同国のH1N1をめぐる対外的広報体制の問題点を指摘する。
1.オーストラリアの最新感染状況
5月27日AEST(世界標準時(グリニッジ時)+10時間(日本は9時間) 6時現在)の確認感染者数は50人である。州別に見ると8州のうち発生州は次の6州である(感染が確認されていないが疑いのある人数は北部準州(1人)、タスマニア州(1人)である)。
・オーストラリア首都特別地域(ACT)1人(うかがわし検査中1人)
・ニュー・サウス・ウェールズ州(NSW)16人(84人)
・クイーンズランド州(QLD)7人(10人)
・南オーストラリア州(SA)2人(1人)
・ビクトリア州(VIC)23人(33人)
・西オーストラリア州(WA)1人(1人)
学校閉鎖はビクトリア州で3校、南オーストラリア州で2校、計5校である。
2.ニュー・サウス・ウェールズ州でのクルーズ船集団感染の状況と州保健省の対応内容
NSW州保健省のケリー・チャント(Kerry Chant)局長、同省サイトおよびメディア“Herald Sun”に基づいてまとめると次のとおりとなる。なお、当局の説明はかなり時差がある。これらの情報については連邦ベースと州の保健省サイトの双方を見ながら最新かつ正確な情報を入手しなければならない。
(1)クルーの乗客中130人が呼吸器系疾患(respiratory illness)の兆候があり検査を行っている。感染者との接触を報告した172人に対し無料でタミフルが投与され、徹夜で彼らに対する検査が行われた。
(2)インフルエンザに似た症状を申し出た乗客中13人のクイーンズランド住民についてはゴールドコーストの病院に緊急入院が認められた。13人のうち2人(8歳と37歳)は引続き隔離されたが残りの人々は自宅に帰った。
(3)陽性結果がでた2人の男子についてはタミフルが投与され、24時間以内に兆候がなくなるまで隔離された。ビクトリア州の5歳男子は25日の午後1時過ぎに自宅に戻った。
(4)簡易検査で陽性が出たクルーの乗客の子供4人中2人は、一般的なインフルエンザであると診断された。
3.国内感染の阻止策の強化と観光面からの課題
わが国と同様感染者数が急増している南半球の国の感染阻止策の現状を見ておくが、観光への影響を関係者は懸念しているが、迅速な情報開示は必須といえよう。
(1)帰国学生の監視体制(“daily Telegraph”記事:2009年6月25日)
わが国と同様に、当局はビクトリア州で海外渡航者と接触の機会を持たない2人学生の感染事例の発生に戸惑っている。学校での集団感染のリスクを回避すべく NSW州保健省のケリー・チャント局長は5月25日にメキシコ、米国、カナダ、日本、パナマの5か国からの帰国学生に対し1週間の通学禁止措置を実施した。さらに他の学生に拡がった場合はさらにこの期間を延長する旨発表している。
(2)同国の政府観光局のH1N1感染の説明
同国への中高生などの研修旅行はわが国で盛んであるが、5月27日時点で教育旅行サイトを見ると、5月24日現在の情報ではあるが感染者数が14人(同国で初めて感染者が確認されたのは5月9日クイーンズランド州である)であり、海外発生期から国内発生期に変更している。オーストラリアの二次感染は限定的であり、宿泊施設、観光施設は平常通り運営されている旨説明されている。上記の実態と併せ考えると、わが国の教育関係者はこの実態を正しく理解しているであろうか。
〔参照URL〕
http://www.news.com.au/story/0,27574,25539275-421,00.html?referrer=email&source=eDM_newspulse
http://www.healthemergency.gov.au/internet/healthemergency/publishing.nsf/Content/0070BF69A1A93A41CA2575C00038EF5B/$File/swine-flu-update-6am-20090527.pdf
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2009年5月24日日曜日
米国が高齢者医療健康保険や低所得者医療補助制度悪用詐欺阻止および法執行活動チームを立上げ
米国連邦保健福祉省(Health and Human Services:HHS)は、5月20日に標記専門チームの立上げを発表した。
オバマ新政権の柱となる政策に、高齢化社会対策と医療保険制度の抜本的改革(筆者注1)であるが、国民や議会の支持を得るためには一方で数兆円といわれる同制度を悪用した詐欺行為や財政基金使途の濫用等の阻止が必須という事情がある。
今回のブログは、わが国ほどではないが高齢化が進む米国社会の取組みと現行の2つ公的医療保険制度等を悪用した詐欺行為の手口の実態を理解するとともに、わが国として将来を見越し取組むべき課題を整理することにある。
なお、筆者は米国の社会医療政策の専門家ではない。しかし、従来から本ブログで適宜紹介してきているとおり、連邦関係機関の公式リリースや新規情報はほぼリアルタイムで把握できる。ウェブ上で検索できる範囲内の基本的情報(筆者注2)に筆者が確認した情報を追加しつつ説明を行う。
1.現行の米国の高齢化社会対策に関する基本的法律および施策・財政面の課題
(1)根拠法
1935年社会保障法(The Social Security Act of 1935:米国の社会保障・高齢社会対策の基盤となる法律)。米国の社会保障制度の中核は連邦政府が直接経営する「老齢・遺族・障害・健康保険(Old-Age,Survivors,Disability,and Health Insurance:OASDI)」であるが、同法の改正を含む高齢化社会対策法は次の4つであり、各州が行う施策の展開もこれらの法律に基づく。(筆者注3)
「1965年社会保障法の改正(Title XVIII and Title XIX of the Social Security Amendments of 1965 )」 “Medicare”および“Medicaid”
「1965年高齢米国市民法(the Older Americans Act of 1965)」
「1967年雇用年齢差別禁止法(The Age Discrimination in Employment Act of 1967)」
「1990年障害者保護法(the Americans with Disabilities Act of 1990)」(2) 高齢社会対策に係る施策
1967年の社会保障法改正により2つの代表的な社会保障制度が創設された。
(筆者注4)(筆者注5)
(ⅰ)「高齢者医療保険制度(Medicare)」は、「10年以上ソーシャル・セキュリティ税を納めた65歳以上であれば医療サービスを受給できる。2006年において4,320万人(高齢者3630万人、障害者700万人)が受給しており、連邦政府が運営し、サービス内容は大きく3つの支給区分に分けられている。(「パートA」と「パートB」はそれぞれ別の信託基金により管理されている)
①パートA(入院保険:Hospital Insurance:H1)
主に入院費用をカバーし、社会保障(年金)有資格者は全員が対象となる。財源は社会保障税(税率は課税対象所得の2.9%。労使折半)が主体。本人または配偶者による10 年以上の社会保障税の納付が必要であり、未納の場合は保険料の納付が必要となる。CBO(連邦議会予算局)の推計によれば、2007 年度の給付支出額は2,003 億ドル(19兆6,300億円)でメディケア給付全体の47.2%。一定期間以上保険料を支払った実績があれば、受給者になってからは、保険料の負担なしで病院の入院費用や退院後のナーシング・ホーム(日本の特別養護老人ホーム)の入所費用(100日以内の期限付)等が支給される。 受給者は一定の割合を利用料として負担する仕組みになっている。
②パートB(補足的医療保険:Supplementary Medical Insurance:SMI)
任意加入で保険料負担が必要で、主に外来診療、精密検査、医療器具の費用などが賄われる。主に医師報酬をカバー(任意加入)。財源は、保険料収入(全体の1/4)と連邦政府の一般財源(3/4)からなる。2007 年度の給付支出額は1,774 億ドル(17兆3,900億円)でメディケア給付全体の41.8%。
③パートD(処方せん薬給付:Prescription Drug Benefits)
処方せん薬費用をカバー(任意加入)する。財源は、保険料と連邦政府の一般財源が主体。一部州政府からの移転等がある。2007 年度の給付支出額は470 億ドル(約4兆6,000億円)でメディケア給付全体の11.1%。
(ⅱ)「低所得者医療扶助制度(Medicaid)」
一定の要件を備えた低所得者を対象とする医療扶助制度であり、2004 年時点で5,700 万人をカバーしている。運営は州政府によって行われ、受給要件や給付内容そのものは州が定めるが、連邦政府は給付条件等に一定のガイドラインを設けて補助金を交付している。高齢者に限ったものではない。受給者の半分は21歳未満の児童で高齢者は、1割程度という状況である。年齢、妊娠や障害の有無などによって受給資格が与えられ、例えば子供は親の所得にかかわらずメディケイドの対象となる。各州では低所得高齢者に対して連邦政府の定めた基本的なメディケイドのメニューに加えて、州独自のプログラムをいくつか提供している。
なお、メディケイドの費用に占める連邦政府の支出割合は、連邦医療補助比率(Federal Medical Assistance Percentage:FMAP)と呼ばれ、各州の一人当たり平均所得を一人当たり全国平均と比較して決定される。2007 年度に関しては、最高は75.89%(ミシシッピー州)から最低は50%(17州)となっている。
(3)財政面の課題
米国の2006年財政年度で社会保険・福祉関係の連邦支出額はOASDI関連で約67兆円、高齢者医療保険制度関係で約47兆円、低所得者医療扶助制度関係で約22兆円である(日本の社会保障給付金(2006年度)は約89.1兆円である)。米国における財源問題が最大の課題であり、すでに1983年社会保障法改正で支給開始年齢を2003年から2027年までの間に現行の65歳から67歳に引上げる予定(筆者注6)を決めており、米国の医療保険政策立案機関「カイザー財団」(筆者注7)の推定値5/21(25)等多く長期的財政収支推計が行われている。
2. 高齢者医療保険制度を悪用した詐欺行為の阻止にかかる連邦司法省と連邦保健福祉省連名の共同(interagency)行動チーム(Health Care Fraud Prevention and Enforcement Action Team:HEAT)を新たに設置
(1)発表リリース
連邦司法省長官(Eric Holder)および同保健福祉省長官(Kathleen Sebelius)は、5月20日付けで標記リリースを行った。両長官が行った発表の要旨は次のとおりである。
①HEAT チームは、詐欺、無駄や不正利用の阻止に関する新しい資源や技術を投資する一方で、詐欺と戦うため既存プログラムの積み上げと強化のため連邦司法省(DOJ)と保健福祉省(HHS)から派遣される上級担当官をメンバーに含めた。これらの取組みは南フロリダやロスアンゼルスで効果的に戦ってきたDOJ-HHS共同メディケア詐欺攻撃部隊(joint DOJ-HHS Fraud Strike Force)の組織拡大という面を含む。2007年に設置されたこれらのチームは、不可解な詐欺パターンを特定するため「データ駆動型アプローチ(data-driven approach)」(筆者注8)を使用するとともに、詐欺活動の監視やそれらの詐欺の稼ぎ手を捜査するうえで成功裡に実績を上げてきたものである。メディケア詐欺攻撃部隊は南フロリダの活動においてすでに146人の被告を有罪とし、1億8,600万ドル(約182億2,800万円)の民事損失補填処分(Civil Recovery)(筆者注9)とした。南フロリダの成功を受けてHEATチームは2008年5月のロスアンゼルスで第二フェーズの運用に取組み、その結果37人が詐欺犯罪として有罪とされ、メディケア・プログラムに対し5,500万ドル(約54億円)の損害回復命令が発せられた。
同チームは耐久性のある医療器具(Durable medical Equipment:DME)の提供業者に的を絞りHHS監察総監局と“Center for Medicare & Medicaid Services:CMS”による実証プロジェクトがあらたに構築される予定である。同プロジェクトでは、詐欺師が正当なDMEの供給業者のふりを行うことを防止するため潜在的提供業者のサイトへの監察を強化するとともに、次の点に率先して取組む。
①メディケア提供業者に対し法令遵守に関する教育訓練を増やすとともに詐欺行為の特定とその阻止に関する資料や知識を提供する。
②詐欺につながるパターンを特定できるよう“CMS”と法執行機関間の情報の共有化を改善する。
③“Medicare パートC”および“同パートD”の法遵守状況のモニタリングと法執行の強化と完全性を保証する。
(2) 高齢者医療保険制度詐欺の実態の概観と詐欺被害に遭わないための具体的施策
連邦政府HHSの「Medicare専門サイト」や“Center for Medicare & Medicaid Services”の「パンフレット」が詳しくこの問題について説明している。筆者が常日頃主張しているとおり、最近わが国の関係機関・メデイアも反応が早くなってきたが、詐欺の手口の被害者からの早期情報入手とその公開が二次被害の歯止めになることは言うまでもない。ここでは適格者手続について順番をおって説明している「後者」を中心に説明する。
A.手口例
①あなたが決して受けたことないサービスや品目に関し、CMSや別の提供事業者からの請求書が届く。
②あなたが入手したものと異なるメディケア用機器に関する請求書が届く。
③医療、医薬品や医療用品(items)に関し、あなたではない他人のメディケア・カードが利用されている。
④自宅で使用する医療用品を一旦返却した後にもかかわらずメディケア請求書が届く。
⑤メディケア・プランに関し、あなたの誤解を招く誤った情報を使用された。
以上のほか、「なりすまし詐欺(Identity Theft)」に会わないよう社会保障番号やクレジット・カード情報等を決して第三者に漏らさないよう自ら守ってください。
B.あなたが当初のメディケア・プランに基づき医療サービスを受ける場合、同サービスの請求事務を扱う会社から「メディケア要旨通知(Medicare Summary Notice):MSN」が届く。MSNにはあなたが受けるべき医療サービス、医薬品等に係る費用額およびCMSに支払うべき金額が示されている。実際あなたがCMSから得られるメディケア・サービスであるかの確認をし、相違があれば以下の専用電話や医師、提供業者等に電話してください。
また、もし医師や提供業者から的確な返事がないときは次の連絡先に電話してください。あなたが次の要件を満たし、かつ後日「うたがわしい報告」に基づく調査により詐欺であることが判明したとき、あなたはその報酬として最高1,000ドル(約98,000円)が得られる(この説明は「パンフレット」でのみ説明されている)。
C.サービス等提供者が次のような説明をしたときは、まず詐欺ではないかと疑ってください。
①テストは無料です。記録用にメディケア番号(9桁の数字とアルファベット1桁)
だけで結構です。(注書:臨床検査(clinical laboratory tests)に関し、自己負担金はない。提供業者が善意でこの点を説明している場合があるので、そのことは注意してください。)
②提供業者がメディケア・サービスは、まずあなたに医療用品やサービスを決めるよう求めるよう説明する。
③提供業者は同サービスの対価としてCMSがどのように支払うかについて知識があります。
④テストは回数が多いほど割安です。
⑤医療用品やサービスはすべて無料です。
また、提供業者が次のようなことを行うときは詐欺ではないかとまず疑ってください。
①臨床検査、メディケアで保護される子宮外頚癌検査(PAP smears test)や前立腺癌検査(prostate specific antigen:PSA test)、インフルエンザや肺疾患(pneumonia shots)検査に関する自己負担額請求を求める。
②あなたの支払い能力をチェックすることなく、以前に説明した以外のサービスに関する自己負担額を放棄させる。
③CMSの公式サイト“People With Medicare”で相談してくださいとすすめる。(筆者注10)
④自分等はCMSの正規代理業者であると主張する。
⑤より高い料金の医療サービスや検査を受けるようあなたに圧力をかけたり脅します。
⑥テレマーケテイングや訪問販売を使用する。
D.詐欺防止のために予備知識
①あなたのメディケア請求者番号(Medicare Health Claim Number:メディケア・カードに印字)は医師またはメディケア提供業者以外に示してはなりません。
②適切な信頼できる医療専門家以外にあなたの医療記録カルテや医療アドバイスのために見せてはなりません。
③無料であると表示されているメディケア・サービスを受け入れる際十分い注意して確認してください。
3.各州司法機関におけるメディケイド詐欺対策
メディケイド詐欺問題は、各州の司法省でもその阻止強化が大きな課題のようである。オレゴン州司法省サイトで見ると、法執行部門の5部門のうち1つを同詐欺対策部門(Medicaid Fraud Unit:MFU)に当てている。参考までにその機能概要を記しておく。
・法的な支援業務
MFUは連邦、州や地方の関係機、すなわち社会保障機関、法執行機関、事業者団体、保険会社および市民からの照会を受け付ける。MFUはまず潜在的な犯罪訴追を検討、一定の場合、民事救済に利用する。
刑事訴追を行う場合、連邦地方検事からの照会に対応する。多くの場合、MFUの弁護士は地方の検事局との合意のもとで特別支援者としてその起訴活動に寄与する。その他FBIや連邦司法省と連携を取る。
(筆者注1)オバマ政権が選挙公約に掲げた「医療保険制度改革」の遂行は、米国内の最重要課題の一つであり、大統領は、全国民を医療保険の対象とすることは道徳的な義務だとし、制度の拡充によって、メディケア(高齢者医療保険)など社会保障のコストが削減できる可能性があると主張している。DOJ・HHSのリリースにおいても「メディケア・メディカイド」詐欺防止に関する2010財政年度予算は3億1100万ドル(約304億8,000万円)と2009年度比で50%の増額を行った。この監視強化により今後5年間で27億ドル(約2,650億円)の損失削減が図れる旨述べている。
(筆者注2)筆者から見ると、わが国ではこれら問題について正確かつ最新情報がないというのが本音である。そこで、東京大学総括プロジェクト機構ジェロントロジー寄付研究部門(2009年4月から同部門は「東京大学高齢社会総合研究機構)として恒久的組織化されている」主催で2007年7月24日に行われた報告(報告者は元ノースカロライナ州高齢化対策局・ ジェロントロジー寄付研究部門客員研究員 クルーム洋子氏)「米国(ノースカロライナ)の高齢化:現状と対策」等を参考とした。この報告は専門家向けではあるが、米国の実態を正確に把握する上で参考となるレポートである。
(筆者注3)各法律名の訳語は意訳となるが、あえてクルーム洋子氏とは異なる訳語を用いた。その理由は本ブログで常日頃説明しているとおり、米国の法律名は法案提出時に提出議員が付けたままであり、時として意味不明や誤解を招く場合があるからである。
例えば、“The Americans with Disabilities Act of 1990”を訳す場合、筆者は同法の12101条“FINDINGS AND PURPOSES” の内容を改めて読んでみた。そこに書かれていることは、まさに法案提出の意義すなわち「身体・精神等を持つ人々が過去の歴史において多くの差別や社会からの排除行為があったことを前提に、あらゆる場においてこれらの人々にとって機会均等、全面参加、生活の自立、経済的自立といった社会的課題を法的に解決すべく」定めたものである。米国社会のまさに憲法に近い内容の法律である。「障害のあるアメリカ人に関する法」というクルーム洋子氏の訳語ではその趣旨は正確に伝わらないと思うが、いかがであろうか(個人的に注文をつけたわけではない。法律専門家の場合も含め、わが国で訳される法律名のほとんどがこのような傾向にあり、筆者としてもあえて述べたかっただけである)。
(筆者注4)本説明は、クルーム洋子氏のレポートおよび平成19 年6 月「財政制度等審議会 財政制度分科会 海外調査報告書」から一部抜粋、引用した。
(筆者注5)米国HHSは、Medicare受給対象者からの多くの質問への準備として“Q&A”サイトを用意している。これ自身目新しいことではないが、筆者は同サイトの“Medicare Eligibility Tool(自分自身で適格性のある” Medicare “を検索できるツール)”サイトに関心があり、実際入力してみた。自分がどのパートでどのような給付が受けられるかにつき、入力しながら確認できる仕組みとなっている。
(筆者注6)米国における“Medicare”の対象年齢引上げ問題は1983年の社会保障法改正に併せ多くの関係機関で議論され、例えば1993年8月HHSの監察総監局(Office of Inspector General:OIG)の資料“Medicare Entitlement Age”において財政面から21世紀を見据えた年齢引上げの背景等につき論じている。また、毎年度「連邦病院保険およ補足的医療保険信託基金理事会(the Board of Trustees of the Federal Hospital Insurance and Federal Supplementary Medical Insurance Trust Funds)」が発表している年報においても長期的観点にたった分析が行われている。
なお、歴代の大統領は医療制度改革に取組んでおり、例えば2003年「ブッシュ政権の医療保険制度改革案」2003年3月31日みずほUSリサーチや前記平成19 年6 月「財政制度等審議会 財政制度分科会 海外調査報告書」でも詳しく論じられている。
(筆者注7)“the Kaiser Family Foundation”は、米国の健康医療保険制度などに関するNPO財団であり、他の助成財団(grant-making foundations)と異なり、独自の調査や他の「助成財団と組んで活動を行っている。
(筆者注8)“data –driven approach” という用語わが国の自体司法関係者では馴染がなかろう。データ分析に基づく広域犯罪、コンピュータ犯罪、詐欺犯罪など予見可能性の困難な知能・地域犯罪捜査を効率化すべく導入されている科学的捜査手法の専門用語である。米国の連邦司法省や筆者がログイン資格を持つNCJRS(連邦刑事司法レファレンスサービス )、連邦司法研究所(NIJ)の資料ではよく出てくる用語である。代表的プログラムが“COMPASS:Commuinity Mapping,Planning and Analysis for Safety Strategies”である。なお、“Mapping”に関する司法機関の教育研修ツールについては“SUPPORT COMMUNITY POLICING WITH 21ST CENTURY TOOLS”が詳しい。
(筆者注9)“Civil Recovery”は、「民事損失補填」であるがその法的意義については詳しく調べてみないとはっきりしない。英国と米国ではその根拠法や使われ方が異なるようである。英国における“Civil Recovery”については内務省サイトで詳しく説明されている。
(筆者注10) この説明の意味が不明であり、その理由を筆者なりに調べてみた。実際にアクセスしての感であるが“Phishing”が行われているようである(総合セキュリテイ・ソフトが警告する)。前述したとおり、「なりすまし詐欺に要注意」と何回も説明している背景が理解できた。
〔参照URL〕
http://www.hhs.gov/news/press/2009pres/05/20090520a.html
http://www.medicare.gov/fraudabuse/Overview.asp
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2009年5月20日水曜日
WHO事務局長マーガレット・チャン氏が新型インフルエンザ大流行について再度警告
