2009年8月25日火曜日

海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向と新たな研究・開発への取組み(N0.14)

 
 わが国のメディアも欧州疾病対策センター(ECDC)が毎日更新・発表している新型インフルエンザの世界的な感染拡大情報に注目している。本ブログのN0.12で紹介したとおり、WHOが7月22日以降各国別の感染確認件数統計の公表を中止し、WHOの世界6つの地域事務局(regional office)(アフリカ、アメリカ、東地中海、欧州、東南アジア、西太平洋)からの累計確認数と死者数の集計方式に改定したことが、ECDCの個別国情報の意義があらためて浮かび上がった理由の1つといえよう。
 しかし、ECDCも従来独自に集計してきたEUやEFTA加盟国以外の各国の確認済累計感染者数の公表につき「8月9日」をもって中止している。その最大の理由は、ECDCの説明によるとわが国と同様世界の主要国が感染数の公表が出来ていないという最悪の状況になったことであろう。さらに疫学上の重要課題といえる監視情報の混乱の実態は、ECDCの独自の統計とWHOの集計時の誤差の解釈のあり方の問題も浮かび上がってきた。例えば、8月13日現在のWHOの世界統計では累積確認感染者数は182,166 人、死者は1,799人である。一方、ECDCが8月22日に公表したEU加盟国(EFTAを含む)感染者数は42, 099人(うち死者は80人)、その他の国々の感染者数は208,496人(うち死者は2,459人)である。世界全体では累計確認感染者は250,595人、死者は2,539人である。(筆者注1)
 一方、わが国の厚生労働大臣のコメントを待つまでもなく、新型インフルエンザの本格的な流行は本年秋以降といわれていたが、実際は夏から始まっている。都道府県ごとの集計でみた感染発生事例の累計疑似症患者数は8月16までの2009年第33週は1.69(患者報告数:7,750)となり季節性インフルエンザの全国的流行開始指数値(1.00)を上回った。第33週の受診患者数は約11万人と推計され、そのほとんどが新型インフルエンザであると国立感染症研究所は推定している。8月18日までの累計入院患者数は230人である。
 本文で述べるとおり、世界的な感染拡大傾向はこの数週間は従来拡大が続いていた北半球の北米や英国等は低下傾向にあり、わが国の増加傾向はアジア地域や中南米の傾向に近いともいえる。
このような本格的感染拡大への対応として、一層の医療体制の強化や学校等の集団感染対策が必要でありことはいうまでもないが、筆者が従来から懸念していたとおり新型インフルエンザ接種ワクチンの不足問題も具体化してきた。(筆者注2)(筆者注3)
 今回のブログは、グローバルな情報源として注目を集めている一方で、閲覧・検索が困難となっているECDCの最新感染情報の見方や特徴的情報公開を行っている個別国について紹介する。


1.感染主要国における最新情報
(1)WHOの地域別累計感染者・死者数
 WHOが8月21日の公表したupdate62(8月13日現在)によると、累計確認感染者は182,166人以上、死亡者数は1,799人である
 なお、WHOは地域別の動向をモニタリングしており、この1週間の傾向を次のように分析している。
A.世界的傾向:南半球の温和な地域では遅れて感染が報告されている南アフリカを除き他の国では引き続き感染者数は減少傾向にある(オーストラリア、チリ、アルゼンチン等は国全体では減少しているものの一部地域で増加がみられる)。
B.インド、タイ、マレーシア等熱帯アジア地域は雨季に入るため拡大傾向にあり、香港も同様である。中米の熱帯地帯のコスタリカ、エルサルバドルは急激な増加傾向が見られる。
C.北米や欧州の北部温帯地域(northern temperate zones)では米国の3州や西欧州の数カ国での増加を除くと感染拡大率は減少傾向にある。
D.抗ウイルス薬タミフルの耐性ウイルスの報告は世界全体(累計)で12例報告(日本4例、米国・香港特別自治区各2例、デンマーク・カナダ・シンガポール・中華人民共和国各1例)されている。この分離された耐性ウイルスはノイラミニダーゼ(neuraminidase)(筆者注4)(H275Yという)によりタミフル耐性を持つ変異を検出している。(筆者注5)

(2)ECDCの新ポータルサイトのアクセス方法
 8月17日にECDCのポータルサイトが新しくなった。おそらく世界中の関係機関や個人からのアクセスが集中し、サーバーの管理上等で問題が出てきたのかもしれない。Pandemic(H1N1)2009を選択、閲覧しようとすると、IDやパスワード入力が求められエラーとなる。これは、欧州委員会の公衆衛生専門ポータル“Public Health”や米国CDCの“2009 H1N1 Flu:International Situation Update”からアクセスしても同様である。それを避けるには次の手順を参考までに薦めたい。
ECDCのホームページにアクセスする。
②“Press Centre”を選択する。
③画面右“STAY UP TO DATE”の“RSS Subscribe to the Daily Update-Pandemic
2009”を使ってRSSフィードを利用する。
 また、EU加盟国における新型インフルエンザの取組みに関する最新情報は前記“Public Health”でも確認できる。
また、EUの個別国の担当省等の原データの見方について説明しておく。
①“Public Health”の“Influenza A(H1N1)”を選択する。
②“Information and Advice”の“Information from Member States,Candidate and EEA countries”を選択する。
ただし、この場合各国の言語が正確に理解できることおよびリンク先が外務省等必ずしも国を代表する保健機関でないこともあり、あまり薦められない。


2.個別国情報で情報内容につき特徴がある事例紹介
 米国等主要国や国際機関であるWHOの公表内容が入院患者数と死亡者数の推移等に移る中、疫学的に感染拡大情報を詳細にウォッチしまた国民の不安を解決すべく個人的な対応を行なっている国やあまりわが国では紹介されない国々もあり、今回はそれらの国の情報をあらためて紹介する。

A.カナダ
 公衆衛生庁(Public Health of Canada)の専門サイトは“FluWatch”である。8月15日に終わる週(第32週)で見るとインフルエンザ様疾患 (ILI) )診察率(consultation rate)は全国ベースで見て1,000分の15で前週と同様である。一方、陽性結果の割合は4.2%と前々週の9.9%,前週の5.5%からさらに低下した。
 累計感染者数7,083人のうち入院患者数は1,420人、うち集中治療室で治療中が275人である。累計死亡者数は70人である。アルバータ、マニトバ、オンタリオおよびケベックの4州だけで見ると入院率は90%以上、死亡率は約85%である。
 年令層別に見ると15歳未満の入院率が最も高いが、死亡率について見ると45歳以上の比較的高年齢層が最も高い。

B.オーストラリア
 連邦保健高齢者担当省サイトで見てみる。同国は毎日更新しており、8月25日現在の累計確認感染者数は33,844人、累計死亡者数は132人である。25日現在の入院者数は440人(累計入院患者数は4,198人)で、うち100人は集中治療室(Intensive Care Units)に入る重症患者である。

C.英国
 健康保護局(HPA)は毎週最新情報を公表している。英国の各地域の感染拡大傾向はこの時期として予想より盛んではあるが、収まりつつあり、8月16日までの第33週のイングランドやウェールズのインフルエンザ様疾患 (ILI) )診察率は季節性インフルエンザの率を下回る水準まで下がっている。なお、本ブログでたびたび紹介しているHPAの“Weekly pandemic flu media update”の分析内容は分かりやすいし、毎週公表している“Weekly epidemiological updates archive”は疫学的研究には必須のデータであると思う。
 一方、英国保健省の専門サイト“NHS choices”を8月21日時点で見ると、2週間前の1週で約25,000人が、前週には11,000人になり急速に減少傾向が見られたと分析している。累計死亡者数は59人である。
 英国の保健省サイトは8月13日には、2009年-2010年のブタ由来インフルエンザについてワクチンのグラクソスミス・クラインやバクスターという製薬メーカーに対す発注済である点や、欧州薬品審査庁(European Medicines Agency)により9月末または10月までの検査承認段階に入っており、10月中旬には接種がはじめられると公表している。また、英国「ワクチン接種および免疫合同委員会(Joint Committees for Vaccination and Immunisation:JCVI)」において健康弱者に対する本年10月に供給予定のブタ由来インフルエンザワクチン第一陣の接種の優先順位について次の順序とする考えが示されている。
①その時点で季節性インフルエンザの治療をうけている生後6か月から65歳の者。
②欧州薬品審査庁の承認条件に従い、全妊婦または一定の期間(trimsters)の妊婦。
③免疫システムに影響をもつ個人と接触せざるを得ない家族。
④65歳以上でかつ現時点で季節性インフルエンザで高い医療リスクを負っている人。
さらに、保健と社会医療の最前線従業者へもワクチンを提供する。今後の予定について、豚インフルエンザワクチン接種プログラムの実現の更なるガイダンスがPrimary Care Trust(PCT)免疫のコーディネータ宛に送られるとしている。
 なお、特記すべき記事として英国の“National Pandemic Flu Service”について簡単に解説しておく。わが国では基本的に厚生労働省の新型インフルエンザサイトに個人がアクセスできるとすれば「インフルエンザかな?症状がある方々へ」くらいであろうし、その他には地元保健所等ということになろう。
 一方、“National Pandemic Flu Service”の利用方法の詳細は詳しく見ていないが「本サービスの利用目的」から読み取る限り高い熱がある患者がまず一定の個人医療情報を整理した上で本サイトに直接アクセスするほか、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの各地区情報の入手も可である。

D.ニュージーランド
保健省サイト(Update 142)の情報を見る。8月16日までの第33週で見ると、ILI診察率は前年同週比でなお高い水準にある(特に0歳から19歳の年齢層が最も高い)。
 8月24日現在の確認累計感染者数は3,106人、死亡者数は16人である。

F.香港特別行政区(The Government of the Hon kong Special Administrative Region)
 環境衛生局(Center of Health Protection:衛生防護中心)が担当部署である。最新情報は8月21日現在の情報である。累計確認感染者数は8,535人で、この24時間で326人が新たに感染(うち男性174人、女性153人)しており、感染傾向の分析は別途チャート化したデータサイト(流感速遞)を作成、公表している。

G.ドイツ
 累計感染者数が英国(12,957人)を上回る(8月21日現在で14,325人)。ECDCの情報によるとドイツの感染情報は連邦機関である連邦保健省(Bundesministerium für Gesundheit)と、ロベルトコッホ研究所(Robert Koch Institute)が対外窓口になっている。
 後者の情報の方が詳しいのでその概要を紹介する。
 8月21日(第33週)現在の累計確認感染者数は14,325人である。第33週の感染者数増は1,947人で第32週の2,279人、第31週の2,847人から低下傾向にある。またインフルエンザ様患者の陽性結果の割合については第31週が8%、第32週が15%であったのに対し第33週は18%に上がっている。

3.ECDCに見るEU加盟国の新型インフルエンザ・ワクチン接種の優先順位決定状況
 この問題に関するわが国の取組み状況 (注2)で紹介するとおりであるが、世界の政府・保健関係者の最大の関心はワクチン接種の優先順位であるといっても言いすぎでないかもしれない。
 本ブログでも米国の状況等一部紹介してきたが、その他の国々はどうであろうか。わが国メディアではあまり出てこないEU加盟国の最新情報をECDCの情報等によりスェーデンの例を最後にまとめておく。前記英国の情報と合せ読んで欲しい。
 ○ECDCの“DC DAILY YPDATE” 8月24日号記事:スェーデンの全国保健福祉委員会がワクチン接種の優先順位に関する勧告を採択した。2グループに分れるが並列的に位置づけている。
1)重症化するリスクのある者
a.3歳以上全員および6か月以上で次の基礎的疾患を病んでいる者
ⅰ.慢性肺疾患(Chronic lung disease)
ⅱ.極端な肥満または神経疾患により呼吸困難を引き起こす者(Conditions that cause breathing difficulties like extreme obesity or neuromuscular
ⅲ.循環器疾患(高血圧症を除く)(Chronic cardiovascular diseases(excluding hypertension))
ⅳ.免疫抑制(HIVを含む)(Immune suppressed(incl HIV))
ⅴ.慢性肝不全(Chronic liver)または腎不全(renal failure)(GFR<30ml/min)
ⅵ.糖尿病(発熱性疾患の合併症を引き起こす)(Diabetes mellitus ,when a febrile illness can lead to complications)
ⅶ.過去3年以内に喘息治療をうけた(Asthma under medication for the past three years)
b.妊婦(Pregnant women)
2)医療従事者(Health care personnel)