新型インフルエンザA(H1N1)の弱毒性について、わが国のメディアが悪しき影響を受けているが、感染者数が圧倒的に多い米国の疾病予防管理センター(CDC)において“Novel Infuluenza A(H1N1)”(筆者注1)と言う表現やその危険性が季節性インフルエンザと同程度といった解説が定着し始めている。CDCが持つ世界的な影響度から見るとこのような評価を現時点で出すことはいかがと考え、参考として欧州疾病予防管理センター(ECDC)や欧州委員会「健康・消費者保護総局(the Directorate General(DG) for “Health and Consumers”)」(筆者注2)等の関係サイト等を見てみたが、”novel“は国別感染状況の地図の標題で出てきたのみである。
その問題はさておき、本題に入る。5月18日にWHO事務局長マーガレット・チェン博士(Dr Margaret Chan Directorate-General of WHO)が第62回世界保健機構(WHO)総会(Sixty-second World Health Assembly)におけるスピーチの内容は、国際機関の立場や現実の世界が今取組むべき多くの課題を取り上げており、また世界的に深刻な大流行の兆しを見せる新型インフルエンザ問題について医療専門家としての警告をならすものである。(筆者注3)
今回の総会の主たる議題がまさにフェーズの引上げの是非であり、英国やわが国の主張である引上げ反対とWHO事務局の意見調整である点は報道されているとおりであろう。
わが国の関係者は改めて強い関心をもって世界的視野の問題を理解すべきと考え、専門外ではあるが仮訳を試みる次第である。
〔スピーチの仮訳〕(筆者の責任において補足的な訳語を追加した)
過去30年以上、世界は平均的により豊かになった。人々はより寿命が延びより健康的な生活を楽しんでいる。しかし、これらを助長した傾向には残忍な現実が隠されている。今日、同一国内や国家間における所得レベル、就業機会、健康状態の差はこの最近の歴史上見ないほど拡大している。我々の住む世界は均衡が取れていないし、特に健康の問題では最もこのことは顕著である。現在の経済の下降は豊かさや健康を低下させるが、とりわけ開発途上国ではその影響は最も大きいものとなるであろう。
人間社会は常に「不公平さ」で特徴づけられてきた。歴史は、「泥棒男爵」(筆者注4)とロビン・フッドといった相反する存在を持ってきた。しかし、今日における違いは、これらの不公平がとりわけ保健・医療分野の利用する権利に関し致命的になったことである。
世界は、2000年9月に189か国の代表者が国連総会において、その共同責任において「ミレニアム宣言」(筆者注5)とその「最終ゴール」を保証したことを感謝している。そのゴールの内容は、現実の世界がすばらしい公平さを導くため極めて重要な方法である。
世界中の人々が、健康推進に取組んでいる各国や国際機関の担当官が医療問題について優先させたことを感謝している。このことは、世界の医療問題についてより公正さの確保への最も確実な道につながる。
公衆衛生は、WHOの「『健康の社会的決定要因』委員会(the Commission on Social Determinants of Health)」で取り上げられたことに感謝されるべきである。私は同委員会の研究結果に全面的に賛成する。健康分野における成果に大きなギャップが不ぞろいであってはならない。
繰り返し言うが、健康問題はこの現実世界を形作る上でかならずしも重要な問題ではない。健康政策は経済利益の見通しと常に相対立し、健康問題は何度も経済的利益の切札にされてきた。何度も言うが、健康問題は近視眼的かつ他の分野の狭い焦点での政策から矛先を向けられてきた。
健康に関する平等性は、生きることと死ぬ方法の問題である。HIV/AIDSの大流行は最も可視的かつ測定可能な方法でこのことを教えてくれた。我々は危機が発生した時にまさに平等の意義を理解する。
世界は多くの危機や戦線に直面している。
2008年に我々の不完全な世界は、短期間に燃料危機、食糧危機や金融危機といった問題を提供してきた。気象変化の影響問題は強制的に軽視されすぎてきた。これらの危機は、国家、金融市場、経済や貿易システムにおいて急進的に相互依な形で起きた。
これらの危機は世界的規模で起き、開発途上国および弱い人々を最もひどく襲った。これらの貧しい世界を放置するすべての脅威は危機的にバランスを欠いている。
欠陥政策の結果は、フェアプレイの原則に基づき慈悲がなく例外を認めない。我々が見てきたように金融危機は急速にある国から他国に、また国内のある部門から他の多くの部門に感染した。経済運営がうまくいっており、不良資産を買わずに、また過度な金融リスクを引き受けなかった国でさえもそのような結果に悩まされている。同様に温室ガス排出権の貢献国は温暖化等気候の変化で第一にかつ最も強烈な打撃を受けている。
今、我々は、別の玄関先に極めて世界的な感染問題:21世紀の初めてインフルエンザの大流行の見通しを持つことになった。
5年間の長期にわたり家畜農場における高度の病原性鳥インフルエンザ(H5N1)(散発的に発生し人間においてしばしば命取りになる)の大流行を予期し、高い致死率を条件づけてきた。その結果、世界はよりよく準備を進めまた大きく脅えてきた。
今、我々は極めて高い大流行の可能性も持つ新型インフルエンザA(H1N1)ウィルス株が世界の端から端まで現れることを知った。鳥インフルエンザと異なり、新型インフルエンザ(H1N1)は人から人へと極めて簡単に感染し、1国内で一度感染すると急速に感染し、また新しい国へ感染が広がるのである。我々は引続きこの感染パターンを予期しなくてはならない。
鳥インフルエンザと異なり、H1N1は現時点ではメキシコを除き死者が極めて少なく、緩やかな疾患を見せている。我々はこの感染パターンが続くことを期待している。
定義上明らかなとおり、新たな疾患(diseases)は発病した時に十分理解されにくい、これは原因病原体がインフルエンザ・ウィルスの場合とりわけ正しい。インフルエンザ・ウィルスは最終的には“moving target” (筆者注6)である。その行動は不可解で予見が困難である。大流行の行動もウィルスが引き起こすがゆえに予見が難しい。現状どの程度ウィルスが進化しているかについて明言できる者はいない。
H1N1ウィルスの発生は政府、保健担当大臣、WHOにおいて正しい決定や極めて科学的に不確定な中で行動をとるよう圧力を生み出した。
4月29日、私はインフルエンザ大流行恩フェーズを「4」から「5」に引上げた。現在、なおフェーズは「5」である。
このウィルスはわれわれに猶予期間(grace period)をくれたが、この猶予期間がどのくらい続くのか知るすべがない。まさに今が嵐の前の静けさなのか誰も明言できない。
現在、南半球の数カ国(これらの国では季節性インフルエンザの流行が勢いづく)でウィルスの存在が確認された。我々は人間同士で感染しつつある新型インフルエンザと他のウィルスの相互作用について検討すべき個々の理由を持っている。
さらに我々は、「H5N1鳥インフルエンザ」が数カ国の家畜農場で明らかに確認されていることを忘れてはならない。この鳥インフルエンザ・ウィルスがH1N1とともに多くの人々にどのようなかたちで影響を与えるかにつき明言できない。
我々は「フェーズ5」への引上げに関し、多くの準備ステップを踏んだ。公衆衛生部門、研究所、WHOのスタッフや関係業界は24時間働いている。
大流行の特性の定義づけすることは、影響を受けるであろう世界人口の普遍的脆弱性を意味する。世界中すべての人に感染することはないであろうが、ほとんどすべてに人にリスクはある。
世界68億人の人々に行きわたるインフルエンザ抗薬やワクチンの製造能力は限りがあり、十分ではない。各国は近視眼的に不十分な方法を選択することでこの貴重な医療資源を無駄遣いすべきでない。
本日朝に聞かれたとおり、我々は新型ウィルスに関するリスク調査の強化に関するいくつかの質問に対する答えを得ようと努め、また各国政府に対する私のより正確な助言を行うべく試みている。
理想的に行けば、我々はハイリスクのグループに属する国に対する助言やこれらのグループの国々に支給すべき医療資源に関する推奨を行うための十分な知識を持つであろう。
私は本日の朝、総会参加国の主席医療技術担当官の意見を注意深く聞いたが、この内容は直ちに国際社会に警告をならすであろう。
今までのインフルエンザの大流行は調査や報告の能力を持った国々で起きていた。これらの国々の政府の調査努力、報告内容の透明性、ならびにウィルスに関する情報の共有に対する寛大さに感謝申し上げる。
インフルエンザの大流行は、脅威の共有以前に連帯の必要性に究極の表現である。大流行が早い段階では主に緩やかな疾病というかたちで現れたことは、まだ幸せである。
私は、国際社会に対しこの猶予期間を賢く利用することを強く主張する。また、あなた方が我々ができるすべてのことを一団となって正確に見極め、発展途上国への感染の阻止に矛先をむけて欲しい点を再度申し上げる。
私はインフルエンザ抗薬やワクチンメーカーを支援してきた。またWHO加盟国、援助国、国連機関、民間団体、NPOや国際基金を支援してきた。
そして、私は彼らに開発途上国に対する準備の拡大とその影響緩和手段の絶対的な必要性を主張してきた。
私が今まで述べたとおり、健康問題における公平性は生きることと死ぬ方法の問題である。危機のときこそとりわけ重要な問題である。
国際的な旅行のスピードと量はおどろくほどに増加している。まさに今H1N1で見たとおり、国際空港をもつ都市はウィルスを輸入するリスクを持つ。国家間の急激な相互依存性の増加は、経済の混乱の潜在性を増幅させる。
絶対的な同義的責任は別にして、国際社会において不均衡さにおいて被害を被る世界がないほど外部委託や看板方式(just-in-time production)を余儀なくさせてきた。我々は公平さについてきちんとかつフェアプレイの精神で面倒を見るべきである。
これらの輸入に伴い持ちこまれる脆弱性はすべての国に影響を与え、経済やビジネスを分裂させる。
今、手許にある証拠資料によると、メキシコ以外の国におけるH1N1ウィルスによる重度かつ致命的な感染による大規模発生は慢性的持病(chronic diseases)を持つ人に多く見られる。近年、持病の疾病が急速に増加するとともに豊かな国から貧しい国への移動している。
今日、慢性的持病で悩んでいる人の85%が低所得または中収入国の国民である。
この意味するところは明らかである。開発途上国は、あきらかに重度かつ致命的H1N1インフルエンザ感染リスクを持つ人々のまさにプールなのである。
現在の大発生のいくつかの特筆すべき特徴は、下痢(diarrhoea)または嘔吐(vomiting)であり、これらの症状がごく普通に見られる。
ウィルスが便から検出された場合は感染の追加ルートとして取り込まれたこととなろう。このことの重要性はウィルスが混雑する都市部のスラム街の不適切な公衆施設の場合に重大な意味を持つ。
次の大流行は、HIV/AIDSの緊急措置以来の初めてのケースで、薬物抵抗性をもつ結核(tuberculosis)の再来となる。今日の世界で数百万の人が薬を投与しており定期的に治療を受けて生活している。これらのほとんどの人々が住む国の健康管理システムは、負荷過剰、スタッフ不足かつ資金不足である。
金融危機は多くの人々が当然の結果として民間医療(private care)や公的資金医療サービスを求めることによる更なる困難な問題を生み出すと予想されている。
もし、世界がインフルエンザの終結を見た一方で、自ら直面する広範囲の薬物抵抗性をもつ結核の大流行が出てきたときどのようなことが起こるであろうか。
これらの不確実性の中心で1つのことだけは確実である。感染性因子(infectious agent)が世界的な健康に関する緊急事態を引きこした時、健康問題は枝葉の問題ではなくなるということである。この問題がステージの中央に一直線に進むのである。
世界はインフルエンザの大流行を懸念しており、このことは正しい。WHOの総会は相当に理由をもって開催期間を短縮してきた。各国の健康担当官は今、数日以上母国を離れることがきわめて重要である。
多くのことが我々の手にある。どのように我々が公衆衛生に関する投資を行うべきか。
世界は見るであろう、また1つの大きな疑問があきらかに起きてこよう。世界の公衆衛生サービスは、21世紀の挑戦の下で目的適合型であるべきか。もちろん答えは「否」である。私はその結果を迅速、高くかつ悲惨に見うる。
今第二の疑問がある。我々が最終的に行うべきことは何か。
同時に我々は大流行に関する懸念を曖昧にしたり、他の重要な健康プログラムを中断することはできないし、そのつもりもない。事実、今週も多くの取組課題が持ち上がっており、最近のWHOの会合でも取組んできた。
健康担当部門は洞察力を欠くことについて非難されるべきでない。我々は何が必要かについて長い期間知識をもってきた。
効果的な公衆衛生は包括的であり、まさに地域レベルまでもカバーする強力な健康管理システムに基づき対処するものである。それは適宜の教育を受け、動機付けされかつ均衡の取れた適切な人数の要員によることである。
それは、適切な医療製品や他の仲介物への公正なアクセスを意味する。これらのすべての項目は今回のあなた方の検討議題である。特に、私は公衆衛生、医療改革および知的財産に関する仕事を完全に行いうべき点を主張する。
これはあなた方のまさに議題であるが、WHO等国際保健規則(International Health Regulations)は健康管理部門に対し2008年金融危機以来優先的権能を与えてきた。しかし、誤った政策は世界的な経済財の減速を引き起こす。国際保健規則は早期警戒の強調的メカニズムと所与の関心でなく、科学により後押しされた通常のリスク管理を提供する。
私は次のことを促したい。現在継続中の独自調査により導かれたとおり、ポリオ撲滅キャンペーン(polio eradication)の仕事を終了させるべきである。またこの仕事はすでに世界を破壊的疾病からの回避にのせるという目標に達したといえる。
まさに今、特に“sub-Saharan Africa;SPA”(サハラ以南アフリカに対する特別援助プログラム)や“Asian sub-continent”(アジア亜大陸国への支援)で行ってきたポリオ絶滅のための巨大な監視ネットワークとインフラを、H1N1感染阻止のために立ち上げなければならない。
提案されたプログラムに係る予算は皆さんの議題でもある。WHOは世界的な健康危機問題についての対応を準備すべくリード役である。WHOの提供するサービスはいくつかの地域では酷使されるが、しかし我々はうまく対応している。WHOが特に緊急事態が悪化したときに引続き十分な機能を行えるよう保証が必要である。
最後に次のコメントで締めくくりたい。
インフルエンザ・ウィルスはウィルスの世界で極めて驚くべき効果を持った。しかしウィルスは洗練されたものでない(not smart)、我々も同様である。
その対応への準備レベル、技術や科学的ノウハウは1968年以降大幅に進んだ。我々は国際保健規則(International Health Regulations)の見直しを行ってきた。
また、WHOは「世界的な集団発生事例に対する警戒と対応のためのネットワーク(Global Outbreak Alert and Response Network)」と同様なメカニズムを試験し、強固にしてきた。
私が今述べたとおり、インフルエンザの大流行は世界的な団結の究極の表現である。我々はすべて一緒である。この困難を一緒に乗り切ろうではありませんか。ご静聴ありがとうございました。
(筆者注1)国立感染症研究所感染症情報センター(IDSC)の説明によると“novel influenza virus”、“novel influenza strain” の正確な意味は「これまでにヒトで検出されていなかった亜型のウイルス 」である。 日本語の「新型インフルエンザ(pandemic strain)」という言葉があるが、これは通常は、ヒトからヒトへ効率よく感染する能力を持ち、「大流行(パンデミック)」を起こす能力のあるウイルスという意味で、通常WHOフェーズの6で用いられるとのことである。
(筆者注2)欧州委員会の「健康・消費者保護総局(the Directorate General(DG) for “Health and Consumers”)」サイトで組織・機能について参照すべきである。なお、欧州連合―駐日欧州委員会代表部のサイトでは「欧州委員会の部局」で“Health and Consumer Protection DG ”として紹介されているが当該項目をクリックすると総局サイトにつながるだけで説明不足である。また、わが国の外務省サイトの説明では「欧州委員は事務執行に関し事務局職員により補佐されている。事務局は各国の中央省庁に該当する36部局からなり、主なものは総局(Directorate General)と呼称される」とある。これも正確でなく説明不足である。
(筆者注3)5月13日のロイター通信は、WHOの見解として「H1N1が今後強毒性のものに変異する可能性につき、豚インフルエンザウイルスから変異した今回のH1N1型の新型インフルエンザウイルスは、季節性のインフルエンザウイルスよりも感染力が強く、この新型インフルエンザウイルスに対して免疫を持っている人はほとんどいない。・・・・・1918年にパンデミックを引き起こし、数千万人が死亡したインフルエンザウイルスは、感染拡大の初期は弱毒性だったが、半年後に強毒性のものに変異し、世界中で猛威を振るった。1968年に感染が拡大した新型インフルエンザウイルスも、感染拡大初期は弱毒性だった。」という警告を報道している
(筆者注4)「泥棒男爵(robber baron)」とは、19世紀のアメリカ合衆国で蘇った、寡占もしくは不公正な商習慣の追及の直接の結果として、それぞれの産業を支配して莫大な私財を蓄えた実業家と銀行家を指した、軽蔑的な意味合いの用語。この用語は現在、強力か裕福になるために疑わしい商習慣を使用したと見られる実業家や銀行家に関して使用されることもある。(Wikipediaから引用)
(筆者注5) 2000年9月にニューヨークで開催された国連ミレニアム・サミットにおいて、147人の国家元首を含む189の加盟国代表が参加して、ミレニアム宣言(Millennium Declaration)が採択された。ミレニアム(Millennium)とは千年紀のことで、ミレニアム宣言は、新しい千年紀に入ろうとする時期に、国際社会の目標として採択された。 ミレニアム宣言(15)は、平和と安全の確保、開発への貢献と貧困の撲滅、環境の保護、人権の尊重とグッド・ガバナンスの推進、アフリカの特別なニーズへの対応などを課題として掲げ、21世紀の国連の役割に関する明確な方向性を示した。 (「我が国ODAの課題―アジア及びアフリカに対する援助を中心として―」国立国会図書館「レファレンス 平成20年12月号」より抜粋)
(筆者注6)“moving target”とは、ウィルスが突然変異により絶え間なくゲノム情報を変化させることをいう。ゲノム情報(Wikipediaによると「ある生物をその生物たらしめるのに必須な遺伝情報」として定義される。遺伝子「gene」と、染色体「chromosome」あるいはgene(遺伝子(ジーン)の)+ -ome(総体(オーム))= genome (ジーノーム)をあわせた造語RNAやDNA研究における用語)の変化は,しばしばウイルスの免疫感受性,薬剤感受性,細胞指向性,宿主域の変化につながり,予防治療効果の低下や新興再興感染症の原因となる。
国立感染症研究所〔ウイルス 第55 巻 第2号,pp.221-230,2005〕から抜粋および加筆)
〔参照URL〕
http://www.who.int/dg/speeches/2009/62nd_assembly_address_20090518/en/index.html
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2009年5月14日木曜日
米国の連邦裁判所規則等の期限改正法案が成立、議会の審議のフォローアップ・データベース
2009年5月10日未明に米国連邦裁判所サイト“U.S.Courts”(筆者注1)からオバマ大統領が5月7日に標記法案(H.R.1626)(筆者注2)に署名し、成立したニュースが届いた。この法案は連邦裁判手続に関する29の連邦法の改正に関するもので、米国でも裁判官や弁護士という裁判実務家には関心が高い問題であるが、一般人には極めてなじみが薄い問題である。
今回あえて取り上げた背景は法案内容の正確な理解とともに、このようなメディアもほとんど問題としない法案の内容について審議過程を調べようとしたら、わが国ではどれだけの時間がかかるであろうか、一方、米国ではどうかといった比較制度的な問題意識から取り上げるものである。筆者から見ると、本会議だけでなく委員会等における法案上程の背景や審議状況をリアルタイムかつ正確に把握できることは、民主主義国家では当然であり米国もその例外でない。
今回のブログは、この2点を中心に解説する。
1.本法案提出の背景となる連邦司法会議(Judicial Conference of the United States)の「裁判過程における期間計算に関する規則」の改正および「2009年制定法上の期限計算に係る技術的修正に関する法律(the Statutory Time-Periods Technical Amendments Act of 2009)」(H.R.1626)の可決
(1)この法案提出の契機は、2008年9月16日連邦司法会議(Judicial Conference of the United States)(筆者注3) (筆者注4)において、連邦裁判手続における期間計算に関する以下の4つの裁判所規則(書式を含む)の改正案が採択されたことである。
また、同会議は改正案につき1934年連邦最高裁判所規則制定権法(Rules Enabling Act of 1934)(筆者注5)に基づき、連邦最高裁に移送し、制定・公布するものである。
①連邦控訴所規則(Federal Rules of Appellate Procedure;FRAP)
②連邦破産裁判所規則(Federal Rules of Bankruptcy Procedure;FRBP)
③連邦民事裁判所規則(Federal Rules of Civil Procedure)
④連邦刑事裁判所規則(Federal Rules of Criminal Procedure)
なお、同会議において同時に①から④の各規則について期間計算以外(non-time computation rules and forms)の改正案も採択された(2009年12月1日施行予定)。
(2)著名な連邦上院司法委員会委員長(Senate Judiciary Committee Chairman)パトリック・リーヒー議員(Patrick Leahy)(バーモント州選出:民主党)が4月28日の連邦議会で行った議会のスピーチ記録等に基づき本法案の提出経緯等をまとめるのが最も正確で効果的であろう。
「マダム・プレジデント(筆者注6)、私は4月27日に上院が「2009年制定法上の期限計算に係る技術的修正に関する法律(the Statutory Time-Periods Technical Amendments Act of 2009)」(H.R.1626)を可決したことをうれしく思う。この価値のある政府提出法案(good-government bill)は、弁護士および裁判官が裁判過程における手続の遵守期限を計算するにあたり、一貫性がありかつ標準となる方法を新たに作り上げるものである。すなわち、条文数は少ないが米国の司法制度の有効性を向上させるうえで重要な超党派(bipartisan bill)の法案である。先週(4月22日)、同法案は下院の継続審議で可決している。
本法律は、裁判手続の期限(deadlines)に関し、最近行われた連邦期間計算規則に関する連邦司法会議(Judicial Conference of the United States)の勧告 を完全に組み込んだ法律である。裁判官や実務家にとって現在の締切期限の規定につき混乱や複雑さを減らす意味をもっており、かつ既存の期間の短縮をもたらさないことを保証するものである。