(筆者注1)ECDCもEU以外の国々が累計確認感染者数の統計を中止したことから、8月9日を最後にEU以外の国の情報公表は中止し、死者数のみ公表している。また、EU加盟国については独自に入院患者者数(hospital admission)、集中治療対象者(intensive care)を集計、公表している。

(筆者注2)新聞でも報じられているとおり、新型インフルエンザ用ワクチンの接種の優先順位の問題が厚生労働省の主催による公開意見交換会が8月20日と同月27日に開催されている。(筆者注3)で説明するとおり、世界中の国でワクチン不足は現実のものである。本ブログ連載No.12(8月7日付け)3.で述べたとおり、米国CDCはワクチン接種の優先該当者を明示した推奨文書を公表し広く世論の支持を仰いだ。今回報道されているわが国の意見交換会の結果もその推奨文書とほぼ同じ内容であり、仰々しく意見会の名目で関係者の意見を聞いたかたちのこだわるより、世界のワクチンの受給体制の現状分析に注力すべきではないか。わが国の場合、準備にかかる体制・時間的余裕は極めて限られている。

(筆者注3) 8月19日の AFP通信は、次のように報じている。「世界保健機関(WHO)は新型インフルエンザA型(H1N1)のワクチンについて、北半球の各国からの発注がすでに10億回分を超えたことを明らかにするとともに、ワクチン不足が発生する可能性を警告した。
 ギリシャやオランダ、カナダ、イスラエルなど一部の国は、全国民に必要な接種分の2倍にあたるワクチンを発注。一方、米英仏独などの発注量は、それぞれ国民の30-78%分にとどまっている。こうした状況に専門家は、需要の急増と製造の遅れが重なって今後ワクチン不足が発生する可能性があると警告。死亡率が高まると見られている流行の第2波に備え、各国政府がワクチン接種対象者の優先度を決める難しい選択を迫られることになるかもしれないと指摘している」。

(筆者注4) 「ノイラミニダーゼ(neurminidase)」とは、ウイルス、微生物、動物の種々の臓器に存在する酵素の1種。シアル酸(ニイラミン誘導体)を糖タンパク質や糖脂質から切り離す作用をもつ。特にインフルエンザウイルスのもつノイラミニダーゼ(NA)はウイルスの標的細胞への侵入に重要な働きをし、ウイルス抗原としても重要である。精製されたノイラミニダーゼは糖タンパク質や糖脂質の機能や構造の研究に用いられる。(株式会社AMBiSサイトから引用)

(筆者注5) 米国における坑インフルエンザ薬への耐性変異についての詳細はCDCの「疫学週報(MMWR)(8月21日号第58巻32号885頁~912頁)に載せる情報が8月15日に筆者に直接届いていた。専門的に調べたいと思う方は是非原文を読まれたい。なお、“MMWR”について、わが国では(財)国際医学情報センターが毎週「抄訳」を発表(最新で8月7日号が訳されている)しているので、しばらく待つのも手かと思う。

〔参照URL〕
http://ec.europa.eu/health/ph_threats/com/Influenza/novelflu_en.htm
http://www.who.int/csr/don/2009_08_21/en/index.html
http://www.dh.gov.uk/prod_consum_dh/groups/dh_digitalassets/documents/digitalasset/dh_104315.pdf

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2009年8月16日日曜日

海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向と新たな研究・開発への取組み(N0.13)

 
 新型インフルエンザの感染リスクは、わが国においても8月15日に沖縄県での57歳の基礎疾患を持つ男性の初の死亡例、複数の年少者の急性脳炎重症化例、坑ウイルス薬タミフル耐性さらに学校が再開される秋以降の不安材料が引続き出始めている。
 特に9月になるとすぐ現実の問題となる「新型インフルエンザと休校・学年閉鎖等の対応」である。本ブログでもしばしば指摘しているとおり、わが国の国立感染症研究所等の分析結果を待つまでもなく、年齢別に見た感染拡大の年齢層の特定化や幼稚園から少中高等学校等における集団感染が大きなリスク要因であることは言うまでもない。
 この問題の保健分野の責任機関である厚生労働省から関係する事務連絡は、本年6月19日付けの「『医療の確保、検疫、学校・保育施設等の臨時休業の要請等に関する運用指針』の改定について」のみであり、また文部科学省の関連事務連絡は保健所と学校との報告・連絡体制(筆者注1)であって、学校管理者がどのような判断基準に基づいて生徒、職員や父兄に接したらよいか、その具体的指針となるものは一向出て来そうにもない。
 今回のブログは米国疾病対策センター(CDC)が本年秋以降の準備として公表した「米国の公的無償教育機関(K-12 grades(幼稚園から高校)(筆者注3)の管理者向け対応ガイダンス」等の要旨を紹介する。
 これらの新型インフルエンザの拡大阻止に向けた具体的な対応上の参考情報として、わが国の「国立感染症研究所」は従来からサイト上で「CDCによる情報―各ガイダンス・ガイドライン」を公表している。いずれ本件についても公表すると思われるが、時間的余裕もないので急遽取り上げる。
 なお、米国政府の新型インフルエンザ専門サイト“Flu.gov”は「学校の新型インフルエンザ対応」問題を“School Planning”として取り上げて関係者の取組み課題を整理し、かつ本年秋以降の季節性インフルエンザの流行とも抱き合わせで内容更新を図っており、今回その更新項目も併せて紹介する。いずれにしても国民・関係者への包括的な情報提供は欠かせない点を改めて強調したい。(筆者注2)


1.“Flu .gov”サイトの教育関係者向け事業継続計画更新の主要項目
 今回のサイト内容の更新は、連邦政府が2009―2010学年度用に策定したもので、①CDCの州・地方行政機関および学校管理者のための対応・報告ガイダンス、②州および地方行政機関に対するCDCガイダンスに基づく疫学技術や戦略面の具体的適用に関する報告書、および③学校管理者がCDCガイダンスを適格に実践するため教師、生徒の両親間の基本的情報内容とその具体的コミニケーション・ツールを提供することにある。
 なお、電子政府サイトである“Flu .gov”の構成を参考までにあげておく。ここで筆者が言いたい点は常に状況が変化しつつある「新型インフルエンザ」対応について、最新関係情報が一覧性をもって閲覧・アクセスできることが「電子政府」の基本機能と考えるからである。

(1)教育関係者向け新型インフルエンザの予防ワクチン接種ガイダンス(Novel H1N1 Vaccination Guidance)(CDC)、学校閉鎖(School Dismissal,School Closure)状況モニタリング・システム(CDCおよび連邦教育省(U.S.Department of Education))、連邦教育省の新型インフルエンザ情報、日帰り・泊込みキャンプ時の留意ガイダンス(CDC)、高等教育(Higher Education)・中等後教育(Post-Secondary Education)機関向けガイダンス(CDC)
(2)地方教育機関が新型インフルエンザの準備計画の策定等を行う際のチェック・リスト(幼稚園、中等教育機関、大学に分れている)(CDC、連邦保健福祉省(HHS)、連邦教育省の協同作成)
(3)各種ガイドライン、ツールおよび関係報告:緊急時の明確な学校閉鎖権限に関する法的見解(ジョージタウン大学およびジョンホプキンス大学の法律・公衆衛生センター作成)他

2.CDCの州・地方行政機関および学校管理者のための2009―2010学年度対応・報告ガイダンスの要旨
 CDCガイダンスの推奨内容は、2009年春以降に見られた新型インフルエンザの集団感染の経験に鑑みかなり具体的であり、また直裁的な言い方をしている。しかし、教育現場の責任者としては曖昧な形で責任を負わされるより運営しやすいとも言えよう。また、インフルエンザ様感染者の学生や事務職員について自宅待機原則を打ち出す一方でその間の学習プログラムの遅れ等を解決すべく取組むべき手段や項目を具体的に示した内容となっている。
(1) 2009―2010学年度において学校に要請すべき内容
①インフルエンザ様疾患(flu-like illness)の時、熱が下がっても自宅にいる:インフルエンザ様疾患(flu-like illness)の学生は、解熱剤を使用せずに熱が下がったり熱がなくないと判断されても24時間は自宅内にいること。坑ウィルス薬を使用した場合でも同様である。
②インフルエンザ様疾患(flu-like illness)の学生や職員を自宅まで送る際、速やかに別室に隔離し、関係者は可能であれば医師用マスク(surgical mask)等、防護用具(protective gear)等の使用を推奨している。
③頻繁に手を水と石鹸で洗浄し、咳やくしゃみをするときはテッシュで覆うかワイシャツの袖で覆う。
④学校の清掃担当者は定期的に学生や職員が頻繁に使用するエリアを清掃する。
その際、漂白剤(bleach)や非洗剤型クリーナー(non-detergent based cleaners)の使用した特別な清掃は不要である。
⑤妊娠、喘息(asthma)、糖尿病(diabetes)、免疫不全(compromised immune systems)、神経性疾患(neuromuscular diseases)をもつインフルエンザ様疾患者は、速やかに自分のかかりつけ医師に相談し、坑ウイルス薬による早期措置を行うことが重症化や死を回避することになる。

(2)この秋以降の感染状況は春以上に厳しいものである前提下での対応策
①インフルエンザ様感染者の積極的選別
 学校は毎朝学生や職員について熱やその他の症候がないかチェックし、また1日中チェックを適時行い、可能な限り隔離し、自宅に送りつける。
②高いリスクを持つ学生や職員は自宅待機を指示
 地域内でインフルエンザが循環始めたときは感染併合症のリスクの高い学生については担当医と相談の上自宅待機させる。その際、学校は授業の継続性を確保するため自宅にいる間の教育方法について電話指示、宿題(home pachets)、インターネット・レッスンやその他の適宜の手段を用いた教育の継続計画をたてるべきである。
③感染者を家族に持つ学生等の自宅待機
 家族がインフルエンザに感染した学生はその感染第1日目から5日間(感染する可能性が高い期間)は自宅待機させる。
④一定期間の自宅待機
 インフルエンザの感染拡大が広がったとき、インフルエンザ様の病人は仮にそれ以上の症状がまったくなくなっても少なくとも7日間は自宅に居るべきである。
⑤学校閉鎖(School Dismissals)
 学校および保健機関の担当者は学校閉鎖が教育や地域の混乱拡大を引き起こさないよう緊密に行動すべきである。
 学校閉鎖の期間はカレンダーでいう5日から7日間とすべきであり、正常に戻すときはこの期間のどこかにかかわらず再評価すべきである。先生と職員はその他の手段が取れるよう学校閉鎖実施時でも学校は開けたまま残るべきである。