多くの研究とパブリックコメントのもとに司法会議の裁判所規則に関する常任委員会(standing committee)および控訴、破産、民事、刑事に関する諮問委員会(advisory committee)において現在の手続の期間計算期限につき予見性と統一性を提供する目的で新しい規則案を提案することとなった。今回提案する法案では、司法会議が指摘する現行の期間計算は混乱する内容でかつ誤った期限や訴訟当事者の重要な権利を失わせるという指摘に部分的に対応するものである。
現在の期間計算規則は、週末や休日は期間が30日未満の裁判所への期限計算上カウントしないが、30日以上の場合はカウントするという規定内容である。
一方、本改正法案では、公判運営に影響する多くの民事および刑事手続法を改正して、司法会議の提案する規則改正案と整合性をとることになる。第一に、改正法案は「○○日は○○日」と言うカレンダーどおりに期間計算することによっては実質的に期間が短縮化される定め方を見直すべく制定法上の期間の定め方を変更する。例えば、裁判実務家が週末を含むすべての日数を計算することで期間が実質的に短縮化するのを防ぐため「5日間」を「7日間」に、また「10日間」を「14日間」に変更する。事実上、この改正は制定法上同一期間を維持する効果をもたらすであろう。さらに期末が休日や週末にかかるときは期限は翌営業日に延長されることになる。
連邦司法省と司法会議は、2009年12月1日(司法会議の裁判所規則改正の施行日)以前における改正規則の施行を強くうながしており、今回連邦議会がこれに応じられたことをうれしく思う。
本法案については支援してくれた連邦司法省、米国法廷弁護士会(American College of Trial Lawyers)、控訴弁護士協議会(Council of Appellate Lawyers)、米国弁護士会の訴訟、刑事裁判部を含む幅広い関係者に感謝する次第である。
最後にオバマ大統領が適宜本法案に署名されることを楽しみにしている。」
2.米国連邦議会の法案審議過程の調査に関する代表的専門サイト
本章の説明は、わが国の法学部学生や院生だけでなく、海外情報の紹介メディアや総研の調査スタッフ等においてもマスターすべき内容なのでその点を理解して欲しい。なお、言うまでもないが、これらの立法情報専門サイトが最も必要とされる「検索機能」等においてEUの主要国でも類を見ない充実度が見られる点である。(筆者注7)
(1)“Thomas”(連邦議会図書館Library of Congressのサイト)
“Thomas”は1995年1月の第104連邦議会会期開始時に稼動を始めた。その目的は広く国民に無料で連邦の立法に関する最新情報を提供することであり、その後、特性や内容等を含む情報範囲の拡大を図り、現在は次の10項目について情報提供を行っている。なお、(2)以下で説明するとおり議会情報の多様化や世論形成の新たな挑戦サイトが出始めているが、その原データはいずれも“Thomas”であることと、それらは多くは“Beta 版”といえるものである。しかし、内容の良し悪しは別にして、多くの米国の若手層が政治に正面から取組む姿勢はわが国とは明らかに異なるといえる。
A.法案(Bills)、決議(Resolutions)
(ⅰ)現議会の上程法案(1989年第101議会から現議会の全法案)の検索(用語および法案番号)
(ⅱ)法案およびその修正要旨の検索(1973年から現議会までの全法案)
(ⅲ)多角的な法案の検索(Search Multiple Congress)
(ⅳ)法成立後“Public Law”(筆者注8)番号に基づく検索
(ⅴ)議会下院における公式投票記録(筆者注9)
(ⅵ)議会上院における公式投票記録
(ⅶ)法案提案議員(上院・下院)のサイトの閲覧
B.議会の活動状況
(ⅰ)昨日の本議会
(ⅱ)今、下院では(新しい順で全法案の審議状況すなわち「動議」「投票」「審議」等が参照できる)
C.議会の記録
(ⅰ) 最新の日付の上院・下院の活動状況のダイジェスト版が閲覧でき、必要に応じ全文にリンクすることもできる。
(ⅱ)議会の公式記録の検索:言葉や語句(phrase)、議案番号、日付での検索が可能である(1989年以降)。
(ⅲ)議会記録のインデックス
D. 審議スケジュールとカレンダー
(ⅰ)会期中の審議スケジュールと毎日の議事目録(Calendar) が閲覧できる。
(ⅱ)今週の下院の審議日時(特に継続審議などで成立が間近な法案等)
E.委員会情報(Committee Information)(連邦印刷局(GPO)の印刷物により下院・上院の委員会の記録全文の検索が可能)
F.大統領候補指名
G.条約(条約番号、条約の伝達日、略称、正式名、条約のタイプ:軍事、航空、通商、領事)、国内法の法的措置(legislative actions)、索引用語)
H.政府機関の公式サイトへのリンク
I.学校の教師が議会について教育活動をするための情報
J.本サイトのヘルプ・デスク
(2)“GovTrack.us”
“GovTrack.us”は、ジョシュア・タウベラー(Joshua Tauberer)(筆者注10) (筆者注11)が2004年9月に新たに立ち上げたサイトである。独立系、超党派、非営利、オープンソースサイト(筆者注12)で国民が毎日連邦議会の法案審議の状況を追跡することで議案、議員の活動をチェックできるというものであり、 “Webby Awards”(米国で最も権威あるWebサイト賞)の2006年政治部門で同賞を受賞している。
今回、代表者が自らサイトの利用方法やその利用の限界について説明しているので参考までに紹介する(“About This Website”を読むと文書作成はあまり得意でないのか全体として言いたいことが分散されている)。筆者なりに同氏が主張したいであろうと思われる点を中心に再構成しておく。
A.閲覧可能情報
①連邦議会上程の法案、②上・下院の投票記録、③議員自身の情報(オフィシャルサイトへのリンク)、④委員会情報、⑤公式の議会記録である。
B.個別ユーザーに要求に合わせた法案追跡ツールの提供
本サイトは調査ツールであるが同時に無料の追跡ツールでもある。 “Trackers”と言うツールに関心テーマ、議員名、法案番号、委員会名等を登録すると追跡結果が自動的に得られる。
C.データ入力結果の迅速性
法案の審議状況や条文そのものについては約24時間遅れるが、氏名点呼投票(roll call vote)の場合は公式サイトが公表するのとほぼ同じ1時間以内にサイトに掲載される。統計数字はほとんど毎週更新するが、現会期の議会情報は初めの数週間は更新されない。
D.過去のデータの閲覧
第103議会(1993-2000)までさかのぼっての検索が可能である。ただし、条文は106議会(1999-2000)までしかさかのぼれない。
E.利用者数
1日当り約3万人が利用しており、毎晩数百から数千のメールを送信する。
F.サイト協力者
2008年7月以降、ダニエル・ガブリエル(Daniel Gabriels)、ケビン・ヘンリー(Kevin Henry)やマク・ドレッシャー(Mike Drescher)が加わった。
(3)“OpenCongress”
民間プロジェクト(Sunlight Foundation等NPOの1プロジェクト)でその内容は上記2つのサイトと比較するとより国民の関心の度合いを測りながら併せて審議状況をフォローしている。すなわち、法案、委員会、報告書等の議会情報に議会や議員に関するニュースやブログを集約して提供している。さらに特徴的な点は最もよく閲覧されている法案の閲覧数などのランキングも公表するのである。国民だけでなく議会の議員も無視しえない情報 が含まれている。
(4)“the Open House Project”
“google”は世界中の言語やテーマ別に各種グループを組成しているが、上記Sunlight Foundation等が中心となって米国の連邦下院の活動とインターネットの機能的融合を目指すプロジェクトが“Open House Project”である。現在の参加者数は筆者も含む588人であり、政府や立法に関する情報の専門家、議会事務局、NPOやブロッガー等が下院の運用をいかにインターネットと統合するかという研究ならび一般国民が彼らの仕事の内容を理解しアクセスが達成できるよう参加型の改革を提言することが目的である。同プロジェクトは議会の手続を抜本的に改革するといったものではなく、その運用原則は処理手順の自動化(Paving the Cow paths)を目指すものである。
すなわち、その具体的意見集約の方法としては、まず“list-serve”というディスカッションの場でトピックスを選ぶ。その情報が下院の機関に届くとブログやwikiに書き直すとともにオンラインで共有するかたちで報告書を書き上げるのである。これらの貢献者達の活動は2007年5月8日C-Span(筆者注13)のカメラが並ぶ記者会見の中でブラッド・ミラー(Brad Miller)下院議員(ノースカロライナ州選出:民主党)と共和党員院内総務ジョン・ボエナー(Minority leader John Boehner)(オハイオ州選出)との白熱した議論において議会で達成可能なアクセス改革のあり方についてみずからの意見の一致を表したのである。また、同報告書はペロシ下院議長やステニー・ホイヤー(メリーランド州選出:民主党)からその内容につき保証を得ており、マスコミから多くの報道面の評価を受けた。
なお、現在上院の仕事やウェブに対する国民のアクセス権を確保するため超党派のプロジェクト“Open Senate project”を構築中である。
(筆者注1)“U.S.Courts”についてわが国で正確かつ最新データに基づき説明している市販文献を見たことがない。本ブログだけでなく米国の立法、裁判情報を理解する上で必須な情報であり、司法関係者でも理解不足の点もあるので、この機会に注記であらためて出来るだけ詳しく説明しておく。
(筆者注2)下院での法案(H.R.1626)と標題と同一内容の法案(S.630)が上院で上程されていたが(S.630の提案者はリーヒー上院議員他3名である)、下院法案の成立により実質的に審議の余地がなくなり(mooted)、廃案になったと“Govtrack U.S”等で説明されている。
(筆者注3)「連邦司法会議」は、1922年に連邦裁判所の裁判行政全般にわたる基本的裁判政策の策定組織として巡回裁判区の上級裁判官による「上級巡回区裁判官会議(the Conference of Senior Circuit Judges)」としてスタートした。1948年に連邦議会は新たな法律「連邦司法会議法(Judicial Conference of the United States :28 U.S.C 331 )」を制定し会議名を「連邦司法会議」に改称した。また、1957年から地方裁判所判事もそのメンバーに正式に加わった。2008年10月現在のメンバーは連邦最高裁判所長官(John G. Roberts,Jr.)と全米11巡回区、“District of Columbia裁判所”、“連邦巡回区裁判所(Federal Circuit)”、国際通商裁判所(Court of International Trade)
(筆者注4)の首席裁判官各1名および連邦控訴裁判所(D.C. Circuit)の主席裁判官15名の計16名である。
その任務(mission)すなわち連邦司法制度全体の運営は、合衆国裁判所事務局(Administrative Office of the United States Courts;AO)が担当している。司法会議の多数の裁判官に統計データを提供するだけでなく、同会議に提供される情報や提案の受け取り窓口と情報センターの機能も果たしている。AOは、連邦司法制度と司法会議の連絡役であり、連邦議会、大統領府、専門団体、一般国民との対応に際して、司法府側の立場を代弁する役割を務めている。とりわけ重要なのは、連邦議会で司法府の代表を務めることであり、関係する裁判官とともに、司法府の予算案、判事増員の要請、裁判規則の改定提案を連邦最高裁に行うなど、重要な案件について詳しい説明を行う。(“U.S.Courts”サイトの運用・管理もAOが行っている)(米国大使館サイトからの引用文にU.S.Courtsサイトの説明に基づき訳文を追加、適宜修正を加えた)
(筆者注4)国際通商裁判所(Court International Trade)について説明しておく。
「1980年関税裁判所法(the Customs Courts Act of 1980)」に基づき連邦議会は国際取引訴訟などから生じる増加・複雑化する紛争問題に効率的に対処するため連邦裁判制度を用意している。すなわち、同法に基づき実質的に従来の連邦関税裁判所(the United States Custom Court)の地位、裁判管轄および権限を明確化と拡大を行い、現在の「国際通商裁判所」に名称を変更したものである。
(筆者注5)1934年6月19日成立した「連邦最高裁判所規則制定権(授権)法(Rules Enabling Act of 1934)」に基づく、連邦最高裁の裁判所規則制定権能と連邦議会の立法権との委任関係は、元々は現状よりは簡単な構造であったとされている。しかし、裁判所の運用の実態は必ずしも簡単なものではなく判例や米国の専門論文でもこの問題がしばしば取り上げられている(本ブログはその解説を目的とするものではないので詳しくは“Find Law”、カルフォルニア大学デービス校のローレヴュー等を参照されたい)。
(筆者注6)“Madam President”は誰を指すのか。大統領に対し“Mr.President”は誰でも分かるであろう。筆者も捜し当てるのに一応苦労した。実際、連邦議会の公式スピーチでも“Madam President”がしばしば登場する。“Google”で検索しても出て来ないし、ヒラリー・クリントンが大統領になっていたとしたらそう呼ばれるであろうかも知れない。
答は、上院共和党議員の“Mrs Patty Murray”(ミセス・パティ・マリー)である。連邦下院の議長ナンシー・ペロシー(Nancy Patricia D'Alesandro Pelosi)を“Madam President”と呼ぶなら分からないでもないが、“Murray女史”がなぜ“President”なのか、それは民主党上院院内総務(Democratic Conference Secretary of the United States Senate)だからである。なお、同女史を含めの連邦議会委員の公式サイトは5月10日現在接続不可となり一切閲覧できない。その理由は不明である)。
(筆者注7) 松橋和夫「アメリカ連邦議会上院の権限および議事運営・立法補佐機構」国立国会図書館レファレンス平成15年4月号および同「アメリカ連邦議会上院における立法手続」同平成16年5月号が連邦議会における全体的立法手続の説明として有用である。
(筆者注8)米国では、連邦議会で法律が制定されるとまず"Public Law"として発行される。これは、議会に提出された法案の名称を踏襲している。その後、分野別に体系化された"United States Code"として編纂される(LexisNexis.jpサイトから引用)。
(筆者注9) 参議院では平成10年(1998年)1月に召集された第142回国会から押しボタン式投票が導入された。参議院における議案の採決は、記名投票を行う場合を除いて、押しボタン式投票により行うこととなっており、押しボタン式投票の導入により、議案に対する各議院の賛否を迅速に集計・記録できるようになった。投票結果は、「会議情報」の「本会議投票結果」(個別法案をクリックすると各議員別の賛成・反対結果が確認できる)から見ることができる(衆議院では同様のかたちで投票結果を見ることができない。その理由は不明である)。
なお、参議院の投票結果は個別法案に対する投票結果であり、米国の専門サイトで見るように各議員の投票結果のトレンド見るには別途手作業が必要であり、そのようなことを行っている団体や機関(NGO)やメディアはないであろう。要するに主権者は「かやの外」なのである。
(筆者注10)Joshua Tauberer氏は大学院生でかつソフトウェアの開発者である。“GovTrack.us”を立ち上げたほか、RDF(筆者注11) 形式の米国国勢調査データを管理している人物でもある。
(筆者注11) Resource Description Framework (RDF) とは、ウェブ上にある「リソース」を記述するための統一された枠組みであり、W3Cにより規格化がなされている。RDFは特にメタデータについて記述することを目的としており、セマンティック・ウェブを実現するための技術的な構成要素の一つとなっている。RDFの応用例にはRSS (RDF Site Summary) やFOAF (Friend of a Friend) などがある。(Wikipediaから引用)
(筆者注12)「オープンソース」とは、ソフトウェアの設計図にあたるソースコードを、インターネットなどを通じて無償で公開し、誰でもそのソフトウェアの改良、再配布が行なえるようにすること。また、そのようなソフトウェア。(IT用語辞典より引用)
(筆者注13)C-SPAN(Cable-Satellite Public Affairs Network)は、1979年3月19日に開局したアメリカ合衆国のホワイトハウスや連邦議会を中心に、政治報道を専門とするケーブルチャンネルのことである。
〔参照URL〕
http://www.uscourts.gov/rules/index2.html#hr1626
http://www.govtrack.us/congress/record.xpd?id=111-s20090428-21
http://thomas.loc.gov/
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2009年5月12日火曜日
注目の新検索エンジン“WolframAlpha”データ版の客観的評価について
最近わが国のブログで紹介され始めた話題(筆者注1)で、5月18日にサービス開始する“WolframAlpha”と“Google” はどちらが検索エンジンとして機能面等で優れているか、また“Google”の世界戦略はどのような影響を受けるのかといった問題につき各方面から解説が行われている。
5月11日に筆者に届いたドイツのメディア“SIEGEL ONLINE”(国際版)を読んでみると、ドイツらしいロジカルかつ辛口の記事が目に留まったので紹介する。Google自体話題性の多い企業であること(米国型企業戦略でもある)は言うまでもないが、“SPIGEL”が比較において使用した項目は単にわが国等関係者が従来指摘している以上に重要な視点が含まれているという判断から専門外ではあるが、あえてとりあげるものである。
なお、“SPIGEL”の記事では10項目に分けて比較等を行っているが、そのうち主要な7項目のみ取り上げる。
1.“WolframAlpha”の開発者の本当の開発目的は何か
米国の理論物理学者兼実業家Stephen Wolfram (筆者注2)が開発した検索エンジン“WolframAlpha”は、“ Google の 殺し屋”ではない。また検索エンジン機能だけでもない。「コンピュータ自身による知識エンジン(computational knowledge engine)」すなわち彼自身が自ら主張する「コンピュータの使用とウェブのための新しい理論的枠組み(a new paradigm for the use of computers and the Web)」である。その最終的な目標はコンピュータの先駆者が1950年代に指摘した約束(コンピュータ自身が質問し答えを出させる)の達成である。彼は数学パッケージソフトウェア“Mathematica”を開発した。同ソフトは、統計学者、科学者や数学者が課すあらゆる数学上の普遍的問題解決ツールである。同プログラムは膨大な処理能力を必要とするため、いくつかのコンピュータ雑誌がPCの容量と能力をテストするのに利用するほどである。
“WolframAlpha”の「回答マシン」は理論上“Google”と同じかまたはより以上のことをなしうるのか、SPEAGELは①選挙結果、②会社の売上高、③テレビの視聴率、④オリンピックのメダル数等をテストしてどのくらいの事柄を導き出せるか確認を行った。
2.政冶特に選挙に関する検索結果
“presidential election 2008 results”と質問してみた。答は「あなたの入力内容が理解できません」であった。次に“presidential election”で検索してみたが、失敗であった。さらに“election”で検索した結果、最終的に説明がなされた。なお、“Government”で検索したところ、答は「この話題は調査中です」と言う不可解なメッセージが出た。一方、“Google”で最初の質問をしたとこころCNNの選挙の概要ページにリンクした。またGoogleは全米および州単位の選挙結果も直接リンクできた。
“WolframAlpha”の残念な検索結果として、次のようなものが見られた。
①”Democratic Party?”・・・まだ記録されていません。
②“CDU”(ドイツの中道右派党のキリスト教民主同盟)・・・Camden Airport in Australiaが答であった(それも地元の現在の天気情報付)(筆者注3)
③“New York crime rate?”・・・結果がありません。
④“Mew York mayor?”・・・・知りません。一方、“Google” は市長Michael Bloombergの公式サイトにリンクする。
ドイツ語での質問に答がないという点を差し引いても米国の州や世界の国々の選挙結果やデータベースへのアクセスは必要であろう。さらに“WolframAlpha”の欠点は詳細な国のプロフィールや誰が現在の政治の指導者等について答えを持たない点である。
3.うかがわし統計データ
“WolframAlpha”は、個別国について非常に詳しい情報が提供できる。例えば「ドイツ」で検索するとキロで表示される隣国との国境線の距離や10大都市(人口統計も含む)が引き出される。
他方で疑わし統計の例もある。ドイツ語の文化圏に関する記述で次のような意味不明の記述がある。
①German 96% ②Upper Saxon(筆者注4) 2.6% ③Kölsh 0.31% ④Polish 0.31%
パーセントはなにを意味するのか、相互の関連について説明がない。また、ポーランド語はドイツの方言なのか。
一方、“Google” で“Germany”を入力すると最初にWikipediaの記事にリンクする。
“WolframAlpha”の特徴的な点は、同時に2,3の異なる国を探せる能力である。「米国対中国」「米国対中国対ドイツ対ロシア」と入力すると独自に複数国間に関連するすべての有効データを独自につくりあげた結果ページを提供する。閲覧者は一目でどの国の失業率が最も高いか、市民の平均寿命が最も低いか等を知ることができる。“Google”にはそれに匹敵するものはない。
さらに“WolframAlpha”は同様な方法で複数の都市を比較する。ハンブルグとサンフランシスコを入力すると単に人口統計の比較だけでなく、両都市間の飛行時間や現地時間の時差等を説明する。
4.“WolframAlpha”のとりわけ得意分野(経済比較、ただし情報源は疑問)
明確に定義された変数の比較に関して、“WolframAlpha”は輝いて見える。「ノキアとモトローラ」の入力により収益や従業員数の比較が直接できる。“Google”で同じことを行ってみる。最初の答は2006年のブログで「誰がボスですか」である。
“WolframAlpha”は様々な米国の新聞の循環統計(circulation statistics)を比較してみることは可能である。米国資本の日刊紙「ニューヨーク・ヨークタイムズ」「ウォールストリートジャーナル」「ワシントンポスト」「ロスアンゼルスタイムズ」等の比較データを見る限り最も低いランクといえる。時間枠のなかでの正確な情報がなくなっており、ジャ―ナリステックや科学的目的から見ると無用な内容である。また個々の刊行物に示された循環統計を表示することができるが、役にたつ時間的要素が放置されている。
同様の比較に関しテレビチャンネルの視聴率の比較はできない。“CNN VS CBS(TV)”で検索してみた。“CNN”は英国の不動産会社“Caledonian Trust”とされた。
経済問題についてさらに検索してみた。“Germany import value vs export value”と入力すると実際2つの結果が出て来た。しかし、輸出額は2007年推定値であり輸入の額は添付されていない。ちなみに米国の同様のデータを検索したが同じ結果であった。
5.コンピュータの比較結果(Macsは潤滑油(Lubricans)?)