(3)具体的行動過程における決定事項
 CDCや関係機関の意思決定者は次の1つ以上項目について特定のうえ伝達しなければならない。州や地域レベルで議論を行いまた決定に至るためには次のような疑問点を明確化する必要がある。
A.すべての正当な意思決定者と利害関係者が関与しているか、すなわち州や地域の保健機関、教育担当機関、治安担当機関、知事や市長等統治機関、保護者や学生の代表、地元企業、宗教団体(faith community)、先生の組合や地元のコミュニティ団体、教師、公的医療機関や病院、学校の看護婦、学校給食の責任者、学校の用品供給業者が関与しているか。
 B.州や地域の保健担当者は次の情報を共有し、同情報に基づき決定を行っているか。
・インフルエンザ様疾患の通院患者数
・同入院患者数
・同入院・死亡者数の傾向
・集中治療室に入った患者数の割合
・同死者の情報
・地域医療機関の対応能力と緊急対応機関の需要拡大時の対応能力
・入院用ベッド数、ICUの余裕、インフルエンザウイルス感染者用人工呼吸器(ventilators)の供給力
・病院職員の供給力
・坑ウイルス薬の供給力
C.地域教育機関や学校が次の情報を共有しそれに基づき決定しうるか。
・学校の欠席率
・学校の保健担当者への生徒の訪問数
・授業日においてインフルエンザ様学生を自宅に送りつけた件数
D.実行可能性(Feasibility)の検証
 意思決定者は検討すべき戦略の適用のための次の資源を持っているか。
・資金
・要員
・設備
・スペース
・時間
・法的権限または政策面からの要求
E.関係者等の受容性(Acceptability)
 意思決定者は戦略を具体的に適用するにあたり、以下の解決すべき課題をどのように取組んでいるか。
・インフルエンザに関する社会的な関心
・治療介入(intervention)についての公的支援の不足
・自分自身を自ら守ろうとしない人々
・同戦略実行時の副次的効果(学校閉鎖実施時の小児の栄養確保(child nutrition))、学校関係者の仕事の確保(job security)、公共医療機関へのアクセス、教育の進捗の遅れ等)

3.学校管理者がCDCガイダンスを適格に実践するため教師、生徒の保護者間の基本的共有情報内容とその具体的コミニケーション・ツール
 このようなかゆいところに手が届くような行政サースがうらやましいと見るか、やりすぎと見るかは意見が分れるといえようが、いずれにしても「2009年パンデミック」のリスクがなお不透明な現時点での準備としては、このような対応は関係者としては不可欠と思うのが当然であろう。
同ツールの主な内容を紹介する。
(1)学校管理者のためのCDCガイダンス理解のためのQ&A
(2)インフルエンザ感染拡大阻止のための行動ステップ
(3)学校が保護者に向け子供が感染した場合の早期チェックや学校閉鎖実施時の保護者への自宅待機を指示する際の説明内容
(4)インフルエンザ感染拡大阻止に関するCDCのポスター
(5)学校が感染拡大時に保護者に通知する手紙や電子メールのテンプレート


(筆者注1) 文部科学省は、6月26日付事務連絡で「各都道府県・指定都市教育委員会宛 新型インフルエンザに関する対応について」において「学校における新型インフルエンザ・クラスターサーベイランス」の具体的な協力要請を行っているのみである。

(筆者注2) “Flu.gov”のパンデミック対応計画はサイトで見るとおり、①連邦政府機関、②州・地域行政機関、③各家庭、④職場、⑤教育関係機関、⑥医療・保健機関、⑦地域、の7分野に分類し、その都度内容更新を行っている。一方、わが国でこれに該当するのは首相官邸「新型インフルエンザへの対応」である。最新時のサイトで確認したが、前文で述べた6月19日付け「『医療の確保、検疫、学校・保育施設等の臨時休業の要請等に関する運用指針』の改定について」に言及しているのみである。

(筆者注3) K-12(Kindergarten to 12th grade)とはウィキペデイアによると、次のとおりである。米国、カナダ、オーストラリア、英国の初等・中等教育無償の教育機関を指し、さらに“K14”はコミュニティ・カレッジ(大学の初めの1,2年目)、“K16”はその後の4年間の学位取得者を指す。 


〔参照URL〕
http://www.flu.gov/plan/school/schoolguidance.html
http://www.flu.gov/plan/school/k12techreport.html
http://www.flu.gov/plan/school/toolkit.html
http://www.flu.gov/plan/school/index.html

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2009年8月7日金曜日

海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向と新たな研究・開発への取組み(N0.12)

 
 WHOが新型インフルエンザA(H1N1)の世界的大流行宣言(pandemic (H1N1)2009)を行った後、各国の感染者数や死者数が大幅に増加しているにもかかわらず、世界的感染リスク問題について国際機関が正確かつ疫学面の専門的な情報を一元的に提供する機関がなくなるというまさに筆者が従来から指摘してきた問題が現実となった。(筆者注1)

 すなわち、WHOは本ブログで本年4月30日以降筆者が最優先で取り上げてきた新型インフルエンザの感染リスク(重症例や死者)の情報において先導的役割を担ってきた。しかし、本来一番の役割が期待された「フェーズ6宣言」以降は急速にその機能・役割が縮小し始めているように思える。
 その例証として次のような点があげられる。(1)WHOは加盟国の保健機関からの情報に基づく正確なデータを数日おきに公表してきたが、加盟国が調査や公表を中止していないにもかかわらず、その公表の廃止を宣言した(地域の問題とするにはH1N1の世界的感染リスクはあまリにも大きい)、(2)従来行ってきた定期的な公表に替えて「政策意思決定覚書(briefing note)」(筆者注2)が7月8日に第1号が出された後、合計7回出されているが、当初読んだ際、北半球が冬季に入る第2波感染拡大を阻止するための世界的な取組みの現状分析とはいえない内容と感じた。しかし、その後の最近の“briefing note” が取り上げているテーマを読む限り、主要国の秋に向けた坑ワクチンの製造準備にむけた体制整備問題がWHO等国際機関の重点課題になっていることは否めない。

 筆者は多忙のためしばらくの間WHOの活動をフォローしていなかったが、7月31日に米国保健福祉省(HHS)から受信したメールでWHOがまとめた新型インフルエンザH1N1の世界的感染拡大状況(7月27日付)のデータの更新(update 59)を確認したことからあらためてWHOの取組み姿勢が変わったことを知った。(筆者注3)
 すなわち、WHOのデータ収集・公表は個別国の集計方法から今後多少の時差はあるもののWHOの世界6つの地域事務局(regional office)(アフリカ、アメリカ、東地中海、欧州、東南アジア、西太平洋)(筆者注4)からの集計という方式に切り替えたといえる。(筆者注5)

 このような状況を踏まえ、WHOの集計機能等を補完すべく本ブログは今回以降、(1)WHOの公表データに加え、地域的な保健機関すなわち欧州保健機関(ECDC) や汎米保健機関(PAHO)の情報等に基づき大規模感染拡大国における保健機関の公式感染者・死者数および「パンデミック2009」に関する最新情報や新たな感染リスクの実態の紹介、(2)感染リスクに関する国際機関における新たな研究やWHOや主要国における坑ウイルス・ワクチン等の確保対策の分析、(3) 主要国における新型インフルエンザA(H1N1)に限らず感染症問題に関する情報提供の実態等を中心に内容を再構成のうえ、引き続き情報提供することとした。


1.わが国の最新情報
 2009年7月24日現在の厚生労働省の発表では、日本の新型インフルエンザ感染者数は、5,022人(7月6日比+3,155人)である。なお、厚生労働省新型インフルエンザ対策推進本部事務局による情報収集方法が変更となったため、(日本国内では、7月24日午前6時の時点で、5,022例(検疫対象者36例を含む)の確定例を最後に、全数の報告は終了しており、7月25日以降更新はない)旨国立感染症研究所のサイト上で説明されている。

 この全数調査報告の終了の意味について感染症の専門外の筆者が問題指摘するまでもなく、米国・カナダを除く海外の主要国で全数調査を中止した国の例は少ない。
 また、厚生労働省は7月22日付「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則の一部を改正する省令」に基づき、従来行ってきたH1N1に関する全数調査から、(1)クラスターサーベイランス(集団感染の発生件数等調査)、(2)入院患者数調査に置き換える旨都道府県等の新型インフルエンザ担当日局長宛施行通知を行っている。特に(2)に関し年齢層別、性別、基礎疾患を有する場合、集中治療を要する場合等の割合を開示するなど、やっと欧米の主要国並になったと思える点もあるが、基本的にメデイアを含む国民や医療関係者に十分な情報提供を行っていない点は変わらない。(筆者注6)
 なお、各都道府県別発生状況等の最新情報は厚生労働省サイト「新型インフルエンザに関する報道発表資料」で確認できる。

2.WHO公表の世界的感染者数・死者数
 WHOの公表確認感染者数および死者数(2009年7月22日世界標準時9時現在)(update59)のとおり、累計確認感染者数は134,503人(7月6日比+39,991人)、死者数は816人(7月6日比+387人)である。

3.WHOの「世界的流行(H1N1)2009 briefing note」が取り上げたテーマ
(1)7月8日第1号:今回のテーマは、わが国でもすでにメディアが報道しているH1N1ウイルスの坑ウイルス薬タミフルの耐性問題である。デンマークや日本からの報告に基づきWHOとしての公式見解が出された点にその意義があろう。
 なお、さる7月4日に厚生労働省が行ったタミフル耐性遺伝子変異に関する発表の内容は今回のWHOの発表内容と整合性が取れており、この点は一応理解できる。しかし、一方で同省はWHOの「フェーズ4」の時点の5月1日付で医薬品関係団体宛通達で政府備蓄の坑インフルエンザ薬が3,168万人分あり、さらに2009年度中に2,293万人分追加備蓄する予定と発表し、その後新型インフルエンザの年内生産量につき6月19日に発表した2,500万本(1mlバイアル(容器)入り)(成人2,500万人投与分)、6月26日の「新型インフルエンザ対策担当課長会議資料」で示されている2,540万本から7月3日には一挙に約1,000万人の大幅減産を記者発表している。
 また、7月10日付で厚生労働省は政府において備蓄した抗インフルエンザウイルス薬(タミフル、リレンザ)の都道府県への放出手順について事務連絡通達を各都道府県の衛生主管部(局)抗インフルエンザウイルス薬備蓄担当者宛発している。
 一方、7月31日の朝日新聞朝刊が報じているとおり、米国保健福祉省疾病対策センター(CDC)は、新型インフルエンザワクチン接種に関する諮問委員会(CDC’s Advisory Committee on Immunization Practices)が7月29日の会合で行ったワクチンの接種に関する優先該当者を明確にした勧告書を公表した。早ければ8月から一部実施される接種について5グループについて優先的接種の方針をまとめたものである。(筆者注7)
米国はパンデミック対策のうちワクチン備蓄を国家の基本的重要戦略と位置づけ、その製薬メーカーとの契約内容についてわが国の厚生労働省にあたるHHSの情報公開リリースはわが国とは比較にならない。

(2) 7月13日第2号
7月7日に開催された「専門家諮問会議(Strategic Advisory Group of Experts)」におけるパンデミックの現在の流行の現状、季節性インフルエンザワクチンとA(H1N1)の潜在的ワクチン生産能力およびワクチンの使用に関する選択肢などに関する検討結果とWHO事務局長に対する推奨文の内容。

(3) 7月16日第3号
新型インフルエンザの実験室を介した確定感染件数の把握の限界とWHOにおける世界的な確認感染者数の表の提供の停止および新たな感染拡大国に関する情報提供の継続。

(4)7月24日第4号 :
感染拡大年令層や重症化例の年齢層の上昇変化情報とWHOネットワークにおける新ワクチン候補種の季節性インフルエンザ比でみた生産率の向上動向。

(5)7月31日第5号 :
妊娠第2期または後期の妊婦の感染拡大と胎児死亡や自然流産の危険性、および症状発現時後48時間以内のタミフル投与に関するWHOの推奨。

(6)8月6日第6号 :
1957年や1968年の大流行時ワクチンの開発が間に合わず最終的に5千万人が死亡した。今回の新型インフルエンザワクチンの規制機関による承認手続きに関する見直し動向および予防接種問題。