インターネットと技術に関する質問で“Google”と “WolframAlpha”の相違点がより明らかになる。
“WolframAlpha”で“Microsoft”と“Google”と入力すると両社の財務データの詳細を回答するとともに市場業績(market performance)を追跡する。“Google”の検索メカニズムは直接自社のホームページに質問を向ける。
“Google”のPC市場おけるMacsの割合やアップル・コンピュータの販売台数の検索結果はテレビコマーシャルや顧客調査を含む娯楽面等の圧倒的豊富さを述べた。一方、“WolframAlpha”ではこれらについての確定的な情報が得られないし、さらに“Macs”について技術潤滑油の1タイプである「増殖アルキレート・シクロペタン(multiply alkylated cyclopetemtences)」の略語として、その要素に関する物理的データを提供するのである。この答自身は正しいが、質問に対する答としては誤りである。
しかしながら、コンピュータ装置に関する”Bits”“Bytes”“Mebibytes”“Gibibytes”について、“WolframAlpha”はトップページにある。“Google”はまずWikipediaの記事をリストあげて各単位の要約にリンクしていく。
6.科学(アスピリンに関するすべて)
“WolframAlpha”は科学的質問にはあざやかにかつ時間をかけずに答える。水の屈折率(refractive index:光学特性 )について正しい数値(1.333)を選択する。一方、“Google”は同じ用語について78万1,000以上のウェブサイトにリンクする。従って“Google”の場合は屈折率の要素の検索にあたり冒頭でユーザーは「水に関する数値」を求めていることを明確化する必要がある。水の濃度に関する検索について同様の表が表示される。“WolframAlpha”は数値(numerical value)だけでなく他のユニット-人体の水の濃度や相関図(phase diagram)と同様にいくつかの比較を踏まえ-のリストも提供する。この場合、“Google”はWikipediaを当てにしないが、最初の入力により英語の変換表に変わる。
また、“WolframAlpha”のサイトは水の濃度だけでなくアンシュタインの有名な「質量・エネルギー等価方程式(Theory of mass-energy equivalence)e=mc²」も説明する。
しかし、一方で“WolframAlpha”にも問題がある。薬品“aspirin”で検索すると十分な長い説明の後に、分子構造の空間モデル(Spatial model of the molecular structure)について科学的、構造的な公式にもとづきよく説明されている。しかし、唯一の問題はこの説明は一体何のためであろうかと言う疑問である。
“Google”は、Wikipediaにリンクするだけでなく薬品製品の公式サイトに直接リンクできる。
7.結論(デザインには強いがデータベースとしては弱い)
デモにおいて“WolframAlpha”は非常に印象的な方法で情報を提供する。検索エンジンは更なる情報を作るためにデータの増殖することができる。例えば複数の国の簡単な入力から統計的な比較データを作ることができるが、これは現在“Google”やその他の検索エンジンではできないことである。しかし、現行のベータ版はこの点をほとんど生かしきれていない。既存のデータベースに必要とするデータがあるときのみうまく行くのである。例えば、米国のテレビ局の視聴率について検索エンジン自体が正しく意味を理解していないのである。
他方、“WolframAlp”は科学者に対し他の科学者のためのツールとなることが感じられる。実際、秘術面や科学に関する質問に対しすばらしい詳細な答が返ってくる。他方、前述したとおり政冶、経済や文化面の内容等多くの課題もあるが作成者は別の観点に重点を置いているようにも思える。
いずれにせよ検索エンジンとして見た場合、“WolframAlp”は例えばドイツ語で入力された場合等なぜとんでもない答えを引き出してくるかについて説明ができないことは多くの点で課題でもある。非常によくできたソフトウェアではあるが、日常的に利用するものとしてはなお改善すべき方策があろう。
(筆者注1)ビジュアルかつ事業戦略面から紹介しているブログとしては、5月11日付“WIRED VISION”サイトや“Internet Watch”があげられよう。なお、偶然にも“WIRED VISION”のサイトで紹介されているStephen Wolfram氏が米国ハーバード大学バークマン・センターで行った専門家向け講演「Computational Knowledge Engine」の内容は面白い(YouTube でデモ・質疑応答を含む講演内容(1時間45分)を見ることが可)。筆者は同センターのプロジェクト“The Center for Citizen Media”のディスカッション・メンバーであるが、同氏のスピーチの件は知らなかった。
(筆者注2)Stephen Wolfram氏は、日本語版Wikipedeia等でも紹介されているとおり米国Wolfram Researchの創設者(CEO)でありかつ天才的な理論物理学者である。数学パッケージソフト“Mathematica”の開発を1986年に行っている。
(筆者注3)筆者も自らGoogleで“CDU”を調べてみた。日本語のWikipediaの説明の少し後に“Christlich-Demokratische Union Deutschlands;CDU”のホームページが出てくる。
(筆者注4)“Upper Saxon”はドイツ語で北ザクセン語のことである。また“Kölsh”はケルン語である。
(筆者注5) SPEGELのサイトが引用しているアンシュタインの「質量・エネルギー保存則(E=mc²)」について関心の有る方はWikipediaで確認してほしい。
〔参照URL〕
http://www.spiegel.de/international/zeitgeist/0,1518,624065,00.html#ref=nlint
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2009年5月8日金曜日
米国の連邦議会行政監査局(GAO)が個人情報再販業者に対する機密情報安全性監督の強化策を勧告
〔再登録にあたり〕
本ブログは2006年9月23日(水)にgoogleの“blogger”にアップしたものである。Googleブログではどういうわけか一定期間後のグログ原稿の編集は不可となる。このため法改正等による内容の更新・見直しと併せ、新たにリンクを張るなど読みやすさにも配意して改訂を行った。
米国連邦議会行政監査局(United States Government Accountability Office;GAO)は、2006年6月26日に開催された連邦議会上院「銀行、住宅・都市問題委員会(Committee on Banking ,Housing and Urban Affaires ,U.S. Senate)」において、連邦や州の金融監督機関が行う“Gramm-Leach-Bliley Act;GLBA”等個人情報保護に関する重要な法律の運用に関し、最近急成長しつつある個人情報の再販事業者(Information Resellers)(筆者注1)が行うべき安全対策に関して、有効な監督機能を果たしていないとする勧告報告を行った。
GAOの活動や権限について、本ブログでも数回取り上げたことがあるが、GAOの連邦議会への発言力すなわち上院・下院議員への影響力は極めて強く、また取扱う問題の範囲が広く米国の行政機関への横断的な影響度は大といえる。
特にGAO報告の特徴は、関係企業、監督機関、消費者等からの情報収集が徹底されており、その説得力は他の連邦監督機関が無視し得ないものといえる。以下、紹介するとおり、法律の守備範囲と監督業界間の縦割りの弊害は米国でも現実の問題であり、この分析手法はわが国でも参考とすべき点といえよう。
なお、わが国では個人情報保護法の全面施行後約1年を経過した2006年7月に、金融庁は金融機関における顧客情報の管理体制に係る一斉点検の結果(筆者注2)を、また内閣府は事業者の取組実態調査結果を公表している(筆者注3)。米国における金融機関の再販事業者の利用原因の1つが、「愛国者法(USA PATRIOT ACT)」(筆者注4)におけるマネロン阻止やなりすまし詐欺の防止に関する法令遵守の要請である。
わが国ではマネロン阻止強化の観点から2007年9月22日に「本人確認法」施行令等が改正され、2007年1月4日以降10万円超の現金によるATM振込が原則不可となった。また、2008年3月1日以降、「犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号)」(「犯罪収益移転防止法」)に基づき、金融機関に対し本人確認が義務づけられるとともに、「本人確認法」は廃止された(本人確認の内容は変更されていない)。これと関連し名義人へのなりすましチェックも強化されるなど、状況が類似しており、「他山の石」とすべきであろう。(筆者注5)
1.GAO勧告の内容
連邦議会は次の3点について具体的に検討すべきである。
(1)個人情報の再販事業者が保有する機微個人情報(sensitive personal information)の安全対策について情報提供を求める。
(2)現行の金融機関の個人情報保護法である“Gramm-Leach-Bliley Act;GLBA”(15 USC 6801)や「公正信用報告法(the Fair Credit Reporting Act:FCRA)」の遵守監督機関である連邦取引委員会(FTC)について、法執行機関として有効な制裁手段といえる民事制裁権(civil penalty authority)(筆者注6)を付与するよう見直しを行う。
(3)保険会社を監督する州の監督官の全米規模の組織体である全米保険監督官協会(the National Association of Insurance Commissioners;NAIC)においてもGLBAの遵守監督を行う。
2.GAOの調査・研究の背景
米国における個人情報再販事業者は、(1)公的な機関が保有する記録(生年月日、資産記録等)(Public records)、(2)一般に公表されている情報(電話帳等)(Public available information)、(3)個人信用情報報告書のキー情報であるcredit header data(筆者注7)や加入者リスト(subscription lists)を情報源としてこれらデータの統合を行う。その結果、成果物として「本人確認報告」、「保険金請求記録報告」、「潜在的顧客情報」、「信用情報報告」が作成され、最終的に金融機関等に提供されるのである。
米国のこれら企業は米国国民のほとんどすべてといえる膨大な消費者の個人情報を収集し、その結果、この数年明らかになっているとおり、ChoicePoint、LexisNexis等大規模な漏洩事件が生じている。
3.GAOが取組んだ調査内容
(1)GAOは銀行、クレジットカード会社、証券会社や保険会社が次のような理由から再販事業者からの個人情報を入手、利用していると見る。
A. 利用者の法適合性
B.愛国者法等の法令遵守
C.なりすましなど詐欺の予防
D.自社の商品の市場性
(2)GAOは、「公正信用報告法(FCRA)」および「グラム・リーチ・ブライリー法(GLBA)」の適用により再販事業者への情報提供は制限されていると解している。すなわち、FCRAは与信や保険契約時における法適合性判断のための第一次的情報の収集や使用時に適用され、またGLBAは同法に規定する金融機関によって取得される個人情報について適用される。
これら2法には情報保護・セキュリティに関する規定があるにもかかわらず、消費者(再販事業者からの購入利用者のこと)は再販事業者からあらゆる機微情報の入手が可能という拡大解釈の恩典をうけている。
(3)すなわち、連邦取引委員会(FTC)はこれら2つの法律のプライバシーやセキュリティに関して再販事業者が行うべき遵守に関して第一義的な監督責任を持つ連邦機関である。1972年以降、FTCは全米規模の3大信用情報機関(Equifax 、Experian、TransUnion)を含め、FCRA違反を理由として再販事業者に対し、20件以上の正規の法執行行為を行っている。しかしながら、FTCは GLBAに基づくプライバシー保護に関する規定(これらの規定は、法律に基づき大量の漏洩事件 違反行為に対して有効な法執行を担保することになる)に基づく民事制裁権を持たない。
(4)米国のプライバシー保護法等の遵守状況を概観すると、銀行や証券会社の連邦規制監督機関は遵守ガイダンスを発布するとともに検査を行い、その他公式・非公式の法執行行為を行っている。最近時にNAICの協力により行われた調査では、保険会社においてGLBAの不遵守の事例がみられたが、州の監督機関はNAICとともにこれらの問題に対応する明確な計画を有していなかった。(筆者注8)
(筆者注1) GAO報告によると、再販事業者名として本ブログで紹介したほかに、eFund(預金取扱機関に対し預金取引の履歴情報を提供)、Thompson West and Regulatory DataCorp(企業に対し詐欺やその他のリスクの軽減情報を提供)、ISO(保険会社に対し保険契約履歴情報その多詐欺要望商品を販売:http://www.iso.com/)等が紹介されている。
(筆者注2)http://www.fsa.go.jp/news/newsj/17/f-20050722-4.pdf
(筆者注3)内閣府は、調査結果の詳細を2006年7月28日開催の「国民生活審議会個人情報保護部会」の資料として配布している(内閣府のHPで同資料を探すのに、無駄な時間がかかってしまった。特に従来から気になっている点であるが、わが国の電子政府の中核である内閣府のサイトには「検索」機能がない)。資料が全部で158頁と大部(要旨では企業の検討材料として不十分)のためか、5分冊となっており、企業にとって個人情報漏洩防止に関心の高い漏洩原因の分析は第3分冊の中にある。第3分冊のURLは以下の通り。
http://www5.cao.go.jp/seikatsu/shingikai/kojin/20th/20060728kojin3-2-3.pdf
(筆者注4) 正式名は“UNITING AND STRENGTHENING AMERICA BY
PROVIDING APPROPRIATE TOOLS REQUIRED TO INTERCEPT AND OBSTRUCT TERRORISM (USA PATRIOT ACT) ACT OF 2001”( Pub. L. No. 107-56, 115 Stat. 272 (2001)) である。直訳すると「テロ行為阻止のための適切な手段の提供よる米国民の団結強化に関する法律」(なぜ「愛国者法」というかが理解できよう)となるが、2001年9月11日の連続テロ事件を背景に成立した法律である。しかし、テロ阻止を理由とする犯罪捜査や盗聴を一定の場合認めるなど人権制限法としての性格が強く、合衆国憲法修正やその他の法律等との関係で人権擁護団体等から多くの問題が指摘されている。具体例として本ブログでも取り上げてきた米国EPIC(Electronic Privacy Information Center;EPIC)は“The USA PATRIOT Act”と題する専門的解説コーナーを設けており、そこで同法の歴史的経緯、法的分析・問題点、最新の関連法の改正動向等を取り上げて解説している。
(筆者注5)本人確認法(正確には「金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律(平成14年法律第32号)」の施行令、施行規則の改正に伴う解説および「犯罪収益移転防止法」に基づく本人確認の内容が金融庁のサイトで確認できる。
(筆者注6)GAOの資料にある“civil penalty”とは正確には行政機関により行政手続を通じて行われる“Administrative civil penalty”であると思う。米国における法律・規則違反等の違反行為に課される罰金(Fine)であり、広義の意味ではこのほかに民事裁判手続を通じて裁判所によって算定・賦課されるCivil judiciary penaltyとがある。なお、内閣府大臣官房独占禁止法基本問題検討室が担当している「独占禁止法基本問題懇談会」の取組は、最近時、EUをはじめ海外でも民事制裁に関する研究・審議が進んでいる分野との整合性を意識したものといえよう。
「独占禁止法における違反抑制制度の在り方等に関する論点整理」参照。
http://www8.cao.go.jp/chosei/dokkin/
わが国の経済界もその動きに神経質になっており、経団連経済法規委員会は本年8月1日付けで『「独占禁止法基本問題」に関するコメント』を公表している。
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2006/057.html
(筆者注7)“credit header data”とは、「姓名(姓名の変更を含む)、住所(旧住所を含む)、電話番号(知られている場合、非表示の番号も含む)、生年月日(通常生年月までに限定)、社会保障番号」をいう。この情報は、個人信用情報の生成過程で発生するが、FTCはそれが顧客の取引履歴の一部でないとして、FCRAでは規制されていない。この問題は1997年1月30日に人権擁護団体である「Privacy Rights Clearinghouse」でも取り上げられており、米国では従来から問題視されていたといえる。
http://www.privacyrights.org/ar/fedres.htm
(筆者注8)米国の保険監督上、「保険」は1944年以前において商業(commerce)とみなされず、連邦法の規制対象外であった。しかし、連邦最高裁判所が連邦議会に実質的に州際の保険事業についての立法権を認め、成立した法律が”McCarran-Ferguson Act(15 U.S.C. §1011)”である。しかし、同法はいくつかの州の保険業規制を定めているが、Sherman Act、Clayton Actおよび連邦取引委員会法(FTCA)では州法によって規制がなされない範囲で、連邦法が適用されるというかたちがとられている。http://www.law.cornell.edu/wex/index.php/
〔参照URL〕
http://www.gao.gov/new.items/d06674.pdf
Copyright (c)2006-2009 福田平冶 All Rights Reserved.