(7)8月6日第7号 :
WHOの世界的ワクチン開発・製造にかかる役割すなわち、①新種ウイルスの特定、②ワクチン痘種(vaccine virus)の準備、③ワクチン株の検証、④ワクチン試験のための試薬の準備、および製薬メーカーの役割。

4.世界の大規模感染拡大国の最新発表情報
 欧州疾病対策センター(ECDC)や 汎米保健機関(PAHO)および各国の保健機関が公表している累計確認感染者数および死者数の最新情報を紹介する。また、各国の関連サイトで特記すべき点も併せて記した。なお、今回の数値は引続き急速な感染拡大している現状を理解できるよう7月6日のWHOの公表値との比較を行った。しかし、ECDCは毎日更新データを公表しているが、PAHOは週間ベースでの更新であるなど各機関によって比較方法が異なるため、基準日の設定が難しく、今後は本ブログでは各機関の比較方法に準拠することとした。

(1)米国
 7月24日をもってCDCは各州からの報告に基づくH1N1の確認感染者数の公表を停止し、その代りに新型インフルエンザと季節性インフルエンザの感染状況を追跡する監視システムを導入した。その詳細についてはCDCサイトの“H1N1 Monitoring Question & Answers”で確認できるが、主な新型インフルエンザ監視システムは次のとおりであると説明されている。
 なお、次に述べる全米的モニタリング体制の原型はすでに1999年CDCが発行した「あらたなインフルエンザの世界的流行(パンデミック)の発生に備えて地方当局が対策を立案するための指針(Pandemic Influenza :A Planning Guide for State and Local Officials) 」で出来上っている。パンデミック時を想定し、ウイルスの検査体制の効率化といった理由だけでない米国らしい長期的かつ本格的な取組み姿勢があると判断するのは筆者だけであろうか。(筆者注8)
A.次の内容のモニタリングによるウイルスの監視
①インフルエンザの陽性について試験を行った標本の割合
②循環型インフルエンザの原型と亜型
③坑ウイルス薬への耐性
④新ウイルス種の出現
B.疑似インフルエンザに関する見張り役ボランテア医師(外来患者数当りの新型インフルエンザ様疾患患者を各年齢層別に報告)ネットワーク
C.成人と子供に分けて実験室で確認されたインフルエンザ感染者の入院者の監視
D.インフルエンザの地理的な感染拡大
E.全米122都市の死者の原因をインフルエンザと肺炎(pneumonia)とに分けてコード化し報告する(人口動態統計局が担当)
F.子供の実験室で確認された死亡者数
 なお、インフルエンザの監視情報は“FlueView”サイトで専門的な分析を行うこととなった。
7月24日現在の累計確認感染者43,771人(+9,869人)、死者302人(+132人)
(2)オーストラリア
 8月5日現在の累計確認感染者24,114人(+18,816人)、死者174人(+164)
オーストリアのメディアはクイーンズランド州北部のタウンズビルの北65km沖の先住民約4000人が住んでいるパームアイランド では7月21日に36週の胎児が新型インフルエンザで死亡し、母親(19歳)は重症で集中治療室で治療中であると報じられている
 なお、オーストラリア在住の日本人向け危機管理情報サイト「青空ニュース」が新型インフルエンザA(H1N1)の感染拡大に関する最新情報を随時提供しているので、詳しくは同サイトを参照されたい。なお、同サイトでも紹介されているとおり、連邦政府(保健・高齢者担当省)は7月20日以降州別の累計感染者の公表は中止し、従来から行っている州別の入院者数、集中治療室収容者数、死亡者の公表に切り替えている。また、「青空ニュース」では累計感染者数の公表を中止していると記載されているが、これはあきらかに「誤り」であり、同サイトの“Update bulletins for Pandemic (H1N1) 2009” では毎日累計確認感染者数を公表している。
(3)メキシコ
同17,416(+7,154人)、同146人(+27人)
(4)英国
同11,912人(+4,465人)、同30人(+27人)
(5)チリ,
同11,860人(+4,484人)、同96人(+82人)
(6)カナダ
同10,449人(+2,466人)、同62人(+37人)
(7)タイ
同10,043人(+7,967人)、同81人(+74人)
(8)ドイツ
同7,963人(+7,458人)、同0人(+0人)
(9)日本(7月24日現在)
同5,022人(+3,232人)、同0人(+0人)
(10)ペルー
同4,889人(+3,973人)、同96人(+96人)
(11) 中華人民共和国香港特別行政区政府(Hong Kong SAR China)
同4,749人(+?人)、3(+?人)
(12)フィリピン
同3,207人(+1,498人)、同8人(+7人)
(13)ブラジル
同2,959人(+2,222人)、同96人(+95人)
(14)スペイン
同1,538人(+762人)、同8人(+7人)

5.新型インフルエンザの感染リスクに関する国際研究機関における新たな研究成果
“Eurosurveillance”の2009年7月30日付第14巻30号を参照されたい。

(筆者注1) わが国のH1N1の専門研究機関である国立感染症研究所感染症情報センターサイトでも「7月7日以降のWHOによる更新情報はありません」と記載されているのみである。では、わが国の関係機関や一般人はどのように海外情報を入手すべきか。このような「関心の風化」とその反面における世界的感染拡大危機を一番恐れるのは筆者だけでなかろう。

(筆者注2) WHOの“briefing note”とはどの様な位置づけの覚書といえるのか。WHOのサイトでは明確な定義づけは行われていない。通常「ブリーフィング・ノート」は「参考情報として」または「意思決定のため」に作成される。過去7回のテーマや内容を読む限りこの両者を含んでいるように思える。いずれにしてもWHOの機能や権限からみて単なる参考情報だけではない極めて戦略的な性格を持つものと考える。

(筆者注3) わが国の新型インフルエンザの研究機関である「国立感染症研究所」感染症情報センターの世界的感染情報はWHOが7月6日の最終更新後、情報掲載を停止していたが、WHOの再度更新し始めてことからリンクを始めている。