本ブログは2006年9月23日(水)にgoogleの“blogger”にアップしたものである。Googleブログではどういうわけか一定期間後のグログ原稿の編集は不可となる。このため法改正等による内容の更新・見直しと併せ、新たにリンクを張るなど読みやすさにも配意して改訂を行った。
米国連邦議会行政監査局(United States Government Accountability Office;GAO)は、2006年6月26日に開催された連邦議会上院「銀行、住宅・都市問題委員会(Committee on Banking ,Housing and Urban Affaires ,U.S. Senate)」において、連邦や州の金融監督機関が行う“Gramm-Leach-Bliley Act;GLBA”等個人情報保護に関する重要な法律の運用に関し、最近急成長しつつある個人情報の再販事業者(Information Resellers)(筆者注1)が行うべき安全対策に関して、有効な監督機能を果たしていないとする勧告報告を行った。
GAOの活動や権限について、本ブログでも数回取り上げたことがあるが、GAOの連邦議会への発言力すなわち上院・下院議員への影響力は極めて強く、また取扱う問題の範囲が広く米国の行政機関への横断的な影響度は大といえる。
特にGAO報告の特徴は、関係企業、監督機関、消費者等からの情報収集が徹底されており、その説得力は他の連邦監督機関が無視し得ないものといえる。以下、紹介するとおり、法律の守備範囲と監督業界間の縦割りの弊害は米国でも現実の問題であり、この分析手法はわが国でも参考とすべき点といえよう。
なお、わが国では個人情報保護法の全面施行後約1年を経過した2006年7月に、金融庁は金融機関における顧客情報の管理体制に係る一斉点検の結果(筆者注2)を、また内閣府は事業者の取組実態調査結果を公表している(筆者注3)。米国における金融機関の再販事業者の利用原因の1つが、「愛国者法(USA PATRIOT ACT)」(筆者注4)におけるマネロン阻止やなりすまし詐欺の防止に関する法令遵守の要請である。
わが国ではマネロン阻止強化の観点から2007年9月22日に「本人確認法」施行令等が改正され、2007年1月4日以降10万円超の現金によるATM振込が原則不可となった。また、2008年3月1日以降、「犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号)」(「犯罪収益移転防止法」)に基づき、金融機関に対し本人確認が義務づけられるとともに、「本人確認法」は廃止された(本人確認の内容は変更されていない)。これと関連し名義人へのなりすましチェックも強化されるなど、状況が類似しており、「他山の石」とすべきであろう。(筆者注5)
1.GAO勧告の内容
連邦議会は次の3点について具体的に検討すべきである。
(1)個人情報の再販事業者が保有する機微個人情報(sensitive personal information)の安全対策について情報提供を求める。
(2)現行の金融機関の個人情報保護法である“Gramm-Leach-Bliley Act;GLBA”(15 USC 6801)や「公正信用報告法(the Fair Credit Reporting Act:FCRA)」の遵守監督機関である連邦取引委員会(FTC)について、法執行機関として有効な制裁手段といえる民事制裁権(civil penalty authority)(筆者注6)を付与するよう見直しを行う。
(3)保険会社を監督する州の監督官の全米規模の組織体である全米保険監督官協会(the National Association of Insurance Commissioners;NAIC)においてもGLBAの遵守監督を行う。
2.GAOの調査・研究の背景
米国における個人情報再販事業者は、(1)公的な機関が保有する記録(生年月日、資産記録等)(Public records)、(2)一般に公表されている情報(電話帳等)(Public available information)、(3)個人信用情報報告書のキー情報であるcredit header data(筆者注7)や加入者リスト(subscription lists)を情報源としてこれらデータの統合を行う。その結果、成果物として「本人確認報告」、「保険金請求記録報告」、「潜在的顧客情報」、「信用情報報告」が作成され、最終的に金融機関等に提供されるのである。
米国のこれら企業は米国国民のほとんどすべてといえる膨大な消費者の個人情報を収集し、その結果、この数年明らかになっているとおり、ChoicePoint、LexisNexis等大規模な漏洩事件が生じている。
3.GAOが取組んだ調査内容
(1)GAOは銀行、クレジットカード会社、証券会社や保険会社が次のような理由から再販事業者からの個人情報を入手、利用していると見る。
A. 利用者の法適合性
B.愛国者法等の法令遵守
C.なりすましなど詐欺の予防
D.自社の商品の市場性
(2)GAOは、「公正信用報告法(FCRA)」および「グラム・リーチ・ブライリー法(GLBA)」の適用により再販事業者への情報提供は制限されていると解している。すなわち、FCRAは与信や保険契約時における法適合性判断のための第一次的情報の収集や使用時に適用され、またGLBAは同法に規定する金融機関によって取得される個人情報について適用される。
これら2法には情報保護・セキュリティに関する規定があるにもかかわらず、消費者(再販事業者からの購入利用者のこと)は再販事業者からあらゆる機微情報の入手が可能という拡大解釈の恩典をうけている。
(3)すなわち、連邦取引委員会(FTC)はこれら2つの法律のプライバシーやセキュリティに関して再販事業者が行うべき遵守に関して第一義的な監督責任を持つ連邦機関である。1972年以降、FTCは全米規模の3大信用情報機関(Equifax 、Experian、TransUnion)を含め、FCRA違反を理由として再販事業者に対し、20件以上の正規の法執行行為を行っている。しかしながら、FTCは GLBAに基づくプライバシー保護に関する規定(これらの規定は、法律に基づき大量の漏洩事件 違反行為に対して有効な法執行を担保することになる)に基づく民事制裁権を持たない。
(4)米国のプライバシー保護法等の遵守状況を概観すると、銀行や証券会社の連邦規制監督機関は遵守ガイダンスを発布するとともに検査を行い、その他公式・非公式の法執行行為を行っている。最近時にNAICの協力により行われた調査では、保険会社においてGLBAの不遵守の事例がみられたが、州の監督機関はNAICとともにこれらの問題に対応する明確な計画を有していなかった。(筆者注8)
(筆者注1) GAO報告によると、再販事業者名として本ブログで紹介したほかに、eFund(預金取扱機関に対し預金取引の履歴情報を提供)、Thompson West and Regulatory DataCorp(企業に対し詐欺やその他のリスクの軽減情報を提供)、ISO(保険会社に対し保険契約履歴情報その多詐欺要望商品を販売:http://www.iso.com/)等が紹介されている。
(筆者注2)http://www.fsa.go.jp/news/newsj/17/f-20050722-4.pdf
(筆者注3)内閣府は、調査結果の詳細を2006年7月28日開催の「国民生活審議会個人情報保護部会」の資料として配布している(内閣府のHPで同資料を探すのに、無駄な時間がかかってしまった。特に従来から気になっている点であるが、わが国の電子政府の中核である内閣府のサイトには「検索」機能がない)。資料が全部で158頁と大部(要旨では企業の検討材料として不十分)のためか、5分冊となっており、企業にとって個人情報漏洩防止に関心の高い漏洩原因の分析は第3分冊の中にある。第3分冊のURLは以下の通り。
http://www5.cao.go.jp/seikatsu/shingikai/kojin/20th/20060728kojin3-2-3.pdf
(筆者注4) 正式名は“UNITING AND STRENGTHENING AMERICA BY
PROVIDING APPROPRIATE TOOLS REQUIRED TO INTERCEPT AND OBSTRUCT TERRORISM (USA PATRIOT ACT) ACT OF 2001”( Pub. L. No. 107-56, 115 Stat. 272 (2001)) である。直訳すると「テロ行為阻止のための適切な手段の提供よる米国民の団結強化に関する法律」(なぜ「愛国者法」というかが理解できよう)となるが、2001年9月11日の連続テロ事件を背景に成立した法律である。しかし、テロ阻止を理由とする犯罪捜査や盗聴を一定の場合認めるなど人権制限法としての性格が強く、合衆国憲法修正やその他の法律等との関係で人権擁護団体等から多くの問題が指摘されている。具体例として本ブログでも取り上げてきた米国EPIC(Electronic Privacy Information Center;EPIC)は“The USA PATRIOT Act”と題する専門的解説コーナーを設けており、そこで同法の歴史的経緯、法的分析・問題点、最新の関連法の改正動向等を取り上げて解説している。
(筆者注5)本人確認法(正確には「金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律(平成14年法律第32号)」の施行令、施行規則の改正に伴う解説および「犯罪収益移転防止法」に基づく本人確認の内容が金融庁のサイトで確認できる。
(筆者注6)GAOの資料にある“civil penalty”とは正確には行政機関により行政手続を通じて行われる“Administrative civil penalty”であると思う。米国における法律・規則違反等の違反行為に課される罰金(Fine)であり、広義の意味ではこのほかに民事裁判手続を通じて裁判所によって算定・賦課されるCivil judiciary penaltyとがある。なお、内閣府大臣官房独占禁止法基本問題検討室が担当している「独占禁止法基本問題懇談会」の取組は、最近時、EUをはじめ海外でも民事制裁に関する研究・審議が進んでいる分野との整合性を意識したものといえよう。
「独占禁止法における違反抑制制度の在り方等に関する論点整理」参照。
http://www8.cao.go.jp/chosei/dokkin/
わが国の経済界もその動きに神経質になっており、経団連経済法規委員会は本年8月1日付けで『「独占禁止法基本問題」に関するコメント』を公表している。
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2006/057.html
(筆者注7)“credit header data”とは、「姓名(姓名の変更を含む)、住所(旧住所を含む)、電話番号(知られている場合、非表示の番号も含む)、生年月日(通常生年月までに限定)、社会保障番号」をいう。この情報は、個人信用情報の生成過程で発生するが、FTCはそれが顧客の取引履歴の一部でないとして、FCRAでは規制されていない。この問題は1997年1月30日に人権擁護団体である「Privacy Rights Clearinghouse」でも取り上げられており、米国では従来から問題視されていたといえる。
http://www.privacyrights.org/ar/fedres.htm
(筆者注8)米国の保険監督上、「保険」は1944年以前において商業(commerce)とみなされず、連邦法の規制対象外であった。しかし、連邦最高裁判所が連邦議会に実質的に州際の保険事業についての立法権を認め、成立した法律が”McCarran-Ferguson Act(15 U.S.C. §1011)”である。しかし、同法はいくつかの州の保険業規制を定めているが、Sherman Act、Clayton Actおよび連邦取引委員会法(FTCA)では州法によって規制がなされない範囲で、連邦法が適用されるというかたちがとられている。http://www.law.cornell.edu/wex/index.php/
〔参照URL〕
http://www.gao.gov/new.items/d06674.pdf
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米国の全米気象サービス局(NWS)の非気象に関する「緊急情報通知システム」の運用開始
5月6日に米国FEMA(連邦緊急事態管理庁)(筆者注1)から届いたニュースの中で2009年4月30日から運用開始し、5月、6月は段階的運用を拡大するとのニュースがあった。気象学や災害問題の専門家でない筆者は「何のこと」と思いつつ、「非気象」の緊急メッセージ(non-weather emergency messages)という言葉が気になり自分なりに調べてみた。
そこで見られたのは国家としての自然災害以外に対する社会的な危機情報の安全、効率的な情報収集による危機管理情報ネットワーク拡大とインフラ整備である。商務省全米海洋大気庁(National Oceanic and Atmospheric Admini stration;NOAA)(筆者注2)気象サービス局(National Weather Service:NWS)が中心となって取組んでいる新たな国家プロジェクトである。(筆者注3)
また、5月6日にFEMAは大規模災害緊急事態通報システム・サイト “Disaster Management”ポータルに“HazCollect” を追加しており、当該“HazCollect”の運用州の拡大予定やQ&A等が詳しく説明されている。(筆者注4)
今回のブログでは単に“HazCollect”の役割や目的だけでなく、情報化社会における大規模災害以外についても正確かつ迅速な緊急情報伝達のあり方について米国の取組みや問題点について解説を試みる。
なお、当然であるがわが国でも電子政府や大規模災害、疾病等に対応するため関係機関で人為ミスを含むこれらの課題はすでに検討されている(内閣府が整備を進めている防災情報共有プラットフォームである「中央防災無線網」等)と信じたいが、2009年2月9日に開催された内閣官房「防災分野における地理空間情報の利活用推進のための基盤整備に係るワーキンググループ」第2回会合で(財)全国地域情報化推進委員会の説明資料のスライド29頁(自治体は現状、防災現場で紙や口頭で収集した情報を防災情報システムに手入力している場合が多く、現場(避難先や現地調査先)での直接入力が可能になれば効率化、迅速化が図れる)を見る限り、米国でなぜ“HazCollect”が必要なのかという課題が、わが国では今論じられているように思える。
1.HazCollectシステム導入の背景
NOAA気象サービスの「現場システム運用センター(Field Systems Operations Center):試験・評価課(Test and Evaluation Branch:OPS24)」のサイトで詳しく説明している。
(1)現状の問題点
従来のNWSシステムは、非気象に関する緊急情報(化学物質流失(chemical spill)、誘拐速報システム(AMBER alerts)(筆者注5)、放射性物質漏れ(radiological events)等)を取扱うが、そのスタッフは現場で手作業で転記しなくてはならない。その転記には時間がかかり、また人為ミスが生じる傾向にある。ある地域では非常時担当管理責任者(emergency manager)は手作業で原稿を作成のうえ、地域の気象予報局(WFO)に電話をする。受け取った予報局側でもタイプミス、文法的な誤り等が発生する。さらに手作業で、WFOの放送スケジュールや警告の原稿を作るのである。
(2)HazCollectシステムによる改善
HazCollectシステムは、NWS基盤に対する「非気象に係る緊急情報メッセージ(Non-Weather Emergency Messages:NWEMs)の集中と効果的配分に関する包括的な問題解決である。緊急情報(EM)は、災害管理相互運用サービス(DMIS)専用PCを利用して、NWEMsを共通的警告プロトコル(Common Alerting Protocol:CAP)フォーマット(筆者注6)で作成のうえ、次の処理のためにDMISに送られる。
DMISの利用者モードは「アクチュアル(終端間で実際伝播する)モード」と「テスト(HazCollectセンタのみに送信される)モード」が設定されている。アクチュアルモードでは、NOAAの気象無線の利用者から遠路はるばる放送や情報無線で伝播されてきた情報が集中的にDMISに取り込まれる。また、テストモードの場合は一般大衆には送られず同メッセージの運用試験のみ使用が許される。
DMISは、新しいHazCollectサーバーにおいて承認・認証されたCAPフォーマット化されたNWEMメッセージをNWS世界気象機関(World Meteorogical Organization:WMO)(筆者注7)フォーマットに変換のうえ送信する。
またHazCollectサーバーは、既存のネットワークコントロール施設(NCF)や全米気象サービス通信ゲートウェイ(NWSTG)、the Advanced Weather Interactive Processing System (AWIPS)(筆者注8)およびNOAAの全米気象サービス局(NWWS)にNWEMメッセージを送信する。AWIPSからのこれらメッセージはNWEMフォーマットにより処理のうえ、制御変換システム(the Console Replacement System(CRS))に送られ、最終的に広く一般大衆は気象ラジオ等で聴くことができる。
2.HazCollet の当面の運用開始州と今後の運用拡大予定
(1)2009年5月、6月の実施内容と運用開始州
次の指定された州等で支援プログラム(outreach)、必要とされる教育訓練および登録手続が行われる。ウィスコン州、ケンタッキー州、アラスカ州、ハワイ州、フロリダ州、アイダホ州の一部、ワシントン州東部が5月中に開始する。
(2)5月26日に開始後、7月1日までの他州への運用拡大
他の州においても順次運用開始する予定である。本ウェブサイトの「州や郡等地方政府が行うべき登録事務(For Governmernt)」を参照のうえ、第一に共同運用グループとしての災害管理相互運用サービスID登録を行う。第二に各担当地域においてHazCollectを使用することについての承認を受ける。
(筆者注1) 連邦国土安全保障省・緊急事態管理庁(FEMA)について筆者なりにFEMAサイト情報に基づき簡単に説明しておく。なお、わが国でFEMAについて消防庁の解説例を読んだ。筆者の解説と比較するとすぐ分かるであろうが、このような内容の不十分さが許されること自体が問題と思う。
(ⅰ)法律上の権限:1988年11月23日に署名された災害救助法(Robert T. Stafford Disaster Relief and Emergency Assistance Act:PL.100-707)(同法は1974年災害救済法:PL 93-288の改正法ある)は、FEMA およびFEMA プログラムに関し連邦政府の対応活動に関する根拠法である。正規職員数は約2,600人である。また災害時に緊急支援に当る約4,000人の予備従業員がいる。
(ⅱ)FEMAの歴史
1803年議会法(Congressional Act 1803)からFEMAの源をたどることができる。大規模災害対策法としてニューハンプシャーの大火の支援法として成立した。続く100年間にハリケーン、洪水、その他の天災に対応して約100以上の臨時法が成立した。1960年代から1970年代にかけて連邦住宅・都市開発省(Department of Housing and Urban Developmemt:HUD)の中に設置された連邦災害援助局(Federal Disaster Assistance Administration)が連邦の主たる大規模災害対応・復旧に当った(1962年ハリケーン・カーラ(Hurricane Carla))、1965年ハリケーン・ベッツィ(Hurricane Betsy)、1969年ハリケーン・カミール(Hurricane Camille)、1972年ハリケーン・アグネス(Hurricane Agnes)であり、また1962年アラスカ大地震、1971年サンフェルナンド大地震が起きている。これらの一連の災害は新たな保護立法をもたらした。1968年の「全米洪水保険法(National Flood Insurance Act)」は家の所有者に対する新たな保護を設け、1974年「大規模災害救済法」は大統領宣言の手続を確立した。連邦政府の災害援助の努力の複雑さもあり州や地方には多くの並列的救済プログラムや立案をかかえ全米州知事会は州政府の負担の削減をジミー・カーター大統領に求めた。
同大統領は1979年大統領行政命令(Executive order)により、異なる連邦機関による災害関連責任をFEMAに統合した。すなわち、連邦保険局、連邦消防局、全米災害気象局、一般調達局の災害準備部や住宅・都市開発省の連邦災害救援局の機能を統合した。また、民間の災害防衛責任を国防省の民間防衛準備局から新FEMAに移管した。
新FEMAはただちに多くの難局に直面した。1979年スリーマイル島の原子力発電所事故、1978年に米国ナイアガラ滝近くのラブキャナル運河(ニューヨーク州)で起きた有害化学物質による汚染事件、キューバ難民危機等である。2001年に新FEMA長官(director of FEMA)を任命後数か月で9.11テロが発生した。これを受けて新たに設置された国土安全保障省との権限調整が行われ、FEMAの全米準備局(Office of National Preparedness)は大量破壊兵器に関する最優先責任機関が与えられた。2006年10月4日にブッシュ大統領は「ポストカトリーナ緊急事態改善法(Post-Katrina Emergency Management Reform Act)」に調印した(FEMAのウェブサイトの同法の正式名称では“Management”がぬけている)が、2005年8月のカトリーナの反省等からFEMAの機能強化を図っている。
(筆者注2) “NOAA”および下部の部局の使命・役割等について説明しておく。
NOAAは科学的機能を基本とする連邦商務省の下部機関で、規制監督、運用および情報提供サービスに責任を負う機関である。2008年度予算は38億ドル(約3,822億円)、本部・州の全従業員数は約12,800人である。
(使命)全地球環境の理解と米国経済、社会や環境が必要とすることに合致すべく予測、海岸線、海洋、五大湖の資源の保護、維持や管理を行うことである。NOAAの監視が求められる包括的システムは衛星から船舶やレーダーといった監視が求められる方法による日々の安全な生活や基本的な現代経済機能に関する高品質かつ重要な情報を提供することにある。
米国人はNOAAの極めて多様なサービスー地方の気象予報、沿岸の水の安全性や活力の維持、高品質の海産物の提供持続性、安全な海上運送の保証―をNOAAに依存している。
(組織)6つの局から構成される。①全米海洋漁業局(National Marine Fisheries Service)、②全米海洋資源局(national Ocean Service)、③全米気象局(National Weather Service)、④船舶および航空安全局(Office of Marine and Aviation Operations)、⑤海洋大気調査局(Office of Ocean and Atmospheric Research)および⑥NOAAの各機関の統合的計画策定および統合局(Office of Program Planning and Integration)である。
(筆者注3)わが国の大学やビジネススクールでは絶対教えられない(と言うよりも教える方が知らないのである)日頃筆者が実践する米国の公的機関(立法、行政機関、独立法執行等)を正確に理解する方法を筆者流に説明しておく(この実務的方法は、欧米の大学、ビジネススクールやロースクールで学んだ先生方から伺う限りある程度実践されているように聞く)。
本ブログの読者も出来るだけこの点を学んで欲しいが、その前提として一定の語学力と公式ウェブサイトからニュースの入手登録(RSSでも可である)が必須である。組織改変や根拠法が変わったりするため、新規登録先数がやたら多くなるので筆者のような暇人?でないと情報管理が難しいと思う(その一方で「世界の変化」が先取りでき、「変化の風」が見えるということでもある)。なお、これに関して特にわが国のメディアや民間「総研」の海外情報の解説記事のレベルが低すぎる。その具体例は“Foreign Media Analyst in Japan”を見ていただきたい(先達の「誤訳」を疑いもなく次々と引き継いでいる)。
①ウェブサイトで、まず“What is XXX”、“About XXX”等のアイテムを探す。
②同機関の根拠法・規則、連邦機関・州の機関・委員会名がつく独立法執行機関(SEC等)・連邦機関でありながら独立の権能をもつEPA等を分類する。特に連邦制度をとる米国では立法、司法、行政機関について連邦機関と州や郡の機関の峻別は重要である(例:司法長官は連邦と各州におり、いずれも“Attorney General”である。“U.S.Attorney”は連邦地方検事である)。
③使命(mission)、目標(vision)や戦略(strategy)等の内容を確認するとももに、機関の歴史をチェックする。
④組織図(organization chart)で組織の規模や下部機関を確認(下部機関の名称を決定する上で重要な点である)
⑤連邦、州等の関係機関を確認する(リンク先)。
⑥機関・各部門の主な業務を確認する。
(筆者注4)FEMAの“Disaster Management”サイトで「オープンプラットフォーム・フー・緊急情報ネットワーク(Open Platform for Emergency Networks:OPEN)」に関し”OASIS Standard”と言う用語が出てくる。参考までに“OASIS”について日経BPnetの解説を引用しておく。
「XML関連の標準化団体Organization for the Advancement of Structured Information Standards(OASIS)のメンバーは、危機管理や緊急事態への準備/対応に関するXMLベースの標準仕様を開発する技術委員会「OASIS Emergency Management Technical Committee(TC)を発足させた。米国時間2003年2月10日に明らかにしたもの。
Emergency Management TCの目的について、OASISでは「米国の地方/州/連邦政府の司法当局や医療専門家、企業が自然災害や人的災害、緊急事態に対応する際に使う、情報交換用の標準仕様を策定する」と説明している。同TCの活動は、事件認識方法の統合、非常用地理情報システム(GIS)データのアクセス/利用、通知手段とメッセージ送信、状況報告、資産/リソース管理、監視/データ取得システム、組織の調整――などを対象にする。
http://www.oasis-open.org/news/oasis_news_02_10_03.php参照。」
(筆者注5)“AMBER ALERTS”とは、米国内で子供の誘拐事件が発生した場合に、その子供をいち早く救出できるように、テレビ、ラジオ、インターネットのポータルサイト(America Onlineなど)、ハイウェイの電光掲示板などを使って緊急速報を流すシステムである。“AmberAmerica’s Missing: Broadcast Emergency Response”の略語である。
(筆者注6)国土安全保障省等を中心に緊急時のコミュニケーションやより幅広い情報共有のための情報ネットワークが構築される一方、連邦・州・地方など縦の連携が重要となるテロ対策においては、コミュニケーション技術に相互運用性を持たせることが大きな課題となっている。
緊急医療関係者をはじめとする危機管理関係者に警報を送信するためのXML標準「Common Alerting Protocol」を開発、現在は人材・車両・食料やサプライなどの災害リソースに関するデータ交換フォーマットEDXL(Emergency Data Exchange Language)の設定などに取り組んでいる。(NTTデータの「米国マンスリーニュース2005年7月号:米国のテロ対策とIT」より引用。)
(筆者注7)“WMO”は国際気象機関(International Meteorological Organization、1873年設立)を前身として、1950年より国連の機関としての運営を開始した。WMOの目的は、気象、水文およびその他の観測所の国際的なネットワーク構築に協力すること、気象情報の迅速な交換を促進すること、気象観測の標準化を促進すること、一定のフォーマットで観測結果および統計結果を公表すること、航空、海運、水問題、農業およびそのほかの人間活動に対する気象学の応用を推進すること、水文学の発展を促進すること、気象学における調査および教育を奨励することである。(国際研究計画・機関情報データベースから引用)
(筆者注8) 全米の天気予報士に使用される“AWIPS”は、2003年にOSをそれまでのUnixベースのプロプリエタリー・プラットフォームからLinuxへ変更した。
〔参照URL〕
http://www.weather.gov/os/hazcollect/
http://www.weather.gov/ops2/ops24/hazcollect.htm
http://www.fema.gov/
http://www.disasterhelp.gov/disastermanagement/index.shtm
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2009年5月5日火曜日
米国FRB、OTS等によるクレジットカード取引規制の厳格化等に係るレギュレーション等改正の動き
〔前書き〕
本ブログの原稿は、2008年12月20日に一部書き上げていた。しかし、仕事の関係で棚上げになっていたが、2009年4月30日に連邦議会下院でクレジットカード・ユーザー保護法案(H.R. 627)が通過、近々上院も通過する旨のニュースが入ってきた。
約半年遅れでありニュース価値としてはいかがかと思うが、念のため同時期のブログを検索してみた。やはり米国のクレジットカードの金利に関する専門的なものは見当たらなかった。筆者はHR 627をめぐる原稿を書き始めていたが、FRB等のレギュレーションを正確に理解していないと今回の法案そのものの意義が理解できないであろうから、あらためて取りまとめることとした。
〔本文〕
2008年12月18日に米国連邦準備制度理事会(FRB)、財務省貯蓄金融機関監督局(OTS)および信用組合管理庁(NCUA)は、「サブプライム・クレジットカード」等の被害拡大阻止や金利内容の表示等透明性確保について、クレジットカード利用者保護強化の観点から関係行政規則の最終案を承認、公表した(筆者注1)。各最終案は連邦取引委員会法(Federal Trade Commission Act:FTC Act)に基づくもので、ほぼ同様の項目・内容である。したがって、今回はFRBの4つのレギュレーションについて規則改正の経緯および内容について説明する(4つのレギュレーションの施行日はいずれも2010年7月1日である)。(筆者注2)(筆者注3)
特に12月18日のFRBのプレス・リリースや最終案を丁寧に読むと理解いただけると思うが、消費者がいかに複雑な取引スキームを理解できるか、「消費者テスト」や「実証研究」の結果や顧客への各種通知文書様式やサンプルモデル例(連邦官報5426頁以下)を同時に公表している。関係規則(レギュレーション)の改正だけでないこのような実践的対応が、今後わが国の金融監督行政のあり方にも影響が出てくることを期待したい。
また、これと時期を同じくして、12月19日付で連邦預金保険公社(FDIC)および連邦取引委員会(FTC)は今回取り上げた「サブプライム・クレジットカード」の取扱い業者である“CompuCredit Corporation(アトランタ本部)”、と他2行に対し、240万ドル(約2億3,520万円)の連邦財務省に支払う民事制裁金(civil money penalty))を含む1億1,400万ドル(111億7,200万円)(欺まん的マーケティング行為を行った企業に対する被害顧客への資金返還による原状回復(restitution)(筆者注4))で和解(settlement)した旨発表した(筆者注5)。この問題は2008年6月10日にFTCがCompuCredit Corporation(その100%子会社の債権回収会社を含む)、また連邦預金保険公社(FDIC)とが同社と他2銀行(“First Bank of Deraware(デラウエア本部)”および“First Bank & Trust(ブルッキング本部)”)を同時期に監督機関としての法執行行為を起こした結果である。米国流の「一罰百戒」主義の結果という見方もあろうが、与信金利のあり方をめぐり不動産融資(サブプライム・ローン)だけでなく、クレジットカードという消費者にとって極めて重要かつ日々の生活に影響する問題が放置されてきた米国の金融の実態が垣間見える。この問題についても併せて解説する。
いずれにしても、今回制定されたレギュレーションは従来の米国のクレジットの業界ルール・常識を根本から変更する内容が含まれており、わが国の監督機関や関係業界においても十分かつ慎重な検討が必要となろう。
Ⅰ.FRB等によるクレジットカード取引の不公正な実務や無理な口座貸越サービスから消費者を保護するための政策方針策定および行政規則改正案の提案
(1)FRB、OTSおよびNCUAによるレギュレーション(行政規則)改正案の公表およびパブリックコメントの徴求
FRB、OTSおよびNCUAは2008年5月2日付で連邦取引委員会法5条(a)および同法18条(f)(1)に基づき、レギュレーションの改正案を発表した。その社会的背景については(筆者注2)に概要を述べたが、抜き差しならぬところに行き着く前に手を打つ考えが強く打ち出されていた。
改正の対象となるレギュレーションはこの時点では次の「3つ」である。今回の改正の中心は“Regulation AA(12 CFR 227)(FTC Actが根拠法)”および“Regulation Z(12 CFR 226)( Truth in Lending Actが根拠法)”で、“ Regulation DD(12 CFR 230)( Truth in Saving Actが根拠法)”はその補完的な改正であり、また2008年12月の最終案ではRegulation E(12 CFR 205)( Electronic Fund Transfer Actが根拠法)の改正案が追加され、連邦官報(Federal Register)発行後60日間のパブリックコメントに付されている。
(2)Regulation AA (不公正・欺瞞的な行為(unfair deceptive act)またはその実践(Practices))の禁止にかかる最終規則(2010年7月1日施行)
その主な内容は次のとおりである。
(A)カードユーザーの支払にかかる時間的猶予提供の義務化(Time to Make Payments)
金融機関が、ユーザーに支払準備のための合理的な時間を与えずして支払遅延扱いとすることを禁止する。
(B)異なる残高に適用される場合に高い利率の優先適用または比例配分適用の義務化(Allocation of payments)
通常金利(APR)と異なる年利(APRs)が異なる残高に対し適用される場合(すなわち、キャッシング(cash advances)、買物(purchases)、別口座からの資金振替(balance transfers)(筆者注6))、金融機関は次の3つのいずれかの方法によるかまたはユーザーにとって同様に有利な方法により最小支払額を越える金額を支払いに当てなくてはならない(従来のカード実務は最も低い金利を適用するのが通例であった)。
(i)初めに最高金利を全残高に対し適用する。
(ⅱ)各残高に対し同等額を支払に当てる。
(ⅲ)残高間において比例割合で支払に当てる。
仮に、当該口座が営業推進的な金利割引残高または金利の支払が延期されていた場合、金融機関は一定の例外の場合を除き、まず初めに割引でないか延期されていない最小支払額を超える金額を支払に当てなければならない。
金融機関は、割引金利または延期でない支払と言う理由のみでユーザーからの延滞金利がかからない支払猶予期間(grace period)の申出を拒否してはならない。
(C)金融機関は、次の場合を除き口座開設時にすべての適用金利を開示しなければならず、未払残高に対するこれらの金利の引上げ変更は禁止される(Increasing Interest Rates)。
(ⅰ) 推進的優遇金利期間が満了した場合
(ⅱ) 金利変更がLIBOR等インデックスの運用(変動金利)に従った場合
(ⅲ) レギュレーションZが求める45日前の通知後のみの新取引の場合
(ⅳ) 最小支払額を支払期限後30日以内に受領できなかった場合
(D)金融機関は、現行の通常の支払方法である1か月支払から2か月または3か月にまたがる期間に対しても前月の金利を適用する上乗せ支払すなわち2サイクル請求(筆者注7)や3サイクル請求という支払い方法を禁止する(Two-cycle Billing or Three-cycle Billing)。
(E)最終規則は、サブプライム・クレジット・カード(筆者注8)といった高手数料と低貸出枠のカード・ビジネスに対する懸念を示している。金融機関は最初の12か月の費用請求額が最初に設定した信用枠の50%を超えるような口座開設手数料やメンバー会員手数料といった決済担保預金や高額手数料(Financing of Security Deposits and Fee)(筆者注9)を課すことが禁じられる。また、カードの信用枠に最初に設定した信用枠の25%~50%という決済担保預金や手数料を課すとともに追加的に少なくとも次の5回の請求時期の間に拡げるような要求は禁止される。
(3)Regulation Z (貸付真実法の徹底)
本規則はクレジットカード口座およびその他のリボルビング利用計画(自宅を担保としない)に関し効果的な情報開示が受けられるよう見直しを行うものである。
(A)申込と提案書文言(Applications and solicitations) G-10(B)
最終規則は消費者にとってより意義がありかつ使い勝手が良いクレジットカードの申込や提案書の様式(シューマー・ボックス:Schumer Box)(筆者注10)や内容を定めるべく改正を行ったものである。
(ⅰ)様式の改訂(format revisions):新様式は金融機関に対し、文字の大きさ、重要事項の太字体表示、当該情報の表示箇所等に関する簡易表の準備を要求する。
(ⅱ)内容の改訂(content revisions):金融機関は罰則的金利が適用される場合、変動金利に関する簡易な開示内容および買物に関する支払猶予がどのような場合に認められまたは認められないかについて内容の改訂が義務付けられる。
(B)口座開設時に係る費用の開示(Account-opening disclosures)
最終規則は、口座開設時の費用についてより目立ちかつ読みやすい情報提供を行えるようすることは義務付けられる。一定の重要な条件は、口座開設時に申込と提案書文言と実質的に同様の簡易表形式で表示するものとする。
(c)定期的通知文書における開示の改善(Periodic statement disclosures)
最終規則は定期的通知文書においてより理解しやすく手数料や金利負担に関する説明のグループ化行うべく様式の変更に関する規定を設けた。主な変更点は次のとおりである。
(ⅰ)金利費用と諸手数料(Interest Charges and Fees)
金利費用と諸手数料は月ごとに別々にグループ化して表示しなければならない。金利費用は買物、キャッシングと言うタイプに分けて項目化しなくてはならない。
過去1年間の手数料と金利費用は別々に表示する必要がある。
(ⅱ)実質年利(Effective APR)
開示の要件として同条件に関する消費者の理解を欠くため廃止する。新たな要件としては、与信総額として月別および過去1年間の手数料と金利費用が効果的に表示されなければならない。
(ⅲ)最小支払額の開示(Minimum Payment Disclosure)
「2005年破産濫用防止および消費者保護法(the Bankruptcy Abuse)Prevention and Consumer Protection Act of 2005」が定めるとおり、現時点の返済残高にとって必要な最小支払金額が開示されなければならない。
(D)消費者の金利やそのた口座の利用条件の変更
最終規則は金利の引上げ等口座の利用条件に関する書面による通知を受け取る環境を拡大するとともに、変更が実施される前に通知されるべき回数を増やした。
(ⅰ)利用条件の変更にかかる事前通知の増加(Increase inAdvance Notice for Change in Terms)
最終規則は消費者が代替的資金手当てや口座の使用方法を変更するなど対策が撮りやすくするため従来の15日前から45日前に変更した。
(ⅱ)罰則的金利引上げに関する事前通知(Requiring Prior Notice for Penalty Rate Increase)
与信者は支払延滞(delinquency)、支払不能(default)または罰則としての金利引上げの45日前に事前通知を行わなければならない。
(ⅲ)簡易表(Summary Table)
最終規則は定期的通知に添えて条件変更または罰則的金利適用通知を行うときは、重要な条件が変更される旨定期通知の表面に一覧形式で開示内容を表示することを求める。
(E)追加的消費者保護(Additional protections)
最終規則は次の追加的保護規定を定める。
(ⅰ)固定金利(Fixed Rates)
広告において固定金利と表示する場合は、金利が固定される期間を明記しかつその期間中においていかなる理由でも金利変更は行わないことを明記しなくてはならない。
(ⅱ)受付時間や郵便為替の締め切り時間(Cut-off Times and Due Dates for Mailed Payments)
貸付者は締切日のタイミングを考慮し合理的な郵便為替の締め切り時間を設定しなければならない。最終規則では同時刻を午後5時とみなす。週末や休日にあたり、仮に郵便為替が締め切り期日の受け付けられなかったときは貸付者は翌営業日に受け付けたものとしなくてはならない。
(4)Regulation DD (貯蓄真実法の徹底)
最終規則は貸越に関する開示内容を定める。
(A)合算した貸越手数料の開示(Disclosure of Aggregate Overdraft Fees)
最終規則は全金融機関に対し定期的通知文書において通知期間および過去1年間の貸越手数料(overdraft fees)および残高不足手数料(returned item fees)の合計額をドル表示で開示しなくてはならない。現状は、貸越やその推進・広告中の金融機関のみ表示が義務化されている。
(B)残高情報の開示(Disclosure of Balance Information)
最終規則は金融機関に対し自動通知システムによる貸越限度額という追加的資金を除く口座残高情報の提供を義務付ける。
(5)Regulation E (電子資金振替)
本規則は消費者に対して課す貸越手数料について次のとおり一定の保護を定める。
(A)貸越サービスに係る消費者の選択の機会(Consumer Choice Regarding Overdraft Services)
改正案は取引金融機関によるATMやオンラインデビットカード利用時の貸越について2つの選択についてコメントを求める。
(ⅰ)オプト・アウト:第一のアプローチとして、金融機関は消費者が初めの通知で貸越手数料について説明されていないでまた消費者が当該金融機関の貸越サービスを受けることをオプト・アウトする合理的な機会があり、かつ消費者がオプトアウ権を行使しなかった場合は手数料の徴求は禁じられる。
(ⅱ)オプト・イン:第二のアプローチとして、消費者が金融機関に対し明らかに貸越手数料につき同意している場合を除き手数料の徴求が禁止される。
(B)債務額の保持による貸越手数料を課すことの制限(Debit Holds)
改正案は、実施のカード利用金額を越える口座残高がある場合は貸越手数料を課すことを禁ずるものである。この改正案は取引承認後短時間に取引額が確定するデビット・カード取引の場合に限定される。
Ⅱ.連邦預金保険公社と連邦取引委員会によるサブプライム・クレジット・カード推進金融機関に対する法執行行為および連邦地方裁判所への提訴とその和解結果
(1)FDICによる行政法執行行為(enforcement action)の発動
(A)2008年6月10日連邦預金保険公社は“CompuCredit Corporation”に対し連邦取引法違反となる問題とされるサブプライ・クレジット・カードの営業推進活動について監督機関としての法執行行為を取ることを公表した。
法執行行為の内容は、FTC法違反の是正および欺罔的マーケティング活動から生じた消費者の支払った手数料や費用の原状回復を求めるもので、その総額は約2億ドル以上になると推定される。またFDICはCompuCredit に対しては6,200万ドル(約60億8千万円)、“First Bank of Delaware”と“First Bank of Delaware”に対しては総額431,000ドル(約4,200万円)の現状回復を求めたのである。
その欺罔的クレジットカードのマーケティングとはどのようなものであろうか(問題となる点はFTCのリリースとほぼ同様であり、FDICのリリースに基づき説明する)。
①カード利用計画書において重要な前払い手数料(upfront fee)に関する適切な開示を怠るとともに当初の与信限度額について事実を偽った。すなわち、計画書では与信限度額は300ドル(約29,000円)とされているのもかかわらず、消費者は直ちに不適切に開示された185ドルの費用を請求され、実質的な与信限度額は115ドルに据え置かれた。
②わずかにクレジットスコアが高い消費者に対し、3,250ドル(約319,000円)を上限とする与信限度額は実は最初の90日間のみという点の開示を怠り、さらにユーザーの買物の状況をモニタリングするなどして潜在的に与信限度を引き下げた。
③あらかじめの費用差引額は、新カード口座にただちに振り替えられ信用情報機関には完全に支払がなされた旨報告がなされると計画書に表記されており、実際ユーザーは25%~50%を支払ったにもかかわらず費用差引き額を12か月以上支払っていないとしてVisaカードが入手できなかった。
(B)FDICは2008年12月19日、欺罔的カードのマーケティング行為を行った“CompuCredit Corporation”、“First Bank of Delaware”、“First Bank & Trust”に対し240万ドル(約2億3,500万円)の財務省に払う民事制裁金(civil money penalty:CMP))を含む被害顧客への資金返還による原状回復(restitution)を和解(settlement)した。また、被害を受けた顧客のうち適格者には総額370万ドル(約3億6,300万円)の現金がCompuCreditから返還される。(筆者注11)
なお、FDICは今回和解した3社以外に“Columbus Bank and Trust Company:CBT”に対しても法執行行為を行っているが、CBTは行政手続訴訟(litigation)に入る前に当初の与信限度に関するすべての手数料や制限について開示するという業務停止命令(Cease and Desist Order)と240万ドル(約2億3,500万円)の民事制裁金に合意している。また、CBTはCompuCreditが仮に現状回復に応じなった場合でも750万ドル(7億3,500万円)のバックアップの現状回復(back-up restitution)に同意している。