(筆者注4) WHOの6地域事務局の具体的担当エリアを参照されたい。

(筆者注5) 欧州保健機関(ECDC)は独自に毎日更新する国別で世界的感染者・死者数統計を行っている。7月31日付けの朝日新聞がWHOの統計でなくEWCDCの統計値を引用したのもうなずける。なお、わが国の国立感染症研究所のウェブサイトではECDCの世界統計はWHOのみでECDCはリンクしていない。しかし、米国CDCが国際的な統計についてWHO以外にH1N1に関する情報源としてECDCとリンクしている点は見逃せない。
 また、それ以上にECDCのデータの最新性、信頼性がポイントになろう。そこで筆者自らECDCのデータ(8月2日付け)と個別国の最新公表データを比較してみた。メキシコを初めカナダ、米国等米国大陸の国々のデータはPAHOのデータより新しいものであった。また、オーストラリアについても8月2日の同国政府の公表データが反映されていた。

(筆者注6)筆者がこのような情報開示にこだわる理由は、本ブログの読者は良く理解されていると思う。英国の保健保護局(Health Protection Agency:HPA)の例でわが国と比較しつつ説明する。
(1)HPAサイトでは7月2日以降、毎日から週単位の公表に変更している。公表方法はメデイア向け(Press releases and media updates on Swine Influenza)感染症専門家向け(Surveillance and epidemiology)に分れ、前者においては記事にしやすいよう冒頭に“KEY POINTS”としてこの1週間のH1N1の感染者の増加傾向、ウイルスの変種・坑ウイルスの動向、地域・年令別の感染傾向等を解説している。
(2)7月30日号のメディ向け本文で特徴的な点を紹介しておく。6月下旬から7月上旬にかけて全年齢層10万人に対するインフルエンザ様疾患感染者数は221人から225.6人に急増したが学校が夏休みに入ったこと等から5歳から14歳以下の年齢層は減少傾向にある。同時期における年令層別の10万人あたりインフルエンザ様疾患感染者数は1歳から4歳が約550人と最も高く、1歳未満が約500人、5歳から14歳以下が約450人であり、逆に65歳から74歳未満は約50人となっている。
 7月28日現在のイングランドの重症入院患者数は793人、死者数は27人である。最後にECDCの集計にもとづき1,000以上の確認感染者数の国の累計感染者(7日前比の増加率)、累計死者数を記している。
(3)感染症専門家向けのサイトはさらに週別と日別(7月30日まで)に分れて詳細な分析を行っているが、専門外の筆者が解説するのは無責任なことでありあえて略す。
 なお、わが国の厚生労働省のH1N1の全数調査中止に関するメディア報告(毎日新聞)を読んで気になった点がある。1つは「感染症法施行規則」は不正確である。本文のとおり「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則」である。第2に現時点でも本文で解説しているとおり、EU、オセアニア、南米の国々では全数調査は引き続き行われており、全数調査の中止は決して世界の大勢ではない。

(筆者注7)8月5日、米国製薬大手メーカーのバクスター・インターナショナルが新型インフルエンザ・ワクチンの商品製造(commercial batches)が終り、8月に最終的な臨床試験(治験)開始し、保健衛生当局の承認後に出荷する旨発表した。参考までに米国の新型インフルエンザ戦略の予算的裏付けは、2005年8月に世界4カ国で鳥インフルエンザH5N1の人への感染が112例確認されたことを受けた緊急立法の2法「2005年緊急追加予算計上法(PL-109-148)」および「2006年緊急追加予算計上法(PL-109-234)」に基づくものである。米国の製薬メーカーと政府の協力関係は当然であり、その契約内容は公開され、また保健福祉省は毎年連邦議会に予算執行状況等を詳細に報告している(2009年1月の議会報告参照)。
 バクスター社の発表内容のポイントは次のとおりである。
①ワクチン薬のブランド名は「セルバパン(CLEVAPAN)」で、同社が製造特許権を持つ「ヴェロ細胞培養技術(Vero cell culture technology:アフリカミドリザル腎細胞由来株)を使用している。筆者なりに補足するとワクチン製造技術には有精卵を孵化させてワクチン原液を製造する“egg-based technology”とヒトに対して感染性のあるウイルス、細菌等を保有していないこと、ヌードマウスへの腫瘍形成能を持たないことが確認され、世界保健機構(WHO)によって使用が認められている培養細胞株技術(cell-based technology)がある。後者の1つがバクスター社の“Vero cell culture technology”であり、 インターフェロンを生産しないため、様々なウイルスを感染させることが可能、またヒト、牛、豚のウイルスなど非常に幅広い種類のインフルエンザ・ウイルスに対して高い感受性を示すといったことが特徴としてあげられる。(北里研究所生物製剤研究所サイトより引用)
②本年8月に成人、高齢者と子供を対象に安全性や免疫原性について臨床試験を行う。
③バクスター社は本年5月前半にCDCからA(H1N1)の試験とその評価のためその株(strain)を入手、6月3日から商業生産を開始した。大量のセルバパンはチェコのボフミルの大規模生産工場で製造後、各国への分配前に最終製剤(formulation)、調合(fill)および最終処理をオーストリアのウイーンで行う。
④バクスター社は新製薬の販売承認機関である欧州医薬品審査庁(European Medicines Agency:EMEA) が定める“mock-up vaccine(筆者注:対象とするウイルス株が特定されていない場合に、モデルウイルスを用いて作成されたワクチン。主として、治験等の薬事承認を得るための申請データの作成に用いる)”免許に要する製造品質や製造過程を適用している。

(筆者注8)CDCの立案ガイドは、実は2002年秋に公立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウィルス・センターが完訳している。米国の1999年のサーベイランス事業の骨格は訳文17頁を是非参照されたい。なお、訳文作業に協力したCDCインフルエンザ室、疫学セクションのチーフが現WHO事務局長副代行の福田桂治博士である。


〔参照URL〕
http://www.who.int/csr/don/2009_07_27/en/index.html
http://ecdc.europa.eu/en/files/pdf/Health_topics/Situation_Report_090805_1700hrs.pdf

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