(2)FTCによる連邦地方裁判所への提訴と和解結果
(A) 連邦取引委員会は、2008年6月10日に“CompuCredit Corporation”およびその100%子会社の債権回収会社である“Jefferson Capital Systems,LLC”に対し、比較的所得の低い(クレジットスコアが低い)サブプライム利用者層に向け欺罔的クレジットカードの販売を行った行為は、連邦取引法および子会社の行為は「公正債権回収実施法(the Fair Debt Collection Practices Act:FDCPA)」に違反とするとの苦情申立を4-0で採択後、ジョージア州北部地区連邦地方裁判所に提訴した旨公表した。
(B) FTCは、2008年12月19日“CompuCredit社”および“Jefferson Capital Systems,LLC”との間でFDICの説明で述べたとおりの連邦法違反に基づく現状回復と民事制裁金について合意した。
(筆者注1)FRB等3機関の規則改正の背景、検討経緯、パブコメの分析、GAO(連邦議会行政監察局)等政府関係機関の分析結果等内容はすべて12月18日付の連邦官報(Federal Register)に掲載されているので、関係者はぜひ正確に読んで分析してみて欲しい。
(筆者注2)今回のFRBやOTSの措置については、2008年12月19日の日経新聞朝刊が報じている。しかし、同社が2008年2月18日「NBonline」で報じた記事は米国のクレジットカード業界へのサブプライムの波及という問題を正面からは取り上げていない。さらに言えば、朝刊記事では「米連邦準備制度理事会(FRB)と貯蓄金融機関監督局(OTS)は18日、クレジットカードに関する規制を強化することで合意した。」とある。しかし法的な説明としては曖昧な内容である。
すなわち、第一に本ブログでも紹介したとおり、FRB、OTSおよびNCUAが金融機関監督権限にもとづき、連邦取引委員会法18条(f)(1)[15 U.S.C.§57(a)]および5条(a)[15 U.S.C.§45(a)](筆者注3)を根拠として所管の行政規則改正を行った点について言及していない。また当然であるが、本文に述べたとおり2008年5月2日にパブコメに付しており行政手続に則ったものである。単なる監督機関の合同緊急対策ではない。第二に、米国の住宅ローンに始まるクレジット・クランチ(信用収縮・金融収縮による金融システム機能の危機的状況)が、最大の融資市場である米国のカード業界まで巻き込んできた危機的な状況を正確に伝えていない。米国の個人の借り手は先般の日経新聞も報じられているとおり、年金や保険を取り崩したり、ペイデー・ローン(米国で行われている給料を担保に金を借りることができる短期のローン。ペイデーは、給料日のこと。米国の給料の支払いが原則2週間周期のため、返済期限は2週間がメインとなっており、低所得者層が生活のために利用するケースが多い。それぞれの州で規定している上限金利に違反して高金利で貸し付けたり、違法な取立てなどで訴訟が発生しているため、州によっては利用が規制されている。)や質屋といった高金利への避難が極めて目立ち始めているのである。
この点は、米国弁護士山本寿賀氏のサイトでも「給料日ローン」として具体的に紹介されている。
わが国で景気低迷がこのまま進んだら、個人レベルで同様に大きな社会問題化することは間違いないといえる。
(筆者注3)アメリカの連邦制定法を検索する場合、「法律名」と「合衆国法典」の2つの検索方法があり、専門外の人は混乱している例が多い。簡単に両者の相違を説明しておく(本文中ではあえて両者を併記した)。なお、より米国以外の国も含め法律や判例その他裁判制度等について本格的に勉強されるのであれば、東京大学法学部研究室図書室外国法令判例資料室(旧外国法文献センター)、京都大学大学院法学研究科附属国際法政文献資料センター、東北大学大学院法学研究科・法学部(国際法サイト)などを散策すると理解度が高まろう。
「米国では、連邦議会で法律が制定されるとまず"Public Law(例えばPub.L.108-159と表示)"として発行されます。これは、議会に提出された法案の名称(例えば、the Fair and Accurate Credit Transactions Act of 2003)を踏襲しています。その後、分野別に体系化された「合衆国法典“United States Code(U.S.C)”」として編纂されます。U.S.C.は、合衆国憲法及び連邦議会が制定した法律で現在有効であるものを系統的に編集した法律集。50の編(Title)で構成され、さらに章、節に分かれています(同法の場合は、15 U.S.C. 1601)。
従って、名称で検索する場合、Public Law ファイルを利用します。一方、修正や変更を経た現在有効である法律を参照する場合は、“United States Code”を利用します。」(LexisNexisサイトから引用。筆者が一部補足的に変更した。)
なお、米国の法律名は上記のとおり法案の名称をそのまま引き継いでいることから内容を正確に反映していない場合がある。例えば“Bank Secrecy Act”は、内容に即して言うと 「銀行等に対する機密性が高くまたは不審な現金払いおよび海外との金融取引等に関する報告義務に関する法律」である。直訳的な「銀行秘密法」で引用される例が多いが、これでは読者には法律の内容はかいもく理解できない。ただし、これに類似する例がわが国でもある。「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律(平成13年法律第95号)」を経済産業省や地方自治体等多くの説明が同法の略称を「電子契約法」とする例が目立つ。
しかしながら、同法は正式名のとおり、(1)電子消費者契約における顧客の操作ミスによる要素の錯誤無効制度に関する民法95条の特例 (2)電子契約の成立時期の明確化(発信主義から到達主義に転換)に関する民法97条1項および同527条1項の特例を定めた法律である。
(筆者注4)欺罔的マーケティング行為を行った企業に対する被害顧客への現状回復(restitution)という民事的制裁方法については、わが国でも研究が行われているが専門的なものは少ない(あえて言えば「独占禁止法における違反抑止制度の在り方等に関する論点整理」平成18年7月21日内閣府大臣官房独占禁止法基本問題検討室取りまとめ等であろう)。なお、“restitution”を「不当利得返還」と訳しているレポートがあるが、そうであるなら“restitution of unjust enrichment”が正しい原語であろう。
(筆者注5)連邦預金保険公社の3行に対する提訴や和解の記事はわが国でほとんど報じられていない。その理由の1つ米国のクレジットカードの利用の実態について解説できる関係業界も含め専門家が極めて少ない点があげられ、また消費保護面から取組んでいるメディアも少ないことがあげられよう。
“First Bank of Deraware”および“First Bank & Trust”はすでにFDICと和解済である。
(筆者注6)“Balance Transfer”について解説しておく。クレジットカードを作る際に、他のクレジットカードの口座残高をそのまま新しいカードに振り替えることができる。この際、キャンペーン等で0%金利などが適用されるので、有利だと思ってしまう場合がある。しかし、実際にSchumer’s Boxで詳細を読むとそうでないことが分かる。まず、残高を振替る際に手数料(transaction fee for balance transfer)が取られる。Citi Simplicityの場合でみると振替金額の3%と決まっているが、金額が決まっている場合もある。いずれにせよ、手数料が取られては0%金利でも有利にならない。また、振り替えた残高に対する金利は0%であるが、そのカードを使って新しくできた残高に対しては通常の金利(10.49%)が適用される。そして一番大きな問題点であるが、毎月の支払いは金利の低い分から先に返済されるため次のような問題が生じる。例えば$1,000の残高を別のカード残高から振替し、0%金利が適用されたとする。しかし、新たに$500の買い物をして、通常金利が10.49%だったとすると、その月に$1,000を返済しても、それは0%金利の分として返済され、残った$500は金利10.49%が適用される債務残高ということになる。つまり、0%だと思って移しても、そのメリットはほとんどないということになる。なお、この説明は今回のレギュレーションAAの改正により、解決されたといえる。
(筆者注7) 通常1か月ごとに決済するカード決済が2か月や3か月にわたる返済になるもので、最終的な定期月額金利(Periodic Interest Charge)が高くなるためこれを禁止する。興味のある方は“Single –cycle billing”と“Two-Cycle billing”との比較ウェブサイトで実際比較計算してみよう。なお、”Periodic Interest Charge”とは何を言うのか。通常金利の表示は「年利(APR)」であるがクレジットカードの金利は頻繁に変動することもあり、1か月あたりに換算した金利表示のことを言う。すなわち、APRが8%であるならば“Periodic Interest rate” は0.08/12=0.666%となる。
(筆者注8)サブプライム・クレジット・カードとは不動産担保ローンより社会的影響が大きい問題である。ボストン連銀が“Communities & Banking” 2008年秋号で“Subprime Credit Card Business Model”として紹介している。住宅担保による借入や差押さえが懸念される「サブプライム」利用者層だがそれでも消費資金が必要という人を対象とするPredatoryなクレジット・カードが売られているというものである。どこがPredatory(暴利を貪る)かというと、250ドルの信用枠(credit availability)を設定すると、初期費用(1回のみ)として124ドル、年間の使用料等として132ドルをとられる。また250ドルの枠を設定すると、カード会社は利用者から初年度に256ドルを徴収する。この違法性の高いビジネスの特徴は、他の借入の返済は劣後されても、クレジット・カードの返済は生活資金枠確保のために優先される、したがってとりっぱぐれも少ないという点であり、まさに大きな社会問題といえる。
(筆者注9)“security deposit” とは、カード請求時に決済用に使用できないクレジットカード決済用担保預金である。与信限度額を悪用する顧客対策として一般的に設定されており、スイスの銀行の例でみると毎月の与信限度額の最大1.5~2倍を同預金として口座開設銀行に預けることが義務付けられ、同資金は別口座で管理され投資会社にファンドとして運用される。
(筆者注10)いわゆるクレジットカード利用に関する「シューマー・ボックス」とはいかなるものか。実は貸付真実法に基づきクレジットカード利用者に向けた表形式の表示の義務に関する規則化(レギュレーションZ:2000年施行)を働きかけたニューヨーク選出の上院議員の名前(Chuck Schumer)を取ったものである。
わが国では、米国生活をする日本人が多い割にはクレジットカードの利用方法を正確に説明しているウェブサイトが皆無である。本ブログの目的の1つに「消費者保護」を掲げている以上、多少詳しく解説しておく。
参考にした逐条的な情報は約3年前のものであり、そこで引用しているシティバンクのクレジットカード“Citi Simplicity”は現在利用できないが、「シューマー・ボックス」の説明自体には影響がないのでそのまま引用する。今回のレギュレーション改正に伴い「シューマー・ボックス」の表示方法も変更されるはずである。
なお、クレジットカードの利用に関する一般人向けの用語解説がFRBサイトで閲覧できる。
(1)年利(Annual percentage rate:APR):口座開設から12か月の導入期間は0%で、以降は10.49%(変動)である。
(2)その他の年利(Other APRs):他のカード口座からの残高の振替やキャッシングに係る金利である。前者については最初の残高が口座開設後12か月以内に行われた場合は12か月間は0%で以降は10.49%(変動)である。後者については、22.49%(変動)である。その他遅延損害および与信限度額超過金利(default rate)は、31.49%である。
(3)変動金利に関する情報(Variable rate information):
あなたのAPRは各請求期間ごとに変更される。買物や資金振替(balance transfer(筆者注6参照)については、プライム・レートプラス2.99%、キャッシングの場合はプライムレートプラス14.99%等となる。
(4) 延滞金利がかからない支払猶予期間(grace period):
支払期日までに各請求期間に完全に新残高を支払ったときは少なくとも20日間とする。
(5)新しく買物できる平均残高の自動計算結果(method for computing balances):
この方法はカード発行人がユーザーのファイナンス・チャージを計算する最も一般的な方法であり、あなたが毎月クレジット残高を全額支払わない場合に適用される。
(6)年会費(annual fee):
適用がなければ”None”と表示される。
(7)最小ファイナンス費用(minimum finance charge)
(8)外国通貨による買物を行う場合の取引手数料(Transaction Fee for Purchase ,ade in a Foreign Currency):
米国ドルに変換後外国通貨で買物をしたときは3%の交換手数料がかかる。
(9)キャッシングの場合の手数料は各キャッシングにつき3%(最小5ドル)、資金振替額の3%(最小5ドル、最大75ドル)である。
(筆者注11)FDICのリリースによると適用されるべき現在残高が与信金額を下回る適格ユーザーは具体的な請求行為は不要であり、CompuCredit社からの通知に基づき、現金の返却を受けることになる。その他の適格ユーザーは正当な与信額が通知される。なお、これらの通知や現金の返還内容はFDICが認めた独立会計事務所により検証される。
〔参照URL〕
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/bcreg20081218a1.pdf
http://www.fdic.gov/news/news/press/2008/pr08142.html
http://www.ftc.gov/opa/2008/12/compucredit.shtm
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本ブログの原稿は、2008年12月20日に一部書き上げていた。しかし、仕事の関係で棚上げになっていたが、2009年4月30日に連邦議会下院でクレジットカード・ユーザー保護法案(H.R. 627)が通過、近々上院も通過する旨のニュースが入ってきた。
約半年遅れでありニュース価値としてはいかがかと思うが、念のため同時期のブログを検索してみた。やはり米国のクレジットカードの金利に関する専門的なものは見当たらなかった。筆者はHR 627をめぐる原稿を書き始めていたが、FRB等のレギュレーションを正確に理解していないと今回の法案そのものの意義が理解できないであろうから、あらためて取りまとめることとした。
〔本文〕
2008年12月18日に米国連邦準備制度理事会(FRB)、財務省貯蓄金融機関監督局(OTS)および信用組合管理庁(NCUA)は、「サブプライム・クレジットカード」等の被害拡大阻止や金利内容の表示等透明性確保について、クレジットカード利用者保護強化の観点から関係行政規則の最終案を承認、公表した(筆者注1)。各最終案は連邦取引委員会法(Federal Trade Commission Act:FTC Act)に基づくもので、ほぼ同様の項目・内容である。したがって、今回はFRBの4つのレギュレーションについて規則改正の経緯および内容について説明する(4つのレギュレーションの施行日はいずれも2010年7月1日である)。(筆者注2)(筆者注3)
特に12月18日のFRBのプレス・リリースや最終案を丁寧に読むと理解いただけると思うが、消費者がいかに複雑な取引スキームを理解できるか、「消費者テスト」や「実証研究」の結果や顧客への各種通知文書様式やサンプルモデル例(連邦官報5426頁以下)を同時に公表している。関係規則(レギュレーション)の改正だけでないこのような実践的対応が、今後わが国の金融監督行政のあり方にも影響が出てくることを期待したい。
また、これと時期を同じくして、12月19日付で連邦預金保険公社(FDIC)および連邦取引委員会(FTC)は今回取り上げた「サブプライム・クレジットカード」の取扱い業者である“CompuCredit Corporation(アトランタ本部)”、と他2行に対し、240万ドル(約2億3,520万円)の連邦財務省に支払う民事制裁金(civil money penalty))を含む1億1,400万ドル(111億7,200万円)(欺まん的マーケティング行為を行った企業に対する被害顧客への資金返還による原状回復(restitution)(筆者注4))で和解(settlement)した旨発表した(筆者注5)。この問題は2008年6月10日にFTCがCompuCredit Corporation(その100%子会社の債権回収会社を含む)、また連邦預金保険公社(FDIC)とが同社と他2銀行(“First Bank of Deraware(デラウエア本部)”および“First Bank & Trust(ブルッキング本部)”)を同時期に監督機関としての法執行行為を起こした結果である。米国流の「一罰百戒」主義の結果という見方もあろうが、与信金利のあり方をめぐり不動産融資(サブプライム・ローン)だけでなく、クレジットカードという消費者にとって極めて重要かつ日々の生活に影響する問題が放置されてきた米国の金融の実態が垣間見える。この問題についても併せて解説する。
いずれにしても、今回制定されたレギュレーションは従来の米国のクレジットの業界ルール・常識を根本から変更する内容が含まれており、わが国の監督機関や関係業界においても十分かつ慎重な検討が必要となろう。
Ⅰ.FRB等によるクレジットカード取引の不公正な実務や無理な口座貸越サービスから消費者を保護するための政策方針策定および行政規則改正案の提案
(1)FRB、OTSおよびNCUAによるレギュレーション(行政規則)改正案の公表およびパブリックコメントの徴求
FRB、OTSおよびNCUAは2008年5月2日付で連邦取引委員会法5条(a)および同法18条(f)(1)に基づき、レギュレーションの改正案を発表した。その社会的背景については(筆者注2)に概要を述べたが、抜き差しならぬところに行き着く前に手を打つ考えが強く打ち出されていた。
改正の対象となるレギュレーションはこの時点では次の「3つ」である。今回の改正の中心は“Regulation AA(12 CFR 227)(FTC Actが根拠法)”および“Regulation Z(12 CFR 226)( Truth in Lending Actが根拠法)”で、“ Regulation DD(12 CFR 230)( Truth in Saving Actが根拠法)”はその補完的な改正であり、また2008年12月の最終案ではRegulation E(12 CFR 205)( Electronic Fund Transfer Actが根拠法)の改正案が追加され、連邦官報(Federal Register)発行後60日間のパブリックコメントに付されている。
(2)Regulation AA (不公正・欺瞞的な行為(unfair deceptive act)またはその実践(Practices))の禁止にかかる最終規則(2010年7月1日施行)
その主な内容は次のとおりである。
(A)カードユーザーの支払にかかる時間的猶予提供の義務化(Time to Make Payments)
金融機関が、ユーザーに支払準備のための合理的な時間を与えずして支払遅延扱いとすることを禁止する。
(B)異なる残高に適用される場合に高い利率の優先適用または比例配分適用の義務化(Allocation of payments)
通常金利(APR)と異なる年利(APRs)が異なる残高に対し適用される場合(すなわち、キャッシング(cash advances)、買物(purchases)、別口座からの資金振替(balance transfers)(筆者注6))、金融機関は次の3つのいずれかの方法によるかまたはユーザーにとって同様に有利な方法により最小支払額を越える金額を支払いに当てなくてはならない(従来のカード実務は最も低い金利を適用するのが通例であった)。
(i)初めに最高金利を全残高に対し適用する。
(ⅱ)各残高に対し同等額を支払に当てる。
(ⅲ)残高間において比例割合で支払に当てる。
仮に、当該口座が営業推進的な金利割引残高または金利の支払が延期されていた場合、金融機関は一定の例外の場合を除き、まず初めに割引でないか延期されていない最小支払額を超える金額を支払に当てなければならない。
金融機関は、割引金利または延期でない支払と言う理由のみでユーザーからの延滞金利がかからない支払猶予期間(grace period)の申出を拒否してはならない。
(C)金融機関は、次の場合を除き口座開設時にすべての適用金利を開示しなければならず、未払残高に対するこれらの金利の引上げ変更は禁止される(Increasing Interest Rates)。
(ⅰ) 推進的優遇金利期間が満了した場合
(ⅱ) 金利変更がLIBOR等インデックスの運用(変動金利)に従った場合
(ⅲ) レギュレーションZが求める45日前の通知後のみの新取引の場合
(ⅳ) 最小支払額を支払期限後30日以内に受領できなかった場合
(D)金融機関は、現行の通常の支払方法である1か月支払から2か月または3か月にまたがる期間に対しても前月の金利を適用する上乗せ支払すなわち2サイクル請求(筆者注7)や3サイクル請求という支払い方法を禁止する(Two-cycle Billing or Three-cycle Billing)。
(E)最終規則は、サブプライム・クレジット・カード(筆者注8)といった高手数料と低貸出枠のカード・ビジネスに対する懸念を示している。金融機関は最初の12か月の費用請求額が最初に設定した信用枠の50%を超えるような口座開設手数料やメンバー会員手数料といった決済担保預金や高額手数料(Financing of Security Deposits and Fee)(筆者注9)を課すことが禁じられる。また、カードの信用枠に最初に設定した信用枠の25%~50%という決済担保預金や手数料を課すとともに追加的に少なくとも次の5回の請求時期の間に拡げるような要求は禁止される。
(3)Regulation Z (貸付真実法の徹底)
本規則はクレジットカード口座およびその他のリボルビング利用計画(自宅を担保としない)に関し効果的な情報開示が受けられるよう見直しを行うものである。
(A)申込と提案書文言(Applications and solicitations) G-10(B)
最終規則は消費者にとってより意義がありかつ使い勝手が良いクレジットカードの申込や提案書の様式(シューマー・ボックス:Schumer Box)(筆者注10)や内容を定めるべく改正を行ったものである。
(ⅰ)様式の改訂(format revisions):新様式は金融機関に対し、文字の大きさ、重要事項の太字体表示、当該情報の表示箇所等に関する簡易表の準備を要求する。
(ⅱ)内容の改訂(content revisions):金融機関は罰則的金利が適用される場合、変動金利に関する簡易な開示内容および買物に関する支払猶予がどのような場合に認められまたは認められないかについて内容の改訂が義務付けられる。
(B)口座開設時に係る費用の開示(Account-opening disclosures)
最終規則は、口座開設時の費用についてより目立ちかつ読みやすい情報提供を行えるようすることは義務付けられる。一定の重要な条件は、口座開設時に申込と提案書文言と実質的に同様の簡易表形式で表示するものとする。
(c)定期的通知文書における開示の改善(Periodic statement disclosures)
最終規則は定期的通知文書においてより理解しやすく手数料や金利負担に関する説明のグループ化行うべく様式の変更に関する規定を設けた。主な変更点は次のとおりである。
(ⅰ)金利費用と諸手数料(Interest Charges and Fees)
金利費用と諸手数料は月ごとに別々にグループ化して表示しなければならない。金利費用は買物、キャッシングと言うタイプに分けて項目化しなくてはならない。
過去1年間の手数料と金利費用は別々に表示する必要がある。
(ⅱ)実質年利(Effective APR)
開示の要件として同条件に関する消費者の理解を欠くため廃止する。新たな要件としては、与信総額として月別および過去1年間の手数料と金利費用が効果的に表示されなければならない。
(ⅲ)最小支払額の開示(Minimum Payment Disclosure)
「2005年破産濫用防止および消費者保護法(the Bankruptcy Abuse)Prevention and Consumer Protection Act of 2005」が定めるとおり、現時点の返済残高にとって必要な最小支払金額が開示されなければならない。
(D)消費者の金利やそのた口座の利用条件の変更
最終規則は金利の引上げ等口座の利用条件に関する書面による通知を受け取る環境を拡大するとともに、変更が実施される前に通知されるべき回数を増やした。
(ⅰ)利用条件の変更にかかる事前通知の増加(Increase inAdvance Notice for Change in Terms)
最終規則は消費者が代替的資金手当てや口座の使用方法を変更するなど対策が撮りやすくするため従来の15日前から45日前に変更した。
(ⅱ)罰則的金利引上げに関する事前通知(Requiring Prior Notice for Penalty Rate Increase)
与信者は支払延滞(delinquency)、支払不能(default)または罰則としての金利引上げの45日前に事前通知を行わなければならない。
(ⅲ)簡易表(Summary Table)
最終規則は定期的通知に添えて条件変更または罰則的金利適用通知を行うときは、重要な条件が変更される旨定期通知の表面に一覧形式で開示内容を表示することを求める。
(E)追加的消費者保護(Additional protections)
最終規則は次の追加的保護規定を定める。
(ⅰ)固定金利(Fixed Rates)
広告において固定金利と表示する場合は、金利が固定される期間を明記しかつその期間中においていかなる理由でも金利変更は行わないことを明記しなくてはならない。
(ⅱ)受付時間や郵便為替の締め切り時間(Cut-off Times and Due Dates for Mailed Payments)
貸付者は締切日のタイミングを考慮し合理的な郵便為替の締め切り時間を設定しなければならない。最終規則では同時刻を午後5時とみなす。週末や休日にあたり、仮に郵便為替が締め切り期日の受け付けられなかったときは貸付者は翌営業日に受け付けたものとしなくてはならない。
(4)Regulation DD (貯蓄真実法の徹底)
最終規則は貸越に関する開示内容を定める。
(A)合算した貸越手数料の開示(Disclosure of Aggregate Overdraft Fees)
最終規則は全金融機関に対し定期的通知文書において通知期間および過去1年間の貸越手数料(overdraft fees)および残高不足手数料(returned item fees)の合計額をドル表示で開示しなくてはならない。現状は、貸越やその推進・広告中の金融機関のみ表示が義務化されている。
(B)残高情報の開示(Disclosure of Balance Information)
最終規則は金融機関に対し自動通知システムによる貸越限度額という追加的資金を除く口座残高情報の提供を義務付ける。
(5)Regulation E (電子資金振替)
本規則は消費者に対して課す貸越手数料について次のとおり一定の保護を定める。
(A)貸越サービスに係る消費者の選択の機会(Consumer Choice Regarding Overdraft Services)
改正案は取引金融機関によるATMやオンラインデビットカード利用時の貸越について2つの選択についてコメントを求める。
(ⅰ)オプト・アウト:第一のアプローチとして、金融機関は消費者が初めの通知で貸越手数料について説明されていないでまた消費者が当該金融機関の貸越サービスを受けることをオプト・アウトする合理的な機会があり、かつ消費者がオプトアウ権を行使しなかった場合は手数料の徴求は禁じられる。
(ⅱ)オプト・イン:第二のアプローチとして、消費者が金融機関に対し明らかに貸越手数料につき同意している場合を除き手数料の徴求が禁止される。
(B)債務額の保持による貸越手数料を課すことの制限(Debit Holds)
改正案は、実施のカード利用金額を越える口座残高がある場合は貸越手数料を課すことを禁ずるものである。この改正案は取引承認後短時間に取引額が確定するデビット・カード取引の場合に限定される。
Ⅱ.連邦預金保険公社と連邦取引委員会によるサブプライム・クレジット・カード推進金融機関に対する法執行行為および連邦地方裁判所への提訴とその和解結果
(1)FDICによる行政法執行行為(enforcement action)の発動
(A)2008年6月10日連邦預金保険公社は“CompuCredit Corporation”に対し連邦取引法違反となる問題とされるサブプライ・クレジット・カードの営業推進活動について監督機関としての法執行行為を取ることを公表した。
法執行行為の内容は、FTC法違反の是正および欺罔的マーケティング活動から生じた消費者の支払った手数料や費用の原状回復を求めるもので、その総額は約2億ドル以上になると推定される。またFDICはCompuCredit に対しては6,200万ドル(約60億8千万円)、“First Bank of Delaware”と“First Bank of Delaware”に対しては総額431,000ドル(約4,200万円)の現状回復を求めたのである。
その欺罔的クレジットカードのマーケティングとはどのようなものであろうか(問題となる点はFTCのリリースとほぼ同様であり、FDICのリリースに基づき説明する)。
①カード利用計画書において重要な前払い手数料(upfront fee)に関する適切な開示を怠るとともに当初の与信限度額について事実を偽った。すなわち、計画書では与信限度額は300ドル(約29,000円)とされているのもかかわらず、消費者は直ちに不適切に開示された185ドルの費用を請求され、実質的な与信限度額は115ドルに据え置かれた。
②わずかにクレジットスコアが高い消費者に対し、3,250ドル(約319,000円)を上限とする与信限度額は実は最初の90日間のみという点の開示を怠り、さらにユーザーの買物の状況をモニタリングするなどして潜在的に与信限度を引き下げた。
③あらかじめの費用差引額は、新カード口座にただちに振り替えられ信用情報機関には完全に支払がなされた旨報告がなされると計画書に表記されており、実際ユーザーは25%~50%を支払ったにもかかわらず費用差引き額を12か月以上支払っていないとしてVisaカードが入手できなかった。
(B)FDICは2008年12月19日、欺罔的カードのマーケティング行為を行った“CompuCredit Corporation”、“First Bank of Delaware”、“First Bank & Trust”に対し240万ドル(約2億3,500万円)の財務省に払う民事制裁金(civil money penalty:CMP))を含む被害顧客への資金返還による原状回復(restitution)を和解(settlement)した。また、被害を受けた顧客のうち適格者には総額370万ドル(約3億6,300万円)の現金がCompuCreditから返還される。(筆者注11)
なお、FDICは今回和解した3社以外に“Columbus Bank and Trust Company:CBT”に対しても法執行行為を行っているが、CBTは行政手続訴訟(litigation)に入る前に当初の与信限度に関するすべての手数料や制限について開示するという業務停止命令(Cease and Desist Order)と240万ドル(約2億3,500万円)の民事制裁金に合意している。また、CBTはCompuCreditが仮に現状回復に応じなった場合でも750万ドル(7億3,500万円)のバックアップの現状回復(back-up restitution)に同意している。
(2)FTCによる連邦地方裁判所への提訴と和解結果
(A) 連邦取引委員会は、2008年6月10日に“CompuCredit Corporation”およびその100%子会社の債権回収会社である“Jefferson Capital Systems,LLC”に対し、比較的所得の低い(クレジットスコアが低い)サブプライム利用者層に向け欺罔的クレジットカードの販売を行った行為は、連邦取引法および子会社の行為は「公正債権回収実施法(the Fair Debt Collection Practices Act:FDCPA)」に違反とするとの苦情申立を4-0で採択後、ジョージア州北部地区連邦地方裁判所に提訴した旨公表した。
(B) FTCは、2008年12月19日“CompuCredit社”および“Jefferson Capital Systems,LLC”との間でFDICの説明で述べたとおりの連邦法違反に基づく現状回復と民事制裁金について合意した。
(筆者注1)FRB等3機関の規則改正の背景、検討経緯、パブコメの分析、GAO(連邦議会行政監察局)等政府関係機関の分析結果等内容はすべて12月18日付の連邦官報(Federal Register)に掲載されているので、関係者はぜひ正確に読んで分析してみて欲しい。
(筆者注2)今回のFRBやOTSの措置については、2008年12月19日の日経新聞朝刊が報じている。しかし、同社が2008年2月18日「NBonline」で報じた記事は米国のクレジットカード業界へのサブプライムの波及という問題を正面からは取り上げていない。さらに言えば、朝刊記事では「米連邦準備制度理事会(FRB)と貯蓄金融機関監督局(OTS)は18日、クレジットカードに関する規制を強化することで合意した。」とある。しかし法的な説明としては曖昧な内容である。
すなわち、第一に本ブログでも紹介したとおり、FRB、OTSおよびNCUAが金融機関監督権限にもとづき、連邦取引委員会法18条(f)(1)[15 U.S.C.§57(a)]および5条(a)[15 U.S.C.§45(a)](筆者注3)を根拠として所管の行政規則改正を行った点について言及していない。また当然であるが、本文に述べたとおり2008年5月2日にパブコメに付しており行政手続に則ったものである。単なる監督機関の合同緊急対策ではない。第二に、米国の住宅ローンに始まるクレジット・クランチ(信用収縮・金融収縮による金融システム機能の危機的状況)が、最大の融資市場である米国のカード業界まで巻き込んできた危機的な状況を正確に伝えていない。米国の個人の借り手は先般の日経新聞も報じられているとおり、年金や保険を取り崩したり、ペイデー・ローン(米国で行われている給料を担保に金を借りることができる短期のローン。ペイデーは、給料日のこと。米国の給料の支払いが原則2週間周期のため、返済期限は2週間がメインとなっており、低所得者層が生活のために利用するケースが多い。それぞれの州で規定している上限金利に違反して高金利で貸し付けたり、違法な取立てなどで訴訟が発生しているため、州によっては利用が規制されている。)や質屋といった高金利への避難が極めて目立ち始めているのである。
この点は、米国弁護士山本寿賀氏のサイトでも「給料日ローン」として具体的に紹介されている。
わが国で景気低迷がこのまま進んだら、個人レベルで同様に大きな社会問題化することは間違いないといえる。
(筆者注3)アメリカの連邦制定法を検索する場合、「法律名」と「合衆国法典」の2つの検索方法があり、専門外の人は混乱している例が多い。簡単に両者の相違を説明しておく(本文中ではあえて両者を併記した)。なお、より米国以外の国も含め法律や判例その他裁判制度等について本格的に勉強されるのであれば、東京大学法学部研究室図書室外国法令判例資料室(旧外国法文献センター)、京都大学大学院法学研究科附属国際法政文献資料センター、東北大学大学院法学研究科・法学部(国際法サイト)などを散策すると理解度が高まろう。
「米国では、連邦議会で法律が制定されるとまず"Public Law(例えばPub.L.108-159と表示)"として発行されます。これは、議会に提出された法案の名称(例えば、the Fair and Accurate Credit Transactions Act of 2003)を踏襲しています。その後、分野別に体系化された「合衆国法典“United States Code(U.S.C)”」として編纂されます。U.S.C.は、合衆国憲法及び連邦議会が制定した法律で現在有効であるものを系統的に編集した法律集。50の編(Title)で構成され、さらに章、節に分かれています(同法の場合は、15 U.S.C. 1601)。
従って、名称で検索する場合、Public Law ファイルを利用します。一方、修正や変更を経た現在有効である法律を参照する場合は、“United States Code”を利用します。」(LexisNexisサイトから引用。筆者が一部補足的に変更した。)
なお、米国の法律名は上記のとおり法案の名称をそのまま引き継いでいることから内容を正確に反映していない場合がある。例えば“Bank Secrecy Act”は、内容に即して言うと 「銀行等に対する機密性が高くまたは不審な現金払いおよび海外との金融取引等に関する報告義務に関する法律」である。直訳的な「銀行秘密法」で引用される例が多いが、これでは読者には法律の内容はかいもく理解できない。ただし、これに類似する例がわが国でもある。「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律(平成13年法律第95号)」を経済産業省や地方自治体等多くの説明が同法の略称を「電子契約法」とする例が目立つ。
しかしながら、同法は正式名のとおり、(1)電子消費者契約における顧客の操作ミスによる要素の錯誤無効制度に関する民法95条の特例 (2)電子契約の成立時期の明確化(発信主義から到達主義に転換)に関する民法97条1項および同527条1項の特例を定めた法律である。
(筆者注4)欺罔的マーケティング行為を行った企業に対する被害顧客への現状回復(restitution)という民事的制裁方法については、わが国でも研究が行われているが専門的なものは少ない(あえて言えば「独占禁止法における違反抑止制度の在り方等に関する論点整理」平成18年7月21日内閣府大臣官房独占禁止法基本問題検討室取りまとめ等であろう)。なお、“restitution”を「不当利得返還」と訳しているレポートがあるが、そうであるなら“restitution of unjust enrichment”が正しい原語であろう。
(筆者注5)連邦預金保険公社の3行に対する提訴や和解の記事はわが国でほとんど報じられていない。その理由の1つ米国のクレジットカードの利用の実態について解説できる関係業界も含め専門家が極めて少ない点があげられ、また消費保護面から取組んでいるメディアも少ないことがあげられよう。
“First Bank of Deraware”および“First Bank & Trust”はすでにFDICと和解済である。
(筆者注6)“Balance Transfer”について解説しておく。クレジットカードを作る際に、他のクレジットカードの口座残高をそのまま新しいカードに振り替えることができる。この際、キャンペーン等で0%金利などが適用されるので、有利だと思ってしまう場合がある。しかし、実際にSchumer’s Boxで詳細を読むとそうでないことが分かる。まず、残高を振替る際に手数料(transaction fee for balance transfer)が取られる。Citi Simplicityの場合でみると振替金額の3%と決まっているが、金額が決まっている場合もある。いずれにせよ、手数料が取られては0%金利でも有利にならない。また、振り替えた残高に対する金利は0%であるが、そのカードを使って新しくできた残高に対しては通常の金利(10.49%)が適用される。そして一番大きな問題点であるが、毎月の支払いは金利の低い分から先に返済されるため次のような問題が生じる。例えば$1,000の残高を別のカード残高から振替し、0%金利が適用されたとする。しかし、新たに$500の買い物をして、通常金利が10.49%だったとすると、その月に$1,000を返済しても、それは0%金利の分として返済され、残った$500は金利10.49%が適用される債務残高ということになる。つまり、0%だと思って移しても、そのメリットはほとんどないということになる。なお、この説明は今回のレギュレーションAAの改正により、解決されたといえる。
(筆者注7) 通常1か月ごとに決済するカード決済が2か月や3か月にわたる返済になるもので、最終的な定期月額金利(Periodic Interest Charge)が高くなるためこれを禁止する。興味のある方は“Single –cycle billing”と“Two-Cycle billing”との比較ウェブサイトで実際比較計算してみよう。なお、”Periodic Interest Charge”とは何を言うのか。通常金利の表示は「年利(APR)」であるがクレジットカードの金利は頻繁に変動することもあり、1か月あたりに換算した金利表示のことを言う。すなわち、APRが8%であるならば“Periodic Interest rate” は0.08/12=0.666%となる。
(筆者注8)サブプライム・クレジット・カードとは不動産担保ローンより社会的影響が大きい問題である。ボストン連銀が“Communities & Banking” 2008年秋号で“Subprime Credit Card Business Model”として紹介している。住宅担保による借入や差押さえが懸念される「サブプライム」利用者層だがそれでも消費資金が必要という人を対象とするPredatoryなクレジット・カードが売られているというものである。どこがPredatory(暴利を貪る)かというと、250ドルの信用枠(credit availability)を設定すると、初期費用(1回のみ)として124ドル、年間の使用料等として132ドルをとられる。また250ドルの枠を設定すると、カード会社は利用者から初年度に256ドルを徴収する。この違法性の高いビジネスの特徴は、他の借入の返済は劣後されても、クレジット・カードの返済は生活資金枠確保のために優先される、したがってとりっぱぐれも少ないという点であり、まさに大きな社会問題といえる。
(筆者注9)“security deposit” とは、カード請求時に決済用に使用できないクレジットカード決済用担保預金である。与信限度額を悪用する顧客対策として一般的に設定されており、スイスの銀行の例でみると毎月の与信限度額の最大1.5~2倍を同預金として口座開設銀行に預けることが義務付けられ、同資金は別口座で管理され投資会社にファンドとして運用される。
(筆者注10)いわゆるクレジットカード利用に関する「シューマー・ボックス」とはいかなるものか。実は貸付真実法に基づきクレジットカード利用者に向けた表形式の表示の義務に関する規則化(レギュレーションZ:2000年施行)を働きかけたニューヨーク選出の上院議員の名前(Chuck Schumer)を取ったものである。
わが国では、米国生活をする日本人が多い割にはクレジットカードの利用方法を正確に説明しているウェブサイトが皆無である。本ブログの目的の1つに「消費者保護」を掲げている以上、多少詳しく解説しておく。
参考にした逐条的な情報は約3年前のものであり、そこで引用しているシティバンクのクレジットカード“Citi Simplicity”は現在利用できないが、「シューマー・ボックス」の説明自体には影響がないのでそのまま引用する。今回のレギュレーション改正に伴い「シューマー・ボックス」の表示方法も変更されるはずである。
なお、クレジットカードの利用に関する一般人向けの用語解説がFRBサイトで閲覧できる。
(1)年利(Annual percentage rate:APR):口座開設から12か月の導入期間は0%で、以降は10.49%(変動)である。
(2)その他の年利(Other APRs):他のカード口座からの残高の振替やキャッシングに係る金利である。前者については最初の残高が口座開設後12か月以内に行われた場合は12か月間は0%で以降は10.49%(変動)である。後者については、22.49%(変動)である。その他遅延損害および与信限度額超過金利(default rate)は、31.49%である。
(3)変動金利に関する情報(Variable rate information):
あなたのAPRは各請求期間ごとに変更される。買物や資金振替(balance transfer(筆者注6参照)については、プライム・レートプラス2.99%、キャッシングの場合はプライムレートプラス14.99%等となる。
(4) 延滞金利がかからない支払猶予期間(grace period):
支払期日までに各請求期間に完全に新残高を支払ったときは少なくとも20日間とする。
(5)新しく買物できる平均残高の自動計算結果(method for computing balances):
この方法はカード発行人がユーザーのファイナンス・チャージを計算する最も一般的な方法であり、あなたが毎月クレジット残高を全額支払わない場合に適用される。
(6)年会費(annual fee):
適用がなければ”None”と表示される。
(7)最小ファイナンス費用(minimum finance charge)
(8)外国通貨による買物を行う場合の取引手数料(Transaction Fee for Purchase ,ade in a Foreign Currency):
米国ドルに変換後外国通貨で買物をしたときは3%の交換手数料がかかる。
(9)キャッシングの場合の手数料は各キャッシングにつき3%(最小5ドル)、資金振替額の3%(最小5ドル、最大75ドル)である。
(筆者注11)FDICのリリースによると適用されるべき現在残高が与信金額を下回る適格ユーザーは具体的な請求行為は不要であり、CompuCredit社からの通知に基づき、現金の返却を受けることになる。その他の適格ユーザーは正当な与信額が通知される。なお、これらの通知や現金の返還内容はFDICが認めた独立会計事務所により検証される。
〔参照URL〕
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/bcreg20081218a1.pdf
http://www.fdic.gov/news/news/press/2008/pr08142.html
http://www.ftc.gov/opa/2008/12/compucredit.shtm
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